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  • 特許-アルミニウム精錬用フラックス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】アルミニウム精錬用フラックス
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/10 20060101AFI20230524BHJP
   C22B 21/06 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
C22B9/10 101
C22B21/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020046240
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021147632
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507073859
【氏名又は名称】日軽エムシーアルミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】谷口 諒輔
(72)【発明者】
【氏名】池田 聡志
(72)【発明者】
【氏名】石渡 保生
(72)【発明者】
【氏名】安部 綾二
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-042532(JP,A)
【文献】特開2010-275620(JP,A)
【文献】特開2011-168830(JP,A)
【文献】特開2017-122257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物と、
比重が2.6未満である、炭素材料又は炭素材料と酸化ケイ素質材料との混合物とを含み、
フッ化物を含まないことを特徴とする、アルミニウム精錬用フラックス。
【請求項2】
塩化物の含有量が20~70mass%であり、炭素材料、酸化ケイ素質材料又はこれらの混合物の含有量が10~70mass%であることを特徴とする、請求項に記載のアルミニウム精錬用フラックス。
【請求項3】
塩化物が、アルカリ金属の塩化物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のアルミニウム精錬用フラックス。
【請求項4】
塩化物が、NaCl、KCl又はこれらの混合物であることを特徴とする、請求項に記載のアルミニウム精錬用フラックス。
【請求項5】
炭素材料がコークスであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のアルミニウム精錬用フラックス。
【請求項6】
酸化ケイ素質材料が軽石であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のアルミニウム精錬用フラックス。
【請求項7】
発熱助剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載のアルミニウム精錬用フラックス。
【請求項8】
発熱助剤の含有量が1~15mass%であることを特徴とする、請求項に記載のアルミニウム精錬用フラックス。
【請求項9】
発熱助剤が金属硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩のいずれか1以上であることを特徴とする、請求項7又は8に記載のアルミニウム精錬用フラックス。
【請求項10】
金属硫酸塩が、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウムのうち少なくとも一つであることを特徴とする、請求項に記載のアルミニウム精錬用フラックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム(合金も含む)溶湯中のMgを除去するために用いられるアルミニウム精錬用フラックスに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金の鋳造ラインにおいて、脱ガス、脱介在物、脱不純物、品質改良などを目的とした溶湯処理が行われる。
Mgはアルミニウム合金の機械的強度を向上させる有効な合金元素である一方、Siを多量に含む鋳物、ダイカスト用合金においては靭性を低下させ、また、自然時効におけるMgSiの析出による容積膨張のため、例えば、JIS ADC 10、12においては共に0.3%以下のようにMgの許容量は低く制限されている。回収アルミニウムくずなどのスクラップ中のMg含有量は年々増加傾向にあり、アルミニウムの溶解精製における脱Mg処理の必要性が高まりつつある。
【0003】
フラックスを用いて溶湯処理を行うと溶湯表面に酸化物等の不純物からなる滓(ドロス)が浮いてくる。浮いてきた滓を除去することにより、アルミニウム溶湯の精錬が行われる。MgとAlはフッ化物の生成熱に著しい差があることから、脱Mg用のフラックスとしては、フッ化物を主成分とするもの、例えば、カリ氷晶石とAlFの混合物などのフッ化物を含むものが知られている。しかし、フッ化物を含むフラックスを使用した場合、滓にフッ化物が濃縮し、近年の環境規制の高まりから滓を再利用することが難しくなり、滓中のフッ素物含有量を低減することが要求されるようになってきた。このため、フッ化物を含まないフラックスが検討されており、特許文献1にはハロゲンを含まないフラックスが、特許文献2にはフッ素含有化合物を含まないフラックスが開示されている。
特許文献3には、アルミニウム合金の溶湯にシラスを添加し、マグネシウム化合物を含む反応生成物を除去する方法が記載されている。しかしながら、特許文献3に記載の方法は、反応性が低く、シラスを大量に、かつ繰り返し添加する必要があるため、脱Mg効率が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-299132号公報
【文献】特開2017-122257号公報
【文献】特開2010-275620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、フッ化物を含まない脱Mg効果のあるアルミニウム精錬用フラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々の研究を行った結果、塩化物と、比重が小さく、かつアルミニウムの溶湯に対して不溶性を有する物質とを組み合わせることにより、フッ化物を含まずとも、フッ化物を含む従来のアルミニウム精錬用フラックスと同等以上の脱Mg効果を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、塩化物と、比重が2.6未満であり、かつアルミニウムの溶湯に対して不溶性を有する物質とを含み、フッ化物を含まないことを特徴とするアルミニウム精錬用フラックスである。
【0008】
本発明の一態様によれば、比重が2.6未満であり、かつアルミニウムの溶湯に対して不溶性を有する物質が、炭素材料、酸化ケイ素質材料又はこれらの混合物であることを特徴とする、上記のアルミニウム精錬用フラックスが提供される。
【0009】
本発明の一態様によれば、塩化物の含有量が20~70mass%であり、炭素材料、酸化ケイ素質材料又はこれらの混合物の含有量が10~70mass%であることを特徴とする、上記のアルミニウム精錬用フラックスが提供される。
【0010】
本発明の一態様によれば、塩化物がアルカリ金属の塩化物であることを特徴とする、上記のアルミニウム精錬用フラックスが提供される。
【0011】
本発明の一態様によれば、塩化物が、NaCl、KCl又はこれらの混合物であることを特徴とする、上記のアルミニウム精錬用フラックスが提供される。
【0012】
本発明の一態様によれば、炭素材料がコークスであることを特徴とする、上記のアルミニウム精錬用フラックスが提供される。
【0013】
本発明の一態様によれば、酸化ケイ素質材料が軽石であることを特徴とする、上記のアルミニウム精錬用フラックスが提供される。
【0014】
本発明の一態様によれば、発熱助剤をさらに含むことを特徴とする、上記のアルミニウム精錬用フラックスが提供される。
【0015】
本発明の一態様によれば、発熱助剤の含有量が1~15mass%であることを特徴とする、上記のアルミニウム精錬用フラックスが提供される。
【0016】
本発明の一態様によれば、発熱助剤が金属硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩のいずれか1以上であることを特徴とする、上記のアルミニウム精錬用フラックスが提供される。
【0017】
本発明の一態様によれば、金属硫酸塩が、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウムのうち少なくとも一つであることを特徴とする、上記のアルミニウム精錬用フラックスが提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、フッ化物を含まない、脱Mg効果のあるアルミニウム精錬用フラックスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1に係るフラックスを用いた溶湯処理後の滓の走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子組成像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。なお、以下の説明において、「A~B」は、「A以上かつB以下」を意味する。
【0021】
本実施形態に係るアルミニウム精錬用フラックスは、塩化物と、比重が2.6未満であり、かつアルミニウムの溶湯に対して不溶性を有する物質(以下、小比重不溶性物質ともいう)とをとして含み、フッ化物を含まない。フッ化物を含まないことにより、滓にはフッ素が含まれない又は滓に含まれるフッ素の含有量を低減することができる。
小比重不溶性物質は、Mgをその表面に濃化し,溶湯表面と溶湯中とを浮上、浸漬を繰り返すことにより、大気中の酸素によりMgが酸化され、MgOとしてMgを溶湯から滓に除去する効果を有する。塩化物は、小比重不溶性物質とアルミニウム溶湯との濡れ性を向上させる効果を有し、アルミニウム溶湯上に浮いてしまう比重の小さい小比重不溶性物質が溶湯表面と溶湯中とを浮上、浸漬を繰り返すことを促進し、ひいては脱Mg効果を向上させる。
塩化物と小比重不溶性物質との相乗効果により、フッ化物を含まずとも、フッ化物を含む従来のアルミニウム精錬用フラックスと同等以上の脱Mg効果を奏する。
本実施形態に係るアルミニウム精錬用フラックスにおいては、塩化物と小比重不溶性物質とが主成分、即ち、フラックス中を占める割合が最も高い成分として含まれることが好ましい。
【0022】
本実施形態に係るアルミニウム精錬用フラックスにおいて、比重が2.6未満であり、かつアルミニウムの溶湯に対して不溶性を有する物質(小比重不溶性物質)は、炭素材料、酸化ケイ素質材料又はこれらの混合物であることが好ましい。
炭素材料としては、コークス、木炭、竹炭、炭素繊維屑、黒鉛、石炭など炭素を主成分とする炭素材料であることが好ましく、特に好ましくはコークスである。
本明細書において、「酸化ケイ素質材料」とは、酸化ケイ素(SiO)等を主成分とする物質で意味する。酸化ケイ素質材料としては、軽石、珪石、珪砂、珪藻土などが好ましく、特に好ましくは軽石である。
小比重不溶性物質は表面積の大きい粉末状であることが好ましく、溶湯表面と溶湯中とを浮上、浸漬を繰り返すことによるMgの酸化の効果のためには、粒径が10~300μmであることが好ましく、特に好ましくは50~150μmである。
【0023】
本実施形態に係るアルミニウム精錬用フラックスにおいて、塩化物の含有量が好ましくは20~70mass%、より好ましくは25~60mass%、さらに好ましくは30~55mass%、特に好ましくは30~50mass%であり、小比重不溶性物質の含有量が好ましくは10~70mass%、より好ましくは20~60mass%、さらに好ましくは25~55mass%、特に好ましくは30~50mass%である。上記範囲の含有量の塩化物及び小比重不溶性物質を含むことにより、塩化物と小比重不溶性物質とを含み、その相乗効果により脱Mg効果を奏する。
【0024】
本実施形態に係るアルミニウム精錬用フラックスに含まれる塩化物としては、アルカリ金属の塩化物であることが好ましく、特に好ましくは、NaCl、KCl又はこれらの混合物である。
【0025】
本実施形態に係るアルミニウム精錬用フラックスは、発熱助剤をさらに含んでいてもよい。発熱助剤は、フラックスを発熱させ、発生するアルミニウムドロスをドライ化する効果を有し、また、酸化剤としてMgの酸化を促進し、脱Mg効果を向上させる効果を有する。しかし、発熱助剤の含有量が多すぎる場合、アルミニウム溶湯の酸化ロスを引き起こす可能性がある。
発熱助剤をさらに含む場合、発熱助剤の含有量は1~15mass%であることが好ましく、より好ましくは2~14mass%、さらに好ましくは4~13mass%、更により好ましくは6~12mass%である。
発熱助剤は、特に限定されず、一般にフラックスにおける発熱助剤として知られている、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩などを用いることができるが、好ましくは金属硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩のいずれか1以上、より好ましくは金属硫酸塩である。特に好ましい金属硫酸塩としては、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウムであり、これらのうちの少なくとも一つを発熱助剤として含むことが好ましい。
【0026】
本実施形態に係るアルミニウム精錬用フラックスは、塩化物と小比重不溶性物質とを所望の含有量となるように秤量し、混合することにより製造される。発熱助剤と含む場合も同様に、所望の含有量となるように秤量し、混合することにより製造される。
【0027】
本実施形態に係るアルミニウム精錬用フラックスのアルミニウム溶湯への添加方法は、特に限定されず、従来公知の脱Mg用のフラックスと同様に、溶湯表面に散布した後に攪拌を行っても、不活性ガスと共にフラックスを溶湯に吹き込むフラックスインジェクション法を用いてもよい。
【実施例
【0028】
以下に本発明の実施例を示す。本発明の内容はこれらの実施例により限定して解釈されるものではない。
【0029】
表1に示される割合を有するように塩化物と小比重不溶性物質とを秤量、混合し、実施例1-23及び比較例1-4に係るフラックスを製造した。なお、比較例1は、市販の脱Mg用フラックス〔KK031-M:日軽エムシーアルミ株式会社製〕であり、カリ氷晶石(KAlF)とAlFの混合物を主成分とし、炭素材料や酸化ケイ素質材料を含まないフラックスである。
【0030】
坩堝〔フェニックス坩堝(30番)、日本ルツボ(株)製〕にてアルミニウム合金(ADC12)を7kg溶解し、金属Mgを添加して溶湯中のMgが約0.4mass%になるように調製した。
溶湯の温度を780℃に調整し、溶湯量に対して約1~2mass%となるよう秤量した実施例1-22及び比較例1-4に係る各フラックスを添加し、ホスフォライザーを用いて、3分間押し込み攪拌を行った。その後、各フラックスの添加から、3.5分後及び33分後の溶湯を採取し、固体発光分析にて溶湯中のMgの組成を分析した。
また、溶湯中のMgが約0.4mass%の5tの溶湯に対し、実施例23に係る各フラックスを添加し、20分間撹拌を行った。各フラックスの添加から、10分後及び20分後の溶湯を採取し、固体発光分析にて溶湯中のMgの組成を分析した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
表1、2に示されるように、実施例に係るフラックスは、比較例に係る市販の脱Mg用フラックスと同等以上の脱Mg効果を有している。即ち、本願発明のフラックスは、フッ化物を含まずとも、フッ化物を含む従来のアルミニウム精錬用フラックスと同等以上の脱Mg効果を有しており、フッ化物を含まないことにより、滓にフッ素が含まれない又は滓に含まれるフッ素の含有量を低減することができることが分かる。塩化物であるNaCl及びKClと小比重不溶性物質である炭素材料(本実施例においてはコークス)、又は酸化ケイ素質材料(本実施例においては軽石)又はこれらの混合物とを含む実施例に係るフラックスは、比較例に係るフラックスと同等以上の脱Mg効果を有している、即ち、主成分である塩化物と小比重不溶性物質との相乗効果により、脱Mg効果が向上することが分かる。さらに、驚くべきことに、実施例5、6に係るフラックスは、酸化剤としてMgの酸化を促進し、脱Mg効果を向上させる発熱助剤を含まずとも、高い脱Mg効果を有する。
【0036】
表3に示されるように、実施例に係るフラックスは、発熱助剤として金属硫酸塩であるNaSOを含む場合、炭酸塩であるNaCOを含む場合、硝酸塩であるNaNOを含む場合のいずれの場合も、同様に高い脱Mg効果を有することが分かる。即ち、実施例に係るフラックスは、発熱助剤の種類を問わず、高い脱Mg効果を有することが分かる。
表4に示されるように、実施例に係るフラックスは、工業規模である5tの溶湯に対しても7kgの溶湯の場合と同様に脱Mg効果を奏することが分かる。即ち、実施例に係るフラックスは、実際に工業規模のアルミニウムの溶解精製において、脱Mg処理のためのフラックスとして優れた性能を有することが分かる。
【0037】
表5は、実施例1、18、19及び比較例1に係るフラックスを用いた溶湯処理後の滓の蛍光X線分析の結果である。実施例1、18、19に係るフラックスを用いた溶湯処理後の滓からは溶湯由来のMgが検出された。比較例1に係るフラックスは、フッ素を含む市販の脱Mg用フラックスであるため、溶湯処理後の滓にはフッ素が濃縮されているが、実施例1、18、19に係るフラックスはフッ素を含まないため、溶湯処理後の滓からはフッ素は検出されなかった。
表6は、実施例1に係るフラックスを用いた溶湯処理後の滓のX線回析の結果である。滓から多量成分としてMgOが検出され、MgがMgOとして溶湯から除去されたことが確認された。
【0038】
【表5】
【0039】
【表6】
【0040】
図1は、実施例1に係るフラックスを用いた溶湯処理後の滓の走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子組成像である。図1に示されるように、コークス表面にMgOの濃化が確認され、表6に示されるX線回析の結果とも一致している。この結果から、主成分である塩化物と小比重不溶性物質との組み合わせ及びその相乗効果による脱Mg効果について確認された。
図1