(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】残留塩素除去方法、残留塩素除去システムの制御装置及び残留塩素除去システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/70 20230101AFI20230524BHJP
【FI】
C02F1/70 Z
(21)【出願番号】P 2019080555
(22)【出願日】2019-04-19
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】須田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】志村 憲尋
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-124600(JP,A)
【文献】特開昭63-020033(JP,A)
【文献】特開昭49-081094(JP,A)
【文献】特開平08-187418(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105467954(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/70-1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
残留塩素を含む被処理水を還元処理する残留塩素除去方法であって、
残留塩素を含む被処理水に
、残留塩素との反応後、硫酸イオンを生成する還元剤を供給する還元処理ステップと、
前記還元処理ステップ後の被処理水の酸化還元電位(ORP)及びpHを測定する測定ステップと、
前記測定ステップで測定した
酸化還元電位(ORP)及びpHの値
から、ネルンストの式に基づいて補正ORP値を演算し、演算した
補正ORP値に基づいて前記還元処理における還元剤の供給量を調整する演算制御ステップと、を備えることを特徴とする、残留塩素除去方法。
【請求項2】
前記演算制御ステップにおけるORP値の補正は、前記還元処理ステップ時のpHの変化に伴い、還元剤の価数が変化するものについて、還元剤の酸解離定数を用い、ネルンストの式における係数を変化させた補正式に基づいて行うことを特徴とする、請求項1に記載の残留塩素除去方法。
【請求項3】
前記演算制御ステップにおけるORP値の補正は、下記式で表される補正式に基づいて行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の残留塩素除去方法。
E
C=E
M-2.3026(RT/z
AF)(pH
0-pH
A)
ここで、z
A=(2×10
(pHA-7.2)+1)/(10
(pHA-7.2)+1) ……(式)
また、E
Cは補正したORP値(補正ORP値)、E
Mは測定したORP値(ORP実測値)、pH
0は還元剤を添加する前のpH値、pH
Aは実測されるpH値を示している。さらに、Rはモル気体定数(=8.314J/K・mol)、Fはファラデー定数(=96485C/mol)、z
Aは平均イオン価数、Tは絶対温度(単位:K)を示している。
【請求項4】
前記測定ステップにおいて、還元処理ステップ後の被処理水の温度を測定することをさらに加え、
前記演算制御ステップにおけるORP値の補正に、前記測定ステップで測定した温度の値も用いることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の残留塩素除去方法。
【請求項5】
残留塩素を含む被処理水を還元処理する残留塩素除去システムに設けられる残留塩素除去システムの制御装置であって、
前記残留塩素除去システムは、残留塩素を含む被処理水を導入する反応槽と、前記反応槽に
、残留塩素との反応後、硫酸イオンを生成する還元剤を供給する還元剤供給部と、を備え、
前記制御装置は、前記反応槽内の被処理水の酸化還元電位(ORP)及びpHを測定する測定部と、
前記測定部で測定した
酸化還元電位(ORP)及びpHの値
から、ネルンストの式に基づいて補正ORP値を演算し、演算した
補正ORP値に基づいて前記還元剤供給部による還元剤の供給量を調整する演算制御部と、を備えることを特徴とする残留塩素除去システムの制御装置。
【請求項6】
前記演算制御部におけるORP値の補正は、前記還元剤を供給した時のpHの変化に伴い、還元剤の価数が変化するものについて、還元剤の酸解離定数を用い、ネルンストの式における係数を変化させた補正式に基づいて行うことを特徴とする、請求項5に記載の残留塩素除去システムの制御装置。
【請求項7】
前記演算制御部におけるORP値の補正は、下記式で表される補正式に基づいて行うことを特徴とする、請求項5又は6に記載の残留塩素除去システムの制御装置。
E
C=E
M-2.3026(RT/z
AF)(pH
0-pH
A)
ここで、z
A=(2×10
(pHA-7.2)+1)/(10
(pHA-7.2)+1) ……(式)
また、E
Cは補正したORP値(補正ORP値)、E
Mは測定したORP値(ORP実測値)、pH
0は還元剤を添加する前のpH値、pH
Aは実測されるpH値を示している。さらに、Rはモル気体定数(=8.314J/K・mol)、Fはファラデー定数(=96485C/mol)、z
Aは平均イオン価数、Tは絶対温度(単位:K)を示している。
【請求項8】
前記測定部において、前記反応槽内の被処理水の温度を測定することをさらに加え、
前記演算制御部におけるORP値の補正に、前記測定部で測定した温度の値も用いることを特徴とする、請求項5~7のいずれか一項に記載の残留塩素除去システムの制御装置。
【請求項9】
残留塩素を含む被処理水を還元処理する残留塩素除去システムであって、
残留塩素を含む被処理水を導入する反応槽と、
前記反応槽に
、残留塩素との反応後、硫酸イオンを生成する還元剤を供給する還元剤供給部と、
請求項5~8のいずれか一項に記載の制御装置と、を備えることを特徴とする、残留塩素除去システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残留塩素除去方法、残留塩素除去システムの制御装置及び残留塩素除去システムに関するものである。また、本発明は、特に還元剤による還元処理を行う残留塩素除去方法、残留塩素除去システムの制御装置及び残留塩素除去システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
水処理設備における細菌の繁殖抑制剤や滅菌剤、あるいは臭気処理における酸化剤として、塩素剤が用いられている。このとき、被処理水中における塩素剤の不足を避けるために、塩素剤を過剰に供給する必要があるが、被処理水中に残存した塩素(以下、「残留塩素」という。)は、環境への悪影響や人体・生物への害を与えるおそれがあるため、残留塩素を過剰に含む状態の被処理水を公共水域に放出することはできない。したがって、被処理水中の残留塩素を除去する必要がある。
【0003】
被処理水中の残留塩素を除去する方法としては、活性炭などの吸着剤によるものが知られているが、吸着剤の性能劣化に係る判断が困難であることやコスト高になるという問題がある。
また、残留塩素を除去する他の方法としては、残留塩素に還元剤を供給して化学的に除去することが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、塩素を含有する水に還元剤を供給する塩素除去方法において、残留塩素濃度の管理方法が記載されている。また、特許文献1には、還元剤の供給された塩素を含む水の酸化還元電位(以下、「ORP」という。)を測定し、測定されたORPの測定値やその変化から還元剤の供給状況を判定するということが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
残留塩素に還元剤を供給して残留塩素を除去する場合、残留塩素に対して過剰に還元剤を供給すると、今度は還元剤が残留してしまう。この場合、還元剤の成分が原因で公共水域に放出できなくなるという問題があるため、残留塩素に対する還元剤の供給量を適切に制御する必要がある。
【0007】
特許文献1では、残留塩素に還元剤を供給して残留塩素を除去する際に、ORPを測定することで、還元剤の供給状況が適切に行われているか否かを判断することができると記載されている。
【0008】
一方、本発明者らは、残留塩素を含む被処理水に還元剤を供給した際、還元剤の影響で被処理水のpHが変化することがあり、このときORP値の変化と還元剤の供給状況とが連動せず、還元剤の供給量を正しく制御することができないという知見を得た。
【0009】
ORP値は、pHによる影響を受けるものであるが、特許文献1には、ORPの測定に対するpHの影響について何ら記載されておらず、pHの変動がORP値に与える影響が考慮されていない。このため、特許文献1に記載された方法では、残留塩素に対する還元剤の供給量を適切に制御することは困難である。
【0010】
特に、還元剤として亜硫酸イオンや亜硫酸水素イオンを含むものを用いた場合、pHによって被処理水中での解離状態が異なる。したがって、ORPの測定により残留塩素に対する還元剤の供給量を制御するためには、pH変動による還元剤の解離状態についても考慮する必要がある。
【0011】
本発明の課題は、残留塩素を含む被処理水に還元剤を供給する残留塩素除去において、pHの変化による影響を考慮し、ORP測定により還元剤の供給量を適切に制御することができる残留塩素除去方法、残留塩素除去システムの制御装置及び残留塩素除去システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、残留塩素を含む被処理水に還元剤を供給する残留塩素除去において、ORPとpHの測定を行い、pHの測定値をパラメータの1つとして、ORP値を補正することで、pHの変動によるORP値への影響を排除し、ORP測定により還元剤の供給量を適切に制御できることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の残留塩素除去方法、残留塩素除去システムの制御装置及び残留塩素除去システムである。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の残留塩素除去方法は、残留塩素を含む被処理水を還元処理する残留塩素除去方法であって、残留塩素を含む被処理水に、残留塩素との反応後、硫酸イオンを生成する還元剤を供給する還元処理ステップと、還元処理ステップ後の被処理水の酸化還元電位(ORP)及びpHを測定する測定ステップと、測定ステップで測定したpHの値を用いて測定したORP値を補正し、補正したORP値に基づいて還元処理における還元剤の供給量を調整する演算制御ステップとを備えるという特徴を有する。
本発明の残留塩素除去方法は、測定ステップでORPとpHを測定し、この測定結果に基づき、演算制御ステップでORP値の補正を行うことで、pHの影響を考慮したORPの補正値を得ることができる。また、さらに演算制御ステップにより、還元剤の供給量を制御するタイミングを適切に把握することが可能となるとともに、還元剤の供給量を適切に制御することが可能となる。これにより、残留塩素除去において、残留塩素に対して還元剤を過剰に供給することを抑制することが可能となる。
【0014】
また、本発明の残留塩素除去方法の一実施態様としては、演算制御ステップにおけるORP値の補正は、還元処理ステップ時のpHの変化に伴い、還元剤の価数が変化するものについて、還元剤の酸解離定数を用い、ネルンストの式における係数を変化させた補正式に基づいて行うという特徴を有する。
この特徴によれば、亜硫酸イオン又は亜硫酸水素イオンを含む還元剤のように、pHによって還元剤の解離状態の形態に係る価数が異なるものについても、ORP値の補正を行うことができる。これにより、ORP値の補正の精度を向上させることが可能となる。
【0015】
また、本発明の残留塩素除去方法の一実施態様としては、演算制御ステップにおけるORP値の補正は、下記式で表される補正式に基づいて行うという特徴を有する。
EC=EM-2.3026(RT/zAF)(pH0-pHA)
ここで、zA=(2×10(pHA-7.2)+1)/(10(pHA-7.2)+1) ……(式)
また、ECは補正したORP値(補正ORP値)、EMは測定したORP値(ORP実測値)、pH0は還元剤を添加する前のpH値、pHAは実測されるpH値を示している。さらに、Rはモル気体定数(=8.314J/K・mol)、Fはファラデー定数(=96485C/mol)、zAは平均イオン価数、Tは絶対温度(単位:K)を示している。
この特徴によれば、亜硫酸イオン又は亜硫酸水素イオンを含む還元剤のように、pHによって還元剤の解離状態の形態に係る価数が異なるものについても、補正式を変更することなく、連続した演算を行うことが可能となる。これにより、ORP値の補正を行う演算処理を簡略化することができるとともに、演算処理に係る処理速度を高めることが可能となる。
【0016】
また、本発明の残留塩素除去方法の一実施態様としては、測定ステップにおいて、還元処理ステップ後の被処理水の温度を測定することをさらに加え、演算制御ステップにおけるORP値の補正に、測定ステップで測定した温度の値も用いるという特徴を有する。
この特徴によれば、被処理水の温度もパラメータとしてORP値の補正を行うことができる。これにより、ORP値の補正の精度を上げることが可能となる。
【0017】
また、上記課題を解決するための本発明の残留塩素除去システムの制御装置としては、残留塩素を含む被処理水を還元処理する残留塩素除去システムに設けられる残留塩素除去システムの制御装置であって、残留塩素除去システムは、残留塩素を含む被処理水を導入する反応槽と、反応槽に、残留塩素との反応後、硫酸イオンを生成する還元剤を供給する還元剤供給部とを備え、制御装置は、反応槽内の被処理水の酸化還元電位(ORP)及びpHを測定する測定部と、測定部で測定したpHの値を用い、測定したORP値を補正し、補正したORP値に基づいて前記還元剤添加部による還元剤の供給量を調整する演算制御部とを備えるという特徴を有する。
本発明の残留塩素除去システムの制御装置は、残留塩素除去システムにおける反応槽のORPとpHを測定し、この測定結果に基づき、ORP値の補正を行うことで、pHの影響を考慮したORPの補正値を得ることができる。また、さらに演算制御部により、還元剤の供給量を制御するタイミングを適切に把握することが可能となるとともに、還元剤の供給量を適切に制御することが可能となる。これにより、残留塩素除去において、残留塩素に対して還元剤を過剰に供給することを抑制することが可能となる。
【0018】
また、本発明の残留塩素除去システムの制御装置の一実施態様としては、演算制御部におけるORP値の補正は、還元剤を添加した時のpHの変化に伴い、還元剤の価数が変化するものについて、還元剤の酸解離定数を用い、ネルンストの式における係数を変化させた補正式に基づいて行うという特徴を有する。
この特徴によれば、亜硫酸イオン又は亜硫酸水素イオンを含む還元剤のように、pHによって還元剤の解離状態の形態に係る価数が異なるものについても、ORP値の補正を行うことができる。これにより、ORP値の補正の精度を向上させることが可能となる。
【0019】
また、本発明の残留塩素除去システムの制御装置の一実施態様としては、演算制御部におけるORP値の補正は、下記式で表される補正式に基づいて行うという特徴を有する。
EC=EM-2.3026(RT/zAF)(pH0-pHA)
ここで、zA=(2×10(pHA-7.2)+1)/(10(pHA-7.2)+1) ……(式)
また、ECは補正したORP値(補正ORP値)、EMは測定したORP値(ORP実測値)、pH0は還元剤を添加する前のpH値、pHAは実測されるpH値を示している。さらに、Rはモル気体定数(=8.314J/K・mol)、Fはファラデー定数(=96485C/mol)、zAは平均イオン価数、Tは絶対温度(単位:K)を示している。
この特徴によれば、亜硫酸イオン又は亜硫酸水素イオンを含む還元剤のように、pHによって還元剤の解離状態の形態に係る価数が異なるものについても、補正式を変更することなく、連続した演算を行うことが可能となる。これにより、ORP値の補正を行う演算処理を簡略化することができるとともに、演算処理に係る処理速度を高めることが可能となる。
【0020】
また、本発明の残留塩素除去システムの制御装置の一実施態様としては、測定部において、反応槽内の被処理水の温度を測定することをさらに加え、演算制御部におけるORP値の補正に、測定部で測定した温度の値も用いるという特徴を有する。
この特徴によれば、被処理水の温度もパラメータとしてORP値の補正を行うことができる。これにより、ORP値の補正の精度を上げることが可能となる。
【0021】
また、上記課題を解決するための本発明の残留塩素除去システムとしては、残留塩素を含む被処理水を還元処理する残留塩素除去システムであって、残留塩素を含む被処理水を導入する反応槽と、反応槽に、残留塩素との反応後、硫酸イオンを生成する還元剤を供給する還元剤供給部と、上述したいずれか1つの制御装置とを備えるという特徴を有する。
本発明の残留塩素除去システムは、反応槽のORPとpHを測定し、この測定結果に基づき、制御装置によりORP値の補正を行うことで、pHの影響を考慮したORPの補正値を得ることができる。また、さらに制御装置の演算制御部により、還元剤の供給量を制御するタイミングを適切に把握することが可能となるとともに、還元剤の供給量を適切に制御することが可能となる。これにより、残留塩素除去において、残留塩素に対して還元剤を過剰に供給することを抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、残留塩素を含む被処理水に還元剤を供給する残留塩素除去において、pHの変化による影響を考慮し、ORP測定により還元剤の供給量を適切に制御することができる残留塩素除去方法、残留塩素除去システムの制御装置及び残留塩素除去システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1の実施態様における残留塩素除去システムの概略説明図である。
【
図2】本発明の第1の実施態様におけるpH
A、補正前のORP実測値及び補正後の補正ORP値の経時変化を示す模式図である。
【
図3】本発明の第1の実施態様における残留塩素除去方法に係る補正ORP値の経時変化を示す模式図である。
【
図4】本発明の第2の実施態様における残留塩素除去システムの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の残留塩素除去方法、残留塩素除去システムの制御装置及び残留塩素除去システムは、残留塩素を含む被処理水の還元処理において好適に利用されるものである。
【0025】
本発明の処理対象である被処理水とは、残留塩素を含むものであればよく、特に限定されない。被処理水は、各種工場や処理場等から排出される排水・廃水であってもよく、プラント等で用いられる循環水のようなものであってもよい。また、工業用水に限らず、河川水、上水、プールや公衆浴場などの槽内に貯留される水など、塩素剤による殺菌・滅菌が行われる水が挙げられる。ここで、残留塩素とは、水中に含まれる物質に対する殺菌、滅菌や酸化反応に有効に作用する塩素化合物を指すものである。また、本発明の効果をより発揮するという観点から、本発明の処理対象である被処理水は、残留塩素として主に遊離塩素を含むことが好ましい。ここで、遊離塩素とは、塩素ガス、次亜塩素酸及び次亜塩素イオンとして水中に存在する残留塩素を指すものである。このような被処理水としては、塩素剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いた被処理水が挙げられる。なお、本発明の処理対象である被処理水は、これに限定されるものではなく、還元剤で還元処理可能な塩素分を含む被処理水であれば、本発明の処理対象となる。
【0026】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る残留塩素除去方法、残留塩素除去システムの制御装置及び残留塩素除去システムの実施態様を詳細に説明する。なお、以下の実施態様に記載する内容については、本発明に係る残留塩素除去方法、残留塩素除去システムの制御装置及び残留塩素除去システムを説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0027】
[第1の実施態様]
(残留塩素除去システム)
図1は、本発明の第1の実施態様の残留塩素除去システムの概略説明図である。
本発明に係る残留塩素除去システム1aは、
図1に示すように、残留塩素を含む被処理水Wを導入する反応槽2と、還元剤Rを供給する還元剤供給部3と、ORP測定部4と、pH測定部5と、演算制御部6を備えている。さらに、反応槽2に対して被処理水Wを導入するための導入配管であるラインL1と、反応槽2から排出された処理水W1を系外に排出するための排出配管であるラインL2を有している。なお、
図1中の一点鎖線の矢印は入力又は制御可能に接続されていることを示すものである。
【0028】
反応槽2は、残留塩素を含む被処理水Wと還元剤Rを反応させ、残留塩素を還元処理するためのものである。
図1に示すように、反応槽2に設けられたラインL1を介して被処理水Wが反応槽2に供給される。また、反応槽2には、後述する還元剤供給部3から還元剤Rが供給され、被処理水W中の残留塩素が還元処理される。還元処理後の処理水W1は、反応槽2に設けられたラインL2を介し反応槽2から排出される。なお、反応槽2は、内部に撹拌機21を設けるものとしてもよい。これにより、被処理水Wと還元剤Rの反応を促進することが可能となる。
【0029】
還元剤供給部3は、反応槽2に還元剤Rを供給するためのものである。
図1に示すように、還元剤供給部3は、還元剤Rを貯留する還元剤貯留槽31と、反応槽2に還元剤Rを供給する還元剤供給ライン32と、還元剤Rの供給量を制御する還元剤供給量制御部33を備えている。
【0030】
還元剤貯留槽31は、還元剤Rを貯留することができるものであれば特に限定されない。例えば、固体又は液体の還元剤Rを安定して貯留することができるものであればよく、遮光された円筒体や直方体の槽などが挙げられる。また、還元剤Rに対する耐薬品性を有することが特に好ましい。
【0031】
還元剤貯留槽31内に貯留される還元剤Rとしては、亜硫酸イオン又は亜硫酸水素イオンを含むもの等が挙げられる。より具体的には、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムや亜硫酸水素ナトリウムなどが挙げられる。これらを還元剤Rとして用いることで、残留塩素との反応後、無害の硫酸イオンを生成させることができる。また、亜硫酸イオン又は亜硫酸水素イオンを含むものは還元力が強いことから、これらを還元剤Rとして用いることで、被処理水W中の残留塩素との反応時間を短くすることができ、残留塩素除去を短時間で進行させることが可能となる。
なお、還元剤Rは固体のまま反応槽2内の被処理水Wに供給するものであってもよいが、還元剤Rの安定性及び被処理水W中の残留塩素との反応速度などを鑑み、還元剤Rは水溶液として還元剤貯留槽31に貯留し、反応槽2内の被処理水Wに供給することが好ましい。
【0032】
還元剤供給ライン32は、反応槽2に還元剤Rを供給するための輸送配管である。
また、還元剤供給量制御部33は、後述する演算制御部6からの入力により、還元剤Rの供給量を制御するためのものであり、還元剤供給ライン32上に設けられる。
【0033】
還元剤供給量制御部33としては、還元剤Rが溶液の場合、還元剤供給ライン32内の流量を制御するものとして、ポンプや流量調節弁などが挙げられる。このとき、還元剤供給量制御部33における流量の制御は、ポンプのオンオフ制御により、還元剤Rの供給及び供給停止を繰り返し実行することや、インバーターによるポンプの回転数の制御やポンプにより移送する容積量の制御、あるいは流量調節弁の開閉度の制御により、連続的又は非連続的に還元剤Rの供給量を変更していくことなどが挙げられる。
また、還元剤Rが固体である場合、還元剤供給量制御部33としては、バルブや供給ホッパーなどが挙げられる。このとき、還元剤供給量制御部33における還元剤Rの供給量の制御は、バルブや供給ホッパーの開閉制御により、還元剤Rの供給と停止を繰り返し実行することや、バルブや供給ホッパーの開閉度の制御により、連続的又は非連続的に還元剤Rの供給量を変更していくことなどが挙げられる。
【0034】
ORP測定部4は、反応槽2内の被処理水WのORP値を測定するものである。また、ORP測定部4は、演算制御部6に対して入力可能に接続されており、ORP測定部4で得られたORP値のデータは、演算制御部6に入力される。
【0035】
ORP測定部4は、ORP値の測定が可能な公知のORP計を用いることができる。例えば、作用電極と参照電極とを備え、作用電極と参照電極間に生じる電位差を基にORPを決定するものを用いることができる。このとき、作用電極として白金電極を用い、参照電極として銀-塩化銀電極や標準水素電極を用いるものなどが挙げられる。なお、ORP測定部4としては、これに限定されるものではなく、被処理水WのORP値を安定して測定可能なものであればよい。
【0036】
pH測定部5は、反応槽2内の被処理水WのpH値を測定するものである。また、pH測定部5は、演算制御部6に対して入力可能に接続されており、pH測定部5で得られたpH値のデータは、演算制御部6に入力される。
【0037】
pH測定部5は、pH値の測定が可能な公知のpH計を用いることができる。例えば、ガラス電極を用いるものや、指示薬による比色法を利用したものなどを用いることができる。なお、連続測定が容易であることから、pH測定部5としては、ガラス電極を用いたものとすることが好ましい。なお、pH測定部5としては、これに限定されるものではなく、被処理水WのpH値を安定して測定可能なものであればよい。
【0038】
演算制御部6は、ORP測定部4及びpH測定部5からの測定データに基づき、還元剤供給量制御部33を制御するものである。
演算制御部6は、演算部61と、制御部62とを備えている。
【0039】
演算部61は、ORP測定部4及びpH測定部5からの測定データに基づき、ORP値の補正を行い、得られた補正後のORP値の経時変化に基づき、還元剤Rの供給又は供給停止のタイミングを判断するものである。
演算部61は、例えば、ORP値の補正に必要な式(補正式)に基づき、pH値によるORP値の変化量や、補正後のORP値を演算する演算手段を備えるものであればよく、構成については特に限定されない。演算部61の具体的な例としては、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD等を備えたコンピュータや、シーケンサー(PLC(Programmable Logic Controller))等が挙げられる。
【0040】
演算部61で用いる補正式について説明する。
pHによる影響を受けるORP値の変化量(ΔE)は、以下に示すネルンストの式(式1)に基づき演算することができる。
【数1】
ここで、[H
0]はpH変化前(還元剤を添加する前)の水素イオン濃度(単位:mol/L)であり、pH
0(=-ln[H
0])はこのときのpH値を示している。また、[H
A]はpH変化後(還元剤を添加した後)に実測される水素イオン濃度(単位:mol/L)であり、pH
A(=-ln[H
A])はこのときのpH値を示している。さらに、Rはモル気体定数(=8.314J/K・mol)、Fはファラデー定数(=96485C/mol)、zはイオン価数、Tは絶対温度(単位:K)を示している。
したがって、式1に基づきΔEを求めた後、実測されるORPの値(以下、「ORP実測値(E
M)」という。)からΔEを減算することで、補正されたORPの値(以下、「補正ORP値(E
C)」という。)を求めることができる(式2)。
【数2】
【0041】
一方、上述した式1におけるイオン価数zは、pHによって変化する場合がある。
例えば、亜硫酸(H
2SO
3)は、水中における解離状態がpHによって異なり、以下の式に示すように、二酸化硫黄(SO
2)、亜硫酸水素イオン(HSO
3
-)、亜硫酸イオン(SO
3
2-)の形態をとることが知られている(式3及び式4)。
【数3】
【数4】
ここで、式3における酸解離定数K
a1は1.4×10
-2(mol/L)、式4における酸解離定数K
a2は6.5×10
-8(mol/L)とする。
このとき、亜硫酸は、pH<1.9(=pK
a1)ではSO
2として、1.9<pH<7.2(=pK
a2)ではHSO
3
-として、さらにpH>7.2ではSO
3
2-として存在する比率が高まることを意味している。なお、二酸化硫黄(SO
2)として存在する比率が高いpHでは、SO
2が気化するため還元剤Rとしては利用できない。したがって、本実施例においては、pHが少なくとも1.9以上の範囲にある場合のORP値の補正について説明する。
【0042】
被処理液Wがアルカリ性の場合、還元剤Rとして酸性の亜硫酸ナトリウムにより還元処理を行うと、還元処理の進行に伴い被処理水WのpHは低下し、pH7.2を経由することがある。このとき、式4に示すように、亜硫酸イオン(SO3
2-)が亜硫酸水素イオン(HSO3
-)へと変化し、式1におけるイオン価数zは2から1へと変化する。
【0043】
また、亜硫酸が解離して生成する二酸化硫黄(SO2)、亜硫酸水素イオン(HSO3
-)、亜硫酸イオン(SO3
2-)について、それぞれの物質量の総和は一定であるため、亜硫酸イオン(SO3
2-)と亜硫酸水素イオン(HSO3
-)の物質量の比率(物質量比)は、pH7.2の前後で徐々に変化する。
したがって、イオン価数zの変化を伴うpH領域において連続的な演算を行うため、イオン価数zの平均化を行った。
【0044】
まず、あるpH値(pH
X)における亜硫酸イオン(SO
3
2-)と亜硫酸水素イオン(HSO
3
-)の物質量比について、亜硫酸イオン(SO
3
2-)の物質量比をα、亜硫酸水素イオン(HSO
3
-)の物質量比をβとした場合、以下の式5及び式6のようになる。
【数5】
【数6】
このとき、二酸化硫黄(SO
2)は系内にほぼ存在しないとみなすことができる。したがって、α+β=1が成り立っている。
【0045】
上述した物質量比によりイオン価数zが決まるとした場合、平均イオン価数z
Aは、以下の式7で示される。
【数7】
【0046】
式7に示されるz
Aを式1におけるイオン価数zとして代入したものを、補正ORP値(E
C)を得るための補正式(式8)として用いる。
【数8】
なお、式8中のz
A以外のその他の定数、変数については、式1と同じである。
【0047】
演算部61は、式8を用いて、実測されるpH値(pHA)とORP実測値(EM)から補正ORP値(EC)を演算する。このとき、式8を用いることで、pHによって還元剤Rの解離状態の形態に係る価数が異なるものについても、補正式を変更することなく、連続した演算処理を行うことが可能となる。
また、演算部61は、演算した補正ORP値(EC)の経時変化に基づき、還元剤Rの供給又は供給停止のタイミングを判断する。そして、判断結果を制御部62に入力する。
【0048】
制御部62は、演算部61による判断結果に基づき、被処理水W中の残留塩素に対する還元剤Rの供給量を制御するものである。
【0049】
制御部62では、演算部61から還元剤Rの供給又は供給停止に係る判断が入力され、この判断結果に応じて還元剤供給量制御部33を制御し、還元剤Rの供給又は供給停止を行う。
還元剤Rの供給又は供給停止を行う手段としては、例えば、還元剤供給量制御部33において説明した制御手段を用いることが挙げられる。具体的には、例えば、還元剤供給量制御部33のポンプのオンオフを切り替えることや、ポンプの流量を調節することなどが挙げられる。
【0050】
図2は、本実施態様の残留塩素を除去システム1aにおいて、残留塩素を含む被処理水Wに還元剤Rを供給したときのpH及びORPの経時変化を表す模式図である。なお、
図2の横軸は時間経過を示し、左側の縦軸はORPの値、右側の縦軸はpH値を示している。また、
図2中の破線は補正前のORP実測値(E
M)を示しており、実線は式8による補正後の補正ORP値(E
C)を示している。また、
図2中の太線は実測されるpH値(pH
A)を示している。
【0051】
被処理水W中に還元剤Rを供給した場合、残留塩素と還元剤Rの反応が進行することにより、ORPの値は減少する。したがって、ORPの値の減少を検知した時点において還元剤Rの供給を停止することで、残留塩素に対して還元剤Rの供給量を適切に制御することができる。
【0052】
しかし、
図2に示すように、補正前のORP実測値(E
M)はpHの変動に影響を受け、還元剤Rの供給時(
図2中の時間A)においてpH
Aの低下に伴いORPの値が上昇してしまう。特に、残留塩素の濃度が高く、還元剤Rの供給量が多くなる場合、pHの変動も大きくなるため、補正前のORP実測値(E
M)に対するpH
Aの影響は大きくなる。したがって、補正前のORP実測値(E
M)を用いても、残留塩素の除去において還元剤Rの供給を停止すべきタイミングを適切に把握することができない。
【0053】
一方、
図2に示すように、補正後の補正ORP値(E
C)はpHの変動に影響を受けず、還元剤Rの供給から一定時間経過後(
図2中の時間B)において、ORPの値が減少した。つまり、時間Bにおいて、被処理水W中の残留塩素に対して必要な還元剤Rが供給され、還元処理が終了したことがわかる。このとき、演算部61で還元剤Rの供給を停止するという判断を行い、その判断結果を制御部62に入力することで、還元剤Rを過剰に供給することを抑制することが可能となる。
したがって、演算部61で式8を用いてORP実測値の補正を行うことで、pHの影響を考慮した補正ORP値を得ることができる。これにより、演算部61で還元剤Rの供給量を制御するタイミングを適切に把握することが可能となるとともに、制御部62によって還元剤Rの供給量を適切に制御することが可能となる。
【0054】
なお、本実施態様におけるORP測定部4、pH測定部5及び演算制御部6に係る構成は、本発明に係る制御装置として独立したものとすることができる。この制御装置は、既設の残留塩素除去システムに適用することができる。これにより、既設の残留塩素除去システムにおいて、簡素な取り付け作業によって、本発明の残留塩素除去システム及び残留塩素除去方法を提供することができる。
【0055】
(残留塩素除去方法)
本実施態様における残留塩素除去システムを用いた残留塩素除去方法について説明する。なお、残留塩素除去システムとしては、
図1に示した構造に基づき説明しているが、これに限定されるものではない。
【0056】
図3は、補正後の補正ORP値(E
C)の経時変化を示す模式図である。なお、横軸は時間経過を示しており、縦軸はORPの値を示している。また、
図3には、還元剤供給量制御部33による還元剤Rの供給及び供給停止の時点についても記載している。
【0057】
まず、反応槽2内の残留塩素を含む被処理水Wに還元剤供給部3により還元剤Rを供給する(
図3中の時間A)。このとき、残留塩素と還元剤Rの反応が進行する(還元処理ステップ)。また、反応槽2内のORP及びpHを、それぞれORP測定部4及びpH測定部5により測定する(測定ステップ)。このとき、演算制御部6における演算部61では、ORP実測値(E
M)及び実測されるpH値(pH
A)を用いて式8に基づく補正を行い、補正ORP値(E
C)を演算する(演算制御ステップ-1)。
【0058】
還元処理ステップが進行することで、被処理水W内の残留塩素及び還元剤Rが減少し、残留塩素に対して必要量の還元剤Rが供給され、還元処理が終了した時点(
図3中の時間B)で、ORPの値が急速に減少する。このとき、還元剤Rの供給を継続すると、還元剤Rの供給量が過剰になる。したがって、演算部61では、補正ORP値(E
C)が減少して、あらかじめ設定したORP値の下限基準値(E
LS)に達した時点で、還元処理を停止するという判断を行う。そして、この判断結果に基づき、制御部62は、還元剤供給量制御部33を制御し、還元剤Rの供給を停止する(演算制御ステップ-2)。このとき、還元剤Rの供給を停止する時点(
図3中の時間C)は、還元処理が終了した時間Bとの間隔が小さくなるようにすることが好ましい。これにより、還元剤Rの過剰供給を抑制することが可能となる。
【0059】
また、反応槽2には残留塩素を含む被処理水Wが連続して供給されていることから、反応槽2内の補正ORP値(E
C)(及びORP実測値(E
M))は再び上昇する。再上昇した補正ORP値(E
C)が、あらかじめ設定したORP値の上限基準値(E
HS)又は減少前の補正ORP値(E
C)に達した時点で、演算部61は、還元処理を再開するという判断を行う。そして、この判断結果に基づき、制御部62は、還元剤供給量制御部33を制御し、
図3中の時間Dにおいて還元剤Rの供給を再開する(演算制御ステップ-3)。そして、演算制御ステップにおいて、時間A(時間D)、時間B、時間Cにおける工程を繰り返すことで、還元剤Rを過剰に供給することなく、被処理水W中の残留塩素を除去することが可能となる。
【0060】
以上のように、本実施態様の残留塩素除去方法、残留塩素除去システム及びその制御装置を用いることで、pHの影響を考慮したORP値の変動を把握することができ、還元処理における還元剤の供給量を適切に制御することが可能となる。これにより、還元処理を行う残留塩素除去において、還元剤の過剰供給を抑制することが可能となる。
【0061】
[第2の実施態様]
図4は、本発明の第2の実施態様の残留塩素除去システム1bの概略説明図である。
本実施態様に係る残留塩素除去システム1bは、
図4に示すように、第1の実施態様の残留塩素除去システム1aにおいて、温度測定部7を加えたものである。また、温度測定部7は演算制御部6に入力可能に接続されている。
なお、本実施態様における残留塩素除去システム1bの構成のうち、第1の実施態様の残留塩素除去システム1aの構成と同じものについては、説明を省略する。
【0062】
本実施態様の残留塩素除去システム1bは、温度測定部7により反応槽2内の温度を測定し、その測定結果に基づき、演算制御部6における補正ORP値(EC)の演算、及び補正ORP値(EC)に基づく還元剤Rの供給量の制御を行うものである。
【0063】
温度測定部7としては、反応槽2内の被処理水Wの温度が測定できるものであれば特に限定されない。温度計として公知のものを用いることができる。例えば、温度測定部7は、検出部分を水中に設けるものであってもよく、水面の温度を測定するものであってもよい。なお、温度測定部7としては、これに限定されるものではなく、被処理水Wの温度を安定して測定可能なものであればよい。また、温度測定部7で得られた温度のデータは、演算制御部6に入力される。
【0064】
演算制御部6の演算部61において、温度測定部7により得られた温度が一定範囲内にある等、反応槽2内の温度が安定している場合は、上述した式8中の絶対温度Tを定数として扱うものとすることができる。
一方、温度測定部7により得られた温度が変動する等、反応槽2内の被処理水Wの温度が安定していない場合、式8の絶対温度Tを変数として、温度測定部7による温度の測定データを入力し、ORP実測値(EM)の補正を行うものとする。これにより、温度の変動による影響を考慮した演算を用い、補正ORP値(EC)を決定することができる。
【0065】
本実施態様における残留塩素除去システム1bにより、反応槽2内の温度変化を把握し、式8として示した補正式におけるパラメータとして入力することで、より精度の高いORP値の補正が可能となる。これにより、還元処理における還元剤供給量をより適切に制御することが可能となる。
【0066】
また、本実施態様の残留塩素除去システム1bを用い、第1の実施態様において記載した残留塩素除去方法と同様の工程に基づき、残留塩素除去を行うことができる。これにより、還元剤による還元処理を行う残留塩素処理方法において、還元剤供給量をより適切に制御することが可能となる。
【0067】
さらに、本実施態様におけるORP測定部4、pH測定部5及び演算制御部6に、温度測定部7を加えた構成は、本発明に係る制御装置として独立したものとすることができる。この制御装置は、既設の残留塩素除去システムに適用することができる。これにより、既設の残留塩素除去システムにおいて、簡素な取り付け作業によって、本発明の残留塩素除去システム及び残留塩素除去方法を提供することができる。
【0068】
なお、上述した実施態様は残留塩素除去方法、残留塩素除去システム及びその制御装置の一例を示すものである。本発明に係る残留塩素除去方法、残留塩素除去システム及びその制御装置は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る残留塩素除去方法、残留塩素除去システム及びその制御装置を変形してもよい。
【0069】
例えば、本実施態様において、還元剤として亜硫酸イオン又は亜硫酸水素イオンを含むものについて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、還元処理においてpHの変動が生じた際に、被処理水W中に存在する還元剤の価数が変化するものについて、平均イオン価数に係る式を用い、ネルンストの式に基づく補正式を求めることができ、本実施態様の残留塩素除去方法、残留塩素除去システム及びその制御装置を好適に用いることができる。
【0070】
また、本実施態様において、処理対象である残留塩素を含む被処理水Wがアルカリ性であり、還元剤が酸性であるものを用い、被処理水WのpHがアルカリ側から酸性側に変化する還元処理について説明したが、これに限定されるものではない。還元剤の供給によりpHが変動し、かつpH値が還元剤の酸解離定数の値を経由して変動する他の還元処理に対しても、本実施態様の残留塩素除去方法、残留塩素除去システム及びその制御装置を好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の残留塩素除去方法、残留塩素除去システム及びその制御装置は、残留塩素を含む被処理水の還元処理に利用される。特に、本発明の残留塩素除去方法、残留塩素除去システム及びその制御装置は、被処理水中での解離状態がpHにより変化する還元剤を用いた還元処理に対して好適に利用される。
【符号の説明】
【0072】
1a,1b 残留塩素除去システム、2 反応槽、21 撹拌機、3 還元剤供給部、31 還元剤貯留槽、32 還元剤供給ライン、33 還元剤供給量制御部、4 ORP測定部、5 pH測定部、6 演算制御部、61 演算部、62 制御部、7 温度測定部、L1,L2 ライン、EC 補正ORP値、EM ORP実測値、EHS ORPの上限基準値、ELS ORPの下限基準値、R 還元剤、W 被処理水、W1 処理水