(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】Al含有フェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230524BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20230524BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20230524BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C21D9/46 Z
C21D8/02 D
C22C38/54
(21)【出願番号】P 2019018318
(22)【出願日】2019-02-04
【審査請求日】2021-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤村 佳幸
(72)【発明者】
【氏名】濱田 尊仁
(72)【発明者】
【氏名】今川 一成
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-131830(JP,A)
【文献】特開2012-211379(JP,A)
【文献】特開2011-162843(JP,A)
【文献】特開2019-173069(JP,A)
【文献】特開2019-173070(JP,A)
【文献】特開2020-125518(JP,A)
【文献】特開2010-235994(JP,A)
【文献】特開2011-190524(JP,A)
【文献】国際公開第2013/085005(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C21D 9/46
C21D 8/02
C22C 38/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.025質量%以下、Si:0.1~1.0質量%、Mn:1.0質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、Ni:0.6質量%以下、Cr:16~22質量%、Nb:0.05~0.50質量%、Al:1.0~2.4質量%、N:0.025質量%以下、B:0.0005~0.0060質量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、下記式(1)又は(2):
A/T≧6.0 (1)
H/T≧4.0 (2)
(式中、Aは、熱延板の0℃におけるシャルピー衝撃値[J/cm
2]であり、Hは、熱延焼鈍板の0℃におけるシャルピー衝撃値[J/cm
2]であり、Tは、熱延板又は熱延焼鈍板の板厚[mm]である)
を満たす、
熱延板又は熱延焼鈍板であるAl含有フェライト系ステンレス鋼板。
【請求項2】
Ti:0.01~0.50質量%、V:0.01~0.50質量%、Mo:0.01~0.50質量%、Co:0.01~0.50質量%、Zr:0.01~0.50質量%、Cu:0.01~0.50質量%、希土類元素:0.001~0.050質量%の1種以上をさらに含む、請求項1に記載のAl含有フェライト系ステンレス鋼板。
【請求項3】
厚さが4.0~10.0mmである、請求項1又は2に記載のAl含有フェライト系ステンレス鋼板。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のAl含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法であって、
C:0.025質量%以下、Si:0.1~1.0質量%、Mn:1.0質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、Ni:0.6質量%以下、Cr:16~22質量%、Nb:0.05~0.50質量%、Al:1.0~2.4質量%、N:0.025質量%以下、B:0.0005~0.0060質量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有するスラブを750~850℃の仕上温度で熱間圧延した後、100℃/秒以上の速度で350℃以下の温度まで冷却し、熱延板表面における復熱温度を400℃以下にする、Al含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項5】
冷却後の熱延板を950~1050℃の温度で焼鈍する、請求項
4に記載のAl含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記スラブが、Ti:0.01~0.50質量%、V:0.01~0.50質量%、Mo:0.01~0.50質量%、Co:0.01~0.50質量%、Zr:0.01~0.50質量%、Cu:0.01~0.50質量%、希土類元素:0.001~0.050質量%の1種以上をさらに含む、請求項
4又は
5に記載のAl含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項7】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のAl含有フェライト系ステンレス鋼板から形成された耐熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al含有フェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Al含有フェライト系ステンレス鋼板は、高温に加熱されると、均一な層状のアルミナが表面に形成されるため、優れた耐高温酸化性を示す。そのため、Al含有フェライト系ステンレス鋼板は、自動車排ガス装置、暖房機器などの高温雰囲気に曝される様々な部材に用いられている。
しかしながら、Al含有フェライト系ステンレス鋼板は、Alの添加によって硬質化するため、靭性が低下し易い。特に、Al含有フェライト系ステンレス鋼板は、厚みが増すほど靭性が低下するため、厚板材を製造することができなかったり、冬季や寒冷地における環境下で加工又は使用する際に割れなどが発生したりするという問題がある。
【0003】
従来のAl含有フェライト系ステンレス鋼板としては、特許文献1には、C:0.03重量%以下、Si:0.2重量%以下、Mn:0.3重量%以下、P:0.04重量%以下、S:0.003重量%以下、Cr:15~25重量%、N:0.03重量%以下、Al:1重量%以上4.5重量%未満、Mo:0.5~2重量%、希土類元素及びYの1種又は2種以上:合計で0.01~0.15重量%を含み、残部が実質的にFeであるAl含有フェライト系ステンレス鋼板が提案されている。
また、特許文献2には、Cr:12~30質量%、Al:3~8質量%、Nb:0.05~0.5質量%を含有し、C:0.025質量%以下、N:0.025質量%以下、C+N:0.030質量%以下であり、残部がFe及び不可避的不純物であるAl含有フェライト系ステンレス鋼板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-172933号公報
【文献】特開2004-270026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のAl含有フェライト系ステンレス鋼板は、冬季や寒冷地における環境下での加工又は使用については考慮されておらず、このような環境で加工又は使用すると、割れなどが生じることがあった。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、冬季や寒冷地における環境下で加工又は使用する際に割れなどを防止することが可能な靭性を有し、且つ耐高温酸化性にも優れたAl含有フェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、Al含有フェライト系ステンレス鋼板の組成を調整すると共に、0℃におけるシャルピー衝撃値と板厚との関係を所定の範囲に制御することにより、冬季や寒冷地における環境下で加工又は使用する際に割れなどを防止することが可能な靭性を確保することができると共に、耐高温酸化性も向上させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、C:0.025質量%以下、Si:0.1~1.0質量%、Mn:1.0質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、Ni:0.6質量%以下、Cr:16~22質量%、Nb:0.05~0.50質量%、Al:1.0~2.4質量%、N:0.025質量%以下、B:0.0005~0.0060質量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、下記式(1)又は(2):
A/T≧6.0 (1)
H/T≧4.0 (2)
(式中、Aは、熱延板の0℃におけるシャルピー衝撃値[J/cm2]であり、Hは、熱延焼鈍板の0℃におけるシャルピー衝撃値[J/cm2]であり、Tは、熱延板又は熱延焼鈍板の板厚[mm]である)
を満たす、熱延板又は熱延焼鈍板であるAl含有フェライト系ステンレス鋼板である。
【0008】
また、本発明は、前記Al含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法であって、C:0.025質量%以下、Si:0.1~1.0質量%、Mn:1.0質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、Ni:0.6質量%以下、Cr:16~22質量%、Nb:0.05~0.50質量%、Al:1.0~2.4質量%、N:0.025質量%以下、B:0.0005~0.0060質量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有するスラブを750~850℃の仕上温度で熱間圧延した後、100℃/秒以上の速度で350℃以下の温度まで冷却し、熱延板表面における復熱温度を400℃以下にする、Al含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冬季や寒冷地における環境下で加工又は使用する際に割れなどを防止することが可能な靭性を有し、且つ耐高温酸化性にも優れたAl含有フェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0011】
本発明の実施形態に係るAl含有フェライト系ステンレス鋼板は、C:0.025質量%以下、Si:0.1~1.0質量%、Mn:1.0質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、Ni:0.6質量%以下、Cr:16~22質量%、Nb:0.05~0.50質量%、Al:1.0~2.4質量%、N:0.025質量%以下、B:0.0005~0.0060質量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する。
ここで、本明細書において「鋼板」とは、鋼帯を含む概念である。また、「不可避的不純物」とは、Oなどの除去することが難しい成分のことを意味する。不可避的不純物は、原料を溶製する段階で不可避的に混入する。
【0012】
Cは、Al含有フェライト系ステンレス鋼板の靭性及び耐高温酸化性に影響を与える元素である。C含有量が多すぎると、異常酸化が発生し易くなると共に、靭性も低下する傾向にある。そのため、C含有量の上限は、0.025質量%、好ましくは0.023質量%、より好ましくは0.021質量%とする。一方、C含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.0005質量%、より好ましくは0.001質量%である。
【0013】
Siは、Al含有フェライト系ステンレス鋼板の耐高温酸化性を向上させるのに有効な元素である。この効果を得る観点から、Si含有量の下限は、0.1質量%、好ましくは0.12質量%とする。一方、Si含有量が多すぎると、硬質化し、靭性が低下する恐れがある。そのため、Si含有量の上限は、1.0質量%、好ましくは0.95質量%、より好ましくは0.93質量%とする。
【0014】
Mnは、Al含有フェライト系ステンレス鋼板の熱間加工性を向上させるのに有効な元素であるが、Mn含有量が多すぎると、耐高温酸化性が低下する。そのため、Mn含有量の上限は、1.0質量%、好ましくは0.9質量%、より好ましくは0.8質量%である。一方、Mn含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.1質量%、さらに好ましくは0.2質量%である。
【0015】
Pは、Al含有フェライト系ステンレス鋼板の耐高温酸化性及び靭性を低下させる恐れがある元素である。そのため、P含有量の上限は、0.05質量%、好ましくは0.04質量%、さらに好ましくは0.035質量%とする。一方、P含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、より好ましくは0.010質量%、さらに好ましくは0.020質量%である。
【0016】
Sは、硫化物系介在物を生成し、表面性状を低下させる恐れがある元素である。そのため、S含有量の上限は、0.01質量%、好ましくは0.008質量%、より好ましくは0.006質量%とする。一方、S含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.0001質量%、より好ましくは0.0005質量%である。
【0017】
Niは、低温靭性の改善に有効な元素であるが、Ni含有量が多すぎると、オーステナイト相安定化元素であるため、マルテンサイト相が生成して加工性が低下する。また、Ni含有量が多すぎると、コスト上昇を招く。そのため、Ni含有量の上限は、0.6質量%、好ましくは0.5質量%、より好ましくは0.4質量%とする。一方、Ni含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%、さらに好ましくは0.1質量%である。
【0018】
Crは、Al含有フェライト系ステンレス鋼板の耐高温酸化性を向上させるのに有効な元素である。この効果を得る観点から、Cr含有量の下限は、16質量%、好ましくは16.3質量%、より好ましくは16.5質量%とする。一方、Cr含有量が多すぎると、Al含有フェライト系ステンレス鋼板の靭性が低下する。そのため、Cr含有量の上限は、22質量%、好ましくは21質量%、さらに好ましくは20.5質量%とする。
【0019】
Nbは、Al含有フェライト系ステンレス鋼板の耐高温酸化性を向上させるのに有効な元素である。この効果を得る観点から、Nb含有量の下限は、0.05質量%、好ましくは0.06質量%、より好ましくは0.08質量%とする。一方、Nb含有量が多すぎると、Al含有フェライト系ステンレス鋼板が硬質化し、靭性が低下する。そのため、Nb含有量の上限は、0.50質量%、好ましくは0.48質量%、より好ましくは0.46質量%とする。
【0020】
Alは、Al含有フェライト系ステンレス鋼板の耐高温酸化性を向上させるのに有効な元素である。この効果を得る観点から、Al含有量の下限は、1.0質量%、好ましくは1.1質量%、より好ましくは1.2質量%とする。一方、Al含有量が多すぎると、Al含有フェライト系ステンレス鋼板が硬質化し、靭性が低下する。そのため、Al含有量の上限は、2.4質量%、好ましくは2.2質量%、より好ましくは2.0質量%とする。
【0021】
Nは、Alと結合し、異常酸化の起点となるAlNを生成すると共に、Al含有フェライト系ステンレス鋼板の靭性を低下させる恐れがある元素である。そのため、N含有量の上限は、0.025質量%、好ましくは0.020質量%、より好ましくは0.015質量%とする。一方、N含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、より好ましくは0.003質量%、さらに好ましくは0.005質量%である。
【0022】
Bは、二次加工性を向上させるのに有効な元素である。この効果を得る観点から、B含有量の下限は、0.0005質量%、好ましくは0.0006質量%、より好ましくは0.0007質量%とする。一方、B含有量が多すぎると、粒界に優先的にボライド(析出物)が生成して二次加工性を低下させる。そのため、B含有量の上限は、0.0060質量%、好ましくは0.0055質量%、より好ましくは0.0053質量%とする。
【0023】
本発明の実施形態に係るAl含有フェライト系ステンレス鋼板は、上記元素に加えて、Ti:0.01~0.50質量%、V:0.01~0.50質量%、Mo:0.01~0.50質量%、Co:0.01~0.50質量%、Zr:0.01~0.50質量%、Cu:0.01~0.50質量%、希土類元素:0.001~0.050質量%の1種以上をさらに含んでもよい。
【0024】
Ti及びVは、C及び/又はNと結合することで靭性を向上させる元素である。この効果を得る観点からは、Ti及びVの含有量の下限はいずれも、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.03質量%、さらに好ましくは0.05質量%とする。一方、Ti及びVの含有量が多すぎると、Al含有フェライト系ステンレス鋼板が硬質化し、靭性が低下する恐れがある。そのため、Ti及びVの含有量の上限は、0.50質量%、好ましくは0.45質量%、より好ましくは0.40質量%とする。
【0025】
Moは、Al含有フェライト系ステンレス鋼板の耐高温酸化性及び高温強度の向上に有効な元素である。この効果を得る観点から、Mo含有量の下限は、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.02質量%、さらに好ましくは0.03質量%とする。一方、Mo含有量が多すぎると、Al含有フェライト系ステンレス鋼板が硬質化し、靭性が低下する恐れがある。そのため、Mo含有量の上限は、好ましくは0.50質量%、より好ましくは0.48質量%、さらに好ましくは0.45質量%とする。
【0026】
Zrは、鋼中のCやNと結合して靱性を改善する効果や耐酸化性の向上に有効な元素である。また、Co及びCuは鋼の高温強度を向上させるのに有効な元素である。これら元素の添加による効果を得るためには、含有量の下限をいずれも、0.01質量%、より好ましくは0.05質量%、さらに好ましくは0.1質量%とする。一方、これらの元素の含有量が多すぎると、鋼の靱性が劣化する。そのため、これらの含有量の上限は、0.50質量%、好ましくは0.45質量%、より好ましくは0.40質量%とする。
【0027】
希土類元素(REM)は、Al含有フェライト系ステンレス鋼板の耐高温酸化性を向上させるのに有効な元素である。この効果を得る観点から、希土類元素の下限は、好ましくは0.001質量%、より好ましくは0.005質量%、さらに好ましくは0.010質量%とする。一方、希土類元素の含有量が多すぎると、熱間加工性及び靭性が低下する恐れがある。そのため、希土類元素の含有量の上限は、好ましくは0.050質量%、より好ましくは0.045質量%、さらに好ましくは0.040質量%とする。
【0028】
本発明の実施形態に係るAl含有フェライト系ステンレス鋼板は、下記式(1)及び(2)を満たす。
A/T≧6.0 (1)
H/T≧4.0 (2)
上記式(1)及び(2)中、Aは、熱延板の0℃におけるシャルピー衝撃値であり、Hは、熱延焼鈍板の0℃におけるシャルピー衝撃値であり、Tは、熱延板又は熱延焼鈍板の板厚である。
【0029】
上記式(1)及び(2)は、0℃におけるシャルピー衝撃値と板厚との関係を表す指標であり、これらの指標を満たせば、冬季や寒冷地における環境下で加工又は使用する際に割れなどを防止することが可能な靭性を確保することができる。この効果を安定して得る観点からは、A/T≧6.1、H/T≧4.2であることが好ましい。
ここで、シャルピー衝撃値は、JIS Z2242:2005に準拠して測定することができる。
【0030】
本発明の実施形態に係るAl含有フェライト系ステンレス鋼板の種類は、特に限定されないが、好ましくは熱延板又は熱延焼鈍板である。
また、本発明の実施形態に係るAl含有フェライト系ステンレス鋼板の厚さは、特に限定されないが、好ましくは4.0~10.0mm、より好ましくは4.0~8.0mm、さらに好ましくは4.0~6.0mmである。
【0031】
上記のような特徴を有する本発明の実施形態に係るAl含有フェライト系ステンレス鋼板は、上記の組成を有するスラブを用い、公知の方法に準じて製造することができる。
熱延板を製造する場合、上記の組成を有するスラブを750~850℃の仕上温度で熱間圧延した後、100℃/秒以上の速度で350℃以下の温度まで冷却し、熱延板表面における復熱温度を400℃以下にすることが好ましい。仕上温度が750℃未満であると、熱延変形抵抗の増大及び析出物の生成によって靭性が低下する恐れがある。また、仕上温度が850℃を超えると、部分再結晶によって靭性が低下する恐れがある。また、冷却速度が100℃/秒未満であると、析出物が多くなり、靭性が低下する恐れがある。また、復熱温度が400℃を超えると、析出物の生成によって靭性が低下する恐れがある。なお、冷却方法は、特に限定されないが、水冷を用いることが好ましい。
また、熱延焼鈍板を製造する場合、上記のようにして得られた冷却後の熱延板を950~1050℃の温度で焼鈍すればよい。焼鈍温度が950℃未満であると、未再結晶となる恐れがある。一方、焼鈍温度が1050℃を超えると、結晶粒が大きくなり、靭性及び加工性の低下や、肌荒れが発生する恐れがある。なお、熱延焼鈍板は、必要に応じて、酸洗、機械研磨などの仕上げ加工を施してもよい。
【0032】
上記のようにして製造される本発明の実施形態に係るAl含有フェライト系ステンレス鋼板は、冬季や寒冷地における環境下で加工又は使用する際に割れなどを防止することが可能な靭性を有し、且つ耐高温酸化性にも優れている。そのため、本発明の実施形態に係るAl含有フェライト系ステンレス鋼板は、燃料電池の改質器、高温条件に曝される各種配管、自動車排ガス部材、バーナー燃焼筒、チムニー、暖房機器、発熱体などの靭性(加工性)及び耐高温酸化性が要求される耐熱部材に用いるのに好適である。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0034】
表1に示すステンレス鋼を真空溶解し、鋳造してスラブを得た。このスラブを1200℃で熱間圧延し、表2に示す温度で仕上げた後、表2に示す条件で350℃以下の温度まで冷却することによって熱延板を得た。なお、試験番号16及び19については、銅板を用いた挟み込み冷却を行い、試験番号25については空冷を行い、それ以外は水冷を行った。空冷では、冷却後の温度と復熱温度とが同一となる。また、仕上温度は放射温度計、復熱温度は接触式温度計を用いてそれぞれ測定した。
また、上記で得られた熱延板を表2に示す温度で焼鈍し、熱延焼鈍板を得た。熱延焼鈍板は、フッ酸及び硝酸を含む水溶液で酸洗した。
【0035】
【0036】
上記で得られた熱延板及び熱延焼鈍板について靭性を評価した。
靭性は、0℃におけるシャルピー衝撃値を測定し、測定されたシャルピー衝撃値を板厚で除することによって評価した。靭性の評価結果は、熱延板についてはA/T、熱延焼鈍板についてはH/Tと表す。
シャルピー衝撃値は、JIS 2242:2005に準拠し、Vノッチシャルピー試験片を作製し、シャルピー衝撃試験装置を用いて測定した。Vノッチシャルピー試験片は、Vノッチの方向を板厚方向とし、圧延方向長さを10mm、板幅方向長さを55mmとした。
【0037】
また、上記で得られた熱延焼鈍板について耐高温酸化性を評価した。
耐高温酸化性は、熱延焼鈍板から圧延方向長さ35mm×板幅方向長さ25mmの試験片を切り出し、#400の番手で湿式研磨した後、アセトンに5分間浸漬し、超音波洗浄を行ってから評価を行った。耐高温酸化性は、大気雰囲気中、1000℃で100時間、試験片を加熱し、加熱前後の試験片の質量変化量で評価した。質量変化量が0.6mg/cm2以下の場合、耐高温酸化性が良好であると判断することができる。
上記の評価結果を表2に示す。
【0038】
【0039】
表2に示されるように、所定の組成を有し、所定の製造方法で作製された試験番号1~15(実施例)の熱延板及び熱延焼鈍板は、靭性及び耐高温酸化性が良好であった。
これに対して試験番号16、19及び25(比較例)の熱延板は、熱間圧延後の冷却速度が遅かったため、析出物が多くなり、靭性が低下した。
試験番号17(比較例)の熱延焼鈍板は、焼鈍温度が高すぎたため、結晶粒が大きくなりすぎ、靭性が低下した。
試験番号18(比較例)の熱延焼鈍板は、Nbを含んでいないため、耐高温酸化性が低下した。
試験番号20(比較例)の熱延板及び熱延焼鈍板は、Nb及びBを含んでおらず、Ti含有量も多すぎたため、靭性及び耐高温酸化性が低下した。
【0040】
試験番号21(比較例)の熱延板及び熱延焼鈍板は、Bを含んでおらず、C及びAlの含有量も多すぎたため、靭性が低下した。
試験番号22(比較例)の熱延板及び熱延焼鈍板は、Nb及びBを含んでおらず、Cr含有量も多すぎたため、靭性が低下した。
試験番号23(比較例)の熱延焼鈍板は、Nb含有量が少なすぎたため、耐高温酸化性が低下した。
試験番号24(比較例)の熱延焼鈍板は、Nb及びBを含んでおらず、Al含有量も少なすぎたため、耐高温酸化性が低下した。
試験番号26(比較例)の熱延板は、Si含有量が多すぎると共に、Al含有量が少なすぎたため、靭性が十分でなかった。また、その熱延焼鈍板も、Si及びAl含有量が適切でなかったため、耐高温酸化性が低下した。
【0041】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、冬季や寒冷地における環境下で加工又は使用する際に割れなどを防止することが可能な靭性を有し、且つ耐高温酸化性にも優れたAl含有フェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法を提供することができる。