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特許7284774LPO付き活物質粉体の製造方法及びLPO付き活物質粉体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】LPO付き活物質粉体の製造方法及びLPO付き活物質粉体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20230524BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230524BHJP
   H01M 4/505 20100101ALN20230524BHJP
【FI】
H01M4/36 A
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021029935
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131143
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 将史
(72)【発明者】
【氏名】石垣 有基
(72)【発明者】
【氏名】高木 英一
(72)【発明者】
【氏名】北吉 雅則
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/084357(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110080(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/128903(WO,A1)
【文献】特開2018-198193(JP,A)
【文献】特開2020-113377(JP,A)
【文献】特開2020-198261(JP,A)
【文献】特開2019-153462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質からなり、Wを含む処理前粒子本体と、
上記処理前粒子本体の粒子表面に形成された、Liを含む表面Li化合物部、及び、Li2WO4を含む表面LWO部と、を備える
処理前正極活物質粒子が集合した処理前活物質粉体から、
上記正極活物質からなり、Wを含む粒子本体と、
上記粒子本体の粒子表面に形成された、Li、P及びOを含む非晶質の表面LPO部と、を備える
LPO付き正極活物質粒子が集合したLPO付き活物質粉体を製造する、
LPO付き活物質粉体の製造方法であって、
上記処理前活物質粉体に、Pを含むP処理液を接触させ、
上記表面Li化合物部の少なくとも一部、及び、上記表面LWO部の少なくとも一部を、上記表面LPO部に変化させて、上記LPO付き活物質粉体を形成する
LPO形成工程を備える
LPO付き活物質粉体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のLPO付き活物質粉体の製造方法であって、
前記LPO形成工程は、
上記LPO付き活物質粉体に含まれる前記表面LWO部の含有量が、上記LPO付き活物質粉体の0.01wt%以下(零を含む)である上記LPO付き活物質粉体を形成する
LPO付き活物質粉体の製造方法。
【請求項3】
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質からなり、Wを含む粒子本体と、
上記粒子本体の粒子表面に形成された、Li、P及びOを含む非晶質の表面LPO部と、を備える
LPO付き正極活物質粒子が集合したLPO付き活物質粉体であって、
上記LPO付き活物質粉体に含まれる、Li 2 WO 4 を含む表面LWO部の含有量が、上記LPO付き活物質粉体の0.01wt%以下(零を含む)である
LPO付き活物質粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質粒子が集合した活物質粉体の製造方法、及び、活物質粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池(以下、単に「電池」ともいう)の正極板は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質からなる正極活物質粒子が集合した活物質粉体を用いて形成している。この正極活物質として、W(タングステン)を含む正極活物質が知られている。例えば特許文献1には、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)に、更にW(タングステン)が加わったリチウム遷移金属酸化物(リチウムニッケルコバルトマンガンタングステン複合酸化物)が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-183031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Wを含む正極活物質からなる活物質粉体を用いた電池では、Wを含まず、それ以外は同様の組成の正極活物質からなる活物質粉体を用いた電池に比べて、電池抵抗を低くし得る。例えば、上記の例で言えば、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる活物質粉体を用いた電池に比べて、更にWを加えたリチウムニッケルコバルトマンガンタングステン複合酸化物を用いた電池では、電池抵抗を低くできる。しかしながら、電池抵抗を更に低くできる活物質粉体が望まれていた。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、電池抵抗を低くできるLPO付き活物質粉体の製造方法、及び、LPO付き活物質粉体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質からなり、Wを含む処理前粒子本体と、上記処理前粒子本体の粒子表面に形成された、Liを含む表面Li化合物部、及び、Li2WO4を含む表面LWO部と、を備える処理前正極活物質粒子が集合した処理前活物質粉体から、上記正極活物質からなり、Wを含む粒子本体と、上記粒子本体の粒子表面に形成された、Li、P及びOを含む非晶質の表面LPO部と、を備えるLPO付き正極活物質粒子が集合したLPO付き活物質粉体を製造する、LPO付き活物質粉体の製造方法であって、上記処理前活物質粉体に、Pを含むP処理液を接触させ、上記表面Li化合物部の少なくとも一部、及び、上記表面LWO部の少なくとも一部を、上記表面LPO部に変化させて、上記LPO付き活物質粉体を形成するLPO形成工程を備えるLPO付き活物質粉体の製造方法である。
【0007】
上述のLPO付き活物質粉体の製造方法では、上述の処理前活物質粉体にP処理液を接触させ、表面Li化合物部の少なくとも一部、及び、表面LWO部の少なくとも一部を表面LPO部に変化させて、LPO付き活物質粉体を形成する。
このようにして製造されたLPO付き活物質粉体は、粒子本体にWを含むため、このLPO付き活物質粉体を用いた電池では、前述のように電池抵抗を低くし得る。
【0008】
更に、このLPO付き活物質粉体は、粒子表面に表面LPO部を有する。表面LPO部はリチウムイオン伝導性が高いため、表面LPO部が粒子表面に存在していると、表面LPO部を通じてリチウムイオンが電解液中から粒子表面へ、或いは粒子表面から電解液中への移動し易くなる。このため、表面LPO部を有するLPO付き活物質粉体を用いた電池では、LPO形成工程前の表面LPO部を有しない処理前活物質粉体を用いた電池に比べて、電池抵抗を低くできる。
【0009】
ところで、粒子表面にLi2WO4からなる表面LWO部を有する活物資粉体を用いた電池では、電池抵抗が高くなることが判ってきた。表面LWO部が電池において抵抗成分として働くと考えられる。これに対し、上述の製造方法で得られるLPO付き活物質粉体は、粒子本体にWを含んでいるにも拘わらず、表面LWO部が少なくなっているため、LPO形成工程前の表面LWO部が多い処理前活物質粉体を用いた電池に比べて、電池抵抗を低くできる。
【0010】
「Wを含む処理前粒子本体」としては、例えば、Wを含むリチウム遷移金属酸化物からなる粒子本体が挙げられる。このWを含むリチウム遷移金属酸化物としては、リチウムニッケルタングステン複合酸化物(LiNiab2)、リチウムコバルトタングステン複合酸化物(LiCoab2)、リチウムマンガンタングステン複合酸化物(LiMnab4)、リチウムニッケルコバルトマンガンタングステン複合酸化物(LiNiaCobMncd2)などが挙げられる。
【0011】
なお、処理前粒子本体が、LiMO2の組成で示される、Wを含むリチウム遷移金属酸化物からなる場合において、「M」をなす遷移金属のうち、Wの占める割合は、原子比で0.1at%以上であるのが好ましい。例えば、粒子本体がLiNiaCobMncd2からなる場合には、a+b+c≦0.999,d≧0.001とするのが好ましい。
【0012】
「表面LPO部」としては、例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸水素二リチウム(Li2HPO4)、リン酸二水素リチウム(LiH2PO4)などの組成で示されるLi、P及びOを含む非晶質の被膜などが挙げられる。
「P処理液」としては、例えば、五酸化二リン(P25)(十酸化四リン (P410))、オルトリン酸(H3PO4)、ピロリン酸(H427)、三リン酸(H5310)、ポリリン酸(HO(HPO3nH)、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸水素リチウム(Li2HPO4)等のリン化合物を、2-プロパノール(イソプロピルアルコール,IPA)等のアルコール、N-メチルピロリドン(NMP)、水等の溶媒に溶解または分散した処理液が挙げられる。
【0013】
更に、上記のLPO付き活物質粉体の製造方法であって、前記LPO形成工程は、上記LPO付き活物質粉体に含まれる前記表面LWO部の含有量が、上記LPO付き活物質粉体の0.01wt%以下(零を含む)である上記LPO付き活物質粉体を形成するLPO付き活物質粉体の製造方法とすると良い。
【0014】
上述のLPO付き活物質粉体の製造方法では、表面LWO部を実質的に有しないLPO付き活物質粉体を形成する。このLPO付き活物質粉体を用いた電池では、抵抗成分となる表面LWO部が無いため、特に電池抵抗を低くできる。
なお、本明細書において、LPO付き活物質粉体が表面LWO部を「実質的に有しない」とは、表面LWO部が存在しないか、存在していても、電池抵抗の大きさに影響しない量であることを言い、具体的には、LPO付き活物質粉体に含まれる表面LWO部の含有量Wwbが、LPO付き活物質粉体の0.01wt%以下(零を含む)であることを言う。
【0015】
また、他の態様は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質からなり、Wを含む粒子本体と、上記粒子本体の粒子表面に形成された、Li、P及びOを含む非晶質の表面LPO部と、を備えるLPO付き正極活物質粒子が集合したLPO付き活物質粉体であって、上記LPO付き活物質粉体に含まれる、Li 2 WO 4 を含む表面LWO部の含有量が、上記LPO付き活物質粉体の0.01wt%以下(零を含む)であるLPO付き活物質粉体である。
【0016】
上述のLPO付き活物質粉体は、粒子本体にWを含む。このようなLPO付き活物質粉体を用いた電池では、前述のように電池抵抗を低くし得る。
更に、このLPO付き活物質粉体は、粒子表面に表面LPO部を有するため、このLPO付き活物質粉体を用いた電池では、前述のように電池抵抗を低くできる。
また、このLPO付き活物質粉体は、粒子本体にWを含んでいるにも拘わらず、粒子表面に表面LWO部が実質的に存在しない。従って、このLPO付き活物質粉体を用いた電池では、前述のように電池抵抗を低くできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係り、LPO付き活物質粉体をなすLPO付き正極活物質粒子の模式的な断面図である。
図2】実施形態に係り、処理前活物質粉体をなす処理前正極活物質粒子の模式的な断面図である。
図3】実施形態に係り、LPO付き活物質粉体の製造方法のフローチャートである。
図4】実施形態に係り、LPO形成工程において処理前活物質粉体にP処理液を混合した様子を模式的に示す説明図である。
図5】実施例1に係り、LPO付き活物質粉体をなすLPO付き正極活物質粒子の模式的な断面図である。
図6】実施例1,2及び比較例に係る電池の電池抵抗比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1に本実施形態に係るLPO付き正極活物質粒子40の断面図を模式的に示す。LPO付き正極活物質粒子40が集合したLPO付き活物質粉体30は、リチウムイオン二次電池を構成する正極板の正極活物質層に用いられる。LPO付き正極活物質粒子40は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能からなり、Wを含む粒子本体41と、この粒子本体41の粒子表面41mに形成された表面LPO部43及び表面WO部47とを備える。
【0019】
本実施形態では、LPO付き正極活物質粒子40のメディアン径D50は、5μm程度である。粒子本体41は、Wを含むリチウム遷移金属酸化物、具体的には、リチウムニッケルコバルトマンガンタングステン複合酸化物(詳細にはLiNi0.33Co0.33Mn0.330.012)からなる。
一方、表面LPO部43は、Li、P及びOを含む非晶質のLPO部、具体的には、主としてLi3PO4の組成で示される非晶質の被膜であると考えられる。この表面LPO部43は、粒子本体41の粒子表面41mのうち主にエッジ面41maに、海島状に複数形成されていると考えられる。各表面LPO部43の厚みは、0.2nm程度である。各表面LPO部43は、後述する処理前正極活物質粒子20の表面Li化合物部23及び表面LWO部25(図2参照)から生成されている。表面LPO部43はリチウムイオン伝導性が高く、後述するように、LPO付き活物質粉体30を用いた電池の電池抵抗Rを低くできる。
【0020】
また、表面WO部47は、主としてWO3(酸化タングステン)の組成で示される被膜であると考えられる。この表面WO部47も、粒子本体41の粒子表面41mのうち主にエッジ面41maに、海島状に複数形成されていると考えられる。各表面WO部47の厚みは、0.2nm程度である。各表面WO部47は、後述する処理前正極活物質粒子20の表面LWO部25(図2参照)から生成されている。
但し、LPO付き正極活物質粒子40では、粒子表面41mにLi2WO4を含む表面LWO部25(後述する)を実質的に有しない。
【0021】
なお、LPO付き活物質粉体30に含まれる表面LWO部25は、以下の手法によって測定できる。即ち、ビーカに100mlの水に加え、これに10.0gのLPO付き活物質粉体30を加えて、マグネチックスターラを用いて1分間にわたり攪拌混合し、LPO付き活物質粉体30に含まれる表面LWO部25(Li2WO4)を水に溶解する。なお、表面WO部47(WO3)は、水に溶解しない。
その後、この混合液をろ過し、得られたろ液についてICP(Inductively Coupled Plasma)分析を行って、ろ液に含まれる、表面LWO部25由来のW量Wrb(wt%)を測定する。
【0022】
更に、このW量Wrb(wt%)から、以下の算出式(1)を用いて、LPO付き活物質粉体30に含まれる表面LWO部25(Li2WO4)の含有量Wwb(wt%)を算出する。
Wwb(wt%)=Wrb×(100/n)×(Mra/Mrw) ・・・(1)
n(g):用いたLPO付き活物質粉体30の量(本実施形態ではn=10.0g)、
Mrw(g/mol):Wの原子量(Mrw=183.84g/mol)、
Mra(g/mol):Li2WO4の分子量(Mra=261.72g/mol)。
【0023】
本実施形態のLPO付き正極活物質粒子40では、ろ液にWが検出されなかった(ろ液に含まれるW量Wrbが検出限度の0.0001wt%未満)。従って、LPO付き活物質粉体30には、表面LWO部25(Li2WO4)が存在しない(含有量Wwb≒0)と考えられる(ろ液に含まれるW量Wrbが検出限度の0.0001wt%未満であるため、上述の算出式(1)より、LPO付き活物質粉体30に含まれる表面LWO部25の含有量Wwbは、多くても0.002wt%未満であると推定される)。
【0024】
次いで、上記LPO付き活物質粉体30の製造方法について説明する(図2図4参照)。まず処理前正極活物質粒子20が集合した処理前活物質粉体10を用意する(図2参照)。この処理前正極活物質粒子20は、メディアン径D50が5μm程度の粒子であり、前述した正極活物質(本実施形態ではLiNi0.33Co0.33Mn0.330.012)からなる処理前粒子本体21と、この処理前粒子本体21の粒子表面21mに存在する表面Li化合物部23及び表面LWO部25とを備える。
【0025】
表面Li化合物部23は、処理前粒子本体21をなす正極活物質に含まれていた余剰のLiを起源としており、主としてLiOHからなると考えられる。表面Li化合物部23は、粒子表面21mのうち主にエッジ面21maに、海島状に複数存在していると考えられる。
また、表面LWO部25は、処理前粒子本体21をなす正極活物質に含まれていた余剰のLiとWを起源としており、主としてLi2WO4からなると考えられる。表面LWO部25も、粒子表面21mのうち主にエッジ面21maに、海島状に複数存在していると考えられる。
【0026】
なお、この処理前活物質粉体10に含まれる表面LWO部25(Li2WO4)の含有量Wwa(wt%)は、前述したLPO付き活物質粉体30に含まれる表面LWO部25の含有量Wwb(wt%)を求める手法によって測定できる。
本例の処理前活物質粉体10では、ICP分析を行ったろ液に含まれる表面LWO部25由来のW量Wraが、W量Wra=0.015wt%であったため、前述の算出式(1)を利用して、表面LWO部25の含有量Wwaは、Wwa=Wra×(100/n)×(Mra/Mrw)=0.015×(100/10.0)×(261.72/183.84)=0.21wt%である。
【0027】
次に、LPO形成工程S1(図2参照)において、処理前活物質粉体10に、Pを含むP処理液150を混合して、表面Li化合物部23及び表面LWO部25を表面LPO部43に変化させて、LPO付き活物質粉体30を形成する。本実施形態では、まずLPO形成工程S1で処理する処理前活物質粉体10における、表面Li化合物部23の全量及び表面LWO部25の全量を表面LPO部43に変えるのに要する最低の(過不足ない)P量Wp(wt%)を求める。
【0028】
まず「第1Li量算出工程S11」(図2参照)において、処理前活物質粉体10の表面Li化合物部23に含まれるLi量Wla(wt%)を測定する。具体的には、ビーカに100mlの水に加え、これに10.0gの処理前活物質粉体10を加えて、マグネチックスターラを用いて1分間にわたり攪拌混合し、処理前活物質粉体10に含まれる表面Li化合物部23(主にLiOH)を水に溶解する。
その後、この混合液を過し、得られたろ液について、HCl(塩酸)を用いた中和滴定を行う。具体的には、ビーカに入れたろ液をマグネチックスターラで攪拌する共に、pHメータによりろ液のpHを測定しながら、1.0MのHClを25μlずつ30秒間隔で加える。この中和滴定では、以下の反応が生じると考えられる。
LiOH+HCl→LiCl+H2
【0029】
その結果、本実施形態で用いた処理前活物質粉体10では、中和が完了するまでに、滴下量Tc=0.670 mlの1.0MHClを要した。処理前活物質粉体10の表面Li化合物部23に含まれるLi量Wla(wt%)は、以下の算出式(2)を用いて算出する。
Wla(wt%)=Tc×(Mc/1000)×Fc×Mrl×(1/m)×100 ・・・(2)
Tc(ml):中和が完了するまでに要したHClの滴下量、
Mc(M,mol/L):HClの濃度(本実施形態ではMc=1.0M)、
Fc:濃度ファクタ(本実施形態ではFc=1.01)、
Mrl(g/mol):Liの原子量(Mrl=6.94g/mol)。
m(g):用いた処理前活物質粉体10の量(本実施形態ではm=10.0g)。
本例では、HClの滴下量TcはTc=0.670mlであったため、Li量Wla=0.670×(1.0/1000)×1.01×6.94×(1/10.0)×100=0.047wt%である。
【0030】
また別途、「第2Li量算出工程S12」(図2参照)において、処理前活物質粉体10の表面LWO部25に含まれるLi量Wlb(wt%)を測定する。具体的には、前述のように、ビーカに100mlの水に加え、これに10.0gの処理前活物質粉体10を加えて、マグネチックスターラを用いて1分間にわたり攪拌混合し、処理前活物質粉体10に含まれる表面LWO部25(Li2WO4)を水に溶解する。その後、この混合液をろ過し、得られたろ液についてICP分析を行って、ろ液に含まれるW量Wra(wt%)を測定する。
【0031】
更に、このW量Wra(wt%)から、以下の算出式(3)を用いて、処理前活物質粉体10の表面LWO部25(Li2WO4)に含まれるLi量Wlb(wt%)を算出する。
Wlb(wt%)=Wra×2×(100/n)×(Mrl/Mrw) ・・・(3)
n(g):用いたLPO付き活物質粉体30の量(本実施形態ではn=10.0g)。
本例では、ろ液に含まれるW量WraがWra=0.015wt%であったため、処理前活物質粉体10の表面LWO部25に含まれるLi量Wlbは、Wlb=0.015×2×(100/10.0)×(6.94/183.84)=0.011wt%である。
【0032】
次に、「P量算出工程S13」(図2参照)において、表面Li化合物部23の全量及び表面LWO部25の全量を表面LPO部43に変えるためのP量Wp(wt%)を求める。前述のように、処理前活物質粉体10における、表面Li化合物部23に含まれるLi量WlaはWla=0.047wt%であり、表面LWO部25に含まれるLi量WlbはWlb=0.011wt%である。一方、表面LPO部43は主としてLi3PO4の組成で示される被膜であるため、P量Wp(wt%)を、以下の算出式(4)を用いて算出する。
Wp(wt%)=(Wla+Wlb)/3×(Mrp/Mrl) ・・・(4)
Mrp(g/mol):Pの原子量(Mrp=30.97g/mol)。
本例では、過不足ないP量Wpは、Wp=(0.047+0.011)/3×(30.97/6.94)=0.086wt%である。
【0033】
そこで、本実施形態では、P換算で0.086wt%となるように、IPAにP25を溶解して、P処理液150を得る。
そして、「処理工程S14」(図2参照)において、例えば100gの処理前活物質粉体10に対して、これと同量の100gのP処理液150を加え、この混合物をプラネタリーミキサで5分間にわたり混合する。これにより、表面Li化合物部23とP処理液150中のP25とが、以下の反応式(1)のように反応して、表面Li化合物部23Zから表面LPO部43が形成される。また、表面LWO部25とP処理液150中のP25とが、以下の反応式(2)のように反応して、表面Li化合物部23Zから、表面LPO部43及びWO3からなる表面WO部47が形成される。
6LiOH+P25→2Li3PO4+3H2O ・・・(1)
3Li2WO4+P25→2Li3PO4+3WO3 ・・・(2)
【0034】
その後、この混合物を80℃に加熱し乾燥させて、LPO付き正極活物質粒子40が集合したLPO付き活物質粉体30を得る。このようにすることで、理論上、表面Li化合物部23の全量及び表面LWO部25の全量が表面LPO部43となるため、本実施形態のLPO付き活物質粉体30は、表面Li化合物部23及び表面LWO部25を有しない。
【0035】
(試験結果)
次いで、本発明の効果を検証するために行った試験結果について説明する(図6参照)。実施例1として、前述のLPO形成工程S1において、添加するP量WpをWp=0.069wt%としたP処理液150を用い、それ以外は実施形態と同様にしてLPO付き活物質粉体30を作製した(図5参照)。この実施例1では、P量Wpを実施形態におけるP量Wp=0.086wt%よりも約20%減らしている。このため、表面Li化合物部23及び表面LWO部25のそれぞれ一部(約80%)が表面LPO部43となっており、残り約20%の表面Li化合物部23及び表面LWO部25は、LPO形成工程S1後のLPO付き活物質粉体30においても粒子表面41mにそのまま残っていると考えられる。
【0036】
また、実施例2として、実施形態と同様にしてLPO付き活物質粉体30を作製した(図1参照)。この実施例2(実施形態)では、前述のように、表面Li化合物部23及び表面LWO部25のそれぞれ全量が表面LPO部43となっており、LPO形成工程S1後のLPO付き活物質粉体30は、表面Li化合物部23及び表面LWO部25を有しない。
一方、比較例として、LPO形成工程S1を行う前の処理前活物質粉体10を用意した(図2参照)。この比較例では、LPO形成工程S1を行っていないため、粒子表面21mに多くの表面Li化合物部23及び表面LWO部25が存在する一方、表面LPO部43は有しない。
【0037】
次に、実施例1,2及び比較例のLPO付き活物質粉体30及び処理前活物質粉体10を用いて、それぞれラミネートセル型のリチウムイオン電池(不図示)を作製した。即ち、LPO付き活物質粉体30または処理前活物質粉体10を用いて、それぞれ正極板を作製する。具体的には、LPO付き活物質粉体30または処理前活物質粉体10と、導電粒子(アセチレンブラック粒子)と、結着剤(ポリフッ化ビニリデン)と、分散媒(NMP)とを混合して、正極活物質ペーストを作製する。そして、この正極活物質ペーストをアルミニウム箔からなる正極集電箔上に塗布し、加熱乾燥させて、正極集電箔上に正極活物質層を形成する。その後、これをプレスして正極活物質層の密度を高めて、正極板を形成した。
【0038】
また別途、負極板を作製する。具体的には、負極活物質粒子(黒鉛粒子)と、結着剤(スチレンブタジエンゴム)と、増粘剤(カルボキシメチルセルロース)と、分散媒(水)とを混合して、負極活物質ペーストを作製する。そして、この負極活物質ペーストを銅箔からなる負極集電箔上に塗布し、加熱乾燥させて、負極集電箔上に負極活物質層を形成する。その後、これをプレスして負極活物質層の密度を高めて、負極板を形成した。
次に、各正極板と負極板とをセパレータを介して対向させて、電解液と共にラミネートフィルムからなる外装体内に収容し、電池をそれぞれ作製した。
【0039】
次に、各電池について、それぞれ電池抵抗Rを測定した。具体的には、電池を環境温度-10℃下において、SOCを56%(電池電圧3.70V)に調整する。その後、1Cの定電流Iで2秒間放電を行い、放電前後の電池電圧Vを測定し、電池電圧Vの変化量ΔVを求める。また、R=ΔV/Iにより各電池の電池抵抗(IV抵抗)Rをそれぞれ求める。そして、比較例に係る電池の電池抵抗Rの基準(=1.00)として、実施例1,2に係る電池の電池抵抗Rの「電池抵抗比」を算出した。その結果を図6に示す。
【0040】
図6のグラフから明らかなように、比較例の電池に比して実施例1,2の電池では、電池抵抗比(電池抵抗R)が小さくなる。また、実施例1の電池に比して実施例2の電池では、更に電池抵抗比(電池抵抗R)が小さくなることが判る。
比較例の電池に用いた処理前活物質粉体10は、前述のように、粒子表面21mに多くの表面LWO部25が存在する(前述のように、表面LWO部25の含有量Wwa=0.21wt%)一方、表面LPO部43を有しない。
これに対し、実施例1の電池に用いたLPO付き活物質粉体30では、前述のように、表面LWO部25が比較例よりも少なくなっており、かつ、粒子表面41mに表面LPO部43が存在している。
【0041】
表面LWO部25は抵抗成分となるため、表面LWO部25が少なくなると、電池抵抗Rが小さくなる。このため、比較例の電池に比して実施例1の電池では、電池抵抗比(電池抵抗R)が小さくなる。
一方、表面LPO部43はリチウムイオン伝導性が高いため、表面LPO部43が粒子表面41mに存在していると、放電の際に電解液中のリチウムイオンが表面LPO部43を通じて粒子表面41mに移動し易くなる。このため、比較例の電池に比して実施例1の電池では、電池抵抗比(電池抵抗R)が小さくなる。なお、充電の場合は、リチウムイオンが粒子表面41mから電解液中への移動し易くなる。
更に、実施例2の電池に用いたLPO付き活物質粉体30では、表面LWO部25が無くなっており(含有量Wwb≒0)、かつ、表面LPO部43が更に多くなっている。このため、実施例1の電池に比して実施例2の電池では、更に電池抵抗比(電池抵抗R)が小さくなったと考えられる。
【0042】
以上で説明したように、LPO付き活物質粉体30の製造方法では、処理前活物質粉体10にP処理液150を接触させ、表面Li化合物部23の少なくとも一部、及び、表面LWO部25の少なくとも一部を表面LPO部43に変化させて、LPO付き活物質粉体30を形成する。
詳細な試験結果の記載は省略するが、このLPO付き活物質粉体30は、粒子本体41にWを含むため、このLPO付き活物質粉体30を用いた電池では、Wを含まず、それ以外は同様の組成の正極活物質(具体的にはリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物)からなる活物質粉体を用いた電池に比べて、電池抵抗Rを低くできる。
【0043】
更に、このLPO付き活物質粉体30は、粒子表面41mに表面LPO部43を有するため、このLPO付き活物質粉体30を用いた電池では、LPO形成工程S1前の表面LPO部43を有しない処理前活物質粉体10を用いた電池に比べて、前述のように電池抵抗Rを低くできる。
また、このLPO付き活物質粉体30は、表面LWO部25が少なくなっているため、LPO形成工程S1前の表面LWO部25が多い処理前活物質粉体10を用いた電池に比べて、電池抵抗Rを低くできる。
【0044】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0045】
10 処理前活物質粉体
20 処理前正極活物質粒子
21 処理前粒子本体
21m 粒子表面
23 表面Li化合物部
25 表面LWO部
30 LPO付き活物質粉体
40 LPO付き正極活物質粒子
41 粒子本体
41m 粒子表面
43 表面LPO部
47 表面WO部
150 P処理液
S1 LPO形成工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6