(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】トランス解体方法並びにトランス解体用冶具、及びトランス解体用切断装置
(51)【国際特許分類】
H01F 41/00 20060101AFI20230524BHJP
B09B 3/35 20220101ALI20230524BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
H01F41/00 Z ZAB
B09B3/35
B09B5/00 C
(21)【出願番号】P 2018187458
(22)【出願日】2018-10-02
【審査請求日】2021-09-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509328928
【氏名又は名称】株式会社日立プラントコンストラクション
(73)【特許権者】
【識別番号】594154978
【氏名又は名称】ベステラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【氏名又は名称】村上 友一
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】太田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】須磨 麻寿美
(72)【発明者】
【氏名】平山 淳
(72)【発明者】
【氏名】関谷 竜一
(72)【発明者】
【氏名】杉原 輝美
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-335148(JP,A)
【文献】特開2017-164687(JP,A)
【文献】特開2006-021165(JP,A)
【文献】特開2005-238201(JP,A)
【文献】特開2003-236493(JP,A)
【文献】特開2013-103186(JP,A)
【文献】特開2002-172596(JP,A)
【文献】特開平09-066417(JP,A)
【文献】特開2002-224644(JP,A)
【文献】特開2005-231011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/00
B09B 3/35
B09B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCBを排出・処理し、外装部品を撤去した後のトランス本体を解体する方法であって、
前記トランス本体を構成するケーシングと内部要素とを冶具を介して結束し、
前記ケーシングと前記内部要素とを一体物として切断、および搬送することを特徴とするトランス解体方法。
【請求項2】
前記内部要素は、上部ヨークと鉄心、あるいは前記鉄心単体であることを特徴とする請求項1に記載のトランス解体方法。
【請求項3】
PCBを排出・処理し、外装部品を撤去した後のトランス本体を解体する方法であって、
前記トランス本体を構成するケーシングの上部を切断、撤去して内部要素を開放するケーシング上部切断工程と、
前記ケーシング上部切断工程の後、前記ケーシングと前記トランス本体を構成する内部要素である上部ヨークと鉄心を冶具を介して結束し、一体物として切断、撤去するコイル上部切断工程と、
前記コイル上部切断工程の後、前記ケーシングと前記鉄心とを前記冶具を介して結束し、一体物として切断、撤去するコイル中部切断工程と、
を有することを特徴とするトランス解体方法。
【請求項4】
前記コイル上部切断工程と、前記コイル中部切断工程との間には、前記鉄心からコイルを抜き取るコイル抜き取り工程を有することを特徴とする請求項3に記載のトランス解体方法。
【請求項5】
前記コイル中部切断工程は、切断位置を下部にずらして複数回繰り返すことを特徴とする請求項3または4に記載のトランス解体方法。
【請求項6】
コイル抜き取り工程後、隣接配置されている鉄心の間に矢板を配置する工程を有することを特徴とする請求項4または請求項4に従属する請求項5に記載のトランス解体方法。
【請求項7】
PCBを排出・処理し、外装部品を撤去し
、トランス本体を構成するケーシングの上部を切断、撤去して内部要素を開放した後、前記ケーシングと
前記内部要素
とを結束し、前記ケーシングと前記内部要素とを一体物として切断、および搬送するトランス解体方法に用いる冶具であって、
内側壁と外側壁、及び前記内側壁と前記外側壁とを連結するブリッジ部を有し、逆U字状の形態を成して前記ケーシングの側板
を跨いだ状態で把持する把持手段と、
対向配置された前記側板を把持している一対の前記把持手段それぞれの前記
内側壁を基点として
前記内部要素としての上部ヨークと鉄心、あるいは鉄心単体を挟持する挟持手段と、
を備え、
前記内側壁の下端には、前記挟持手段を支える支持板を設ける構成としたことを特徴とするトランス解体用冶具。
【請求項8】
前記把持手段は、少なくとも、
前記ケーシングの側板のうち、長手方向部位を把持する長手側板把持部と、
前記ケーシングの側板のうち、短手方向部位を把持する短手側板把持部と、
に分断されていることを特徴とする請求項7に記載のトランス解体用冶具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型トランスの解体に係り、特に解体作業に費やされる労力の軽減を図る事が可能なトランス解体方法、並びにトランス解体用冶具、及びトランス解体用切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大型トランスの解体に関する技術としては、特許文献1や特許文献2に開示されているようなものが知られている。特許文献1に開示されている技術は、バンドソー等を用いてコイルを縦方向(鉄心に沿った方向)に切断することで、コイルと鉄心を分離させる技術に関するものである。特許文献1では、鉄心を押し板により固定すると共に、ガイドを用いて鋸刃による切断位置を定めて鋸刃が鉄心に触れないようにすることで、鋸刃が鉄心に食い込み、切断不能となることを防ぐようにしている。
【0003】
特許文献2に開示されている技術は、バンドソー等を用いてトランスを切断する際に、ケーシング内に封入されていたPCB(ポリ塩化ビフェニール)を冷却油として利用するという技術である。また、特許文献2では、トランスを構成するケーシングや鉄心等を分離した後、それぞれ個別に切断する事が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-217956号公報
【文献】特開2005-95710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に開示されているように、大型トランスの解体では、各構成要素を分離させ、その後に分離させた要素を細断し、搬出等を行うという事が一般的に行われている。しかし、重量物の構成要素の分離作業には大きな労力を要すると共に、高所作業での荷掛や吊りといった作業を行う頻度も多く、危険を伴う。
【0006】
本発明では、作業者の労力を軽減すると共に、従来に比べて高所作業の頻度を下げ、安全性を向上させることのできるトランス解体方法を提供すると共に、この解体方法に適用可能な冶具、並びに切断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るトランス解体方法は、PCBを排出・処理し、外装部品を撤去した後のトランス本体を解体する方法であって、前記トランス本体を構成するケーシングと内部要素とを冶具を介して結束し、前記ケーシングと前記内部要素とを一体物として切断、および搬送することを特徴とする。
【0008】
また、上記のような特徴を有するトランス解体方法において前記内部要素は、上部ヨークと鉄心、あるいは前記鉄心単体とすることができる。このような特徴を有する事により、鉄心を構成するケイ素鋼板を分断させることなくトランス本体を切断することができる。
【0009】
また、上記目的を達成するための本発明に係るトランス解体方法は、PCBを排出・処理し、外装部品を撤去した後のトランス本体を解体する方法であって、前記トランス本体を構成するケーシングの上部を切断、撤去して内部要素を開放するケーシング上部切断工程と、前記ケーシング上部切断工程の後、前記ケーシングと前記トランス本体を構成する内部要素である上部ヨークと鉄心を冶具を介して結束し、一体物として切断、撤去するコイル上部切断工程と、前記コイル上部切断工程の後、前記ケーシングと前記鉄心とを前記冶具を介して結束し、一体物として切断、撤去するコイル中部切断工程と、を有することを特徴とするものであっても良い。
【0010】
また、上記のような特徴を有するトランス解体方法において、前記コイル上部切断工程と、前記コイル中部切断工程との間には、前記鉄心からコイルを抜き取るコイル抜き取り工程を有するようにすると良い。このような特徴を有する事により、鋸刃の引っ掛かりが生じ安いコイルを避けてトランス本体の切断を行うことができる。
【0011】
また、上記のような特徴を有するトランス解体方法において、前記コイル中部切断工程は、切断位置を下部にずらして複数回繰り返すようにすると良い。このような特徴を有する事により、切断部位の重量を、クレーン等により吊下可能な重量の範囲とした上で切断を実行することができる。
【0012】
また、上記のような特徴を有するトランス解体方法では、コイル抜き取り工程後、隣接配置されている鉄心の間に矢板を配置する工程を有するようにすると良い。このような特徴を有する事により、鉄心が複数存在する場合であっても、複数の鉄心それぞれについて、四方からの拘束が可能となる。
【0013】
また、上記方法の実施に適用可能なトランス解体用冶具は、PCBを排出・処理し、外装部品を撤去した後のトランス本体を構成するケーシングと内部要素とを冶具を介して結束し、前記ケーシングと前記内部要素とを一体物として切断、および搬送するトランス解体方法に用いる冶具であって、前記トランス本体を構成する要素のうち、前記ケーシングの側板を把持する把持手段と、前記把持手段を基点として上部ヨークと鉄心、あるいは鉄心単体を挟持する挟持手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、上記のような特徴を有するトランス解体用冶具において前記把持手段は、少なくとも、前記ケーシングの側板のうち、長手方向部位を把持する長手側板把持部と、前記ケーシングの側板のうち、短手方向部位を把持する短手側板把持部と、に分断されている構成とすると良い。このような特徴を有する事によれば、トランス本体を構成するケーシングのサイズが異なる場合であっても、把持手段を共用することが可能となる。
【0015】
また、上記のような特徴を有するトランス解体用冶具のうち、前記把持手段の内側壁には、前記挟持手段を支持するための支持板を備えるようにすると良い。このような特徴を有する事によれば、挟持手段の設置や保持が容易となる。
【0016】
また、上記方法の実施に適用可能なトランス解体用切断装置は、PCBを排出・処理し、外装部品を撤去した後のトランス本体を構成するケーシングと内部要素とを冶具を介して結束し、前記ケーシングと前記内部要素とを一体物として切断、および搬送するための切断装置であって、前記トランス本体の両側に、前記トランス本体の切断方向に沿って配置される一対の架台と、一対の前記架台のうち、一方の架台に沿って移動可能な駆動ユニットと、他方の架台に沿って移動可能な従動ユニットと、前記駆動ユニットと前記従動ユニットとの間に架け渡され、前記駆動ユニットによって回動させられる無端鋸刃と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
さらに、上記のような特徴を有するトランス解体用切断装置において、前記架台は、高さ調整機構を備えていることが望ましい。このような特徴を有する事によれば、トランス本体を水平方向に段階的に切断することが可能となる。
【0018】
さらにまた、上記のような特徴を有するトランス解体用切断装置は、前記駆動ユニットと、前記従動ユニットとを前記架台に沿って移動させる水平送り機構を有する構成とすることもできる。このような構成とすることによれば、切断抵抗の多寡に関わらず、駆動ユニットや従動ユニットを移動させる際の移動速度を定速とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
上記のような特徴を有するトランス解体方法によれば、トランスを構成する外部要素と内部要素を一度に切断することができるため、従来に比べて作業者の労力を大幅に軽減することができる。また、切断作業毎にトランス本体の高さが低くなるため、高所作業の頻度が減り、安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】解体対象とするトランス本体に冶具を装着した状態を示す平面図である。
【
図2】
図1におけるA-A矢視を示す断面拡大図である。
【
図3】上部ヨークを切断し、コイルを撤去した後のトランス本体に冶具を装着した状態を示す平面図である。
【
図4】トランス本体の短手方向から見た切断装置の正面構成を示す図である。
【
図5】トランス本体の長手方向から見た切断装置の側面構成を示す図である。
【
図6】実施形態にかかるトランス解体方法の流れを説明するためのフロー図である。
【
図7】トランス本体におけるケーシングの上部部位を切断した様子を示す図である。
【
図8】ケーシングの上部部位が切断されたトランス本体に、冶具を装着した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のトランス解体方法、並びにトランス解体用冶具、及びトランス解体用切断装置に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明を実施する上で好適な形態の一部であり、発明の効果を奏する限りにおいて、その一部を変更した場合であっても、本発明の一部とみなすことができる。
【0022】
[解体対象とするトランスの概要]
また、本実施形態で解体対象とするトランスは、
図1から
図5に示すように、ケーシング12内部の
PCBを排出・処理し、図示しない放熱板やコンサベータ、防音板等の外装部品を撤去したトランス本体10とする。また、トランス本体10は、ケーシング12と、鉄心14、ヨーク(実施形態では上部ヨーク14a)、及びコイル16を主体として構成され、内部フレーム等を有するものとする。
【0023】
[冶具の構成]
まず、本発明のトランス解体方法を実施するためのトランス解体用冶具(以下、単に冶具20と称す)について、
図1から
図3を参照して説明する。なお、図面において、
図1は、解体対象とするトランス本体に冶具を装着した状態を示す平面図であり、
図2は、
図1におけるA-A矢視を示す断面拡大図である。また、
図3は、上部ヨークを切断し、コイルを撤去した後のトランス本体に冶具を装着した状態を示す平面図である。
【0024】
本実施形態に係る冶具20は、把持手段22と挟持手段28を主体として構成されている。把持手段22は、トランス本体10を構成するケーシング12の側板を把持するための要素である。本実施形態では、一対の長手側板把持部24と、一対の短手側板把持部26とによって構成されている。長手側板把持部24と短手側板把持部26はそれぞれ、
図2に断面構成を示すように、内側壁24a,26aと外側壁24b,26bとをブリッジ部24c,26cで連結した逆U字(コ字)状とされている。また、内側壁24a,26aの下端には、支持板24d,26dを備える構成としており、外側壁24b,26bには、把持機能を成すための固定手段24e,26e(例えば締め付けボルト)が備えられている。さらに本実施形態では、ブリッジ部24c,26cには複数個所に、クレーン等による吊上げに対応した吊フック24f,26fを備えるようにしている。
【0025】
このような構成とされる把持手段22は、内側壁24a,26aと外側壁24b,26bの間に、ケーシング12の側板を介入させて使用される。具体的には、内側壁24a,26aと外側壁24b,26bの間に側板を介入させた後、固定手段24e,26eにより側板を内側壁24a,26aに押し付けることで側板を把持する。これにより、把持手段22による側板の把持が完了する。
【0026】
内側壁24a,26aの下端に備えられた支持板24d,26dは、詳細を後述する挟持手段28を配置するための要素である。このため、挟持手段28が把持手段22に固定されている場合には、備えなくとも良い。また、当然に、配置位置についても、内側壁の下端に限らず、挟持手段28の配置位置や形態に合わせて任意に変更しても良い。
【0027】
なお、把持手段22の平面視形態を枠状とすることも可能であるが、長手側板把持部24と短手側板把持部26に分割することで、多様サイズのケーシング12に適用することが可能となる。また当然に、長手側板把持部24や短手側板把持部26をさらに細分化する構成としても良いことは言うまでも無い。例えば、実施形態中における短手側板把持部26を複数直列に配置することで、長手側板把持部24を構成することもできる。
【0028】
挟持手段28は、対向配置される把持手段22(長手側板把持部24及び短手側板把持部26)を起点として、その間に位置する構造物、例えば上部ヨーク14aや鉄心14を強固に挟み込むことが可能であれば、その具体的な構成を問うものではない。挟持手段28の一例としては、
図1から
図3に示すようなジャッキを挙げることができる。なお、ジャッキとしては、手動であっても良いし、電力や油圧等を動力として作動するものであっても良い。
【0029】
挟持手段28は、把持手段22の内側壁24a,26aに備えた支持板24d,26dにより支持された状態で、内側壁24a,26aと内部構造物(上部ヨーク14aや鉄心14)との間に突っ張り方向の力を付与するようにすることで、設置の容易化、および挟持状態の安定化を図ることができる。
【0030】
[切断装置の構成]
次に、実施形態で用いるトランス解体用切断装置(以下、単に切断装置30と称す)の構成について、
図4、
図5を参照して説明する。なお、図面において
図4は、トランス本体の短手方向から見た切断装置の正面構成を示す図であり、
図5は、トランス本体の長手方向から見た切断装置の側面構成を示す図である。また、以下に示す切断装置30は、本発明に係るトランス解体方法を実施する上で適用可能な切断装置の一例に過ぎない。すなわち、後述するトランスの解体方法を実施する上では、トランス本体10を切断するための手段は限定されるものではない。
【0031】
本実施形態に係る切断装置30は、架台32と駆動ユニット34、従動ユニット36、及び無端鋸刃38を基本としたバンドソーである。架台32は、解体対象とするトランス本体10の側板に沿って対を成すように配置される。
図4、
図5に示す例では、トランス本体10の長手方向の側板に沿って配置されている。
【0032】
架台32の上端には、レール等の軌道32aが備えられ、詳細を後述する駆動ユニット34や従動ユニット36が安定移動できるように構成されている。実施形態に係る架台32は、高さ調整機構32bを備えている。このような構成とすることで、トランス本体10の切断位置に応じて、無端鋸刃38の高さを変える事が可能となる。高さ調整機構32bの具体的な構成としては、軌道32aの高さを変化させることが可能であれば、その詳細を問うものでは無い。すなわち、
図4に示すようなジャッキのように無段階で高さ調整可能なものはもちろん、長さの異なる支持フレームを用途によって組み替えるといった、簡易的な構造組み換えによるものであっても良い。
【0033】
また、切断装置30には、架台32の側部に、軌道32aに沿った足場(不図示)を配置しても良い。このような構成とすることにより、切断時における無端鋸刃38の状態を作業者が目視で確認することができるようになるからである。
【0034】
駆動ユニット34は、従動ユニット36との間に巻き掛けられる無端鋸刃38を、その軌道に沿って回動させるためのユニットである。駆動ユニット34は、フレーム34aと、駆動プーリ34b、従動プーリ34c、および張り調整プーリ34dを基本として構成されている。フレーム34aは、駆動プーリ34bや従動プーリ34c、および張り調整プーリ34dを所定の位置に配置するための要素であり、下端部には、架台32に備えられた軌道32a上を移動するための移動手段34eが備えられている。移動手段34eとしては、例えばローラ等であればよい。
【0035】
駆動プーリ34bは、無端鋸刃38を回動させるための要素であり、直接または変速ギアを介してモータ34b1が備えられている。従動プーリ34cは、駆動プーリ34bを介して回動する無端鋸刃38を周回軌道上に案内するためのガイドとしての役割を担う。張り調整プーリ34dは、周回軌道に沿って巻き掛けられている無端鋸刃38の張り状態を調整する役割を担う。本実施形態の場合、駆動プーリ34bと従動プーリ34cとの間に配置し、両者の間を通る無端鋸刃38を湾曲させるように、無端鋸刃38に張り調整プーリ34dを押し付けることで、無端鋸刃38に生じていた余分な撓みを抑制することができ、切断作用の安定化を図ることができる。
【0036】
従動ユニット36は、駆動ユニット34との間に掛け渡され、駆動ユニット34により回動させられる無端鋸刃38の周回軌道を構成する役割を担うユニットである。従動ユニット36は、フレーム36aと、一対の従動プーリ36b,36c、及び張り調整プーリ36dを基本として構成されている。フレーム36aは、上述した駆動ユニット34と同様に、一対の従動プーリ36b,36cと、張り調整プーリ36dを所定の位置に配置するための要素である。また、下端部には、架台32に備えられた軌道32a上を移動するための移動手段36eが備えられている。
【0037】
従動プーリ36b,36cは、駆動ユニット34に設けられた従動プーリ34cと同様に、駆動ユニット34に備えられた駆動プーリ34bを介して回動する無端鋸刃38を周回軌道上に案内するためのガイドとしての役割を担う。張り調整プーリ36dは、周回軌道に沿って巻き掛けられている無端鋸刃38の張り状態を調整する役割を担う。本実施形態の場合、一対の従動プーリ36b,36cの間に配置し、両者の間を通る無端鋸刃38を湾曲させるように、無端鋸刃38に張り調整プーリ36dを押し付けることで、無端鋸刃38に生じていた余分な撓みを抑制することができ、切断作用の安定化を図ることができる。
【0038】
また、実施形態に係る切断装置30では、トランス本体10を介して対向位置に配置された架台32のうちのいずれか一方に駆動ユニット34を配置し、いずれか他方に従動ユニット36を配置する構成とし、駆動ユニット34と従動ユニット36との間に位置する要素を切断する事が可能に構成されている。
【0039】
切断装置30を構成する駆動ユニット34と従動ユニット36との間には、それぞれのフレーム34a,36aを接続する梁部42が備えられている。梁部42は、少なくとも無端鋸刃38に定められた周回軌道よりも上に配置されている。梁部42を設ける事により、無端鋸刃38によるトランス本体10の切断時にかかる抵抗や、無端鋸刃38の回動に伴う引っ張り力により、駆動ユニット34と従動ユニット36が近接する方向に倒れ込む事を防ぐことができる。また、駆動ユニット34と従動ユニット36との位置関係を安定させる事もできるため、無端鋸刃38に捻じれ等が生じることを防ぐことができる。
【0040】
無端鋸刃38は、トランス本体10を切断するための要素である。無端鋸刃38は、駆動ユニット34と従動ユニット36とによって定められる周回軌道を回動可能な可撓性を有する帯状の薄刃により構成されている。帯状の鋸刃の両端部を環状に接続することで、無端鋸刃38として回動による切断が可能となる。
【0041】
また、実施形態に係る切断装置30は、架台32と駆動ユニット34並びに従動ユニット36との間に、水平送り機構40を有している。水平送り機構40は、架台32に備えた軌道32aに沿って駆動ユニット34と従動ユニット36を移動させるための要素である。その構成としては、例えば軌道32aに沿って配置されたボールねじと、このボールねじに沿って移動可能なスライダ、およびボールねじを回転させるモータ等があれば良い。水平送り機構40をこのような構成とする場合、ボールねじとモータを架台32に配置し、スライダを駆動ユニット34並びに従動ユニット36に配置すれば良い。このような配置構成とすることで、モータによりボールねじを回転させることで、駆動ユニット34と従動ユニット36を、軌道32aに沿って移動させることができる。
【0042】
なお、駆動ユニット34と従動ユニット36の移動に関しては、動力を備えて自動化する必要性は無く、手動で移動させる構成としても良い。ただし、本実施形態のように水平送り機構40を設けて自動化することで、駆動ユニット34や従動ユニット36を等速移動させることが可能となる。これにより、切断抵抗の多寡による送り速度の変動が生じることが無くなり、切断しながらの移動を安定させることができる。
【0043】
このような構成の切断装置30によれば、無端鋸刃38を回動させながら、駆動ユニット34と従動ユニット36を架台32に備えられた軌道32aに沿って移動させることで、トランス本体10を水平に切断することが可能となる。また、本実施形態に係る切断装置30では、架台32と、駆動ユニット34並びに従動ユニット36とを別体として構成している。これにより、装置に養生等が必要な場合には、少なくとも架台32を完全に養生した上で、駆動ユニット34と従動ユニット36を動作させることができるようになる。よって、装置の汚染範囲を小さくすることができる。また、当然に、構成要素を細分化したことで、装置の搬出入、および組立、解体が容易となる。
【0044】
[解体方法]
以下、本実施形態に係るトランス解体方法について、
図6に示すフロー図を参照して説明する。なお、本実施形態に係るトランスの解体方法は、上述したように、ケーシング12内部のPCBを抜き取り、放熱板やコンサベータ、防音板等の外装部品を撤去した状態のトランス本体10を対象として説明する。
【0045】
まず、切断装置30の搬入、及び組立を行う。切断装置30の組立は、はじめに、解体対象とするトランス本体10の長手方向に沿って、架台32を配置する。次に、架台32の上部に備えられた軌道32a上に、駆動ユニット34と従動ユニット36とを設置し、両ユニット間に梁部42を配置する。その後、駆動ユニット34に備えられた駆動プーリ34bと従動プーリ34c、及び従動ユニット36に備えられた従動プーリ36b,36cに無端鋸刃38を掛け回し、張り調整プーリ34d,36dにより、無端鋸刃38の張りを調整する(S010)。
【0046】
[ケーシング上部切断工程]
次に、無端鋸刃38による切断位置がケーシング12の上部部位12a(
図7参照)となるように、架台32の高さを調整する。そして、駆動ユニット34を駆動させ、無端鋸刃38を回動させた状態で、駆動ユニット34と従動ユニット36とを架台32の軌道32aに沿って移動させてケーシング12の上部部位12aを切断する。ここで、切断部位となるケーシング12の上部部位12aは、あらかじめクレーン等の吊り具により吊っておくと良い(S020)。
【0047】
切断したケーシング12の上部部位12aは、
図7に示すようにクレーン等で移動させ(S030)、別途細断して保管箱等へ箱詰めする(S031)。箱詰め後のケーシング12の上部部位12aは、予め定められた保管場所へと移動される(S032)。
【0048】
[コイル上部切断工程]
トランス本体10を構成するケーシング12の上部を開放した後、クレーン等により冶具20を吊り上げ、
図8に示すように、トランス本体10の上部に配置する。冶具20は、把持手段22を構成する長手側板把持部24と、短手側板把持部26とをそれぞれケーシング12を構成する側板のうち、長手方向部分と、短手方向部分とに配置して固定する。把持手段22の内側壁24a,26a側には、挟持手段28を配置し、上部ヨーク14aと内側壁24a,26aとの間に、両者を離間させる方向の力を生じさせる。この時、対向配置された長手側板把持部24間、および短手側板把持部26間にはそれぞれ、挟持手段28の使用に起因したケーシング12の拡開を防止するための開き止め44を配置する。対を成すように配置された長手側板把持部24、及び、同じく対を成すように配置された短手側板把持部26を起点として、両者の間に存在する上部ヨーク14aに挟持手段28による力を作用させることで、上部ヨーク14a、及び上部ヨーク14aの内部に配置された鉄心14が挟持される。これにより、ケーシング12と上部ヨーク14a、および鉄心14が結束状態となり、一体物として扱う事が可能となる(S040)。
【0049】
トランス本体10に冶具20を装着した後、冶具20を吊っていた吊り具(例えば
図8に示すような天秤50と、これに付帯されたワイヤ等)を解除し、切断装置30における無端鋸刃38の位置決めを行う。無端鋸刃38の位置決めは、架台32の高さ調整機構32bにより、駆動ユニット34、及び従動ユニット36を降下させることで成される(S050)。
【0050】
無端鋸刃38の位置決めを行った後、無端鋸刃38を回動させた状態で、架台32の軌道に沿って駆動ユニット34と従動ユニット36を移動させる。これにより、ケーシング12と上部ヨーク14a、および鉄心14を水平方向に一度にあるいは段階的(切断と停止、切断準備等を繰り返すことを含む)に切断することができる。ここで、切断部位にかかる重量により無端鋸刃38の駆動にかかる負荷が大きくなる場合には、切断箇所に図示しない楔などを打ち込んで切断部位を広げることで、無端鋸刃38を回動させる際の負荷を低減することが望ましい(S060)。
【0051】
次に、切断部位を保持した状態の冶具20をクレーン等により吊り上げ、切断部位にあたるケーシング12と上部ヨーク14a、および鉄心14を移動させる。把持手段22と挟持手段28によりケーシング12と上部ヨーク14a、および鉄心14を一体物として扱う事が可能であるため、切断部位の移動が容易となる(S070)。一体物として移動されたケーシング12と上部ヨーク14a、および鉄心14は、冶具20による結束が解除されることで、上部ヨーク14aや鉄心14を構成するケイ素鋼板が解体される。また、ケーシング12については細断され、それぞれ保管箱等に箱詰めされる(S071)。箱詰め後の上部ヨーク14a、鉄心14、及びケーシング12は、予め定められた保管場所へと移動される(S072)。
【0052】
[コイル抜き取り工程]
上部ヨーク14aが撤去された後、鉄心14からコイル16を抜き取る。コイル16が複数ある場合、コイル16の抜き取りは、個別に行うようにすると良い(S080)。鉄心14から抜き取られたコイル16は、移動させられ(S090)、細断後に保管箱等に箱詰めされる(S091)。箱詰め後のコイル16は、予め定められた保管場所へと移動される(S092)。
【0053】
[コイル中部切断工程]
鉄心14からコイル16を抜き取った後、クレーン等により冶具20を吊り上げ、トランス本体12の上部に配置、固定する。冶具20の固定については、上述したS040と同様であるが、挟持手段28による挟持対象は、鉄心14となる。ここで、鉄心14が複数存在する場合、隣接配置されている鉄心14の間には、
図3に示すように矢板52を打ち込むと良い。鉄心14は、薄板状のケイ素鋼板を複数積層することで構成されている。矢板52と挟持手段28とにより、各鉄心14を四方から拘束することで、切断時にケイ素鋼板が分断し、無端鋸刃38の切断抵抗を向上させるといった事態を防ぐことができる。また、鉄心14の倒れ込みを防止することもできる(S100)。
【0054】
次に、冶具20を吊っていた吊り具を解除し、切断装置30における無端鋸刃38の位置決めを行う。無端鋸刃38の位置決めは、架台32の高さ調整機構32bにより、駆動ユニット34、及び従動ユニット36を降下させることで成される。無端鋸刃38の位置は、冶具20を介して一体物として扱う事を可能としたケーシング12と鉄心14が、切断後にクレーン等によって吊り上げられる程度の重量に収まる厚みとなるように定める。例えば、
図8に示す破線部分で切断を行うようにすると良い(S110)。
【0055】
無端鋸刃38の位置決めを行った後、無端鋸刃38を回動させた状態で、架台32の軌道32aに沿って駆動ユニット34と従動ユニット36を移動させる。これにより、ケーシング12と鉄心14を水平方向に一度にあるいは段階的に切断することができる。ここで、切断部位にかかる重量により無端鋸刃38の駆動にかかる負荷が大きくなる場合には、上述したように、切断箇所に楔などを打ち込んで切断部位を広げるようにすると良い(S120)。
【0056】
切断終了後、冶具20と共に切断されたケーシング12と鉄心14の一部を吊り上げ、移動させる(S130)。冶具20と共に移動されたケーシング12と鉄心14のうち鉄心は、冶具20による結束を解除されることで、鉄心14を構成するケイ素鋼板の解体が成される。また、ケーシング12については細断され、それぞれ保管箱等に箱詰めされる(S131)。箱詰め後の鉄心14、及びケーシング12は、予め定められた保管場所へと移動される(S132)。
【0057】
ここで、S100からS132までのケーシング12と鉄心14の切断は、下部要素(鉄心14の下部部位とケーシング12の下部部位)が、クレーン等により吊り上げ可能な重量となるまで繰り返し行う。
図8の例では、破線で示す切断箇所の数だけ繰り返しを行う(S140)。
【0058】
下部要素の重量が、クレーン等により吊り上げ可能な重量となった後、下部要素をベース18に固定しているアンカーボルト(不図示)を撤去する(S150)。アンカーボルト撤去後、鉄心14の下部部位、およびケーシング12の下部部位から成る下部要素を吊り上げて移動させる(S160)。移動された下部要素のうち鉄心14は、ケイ素鋼板への解体が成され、ケーシング12は、細断され、それぞれ保管箱等に箱詰めされる(S161)。箱詰め後の鉄心14、及びケーシング12は、予め定められた保管場所へと移動される(S162)。
【0059】
トランス本体10の解体が終了した後、切断装置30の解体、移動を行う(S170)。トランス本体10の解体にあたり、PCBなどの汚染物が存在する場合には、汚染の有無に応じて搬出過程が異なる。例えば、架台32のように、養生により汚染物の付着が無い事が明らかな要素の場合には、養生を撤去し、除染後に搬出が成される(S171)。一方、無端鋸刃38や、無端鋸刃38が接触している駆動ユニット34や従動ユニット36は、分解、細断の後、保管箱等に箱詰めされる(S172)。箱詰め後の切断装置30の汚染要素は、予め定められた保管場所へと移動される(S173)。
【0060】
上記のようなトランス解体方法によれば、トランス本体10を構成する要素を動力機器により水平方向に一度にあるいは段階的に切断し、この工程を高さ方向に複数回繰り返すことでトランス全体を切断することが可能となる。よって、構成要素毎に分解や切断を行っていた従来のトランス解体方法に比べて作業者の労力を大幅に軽減することができる。
【0061】
また、従来のように、トランス本体10を垂直方向に切断して各構成要素の分解を図る解体方法では、切断や吊り上げの都度、作業者がトランス本体10の上部へ上る必要があった。これに対し、本発明に係るトランス解体方法では、トランス本体10を水平方向に切断する。このため、作業の進行と共に作業者による高所作業の頻度が低減することとなり、安全性の向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
上記実施形態では、切断装置30として無端鋸刃38を有するバンドソーを用いてトランス本体10の切断を行うと説明した。しかしながら、本発明に係るトランス解体方法は、切断装置30の構成を問うものでは無い。すなわち、トランス本体10を構成するケーシング12と、ケーシング12の内部に配置された上部ヨーク14aや鉄心14を切断することが可能であれば、往復式の鋸刃を備えた切断装置や、チップソーを有する丸鋸刃を備えた切断装置等であっても良い。いずれの切断装置を用いても、本発明に係るトランス解体方法による効果を得ることができるからである。もちろん、切断に要する労力を問わない場合には、動力を有する装置に限らず、人力等によって切断を行うようにしても本発明の一部とみなすことができる。
【符号の説明】
【0063】
10………トランス本体、12………ケーシング、12a………上部部位、14………鉄心、14a………上部ヨーク、16………コイル、18………ベース、20………冶具、22………把持手段、24………長手側板把持部、24a………内側壁、24b………外側壁、24c………ブリッジ部、24d………支持板、24e………固定手段、24f………吊フック、26………短手側板把持部、26a………内側壁、26b………外側壁、26c………ブリッジ部、26d………支持板、26e………固定手段、26f………吊フック、28………挟持手段、30………切断装置、32………架台、32a………軌道、32b………高さ調整機構、34………駆動ユニット、34a………フレーム、34b………駆動プーリ、34b1………モータ、34c………従動プーリ、34d………張り調整プーリ、34e………移動手段、36………従動ユニット、36a………フレーム、36b………従動プーリ、36c………従動プーリ、36d………張り調整プーリ、36e………移動手段、38………無端鋸刃、40………水平送り機構、42………梁部、44………開き止め、50………天秤、52………矢板。