(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】炉心解析方法、炉心解析プログラムおよび炉心解析装置
(51)【国際特許分類】
G21C 21/00 20060101AFI20230524BHJP
【FI】
G21C21/00 100
(21)【出願番号】P 2019114352
(22)【出願日】2019-06-20
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000165697
【氏名又は名称】原子燃料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】大岡 靖典
(72)【発明者】
【氏名】長野 浩明
【審査官】牧 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-298734(JP,A)
【文献】特開2011-237228(JP,A)
【文献】特開2016-156740(JP,A)
【文献】特開2013-205379(JP,A)
【文献】特開2016-138768(JP,A)
【文献】特開2007-147377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 3/00 - 3/64
21/00 - 21/18
G21C 1/00 - 1/32
5/00 - 5/22
7/00 - 7/36
17/00 - 17/14
23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料集合体計算プログラム、炉心計算プログラムの順に計算プログラムを実行して、炉心解析を行う炉心解析方法であって、
前記燃料集合体計算プログラムにおいて、
組成以外の仕様が独立した代表組成である特定の仕様組成の燃料集合体に基づいて燃料集合体核定数を作成し、
前記炉心計算プログラムにおいて、前記燃料集合体計算プログラムにおいて作成された前記燃料集合体核定数を使用して、
装荷予定の各燃料集合体に対して、前記代表組成から仕様上の組成にするための原子数密度を調整したうえで装荷予定の各燃料集合体の仕様組成へ展開することにより、炉心計算を行うことを特徴とする炉心解析方法。
【請求項2】
前記炉心計算において、
前記燃料集合体計算プログラムにおいて作成された燃料集合体核定数を、代表組成の燃料集合体の燃料集合体核定数として読み込み、
装荷予定の各燃料集合体に対して、代表組成から仕様上の組成にするために原子数密度を調整し、
各燃料集合体の状態量および調整された前記原子数密度に応じて、各燃料集合体の燃料棒格子メッシュ単位でマクロ/ミクロ断面積を合成し、
各燃料集合体の中性子輸送を、前記燃料棒格子メッシュ単位で計算した後、
前記燃料棒格子メッシュ単位での中性子輸送の計算が、予め設定された最終ステップであるか否かを判断し、
最終ステップであれば計算を終了し、
最終ステップでなければ、前記燃料棒格子メッシュ単位での中性子輸送の計算結果に基づいて、燃料棒格子メッシュ単位でミクロ燃焼を計算した後、再び、前記燃料棒格子メッシュ単位でのマクロ/ミクロ断面積の合成に戻り、前記前記燃料棒格子メッシュ単位での中性子輸送の計算を行うことにより、
装荷予定の各燃料集合体の仕様組成へ展開して、炉心計算を行うことを特徴とする請求項1に記載の炉心解析方法。
【請求項3】
装荷予定の燃料集合体が、MOX燃料集合体であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の炉心解析方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の炉心解析方法を実行するための炉心解析プログラムであって、
燃料集合体核定数を作成する燃料集合体計算プログラム、および、炉心計算を行う炉心計算プログラムを備えており、
前記燃料集合体計算プログラムが、代表組成である特定の仕様組成に基づいて燃料集合体核定数を作成するプログラムであり、
前記炉心計算プログラムが、
前記燃料集合体計算プログラムにおいて作成された燃料集合体核定数を、代表組成の燃料集合体の燃料集合体核定数として読み込む燃料集合体核定数読み込みステップと、
装荷予定の各燃料集合体に対して、代表組成から仕様上の組成にするために原子数密度を調整する原子数密度調整ステップと、
各燃料集合体の状態量および調整された前記原子数密度に応じて、各燃料集合体の燃料棒格子メッシュ単位でマクロ/ミクロ断面積の合成を行うマクロ/ミクロ断面積合成ステップと、
各燃料集合体の中性子輸送を、前記燃料棒格子メッシュ単位で計算する中性子輸送計算ステップと、
前記中性子輸送計算ステップが、予め設定された最終ステップであるか否かを判定する最終ステップ判定ステップと、
前記中性子輸送計算ステップにおける計算結果に基づいて、各燃料集合体の前記燃料棒格子メッシュ単位でミクロ燃焼を計算するミクロ燃焼計算ステップとを備えており、
前記最終ステップ判定ステップにおいて、最終ステップであれば計算を終了し、最終ステップでなければ、前記ミクロ燃焼計算ステップへ進んだ後、前記マクロ/ミクロ断面積合成ステップに戻り、前記中性子輸送計算ステップへと進むように構成されていることを特徴とする炉心解析プログラム。
【請求項5】
請求項4に記載の炉心解析プログラムを用いて炉心解析を行う炉心解析装置であって、
燃料集合体核定数を作成する燃料集合体計算手段、および、炉心計算を行う炉心計算手段を備えており、
前記燃料集合体計算手段が、前記燃料集合体計算プログラムによって、代表組成である特定の仕様組成に基づいて燃料集合体核定数を作成し、記憶するように構成されており、
前記炉心計算手段が、
前記燃料集合体計算プログラムにおいて作成された燃料集合体核定数を、代表組成の燃料集合体の燃料集合体核定数として読み込む燃料集合体核定数読み込み部と、
装荷予定の各燃料集合体に対して、代表組成から仕様上の組成にするために原子数密度を調整する原子数密度調整部と、
各燃料集合体の状態量および調整された前記原子数密度に応じて、各燃料集合体の燃料棒格子メッシュ単位でマクロ/ミクロ断面積の合成を行うマクロ/ミクロ断面積合成部と、
各燃料集合体の中性子輸送を、前記燃料棒格子メッシュ単位で計算する中性子輸送計算部と、
前記中性子輸送計算部における処理が、予め設定された最終ステップにおける処理であるか否かを判定する最終ステップ判定部と、
前記中性子輸送計算部における処理結果に基づいて、各燃料集合体の前記燃料棒格子メッシュ単位でミクロ燃焼を計算するミクロ燃焼計算部とを備えており、
前記最終ステップ判定部において最終ステップであれば計算を終了し、最終ステップでなければ、前記ミクロ燃焼計算部へ進んだ後、前記マクロ/ミクロ断面積合成部に戻り、前記中性子輸送計算部へと進むように構成されていることを特徴とする炉心解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉心特性の解析を行うための炉心解析方法と、前記炉心解析方法において使用される炉心解析プログラム、および、炉心解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉の運転に際しては、炉心内に装荷された核燃料から安全に、かつ、効率よくエネルギーを取り出す必要があるため、炉心における燃料集合体の最適な配置に加えて、精度の高い炉心解析が重要である。
【0003】
現在、この炉心解析は、扱う情報量の多さに基づく計算時間と記憶容量との観点から、一般的には、燃料集合体計算プログラムと炉心計算プログラムの2つのそれぞれ独立したプログラムを用いた2段階の処理に基づいて行われている。
【0004】
具体的には、まず、1段階目の処理として、燃料集合体計算プログラムを用いて、燃料集合体の二次元平面幾何形状を詳細に設定する。その後、原子炉に装荷された際に燃料集合体が経験する様々な状態に対して、高次の数理モデルを用いた詳細な計算を行う。そして、その結果に基づいて、テーブル化した燃料集合体核定数を作成する。
【0005】
なお、燃料集合体核定数とは、その燃料集合体が経験するほう素濃度、減速材温度、燃料温度などのパラメータに応じた燃料集合体の核反応データを保有する定数であり、例えば、炉内で晒される中性子の密度やエネルギー分布等に関するデータが与えられたときに、その下で燃料集合体が与えられた中性子とどの様に相互作用したり、どの様に核分裂をしたりするか等についての指標となる定数である。
【0006】
次に、2段階目の処理として、炉心計算プログラムを用いて、1段階目で作成した燃料集合体核定数を想定される炉心体系に配置して、1段階目と比較して低次の数理モデル、幾何形状情報やエネルギー情報の簡素化により三次元炉心計算を行う。そして、その結果に基づいて、それぞれの燃料集合体が原子炉内で経験している様々な状態に応じて、その燃料集合体核定数をテーブル内挿することで炉心パラメータの計算を行う。
【0007】
このとき、燃料集合体計算プログラムと炉心計算プログラムとでは、取り扱う幾何形状、数理モデル、空間メッシュおよびエネルギーメッシュが異なっている。
【0008】
即ち、一般的な炉心計算においては、燃料集合体を1/4程度に均質化した粗メッシュ単位を炉心計算メッシュとしており、燃焼度などを軸としたマクロ断面積を合成して、炉心計算を実施しているため、炉心計算時には核燃料組成の変動を考慮することができない。
【0009】
この核燃料組成は、ウラン濃縮度、プルトニウム富化度やその組成、ガドリニア濃度などの核燃料仕様に基づいて決定されるが、炉心計算に対する感度が大きいため、厳密に扱う必要がある。このため、一般的な炉心計算においては、1段階目の燃料集合体計算プログラムにおいて燃料集合体核定数を作成するに際して、核燃料仕様が独立した全ての燃料集合体の各々に対して燃料集合体核定数を作成する必要がある。
【0010】
具体的な例として、MOX燃料は、複数の燃料集合体を同一の富化度および同一の組成で設計して製造しても、同一の炉心(プラントおよびサイクル数)に1回で装荷しない場合が往々にして発生する。この場合、約14.3年という比較的半減期が短いPu(プルトニウム)-241のベータ崩壊を始めとする放射性崩壊に伴い、炉心への装荷までに組成が変化するという特徴を考慮すると、装荷炉心毎に組成が異なる燃料集合体、即ち、上記した核燃料仕様が独立した全ての燃料集合体の各々に対して燃料集合体核定数を作成する必要がある。
【0011】
このように、従来は、炉心解析に先立って、多くの燃料集合体核定数を作成しておく必要があるため、計算時間や品質保証プロセスの長時間化、また、作成された多くの燃料集合体核定数を保存する記憶容量の増大化を招いており、管理も複雑化している。
【0012】
そこで、より効率的な炉心解析を可能とする様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1には、集合体を均質化して取り扱う粗メッシュ炉心計算の結果と、粗メッシュ炉心計算と同じ炉心状態を前提とした非均質炉心計算の結果とを比較して求めた補正因子を用いて炉心解析を行うことが提案されている。
【0013】
また、特許文献2には、燃料集合体の物理状態を示す中レベル物理量を中レベル境界条件下で計算し、中レベル物理量から求められたセルの境界条件(小レベル境界条件)下における小レベル物理量を用いて、原子炉の物理状態を計算する炉心解析支援プログラムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2003-066179号公報
【文献】特開2007-147377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
現在、一般に行われている炉心解析技術は、十分に洗練された技術ということができるものの、解析の効率化の面から考えると、改良の余地が残っており、炉心解析のさらなる効率化が、燃料種類の増加など、今後の燃料運用の複雑化に対する解決策として期待されている。
【0016】
そこで、本発明は、炉心解析のさらなる効率化を図ることが可能となる炉心解析技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記課題の解決について鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出した。
【0018】
即ち、本発明においては、まず、1段階目の燃料集合体計算プログラムにおいて、従来は必須であった組成が異なる燃料集合体(核燃料仕様が独立した燃料集合体)の全てに対して、それぞれ、燃料集合体核定数を作成して、燃料集合体の二次元平面幾何形状を設定することに替えて、特定の仕様組成を代表組成として、その燃料集合体核定数を作成する。
【0019】
そして、作成された代表組成の燃料集合体における燃料集合体核定数を用いて、2段階目の炉心計算プログラムにおいて、装荷予定の各燃料集合体の仕様組成に展開させる。
【0020】
具体的には、以下に示す手順に従って炉心計算を行うが、その際、1段階目の燃料集合体計算プログラムにおいて作成された特定の燃料集合体核定数(代表組成の燃料集合体核定数)を利用する。
【0021】
まず、1段階目の燃料集合体計算プログラムにおいて作成された代表組成の燃料集合体核定数を読み込む。次に、装荷予定の各燃料集合体に対して、代表組成から仕様上の組成(仕様組成)にするために原子数密度を調整して、燃料棒単位の原子数密度テーブルを作成する。
【0022】
次に、各燃料集合体の状態量および調整された各燃料集合体の原子数密度に応じて、各燃料集合体の燃料棒格子メッシュ単位でマクロ/ミクロ断面積を合成し、その後、燃料棒格子メッシュ単位で中性子輸送を計算する。そして、この燃料棒格子メッシュ単位での中性子輸送を計算するステップが、炉心の起動日などを基準として予め設定されたステップ数の最終に到達したか否かを判断する。このとき、最終ステップであれば計算を終了し、最終ステップでなければ、燃料棒格子メッシュ単位での中性子輸送計算に基づいて、燃料棒格子メッシュ単位でミクロ燃焼を計算した後、再び、燃料棒格子メッシュ単位でのマクロ/ミクロ断面積の合成に戻り、最終ステップに至るまで、これを繰り返す。これにより、装荷予定の各燃料集合体の仕様組成への展開が行われて、適切な炉心解析を行うことができる。
【0023】
このように、予め、原子数密度を調整して、燃料棒単位の原子数密度テーブルを作成して、装荷予定の各燃料集合体の仕様組成への展開を2段階目の炉心計算プログラムにおいて行うことにより、1段階目の燃料集合体計算プログラムにおいて燃料集合体核定数の作成の対象となる燃料集合体の数を大幅に減少させることができると共に、作成された燃料集合体核定数の共通化を図ることができる。
【0024】
この結果、1段階目の燃料集合体計算プログラムにおける計算時間の短縮や記憶容量の低減を図ることができる。また、装荷予定の各燃料集合体の仕様組成への展開を2段階目の炉心計算プログラムにおいて行うことにより、1段階目の燃料集合体計算プログラムにおいて燃料集合体の核燃料組成を厳密にして燃料集合体核定数を作成しなくても、十分に高い精度で、炉心計算を行って、炉心解析のさらなる効率化を図ることが可能となる。
【0025】
なお、上記において、「特定の仕様組成(代表組成)」とは、炉心解析において目標とする核燃料の仕様組成(個々の燃料棒を製造する際に目標となる仕様組成)を意味している。
【0026】
請求項1および請求項2に記載の発明は、上記の知見に基づくものであり、請求項1に記載の発明は、
燃料集合体計算プログラム、炉心計算プログラムの順に計算プログラムを実行して、炉心解析を行う炉心解析方法であって、
前記燃料集合体計算プログラムにおいて、組成以外の仕様が独立した代表組成である特定の仕様組成の燃料集合体に基づいて燃料集合体核定数を作成し、
前記炉心計算プログラムにおいて、前記燃料集合体計算プログラムにおいて作成された前記燃料集合体核定数を使用して、装荷予定の各燃料集合体に対して、前記代表組成から仕様上の組成にするための原子数密度を調整したうえで装荷予定の各燃料集合体の仕様組成へ展開することにより、炉心計算を行うことを特徴とする炉心解析方法である。
【0027】
そして、請求項2に記載の発明は、
前記炉心計算において、
前記燃料集合体計算プログラムにおいて作成された燃料集合体核定数を、代表組成の燃料集合体の燃料集合体核定数として読み込み、
装荷予定の各燃料集合体に対して、代表組成から仕様上の組成にするために原子数密度を調整し、
各燃料集合体の状態量および調整された前記原子数密度に応じて、各燃料集合体の燃料棒格子メッシュ単位でマクロ/ミクロ断面積を合成し、
各燃料集合体の中性子輸送を、前記燃料棒格子メッシュ単位で計算した後、
前記燃料棒格子メッシュ単位での中性子輸送の計算が、予め設定された最終ステップであるか否かを判断し、
最終ステップであれば計算を終了し、
最終ステップでなければ、前記燃料棒格子メッシュ単位での中性子輸送の計算結果に基づいて、燃料棒格子メッシュ単位でミクロ燃焼を計算した後、再び、前記燃料棒格子メッシュ単位でのマクロ/ミクロ断面積の合成に戻り、前記前記燃料棒格子メッシュ単位での中性子輸送の計算を行うことにより、
装荷予定の各燃料集合体の仕様組成へ展開して、炉心計算を行うことを特徴とする請求項1に記載の炉心解析方法である。
【0028】
請求項3に記載の発明は、
装荷予定の燃料集合体が、MOX燃料集合体であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の炉心解析方法である。
【0029】
本発明において、燃料集合体における核燃料は、核分裂の連鎖反応に使用される燃料であれば、ウラン燃料、MOX燃料、その他の燃料等、特に限定されないが、MOX燃料は、前記したように、複数の燃料集合体を同一の富化度および同一の組成で設計して製造しても、同一の炉心に1回で装荷しないことがあり、炉心への装荷までに組成が変化するという特徴がある。
【0030】
このため、従来の炉心解析方法においては、1段階目の燃料集合体計算プログラムでは、MOX燃集合体が装荷される炉心の起動日等を基準として、数多くの燃料集合体核定数を作成する必要がある。
【0031】
そして、起動日が少しでも変わると、その都度、燃料集合体核定数を作成しなければならない。また、同一設計仕様であっても、異なるプラントへの装荷や、同一プラントの別サイクルに装荷された場合には、それぞれの状態について燃料集合体核定数を作成しなければならない。
【0032】
このため、本発明に係る炉心解析方法をMOX燃料集合体に適用することにより、本発明の効果を顕著に発揮させることができる。
【0033】
請求項4に記載の発明は、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の炉心解析方法を実行するための炉心解析プログラムであって、
燃料集合体核定数を作成する燃料集合体計算プログラム、および、炉心計算を行う炉心計算プログラムを備えており、
前記燃料集合体計算プログラムが、代表組成である特定の仕様組成に基づいて燃料集合体核定数を作成するプログラムであり、
前記炉心計算プログラムが、
前記燃料集合体計算プログラムにおいて作成された燃料集合体核定数を、代表組成の燃料集合体の燃料集合体核定数として読み込む燃料集合体核定数読み込みステップと、
装荷予定の各燃料集合体に対して、代表組成から仕様上の組成にするために原子数密度を調整する原子数密度調整ステップと、
各燃料集合体の状態量および調整された前記原子数密度に応じて、各燃料集合体の燃料棒格子メッシュ単位でマクロ/ミクロ断面積の合成を行うマクロ/ミクロ断面積合成ステップと、
各燃料集合体の中性子輸送を、前記燃料棒格子メッシュ単位で計算する中性子輸送計算ステップと、
前記中性子輸送計算ステップが、予め設定された最終ステップであるか否かを判定する最終ステップ判定ステップと、
前記中性子輸送計算ステップにおける計算結果に基づいて、各燃料集合体の前記燃料棒格子メッシュ単位でミクロ燃焼を計算するミクロ燃焼計算ステップとを備えており、
前記最終ステップ判定ステップにおいて、最終ステップであれば計算を終了し、最終ステップでなければ、前記ミクロ燃焼計算ステップへ進んだ後、前記マクロ/ミクロ断面積合成ステップに戻り、前記中性子輸送計算ステップへと進むように構成されていることを特徴とする炉心解析プログラムである。
【0034】
請求項5に記載の発明は、
請求項4に記載の炉心解析プログラムを用いて炉心解析を行う炉心解析装置であって、
燃料集合体核定数を作成する燃料集合体計算手段、および、炉心計算を行う炉心計算手段を備えており、
前記燃料集合体計算手段が、前記燃料集合体計算プログラムによって、代表組成である特定の仕様組成に基づいて燃料集合体核定数を作成し、記憶するように構成されており、
前記炉心計算手段が、
前記燃料集合体計算プログラムにおいて作成された燃料集合体核定数を、代表組成の燃料集合体の燃料集合体核定数として読み込む燃料集合体核定数読み込み部と、
装荷予定の各燃料集合体に対して、代表組成から仕様上の組成にするために原子数密度を調整する原子数密度調整部と、
各燃料集合体の状態量および調整された前記原子数密度に応じて、各燃料集合体の燃料棒格子メッシュ単位でマクロ/ミクロ断面積の合成を行うマクロ/ミクロ断面積合成部と、
各燃料集合体の中性子輸送を、前記燃料棒格子メッシュ単位で計算する中性子輸送計算部と、
前記中性子輸送計算部における処理が、予め設定された最終ステップにおける処理であるか否かを判定する最終ステップ判定部と、
前記中性子輸送計算部における処理結果に基づいて、各燃料集合体の前記燃料棒格子メッシュ単位でミクロ燃焼を計算するミクロ燃焼計算部とを備えており、
前記最終ステップ判定部において最終ステップであれば計算を終了し、最終ステップでなければ、前記ミクロ燃焼計算部へ進んだ後、前記マクロ/ミクロ断面積合成部に戻り、前記中性子輸送計算部へと進むように構成されていることを特徴とする炉心解析装置である。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、炉心解析のさらなる効率化を図ることが可能となる炉心解析技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る炉心解析の手順を示すフローチャートである。
【
図2】本発明を適用した場合の解析精度を確認する手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図2に示す解析精度の確認において使用した燃料集合体の炉心内の位置(幾何形状)を示す図である。
【
図4】本発明を適用した場合の解析精度の確認結果を示すグラフである。
【
図5】従来の炉心解析の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、実施の形態に基づき、本発明を具体的に説明する。
【0038】
1.従来の炉心解析方法
本発明の実施の形態について説明するに先立って、本発明の理解を助けるために、従来の炉心解析方法について、具体的に説明する。
【0039】
図5は、従来の炉心解析の手順を示すフローチャートである。なお、
図5には、本発明との差異が分かるように、炉心計算プログラムのフローチャートのみを記載している。
【0040】
(1)計算開始
炉心解析の開始に際して、まず、炉心データなどの計算に必要なデータおよび計算条件を取り込む。
【0041】
(2)燃料集合体核定数読み込みステップ(S21)
次に、記憶装置に予め記憶されている燃料集合体核定数の全てを読み込む。なお、この燃料集合体核定数は、炉心計算プログラムの開始に先立って、公知の燃料集合体計算プログラムに基づいて、核燃料仕様が独立した全ての燃料集合体の各々に対して作成された後、記憶装置に記憶された各燃料集合体核定数である。
【0042】
(3)マクロ断面積合成ステップ(S22)
次に、読み込まれた各燃料集合体核定数に基づいて、装荷予定の各燃料集合体の状態量に応じた粗メッシュのマクロ断面積の合成を行う。
【0043】
(4)中性子輸送計算ステップ(S23)
次に、合成された粗メッシュのマクロ断面積に基づいて、粗メッシュにおける粗メッシュの中性子輸送を計算する。
【0044】
(5)最終ステップ判断ステップ(S24)
次に、上記で行った中性子輸送計算ステップが、最後の粗メッシュを対象とする最終ステップであるか否かを判断する。Yes(最終ステップである)と判断した場合には、計算終了へと進む。一方、No(最終ステップでない)と判断した場合には、次のステップS25へと進む。
【0045】
(6)マクロ燃焼計算ステップ(S25)
ステップS24において、Noと判断された時は、次に、この粗メッシュにおけるマクロ燃焼を計算し、その後、ステップS22に戻って、次の粗メッシュについて、マクロ断面積の合成を行い、ステップS23、S24へと進む。そして、ステップS24において、最終ステップであると判断されるまで、このループを繰り返す。
【0046】
以上のように、従来の炉心解析においては、全ての燃料集合体核定数について処理を行うために、計算時間や品質保証プロセスの長時間化、また、作成された多くの燃料集合体核定数を保存する記憶容量の増大化が避けられなかった。
【0047】
2.本実施の形態に係る炉心解析方法
これに対して、本実施の形態においては、特定の仕様組成を代表組成として、その燃料集合体核定数を作成した後、この特定の燃料集合体核定数を用いて、装荷予定の各燃料集合体の仕様組成に展開させることにより、炉心解析を行っている。
【0048】
図1は、本実施の形態に係る炉心解析の手順を示すフローチャートである。なお、
図1には、
図5と同様に、炉心計算プログラムのフローチャートのみを記載している。
【0049】
(1)計算開始
炉心解析の開始に際して、まず、従来と同様に、炉心データなどの計算に必要なデータおよび計算条件を取り込む。
【0050】
(2)燃料集合体核定数読み込みステップ(S1)
次に、記憶装置に予め記憶されている燃料集合体核定数を読み込む。なお、この燃料集合体核定数は、炉心計算プログラムの開始に先立って、公知の燃料集合体計算プログラムに基づいて、組成以外の仕様が独立した代表組成の燃料集合体について作成された後、記憶装置に記憶された燃料集合体核定数である。
【0051】
(3)原子数密度調整ステップ(S2)
次に、読み込まれた代表組成の燃料集合体の燃料集合体核定数に基づいて、装荷予定の各燃料集合体に対して、代表組成から仕様上の組成にするための原子数密度を調整する。なお、この原子数密度の調整に際しては、燃料棒単位に作成された原子数密度テーブルを用いる。そして、「仕様上の組成」とは、実際の核燃料組成と同じ燃料集合体の核燃料組成を指す。
【0052】
(4)マクロ/ミクロ断面積合成ステップ(S3)
次に、各燃料集合体の状態量およびステップS2において調整された原子数密度に応じて、各燃料集合体の燃料棒格子メッシュ単位でマクロ/ミクロ断面積の合成を行う。
【0053】
(5)中性子輸送計算ステップ(S4)
次に、合成された燃料棒格子メッシュ単位でのマクロ/ミクロ断面積に基づいて、各燃料集合体の燃料棒格子メッシュ単位で中性子輸送を計算する。
【0054】
(6)最終ステップ判断ステップ(S5)
次に、上記で行った中性子輸送計算ステップが、炉心の起動日などを基準とした最終ステップであるか否かを判断する。Yes(最終ステップである)と判断した場合には、計算終了へと進む。一方、No(最終ステップでない)と判断した場合には、次のステップS6へと進む。
【0055】
(7)ミクロ燃焼計算ステップ(S6)
ステップS5において、Noと判断された時は、次に、燃料棒格子メッシュ単位でミクロ燃焼を計算し、その後、ステップS3に戻って、再び、燃料棒格子メッシュ単位でのマクロ/ミクロ断面積の合成を行い、ステップS4、S5へと進む。そして、ステップS5において、最終ステップであると判断されるまで、このループを繰り返す。
【0056】
以上のように、本実施の形態においては、燃料集合体核定数を、設計基準日などの特定の組成に基づいて、代表組成の燃料集合体核定数として作成している。そして、炉心計算においては、この代表組成の燃料集合体核定数に基づいて、燃料棒毎に保有する各核種の原子数密度を、起動日などに応じて変更して、利用することにより、装荷予定の各燃料集合体の仕様組成へ展開して、炉心解析を行っている。
【0057】
このため、本実施の形態に係る炉心解析方法を適用することにより、従来と異なり、燃料集合体核定数の作成に要する計算量を大幅に減少させることが可能となり、作成された燃料集合体核定数の共通化を図ることが可能となることとも相俟って、炉心計算全体の計算時間や記憶容量の大幅な削減を図ることができ、炉心解析のさらなる効率化を図ることが可能となる。
【0058】
そして、本実施の形態においては、炉心計算全体の計算時間や記憶容量の大幅な削減を図りながらも、装荷予定の各燃料集合体の仕様組成への展開を炉心計算プログラムにおいて行うことにより、従来の炉心解析のように、燃料集合体計算プログラムにおいて燃料集合体の核燃料組成を厳密にして燃料集合体核定数を作成しなくても、十分に高い精度で、炉心計算を行って、効率的な炉心解析を行うことができる。また、上記したように、炉心計算プログラムへの入力も削減することができるため、精度の確認を行う品質保証のプロセスに要する時間も削減することができ、燃料種類の増加など、今後の燃料運用の複雑化に対する解決策として期待できる。
【0059】
特に、MOX燃料集合体の場合には、代表組成の燃料集合体核定数を1つだけ、1回作成することにより、炉心解析を行うことができるため、本実施の形態を適用することによる効果を顕著に発揮させることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下においては、上記した本実施の形態に係る炉心解析方法を適用した場合、従来と同程度の解析精度(品質保証)となることを確認している。
【0061】
図2は、上記した本実施の形態に係る炉心解析方法を適用した場合の解析精度を確認する手順を示すフローチャートであり、紙面右側が本実施の形態に係る炉心解析方法により解を得るフローチャート、紙面左側が従来の炉心解析方法により参照解を得るフローチャートである。なお、
図2におけるステップS11、S14が、1段階目の燃料集合体計算プログラムに基づく処理ステップであり、ステップS12、S15が、2段階目の炉心計算プログラムに基づく処理ステップである。
【0062】
この精度確認にあたっては、燃料集合体として、
図3に炉心内の位置(幾何形状)を示す仕様組成(1)の燃料集合体を使用した。この仕様組成(1)の燃料集合体は、PWR実用炉向けの17×17型MOX燃料集合体であり、燃料集合体計算プログラムの無限増倍率の燃焼特性に対する炉心計算プログラムの再現性を考慮して、MOX燃料集合体に関する検討において代表的に使用される組成及び富化度のうち、保守的に無限増倍率に対する感度が大きい低組成のMOX燃料集合体を用いている。
【0063】
具体的には、斜線で示す高富化度燃料棒176本、白抜きで示す中富化度燃料棒76本、交差する斜線で示す低富化度燃料棒12本を、
図3に示すように配置して、仕様組成(1)の燃料集合体を構成させた。なお、
図3において、×は制御棒案内シンブル(25本)である。
【0064】
(1)従来の炉心解析方法による処理
まず、
図2の紙面左側に示すフローチャートを参照して、従来の炉心解析方法による処理について説明する。
【0065】
最初に、ステップS11において、1段階目の燃料集合体計算プログラムを用いて、MOX燃料集合体が装荷される炉心の起動日などを基準として、仕様組成(1)に基づく燃料集合体核定数Aを作成する。このとき、前記したように、起動日が少しでも変わると、その都度、燃料集合体核定数Aを作成する。また、同一設計仕様であっても、異なるプラントへの装荷や、同一プラントの別サイクルに装荷された場合には、それぞれの状態について燃料集合体核定数Aを作成する。
【0066】
次に、ステップS12において、2段階目の炉心計算プログラムを用いて、装荷プラントやそのサイクル数、起動日に応じて、適切な核定数Aを指定して利用することにより、仕様組成(1)に対する二次元MOX燃料集合体についての燃焼計算を行う。
【0067】
次に、ステップS13において、この二次元MOX燃料集合体を用いて、参照解となる無限増倍率の燃焼特性、即ち、燃焼に伴う無限増倍率の変化を求める。
【0068】
(2)本実施の形態に係る炉心解析方法による処理
次に、
図2の紙面右側に示すフローチャートを参照して、本実施の形態に係る炉心解析方法による処理について説明する。
【0069】
最初に、ステップS14において、1段階目の燃料集合体計算プログラムを用いて、設計基準日などの特定の設計仕様の組成に基づいて、代表組成としての燃料集合体の燃料集合体核定数Bを、1つだけ、1回だけ作成する。
【0070】
次に、ステップS15において、2段階目の炉心計算プログラムを用いて、上記の燃料集合体核定数Bを指定し、燃料棒毎に保有する各核種の原子数密度を、起動日に応じて変更して利用、即ち、設計仕様日から燃料装荷日までの崩壊期間を変数として、崩壊期間に応じた各核種の原子数密度変化量を入力することにより、仕様組成(1)に対する二次元MOX燃料集合体についての燃焼計算を行う。なお、ここで、炉心計算プログラムは、1段階目の燃料集合体計算プログラムの無限増倍率を可能な限り再現するように設計されている。
【0071】
次に、ステップS16において、この二次元MOX燃料集合体を用いて、本実施の形態を適用した場合における無限増倍率の燃焼特性、即ち、燃焼に伴う無限増倍率の変化を求める。
【0072】
(3)比較
次にステップS13およびステップS16で得られた各無限増倍率の燃焼特性を比較する。
【0073】
図3に示す燃料集合体を用いて、上記の各ステップの処理を行うことにより得られた無限増倍率の燃焼特性の比較の結果を
図4に示す。なお、
図4において、実線2は参照解となる無限増倍率の燃焼特性、実線4は本実施の形態による無限増倍率の燃焼特性を示す。そして、
図4には、参考のために、代表組成のままの二次元MOX燃料集合体を計算して、無限増倍率の燃焼特性を求めた場合の結果が実線6で示されている。
【0074】
図4より、実線2と実線4とは殆んど一致しており、実際の組成とは異なる代表組成の核燃料組成の燃料集合体核定数を用いる本実施の形態に係る炉心解析方法を採用して炉心解析を行うことにより、従来の方法における実線6から実線2への補正と同様に、実線6から実線4へと適切に補正が行われて、実際の(放射線崩壊期間に応じた)組成と同じ核燃料組成を厳密に入力して作成した燃料集合体核定数を用いて行う従来の炉心解析方法と同程度の精度を有する炉心解析が可能であることが分かる。そして、放射線崩壊期間を10年と広くとった場合においても、本実施の形態に係る炉心解析方法は、十分な再現性を示すことが確認できた。
【0075】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。