(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】放射性廃液の処理方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/12 20060101AFI20230524BHJP
G21F 9/06 20060101ALI20230524BHJP
G21F 9/30 20060101ALI20230524BHJP
B01J 20/06 20060101ALI20230524BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
G21F9/12 501B
G21F9/06 G
G21F9/30 571C
G21F9/30 571B
G21F9/06 581F
B01J20/06 A
B01J20/30
(21)【出願番号】P 2020014361
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】堤口 覚
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-146674(JP,A)
【文献】特開平07-260993(JP,A)
【文献】特開2010-190749(JP,A)
【文献】特開2013-170959(JP,A)
【文献】特開2014-077781(JP,A)
【文献】特開2015-064334(JP,A)
【文献】特開2016-045108(JP,A)
【文献】井本正介,海水からウランはとれるか,生産と技術,Vol. 29, No. 1,日本,一般社団法人 生産技術振興協会,1977年,pp. 26-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
G21F 9/06
G21F 9/30
B01J 20/06
B01J 20/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α核種及び鉄イオンを含む放射性廃液にpH調整剤を注入して前記放射性廃液の水質を調整することにより、前記放射性廃液内で前記鉄イオンから前記α核種を吸着する鉄化合物を生成し、前記放射性廃液に含まれる前記α核種が、生成された前記鉄化合物に吸着されて前記放射性廃液から除去される
、放射性廃液の処理方法
であって、
前記pH調整剤の注入によって前記放射性廃液のpHを第1所定範囲に調整し、かつ、酸化還元電位を第2所定範囲に調整することによって、前記放射性廃液内に前記鉄化合物を生成する、放射性廃液の処理方法。
【請求項2】
前記鉄化合物による前記α核種の吸着によってα核種濃度が低減された前記放射性廃液を、α核種吸着材が内部に存在するα核種除去装置に供給し、前記放射性廃液に含まれる前記α核種が、前記α核種除去装置内に存在する前記α核種吸着材に吸着されて前記放射性廃液から除去される請求項
1に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項3】
前記α核種の濃度が低減された前記放射性廃液にα核種吸着材を注入する請求項
2に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項4】
前記α核種除去装置から排出された前記放射性廃液に含まれる前記α核種を吸着している前記鉄化合物及び前記α核種吸着材である固形分を、前記放射性廃液から除去する請求項
3に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項5】
前記放射性廃液に注入される前記α核種吸着材がα核種吸着材粒子である請求項
4に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項6】
放射性有機廃棄物に有機酸水溶液を接触させて前記放射性有機廃棄物に付着しているクラッドを溶解させ、
前記クラッドの溶解の後に、前記放射性有機廃棄物に有機酸塩水溶液を接触させて前記放射性有機廃棄物に吸着されているα核種を溶離させ、
前記クラッドを溶解させた、前記α核種を含む放射性核種を含んでいる前記有機酸水溶液に含まれる有機酸の分解、及び前記α核種を溶離させた、前記α核種を含む放射性核種を含んでいる前記有機酸塩水溶液に含まれる有機酸塩の分解を行い、
前記放射性廃液は、前記有機酸水溶液に含まれる前記有機酸の分解によって生成された放射性廃液、及び前記有機酸塩水溶液に含まれる前記有機酸塩の分解によって生成された放射性廃液のいずれかである請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項7】
放射性有機廃棄物に有機酸水溶液を接触させて前記放射性有機廃棄物に付着しているクラッドを溶解させ、
前記クラッドの溶解の後に、前記放射性有機廃棄物に有機酸塩水溶液を接触させて前記放射性有機廃棄物に吸着されているα核種を溶離させ、
前記クラッドを溶解させた、前記α核種を含む放射性核種を含んでいる前記有機酸水溶液と前記α核種を溶離させた、前記α核種を含む放射性核種を含んでいる前記有機酸塩水溶液を混合し、
この混合により生じた水溶液に含まれる有機酸及び有機酸塩のそれぞれを分解し、
前記放射性廃液は、前記有機酸及び前記有機酸塩の分解によって生成された放射性廃液である請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項8】
前記pH調整剤として酸、アルカリ、還元剤及び水質調整用酸化剤の少なくとも1つを用いる請求項1ないし
7のいずれか1項に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項9】
前記放射性廃液は、核燃料再処理においてウラン及びプルトニウムの回収によって発生した、前記α核種及び前記鉄イオンを含む放射性廃液である請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項10】
前記pH調整剤としてアルカリ、及び還元剤及び水質調整用酸化剤のうちの少なくとも1つを用いる請求項
9に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項11】
前記還元剤としてアルカリ性の還元剤及び酸化還元電位を調整する酸化還元電位調整剤を用いる請求項
8または
10に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項12】
前記pH調整剤以外に、脱溶存炭酸剤を前記放射性廃液に注入する請求項1ないし
11のいずれか1項に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項13】
前記pH調整剤を注入する前に、鉄イオンを含む水溶液を前記放射性廃液に注入する請求項1ないし
12のいずれか1項に記載の放射性廃液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃液の処理方法に係り、特に、原子力プラントから発生した廃樹脂の洗浄で発生した放射性廃液の処理に適用するのに好適な放射性廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントの原子炉冷却材浄化系、燃料プール冷却材浄化系等から発生するセルロース系のろ過助材、イオン交換樹脂等を含むフィルタスラッジその他の放射性有機廃棄物は、貯蔵タンクに長期間貯蔵保管されている。これらの放射性有機廃棄物は、原子力プラントの運転に伴って定常的に発生する。放射性有機廃棄物の保管スペースを確保するためには、現在貯蔵中の放射性有機廃棄物の体積を効率的に減らす減容処理技術が必要となる。
【0003】
イオン交換樹脂は、スチレン・ジビニルベンゼンを基材としており、化学的に安定であるため、長期間安全に貯蔵することが可能である。しかしながら、その安定性のために分解処理が難しく、イオン交換樹脂を減容する場合には、通常、高温での熱分解処理が必要となる。
【0004】
熱分解処理、及び熱分解処理以外の方法で放射性有機廃棄物を減容する方法が知られており、それらの減容方法の一部が、特開2015-64334号公報に記載されている。この特開2015-64334号公報には、放射性有機廃棄物を減容するだけでなく、さらに、放射性有機廃棄物に含まれる放射性物質の濃度を低減することができる減容方法が記載されている。特開2015-64334号公報に記載された減容方法では、具体的には、有機酸を含む水溶液(有機酸水溶液)によって、放射性有機廃棄物に含まれているクラッド(コバルト60等の放射性核種、酸化鉄等を含む)をコバルト60等の放射性核種と共に溶解し、有機酸塩を含む水溶液(有機酸塩水溶液)によって、放射性有機廃棄物、例えば、廃樹脂であるイオン交換樹脂に吸着されている放射性核種(コバルト60、セシウム137等)をイオン交換樹脂から溶離させる。さらに、クラッド(酸化鉄等)の溶解に用いられた有機酸水溶液に含まれる有機酸、及び放射性核種を溶離する際に用いられた有機酸塩水溶液に含まれる有機酸塩のそれぞれをオゾン等により分解し、有機酸及び有機酸塩の分解後に残留する、放射性核種を含む廃液を乾燥粉体化し、得られた放射性核種を含む粉体を固形化剤(セメント等)により固化処理する。
【0005】
特開2019-70581号公報に記載された汚染水処理方法は、汚染水を弱アルカリ性とするpH緩衝工程、及びpH緩衝工程の後に、汚染水に含まれる放射性核種を吸着除去する放射性核種吸着除去工程を含み、放射性核種吸着工程の前に、汚染水に含まれるナトリウムがカルシウムに対して過剰となるように、汚染水の水質を制御する。
【0006】
特開2002-257980号公報に記載された核燃料の再処理方法は、フッ化処理工程及び溶媒抽出工程を含んでいる。フッ化処理工程では、原子炉から取り出された使用済燃料集合体に含まれる核燃料物質にフッ素を接触させ、核燃料物質に含まれるウランをフッ素と反応させて揮発性のUF6に変換させる。核燃料物質に含まれるウランの一部もしくは大部分をUF6として揮発除去した後、残ったウラン、及びプルトニウムを、溶媒抽出工程において回収する。溶媒抽出工程は、硝酸を含む溶解液によって残留する核燃料物質を溶解する溶解工程、トリブチルリン酸(TBP)を含む抽出液を溶解された核燃料物質を含む溶解液に接触させ、溶解液に含まれるウラン及びプルトニウムを抽出液側に移行させる共除染工程、及び抽出されたウラン及びプルトニウムを含む抽出液を硝酸濃度が低い硝酸水溶液と接触させ、抽出液に含まれるウラン及びプルトニウムを硝酸水溶液側に移行させる逆抽出工程を含んでいる。
【0007】
原子力プラントの原子炉の炉心には、多数の燃料集合体が装荷されている。各燃料集合体は、被覆管内に核燃料物質を充填した複数の燃料棒を有する。炉心には、冷却材、具体的には冷却水が供給され、この冷却水は燃料集合体内の燃料棒内の核燃料物質の核分裂によって発生する熱で加熱される。原子炉内を流れる冷却水の一部は、原子炉冷却材浄化系に設けられる浄化装置に供給され、冷却水に含まれる放射性核種が浄化装置によって除去される。
【0008】
沸騰水型原子力プラントにおいては、原子炉内の冷却水を供給する原子炉冷却材浄化系の浄化系配管に設けられた浄化装置で、冷却水の浄化が行われる(特開2018-48831号公報参照)。その浄化装置の内部には、冷却水を浄化するイオン交換樹脂が存在する。加圧水型原子力プラントにおいても、原子炉内の冷却水を浄化する原子炉冷却材浄化系が設けられ、この原子炉冷却材浄化系には、イオン交換樹脂が内部に存在する浄化装置が設けられる。
【0009】
また、特開2014-66647号公報は、放射性物質を含む液を吸着材に接触させることにより、放射性物質を吸着材に吸着させて、さらに吸着材を含む液をクロスフローろ過して、放射性物質を吸着した吸着材と吸着処理後の液を分離する方法が記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2015-64334号公報
【文献】特開2019-70581号公報
【文献】特開2002-257980号公報
【文献】特開2018-48831号公報
【文献】特開2014-66647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
もし、炉心に装荷されている燃料集合体に含まれる燃料棒の被覆管が、万が一、破損した場合には、燃料棒内の核燃料物質、すなわち、ウラン(U)、アメリシウム(Am)、プルトニウム(Pu)、ネプツニウム(Np)及びキュリウム(Cm)等のα核種であるアクチノイドが冷却水中に漏洩する。それらのα核種を含む冷却水が原子炉冷却材浄化系の浄化装置に導かれ、それぞれのα核種がその浄化装置内のイオン交換樹脂によって除去される。α核種の半減期は、超半減期である。
【0012】
α核種を吸着している、廃樹脂であるイオン交換樹脂に、特開2015-64334号公報に記載されているように、有機酸水溶液及び有機酸塩水溶液を順次接触させて、イオン交換樹脂に含まれているクラッドを溶解し、イオン交換樹脂に吸着されている放射性核種を溶離させる。このとき、そのイオン交換樹脂によって除去されたα核種も、溶離されて有機酸水溶液及び有機酸塩水溶液のそれぞれの中に移行する。
【0013】
α核種を含む有機酸水溶液に含まれる有機酸及びα核種を含む有機酸塩水溶液に含まれる有機酸塩を分解して除去し、その後、α核種が残留する水溶液を濃縮すると、超半減期のα核種を含む放射性廃棄物が多量に発生する。超半減期のα核種を含む放射性廃棄物の発生量を低減することが望ましい。
【0014】
特開2014-66647号公報に記載された方法では、放射性物質を含む液を吸着材に接触させているが、放射性物質を含む液の水質によっては、吸着材で放射性物質を吸着しても、十分に吸着しきれずに、吸着材を分離した後の液に放射性物質がある程度残ることがある。
【0015】
本発明の目的は、放射性廃液に含まれるα核種を除去するα核種除去装置をコンパクトにすることができる放射性廃液の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記した本発明の特徴は、α核種及び鉄イオンを含む放射性廃液にpH調整剤を注入してその放射性廃液の水質を調整することにより、放射性廃液内で鉄イオンからα核種を吸着する鉄化合物を生成し、放射性廃液に含まれるα核種が、生成された鉄化合物に吸着されて放射性廃液から除去されることにある。
【0017】
放射性廃液にpH調整剤を注入してその放射性廃液の水質を調整することにより、放射性廃液内で生成された鉄化合物が、放射性廃液に含まれるα核種を吸着してα核種を放射性廃液から除去するため、放射性廃液に含まれるα核種を低減することができる。α核種濃度が低減された放射性廃液がα核種除去装置内に供給されることにより、α核種除去装置内で使用されるα核種吸着材の量が低減されるので、α核種除去装置をコンパクトにすることができる。
【0018】
好ましくは、鉄化合物によってα核種の濃度が低減された放射性廃液を、α核種吸着材が内部に存在するα核種除去装置に供給することが望ましい。
【0019】
好ましくは、鉄化合物によってα核種の濃度が低減されてα核種除去装置に供給される放射性廃液にα核種吸着材を注入し、α核種除去装置から排出されてα核種を吸着している鉄化合物及びα核種吸着材である固形分を放射性廃液から除去することが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、放射性廃液に含まれるα核種を除去するα核種除去装置をコンパクト化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の好適な一実施例である、沸騰水型原子力プラントで発生する放射性有機廃棄物の処理に適用される実施例1の放射性廃液の処理方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】実施例1の放射性廃液の処理方法を実行する放射性廃液処理システムの一例の構成図である。
【
図3】
図2に示す廃液分解装置の詳細構成図である。
【
図4】
図2に示す水質調整装置及びα核種除去装置の詳細構成図である。
【
図5】
図4に示す水質調整装置の他の例の詳細構成図である。
【
図6】
図4に示す水質調整装置のさらに他の例の詳細構成図である。
【
図7】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントで発生する放射性有機廃棄物の処理に適用される実施例3の放射性廃液の処理方法に用いられる、
図4に示す水質調整装置の上流に鉄イオン注入装置を配置した放射性廃液処理システムの他の構造例の詳細構成図である。
【
図8】
図5に示す水質調整装置の上流に鉄イオン注入装置を配置した放射性廃液処理システムの他の構造例の詳細構成図である。
【
図9】放射性廃液におけるU濃度に及ぼす放射性廃液のpHの影響を示す説明図である。
【
図10】放射性廃液におけるU濃度に及ぼす放射性廃液の炭素濃度の影響を示す説明図である。
【
図11】放射性廃液におけるU濃度に及ぼす放射性廃液の酸化還元電位の影響を示す説明図である。
【
図12】放射性廃液におけるPu濃度に及ぼす放射性廃液のpHの影響を示す説明図である。
【
図13】放射性廃液におけるPu濃度に及ぼす放射性廃液の炭素濃度の影響を示す説明図である。
【
図14】放射性廃液におけるPu濃度に及ぼす放射性廃液の酸化還元電位の影響を示す説明図である。
【
図15】放射性廃液におけるNp濃度に及ぼす放射性廃液のpHの影響を示す説明図である。
【
図16】放射性廃液におけるNp濃度に及ぼす放射性廃液の炭素濃度の影響を示す説明図である。
【
図17】放射性廃液におけるNp濃度に及ぼす放射性廃液の酸化還元電位の影響を示す説明図である。
【
図18】放射性廃液におけるAm濃度に及ぼす放射性廃液のpHの影響を示す説明図である。
【
図19】放射性廃液におけるAm濃度に及ぼす放射性廃液の炭素濃度の影響を示す説明図である。
【
図20】放射性廃液におけるAm濃度に及ぼす放射性廃液の酸化還元電位の影響を示す説明図である。
【
図21】放射性廃液におけるα核種の濃度低減に有効な水質調整方法を示す説明図である。
【
図22】鉄水酸化物を生成する鉄の電位-pH図である。
【
図23】鉄酸化物を生成する鉄の電位-pH図である。
【
図24】放射性廃液に含まれるα核種の、異なる複数の除去方法のそれぞれに対応した、α核種除去装置から排出された放射性廃液におけるα核種の残留率を示す説明図である。
【
図25】水質調整実施時においてα核種除去装置から排出された放射性廃液におけるα核種の濃度に及ぼす放射性廃液の鉄濃度の影響を示す説明図である。
【
図26】α核種吸着材のサイズによるα核種の吸着量の違いを示す説明図である。
【
図27】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントで発生する放射性有機廃棄物の処理に適用される実施例4の放射性廃液の処理方法を実行する放射性廃液処理システムの一例の構成図である。
【
図28】本発明の好適な他の実施例である、核燃料処理に適用される実施例5の放射性廃液の処理方法の手順を示すフローチャートである。
【
図29】実施例3の放射性廃液の処理方法を実行する放射性廃液処理システムにおける水質調整装置及びα核種除去装置の詳細構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
放射性有機廃棄物である陽イオン交換樹脂に吸着されているα核種を含む放射性核種の脱離によって発生した、α核種を含む放射性廃液にpH調整剤を注入し、α核種及びpH調整剤を含む放射性廃液を、α核種吸着材が存在するα核種除去装置に供給し、α核種除去装置内でα核種吸着材によって放射性廃液に含まれるα核種を除去する放射性廃液の処理方法が、特願2018-210315号(出願日:2018年11月8日)によって提案されている。発明者は、特願2018-210315号で提案された放射性廃液の処理方法を詳細に検討した。この結果、発明者は、その放射性廃液の処理方法において、放射性廃液に含まれるα核種を除去するために多量のα核種吸着材が必要となり、α核種除去装置が大型化するという課題が存在することを認識した。
【0023】
発明者らは、α核種除去装置をコンパクトにするために、どのようにすればα核種除去装置内のα核種吸着材の量を減少できるかについて種々の検討を行った。
【0024】
特願2018-210315号では、α核種吸着材としてフェライト(Fe3O4)を使用し、α核種除去装置内にフェライト粒子を充填した3つのフェライト層を形成している。上流のフェライト層から下流のフェライト層に向かうほど、フェライト粒子の粒径が小さくなっている。このように、特願2018-210315号で用いられるα核種除去装置は、内部に3つのフェライト層を有しており、多量のフェライトを使用している。発明者らは、α核種除去装置内のフェライト層を低減してフェライト(α核種吸着材)の量を減らせばα核種除去装置をコンパクトにできると考え、特に、α核種除去装置内のα核種量を低減する対策を検討した。
【0025】
まず、発明者らは、α核種を含む放射性廃液におけるU(ウラン)、Pu(プルトニウム)、Np(ネプツニウム)、アメリシウム(Am)及びキュリウム(Cm)のそれぞれの濃度に及ぼす放射性廃液のpH、炭酸濃度及び酸化還元電位のそれぞれの影響について検討をした。この検討結果を以下に説明する。
【0026】
放射性廃液におけるU濃度に及ぼす放射性廃液のpHの影響を
図9に示す。放射性廃液におけるU濃度は、放射性廃液がアルカリ性、中性及び酸性の各状態に変わるごとに変化し、アルカリ性、中性及び酸性の順に低くなる。放射性廃液のpHを酸性(pH≦6)に調整することにより、放射性廃液におけるU濃度を低減することができる。なお、pHの調整には、放射性廃液を酸性にするのであれば希塩酸、希硫酸及び希硝酸等を、放射性廃液をアルカリ性するのであれば水酸化ナトリウム等を注入する。
【0027】
放射性廃液におけるU濃度に及ぼす放射性廃液の炭素濃度の影響を
図10に示す。放射性廃液の炭酸濃度を低減することにより、放射性廃液におけるU濃度を低減できる。なお、炭酸濃度の低減には、脱溶存炭酸剤、例えば亜硫酸ナトリウムやN
2(窒素)ガス、Arガスを注入する。
【0028】
放射性廃液におけるU濃度に及ぼす放射性廃液の酸化還元電位の影響を
図11に示す。放射性廃液を還元雰囲気にする方が、放射性廃液を酸化雰囲気するよりも放射性廃液におけるU濃度を低減できる。なお、水質調整用酸化剤としては前述の有機酸及び有機酸塩、還元剤としてはアルカリ性還元剤であるヒドラジン等を注入する。
【0029】
放射性廃液におけるPu濃度に及ぼす放射性廃液のpHの影響を
図12に示す。放射性廃液におけるPu濃度は、放射性廃液が酸性、中性及びアルカリ性の各状態に変わるごとに変化し、酸性、中性及びアルカリ性の順に低くなる。放射性廃液のpHをアルカリ性(pH≧8)にすることにより、放射性廃液におけるPu濃度を低減することができる。放射性廃液をアルカリ性にするためには、例えば、水酸化ナトリウム等を注入する。
【0030】
放射性廃液におけるPu濃度に及ぼす放射性廃液の炭素濃度の影響を
図13に示す。放射性廃液の炭酸濃度を低減することにより、放射性廃液におけるPu濃度を低減することができる。なお、炭酸濃度の低減には、脱溶存炭酸剤、例えば、亜硫酸ナトリウム、N
2(窒素)ガス及びArガスのいずれかを注入する。
【0031】
放射性廃液におけるPu濃度に及ぼす放射性廃液の酸化還元電位の影響を
図14に示す。放射性廃液を酸化雰囲気にする方が、放射性廃液を還元雰囲気にするよりも放射性廃液におけるPu濃度を低減できる。なお、水質調整用酸化剤としては、例えば、前述の有機酸及び有機酸塩を注入する。
【0032】
放射性廃液におけるNp濃度に及ぼす放射性廃液のpHの影響を
図15に示す。放射性廃液のNp濃度は、放射性廃液が酸性、中性及びアルカリ性に変化しても同程度であり、有意差がない。このため、放射性廃液のNp濃度の調整には、放射性廃液のpH調整以外の方法を採用する必要がある。
【0033】
放射性廃液におけるNp濃度に及ぼす放射性廃液の炭素濃度の影響を
図16に示す。放射性廃液の炭酸濃度を低減することにより、放射性廃液におけるNp濃度を低減することができる。炭酸濃度の低減のためには、脱溶存炭酸剤、例えば、亜硫酸ナトリウム、N
2(窒素)ガス及びArガスのいずれかを注入する。
【0034】
放射性廃液におけるNp濃度に及ぼす放射性廃液の酸化還元電位の影響を
図17に示す。放射性廃液を還元雰囲気にする方が酸化雰囲気にするよりも放射性廃液におけるNp濃度を低減できる。アルカリ性還元剤として、例えば、ヒドラジンを注入する。
【0035】
放射性廃液におけるAm濃度に及ぼす放射性廃液のpHの影響を
図18に示す。放射性廃液におけるAm濃度は、放射性廃液が酸性、中性及びアルカリ性の各状態に変わるごとに変化し、酸性、中性、アルカリ性の順に低くなる。放射性廃液のpHをアルカリ性(pH≧8)にすることにより、放射性廃液におけるAm濃度を低減することができる。放射性廃液をアルカリ性にするためには、例えば、水酸化ナトリウム等を注入する。
【0036】
放射性廃液におけるAm濃度に及ぼす放射性廃液の炭素濃度の影響を
図19に示す。放射性廃液の炭酸濃度を低減することにより、放射性廃液におけるAm濃度を低減することができる。炭酸濃度を低減するために、脱溶存炭酸剤、例えば、亜硫酸ナトリウム、N
2(窒素)ガス及びArガスのいずれかを注入する。
【0037】
放射性廃液におけるAm濃度に及ぼす放射性廃液の酸化還元電位の影響を
図20に示す。放射性廃液のAm濃度は、放射性廃液の還元雰囲気及び酸化雰囲気のいずれも同程度であり、有意差がない。このため、放射性廃液におけるAm濃度の調整には、放射性廃液の酸化還元電位の調整以外の方法を採用する必要がある。
【0038】
放射性廃液におけるCm(キュリウム)濃度は、放射性廃液におけるAm濃度と同様の傾向を示すので、放射性廃液におけるCmの調整は、放射性廃液におけるAmの調整と同様に行えばよい。
【0039】
α核種(U,Pu,Np,Am及びCm)のうちの特定のα核種(1種または2種以上)の濃度が所定の濃度以下になるように、放射性廃液の水質調整を行うことができる。放射性廃液の水質を、例えば、アルカリ性に調整することにより、Pu,Am及びCmの濃度を低減させて所定の濃度以下にすることができる。特定のα核種としては、放射性廃液における濃度が他のα核種よりも多いものを、選択することが好ましい。特定のα核種の濃度が所定の濃度以下になるように放射性廃液の水質調整を行うことにより、そのα核種の放射性廃液における濃度を低減することができ、α核種吸着材の使用量を低減することができる。
【0040】
図9から
図20に示された、放射性廃液におけるα核種への種々の水質調整の影響から、放射性廃液におけるα核種(Am,Cm,U,Pu及びNp)の濃度低減に有効な水質調整方法を、
図21に纏めた。
図21に示すように、放射性廃液におけるα核種(Am,Cm,U,Pu,Np)の濃度を低減するためには、放射性廃液のpHをアルカリ性にし、酸化還元電位(Eh)を還元雰囲気し、及び炭酸濃度を低減する必要がある。
【0041】
鉄の電位-pH図を
図22に示す。放射性廃液の水質調整を行っていない場合、放射性廃液に含まれている鉄は、鉄イオン(Fe
2+、Fe
3+、FeOH
2+、Fe(OH)
2
+)の状態で放射性廃液内に存在していると考えられる。α核種及び鉄イオンを含む、20℃~25℃の範囲内の温度になっているその放射性廃液に対して、前述のように、放射性廃液のα核種濃度を低減する水質調整を行って、放射性廃液のpHをアルカリ性に、その酸化還元電位(Eh)を還元雰囲気にすると、放射性廃液に含まれる鉄イオンは鉄化合物である鉄水酸化物(Fe(OH)
2)へ形態が変化する。この鉄化合物は、放射性廃液に含まれるα核種(イオン、錯体及びコロイド)を吸着する。
【0042】
鉄水酸化物である水酸化鉄(Fe(OH)
2)を生成する、
図22に示された鉄の電位-pH図において、Fe(OH)
2が生成される領域R1は、pHが6.6以上14.2以下の範囲及び酸化還元電位が-0.89V以上-0.15V以下の範囲で規定される領域内に存在する。α核種及び鉄イオンを含む放射性廃液のpH及び酸化還元電位が、放射性廃液の水質調整により、
図22に示された領域R1内のpH及び酸化還元電位に調整されたとき、放射性廃液内の鉄イオンから鉄化合物であるFe(OH)
2が生成される。
【0043】
また、他の鉄の電位-pH図を
図23に示す。前述したように、放射性廃液の水質調整を行っていない場合、放射性廃液に含まれている鉄は、鉄イオンの状態で放射性廃液内に存在している。α核種及び鉄イオンを含む、50℃以上温度になっているその放射性廃液に対しても、放射性廃液のα核種濃度を低減する水質調整を行って放射性廃液のpHをアルカリ性に、その酸化還元電位(Eh)を還元雰囲気にすると、放射性廃液に含まれる鉄イオンは鉄化合物である鉄酸化物(Fe
3O
4)へ形態が変化する。この鉄化合物も、放射性廃液に含まれるα核種(イオン、錯体及びコロイド)を吸着する。
【0044】
鉄酸化物である酸化鉄(Fe
3O
4)を生成する、
図23に示された鉄の電位-pH図において、Fe
3O
4が生成される領域R2は、pHが4.6以上16以下の範囲及び酸化還元電位が-0.91V以上-0.03V以下の範囲で規定される領域内に存在する。α核種及び鉄イオンを含む放射性廃液のpH及び酸化還元電位が、放射性廃液の水質調整により、
図23に示された領域R2内のpH及び酸化還元電位に調整されたとき、放射性廃液内の鉄イオンから鉄化合物であるFe
3O
4が生成される。
【0045】
以上に述べたように、放射性廃液内に生成された鉄化合物(Fe(OH)2及びFe3O4等)が放射性廃液に含まれたイオン状のα核種を吸着して放射性廃液から除去する。このため、放射性廃液のα核種濃度が低減される。生成された鉄化合物は吸着材である。
【0046】
このため、発明者らは、α核種を含む放射性廃液内で鉄化合物を生成することを考えた。特願2018-210315号は、放射性有機廃棄物、例えば、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂に付着したクラッド(主成分は鉄)を有機酸水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)で溶解させること、陽イオン交換樹脂等のイオン交換樹脂に吸着された一部の放射性核種(α核種、及びα核種以外の放射性核種)が有機酸水溶液中のイオン(例えば、水素イオン及びシュウ酸イオン)とのイオン交換によって、イオン交換樹脂から有機酸水溶液中に脱離することを記載し、さらに、陽イオン交換樹脂に吸着されたα核種が有機酸塩水溶液(例えば、ギ酸ヒドラジン水溶液)によって脱離されることも記載している。イオン交換樹脂に有機酸塩水溶液を接触させることによって、イオン交換樹脂に付着して残っているクラッドも溶解される。
【0047】
さらに、特願2018-210315号は、α核種等の放射性核種及び鉄イオンを含む有機酸水溶液である第一放射性廃液に含まれる有機酸は、第一放射性廃液にオゾンを供給することにより分解され、α核種等の放射性核種及び鉄イオンを含む有機酸塩水溶液である第二放射性廃液に含まれる有機酸塩は、第二放射性廃液にオゾンを供給することにより分解されることを記載する。
【0048】
発明者らは、有機酸水溶液及び有機酸塩水溶液のそれぞれでクラッドを溶解することにより発生した鉄イオンを基に鉄化合物を生成することに着目した。
【0049】
なお、有機酸が分解された、α核種及び鉄イオンを含む第一放射性廃液のpH及び酸化還元電位が、第一放射性廃液の水質調整により、
図22に示された領域R1内のpH及び酸化還元電位に調整されたとき、第一放射性廃液に含まれる鉄イオンから鉄化合物であるFe(OH)
2が生成される。有機酸塩が分解された、α核種及び鉄イオンを含む第二放射性廃液のpH及び酸化還元電位が、第二放射性廃液の水質調整により、
図23に示された領域R2内のpH及び酸化還元電位に調整されたとき、第二放射性廃液に含まれる鉄イオンから鉄化合物であるFe
3O
4が生成される。
【0050】
なお、第一放射性廃液の水質調整により、第一放射性廃液のpH及び酸化還元電位を
図23の領域R2内のpH及び酸化還元電位に調整し、第二放射性廃液の水質調整により、第二放射性廃液のpH及び酸化還元電位を
図22の領域R1内のpH及び酸化還元電位に調整してもよい。
【0051】
第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれの水質調整は、第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれにpH調整剤を注入することにより行われる。pH調整剤としてアルカリ、酸、水質調整用の酸化剤(以下、水質調整用酸化剤という)及び還元剤を用いる。第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれの水質調整は、具体的には、アルカリ、酸、水質調整用の酸化剤(以下、水質調整用酸化剤という)及び還元剤の少なくとも1つを注入することによって行われる。
【0052】
アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム及び炭酸ナトリウムのいずれかを用いる。酸としては、例えば、希硝酸、希硫酸及び希塩酸等が用いられる。水質調整用酸化剤としては有機酸及び有機酸塩のいずれかを用いる。還元剤としては、例えば、ヒドラジン、ホルムヒドラジン、ヒドラジンカルボアミド及びカルボヒドラジド等のヒドラジン誘導体、ヒドロキシルアミン、アスコルビン酸及び亜硫酸塩のいずれかが用いられる。なお、特に、アスコルビン酸及び亜硫酸塩は、還元剤ではあるが、酸化還元電位調整剤と称する。酸化還元電位調整剤は弱酸性である。上記の還元剤のうち酸化還元電位調整剤以外の還元剤は、弱アルカリ性であり、便宜的に、アルカリ性還元剤という。「還元剤」との表現は、酸化還元電位調整剤及びアルカリ性還元剤を含む。
【0053】
pH調整剤のうち酸、水質調整用酸化剤及び酸化還元電位調整剤は放射性廃液を酸性にする作用を有し、アルカリ及びアルカリ性還元剤は放射性廃液をアルカリ性にする作用を有する。放射性廃液の酸化還元電位を調整するためには、酸化還元電位調整剤を用いることが望ましい。酸化還元電位調整剤は酸性である。
【0054】
鉄イオンからFe(OH)2を生成するためには、放射性廃液(第一放射性廃液及び第二放射性廃液)の温度を20℃~25℃の範囲内の温度にし、放射性廃液の水質調整によりその放射性廃液のpHを6.6以上14.2以下の範囲内のpHにすることが望ましい。また、鉄イオンからFe3O4を生成するためには、放射性廃液の温度を50℃以上にし、放射性廃液の水質調整によりその放射性廃液のpHを4.6以上16以下の範囲内のpHにすることが望ましい。
【0055】
第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれにおいて、各放射性廃液にpH調整剤を注入して各放射性廃液の水質調整を行い、各放射性廃液に含まれる鉄イオンから鉄化合物(Fe(OH)2及びFe3O4)を生成し、生成された鉄化合物によって各放射性廃液に含まれるα核種を吸着し除去する。この結果、第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれにおいて、α核種の濃度を低減することができる。
【0056】
しかしながら、第一放射性廃液となる有機酸水溶液が、イオン交換樹脂に付着したクラッドを溶解するために第二放射性廃液となる有機酸塩水溶液よりも前にイオン交換樹脂に接触されるので、有機酸水溶液は有機酸塩水溶液よりも多くの鉄イオンを含んでいる。また、有機酸塩水溶液が、イオン交換樹脂に吸着されたα核種を溶離させるために有機酸水溶液の後にイオン交換樹脂に接触されるので、有機酸塩水溶液は有機酸水溶液よりも多くのα核種を含んでいる。このため、第一放射性廃液では、第一放射性廃液に含まれるα核種の量よりも多い鉄化合物が生成されるため、α核種を吸着していない鉄化合物及び少量のα核種を吸着してα核種の吸着に余力のある鉄化合物が存在することになる。第二放射性廃液では、第二放射性廃液に含まれるα核種の量よりも生成される鉄化合物の量が少ないため、鉄化合物に吸着されないα核種が第二放射性廃液内に存在することになる。これでは、第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれにおいてα核種の濃度を十分に低減できなくなる。
【0057】
そこで、発明者らは、第一放射性廃液及び第二放射性廃液を混合し、この混合により生じた放射性廃液に対して水質調整を行ってこの放射性廃液内で鉄化合物を生成することを考えた。混合により生じた放射性廃液では、第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれの課題、すなわち、「α核種の量よりも多い鉄化合物の生成、及びα核種の量よりも鉄化合物が少量」を改善することができ、それらの混合によって生成された放射性廃液では、鉄イオン量が、第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれにおける鉄イオン量よりも多くなる。混合によって生成された放射性廃液で水質調整を行うことにより、この放射性廃液で生成される鉄化合物が増加し、この放射性廃液におけるα核種の低減の度合いは、第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれのα核種の低減の度合いよりも大きくなる。
【0058】
また、第二放射性廃液のように、放射性廃液に含まれる鉄イオンの量が少ない場合には、放射性廃液の水質調整前に、鉄イオンを放射性廃液に注入すればよい。鉄イオンの放射性廃液への注入は、例えば、鉄をギ酸で溶解して得られた鉄(II)イオンを含むギ酸水溶液を放射性廃液に注入すればよい。鉄の溶解には、ギ酸以外に、鉄(II)イオンの対アニオンとなる有機酸または炭酸を用いることができる。すなわち、鉄(II)イオンを含む、鉄(II)イオンの対アニオンとなる有機酸の水溶液、及び鉄(II)イオンを含む炭酸水溶液を、放射性廃液に注入してもよい。放射性廃液の水質調整前に鉄イオンを放射性廃液に注入することにより、放射性廃液の鉄濃度が増加し、鉄化合物の生成量も増加する。
【0059】
放射性廃液に含まれる鉄イオンを利用して鉄化合物を生成し、この鉄化合物により放射性廃液に含まれる一部のα核種を吸着して除去する。その後、一部のα核種が除去された放射性廃液がα核種吸着材、例えば、フェライト粒子が存在するα核種除去装置に供給され、α核種除去装置内で、放射性廃液に残留するα核種がフェライト粒子に吸着されて除去される。α核種除去装置に供給される前で、放射性廃液に含まれるα核種が放射性廃液内で生成された鉄化合物によって除去されるため、α核種除去装置に供給されるα核種が少なくなり、α核種除去装置内の、α核種を除去するα核種吸着材の量を低減できる。
【0060】
発明者らは、放射性廃液に含まれるα核種の除去に関する実験を行った。この結果を、
図24を用いて説明する。
図24は、放射性廃液に含まれるα核種の3つの除去方法である方法「A」、方法「B」及び方法「C」のそれぞれに対する、放射性廃液におけるα核種の残留率を示している。
【0061】
図24に示す「A」は、陽イオン交換樹脂に吸着されたα核種、例えば、アメリシウムを有機酸塩水溶液であるシュウ酸アンモニア水溶液により溶離させ、シュウ酸アンモニア水溶液に含まれるシュウ酸アンモニアをオゾンで分解し、溶離したアメリシウム(濃度はppbオーダー)を除去しないで(未処理の状態で)アメリシウムを含む水をそのまま排出したケースである。このため、方法「A」では、排出される水のウラン残留率(α核種の残留率)は100%である。
【0062】
図24に示す「B」は、溶離したアメリシウムを含むシュウ酸アンモニア水溶液のシュウ酸アンモニアをオゾンで分解し、この分解で生成されるアメリシウムを含む水にフェライト(Fe
3O
4)を注入したケースである。フェライトを注入する前におけるその水のアメリシウム濃度に対する、そのフェライトを注入した後の水のアメリシウム濃度の割合が、アメリシウムの残留率、すなわち、α核種の残留率である。フェライトを供給する前の水のアメリシウム濃度は、方法「A」における水のアメリシウム濃度と同じである。「B」では、アメリシウム残留率(α核種の残留率)は、25%となり、方法「A」の1/4になる。
【0063】
図24に示す「C」は、溶離したアメリシウムを含むシュウ酸アンモニア水溶液のシュウ酸アンモニアをオゾンで分解し、この分解で生成されるアメリシウムを含む水にアルカリ性還元剤であるヒドラジンを注入してその水のpHを前述の6.6以上14.2以下の範囲(または前述の4.6以上16以下の範囲)内の8に調節し、pHが8であるアメリシウムを含む水にフェライト(Fe
3O
4)を供給したケースである。方法「C」における、フェライトを供給する前の水のアメリシウム濃度も、方法「A」における水のアメリシウム濃度と同じである。方法「C」では、アメリシウム残留率(α核種の残留率)は、約6.7%となり、方法「A」の約1/15になる。
【0064】
したがって、有機酸塩(または有機酸)分解後のα核種を含む水にpH調整剤を注入してその水のpHを6.6以上14.2以下の範囲(または前述の4.6以上16以下の範囲)内のpHに調節し、pHが調節された、α核種を含む水にフェライトを供給することによって、その水に含まれるα核種を著しく除去できることが分かった。
【0065】
前述した放射性廃液の処理方法において、α核種吸着材としては、例えば、フェライト(Fe3O4)及び活性炭等を使用することができる。なお、フェライト及び活性炭に限らず、α核種を吸着できる吸着材であれば、α核種吸着材として使用できる。
【0066】
放射性廃液の処理方法によれば、放射性廃液に注入したα核種吸着材によってα核種を吸着して、α核種を含む放射性廃液からα核種を除去する。α核種吸着材を放射性廃液に注入するので、α核種吸収材の粒子を細かくして、α核種吸収剤の比表面積を増加させることが可能になり、また、α核種吸着材が放射性廃液に浸漬される時間を制御することが可能になる。これにより、所望のα核種吸着量となる時間までα核種吸着材を放射性廃液に浸漬させるように、制御することができる。
【0067】
したがって、α核種吸着材のα核種除去性能を向上して、α核種を含む放射性廃棄物の発生量をさらに低減することができる。
【0068】
放射性廃液内のα核種の除去率に及ぼすα核種吸着材の比表面積の影響を、
図25を参照して説明する。
図25は、放射性廃液に注入される、α核種吸着材であるフェライト粒子のサイズと、フェライト粒子1g当たりのα核種の吸着量の関係を示している。
図25では、フェライト粒子のサイズを粒状(粒径≧100μm)及び微粉状(粒径≦1μm)とし、粒状(粒径≧100μm)及び微粉状(粒径≦1μm)のそれぞれのα核種の吸着量を比較している。
図25に示すように、フェライト粒子を微粉状とした場合には、フェライト粒子を粒状とした場合と比較して、フェライト粒子1g当りのα核種の吸着量が100倍以上に向上する。
【0069】
α核種吸着材、特に上記のフェライトは、α核種を吸着する性能(吸着性能)が、放射性廃液のpH及び酸化還元電位(Eh)によって変化する。このため、放射性廃液のpH及び酸化還元電位を特定のpH及び酸化還元電位の範囲内にすれば、α核種吸着材の吸着性能を十分に発揮することができる。
【0070】
そして、上述したα核種除去システムにおいて、特に、水質調整装置がα核種を含む放射性廃液にpH及び還元酸化電位調整剤を注入する構成としたときには、放射性廃液のpH及び酸化還元電位を調整することができ、放射性廃液のpH及び酸化還元電位を、α核種吸着材の吸着性能を十分に発揮できる特定のpH及び酸化還元電位の範囲内にできる。
【0071】
これにより、放射性廃液に含まれる超半減期のα核種がα核種吸着材によって除去されやすくなり、α核種を除去した後の放射性廃液に含まれるα核種が著しく低減されるため、α核種を吸着した使用済α核種吸着材の量が少なくなる。その結果、α核種を含む放射性廃棄物の発生量を低減できる。
【0072】
なお、α核種を吸着した鉄化合物、及びα核種除去装置内でα核種を吸着したα核種吸着材は、α核種除去装置から排出された放射性廃液をフィルタ装置に導くことにより、このフィルタ装置で放射性廃液から除去される。
【0073】
以上に述べた、放射性廃液に含まれるα核種を、放射性廃液の水質調整により放射性廃液内に生成された鉄化合物に吸着させて放射性廃液から除去し、放射性廃液に含まれるα核種を低減させるという放射性廃液の処理方法に基づいて創成された本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0074】
本発明の好適な一実施例である実施例1の放射性廃液の処理方法を、
図1ないし
図4を用いて説明する。本実施例は、沸騰水型原子力プラントで発生する放射性有機廃棄物の処理を行う放射性廃液の処理方法である。
【0075】
まず、
図1を参照して、本実施例の放射性廃液の処理方法の概要を説明する。
図1は、実施例1の放射性廃液の処理方法の手順を示すフローチャートである。
【0076】
原子力プラント、例えば、運転を経験している沸騰水型原子力プラントの原子炉圧力容器内の炉心に装荷された燃料集合体、または燃料貯蔵プールに保管された使用済燃料集合体に含まれる燃料棒の被覆管が、万が一、破損した場合には、燃料棒内の核燃料物質(α核種であるウラン、プルトニウム、ネプツニウム及びキュリウム等を含む)が、原子炉圧力容器内の冷却水中、または燃料貯蔵プール内の冷却水中に漏洩する。そして、原子炉圧力容器内の冷却水中に漏洩したα核種は、原子炉冷却材浄化系の浄化装置内のイオン交換樹脂によって除去される。また、燃料貯蔵プール内の冷却水中に漏洩したα核種は、燃料プール冷却材浄化系の浄化装置内のイオン交換樹脂によって除去される。
【0077】
沸騰水型原子力プラントの原子炉冷却材浄化系及び燃料プール冷却材浄化系等から発生する、セルロース系のろ過助材、イオン交換樹脂等を含むフィルタスラッジ(放射性有機廃棄物)は、高線量樹脂貯蔵タンクに長期間に亘って貯蔵される。その高線量樹脂貯蔵タンク内に貯蔵されている放射性有機廃棄物は、所定の貯蔵期間が経過した後、高線量樹脂貯蔵タンクから取り出される。
【0078】
高線量樹脂貯蔵タンクから取り出された、陽イオン交換樹脂を含む放射性有機廃棄物に対して、第一洗浄工程(クラッド溶解工程)S1が実施される。この第一洗浄工程S1では、還元性のある有機酸の水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)が放射性有機廃棄物に接触され、その水溶液に含まれるその有機酸によって、放射性有機廃棄物に含まれる鉄酸化物などのクラッドが溶解される。クラッドに含まれているコバルト60等の放射性核種は、クラッドの溶解によって有機酸水溶液中に移行する。クラッドが溶解されることによって、鉄イオンが生成され、この鉄イオンが有機酸水溶液に含まれる。
【0079】
第一洗浄工程S1において有機酸を用いる理由は、有機酸の主たる構成元素が炭素、水素、酸素及び窒素であるため、第一洗浄工程S1において発生する洗浄廃液である有機酸水溶液を、例えば、オゾンを用いて酸化処理(後述の廃液分解工程S4)をしたときに、廃液中に不揮発性の残渣を生じないからである。有機酸としては、例えば、ギ酸、シュウ酸、酢酸またはクエン酸を用いることが望ましい。
【0080】
第一洗浄工程S1において発生する、クラッドの溶解成分を含む、洗浄廃液である有機酸水溶液(クラッド溶解液)に対して、廃液分解工程S4が実施される。この廃液分解工程(有機酸及び有機酸塩のいずれかの分解工程)S4では、過酸化水素またはオゾン等の分解用の酸化剤(以下、分解用酸化剤という)が有機酸水溶液中に曝気され、その分解用酸化剤の酸化作用により有機酸が分解される。
【0081】
第一洗浄工程S1が施されて、クラッドが溶解された放射性有機廃棄物に対して、第二洗浄工程(放射性核種溶離工程)S2が実施される。この第二洗浄工程S2では、有機酸塩水溶液が、クラッドが溶解された放射性有機廃棄物に接触され、その水溶液に含まれる有機酸塩によって、放射性有機廃棄物に吸着されたα核種等の放射性核種が放射性有機廃棄物から溶離される。
【0082】
第二洗浄工程S2で使用される有機酸塩は、水溶液中で解離し、水素イオンよりも陽イオン交換樹脂に吸着されやすい陽イオンを生じる有機酸塩であることが望ましい。すなわち、有機酸塩は、その主たる構成元素が炭素、水素、酸素及び窒素であって、第二洗浄工程S2の終了後において洗浄廃液である有機酸塩水溶液を、例えば、オゾンを用いて酸化処理(廃液分解工程S4)をしたときに、廃液中に不揮発性の残渣を生じないものであることが望ましい。有機酸塩としては、例えば、ギ酸、シュウ酸、酢酸またはクエン酸のアンモニウム塩、バリウム塩またはセシウム塩を用いることが望ましい。なお、有機酸塩として、ギ酸ヒドラジンを用いてもよい。
【0083】
アンモニウム塩は、酸化処理により、窒素ガス及び水に分解されるため、バリウム塩及びセシウム塩に比べて、放射性廃棄物の発生量を低減することができる。ギ酸、シュウ酸、酢酸またはクエン酸のアンモニウム塩、バリウム塩またはセシウム塩は、水溶液中で解離して、NH4+、Ba2+またはCs+になる。NH4+、Ba2+またはCs+は、水素イオンよりも陽イオン交換樹脂に吸着されやすい陽イオンである。
【0084】
第二洗浄工程S2において発生する、溶離されたα核種等の放射性核種を含む、洗浄廃液である有機酸塩水溶液に対して、廃液分解工程S4が実施される。廃液分解工程(有機酸及び有機酸塩のいずれかの分解工程)S4では、オゾンまたは過酸化水素等の分解用酸化剤が有機酸塩水溶液中に曝気され、その分解用酸化剤により有機酸塩が分解される。
【0085】
廃液分解工程S4で有機酸または有機酸塩が分解されて残った、放射性核種を含む残留水溶液(放射性廃液)に対して、鉄化合物の生成工程S5が実施される。鉄化合物の生成工程S5では、pH調整剤の注入、具体的には、酸、アルカリ、水質調整用酸化剤、還元剤、及び脱溶存炭酸剤の注入を行うことにより、50℃以上の温度になっている放射性廃液の水質を調整し、具体的には、放射性廃液のpHを4.6以上16以下の範囲内のpHに調整して放射性廃液の酸化還元電位を-0.91V以上-0.03V以下の範囲内の酸化還元電位に調整することにより、放射性廃液に含まれる鉄イオンから鉄化合物であるFe3O4が生成される。また、その20℃~25℃の範囲内の温度になっている放射性廃液の水質を調整し、具体的には、放射性廃液のpHを6.6以上14.2以下の範囲内のpHに調整して放射性廃液の酸化還元電位を-0.89V以上-0.15V以下の範囲内の酸化還元電位に調整した場合でも、放射性廃液に含まれる鉄イオンから鉄化合物(Fe(OH)2)が生成される。
【0086】
第一α核種除去工程S6では、放射性廃液に含まれるα核種が鉄化合物の生成工程S5の実施により放射性廃液内に生成された鉄化合物、すなわち、Fe3O4(またはFe(OH)2)に吸着されて除去される。
【0087】
第二α核種除去工程S7では、鉄化合物によってα核種の一部が除去された放射性廃液がα核種除去装置内に導かれ、その放射性廃液内に存在するα核種(U,Pu,Np.Am及びCmのイオン)がα核種除去装置内に存在するα核種吸着材、例えば、フェライト粒子に吸着されて除去される。α核種吸着材としては、例えば、フェライト(Fe3O4)、活性炭、イオン交換樹脂、キレート樹脂、活性炭、オキシン添着活性炭、ゼオライト、チタン酸及びフェロシアン化物のいずれか、及びこれらのα核種吸着材のうち複数のα核種吸着材を組み合わせて使用することができる。
【0088】
第二α核種除去工程S7の次の固形分分離工程S8では、α核種除去装置から排出された放射性廃液に含まれているα核種を吸着した鉄化合物及びα核種を吸着したα核種吸着材のそれぞれ(α核種を吸着している固形分)を、放射性廃液から分離する。その後、鉄化合物の生成工程S5においてその放射性廃液に注入されたpH調整剤が分解可能なpH調整剤であるかを判定する(pH調整剤判定工程S9)。pH調整剤が、分解可能なpH調整剤であるとき、その判定が「YES」となり、α核種除去装置から排出された、pH調整剤を含む放射性廃液は、触媒(例えば、貴金属)を内部に有する分解装置に供給される。そのpH調整剤は、分解装置内で、その触媒と分解装置に供給される分解用酸化剤(例えば、過酸化水素)の作用によって分解される(分解可能なpH調整剤の分解工程S10)。なお、pH調整剤として酸(例えば、希硝酸水溶液)を放射性廃液に注入した場合、及び鉄化合物の生成工程S5において分解可能なpH調整剤を用いない水質調整が実施された場合には、上記の判定が「No」となり、分解可能なpH調整剤の分解工程S10が実施されない。
【0089】
減容工程S11では、pH調整剤を含まない放射性廃液(注入された酸を含む放射性廃液を含む)に対し、濃縮処理または乾燥粉体化処理が施される。容器充填または固化工程S12では、濃縮処理により発生した濃縮廃液、または乾燥粉体化処理によって発生した放射性廃棄物の粉体が、容器内に充填されて保管され、またはセメント等の固形剤により容器内で固化される。
【0090】
次に、実施例1のステップS1~S12の各工程を含む放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理システムの構造の一例を、
図2を参照して説明する。
【0091】
その放射性廃液処理システム1は、放射性有機廃棄物を処理する化学洗浄部10、及び化学洗浄部10から排出される洗浄廃液(放射性廃液)を処理する廃液処理部38を備えている。化学洗浄部10では、
図1に示した各工程のうち、クラッドを溶解する第一洗浄工程S1、及び放射性核種を放射性有機廃棄物から溶離させる第二洗浄工程S2が行われる。
【0092】
化学洗浄部10は、第一受入タンク3、化学反応槽(洗浄槽)4、洗浄液供給タンク6、有機酸槽7、有機酸塩槽8及び移送水槽9を有する。また、高線量樹脂貯蔵タンク2が化学洗浄部10の前段に配置され、第二受入タンク11及び焼却設備(またはセメント固化設備)12が化学洗浄部10の下流に配置される。
【0093】
移送ポンプ22を設けた有機廃棄物供給管21が、高線量樹脂貯蔵タンク2と第一受入タンク3を接続する。化学反応槽4が、移送ポンプ23を設けた有機廃棄物移送管24によって第一受入タンク3に接続されている。加熱装置5が化学反応槽4の周囲に配置される。洗浄液供給タンク6が、移送ポンプ30を設けた洗浄液供給管31によって、化学反応槽4に接続されている。化学反応槽4の底部に接続されて移送ポンプ27及び弁28が設けられた戻り配管29が、洗浄液供給タンク6に接続される。
【0094】
有機酸水溶液、例えば、シュウ酸水溶液が充填された有機酸槽7に接続されて弁33が設けられた配管32が、洗浄液供給タンク6に接続される。有機酸槽7に充填されたシュウ酸水溶液は飽和水溶液であり、そのシュウ酸水溶液のシュウ酸濃度は、例えば、0.8mol/Lである。有機酸塩水溶液、例えば、ギ酸ヒドラジン水溶液が充填された有機酸塩槽8に接続されて弁35が設けられた配管34が、弁33よりも下流で配管32に接続される。移送水となる水が充填された移送水槽9に接続されて弁37が設けられた配管36が、弁35よりも下流で配管34に接続される。
【0095】
弁25が設けられて化学反応槽4の底部に接続された配管26が、第二受入タンク11に接続されている。第二受入タンク11に接続された配管が、焼却設備(またはセメント固化設備)12に接続される。
【0096】
また、廃液処理部38は、廃液分解装置13、水質調整装置14、α核種除去装置15、固形分分離装置16、α核種吸着材注入装置73、分解装置17、酸化剤供給装置79及び処理水回収タンク18を有する。移送ポンプ27と弁28の間で戻り配管29に接続されて弁39が設けられた配管40が、廃液分解装置13に接続されている。移送ポンプ41及び弁42が設けられた配管43が、廃液分解装置13、水質調整装置14及びα核種除去装置15に接続される。配管43は、「α核種を含む放射性廃液を導く放射性廃液供給管」である。
【0097】
廃液分解装置13は、
図3に示すように、廃液貯槽で構成され、その廃液貯槽内の底部にオゾン噴射管50が設置されている。このオゾン噴射管50には、多数の噴射孔が形成されている。オゾン噴射管50は、オゾン供給管51によりオゾン供給装置49に接続されている。配管40は廃液分解装置13の廃液貯槽に接続される。配管43の一端部は廃液貯槽内に挿入されている。さらに、廃液分解装置13の廃液貯槽には、ガス排気管52が接続される。
【0098】
配管44が、α核種除去装置15、固形分分離装置16、分解装置17及び処理水回収タンク18に接続される。α核種吸着材注入装置73は、α核種除去装置15に連絡される。
【0099】
水質調整装置14、α核種除去装置15及びα核種吸着材注入装置73のそれぞれの詳細な構造は、
図4を用いて順次説明する。
【0100】
まず、水質調整装置14について説明する。水質調整装置14は、α核種除去装置15に接続された配管43に設けられ、pH調整剤注入装置53及びpH計49Aを有する。pH調整剤注入装置53は、還元剤注入装置54、酸注入装置58、酸化剤注入装置62及びアルカリ注入装置66を有する。
【0101】
還元剤注入装置54は、還元剤供給装置130、酸化還元電位調整剤供給装置134、混合槽55、及び弁56が設けられた注入配管57を有する。還元剤供給装置130は、還元剤槽131、及び弁132が設けられた注入配管133を有する。注入配管133は、還元剤槽131に接続され、混合槽55に接続される配管138に接続される。還元剤槽131には、アルカリ性還元剤水溶液、例えば、ヒドラジン水溶液が充填される。酸化還元電位調整剤供給装置134は、酸化還元電位調整剤槽135、及び弁136が設けられた注入配管137を有する。注入配管137は、酸化還元電位調整剤槽135に接続され、さらに、配管138に接続される。酸化還元電位調整剤槽135には、酸化還元電位調整剤水溶液、例えば、アスコルビン酸水溶液が充填される。混合槽55に接続された注入配管57は、移送ポンプ41(
図2参照)と後述のα核種除去装置15の間で配管43に接続される。
【0102】
還元剤供給装置130の、還元剤槽131に接続されて弁132を有する注入配管133、及び酸化還元電位調整剤供給装置134の、酸化還元電位調整剤槽135に接続されて弁136を有する注入配管137のそれぞれを、混合槽55に接続される配管138ではなく、注入配管61,65及び69が接続される注入配管57に接続してもよい。この場合には、混合槽55、配管138及び弁56が削除され、注入配管57の弁56よりも上流側の部分も削除される。このため、水質調整装置14がコンパクトになる。
【0103】
酸注入装置58は、酸槽59、及び弁60が設けられた注入配管61を有する。注入配管61は、酸槽59に接続され、さらに、弁56の下流で注入配管57に接続される。酸槽59には、酸水溶液、例えば、希硝酸水溶液が充填される。
【0104】
酸化剤注入装置62は、酸化剤槽63、及び弁64が設けられた注入配管65を有する。酸化剤槽63に接続された注入配管65は、弁56の下流で注入配管57に接続される。酸化剤槽63には、水質調整用酸化剤水溶液、例えば、シュウ酸水溶液が充填される。
【0105】
アルカリ注入装置66は、アルカリ槽67、及び弁68が設けられた注入配管69を有する。注入配管69は、アルカリ槽67に接続され、さらに、弁64の下流で注入配管65に接続される。アルカリ槽67には、アルカリ水溶液、例えば、水酸化ナトリウム水溶液が充填される。
【0106】
また、pH計49Aが、還元剤注入装置54の注入配管57と配管43の接続点よりも下流の部分で配管43に取り付けられる。α核種濃度計70が、pH計49Aが配管43に取り付けられた位置と、配管43と配管77との接続点との間で、配管43に取り付けられる。なお、その配管77は、移送ポンプ27と弁28の間で、化学洗浄部10の戻り配管29に接続される。
【0107】
還元剤注入装置54からアルカリ性還元剤であるヒドラジン(還元剤槽131内に存在)及びアルカリ注入装置66からアルカリである水酸化ナトリウムのうち少なくとも1つの物質を配管43に注入することにより、配管43内を流れる放射性廃液をアルカリ性に調整することができる。また、酸注入装置58から酸である希硝酸、酸化剤注入装置62から水質調整用酸化剤であるシュウ酸及び還元剤注入装置54から酸化還元電位調整剤であるアスコルビン酸(酸化還元電位調整剤槽135内に存在)のうち少なくとも1つの物質を配管43に注入することにより、配管43内を流れる放射性廃液を酸性に調整することができ、その放射性廃液を酸化雰囲気もしくは還元雰囲気に調整することが可能になる。
【0108】
α核種除去装置15は、
図4に示すように、配管43と配管77の接続点の下流に配置されて配管43に接続され、配管43を通して水質調整装置14によって水質が調整された放射性廃液を収容するケーシングを有している。スペース領域71、及びα核種吸着材であるフェライト粒子が多く存在する領域72が、そのケーシング内に形成されている。スペース領域71は領域72よりも上流に位置している。磁化率測定装置49Bが、α核種除去装置15のケーシングの、領域72に対向する外面に設置されている。
【0109】
α核種吸着材注入装置73は、
図4に示すように、α核種吸着材、例えば、フェライト(Fe
3O
4)の粒子が充填される吸着材槽74、及び弁76が設けられた注入配管75を有する。注入配管75の一端は吸着材槽74に接続され、注入配管75の他端はα核種除去装置15内のスペース領域71内に挿入されている。α核種吸着材注入装置73の吸着材槽74から注入配管75を通して、α核種除去装置15のケーシング内のスペース領域71に存在する放射性廃液に、α核種吸着材であるフェライト粒子を注入することができる。
【0110】
固形分分離装置16は、例えば、μmオーダー以下の孔径を有する膜を有する。化学洗浄部10の戻り配管29の移送ポンプ27と弁28の間に接続された配管78が、固形分分離装置16に接続される。そして、固形分分離装置16においてろ過してα核種吸着材が分離されたろ過水である放射性廃液は、配管78を通じて戻り配管29に戻る。これにより、ろ過水を循環水として循環させることができる。
【0111】
なお、戻り配管29と配管77及び78との各接続部よりも各配管29,77及び78の上流側(化学反応槽4側、水質調整装置14側、固形分分離装置16側)には、図示しない弁を設ける。これにより、化学反応槽4からの水と、配管77からの水と、及び配管78からのろ過水とを切り替えることができる。
【0112】
分解装置17は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。
【0113】
酸化剤供給装置79は、薬液タンク80及び供給配管81を有する。薬液タンク80は、弁82を有する供給配管81によって分解装置17に接続される。この薬液タンク80内には、分解用酸化剤である過酸化水素が充填される。なお、分解用酸化剤として、過酸化水素の替りに、オゾン、または酸素を溶解した水を用いてもよい。
【0114】
さらに、処理水回収タンク18の下流側に、乾燥粉体化装置19及び固化設備20が配置される。移送ポンプ47を設けた配管46が、処理水回収タンク18と乾燥粉体化装置19を接続する。乾燥粉体化装置19に接続された配管48が、固化設備20に接続される。なお、乾燥粉体化装置19の替りに、放射性廃液の濃縮装置を用いてもよい。
【0115】
次に、
図2に示した放射性廃液処理システム1を用いた、本実施例の放射性廃液の処理方法を、詳細に説明する。
【0116】
沸騰水型原子力プラントの原子炉冷却材浄化系及び燃料プール冷却浄化系等から排出されて、高線量樹脂貯蔵タンク2に所定の長期間貯蔵された放射性有機廃棄物は、セルロース系のろ過助材、イオン交換樹脂、等を含む。高線量樹脂貯蔵タンク2に貯蔵された放射性有機廃棄物は、例えば、
図27に示される移送水槽94内の水を移送水供給管95によって高線量樹脂貯蔵タンク2に供給することにより、移送し易いスラリーの状態になる。高線量樹脂貯蔵タンク2内の放射性有機廃棄物には、原子炉冷却材浄化系及び燃料プール冷却浄化系等で冷却水から除去されたクラッドが含まれており、クラッドにはコバルト60等の放射性核種が含まれている。また、高線量樹脂貯蔵タンク2に貯蔵されたイオン交換樹脂には、コバルト60、セシウム137、炭素14、塩素36等のα核種以外の放射性核種のイオンが吸着されている。さらに、そのイオン交換樹脂には、前述したように、α核種(ウラン、プルトニウム、アメリシウム、ネプツニウム及びキュリウム等)が吸着されている。
【0117】
移送ポンプ22を駆動することにより、放射性有機廃棄物を約10wt%含むスラリーが、所定量、高線量樹脂貯蔵タンク2から有機廃棄物供給管21を通して第一受入タンク3に移送される。第一受入タンク3内の放射性有機廃棄物のスラリーは、移送ポンプ23の駆動により、有機廃棄物移送管24を通して化学反応槽4に供給される。化学反応槽4内で、放射性有機廃棄物スラリーの水位が所定レベルに達したとき、移送ポンプ23が停止され、そのスラリーの化学反応槽4への供給が停止される。化学反応槽4内の放射性有機廃棄物スラリーは加熱装置5によって加熱される。
【0118】
その後、移送ポンプ27が駆動され、化学反応槽4内のスラリーに含まれる水が、放射性廃液(以下、「第三放射性廃液」という)として、戻り配管29及び配管40を通して廃液分解装置13の廃液貯槽(図示せず)に導かれる。このとき、弁28は閉じており、弁39は開いている。廃液貯槽に導かれた第三放射性廃液は、移送ポンプ41の駆動により、配管43を通してα核種除去装置15に導かれる。化学反応槽4内で、放射性有機廃棄物スラリーに含まれる水はα核種を含んでいないので、廃液貯槽内の第三放射性廃液は、α核種を含んでおらず、α核種以外の放射性核種を含んでいる。このため、α核種を含んでいない第三放射性廃液に対する、水質調整装置14を用いた水質調整は行われない。
【0119】
第三放射性廃液が、α核種除去装置15内を通過し、配管44に排出されて処理水回収タンク18に導かれる。その第三放射性廃液がα核種除去装置15に供給された際、α核種吸着材注入装置73から注入された、α核種除去装置15内のフェライト粒子は、α核種、及びα核種以外の放射性核種を吸着しない。なお、第三放射性廃液に含まれるコロイド性の物質及び固形分は、α核種除去装置15の下流に配置された固形分分離装置16によって除去される。第三放射性廃液がα核種を含んでいないため、分解可能なpH調整剤の分解工程S10における分解可能なpH調整剤であるアルカリ性還元剤(例えば、ヒドラジン)の分解も行われない。
【0120】
もし、第三放射性廃液がα核種を含んでいる場合には、後述の第一放射性廃液及び第2放射性廃液に対して実施される鉄化合物の生成工程S5から分解可能なpH調整剤の分解工程S10の工程までの各工程が、第三放射性廃液に対しても実施される。pH調整剤判定工程S9が「NO」である場合には、分解可能なpH調整剤の分解工程S10は実施されない。第三放射性廃液がα核種を含んでいるか、いないかは、廃液分解装置13の廃液貯槽の外面付近に配置した放射線検出器で検出された放射線強度に基づいて判定される。検出された放射線強度が設定値以下であれば、第三放射性廃液にはα核種が含まれていないと判定し、その放射線強度が設定値を超えた場合には、第三放射性廃液にはα核種が含まれていると判定する。
【0121】
廃液貯槽内の第三放射性廃液のα核種除去装置15への移送が終了したとき、移送ポンプ41が停止される。処理水回収タンク18内に回収された第三放射性廃液は、所定量、移送ポンプ47を駆動することにより、配管46を通して乾燥粉体化装置19に供給される。α核種以外の放射性核種を含む第三放射性廃液は、乾燥粉体化装置19で紛体化される(減容工程S11)。
【0122】
その後、乾燥粉体化装置19で生成された紛体は、固化設備20(または充填設備)に移送される。固化設備20では、その粉体が固化容器内に充填され、その固化容器内に固化材(例えば、セメント)が注入される。固化容器内の紛体は、固化材によって固化される(容器充填または固化工程S12)。固化された粉体が内部に存在し、密封された固化容器は、保管場所において保管される。保管されるこの固化容器内には、超半減期のα核種が存在していない。また、充填設備を用いる場合には、容器内に粉体を充填し、粉体を充填した容器を密封した後、その容器が保管場所に保管される。
【0123】
そして、第一洗浄工程S1が実施される。放射性有機廃棄物スラリーの水分が排出されて放射性有機廃棄物が残留している化学反応槽4には、移送ポンプ30の駆動により、72g/L程度のシュウ酸水溶液(シュウ酸濃度が0.8mol/L)が、洗浄液供給タンク6から洗浄液供給管31を通して供給される。このシュウ酸水溶液は、有機酸水溶液である。洗浄液供給タンク6へのシュウ酸水溶液の供給は、弁33を開いたとき、配管32を通して有機酸槽7から行われる。このとき、弁35及び弁37は全閉状態である。シュウ酸水溶液の替りにクエン酸水溶液を用いてもよい。これらの有機酸は還元性を有する。
【0124】
加熱装置5によって、化学反応槽4内のシュウ酸水溶液が加熱される。シュウ酸水溶液の加熱温度は100℃未満とする。化学反応槽4内に供給されたシュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸は、化学反応槽4内の放射性有機廃棄物に付着したクラッドを溶解する(第一洗浄工程S1)。このクラッドの溶解によって生成された鉄イオン、及びクラッドに含まれた放射性核種、例えば、コバルト60は、シュウ酸水溶液中に移行する。
【0125】
化学反応槽4内でのシュウ酸水溶液によるクラッドの溶解によって生じた、シュウ酸水溶液に含まれるクラッド成分(固形分)を、化学反応槽4で沈殿させる。クラッド成分の沈殿によって生じた、化学反応槽4内の上澄み液であるシュウ酸水溶液のみを、移送ポンプ27の駆動により、戻り配管29を通して洗浄液供給タンク6に回収する。このとき、弁39は閉じており、弁37は開いている。洗浄液供給タンク6に回収されたシュウ酸水溶液は、化学反応槽4に供給され、化学反応槽4内でクラッドの溶解に再使用される。
【0126】
第一洗浄工程S1では、放射性有機廃棄物の一部であるイオン交換樹脂が有機酸であるシュウ酸に浸漬されるため、イオン交換樹脂に吸着されている放射性核種の一部が、イオン交換樹脂から脱離される。具体的には、シュウ酸が解離して生じる水素イオン及びシュウ酸イオンが、それぞれ陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂に吸着されている放射性核種とイオン交換されるため、一部の放射性核種(α核種、及びα核種以外の放射性核種)がイオン交換樹脂から脱離される。
【0127】
化学反応槽4内でのクラッドの溶解が終了した後、弁28が閉じられて弁39が開けられる。化学反応槽4内の、クラッドの溶解に供用され、クラッドに含まれていた放射性核種(例えば、コバルト60等)、シュウ酸が解離して生じる前述の水素イオン及びシュウ酸イオンとのイオン交換により、放射性有機廃棄物の一部であるそれぞれの陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂から脱離された一部の放射性核種(α核種、及びα核種以外の放射性核種のそれぞれ)、及び鉄イオンを含む60℃のシュウ酸水溶液(以下、「第一放射性廃液」という)は、移送ポンプ27の駆動により、配管29及び配管40を通って廃液分解装置13の廃液貯槽に移送される。加熱装置5で加熱されるため、そのシュウ酸水溶液の温度が60℃になっている。
【0128】
なお、化学洗浄部10の化学反応槽4から廃液処理部38の廃液分解装置13への第一放射性廃液及び後述の第二放射性廃液のそれぞれの移送は、例えば、戻り配管29に取り付けられたサンプリング弁(図示せず)を介して採取された第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれを定期的に分析し、採取された第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれに含まれるα核種の濃度が所定の濃度になったときに行われる。採取された第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれのα核種濃度が所定の濃度になったことは、第一洗浄工程S1において化学反応槽4内の放射性有機廃棄物に付着したクラッドが化学反応槽4内の有機酸水溶液中に十分に溶解されたこと、及び化学反応槽4内の放射性有機廃棄物(例えば、陽イオン交換樹脂)に吸着されたα核種が化学反応槽4内の有機酸塩水溶液中に十分に溶離されたことを意味する。
【0129】
廃液分解装置13の廃液貯槽へのシュウ酸を含む第一放射性廃液の移送が終了した後、廃液分解工程S4が実施される。廃液分解工程S4では、オゾンが、オゾン供給装置49からオゾン供給管51を通して、所定時間、廃液貯槽内のオゾン噴射管50に供給され、オゾン噴射管50に形成された多数の噴射孔から、廃液貯槽内の第一放射性廃液中に噴射される。第一放射性廃液に含まれる有機成分であるシュウ酸が、噴射されたオゾンにより分解される。シュウ酸は、オゾンと反応して、炭酸ガスと水に分解される。廃液貯槽内に噴射されたオゾンの残り、及び炭酸ガスが、廃液貯槽に接続されたガス排気管52を通してオフガス処理装置(図示せず)に供給され、ガス排気管52に排出されたガスに含まれる放射性ガスが、オフガス処理装置で取り除かれる。
【0130】
廃液分解装置13の廃液貯槽内での、第一放射性廃液に含まれるシュウ酸の分解(廃液分解工程S4)が終了した後、廃液貯槽へのオゾンの供給が停止されて移送ポンプ41が駆動され、シュウ酸分解後において廃液貯槽内に残留する、脱離されたα核種及びα核種以外の放射性核種のそれぞれ、及び鉄イオンを含む水溶液、すなわち、第一放射性廃液が、配管43を通して水質調整装置14に供給される。このとき、弁42は開いている。
【0131】
廃液分解装置13の廃液貯槽内の第一放射性廃液の温度が50℃未満に低下する場合に備えて、ヒーター(図示せず)を、水質調整装置14の注入配管57と配管43の接続点よりも上流側で配管43の外面に巻き付ける。配管43内を流れる第一放射性廃液をそのヒーターによって加熱し、配管43内を流れる第一放射性廃液を60℃に保持する。
【0132】
上述した廃液分解工程S4の後に、鉄化合物の生成工程S5が実施される。本実施例では、水質調整装置14において、pH調整剤注入装置53から注入配管57を通してpH調整剤が配管43内の第一放射性廃液に注入される。本実施例において、配管43内の第一放射性廃液に注入されるpH調整剤としては、酸、水質調整用酸化剤、還元剤及びアルカリが用いられる。
【0133】
pH調整剤として酸、水質調整用酸化剤、還元剤及びアルカリを用いることにより、水質調整装置14によって、鉄化合物の生成工程S5において、酸、水質調整用酸化剤、還元剤及びアルカリのうち該当するpH調整剤を、配管43内の60℃の第一放射性廃液に注入する注入することができる。酸、水質調整用酸化剤、還元剤及びアルカリのうちどれを注入するかは、水質調整前の第一放射性廃液の性状及び水質調整後における第一放射性廃液の目標とする性状に応じて決められる。
【0134】
本実施例では、鉄化合物の生成工程S5において、配管43内のα核種を含む60℃の第一放射性廃液のpHを4.6以上16以下の範囲内のpHに調節するために、該当するpH調整剤が水質調整装置14から配管43に注入される。水質調整後の第一放射性廃液のpHを酸性、例えば、「5」にする場合には、第一放射性廃液に酸注入装置58から酸である所定量の希硝酸水溶液を注入する。第一放射性廃液のpHを中性の「7」にする場合には、酸注入装置58から所定量の希硝酸水溶液及びアルカリ注入装置66からアルカリである所定量の水酸化ナトリウムを第一放射性廃液に注入する。また、第一放射性廃液のpHを、例えば、弱アルカリ性の「8」にする場合には、酸注入装置58から所定量の希硝酸水溶液、及びアルカリ注入装置66からの所定量の水酸化ナトリウム水溶液を第一放射性廃液に注入し、さらに、還元剤注入装置54から、例えば、アルカリ性還元剤である所定量のヒドラジンを注入する。第一放射性廃液のpHを、例えば、弱酸性の「6.5」にする場合には、酸注入装置58から所定量の希硝酸水溶液、アルカリ注入装置66からの所定量の水酸化ナトリウム水溶液のそれぞれを第一放射性廃液に注入し、さらに、酸化剤注入装置62から、例えば、水質調整用酸化剤である所定量のシュウ酸(有機酸)水溶液を注入する。また、第一放射性廃液のpHを「7」付近の弱アルカリ性にする場合には、所定量の希硝酸水溶液、所定量の水酸化ナトリウム水溶液、所定量のヒドラジン水溶液及び所定量のシュウ酸水溶液を注入し、ヒドラジン水溶液の注入量をシュウ酸水溶液の注入量よりも若干多くする。第一放射性廃液のpHを「7」付近の弱酸性にする場合には、所定量の希硝酸水溶液、所定量の水酸化ナトリウム水溶液、所定量のヒドラジン水溶液及び所定量のシュウ酸水溶液を注入し、シュウ酸水溶液の注入量をヒドラジン水溶液の注入量よりも若干多くする。
【0135】
α核種を含む第一放射性廃液のpHを4.6以上16以下の範囲内のpHに調節する場合において、第一放射性廃液の酸化還元電位を、
図23に示す領域R2内の還元電位に調整する場合には、還元剤注入装置54における酸化還元電位調整剤供給装置134の酸化還元電位調整剤槽135内の酸化還元電位調整剤水溶液、例えば、アスコルビン酸水溶液を配管43内の第一放射性廃液に注入すればよい。アスコルビン酸水溶液の注入量は、弁136の開度制御により調節される。アスコルビン酸水溶液を注入すると、第一放射性廃液のpHは酸性側に変化する。このため、アスコルビン酸水溶液による第一放射性廃液のpHの酸性側への変化を、アルカリ性還元剤である、例えば、ヒドラジン水溶液を、還元剤注入装置54の還元剤供給装置130によって第一放射性廃液に注入することにより補い、第一放射性廃液のpHを上記の所定のpH値に調整すればよい。
【0136】
酸の注入は、酸注入装置58の酸槽59内の希硝酸水溶液を、弁60を開くことにより注入配管61及び42を通して配管43内に注入することによって行われる。希硝酸水溶液の注入量は、弁60の開度を制御することによって調節される。アルカリの注入は、アルカリ注入装置66のアルカリ槽67内の水酸化ナトリウム水溶液を、弁68を開くことにより注入配管69及び42を通して配管43内に注入することによって行われる。水酸化ナトリウム水溶液の注入量は、弁68の開度を制御することによって調節される。
【0137】
アルカリ性還元剤の注入は、還元剤注入装置54における還元剤供給装置130の還元剤槽131内のヒドラジン水溶液を、弁132を開くことにより注入配管133及び配管138を通して混合槽55に供給し、さらに、混合槽55から注入配管57を通して配管43内に注入することによって行われる。このとき、弁56は開いている。ヒドラジン水溶液の注入量は、弁132の開度を制御することによって調節される。酸化還元電位調整剤水溶液の注入は、還元剤注入装置54における酸化還元電位調整剤供給装置134の酸化還元電位調整剤槽135内のアスコルビン酸水溶液を、弁136を開くことにより注入配管137及び配管138を通して混合槽55に供給し、さらに、混合槽55から注入配管57を通して配管43内に注入することによって行われる。このときも、弁56は開いている。アスコルビン酸水溶液の注入量は、弁136の開度を制御することによって調節される。水質調整用酸化剤の注入は、酸化剤注入装置62の酸化剤槽63内のシュウ酸水溶液を、弁64を開くことにより注入配管65及び42を通して配管43内に注入することによって行われる。シュウ酸水溶液の注入量は、弁64の開度を制御することによって調節される。
【0138】
ヒドラジン水溶液及びアスコルビン酸水溶液の両者を第一放射性廃液に注入する場合には、還元剤供給装置130からのヒドラジン水溶液及び酸化還元電位調整剤供給装置134からのアスコルビン酸水溶液のそれぞれを、混合槽55に供給して混合し、混合されたヒドラジン水溶液及びアスコルビン酸水溶液を混合槽55から注入配管57を通して配管43内に注入すればよい。
【0139】
本実施例で、前述のように、水質調整装置14による配管43へのpH調整剤の注入によって水質が調整された配管43内の第一放射性廃液のpHが、pH計49Aで測定される。pH計49AのpH測定値に基づいて、配管43への注入が必要なpH調整剤を供給するpH調整剤注入装置53の該当する注入装置(還元剤注入装置54、酸注入装置58、酸化剤注入装置62及びアルカリ注入装置66のうちの少なくとも一つの注入装置)の弁の開度を制御し、第一放射性廃液のpHが所定の値になるように、該当する注入装置から配管43へのpH調整剤の注入量を調節する。
【0140】
廃液分解装置13から配管43に排出された、水質調整が行われる前の第一放射性廃液のpHは、例えば、6である。配管43内を流れるpH6の第一放射性廃液が、注入配管57と配管43の接続点に到達したとき、pH調整剤が水質調整装置14から注入配管57を通してその第一放射性廃液に注入される。pH調整剤の注入により、60℃の第一放射性廃液のpHが、4.6以上16以下の範囲内の、例えば、8に調整され、その第一放射性廃液の酸化還元電位が、-0.91V以上-0.03V以下の範囲内の、例えば、-0.4Vに調整される。
【0141】
第一放射性廃液の酸化還元電位を-0.4Vにする場合には、還元剤注入装置54の酸化還元電位調整剤槽135内のアスコルビン酸水溶液を、所定量、弁136及び56を開くことにより注入配管137及び57を通して配管43内に注入する。
【0142】
さらに、第一放射性廃液のpHを8にする場合には、アルカリ注入装置66のアルカリ槽67内の水酸化ナトリウム水溶液を、所定量、弁68を開くことにより注入配管69及び42を通して配管43内に注入する。さらに、酸注入装置58の酸槽59内の希硝酸水溶液を、所定量、弁60を開くことにより注入配管61及び42を通して配管43内に注入し、還元剤注入装置54の還元剤槽131内のヒドラジン水溶液を、所定量、弁132及び56を開くことにより注入配管133及び57を通して配管43内に注入する。
【0143】
このpH調整は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液及び希硝酸水溶液を水酸化ナトリウムの注入量が若干多くなるよう注入して第一放射性廃液のpHを中性の7よりも少し大きくし、第一放射性廃液のpHが8になるように、ヒドラジン水溶液を注入することにより行われる。このような各pH調整剤の注入量の調節は、pH計49Aで測定された第一放射性廃液のpHの測定値に基づいて弁60,68及び132のうち該当する弁の開度を制御することによって行われる。このとき、酸化剤注入装置62の弁64は閉じている。
【0144】
以上に述べた、鉄化合物の生成工程S5において、水質調整装置14により実施される第一放射性廃液の水質調整、例えば、第一放射性廃液のpH調整は、後述の第二放射性廃液に対しても実施される。
【0145】
上記の水質調整を行うことによって60℃の第一放射性廃液のpHは8になり、その還元酸化電位は-0.4Vになる。pH8及び還元酸化電位-0.4Vは、
図23に示された鉄の電位-pH図に示された領域R2内に存在するpH及び還元酸化電位である。
【0146】
酸である、例えば、希硝酸、アルカリである、例えば、水酸化ナトリウム及び酸化還元電位調整剤である、例えば、アスコルビン酸は、放射性廃液のpH及び酸化還元電位を大きく変化させることができ、アルカリ性還元剤である、例えば、ヒドラジン及び水質調整用酸化剤である、例えば、シュウ酸によれば、希硝酸及び水酸化ナトリウムよりも放射性廃液のpH及び酸化還元電位の変化が小さくなる。
【0147】
水質調整が行われて該当するpH調整剤(例えば、水酸化ナトリウム、希硝酸、ヒドラジンおよびアスコルビン酸)を含む第一放射性廃液のpHが4.6以上16以下の範囲内の8に調整され、第一放射性廃液の酸化還元電位が-0.91V以上-0.03V以下の範囲内の-0.4Vに調整されると、第一放射性廃液に含まれる鉄イオンから第一放射性廃液内で鉄化合物であるFe3O4が生成される。第一放射性廃棄物の水質調整により配管43内の第一放射性廃液内で生成された鉄化合物(例えば、Fe3O4)が、第一放射性廃液に含まれるα核種の一部を吸着してα核種の一部を除去する(第一α核種除去工程S6)。
【0148】
なお、20℃~25℃の範囲内の温度になっている放射性廃液のpHを6.6以上14.2以下の範囲内のpHに調整して放射性廃液の酸化還元電位を-0.89V以上-0.15V以下の範囲内の酸化還元電位に調整し、放射性廃液のpH及び酸化還元電位を、
図22に示す領域R1内のpH及び酸化還元電位にすることにより、放射性廃液に含まれる鉄イオンから鉄化合物(Fe(OH)
2)を生成することができる。
【0149】
その後、第二α核種除去工程S7が実施される。この第二α核種除去工程S7において、第一α核種除去工程S6においてα核種の一部が除去されてpHが上記の範囲内に調整されている第一放射性廃液が、配管43を通してα核種除去装置15内のスペース領域71に供給される。
【0150】
鉄化合物によりα核種の一部が除去されてα核種濃度が所定濃度以下に低減された第一放射性廃液の一部は、配管77を通して戻り配管29に戻される。なお、第一放射性廃液のα核種の濃度は、α核種濃度計70によって測定される。配管77を通して戻り配管29に戻された、α核種の濃度が所定濃度以下に低減された第一放射性廃液を、洗浄液供給タンク6から化学反応槽4に供給して再利用することにより、放射性廃液の排出量を低減することができる。
【0151】
第二α核種除去工程S7では、まず、α核種吸着材であるフェライト粒子をα核種吸着材注入装置73によりα核種除去装置15内のスペース領域71に注入する。具体的には、α核種吸着材注入装置73において、弁76を開いて吸着材槽74内のフェライト粒子を、注入配管75を通してそのスペース領域71に注入する。
【0152】
α核種除去装置15に流入する第一放射性廃液のpHが、鉄化合物の生成工程S5において、4.6以上16以下の範囲内の8に調整されているため、第一放射性廃液に含まれる、価数が「3~5」である各α核種(U,Pu,Np,Am及びCm)の価数が、スペース領域71内で「3」に調整される。第一放射性廃液に含まれる、価数が「3」に調整された各α核種は、アルカリ性還元剤(例えば、ヒドラジン)の存在下で、領域72においてフェライト粒子に効率良く吸着されて除去される(第二α核種除去工程S7)。
図4において、α核種除去装置15内に示される〇はα核種吸着材(フェライト粒子)であり、◇はα核種である。α核種除去装置15に設けられた磁化率測定装置49Bは、α核種除去装置15内にフェライト粒子が存在しているかを検出する。
【0153】
α核種除去装置15から排出された第一放射性廃液は、α核種を吸着した鉄化合物、及びα核種除去装置15内でα核種を吸着した、使用済みフェライト粒子であるフェライト粒子のそれぞれ(固形分)を含んでいる。この第一放射性廃液は、配管44を通して固形分分離装置16に供給される。固形分分離装置16において、第一放射性廃液に含まれたα核種を吸着している鉄化合物及びフェライト粒子のそれぞれが、例えば、μmオーダー以下の孔径を有する膜を用いたクロスフローフィルタ方式によるろ過により、第一放射性廃液から分離される(吸着材分離工程S8)。固形分分離装置16でのフェライト粒子の分離は、クロスフローフィルタ方式の替りにデッドエンドフィルタ方式で行ってもよい。α核種が吸着されたフェライト粒子が分離された第一放射性廃液は、固形分分離装置16から配管44に排出される。固形分分離装置16において、膜によってろ過されたろ液の一部は、配管78を通して戻り配管29に供給される。
【0154】
鉄化合物の生成工程S5において、第一放射性廃液(または後述の第二放射性廃液)に注入される酸(例えば、希硝酸)及びアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム)は分解不可能なpH調整剤であり、アルカリ性還元剤(例えば、ヒドラジン)及び酸化還元電位調整剤(例えば、アスコルビン酸)は分解可能なpH調整剤である。もし、鉄化合物の生成工程S5において、第一放射性廃液に水質調整用酸化剤(例えば、シュウ酸)を注入した場合には、この水質調整用酸化剤(例えば、シュウ酸)も分解可能なpH調整剤である。
【0155】
本実施例では、鉄化合物の生成工程S5において、第一放射性廃液のpH及び酸化還元電位を調整するために、前述したように、分解不可能なpH還元剤である希硝酸及び水酸化ナトリウム、及び分解可能なヒドラジンおよびアスコルビン酸が第一放射性廃液に注入されているので、pH調整剤判定工程S9における「pH調整剤が分解可能なpH調整剤であるか」の判定が「YES」になり、ヒドラジン及びアスコルビン酸を含む第一放射性廃液が、固形分分離装置16から、配管45を通して分解装置17に導かれる。
【0156】
第一放射性廃液に含まれるヒドラジン及びアスコルビン酸は、分解装置17内で分解される。すなわち、弁82を開いて、薬液タンク80内の過酸化水素を、供給配管81を通して分解装置17に供給する。分解装置17内で、活性炭触媒及び過酸化水素の作用により、第一放射性廃液に含まれるヒドラジンが窒素及び水に分解され、アスコルビン酸が酸素及び水に分解される(分解可能なpH調整剤の分解工程S10)。分解装置17から排出された、α核種、ヒドラジン及びアスコルビン酸を含んでいなく希硝酸及び水酸化ナトリウムを含んでいる第一放射性廃液は、配管45を通して処理水回収タンク18に導かれる。
【0157】
鉄化合物の生成工程S5において、pHを7にするために希硝酸水溶液及び水酸化ナトリウムが第一放射性廃液に注入された場合には、第一放射性廃液には分解可能なpH調整剤(ヒドラジン及びシュウ酸)が含まれていないため、pH調整剤判定工程S9の判定が「No」になる。このため、α核種除去装置15から排出された、希硝酸及び水酸化ナトリウムを含む第一放射性廃液は、分解装置17に導かれるが、この場合には弁82が閉じられているため、薬液タンク80内の過酸化水素が分解装置17に供給されない。希硝酸及び水酸化ナトリウムを含む第一放射性廃液は、そのまま、分解装置17から排出され、処理水回収タンク18に導かれる。
【0158】
前述した処理水回収タンク18内の第一放射性廃液(ヒドラジンまたはシュウ酸が分解されて希硝酸及び水酸化ナトリウムを含む第一放射性廃液)は、移送ポンプ47を駆動して配管46により乾燥粉体化装置19に供給されて紛体化される(減容工程S11)。乾燥粉体化装置19で生成された、α核種を含まない紛体は、配管48を通して固化設備20に移送されて固化容器内に充填され、その固化容器内に固化材が注入されて固化される(容器充填または固化工程S12)。この固化容器は、密封された後、保管場所に保管される。保管されるこの固化容器内には、超半減期のα核種が存在していない。
【0159】
ここで、第一放射性廃液に希硝酸を注入した場合には、この第一放射性廃液の粉体化により生成された粉体は硝酸及び水酸化ナトリウムを含んでおり、この粉体を固化容器内で溶融したガラスにより固化して生成されたガラス固化体も、硝酸及び水酸化ナトリウムを含んでいる。
【0160】
上述したように第一放射性廃液の処理が行われ、固化設備20で固化が実行された状態では、まだ化学反応槽4内に、クラッドが溶解された、陽イオン交換樹脂を含む、α核種を吸着している放射性有機廃棄物が、残留している。引き続き、この陽イオン交換樹脂を含む放射性有機廃棄物の処理を行う。
【0161】
第二洗浄工程S2が実施される。移送ポンプ30の駆動によって、40~400g/L程度のギ酸ヒドラジン水溶液(有機酸塩水溶液)が、洗浄液供給タンク6から洗浄液供給管31を通して、放射性有機廃棄物が残留する化学反応槽4内に連続的に供給される。ギ酸ヒドラジン水溶液のギ酸ヒドラジンの濃度は、溶液1L当たりの溶質(ギ酸ヒドラジン)の質量である。化学反応槽4に供給されるギ酸ヒドラジン水溶液は、pH7程度の中性液である。洗浄液供給タンク6へのギ酸ヒドラジン水溶液の供給は、弁35を開くことによって、有機酸塩槽8から配管34及び配管32を通して行われる。弁33及び弁37は閉じている。
【0162】
放射性有機廃棄物は、化学反応槽4内でギ酸ヒドラジン水溶液と接触する。化学反応槽4内では、この接触によって、放射性有機廃棄物である陽イオン交換樹脂に吸着された、α核種であるウラン、プルトニウム、アメリシウム、ネプツニウム及びキュリウム、及びα核種以外の放射性核種であるコバルト60、セシウム137、炭素14、塩素36のそれぞれのイオンが、ギ酸ヒドラジン水溶液中に溶離する(第二洗浄工程S2)。
【0163】
化学反応槽4内からギ酸ヒドラジン水溶液のみを回収し、回収されたギ酸ヒドラジン水溶液は、戻り配管29を通して洗浄液供給タンク6に移送される。このとき、弁28は開いており、弁39は閉じている。洗浄液供給タンク6に移送されたギ酸ヒドラジン水溶液は、再び、化学反応槽4に供給され、陽イオン交換樹脂に吸着された各放射性核種の溶離に使用される。ギ酸ヒドラジン水溶液の代わりに、シュウ酸、酢酸及びクエン酸のいずれかのヒドラジン塩の水溶液を用いてもよい。これらの有機酸塩は、水素イオンよりも陽イオン交換樹脂に吸着されやすい陽イオンを生じる有機酸塩である。
【0164】
放射性有機廃棄物である陽イオン交換樹脂にシュウ酸水溶液を接触させた場合では、陽イオン交換樹脂に吸着されているコバルト60に対する除染性能(除染係数)がDF4程度である。これに対して、陽イオン交換樹脂にギ酸ヒドラジン水溶液を接触させた場合では、除染性能がDF20以上となり、シュウ酸水溶液を接触させた場合よりも、除染性能が向上した。シュウ酸水溶液のみを用いてDF20以上の除染性能を得るためには、繰り返し、シュウ酸を添加する必要がある。これに対して、ギ酸ヒドラジン水溶液を用いた場合には、その繰り返しが不要となり、使用する洗浄剤の量、すなわち、シュウ酸の量を低減することができる。
【0165】
ここで、除染係数DFは、(除染前の計数率)/(除染後の計数率)で算出される数値である。なお、ギ酸ヒドラジンによる除染(イオン溶離)は、シュウ酸による除染(クラッド溶解)の後に行う。よって、有機酸水溶液によるクラッドの溶解のみを実施する場合には、有機酸塩水溶液を用いたイオンの溶離は行わないため、除染係数DFは、(除染前の計数率)/(クラッド溶解のみの計数率)で計算される値となる。一方、イオンの溶離も行う場合には、除染係数DFは、(除染前の計数率)/(クラッド溶解及びイオン溶離の後の計数率)で計算される値となる。
【0166】
化学反応槽4内での放射性核種の溶離(第二洗浄工程S2)が終了した後、弁28を閉じて弁39を開き、移送ポンプ27を駆動する。化学反応槽4内の、溶離されたα核種及びα核種以外の放射性核種を含むギ酸ヒドラジン水溶液(以下、「第二放射性廃液」という)が、配管29及び40を通して、廃液分解装置13の廃液貯槽に移送される。
【0167】
その廃液分解装置13の廃液貯槽へのギ酸ヒドラジン水溶液の移送が終了した後、弁25を開いて化学反応層4内に残存する放射性有機廃棄物は、配管26によって第二受入タンク11に導かれる。第二受入タンク11から取り出された放射性有機廃棄物は、所定量、焼却設備12に移送され、焼却設備12で焼却される。焼却により生成された灰は、固化容器内でセメント等の固化剤により固化される(焼却または固化工程S3)。
【0168】
その廃液分解装置13の廃液貯槽へのギ酸ヒドラジン水溶液の移送が終了した後、廃液分解工程S4が実施される。この廃液分解工程S4では、シュウ酸水溶液と同様に、オゾンが、オゾン供給装置49からその廃液貯槽内のギ酸ヒドラジン水溶液中に噴射される。ギ酸ヒドラジン水溶液に含まれるギ酸及びヒドラジンが、噴射されたオゾンにより分解される。ギ酸は窒素ガスと水に、また、ヒドラジンは炭酸ガスと水に分解される。廃液貯槽内に噴射されたオゾンの残り、炭酸ガス及び窒素ガスが、廃液貯槽に接続されたガス排気管52を通してオフガス処理装置(図示せず)に供給される。
【0169】
廃液分解装置13の廃液貯槽内でのギ酸及びヒドラジンの分解(廃液分解工程S4)が終了した後、その廃液貯槽へのオゾンの供給が停止されて移送ポンプ41が駆動され、ギ酸及びヒドラジンの分解後においてその廃液貯槽内に残留する、α核種、α核種以外の放射性核種及び鉄イオンを含む第二放射性廃液が、配管43を通して水質調整装置14に供給される。このとき、弁42は開いている。第二放射性廃液におけるα核種濃度は第一放射性廃液におけるそれよりも高く、第二放射性廃液における鉄イオン濃度は第一放射性廃液におけるそれよりも低い。
【0170】
本実施例では、配管43内を流れる60℃の第二放射性廃液に対しても、前述の第一放射性廃液と同様に、廃液分解工程S4の後に鉄化合物の生成工程S5が実施される。水質調整装置14によって、pH調整剤注入装置53から注入配管57を通してpH調整剤が配管43内の第二放射性廃液に注入される。本実施例において、配管43内の第二放射性廃液に注入されるpH調整剤としては、酸、水質調整用酸化剤、還元剤及びアルカリが用いられる。pH調整剤の注入により、第一放射性廃液と同様に、60℃の第二放射性廃液のpHが4.6以上16以下の範囲内の、例えば、8に調整され、その第二放射性廃液の酸化還元電位が-0.91V以上-0.03V以下の範囲内の、例えば、-0.4Vに調整される。第二放射性廃液に対するこのような水質調整により、第二放射性廃液に含まれる鉄イオンから鉄化合物であるFe3O4が生成される。第二放射性廃棄物の水質調整により配管43内の第二放射性廃液内で生成された鉄化合物(例えば、Fe3O4)が、第二放射性廃液に含まれるα核種の一部を吸着してα核種の一部を除去する(第一α核種除去工程S6)。
【0171】
第一α核種除去工程S6においてα核種の一部が鉄化合物によって除去されたpHが8の第二放射性廃液が、α核種除去装置15内のスペース領域71に流入する。第一放射性廃液の場合と同様に、フェライト粒子がα核種吸着材注入装置73からそのスペース領域71に注入される。第二放射性廃液のpHが8であるため、第二放射性廃液に含まれる、価数が「3~5」である各α核種(U,Pu,Np,Am及びCm)の価数が、スペース領域71内で「3」に調整される。第二放射性廃液に含まれる、価数が「3」に調整された各α核種は、アルカリ性還元剤(例えば、ヒドラジン)の存在下で、領域72においてフェライト粒子に効率良く吸着されて除去される(第二α核種除去工程S7)。
【0172】
α核種除去装置15から排出された第二放射性廃液に含まれた、α核種を吸着している鉄化合物及びフェライト粒子のそれぞれの固形分は、第一放射性廃液と同様に、固形分分離装置16で除去される。具体的には、その固形分は、固形分分離装置16内に存在する、例えば、μmオーダー以下の孔径を有する膜を用いたクロスフローフィルタ方式によるろ過により、第二放射性廃液から分離される(吸着材分離工程S8)。α核種が吸着されたフェライト粒子が分離された第二放射性廃液は、固形分分離装置16から配管45に排出される。
【0173】
鉄化合物の生成工程S5において、分解可能なpH調整剤であるアルカリ性還元剤、例えば、ヒドラジン及び酸化還元電位調整剤である、例えば、アスコルビン酸が第二放射性廃液に注入されているので、pH調整剤判定工程S9の判定が「YES」になる。このため、pH8の、ヒドラジン及びアスコルビン酸を含む、配管45内の第二放射性廃液は、固形分分離装置16から分解装置17に導かれる。
【0174】
第二放射性廃液に含まれるヒドラジン及びアスコルビン酸は、第一放射性廃液に含まれるヒドラジン及びアスコルビン酸と同様に、分解装置17内で、活性炭触媒及び過酸化水素の作用により分解される(分解可能なpH調整剤の分解工程S10)。分解装置17から排出された、α核種、ヒドラジン及びアスコルビン酸を含んでいなく希硝酸及び水酸化ナトリウムを含んでいる第一放射性廃液は、配管44を通して処理水回収タンク18に導かれる。
【0175】
処理水回収タンク18内の第二放射性廃液(ヒドラジンまたはシュウ酸が分解されて希硝酸及び水酸化ナトリウムを含む第一放射性廃液)は、移送ポンプ47を駆動して配管48により乾燥粉体化装置19に供給されて紛体化される(減容工程S11)。乾燥粉体化装置19で生成された、α核種を含まない紛体は、配管46を通して固化設備20に移送されて固化容器内に充填され、その固化容器内に固化材が注入されて固化される(容器充填または固化工程S12)。この固化容器は、密封された後、保管場所に保管される。保管されるこの固化容器内には、超半減期のα核種が存在していない。
【0176】
ここで、第二放射性廃液に希硝酸を注入した場合には、この第二放射性廃液の粉体化により生成された粉体は硝酸及び水酸化ナトリウムを含んでおり、この粉体を固化容器内で溶融したガラスにより固化して生成されたガラス固化体も、硝酸及び水酸化ナトリウムを含んでいる。
【0177】
本実施例によれば、α核種を含む放射性廃液(第一放射性廃液及び後述の第二放射性廃液のそれぞれ)にpH調整剤(アルカリ、酸、水質調整用酸化剤及び還元剤の少なくとも1つ)を注入することによって、鉄イオンを含む放射性廃液内にα核種を吸着する鉄化合物を生成することができる。放射性廃液に含まれるα核種は第一α核種除去工程S6において生成された鉄化合物によって除去されるため、α核種除去装置15に流入する放射性廃液に含まれる超半減期のα核種の濃度が低減される。このため、α核種除去装置15に注入するα核種吸着材(例えば、フェライト粒子)の量を減少させることができ、α核種吸着材の使用量を低減できる。これにより、α核種除去装置15をよりコンパクトにすることができる。
【0178】
特に、鉄化合物は、鉄化合物の生成工程S5において、pH調整剤を、α核種を含む放射性廃液に注入し、この放射性廃液のpHを6.6以上14.2以下の範囲内のpH(または4.6以上16以下の範囲内のpH)にし、放射性廃液の酸化還元電位を-0.91V以上-0.03V以下の範囲内の酸化還元電位(または-0.89V以上-0.15V以下の範囲内の酸化還元電位)4以上8未満の範囲内のpHにすることによって、放射性廃液内で生成することができる。
【0179】
放射性廃液内の鉄化合物で除去されずに放射性廃液内に残ったα核種は、第二α核種除去工程S7において、α核種除去装置15内でα核種吸着材によって除去できる。
【0180】
本実施例では、第一α核種除去工程S6における鉄化合物によるα核種の除去、その後の第二α核種除去工程S7におけるα核種除去装置15でのα核種の除去の二段階で、α核種を除去することができる。
【0181】
粒状のα核種吸着材がα核種吸着材注入装置73からα核種除去装置15内のα核種を含む放射性廃液中に注入されるため、α核種除去装置15内でその放射性廃液と接触するα核種吸着材の表面積が増大し、α核種吸着材によって除去されるα核種が増加する。特に、α核種吸着材の粒径を1μm以下にすることにより、α核種吸着材粒子のα核種の吸着量が著しく増加する。
【0182】
また、α核種除去装置15へのα核種吸着材粒子の注入により、特願2018-210315号の明細書に記載された、α核種吸着材粒子が充填されたα核種吸着材層が内部に形成されたα核種除去装置にα核種を含む放射性廃液を供給する場合に比べて、α核種吸着材粒子がα核種除去装置15内の放射性廃液に浸漬される時間を制御することができる。これにより、α核種吸着材粒子のα核種吸着量が所定のα核種吸着量となる時間まで、α核種吸着材粒子を放射性廃液に浸漬させるように制御することができる。
【0183】
そして、所定のα核種吸着量となる所定の時間までα核種吸着材粒子を放射性廃液に浸漬させた後に、α核種を吸着した鉄化合物及びα核種吸着材粒子を含む放射性廃液を、α核種除去装置15から固形分分離装置16に供給することが可能となる。このため、α核種を含む放射性廃棄物を低減することができる。
【0184】
本実施例によれば、第一洗浄工程S1において、有機酸水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)を用いて、放射性有機廃棄物に混在している酸化鉄成分を溶解させることができる。さらに、本実施例によれば、第二洗浄工程S2において、放射性有機廃棄物である陽イオン交換樹脂に吸着された、α核種のイオンを含む放射性核種イオンを、有機酸塩水溶液(例えば、ギ酸ヒドラジン水溶液)の陽イオン交換樹脂への接触によって陽イオン交換樹脂から脱離させることにより、放射性有機廃棄物に含まれる放射性核種の濃度を低減することができる。これにより、高線量の放射性廃棄物の量を低減することができる。特に、有機酸水溶液によっても陽イオン交換樹脂から脱離されずに陽イオン交換樹脂に吸着されて残っているα核種のイオンを含む放射性核種のイオンを、有機酸塩水溶液を放射性有機廃棄物に接触させることにより、効率良く、陽イオン交換樹脂から脱離させることができる。
【0185】
本実施例によれば、α核種を含む放射性廃液にアルカリ性還元剤、例えば、ヒドラジンを注入して放射性廃液のpHを調節するため、放射性廃液に含まれる超半減期のα核種が、α核種除去装置15に注入したフェライト(α核種吸着材)によって除去されやすくなる。このため、放射性廃液に含まれるα核種がα核種除去装置15において除去され、α核種除去装置15から流出する放射性廃液に含まれる超半減期のα核種が著しく低減される。この結果、α核種除去装置15から流出する放射性廃液の放射線線量が著しく低減され、超半減期のα核種を含む放射性廃棄物(例えば、固化体)の発生量を低減できる。
【0186】
化学反応槽4から戻り配管29に排出された第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれのα核種濃度が所定の濃度になったときに、化学反応槽4から廃液分解装置13にα核種を含む第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれを移送することにより、第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれに含まれるα核種吸着材におけるα核種の吸着性能を十分に発揮させることができる。
【0187】
本実施例では、α核種除去装置15内に存在する放射性廃液に含まれる鉄化合物及びα核種吸着材が、固形分分離装置16で分離される。分離された鉄化合物及びα核種吸着材は、固化容器(以下、「第1固化容器」という)内に収納される。その後、例えば、溶融したガラスが、α核種を吸着している所定量の鉄化合物及びα核種吸着材が収納された第1固化容器内に充填される。溶融したガラスが固化した後、α核種を吸着した所定量の鉄化合物及びα核種吸着材が収納された第1固化容器が密封される。
【0188】
高線量樹脂貯蔵タンク2内に貯蔵されている放射性有機廃棄物にα核種が吸着された陽イオン交換樹脂が含まれているときに、前述した特開2015-64334号公報に記載された放射性有機廃棄物の処理方法を実施すると、放射性有機廃棄物に含まれているクラッドを溶解した有機酸水溶液、陽イオン交換樹脂からα核種を脱離させた有機酸塩水溶液のそれぞれには、α核種が含まれている。α核種を含む有機酸水溶液の有機酸を分解用酸化剤で分解して生成された第一放射性廃液、及びα核種を含む有機酸塩水溶液の有機酸塩を分解用酸化剤で分解して生成された第二放射性廃液のそれぞれは、粉体化されて別々の固化容器(以下、「第2固化容器」という)内に充填され、その後、例えば、溶融されたガラスが各第2固化容器内に充填される。第一放射性廃液の、α核種を含む粉体を固化する溶融ガラスが第2固化容器内で固化された後に、この第2固化容器が密封される。第二放射性廃液の、α核種を含む粉体を固化する溶融ガラスが第2固化容器内で固化された後に、この第2固化容器が密封される。
【0189】
ここで、本実施例の処理方法と特開2015-64334号公報に記載された処理方法とを、比較する。これらの処理方法において、第一洗浄工程S1及び第二洗浄工程S2の実施の対象となる放射性有機廃棄物の量が同じであって溶解されるクラッドの量及び脱離されるα核種の量が同じであり、発生する第一放射性廃液の量及び第二放射性廃液の量が同じであるとする。このとき、本実施例で発生する、α核種を吸着した鉄化合物及びα核種吸着材を第1固化容器内でガラス固化することにより生成されたガラス固化体の個数は、特開2015-64334号公報に記載された処理方法で発生した、第一放射性廃液の、α核種を含む粉体を第2固化容器内でガラス固化することにより生成されたガラス固化体の個数と、第二放射性廃液の、α核種を含む粉体を第2固化容器内でガラス固化することにより生成されたガラス固化体の個数の合計よりも少なくなる。すなわち、本実施例で発生する、α核種を含むガラス固化体(α核種を含む放射性廃棄物)は、特開2015-64334号公報記載された処理方法で発生する、α核種を含むガラス固化体(α核種を含む放射性廃棄物)よりも低減できる。
【0190】
本実施例によれば、クラッドを溶解した有機酸水溶液に含まれる有機酸(例えば、シュウ酸)、及びα核種を溶離した有機酸塩水溶液に含まれる有機酸塩(例えば、ギ酸ヒドラジン)が、分解用酸化剤を用いた酸化処理により分解されるため、α核種を含む放射性廃液の量が低減され、α核種除去後の放射性廃液の濃縮または粉体化によって、発生する放射性廃棄物の量が低減される。
【0191】
本実施例によれば、有機酸水溶液による、放射性有機廃棄物に含まれるクラッドの溶解(第一洗浄工程S1)、及び有機酸塩水溶液による、放射性有機廃棄物である陽イオン交換樹脂に吸着されたα核種の脱離(第二洗浄工程S2)を、一つの洗浄槽(例えば、化学反応槽4)内で順番に実施するので、放射性廃液処理システムをよりコンパクトにすることができる。
【0192】
実施例1において、水質調整装置14の替りに、
図5に示す水質調整装置14Aを用いることができる。水質調整装置14Aは、水質調整装置14におけるpH調整剤注入装置53及びpH計49Aと共に、脱溶存炭酸剤注入装置78、酸化還元電位測定装置82A及び炭酸濃度計83を備えている。脱溶存炭酸剤注入装置78は、脱溶存炭酸剤槽79A、及び弁80Aが設けられた注入配管81Aを有する。脱溶存炭酸剤槽79Aに接続された注入配管81Aは、pH計49Aの配管43への取り付け位置と、配管43と配管77の接続点の間で配管43に接続される。脱溶存炭酸剤槽79Aには、脱溶存炭酸剤として、亜硫酸ナトリウム、N
2ガス及びArガスのいずれかが充填される。
【0193】
酸化還元電位測定装置82Aは、pH計49Aの配管43への取り付け位置と、注入配管81Aと配管43の接続位置との間で、配管43に取り付けられる。炭酸濃度計83は、注入配管81Aと配管43の接続位置と、α核種濃度計70の配管43への取り付け位置との間で、配管43に取り付けられる。
【0194】
水質調整装置14Aを用いた場合における第1放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれに対して実施される鉄化合物の生成工程S5を、以下に説明する。
【0195】
廃液分解工程S4において、廃液分解装置13の廃液貯槽内の第一放射性廃液に含まれるシュウ酸が分解された後、α核種、α核種以外の放射性核種及び鉄イオンを含む60℃の第一放射性廃液が、配管43を通して水質調整装置14Aに供給される。
【0196】
鉄化合物の生成工程S5において、pH調整剤が、水質調整装置14Aから注入配管57を通して配管43内の第一放射性廃液に注入される。pH調整剤の注入により、第一放射性廃液のpHは、4.6以上16以下の範囲内の、例えば、8に調整される。このとき、前述したように、水質調整装置14Aのアルカリ注入装置66から水酸化ナトリウム水溶液が、酸注入装置58から希硝酸水溶液が、還元剤注入装置54の還元剤供給装置130からヒドラジン水溶液が、還元剤注入装置54の酸化還元電位調整剤供給装置134からアスコルビン酸水溶液がそれぞれ所定量、配管43内に注入される。
【0197】
さらに、鉄化合物の生成工程S5では、第一放射性廃液における溶存炭素の量を調整するために、弁80Aを開くことによって脱溶存炭酸剤注入装置78の脱溶存炭酸剤槽79A内の脱溶存炭酸剤、例えば、亜硫酸ナトリウムが、注入配管81Aを通して配管43に注入される。亜硫酸ナトリウムの注入によりpHが8の第一放射性廃液に溶存している炭素の量が減少する。
【0198】
水質調整装置14Aを用いることによって、前述したように、第一放射性廃液のpHを4.6以上16以下の範囲内の、例えば、8に調整することができ、第一放射性廃液に溶存している炭素の量を減少させることができる。このため、水質調整装置14により第一放射性廃液のpH調整だけを行う場合に比べて、水質調整装置14Aを用いて第一放射性廃液のpH調整及び第一放射性廃液の溶存炭素量の減少を実施する場合には、第一放射性廃液内で生成される鉄化合物の量が増加し、鉄化合物による、第一放射性廃液に含まれているα核種の吸着量が増加する。このため、鉄化合物により多くのα核種を除去することができ、鉄化合物で除去されるα核種の量が増加する。それだけ、α核種除去装置15に供給される第一放射性廃液に含まれるα核種の量が少なくなり、α核種除去装置15に注入されるα核種吸着材の量も減らすことができる。第二放射性廃液においても、同様な効果を得ることができる。
【0199】
実施例1において、水質調整装置14の替りに、
図6に示す水質調整装置14Bを用いることができる。
【0200】
水質調整装置14Bは、脱溶存炭酸剤注入装置78、pH計49A及び炭酸濃度計83を備えている。脱溶存炭酸剤注入装置78は、脱溶存炭酸剤槽79A、及び弁80Aが設けられた注入配管81Aを有する。脱溶存炭酸剤槽79Aに接続された注入配管81Aは、pH計49Aの配管43への取り付け位置と、配管43と配管77の接続点の間で配管43に接続される。脱溶存炭酸剤槽79Aには、脱溶存炭酸剤として、亜硫酸ナトリウム、N2ガス及びArガスのいずれかが充填される。炭酸濃度計83は、注入配管81Aと配管43の接続位置と、α核種濃度計70の配管43への取り付け位置との間で、配管43に取り付けられる。なお、水質調整装置14BはpH調整剤注入装置53を備えていない。
【0201】
廃液分解装置13内で有機酸が分解された第一放射性廃液及び有機酸塩が分解された第二放射性廃液のそれぞれが、配管43に排出される。第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれにおける溶存炭素の量を調整するために、弁80Aを開くことによって脱溶存炭酸剤注入装置78の脱溶存炭酸剤槽79A内の脱溶存炭酸剤、例えば、亜硫酸ナトリウムが、注入配管81Aを通して配管43に注入される。亜硫酸ナトリウムの注入により第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれにおいて溶存している炭素の量が減少する。
【0202】
このように第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれの溶存炭素量が低減されることにより、
図10、
図13、
図16及び
図19にそれぞれ示すように、各放射性廃液においてα核種濃度を低減することができる。
【実施例2】
【0203】
本発明の好適な他の実施例である実施例2の放射性廃液の処理方法を、
図1ないし
図4を用いて説明する。本実施例は、沸騰水型原子力プラントで発生する放射性有機廃棄物の処理を行う放射性廃液の処理方法である。
【0204】
第一洗浄工程S1において、シュウ酸水溶液(有機酸水溶液)を、放射性有機廃棄物が存在する化学反応槽4に供給し、その放射性有機廃棄物に付着したクラッドを溶解する。クラッドの溶解によって、生成された鉄イオン、及びクラッドに含まれた放射性核種(例えば、コバルト60)はシュウ酸水溶液中に移行する。イオン交換によって、放射性有機廃棄物に吸着されたα核種の一部が放射性有機廃棄物からシュウ酸水溶液中に脱離する。鉄イオン、α核種、及びα核種以外の放射性核種を含む60℃のシュウ酸水溶液が、化学反応槽4から配管29及び配管40を通って廃液分解装置13の廃液貯槽に移送される。
【0205】
第二洗浄工程S2において、ギ酸ヒドラジン水溶液(有機酸塩水溶液)を、化学反応槽4に供給し、化学反応槽4内でその放射性有機廃棄物に吸着されたα核種をギ酸ヒドラジン水溶液中に溶離させる。α核種及び鉄イオンを含むギ酸ヒドラジン水溶液が、化学反応槽4から配管29及び配管40を通って廃液分解装置13のシュウ酸水溶液が存在する廃液貯槽に移送される。ギ酸ヒドラジン水溶液は、その廃液貯槽内でシュウ酸水溶液と混合される。
【0206】
オゾンを、シュウ酸及びギ酸ヒドラジンが存在する、廃液貯槽内の水溶液中に噴射し、シュウ酸及びギ酸ヒドラジンを分解する(廃液分解工程S4)。シュウ酸及びギ酸ヒドラジンの分解では、シュウ酸水溶液を廃液貯槽内に供給してこのシュウ酸水溶液にオゾンを噴射してシュウ酸を分解し、その後、廃液貯槽内のシュウ酸が分解された水溶液にギ酸ヒドラジン水溶液を供給し、ギ酸ヒドラジンを含む水溶液にオゾンを噴射してギ酸ヒドラジンを分解してもよい。シュウ酸が分解された水溶液にギ酸ヒドラジン水溶液を供給する場合も、シュウ酸水溶液及びギ酸ヒドラジン水溶液が実質的に混合されている。
【0207】
廃液分解工程S4が終了した後、廃液分解装置13の廃液貯槽内の、鉄イオン及びα核種を含む60℃の放射性廃液は、廃液貯槽から配管43に排出される。本実施例では、廃液貯槽から配管43に排出された放射性廃液に対して、実施例1と同様に、鉄化合物の精製工程S5ないし容器充填または固化工程S12の各工程が実施される。本実施例では、実施例1のように、第一放射性廃液と第二放射性廃液が廃液貯槽から別々排出されてはいなく、第一放射性廃液と第二放射性廃液が混ざった放射性廃液として廃液貯槽から排出される。
【0208】
水質調整装置14から該当するpH調整剤を、配管43内を流れる放射性廃液に注入することにより、放射性廃液に含まれる鉄イオンから鉄化合物(Fe3O4)が生成される(鉄化合物の精製工程S5)。放射性廃液に含まれるα核種の一部が、生成された鉄化合物によって吸着され、放射性廃液から除去される(第一α核種除去工程S6)。α核種の一部が除去された放射性廃液がα核種除去装置15に供給される。そのα核種の一部は、α核種除去装置15内でα核種吸着材注入装置73から注入されるフェライト粒子に吸着されて除去される(第一α核種除去工程S7)。その後、固形分分離工程S5ないし容器充填または固化工程S12の各工程が実施される。
【0209】
本実施例において、水質調整装置14を、
図5に示す水質調整装置14Aに替えてもよい。
【0210】
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例では、化学反応槽4から廃液分解装置13の廃液貯槽内にシュウ酸水溶液(第一放射性廃液)及びギ酸ヒドラジン水溶液(第二放射性廃液)を供給してそれらの水溶液を廃液貯槽内で実質的に混合し、シュウ酸及びギ酸ヒドラジンを廃液貯槽内で分解用酸化剤(例えば、オゾン)によって分解する。本実施例では、鉄イオン及びα核種を含む有機酸水溶液と有機酸水溶液よりも鉄イオンの含有量が少なくα核種の含有量が多い有機酸塩水溶液を実質的に混合するため、前述の問題点が改善され、それらの混合によって生成された放射性廃液では、鉄イオン量が、有機酸水溶液及び有機酸塩水溶液のそれぞれにおける鉄イオン量よりも多くなる。このため、混合によって生成された放射性廃液における鉄イオンから生成される鉄化合物の量が、有機酸水溶液において生成される鉄化合物の量及び有機酸塩水溶液において生成される鉄化合物の量よりも多くなる。混合によって生成された放射性廃液の、鉄化合物によるα核種の低減度合いが、有機酸水溶液及び有機酸塩水溶液それぞれの、鉄化合物によるα核種の低減度合いよりも大きくなる。
【0211】
また、実施例1では、有機酸水溶液と有機酸水溶液が混合されて有機酸及び有機酸塩が分解された後、廃液分解装置13の廃液貯槽から配管43に排出された放射性廃液に対して鉄化合物の精製工程S5ないし容器充填または固化工程S12の各工程が実施されるため、本実施例における放射性廃液の処理方法に要する時間は、第一放射性廃液及び第二放射性廃液に対して別々に鉄化合物の精製工程S5ないし容器充填または固化工程S12の各工程を実施する実施例1における放射性廃液の処理方法に要する時間よりも著しく短縮できる。
【0212】
本実施例において、水質調整装置14の替りに、
図5に示す水質調整装置14Aを用いてもよい。
【実施例3】
【0213】
本発明の好適な他の実施例である実施例3の放射性廃液の処理方法を、
図1ないし
図3及び
図7を用いて説明する。本実施例は、沸騰水型原子力プラントで発生する放射性有機廃棄物の処理を行う放射性廃液の処理方法である。
【0214】
本実施例の放射性廃液の処理方法で用いられる放射性廃液処理システムは、鉄イオン注入装置139(
図7参照)を実施例1で用いられる放射性廃液処理システム1に追加した構成を有する。鉄イオン注入装置139は、鉄イオン槽140及び注入配管142を有する。弁141を設けた注入配管142が鉄イオン槽140に接続される。注入配管142は、さらに、廃液分解装置13と、水質調整装置14の注入配管57と配管43の接続点との間で、配管43に接続される。例えば、鉄(II)イオンを含むギ酸水溶液が鉄イオン槽140に充填される。
【0215】
本実施例でも、実施例1と同様に、第一洗浄工程S1、第二洗浄工程S2及び廃液分解工程S4が実施される。廃液分解装置13から配管43に排出された、鉄イオン及びα核種を含む放射性廃液(第一放射性廃液または第二放射性廃液)が、配管43内を流れ、配管43と注入配管142の接続点に達する。弁141を開くと、鉄イオン槽140内の鉄(II)イオンを含むギ酸水溶液が、所定量、注入配管142を通して配管43内の60℃の放射性廃液に注入される。そして、α核種を含む放射性廃液に、実施例1と同様に、水質調整装置14からpH調整剤を注入して、その放射性廃液のpHが8に、酸化還元電位が-0.4Vになるように、放射性廃液の水質が調整される。このような放射性廃液の水質調整によって、放射性廃液に含まれる、廃液分解装置13から配管43に排出されるときに含まれていた鉄イオン、及び鉄イオン注入装置139から注入された鉄イオンから鉄化合物(Fe3O4)が生成される(鉄化合物の生成工程S5)。放射性廃液に含まれるα核種の一部は、生成された鉄化合物に吸着されて除去される(第一α核種除去工程S6)。α核種の一部が除去された放射性廃液は、α核種除去装置15に供給される。放射性廃液に含まれるα核種は、α核種除去装置15内で注入されたフェライト粒子に吸着されて除去される。
【0216】
その後、実施例1と同様に、固形分分離工程S8ないし容器充填または固化工程S12の各工程が実施される。
【0217】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。さらに本実施例は、鉄化合物の生成工程S5の前で、鉄イオンを放射性廃液に注入しているため、鉄化合物の生成工程S5において生成される鉄化合物の量が増加する。このため、その鉄化合物に吸着されるα核種が増加するため、放射性廃液から除去されるα核種の量が増加する。特に、鉄イオンの含有量が少ない第二放射性廃液に鉄イオンを注入することによって、生成される鉄化合物の量が増加し、第二放射性廃液から除去されるα核種の量が増加する。
【0218】
例えば、水質調整装置14を
図5に示す水質調整装置14Aに替えて、水質調整装置14Aの注入配管57と配管43の接続点よりも上流で、鉄イオン注入装置139を配管43に接続する(
図8参照)。廃液分解装置13から配管43に排出された放射性廃液に、鉄イオン注入装置139から鉄イオンを含むギ酸水溶液を注入する。注入された鉄イオンを含む放射性廃液に、水質調整装置14AからpH調整剤を注入して放射性廃液の水質調整を行うことによって、注入された鉄イオンから鉄化合物が生成される。この鉄化合物によって放射性廃液に含まれるα核種の一部を吸着して除去するため、放射性廃液から除去されるα核種の量が増加する。
【0219】
実施例2においても、鉄イオン注入装置139を、水質調整装置14(または14A)よりも上流で配管43に接続してもよい。
【実施例4】
【0220】
本発明の好適な他の実施例である実施例4の放射性廃液の処理方法を、
図1、
図4及び
図27を用いて説明する。本実施例は、沸騰水型原子力プラントで発生する放射性有機廃棄物の処理を行う放射性廃液の処理方法である。
【0221】
本実施例の放射性廃液の処理方法でも、実施例1で実施される、
図1に示したS1~S12の各工程が実施される。
【0222】
図27に示す放射性廃液処理システム1Aは、放射性有機廃棄物を処理する化学洗浄部10A、及び化学洗浄部10Aから排出される洗浄廃液(放射性廃液)を処理する廃液処理部38を備える。化学洗浄部10Aでは、クラッドを溶解する第一洗浄工程S1、及び放射性核種を放射性有機廃棄物から溶離させる第二洗浄工程S2が行われる。
【0223】
化学洗浄部10Aは、第1洗浄槽88、第2洗浄槽89、有機酸槽90、移送水槽91、有機酸塩槽92及び移送水槽93を有する。移送水槽94及び高線量樹脂貯蔵タンク2が化学洗浄部10Aの上流に配置され、第二受入タンク11及び焼却設備(またはセメント固化設備)12が化学洗浄部10Aに接続される。
【0224】
移送水槽94が移送水供給管95によって高線量樹脂貯蔵タンク2に連絡される。高線量樹脂貯蔵タンク2が移送ポンプ22を設けた有機廃棄物供給管21によって第1洗浄槽88に連絡される。撹拌翼96の回転軸にモータ97を取り付けて構成される撹拌装置が、第1洗浄槽88に設置される。有機酸槽90の底部に接続された有機酸供給管98及び移送水槽91の底部に接続された移送水供給管99が切換え弁100に接続される。有機酸槽90には有機酸水溶液であるシュウ酸水溶液が充填されており、移送水槽91には移送水となる水が充填されている。切換え弁100に接続された液体供給管102が第1洗浄槽88に接続され、移送ポンプ101が液体供給管102に設けられる。
【0225】
撹拌翼105の回転軸にモータ106を取り付けて構成される撹拌装置が、第2洗浄槽89に設置される。移送ポンプ103を設けた有機廃棄物移送管104が、第1洗浄槽88及び第2洗浄槽89に接続される。有機酸塩槽92の底部に接続された有機酸塩供給管107及び移送水槽93の底部に接続された移送水供給管108が切換え弁109に接続される。有機酸塩槽92には有機酸塩水溶液であるギ酸アンモニウム水溶液が充填されており、移送水槽93には移送水となる水が充填されている。
【0226】
切換え弁109に接続された液体供給管111が第2洗浄槽89に接続され、移送ポンプ110が液体供給管111に設けられる。移送ポンプ112が設けられた有機廃棄物移送管113が、第2洗浄槽89に挿入され、この有機廃棄物移送管113の一端部が第2洗浄槽89の底部近くまで達している。有機廃棄物移送管113が第二受入タンク11に接続される。第二受入タンク11に接続された配管が焼却設備(またはセメント固化設備)12に接続される。
【0227】
また、廃液処理部38は、実施例1で用いられる放射性廃液処理システム1の廃液処理部38と同じ構成であり、廃液分解装置13、水質調整装置14、α核種除去装置15、固形分分離装置16、α核種吸着材注入装置73、分解装置17、酸化剤供給装置79及び処理水回収タンク18を有する。
【0228】
廃液分解装置13は
図3に示す構造を有する。第1洗浄槽88内に挿入されて第1洗浄槽88に取り付けられた廃液移送管115が、廃液分解装置13の廃液貯槽に接続される。廃液移送管115には、移送ポンプ114が設けられる。第2洗浄槽89内に挿入されて第2洗浄槽89に取り付けられた廃液移送管117が、廃液分解装置13の廃液貯槽に接続される。移送ポンプ116が廃液移送管117に設けられる。移送ポンプ41が設けられた配管43が、廃液分解装置13の廃液貯槽内に挿入されて、廃液貯槽に取り付けられる。配管43は、水質調整装置14及びα核種除去装置15にも接続される。
【0229】
水質調整装置14、α核種除去装置15及びα核種吸着材注入装置73は、実施例1で用いられる放射性廃液処理システム1の水質調整装置14、α核種除去装置15及びα核種吸着材注入装置73と同じ構造である。本実施例で用いられる水質調整装置14、α核種除去装置15及びα核種吸着材注入装置73のそれぞれの詳細な構造は、
図4に記載されている。水質調整装置14の注入配管57が配管43に接続される。α核種濃度計70が配管43に取り付けられる。配管43がα核種除去装置15のケーシングに接続される。α核種吸着材注入装置73の注入配管75の一端が、α核種除去装置15内のスペース領域71内に挿入されている。
【0230】
なお、
図27では図示されていないが、水質調整装置14の下流で配管43に接続された配管77(
図2参照)が、移送ポンプ27と弁28の間で、化学洗浄部10の戻り配管29に接続されている。また、
図27では図示されていないが、固形分分離装置16に接続された配管78も、化学洗浄部10の戻り配管29の移送ポンプ27と弁28の間に接続されている。
【0231】
配管44が、α核種除去装置15、固形分分離装置16、分解装置17及び処理水回収タンク18に接続される。配管45が、固形分分離装置16、分解装置17及び処理水回収タンク18を接続する。配管46は処理水回収タンク18と乾燥粉体化装置19を接続する。配管48は乾燥粉体化装置19と固化設備20を接続する。
【0232】
放射性廃液処理システム1Aを用いた、本実施例の放射性廃液の処理方法を、詳細に説明する。
【0233】
実施例1と同様に、沸騰水型原子力プラントの原子炉冷却材浄化系、燃料プール冷却浄化系等から発生する放射性有機廃棄物は、高線量樹脂貯蔵タンク2内に、長期間、貯蔵保管されている。貯蔵保管されている放射性有機廃棄物には、クラッドが含まれており、さらに、α核種、及びα核種以外の放射性核種が吸着されている。
【0234】
高線量樹脂貯蔵タンク2内に長期間貯蔵された放射性有機廃棄物を、高線量樹脂貯蔵タンク2の外部に移送する際には、移送水槽94内の水が移送水供給管95を通して高線量樹脂貯蔵タンク2内に供給される。この水の供給によって、高線量樹脂貯蔵タンク2内の放射性有機廃棄物を、移送し易いスラリーの状態にする。
【0235】
移送ポンプ22を駆動することによって、高線量樹脂貯蔵タンク2内の放射性有機廃棄物スラリーが、有機廃棄物供給管21を通して、第1洗浄槽88に供給される。第1洗浄槽88内で、放射性有機廃棄物スラリーの水位が所定レベルに達したとき、移送ポンプ22が停止され、そのスラリーの第1洗浄槽88への供給が停止される。その後、移送ポンプ114が駆動され、第1洗浄槽88内のスラリーに含まれる水が、放射性廃液(以下、実施例1と同様に、「第三放射性廃液」という)として、廃液移送管115を通して廃液分解装置13の廃液貯槽内に排出される。その廃液貯槽内に導かれた第三放射性廃液は、実施例1における第三放射性廃液と同様に、α核種除去装置15に導かれる。第1洗浄槽88内の、放射性有機廃棄物スラリーに含まれる水分はα核種を含まないので、廃液分解装置13の廃液貯槽内の第三放射性廃液は、α核種を含んでおらず、α核種以外の放射性核種を含んでいる。
【0236】
第三放射性廃液が、α核種除去装置15を通過し、処理水回収タンク18に導かれる。その第三放射性廃液がα核種除去装置15を通過する間、α核種除去装置15内のフェライト(Fe3O4)粒子は、α核種、及びα核種以外の放射性核種を吸着しない。第三放射性廃液がα核種を含んでいないため、pH調整剤注入装置53から配管43へのpH調整剤水溶液の注入が行われず、分解装置17における還元剤(例えば、ヒドラジン)の分解も行われない。第三放射性廃液に含まれるコロイド性の物質及び固形分は、フェライトのフィルタ効果によって除去される。
【0237】
廃液分解装置13の廃液貯槽内の第三放射性廃液の、α核種除去装置15への移送が終了したとき、移送ポンプ41が停止される。処理水回収タンク18内のα核種を含んでいない第三放射性廃液は、乾燥粉体化装置19で紛体化され、生成された紛体は固化設備20に移送されて固化容器内で固化される。この固化容器は、密封後に、保管場所で保管される。保管されるこの固化容器内には、超半減期のα核種が存在していない。
【0238】
その後、第一洗浄工程S1が実施される。第一洗浄工程S1では、主に、第1洗浄槽88に有機酸水溶液、例えばシュウ酸水溶液を注入することにより、放射性有機廃棄物と共に第1洗浄槽88に移送された鉄酸化物などのクラッドが溶解される。本実施例で実施される第一洗浄工程S1の詳細な内容を、以下に説明する。
【0239】
切換え弁100を操作して有機酸供給管98と液体供給管102を連通させ、移送ポンプ101を駆動する。有機酸槽90内のシュウ酸水溶液(シュウ酸濃度:約0.8mol/L)が、有機酸供給管98及び液体供給管102を通して、第1洗浄槽88に供給される。このとき、移送水供給管99と液体供給管102が連通していないので、移送水槽91内の水は第1洗浄槽88に供給されない。第1洗浄槽88内におけるシュウ酸水溶液の液位が設定液位に達したとき、移送ポンプ101が停止され、第1洗浄槽88へのシュウ酸水溶液の供給が停止される。第1洗浄槽88内へのシュウ酸水溶液の供給量は、第1洗浄槽88内の放射性有機廃棄物量に対して10倍とする。
【0240】
第1洗浄槽88の外面に設けられた加熱装置(図示せず)により、第1洗浄槽88内のシュウ酸水溶液は、例えば、60℃になるように加熱される。このシュウ酸水溶液の温度は、加熱装置による加熱量を調節して60℃に保持される。温度が60℃に保持された状態で、モータ97を駆動して撹拌翼96を回転させ、第1洗浄槽88内の放射性有機廃棄物及びシュウ酸水溶液を撹拌する。放射性有機廃棄物は、第1洗浄槽88内で撹拌されながら、シュウ酸水溶液に例えば6時間浸漬される。第1洗浄槽88内において、放射性有機廃棄物に混在しているクラッドがシュウ酸によって溶解される。クラッドに含まれているコバルト60等の放射性核種は、クラッドの溶解により、シュウ酸水溶液中に移行する。クラッドの鉄成分が溶解すると鉄(II)イオンが生成され、この鉄(II)イオンがシュウ酸と反応してシュウ酸鉄が生成され、シュウ酸鉄が沈殿する恐れがある。シュウ酸鉄の生成を抑制するため、必要であれば、鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに変える酸化剤(例えば、過酸化水素)を、第1洗浄槽88内に少量添加する。
【0241】
実施例1と同様に、第一洗浄工程S1では、放射性有機廃棄物の一部であるイオン交換樹脂がシュウ酸に浸漬されるため、シュウ酸が解離して生じる水素イオン及びシュウ酸イオンが、それぞれ、放射性有機廃棄物である陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂に吸着されている放射性核種とイオン交換されるため、一部の放射性核種(α核種、及びα核種以外の放射性核種)がイオン交換樹脂から脱離される。
【0242】
第1洗浄槽88内での放射性有機廃棄物のシュウ酸水溶液への浸漬時間である6時間が経過したとき、第一洗浄工程S1が終了する。加熱装置による第1洗浄槽88の加熱及びモータ97がそれぞれ停止される。移送ポンプ114が駆動され、第1洗浄槽88内の、放射性核種(α核種、及びα核種以外の放射性核種)及び鉄イオンを含むシュウ酸水溶液(第一放射性廃液)が、廃液移送管115を通して廃液分解装置13の廃液貯槽内に供給される。第1洗浄槽88内のシュウ酸水溶液の廃液貯槽への移送が終了したとき、移送ポンプ114が停止される。
【0243】
廃液分解装置13の廃液貯槽へのシュウ酸水溶液の移送が終了した後、廃液分解工程S4が実施される。廃液分解工程S4では、オゾン供給装置49から廃液分解装置13の廃液貯槽内に供給されるオゾンによって、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸が、炭酸ガスと水に分解される。廃液貯槽内に噴射されたオゾンの残り、及び炭酸ガスが、ガス排気管52を通してオフガス処理装置(図示せず)に供給される。
【0244】
オゾンの供給が停止された後、移送ポンプ41が駆動され、廃液分解装置13の廃液貯槽内に存在する、陽イオン交換樹脂から脱離されたα核種、及びα核種以外の放射性核種のそれぞれ、及び鉄イオンを含む廃液、すなわち、第一放射性廃液が、配管43に排出される。
【0245】
上述した廃液分解工程S4の後に、鉄化合物の生成工程S5が実施される。水質調整装置14のpH調整剤注入装置53から注入配管57を通してpH調整剤が配管43内の第一放射性廃液に注入される。実施例1と同様に、60℃の第一放射性廃液のpHが、4.6以上16以下の範囲内の、例えば、8に調整され、その第一放射性廃液の酸化還元電位が、-0.91V以上-0.03V以下の範囲内の、例えば、-0.4Vに調整される。第一放射性廃液のpHを「8」に調整する場合には、酸注入装置58から所定量の希硝酸水溶液、及びアルカリ注入装置66からの所定量の水酸化ナトリウム水溶液を配管43内の第一放射性廃液に注入し、さらに、還元剤注入装置54の還元剤供給装置130から、例えば、アルカリ性還元剤である所定量のヒドラジン水溶液を配管43内に注入する。第一放射性廃液の酸化還元電位を「-0.4V」に調整する場合には、還元剤注入装置54の酸化還元電位調整剤供給装置134から、酸化還元電位調整剤である、例えば、所定量のアスコルビン酸水溶液を配管43内に注入する。
【0246】
第一放射性廃液のpHを8に、酸化還元電位を-0.4Vに調整することによって、第一放射性廃液に含まれる鉄イオンから鉄化合物であるFe3O4が第一放射性廃液内で生成される(鉄化合物の生成工程S5)。鉄化合物の生成工程S5においてFe3O4の替りにFe(OH)2を生成してもよい。第一放射性廃液に含まれるα核種の一部が、Fe3O4に吸着されて第一放射性廃液から除去される(第一α核種除去工程S6)。
【0247】
α核種の一部が除去された第一放射性廃液が、α核種除去装置15に供給される。この第一放射性廃液に含まれるα核種が、α核種吸着材注入装置73からα核種除去装置15に注入されたフェライト粒子に吸着されて除去される(第二α核種除去工程S6)。
【0248】
α核種除去装置15から排出された第一放射性廃液に含まれる、α核種を吸着している鉄化合物及びフェライト粒子は、固形分分離装置16によって第一放射性廃液から分離される(吸着材分離工程S8)。その後、pH調整剤判定工程S9が実施される。固形分分離装置16から排出された第一放射性廃液がヒドラジン及びアスコルビン酸を含んでいるため、pH調整剤判定工程S9の判定が「YES」になり、第一放射性廃液がヒドラジン及びアスコルビン酸が分解装置17で分解される。
【0249】
分解装置17から排出された第一放射性廃液、及び固形分分離装置16から排出されて分解可能なpH調整剤を含んでいない第一放射性廃液のそれぞれは、処理水回収タンク18に導かれる。処理水回収タンク18内の第一放射性廃液は、実施例1と同様に、乾燥粉体化装置19で紛体化される(減容工程S11)。乾燥粉体化装置19で生成された紛体は、固化設備20で、固化容器内に充填され、固化容器内で固化される(容器充填または固化工程S12)。
【0250】
第1洗浄槽88内のシュウ酸水溶液の、廃液分解装置13の廃液貯槽への排出が終了した後、切換え弁100を操作して、移送水供給管99と液体供給管102を連通させ、移送ポンプ101を駆動し、移送水槽91内の水が、移送水として、移送水供給管99及び液体供給管102を通して第1洗浄槽88に供給される。このとき、有機酸供給管98と液体供給管102が連通していないので、有機酸槽90内のシュウ酸水溶液が第1洗浄槽88に供給されない。移送水槽91から第1洗浄槽88に所定量の水が供給されて第1洗浄槽88内の水位が設定水位に達したとき、移送ポンプ101を停止し、第1洗浄槽88への水の供給を停止する。
【0251】
モータ97を駆動して撹拌翼96を回転させ、第1洗浄槽88内の放射性有機廃棄物及び水を撹拌し、放射性有機廃棄物をスラリー状態にする。移送ポンプ103を駆動し、第1洗浄槽88内の放射性有機廃棄物のスラリーを、有機廃棄物移送管104を通して第2洗浄槽89に供給する。
【0252】
第1洗浄槽88内の放射性有機廃棄物スラリーの移送に伴い、第1洗浄槽88内の水量が減少して第1洗浄槽88内の放射性有機廃棄物が困難になった場合には、移送ポンプ101を駆動し、移送水槽91内の水を第1洗浄槽88内に供給する。第1洗浄槽88内の放射性有機廃棄物の第2洗浄槽89への移送が完了したとき、移送ポンプ103が停止されて、移送ポンプ116が駆動される。第2洗浄槽89内の水が、第三放射性廃液として、廃液移送管117を通して廃液分解装置13の廃液貯槽に排出される。
【0253】
第2洗浄槽89から廃液分解装置13の廃液貯槽に排出された第三放射性廃液に対しては、第1洗浄槽88から廃液貯槽に排出された第三放射性廃液と同様に、鉄化合物の生成工程S5でpH調整剤水溶液が注入されず、α核種除去装置15内のフェライト粒子によるα核種、及びα核種以外の放射性核種の吸着は行われず、分解可能なpH調整剤の分解工程S10で分解可能なpH調整剤(例えば、ヒドラジン)の分解も行われない。
【0254】
処理水回収タンク18に導かれた第三放射性廃液は、乾燥粉体化装置19で紛体化され(減容工程S10)、生成された紛体は固化設備20に移送されて固化容器内で固化される(容器充填または固化工程S11)。この固化容器は、密封後に、保管場所で保管される。保管されるこの固化容器内には、超半減期のα核種が存在していない。
【0255】
移送ポンプ116が停止され、第2洗浄槽89から廃液分解装置13の廃液貯槽への水の排出が終了したとき、第二洗浄工程S2(有機酸塩処理工程)が実施される。第二洗浄工程S2では、有機酸塩を用いることにより、イオン交換樹脂(例えば、陽イオン交換樹脂)に吸着されている放射性核種がより効率的に溶離される。
【0256】
有機酸塩槽92内に充填されたギ酸アンモニウム水溶液のギ酸アンモニウム濃度は、例えば1.2mol/Lである。ギ酸アンモニウムは、水素イオンよりも陽イオン交換樹脂に吸着されやすい陽イオンを生じる有機酸塩である。第二洗浄工程S2では、以下の事項が実施される。切換え弁109を操作して有機酸塩供給管107と液体供給管111を連通させ、移送ポンプ110を駆動する。有機酸塩槽92内のギ酸アンモニウム水溶液が、有機酸塩供給管107及び液体供給管111を通して第2洗浄槽89に供給される。このとき、移送水供給管108と液体供給管111が連通していないので、移送水槽93内の水は第2洗浄槽89に供給されない。第2洗浄槽89内におけるギ酸アンモニウム水溶液の液位が設定液位に達したとき、移送ポンプ110が停止され、第2洗浄槽89へのギ酸アンモニウム水溶液の供給が停止される。
【0257】
第2洗浄槽89の外面に設けられた加熱装置(図示せず)により、第2洗浄槽89内のギ酸アンモニウム水溶液は、例えば、60℃になるように加熱される。このギ酸アンモニウム水溶液の温度は、加熱装置による加熱量を調節して60℃に保持される。温度が60℃に保持された状態で、モータ106を駆動して撹拌翼105を回転させ、第2洗浄槽89内の放射性有機廃棄物及びギ酸アンモニウム水溶液を撹拌して混合する。放射性有機廃棄物は、第2洗浄槽89内で撹拌されながら、ギ酸アンモニウム水溶液に、例えば、2時間浸漬される。第2洗浄槽89内において、放射性有機廃棄物である陽イオン交換樹脂に吸着されている放射性核種のイオンが、水素イオンよりも陽イオン交換樹脂に吸着されやすい、ギ酸アンモニウム水溶液中に存在するアンモニウムイオンと置換され、ギ酸アンモニウム水溶液に効率的に脱離される。このため、陽イオン交換樹脂に吸着されている放射性核種の量が著しく減少する。
【0258】
第2洗浄槽89内での放射性有機廃棄物のギ酸アンモニウム水溶液への浸漬時間である2時間が経過したとき、第二洗浄工程S2が終了する。加熱装置による第2洗浄槽89の加熱及びモータ106の駆動をそれぞれ停止した後、移送ポンプ116を駆動し、第2洗浄槽89内の放射性核種を含むギ酸アンモニウム水溶液(以下、「第二放射性廃液」という)を、洗浄廃液として、廃液移送管117を通して廃液分解装置13の廃液貯槽内に供給する。第2洗浄槽89内のギ酸アンモニウム水溶液の廃液分解装置13の廃液貯槽への移送が終了したとき、移送ポンプ116が停止される。
【0259】
廃液分解装置13の廃液貯槽へのギ酸アンモニウム水溶液の移送が終了した後、廃液分解工程S4が実施される。この廃液分解工程S4では、オゾン供給装置49から、所定時間の間、廃液分解装置13の廃液貯槽内のギ酸アンモニウム水溶液中にオゾンが噴射される。ギ酸アンモニウム水溶液に含まれる有機成分であるギ酸アンモニウムが、オゾンと反応して窒素ガス、炭酸ガス及び水に分解される。これらのガスは、ガス排気管52を通して前述のオフガス処理装置(図示せず)に供給される。
【0260】
オゾンの供給が停止され、第二洗浄工程S2の後で実施された廃液分解工程S4が終了した後、移送ポンプ41が駆動され、廃液分解装置13の廃液貯槽内に存在する、脱離されたα核種、α核種以外の放射性核種及び鉄イオンのそれぞれを含む廃液、すなわち、第二放射性廃液が、配管43に排出される。
【0261】
本実施例における第一放射性廃液と同様に、60℃の第二放射性廃液のpHが、4.6以上16以下の範囲内の、例えば、8に調整され、その第二放射性廃液の酸化還元電位が、-0.91V以上-0.03V以下の範囲内の、例えば、-0.4Vに調整される。第二放射性廃液のpHを「8」に調整する場合には、酸注入装置58から所定量の希硝酸水溶液、及びアルカリ注入装置66からの所定量の水酸化ナトリウム水溶液を配管43内の第二放射性廃液に注入し、さらに、還元剤注入装置54の還元剤供給装置130から、例えば、アルカリ性還元剤である所定量のヒドラジン水溶液を配管43内に注入する。第二放射性廃液の酸化還元電位を「-0.4V」に調整する場合には、還元剤注入装置54の酸化還元電位調整剤供給装置134から、酸化還元電位調整剤である、例えば、所定量のアスコルビン酸水溶液を配管43内に注入する。
【0262】
第二放射性廃液のpHを8に、酸化還元電位を-0.4Vに調整することによって、第二放射性廃液に含まれる鉄イオンから鉄化合物であるFe3O4が第二放射性廃液内で生成される(鉄化合物の生成工程S5)。第二放射性廃液に含まれるα核種の一部が、Fe3O4に吸着されて第二放射性廃液から除去される(第一α核種除去工程S6)。
【0263】
α核種の一部が除去された第二放射性廃液が、α核種除去装置15に供給される。この第二放射性廃液に含まれるα核種が、α核種吸着材注入装置73からα核種除去装置15に注入されたフェライト粒子に吸着されて除去される(第二α核種除去工程S6)。
【0264】
α核種除去装置15から排出されたα核種除去装置15から排出された第二放射性廃液に含まれる、α核種を吸着している鉄化合物及びフェライト粒子は、固形分分離装置16によって第二放射性廃液から分離される(吸着材分離工程S8)。その後、pH調整剤判定工程S9が実施される。固形分分離装置16から排出された第二放射性廃液がヒドラジン及びアスコルビン酸を含んでいるため、pH調整剤判定工程S9の判定が「YES」になり、第二放射性廃液がヒドラジン及びアスコルビン酸が分解装置17で分解される。
【0265】
分解装置17から排出された第二放射性廃液、及び固形分分離装置16から排出されて分解可能なpH調整剤を含んでいない第二放射性廃液のそれぞれは、処理水回収タンク18に導かれる。処理水回収タンク18内の第二放射性廃液は、実施例1と同様に、乾燥粉体化装置19で紛体化される(減容工程S11)。乾燥粉体化装置19で生成された紛体は、固化設備20で、固化容器内に充填され、固化容器内で固化される(容器充填または固化工程S12)。
【0266】
第2洗浄槽89から廃液分解装置13の廃液貯槽へのギ酸アンモニウム水溶液の移送が終了した後、切換え弁109の操作によって移送水供給管108と液体供給管111が連通し、移送ポンプ110の駆動により移送水槽93内の水が第2洗浄槽89に供給される。所定量の水が第2洗浄槽89に供給された後、移送ポンプ110が停止され、移送水槽93から第2洗浄槽89への水の供給が停止される。撹拌翼105が回転され、第2洗浄槽89内で、残留した放射性有機廃棄物と供給された水が撹拌されて放射性有機廃棄物を含むスラリーが生成される。移送ポンプ112が駆動され、第2洗浄槽89内の放射性有機廃棄物を含むスラリーが有機廃棄物移送管113に排出されて、第二受入タンク11に導かれる。
【0267】
第二受入タンク11から取り出された放射性有機廃棄物は、所定量、焼却設備12に移送され、焼却設備12で焼却される。焼却により生成された灰は、固化容器内でセメント等の固化剤により固化される(焼却または固化工程S3)。この固化体は、超半減期のα核種を含んでいないため、低レベル放射性廃棄物になる。
【0268】
本実施例は、実施例1で生じる各効果のうち、第一洗浄工程S1及び第二洗浄工程S2を一つの洗浄槽内で実施することによって生じる効果を除いた、残りの各効果を得ることができる。
【0269】
本実施例では、
図4に示す水質調整装置14の替りに
図5に示す水質調整装置14Aを用いてもよい。水質調整装置14の上流で配管43に鉄イオン注入装置139を接続してもよい(
図7参照)。また、水質調整装置14Aの上流で配管43に鉄イオン注入装置139を接続してもよい(
図8参照)。さらに、本実施例において、実施例2のように、有機酸水溶液及び有機酸塩水溶液を廃液分解装置13の廃液貯槽内に供給してこれらの水溶液を廃液貯槽内で実質的に混合してもよい。
【実施例5】
【0270】
本発明の好適な他の実施例である実施例5の放射性廃液の処理方法を、
図1、
図4及び
図28及び
図29を用いて説明する。本実施例は、核燃料再処理施設で発生する放射性有機廃棄物の処理を行う放射性廃液の処理方法である。
【0271】
沸騰水型原子力プラント及び加圧水型原子力プラント等の原子力プラントの原子炉から取り出された使用済燃料集合体に含まれている使用済核燃料に対して、核燃料再処理施設においてが核燃料再処理実施され、その使用済核燃料物質からウラン及びプルトニウムが回収される。回収されたウラン及びプルトニウムは、新たな燃料集合体の製造に使用され、製造されたこの新たな燃料集合体は、原子力プラントの炉心に装荷される。その核燃料再処理では、ウラン及びプルトニウムの回収に伴って、回収されずに残った微量のウラン及びプルトニウム、及びネプツニウム及びキュリウム等のα核種を含む放射性廃液が発生する。この放射性廃液は、硝酸水溶液である。
【0272】
本実施例の放射性廃液の処理方法は、実施例1及び実施例2で述べた、還元剤の注入、及びα核種除去装置によるα核種の除去を、核燃料再処理で発生する放射性廃液の処理に適用したものである。
【0273】
核燃料再処理における各工程及び本実施例における放射性廃液の処理方法の各工程を、
図28を用いて説明する。
【0274】
本実施例では、まず、脱被覆工程S21において、原子炉の炉心から取り出された使用済燃料集合体に含まれる複数本の燃料棒から被覆管が取り除かれる。これによって、被覆管内に存在しているペレット状の核燃料物質118が取り出される。この核燃料物質118には、ウラン、プルトニウム、ネプツニウム及びキュリウム等のα核種が含まれている。炉心に最初に装荷された燃料集合体に含まれる燃料棒内には、核燃料物質として、ペレット状の二酸化ウランが存在する。原子力プラントの運転によって、その核燃料物質に含まれる核分裂性物質(例えば、ウラン235)の核分裂によって、核燃料物質内に、核分裂生成物であるプルトニウム、ネプツニウム及びキュリウム等のα核種が生成される。
【0275】
脱被覆工程S21の後に実施される核燃料粉末化工程S22において、ペレット状の核燃料物質118が、酸化物の粉末に転換されて、粉末化された核燃料物質119となる。その粉末化された核燃料物質119は、フッ化工程S23に送られる。このフッ化工程S23では、フッ素(またはフッ素化合物)を粉末化された核燃料物質119に接触させ、核燃料物質119に含まれるウランの一部を、六フッ化ウラン(UF6)120に転換させて揮発させる。その六フッ化ウラン120は、UF6精製工程S24に送られる。
【0276】
六フッ化ウラン120は、UF6精製工程S24において、蒸留法または吸着法により精製されて不純物が除去される。六フッ化ウラン120の精製によって、ウラン燃料121が生成される。
【0277】
フッ化工程S23で揮発しなかった残りの核燃料物質122には、揮発しなかったウラン、プルトニウム、ネプツニウム及びキュリウム等のα核種が存在する。残渣である核燃料物質122は、溶解工程S25において、硝酸溶液によって溶解される。核燃料物質の溶解液(硝酸を含む)123を、共除染工程S26において、リン酸トリブチル(TBP)を含む有機相と接触させる。溶解液123に含まれるウラン及びプルトニウムが、その有機相に移行され、核分裂生成物のうち、プルトニウムを除くネプツニウム及びキュリウム等のα核種はその有機相に移行しない。
【0278】
ウラン及びプルトニウムを含む有機相124に対して、逆抽出工程S27が実施される。この逆抽出工程S27では、薄いシュウ酸水溶液を、ウラン及びプルトニウムを含む有機相124に接触させる。有機相124に含まれるウラン及びプルトニウムが、そのシュウ酸水溶液中に移行する。ウラン及びプルトニウムを含む薄いシュウ酸水溶液125が、精製工程S28に送られる。この精製工程S28では、TBPを含む有機相を用いた抽出と、薄い硝酸水溶液を用いた逆抽出が、ウラン及びプルトニウムの精製度が所定の値になるまで繰り返される。所定の精度になったウラン及びプルトニウムは、脱硝・焙焼還元工程(図示せず)に送られ、ウランとプルトニウム混合酸化物に転換される。この混合酸化物を用いて混合酸化物燃料(MOX燃料)126が生成される。
【0279】
以上に述べたS21~S28の8つの工程は、核燃料再処理に関する工程である。
【0280】
共除染工程S26で発生した、残留する微量のウラン及びプルトニウム、及びネプツニウム及びキュリウム等のα核種を含む硝酸溶液である放射性廃液127に対して、水質調整工程S5が実施される。共除染工程S26で発生した、硝酸を含む放射性廃液127のpHは約1(強酸)である。放射性廃液127は溶解液123と比べてウラン及びプルトニウムのそれぞれの濃度が低下しているが、放射性廃液127に含まれている成分は溶解液123に含まれている成分と同じである。
【0281】
本実施例における放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理システムは、実施例1に用いられる放射性廃液処理システム1において水質調整装置14を
図29に示す水質調整装置14Cに替えた構成を有する。水質調整装置14Cは水質調整装置14から酸注入装置58を取り除いた構成を有する。放射性廃液127は硝酸を含んでおり酸性であるため、水質調整装置14Cには、放射性廃液127に酸を注入する酸注入装置58は不要である。
【0282】
核燃料再処理施設から配管43に排出された、α核種を含む放射性廃液127は、水質調整装置14Cによって水質が調整される。放射性廃液127に含まれる鉄イオンの量が少ない場合には、実施例3と同様に、水質調整装置14Cの上流側に鉄イオン注入装置139を配置し、この鉄イオン注入装置139から配管43内を流れる放射性廃液127に鉄イオンを注入すればよい(
図7参照)。例えば、60℃の放射性廃液127のpHが、4.6以上16以下の範囲内の、例えば、8に調整され、その放射性廃液127の酸化還元電位が、-0.91V以上-0.03V以下の範囲内の、例えば、-0.4Vに調整される。放射性廃液127のpHを「8」に調整する場合には、アルカリ注入装置66からの所定量の水酸化ナトリウム水溶液を配管43内の放射性廃液127に注入し、さらに、還元剤注入装置54の還元剤供給装置130から、例えば、アルカリ性還元剤である所定量のヒドラジン水溶液を配管43内に注入する。アルカリ注入装置66から注入されるアルカリ、例えば、水酸化ナトリウムは、放射性廃液127のpHの値を大きくする中和剤としても作用する。放射性廃液127の酸化還元電位を「-0.4V」に調整する場合には、還元剤注入装置54の酸化還元電位調整剤供給装置134から、酸化還元電位調整剤である、例えば、所定量のアスコルビン酸水溶液を配管43内に注入する。
【0283】
本実施例では、放射性廃液127の水質を調整するためには、放射性廃液127のアルカリ、及び還元剤及び水質調整用酸化剤のうちの少なくとも1つを注入すればよい。
【0284】
放射性廃液127のpHを8に、酸化還元電位を-0.4Vに調整することによって、放射性廃液127に含まれる鉄イオンから鉄化合物であるFe3O4が放射性廃液127内で生成される(鉄化合物の生成工程S5)。鉄化合物の生成工程S5においてFe3O4の替りにFe(OH)2を生成してもよい。本実施例においては、硝酸を含む放射性廃液127に放射性廃液127に含まれるα核種の一部が、Fe3O4に吸着されて放射性廃液127から除去される(第一α核種除去工程S6)。
【0285】
α核種の一部が除去された放射性廃液127が、α核種除去装置15に供給される。この放射性廃液127に含まれるα核種が、α核種吸着材注入装置73からα核種除去装置15に注入されたフェライト粒子に吸着されて除去される(第二α核種除去工程S6)。
【0286】
α核種除去装置15から排出されたα核種除去装置15から排出された放射性廃液127に含まれる、α核種を吸着している鉄化合物及びフェライト粒子は、固形分分離装置16によって放射性廃液127から分離される(吸着材分離工程S8)。その後、pH調整剤判定工程S9が実施される。固形分分離装置16から排出された放射性廃液127がヒドラジン及びアスコルビン酸を含んでいるため、pH調整剤判定工程S9の判定が「YES」になり、放射性廃液127がヒドラジン及びアスコルビン酸が分解装置17で分解される。
【0287】
分解装置17から排出された放射性廃液127、及び固形分分離装置16から排出されて分解可能なpH調整剤を含んでいない放射性廃液127のそれぞれは、処理水回収タンク18に導かれる。処理水回収タンク18内の放射性廃液127は、実施例1と同様に、乾燥粉体化装置19で紛体化される(減容工程S11)。乾燥粉体化装置19で生成された紛体は、固化設備20で、固化容器内に充填され、固化容器内で固化される(容器充填または固化工程S12)。
【0288】
本実施例は、実施例1で生じる各効果のうち有機酸水溶液及び有機酸塩水溶液の使用によって生じる効果を除いた他の各効果を得ることができる。さらに、本実施例で用いる放射性廃液処理システムの水質調整装置14Cは、実施例1に用いられる放射性廃液処理システム1の水質調整装置14に比べて酸注入装置58が不要になるため、構造をコンパクトにすることができる。
【0289】
本実施例において、水質調整装置14Cの替りに、
図5に示す水質調整装置14Aから酸注入装置58を取り除いた構造の水質調整装置を用いてもよい。さらに、この水質調整装置または実施例1で用いられる水質注入装置14の上流において鉄イオン注入装置139を配管43に接続してもよい。
【符号の説明】
【0290】
S1…第一洗浄工程、S2…第二洗浄工程、S4…廃液分解工程、S5…鉄化合物の生成工程、S6…第一α核種除去工程、S7…第二α核種除去工程、S8…固形分分離工程、1…放射性廃液処理システム、4…化学反応槽、7,90…有機酸槽、8,92…有機酸塩槽、9,91,93…移送水槽、10,10A…化学洗浄部、13…廃液分解装置、14,14A,14B,14C…水質調整装置、15…α核種除去装置、16…固形分分離装置、17…分解装置、38…廃液処理部、49A…pH計、49B…磁化率測定装置、49…オゾン供給装置、50…オゾン噴射管、53…pH調整剤注入装置、54…還元剤注入装置、58…酸注入装置、62…酸化剤注入装置、66…アルカリ注入装置…α核種吸着材注入装置、79…酸化剤供給装置、88…第1洗浄槽、89…第2洗浄槽、130…還元剤供給装置、134…酸化還元電位調整剤供給装置。