(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】走行制御システム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20230524BHJP
B60W 30/10 20060101ALI20230524BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20230524BHJP
【FI】
G08G1/00 X
B60W30/10
G05D1/02 H
G05D1/02 P
(21)【出願番号】P 2019166761
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木谷 光博
(72)【発明者】
【氏名】飯室 聡
(72)【発明者】
【氏名】箕輪 利通
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 朋之
(72)【発明者】
【氏名】峯 博史
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-182745(JP,A)
【文献】特開2019-114056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30、30/00-60/00
B65G 61/00
G05D 1/00- 1/12
G06Q 10/00-10/10、30/00-30/08、
50/00-50/20、50/26-99/00
G08G 1/00-99/00
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律走行可能な作業車両の走行を制御する、走行制御システムであって、
前記作業車両の走行経路を記憶する走行経路記憶部と、
前記走行経路を基に、前記作業車両を走行させるための基準となる基準走行指令を算出する基準走行指令算出部と、
前記走行経路または前記基準走行指令からの逸脱に対する許容度を表す走行逸脱許容度を取得する走行逸脱許容度設定部と、
前記基準走行指令および前記走行逸脱許容度を基に、前記作業車両それぞれについて、個別走行指令を算出する個別走行指令算出部と、
を備え、
前記走行逸脱許容度は、前記走行経路における複数の前記作業車両の走行時間の差分情報を基に、前記走行経路の目標走行時間に関して定義される、走行制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の走行制御システムにおいて、
前記作業車両の静特性または動特性に関する情報を保持する走行特性記憶部を更に備え、
前記作業車両の走行時間は、前記走行経路記憶部に格納された前記作業車両の走行経路を基に、前記走行特性記憶部で保持される前記作業車両の静特性または動特性に関する情報に従って算出される、走行制御システム。
【請求項3】
自律走行可能な作業車両の走行を制御する、走行制御システムであって、
前記作業車両の走行経路を記憶する走行経路記憶部と、
前記走行経路を基に、前記作業車両を走行させるための基準となる基準走行指令を算出する基準走行指令算出部と、
前記走行経路または前記基準走行指令からの逸脱に対する許容度を表す走行逸脱許容度を取得する走行逸脱許容度設定部と、
前記基準走行指令および前記走行逸脱許容度を基に、前記作業車両それぞれについて、個別走行指令を算出する個別走行指令算出部と、
を備え、
前記作業車両の静特性または動特性に関する情報を保持する走行特性記憶部を更に備え、
前記作業車両それぞれの個別走行指令は、前記個別走行指令算出部において、
前記走行経路記憶部に格納された前記作業車両の走行経路と、
前記走行特性記憶部で保持される前記作業車両の静特性または動特性に関する情報と、
に従って、前記基準走行指令および前記走行逸脱許容度を基に、算出される、走行制御システム。
【請求項4】
自律走行可能な作業車両の走行を制御する、走行制御システムであって、
前記作業車両の走行経路を記憶する走行経路記憶部と、
前記走行経路を基に、前記作業車両を走行させるための基準となる基準走行指令を算出する基準走行指令算出部と、
前記走行経路または前記基準走行指令からの逸脱に対する許容度を表す走行逸脱許容度を取得する走行逸脱許容度設定部と、
前記基準走行指令および前記走行逸脱許容度を基に、前記作業車両それぞれについて、個別走行指令を算出する個別走行指令算出部と、
を備え、
前記走行逸脱許容度は、前記走行経路における複数の前記作業車両の走行時間の差分情報と、前記走行経路の距離情報とを基に、前記走行経路の目標走行速度に関して定義される、走行制御システム。
【請求項5】
請求項
4に記載の走行制御システムにおいて、前記走行逸脱許容度は、前記走行経路における速度の下限値または上限値の少なくともどちらか一つとして定義される、走行制御システム。
【請求項6】
自律走行可能な作業車両の走行を制御する、走行制御システムであって、
前記作業車両の走行経路を記憶する走行経路記憶部と、
前記走行経路を基に、前記作業車両を走行させるための基準となる基準走行指令を算出する基準走行指令算出部と、
前記走行経路または前記基準走行指令からの逸脱に対する許容度を表す走行逸脱許容度を取得する走行逸脱許容度設定部と、
前記基準走行指令および前記走行逸脱許容度を基に、前記作業車両それぞれについて、個別走行指令を算出する個別走行指令算出部と、
を備え、
前記走行逸脱許容度は、前記走行経路に係る走行可能領域に関して定義され、
前記個別走行指令は、操舵角またはヨー角に関して定義される、
走行制御システム。
【請求項7】
自律走行可能な作業車両の走行を制御する、走行制御システムであって、
前記作業車両の走行経路を記憶する走行経路記憶部と、
前記走行経路を基に、前記作業車両を走行させるための基準となる基準走行指令を算出する基準走行指令算出部と、
前記走行経路または前記基準走行指令からの逸脱に対する許容度を表す走行逸脱許容度を取得する走行逸脱許容度設定部と、
前記基準走行指令および前記走行逸脱許容度を基に、前記作業車両それぞれについて、個別走行指令を算出する個別走行指令算出部と、
を備え、
前記走行逸脱許容度は、操舵角に関する範囲またはヨー角に関して定義される、走行制御システム。
【請求項8】
請求項1に記載の走行制御システムにおいて、
前記基準走行指令算出部および前記走行逸脱許容度設定部は、第一のユニットとしてユニット化されて前記作業車両に設けられ、
個別走行指令算出部は、前記第一のユニットとは異なる第二のユニットとしてユニット化されて前記作業車両に設けられる、
走行制御システム。
【請求項9】
請求項
8に記載の走行制御システムにおいて、前記第一のユニットは前記第二のユニットに、少なくとも前記基準走行指令および前記走行逸脱許容度を送信する、走行制御システム。
【請求項10】
請求項1に記載の走行制御システムにおいて、前記作業車両の位置を推定する自車位置推定部をさらに備える、走行制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は走行制御システムに関し、とくに自律走行可能な作業車両の走行を制御するものに関する。
【背景技術】
【0002】
自律走行可能な作業車両は、たとえば鉱山で掘削した鉱石等を運搬する作業に用いられる。近年、露天掘り鉱山等において、掘削した鉱石等を搬送するダンプトラック等の複数の作業車両を無人運転化し、それぞれ自律運転させることで運用効率を向上させる自律運搬システム(AHS:Autonomous Haulage System)が採用されている。
【0003】
この自律運搬システムは、具体的には、複数の作業車両の動きを監視する管制制御装置を備えた管制局を有し、各作業車両はそれぞれ車両制御装置を有し、管制制御装置と各車両の車両制御装置との間で種々の情報を無線通信により交換することで、同時に複数の作業車両の走行を制御する。
【0004】
管制制御装置から各車両の車両制御装置に送信する情報には、例えば車両の車速情報、加速情報、減速情報、操舵情報等が含まれ、鉱山の路面状況や鉱石等の運搬量等に応じて如何に適切に各車両の走行を制御して自律運搬システムの運用効率を向上させるかが重要である。また、各車両の走行制御において、省燃費やタイヤ摩耗低減によって、燃料コストや車両メンテナンスコストを低減することも重要である。
【0005】
各車両の車両制御装置は、その省燃費走行やタイヤ摩耗低減を実現するために、各車両で仕様の異なる様々な最適走行制御機能を導入している。例えば、走行路情報との関係から無駄な加速および減速を抑制するための走行制御として、勾配路走行における、運動エネルギーおよび位置エネルギーを有効活用した加減速制御、横滑り防止を活かした操舵制御、車体安定化制御を活かした悪条件環境下での速度制御、将来減速することを予め認識できている場合に早めにアクセルをオフにする制御、といった制御がある。これらの走行制御は、各車両の固有の走行特性を考慮されたものであり、各車両で共通の走行制御機能を導入することは困難である。
【0006】
各車両における走行制御に関連して、特許文献1には、設定された目標走行速度に従って鉱山を走行するように制御される無人の作業機械が、路面の状態が悪い、交差点近傍である、鉱山搬送路が狭くなっている、などの理由により、走行速度が低速に制限された領域を走行するにあたって、減速のために駆動力を一旦低下させた後、駆動力を回復させても定速走行に直ちに戻すことができなくなる課題に対して、目標走行速度と一部異なる走行制御をすることで、目標走行速度に対する走行速度低下を抑制する発明が開示されている。
【0007】
鉱山等では、通常は管制制御装置は掘削場所と放土場所との間で一定の走行経路を往復するように作業車両を制御していることから、各車両は同一の走行経路上を間隔を空けながら一列で走行する。また一方、鉱山等では、様々な仕様の作業車両が使用されており、車両毎に最大車速性能、加速性能、減速性能等の静特性、及び、時定数(車両特性、操舵特性等)や慣性モーメント等の動特性が異なっていることが多い。これより、管制制御装置は、車両毎に特性の異なる複数の作業車両が一定の走行経路上で車両同士が干渉することなく走行できるように走行計画を立てて、各車両の走行を一括管理することになる。
【0008】
また、先行車両による待機時間に関する公知技術の例として、特許文献2には、「作業車両の位置情報と、速度情報と、停止を要する停止時間情報とに基づいて、後方車両が現行の速度で走行し前方で停止する作業車両に追いつくと予測される場合に、停止する作業車両の後方で後方車両が待機する待機時間を演算する」という技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-142690号公報
【文献】特開2004-145386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の技術では、仕様の異なる車両に対して共通の走行制御を行うのが困難であるという課題があった。
【0011】
たとえば特許文献1の技術では、車両同士が干渉することなく走行できるような走行計画を管制制御装置が立てるが、各作業車両がこの走行計画から逸脱して個別に走行速度を調節するので、作業車両間の間隔が過度に短くなったり長くなったりして走行計画が破綻する場合がある。
【0012】
一方、設定された走行指令通りに各作業車両を制御しようとした場合には、その走行指令は仕様の異なる全ての作業車両に対して最適なものでない可能性があるので、走行指令と実際の走行実績の間で差異が生じたり、省燃費走行やタイヤ摩耗低減といった、各作業車両固有の特性を活かした走行制御ができなくなる場合がある。
【0013】
また、特許文献2の技術では、先行車両の位置および速度を基準として後続車両の走行制御を行っており、先行車両に遅れが発生すると後続車両の挙動に影響する。
【0014】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、仕様の異なる車両に対して共通の走行制御をより適切に行う走行制御システムを提供することである。
【0015】
たとえば、異なる静特性および動特性を有し、または異なる最適走行制御機能を有するような、仕様の異なる複数の作業車両が混在する場合であっても、各車両個別の最適走行制御機能を用いて省燃費走行やタイヤ摩耗低減を図りつつ、全体の走行計画を遵守することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明に係る走行制御システムの一例は、
自律走行可能な作業車両の走行を制御する、走行制御システムであって、
前記作業車両の走行経路を記憶する走行経路記憶部と、
前記走行経路を基に、前記作業車両を走行させるための基準となる基準走行指令を算出する基準走行指令算出部と、
前記走行経路または前記基準走行指令からの逸脱に対する許容度を表す走行逸脱許容度を取得する走行逸脱許容度設定部と、
前記基準走行指令および前記走行逸脱許容度を基に、前記作業車両それぞれについて、個別走行指令を算出する個別走行指令算出部と、
を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る走行制御システムによれば、仕様の異なる車両に対して共通の走行制御をより適切に行うことができる。
【0018】
たとえば、複数の作業車両について予め策定された全体的な走行計画を破綻させることなく、各作業車両固有の走行特性およびその特性を考慮した個別の走行制御を活用することができる。このため、たとえば作業車両間の干渉が回避できる。または、たとえば、作業車両それぞれにとって最適な走行制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態1に係る作業車両制御システムが用いられる状況の例を示す図である
【
図3】走行経路の連続する2つの区間を模式的に示す図である
【
図4】作業車両制御システムの全体処理フローを示す図である
【
図5】走行経路を区間に分割する方法の例を示す図である
【
図6】従来の制御と、本発明に係る制御との相違の例を示す図である
【
図7】従来の制御と、本発明に係る制御との相違の別の例を示す図である
【
図8】走行逸脱許容度の設計方法の例を示す図である
【
図9】従来の制御と、本発明に係る制御との相違のさらに別の例を示す図である
【
図10】作業車両制御システムのより詳細な構成を示すブロック図である
【
図11】個別走行指令算出部の更に詳しい処理の処理フローを示す図である
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施の形態1]
実施の形態1に係る作業車両制御システムは、たとえば露天掘り鉱山において用いられる。鉱山には、掘削した鉱石等を搬送する複数の作業車両(例としてダンプトラックであるが、これに限らない)が配備される。作業車両は自律走行可能であり(すなわち、運転手が不在となる無人運転が可能であり)、作業車両制御システムは各作業車両を自律運転させる自律運搬システム(AHS:Autonomous Haulage System)を含んで構成されている。
【0021】
図1に、実施の形態1に係る作業車両制御システムが用いられる状況の例を示す。露天掘り鉱山は、積込場101と、駐機場102と、放土場103とを含み、これらは搬送路104によって接続される。
【0022】
鉱山において、複数の作業車両DTが搬送路104上を走行する。作業車両DTは、鉱物や表土等の搬送対象物を搬送する。作業車両DTは、積込場101において搬送対象物を積み込み、放土場103まで搬送し、放土場103で搬送対象物を積み下ろす。
【0023】
交通管制システムは管制局105を備える。管制局105はたとえば駐機場102に配置される。管制局105には管制制御装置10が配置される。管制制御装置10と各作業車両DTとは通信可能に構成される。通信はたとえば無線通信ネットワーク106を介して行われ、管制制御装置10はこれによって作業車両DTの走行を制御する。
【0024】
作業車両DTは、地表に対する自車の位置を取得してもよい。この機能は、公知の全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation System)の航法衛星107との通信を介して実現されてもよい。
【0025】
図2は、本発明に係る作業車両制御システムの概略構成を示したものである。
作業車両の制御システムは、管制局105に設けられた管制制御装置10と、複数の作業車両DTそれぞれに搭載された制御装置群とを備える。各作業車両DTの制御装置群は、自律運転制御装置20および車両制御装置30を含む。自律運転制御装置20および車両制御装置30は、本実施形態に係る走行制御システムを構成する。この走行制御システムは、各作業車両DTの走行を制御する。
【0026】
自律運転制御装置20および車両制御装置30は、それぞれユニット化されている。「ユニット化」の意味は当業者が適宜定義可能であるが、たとえば、各制御装置はハードウェアの単位として構成され、メンテナンス時に独立して取り付けおよび取り外し作業が可能となるよう設計される。たとえば、自律運転制御装置20および車両制御装置30は、それぞれコンピュータを備え、コンピュータは、プロセッサ等の演算手段と、半導体メモリ等の記憶手段と、入出力インタフェース等の入出力手段とを備える。
【0027】
管制制御装置10は、各作業車両DTの走行計画を策定してもよい。走行計画は、たとえば複数の作業車両DTに対する配車計画に基づいて策定されてもよい。また、管制制御装置10は、自律運転制御装置20との間で無線通信を行うことにより、各作業車両DTの走行状態を監視してもよいし、各作業車両DTに走行指令を送信してもよい。
【0028】
作業車両DTが走行する走行経路は予め定められ、管制制御装置10、自律運転制御装置20または車両制御装置30に記憶される。走行経路は、複数の区間(走行区間または閉塞区間と呼ばれる場合もある)に区分けされていてもよい。また、管制制御装置10は、走行経路および各区間を地図上に配置して表した経路マップを記憶してもよい。
【0029】
管制制御装置10は、作業車両DT同士が互いに接触しないように制御してもよい。例えば、一つの区間では1台の作業車両DTのみが走行するように、各作業車両DTを制御する。また、一つの区間に複数台の作業車両DTが走行できるように制御し、作業車両DTが干渉しそうになったら減速や停車指令を出すことにより作業車両DT同士が互いに接触しないように制御してもよい。
【0030】
図3は、管制制御装置10に記憶される経路マップの一部の例を示す。
図3には、走行経路の一部において、連続する2つの区間S1およびS2が模式的に示されている。
図3には2台の作業車両DT(それぞれDT1、DT2と示す)が示されている。この例では、管制制御装置10は、各区間についてそれぞれ1台の作業車両DTのみ走行を許可し、1つの区間内に複数の作業車両DTが走行することを禁止する。
【0031】
なお、走行経路または経路マップは複数のノードNを含んでもよい。各ノードNは走行経路の指標となる。
図3の例では、複数のノードNが所定の間隔を有して一列に表示されている。走行経路の各区間の長さ(距離)は、含まれるノードNの数を基準として定義されてもよい。また、各区間の始端および終端は、いずれかのノードNによって定義されてもよい。なお、「ノード」とは、たとえば走行経路または区間に含まれる地点として定義されるが、走行経路または区間に含まれる2地点間の経路として定義されてもよく、これは本発明の実施において本質的な相違ではない。
【0032】
管制制御装置10は、各作業車両から、当該作業車両の現在の位置情報を受信してもよい。また、受信した現在の位置情報に基づき、各作業車両に対して走行すべき区間を指定してもよい。これにより、各作業車両は何れかの区間を許可されて走行する。
【0033】
管制制御装置10は、各作業車両の位置情報に基づき、その作業車両が現在走行している区間における残距離(作業車両の位置から区間の終端までの距離)を取得してもよい。また、管制制御装置10は、ある区間において残距離が所定値となる地点に作業車両が到達したことを認識すると、当該区間に連続する次の区間の走行可否を演算処理し判定してもよい。たとえば、次の区間内に別の作業車両が存在していることを検出している場合には、次の区間の走行を禁止する。この場合には、作業車両は現在走行している区間の終端で一旦停止するように制御されてもよく、その場合には、残距離が所定の停止可能距離となる地点で減速を開始するよう制御されてもよい。一方、次の区間において何れの作業車両も検出されていない場合には、次の区間の走行が許可される。この場合には、作業車両は減速することなく次の区間に移行することができる。
【0034】
管制制御装置10は、走行経路の区間毎に、自律運転制御装置20に第1レベル指令を送信してもよく、自律運転制御装置20はこれを受信してもよい。自律運転制御装置20は、受信した第1レベル指令に基づいて、区間毎に第2レベル指令を生成し、車両制御装置30に送信してもよい。第2レベル指令は、たとえば当該区間内のノード毎に構成され、たとえば目標走行速度および目標操舵角を含む。第2レベル指令は、受信した第1レベル指令の他に、経路マップ、リアルタイムの路面状態、等を含む様々な情報(走行環境情報)に基づいて決定されてもよい。
【0035】
車両制御装置30は、自律運転制御装置20から受信した第2レベル指令に基づき、作業車両の各装置を駆動するための走行制御値を決定してもよい。走行制御値は、操舵角、ブレーキ開度、アクセル開度、等を含んでもよい。走行制御値によって作業車両の走行制御が実現される。
【0036】
また、車両制御装置30は、複数の作業車両について共通に算出された走行制御値を、各作業車両について個別に記憶される情報(車両仕様等)に基づいて補正する機能を備えてもよい。また、車両制御装置30は、各作業車両について個別に記憶される情報に基づき、その作業車両固有の走行制御値を決定する機能を備えてもよい。
【0037】
図4は、
図2の作業車両制御システムの全体処理フローを示したフローチャートである。本処理フローの実行は、各作業車両に対する運行計画が策定された後に開始される。運行計画とは各車両の配車計画および走行経路やタスクを計画したものである。
【0038】
まずステップS300において、各作業車両に対する運行計画に基づいて全体の走行計画が決定される。ステップS300は、人間の管理者によって実行されてもよいし、管制制御装置10によって自動的に実行されてもよい。ステップS300において、先ずはじめに、出発地点から目的地点までの走行経路を複数の区間に分割する。区間の分割の際、各区間毎の作業車両の走行時間がほぼ均一になるようにする。均一にすることで、各区間毎に1台のみ走行許可した場合、車両間の干渉を抑制できる。
【0039】
図5は、走行経路をn個(ただしnは2以上の整数)の区間に分割する方法の一例を示す。
図5の縦軸は距離を表し、横軸は時間を表す。区間Sk(ただしkは1≦k≦nとなる整数)が順に配列されている。また、各区間Skに含まれるノードNが表示されている。実線ERgenは、ある作業車両が走行経路を走行した場合の、時間経過と走行場所の関係をプロットしたものである。
【0040】
区間Skは、たとえば作業車両の走行時間が全区間についてなるべく均一になるように分割される。たとえば、ERgenの時間軸方向のサイズをnで除算し、1区間あたりの時間を算出する。時間軸をこの1区間あたりの時間で区分し、それぞれ等しい長さを持つ時間帯Tkを決定する。ERgenに基づき、各時間帯Tkに対応する距離軸の区間Skを決定する。
【0041】
区間ごとまたはノードごとに、走行目標走行速度が決定される。このような分割方法によれば、作業車両が高速に走行できるエリアでは1区間の距離が長くなり、低速にしか走行できないエリアでは1区間の距離が短くなる。
【0042】
なお、ERgenは、1台の作業車両に基づいて決定されるものであってもよいが、作業車両毎の個体差や、各車種における走行特性の違いを考慮して、複数台の作業車両の走行実績に基づいて決定されても良い。複数台の作業車両を用いる場合は、一例として各実績情報の平均値や中央値や最低値(目的値までの到着時刻が最も遅かった作業車両の走行実績)として算出する方法がある。また、走行実績ではなく、作業車両の走行制御モデルから走行シミュレーションによって算出しても良い。更には、走行経路情報と作業車両の走行特性から机上で見積もっても良い。なお、前述の走行特性とは、最大車速性能、加速性能、減速性能等の静特性、及び、時定数(車両特性、操舵特性等)や慣性モーメント等の動特性を指す。
【0043】
続いて、ステップS301に遷移し、走行逸脱許容度が決定される。ステップS301は、人間の管理者によって実行されてもよいし、管制制御装置10によって自動的に実行されてもよい。走行逸脱許容度は、目標となる走行に対する実際の走行のずれの許容度を表す情報である。走行逸脱許容度は、目標走行時間に関して定義されてもよいし、目標走行速度に関して定義されてもよいし、目標操舵角に関して定義されてもよいし、目標ヨー角に関して定義されてもよい。また、走行逸脱許容度は、目標となる走行に対する実際の走行のずれの絶対値の上限を表す値であってもよいし、目標となる走行に対する実際の走行のずれの範囲を表す値であってもよい。走行逸脱許容度は、すべての作業車両について共通となる内容に設定されてもよい。
【0044】
走行逸脱許容度を、走行経路における各作業車両の走行時間の差異に関して定義すると、相前後する作業車両間の干渉を防ぐことができる。各作業車両が指令された走行目標走行指令通りに走行することができれば、作業車両間の距離間隔は出発地点から目的地点まで走行計画時に設計したものと同じになり、走行計画が正常に遂行される。ここで、実際には目標走行指令と走行実績との間には差異があるが、差異が発生した場合においても、システム全体の走行計画が破綻しないような、走行目標走行指令のマージン値として、走行逸脱許容度を設計することができる。
【0045】
図6に、従来の制御と、走行逸脱許容度を用いた本実施形態に係る制御との相違の例を示す。
図6(a)は従来の制御による例を表し、この例では作業車両固有の走行制御が行われる。
図6(b)は、本実施形態による走行逸脱許容度を設定した例を表す。
【0046】
図6(a)では、区間S1において、車両制御装置30に対する目標走行速度Vtと、実際に走行した結果としての実績走行速度Vrとで差異が発生している。車両制御装置30は、区間S1の最後のノードv5で低速走行しなければならないことを予め認識し、それより前のノードv3およびv4でアクセルオフ操作を実施する。
【0047】
このように、目標となる走行から逸脱させるような操作は、結果のバランスを考慮することが重要である。たとえば、
図6(a)の例では、早期のアクセルオフにより燃費が向上するという利点がある一方で、実績走行時間は、逸脱量T1diffだけ長くなるという欠点もある。従来の技術では、全作業車両に共通の目標走行速度Vtを送信し、車両制御装置30はこれに基づいて、作業車両ごとに異なる逸脱を行わせていた。このため、逸脱の結果のバランスを単一の作業車両でしか判断することができなかった。
【0048】
本実施形態に係る
図6(b)の例では、区間S1において、走行逸脱許容度Tm(S1)が設定されている。この走行逸脱許容度Tm(S1)は、たとえば各作業車両がこの範囲内で走行すれば全体の走行計画が破綻しないような値として、予め決定されている。車両制御装置30は、目標走行速度Vtと、走行逸脱許容度Tm(S1)とに基づいて作業車両を走行させる。
【0049】
たとえば車両制御装置30は、アクセルオフ操作の逸脱程度(たとえばアクセルオフ操作を開始する時刻の、目標からのずれ)に基づいて、実績走行時間の逸脱量を算出する機能を備える。そして、より早期に(たとえばノードv2において)アクセルオフ操作を開始した場合であっても、実績走行時間の逸脱量T1diff2は走行逸脱許容度Tm(S1)以下であると判断し、結果としてノードv2からアクセルオフ操作を開始する。このようにして、従来の技術(
図6(a))に比べてさらに燃費を向上させつつ、従来の技術と同様に走行計画の破綻を回避することができる。
【0050】
図7に別の例を示す。
図7(a)は従来の制御による例を表し、
図7(b)は、本実施形態による走行逸脱許容度を設定した例を表す。この例は、作業車両の加速性能が低く、目標通りの加速ができない場合に対応する。
【0051】
図7(a)の例では、車両制御装置30は、ノードv4において加速が必要であることを認識するが、一方で、車両固有の特性として加速性能が低く、ノードv4に入ってから加速を開始したのでは走行に遅れが発生することも認識する。ここで、この作業車両については、目標より1区間だけ早く加速を開始することが許容されているとする。車両制御装置30は、早めのノードv3で加速操作を開始する。しかしながら、結果として実績走行時間の逸脱量T1diffが大きくなり、計画を破綻させてしまう(たとえば後続の作業車両の一時停車が必要となり、作業に遅れが発生する)。
【0052】
本実施形態に係る
図7(b)の例では、区間S1において、走行逸脱許容度Tm(S1)が設定されている。このTm(S1)の値は、全体の走行計画を破綻させないように設定されている。車両制御装置30は、加速操作の逸脱程度(たとえば加速を開始する時刻の、目標からのずれ)に基づいて、実績走行時間の逸脱量を算出する機能を備える。車両制御装置30は、ノードv3で加速を開始した場合には逸脱量が大きく、走行計画の破綻を回避できないが、ノードv2で加速を開始した場合の逸脱量T1diff2は比較的小さく、走行計画の破綻を回避できると判断し、結果としてノードv2から加速操作を開始する。このようにして、走行計画の破綻を回避することができる。
【0053】
本実施形態によれば、
図6および
図7に例示するような走行逸脱許容度を、作業車両すべてに対して共通に設定することができる。このため、作業車両に仕様の異なるものが混在していても、各作業車両の車両制御装置30において走行逸脱許容度の範囲内で個別に異なる制御を行うことが可能になる。
【0054】
たとえば、複数の作業車両について予め策定された全体的な走行計画を破綻させることなく、各作業車両固有の走行特性およびその特性を考慮した個別の走行制御を活用することができる。このため、たとえば作業車両間の干渉が回避できる。または、たとえば、作業車両それぞれにとって最適な走行制御が可能となる。このように、仕様の異なる車両に対して共通の走行制御をより適切に行うことができる。
【0055】
なお、
図6および
図7では、効果の例として燃費の向上および走行計画の破綻回避を説明したが、これらは単なる例示であって必須のものではない。どういった要素を重視し、そのため走行逸脱許容度を、誰が(たとえば人間またはコンピュータが)どのように決定するかは、システム全体の管理者等が適宜設計することができる。
【0056】
続いて、走行逸脱許容度の設計方法の例について、
図8を用いて説明する。
図8は、走行逸脱許容度の算出に関する一例を示したものである。
図8の縦軸および横軸は
図5のものと同様である。実線ERfastは、走行経路の走行所要時間が最小となる作業車両について時間経過と走行場所の関係をプロットしたものである。また実線ERslowは、走行経路の走行所要時間が最大となる作業車両について、時間経過と走行場所の関係をプロットしたものである。
【0057】
この例では、走行逸脱許容度は、走行経路の(または区間ごとの)目標走行時間に関して定義される。とくに、走行経路(または区間)における複数の作業車両の走行時間の差分情報を基に定義される。たとえば、最も遅い作業車両の直ぐ後ろを最も速い作業車両が走行するものと想定する。すなわち、走行逸脱許容度を適切に設定すれば、最も遅い作業車両の直ぐ後ろを最も速い作業車両が走行したとしても、作業車両同士が干渉しないようになる。
【0058】
区間Sk毎に定義される走行逸脱許容度Tm(Sk)は、たとえば、
Tm(Sk)={(Tslow-Tfast)}/n+α(但し、k=1,2,…,n)
… (式1)
で算出される。なお、TslowはERslowにて示す最も遅い作業車両の走行所要時間であり、TfastはERfastにて示す最も速い作業車両の走行所要時間であり、αは定数の時間調整値である。
【0059】
このように、走行所要時間の差分値を区間数nで除算することで、各区間毎の走行目標走行指令に対する走行所要時間のマージン値が算出できる。すなわち、最も遅い作業車両の直ぐ後ろを最も速い作業車両が走行した場合でも干渉を回避することが期待できる。また、算出されたマージン値に、干渉回避の確度を上げるための任意の時間調整値αを加算しても良い。
【0060】
管制制御装置10は、(式1)の各変数を取得し、これに基づいて走行逸脱許容度Tm(Sk)を自動的に算出してもよい。
【0061】
このように、走行逸脱許容度を目標走行時間に関して定義すると、走行時間の管理をより適切に行うことができる。
【0062】
また別の例として、走行逸脱許容度は、走行経路の(たとえば区間ごとの)目標走行速度に関して定義されてもよい。ある例では、走行逸脱許容度は、走行経路における複数の作業車両の走行時間の差分情報と、走行経路(または区間)の距離情報とを基に定義される。たとえば
図6(b)に示すように、目標走行速度Vtと実績走行速度Vrとの差分V1diffの上限を走行逸脱許容度としてもよい。
【0063】
また、以下の例のように走行逸脱許容度を定義してもよい。区間Sk毎に走行速度に関して定義される走行逸脱許容度Vllは、
Vll(Sk)=L(Sk)/(Tk+Tm(Sk)) … (式2)
で算出される。L(Sk)は区間Sk(k=1,2,…,n)毎の距離を表し、TkはERgen等を参照して前述した区間毎の走行所要時間であり、Tm(Sk)は(式1)を用いて算出される値である(上述の例では(式1)の値そのものを走行逸脱許容度としていた)。本例でのVll(Sk)は、各作業車両が区間Sk毎に走行実績とすることができる下限速度となる。
【0064】
また、走行逸脱許容度は、走行経路(または区間)における速度の下限値または上限値の少なくともどちらか一つとして定義されてもよい。たとえば
図6(b)に示すように、走行逸脱許容度として速度の下限値Vminが定義されてもよく、速度の上限値Vmaxが定義されてもよく、双方が定義されてもよい。
【0065】
管制制御装置10は、(式1)および(式2)の各変数を取得し、これに基づいて走行逸脱許容度Vll(Sk)を自動的に算出してもよい。
【0066】
このように、走行逸脱許容度を目標走行速度に関して定義すると、走行速度の管理をより適切に行うことができる。
【0067】
なお、走行逸脱許容度を走行経路全体から算出するのではなく、区間Sk毎に、それぞれ最も遅い作業車両の走行所要時間と、最も速い作業車両の走行所要時間との差分値を用いて算出する方法もある。直線路、曲線路、勾配、路面状態が悪い、といった様々な走行環境に応じて、各車種の走行実績は変わってくるため、車種や走行環境によっては、区間毎に算出するほうがより正確な走行逸脱許容度を算出できる場合がある。
【0068】
さらに別の例として、走行逸脱許容度の算出方法として、最も遅い作業車両の直ぐ後ろを、m番目に速い作業車両が走行するシナリオを考えるようにしても良い(ただしmは2以上の整数)。走行逸脱許容度の算出方法は上述したものと同じである。ただし、m番目に速い作業車両より速い作業車両(すなわち、1≦p<mとなる整数pについてp番目に速い作業車両)に対しては、速度の下限または時間の上限のみならず、m番目に速い作業車両に合わせた速度の上限または時間の下限を設定してもよい。
【0069】
このようにすることで、全作業車両の中で一車種だけ突出して速い作業車両が存在する場合であっても、走行逸脱許容度の設定値が大きくなることによるシステム全体の走行効率の低下を抑制できる。
【0070】
次に、以上のようにして決定される走行逸脱許容度を活用した走行制御の例を
図6(b)および
図7(b)を用いて説明する。先ず、
図6(b)について、走行逸脱許容度Tm(S1)が設定される。車両制御装置30は、実績走行時間が、目標走行時間T1と走行逸脱許容度Tm(S1)との合計値以下に収まるように、目標走行速度指令と異なる速度制御を行うことができるようになる。
【0071】
ここで、走行逸脱許容度を用いていない
図6(a)(従来技術)と比べて、目標走行速度指令と異なる速度制御ができる点は同じだが、
図6(a)では、走行逸脱許容度を認識せずに制御しているため、燃費の改善が十分でない。一方、
図6(b)は走行逸脱許容度の範囲内でさらに燃費を改善することができる。
【0072】
走行逸脱許容度は、時間として表現されたTm(S1)ではなく、速度で表現されたVll(S1)であっても良い。たとえば、車両制御装置30は、目標走行速度Vtに対してvll(S1)を下限値とする速度制御を行うことができ、その範囲内であれば走行計画の破綻を回避できる可能性が高まる。
【0073】
さらに走行逸脱許容度の別の速度情報としての表現として、各ノードの速度指令に対する速度偏差を走行逸脱許容度としてもよい。
【0074】
図9に、従来の制御と、走行逸脱許容度を用いた本実施形態に係る制御との相違の、さらに別の例を示す。
図9(a)は従来の制御による例を表し、
図9(b)は、本実施形態による走行逸脱許容度を設定した例を表す。この例は、作業車両の横滑りが発生しやすい場合に対応する。
【0075】
この例では、走行逸脱許容度は、走行経路(または区間)に係る走行可能領域に関して定義される。
図9(a)の例では、目標走行領域が幅のない走行線A1として定義されている。この走行線A1は曲率半径R1のカーブを含む。ある作業車両DTが要求される速度でカーブに進入する際に、曲率半径R1に対応する操舵を行うと横滑りが発生し、走行線A1を逸脱する。このような横滑りが発生すると安全面の問題が発生する。また、横滑り後の経路修正に時間を要し、走行計画の破綻等につながる可能性がある。
【0076】
一方、本発明の実施形態1に係る
図9(b)の例では、目標走行領域は、走行線A1の両側に幅Axを有する走行可能領域A2として定義されている。幅Axが走行逸脱許容度に対応する。このように走行可能領域A2の幅があると、車両制御装置30は、曲率半径R1より大きい曲率半径R2のカーブに沿って、すなわちより小さい操舵角で走行することができ、横滑りを防止できる可能性が高まる。
【0077】
走行可能領域A2の幾何学的形状に応じた適切な走行線の決定方法は、公知技術に基づいて適宜設計可能である。また、具体的な操舵角は、区間走行前に予め算出しておく必要はない。作業車両の走行実績または各時点での位置に応じて変化するので、走行実績を鑑みながら逐次算出するようにしても良い。
【0078】
このように、走行逸脱許容度を走行可能領域に関して定義すると、横滑りの防止をより的確に行うことができる。
【0079】
図9において、走行逸脱許容度は、操舵角に関する範囲に関して定義されてもよい。たとえば
図9(b)に示す地点Xにおいて、走行線A1に沿った経路では操舵角は0である。ここで、走行逸脱許容度を操舵角に関する範囲として定義し、たとえば地点Xにおいて曲率半径R2に対応する操舵角を含むような範囲に設定しておけば、
図9(b)に示すような走行が可能になる。
【0080】
また、走行逸脱許容度は、ヨー角に関して定義されてもよい。たとえば
図9(b)に示す地点Xにおいて、走行線A1に沿った経路ではヨー角は方向D1である。ここで、走行逸脱許容度をヨー角に関して定義し、たとえば地点Xにおいて方向D2を含むような範囲に設定しておけば、
図9(b)に示すような走行が可能になる。
【0081】
このように、走行逸脱許容度を操舵角に関する範囲またはヨー角に関して定義すると、横滑りの防止策をより具体的に設計することができる。
【0082】
走行逸脱許容度は、上記の具体例以外にも任意に定義可能である。更に、これらの走行逸脱許容度を複数組み合わせて使用することも考えられる。その場合、すべての走行逸脱許容度を満足する範囲内で、走行制御を行うようにしてもよい。また、上述したように下限値だけでなく上限値を走行逸脱許容度として設定するようにしても良い。
【0083】
以上のようにして、
図4のステップS301が実行される。
続いて、
図4のステップS302に遷移して、各ノード毎の基準走行指令が算出される。基準走行指令は、たとえば目標走行速度、目標操舵角、目標ヨー角、等を用いて表される。また、基準走行指令は、経路マップ情報や、その時の路面状態といった、リアルタイムな走行環境情報を考慮して算出されてもよい。
【0084】
そして、ステップS303において、走行逸脱許容度が自律運転制御装置20から車両制御装置30に送信される。続いてステップS304において、基準走行指令および走行逸脱許容度に基づき、走行実績が逸脱許容度の範囲内に収まるように、走行指令の再算出を行う。ここで再算出される走行指令は、作業車両個別の仕様を参照して算出される個別走行指令であり、たとえば基準走行指令と同様に速度、操舵角、ヨー角、等を用いて表される。とくに、個別走行指令は、操舵角またはヨー角に関して定義されてもよい。
【0085】
続いて、ステップS305において、走行制御指令の変換を行う。たとえば、ステップS304で算出された個別走行指令に基づき、作業車両の具体的な制御量を算出する。たとえば、速度に基づいてアクセル操作量およびブレーキ操作量を算出し、操舵角に基づいてステアリング操作角を設定する。
【0086】
ステップS306にて、ステップS305で算出された制御量(たとえば、アクセル操作量、ブレーキ操作量およびステアリング操作角)を用いて、作業車両の動作を制御する(たとえば、アクセル操作装置、ブレーキ操作装置およびステアリング装置の制御を行う)。そして本フローは終了となる。
【0087】
なお、ステップS302からステップS306までの処理は、走行許可区間が管制制御装置10から出力されるたびに繰り返し実行されてもよい。
【0088】
なお、本処理フローにおいて、ステップS300とステップS301は管制制御装置10にて処理され、ステップS304からステップS306は車両制御装置30にて処理される。一方、ステップS302は、たとえば自律運転制御装置20にて処理されるが、管制制御装置10で実行されても良い。
【0089】
図10は、
図2で示した本発明に係る作業車両制御システムの、より詳細な構成の例を示すブロック図である。とくに、管制制御装置10、自律運転制御装置20および車両制御装置30の内部構成をより詳細に示す。
【0090】
管制制御装置10は、システム全体走行計画部11と、走行経路記憶部12と、走行特性記憶部13と、走行逸脱許容度算出部14と、基本走行特性記憶部15と、走行計画通知部16とを備える。システム全体走行計画部11は、ステップS300を実行する処理部である。走行経路記憶部12は、作業車両の走行経路を記憶する記憶部であり、たとえば走行経路情報を格納することができる。
【0091】
走行経路情報は、走行経路に関する任意の情報を含むことができるが、たとえば、走行経路における各区間の始点および終点の位置、各区間における各ノードの始点および終点の位置、各区間または各ノードの制限速度、各ノードの曲率または曲率半径、および、各ノードの勾配を含む。走行経路情報は、作業車両を用いた測量によって生成されてもよいし、他の方法で生成されてもよい。また、走行経路情報は、システム全体走行計画部11や個別走行指令算出部31(後述)によって使用されてもよい。
【0092】
走行特性記憶部13は、作業車両それぞれについて、または、作業車両の車種それぞれについて、走行特性を格納する記憶部である。走行特性記憶部13に格納される走行特性とは、たとえば、前述した作業車両の静特性や動特性の内、最高車速性能といった公にされている基本特性を含む。
【0093】
走行逸脱許容度算出部14は、ステップS301を実行する処理部である。基本走行特性記憶部15は、作業車両のうち少なくとも一部について、または、作業車両の車種のうち少なくとも一部について、走行特性を格納する記憶部である。基本走行特性記憶部15に格納される走行特性は、走行特性記憶部13に格納されているものとは異なっていてもよく、たとえば公にされていないものを含めた静特性および動特性を含む。作業車両の走行時間は、走行経路記憶部12に格納された作業車両の走行経路を基に、走行特性記憶部13で保持される作業車両の静特性または動特性に関する情報に従って算出されてもよい。また、作業車両それぞれの個別走行指令は、個別走行指令算出部31(後述)において、走行経路記憶部12に格納された作業車両の走行経路と、走行特性記憶部13で保持される作業車両の静特性または動特性に関する情報と、に従って、基準走行指令および走行逸脱許容度を基に、算出されてもよい。
【0094】
走行計画通知部16は、システム全体走行計画部11で算出された区間や目標走行速度を自律運転制御装置20へ通知するための処理部である。
【0095】
自律運転制御装置20は、基準走行指令算出部21と、走行逸脱許容度設定部22とを備える。基準走行指令算出部21は、ステップS302を実行する処理部である。基準走行指令は、たとえば上述のように目標走行速度および目標操舵角に関する指令を含む。すなわち、基準走行指令算出部21は、走行経路を基に、作業車両を走行させるための基準となる基準走行指令を算出する処理部である。
【0096】
走行逸脱許容度設定部22は、ステップS303を実行する処理部である。すなわち、走行逸脱許容度設定部22は、管制制御装置10から走行逸脱許容度を取得し、これを設定する。ここで、
図6、7および9に関して説明したように、走行逸脱許容度とは、走行経路または基準走行指令からの逸脱に対する許容度を意味する。
【0097】
車両制御装置30は、個別走行指令算出部31と、自車位置推定部32と、走行制御指令変換部33と、作業車両走行制御部34と、ステアリング装置/ブレーキ操作装置/アクセル操作装置35とを備える。
【0098】
個別走行指令算出部31は、ステップS304を実行する処理部であり、すなわち、基準走行指令および走行逸脱許容度を基に、作業車両それぞれについて、個別走行指令を算出する処理部である。個別走行指令算出部31は、目標走行速度指令再算出部311と、目標操舵角指令再算出部312と、を備える。目標走行速度指令再算出部311および目標操舵角指令再算出部312は、ステップS304を実行する。
【0099】
個別走行指令算出部31の更に詳しい処理について、
図11の処理フローを用いて説明する。
図11の処理フローは、作業車両が自律走行を開始した後、周期的な処理として、または目標走行指令受信によるイベント駆動によって、繰り返し実行される。
【0100】
ステップS1000において、個別走行指令算出部31は基準となる目標走行速度指令および操舵角指令を自律運転制御装置20から受信して取得する。その後、ステップS1001において、個別走行指令算出部31は、走行経路記憶部12より走行経路情報を受信して取得する。走行経路情報は予め自律運転制御装置20や、車両制御装置30内に記憶されていても良い。
【0101】
そしてステップS1002において、個別走行指令算出部31は、自車位置推定部32より、作業車両の自車位置情報を受信する。次に、ステップS1003において、走行逸脱許容度設定部22より受信した走行逸脱許容度が、個別走行指令算出部31にセットされる。そして、ステップS1004において、目標走行速度指令再算出部311および目標操舵角指令再算出部312は、作業車両の走行制御指令値を再算出する。ここでは、たとえば、各車種の走行特性を考慮して、走行効率、省燃費、タイヤ摩耗抑制といった指標を優先して算出が行われる。
【0102】
この再算出の際には、作業車両の挙動等が、ステップS1003で設定された走行逸脱許容度(速度、操舵角、走行時刻、等に関して表される)によって規定される範囲を逸脱しないように算出される。そして、ステップS1004では、再算出された新たな目標走行速度指令や目標操舵角指令を用いて作業車両を走行制御することとなり、本フローを終了する。
【0103】
自車位置推定部32は、自車位置推定部32が搭載されている作業車両の位置を推定する。作業車両の位置はたとえば地球に対して表現される。推定はたとえばGPS情報に基づき行うことができる。また、ヨーレートセンサ、前後加速度センサ及び横加速度センサから得られる車両姿勢情報に基づいて推定値を補完し、GPSや各センサからの情報の誤差を除去し位置精度を向上してもよい。また、GPS情報が得られない場合には、車両姿勢情報のみに基づいて推定を行ってもよい。なお、GPS情報を用いずにLidarやカメラ等のセンサから得られる外界認識情報と地図情報とのマップマッチングを行うことで自車の位置を推定するようにしても良い。
【0104】
走行制御指令変換部33は、ステップS305を実行する処理部である。作業車両走行制御部34は、ステップS306を実行する処理部である。ステアリング装置/ブレーキ操作装置/アクセル操作装置35は、作業車両のエンジンやモータ等の駆動源の加減速操作を行うアクセル操作装置と、ブレーキの操作を行うブレーキ操作装置と、ステアリングの操作を行うステアリング装置との組を指す。
【0105】
以上、説明したように、本発明に係る走行制御システムによれば、仕様の異なる車両に対して共通の走行逸脱許容度を設定し、この走行逸脱許容度に基づいて、作業車両個別の仕様を参照した個別走行指令を算出するので、各車種共通の走行制御をより適切に行うことができる。
【0106】
より具体的な例として、鉱山等で掘削した鉱石等を搬送する無人運転化された複数の作業車両をそれぞれ自律運転させる自律運転システムにおいて、仕様の違いによって複数の作業車両の静特性及び動特性、更には走行制御計画が異なる場合であっても、走行速度の範囲または下限値、操舵角の範囲、目的地または区間までの走行時間の範囲または下限値の何れか一つ以上の組み合わせで表された走行逸脱許容度を設定し、その許容度の範囲内で各作業車両の固有の特性にあった速度、操舵角を算出して、作業車両の走行を制御するようにしている。
【0107】
これにより、各作業車両の固有の走行特性およびその特性を考慮した走行特性を活用するができ、制御システムを複雑化することなく、作業車両同士の干渉を防止しつつ、制御システムの運用効率を向上させることができる。
【0108】
また、先行車両に遅れが発生する場合でも、走行計画全体が破綻しない程度の遅れに抑えることができるので、後続車両の挙動に影響しない。
【0109】
とくに、基準走行指令算出部21および走行逸脱許容度設定部22は、自律運転制御装置20(第一のユニット)としてユニット化されて作業車両に設けられており、個別走行指令算出部31は、自律運転制御装置20とは異なるユニットである車両制御装置30(第二のユニット)としてユニット化されて作業車両に設けられている。また、自律運転制御装置20は車両制御装置30に、少なくとも基準走行指令および走行逸脱許容度を送信するように構成されている。
【0110】
これらのユニットは、着脱自在に各作業車両に搭載可能となるよう構成することができる。また、自律運転制御装置20は、コネクタを介して電気的に車両制御装置30と接続可能となるよう構成することができる。したがって、仕様の異なる複数の車種の作業車両が混在する場合であっても、自律運転制御装置20を全て共通化して全ての作業車両に搭載でき、汎用性の高い制御システムを構築することができる。なお、自律運転制御装置20を共通化する場合であっても、車両制御装置30については必ずしも共通化する必要はなく、仕様の異なる複数の作業車両に合わせて最適に設計・実装することができる。
【0111】
以上で本発明に係る作業車両の制御システムの実施形態の説明を終えるが、走行逸脱許容度の具体的な利用方法は、上記実施形態の
図6、7および9で説明したものに限られない。各作業車両固有の特性を活かすような他の走行制御計画の例でも、本発明を使用することができ、同様の効果を得ることができる。
【0112】
また、上記実施形態では、作業車両が作業車両である場合を例に説明したが、作業車両は作業車両に限られるものではない。
【符号の説明】
【0113】
10…管制制御装置
11…システム全体走行計画部
12…走行経路記憶部
13…走行特性記憶部
14…走行逸脱許容度算出部
15…基本走行特性記憶部
16…走行計画通知部
20…自律運転制御装置(走行制御システム、第一のユニット)
21…基準走行指令算出部
22…走行逸脱許容度設定部
30…車両制御装置(走行制御システム、第二のユニット)
31…個別走行指令算出部(311…目標走行速度指令再算出部、312…目標操舵角指令再算出部)
32…自車位置推定部
33…走行制御指令変換部
34…作業車両走行制御部
35…アクセル操作装置
A1…走行線
A2…走行可能領域
D1…方向(ヨー角)
D2…方向
DT(DT1,DT2)…作業車両
T1…目標走行時間
Tm…走行逸脱許容度
Vr…実績走行速度
Vt…目標走行速度
Vmax…速度の上限値
Vmin…速度の下限値