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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230524BHJP
   A61K 31/00 20060101ALI20230524BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230524BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20230524BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
A61K39/395 D ZNA
A61K39/395 N
A61K31/00
A61P35/02
A61P35/04
A61P37/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017564363
(86)(22)【出願日】2016-06-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-08-30
(86)【国際出願番号】 CN2016085451
(87)【国際公開番号】W WO2016197974
(87)【国際公開日】2016-12-15
【審査請求日】2019-06-12
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】62/174,681
(32)【優先日】2015-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/174,673
(32)【優先日】2015-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517261028
【氏名又は名称】マッカイ メディカル ファンデーション ザ プレスビュテロス チャーチ イン タイワン マッカイ メモリアル ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ル イェン-タ
(72)【発明者】
【氏名】チャン チア-ミン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ ツァイ-イン
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ イ-ファン
(72)【発明者】
【氏名】ウー リン-チァオ
【合議体】
【審判長】岡崎 美穂
【審判官】冨永 みどり
【審判官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/165613(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/017083(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/082537(WO,A2)
【文献】国際公開第2004/004771(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44, 45/00-45/08, 31/00 -31/327
CAPLUS/BIOSIS/EMBASE/MEDLINE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD-L1の発現阻害用医薬組成物であって、
免疫細胞のCD11bに特異的に結合する抗体またはその抗原結合部分を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記抗体またはその抗原結合部分は、
(a)配列番号13からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号23からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(b)配列番号14からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号24からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(c)配列番号15からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号25からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(d)配列番号16からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号26からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(e)配列番号17からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号27からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(f)配列番号18からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号28からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(g)配列番号19からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号29からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(h)配列番号20からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号30からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(i)配列番号21からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号31からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、または、
(j)配列番号22からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号32からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記抗体、または、その抗原結合部分は、キメラ、ヒト化もしくはヒト抗体、または、その抗原結合部分である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
免疫チェックポイントを調節するための薬剤、または、化学療法剤をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記免疫チェックポイントを調節するための薬剤は、抗PD-1抗体、抗PD-1リガンド抗体、抗CTLA-4抗体、抗CTLA-4リガンド抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L1リガンド抗体、または、その抗原結合性フラグメントである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記化学療法剤は、アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗微小管剤、トポイソメラーゼ阻害剤、または、細胞障害性抗生物である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
急性および/または慢性感染症、敗血症、または、がんの治療に使用するための、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記がんは、メラノーマ、肺がん、肺の扁平上皮がん、慢性および急性白血病からなる群から選ばれる、請求項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫療法の分野に関する。特に、本発明は、細胞におけるCD11bの発現を制御することにより免疫応答を調節する医薬組成物、抗体および結合性フラグメントに関する。
【背景技術】
【0002】
免疫原性抗原を発現するがん細胞が、腫瘍形成に対抗する効果的な免疫応答を誘発する可能性があることは、広く知られている。さらに、腫瘍微小環境には、TLR(Toll様受容体)シグナル伝達に抗腫瘍反応を起こさせ得る成分が豊富に存在する(Standiford TJ, Keshamouni VG (2012) Breaking the tolerance for tumor: Targeting negative regulators of TLR signaling. Oncoimmunology 1: 340-345)。これは、病気の初期段階で、がん細胞は、発達中の腫瘍に対し、宿主を保護し、腫瘍をモデル化する免疫機構による認識を受け、排除され得るということを意味する。しかし、がん細胞は、また、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子のダウンレギュレーションなどの免疫監視機構を逃れるための多くの負の調節機構、または、抑制性サイトカインの分泌を増大させ、抑制分子を発現させることによってがん細胞への免疫寛容を誘発する抗原処理および提示機構を有してもいる。がん患者が、多くの場合免疫不全であると考えられるのはこのためである。したがって、がんに関連する免疫抑制を解除する薬剤または治療法の開発が必要とされている。
【0003】
インテグリンαM(CD11b、CR3A、および、ITGAM)は、単球、顆粒球、マクロファージ、樹枝状細胞、ナチュラルキラー細胞、および、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)を含む多くの免疫細胞の表面に発現するヘテロ二量体インテグリンαMβ2分子を形成する1つのタンパク質サブユニットである。インテグリンαMβ2は、その多種類のリガンドを通じて細胞接着、移動、走化性、および、食作用を制御することによって炎症を媒介する。最近の研究では、TLR4応答の調節が炎症に対して重要な役割を果たしていることが示されている(Han C, Jin J, Xu S, Liu H, Li N, et al. (2010) Integrin CD11b negatively regulates TLR-triggered inflammatory responses by activating Syk and promoting degradation of MyD88 and TRIF via Cbl-b. Nat Immunol 11: 734-742)。フィブリノゲンなどの血管の内腔側にあるさまざまな内因性インテグリンαMβ2のリガンドは、TLR4シグナル伝達のトリガとなり得る。β2インテグリンに結合したITAM(免疫受容体チロシン活性化モチーフ)の高効率なライゲーションによってTLRの活性化を一時的に誘導するが、Cbl-bを媒介したタンパク質分解においてMyD88およびTRIFを標的にすることによってTLRシグナル伝達をすばやく阻止する。したがって、インテグリンαMβ2は、TLRファミリーの影響を抑えるべく、TLRシグナル伝達経路の成分を選択的に阻害する負のモジュレータとして機能し得る(Wang L, Gordon RA, Huynh L, Su X, Park Min KH, et al. (2010) Indirect inhibition of Toll-like receptor and type I interferon responses by ITAM-coupled receptors and integrins. Immunity 32: 518-530)。
【0004】
PD-L1は、多種の免疫細胞に異なるレベルで発現する共阻害タンパク質の1つであり、単球、マクロファージ、樹枝状細胞、T細胞、B細胞、上皮細胞、および、血管内皮細胞に構成的に発現する。PD-L1は、IFN-γおよび細胞分裂刺激などの陽性誘導に応じてさらにアップレギュレーションされる。PD-L1は、活性化T細胞に見られるその受容体PD-1と結合し、T細胞アポトーシスおよびアネルギーを促進する共阻害信号を活性化T細胞内で誘発することによって、強力な免疫抑制をもたらす。(Butte MJ, Keir ME, Phamduy TB, Sharpe AH, Freeman GJ (2007) Programmed death-1 ligand 1 interacts specifically with the B7-1 costimulatory molecule to inhibit T cell responses. Immunity 27: 111-122;Francisco LM, Salinas VH, Brown KE, Vanguri VK, Freeman GJ, et al. (2009) PD-L1 regulates the development, maintenance, and function of induced regulatory T cells. J Exp Med 206: 3015-3029)。過剰な免疫応答を避けるためには、PD-L1/PD-1の相互作用の一貫性も重要である。PD-L1とPD-1との間の相互作用が一貫性に欠けると、免疫応答の伝播が制御不能になり、自己免疫疾患、過敏症、移植拒絶、および、移植片対宿主障害などの症状が起き得る。
【0005】
特許文献1は、単離されたモノクローナル抗体、特に、PD-1と特異的に結合するヒトモノクローナル抗体を提供する。特許文献2はヒトプログラム死受容体1(hPD-1)とそのリガンド(hPD-L1またはhPD-L2)との結合を阻害する抗体に関する。特許文献3は、hPD-1とhPD-L1またはhPD-L2との結合を阻害する抗体、および、PD-1経路を介して免疫細胞の活性を高める(または抑制的調節を抑制する)方法を開示している。特許文献4、および、特許文献5は、PD-1、PD-L1、または、PD-L2によって誘発される免疫抑制信号を阻止することで免疫を強化することによって、がんまたは感染症を治療する組成物、および、それを用いた治療法を提供する。特許文献6は、がんまたは感染症への免疫応答を誘発する方法を提供する。方法は、がんまたは感染症を患う被検体に以下からなるグループから選択された2つ以上の薬剤の組合せを投与することを含む。(i)ADAM17、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD11a、CD11b、CD14、CD16、CD16b、CD25、CD28、CD30、CD32a、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD56、CD57、CD64、CD69、CD74、CD89、CD90、CD137、CD177、CEACAM6、CEACAM8、HLA-DRα鎖、KIR、および、SLC44A2;(ii)インターフェロン;(iii)CTLA4、PD1、PD-L1、LAG3、B7-H3、B7-H4、KIR、および、TIM3を含むチェックポイント阻害剤抗体;および(iv)抗体薬物結合体(ADC)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第8,008,449号明細書
【文献】米国特許第8,354,509号明細書
【文献】米国特許第8,900,587号明細書
【文献】米国特許第9,067,999号明細書
【文献】米国特許第9,073,994号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0099254号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1~5に記載されている抗体は、治療への反応速度が遅い。また、先行技術6は、多数の周知の免疫関連物質を組み合わせているにすぎず、物質間の相互作用については記載していない。
【0008】
本発明では、免疫細胞、および/または、他の細胞におけるCD11bと結合するCD11bモジュレータによってPD-L1の発現を抑制できるという予期せぬ発見をした。CD11bモジュレータをCD11と結合させることにより、LPS(リポ多糖体)刺激を受けた単球におけるPD-L1の発現が減少する。LPS誘導性免疫抑制単球、または、敗血症性ショックの患者からの単球において、CD11bモジュレータをCD11bと結合させることにより、細胞がさらにLPSに刺激された場合にPD-L1の発現を減少させる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、免疫細胞におけるPD-L1の発現を阻害する方法を提供する。方法は、免疫細胞のCD11bに結合するCD11bモジュレータと免疫細胞を接触させることによって、免疫細胞におけるPD-L1の発現を阻害することを含む。
本発明は、免疫抑制または免疫疲弊を解除するか、または、免疫細胞に先在する免疫を誘発する方法であって、免疫細胞のCD11bに結合するCD11bモジュレータと前記免疫細胞を接触させることを含む方法を提供する。
【0010】
本発明の他の側面では、CD11bモジュレータに反応する被検体を決定する方法を提供する。方法は、生体サンプルまたは被検体における免疫細胞をCD11bモジュレータと接触させることによって、生体サンプルまたは被検体内におけるPD-L1を阻害するか否かを検出し、CD11モジュレータによる免疫細胞におけるPD-L1の阻害を検出することを含む。PD-L1が阻害されるということは、被検体がCD11bモジュレータに反応するということを示す。
【0011】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されたCD11bモジュレータは、CD11bの発現を阻害するRNAi薬剤、抗CD11b抗体、または、CD11bを調節する小分子化合物である。
【0012】
一実施形態では、免疫細胞は、T細胞、単球、顆粒球、マクロファージ、骨髄由来サプレッサー細胞、または、ナチュラルキラー細胞である。
一実施形態では、CD11bの結合は、IFN-γ、IL-12、または、CD8T細胞を増加させる。
他の実施形態では、CD11bモジュレータを、細胞のCD11bに結合させることにより、免疫抑制に関連する病気を治療、および/または、予防する。
さらなる実施形態では、免疫抑制または免疫疲弊に関連する病気は、急性および/または慢性感染症、敗血症、がんにおける免疫不全、または、加齢による免疫老化におけるT細胞の疲弊である。
【0013】
一実施形態では、がんを治療および/または予防する方法は、追加の活性薬剤を投与、または、追加の治療法を行うことを含む。
いくつかの実施形態では、追加の活性薬剤または追加の治療法は、免疫チェックポイント療法、放射線療法、または、化学療法である。
【0014】
また、本発明は、抗CD11b抗体、または、その抗原結合部分を提供する。抗CD11b抗体、または、その抗原結合部分は、NYWIN(配列番号1)もしくはGFSLTSNSIS(配列番号2)のアミノ酸残基、または、配列番号1もしくは2と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有する変異体からなる重鎖相補性決定領域1(H-CDR1)、NIYPSDTYINHNQKFKD(配列番号3)もしくはAIWSGGGTDYNSDLKS(配列番号4)のアミノ酸残基、または、配列番号3もしくは4と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有する変異体からなる重鎖相補性決定領域2(H-CDR2)、および、SAYANYFDY(配列番号5)もしくはRGGYPYYFDY(配列番号6)のアミノ酸残基、または、配列番号5もしくは6と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有する変異体からなる重鎖相補性決定領域3(H-CDR3)の少なくとも1つと、RASQNIGTSIH(配列番号7)もしくはKSSQSLLYSENQENYLA(配列番号8)のアミノ酸残基、または、配列番号7もしくは8と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有する変異体からなる軽鎖相補性決定領域1(L-CDR1)、YASESIS(配列番号9)もしくはWASTRQS(配列番号10)のアミノ酸残基、または、配列番号9もしくは10と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有する変異体からなる軽鎖相補性決定領域2(L-CDR2)、および、QQSDSWPTLT(配列番号11)もしくはQQYYDTPLT(配列番号12)のアミノ酸残基、または、配列番号11もしくは12と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有する変異体からなる軽鎖相補性決定領域3(L-CDR3)の少なくとも1つと、を含み、単離された抗体またはその抗原結合部分は、CD11bと結合する。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されたCDRは、1つ以上の挿入、置換、および/または、欠失を含む。
【0015】
本発明のさらなる実施形態では、抗CD11b抗体、または、その抗原結合部分が提供される。抗CD11b抗体、または、その抗原結合部分は、(i)配列番号1を有するH-CDR1、配列番号3を有するH-CDR2、および、配列番号5を有するH-CDR3を含む重鎖可変領域と、(ii)配列番号7を有するL-CDR1、配列番号9を有するL-CDR2、および、配列番号11を有するL-CDR3を含む軽鎖可変領域と、を含むか、または、(iii)配列番号2を有するH-CDR1、配列番号4を有するH-CDR2、および、配列番号6を有するH-CDR3を含む重鎖可変領域と、(iv)配列番号8を有するL-CDR1、配列番号10を有するL-CDR2、および、配列番号12を有するL-CDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0016】
さらなる実施形態では、H-CDR1は、配列番号1または2からなるアミノ酸配列を有し、H-CDR2は、配列番号3または4からなるアミノ酸配列を有し、H-CDR3は、配列番号5または6からなるアミノ酸配列を有し、L-CDR1は、配列番号7または8からなるアミノ酸配列を有し、L-CDR2は、配列番号9または10からなるアミノ酸配列を有し、L-CDR3は、配列番号11または12からなるアミノ酸配列を有する。
【0017】
さらに、本発明は、以下を含むヒト化抗CD-11b抗体、または、その抗原結合部分を提供する。(a)配列番号13からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号23からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(b)配列番号14からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号24からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(c)配列番号15からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号25からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(d)配列番号16からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号26からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(e)配列番号17からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号27からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(f)配列番号18からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号28からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(g)配列番号19からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号29からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(h)配列番号20からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、および、配列番号30からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(i)配列番号21からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号31からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、または、(j)配列番号22からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号32からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域。
【0018】
また、本発明は、抗CD11b抗体またはその抗原結合部分含む組成物を提供する。本発明は、本発明のヒト化抗CD11b抗体を被検体に投与する方法を提供する。このような方法は、免疫細胞におけるPD-L1の発現を阻害し、免疫抑制もしくは免疫疲弊を解除するか、または、免疫細胞に先在する免疫を誘発し、被検体内のPD-L1を検出し、急性および/または慢性感染症、敗血症、がんにおける免疫不全、または、加齢による免疫老化を治療または予防することを含む。
本発明の抗CD11b抗体は、上記方法において使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】CD11bを抗CD11b抗体と結合させることにより、PD-L1の表面発現が変化することを示している。アイソタイプコントロールであるIgG、または、抗CD11b抗体(ICRF44)の存在下で、ヒト単球をLPS(100ng/ml)で18時間刺激した。細胞を収穫し、フローサイトメトリーを用いてHLA-DR、PD-L1、CD80、および、CD86分子を分析した。表面の分子発現をMFIとして示している。値は、3つの別々の実験からの平均値±標準誤差として示している。
図2】フィブリノゲンへの細胞接着の効果、および、CD11bの結合によるPD-L1発現の減少を示す。(A)は、フィブリノゲンへのK562/CD11b細胞接着に対するML-C19-Aの効果を示す。10μMのML-C19-A、または、DMSOの存在下、フィブリノゲン(20μg/ml)でコーティングしたウェルの底部への25000個のK562/CD11b細胞の接着を37℃で20分間行った。結果をルシフェラーゼ発光試薬(CellTiter Glo(登録商標)、Promega社製)で数量化した。各バーは、代表的な実験からの3回繰り返しの測定の平均値±標準誤差を示す。(B)は、CD11bをCD11bアンタゴニストと結合させることにより、単球におけるPD-L1の発現が減少することを示している。DMSOコントロール、または、10μMのML-C19-Aの存在下で、ヒト単球をLPS(100ng/ml)で18時間刺激した。細胞を収穫し、フローサイトメトリーを用いてPD-L1分子を分析した。表面の分子発現をMFIとして示している。値は、10の別々の実験からの平均値±標準誤差として示している。
図3】B16F10腫瘍の成長に対する抗CD11b抗体による単独療法の効果を示す。初日、C57BL/6マウスに2×10個のB16F10細胞を皮下注射した。7日目、マウス(1グループにつき5匹)にコントロールのIgG(5mg/kg)、または、ラット抗マウスCD11b抗体を腹腔内注射した。3~4日おきに注射を繰り返した。18日目、マウスを屠殺した。腫瘍体積を測定し、結果を平均値±標準誤差として示している。
図4】抗CD11b抗体での治療後の腫瘍浸潤白血球におけるMDSCおよびCD8T細胞集団を示す。初日、C57BL/6マウスに2×10個のB16F10細胞を皮下注射した。7日目、マウス(1グループにつき5匹)にコントロールのIgG(5mg/kg)、または、ラット抗マウスCD11b抗体を腹腔内注射した。3~4日おきに注射を繰り返した。18日目、マウスを屠殺した。腫瘍をコラゲナーゼで消化し、腫瘍浸潤白血球をフローサイトメトリーで分析した。
図5】抗CD11b抗体で治療した後の血液中のWBCおよびIAIE+/CD8T細胞におけるPD-L1の発現を示す。初日、各マウスに2×10個のB16F10細胞を尾静脈から注射した。1日目、マウス(1グループにつき3匹)にコントロールのIgG(5mg/kg)、または、抗マウスCD11b抗体(5mg/kg)を腹腔内注射した。3~4日おきに注射を繰り返した。15日目、マウスを屠殺した。WBC細胞を収穫し、PD-L1分子、および、IAIE+/CD8T細胞をフローサイトメトリーで分析した。
図6】腫瘍のできたマウスにおけるIFN-γ、IL-12、および、TNF-αの生成が抗CD11b抗体による治療によって逆になることを示す。初日、各マウスに2×10個のB16F10細胞を尾静脈から注射した。1日目、マウス(1グループにつき3匹)にコントロールのIgG(5mg/kg)、または、ラット抗マウスCD11b抗体(5mg/kg)を腹腔内注射した。3~4日おきに注射を繰り返した。9日目、マウスを屠殺した。BD CBAマウス炎症キットにより血漿サイトカインを定量化した。
図7】LLC1腫瘍の成長に対する抗CD11b抗体による単独療法の効果を示す。初日、C57BL/6マウスに1×10個のLLC1細胞を皮下注射した。7日目、マウス(1グループにつき5匹)にコントロールのIgG(5mg/kg)、または、ラット抗マウスCD11b抗体を腹腔内注射した。3~4日おきに注射を繰り返した。腫瘍体積を測定し、結果を平均値±標準誤差として示している。
図8】LLC1腫瘍モデルでの生存率に対する抗CD11b抗体による単独療法の効果を示す。初日、C57BL/6マウスに1×10個のLLC1細胞を皮下注射した。7日目、マウス(1グループにつき5匹)にコントロールのIgG(5mg/kg)、または、ラット抗マウスCD11b抗体を腹腔内注射した。3~4日おきに注射を繰り返した。治療された各グループのマウスの長期生存に対する抗CD11b抗体の効果を分析した。
図9】LLC1肺転移モデルに対する抗CD11b抗体と抗PD1抗体とによる併用療法の効果を示す。初日、各マウスに1×10個のLLC1細胞を尾静脈から注射した。1日目、マウス(1グループにつき3匹)にコントロールのIgG(10mg/kg)、抗マウスCD11b抗体(10mg/kg)、抗PD1抗体(10mg/kg)、または、抗CD11b抗体(10mg/kg)+抗PD1抗体(10mg/kg)を腹腔内注射した。3~4日おきに注射を繰り返した。15日目、マウスを屠殺した。腫瘍播種の量を、肺に存在する小節の合計数として顕微鏡下で数えた。
図10】肺転移モデルでの生存率に対する抗CD11b抗体と抗PD1抗体とによる併用療法の効果を示す。初日、各マウスに1×10個のLLC1細胞を尾静脈から注射した。1日目、マウス(1グループにつき4~5匹)にコントロールのIgG(10mg/kg)、抗マウスCD11b抗体(10mg/kg)、抗PD1抗体(10mg/kg)、または、抗CD11b抗体(10mg/kg)+抗PD1抗体(10mg/kg)を腹腔内注射した。3~4日おきに注射を繰り返した。治療された各グループのマウスの長期生存に対する併用療法の効果を分析した。
図11】B16F10腫瘍の成長に対する抗CD11b抗体とタキソールとの併用療法の効果を示す。初日、C57BL/6マウスに2×10個のB16F10細胞を皮下注射した。7日目、マウス(1グループにつき5匹)にコントロールのIgG(5mg/kg)、抗マウスCD11b抗体(5mg/kg)、タキソール(10mg/kg)+コントロールのIgG(5mg/kg)、または、タキソール(10mg/kg)+抗CD11b抗体(5mg/kg)を腹腔内注射した。3~4日おきに注射を繰り返した。腫瘍体積を測定し、結果を平均値±標準誤差として示している。
図12】B16F10モデルにおける生存率に対する抗CD11b抗体とタキソールとの併用療法の効果を示す。初日、C57BL/6マウスに2×10個のB16F10細胞を皮下注射した。7日目、マウス(1グループにつき5匹)にコントロールのIgG(5mg/kg)、抗マウスCD11b抗体(5mg/kg)、タキソール(10mg/kg)+コントロールのIgG(5mg/kg)、または、タキソール(10mg/kg)+抗CD11b抗体(5mg/kg)を腹腔内注射した。3~4日おきに注射を繰り返した。治療された各グループのマウスの長期生存に対する併用療法の効果を分析した。
図13】CD11bと抗CD11b抗体とを結合することにより、LPS誘導性免疫抑制単球が1μg/mlのLPSで刺激された場合にPD-L1の発現が減少することを示す。(A)は、有志で構成された健康な被験者からヒト単球を単離し、100ng/mlのLPSで2日間前処理することによって免疫抑制を誘発することを示している。(B)は、10μg/mlのIgG1、または、抗CD11b抗体(ICRF44)の存在下で、LPS誘導性免疫抑制単球を1μg/mlのLPSで18時間、さらに刺激したことを示している。処理した細胞を洗浄し、フローサイトメトリーで分析した。表面のPD-L1発現をMFIとして示している。
図14】CD11bと抗CD11b抗体とを結合することにより、敗血症性ショックの患者からのヒト単球が1μg/mlのLPSで刺激された場合にPD-L1の発現が減少することを示す。敗血症性ショックの患者からヒト単球を単離し、10μg/mlのIgG1、または、抗CD11b抗体の存在下で、1μg/mlのLPSで18時間刺激した。処理した細胞を洗浄し、フローサイトメトリーで分析した。表面のPD-L1発現をMFIとして示している。
図15】ヒト化CD11b抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。CDR(相補性決定領域)は太字で示されている。
図16】ヒト化CD11b抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。CDR(相補性決定領域)は太字で示されている。
図17】ヒト化CD11b抗体の結合活性を示す。K562細胞、または、ヒトCD11bをトランスフェクションした細胞(K562/CD11b)を10μg/mlのヒト化抗CD11b抗体と共に30分間インキュベートした。FITC結合マウス抗ヒトIgGによって結合した抗体が検出された。細胞をフローサイトメトリーで分析した。点線は、K562細胞に結合した抗体を示している。実線は、K562/CD11b細胞に結合した抗体を示している。
図18】CD11bを抗CD11b抗体と結合させることにより、LPS刺激を受けたヒト単球におけるPD-L1の発現が減少することを示す。アイソタイプコントロールであるIgG、抗CD11b抗体(ICRF44)、または、ヒト化抗CD11b抗体の存在下で、LPSで刺激された単球を18時間インキュベートした。細胞を収穫し、単球におけるPD-L1の発現をフローサイトメトリーで分析した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明の組成物、方法、および、単離方法は変化し得るので、本発明はこれらに限定されないことが理解されるべきである。また、本明細書で用いられる専門用語は、特定の実施形態を説明する目的で用いられており、限定する意図はないことも理解されるべきである。
【0021】
本発明では、モジュレータを免疫細胞、および/または、他の細胞におけるCD11bと結合させることにより、PD-L1の発現を抑制し、それによって、慢性感染症、敗血症、がんにおける免疫不全、および、加齢による免疫老化などの免疫抑制に関連する病気を治療、および/または、予防できるという驚くべき発見をした。
【0022】
[定義]
特に定義しない限り、本明細書で用いられるすべての技術および科学用語は、当業者によって一般的に理解される意味と同じである。本発明の実施または試験には本明細書に記載されるものと同様または同等のいかなる方法および材料を用いることができる。したがって、変更および修正は、本開示の趣旨および範囲内に収まることが理解されよう。
【0023】
特に指定しない限り、単数形は複数形を含む。
【0024】
本明細書で用いられるアミノ酸残基は、以下のように短縮される:アラニン(Ala;A)、アスパラギン(Asn;N)、アスパラギン酸(Asp;D)、アルギニン(Arg;R)、システイン(Cys;C)、グルタミン酸(Glu;E)、グルタミン(Gln;Q)、グリシン(Gly;G)、ヒスチジン(His;H)、イソロイシン(Ile;I)、ロイシン(Leu;L)、リジン(Lys;K)、メチオニン(Met;M)、フェニルアラニン(Phe;F)、プロリン(Pro;P)、セリン(Ser;S)、スレオニン(Thr;T)、トリプトファン(Trp;W)、チロシン(Tyr;Y)、および、バリン(Val;V)。
【0025】
本明細書で用いられる用語「CD11b」とは、インテグリンαM(ITGAM)のことであって、ヘテロダイマーのインテグリンαMβ2の第1のサブユニットである。インテグリンαMβ2の第2のサブユニットは、CD18として知られるインテグリンβ2である。インテグリンαMβ2は、マクロファージ1抗原(Mac-1)、または、補体レセプター3(CR3)とも呼ばれ、単球、顆粒球、マクロファージ、および、ナチュラルキラー細胞を含む白血球の表面に発現する。
【0026】
本明細書で用いられる用語「PD-L1」とは、プログラム死リガンド1(PD-L1)、CD274、または、B7ホモログ1(B7-H1)を指す。PD-L1は、妊娠、自己免疫疾患、がん、敗血症などの特定の事象の間、および、結核菌、サイトメガロウィルス、および、肝炎などの他の感染症において免疫系を抑制するという重要な役割を果たす40kDaのタイプ1膜貫通タンパク質である。
【0027】
本明細書で用いられる用語「単球」は、単核白血球とも呼ばれ、最も重要な防御機構に関与するタイプの白血球に属し、樹枝状細胞、または、マクロファージ前駆細胞に分化され得ると認識されている。単球は、通常、血液系内を移動する。単球は、外部の刺激信号に反応して、多くの免疫調節サイトカインを分泌し、組織における感染部位に移動し、マクロファージへと分化する。
【0028】
本明細書で用いられる用語「調節する」は、一般的に、コントロールと比較して統計的にまたは生理的に顕著な量で「減少する」または「低下する」だけでなく「増加する」、または、「刺激する」ことを含む。
【0029】
本明細書で用いられる用語「被検体」とは、治療または治療法のために選択されたヒトまたは非ヒト動物を意味する。
【0030】
本明細書で用いられる用語「同一性」とは、配列の比較によって決定されるような2つ以上のポリペプチド、または、タンパク質配列の間の関係を指す。技術的には、「同一性」は、そのような配列における列同士の一致によって決定されるような、ポリペプチドまたはタンパク質間の配列の相関度のことを指す。「同一性」は、周知の生体情報による方法によって簡単に計算できる。2つのポリヌクレオチド、または、2つのポリペプチド配列の「パーセント同一性」は、デフォルトパラメータを用いるGAPコンピュータプログラム(GCGウィスコンシンパッケージ、バージョン10.3(アクセルリス、カリフォルニア州サンディエゴ)を使用して配列を比較することによって決定される。
【0031】
本明細書で用いられる用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、および、「タンパク質」は、それぞれ、ペプチド結合によって互いに結合される2つ以上のアミノ酸残基からなる分子のことを指す。これらの用語は、翻訳後に、または、共有結合もしくは非共有結合で修飾されたタンパク質の他に、例えば、天然タンパク質、人工タンパク質、タンパク質小片、および、タンパク質配列のポリペプチド類似体(突然変異タンパク質、変異体、および、融合タンパク質)を含む。ペプチド、ポリペプチド、または、タンパク質は、モノマーまたはポリマーであってよい。
【0032】
本明細書で用いられる用語「親和性」とは、分子(例えば抗体)の単一の結合部位とその結合パートナーとの間の非共有相互作用において全体的な強度を意味する。特に明示しない限り、本明細書で用いられる「結合親和性」とは、結合対(例えば、抗体と抗原)の間の1対1の相互作用を反映する固有の結合親和性のことを指す。分子XのパートナーYに対する親和性は、一般的に、解離定数(Kd)によって表され得る。親和性は、本明細書に記載されたものを含む従来知られている一般的な方法で測定されてよい。結合親和性を測定するための特定の例示的実施形態は、以下に記載されている。
【0033】
本明細書で用いられる用語「抗体」は、広い意味合いをもち、特に、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多特異的抗体(例えば、二重特異性抗体)、一価抗体、多価抗体、および、抗体フラグメントなど、所望の生物活性(例えば、Fabおよび/または単一アーム抗体)を示すものであればよい。
【0034】
本明細書で用いられる用語「抗体フラグメント」とは、抗原が結合する部分を含むインタクトな抗体以外の分子のことを指す。抗体フラグメントの例は、これらに限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;ダイアボディ;線形抗体;単鎖抗体分子(scFvなど);抗体フラグメントから形成される多特異的抗体を含む。
【0035】
本明細書で用いられる用語である、抗体の「抗原結合フラグメント」 とは、抗原と特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の部分のことを指す。抗体の抗原結合機能は、全長抗体のフラグメントにより果たされ得ることが分かっている。抗体の「抗原結合フラグメント」という用語に含まれる結合フラグメントの例は、(i)V、V、CおよびCH1ドメインからなる一価フラグメントであるFabフラグメント、(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって結合される2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントであるF(ab’)フラグメント、(iii)VおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント、(iv)抗体の単一のアームのVおよびVドメインからなるFvフラグメント、(v)VドメインからなるdAbフラグメント、(vi)単離された相補性決定領域(CDR)を含む。これらの抗体フラグメントは、タンパク質分解法などの従来の手法を用いて得られる(J. Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp 98-118 (N.Y. Academic Press 1983参照)。フラグメントの有用性は、インタクトな抗体と同じやり方で検査される。
【0036】
本明細書で用いられる用語「相補性決定領域」(CDR)とは、抗体内でそれらのタンパク質が抗原の形状を補足する領域のことを指す。本明細書では、CDRという頭文字が「相補性決定領域」を意味する。
【0037】
抗体の「可変領域」とは、抗体の軽鎖可変領域、および、抗体の重鎖可変領域のいずれかまたはその組み合わせのことを指す。重鎖および軽鎖可変領域のそれぞれは、超可変領域としても知られる3つのCDRによって接続された4つのフレームワーク領域(FR)からなる。各鎖におけるCDRは、他の鎖からのCDRとフレームワーク領域によって緊密にまとまり、抗体の抗原結合部分の形成に寄与する。CDRの境界を識別するのに用いられ得る例示的な規則は、例えば、カバット定義、および、コチア定義を含む。カバット定義は、配列可変性に基づくものである(Kabat et al., 1992, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, NIH, Washington D.C.参照)。コチア定義は、構造ループ領域の位置に基づくものである(Chothia et al., 1989, Nature 342:877-883参照)。CDR識別のための他のアプローチには、「IMGT定義」(Lefranc, M.-P. et al., 1999, Nucleic Acids Res. 27:209-212)、および、カバットとコチアとの折衷であり、オックスフォード分子AbM抗体モデリングソフトウェアを用いて導出される「AbM定義」、または、観察される抗原接着に基づくCDRの「接着定義」(MacCallum et al., 1996, J. Mol. Biol. 262:732-745)が含まれる。本明細書で用いられるCDRは、カバットナンバリングシステムによって定義されるCDRであり得る。
【0038】
本明細書で用いられる用語「ヒト化抗体」、または、「ヒト化抗体フラグメント」とは、免疫グロブリンアミノ酸配列変異体を含む特定のタイプのキメラ抗体、または、そのフラグメントを含み、予め決められた抗原と結合することができ、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を実質的に有する1つ以上のフレームワーク領域(FR)、および、非ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を実質的に有する1つ以上のCDRからなる。非ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列は、「インポート」配列とも呼ばれ、通常は「インポート」抗体ドメイン、特に、可変ドメインから得られる。一般に、ヒト化抗体は、ヒト重鎖または軽鎖可変ドメインのFR間に挿入される、非ヒト抗体の少なくともCDRまたは超可変領域(HVL)を含む。
【0039】
本明細書で用いられる「ヒト抗体」とは、ヒトもしくはヒト細胞から生成されるか、または、ヒト抗体レパートリーまたは他のヒト抗体コード化配列を利用する非ヒト供与源から導かれる抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するものを指す。このようなヒト抗体の定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を特に除外する。
【0040】
本明細書で用いられる用語「キメラ抗体」とは、1つの抗体からの1つ以上の領域、および、1つ以上の他の抗体からの1つ以上の領域を含む抗体のことを指す。
【0041】
本明細書で用いられる用語「重鎖」とは、エピトープに特異性を与える十分な可変領域配列を有する全長重鎖およびそのフラグメントを含む。全長重鎖は、可変領域のドメインVと、3つの不変領域のドメインCH、CH、および、CHとを含む。Vドメインは、ポリペプチドのアミノ末端にあり、CHドメインは、カルボキシル末端にある。
【0042】
本明細書で用いられる用語「軽鎖」は、エピトープに特異性を与える十分な可変領域配列を有する全長軽鎖およびそのフラグメントを含む。全長軽鎖は、可変領域のドメインVと、不変領域のドメインCとを含む。重鎖と同様、軽鎖の可変領域のドメインもポリペプチドのアミノ末端にある。
【0043】
本明細書に用いられる用語「薬学的に許容可能な担体」とは、活性成分以外の、被検体に対して毒性のない医薬組成物中の成分を指す。薬学的に許容可能な担体は、これに限定されないが、緩衝液、賦形剤、安定剤、または、防腐剤を含む。
【0044】
本明細書で用いられる用語「被検体」とは、脊椎動物、好ましくは、哺乳類、より好ましくは、ヒトを意味する。哺乳類は、これらに限定されないが、ヒト、家畜、変種動物、および、ペットである。
【0045】
本明細書で用いられる用語「有効量」とは、有益なまたは所望の臨床結果をもたらすのに十分な量を意味する。有効量は、複数回に分けて投与されてよい。本発明によれば、有効量は、病状を診断、緩和、改善、安定、回復、または、病状の進行を遅らせるもしくは遅延させるのに十分な量のことを指す。
【0046】
本明細書で用いられる用語「治療」、「治療する」などは、一般的に、所望の薬理学的、および/または、生理学的効果を得ることを意味する。効果は、病気またはその症状を完全に、または、一部予防するという観点では、予防であってよく、および/または、病気、および/または、病気の副作用を一部または完全に安定化または治癒する観点では治療であってよい。本明細書で用いられる「治療」とは、哺乳類、特に、ヒトの病気のあらゆる治療を含み、(a)病気またはその症状になりそうだがまだそうとは診断されていない患者がその病気または症状になるのを予防する、(b)病徴を阻害する、すなわち、病気の発症を抑制する、または、(c)病徴を軽減する、すなわち、病気または症状を退行させることを含む。
【0047】
本明細書で用いられる用語「予防」とは、患者または被検体が病状または病態になるのを阻止する予防または予防的手段が取られていることを意味する。予防とは、患者または被検体が病態または病状になる可能性を低減し、その病状または病態の発症を阻害または抑制することも含む。
【0048】
値の範囲が与えられる場合、特に明確に指示しなければ、その範囲の上限値と下限値との間の各介在値(文脈によって明示的に示されない限り、下限値の単位の10分の1まで)、および、その記載範囲の中の任意の他の記載値または介在値は、本発明内に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限値および下限値は、独立してより小さい範囲内に含まれ得、また、本発明内に包含され、記載範囲内の任意の具体的に除外された限界に従う。記載範囲が一方または両方の限界を含む場合には、それらの包含された限界の一方または両方を除外する範囲もまた、本発明に含まれる。
【0049】
[CD-11bモジュレータの結合は、PD-L1の発現に影響を及ぼす]
本発明では、免疫細胞の表面に発現するCD11b分子と反応するCD11bモジュレータによる治療を通じて、敗血症、慢性感染症、および、がんを含む免疫抑制状態に関連する症状を解除するという驚くべき発見をした。
【0050】
本発明の一側面では、免疫細胞におけるPD-L1の発現を阻害する方法を提供する。方法は、免疫細胞を、免疫細胞におけるCD11bと結合するCD11bモジュレータと接触させることによって、免疫細胞におけるPD-L1の発現を阻害することを含む。あるいは、本発明は、免疫細胞におけるPD-L1の発現を阻害するための製剤の製造において、CD11bモジュレータを使用することを含む。本発明は、また、免疫細胞におけるPD-L1の発現を阻害するCDb11モジュレータを提供する。
【0051】
本発明の他の側面では、免疫抑制または免疫疲弊を解除するか、または、免疫細胞に先在する免疫を誘発する方法を提供する。方法は、免疫細胞を、免疫細胞におけるCD11bと結合するCD11bモジュレータと接触させることを含む。あるいは、本発明は、免疫抑制または免疫疲弊を解除するか、または、免疫細胞に先在する免疫を誘発するための製剤の製造において、CD11bモジュレータを使用することを含む。本発明は、また、免疫抑制または免疫疲弊を解除するか、または、免疫細胞に先在する免疫を誘発するためのCD11bモジュレータを提供する。
【0052】
本発明の他の側面では、CD11bモジュレータに反応する被検体を決定する方法を提供する。方法は、生体サンプルまたは被検体における免疫細胞をCD11bモジュレータと接触させることによって、生体サンプルまたは被検体内においてPD-L1が阻害されているか否かを検出し、CD11bモジュレータによる、免疫細胞におけるPD-L1の阻害を検出することを含む。PD-L1が阻害されるということは、被検体がCD11bモジュレータに反応するということを示す。
【0053】
一実施形態では、本明細書に記載されたCD11bモジュレータは、CD11bの発現を阻害するRNAi薬剤、抗CD11b抗体、または、CD11bを調節する小分子化合物である。
【0054】
いくつかの実施形態では、CD11bの発現を阻害するRNAi薬剤は、CD11bの発現を阻害するマイクロRNA(miRNA)、または、低分子干渉RNA(siRNA)である。いくつかの実施形態では、抗CD11b抗体は、モノクローナル、キメラ、ヒト化、ヒト、または、二重特異性抗CD11b抗体である。いくつかの実施形態では、CD11bを調節する小分子化合物の例は、これらに限定されないが、US8,268,816、US20120035154、WO002007039616、WO002006111371、WO002007054128、WO00199901258、および、J Immunol 2010, 184, pp.3917-26, and Cancer Discov, 2012, 2, pp.1091-99に記載された化合物を含む。好ましくは、化合物は、以下からなるグループから選択される。
【0055】
【化1】
【0056】
一実施形態では、免疫細胞は、単球、顆粒球、マクロファージ、骨髄由来サプレッサー細胞、ナチュラルキラー細胞、または、T細胞である。
【0057】
一実施形態では、CD11bの結合は、IFN-γ、IL-12、または、CD8T細胞を増加させる。他の実施形態では、細胞のCD11bにCD11bモジュレータを結合させることにより、免疫抑制に関連する病気を治療、および/または、予防する。
【0058】
さらなる実施形態では、免疫抑制、または、免疫疲弊に関連する病気は、急性および/または慢性感染症、敗血症、がんにおける免疫不全、または、加齢による免疫老化におけるT細胞の疲弊によるものである。したがって、本発明は、被検体の急性および/または慢性感染症、敗血症、がんにおける免疫不全、または、加齢による免疫老化を治療または予防する方法を提供する。方法は、有効量のCD11bモジュレータを被検体に投与することを含む。
【0059】
一実施形態では、本明細書に記載されるがんは、免疫療法に反応するがんである。
免疫療法に反応するがんの例は、これらに限定されないが、メラノーマ、肺がん、肺の扁平上皮がん、頭頚部がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、前立腺がん、胃がん、子宮頸がん、食道がん、膀胱がん、腎臓がん、脳ガン、肝臓がん、大腸がん、骨肉腫、膵臓がん、皮膚がん、皮膚または眼内悪性黒色腫、卵巣がん、直腸がん、肛門部のがん、胃がん、精巣がん、卵管がん、子宮内膜がん、頸がん、膣がん、外陰がん、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織の肉腫、尿道がん、陰茎がん、急性骨髄性白血病を含む慢性または急性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、小児の固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、腎盂がん、中枢神経系(CNS)の腫瘍、中枢神経系原発リンパ腫、腫瘍の血管新生、脊髄軸腫瘍、脳幹グリオーマ、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮がん、扁平上皮細胞がん、および、T細胞リンパ腫が挙げられる。
【0060】
一実施形態では、がんは、がん転移、難治性がん、再発性がん、または、進行がんである。
【0061】
一実施形態では、がんを治療および/または予防する方法は、追加の活性薬剤を投与、または、追加の治療法を行うことを含む。いくつかの実施形態では、追加の活性薬剤または追加の治療法は、免疫チェックポイント療法、放射線療法、または、化学療法である。
【0062】
一実施形態では、CD11bモジュレータと、免疫チェックポイント療法、放射線療法、または、化学療法とは、同時に、順に、または、別々に投与される。さらなる実施形態では、免疫チェックポイント療法は、免疫チェックポイントタンパク質を投与することを含む。好ましくは、免疫チェックポイントタンパク質は、抗PD-1リガンド、抗CTLA-4抗体、抗PD-L1抗体、その抗原結合性フラグメント、または、それらの任意の組合せである。抗PD-1リガンドの例は、これらに限定されないが、抗PD-1抗体(ニボルマブおよびペムブロリズマブなど)、および、抗CTLA-4抗体(イピリムマブなど)が挙げられる。
【0063】
他の実施形態では、化学療法は、化学療法剤を投与することを含む。化学療法剤の例は、これらに限定されないが、アルキル化剤、代謝拮抗物質、抗微小管剤、トポイソメラーゼ阻害剤、および、細胞障害性抗生物質が挙げられる。好ましくは、化学療法剤は、シスプラチン、フルオロウラシル(5-Fu)、タキソール、ドセタキセル、ビノレルビン、ビンデシン、ビンフルニン、ゲムシタビン、メトトレキサート、ゲフィチニブ、ラパチニブ、または、エルロチニブである。
【0064】
本明細書に記載されるCD11bモジュレータ、および、他の薬剤は、製剤または組成物として調製されてよい。本発明の製剤、または、医薬品組成物は、局所療法および全身療法のいずれが要求されるかによって、また、治療される部位によって、多くの方法で投与されてよい。投与は、経口または非経口でよい。
【0065】
特定の実施形態では、本明細書に記載される化合物および組成物は、非経口で投与される。非経口投与は、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、または、筋肉内注射または注入を含む。
【0066】
特定の実施形態では、非経口投与のための製剤または組成物は、緩衝液、希釈液、および、他の適切な添加剤を含み得る滅菌水溶液であってよい。他の適切な添加剤とは、例えば、これに限定されないが、浸透促進剤、担体化合物、および、他の薬学的に許容可能な担体または賦形剤などを含み得る。特定の実施形態では、経口投与のための製剤または組成物は、これらに限定されないが、薬剤担体、賦形剤、粉末、顆粒、微粒子、ナノ粒子、水または非水性媒体に懸濁させたまたは溶かしたもの、カプセル、ゲルカプセル、小袋、錠剤、または、小錠剤を含み得る。増粘剤、香料、希釈液、乳化剤、分散助剤、または、結合剤も望ましい。
【0067】
投薬は、治療過程が数日であるものから数か月に及ぶものもある、治療される病気の重症度、および、反応性に左右されるか、または、治癒するまで、もしくは、病状が改善するまで行われる。投薬は、薬効および代謝にも左右される。
【0068】
免疫細胞におけるPD-L1の発現量は、免疫抑制および免疫疲弊を解除し、先在する免疫を誘発する新規な治療標的としての役割を果たす。
【0069】
[本発明の抗CD11b抗体]
本発明によれば、新規な抗CD11b抗体、および、この抗CD11b抗体をがん免疫療法、慢性感染症、敗血症、がんによる免疫欠損、および、加齢による免疫老化におけるT細胞疲弊などの免疫抑制、および、免疫疲弊に関連する病気の治療、および/または、予防に用いる方法が提供される。
【0070】
本発明の一側面では、抗CD11b抗体、または、その抗原結合部分を提供する。抗CD11b抗体、または、その抗原結合部分は、NYWIN(配列番号1)もしくはGFSLTSNSIS(配列番号2)のアミノ酸残基、または、配列番号1もしくは2と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有する変異体からなる重鎖相補性決定領域1(H-CDR1)、NIYPSDTYINHNQKFKD(配列番号3)もしくはAIWSGGGTDYNSDLKS(配列番号4)のアミノ酸残基、または、配列番号3もしくは4と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有する変異体からなる重鎖相補性決定領域2(H-CDR2)、および、SAYANYFDY(配列番号5)もしくはRGGYPYYFDY(配列番号6)のアミノ酸残基、または、配列番号5もしくは6と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有する変異体からなる重鎖相補性決定領域3(H-CDR3)の少なくとも1つと、RASQNIGTSIH(配列番号7)もしくはKSSQSLLYSENQENYLA(配列番号8)のアミノ酸残基、または、配列番号7もしくは8と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有する変異体からなる軽鎖相補性決定領域1(L-CDR1)、YASESIS(配列番号9)もしくはWASTRQS(配列番号10)のアミノ酸残基、または、配列番号9もしくは10と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有する変異体からなる軽鎖相補性決定領域2(L-CDR2)、および、QQSDSWPTLT(配列番号11)もしくはQQYYDTPLT(配列番号12)のアミノ酸残基、または、配列番号11もしくは12と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有する変異体からなる軽鎖相補性決定領域3(L-CDR3)の少なくとも1つと、を含み、単離された抗体またはその抗原結合部分は、CD11bと結合する。
【0071】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されたCDRは、1つ以上の挿入、置換、および/または、欠失を含む。
【0072】
本発明のさらなる実施形態では、抗CD11b抗体、または、その抗原結合部分が提供される。抗CD11b抗体、または、その抗原結合部分は、(i)配列番号1を有するH-CDR1、配列番号3を有するH-CDR2、および、配列番号5を有するH-CDR3を含む重鎖可変領域と、(ii)配列番号7を有するL-CDR1、配列番号9を有するL-CDR2、および、配列番号11を有するL-CDR3を含む軽鎖可変領域と、を含むか、または、(iii)配列番号2を有するH-CDR1、配列番号4を有するH-CDR2、および、配列番号6を有するH-CDR3を含む重鎖可変領域と、(iv)配列番号8を有するL-CDR1、配列番号10を有するL-CDR2、および、配列番号12を有するL-CDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む。さらなる実施形態では、H-CDR1は、配列番号1または2からなるアミノ酸配列を有し、H-CDR2は、配列番号3または4からなるアミノ酸配列を有し、H-CDR3は、配列番号5または6からなるアミノ酸配列を有し、L-CDR1は、配列番号7または8からなるアミノ酸配列を有し、L-CDR2は、配列番号9または10からなるアミノ酸配列を有し、L-CDR3は、配列番号11または12からなるアミノ酸配列を有する。
【0073】
本発明の一側面では、重鎖可変領域、または、その抗原結合部分が提供される。重鎖可変領域は、配列番号1または2からなるアミノ酸配列を有するH-CDR1と、配列番号3または4からなるアミノ酸配列を有するH-CDR2と、配列番号5または6からなるアミノ酸配列を有するH-CDR3とを含む。
【0074】
本発明の一側面では、軽鎖可変領域、または、その抗原結合部分が提供される。軽鎖可変領域、または、その抗原結合部分は、配列番号7または8からなるアミノ酸配列を有するL-CDR1と、配列番号9または10からなるアミノ酸配列を有するL-CDR2と、配列番号11または12からなるアミノ酸配列を有するL-CDR3とを含む。
【0075】
本発明の一実施形態では、ヒト化抗CD11b抗体、または、その抗原結合部分が提供される。ヒト化抗CD11b抗体、または、その抗原結合部分は、(i)配列番号13~22のアミノ酸配列のいずれかと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、(ii)配列番号23~32のアミノ酸配列のいずれかと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域とを含む。
【0076】
本発明のさらなる実施形態では、ヒト化抗CD11b抗体、または、その抗原結合部分が提供される。ヒト化抗CD11b抗体、または、その抗原結合部分は、配列番号13~22からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、配列番号23~32からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域とを含む。
【0077】
好ましくは、本発明は、以下を含むヒト化抗CD-11b抗体、または、その抗原結合部分を提供する。(a)配列番号13からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号23からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(b)配列番号14からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号24からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(c)配列番号15からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号25からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(d)配列番号16からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号26からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(e)配列番号17からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号27からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(f)配列番号18からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号28からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(g)配列番号19からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号29からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(h)配列番号20からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、および、配列番号30からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、(i)配列番号21からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号31からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、または、(j)配列番号22からなるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および、配列番号32からなるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域。
【0078】
配列番号13~32のアミノ酸配列は、以下のとおりである。
【0079】
【表1】
【0080】
標的抗原に実質的に対抗するモノクローナル抗体を調製する技術は、当技術分野では周知である(例えば、Kohler and Milstein, Nature 256: 495 (1975), and Coligan et al. (eds.), Current Protocols In Immunology, Vol. 1, pages 2.5.1-2.6.7 (John Wiley & Sons 1991)参照)。モノクローナル抗体は、マウスまたはニワトリに抗原を含む組成物を注射し、Bリンパ球を得るために脾臓を除去し、Bリンパ球と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを生成し、ハイブリドーマをクローニングし、抗原に対する抗体を産出する陽性クローンを選択し、抗原に対する抗体を産出する陽性クローンを培養し、ハイブリドーマ培養から抗体を単離することによって得ることができる。
【0081】
キメラまたはヒト化抗体を生成するようなさまざまな技術は、抗体クローニング、および、抗体構築の手順を含み得る。対象となる抗体の抗原結合可変軽鎖および重鎖配列は、さまざまな分子クローニング手順によって得られる。キメラ抗体は、ヒト抗体の可変領域が、例えば、相補性決定領域(CDR)を含むマウス抗体の可変領域と置き換えられている組み換えタンパク質である。キメラ抗体が被検体に投与されると、免疫原性の低下、および、安定性の向上が見られる。キメラ抗体を構築する方法は、当技術分野では周知である。キメラモノクローナル抗体は、マウスの免疫グロブリンの重鎖および軽鎖可変ドメインからヒト抗体の対応する可変ドメインへとマウスのCDRをトランスファーすることによってヒト化され得る。キメラモノクローナル抗体におけるマウスフレームワーク領域は、ヒトフレームワーク領域の配列と置換されてもよい。
【0082】
例えば、CD11bを特異的に結合するヒト化抗体のVおよび/またはVをコードする核酸は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写に基づく増幅系(TAS)などのインビトロ法によってクローン化、または、増幅され得る。例えば、タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、分子のDNA配列に基づくプライマーを用いて、cDNAのポリメラーゼ連鎖反応によって単離され得る。当業者にとって、多種多様なクローニングおよびインビトロ増幅方法は周知である。ポリヌクレオチドは、厳格なハイブリダイゼーション条件の下で、所望のポリヌクレオチド配列から選択されたプローブによってゲノムまたはcDNAライブラリをスクリーニングすることによっても単離され得る。
【0083】
ポリヌクレオチドは、ベクター、自己複製プラスミドもしくはウィルス、または、原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれるか、または、他の配列とは独立した別の分子(例えば、cDNA)として存在する組み換えDNAを含む。本発明のヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、または、どちらかのヌクレオチドの改変形態であってよい。この用語は、一重鎖および二重鎖DNAを含む。
【0084】
CD11bを特異的に結合するヒト化抗体のVおよび/またはVをコードするDNA配列は、適切な宿主細胞にDNAをトランスファーすることによってインビトロで発現させることができる。細胞は、原核細胞または真核細胞であってよい。この用語は、被検体の宿主細胞のいかなる子孫も含む。複製中に突然変異が起きることもあるので、すべての子孫が親細胞と同一ではないかもしれないことが理解される。安定にトランスファーする方法では、外来性DNAが宿主細胞に継続して維持されるが、これは、当技術分野では周知である。CD11bを特異的に結合するヒト化抗体のVおよび/またはVをコードするポリヌクレオチド配列は、発現制御配列と機能的に連結され得る。コード配列と機能的に連結された発現制御配列は、コード配列が発現制御配列と整合する条件下で発現するようライゲーションされる。発現制御配列は、これらに限定されないが、適切なプロモータ、エンハンサ、転写ターミネータ、タンパク質コード遺伝子の開始コドン(例えばATG)、イントロンを除去してmRNAの適切な翻訳を可能にするためにその遺伝子の正しい読み枠を維持するスプライシングシグナル、および、終止コドンを含む。
【0085】
CD11bを特異的に結合するヒト化抗体のVおよび/またはVをコードするポリヌクレオチド配列は、発現ベクターに挿入され得る。発現ベクターの例は、これらに限定されないが、配列の挿入または組み込みを可能にするよう操作され、原核生物または真核生物に発現し得るプラスミド、ウィルス、および、他のビヒクルが挙げられる。宿主は、微生物、イースト、昆虫、および、哺乳動物を含み得る。原核生物において真核生物またはウィルスの配列を有するDNA配列を発現する方法は、当技術分野では周知である。宿主内で発現および複製可能である、生物学的に機能的なウィルスおよびプラスミドDNAベクターは、当技術分野では周知である。組み換えDNAによる宿主細胞の形質転換は、当業者に周知の従来技術によって行われてよい。
【0086】
組み換えによって発現したポリペプチドの単離および精製は、分取クロマトグラフィ、および、免疫学的分離を含む従来の手段によって行われ得る。
【0087】
ヒト化は、齧歯動物のCDR配列をヒト抗体の対応する配列と置換することによって、通常、当技術分野では周知である以下の従来の方法により行われ得る。従って、このような「ヒト化」抗体は、インタクトなヒト可変ドメインが、非ヒトからの対応する配列によって置換されている抗体ではない。特に、ヒト化抗体は、一般的に、いくつかのCDR残基、そして場合によってはいくつかのFR残基が、例えば、齧歯動物の抗体といった非ヒトの類似部位からの残基と置換されるヒト抗体である。
【0088】
ヒト化抗体を作製するために軽鎖および重鎖の両方のヒト可変領域を選択することは、抗原性を低下させるのに非常に重要なことである。齧歯動物の抗体の可変領域ドメインの配列は、周知のヒト可変領域ドメインの配列の全体のライブラリに対してスクリーニングされる。その後、齧歯動物の配列と最も近いヒトの配列がヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として受け入れられる。他の方法では、軽鎖または重鎖の特定のサブグループのすべてのヒト抗体のコンセンサス配列から導かれた特定のフレームワーク領域を用いる。いくつかの異なるヒト化抗体に対して同じフレームワーク領域が用いられてよい。
【0089】
抗体結合部分は、例えば、Fab、Fab’、F(ab)、F(ab’)、Fv、scFvなどを含む。これらのフラグメントは、例えば、パパイン(Fabフラグメントを生成する)、または、ペプシン(F(ab’)フラグメントを生成する)などの酵素によるタンパク質切断といった当技術分野では周知である方法を用いてインタクトな抗体から生成される。
【0090】
本明細書に記載されるポリペプチドをコードする核酸の修飾は、その生物活性を損なうことなく行われ得る。いくつかの修飾は、クローニング、発現、または、標的分子を融合タンパク質に取り込むために行われてよい。このような修飾は、当業者には周知であり、例えば、終止コドン、開始部位を設けるためにアミノ末端に追加されたメチオニン、都合のよい位置に制限部位を形成するためにどちらかの末端に配置された追加のアミノ酸、または、精製ステップを補助する追加のアミノ酸を含む。本開示の抗体は、組み換え方法に加えて、当技術分野では周知である標準的なペプチド合成を用いて全体または一部が構築され得る。
【0091】
本発明の他の側面では、本発明の抗CD11b抗体を含む組成物が提供される。いくつかの実施形態では、このような組成物が被検体に投与され得る。いくつかの実施形態では、本発明の抗CD11b抗体は、これらに限定されないが、薬学的に許容可能な担体、アジュバント、湿潤または乳化剤、pH緩衝剤、防腐剤、および/または、組成物の使用目的に適した他の成分のうち、1つ以上の異なる成分を有する組成物に含まれてよい。このような組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョンなどの形態をとり得る。用語「薬学的に許容可能な担体」とは、さまざまな希釈剤、賦形剤、および/または、ビヒクルを含む。薬学的に許容可能な担体は、これに限定されないが、ヒトおよび/または他の動物の被検体への送達に安全なことが知られている、および/または、連邦または州政府の規制機関によって認可されている、および/または、米国薬局方に掲載されている、および/または、他の一般的に認識されている薬局方に掲載されている、および/または、人間および/または他の動物に使用するために1つ以上の一般的に認識されている規制機関から特定または個別の承認を受けている担体を含む。このような薬学的に許容可能な担体は、これらに限定されないが、水、水溶液(食塩水、緩衝液など)、有機溶剤(特定のアルコール、および、石油、動物油、植物性または合成油(落花生油、大豆油、鉱油、胡麻油など)を含む油)などを含む。
【0092】
一実施形態では、本発明のヒト化抗CD11b抗体は、がんの治療に用いられる化学物質である1つ以上の化学療法剤を含む、抗腫瘍薬とも呼ばれる組成物に含まれ得る。抗腫瘍薬は、薬物の化学構造の違い、および、化学的起源に基づいて、通常、アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗腫瘍性抗生物質、アントラサイクリン抗生物質、抗腫瘍植物薬、および、ホルモンに分類される。周期または位相特異性に基づき、腫瘍に対する化学療法薬は、(1)アルキル化剤、抗腫瘍抗生物質、白金配位錯体などの細胞周期非特異的薬剤(CCNSA)、および、(2)代謝拮抗薬、ビンカアルカロイドなどの細胞周期特異的薬剤(CCSA)に分類され得る。
【0093】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、「有効量」の本発明の抗CD11b抗体を含む。「有効量」とは、所望の成果を得るのに必要とされる量である。本発明のヒト化抗CD11b抗体の、所望の成果を得るために有効な量は、様々な要因に左右される。様々な要因は、これらに限定されないが、対象とする被検体の種(ヒトかまたは他の動物種かどうか)、対象とする被検体の年齢および/または性別、計画された投与経路、計画された投与方式、進行中の病気または状態の重篤度などを含む。ある範囲の有効量は、例えば、インビトロアッセイ、および/または、対象とする被検体種、または、適切な動物モデル種におけるインビボアッセイを用いて、過度の実験なしの標準的な技術によって決定され得る。適切なアッセイは、これらに限定されないが、用量反応曲線、および/または、インビトロおよび/またはインビボモデルシステムから導出された他のデータからの外挿を含む。いくつかの実施形態では、有効量は、特定の状況に基づく医師または獣医の判断に従い決定され得る。
【0094】
一実施形態では、ヒト化抗CD11b抗体の有効量は、一回の投与につき約0.01mg/kg(体重)~40mg/kgであり、好ましくは、約0.01mg/kg~30mg/kg、約0.01mg/kg~20mg/kg、約0.01mg/kg~10mg/kg、約1mg/kg~40mg/kg、約1mg/kg~30mg/kg、約1mg/kg~20mg/kg、約1mg/kg~10mg/kg、約2mg/kg~40mg/kg、約2mg/kg~30mg/kg、約2mg/kg~20mg/kg、約2mg/kg~10mg/kg、約5mg/kg~40mg/kg、約5mg/kg~30mg/kg、約5mg/kg~20mg/kg、約5mg/kg~10mg/kg、または、約1mg/kg~5mg/kgである。
【0095】
いくつかの実施形態では、本発明は、ヒト化抗CD11b抗体を被検体に投与する方法を提供する。このような方法は、免疫細胞におけるPD-L1の発現を阻害し、免疫抑制もしくは免疫疲弊を解除するか、または、免疫細胞に先在する免疫を誘発し、被検体内のPD-L1を検出し、急性および/または慢性感染症、敗血症、がんにおける免疫不全、または、加齢による免疫老化を治療または予防することを含む。本発明の抗CD11b抗体は、上記方法において用いることができる。
【0096】
本明細書に記載されるがんは、免疫療法に反応するがんであり、がんの例は、本明細書に記載されるとおりである。がんを予防および/または治療する方法は、追加の活性薬剤を投与または追加の治療法を行うことを含む。追加の活性薬剤、それらの実施形態、および、投与は、本明細書に記載されるとおりである。
【0097】
本発明の抗CD11b抗体、または、抗CD11b抗体を含む組成物が(例えば治療方法の過程で)投与され得る被検体は、あらゆる動物種を含む。いくつかの実施形態では、被検体は、哺乳類種である。哺乳類の被検体は、これらに限定されないが、ヒト、非ヒト霊長類、齧歯動物、ウサギ、および、フェレットを含む。
【0098】
当技術分野ではさまざまなデリバリーシステムが周知であり、本発明の組成物を被検体に投与するためにいかなる適切なデリバリーシステムが用いられてよい。このようなデリバリーシステムは、これらに限定されないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、および、経口デリバリーシステムを含む。本発明の組成物は、例えば、点滴またはボーラス注射、上皮または皮膚粘膜裏打ち(例えば、口腔粘膜、直腸および腸粘膜)を介した吸収によるいかなる都合のよい経路によって投与されてよく、他の生物活性材料と共に投与されてもよい。投与は、全身または局所投与であってよい。
【0099】
いくつかの実施形態では、単回投与が望ましい。しかしながら、他の実施形態では、所望の効果をもたらすべく、同じまたは異なる経路で追加の投与が行われてよい。
いくつかの実施形態では、投与方式は、単回投与を含み得る。
他の実施形態では、投与方式は、複数回投与を含み得る。
【実施例
【0100】
以下、実施例で用いられる材料および方法を記載する。
【0101】
[材料および方法]
ヒト細胞の単離および培養
【0102】
有志で構成された健康な被験者の白血球濃縮物を台湾血液基金会(台北市、台湾)から入手した。本研究の各参加者にインフォームドコンセントを記入してもらい、馬偕紀念医院の施設内倫理委員会の承認を得た。ヒト単球を上記のとおり単離した。簡単に説明すると、末梢血単核細胞(PBMC)をFicoll-Paque Plus(GEヘルスケア社)を用いた勾配遠心分離によって単離した。CD14 MACSマイクロビーズ(ミルテニーバイオテク社)を用いてCD14の選定を行うことにより、単球をさらに精製した。フローサイトメトリー分析により確認した単球の純度は、およそ90%であった。
【0103】
動物および腫瘍細胞株
【0104】
台湾国家実験動物センター(台北市、台湾)より、C57BL/6マウス(6~8週齢)を購入した。すべての動物実験は、特定の無菌条件下で、馬偕紀念医院の動物実験委員会に認可された規則に従い行われた。治療開始時、および、治療期間の毎日、各マウスの体重を測定した。B16F10は、マウスのメラノーマ細胞であり、LLC1は、マウスのルイス肺がんである。すべての細胞は、C57BL/6マウスから得たものである。細胞を10%の加熱不活性化したウシ胎仔血清、2mMのL-グルタミン酸、ペニシリン(100U/ml)、および、ストレプトマイシン(100μg/ml)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)にて37℃、5%COを含む湿気のある雰囲気下で維持した。
【0105】
抗体および試薬
【0106】
ヒト単球の研究
【0107】
大腸菌(O111:B4)のLPSをシグマ社から入手した。ヒトCD11b(ICRF44)に特異的であるマウス結合抗体、および、コントロールの抗体に用いるマウスIgG1をバイオレジェンド社より購入した。
【0108】
マウスのがんモデル
【0109】
マウスのCD11b(M1/70)に特異的なラット結合抗体、コントロールであるラットIgG2b抗体(LTF-2)、アメリカンハムスター由来の抗マウスPD1(J43)、および、コントロールであるアメリカンハムスターIgGをBioXcell社より購入した。タキソールは、馬偕紀念医院から入手した化学療法薬である。
【0110】
がん治療のプロトコル
【0111】
皮下腫瘍モデル
【0112】
C57BL/6マウスに2×10個のB16F10細胞、または、1×10個のLLC1細胞を皮下接種した。腫瘍接種の7日後に治療を開始した。週2回、異なる抗体および化学療法薬を腹腔内投与して腫瘍のできたマウスを治療した。週2回、触知可能な腫瘍の形成をモニタおよび記録し、腫瘍が予め決められたサイズである3000mmを超えた場合、マウスを屠殺した。腫瘍体積をノギスで測定し、式A×B×0.54を用いて計算した。式中、Aは、最大直径、Bは、最小直径である。
【0113】
肺転移モデル
【0114】
初日、2×10個のB16F10細胞、または、LLC1細胞を各マウスの尾静脈から注射した。1日目、マウスにさまざまな抗体を腹腔内注射した。3~4日おきに注射を繰り返した。15日目、マウスを屠殺し、腫瘍播種の量を、肺に存在する小節の総数として顕微鏡下で数えた。他の実験では、治療を受けたマウスの長期生存に対する併用療法の効果をグループごとに分析した。
【0115】
フローサイトメトリー分析
【0116】
ヒト単球の研究
【0117】
単球を、抗CD11b抗体(ICR44)、または、適切なアイソタイプコントロール抗体で1時間プレインキュベートした。100ng/mlのLPSを連続的に細胞に添加し、一晩インキュベートした。LPS刺激を受けた単球の表面表現型を分析すべく、1%のBSAを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈したモノクローナル抗体(mAb)であるPD-L1-FITC、CD80-PE、CD86-PE、HLA-DR-PE、および、CD14-PerCP(BDバイオサイエンス社)と共に、細胞を、暗所にて氷上で30分インキュベートした。単球、多形核白血球(PMN)、および、リンパ球をそれらのFSC/SSC特性に基づきゲーティングした。FACS Caliburを用いて蛍光を検出し、FCS Expressバージョン3(De Novo Software社)を用いてデータを分析した。
【0118】
マウスがんの研究
【0119】
腫瘍浸潤白血球を得るべく、腫瘍組織をコラゲナーゼIV(Sigma社)で消化した。単細胞懸濁液を、抗体CD45-PE、Ly-6G-FITC、Ly-6C-APC、および、CD8b.2-FITCで染色した。腫瘍浸潤白血球をCD45+集団からゲーティングした。FACS Caliburを用いて蛍光を検出し、FCS Expressバージョン3(De Novo Software社)を用いてデータを分析した。
【0120】
各実験装置から白血球(WBC)を単離すべく、血球全体をRBC溶解緩衝液によって溶解させた。単細胞懸濁液を、抗体PD-L1-APC、IAIE-APC、および、CD8b.2-FITC(Biolegend社)で染色した。単球、多形核白血球(PMN)、および、リンパ球をそれらのFSC/SSC特性に基づきゲーティングした。FACS Caliburを用いて蛍光を検出し、FCS Expressバージョン3(De Novo Software社)を用いてデータを分析した。
【0121】
サイトカインの数量化
【0122】
培養液上清のヒトIL-6、IL-10、IL-12、および、TNF-αを、市販の酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA;R&D Systems社)を用いて、製造者の説明書に従い検出した。血漿におけるマウスL-12、IFN-γ、および、TNF-αをBD CBAマウス炎症キットにより定量化した。
【0123】
[実施例1 CD11bの結合は、LPS刺激を受けた単球におけるPD-L1の発現を減少させる。]
本実施例では、インテグリンαMβ2(Mac-1)を遮断することによりTLR(Toll様受容体)応答を機能的に高めるか否かを調べた。図1に示すように、抗CD11b抗体(ICRF44)などのCD11b結合剤を投与することによって、LPS刺激を受けた単球におけるPD-L1の発現を減少させ得る。それに対し、抗CD11b抗体で治療しても、LPS刺激を受けた単球におけるHLA-DR、CD80、および、CD86の発現量は変わらなかった。CD11bをCD11bアンタゴニストの小分子であるML-C19-A(図2(A))と結合させても、LPS刺激を受けた単球におけるPD-L1の発現を阻害することを示した(図2(B))。これらの結果は、LPS刺激を受けた単球におけるPD-L1発現の誘発にCD11bが重要な役割を果たしていることを示唆している。
【0124】
[実施例2 抗腫瘍免疫におけるCD11bの結合の効果]
抗腫瘍免疫におけるCD11bの結合の効果を調べるべく、抗マウスCD11b抗体(M1/70)をB16F10マウス腫瘍モデルにおける単独療法に用いた。初日、C57BL/6マウスにB16F10細胞を皮下注射した。7日目、マウスにコントロールのIgG(5mg/kg)、または、抗マウスCD11b抗体(5mg/kg)を腹腔内注射した。3~4日おきに注射を繰り返した。各グループの腫瘍体積および長期生存をモニタして効果を決定した。図3に示すように、CD11bを抗マウスCD11b抗体に結合させることにより、B16F10腫瘍の皮下成長を著しく阻害した(18日目:コントロールのIgGは、1054±385.4mm、それに対し、抗CD11b抗体は502.7±268.2mm)。腫瘍における免疫細胞集団の比率を調べた。腫瘍接種後18日目、CD11bを抗CD11b抗体に結合することにより、T細胞を抑制する腫瘍浸潤骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)の局所的蓄積を減少させ、腫瘍浸潤CD8T細胞を増加させる結果になった(図4)。CD11bを抗CD11b抗体と結合させることにより、免疫抑制的な腫瘍内微小環境は、抗腫瘍効果に積極的に貢献する免疫賦活性状態へと変化した。抗CD11b抗体による治療後の腫瘍周辺における免疫細胞集団の比率をさらに調べた。腫瘍接種後15日目、抗CD11b抗体による治療によってCD11b陽性白血球におけるPD-L1の発現は減少したが、CD8T細胞における活性化T細胞であるIAIE陽性CD8T細胞の比率は高くなった(図5)。
IFN-γ、IL-12、および、TNF-αの血漿中濃度は、さまざまな炎症性または悪性疾患の免疫賦活性状態を反映する。抗CD11b抗体で治療した腫瘍を患うマウスの血漿中のIFN-γ、IL-12、および、TNF-αの濃度を測定した。コントロールのIgGで治療したものより、抗CD11b抗体で治療したマウスの血漿中のIFN-γ、IL-12、および、TNF-αの濃度のほうが高いことを示した(図6)。
【0125】
CD11bの結合は、別の同系LLC1腫瘍モデルにおいても有効性を示した。5mg/kgの抗CD11b抗体で治療することにより、LLC1腫瘍の成長を著しく阻害し(図7)、動物の生存期間を延ばした(図8)。平均生存期間は、コントロールのIgGが31日、抗CD11b抗体では42日であった。
【0126】
[実施例3 抗腫瘍免疫におけるCD11b結合と免疫チェックポイント療法との相乗効果]
併用療法は、別の同系LLC1肺移転モデルにおける有効性を示した。抗CD11b抗体(10mg/kg)+抗PD-1抗体(10mg/kg)による治療は、LLC1腫瘍の小節を著しく減少させ(図9)(15日目:コントロールのIgGは200±13、抗CD11b抗体は167、抗PD-1抗体は164±11、抗CD11b+抗PD-1抗体は131±2)、動物の生存期間を延ばした(図10)。平均生存期間は、コントロールのIgGが24日、抗CD11b抗体が24日、抗PD-1抗体が22日、抗CD11b+抗PD-1抗体は26日であった。
【0127】
[実施例4 抗腫瘍免疫におけるCD11b結合と化学療法との相乗効果]
CD11bの結合は、化学療法にも有効である。例としては、初日、B16F10細胞を移植した。7日目、マウスにコントロールのIgG(5mg/kg)、抗マウスCD11b抗体(5mg/kg)、タキソール(10mg/kg)+コントロールのIgG(5mg/kg)、または、タキソール(10mg/kg)+抗CD11b抗体(5mg/kg)を腹腔内注射した。3~4日おきに注射を繰り返した。図11に示すように、タキソールと抗CD11b抗体との併用療法が腫瘍の成長を効果的に制御した。併用療法の有効性は、生存期間を延ばすことでも確認された。平均生存期間は、コントロールのIgGで25日、抗CD11b抗体で32日、タキソール+コントロールのIgGで25日、タキソール+抗CD11b抗体では32日であった(図12)。
【0128】
[実施例5 LPS誘導性免疫抑制単球、または、敗血症性ショックの患者からの単球がさらにLPS刺激を受けた場合、CD11bを抗CD11b抗体と結合させることによって、PD-L1の発現を減少させる。]
重症感染症によって引き起こされる全身炎症反応症候群である敗血症は、世界的な医療問題であり、生命に関わる病気である。敗血症は、経時的に変化する二相免疫反応を引き起こすことが次第に明らかになりつつある。敗血症の初期段階において、全身の高炎症性免疫反応により、血行動態の不安定化、多臓器機能不全、凝固異常、および、ショック状態を引き起こし得るインターロイキン(IL)-1、IL-6、および、腫瘍壊死因子(TNF)αを含む炎症性サイトカインが全身に放出され得る。高炎症性免疫反応は、抗炎症性サイトカインであるIL-10、および、TGF(腫瘍増殖因子)-βの発現とほぼ同時に起きる。免疫系は、急速に、免疫麻痺状態と呼ばれる免疫反応低下状態に陥り、一次感染、および、晩期の院内感染の発生を食い止めることができなくなる。敗血症を患う患者に見られる免疫麻痺状態の兆候は、リンパ球の異常、ヒト白血球抗原DR(HLA-DR)の表面発現の減少による単球の不活性化、および、TNF-α生成の低下(生体外シミュレーションによる)を含む。単球におけるHLA-DR発現の持続的な減少は、院内感染、および、敗血症患者の死のリスクが高いことを示している。最近では、敗血症性ショックの患者の単球ではプログラム死リガンド1(PD-L1)の発現が増加することが観察され、これは、二次院内感染および死亡率の増加に関係する(Guignant C, Lepape A, Huang X, Kherouf H, Denis L, et al. (2011) Programmed death-1 levels correlate with increased mortality, nosocomial infection and immune dysfunctions in septic shock patients. Crit Care 15: R99)。したがって、単球におけるPD-L1の発現量は、免疫麻痺状態の新たなマーカーとして役立つ。単球をLPSに2日間事前曝露することにより、免疫抑制単球になることが報告されている(Wolk K, Docke WD, von Baehr V, Volk HD, and Sabat R. (2000) Impaired antigen presentation by human monocytes during endotoxin tolerance. Blood 96: 218)。臨床的には、これらの細胞は、免疫麻痺状態、および、死亡率に関係がある。ヒト単球を100ng/mlのLPSで2日間プレインキュベートすることにより、再現可能なLPS誘導性免疫抑制単球を得た。LPS誘導性免疫抑制単球の細胞表面におけるPD-L1発現量は、単離された新鮮なヒト単球より多い(図13(A))。LPS誘導性免疫抑制単球におけるCD11bモジュレータの効果を調べるべく、IgG1または抗CD11b抗体(ICRF44)の存在下で、細胞を1μg/mlのLPSに18時間曝露した。図13(B)に示すように、CD11bを抗CD11b抗体(ICRF44)と結合させることによって、細胞がLPSにさらに刺激されると、LPS誘導性免疫抑制単球におけるPD-L1の発現量が減少した。さらに、抗CD11b抗体(ICRF44)による治療は、インビトロでLPS刺激した敗血症性ショックの患者からの単球におけるPD-L1の発現量も減少させた(図14)。
【0129】
[実施例6 ヒトCD11bを結合するヒト化抗体]
マウスの抗ヒトCD11b抗体の可変領域ドメインの配列をヒト抗体データベースと対照して調べた。マウスの抗ヒトCDb11抗体と高度な一致を示す10組のヒトフレームワーク領域の配列を、軽鎖および重鎖両方のヒトアクセプタとして選んだ。一方で、N-グリコシル化モチーフを分析した。候補のヒト可変領域における潜在的なグリコシレーション部位は、避けるべきである。10個の軽鎖のヒト化可変領域のドメインをVL1、VL2、VL3、VL4、VL5、LC1、LC2、LC3、LC4、および、LC5として示し(図15)、10個の重鎖のヒト化可変領域のドメインをVH1、VH2、VH3、VH4、VH5、HC1、HC2、HC3、HC4、および、HC5として示した(図16)。これらの軽鎖および重鎖ペプチド配列は、ヒト化抗体、または、高親和性を有するヒト抗CD11b抗体と結合する抗原結合部分を提供し得る。
【0130】
[実施例7 ヒト化CD11b抗体の機能活性]
ヒト化抗CD11b抗体の特異性を、CD11bを発現しているK562細胞を用いて、フローサイトメトリーにより決定した。図17に示すように、本実施例におけるすべてのヒト化抗CD11b抗体は、CD11bをトランスフェクションしたK562細胞と結合することができた。それに対し、これらの抗体は、K562細胞と結合しなかった。これらの結果は、ヒト化抗CD11b抗体は、CD11bエピトープと特異的に結合し得ることを示している。
【0131】
単球の表面におけるPD-L1発現を阻害する抗体の能力を測定すべく、LPS刺激を受けた単球にヒト化抗CD11b抗体を用いて、その機能活性を調べた。図18に示すように、LPSによるPD-L1のアップレギュレーションは、ヒト化抗CD11b抗体によって著しく低下し得る。つまり、一連のヒト化抗CD11b抗体は、ヒトインテグリンαMのドメインを標的とするものである。ヒト化抗CD11b抗体の結合は、LPS刺激を受けた単球におけるPD-L1の発現を減少させることができた。
図1
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【配列表】
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