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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】摺動機構
(51)【国際特許分類】
   F16J 10/00 20060101AFI20230524BHJP
   F16J 9/26 20060101ALI20230524BHJP
   F02F 1/00 20060101ALI20230524BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
F16J10/00 A
F16J9/26 C
F02F1/00 R
F02F5/00 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019227760
(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公開番号】P2021095957
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】篠原 章郎
(72)【発明者】
【氏名】平山 勇人
(72)【発明者】
【氏名】樋口 毅
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】星川 裕聡
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-059544(JP,A)
【文献】特開2014-129826(JP,A)
【文献】特開2004-244709(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0292622(US,A1)
【文献】中国実用新案第208619241(CN,U)
【文献】国際公開第2014/133095(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 10/00
F16J 9/26
F02F 1/00
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と、該第1部材と摺動する第2部材とを組み合わせた摺動機構であって、
前記第1部材の摺動面は、Feを主成分として含み、質量%でCrを8%以上含む鉄系溶射皮膜により形成され、
前記第2部材は、前記第1部材の摺動面との摺動面が、実質的に水素を含まない非晶質炭素皮膜により形成され、
前記非晶質炭素皮膜のビッカース硬さが1100HV以上2100HV以下であり、かつ、前記非晶質炭素皮膜の塑性変形エネルギーWpの弾性変形エネルギーWeに対する比Wp/Weが0.60以上であることを特徴とする摺動機構。
【請求項2】
前記第1部材が内燃機関のシリンダであり、前記第2部材が前記シリンダの内周面と摺動する外周面を有するピストンリングである、請求項1に記載の摺動機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系溶射皮膜を形成した第1部材と硬質炭素皮膜を形成した第2部材とを組み合わせた摺動機構に関し、特に、内燃機関のシリンダと、該シリンダの内周面を摺動するピストンリングとを備えたシリンダとピストンリングとの組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車エンジンを中心とする内燃機関は、燃費の向上が強く求められている。そのため、小型化、軽量化、摩擦損失の低減等を目指した研究開発が幅広く行われている。例えば、シリンダには比重の小さいアルミニウム合金を採用し、ピストンリングの外周摺動面には低摩擦係数の硬質炭素皮膜を被覆することが試みられている。
【0003】
この硬質炭素皮膜としては、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon:DLC)と呼ばれる非晶質炭素が例示される。DLCの構造的本質は、炭素の結合としてダイヤモンド結合(sp3結合)とグラファイト結合(sp2結合)とが混在したものである。よって、DLCは、ダイヤモンドに類似した硬度、耐摩耗性、熱伝導性、化学安定性を有し、一方でグラファイトに類似した固体潤滑性を有することから、ピストンリングの保護膜として好適である。
【0004】
一方、アルミニウム合金シリンダには、ピストンリングと直接摺動する内周面に鋳鉄製ライナーを鋳包んだものや、当該内周面に鉄系合金粉末を溶射して鉄系溶射皮膜を形成したものがある。なかでも、熱伝達性能の向上によるボア温度全体の低減と均一性の改善や、ピストンリングに対する耐摩耗性及び耐スカッフ性の向上が期待されるシリンダボア溶射技術が注目を浴びている。
【0005】
特許文献1には、「通常のダイカストによるアルミ合金鋳物が利用できるシリンダボア溶射技術を用い、エンジンに高負荷がかかって過酷な摺動条件になっても、耐スカッフ性、耐摩耗性に優れ、低摩擦損失のシリンダボアとピストンリングの組合せを提供する」ことを課題として、「内燃機関のシリンダボアとピストンリングの組合せであって、前記シリンダボアはピストンリングとの摺動面に鉄系溶射皮膜を形成し、前記ピストンリングは外周摺動面に硬質炭素皮膜を形成し、前記鉄系溶射皮膜の表面の粗さ曲線におけるRpk値(JIS B 0671-2:2002)が0.20μm未満、前記硬質炭素皮膜のRpk値が0.15μm未満であることを特徴とするシリンダボアとピストンリングの組合せ」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-59544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料の燃焼後に生成されるガスには硫化物等の腐食物質が含まれており、燃焼回数が増えるにつれて、シリンダの内周面に腐食が発生することがある。そこで、この腐食の発生を抑えるために、シリンダの内周面に耐食性の高い高クロム含有の鉄系溶射皮膜を形成することが提案されている。しかしながら、この場合、内周面が鋳鉄ライナーや一般的な鉄系溶射皮膜で形成される場合と比べて、硬質炭素皮膜が形成されたピストンリングでは皮膜の摩耗量が大きくなってしまっていた。このような問題は、シリンダとピストンリングとの組み合わせに限らず、高クロム含有の鉄系溶射皮膜を形成した第1部材と硬質炭素皮膜を形成した第2部材とを組み合わせた摺動機構全般に当てはまるものである。
【0008】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、高クロム含有の鉄系溶射皮膜を形成した第1部材と硬質炭素皮膜を形成した第2部材との組み合わせにおいて、硬質炭素皮膜の摩耗量を低減することが可能な摺動機構を提供すること、特に、シリンダの内周面が耐食性の高い高クロム含有の鉄系溶射皮膜により形成されている場合であっても、ピストンリングの外周面を形成する硬質炭素皮膜の摩耗量を低減することが可能な、シリンダとピストンリングとの組み合わせを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意検討したところ、Crを8%以上含む高耐食性の鉄系溶射皮膜をボア面に有するシリンダに対しては、実質的に水素を含まず、ビッカース硬さが1100HV以上2100HV以下であり、かつ、塑性変形エネルギーWpの弾性変形エネルギーWeに対する比Wp/Weが0.60以上である非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)を外周面に有するピストンリングを組み合わせることによって、DLC皮膜の摩耗量を著しく低減することができるとの知見を得た。
【0010】
上記知見に基づき完成された本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)第1部材と、該第1部材と摺動する第2部材とを組み合わせた摺動機構であって、
前記第1部材の摺動面は、Feを主成分として含み、質量%でCrを8%以上含む鉄系溶射皮膜により形成され、
前記第2部材は、前記第1部材の摺動面との摺動面が、実質的に水素を含まない非晶質炭素皮膜により形成され、
前記非晶質炭素皮膜のビッカース硬さが1100HV以上2100HV以下であり、かつ、前記非晶質炭素皮膜の塑性変形エネルギーWpの弾性変形エネルギーWeに対する比Wp/Weが0.60以上であることを特徴とする摺動機構。
【0011】
(2)前記第1部材が内燃機関のシリンダであり、前記第2部材が前記シリンダの内周面と摺動する外周面を有するピストンリングである、上記(1)に記載の摺動機構。
【発明の効果】
【0012】
本発明の摺動機構は、高クロム含有の鉄系溶射皮膜を形成した第1部材と硬質炭素皮膜を形成した第2部材との組み合わせであって、硬質炭素皮膜の摩耗量を低減することが可能である。特に、本発明の摺動機構がシリンダとピストンリングとの組み合わせであれば、シリンダの内周面が耐食性の高い高クロム含有の鉄系溶射皮膜により形成されている場合であっても、ピストンリングの外周面を形成する硬質炭素皮膜の摩耗量を低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態によるシリンダとピストンリングとの組み合わせを示す模式図であり、(A)は、シリンダ10の断面図であり、(B)は、ピストンリング20の断面斜視図である。
図2】ナノインデンテーション試験で得られる典型的な荷重-押し込み深さ曲線を示すグラフである。
図3】実験例1の試験結果を示すグラフである。
図4】実験例2の試験結果を示すグラフである。
図5】実験例3の試験結果を示すグラフである。
図6】実験例4の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、第1部材と、該第1部材と摺動する第2部材とを組み合わせた摺動機構である。以下、本発明の一実施形態として、第1部材が内燃機関のシリンダであり、第2部材がピストンリングである、シリンダとピストンリングとの組み合わせについて説明する。本発明の一実施形態によるシリンダとピストンリングとの組み合わせは、図1(A),(B)を参照して、内燃機関のシリンダ10と、該シリンダ10の内周面12を摺動するピストンリング20とを備える。ピストンリング20は公知のピストン(図示せず)に外嵌され、ピストンがシリンダ10内を往復運動する際に、ピストンリング20の外周面22がシリンダ10の内周面12を摺動する。シリンダ10の内周面12は高クロム含有鉄系溶射皮膜14により形成される。ピストンリング20は、基材20A及び実質的に水素を含まない非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)28からなり、外周面22、内周面24、及び上下面26A,26Bの4面によってリング形状を呈し、外周面22がDLC皮膜28により形成される。
【0015】
(シリンダ)
シリンダ10において高クロム含有鉄系溶射皮膜14を形成する基材は特に限定されないが、例えば、一般的なアルミニウム合金を用いることができる。シリンダ10は、当該アルミニウム合金からなる基材の内周面に、クロム含有率の高い鉄系合金粉末を直接溶射して高クロム含有の鉄系溶射皮膜14を形成した、ライナーレスのシリンダとする。溶射は、プラズマ溶射、アーク溶射、高速フレーム溶射(HVOF,HVAF)等、特に限定しないが、鉄系合金のワイヤを使用するワイヤアーク溶射が経済的に優れており好ましい。
【0016】
本実施形態において、高クロム含有鉄系溶射皮膜14は、Feを主成分として含み、質量%でCrを8%以上含むものとする。後述の実験例1(図3)に示すように、鉄系溶射皮膜のCr量を8%以上とすることによって、シリンダ内周面12(すなわち高クロム含有鉄系溶射皮膜14)の腐食量を顕著に低減することができる。なお、SUS410と同等品の成分比率を有する溶射材で溶射した皮膜がより好ましい。
【0017】
例えば、上記のような高クロム含有鉄系溶射皮膜14の中でも特に、質量%で、C:1.2%以下及びCr:10.5%以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有するステンレス溶射皮膜を採用することが好ましい。また、C量は0.3%以下であるとより好ましい。燃料の燃焼時には硫化物や窒化物などが発生する。特に近年は、排気ガス再循環(EGR)装置などで排ガス中に存在する硫化水素ガスなどにより、吸気ガス中にも腐食性ガスが含まれる場合がある。それゆえ、シリンダ内周面は、従前よりも高い濃度の腐食性ガスに曝される場合がある。このため、シリンダ内周面の腐食が進みやすい傾向にある。そこで、シリンダ内周面の耐腐食性を向上させるために、シリンダ内周面には腐食が発生しにくいステンレス溶射皮膜を被覆することが好ましい。なお、ステンレス溶射皮膜の成分組成は、質量%で、C:0.15%以下、Si:1.00%以下、Mn:1.00%以下、P:0.04%以下、S:0.03以下、Ni:0.6%以下、Cr:11.5~13.5%、Mo:0.3~0.6%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなるSUS410相当の成分組成が好ましい。
【0018】
本実施形態において、高クロム含有鉄系溶射皮膜14のビッカース硬さ、すなわちシリンダ10の内周面12のビッカース硬さは、300HV以上800HV以下となる。
【0019】
高クロム含有鉄系溶射皮膜14の表面の気孔率は0.3%以上2.5%以下であることが好ましい。なお、「気孔率」は、以下の方法により求める。溶射皮膜表面を走査電子顕微鏡により倍率200倍で観察し、ピット状に見える微小ピットとそれ以外のマトリックスを2値化処理し、画像解析により微小ピットの面積率を求めた。3視野の面積率を平均して、本発明における「気孔率」とした。
【0020】
高クロム含有鉄系溶射皮膜14の厚さは、特に限定されないが50μm以上300μm以下であることが好ましい。50μm程度の膜厚を有していれば、従来の知見から基材が露出するようなことがない。300μm超えの膜厚の場合、成膜時間ばかり費やされ、一方性能面では特段の効果はない。
【0021】
(ピストンリング)
ピストンリングの基材20Aは特に限定されず、例えば、コンプレッションリング用のシリコンクロム鋼(JIS SEOSC-V)やマルテンサイト系ステンレス鋼(JIS SUS440B)など、公知又は任意の材料を用いることができる。
【0022】
本実施形態において、非晶質炭素皮膜28は実質的に水素を含まないDLCのみからなるものとする。近年、内燃機関に用いられるオイルとして、MoDTC含有低粘度オイルが頻繁に使われている。このオイルは高温環境かつ摺動環境下で使用されると、二硫化モリブデンを主成分としたトライボ皮膜が形成されることが知られている。トライボ皮膜が形成されるとピストンリング20とシリンダの内周面12との間の摩擦力が低下する。しかし、水素を含むDLC皮膜を用いた場合、MoDTC成分が水素を含むDLC皮膜を攻撃して摩耗が増大する問題がある。このため、本実施形態では、水素を含まないDLC皮膜を用いる。非晶質炭素であることは、ラマン分光光度計(Arレーザ)を用いたラマンスペクトル測定により確認できる。ここで、本明細書において「実質的に水素を含まない」とは、非晶質炭素皮膜中の水素含有率が2原子%以下であり、残部が実質的に炭素のみからなることを意味する。
【0023】
[非晶質炭素皮膜の水素含有率の測定方法]
非晶質炭素皮膜の水素含有率の評価は、摺動部が平坦な面や曲率が十分大きな面に形成された非晶質炭素皮膜に対してはRBS(Rutherford Backscattering Spectrometry)/HFS(Hydrogen Forward Scattering Spectrometry)によって評価することができる。これに対して、ピストンリングの外周面など平坦でない摺動面に形成された非晶質炭素皮膜に対しては、RBS/HFS及びSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)を組み合わせることによって評価する。RBS/HFSは公知の皮膜組成の分析方法であるが、平坦でない面の分析には適用できないので、以下のようにしてRBS/HFS及びSIMSを組み合わせる。
【0024】
まず、平坦な面を有する基準試料として、鏡面研磨した平坦な試験片(焼入処理を施したSKH51ディスク、φ25×厚さ5mm、硬さHRC60~63)に、基準値の測定対象となる炭素皮膜を形成する。
【0025】
基準試料への成膜は、反応性スパッタリング法を用いて、雰囲気ガスとしてメタン等の炭化水素系ガス、Ar、及びH2を導入して行う。そして、導入するH2流量及び/又は炭化水素系ガス流量を変えることによって、炭素皮膜に含まれる水素量を調整する。このようにして水素と炭素によって構成され、水素含有率が異なる炭素皮膜を形成し、これらをRBS/HFSで水素含有量と炭素含有量を評価する。
【0026】
次に、上記の試料をSIMSで分析し、水素と炭素の二次イオン強度を測定する。ここで、SIMS分析は、平坦でない面、例えばピストンリングの外周面に形成された皮膜でも測定できる。したがって、炭素皮膜が施された基準試料の同一の皮膜について、RBS/HFSによって得られた水素含有率と炭素含有率(単位:原子%)と、SIMSによって得られた水素と炭素の二次イオン強度の比率との関係を示す実験式(計量線)を求める。このようにすることで、実際のピストンリングの外周面について測定したSIMSの水素と炭素の二次イオン強度から、水素含有率と炭素含有率を算出することができる。なお、SIMSによる二次イオン強度の値は、少なくとも炭素皮膜の表面から20nm以上の深さ、且つ50nm四方の範囲において観測されたそれぞれの元素の二次イオン強度の平均値を採用する。
【0027】
[非晶質炭素皮膜の特徴的構成]
本実施形態では、DLC皮膜28が、(A)ビッカース硬さが1100HV以上2100HV以下であることと、(B)塑性変形エネルギーWpの弾性変形エネルギーWeに対する比Wp/Weが0.60以上であることの両方を満たすことが重要である。これら(A)及び(B)を満足することによって、シリンダの内周面12が高クロム含有鉄系溶射皮膜14により形成されている場合において、DLC皮膜28の摩耗量を低減することが可能である。以下、より詳細に説明する。
【0028】
[非晶質炭素皮膜のビッカース硬さ]
本実施形態では、第一に、DLC皮膜28のビッカース硬さが1100HV以上2100HV以下であることが肝要である。後述する実験例2(図4)から明らかなように、DLC皮膜のビッカース硬さが2100HVを超える場合、DLC皮膜の摩耗量が大きくなってしまう。これに対して、DLC皮膜28のビッカース硬さが2100HV以下である場合、DLC皮膜28の摩耗量を低減することが可能である。ピストンリングの外周面を構成するDLC皮膜の面積はシリンダボアの摺動範囲の面積に対して十分小さいため、従来は、ピストンリングの外周面を形成するDLC皮膜に関しては、その硬度が高いほど耐摩耗性が高くなり、DLC皮膜の摩耗量が少なくなると考えられていた。しかしながら、本発明では、ピストンリングとシリンダボアとの間で適切な硬さの大小関係があるという技術思想に基づき、DLC皮膜の硬度を従来の思想とは反対である低硬度側で適用したところ、DLC皮膜の摩耗量が低減することが分かった。
【0029】
また、図4から明らかなように、DLC皮膜のビッカース硬さが1100HV以上2100HV以下の範囲内であれば、皮膜の硬さの変化に対して摩耗量の変化が小さく、安定して低摩耗量を実現できることが分かった。従来は、DLC皮膜の硬さによって摩耗量を制御していたため、硬さの厳密な管理が必要であったが、本発明によれば、DLC皮膜の硬さを従来よりも広く設定できるため、良品率向上につながり歩留まり向上などの製造上にも大きなメリットを有する。
【0030】
また、図4からは、溶射皮膜の表面気孔率の大小関係によらず低い摩耗量を維持することが可能であることも理解できる。すなわち、シリンダの内周面が高クロム含有鉄系溶射皮膜により形成される場合、摺動時に発生する内周面の微細な摩耗粉が摺動面に噛み込み、DLC皮膜を攻撃して摩耗を促進させてしまう。この時、高クロム含有鉄系溶射皮膜の表面に気孔(凹み)が存在することで、摩耗粉をトラップしてDLC皮膜の摩耗を抑えることができる。しかし、製造上の要因で高クロム含有鉄系溶射皮膜の気孔率が変動してしまうと、トラップ効果が得られずDLC皮膜の摩耗も変動してしまう問題がある。ここで、DLC皮膜のビッカース硬さを小さくすることで、摩耗粉が噛み込んだ際に、DLC皮膜が摩耗粉の形状にならって変形しやすくなり、ダメージが緩和されて、溶射粉介在時の摩耗量を小さくすることができる。このような効果によって、摩耗を低減できると共に、ボアの気孔率が変動した場合でも、摩耗のばらつきが少なくなると考えられる。
【0031】
また、後述する実験例3(図5)から明らかなように、DLC皮膜のビッカース硬さが2100HVを超える場合、シリンダの温度に依存して、DLC皮膜の摩耗量が変動してしまう。これに対して、DLC皮膜28のビッカース硬さが2100HV以下である場合、シリンダの温度に依存せず、DLC皮膜28の摩耗量を低減することが可能である。すなわち、エンジンの暖気が不十分な状態でもDLC皮膜28の摩耗量を低減することができる。
【0032】
DLC皮膜のビッカース硬さが1100HV未満の場合、耐スカッフ性やその他の機械的特性で劣ると考えられる。よって、DLC皮膜28のビッカース硬さは1100HV以上とする。DLC皮膜28のビッカース硬さは、1100HV以上2050HV以下であるとより好ましい。
【0033】
DLC皮膜のビッカース硬さは、ビッカース硬さ計(例えばフューチャーテック株式会社製 FLC-50VX)で測定することができる。圧子を皮膜表面に押込み、形成されたくぼみのサイズによって判定する。なお、押込みの荷重値は、下地の硬さの影響を低減するために、押込み深さが皮膜の膜厚の1/5以下となるように設定した。なお、数μmの薄膜の場合は、下地の影響を受けずに上記ビッカース硬さ計で測定することが難しいため、例えばナノインデンテーション硬さ計(例えば株式会社エリオニクス製 ENT-1100a)を使用して、膜厚の1/5以下の押込み深さになるように、数mN~数十mNの荷重にてインデンテーション硬さ(HIT)を測定して、換算式HV=HIT(N/mm2)×0.0945を用いてビッカース硬さとしてもよい。また、測定面が平滑でない場合、粗さの影響を受けて正確な硬さが得られないため、測定面をダイヤモンドフィルム等で研磨してから測定する。
【0034】
[非晶質炭素皮膜の塑性変形エネルギーWpの弾性変形エネルギーWeに対する比Wp/We]
本実施形態では、第二に、DLC皮膜28の塑性変形エネルギーWpの弾性変形エネルギーWeに対する比Wp/Weが0.60以上であることが肝要である。塑性変形エネルギーWpは、ナノインデンテーション試験において皮膜表面から押し込まれる圧子が皮膜の変形に費やす仕事(エネルギー)のうち、圧子を除去しても皮膜が変形したままの状態になる塑性変形に費やされるエネルギーである。また、弾性変形エネルギーWeは、圧子が除去されて皮膜が元に戻ることによって解放されるエネルギーである。したがって、Wp/Weは、皮膜表面に異物が押し込まれた場合の塑性変形のしやすさを示す指標となる。
【0035】
後述する実験例5(表1)から明らかなように、本実施形態では、Wp/Weを0.60以上とすること、すなわちDLC皮膜28が塑性変形しやすい皮膜であることによって、シリンダの内周面12が高クロム含有鉄系溶射皮膜14により形成されている場合において、DLC皮膜28の摩耗量を低減することができることが分かった。これは、高クロム含有鉄系溶射皮膜との摺動においては、DLC皮膜が塑性変形しやすいと、摺動時に異物(溶射皮膜及びDLC皮膜の微細な摩耗粉や、燃焼時に生じるカーボンスラッジなど)を噛み込んだ際に、DLC皮膜が塑性変形して異物の排出を促進するとともに、潤滑油の適度な抜け道ができることで潤滑性が向上するためと推測される。
【0036】
そして、本実施形態では、Wp/Weを0.60以上とし、かつ、ビッカース硬さが1100HV以上2100HV以下であることによって、異物の噛み込み時に皮膜が変形しやすくなり、面圧上昇によるダメージが軽減されて、摩耗量が低減するものと考えられる。
【0037】
Wp/Weが0.80を超えると、DLC皮膜が過度に塑性変形しやすくなり、摺動面の傷が多くなり、シール性悪化や皮膜剥離の原因となる。よって、Wp/Weは0.80以下であることが好ましい。Wp/Weは0.60以上0.73以下であるとより好ましい。
【0038】
なお、DLC皮膜の塑性変形エネルギーWpと弾性変形エネルギーWeとは、ナノインデンテーション試験において得られる荷重-押し込み深さ曲線を用いて算出する。図2に算出方法の例を示す。DLC皮膜表面に圧子が押し込まれると、荷重の増加に従って押し込み深さも増加する(曲線OC)。そして、最大荷重に到達したら、これを一定時間保持する(直線CD)。一般的には、荷重を保持している間もDLC皮膜の圧子接触部周辺が変形して、押し込み深さが深くなる場合がある。次に、除荷すると、DLC皮膜の弾性変形が解放されることで押し込み深さが浅くなるものの、DLC皮膜の塑性変形に起因して、押し込み深さは圧子接触前より深くなる(曲線DA)。このようにして得られた荷重-押し込み深さ曲線において、領域OADCの面積が、圧子の押し込みによってDLC皮膜が塑性変形するのに費やされる塑性変形エネルギーWpとなる。領域ABDの面積は、圧子の押し込みによってDLC皮膜が弾性変形するのに費やされた弾性変形エネルギーWeとなる。なお、本発明において、Wp及びWeの値としては、DLC皮膜表面を14か所測定して、最大値2点、最小値2点を除去した、10点の測定値の平均値を用いるものとする。
【0039】
DLC皮膜28の厚さは、特に限定されないが1μm以上30μm以下であることが好ましい。1μm未満の場合、膜厚が過度に薄く皮膜が摩滅してしまう。30μmを超えると、皮膜の内部応力が増大し、欠けが生じやすくなる。なお、本発明において、DLC皮膜の厚さは以下の方法で測定するものとする。すなわち、DLC皮膜を形成したピストンリングを、その周方向に垂直に切断し、その切断断面をダイヤモンドフィルムで研磨して平滑化し、研磨面を顕微鏡で観察して、DLC膜厚を測長できる。
【0040】
本実施形態において、DLC皮膜28は、例えば、カーボンターゲットを用いた真空アーク放電によるイオンプレーティング等のPVD法を用いて形成することができる。PVD法は、水素をほとんど含まない耐摩耗性に優れたDLC皮膜を形成することができる。なお、真空中で炭化水素系ガスなど構成元素として水素を含むガスを導入せずに、高真空又はArガスなど不活性ガスを導入する雰囲気下でアーク放電を利用し、屈曲する磁力線を備える磁気フィルターなど炭素微小粒子を除去するフィルターを備えるフィルタードアークイオンプレーティング法を用いることでもよい。
【0041】
ここで、DLC皮膜28のビッカース硬さは、成膜時にピストンリングの基材に印加するバイアス電圧を調整することにより制御することができ、DLC皮膜28のWp/Weは、成膜時の基材の温度を調整することにより制御することができる。
【0042】
具体的には、バイアス電圧を高くすると、ピストンリングの基材に衝突するカーボンイオンの運動エネルギーが大きくなるため、カーボンが基材表面で堆積せずにスパッタリングにより基材表面からはじき飛ばされる。このため、形成されるDLC皮膜は、粗な組織となるため、硬さは小さくなる。
【0043】
成膜時の基材の温度を高くすると、熱により三次元的な炭素結合が減少し、安定な二次元的な構造をとりやすくなり、結合ネットワークの繋がりが減少して、Wp/Weが大きくなると考えられる。
【0044】
以上のことから、ヒーター加熱等により基材の温度を適度に高めつつ、バイアス電圧を高めに設定して成膜することによって、本発明の条件を充足するDLC皮膜を形成しやすくなる。印加するバイアスには直流、パルス、浮遊電位などの印加方法を用いることができ、複数の方法を組み合わせてもよい。特に、パルスバイアスや浮遊電位は、基材の温度を過度に高めないために好適なバイアス印加方法である。
【0045】
(中間層)
なお、前述の実施の形態に係るピストンリングには、ピストンリングの基材に直接DLC皮膜を形成したものを例示したが、本発明はこれだけに限られない。例えば、ピストンリングの基材とDLC皮膜の間に、0.1~1.0μmの厚さで金属系中間層を形成して密着性を高めることもできる。金属系中間層の材質としては、クロム、チタン、及びタングステンからなる群から選択された一つ以上の元素、又はこれらの炭化物を挙げることができる。さらに、使用環境によりDLC皮膜が万が一摩滅した場合でも、スカッフが発生しないように、耐スカッフ性に優れた硬質金属窒化物をピストンリング基材とDLC皮膜との間、あるいは、基材と金属中間層との間に1~30μmの厚さで形成してもよい。硬質金属窒化物としては窒化クロム、窒化チタンやこれらの炭化物などであってもよい。
【実施例
【0046】
(実験例1)
ADC12アルミ合金製のシリンダーブロック内壁に機械加工により凹凸を設け、その後、窒素ガスをキャリアとしたアーク式溶射法にて、Cr量が種々の水準で残部はFeの成分組成を有する厚さ約250μmの溶射皮膜を成膜した。溶射皮膜の表面は研削加工を行って、表面粗さをRa0.05μm程度に仕上げ、評価用に20mm×20mmの試験片を切り出した。切出した試験片の側面およびアルミ合金製の裏面は、酸による腐食を防ぐため樹脂コーティングを行い、試験片の重量を測定した。その後、25℃にて硝酸1%水溶液に1時間浸漬した。浸漬後十分に乾燥させて、再び試験片の重量を測定し、浸漬前後の重量差を腐食量とした。溶射皮膜のCr量と腐食量との関係を図3に示す。
【0047】
Crを含まない溶射皮膜は、硝酸により表面の金属成分が溶出し、重量が294mg減少した。Crを10%含む溶射皮膜は、重量減少量が3.2mgであった。酸化物等の腐食生成物は観察されず、腐食量そのものが低減していたことを確認した。腐食量はCr量が3%から8%になると約1/100程度まで減少し、8%以上ではほとんど腐食が確認されなかった。
【0048】
(実験例2)
ピストンリングの外周面に、1100~2400HVの範囲のビッカース硬さを有し、Wp/Weが0.60以上の種々の水準のDLC皮膜を形成した。DLC皮膜の成膜は、真空アーク方式による成膜装置を用い、バイアス電圧を種々に設定して行った。各水準のDLC皮膜について、既述の方法により水素含有率を測定したところ、いずれも2原子%以下であった。
【0049】
下記2水準のステンレス溶射皮膜を内周面に形成したシリンダを作製し、これをサイズ15×10mmに切り出して、ボア試験片とした。ステンレス溶射皮膜の気孔率は、既述の測定方法による測定値である。
水準1:SUS410鋼(気孔率1.4%)
水準2:SUS410鋼(気孔率0.9%)
【0050】
[摺動試験]
振動摩擦摩耗試験(オプチモール社:SRV4試験機)により、ピストンリングの外周面とボア試験片とを線接触させた状態で、往復動試験を行った。なお、ボア試験片の表面には100℃の潤滑油(エンジン油ベースオイル)を0.25mL/hの量で滴下した。試験条件は以下のとおりである。
荷重 :450N
往復摺動時の周波数 :25Hz
往復摺動時の振幅 :3mm
試験時間 :12時間
【0051】
DLC皮膜の摩耗量は以下の方法で求めた。すなわち、摺動試験前後のピストンリングの外周形状を、触針式粗さ測定機(東京精密製、SURFCOM1400D)を用いて軸方向に測定した。そして、試験前後の形状を重ね合わせることで皮膜の摩耗深さを求めた。
【0052】
結果を図4に示す。図4から明らかなとおり、Wp/Weが0.6以上であり、かつ、DLC皮膜のビッカース硬さを2100HV以下とすることによって、DLC皮膜の硬さに依存せずに、DLC皮膜の摩耗量を顕著に低減することができた。また、DLC皮膜のビッカース硬さを2100HV以下とすることによって、溶射皮膜の気孔率に依存せず、DLC皮膜の摩耗量を低くすることができた。
【0053】
(実験例3)
ピストンリングに対応する試験片として、φ6mm×長さ12mmのSUJ2製円柱を基材とし、その曲面に、ビッカース硬さ1800HVの水準と、ビッカース硬さ2300HVの水準のDLC皮膜を形成した。なお、いずれの水準でもWp/Weは0.60以上である。DLC皮膜の成膜は、真空アーク方式による成膜装置を用い、バイアス電圧を種々に設定して行った。各水準のDLC皮膜について、既述の方法により水素含有率を測定したところ、いずれも2原子%以下であった。
【0054】
ボア面にステンレス溶射皮膜を有するシリンダに対応する試験片として、20×20×3.5mmの、ステンレス鋼(SUS410鋼)からなる平板(プレート)を用意した。
【0055】
下記の条件にて摺動試験を行い、DLC皮膜の摩耗量を求めた。ただし、本実験例3では、平板(プレート)の温度を予め80℃及び120℃の2水準に加熱した。
荷重 :360N
往復摺動時の周波数 :25Hz
往復摺動時の振幅 :3mm
試験時間 :2時間
【0056】
結果を図5に示す。図5から明らかなとおり、DLC皮膜のビッカース硬さが2300HVの場合と比べて、1800HVの場合の方が、DLC皮膜の摩耗量に与える平板温度の影響が小さくなっている。
【0057】
(実験例4)
ピストンリングに対応する試験片として、φ6mm×長さ12mmのSUJ2製円柱を基材とし、その曲面に、ビッカース硬さ1800HVの水準と、ビッカース硬さ2300HVの水準のDLC皮膜を形成した。なお、いずれの水準でもWp/Weは0.60以上である。DLC皮膜の成膜は、真空アーク方式による成膜装置を用い、バイアス電圧を種々に設定して行った。各水準のDLC皮膜について、既述の方法により水素含有率を測定したところ、いずれも2原子%以下であった。
【0058】
ボア面にステンレス溶射皮膜を有するシリンダに対応する試験片として、20×20×3.5mmの、ステンレス鋼(SUS410鋼)からなる平板を用意した。
【0059】
実験例3と同様の摺動試験を行い、DLC皮膜の摩耗量及びステンレス鋼平板の摩耗量を求めた。ただし、本実験例4では、SUS系溶射皮膜から発生する摩耗紛等の異物を想定して、円柱の曲面とステンレス鋼平板の表面との間にSUSパウダーを撒いた状態で試験を行った。
【0060】
結果を図6に示す。図6から明らかなとおり、DLC皮膜のビッカース硬さが2300HVの場合と比べて、1800HVの場合の方が、SUS溶射材に起因する摩耗量を低減することができる。
【0061】
(実験例5)
ピストンリングの外周面に、表1に示す種々の水準のDLC皮膜を形成した。DLC皮膜の成膜は、真空アーク方式による成膜装置を用い、バイアス電圧及び基材の温度を種々に設定して行った。
【0062】
ボア材については、SUS410鋼(気孔率0.9%)のステンレス溶射皮膜を内周面に形成したシリンダを作製し、これをサイズ15×10mmに切り出して、ボア試験片とした。ステンレス溶射皮膜の気孔率は、既述の測定方法による測定値である。
【0063】
[摺動試験]
振動摩擦摩耗試験(オプチモール社:SRV4試験機)により、ピストンリングの外周面とボア試験片とを線接触させた状態で、往復動試験を行った。なお、ボア試験片の表面には100℃の潤滑油(エンジン油ベースオイル)を0.25mL/hの量で滴下した。試験条件は以下のとおりである。
荷重 :450N
往復摺動時の周波数 :25Hz
往復摺動時の振幅 :3mm
試験時間 :12時間
【0064】
DLC皮膜の摩耗量は以下の方法で求めた。すなわち、摺動試験前後のピストンリングの外周形状を、触針式粗さ測定機(東京精密製、SURFCOM1400D)を用いて軸方向に測定した。そして、試験前後の形状を重ね合わせることで皮膜の摩耗深さを求めた。
【0065】
【表1】
【0066】
表1から明らかなとおり、ビッカース硬さが1100HV以上2100HV以下であり、かつ、Wp/Weが0.60以上であるDLC皮膜を用いた発明例では、シリンダの内周面が高クロム含有鉄系溶射皮膜により形成されている場合において、DLC皮膜の摩耗量を低減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の摺動機構は、高クロム含有の鉄系溶射皮膜を形成した第1部材と硬質炭素皮膜を形成した第2部材との組み合わせであって、硬質炭素皮膜の摩耗量を低減することが可能である。特に、本発明の摺動機構がシリンダとピストンリングとの組み合わせであれば、シリンダの内周面が耐食性の高い高クロム含有の鉄系溶射皮膜により形成されている場合であっても、ピストンリングの外周面を形成する硬質炭素皮膜の摩耗量を低減することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 シリンダ
12 シリンダの内周面(ボア面)
14 高クロム含有鉄系溶射皮膜(又はステンレス溶射皮膜)
20 ピストンリング
20A ピストンリングの基材
22 ピストンリングの外周面
24 ピストンリングの内周面
26A ピストンリングの上面(上側面)
26B ピストンリングの下面(下側面)
28 非晶質炭素皮膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6