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特許7284833特性を変えるための人工マイクロRNAを用いた哺乳類細胞の改変及びその生産物の組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】特性を変えるための人工マイクロRNAを用いた哺乳類細胞の改変及びその生産物の組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20230524BHJP
   C12N 5/16 20060101ALI20230524BHJP
   C12N 15/65 20060101ALI20230524BHJP
   C12N 15/90 20060101ALI20230524BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230524BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20230524BHJP
【FI】
C12N15/113 130Z
C12N5/16 ZNA
C12N15/65 Z
C12N15/90 Z
C12Q1/02
C12N15/52 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021567964
(86)(22)【出願日】2020-05-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-14
(86)【国際出願番号】 US2020032381
(87)【国際公開番号】W WO2020231943
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】62/846,847
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/870,321
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/981,417
(32)【優先日】2020-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/019,733
(32)【優先日】2020-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521438629
【氏名又は名称】ディーエヌエー ツーポイントオー インク.
【氏名又は名称原語表記】DNA TWOPOINTO INC.
【住所又は居所原語表記】37950 Central Court Newark, California 94560 (US)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ミンシュル, ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】リー, マギー
(72)【発明者】
【氏名】シタラマン,ヴァルシャ
(72)【発明者】
【氏名】ボルドッグ,フェレンク
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107893073(CN,A)
【文献】HUMAN GENE THERAPY METHODS, 2015, Vol.26, No.5, pp.162-174
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/113
C12N 5/16
C12N 15/65
C12N 15/90
C12Q 1/02
C12N 15/52
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヌクレオチドであって、
a)マルチヘアピンamiRNA配列をコードするセグメント、
ここで、前記セグメントは以下を含む、
i)必須代謝酵素をコードする天然の哺乳類細胞のmRNAの第1の標的部位に完全に相補的な連続した少なくとも21ヌクレオチドの配列を含む第1のガイド鎖配列、及び前記第1のガイド鎖配列に少なくとも78%相補的な連続した少なくとも19ヌクレオチドの配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列、
ここで、前記第1のガイド鎖配列及び前記第1のパッセンジャー鎖配列は5~35個のヌクレオチドで分離されている、
ii)前記第1のガイド鎖配列と同じ天然の哺乳類細胞のmRNAの第1の標的部位とは異なる第2の標的部位に完全に相補的な連続した少なくとも21ヌクレオチドの配列を含む第2のガイド鎖配列、及び前記第2のガイド鎖配列に少なくとも78%相補的な連続した少なくとも19ヌクレオチドの配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列、
ここで、前記第2のガイド鎖配列及び第2のパッセンジャー鎖配列は5~35個のヌクレオチドで分離され、且つ前記第1及び第2のガイド鎖配列は互いに異なり、
ここで、前記天然の哺乳類細胞のmRNAは配列番号21にコードされるmRNA配列を有し、かつ前記第1及び第2のガイド鎖配列はそれぞれ配列番号114~129のいずれか1つを含むように選択される、又は前記天然の哺乳類細胞のmRNAは配列番号23にコードされるmRNA配列を有し、かつ前記第1及び第2のガイド鎖配列はそれぞれ配列番号130~142のいずれか1つを含むように選択される、及び
b)哺乳類細胞内で活性であり、amiRNA配列をコードするセグメントに作動可能に連結されたRNAポリメラーゼII又はRNAポリメラーゼIIIによって転写される真核生物プロモーター、
ここで、前記amiRNA配列は発現し、複数のヘアピンに折り畳まれることができる、
を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記第1のガイド鎖配列が、前記天然の哺乳類細胞のmRNAに完全に相補的な21又は22ヌクレオチド配列であり、前記第1のパッセンジャー鎖配列が、前記第1のガイド配列と同じ長さを有する、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記第1のガイド鎖配列が、前記天然の哺乳類細胞のmRNAに完全に相補的な21又は22塩基配列であり、前記第1のパッセンジャー鎖配列が前記第1のガイド配列よりも短い、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記第1及び第2の標的部位が重ならない、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
マルチヘアピンamiRNA配列をコードする前記セグメントが、前記第1及び第2のガイド鎖配列と同じ天然の哺乳類細胞のmRNAに完全に相補的な連続した少なくとも19ヌクレオチドの配列を含む第3のガイド鎖配列、及び第3のガイド鎖配列に少なくとも78%相補的な連続した少なくとも19ヌクレオチドの配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列をさらに含み、
ここで、前記第3のガイド鎖及び前記第3のパッセンジャー鎖配列が、5~35個のヌクレオチドで分離され、且つ前記第1、第2及び第3のガイド鎖配列が互いに異なる、
請求項1~4のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記セグメント及び前記プロモーターを挟む2つのトランスポゾンエンドをさらに含み、前記セグメント及び前記プロモーターは前記トランスポゾンエンドを認識するトランスポザーゼによって転移可能である、請求項1~5のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項6に記載のポリヌクレオチドであって、各トランスポゾンエンドが、配列番号1004及び1005から、又は配列番号1010及び1011から、又は配列番号1014及び1015から、又は配列番号1016及び1017から、又は配列番号1022及び1023から、又は配列番号1026及び1027から、又は配列番号1030及び1031から、又は配列番号1036及び1037から、又は配列番号1040及び1041から、又は配列番号1044及び1045から、又は配列番号1112及び1113から選択される、ポリヌクレオチド。
【請求項8】
前記ポリヌクレオチドが、配列番号741を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
前記ガイド鎖配列及びそのパッセンジャー鎖配列のそれぞれが、配列番号114及び418、配列番号115及び419、配列番号117及び421、配列番号118及び422、配列番号119及び423、配列番号120及び424、配列番号121及び425、配列番号122及び426、配列番号123及び427、配列番号124及び428、配列番号125及び429、配列番号126及び430、配列番号127及び431、配列番号128及び432、配列番号129及び433、又は配列番号116及び420の配列組み合わせのいずれかから選択される、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
前記ガイド鎖配列及びそのパッセンジャー配列のそれぞれが、配列番号130及び434、配列番号131及び435、配列番号132及び436、配列番号133及び437、配列番号134及び438、配列番号135及び439、配列番号136及び440、配列番号137及び441、配列番号138及び442、配列番号139及び443、配列番号140及び444、配列番号141及び445、並びに配列番号142及び446の配列の組み合わせのいずれかから選択される、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
哺乳類細胞であって、請求項1~10のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを有し、前記ポリヌクレオチドはそのゲノムに組み込まれている、哺乳類細胞。
【請求項12】
請求項11に記載の哺乳類細胞であって、前記マルチヘアピンamiRNA配列が発現し、前記天然の細胞のmRNAの発現を阻害し、それにより、細胞が増殖するためにグルタミンの外因的供給を必要とする、哺乳類細胞。
【請求項13】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む哺乳類細胞であって、そのゲノムが、前記哺乳類細胞で発現可能なグルタミン合成酵素をコードする遺伝子を含む第2のポリヌクレオチドをさらに含み、前記遺伝子の発現が前記天然の細胞のmRNAの発現の阻害を補完して阻害状態から救済し、それにより、外因性のグルタミンの供給なしに増殖する能力が回復する、哺乳類細胞。
【請求項14】
前記第2のポリヌクレオチドが、前記哺乳類細胞で発現可能な第2の遺伝子をさらに含む、請求項13に記載の哺乳類細胞。
【請求項15】
標的蛋白質をコードする核酸が細胞のゲノムに組み込まれた細胞の選択方法であって、
a)請求項10に記載の哺乳類細胞の集団を、マルチヘアピンamiRNA配列による天然の細胞のmRNAの発現の阻害のために細胞が増殖するのに必要なグルタミンの存在下で培養する工程、
b)前記哺乳類細胞で発現可能なグルタミン合成酵素をコードする遺伝子、及び標的蛋白質をコードする第2の遺伝子を含む第2のポリヌクレオチドを、前記細胞の集団にトランスフェクトする工程、
ここで、前記グルタミン合成酵素の発現が前記天然の細胞のmRNAの発現の阻害を補完して阻害状態から救済し、それにより、グルタミンなしに増殖する能力が回復する、及び
c)前記トランスフェクトされた細胞を、グルタミンの濃度を下げた状態、又は非存在下で培養する工程、
ここで、培養を生き残ったトランスフェクトされた細胞は、第2のポリヌクレオチドがゲノムに組み込まれていて、それにより、標的蛋白質を発現できる、
を含む、方法
【請求項16】
前記トランスフェクトされた細胞を、グルタミンの濃度を段階的に減少させながら培養する、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2019年5月13日に出願された62/846,847、2019年7月3日に出願された62/870,321、2020年2月25日に出願された62/981,417、及び2020年5月4日に出願された63/019,733の利益を主張するものであり、これらは全ての目的のためにその全体が参照によって組み込まれる。
【配列表の参照】
【0002】
本願は2020年5月2日に作成された1,070,000バイトのSEQ_DN20200502 _ST25という名前のtxtファイルに開示された配列を参照し、それは参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
2. 発明の背景
異種核酸の哺乳類細胞への導入は、その特性、及びそれが生成する分子の特性を改変するために使用できる。培養哺乳類細胞の遺伝的に改変可能な特性には、培養哺乳類細胞が分泌する蛋白質のグリコシル化、培養哺乳類細胞が生産する蛋白質の蛋白質分解処理、細胞が生産する蛋白質の細胞内トラフィッキング、外因的に細胞に提供しなければならない栄養素の種類を含む細胞の増殖特性、及び高レベルの異種蛋白質の発現を含む様々なストレス下での細胞の生存率及びアポトーシスに対する感受性を含む。免疫細胞の遺伝子組み換え特性としては、免疫細胞が認識する分子、免疫細胞内の細胞応答、通常は細胞死、アネルギー、疲弊を引き起こす条件を含む特定の環境下で免疫細胞が生存し、免疫機能を発揮する能力、及び免疫細胞が生産する蛋白質などを含む。
【0004】
哺乳類細胞の安定した遺伝子改変は、異種ポリヌクレオチドを培養哺乳類細胞のゲノムに組み込むことによって行うことができる。異種DNAの細胞への導入方法はさまざまである。異種DNAを細胞に導入する方法には、ネイキッドプラスミドDNAでトランスフェクトする方法、DNAをウイルス粒子にパッケージングして哺乳類細胞に感染させる方法、トランスポゾンとそれに対応するトランスポザーゼで細胞をトランスフェクトする方法を含む。
【0005】
プラスミドDNAを含む非ウイルスベクターシステムは、非効率的な細胞送達、細胞傷害性、トランスフェクトされた細胞集団内でのベクターの分解及び/又は希釈に起因するゲノム挿入の欠如によるトランスジーンの発現期間の制限などの問題を抱えることがしばしばある。非ウイルス手法で導入されたトランスジーンは、ヘテロクロマチン形成による転写サイレンシングの標的となる長く反復した配列(コンカテマー)を形成することがしばしばある。
【0006】
ウイルスによるパッケージングでは、挿入可能なDNAのサイズに制限がある。また、ウイルスの組み込み部位に関する安全性への懸念や、ウイルスの生産にかかるコストや複雑さもある。
【0007】
細胞のゲノムに組み込まれたポリヌクレオチドにコードされる遺伝子の発現レベルは、ポリヌクレオチド内の配列要素の構成に依存する。また、ポリヌクレオチドの組み込み効率、即ち各ゲノムに組み込まれるポリヌクレオチドのコピー数や、組み込みが行われるゲノム上の位置も、ポリヌクレオチドにコードされる遺伝子の発現レベルに影響を与える。ポリヌクレオチドを標的細胞のゲノムに組み込む効率は、ポリヌクレオチドをトランスポゾンに入れることで高められることがしばしばある。トランスポゾンは、トランスポザーゼによって認識される2つのエンドを含む。トランスポザーゼはトランスポゾンに作用して、あるDNA分子からトランスポゾンを切り離し、別のDNA分子に組み込む。トランスポゾンの2つのエンドの間にあるDNAは、トランスポゾンエンドと一緒にトランスポザーゼによって転移される。トランスポザーゼによって認識され転移されるようなトランスポゾンエンドの対に挟まれた異種DNAは、本明細書で合成トランスポゾンと呼ばれる。合成トランスポゾンとそれに対応するトランスポザーゼを真核細胞の核に導入すると、細胞のゲノムにトランスポゾンが転移(transposition)され得る。トランスポゾン/トランスポザーゼ遺伝子デリバリープラットフォームは、ネイキッドDNAやウイルスの限界を克服する可能性を有している。piggyBac様トランスポゾンは、その無制限の遺伝子カーゴキャパシティから魅力的であるが、Sleeping BeautyのようなMarinerトランスポゾン又はTcBusterのようなhATトランスポゾンも、異種DNAを哺乳類細胞のゲノムに組み込む効率的な方法を提供する。
【0008】
哺乳類細胞の特性は、その哺乳類細胞に内在する遺伝子を阻害することによって好ましく改変できる。RNA干渉は、哺乳類細胞の特性を有利に改変するために、哺乳類細胞の内因性遺伝子を阻害するために使用できる。RNA干渉は、哺乳類細胞の内因性遺伝子を阻害するための有望な技術である。しかし、現在使用されている技術では、確実に長期間遺伝子発現を抑制することができないという限界がある。広く使用されている技術の1つは、siRNAのトランスフェクト又は化学的に修飾されたsiRNAによる処理によって、免疫細胞をsiRNAで処理することである。これは、遺伝子ノックダウンや遺伝子ノックアウトの表現型の効果を調べる実験手法として有用である。但し、RNAは不安定なため、RNAとして投与されたsiRNAの効果は一過性のものである。次に、RNAポリメラーゼIIIによって転写されるプロモーターに作動可能に連結されたshRNAをコードする遺伝子をトランスフェクトする方法がある。この技術は、個のshRNA分子の有効性が変化することや、ランダムな組み込みの割合が非常に変化することによって、しばしば制限される。ランダムな組み込みの変化率は、レンチウイルスベクターを用いて解決できるが、shRNAの有効性の変化は依然として大きな問題である(Anastasov et. al., 2009. J. Hematop 2, 9-19. "Efficient shRNA delivery into B and T lymphoma cells using lentiviral vector-mediated transfer")。
【0009】
マイクロRNA(miRNA)は、天然に存在するRNAで、RNAポリメラーゼIIによって遺伝子から転写される。マイクロRNAは、分子内の二本鎖RNAヘアピンを含み、細胞内の酵素によって処理され、1つ以上のmRNA標的に相補的な「ガイド鎖」が生成される。ガイド鎖はRISC複合体と物理的に複合体化しており、RISC複合体を介して標的mRNAの発現を抑制する。人工的なmiRNA(amiRNA)は、天然のスキャホールドを利用して、天然の標的以外の標的を阻害するガイド鎖を生成するように適応させることで設計できる。また人工miRNAは、RNAポリメラーゼIIIによって転写できる(Snyder et. al., 2009. Nucl. Acids Res. 37 e127 doi:10.1093/nar/gkp657. "RNA polymerase III can drive polycistronic expression of functional interfering RNAs designed to resemble microRNAs")。miRNAスキャホールドの使用は、干渉RNAの処理を改善できるが、効果のばらつきは依然として課題である。従って、当技術分野では、哺乳類細胞の特性、又は哺乳類細胞が生産する蛋白質もしくは他の化合物の特性を改変するために、哺乳類細胞の内因性の遺伝子を阻害するための堅牢なRNA干渉方法が必要である。
【0010】
本明細書では、有利な表現型の変化をもたらすための、哺乳類細胞の内因性の遺伝子を阻害するための人工マイクロRNAを含むポリヌクレオチドを哺乳類細胞に導入する方法及び組成物を開示する。
【発明の概要】
【0011】
3. 発明の概要
内因性遺伝子の発現を阻害するために、哺乳類細胞のゲノムを改変する方法を開示する。哺乳類細胞は、発現した蛋白質の生産のために培養された哺乳類細胞を含んでもよい。また、T細胞やB細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)などのリンパ球、Tヘルパー細胞、抗原提示細胞、樹状細胞、好中球、マクロファージなどの免疫細胞を含んでもよい。
【0012】
RNA干渉法は、哺乳類細胞の特性を有利に改変するために、内因性の哺乳類細胞遺伝子の発現を阻害するために使用できる。ここで、RNA干渉の効率を向上させる方法について説明すると、(i)干渉性RNAを発現する遺伝子(例えば、shRNA又はamiRNA遺伝子)をトランスポゾンに組み込んでもよく、ここで、トランスポゾンの1つ以上のコピーが哺乳類細胞ゲノムの転写活性領域に導入され、及び(ii)干渉性RNAは、同じmRNA標的内の2つ以上の異なる配列に相補的な2つ以上の異なるガイド鎖を含む。同じmRNA標的内の異なる配列に相補的な2つ以上のガイド鎖を、レンチウイルスベクター又はトランスポゾンベクターで提供することにより、RNA干渉の確実性が実質的に向上する。
【0013】
哺乳類細胞で発現する遺伝子を阻害するためのポリヌクレオチドを設計する方法を開示する。標的遺伝子の阻害のための好ましい遺伝子導入ポリヌクレオチド(「阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチド」)は、標的哺乳類細胞で発現して2つ以上の異なるRNAガイド鎖配列を生成できる2つ以上の異なるヘアピン配列を含み、その各々は標的mRNAの異なる領域に相補的である。第1(ガイド)の配列は、標的mRNAに相補的な19~22個の連続した塩基を含み、第2(ガイド)の配列は、標的mRNAに相補的な19~22個の連続した塩基を含む。第1及び第2のガイド鎖配列は、互いに異なるが、同じ標的mRNAに相補的である。任意に、遺伝子導入ポリヌクレオチドは、標的哺乳類細胞で発現可能な第3のヘアピン配列を含み、標的mRNAに相補的な19~22個の連続する塩基を含むRNAガイド鎖配列を生成し、第1、第2及び第3のガイド鎖配列は互いに異なる。阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドの各ヘアピン配列は、ガイド鎖配列と相補的なパッセンジャー鎖配列を含む。各ガイド鎖配列は、発現したRNAにおいて、5~35塩基の間の不対ループを形成する配列によって、対応するパッセンジャー鎖配列から分離されている。各パッセンジャー鎖配列は、対応するガイド鎖配列の逆相補鎖と78%以上同一の少なくとも19個の塩基を含む(即ち、これらの19個の塩基の中には、対応するガイド鎖配列の一致する逆相補鎖と比較して、変異、一塩基欠失又は一塩基挿入を含む4個超のミスマッチが含まれない)。ガイド鎖とパッセンジャー鎖の配列の違いは、哺乳類のRNA干渉経路による転写されたヘアピンの処理と、RISC複合体へのガイド鎖のローディングを有利にして、標的mRNAの発現を減少させるように選択される。遺伝子導入ポリヌクレオチド中の本発明のヘアピン配列(つまり、ガイド鎖、ループ鎖、及びパッセンジャー鎖の配列の組み合わせ)は、哺乳類細胞内で自然に発現する配列ではない、あるいは哺乳類細胞に感染できるウイルス由来の配列であることが好ましい。本発明のヘアピン配列は、好ましくは1つ以上の人工マイクロRNAから発現される。
【0014】
阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドは、それぞれが標的哺乳類細胞内で活性な異種プロモーターに作動可能に連結された2つ以上のヘアピン配列を含む。各ヘアピン配列は、同じプロモーターに作動可能に連結されていてもよいし、別々のプロモーターに連結されていてもよい。好ましくは、プロモーターは、RNAポリメラーゼII又はRNAポリメラーゼIIIによって転写され、より好ましくは、プロモーターは、RNAポリメラーゼIIによって転写される。いくつかの実施形態では、プロモーターは、誘導性プロモーターである。
【0015】
いくつかの実施形態では、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドは下記(a)及び(b)を含む。(a)マルチヘアピンamiRNA配列をコードするセグメントであって、下記(i)、(ii)を含む、セグメント。(i)天然の哺乳類細胞のmRNAの第1の標的部位に完全に相補的な連続した19~22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列、及び第1のガイド鎖配列に少なくとも78%相補的な連続した19~22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列であって、ここで、第1のガイド鎖及び第1のパッセンジャー鎖配列は、5~35個のヌクレオチドで分離され、(ii)第1のガイド鎖配列と同じ天然の哺乳類細胞のmRNAの第1の標的部位とは異なる第2の標的部位に完全に相補的な連続した19~22ヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列、及び第2のガイド鎖配列に少なくとも78%相補的な連続した19~22ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列であって、ここで、第2のガイド鎖及び第2のパッセンジャー鎖配列は、5~35個のヌクレオチドで分離され、第1のガイド鎖配列及び第2のガイド鎖配列は、互いに異なる。(b)哺乳類細胞内で活性であり、RNAポリメラーゼII又はRNAポリメラーゼIIIによって転写される、amiRNA配列をコードするセグメントに作動可能に連結している、真核生物プロモーターであって、
ここで、amiRNA配列は発現し、複数のヘアピンに折り畳まれることができる、真核生物プロモーター。第1のパッセンジャー鎖配列は、第1のガイド鎖配列と同じ長さであってもよく、1~3ヌクレオチドだけ短くてもよい。哺乳類細胞のmRNAにおける第1の標的部位と第2の標的部位は、重なりがあっても重なりがなくてもよい。
【0016】
有利な阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドは、哺乳類細胞内で安定的に維持されるため、標的遺伝子は恒久的に抑制される。好ましくは、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドは、哺乳類細胞のゲノムに組み込まれる。阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを哺乳類細胞のゲノムに安定して組み込むためには、ヘアピン配列とその発現に必要な制御要素を、piggyBac様トランスポゾン、Sleeping BeautyトランスポゾンなどのMarinerトランスポゾン、TcBusterトランスポゾンなどのhATトランスポゾンなどのトランスポゾン、又はレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターに組み込むのが有利である。有利な阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドは、哺乳類細胞で発現可能な2つ以上の異なるヘアピン配列を含み、各ヘアピン配列は、標的mRNAに相補的な少なくとも19又は20又は21又は22個の連続した塩基を含む異なる配列を含む。ここで、各ヘアピンは、哺乳類細胞内で活性を有するプロモーターに作動可能に連結されており、ヘアピン及びその作動可能に連結されたプロモーターは、ヘアピンとその作動可能に連結されたプロモーターが、対応するトランスポザーゼによって転移可能になるように、piggyBac様トランスポゾンの逆向きの末端リピート(inverted terminal repeat)、Sleeping BeautyトランスポゾンなどのMarinerトランスポゾンの逆向きの末端リピート、又はTcBusterトランスポゾンなどのhATトランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれる。あるいは、ヘアピンとその作動可能に連結されたプロモーターは、ウイルス粒子にパッケージされるように、レンチウイルスの逆向きの末端リピートで挟まれる。
【0017】
本発明の方法は、哺乳類細胞内で発現可能な2つ以上の異なるヘアピン配列を含む阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを哺乳類細胞に導入して、2つ以上の異なるガイドRNA配列を生成させる工程を含み、これらのガイドRNA配列の各々は、同じ標的mRNAの異なる領域に相補的である。ヘアピン配列がトランスポゾンベクター上に担持されている阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドの場合、本方法は、対応するトランスポザーゼを、蛋白質として、又はトランスポザーゼをコードする核酸として、哺乳類細胞に導入する工程をさらに含んでもよい。ヘアピン配列がウイルスベクターに担持されている阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドの場合、本方法は、ポリヌクレオチドをウイルス粒子にパッケージングする工程、及び哺乳類細胞をウイルス粒子と接触させる工程をさらに含んでもよい。
【0018】
任意に、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドは、哺乳類標的細胞で発現可能な蛋白質をコードする遺伝子も含み、ここで、この蛋白質は、哺乳類細胞の特性、挙動、生成物を改変する。例えば、遺伝子導入ポリヌクレオチドは、キメラ抗原受容体、T細胞受容体、抗体、二重特異性抗体、受容体、又は任意の種類の治療用蛋白質をコードするオープンリーディングフレームと、蛋白質を標的哺乳類細胞で発現可能にする調節要素とが作動可能に連結されたものであってもよい。このようにして、1つのポリヌクレオチドは、哺乳類細胞内で1つ以上の異種蛋白質を生産する配列と、1つ以上の内因性遺伝子(特定の環境や条件下で哺乳類細胞の有効性や生存率を通常低下させる可能性のある遺伝子など)の発現を低下させる干渉RNA分子を生産するように転写された配列を併せて有し得る。任意に、哺乳類細胞の特性を改変する蛋白質をコードする遺伝子は、1つ以上のヘアピン配列と同じプロモーターに作動可能に連結している。
【0019】
抗体を含む治療用蛋白質の生産には、ヒト胚性腎臓(HEK)などのヒト細胞株やチャイニーズハムスター卵巣(CHO)などのげっ歯類細胞株がよく使われる。これらの細胞には、固有のフコシルトランスフェラーゼ活性がある。抗体依存性細胞傷害性(ADCC)は、Fcに結合したオリゴ糖のコアフコースによって大きく低下し、インビボでのヒトにおける抗腫瘍性抗体の臨床効果や抗がん活性を低下させ得る。従って、哺乳類培養細胞株で生産される蛋白質のフコシル化(fucosylation)を低減又は除去することは、より高いADCC活性を有する抗体を生産するために有利である。我々は、哺乳類の細胞で生産されたときに、抗体を含む異種生産された蛋白質のフコシル化を低減するためのamiRNAの配列を含むポリヌクレオチドを設計する方法を開示する。また、異種生産された蛋白質のフコシル化のレベルを低下させるために使用できるamiRNAを含むポリヌクレオチドの配列も開示されている。
【0020】
通常リソゾームに標的化される蛋白質の生産に使用されるげっ歯類及びヒト細胞株の場合、合成された蛋白質のかなりの量がリソゾームに向けられ、その後分解され得る。その結果、蛋白質の収率が低下したり、細胞の生存率が低下したりする。そこで、マンノース-6-ホスフェイト受容体、リソソーマルインテグラル膜蛋白質LIMP-2、ソルチリンなど、これらの蛋白質を生産細胞のリソソームに通常輸送する経路を破壊することが有効であると考えられる。我々は、哺乳類細胞のリソソーム輸送を減少させるためのamiRNA配列を含むポリヌクレオチドを設計する方法、及び細胞のリソソーム輸送を減少させるために使用できるamiRNA含有ポリヌクレオチドの配列を開示する。
【0021】
蛋白質の生産に用いられるヒトやげっ歯類の細胞株の開発には、生産されるべき蛋白質をコードする異種DNAの導入をしばしば伴う。この異種DNAには、異種DNAを取り込んだ細胞を識別/選択するためのセレクタブルマーカーをコードする遺伝子が含まれていることが多い。セレクタブルマーカーの中でも特に有用なのは、栄養素を加えなくても細胞が生存及び増殖できるマーカーである。このような選択が機能するためには、細胞がセレクタブルマーカーの機能的な内因性コピーを欠き、加えられたコピーに依存している必要がある。哺乳類の培養細胞は、アミノ酸やヌクレオチドの合成に関わる内在性遺伝子、特にグルタミン合成酵素やジヒドロ葉酸還元酵素の遺伝子を、直接的又は非直接的に欠失又は変異させることによって改変される。染色体上の遺伝子の欠失は複雑で時間がかかる。代わりに、RNA干渉を使用して、内因性のグルタミン合成酵素又はジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子の発現を恒久的に減少させることができる。我々は、哺乳類細胞におけるグルタミン合成酵素及びジヒドロ葉酸還元酵素の発現を低減するためのamiRNA配列を含むポリヌクレオチドを設計する方法、及びそのような低減を達成するために使用できるamiRNA含有ポリヌクレオチドの配列を開示する。
【0022】
通常の蛋白質分解的に切断される蛋白質の生産に使用されるげっ歯類及びヒトの細胞株では、そのような切断は、蛋白質収率の低下、又は不均質な蛋白質製品をもたらし得る。そのため、プロテアーゼを阻害することは有益であると考えられる。我々は、哺乳類細胞における蛋白質分解を減少させるためのamiRNA配列を含むポリヌクレオチドを設計する方法、及び蛋白質分解を減少させるために使用できるamiRNA含有ポリヌクレオチドの配列を開示する。
【0023】
蛋白質の生産に使用されるげっ歯類やヒトの細胞株では、高レベルの蛋白質の発現は細胞の生存率を低下させ得る。そのため、通常のアポトーシス経路に関与する遺伝子を破壊することが有益であり得る。我々は、哺乳類細胞のアポトーシスを減少させるためのamiRNA配列を含むポリヌクレオチドを設計する方法、及びアポトーシスを減少させるために使用できるamiRNA含有ポリヌクレオチドの配列を開示する。
【0024】
ヒトT細胞の機能、持続性、増殖性を高めることは、がん免疫療法にとって現在のボトルネックとなっている。T細胞の性能、増殖(expansion)、遺伝子操作の向上を可能にする技術が強く求められる。T細胞を制御し、増殖させる能力は、以下のような多くの応用が可能である。(i) CAR-Tとの併用などにより、T細胞療法の機能を改善して有効性や安全性を高める。(ii)腫瘍浸潤T細胞のT細胞疲弊を回復させる。(iii)前臨床試験用マウス(インビボ)におけるヒトT細胞の生存率の向上。(iv)抗原特異的T細胞の同定及びインビトロでのT細胞受容体のクローニング。(v)エクスビボで維持でき、かつT細胞の生物学的機能(細胞死など)を果たすT細胞株の開発。amiRNAを含む抑制遺伝子導入システムなど、RNA干渉によって機能する抑制遺伝子導入システムを導入することによってもたらされる修飾には、免疫細胞が特定の条件下又は特定の環境下で生存及び/又は増殖する能力を高めること、免疫細胞の表面に発現する蛋白質の量又は種類を変化させること、免疫細胞が内部又は外部の刺激による不活性化を防ぐこと、及び細胞に接触する蛋白質又は小分子に対する免疫細胞の反応を変化させることを含む。我々は、免疫細胞の機能を改変するためのamiRNA配列を含むポリヌクレオチドを設計する方法、及び免疫細胞の機能を改善するために使用できるamiRNA含有ポリヌクレオチドの配列を開示する。
【0025】
腫瘍内などの敵対的な環境における免疫細胞の増殖、生存又は機能を改善するために、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドからのRNA干渉によって発現を低下させることができる免疫細胞遺伝子には、胸腺細胞選択関連高移動度群ボックス蛋白質TOX及びTOX1、T細胞免疫グロブリンムチン受容体3、活性化T細胞核因子、プログラム細胞死蛋白質1、核受容体4A1(Nur77)、核受容体4A2(Nurr1)、核受容体4A3(NOR1)、Fas細胞表面死受容体(腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー6)、細胞傷害性Tリンパ球関連蛋白質4、カスパーゼ3、カスパーゼ7、カスパーゼ8、カスパーゼ9、カスパーゼ10、デス受容体4(腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー10A)、デス受容体5(腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー10B)、細胞傷害性Tリンパ球蛋白質4(CTLA-4)、アポトーシス制御因子BAX、及びBAD(細胞死のBcl2関連アゴニスト)などを含む。
【0026】
標的mRNAの異なる領域に相補的な2つ以上の異なるガイドRNA配列をそれぞれ生成するための、哺乳類細胞内で発現可能な2つ以上の異なるヘアピン配列を含む阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドをゲノムに含む、改変された哺乳類細胞は、本発明の一態様である。また、標的mRNAの異なる領域に相補的な2つ以上の異なるガイドRNA配列をそれぞれ生成するための、哺乳類細胞内で発現可能な2つ以上の異なるヘアピン配列を含む阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドをゲノムに含む動物免疫細胞も、実験モデルとして、また動物治療薬として価値がある。piggyBac様トランスポザーゼの作用により組み込まれた阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドが少なくとも2つのヘアピンを含み、各ヘアピンが同じ標的mRNAの異なる領域に相補的な少なくとも19又は20又は21又は22個の連続した塩基の異なる配列を含み、各ヘアピンが哺乳類免疫細胞で活性を有するプロモーターに作動可能に連結している、改変ヒト免疫細胞を含む改変哺乳類細胞であって、ここで、前記ヘアピン及び前記プロモーターは、piggyBac様トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。Sleeping Beautyトランスポザーゼの作用により組み込まれた阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドが少なくとも2つのヘアピンを含み、各ヘアピンが同じ標的mRNAの異なる領域に相補的な少なくとも19又は20又は21又は22個の連続した塩基の異なる配列を含み、各ヘアピンが哺乳類免疫細胞で活性を有するプロモーターに作動可能に連結している、改変されたヒト免疫細胞を含む改変された哺乳類細胞であって、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、Sleeping Beautyトランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。TcBusterトランスポザーゼの作用により組み込まれた阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドが少なくとも2つのヘアピンを含み、各ヘアピンが同じ標的mRNAの異なる領域に相補的な少なくとも19又は20又は21又は22個の連続した塩基の異なる配列を含み、各ヘアピンが哺乳類免疫細胞において活性を有するプロモーターに作動可能に連結している、改変されたヒト免疫細胞を含む改変された哺乳類細胞であって、ここで、ヘアピン及びプロモーターが、TcBusterトランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。レンチウイルスシステムの作用により組み込まれた阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドが少なくとも2つのヘアピンを含み、各ヘアピンが同じ標的mRNAの異なる領域に相補的な少なくとも19又は20又は21又は22個の連続した塩基の異なる配列を含み、各ヘアピンが哺乳類免疫細胞において活性を有するプロモーターに作動可能に連結している、改変されたヒト免疫細胞を含む改変された哺乳類細胞であって、ここで、ヘアピンとプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。好ましくは、ゲノムが阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを含んでいる免疫細胞は、ゲノムがそのような阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを含んでいない免疫細胞と比較して、増殖、生存、又は機能的特性が向上されている。
【0027】
哺乳類細胞のゲノム改変を行うための遺伝子導入ポリヌクレオチドの配列を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
4. 図面の簡単な説明
図1A-1B】ガイド鎖及びパッセンジャー鎖の配列構成の概略図である。ヌクレオチドは、単一のmiRNAヘアピンのコーディング鎖について示されている。ガイド鎖の配列は、22個の連続したヌクレオチドN1~N22として表される。ガイド鎖の塩基配列は、発現を低下させたい標的mRNAの完全な逆相補鎖であることが好ましい。パッセンジャー鎖の塩基配列は、連続する22個のヌクレオチドN'1~N'22で表される。パッセンジャー鎖の塩基配列は、ガイド鎖の塩基配列の不完全な逆相補鎖であることが好ましい。ガイド鎖配列とパッセンジャー鎖配列の対応する塩基を横線で示す。実線で結ばれた塩基については、パッセンジャー鎖の塩基は、ガイド鎖の塩基の相補的な塩基であることが好ましい。点線で結ばれた1つ以上の塩基については、パッセンジャー鎖の塩基は、ガイド鎖の塩基の相補的な塩基でないことが好ましい。ガイド鎖の塩基がA又はTの場合、パッセンジャー鎖の塩基は好ましくはCである。ガイド鎖の塩基がC又はGである場合、パッセンジャー鎖配列の塩基は好ましくはAである。最も好ましくは、位置N'1のパッセンジャー鎖配列の塩基は、ガイド鎖配列の塩基N1と相補的ではない。最も好ましくは、位置N'12のパッセンジャー鎖配列の塩基は、ガイド鎖配列の塩基N12と相補的ではない。また、パッセンジャー鎖の1つ以上の塩基が削除されている場合にもミスマッチが生じ得る。ガイド鎖配列とパッセンジャー鎖配列は、L1-LZと表される5~35個のヌクレオチドの非構造化ループ配列によって結合されている。ガイド鎖配列は、1Aに示すように、ループ配列の5'にあってもよいし、図1Bに示すように、ループ配列の3'にあってもよい。
【0029】
図2A-2B】マルチヘアピン型amiRNA遺伝子の一部の模式図である。標的遺伝子の発現を阻害するためにRISC複合体にロードされるガイド鎖配列を生成するための、ガイド鎖配列、非構造化ループ及びパッセンジャー鎖配列を含むヘアピン配列の処理は、amiRNA遺伝子が追加の特徴を含む場合に向上する。これは、ヘアピン配列の5'及び3'への追加のステム構造を含む。要素Aは、要素Eと相補的な配列であり、ヘアピン1を安定化させるものであるが、この機能を果たすために要素AとEの相補性は完全である必要はない。同様に、要素Gは要素Kに相補的な配列であり、ヘアピン2を安定化させるが、この機能を果たすために要素AとEの間の相補性は完全である必要はない。ヘアピンは非構造化スペーサー要素Fによって任意に分離される。2つ以上のヘアピンが同じプロモーターに作動可能に連結されており、第1のヘアピンはスペーサー配列によってプロモーターから分離されている。ヘアピン1は、ガイド、ループ、パッセンジャーの順で構成され、ヘアピン2は、図2Aでは同じ構成であるがが、図2Bではパッセンジャー・ループ・ガイドの順で構成されている。その他の構成の組み合わせも可能である。第2ヘアピンに続いて追加のヘアピンを配置してもよい。任意に、マルチヘアピンamiRNA遺伝子の最終ヘアピンの後には、ポリアデニル化シグナル配列が続く。
【0030】
図3A-3G】FUT8を標的とするマルチヘアピンamiRNA遺伝子を発現する安定的にトランスフェクトされたCHO株によって生産された糖鎖を含む抗体のマススペクトル。6.1.1.1項に記載の方法で抗体生産細胞から蛋白質を精製し、質量分析を行った。矢印は、(i) 50,424 Daの予測分子量(G0で改変された重鎖)(保存された七糖(heptasccharide)のコアは、2つのN-アセチルグルコサミン、3つのマンノース、及びα-6マンノース及びα-3マンノースにβ-1,2結合した2つの他のN-アセチルグルコサミン残基を含み、2つのアームを形成している)、(ii) 50,571 Daの予測分子量(G0Fで改変された重鎖)、(保存された七糖のコアにフコース残基を加えたものである)、(iii) 50,586 Daの予測分子量(G1で改変された重鎖)、(保存された7糖コアにガラクトース残基を加えたものである)、及び(iv) 50,733 Daの予測分子量(G1で改変された重鎖)(保存された7糖類コアにガラクトース残基とフコース残基を加えたものである)を示す。いずれの場合も、重鎖はC-末端のリジン残基を失っている。3A:amiRNAトランスポゾンなし、3B-G:図1A-Bに示すように構成されたマルチヘアピンamiRNAトランスポゾン。
【0031】
図4A-4D】異なるプロモーターに連結されたマルチamiRNA配列を発現する安定的にトランスフェクトされたCHO株によって生産された糖鎖を含む抗体のマススペクトル。6.1.1.2項に記載の方法で抗体生産細胞から蛋白質を精製し、質量分析を行った。矢印は、(i) 50,424 Daの予測分子量(G0で改変された重鎖)(保存された七糖のコアは、2つのN-アセチルグルコサミン、3つのマンノース、及びα-6マンノースとα-3マンノースにβ-1、2結合した2つの他のN-アセチルグルコサミン残基を含み、2つのアームを形成している)、(ii) 50,570 Daの予測分子量(G0Fで改変された重鎖)(保存された七糖のコアにフコース残基を加えたものである)、(iii)23,443 Daの予測分子量(軽鎖)を示す。いずれの場合も、重鎖はC末端のリジン残基を失っている。4A:amiRNAトランスポゾンなし;、4B:EEF2プロモーターに作動可能に連結されたマルチヘアピン型amiRNA配列番号726、4C:PGKプロモーターに作動可能に連結されたマルチヘアピンamiRNA 配列番号726;、4D:Ubbプロモーターに作動可能に連結されたマルチヘアピンamiRNA配列番号726。
【0032】
図5A-5B】マルチamiRNA遺伝子を発現するCHO株に抗体遺伝子を一過性に導入して作製した糖鎖を含む抗体のマススペクトル。6.1.1.3項に記載の方法で抗体生産細胞から蛋白質を精製し、質量分析を行った。矢印は、(i)50,521 Daの予測分子量(G0で改変された重鎖である)(保存された七糖のコアは、2つのN-アセチルグルコサミン、3つのマンノース、及びα-6マンノースとα-3マンノースにβ-1、2結合した2つの他のN-アセチルグルコサミン残基を含み、2つのアームを形成している)、(ii) 50,668 Daの予測分子量(G0Fで改変された重鎖)(保存された七糖のコアにフコース残基を加えたものである)、(iii) 23,444 Daの予測分子量(軽鎖)を示す。いずれの場合も、重鎖はC-末端のリジン残基を失っている。5A:amiRNAトランスポゾンなし、5B:EF1プロモーターに作動可能に連結しているマルチヘアピンamiRNA配列番号726。
【発明を実施するための形態】
【0033】
5. 説明
5.1 定義
単数形の「a」、「an」、及び「the」の使用は、文脈上明らかに他を指示しない限り、複数形の参照を含む。従って、例えば、「ポリヌクレオチド(a polynucleotide)」という表現は、複数のポリヌクレオチドを含み、「基質(a substrate)」という表現は、複数のそのような基質を含み、「バリアント(a variant)」という表現は、複数のバリアントを含む。
【0034】
本明細書では、「接続された」、「取り付けられた」、「連結された」、「結合された」などの用語が言い換え可能なものとして使用されており、文脈から明らかに他の方法が指示されない限り、直接的又は間接的な接続、取り付け、連結、結合を包含する。値の範囲が記載されている場合、その範囲の上限と下限の間に介在する各整数値及びその各端数も、そのような値の間の各サブ範囲とともに具体的に開示されていることを理解される。任意の範囲の上限及び下限は、独立してその範囲に含まれるか、又はその範囲から除外されることができ、いずれか、どちらでもない、又は両方の限界を含む各範囲も、本発明に包含されるものである。議論されている値が固有の限界を持つ場合、例えば、ある成分が0~100%の濃度で存在できる場合や、水溶液のpHが1~14の範囲である場合、それらの固有の限界が明確に開示されている。値が明示的に記載されている場合、記載されている値とほぼ同じ量又は量の値も本発明の範囲内であることが理解される。組み合わせが開示されている場合、それらの組み合わせの要素の各サブコンビネーションも具体的に開示されており、本発明の範囲内である。逆に、異なる要素や要素群が個別に開示されている場合は、それらの組み合わせも開示されている。また、本発明のいずれかの要素が複数の選択肢を有するものとして開示されている場合には、各選択肢が単独で又は他の選択肢と任意の組み合わせで除外される本発明の例もここに開示される。本発明の複数の要素がそのような除外事項を有することができ、そのような除外事項を有する要素の全ての組み合わせがここに開示される。
【0035】
明細書で特に定義されていない限り、本明細書で使用されている全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の通常の技術者によって一般的に理解されているものと同じ意味を持つ。Singleton, et. al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology, 2nd Ed., John Wiley and Sons, New York (1994), 及びHale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology, Harper Perennial, NY, 1991は、本発明で使用される多くの用語の一般的な辞書を当業者に提供している。本明細書に記載されているものと類似又は同等の任意の方法及び材料を本発明の実施又は試験に使用できるが、好ましい方法及び材料は本明細書に開示される。特に明記しない限り、核酸は5'から3'の向きで左から右に書かれている。アミノ酸配列は、左から右へ、それぞれアミノからカルボキシの向きで書かれている。以下で直ちに定義される用語は、本明細書全体を参照することにより、より完全に定義される。
【0036】
「人工マイクロRNA」又は「amiRNA」は、ガイド鎖が天然の標的以外のmRNA標的に向けられるようにガイド鎖及び/又はパッセンジャー鎖の配列が改変された、天然マイクロRNAスキャホールドを含む配列である。天然マイクロRNAスキャホールドの他の部分も、例えば、RNA干渉経路の酵素による処理を向上するために改変されていてもよい。同一のプロモーターに作動可能に連結された2本以上のガイド鎖及びパッセンジャー鎖を含むamiRNA配列は、「マルチヘアピンamiRNA遺伝子」と呼ばれる。
【0037】
用語「コドンユーセージ」又は「コドンバイアス」は、オープンリーディングフレーム内のアミノ酸をコードするために、異なる同義コドンが使用される相対的な頻度を意味する。特定の標的細胞に対してコドンプリファレンスを有する核酸配列は、その細胞タイプにおいて効率的な翻訳をもたらす同義コドンの選択のバランスを有している。このバランスは、観察されたゲノムコドン頻度からは計算できないことしばしばあり、例えば、米国特許7,561,972及び7,561,973及び8,401,798、及びWelch et. al. (2009) "Design Parameters to Control Synthetic Gene Expression in Escherichia coli". PLoS ONE 4(9): e7002. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0007002に記載されているように、経験的に決定しなければならない。別の種類の標的細胞に導入するためにある細胞の種類から元々単離された核酸は、標的部位の細胞に対するコドンプリファレンスの選択を受けることができ、標的細胞に導入された核酸と元の核酸との間で、同義コドン間の少なくとも1つ、時には5、20、15、20、50、100又はそれより多くの選択肢が異なる。
【0038】
2つのポリヌクレオチドは、一方の塩基が他方の塩基と水素結合していれば「相補的」である。完全な相補性のためには、第1ポリヌクレオチドのアデニン(A)と第2ポリヌクレオチドのチミン(T)が対応していなければならず(逆も同様)、第1ポリヌクレオチドのシトシン(C)と第2ポリヌクレオチドのグアニン(G)が対応していなければならない(逆の場合も同様)。また、2つのポリヌクレオチドは逆平行でなければならない。2つのポリヌクレオチドが相補的である場合、一方のポリヌクレオチドが5'から3'の方向にあり、他方のポリヌクレオチドが3'から5'の方向にあるとき、それらの塩基が相補的であることを示すために、一方のポリヌクレオチドを他方の「逆相補鎖」と表現できる。本明細書では、あるポリヌクレオチド配列が他のポリヌクレオチド配列と相補的であると記述される場合、それらの配列が逆平行であり、互いに塩基対を形成できることを示すことが意図される。
【0039】
ポリヌクレオチドの「構成(configuration)」は、ポリヌクレオチド内の機能的な配列要素、並びにそれらの要素の順序及び方向を意味する。
【0040】
「対応するトランスポゾン」及び「対応するトランスポザーゼ」という用語は、トランスポザーゼとトランスポゾンの間の活性関係を示すために使用される。トランスポザーゼは、対応するトランスポゾンを転移させる。多くのトランスポザーゼが1つのトランスポゾンに対応することもあり、また、多くのトランスポゾンが1つのトランスポザーゼに対応することもある。
【0041】
用語「カウンターセレクタブルマーカー」は、宿主細胞に選択的不利益を与えるポリヌクレオチド配列を意味する。カウンターセレクタブルマーカーの例としては、sacB、rpsL、tetAR、pheS、thyA、gata-1、ccdB、kid、及びbarnaseなどが挙げられる(Bernard, 1995, Journal/Gene, 162: 159-160; Bernard et. al., 1994. Journal/Gene, 148: 71-74; Gabant et. al., 1997, Journal/Biotechniques, 23: 938-941; Gababt et. al., 1998, Journal/Gene, 207: 87-92; Gababt et. al., 2000, Journal/ Biotechniques, 28: 784-788; Galvao and de Lorenzo, 2005, Journal/Appl Environ Microbiol, 71: 883-892; Hartzog et. al., 2005, Journal/Yeat, 22:789-798; Knipfer et. al., 1997, Journal/Plasmid, 37: 129-140; Reyrat et. al., 1998, Journal/Infect Immun, 66: 4011-4017; Soderholm et. al., 2001, Journal/Biotechniques, 31: 306-310, 312; Tamura et. al., 2005, Journal/ Appl Environ Microbiol, 71: 587-590; Yazynin et. al., 1999, Journal/FEBS Lett, 452: 351-354)。カウンターセレクタブルマーカーは、特定の文脈において選択的に不利な条件をしばしば与える。例えば、宿主細胞の環境に添加可能な化合物に対する感受性を付与したり、ある遺伝子型の宿主を殺しても、異なる遺伝子型の宿主を殺さないことがある。カウンターセレクタブルマーカーを持つ細胞に選択的な不利益を与えない条件は、「寛容」と表現される。カウンターセレクタブルマーカーを持つ細胞に選択的な不利益を与える条件は「制限的」と表現される。
【0042】
用語「カップリングエレメント」又は「翻訳カップリングエレメント」は、第一のポリペプチドの発現を第二のポリペプチドの発現に連結させることができるDNA配列を意味する。内部リボソームエントリーサイト要素(IRES要素)及びシス作用性ヒドロラーゼ要素(CHYSEL要素)は、カップリング要素の例である。
【0043】
用語「DNA配列」、「RNA配列」又は「ポリヌクレオチド配列」は、連続する核酸配列を意味する。この配列は、長さ2~20ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドから、数千又は数十万の塩基対の全長ゲノム配列まで、様々なものがある。
【0044】
用語「発現コンストラクト」は、RNAを転写するように設計された任意のポリヌクレオチドを意味する。例えば、下流の遺伝子、コーディング領域、ポリヌクレオチド配列(例えば、ポリペプチドや蛋白質をコードするcDNAやゲノムDNAフラグメント、又はRNAエフェクター分子、例えば、アンチセンスRNA、三重鎖形成RNA、リボザイム、人工的に選択された高親和性RNAリガンド(アプタマー)、二本鎖RNA、例えば、ステムループ又はヘアピンdsRNA、バイフィンガー又はマルチフィンガーdsRNAを含むRNA分子、マイクロRNA、又は任意のRNA)に作動可能に連結している、又は連結していてもよい少なくとも1つのプロモーターを含むコンストラクト。「発現ベクター」は、第2のポリヌクレオチドに作動可能に連結できるプロモーターを含むポリヌクレオチドのことである。発現コンストラクトのレシピエント細胞へのトランスフェクト又は形質転換により、その細胞は、発現コンストラクトによってコードされるRNAエフェクター分子、ポリペプチド、又は蛋白質を発現できる。発現コンストラクトは、例えば、バクテリオファージ、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルスなどに由来する、遺伝子操作されたプラスミド、ウイルス、組換えウイルス、又は人工染色体であってもよい。そのような発現ベクターは、バクテリア、ウイルス、ファージからの配列を含んでもよい。そのようなベクターとしては、染色体、エピソーム、ウイルス由来のベクターを含み、例えば、細菌のプラスミド、バクテリオファージ、酵母のエピソーム、酵母の染色体要素、ウイルスに由来するベクター、それらの組み合わせに由来するベクター、例えば、プラスミドとバクテリオファージの遺伝子要素に由来するベクター、コスミド、ファージミドに由来するベクターを含む。発現コンストラクトは、生きている細胞内で複製することもできるし、合成的に作ることもできる。本願の目的上、「発現コンストラクト」、「発現ベクター」、「ベクター」、及び「プラスミド」という用語は、一般的で例示的な意味で本発明の適用を示すために言い換え可能なものとして使用され、本発明を特定のタイプの発現コンストラクトに限定することを意図していない。
【0045】
用語「発現ポリペプチド」は、発現コンストラクト上の遺伝子によってコードされるポリペプチドを意味する。
【0046】
用語「発現系」は、ポリヌクレオチドによってコードされる1つ以上の遺伝子産物を生産するために使用される、インビボ又はインビトロの生物学的システムを意味する。
【0047】
用語「遺伝子」は、プロモーター及びそこからRNA又は蛋白質として発現される配列を含む転写単位を意味する。発現させる配列は、ゲノム又はcDNA、あるいは他の可能性の中でもsiRNAやマイクロRNAを含む1つ以上のノンコーディングRNAであることができる。また、イントロンなどの他の要素や、他の制御配列が存在してもしなくてもよい。
【0048】
「遺伝子導入システム」は、ベクターもしくは遺伝子導入ベクター、又はベクターにクローニングされた導入する遺伝子を含むポリヌクレオチド(「遺伝子導入ポリヌクレオチド」又は「遺伝子導入コンストラクト」)を含む。また、遺伝子導入システムは、遺伝子導入のプロセスを促進するための他の機能を含んでもよい。例えば、遺伝子導入システムは、ベクターと、第1のポリヌクレオチドが細胞に入ることを可能にするための脂質又はウイルスパッケージングミックスとを含んでいてもよく、トランスポゾンと、トランスポゾンの生産的なゲノム組み込みを高めるための対応するトランスポザーゼをコードする第2ポリヌクレオチド配列とを含むポリヌクレオチドを含んでもよい。遺伝子導入システムのトランスポザーゼ及びトランスポゾンは、同じ核酸分子上にあっても、異なる核酸分子上にあってもよい。遺伝子導入システムのトランスポザーゼは、ポリヌクレオチドとして提供されてもよいし、ポリペプチドとして提供されてもよい。
【0049】
shRNAやmiRNAなどの抑制性二本鎖RNAの「ガイド」鎖は、RNA誘導性サイレンシング複合体(RISC)に結合し、遺伝子のサイレンシングに関与する鎖である。ガイド鎖は標的mRNA配列の逆相補鎖であり、その発現を抑制する。
【0050】
用語「ヘアピン」は、同じ鎖の2つの領域がヌクレオチド配列において互いに逆相補鎖であり、その結果、分子内塩基対が形成されて二本鎖領域と不対合ループが形成されるポリヌクレオチド配列を表すために用いられる。通常DNAは分子内塩基対で二本鎖になっているが、本明細書では、このような構造をコードするDNA配列を指す用語として用いている。また、この用語は、ヘアピン構造を採用するRNA配列を指すのにも用いられる。本発明のDNAヘアピンは、RNAとして発現させることを目的としている。本発明のRNAヘアピンは、RNA干渉経路酵素の基質として、RISC複合体に搭載されるガイド鎖にプロセシングされることを意図している。ヘアピンの「ガイド鎖」は、転写及びプロセシング後にRISC複合体に搭載される配列のことである。ガイド鎖は標的mRNAに相補的である。
【0051】
2つの要素が天然に関連していない場合、互いに「異種」である。例えば、異種プロモーターに連結された蛋白質をコードする核酸配列は、その蛋白質の発現を天然に駆動するプロモーター以外のプロモーターを意味する。トランスポゾンエンド又はITRに挟まれた異種核酸とは、それらのトランスポゾンエンド又はITRに天然には挟まれていない異種核酸を意味し、例えば、抗体重鎖又は軽鎖を含む、トランスポザーゼ以外のポリペプチドをコードする核酸を含む。核酸は、細胞内に天然に存在しない場合、又は細胞内に天然に存在するが、記載された場所とは異なる場所(例えば、エピソーム又は異なるゲノムの場所)に存在する場合、細胞にとって異種である。
【0052】
「高活性」トランスポザーゼとは、それが由来する天然に存在するトランスポザーゼよりも活性が高いトランスポザーゼのことである。従って、「高活性」トランスポザーゼは、天然に存在する配列ではない。
【0053】
用語「宿主」は、核酸の受容者となり得る原核生物又は真核生物を意味する。本明細書で使用される「宿主」には、遺伝子操作が可能な原核生物又は真核生物を含む。このような宿主の例については、Maniatis et. al., Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y. (1982)を参照されたい。本明細書では、「宿主」、「宿主細胞」、「宿主システム」、及び「発現宿主」という用語は、言い換え可能なものとして使用できる。
【0054】
「IRES」又は「内部リボソームエントリーサイト」は、キャップ構造とは独立してリボソームの結合を直接促進する特殊な配列を意味する。
【0055】
「単離された」ポリペプチド又はポリヌクレオチドとは、自然環境から取り除かれたか、組換え技術を用いて生産されたか、又は化学的もしくは酵素的に合成されたポリペプチド又はポリヌクレオチドを意味する。本発明のポリペプチド又はポリヌクレオチドは、精製されていてもよく、即ち、他のポリペプチド又はポリヌクレオチド及び関連する細胞生成物又は他の不純物を本質的に含まないものであってもよい。
【0056】
「ヌクレオシド」及び「ヌクレオチド」という用語には、既知のプリン及びピリミジン塩基だけでなく、改変された他の複素環塩基も含むそれらの部位を含む。このような改変には、メチル化されたプリン又はピリミジン、アシル化されたプリン又はピリミジン、又は他の複素環を含む。また、改変されたヌクレオシドやヌクレオチドは、糖部分の改変を含むことができ、例えば、1つ以上の水酸基がハロゲンや脂肪族基で置換されていたり、エーテルやアミンなどで官能化されていたりする。用語「ヌクレオチド単位」は、ヌクレオシド及びヌクレオチドを包含することが意図されている。
【0057】
「オープンリーディングフレーム」又は「ORF」は、アミノ酸に翻訳されたときに、停止コドンを含まないポリヌクレオチドの部分を意味する。遺伝暗号は、DNA配列を3つの塩基対のグループに分けて読み取る。つまり、二本鎖DNA分子は、順方向に3つ、逆方向に3つの計6つのリーディングフレームで読み取ることが可能である。また、ORFには翻訳を開始するための開始コドンが含まれていることが多い。
【0058】
「作動可能に連結している」は、一方の配列が他方の配列の動作を変更するような、2つの配列間の機能的連結を意味する。例えば、核酸発現制御配列(プロモーター、IRES配列、エンハンサー、又は転写因子結合部位の配列など)を含む第1のポリヌクレオチドと第2のポリヌクレオチドは、第1のポリヌクレオチドが第2のポリヌクレオチドの転写及び/又は翻訳に影響を与える場合、作動可能に連結される。同様に、分泌シグナル又は細胞内局在化シグナルを含む第1のアミノ酸配列と第2のアミノ酸配列は、第1のアミノ酸配列が第2のアミノ酸配列を分泌又は細胞内に局在化させる場合、作動可能に連結される。
【0059】
「直交(orthogonal)」は、2つのシステムの間に相互作用がないことを指す。第1のトランスポゾンとその対応する第1のトランスポザーゼ、及び第2のトランスポゾンとその対応する第2のトランスポザーゼは、第1のトランスポザーゼが第2のトランスポゾンを切除又は転移せず、第2のトランスポザーゼが第1のトランスポゾンを切除又は転移しない場合、直交している。
【0060】
用語「オーバーハング」又は「DNAオーバーハング」という用語は、二本鎖DNA分子の末端にある一本鎖部分を意味する。相補的なオーバーハングは互いに塩基対を形成するものである。
【0061】
shRNAやmiRNAなどの阻害性二本鎖RNAの「パッセンジャー」鎖とは、細胞質に輸送された後に分解される鎖であり、遺伝子のサイレンシングには直接関与しない。
【0062】
「piggyBac様トランスポザーゼ」は、TBLASTNアルゴリズムを用いて同定された、Trichoplusia ni由来のpiggyBacトランスポザーゼ(配列番号1047)と少なくとも20%の配列同一性を有するトランスポザーゼを意味し、より詳細には、Sakar, A. et. al., 2003. Mol. Gen. Genomics 270: 173-180. "Molecular evolutionary analysis of the widespread piggyBac transposon family and related 'domesticated' species"に記載されており、さらにDDE様のDDDモチーフで特徴付けられており、最大アライメントではTrichoplusia ni piggyBacトランスポザーゼのD268、D346、D447に対応する位置にアスパラギン酸残基が存在している。PiggyBac様トランスポザーゼは、そのトランスポゾンを高頻度で正確に切除できるという特徴もある。「piggyBac様トランスポゾン」は、piggyBac様トランスポザーゼをコードする天然に存在するトランスポゾンのトランスポゾンエンドと同一又は少なくとも80%、好ましくは少なくとも90、95、96、97、98、99%又は100%同一のトランスポゾンエンドを有するトランスポゾンを意味する。piggyBac様トランスポゾンは、各エンドに約12~16塩基の逆向きの末端リピート(ITR)配列を含む。これらのリピートは両エンドで同一であってもよいし、両エンドのリピートが2つのITRの1位、2位、3位、4位で異なっていてもよい。トランスポゾンの両側には、トランスポゾンの組み込み時に複製される組み込み標的配列に対応する4塩基の配列がある(標的部位複製又は標的配列複製又はTSD)。PiggyBac様トランスポゾン及びトランスポザーゼは、広範囲の生物に自然に存在しており、Argyrogramma agnate (GU477713), Anopheles gambiae (XP_312615; XP_320414; XP_310729), Aphis gossypii (GU329918), Acyrthosiphon pisum (XP_001948139), Agrotis ypsilon (GU477714), Bombyx mori (BAD11135), Ciona intestinalis (XP_002123602), Chilo suppressalis (JX294476), Drosophila melanogaster (AAL39784), Daphnia pulicaria (AAM76342), Helicoverpa armigera (ABS18391), Homo sapiens (NP_689808), Heliothis virescens (ABD76335), Macdunnoughia crassisigna (EU287451), Macaca fascicularis (AB179012), Mus musculus (NP_741958), Pectinophora gossypiella (GU270322), Rattus norvegicus (XP_220453), Tribolium castaneum (XP_001814566)及びTrichoplusia ni (AAA87375)及びXenopus tropicalis (BAF82026)を含むが、これらの中で転移活性が報告されているものはほとんどない。
【0063】
用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」及び「核酸分子」は、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指すために言い換え可能なものとして使用され、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、それらのアナログ、又はそれらの混合物を含んでもよい。この用語は、分子の一次構造にのみ言及している。従って、この用語には、3本鎖、2本鎖、1本鎖のデオキシリボ核酸(「DNA」)、及び3本鎖、2本鎖、1本鎖のリボ核酸(「RNA」)を含む。また、ポリヌクレオチドの、例えば、アルキル化によって、及び/又はキャッピングによって改変された形態と、改変されていない形態も含まれる。より詳細には、用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」及び「核酸分子」は、スプライスされているか否かにかかわらず、ポリデオキシリボヌクレオチド(2-デオキシ-D-リボースを含む)、tRNA、rRNA、hRNA、siRNA及びmRNAを含むポリリボヌクレオチド(D-リボースを含む)、プリン又はピリミジン塩基のN-又はC-グリコシドである他のタイプのポリヌクレオチド、及び非ヌクレオチド骨格を含む他のポリマー、例えば、ポリアミド(例えば、ペプチド核酸(「PNAs」))及びポリモルフォリノ(Neugeneとして Anti-Virals, Inc., Corvallis, Oreg.から市販されている)ポリマー、及び他の合成配列特異的核酸ポリマーであって、DNAやRNAに見られるような、塩基対や塩基の積層を可能にする構成の核酸塩基を含むものを含む。「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」及び「核酸分子」という用語の間には、長さの違いは意図されておらず、これらの用語は本明細書では言い換え可能なものとして使用されている。これらの用語は、分子の一次構造にのみ言及している。従って、これらの用語には、例えば、3'-デオキシ-2',5'-DNA、オリゴデオキシリボヌクレオチドN3' P5'ホスホロアミデート、2'-O-アルキル置換RNA、二本鎖及び一本鎖DNA、並びに二本鎖及び一本鎖RNA、及び例えば、DNAとRNAの間のハイブリッド、又はPNAとDNAもしくはRNAの間のハイブリッドを含むそれらのハイブリッドが含まれ、また、既知のタイプの改変を含み、例えば、標識、アルキル化、「キャップ」、ヌクレオチドの1つ以上のアナログへの置換、ヌクレオチド間の改変、例えば、電荷を持たない結合を持つもの(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミデート、カルバメートなど)、負の電荷を持つ結合を持つもの(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)、及び正の電荷を持つ結合を持つもの(例えば、アミノアルキルホスホロアミデート、アミノアルキルホスホトリエステル)、ペンダント部位を含むもの((例えば、蛋白質(酵素(例えば、ヌクレアーゼ)、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジンなど))、インターカレーターを含むもの(例えば、アクリジン、プソラレンなど)、キレートを含むもの(例えば、金属、放射性金属、ボロン、酸化性金属の)、アルキル化剤を含むもの、改変された結合を含むもの(例えば、アルファアノメリック核酸など)、及びポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドの未改変の形態を含む。
【0064】
「プロモーター」は、作動可能に連結された核酸分子の転写を指示するのに十分な核酸配列を意味する。プロモーターは、プロモーターに依存した遺伝子発現を、細胞種特異的、組織特異的、時間特異的に制御するのに十分な他の転写制御要素(例えば、エンハンサー)と一緒に、又は一緒にせずに使用できる。このような要素は、遺伝子の3'領域内にあっても、イントロン内にあってもよい。望ましくは、プロモーターは、核酸配列の発現を可能にするような方法で、核酸配列、例えば、cDNAもしくは遺伝子配列、又はエフェクターRNAコード配列に作動可能に連結しているか、又は、転写される選択された核酸配列が都合良く挿入される発現カセット内にプロモーターが提供される。哺乳類細胞において活性なプロモーターなどの調節要素は、調節要素が導入された哺乳類細胞において、細胞あたり少なくとも1個の転写物の発現レベルになるように構成可能な調節要素を意味する。
【0065】
「RNA干渉」は、RNA分子が標的となるmRNA分子を中和することで、遺伝子の発現や翻訳を阻害する生物学的プロセスのことである。歴史的には、RNAiは、コサプレッション、転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)、クエリングなどの名称で知られていた。人工マイクロRNAを含むマイクロRNAは、RNA干渉によって遺伝子発現を抑制する。
【0066】
用語「セレクタブルマーカー」は、ポリヌクレオチドセグメント又はその発現産物であり、多くの場合、特定の条件下で、分子又はそれを含む細胞を選択又はアゲインストできるものをいう。このマーカーは、限定されないがRNA、ペプチド、又は蛋白質の生産などの活性をコードしたり、RNA、ペプチド、蛋白質、無機及び有機化合物又は組成物の結合部位を提供したりできる。セレクタブルマーカーの例としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。(1)毒性のある化合物に対する耐性を提供するプロダクト(例えば、抗生物質)をコードするDNAセグメント、(2)受容細胞に不足しているプロダクト(例えば、tRNA遺伝子、補助栄養マーカー)をコードするDNAセグメント、(3)遺伝子産物の活性を抑制するプロダクトをコードするDNAセグメント、(4)識別可能なプロダクト(例えば、β-ガラクトシダーゼ、緑色蛍光蛋白質(GFP)、細胞表面蛋白質などの表現型のマーカー)をコードするDNAセグメント、(5)細胞の生存及び/又は機能に悪影響を及ぼすプロダクトに結合するDNAセグメント、(6)上記のNo.1-5に記載されたDNAセグメントのいずれかの活性を阻害するDNAセグメント(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)、(7)基質を改変するプロダクト(例えば、制限エンドヌクレアーゼ)に結合するDNAセグメント、(8)所望の分子(例えば、特定の蛋白質結合部位)を単離するために使用できるDNAセグメント、(9)他の方法では機能し得ない特定のヌクレオチド配列(例えば、分子のサブ集団のPCR増幅のためのもの)をコードするDNAセグメント、及び/又は
(10)存在しない場合、直接的又は間接的に特定の化合物に対する感受性を付与するDNAセグメント。
【0067】
配列同一性は、BESTFIT、FASTA、TFASTAなどのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.)を用いて、デフォルトのギャップパラメータを使用して、又は検査によって配列を整列させ、最良のアライメント(即ち、比較ウィンドウ上で最も高い配列類似性の割合をもたらす)を得ることによって決定できる。配列同一性の割合は、最適にアラインメントされた2つの配列を比較ウィンドウで比較し、両配列において同一の残基が出現する位置の数を決定して一致位置の数とし、一致位置の数を比較ウィンドウのギャップを考慮しない一致位置と不一致位置の合計数(即ち、ウィンドウサイズ)で除算し、その結果に100を乗じて配列同一性の割合を算出する。特に断りのない限り、2つの配列の比較のウィンドウは、2つの配列のうち短い方の長さ全体で定義される。
【0068】
「標的核酸」は、トランスポゾンが挿入される核酸のことである。このような標的は、染色体、エピソーム、又はベクターの一部であり得る。
【0069】
トランスポザーゼの「組み込み標的配列」又は「標的配列」又は「標的部位」は、トランスポザーゼによってトランスポゾンが挿入されることができる標的DNA分子内の部位又は配列である。Trichoplusia niのpiggyBacトランスポザーゼは、そのトランスポゾンを主に標的配列5'-TTAA-3'に挿入する。piggyBacトランスポゾンの他の使用可能な標的配列は、5'-CTAA-3'、5'-TTAG-3'、5'-ATAA-3'、5'-TCAA-3'、5'-AGTT-3'、5'-ATTA-3'、5'-GTTA-3'、5'-TTGA-3'、5'-TTTA-3'、5'-TTAC-3'、5'-ACTA-3'、5'-AGGG-3'、5'-CTAG-3'、5'-GTAA-3'、5'-AGGT-3'、5'-ATCA-3'、5'-CTCC-3'、5'-TAAA-3'、5'-TCTC-3'、5'-TGAA-3'、5'-AAAT-3'、5'-AATC-3'、5'-ACAA-3'、5'-ACAT-3'、5'-ACTC-3'、5'-AGTG-3'、5'-ATAG-3'、5'-CAAA-3'、5'-CACA-3'、5'-CATA-3'、5'-CCAG-3'、5'-CCCA-3'、5'-CGTA-3'、5'-CTGA-3'、5'-GTCC-3'、5'-TAAG-3'、5'-TCTA-3'、5'-TGAG-3'、5'-TGTT-3'、5'-TTCA-3'、5'-TTCT-3'、及び5'-TTTT-3'(Lietal.、2013.Proc.Natl.Acad.Scivol.110、no.6、E478-487)がある。PiggyBac様トランスポザーゼは、カットアンドペーストメカニズムを用いてトランスポゾンを転移し、その結果、DNA分子に挿入されると、4塩基対の標的配列がデュプリケーションされる。そのため、標的配列は組み込まれたpiggyBac様トランスポゾンの両側に見出される。
【0070】
用語「翻訳」は、リボソームがポリヌクレオチドの配列を「読む」ことによってポリペプチドが合成されるプロセスを指す。
【0071】
「トランスポザーゼ」は、ベクターなどのドナーポリヌクレオチドから対応するトランスポゾンの切除を触媒するポリペプチドであり、(トランスポザーゼが組み込み不全でない場合には)その後、トランスポゾンを標的核酸に組み込むことができる。
【0072】
本明細書において「転移(transposition)」という用語は、あるポリヌクレオチドからトランスポゾンを切除し、その後、同じポリヌクレオチドの異なる部位に、又は第2のポリヌクレオチドにトランスポゾンを組み込むトランスポザーゼの作用を意味する。
【0073】
「トランスポゾン」は、対応するトランス作用のあるトランスポザーゼの作用により、第1のポリヌクレオチド、例えば、ベクターから切除され、同じポリヌクレオチドの第2の位置に、又は第2のポリヌクレオチド、例えば、細胞のゲノムDNA又は染色体外DNAに組み込まれることができるポリヌクレオチドを意味する。トランスポゾンは、第1トランスポゾンエンドと第2トランスポゾンエンドから構成されており、これらは、トランスポザーゼによって認識され、転移されるポリヌクレオチド配列である。トランスポゾンは、典型的には、2つのトランスポゾンエンドの間に第1のポリヌクレオチド配列をさらに含み、第1のポリヌクレオチド配列がトランスポザーゼの作用により2つのトランスポゾンエンドとともに転移されるようになっている。天然トランスポゾンの第1ポリヌクレオチドは、トランスポゾンを認識して転移させる対応するトランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを含むことが多い。本発明のトランスポゾンは、異種ポリヌクレオチド配列を含む「合成トランスポゾン」であり、このポリヌクレオチド配列は、2つのトランスポゾンエンド部の間に並置されていることにより転移可能となる。合成トランスポゾンは、トランスポゾンエンドの外側に、トランスポザーゼをコードする配列、ベクター配列、セレクタブルマーカーをコードする配列などのフランキングポリヌクレオチド配列をさらに含んでいてもいなくてもよい。
【0074】
用語「トランスポゾンエンド」は、対応するトランスポザーゼによる認識及び転移に十分なシス作用のあるヌクレオチド配列を意味する。piggyBac様トランスポゾンのトランスポゾンエンドは、2つのトランスポゾンエンドのそれぞれのリピートが互いに逆相補鎖であるような完全又は不完全なリピートを含む。これは、逆向きの末端リピート(inverted terminal repeats、ITR)又はターミナルインバーテッドリピート(TIR)と呼ばれる。トランスポゾンエンドは、ITRの近位部に、転移を促進又は増大させる追加の配列を含んでいてもいなくてもよい。
【0075】
「ベクター」、「DNAベクター」、「遺伝子導入ベクター」は、別のポリヌクレオチドの「運搬」機能を果たすために使用されるポリヌクレオチドを指す。例えば、ベクターは、ポリヌクレオチドを生細胞内で増殖させるため、又はポリヌクレオチドを細胞内に送達するためにパッケージ化するため、又はポリヌクレオチドを細胞のゲノムDNAに組み込むためにしばしば使用される。ベクターはさらに、トランスポゾンなどの機能的要素を含んでもよい。
【0076】
5.2 培養哺乳類細胞での発現に有用な遺伝的要素
5.2.1 遺伝子導入システム
遺伝子導入システムは宿主細胞に導入されるポリヌクレオチドを含む。遺伝子導入システムは、本明細書に記載されている任意のトランスポゾンとそれに対応するトランスポザーゼを含んでもよい。トランスポゾンは、その大きなカーゴサイズのため、また、遺伝子導入システムのパッケージング及び送達を損なうことなく、関連する制御要素のすべてを備えた複数の異なるオープンリーディングフレームを組み込むことができるため、好ましい遺伝子導入システムであるが、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを送達するための遺伝子導入システムは、トランスポザーゼ又はトランスポゾンを必要とせずに効率的な遺伝子導入を促進する他の特徴を有する1つ以上のポリヌクレオチド、例えば、レンチウイルスシステム、アデノウイルスシステム又はアデノ随伴ウイルスシステムなどのウイルスシステムを含んでもよい。
【0077】
遺伝子導入システムの構成要素は、粒子ボンバードメント、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、構成要素をカチオン性脂質ベシクルなどの脂質含有ベシクル、DNA凝縮試薬(例えば、リン酸カルシウム、ポリリシン又はポリエチレンイミン)と組み合わせること、及び構成要素(即ち、その核酸)をウイルスベクターに挿入し、ウイルスベクターを細胞と接触させることなどの技術によって、1つ以上の細胞にトランスフェクトできる。ウイルスベクターが使用される場合、ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターを含む群から選択されるウイルスベクターを含む、当技術分野で知られている様々なウイルスベクターのいずれかを含み得る。レトロウイルスベクターは、それぞれが配列番号115~116から選択される配列に対して少なくとも90%同一の2つのLTRを含むレンチウイルスベクターであってもよい。アデノ随伴ウイルスベクターは、それぞれが配列番号1117~1123から選択される配列に対して少なくとも90%同一の2つのITRを含んでもよい。遺伝子導入システムは、当技術分野で知られているような適切な方法で製剤化されてもよく、また、医薬組成物又はキットとしてもよい。
【0078】
異種ポリヌクレオチドが宿主細胞のゲノムに組み込まれていれば、培養哺乳類細胞における異種ポリヌクレオチド由来の遺伝子の発現の一貫性を向上させることができる。また、ポリヌクレオチドを宿主細胞のゲノムに組み込むことで、ゲノムDNAの複製や分裂を保証するのと同じメカニズムに従うことで、一般的に安定した遺伝性を有すようになる。このような安定した遺伝性は、長期の増殖期間中に良好で安定した発現を実現するために望ましい。miRNAやamiRNAなどの抑制性RNAを安定的に発現させるなど、哺乳類培養細胞を安定的に改変するためには、改変の安定性と発現量の一貫性が重要であり、特に治療用途には適している。
【0079】
5.2.2 トランスポゾン要素
異種ポリヌクレオチドがトランスポゾンの一部であれば、より効率的に標的ゲノムに組み込まれ得、例えば、トランスポザーゼによって組み込まれ得る。トランスポゾンの利点は、トランスポゾンのITRの間のポリヌクレオチド全体が組み込まれることである。これは、真核細胞に導入されたポリヌクレオチドが細胞内でランダムにフラグメント化されることがしばしばあり、ポリヌクレオチドの一部だけが標的ゲノムに取り込まれる、通常は低頻度のランダムインテグレーションとは対照的である。トランスポゾンにはいくつかの異なるクラスがある。piggyBac様トランスポゾンには、ルーパーモスTrichoplusia ni由来piggyBacトランスポゾン、Xenopus piggyBac様トランスポゾン、Bombyx piggyBac様トランスポゾン、Heliothis piggyBac様トランスポゾン、Helicoverpa piggyBac様トランスポゾン、 Agrotis piggyBac様トランスポゾン、Amyelois piggyBac様トランスポゾン、piggyBat piggyBac様トランスポゾン、及びOryzias piggyBac様トランスポゾンを含む。hATトランスポゾンはTcBusterを含む。MarinerトランスポゾンはSleeping Beautyを含む。これらのトランスポゾンは、それぞれ対応するトランスポザーゼによって哺乳類細胞のゲノムに組み込むことができる。トランスポゾンに組み込まれた異種ポリヌクレオチドは、培養哺乳類細胞だけでなく、肝細胞、神経細胞、筋肉細胞、血液細胞、胚性幹細胞、体性幹細胞、造血細胞、胚、接合体及び精子細胞(これらのうちのいくつかは、インビトロで操作することが可能である)に組み込まれ得る。また好ましい細胞は、多能性細胞(子孫が造血幹細胞などのいくつかの制限された細胞タイプに分化できる細胞)又は全能性細胞(即ち、子孫が生物の任意の細胞タイプになることができる細胞、例えば、胚性幹細胞)であり得る。
【0080】
阻害性RNAを発現させるための配列を含む阻害性ポリヌクレオチドを含む好ましい遺伝子導入システムは、トランスポゾンと、トランスポゾンを転移させる対応するトランスポザーゼ蛋白質との組み合わせ、又は対応するトランスポザーゼ蛋白質をコードし、標的細胞で発現可能な核酸を含む。
【0081】
遺伝子導入システムの複数の構成要素、例えば、標的細胞で発現させるための遺伝子をフランキングするトランスポゾンエンドを含む1つ以上のポリヌクレオチド、及びトランスポザーゼ(蛋白質として提供されても、核酸によってコードされてもよい)が存在する場合、これらの構成要素は、同時に、又は順次、細胞にトランスフェクトできる。例えば、トランスポザーゼ蛋白質又はそれをコードする核酸は、対応するトランスポゾンのトランスフェクトに先立って、それと同時に、又はそれに続いて、細胞にトランスフェクトできる。さらに、遺伝子導入システムのいずれかの構成要素の投与は、例えば、この構成要素の少なくとも2回の用量を投与することによって、繰り返し行われてもよい。
【0082】
トランスポザーゼ蛋白質は、RNA又はDNAを含むポリヌクレオチドによってコードされてもよい。好ましいRNA分子としては、細胞への毒性影響を低減するために適切な置換を行ったもの、例えば、ウリジンをシュードウリジンに置換したもの、シトシンを5-メチルシトシンに置換したものなどを含む。トランスポザーゼをコードするmRNAは、標的細胞での発現を向上させるために5'-キャップ構造を有するように調製してもよい。例示的なキャップ構造としては、キャップアナログ(G(5')ppp(5')G)、アンチリバースキャップアナログ(3'-O-Me-m7G(5')ppp(5')G、クリーンキャップ(m7G(5')ppp(5')(2'OMeA)pG)、mCap (m7G(5')ppp(5')G)を含む。トランスポザーゼをコードするmRNAは、いくつかの塩基が部分的又は完全に置換されているように調製されてもよく、例えば、ウリジンはシュードウリジンに、シトシンは5-メチル-シトシンに置換されていてもよい。これらのキャップと置換の任意の組み合わせがなされてもよい。同様に、本発明のトランスポザーゼ蛋白質又はトランスポゾンをコードする核酸は、直鎖状のフラグメント又は環状のフラグメントとして、プラスミド又は組換えウイルスDNAとして細胞内に導入できる。トランスポザーゼをコードするDNA配列として導入する場合、トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームは、対象となる哺乳類細胞で活性を有するプロモーターに作動可能に連結していることが好ましい。
【0083】
哺乳類細胞のゲノムを改変するために有利なpiggyBac様トランスポゾンは、配列番号1004で示される配列を有するITRと、転移される異種ポリヌクレオチドと、配列番号1005で示される配列を有する第2のITRとを含むXenopusトランスポゾンである。トランスポゾンは、さらに、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの遠位にある、両側のテトラヌクレオチド5'-TTAA-3'のコピーによって挟まれていてもよい。このトランスポゾンは、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの近位にある、異種ポリヌクレオチドの一方の側、好ましくは左側にある配列番号1000又は1001と少なくとも95%同一の配列と、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの近位にある、異種ポリヌクレオチドの他方の側、好ましくは右側にある配列番号1002又は1003と少なくとも95%同一の配列とをさらに含んでもよい。このトランスポゾンは、配列番号1049又は1050で示される配列に対して少なくとも90%同一の配列、例えば、配列番号1049~1081のいずれかを含む対応するXenopusトランスポザーゼによって転移されてもよい。好ましくは、トランスポザーゼは、天然に存在するトランスポザーゼの高活性バリアントである。好ましくは、高活性バリアントのトランスポザーゼは、配列番号1049の配列に対して、以下のアミノ酸の変化の1つ以上を含む。Y6L、Y6H、Y6V、Y6I、Y6C、Y6G、Y6A、Y6S、Y6F、Y6R、Y6P、Y6D、Y6N、S7G、S7V、S7D、E9W、E9D、E9E、M16E、M16N、M16D、M16S、M16Q、M16T、M16A、M16L、M16H、M16F、M16I、S18C、S18Y、S18M、S18L、S18Q、S18G、S18P、S18A、S18W、S18H、S18K、S18I、S18V、S19C、S19V、S19L、S19F、S19K、S19E、S19D、S19G、S19N、S19A、S19M、S19P、S19Y、S19R、S19T、S19Q、S20G、S20M、S20L、S20V、S20H、S20W、S20A、S20C、S20Q、S20D、S20F、S20N、S20R、E21N、E21W、E21G、E21Q、E21L、E21D、E21A、E21P、E21T、E21S、E21Y、E21V、E21F、E21M、E22C、E22H、E22R、E22L、E22K、E22S、E22G、E22M、E22V、E22Q、E22A、E22Y、E22W、E22D、E22T、F23Q、F23A、F23D、F23W、F23K、F23T、F23V、F23M、F23N、F23P、F23H、F23E、F23C、F23R、F23Y、S24L、S24W、S24H、S24V、S24P、S24I、S24F、S24K、S24Y、S24D、S24C、S24N、S24G、S24A、S26F、S26H、S26V、S26Q、S26Y、S26W、S28K、S28Y、S28C、S28M、S28L、S28H、S28T、S28Q、V31L、V31T、V31I、V31Q、V31K、A34L、A34E、L67A、L67T、L67M、L67V、L67C、L67H、L67E、L67Y、G73H、G73N、G73K、G73F、G73V、G73D、G73S、G73W、G73L、A76L、A76R、A76E、A76I、A76V、D77N、D77Q、D77Y、D77L、D77T、P88A、P88E、P88N、P88H、P88D、P88L、N91D、N91R、N91A、N91L、N91H、N91V、Y141I、Y141M、Y141Q、Y141S、Y141E、Y141W、Y141V、Y141F、Y141A、Y141C、Y141K、Y141L、Y141H、Y141R、N145C、N145M、N145A、N145Q、N145I、N145F、N145G、N145D、N145E、N145V、N145H、N145W、N145Y、N145L、N145R、N145S、P146V、P146T、P146W、P146C、P146Q、P146L、P146Y、P146K、P146N、P146F、P146E、P148M、P148R、P148V、P148F、P148T、P148C、P148Q、P148H、Y150W、Y150A、Y150F、Y150H、Y150S、Y150V、Y150C、Y150M、Y150N、Y150D、Y150E、Y150Q、Y150K、H157Y、H157F、H157T、H157S、H157W、A162L、A162V、A162C、A162K、A162T、A162G、A162M、A162S、A162I、A162Y、A162Q、A179T、A179K、A179S、A179V、A179R、L182V、L182I、L182Q、L182T、L182W、L182R、L182S、T189C、T189N、T189L、T189K、T189Q、T189V、T189A、T189W、T189Y、T189G、T189F、T189S、T189H、L192V、L192C、L192H、L192M、L192I、S193P、S193T、S193R、S193K、S193G、S193D、S193N、S193F、S193H、S193Q、S193Y、V196L、V196S、V196W、V196A、V196F、V196M、V196I、S198G、S198R、S198A、S198K、T200C、T200I、T200M、T200L、T200N、T200W、T200V、T200Q、T200Y、T200H、T200R、S202A、S202P、L210H、L210A、F212Y、F212N、F212M、F212C、F212A、N218V、N218R、N218T、N218C、N218G、N218I、N218P、N218D、N218E、A248S、A248L、A248H、A248C、A248N、A248I、A248Q、A248Y、A248M、A248D、L263V、L263A、L263M、L263R、L263D、Q270V、Q270K、Q270A、Q270C、Q270P、Q270L、Q270I、Q270E、Q270G、Q270Y、Q270N、Q270T、Q270W、Q270H、S294R、S294N、S294G、S294T、S294C、T297C、T297P、T297V、T297M、T297L、T297D、E304D、E304H、E304S、E304Q、E304C、S308R、S308G、L310R、L310I、L310V、L333M、L333W、L333F、Q336Y、Q336N、Q336M、Q336A、Q336T、Q336L、Q336I、Q336G、Q336F、Q336E、Q336V、Q336C、Q336H、A354V、A354W、A354D、A354C、A354R、A354E、A354K、A354H、A354G、C357Q、C357H、C357W、C357N、C357I、C357V、C357M、C357R、C357F、C357D、L358A、L358F、L358E、L358R、L358Q、L358V、L358H、L358C、L358M、L358Y、L358K、L358N、L358I、D359N、D359A、D359L、D359H、D359R、D359S、D359Q、D359E、D359M、L377V、L377I、V423N、V423P、V423T、V423F、V423H、V423C、V423S、V423G、V423A、V423R、V423L、P426L、P426K、P426Y、P426F、P426T、P426W、P426V、P426C、P426S、P426Q、P426H、P426N、K428R、K428Q、K428N、K428T、K428F、S434A、S434T、S438Q、S438A、S438M、T447S、T447A、T447C、T447Q、T447N、T447G、L450M、L450V、L450A、L450I、L450E、A462M、A462T、A462Y、A462F、A462K、A462R、A462Q、A462H、A462E、A462N、A462C、V467T、V467C、V467A、V467K、I469V、I469N、I472V、I472L、I472W、I472M、I472F、L476I、L476V、L476N、L476F、L476M、L476C、L476Q、P488E、P488H、P488K、P488Q、P488F、P488M、P488L、P488N、P488D、Q498V、Q498L、Q498G、Q498H、Q498T、Q498C、Q498E、Q498M、L502I、L502M、L502V、L502G、L502F、E517M、E517V、E517A、E517K、E517L、E517G、E517S、E517I、P520W、P520R、P520M、P520F、P520Q、P520V、P520G、P520D、P520K、P520Y、P520E、P520L、P520T、S521A、S521H、S521C、S521V、S521W、S521T、S521K、S521F、S521G、N523W、N523A、N523G、N523S、N523P、N523M、N523Q、N523L、N523K、N523D、N523H、N523F、N523C、I533M、I533V、I533T、I533S、I533F、I533G、I533E、D534E、D534Q、D534L、D534R、D534V、D534C、D534M、D534N、D534A、D534G、D534F、D534T、D534H、D534K、D534S、F576L、F576K、F576V、F576D、F576W、F576M、F576C、F576R、F576Q、F576A、F576Y、F576N、F576G、F576I、F576E、K577L、K577G、K577D、K577R、K577H、K577Y、K577I、K577E、K577V、K577N、I582V、I582K、I582R、I582M、I582G、I582N、I582E、I582A、I582Q、Y583L、Y583C、Y583F、Y583D、Y583Q、L587F、L587D、L587R、L587I、L587P、L587N、L587E、L587S、L587Y、L587M、L587Q、L587G、L587W、L587K、又はL587T。
【0084】
哺乳類細胞のゲノムを改変するために有利なpiggyBac様トランスポゾンは、配列番号1010の配列を有するITRと、転移される異種ポリヌクレオチドと、配列番号1011の配列を有する第2のITRとを含むBombyxトランスポゾンである。トランスポゾンは、さらに、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの遠位にある両側のテトラヌクレオチド5'-TTAA-3'のコピーで挟まれていてもよい。このトランスポゾンは、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの近位にある、異種ポリヌクレオチドの一方の側、好ましくは左側にある配列番号1008と少なくとも95%同一の配列と、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの近位にある、異種ポリヌクレオチドの他方の側、好ましくは右側にある配列番号1009と少なくとも95%同一の配列とをさらに含んでもよい。このトランスポゾンは、配列番号1082と少なくとも90%同一の配列、例えば、配列番号1082~1104のいずれかを含む対応するBombyxトランスポザーゼによって転移されてもよい。好ましくは、トランスポザーゼは、天然に存在するトランスポザーゼの高活性バリアントである。好ましくは、高活性バリアントのトランスポザーゼは、配列番号1082の配列に対して、以下のアミノ酸の変化の1つ以上を含む。Q85E、Q85M、Q85K、Q85H、Q85N、Q85T、Q85F、Q85L、Q92E、Q92A、Q92P、Q92N、Q92I、Q92Y、Q92H、Q92F、Q92R、Q92D、Q92M、Q92W、Q92C、Q92G、Q92L、Q92V、Q92T、V93P、V93K、V93M、V93F、V93W、V93L、V93A、V93I、V93Q、P96A、P96T、P96M、P96R、P96G、P96V、P96E、P96Q、P96C、F97Q、F97K、F97H、F97T、F97C、F97W、F97V、F97E、F97P、F97D、F97A、F97R、F97G、F97N、F97Y、H165E、H165G、H165Q、H165T、H165M、H165V、H165L、H165C、H165N、H165D、H165K、H165W、H165A、E178S、E178H、E178Y、E178F、E178C、E178A、E178Q、E178G、E178V、E178D、E178L、E178P、E178W、C189D、C189Y、C189I、C189W、C189T、C189K、C189M、C189F、C189P、C189Q、C189V、A196G、L200I、L200F、L200C、L200M、L200Y、A201Q、A201L、A201M、L203V、L203D、L203G、L203E、L203C、L203T、L203M、L203A、L203Y、N207G、N207A、L211G、L211M、L211C、L211T、L211V、L211A、W215Y、T217V、T217A、T217I、T217P、T217C、T217Q、T217M、T217F、T217D、T217K、G219S、G219A、G219C、G219H、G219Q、Q235C、Q235N、Q235H、Q235G、Q235W、Q235Y、Q235A、Q235T、Q235E、Q235M、Q235F、Q238C、Q238M、Q238H、Q238V、Q238L、Q238T、Q238I、R242Q、K246I、K253V、M258V、F261L、S263K、C271S、N303C、N303R、N303G、N303A、N303D、N303S、N303H、N303E、N303R、N303K、N303L、N303Q、I312F、I312C、I312A、I312L、I312T、I312V、I312G、I312M、F321H、F321R、F321N、F321Y、F321W、F321D、F321G、F321E、F321M、F321K、F321A、F321Q、V323I、V323L、V323T、V323M、V323A、V324N、V324A、V324C、V324I、V324L、V324T、V324K、V324Y、V324H、V324F、V324S、V324Q、V324M、V324G、A330K、A330V、A330P、A330S、A330C、A330T、A330L、Q333P、Q333T、Q333M、Q333H、Q333S、P337W、P337E、P337H、P337I、P337A、P337M、P337N、P337D、P337K、P337Q、P337G、P337S、P337C、P337L、P337V、F368Y、L373C、L373V、L373I、L373S、L373T、V389I、V389M、V389T、V389L、V389A、R394H、R394K、R394T、R394P、R394M、R394A、Q395P、Q395F、Q395E、Q395C、Q395V、Q395A、Q395H、Q395S、Q395Y、S399N、S399E、S399K、S399H、S399D、S399Y、S399G、S399Q、S399R、S399T、S399A、S399V、S399M、R402Y、R402K、R402D、R402F、R402G、R402N、R402E、R402M、R402S、R402Q、R402T、R402C、R402L、R402V、T403W、T403A、T403V、T403F、T403L、T403Y、T403N、T403G、T403C、T403I、T403S、T403M、T403Q、T403K、T403E、D404I、D404S、D404E、D404N、D404H、D404C、D404M、D404G、D404A、D404Q、D404L、D404P、D404V、D404W、D404F、N408F、N408I、N408A、N408E、N408M、N408S、N408D、N408Y、N408H、N408C、N408Q、N408V、N408W、N408L、N408P、N408K、S409H、S409Y、S409N、S409I、S409D、S409F、S409T、S409C、S409Q、N441F、N441R、N441M、N441G、N441C、N441D、N441L、N441A、N441V、N441W、G448W、G448Y、G448H、G448C、G448T、G448V、G448N、G448Q、E449A、E449P、E449T、E449L、E449H、E449G、E449C、E449I、V469T、V469A、V469H、V469C、V469L、L472K、L472Q、L472M、C473G、C473Q、C473T、C473I、C473M、R484H、R484K、T507R、T507D、T507S、T507G、T507K、T507I、T507M、T507E、T507C、T507L、T507V、G523Q、G523T、G523A、G523M、G523S、G523C、G523I、G523L、I527M、I527V、Y528N、Y528W、Y528M、Y528Q、Y528K、Y528V、Y528I、Y528G、Y528D、Y528A、Y528E、Y528R、Y543C、Y543W、Y543I、Y543M、Y543Q、Y543A、Y543R、Y543H、E549K、E549C、E549I、E549Q、E549A、E549H、E549C、E549M、E549S、E549F、E549L、K550R、K550M、K550Q、S556G、S556V、S556I、P557W、P557T、P557S、P557A、P557Q、P557K、P557D、P557G、P557N、P557L、P557V、H559K、H559S、H559C、H559I、H559W、V560F、V560P、V560I、V560H、V560Y、V560K、N561P、N561Q、N561G、N561A、V562Y、V562I、V562S、V562M、V567I、V567H、V567N、S583M、E601V、E601F、E601Q、E601W、E605R、E605W、E605K、E605M、E605P、E605Y、E605C、E605H、E605A、E605Q、E605S、E605V、E605I、E605G、D607V、D607Y、D607C、D607N、D607W、D607T、D607A、D607H、D607Q、D607E、D607L、D607K、D607G、S609R、S609W、S609H、S609V、S609Q、S609G、S609T、S609K、S609N、S609Y、L610T、L610I、L610K、L610G、L610A、L610W、L610D、L610Q、L610S、L610F、又はL610N。
【0085】
哺乳類細胞のゲノムを改変するために有利なpiggyBac様トランスポゾンは、配列番号1016の配列を有するITRと、転移される異種ポリヌクレオチドと、配列番号1017の配列を有する第2のITRとを含むpiggyBatトランスポゾンである。トランスポゾンは、さらに、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの遠位にある両側のテトラヌクレオチド5'-TTAA-3'のコピーで挟まれていてもよい。このトランスポゾンは、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの近位にある、異種ポリヌクレオチドの一方の側、好ましくは左側にある配列番号1018と少なくとも95%同一の配列と、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの近位にある、異種ポリヌクレオチドの他方の側、好ましくは右側にある配列番号1019と少なくとも95%同一の配列とをさらに含んでもよい。このトランスポゾンは、配列番号1046と少なくとも90%同一の配列を含む対応するpiggyBatトランスポザーゼによって転移されてもよい。好ましくは、トランスポザーゼは、天然に存在するトランスポザーゼの高活性バリアントである。好ましくは、高活性バリアントのトランスポザーゼは、配列番号1046の配列に対して、以下のアミノ酸の変化の1つ以上を含む。A14V、D475G、P491Q、A561T、T546T、T300A、T294A、A520T、G239S、S5P、S8F、S54N、D9N、D9G、1345V、M481V、EIlG、K130T、G9G、R427H、S8P、S36G、DlOG、S36G。
【0086】
哺乳類細胞のゲノムを改変するために有利なpiggyBac様トランスポゾンは、配列番号1014の配列を有するITRと、転移される異種ポリヌクレオチドと、配列番号1015の配列を有する第2のITRとを含むpiggyBacトランスポゾンである。トランスポゾンは、さらに、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの遠位にある両側のテトラヌクレオチド5'-TTAA-3'のコピーで挟まれていてもよい。このトランスポゾンは、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの近位にある、異種ポリヌクレオチドの一方の側、好ましくは左側にある配列番号1012と少なくとも95%同一の配列と、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの近位にある、異種ポリヌクレオチドの他方の側、好ましくは右側にある配列番号1013と少なくとも95%同一の配列とをさらに含んでもよい。このトランスポゾンは、配列番号1047と少なくとも90%同一の配列を含む対応するpiggyBacトランスポザーゼによって転移されてもよい。好ましくは、トランスポザーゼは、天然に存在するトランスポザーゼの高活性バリアントである。好ましくは、高活性バリアントのトランスポザーゼは、配列番号1047の配列に対して、以下のアミノ酸の変化の1つ以上を含む。G2C、Q40R、I30V、G165S、T43A、S61R、S103P、S103T、M194V、R281G、M282V、G316E、I426V、Q497L、N505D、Q573L、S509G、N570S、N538K、Q591P、Q591R、F594L、M194V、I30V、S103P、G165S、M282V、S509G、N538K、N571S、C41T、A1424G、C1472A、G1681A、T150C、A351G、A279G、T1638C、A898G、A880G、G1558A、A687G、G715A、T13C、C23T、G161A、G25A、T1050C、A1356G、A26G、A1033G、A1441G、A32G、A389C、A32G、A389C、A32G、T1572A、G456A、T1641C、Tl155C、G1280A、T22C、A106G、A29G、C137T、A14V、D475G、P491Q、A561T、T546T、T300A、T294A、A520T、G239S、S5P、S8F、S54N、D9N、D9G、1345V、M481V、E1lG、K130T、G9G、R427H、S8P、S36G、Dl0G、S36G、A51T、C153A、C277T、G201A、G202A、T236A、A103T、A104C、T140C、G138T、T118A、C74T、A179C、S3N、I30V、A46S、A46T、I82W、S103P、R119P、C125A、C125L、G165S、Y177K、Y177H、F180L、F180I、F180V、M185L、A187G、F200W、V207P、V209F、M226F、L235R、V240K、F241L、P243K、N258S、M282Q、L296W、L296Y、L296F、M298V、M298A、M298L、P311V、P311I、R315K、T319G、Y327R、Y328V、C340G、C340L、D421H、V436I、M456Y、L470F、S486K、M503I、M503L、V552K、A570T、Q591P、Q591R、R65A、R65E、R95A、R95E、R97A、R97E、R135A、R135E、R161A、R161E、R192A、R192E、R208A、R208E、K176A、K176E、K195A、K195E、S171E、M14V、D270N、I30V、G165S、M282L、M282I、M282V、又はM282A。
【0087】
培養哺乳類細胞のゲノムを改変するために有利なpiggyBac様トランスポゾンは、配列番号1022の配列を有するITRと、異種ポリヌクレオチドと、配列番号1023の配列を有する第2のITRとを含むAmyeloisトランスポゾンである。トランスポゾンは、さらに、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの遠位にある両側のテトラヌクレオチド5'-TTAA-3'のコピーで挟まれていてもよい。このトランスポゾンは、異種ポリヌクレオチドの一方の側にある配列番号1020と少なくとも95%同一の配列と、異種ポリヌクレオチドの他方の側にある配列番号1021と少なくとも95%同一の配列とをさらに含んでもよい。このトランスポゾンは、配列番号1105と少なくとも90%同一の配列を含む対応するAmyeloisトランスポザーゼによって転移されてもよい。好ましくは、トランスポザーゼは、天然に存在するトランスポザーゼの高活性バリアントである。好ましくは、高活性バリアントのトランスポザーゼは、配列番号1105の配列に対して、以下のアミノ酸の変化の1つ以上を含む。P65E、P65D、R95S、R95T、V100I、V100L、V100M、L115D、L115E、E116P、H121Q、H121N、K139E、K139D、T159N、T159Q、V166F、V166Y、V166W、G179N、G179Q、W187F、W187Y、P198R、P198K、L203R、L203K、I209L、I209V、I209M、N211R、N211K、E238D、L273I、L273V、L273M、D304K、D304R、I323L、I323M、I323V、Q329G、Q329R、Q329K、T345L、T345I、T345V、T345M、K362R、T366R、T366K、T380S、L408M、L408I、L408V、E413S、E413T、S416E、S416D、I426M、I426L、I426V、S435G、L458M、L458I、L458V、A472S、A472T、V475I、V475L、V475M、N483K、N483R、I491M、I491V、I491L、A529P、K540R、S560K、S560R、T562K、T562R、S563K、S563R。
【0088】
培養哺乳類細胞のゲノムを改変するために有利なpiggyBac様トランスポゾンは、配列番号1026の配列を有するITRと、異種ポリヌクレオチドと、配列番号1027の配列を有する第2のITRとを含むHeliothisトランスポゾンである。トランスポゾンは、さらに、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの遠位にある両側のテトラヌクレオチド5'-TTAA-3'のコピーで挟まれていてもよい。このトランスポゾンは、異種ポリヌクレオチドの一方の側にある配列番号1024と少なくとも95%同一の配列と、異種ポリヌクレオチドの他方の側にある配列番号1025と少なくとも95%同一の配列とをさらに含んでもよい。このトランスポゾンは、配列番号1106と少なくとも90%同一の配列を含む対応するHeliothisトランスポザーゼによって転移されてもよい。好ましくは、トランスポザーゼは、天然に存在するトランスポザーゼの高活性バリアントである。好ましくは、高活性バリアントのトランスポザーゼは、配列番号1106の配列に対して、以下のアミノ酸の変化の1つ以上を含む。S41V、S41I、S41L、L43S、L43T、V81E、V81D、D83S、D83T、V85L、V85I、V85M、P125S、P125T、Q126S、Q126T、Q131R、Q131K、Q131T、Q131S、S136V、S136I、S136L、S136M、E140C、E140A、N151Q、K169E、K169D、N212S、I239L、I239V、I239M、H241N、H241Q、T268D、T268E、T297C、M300R、M300K、M305N、M305Q、L312I、C316A、C316M、L321V、L321M、N322T、N322S、P351G、H357R、H357K、H357D、H357E、K360Q、K360N、E379P、K397S、K397T、Y421F、Y421W、V450I、V450L、V450M、Y495F、Y495W、A447N、A447D、A449S、A449V、K476L、V492A、I500M、L585K、及びT595K。
【0089】
培養哺乳類細胞のゲノムを改変するために有利なpiggyBac様トランスポゾンは、配列番号1030の配列を有するITRと、異種ポリヌクレオチドと、配列番号1031の配列を有する第2のITRとを含むOryziasトランスポゾンである。トランスポゾンは、さらに、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの遠位にある両側のテトラヌクレオチド5'-TTAA-3'のコピーで挟まれていてもよい。このトランスポゾンは、異種ポリヌクレオチドの一方の側にある配列番号1028と少なくとも95%同一の配列と、異種ポリヌクレオチドの他方の側にある配列番号1029と少なくとも95%同一の配列とをさらに含んでもよい。このトランスポゾンは、配列番号1107と少なくとも90%同一の配列を含む対応するOryziasトランスポザーゼによって転移されてもよい。好ましくは、トランスポザーゼは、天然に存在するトランスポザーゼの高活性バリアントである。好ましくは、高活性バリアントのトランスポザーゼは、配列番号1107の配列に対して、以下のアミノ酸の変化の1つ以上を含む。E22D、A124C、Q131D、Q131E、L138V、L138I、L138M、D160E、Y164F、Y164W、I167L、I167V、I167M、T202R、T202K、I206L、I206V、I206M、I210L、I210V、I210M、N214D、N214E、V253I、V253L、V253M、V258L、V258I、V258M、A284L、A284I、A284M、A284V、V386I、V386M、V386L、M400L、M400I、M400V、S408E、S408D、L409I、L409V、L409M、V458L、V458M、V458I、V467I、V467M、V467L、L468I、L468V、L468M、A514R、A514K、V515I、V515M、V515L、R548K、D549K、D549R、D550R、D550K、S551K、及びS551R。
【0090】
培養哺乳類細胞のゲノムを改変するために有利なpiggyBac様トランスポゾンは、配列番号1036の配列を有するITRと、異種ポリヌクレオチドと、配列番号1037の配列を有する第2のITRとを含むAgrotisトランスポゾンである。トランスポゾンは、さらに、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの遠位にある両側のテトラヌクレオチド5'-TTAA-3'のコピーで挟まれていてもよい。このトランスポゾンは、異種ポリヌクレオチドの一方の側にある配列番号1034と少なくとも95%同一の配列と、異種ポリヌクレオチドの他方の側にある配列番号1035と少なくとも95%同一の配列とをさらに含んでもよい。このトランスポゾンは、配列番号1108と少なくとも90%同一の配列を含む対応するAgrotisトランスポザーゼによって転移されてもよい。好ましくは、トランスポザーゼは、天然に存在するトランスポザーゼの高活性バリアントである。
【0091】
培養哺乳類細胞のゲノムを改変するために有利なpiggyBac様トランスポゾンは、配列番号1040の配列を有するITRと、異種ポリヌクレオチドと、配列番号1041の配列を有する第2のITRとを含むHelicoverpaトランスポゾンである。トランスポゾンは、さらに、ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの遠位にある両側のテトラヌクレオチド5'-TTAA-3'のコピーで挟まれていてもよい。このトランスポゾンは、異種ポリヌクレオチドの一方の側にある配列番号1038と少なくとも95%同一の配列と、異種ポリヌクレオチドの他方の側にある配列番号1039と少なくとも95%同一の配列とをさらに含んでもよい。このトランスポゾンは、配列番号1109と少なくとも90%同一の配列を含む対応するHelicoverpaトランスポザーゼによって転移されてもよい。好ましくは、トランスポザーゼは、天然に存在するトランスポザーゼの高活性バリアントである。
【0092】
哺乳類細胞のゲノムを改変するために有利なMarinerトランスポゾンは、Sleeping Beautyトランスポゾンであり、例えば、配列番号1044の配列を有するITRと、異種ポリヌクレオチドと、配列番号1045の配列を有する第2のITRとを含むものである。哺乳類細胞のゲノムを改変するために有利なMarinerトランスポゾンは、配列番号1042に対して少なくとも90%の配列同一性を有する第1のトランスポゾンエンドと、配列番号1043に対して少なくとも90%の配列同一性を有する第2のトランスポゾンエンドとを含む。このトランスポゾンは、配列番号1048と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む対応するSleeping Beautyトランスポザーゼ(その高活性変異体を含む)によって転移され得る。
【0093】
哺乳類細胞のゲノムを改変するために有利なhATトランスポゾンは、TcBusterトランスポゾンであり、例えば、配列番号1112の配列を有するITRと、異種ポリヌクレオチドと、配列番号1113の配列を有する第2のITRとを含むものである。哺乳類細胞のゲノムを改変するために有利なhATトランスポゾンは、配列番号1110に対して少なくとも90%の配列同一性を有する第1のトランスポゾンエンドと、配列番号1111に対して少なくとも90%の配列同一性を有する第2のトランスポゾンエンドとを含む。このトランスポゾンは、配列番号1114と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む対応するTcBusterトランスポザーゼ(その高活性変異体を含む)によって転移され得る。
【0094】
トランスポザーゼ蛋白質は、蛋白質として、又はトランスポザーゼをコードする核酸として、例えば、mRNAを含むリボ核酸、又は細胞の翻訳機構によって認識される任意のポリヌクレオチドとして、DNA(例えば、エピソームDNAを含む染色体外DNA)として、プラスミドDNAとして、又はウイルス核酸として細胞に導入できる。さらに、トランスポザーゼ蛋白質をコードする核酸は、プラスミドなどの核酸ベクターとして、又はウイルスベクターを含む遺伝子発現ベクターとして、細胞にトランスフェクトできる。核酸は、環状であっても直鎖状であってもよい。トランスポザーゼ蛋白質をコードするDNAは、構成的又は誘導的に発現させるために、細胞のゲノム又はベクターに安定的に挿入できる。トランスポザーゼ蛋白質が細胞にトランスフェクトされるか、又はDNAとしてベクターに挿入される場合、トランスポザーゼコード配列は、好ましくは異種プロモーターに作動可能に連結される。プロモーターには、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーター、種特異的プロモーター、細胞型特異的プロモーターなど、さまざまなものを使用できる。トランスポザーゼ蛋白質をコードする全てのDNA又はRNA配列が明示的に企図されている。あるいは、トランスポザーゼは、蛋白質として直接細胞に導入してもよく、例えば、細胞貫通ペプチド(例えば、Ramsey and Flynn, 2015. Pharmacol. Ther. 154: 78-86 "Cell-penetrating peptides transport therapeutics into cells"参照)を使用してもよく、塩プラスプロパンベタインを含む低分子(例えば、Astolfo et. al., 2015. Cell 161: 674-690参照)を使用してもよく、又はエレクトロポレーション(例えば、Morgan and Day, 1995. Methods in Molecular Biology 48: 63-71 "The introduction of proteins into mammalian cells by electroporation"参照)を使用してもよい。
【0095】
5.2.3 プロモーター要素
培養哺乳類細胞でポリペプチドを発現させるための遺伝子導入システムは、宿主細胞に導入されるポリヌクレオチドを含む。このポリヌクレオチドは、培養哺乳類細胞内で活性であるプロモーターを含み、それは発現する異種配列に作動可能に連結している。哺乳類細胞でamiRNAを発現させるために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、ヒト、ラット、マウス、ニワトリ、チャイニーズハムスターを含む任意の哺乳類又は鳥類種由来のEF1aプロモーターなどのPol IIプロモーター(例えば、配列番号894~915から選択される配列)、ヒト、霊長類、齧歯類のいずれかの細胞からのサイトメガロウイルス(CMV)の最初期遺伝子1、2又は3由来のプロモーター(例えば、配列番号916~927から選択される配列)、ヒト、ラット、マウス、ニワトリ、チャイニーズハムスターを含む哺乳類又は鳥類のいずれかの種由来の真核生物伸長因子2(EEF2)のプロモーター(例えば、配列番号928~938から選択される配列)、任意の哺乳類又は酵母種由来のグリセルアルデヒド3ホスフェイトデヒドロゲナーゼ(GAPDH)プロモーター(例えば、配列番号949~965から選択される配列)、ヒト、ラット、マウス、ニワトリ、チャイニーズハムスターを含む任意の哺乳類又は鳥類種由来のアクチンプロモーター(例えば、配列番号939~948から選択される配列)、ヒト、ラット、マウス、ニワトリ、チャイニーズハムスターなどの哺乳類又は鳥類由来のPGKプロモーター(例えば、配列番号966~974又は1188から選択される配列)、又はユビキチンプロモーター(例えば、配列番号975)、又はHSV-TKプロモーター又はSV40プロモーターなどのウイルスプロモーター(例えば、配列番号976~982から選択される配列)を含み、それらはマルチヘアピンamiRNA配列に作動可能に連結する。あるいは、マルチヘアピンamiRNA配列は、U6プロモーター(例えば、配列番号987~991から選択される配列)やH1プロモーター(例えば、配列番号992)などのPol IIIプロモーターに作動可能に連結されていてもよい。
【0096】
5.2.4 マイクロRNA要素
スモール抑制性RNA(siRNA)は、RNA干渉によって哺乳類培養細胞内の特定の遺伝子の活性を低下させるために使用されている。siRNAは、RNAポリメラーゼIIIによって自然に転写されるプロモーター(「Pol IIIプロモーター」)に作動可能に連結されたショートヘアピンRNA(shRNA)をコードする核酸から、細胞内で発現させることができる。天然に存在するshRNAは、RNAポリメラーゼIIによって自然に転写されるプロモーター(「Pol IIプロモーター」)に作動可能に連結された核酸からも発現され得る。Pol IIプロモーターは、典型的には、ほとんどの蛋白質をコードする遺伝子の転写を担う。天然のPol II発現可能なshRNA遺伝子の産物は、マイクロRNA(miRNA)と呼ばれている。
【0097】
哺乳類細胞内での標的shRNAの発現は、天然のmiRNAを工学的に設計し、天然のガイド鎖配列を発現を低下させる標的mRNAに相補的な配列に置き換えることで、miR-30マイクロRNA(Zeng et. al., 2002. Both Natural and Designed Micro RNAs Technique Can Inhibit the Expression of Cognate mRNAs When Expressed in Human Cells. Molecular Cell: 9, 1327-1333)について説明されたように、人工的なmiRNA(amiRNA)を作成することで実施できる。
【0098】
amiRNAを用いたRNA干渉によって達成できる哺乳類細胞での遺伝子発現の低下は様々である。単一の阻害性RNAの有効性が限られているため、成功はしばしば限定的である。RNA干渉の効果を向上させるための戦略には、分子内RNAデュプレックスへのミスマッチの組み込み(Myburgh et. al., 2014. Optimization of Critical Hairpin Features Allows miRNA-based Gene Knockdown Upon Single-copy Transduction. Molecular Therapy-Nucleic Acids 3, e207; doi:10.1038/mtna.2014.58)、amiRNA遺伝子内(Pol IIプロモーターとamiRNAヘアピンの配列との間)へのスペーサー領域の挿入(Rousset et. al., 2019. Optimizing Synthetic miRNA Minigene Architecture for Efficient miRNA Hairpin Concatenation and Multi-target Gene Knockdown. Molecular Therapy-Nucleic Acids 14, 351-363)、及びamiRNA遺伝子内でのamiRNAヘアピンの連結(Sun et al., 2006. Multi-miRNA hairpin method that improves gene knockdown efficiency and provides linked multi-gene knockdown. BioTechniques 41:59-63 doi 10.2144/000112203)を含む。
【0099】
同じヘアピンの複数のコピーを含むamiRNA遺伝子は、ヘアピンのコピーが1つしかないamiRNA遺伝子よりも効果的であることが示されているが、1つのレンチウイルスベクターに3つの同じヘアピンを入れても、標的遺伝子の発現を正常の10%未満にすることは難しい(Sun et al., 2006 ibid, Rousset et. al., 2019 ibid)。また、複数のamiRNAヘアピンを含む遺伝子の用途としては、複数の遺伝子を同時に阻害することを含む。(Hu et. al., 2009. Construction of an Artificial MicroRNA Expression Vector for Simultaneous Inhibition of Multiple Genes in Mammalian Cells. Int. J. Mol. Sci. 10, 2158-2168; Choi et al, 2015. Mol. Ther. 23, 310-320. "Multiplexing Seven miRNA-Based shRNAs to Suppress HIV Replication")。
【0100】
我々は、複数の同じヘアピンに由来する複数の同じ阻害性RNAで標的mRNA内の1つの配列を標的とするのではなく、同じ標的mRNA内の異なる領域に相補的な異なる阻害性RNAのガイド鎖をそれぞれ発現させるために、複数の異なるヘアピンを含むamiRNA遺伝子を設計した。各ヘアピンに由来するガイド鎖配列は、遺伝子の異なる領域を標的としているため、本質的に独立したものである。さらに、複数のヘアピンが同じRNA転写産物に含まれている場合、RISC関連ガイド鎖を生成するためのヘアピンのプロセシングが向上する。加えて、複数の独立したガイド鎖を使用することで、個のガイド鎖を極めて高いレベルで発現させる必要がないため、望ましくないオフターゲット効果のリスクが減少する。従って、哺乳類細胞内で発現される2つ又は3つ又は4つ又は5つ以上のヘアピンを含むポリヌクレオチドを使用して、2つ又は3つ又は4つ又は5つ以上の異なる阻害性RNAガイド鎖を生成し、その各々が同じ標的mRNA内の異なる配列に相補的であることが有益である。抑制性RNAガイド鎖を発現させるための複数のヘアピンが同一のプロモーターに作動可能に連結している場合、それらをマルチヘアピンamiRNA遺伝子と呼ぶ。好ましくは、哺乳類細胞のゲノムに組み込まれた場合、マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、単一の阻害性RNAガイド鎖を発現させるためのヘアピンを含むamiRNA遺伝子をゲノムに含む哺乳類細胞における標的遺伝子の発現レベルよりも低いレベルまで、標的遺伝子の発現を低下させる。好ましくは、哺乳類細胞の集団のゲノムに組み込まれた場合、マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、集団内の標的遺伝子の平均的な発現を、単一の阻害性RNAガイド鎖を発現させるためのヘアピンを含むamiRNA遺伝子をゲノムに含む哺乳類細胞の集団における標的遺伝子の発現レベルよりも低いレベルまで低下させる。好ましくは、哺乳類細胞の集団のゲノムに組み込まれた場合、マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、単一の阻害性RNAガイド鎖の発現用ヘアピンを含むamiRNA遺伝子をゲノムに含む哺乳類細胞の集団における、発現が50%未満に低減される集団の割合よりも、より大きな割合の集団において、標的遺伝子の発現を天然のレベルの50%未満に低減する。好ましくは、哺乳類細胞の集団のゲノムに組み込まれた場合、マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、単一の阻害性RNAガイド鎖の発現用ヘアピンを含むamiRNA遺伝子をゲノムに含む哺乳類細胞の集団における、発現が40%未満に低減される集団の割合よりも、より大きな割合の集団において、標的遺伝子の発現を天然のレベルの40%未満に低減する。好ましくは、哺乳類細胞の集団のゲノムに組み込まれた場合、マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、単一の阻害性RNAガイド鎖の発現用ヘアピンを含むamiRNA遺伝子をゲノムに含む哺乳類細胞の集団における、発現が30%未満に低減される集団の割合よりも、より大きな割合の集団において、標的遺伝子の発現を天然のレベルの30%未満に低減する。好ましくは、哺乳類細胞の集団のゲノムに組み込まれた場合、マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、単一の阻害性RNAガイド鎖の発現用ヘアピンを含むamiRNA遺伝子をゲノムに含む哺乳類細胞の集団における、発現が20%未満に低減される集団の割合よりも、より大きな割合の集団において、標的遺伝子の発現を天然のレベルの20%未満に低減する。好ましくは、哺乳類細胞の集団のゲノムに組み込まれた場合、マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、単一の阻害性RNAガイド鎖の発現用ヘアピンを含むamiRNA遺伝子をゲノムに含む哺乳類細胞の集団における、発現が10%未満に低減される集団の割合よりも、より大きな割合の集団において、標的遺伝子の発現を天然のレベルの10%未満に低減する。好ましくは、哺乳類細胞の集団のゲノムに組み込まれた場合、マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、単一の阻害性RNAガイド鎖の発現用ヘアピンを含むamiRNA遺伝子をゲノムに含む培養哺乳類細胞の集団における、発現が5%未満に低減される集団の割合よりも、より大きな割合の集団において、標的遺伝子の発現を天然のレベルの5%未満に低減する。
【0101】
好ましくは、哺乳類細胞のゲノムに組み込まれた場合、マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、標的遺伝子の発現を、標的遺伝子の天然の発現レベルの50%、又は40%、又は30%、又は20%、又は10%、又は5%、又は2%、又は1%未満に低減させる。このような発現低減は、mRNAレベルの低下や蛋白質レベルの低下として直接検出されることもあるが、標的遺伝子が担っている機能や活性の対応する低下として検出されることもある。例えば、標的遺伝子の産物が細胞内蛋白質である場合、好ましくは、哺乳類細胞のゲノムに組み込まれた場合、マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、細胞内の標的遺伝子の産物の活性を、細胞内の標的遺伝子の産物の天然の活性の50%、又は40%、又は30%、又は20%、又は10%、又は5%、又は2%、又は1%未満に低減させる。標的遺伝子の産物が細胞外蛋白質である場合、好ましくは、哺乳類細胞のゲノムに組み込まれた場合、マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、細胞から分泌される標的遺伝子の産物の活性を、細胞から分泌される標的遺伝子の産物の天然の活性の50%、又は40%、又は30%、又は20%、又は10%、又は5%、又は2%、又は1%未満に低減させる。標的遺伝子の産物が、シグナル伝達機能を有する受容体蛋白質などの膜貫通型蛋白質である場合、好ましくは、哺乳類細胞のゲノムに組み込まれたときに、マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、標的遺伝子の産物によるシグナル伝達を、標的遺伝子の産物による天然のシグナル伝達の50%、又は40%、又は30%、又は20%、又は10%、又は5%、又は2%、又は1%未満に低減させる。標的遺伝子の正常な発現により哺乳類細胞が作る産物が修飾される場合で、マルチヘアピンamiRNA遺伝子が哺乳類細胞のゲノムに組み込まれた場合、標的遺伝子の発現は、好ましくは、哺乳類細胞で作られた産物の50%、又は40%、又は30%、又は20%、又は10%、又は5%、又は2%、又は1%未満が標的遺伝子の産物の作用によって修飾されるように低減される。標的遺伝子の正常な発現により哺乳類細胞が作る産物が修飾される場合で、マルチヘアピンamiRNA遺伝子が哺乳類細胞のゲノムに組み込まれた場合、標的遺伝子の発現は、好ましくは、標的遺伝子の発現に起因する産物の修飾の程度が、マルチヘアピンamiRNA遺伝子が存在しない場合に産物が修飾される程度の50%、又は40%、又は30%、又は20%、又は10%、又は5%、又は2%、又は1%未満に低減されるように低減される。産物の修飾には、哺乳類細胞が生産する蛋白質の蛋白質分解性切断、又はグリコシル化、又は他の翻訳後修飾を含む。
【0102】
amiRNAのガイド鎖配列は、標的遺伝子のmRNAに相補的な19又は20又は21又は22個の塩基を含む。ガイド鎖配列は、mRNAの任意の部分に相補的であってもよいが、好ましくは、mRNAの3'UTR又はmRNAの5'UTR又はmRNAのコード領域に相補的である。好ましくは、ガイド鎖配列の5'塩基はチミン(T)である。amiRNAのパッセンジャー鎖配列は、ガイド鎖配列と相補的である。パッセンジャー鎖の配列がガイド鎖の配列と完全には相補的でない方が、amiRNAの適切なプロセシングに有利な場合がしばしばある。パッセンジャー鎖配列がガイド鎖配列の5'塩基と相補的な塩基でミスマッチしていると、プロセシングが向上することがしばしばある。例示的なamiRNAヘアピンの典型的な模式図を図1A-Bに示す。好ましくは、パッセンジャー鎖配列は、ガイド鎖配列の5'塩基に対応する塩基(図1A-Bの塩基N1)において、ガイド鎖配列と相補的なミスマッチを含む。ガイド鎖配列の5'塩基がアデニン(A)又はチミン(T)である場合、パッセンジャー鎖配列は、好ましくは、対応する相補的な位置にシトシン(C)を含んでいる(図1A-Bの塩基N'1)。ガイド鎖配列の5'塩基がシトシン(C)又はグアニン(G)である場合、パッセンジャー鎖配列は、好ましくは、対応する相補的な位置にアデニン(A)を含む。さらに1つ、2つ又は3つのミスマッチが、ミスマッチ塩基、挿入又は欠失としてパッセンジャー鎖配列に組み込まれてもよい。最も好ましいミスマッチは、ガイド鎖配列の9、10、11、12、又は13位に相補的な対応する位置の1つ以上にミスマッチを生成するパッセンジャー鎖配列に生じる(図1A-Bの塩基N9、N10、N11、N12、及びN13)。最も好ましくは、パッセンジャー鎖配列は、ガイド鎖配列の12位に対応する塩基にミスマッチを含む(図1A、Bの塩基N'12)。amiRNAのガイド鎖配列とパッセンジャー鎖配列は、典型的には5~35個のヌクレオチドの非構造化ループによって分離されている(図1A-Bの塩基L1~LZ)。好ましくは、ループは、天然に存在するmiRNAに由来する配列、例えば、配列番号683~692から選択される配列を含む。
【0103】
標的遺伝子を阻害するための好ましい遺伝子導入ポリヌクレオチド(以下、「阻害性ポリヌクレオチド」という)は、ガイド鎖配列が異なり、かつ同一の標的mRNA中の異なる配列にそれぞれ相補的である少なくとも2つの異なるamiRNAヘアピン配列を含むマルチヘアピンamiRNA遺伝子を含む。マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、標的mRNAに相補的な少なくとも19又は20又は21又は22個の連続した塩基を含む第1(ガイド鎖)配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と78%以上同一の少なくとも19又は20又は21又は22個の塩基を含む第1(パッセンジャー鎖)配列とを含む(即ち、19個の塩基の中には、対応するガイド鎖配列の一致する逆相補鎖と比較して、変異、一塩基欠失又は一塩基挿入を含む4個超のミスマッチが含まれない)。第1のガイド鎖配列と第1のパッセンジャー鎖配列は、5~35塩基で分離されている。第1のガイド鎖配列、第1のパッセンジャー鎖配列、及びそれらを分離する配列はまとめて第1のヘアピンである。マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、標的mRNAに相補的な少なくとも19又は20又は21又は22個の連続した塩基を含む第2(ガイド鎖)配列と、第2のガイド鎖配列の逆相補鎖と78%以上同一の少なくとも19又は20又は21又は22個の塩基を含む第2(パッセンジャー鎖)配列とをさらに含む(即ち、19個の塩基の中には、対応するガイド鎖配列の一致する逆相補鎖と比較して、変異、一塩基欠失又は一塩基挿入を含む4個超のミスマッチが含まれない)。第2のガイド鎖配列と第2のパッセンジャー鎖配列は、5~35塩基で分離されている。第2のガイド鎖配列、第2のパッセンジャー鎖配列、及びそれらを分離する配列はまとめて第2のヘアピンである。第1のガイド鎖配列と第2ガイド鎖配列は、互いに異なるが、同じ標的mRNAに相補的である。
【0104】
マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、標的mRNAに相補的な少なくとも19又は20又は21又は22塩基の第3ガイド鎖配列と、第3ガイド鎖配列の逆相補鎖と78%以上同一の少なくとも19又は20又は21又は22塩基の第3パッセンジャー鎖配列とをさらに含んでもよい(即ち、19個の塩基の中には、対応するガイド鎖配列の一致する逆相補鎖と比較して、変異、一塩基欠失又は一塩基挿入を含む4個超のミスマッチが含まれない)。第3のガイド鎖配列と第3のパッセンジャー鎖配列は、5~35塩基で分離されている。第3のガイド鎖配列、第3のパッセンジャー鎖配列、及びそれらを分離する配列はまとめて第3のヘアピンである。第1及び第2及び第3ガイド鎖配列は、それぞれ同じ標的mRNAの異なる領域に相補的である。
【0105】
マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、哺乳類細胞で活性な、好ましくはRNAポリメラーゼII又はRNAポリメラーゼIIIによって転写可能なプロモーターをさらに含む。各ヘアピンは、プロモーターに作動可能に連結している。好ましくは、プロモーターは、ヘアピンに対して異種である。プロモーターがRNAポリメラーゼIIによって転写される場合、阻害性ポリヌクレオチドが、プロモーターに作動可能に連結されたスペーサーポリヌクレオチドをさらに含むことが有利であり、ここで、amiRNAヘアピンは、スペーサーポリヌクレオチドの3'UTRに配置されてもよいし、Pol IIプロモーターによって転写されるイントロンに配置されてもよい。スペーサーポリヌクレオチドは、発現可能なポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含んでもよく、又は発現可能なポリペプチドをコードしない配列を含んでもよい。好ましくは、スペーサーポリヌクレオチドは、50~3,000ヌクレオチドを含み、より好ましくは、スペーサーは、100~1,500ヌクレオチドを含む。任意に、スペーサーは、キメラ抗原受容体やセレクタブルマーカーなど、哺乳類細胞で発現されるオープンリーディングフレームを含む。スペーサーポリヌクレオチド配列の例は、配列番号723~724として示される。
【0106】
各ヘアピンは、ガイド鎖とパッセンジャー鎖の配列に加えて、ガイド鎖をプロセシング及びRISC複合体にロードする機会を増やすための、転写されたRNAのステムループ構造を強化するための配列を含んでもよい。図2A-Bに、例示的なマルチヘアピン型amiRNA遺伝子の模式図を示す。ガイド-ループ-パッセンジャーヘアピンを安定化させ、RISC複合体へのRNAのプロセシングを向上させるために、ガイド-ループ-パッセンジャーヘアピンの5'及び3'に短い配列(5~20塩基)を追加してもよい。これは図2A-Bにヘアピン1を安定化させる要素AとE、ヘアピン2を安定化させる要素GとKとして示されている。例えば、配列番号697を有する短い配列を、ガイド-ループ-パッセンジャーヘアピン配列の5'側に追加し、及び配列番号698を有する短い配列をガイド-ループ-パッセンジャーヘアピン配列の3'側に追加して、RNAヘアピン形成を促進してもよい。RNAヘアピン形成を促進するためのガイド-ループ-パッセンジャー鎖配列の5'側及び3'側にそれぞれ付加できるステム安定化配列の代替的な例示的な対は、配列番号699及び700、又は配列番号701及び702、又は配列番号703及び704、又は配列番号705及び706、又は配列番号709及び710、又は配列番号711及び712、又は配列番号713及び714、又は配列5'-GTAGCAC-3'の5'追加ステム及び配列5'-TACTGC-3'の3'追加ステムがある。これらのステム配列は、天然に存在するmiRNAにおけるmiRNA配列のガイド-ループ-パッセンジャーヘアピン部分を挟む配列に由来する。また、他のmiRNAの対応する配列を用いてもよい。本明細書で与えられる例示的な配列のほとんどは、ガイド鎖配列がパッセンジャー鎖配列に先行しているが、その順序は、図1A-Bに示すように、5'-ガイド-ループ-パッセンジャー-3'であってもよいし、5'-パッセンジャー-ループ-ガイド-3'であってもよい。RISC複合体にロードされる配列は、それらが存在する順序によって決定されるものではない。「ガイド-ループ-パッセンジャー」は、5'-ガイド-ループ-パッセンジャー-3'又は5'-パッセンジャー-ループ-ガイド-3'のいずれかの構成でこれらの3つの要素を含む配列を意味するように読めることが意図される。
【0107】
複数のヘアピンを含むポリヌクレオチドでは、ヘアピン間にある程度の分離を設けることが、RNAのプロセシングを向上させるために有利である(例えば、図2A-Bの例示的な要素Fを参照)。ヘアピンを分離する配列は、比較的構造化されていないことが望ましい。阻害性ポリヌクレオチドのヘアピン間に組み込まれ得る例示的な非構造化配列には、配列番号715~722で示される配列を含む。
【0108】
阻害性ポリヌクレオチドにおいて、第1のヘアピンの5'に何らかの非構造化配列を設けることは有利である。阻害性ポリヌクレオチドの第1ヘアピンの5'に組み込むことができる例示的な非構造化配列には、配列番号693~694で示される配列を含む。阻害性ポリヌクレオチドの最後のヘアピンの3'に何らかの非構造化配列を設けることは有利である。阻害性ポリヌクレオチドの最後のヘアピンの3'に組み込むことができる例示的な非構造化配列には、配列番号695~696で示される配列を含む。
【0109】
人工miRNAのいくつかの配列要素は、天然に存在するmiRNAに由来するが、本発明の各人工miRNAにおけるガイド、ループ及びパッセンジャー鎖配列の組み合わせ、又は本発明の各人工miRNAにおける5'及び3'ヘアピン安定化配列と一緒になったガイド、ループ及びパッセンジャー鎖配列の組み合わせは、天然に存在するmiRNAの配列ではない。
【0110】
マルチヘアピンamiRNA遺伝子の例示的な典型的な構造を図2A-Bに示す。これは、(i)以下の要素を作動可能に連結するプロモーター、(ii)好ましくは50~3,000ヌクレオチドのスペーサー配列、(iii)任意に天然に存在するmiRNAの5'領域から得られる非構造化配列、(iv)第1のヘアピンであって、(a)任意に天然に存在するmiRNAの5'ステム(但し、好ましくはガイド鎖又はパッセンジャー鎖配列ではない)に由来してもよい第1の5'ステム配列(図2A-B、要素A)、(b)第1のガイド(又はパッセンジャー)鎖配列(図2A-B、要素B)、(c)第1のループ配列(図2A-B、要素C)、(d)第1のパッセンジャー((b)の配列がガイド鎖配列であった場合)又はガイド((b)の配列がパッセンジャー鎖配列であった場合)鎖配列(図2A-B、要素D)、(e)任意に天然に存在するmiRNAの3'ステム(但し、好ましくはガイド鎖配列又はパッセンジャー鎖配列ではない)に由来してもよい第1の3'ステム配列(図2A-B、要素E)(ここで、第1の5'ステム配列及び第1の3'ステム配列が、第1のガイド鎖配列及び第1のパッセンジャー鎖配列によって形成されるヘアピンの安定性を向上させる)、を含む第1のヘアピン、(v)任意に第1のヘアピンを第2のヘアピンから分離する非構造化配列(図2A-B、要素F)、(vi)第2のヘアピンであって、(f)任意に天然に存在するmiRNAの5'ステム(但し、好ましくはガイド鎖又はパッセンジャー鎖配列ではない)に由来していてもよい第2の5'ステム配列(図2A-B、要素G)、(g)第2のガイド(又はパッセンジャー)鎖配列(図2A-B、要素H)、(h)第2のループ配列(図2A-B、要素I)、(j)第2のパッセンジャー((g)の配列がガイド鎖配列であった場合)又はガイド((g)の配列がパッセンジャー鎖配列であった場合)鎖配列(図2A-B、要素J)、(k)任意に天然に存在するmiRNAの3'ステム(但し、好ましくはガイド鎖配列又はパッセンジャー鎖配列ではない)に由来していてもよい第2の3'ステム配列(図2A-B、要素K)(ここで、第2の5'ステム配列及び第2の3'ステム配列が、第2のガイド鎖配列及び第2のパッセンジャー鎖配列によって形成されるヘアピンの安定性を向上させる)、を含む第2のヘアピン、を含み、ここで、第1のガイド鎖配列と第2のガイド鎖配列が、内因性の哺乳類細胞の遺伝子から発現される同一の標的mRNAに相補的であり、第1のガイド鎖配列と第2のガイド鎖配列が互いに異なるものである。
【0111】
阻害性ポリヌクレオチドは、一過性のベクター上、アデノウイルス関連ウイルスベクター(AAVベクター)などのウイルスベクター上、レンチウイルスベクター上、又はランダムな組み込みの過程を経て細胞のゲノムに組み込まれるベクター上のいずれかで、培養哺乳類細胞に組み込まれてもよい。マルチヘアピンamiRNA遺伝子を含む阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドをトランスポゾンに組み込み、対応するトランスポザーゼを用いてトランスポゾンの複数のコピーを哺乳類細胞のゲノムに挿入することにより、培養哺乳類細胞のゲノムに組み込まれるマルチヘアピンamiRNA遺伝子を含む阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドのコピーの数を増やすことができる。有利な阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドは、5.2.2項に記載されているように、2つのトランスポゾンエンドを含む。
【0112】
トランスポゾンエンドで挟まれたマルチヘアピンamiRNA遺伝子を含む阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドは、トランスポゾン及び対応するトランスポザーゼ(5.2.2項に記載)(トランスポザーゼ蛋白質として、又はトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドとして)を真核細胞に導入することにより、真核細胞のゲノムに安定的に組み込むことができる。任意に阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドは、セレクタブルマーカーをさらに含んでいてもよく、このマーカーは、ゲノムが阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチド及びマルチヘアピンamiRNA遺伝子を含む細胞を識別するために使用してもよい。また、これらの細胞を表現型で検査して、標的mRNAの発現がどの程度減少したかを判定してもよい。任意に標的mRNAの阻害により、選択可能な表現型が得られることもある。
【0113】
同じ標的mRNAに相補的なガイド鎖を発現させるために、2つ以上のamiRNAヘアピンを単一のポリヌクレオチドに組み込むことが好ましいが、代わりに、2つの別々の阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを用いて、同じ標的mRNAの異なる標的部位に相補的な2つ以上のamiRNAガイド鎖を同じ中に発現させることができる(但し、両方のポリヌクレオチドが培養哺乳類細胞のゲノムに組み込まれることが条件である)。好ましくは、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドは、トランスポゾンエンド又はレンチウイルスリピートを含む。ゲノムが第1及び第2のamiRNAヘアピンを含む培養哺乳類細胞であって、ここで、第1及び第2のガイド鎖配列が、同じmRNAの第1及び第2の標的部位に相補的であり、第1及び第2のガイド鎖配列が互いに異なる培養哺乳類細胞も本発明の一態様である。好ましくは、mRNAをコードする標的遺伝子の発現が、ゲノムが第1のamiRNAヘアピン又は第2のamiRNAヘアピンのみを含む培養哺乳類コントロール細胞における標的遺伝子の発現レベルよりも低いレベルまで低下する。
【0114】
マルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムが含んでいる細胞は、標的mRNAがコードする遺伝子の活性を恒久的に低減又は消失させ得る。そして、そのような細胞は、標的mRNAの直接的又は間接的な作用の結果として改変され得る分子を生産するために有用であり、価値がある。そのような生産された分子には、蛋白質、糖、代謝物、及び他の細胞生成物が含まれ得る。阻害性ポリヌクレオチドによって改変され得る哺乳類細胞の表現型には、蛋白質のグリコシル化、蛋白質の細胞内輸送、蛋白質の蛋白質分解切断、細胞が増殖するために特定の栄養素が提供される必要性、及び様々な条件下で細胞が生存する能力を含む。阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドによって改変され得る免疫細胞の表現型には、免疫細胞の増殖、生存、長寿、アネルギー、及び疲弊を含む。
【0115】
5.2.5 インシュレーター要素
異種ポリヌクレオチドを哺乳類細胞のゲノムに組み込む場合、異種ポリヌクレオチド内の遺伝子要素が内因性免疫細胞遺伝子の発現に影響を与えることを防ぐことはしばしば望ましい。同様に、異種ポリヌクレオチド内の遺伝子が免疫細胞ゲノム内の要素の影響を受けること、例えば、ヘテロクロマチンに組み込まれることでサイレンシングされることを防ぐことはしばしば望ましい。インシュレーター要素は、エンハンサーブロッキング活性(異種ポリヌクレオチド内の遺伝子が内因性免疫細胞遺伝子の発現に影響を及ぼすのを防ぐのに役立つ)及びバリアー活性(異種ポリヌクレオチド内の遺伝子がヘテロクロマチンに組み込まれてサイレンシングされることを防ぐのに役立つ)を有することが知られている。エンハンサーブロッキング活性は、転写抑制因子CTCF蛋白質の結合に起因し得る。バリアー活性は、USF1やVEZF1のような脊椎動物のバリアー蛋白質の結合に起因し得る。有用なインシュレーター配列は、CTCF、USF1又はVEZF1の結合部位を含む。有利な遺伝子導入システムは、CTCF、USF1又はVEZF1の結合部位を含むインシュレーター配列を含むポリヌクレオチドを含む。より好ましくは、CTCF、USF1又はVEZF1の結合部位をそれぞれ含む2つのインシュレーター配列を含むポリヌクレオチドを含む遺伝子導入システムであり、ここで、2つのインシュレーター配列は、異種ポリヌクレオチド内の任意のプロモーター又はエンハンサーを挟む。インシュレーター配列の有利な例は、配列番号993~999で示される。
【0116】
プロモーターやエンハンサーを含む異種ポリヌクレオチドが、インシュレーター配列なしに哺乳類細胞のゲノムに組み込まれた場合、異種ポリヌクレオチド内のプロモーターやエンハンサー要素が内因性免疫細胞遺伝子(例えば、がん遺伝子)の発現に影響を及ぼすか、異種ポリヌクレオチド内のプロモーターやエンハンサー要素がヘテロクロマチンに組み込まれてサイレンシングされるリスクがある。異種ポリヌクレオチドがランダムなフラグメント化を経て標的ゲノムに組み込まれると、いくつかの遺伝的要素がしばしば失われ、また他の要素が再配列されることもある。そのため、異種ポリヌクレオチドがエンハンサー要素やプロモーター要素を挟むインシュレーター要素を含む場合、インシュレーター要素が再配列又は消失し得、エンハンサー要素やプロモーター要素が組み込み先のゲノム環境に影響を与えたり、影響を受けたりし得るという顕著なリスクがある。従って、トランスポゾン遺伝子導入システムを使用するのが有利であり、このとき、2つのトランスポゾンITRの間の全配列は、再配列されることなく、免疫細胞のゲノムに組み込まれる。そのため、免疫細胞のゲノムに組み込むために有利な遺伝子導入システムは、左トランスポゾンエンド、第1のインシュレーター配列、免疫細胞内で発現させるための配列、第2のインシュレーター配列、右トランスポゾンエンドの順序で要素が配置されたトランスポゾンを含む。免疫細胞内で発現させるための配列は、任意の数のオープンリーディングフレームに作動可能に連結された任意の数の制御配列を含んでもよい。
【0117】
5.2.6 キメラ抗原受容体要素
キメラ抗原受容体(CAR)は、(細胞外)抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、及び1つ以上の(細胞内)共刺激/シグナリング領域を含む。
【0118】
抗原結合ドメインは、抗原を特異的に認識する一本鎖可変フラグメント(scFv)に由来するものであってもよい。scFvは、典型的には、抗体の重鎖及び軽鎖、又はT細胞受容体の可変ドメインに由来する。
【0119】
また膜貫通ドメインは、膜貫通蛋白質に由来するものであってもよい。例えば、CD8、CD28、誘導性T細胞共刺激因子(ICOS)、DNAXアクセサリー分子1(DNAM-1)、細胞傷害性Tリンパ球関連蛋白質4(CTLA-4)、シグナリングリンパ球活性化分子1(SLAM-1)、T細胞免疫グロブリンムチンドメイン1(TIM-1)、インターフェロン受容体A1又はA2などのインターフェロン受容体、TNFRSF4 (OX40)、TNFRSF5 (CD40)、TNFRSF5 (CD27)、TNFRSF11A (RANK)、TNFRSF13B (CD267)、TNFRSF9 (4-1BB)、TNFRSF13C (CD268)、TNFRSF14 (CD270)、TNFRSF17 (CD269)、TNFRSF18 (GITR)、 TNFRSF3 (CD18)、TNFRSF6 (Fas)、TNFRSF8 (CD30)、TNFRSF10A (デス受容体4)、TNFRSF10B (デス受容体5)、TNFRSF19 (TROY)、TNFRSF21 (DR6)、及びTNFRSF25 (DR3)などの腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーのメンバーを含む。例示的な膜貫通ドメイン配列は、配列番号1124~1150で示される。
【0120】
細胞内ドメインは、T細胞を刺激する効果を有する蛋白質の細胞内ドメインからの配列を含んでもよい。例えば、CD28、誘導性T細胞共刺激因子(ICOS)、TNFRSF4 (OX40)、TNFRSF5 (CD40)、TNFRSF11A (RANK)、TNFRSF13B (CD267)、TNFRSF9 (4-1BB)、TNFRSF13C (CD268)、TNFRSF14 (CD270)、 TNFRSF17 (CD269)、TNFRSF18 (GITR)などの腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーのメンバー、DNAXアクセサリー分子1 (DNAM-1)、シグナリングリンパ球活性化分子1 (SLAM-1)、T細胞免疫グロブリンムチンドメイン1 (TIM-1)、及びCD3ゼータドメインを含む。例示的な刺激的ドメイン配列は、配列番号1151~1172で示される。
【0121】
5.2.7 遺伝子導入ポリヌクレオチドを含む標的細胞の選択
遺伝子導入ポリヌクレオチドがセレクタブルマーカーをコードする遺伝子を含む場合、セレクタブルマーカーを発現する細胞に有利な条件(「選択条件」)に標的細胞を曝すことにより、安定的に組み込まれた遺伝子導入ポリヌクレオチドを含むゲノムを有する標的細胞を同定できる。従って、遺伝子導入ポリヌクレオチドがセレクタブルマーカーをコードする遺伝子を含んでいることは有益であり得る。
【0122】
遺伝子導入ポリヌクレオチドに有利に組み込むことができるセレクタブルマーカーの1つのクラスは、ネオマイシン(アミノグリコシド3'-ホスホトランスフェラーゼ、例えば、配列番号878~881から選択される配列を有するポリペプチドによってもたらされる耐性)、ピューロマイシン(ピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼ、例えば、配列番号884~886から選択される配列を有するポリペプチドによってもたらされる耐性)、ブラストサイジン(ブラストサイジンアセチルトランスフェラーゼ及びブラストサイジンデアミナーゼ、例えば、配列番号887で示される配列を有するポリペプチドによってもたらされる耐性、)、ハイグロマイシンB(ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ、例えば、配列番号882~883から選択される配列を有するポリペプチドによってもたらされる耐性、及びゼオシン(ble遺伝子によってコードされる結合蛋白質、例えば、配列番号875で示される配列を有するポリペプチドによってもたらされる耐性)などの抗生物質、酵素阻害剤、又は細胞毒などの有害物質の存在下で細胞を生存させることにより、細胞の増殖を有利にするものである。
【0123】
遺伝子導入ポリヌクレオチドに有利に組み込むことができる別のクラスのセレクタブルマーカーは、細胞が代謝的に有用な物質を合成することによって細胞に増殖の利点を与えるものである。このようなセレクタブルマーカーの一例として、グルタミン代謝を介した選択を可能にするグルタミン合成酵素(GS、例えば、配列番号888~892から選択される配列を有するポリペプチド)を含む。グルタミン合成酵素は、グルタメートとアンモニアからグルタミンを生合成する酵素であり、哺乳類細胞におけるグルタミン形成の唯一の経路の重要な構成要素である。培養液中にグルタミンが存在しない場合、GS酵素は培養中の哺乳類細胞の生存に不可欠である。例えば、マウスのミエローマ細胞のように、添加グルタミンがなくても生存できるだけのGS酵素を発現していない細胞株もある。このような細胞では、導入されたGS遺伝子はグルタミンを含まない培地での培養を可能にすることによってセレクタブルマーカーとして機能できる。他の細胞株、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞では、外からの添加グルタミンなしで生存するのに十分なGS酵素を発現している。この細胞株は、CRISPR/Cas9などのゲノム編集技術を用いて、GS酵素の活性を低下又は除去できる。これらのいずれの場合も、メチオニンスルホキシミン(MSX)などのGS阻害剤を用いて、細胞の内因性GS活性を阻害できる。選択プロトコルには、第1のポリペプチドとグルタミン合成酵素セレクタブルマーカーをコードする配列を含む遺伝子導入ポリヌクレオチドを導入した後、メチオニンスルホキシミンなどのグルタミン合成酵素の阻害剤で細胞を処理することを含む。使用するメチオニンスルホキシミンのレベルが高いほど、細胞が生存するために十分なグルタミンを合成するために必要なグルタミン合成酵素の発現レベルが高くなる。また、これらの細胞のいくらかは、第1のポリペプチドの発現量の増加を示す。
【0124】
好ましくは、GS遺伝子は、本明細書に記載されているように、弱いプロモーター又は発現を弱める他の配列要素に作動可能に連結されており、遺伝子導入ポリヌクレオチドの多くのコピーが存在するか、又は高レベルの発現が起こるゲノムの位置に組み込まれている場合にのみ、高レベルの発現が起こり得るようになっている。そのような場合には、阻害剤であるメチオニンスルホキシミンを使用する必要はないかもしれず、グルタミン合成酵素の発現が弱められていれば、細胞の生存に必要なだけのグルタミンを合成するだけで、十分に厳しい選択ができ得る。
【0125】
細胞が代謝的に有用な物質を合成できるようにすることで、細胞に増殖上の利点を与えるために、遺伝子導入ポリヌクレオチドに有利に組み込むことができるセレクタブルマーカー遺伝子の別の例としては、5,6-ジヒドロ葉酸(DHF)から5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸(THF)への還元を触媒するために必要なジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR、例えば、配列番号876~877から選択される配列を有するポリペプチド)をコードする遺伝子を含む。細胞株の中には、ヒポキサンチンとチミジン(HT)を加えないと生存できないほど十分なDHFRを発現していないものがある。このような細胞では、トランスフェクトされたDHFR遺伝子が、ヒポキサンチンとチミジンを含まない培地での増殖を可能にすることで、セレクタブルマーカーとして機能する。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などのDHFR欠損細胞株は、CRISPR/Cas9などのゲノム編集技術を用いて、内因性のDHRF酵素の活性を低下又は除去することで作製できる。DHFRは、メトトレキサート(MTX)に対する耐性を付与する。DHFRは、より高レベルのメトトレキサートによって阻害され得る。選択プロトコルには、第1のポリペプチドをコードする配列及びDHFRセレクタブルマーカーを含むコンストラクトを、内因性DHFR遺伝子を有する又は有さない細胞に導入し、次に、メトトレキサートなどのDHFRの阻害剤で細胞を処理することを含む。使用するメトトレキサートのレベルが高いほど、細胞が生存するために十分なDHFRを合成するために必要なDHFRの発現レベルも高くなる。また、これらの細胞のいくらかは、第1のポリペプチドの発現量の増加を示す。好ましくは、DHFR遺伝子は、上述のように、弱いプロモーター又は発現を弱める他の配列要素に作動可能に連結されており、遺伝子導入ポリヌクレオチドの多くのコピーが存在するか、又は高レベルの発現が起こるゲノムの位置に組み込まれている場合にのみ、高レベルの発現が起こり得るようになっている。
【0126】
セレクタブルマーカーの別のクラスには、視覚的に検出されてから選択され得るが、細胞に本質的な増殖の利点を提供しないものを含む。例えば、蛍光蛋白質や発色蛋白質(例えば、GFPやRFPをコードする遺伝子など)があり、フローサイトメトリーを使用することなどで選択できる。また、フローサイトメトリーを用いて膜貫通蛋白質の存在を選択できるように蛍光標識された第2の分子(蛋白質又は低分子)に結合できる膜貫通蛋白質をコードする遺伝子など、細胞の増殖に本質的な利点をもたらさないセレクタブルマーカーがある。他のセレクタブルマーカーには、ルシフェラーゼをコードする遺伝子がある。
【0127】
高レベルの発現は、転写活性の高いゲノムの領域に組み込まれているか、複数のコピーでゲノムに組み込まれているか、複数のコピーで染色体外に存在している遺伝子導入ポリヌクレオチドにコードされている遺伝子から得られ得る。セレクタブルマーカーをコードする遺伝子を、遺伝子導入ポリヌクレオチドからの選択可能なポリペプチドの発現量が低くなるような発現制御要素に作動可能に連結すること、及び/又はより厳格な選択を行う条件を使用することは、しばしば有利である。これらの条件の下で、発現細胞が遺伝子導入ポリヌクレオチドにコードされた選択可能なポリペプチドを十分なレベルで生産し、選択条件に耐えるためには、遺伝子導入ポリヌクレオチドが細胞のゲノム上で高レベルの発現に有利な位置に存在するか、又は遺伝子導入ポリヌクレオチドのコピー数が十分に多く存在する必要があり、これらの要因は発現制御要素のために達成可能な低レベルの発現を補償することができる。
【0128】
セレクタブルマーカーが、そのマーカーを弱くしか発現しない発現制御要素に作動可能に連結しているトランスポゾンのゲノム組み込みは、通常、トランスポザーゼによってトランスポゾンを標的ゲノムに挿入することを必要とする。セレクタブルマーカーを弱く発現する要素に作動可能に連結することで、トランスポゾンの複数のコピーを組み込んだ細胞や、トランスポゾンが高発現に適したゲノム上の位置に組み込まれた細胞が選択される。トランスポゾンとそれに対応するトランスポザーゼを含む遺伝子導入システムを用いることで、トランスポゾンが複数コピー組み込まれた細胞や、トランスポゾンが高発現に適したゲノム上の位置に組み込まれた細胞が得られる可能性が高くなる。トランスポゾンとそれに対応するトランスポザーゼを含む遺伝子導入システムは、従って、トランスポゾンが弱いプロモーターに作動可能に連結されたセレクタブルマーカーを含む場合、特に有利である。
【0129】
遺伝子導入ポリヌクレオチドから発現する遺伝子は、セレクタブルマーカーと同じ遺伝子導入ポリヌクレオチド上に含まれていてもよく、2つの遺伝子は異なるプロモーターに作動可能に連結していてもよい。この場合、ホスホグリセロキナーゼ(PGK)プロモーター(例えば、配列番号966~974又は1188から選択されるプロモーター)、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)プロモーター(例えば、配列番号977)、MC1プロモーター(例えば、配列番号978)、ユビキチンプロモーター(例えば、配列番号975)などの弱い活性の構成的プロモーターを使用することにより、セレクタブルマーカーの低い発現レベルを達成することができる。他の弱い活性のプロモーター、例えば、切断によって弱められたプロモーター、例えば、シミアンウイルス40(SV40)由来の切断されたプロモーター(例えば、配列番号979~980)、又は切断されたHSV-TKプロモーター(例えば、配列番号976又は982)などを意図的に構築できる。
【0130】
また、セレクタブルマーカーの発現は、例えば、セレクタブルマーカーの3'UTRにamiRNAヘアピンを組み込むことにより、mRNAを不安定にすることで低下し得る。GFP遺伝子の3'UTRに複数のmiRNAヘアピンを挿入すると、miRNAがGFPを標的としていないにもかかわらず、GFPの発現は低下し得る(Sun et al., 2006. Multi-miRNA hairpin method that improves gene knockdown efficiency and provides linked multi-gene knockdown. BioTechniques 41:59-63 doi 10.2144/000112203)。これは、miRNAのプロセシングにより、遺伝子のポリAテールなどの安定化する3'UTR構造が除去されるためと考えられる。従って、セレクタブルマーカーの発現レベルは、セレクタブルマーカーをコードする遺伝子の3'UTRにmiRNAヘアピン配列を挿入することによって有利に低下し、それによって遺伝子導入ポリヌクレオチドにコードされる他の遺伝子の生産性を高めることができる。代謝酵素をコードする遺伝子の3'UTRにamiRNAヘアピンを挿入することで、同じ遺伝子導入ポリヌクレオチドにコードされる他の遺伝子の収量が増加する例を、6.1.2.1項及び6.1.2.2項に示す。2つ又は3つのamiRNAヘアピンを含むと、1つのamiRNAヘアピンを含む場合に比べて、遺伝子導入ポリヌクレオチドにコードされている他の遺伝子の発現レベルが大幅に高くなる。また、2つ及び3つのヘアピンは、標的遺伝子を阻害するためにより効果的である。有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、Pol IIプロモーターに作動可能に連結されたセレクタブルマーカーをコードする遺伝子を含み、さらにセレクタブルマーカーの3'UTRに第1及び第2のamiRNAヘアピンを含む。好ましくは、第1のamiRNAヘアピンは、mRNA標的に相補的な少なくとも19又は20又は21又は22個の連続した塩基を含む第1のガイド鎖配列を含み、且つ第2のamiRNAヘアピンは、第1のガイド鎖配列と同じmRNA標的内の異なる配列に相補的な少なくとも19又は20又は21又は22個の連続した塩基を含む第2のガイド鎖配列を含む。好ましくは、第1のガイド鎖配列は、第2のガイド鎖配列とは異なる。任意に、遺伝子導入ポリヌクレオチドは、セレクタブルマーカーの3'UTRに第3のamiRNAヘアピンを含み、第3のamiRNAヘアピンは、同じmRNA標的内の異なる配列に相補的な少なくとも19又は20又は21又は22個の連続する塩基の第3のガイド鎖配列を含み、ここで、第3のガイド鎖配列は、第1及び第2のガイド鎖配列と異なる。好ましくは、セレクタブルマーカーは、例えば、細胞が代謝的に有用な物質を合成できるようにする、又は抗生物質、酵素阻害剤、細胞毒などの有害物質の存在下で生存できるようにすることにより、細胞に増殖上の利点を与える。好ましくは、セレクタブルマーカーは、蛍光蛋白質又は発色蛋白質又は蛍光反応又は発色反応を触媒する蛋白質以外のもので、細胞に直接利益をもたらさないものであることが望ましい。
【0131】
有利なセレクタブルマーカー遺伝子は、弱いプロモーター、例えば、配列番号966~982から選択される配列に作動可能に連結している、配列番号875~892から選択される配列に対して少なくとも90%同一の配列を有するポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含む。任意に、プロモーターとグルタミン合成酵素オープンリーディングフレームとの間に減弱性5'UTR、例えば、配列番号983~986から選択される配列が存在する。セレクタブルマーカー遺伝子の3'UTRは、オープンリーディングフレームとポリアデニル化配列との間にあるマルチヘアピンamiRNA配列を含む。好ましくは、セレクタブルマーカー遺伝子はトランスポゾンの一部であり、対応するトランスポザーゼによって転移できる。
【0132】
トランスポゾンとトランスポザーゼを弱く発現したセレクタブルマーカーと組み合わせて使用することは、非トランスポゾンのコンストラクトに比べていくつかの利点がある。1つは、トランスポゾン上のセレクタブルマーカーの発現と他の遺伝子との連結性が非常に高いことである。トランスポザーゼは、2つのトランスポゾンエンドの間にある配列全体をゲノムに組み込むためである。一方、異種DNAが真核細胞、例えば、哺乳類の細胞の核に導入されると、徐々にランダムなフラグメントに分解され、細胞のゲノムに組み込まれるか、分解されるかのどちらかになる。従って、発現させる配列とセレクタブルマーカーを含む遺伝子導入ポリヌクレオチドを細胞集団に導入した場合、一部の細胞はセレクタブルマーカーをコードする配列を組み込むが、発現させる他の配列をコードする配列は組み込まず、その逆も同様である。このような状況では、セレクタブルマーカーを高レベルで発現している細胞の選択は、他の発現させる遺伝子も高レベルで発現している細胞と多少の相関関係があるだけである。対照的に、トランスポザーゼはトランスポゾンエンドの間の全ての配列を組み込むため、高レベルのセレクタブルマーカーを発現する細胞は、他の発現される遺伝子も高レベルで発現する可能性が高い。
【0133】
トランスポゾンとトランスポザーゼの2つ目の利点は、DNA配列をゲノムに組み込む効率が非常に高いことである。そのため、遺伝子導入ポリヌクレオチドの1つ以上のコピーをゲノムに組み込む細胞集団の割合が非常に高くなり、それに伴い、セレクタブルマーカーと第1のポリペプチドの両方が良好に発現する可能性が高くなる。
【0134】
piggyBac様トランスポゾンとトランスポザーゼの第3の利点は、piggyBac様トランスポザーゼが、対応するトランスポゾンを転写活性のあるクロマチンに挿入することに偏っていることである。そのため、各細胞は、遺伝子がよく発現しているゲノム領域に遺伝子導入ポリヌクレオチドを組み込む可能性が高く、その結果、セレクタブルマーカーと第1のポリペプチドの両方が良好に発現する可能性が高くなる。
【0135】
5.3 分泌蛋白質のフコシル化を阻害するマイクロRNA
抗体のフコシル化は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を阻害する。そのため、RNA干渉を用いて培養哺乳類細胞のコアフコシル化を抑制する試みがなされている(フコシルトランスフェラーゼ8(FUT8)(N-結合型糖鎖の最初のN-アセチルグルコサミンへのα1,6結合フコースの転移を触媒する酵素)を標的とすることを含む)。Moriらは、FUT8に対する2つのsiRNAを同定し、siRNA非存在下では10%の脱フコシル化(afucosylated)が見られたのに対し、分泌された抗体の60%が脱フコシル化されることを明らかにした(Mori et. al., 2004. Engineering Chinese hamster ovary cells to maximize effector function of produced antibodies using FUT8 siRNA. Biotechnol Bioeng. 88:901-8.)。Beugerらは、88%もの脱フコシル化抗体を生産できるFUT8標的shRNAを同定した(Beuger et. al.、 2009. Short-hairpin-RNA-mediated silencing of fucosyltransferase 8 in Chinese-hamster ovary cells for the production of antibodies with enhanced antibody immune effector function. Biotechnol Appl Biochem. 53:31-7)。米国特許6946292、7737325、7749753、7846725及び8003781には、RNA干渉を用いた、GDP-マンノース4、6-デヒドラターゼ(GMD)、アルファ-(1、6)-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8)及びGDP-フコーストランスポーター1(GFT)を含むフコシル化経路の1つ以上の遺伝子を阻害する戦略が記載されている。Imai-Nishiyaらは、FUT8及びGDP-マンノース4、6-デヒドラターゼ(GMD)を標的とした2つのsiRNA分子を設計し、培地中にフコースが存在しない場合には、フコシル化を完全に消失させることができた(Imai-Nishiya et. al.、 2007. Double knockdown of α1、6-fucosyltransferase (FUT8) and GDP-mannose 4、6-dehydratase (GMD) in antibody-producing cells: a new strategy for generating fully non-fucosylated therapeutic antibodies with enhanced ADCC. BMC Biotechnology 2007、 7:84)。しかし、フコースの存在は、これら2つの遺伝子のノックダウンの相乗効果を損なう。また、miR-122やmiR-34aなど、FUT8を標的とする天然のマイクロRNAも同定されているが(Bernardi C. et. al., 2013. Effects of MicroRNAs on Fucosyltransferase 8 (FUT8) Expression in Hepatocarcinoma Cells. PLoS ONE 8(10): e76540. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0076540)、これらのマイクロRNAの効果は控えめなものであった。
【0136】
上に挙げたRNA干渉の例の多くでは、表面分子がフコシル化した細胞を死滅させるレンズクリナリスアグルチニン(Lens culinaris agglutinin)などのフコース特異的レクチンで細胞を処理することで、脱フコシル化レベルの高い細胞を選択している。これは、個のsiRNA配列の有効性が100%未満であり、siRNAを発現する遺伝子を細胞内に導入した場合、発現レベルのばらつきが細胞間の顕著なばらつきにつながるためである。この限界を克服するために、我々は、同一の標的mRNA(FUT8のmRNA)内の異なる配列に相補的な1本、2本又は3本のガイド鎖配列を含むマルチヘアピン型のamiRNA遺伝子を設計した。また、amiRNA遺伝子がゲノムの転写活性領域に確実に組み込まれるように、piggyBac様トランスポゾンベクターを使用した。
【0137】
6.1.1項(6.1.1.1項、6.1.1.2項、及び6.1.1.3項を含む)に記載の実施例では、CHO FUT8の3'UTRに相補的なガイド鎖配列を持つマルチヘアピンamiRNAを含むトランスポゾンをCHOゲノムに組み込むと、細胞が生産する抗体のフコース(高感度質量分析法で検出)が完全に欠如することが示された。これまでに報告されている方法とは対照的に、フコシル化された蛋白質をまだ生産している細胞を殺すための、その後のレクチンを用いた選択は必要なかった。細胞は、マルチヘアピンのamiRNA遺伝子を含むトランスポゾンをゲノムに組み込むためだけに選択された。同一の標的mRNA内の複数の異なる配列を標的とする複数のガイド鎖配列の有効性と、トランスポザーゼを触媒とする高効率のトランスポゾンの哺乳類ゲノムへの組み込みを組み合わせることにより、結果として、さらなる選択工程を経ることなく、細胞集団全体で検出可能な標的酵素の発現を消失させることができた。この実施例で使用した各マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号1に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含んでいた。各マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号1に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド鎖配列は互いに異なるものであった。各マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号1に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のガイド鎖配列と、第3のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列とをさらに含み、ここで、第1、第2及び第3のガイド鎖配列はすべて互いに異なるものであった。各ガイド鎖配列は、それぞれのパッセンジャー鎖配列から5~35塩基の間で分離された。マルチヘアピンamiRNA配列番号724及び726では、各ガイド鎖配列は、配列番号683を含む配列によって、それぞれのパッセンジャー鎖配列から分離された。マルチヘアピンamiRNA 配列番号727では、各ガイド鎖配列は、配列番号684を含む配列によって、それぞれのパッセンジャー鎖配列から分離された。
【0138】
ハムスター細胞におけるフコシル化の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、FUT8阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。FUT8阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号1に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含む。FUT8阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号1に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド鎖配列は互いに異なる。FUT8阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号1に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のガイド鎖配列と、第3のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド鎖配列はすべて互いに異なる。各ガイド鎖配列は、それぞれのパッセンジャー鎖配列から5~35塩基の間で分離されている。ガイド鎖配列をそのパッセンジャー鎖配列から分離するための例示的な配列は、配列番号683~692から選択される配列を含む配列である。ハムスターFUT8を阻害するための例示的なガイド鎖配列及びそのそれぞれのパッセンジャー鎖配列は、配列番号75及び379、配列番号76及び380、配列番号77及び381、配列番号78及び382、配列番号79及び配列番号383、並びに80及び384である。
【0139】
ハムスター細胞におけるフコシル化の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、GMD阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。GMD阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号3に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含む。GMD阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号3に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド鎖配列は互いに異なる。GMD阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号3に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のガイド鎖配列と、第3のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド鎖配列はすべて互いに異なる。各ガイド鎖配列は、それぞれのパッセンジャー鎖配列から5~35塩基の間で分離されている。ガイド鎖配列をそのパッセンジャー鎖配列から分離するための例示的な配列は、配列番号683~692から選択される配列を含む配列である。ハムスターGMDを阻害するための例示的なガイド鎖配列及びそのそれぞれのパッセンジャー鎖配列は、配列番号87及び391、配列番号88及び392、配列番号89及び393、配列番号90及び394、配列番号91及び395、及び配列番号92及び396である。
【0140】
ハムスター細胞におけるフコシル化の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、GFT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。GFT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号5に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含む。GFT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号5に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド鎖配列は互いに異なる。GFT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号5に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のガイド鎖配列と、第3のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド鎖配列はすべて互いに異なる。各ガイド鎖配列は、それぞれのパッセンジャー鎖配列から5~35塩基の間で分離されている。ガイド鎖配列をそのパッセンジャー鎖配列から分離するための例示的な配列は、配列番号683~692から選択される配列を含む配列である。ハムスターGFTを阻害するための例示的なガイド鎖配列及びそのそれぞれのパッセンジャー鎖配列は、配列番号93及び397、配列番号94及び398、配列番号95及び399、配列番号96及び400、配列番号97及び401、及び配列番号98及び402である。
【0141】
ハムスター細胞におけるフコシル化を阻害するために有利な阻害性ポリヌクレオチドは、天然の哺乳類細胞のmRNAに完全に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列に少なくとも78%相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含み、ここで、第1のガイド鎖及び第1のパッセンジャー鎖配列は、5~35個のヌクレオチドで分離され、第1のガイド鎖配列と同じ天然の哺乳類細胞のmRNAに完全に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列に少なくとも78%相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とを含み、ここで、第2のガイド鎖及び第2のパッセンジャー鎖配列は、5~35個のヌクレオチドで分離され、第1のガイド鎖配列及び第2のガイド鎖配列は、互いに異なり、天然の哺乳類細胞のmRNAは、配列番号1~6から選択される配列に対して少なくとも98%同一、又は少なくとも99%同一、又は完全に同一である配列を含む。ハムスター細胞におけるフコシル化の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNAは配列番号725~733を含む。
【0142】
ヒト細胞におけるフコシル化の阻害のための有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、FUT8阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。FUT8阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号7に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含む。FUT8阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号7に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド鎖配列は互いに異なる。FUT8阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号7に相補的な連続する19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のガイド鎖配列と、第3のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続する19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド鎖配列はすべて互いに異なる。各ガイド鎖配列は、それぞれのパッセンジャー鎖配列から5~35塩基の間で分離されている。ガイド鎖配列をそのパッセンジャー鎖配列から分離するための例示的な配列は、配列番号683~692から選択される配列を含む配列である。ヒトFUT8を阻害するための例示的なガイド鎖配列及びそのそれぞれのパッセンジャー鎖配列は、配列番号81及び385、配列番号82及び386、配列番号83及び387、配列番号84及び388、配列番号85及び389、及び配列番号86及び390である。
【0143】
ヒト細胞におけるフコシル化の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、GMD阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。GMD阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号8に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含む。GMD阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号8に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド鎖配列は互いに異なる。GMD阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号8に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のガイド鎖配列と、第3のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド鎖配列はすべて互いに異なる。各ガイド鎖配列は、それぞれのパッセンジャー鎖配列から5~35塩基の間で分離されている。ガイド鎖配列をそのパッセンジャー鎖配列から分離するための例示的な配列は、配列番号683~692から選択される配列を含む配列である。ヒトGMDを阻害するための例示的なガイド鎖配列及びそのそれぞれのパッセンジャー鎖配列は、配列番号99及び403、配列番号100及び404、並びに配列番号101及び405である。
【0144】
ヒト細胞におけるフコシル化の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、GFT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。GFT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号9に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含む。GFT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号9に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド鎖配列は互いに異なる。GFT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号9に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のガイド鎖配列と、第3のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド鎖配列はすべて互いに異なる。各ガイド鎖配列は、それぞれのパッセンジャー鎖配列から5~35塩基の間で分離されている。ガイド鎖配列をそのパッセンジャー鎖配列から分離するための例示的な配列は、配列番号683~692から選択される配列を含む配列である。ヒトGFTを阻害するための例示的なガイド鎖配列及びそのそれぞれのパッセンジャー鎖配列は、配列番号102及び406、配列番号103及び407、並びに配列番号104及び408である。
【0145】
ヒト細胞におけるフコシル化を阻害するために有利な阻害性ポリヌクレオチドは、天然の哺乳類細胞のmRNAに完全に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列に少なくとも78%相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含み、ここで、第1のガイド鎖及び第1のパッセンジャー鎖配列は、5~35個のヌクレオチドで分離され、第1のガイド鎖配列と同じ天然の哺乳類細胞のmRNAに完全に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列に少なくとも78%相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とを含み、ここで、第2のガイド鎖及び第2のパッセンジャー鎖配列は、5~35個のヌクレオチドで分離され、第1のガイド鎖配列及び第2のガイド鎖配列は、互いに異なり、天然の哺乳類細胞のmRNAは、配列番号7~9から選択される配列に対して少なくとも98%同一、又は少なくとも99%同一、又は完全に同一である配列を含む。ヒト細胞におけるフコシル化を阻害するための例示的なマルチヘアピンamiRNAは配列番号734~736を含む。
【0146】
5.4 分泌蛋白質の細胞内輸送を調節するマイクロRNA
リソゾームへの蛋白質の輸送にはいくつかの経路がある。培養哺乳類細胞を用いて、通常リソゾームに輸送される蛋白質を異種生産する場合、異種蛋白質のリソゾームへの輸送は、その分泌と競合するだけでなく、リソゾームを詰まらせ、培養哺乳類細胞の健康(及び生産性)を損ねるリスクがある。リソゾームへの蛋白質の輸送に関与することが示されている2つの蛋白質は、ソルチリンとプロサポシンである。マルチヘアピンamiRNAでこれら2つの蛋白質の発現を阻害することで、リソゾームへの蛋白質の輸送を調節できる。
【0147】
ハムスター細胞における細胞内蛋白質輸送を調節するために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、プロサポシン阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。プロサポシン阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号10に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含む。プロサポシン阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号10に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド鎖配列は互いに異なる。プロサポシン阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号10に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のガイド鎖配列と、第3のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド鎖配列はすべて互いに異なる。各ガイド鎖配列は、それぞれのパッセンジャー鎖配列から5~35塩基の間で分離されている。ガイド鎖配列をそのパッセンジャー鎖配列から分離するための例示的な配列は、配列番号683~692から選択される配列を含む配列である。ハムスタープロサポシンを阻害するための例示的なガイド鎖配列及びそのそれぞれのパッセンジャー鎖配列は、配列番号105及び409、配列番号106及び410、並びに配列番号107及び411である。
【0148】
ハムスター細胞における細胞内蛋白質輸送を調節するために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、ソルチリン阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。ソルチリン阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号11に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含む。ソルチリン阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号11に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド鎖配列は互いに異なる。ソルチリン阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号11に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のガイド鎖配列と、第3のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド鎖配列はすべて互いに異なるものである。各ガイド鎖配列は、それぞれのパッセンジャー鎖配列から5~35塩基の間で分離されている。ガイド鎖配列をそのパッセンジャー鎖配列から分離するための例示的な配列は、配列番号683~692から選択される配列を含む配列である。ハムスターソルチリンを阻害するための例示的なガイド鎖配列及びそのそれぞれのパッセンジャー鎖配列は、配列番号108及び412、配列番号109及び413、並びに配列番号110及び414である。
【0149】
ハムスター細胞における細胞内蛋白質輸送を調節するために有利な阻害性ポリヌクレオチドは、天然の哺乳類細胞のmRNAに完全に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列に少なくとも78%相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含み、ここで、第1のガイド鎖及び第1のパッセンジャー鎖配列は、5~35個のヌクレオチドで分離され、第1のガイド鎖配列と同じ天然の哺乳類細胞のmRNAに完全に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列に少なくとも78%相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とを含み、ここで、第2のガイド鎖及び第2のパッセンジャー鎖配列は、5~35個のヌクレオチドで分離され、第1のガイド鎖配列及び第2のガイド鎖配列は互いに異なり、天然の哺乳類細胞のmRNAは、配列番号10及び11から選択される配列に対して少なくとも98%同一、又は少なくとも99%同一、又は完全に同一である配列を含む。ハムスター細胞における細胞内蛋白質輸送を調節するための例示的なマルチヘアピンamiRNAは、配列番号737~739から選択される配列を含む。
【0150】
5.5 分泌蛋白質の蛋白質分解切断を調節するマイクロRNA
哺乳類の培養細胞では多くのプロテアーゼが生産される。これらの中には、その細胞が生産する異種蛋白質に悪影響を及ぼすものがある。チャイニーズハムスター細胞によって生産されるプロテアーゼの例には、カルボキシペプチダーゼが含まれ、例えば、配列番号12~20で示される配列に対して少なくとも98%同一、又は少なくとも99%同一のmRNA配列を有するものがある。
【0151】
ハムスター細胞において異種生産された蛋白質の蛋白質分解処理を減少させるために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、カルボキシペプチダーゼ阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。カルボキシペプチダーゼ阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号12~20から選択される配列に相補的な連続する19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続する19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含む。カルボキシペプチダーゼ阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、第1のガイド鎖配列と同じmRNAに相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2ガイド鎖配列と、第2ガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2パッセンジャー鎖配列とさらにを含み、ここで、第1のガイド鎖配列と第2ガイド鎖配列は互いに異なる。カルボキシペプチダーゼ阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、第1及び第2のガイド鎖配列と同じmRNAに相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のガイド鎖配列と、第3のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列と任意にを含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド鎖配列はすべて互いに異なる。各ガイド鎖配列は、それぞれのパッセンジャー鎖配列から5~35塩基の間で分離されている。
【0152】
カルボキシペプチダーゼDは、抗体重鎖からのC末端リジンの除去を担うことが確認されている(Hu et al, 2016. Biotechnol. Bioeng. 113, 2100-6 "Carboxypeptidase D is the Only Enzyme Responsible for Antibody C-Terminal Lysine Cleavage in Chinese Hamster Ovary (CHO) Cells")。ハムスター細胞のカルボキシペプチダーゼDを阻害するために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、カルボキシペプチダーゼD阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。カルボキシペプチダーゼD阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号17に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含む。カルボキシペプチダーゼD阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号17に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド鎖配列は互いに異なる。カルボキシペプチダーゼD阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号17に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のガイド鎖配列と、第3のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド鎖配列はすべて互いに異なる。各ガイド鎖配列は、それぞれのパッセンジャー鎖配列から5~35塩基の間で分離されている。ガイド鎖配列をそのパッセンジャー鎖配列から分離するための例示的な配列は、配列番号683~692から選択される配列を含む配列である。ハムスターカルボキシペプチダーゼDを阻害するための例示的なガイド鎖配列及びそのそれぞれのパッセンジャー鎖配列は、配列番号111及び415、配列番号112及び416、配列番号113及び417、配列番号1173及び1174、配列番号1175及び1176、配列番号1177及び1178である。ハムスター細胞におけるカルボキシペプチダーゼDの阻害のために例示的なマルチヘアピンamiRNAは配列番号740及び1179を含む。
【0153】
5.6 グルタミン合成酵素
必須の代謝酵素をコードする遺伝子など、増殖、分裂、生存に必須の蛋白質を細胞に正常に供給する哺乳類の天然遺伝子を破壊することで、代謝選択システムを開発する機会を得ることができる。いくつかの例示的な代謝選択システムは、5.2.7項に記載されている。典型的には、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEエフェクターヌクレアーゼ、CRISPR Cas9-指向性ヌクレアーゼ、及びAAV-指向性ヌクレアーゼなどの標的破壊法、又は必須代謝酵素をコードする遺伝子が破壊された細胞を後から特定するための細胞への放射線照射又は他のランダムな変異誘発などのランダム法を用いて、必須代謝酵素をコードする遺伝子を恒久的に不可逆的に破壊することによって達成される。必須代謝遺伝子の発現が破壊された細胞は、欠損した必須代謝酵素の生成物の不足を補うために、酵素、増殖因子、栄養素、又は他の分子を外因的に供給すれば、この必須遺伝子がなくても生存し、増殖し、分裂できる。必須代謝遺伝子の発現が破壊された細胞は、その後、必須代謝遺伝子の機能の欠如を補う機能を持つセレクタブルマーカーと、細胞内で発現させる1つ以上の他の遺伝子を含む発現ポリヌクレオチドを導入するための宿主として使用できる。これらの細胞は、次に、細胞を増殖させるために提供されていた酵素、増殖因子、栄養素などの分子が除去される条件にさらされる。補完セレクタブルマーカーをコードする遺伝子を含む発現ポリヌクレオチドを取り込んだ細胞だけが生き残る。既述の例としては、ヒト培養細胞におけるグルタミン合成酵素遺伝子のCRISPRによる破壊(Yu et al, 2018. Biotechnol Bioeng. 115: 1367-1372. "Glutamine synthetase gene knockout-human embryonic kidney 293E cells for stable production of monoclonal antibodies.")、CHO細胞におけるグルタミン合成酵素のジンクフィンガー破壊(Fan et al 2012. Biotechnol Bioeng. 109: 1007-15. "Improving the efficiency of CHO cell line generation using glutamine synthetase gene knockout cells.")、哺乳類細胞におけるDHFR遺伝子のジンクフィンガー破壊(Santiago et al 2008. Proc Natl Acad Sci U S A. 105: 5809-5814. "Targeted gene knockout in mammalian cells by using engineered zinc-finger nucleases")、照射によるCHO細胞でのDHFRの欠失(Urlaub et al, 1983. Cell. 33: 405-12. "Deletion of the diploid dihydrofolate reductase locus from cultured mammalian cells.")を含む。
【0154】
適切な選択圧を与えるためには、必須代謝酵素の発現を細胞が増殖できるレベル未満に抑える必要があるため、必須代謝酵素の発現を抑制する方法としては、これまで遺伝子配列の恒久的破壊が用いられてきた。また、「漏れ」があってはならない。もし、一部の細胞が必須代謝酵素の発現を再開することができれば、その細胞は補完セレクタブルマーカーを含む発現ポリヌクレオチドが存在しない状態で増殖することになり、発現ポリヌクレオチドにコードされている発現すべき遺伝子を発現していない細胞のバックグラウンドが形成されることになるためである。RNA干渉は、典型的には、必須代謝遺伝子の発現を抑制するために十分な効果がなく、また、必須代謝遺伝子の発現を継続的に抑制することを保証するような十分な安定性もなかった。しかし、RNA干渉アプローチの利点は、非常に迅速に実施することができ、各ゲノムコピーが変異的に不活性化されたことを独立して判断する必要なく、二倍体又は多倍体細胞内の遺伝子の全てのコピーを同時に阻害できることである。さらに、6.1.3項の実施例に示すように、必須代謝遺伝子を阻害するためのマルチヘアピンamiRNA遺伝子を細胞のプールのゲノムに導入し、ゲノムがマルチヘアピンamiRNA遺伝子を含む細胞を選択することを含む方法では、プール中の細胞の70%、又は80%、又は90%、又は91%、又は92%、又は93%、又は94%、又は95%、又は96%、又は97%、又は98%、又は99%超において、必須代謝酵素の発現が細胞の増殖を妨げるレベルまで阻害された細胞のプールを得ることができる。これは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、CRISPR/Cas9ヌクレアーゼ又はAAVなどの指向性切断法とは対照的である。このような方法は、トランスフェクトされた細胞の1~10%で標的遺伝子を変異させたり不活性化させたりすることができれば有効と考えられる。従って、マルチヘアピンamiRNAのアプローチは、これらのヌクレアーゼを用いた遺伝子破壊技術よりも少なくとも10倍超効率的である。
【0155】
マルチヘアピンamiRNA遺伝子は、哺乳類細胞のゲノムに組み込まれて、増殖(生存及び分裂を含む)に必須の蛋白質を細胞に通常提供する天然の哺乳類遺伝子を阻害できる。マルチヘアピンamiRNAは、細胞内で発現される第2の遺伝子の3'UTRに配置されてもよい。好ましくは、この遺伝子は必須の代謝酵素をコードしており、酵素、増殖因子、栄養素、又は他の分子が外因的に提供されない限り、この必須遺伝子がない場合、細胞は増殖できないようになっている(我々はこれを外因的に提供される補完因子(exogenously provided complementing factor)と呼ぶ)。細胞には様々な栄養素が細胞内に蓄えられていることがしばしばあるため、外因的に与えられた補完因子を除去した後に細胞が1、2、3、又は4回のみ分裂できる場合、細胞は増殖しないとみなされる。必須代謝酵素の発現を阻害することに成功した細胞集団は、外因性の補完因子を除去した後、2倍、4倍、8倍、16倍を超えない範囲で生存細胞密度を増加させることになる。好ましくは、必須代謝酵素の発現は、天然酵素活性の50%、40%、30%、20%、10%、5%、2%、1%未満が細胞内に残るように阻害される。このような蛋白質の例としては、アミノ酸の合成に関与する必須代謝酵素、アミノ酸前駆体の合成に関与する必須代謝酵素、ヌクレオチドの合成に関与する必須代謝酵素、ヌクレオチド前駆体の合成に関与する必須代謝酵素、脂肪酸の合成に関与する必須代謝酵素、ビタミンの合成に関与する必須代謝酵素などを含む。マルチヘアピン型amiRNA遺伝子が哺乳類細胞のゲノムに安定的に組み込まれ、安定的に発現していれば、必須代謝酵素は安定的に阻害される(第2の補完遺伝子が存在しない場合)。そして、阻害された必須代謝酵素を補う第2の遺伝子を、哺乳類細胞のセレクタブルマーカーとして使用できる。第2の遺伝子は、例えば、必須代謝酵素のmRNAとマルチヘアピンamiRNA遺伝子がコードするガイド鎖配列との間の相補的な位置において、そのmRNAの配列に差異を含むことによって、マルチヘアピンamiRNAによる阻害に抵抗性のある、阻害された必須代謝酵素の代替バージョンをコードしてもよい。第2の遺伝子は、欠損した必須栄養素を供給するための代替的な代謝経路を提供する1つ以上の酵素を代替的にコードしていてもよい。次に、第2の補完遺伝子を含む第2のポリヌクレオチドを哺乳類細胞に導入し、外因的に供給された酵素、増殖因子、栄養素、その他の分子を一度に、又は段階的に減少させることで選択圧をかけることができる。このような選択を生き残る細胞は、第2のポリヌクレオチドを取り込み、第2の遺伝子を発現した細胞だけである。第2ポリヌクレオチドは、同じく発現する他の遺伝子を含んでもよい。好ましくは、第2のポリヌクレオチドはトランスポゾン又はウイルスベクターである。この戦略の1つの利点は、栄養素離脱が、薬物の添加に比べて非常に穏やかな選択であることが多いことである。セレクタブルマーカーとして一般的に使用されている薬物は、しばしば哺乳類細胞に望ましくない影響を及ぼす可能性のある多面的効果を有する(Lanza et al, 2013; Yallop et al, 2003; Yallop et al, 2001; Flintoff et al, 1982)。例えば、グルタミン合成酵素遺伝子を阻害するためにメチオニンスルホキサミンを使用すると、CHO細胞において細胞の増殖速度が低下し、有毒な代謝老廃物である乳酸とアンモニアの生産が増加する(Noh et al (2018). Comprehensive characterization of glutamine synthetase-mediated selection for the establishment of recombinant CHO cells producing monoclonal antibodies. Scientific Reports, 8, [5361]. https://doi.org/10.1038/s41598-018-23720-9)。
【0156】
発現用ポリヌクレオチドを哺乳類細胞に安定的に導入する方法は、(a)哺乳類細胞で発現可能な遺伝子であって、必須代謝酵素のmRNAに相補的なガイド鎖配列を有する干渉RNAをコードする遺伝子を含む阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを、哺乳類細胞に導入する工程、(b)必須代謝酵素の発現が阻害されている間、細胞が生存、増殖、分裂することを可能にするために外因的に提供される酵素、増殖因子、栄養素又は他の分子の存在下で、細胞を増殖させる工程、(c)以下(i)~(ii)の遺伝子を含む第2のポリヌクレオチドを細胞に導入する工程((i)哺乳類細胞で発現可能なセレクタブルマーカーをコードする遺伝子であって、ここで、セレクタブルマーカーは、必須代謝酵素の欠如を機能的に補完し、必須代謝酵素の発現が阻害されている間に細胞の生存、増殖、分裂を可能にした酵素、増殖因子、栄養、又は他の分子の外因的供給の必要性を除去する、及び(ii)哺乳類細胞で発現可能な第2の遺伝子)、(d)必須代謝酵素の発現が阻害されている間、細胞が生存、増殖、分裂することを可能にするために、(b)で外因的に提供された酵素、増殖因子、栄養素又は他の分子の非存在下で細胞を増殖させ、それにより、細胞の生存、増殖、分裂を、第2のポリヌクレオチドからのセレクタブルマーカーの発現に依存させる工程、を含む。好ましくは、第1及び第2のポリヌクレオチドは、哺乳類細胞のゲノムに組み込まれる。本方法は、任意に、(e)第2のポリヌクレオチドの第2の遺伝子が発現する条件下で、細胞を培養する工程も含む。任意に、第2の遺伝子は蛋白質産物をコードし、且つ本方法は、(f)第2の遺伝子にコードされる蛋白質産物を収集又は精製する工程をさらに含む。
【0157】
遺伝子導入ポリヌクレオチドに有利に組み込むことができるセレクタブルマーカーの1つのクラスは、細胞が代謝的に有用な物質を合成できるようにすることで、細胞に増殖の利点を与えるものである。このようなセレクタブルマーカーの一例は、グルタミン代謝を介した選択を可能にするグルタミン合成酵素(GS、例えば、配列番号888~892から選択されるポリペプチド配列)である。グルタミン合成酵素は、グルタメートとアンモニアからグルタミンの生合成を担う酵素であり、哺乳類細胞におけるグルタミン形成の唯一の経路の重要な構成要素である。培地にグルタミンが含まれていない場合、グルタミン合成酵素は培地中の哺乳類細胞の生存に必須である。いくつかの細胞株、例えば、マウスのミエローマ細胞は、グルタミンを加えずに生存するのに十分なグルタミン合成酵素を発現していない。
【0158】
一方、HEK細胞やチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などのいくつかの細胞株では、グルタミン合成酵素が十分に発現しており、グルタミンを添加しなくても細胞が生存できる。このような細胞は、CRISPR/Cas9などのゲノム編集技術を用いて、内因性のグルタミン合成酵素の活性を低下させたり除去したりできる。しかし、CRISPRを用いたとしても、これは手間のかかるプロセスであり、他の遺伝子にオフターゲット変異が生じる可能性がある。別の方法としては、内因性グルタミン合成酵素遺伝子を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドを細胞ゲノムに安定的に組み込む方法がある。外因性のグルタミン合成酵素遺伝子をセレクタブルマーカーとして使用できるが、外因性の遺伝子がガイド鎖配列によって標的とされる配列を含んでいないことが条件となる。これは、ガイドがオープンリーディングフレーム内の配列を標的としている場合、グルタミン合成酵素をコードするために使用されるコドンを変更することによって達成され得る。ガイドが5'UTR内の配列を標的とする場合は、5'UTRを変更することによって達成され得る。ガイドがポリアデニル化シグナル配列/3'UTR内の配列を標的とする場合、3'UTRのポリアデニル化シグナルを変更することによって達成され得る。
【0159】
5.6.1 内因性のグルタミン合成酵素を減少させるマイクロRNA
ハムスター細胞におけるグルタミン合成酵素をRNA干渉によって阻害するために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、グルタミン合成酵素阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。グルタミン合成酵素阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号21に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含む。グルタミン合成酵素阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号21に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド鎖配列は互いに異なる。グルタミン合成酵素阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号21に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のガイド鎖配列と、第3のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド鎖配列はすべて互いに異なる。各ガイド鎖配列は、それぞれのパッセンジャー鎖配列から5~35塩基の間で分離されている。ガイド鎖配列をそのパッセンジャー鎖配列から分離するための例示的な配列は、配列番号683~692から選択される配列を含む配列である。ハムスターのグルタミン合成酵素を阻害するための例示的なガイド鎖配列及びそのそれぞれのパッセンジャー鎖配列は、配列番号114及び418、配列番号115及び419、配列番号117及び421、配列番号118及び422、配列番号119及び423、配列番号120及び424、配列番号121及び425、配列番号122及び426、配列番号123及び427、配列番号124及び428、配列番号125及び429、配列番号126及び430、配列番号127及び431、配列番号128及び432、配列番号129及び433、並びに配列番号116及び420。
【0160】
マルチヘアピンamiRNA配列番号741は、CHOグルタミン合成酵素mRNA標的(配列番号21)内の3つの異なる配列に相補的なガイド鎖配列を含む。マルチヘアピンamiRNA配列番号741は、配列番号114の第1のガイド鎖配列と配列番号418の第1のパッセンジャー鎖配列を含み、配列番号741は、配列番号115の第2のガイド鎖配列と配列番号419の第2のパッセンジャー鎖配列をさらに含み、配列番号741は、配列番号116の第3のガイド鎖配列と配列番号420の第3のパッセンジャー鎖配列をさらに含む。ガイド鎖配列配列番号114、配列番号115、及び配列番号116は、すべて互いに異なる。各ガイド鎖配列は、配列番号683を含む配列によって、それぞれのパッセンジャー鎖配列から分離された。マルチヘアピンamiRNAをトランスポゾンベクターに組み込むことで、amiRNA遺伝子がゲノムの転写活性領域に組み込まれる可能性が高まる。6.1.3項に記載されているように、配列番号741のマルチヘアピンamiRNAをハムスター細胞のゲノムに組み込むと、グルタミン合成酵素の発現が低下し、細胞は生存のために外から供給されるグルタミンに完全に依存するようになる。
【0161】
同様の方法で、HEK細胞などのグルタミン合成酵素欠損ヒト細胞株を作ることができる。RNA干渉によるヒト細胞のグルタミン合成酵素の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、グルタミン合成酵素阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。グルタミン合成酵素阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトグルタミン合成酵素のmRNA(例えば、配列番号23)に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含む。グルタミン合成酵素阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトグルタミン合成酵素のmRNA(例えば、配列番号23)に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド鎖配列は互いに異なる。グルタミン合成酵素阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトグルタミン合成酵素のmRNA(例えば、配列番号23)に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のガイド鎖配列と、第3のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列とを任意に含んでもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド鎖配列はすべて互いに異なる。各ガイド鎖配列は、それぞれのパッセンジャー鎖配列から5~35塩基の間で分離されている。ガイド鎖配列をそのパッセンジャー鎖配列から分離するための例示的な配列は、配列番号683~692から選択される配列を含む配列である。ヒトグルタミン合成酵素を阻害するための例示的なガイド鎖配列及びそのそれぞれのパッセンジャー鎖配列は、配列番号130及び434、配列番号131及び435、配列番号132及び436、配列番号133及び437、配列番号配列番号134及び438、配列番号135及び439、配列番号136及び440、配列番号137及び441、配列番号138及び442、配列番号139及び443、配列番号140及び444、配列番号141及び445、並びに配列番号142及び446である。
【0162】
5.6.2 グルタミン合成酵素栄養要求性の補完
機能的なグルタミン合成酵素遺伝子を欠く細胞((例えば、配列番号741を含むマルチヘアピンamiRNA遺伝子を細胞のゲノムに組み込むことによる)RNA干渉により内因性のグルタミン合成酵素の発現が低下した細胞を含む)では、外因的に加えられたグルタミン合成酵素遺伝子が、グルタミンを含まない培地での増殖を可能にすることによって、セレクタブルマーカーとして機能できる。好ましくは、外因性のグルタミン合成酵素遺伝子を含む遺伝子導入ポリヌクレオチドを細胞に導入する。好ましくは、外因性のグルタミン合成酵素遺伝子は、その発現が、宿主細胞をグルタミン合成酵素に対して栄養要求性にするために使用された任意のRNA干渉によって阻害されないような配列特徴を有している。amiRNAガイド鎖を含むRNA干渉分子が内因性のグルタミン合成酵素のコード部分に相補的である場合、グルタミン合成酵素をコードする外来遺伝子は、コード配列が変更されても、例えば、標的領域のサイレントミューテーションによって、阻害を回避できる。amiRNAガイド鎖を含むRNA干渉分子が内在性グルタミン合成酵素の3'UTR又は5'UTR部分に相補的である場合、グルタミン合成酵素をコードする外来遺伝子は、天然のUTR配列を代替配列、例えば、合成配列又は他の天然遺伝子から採取又は適合されたUTR配列で置き換えることにより、阻害を回避できる。
【0163】
選択プロトコルは、グルタミン合成酵素セレクタブルマーカーをコードする配列を含む遺伝子導入ポリヌクレオチドを導入し、その後、グルタミン合成酵素をコードする外来遺伝子の非存在下で細胞が生存するために十分なグルタミンを含まない培地で細胞を培養することを含む。
【0164】
好ましくは、グルタミン合成酵素遺伝子をコードする外来遺伝子は、弱いプロモーター又は発現を弱める他の配列要素に作動可能に連結されており、遺伝子導入ポリヌクレオチドの多くのコピーが存在するか、又はそれらが高レベルの発現が起こるゲノムの位置に組み込まれている場合にのみ、高レベルの発現が起こり得る。このような場合には、メチオニンスルホキシミンのようなグルタミン合成酵素阻害剤を使用する必要はないだろう。グルタミン合成酵素の発現が抑制されていれば、単に細胞の生存に十分なグルタミンを合成するだけで、十分に厳しい選択ができ得る。例示的なグルタミン合成酵素ポリペプチド配列は、配列番号888~892で示される。
【0165】
5.7 ジヒドロ葉酸レダクターゼ
細胞が代謝的に有用な物質を合成できるようにすることで、細胞に増殖上の利点を与えるために、遺伝子導入ポリヌクレオチドに有利に組み込むことができるセレクタブルマーカー遺伝子の別の例は、5、6-ジヒドロ葉酸(DHF)から5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸(THF)への還元を触媒するために必要なジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR、例えば、配列番号876~877から選択されるポリペプチド配列)をコードする遺伝子である。細胞株の中には、ヒポキサンチンとチミジン(HT)を加えないと生存できないほど十分なDHFRを発現していないものがある。このような細胞では、トランスフェクトされたDHFR遺伝子がセレクタブルマーカーとして機能し、ヒポキサンチンとチミジンを含まない培地での増殖を可能にする。DHFRはメトトレキサート(MTX)に対する耐性をもたらす。DHFRはより高レベルのメトトレキサートによって阻害され得る。選択プロトコルには、DHFRセレクタブルマーカーをコードする配列を含むコンストラクトを、内因性のDHFR遺伝子を持つ細胞又は持たない細胞に導入し、次に、メトトレキサートなどのDHFRの阻害剤で細胞を処理することを含む。使用するメトトレキサートのレベルが高いほど、細胞が生存するために十分なDHFRを合成するために必要なDHFRの発現レベルも高くなる。好ましくは、DHFR遺伝子は、遺伝子導入ポリヌクレオチドの多くのコピーが存在するか、又は高レベルの発現が起こるゲノムの位置に組み込まれている場合にのみ高レベルの発現が起こり得るように、弱いプロモーター又は上述のように発現を弱める他の配列要素に作動可能に連結している。
【0166】
好ましくは、DHFR遺伝子は、遺伝子導入ポリヌクレオチドの多くのコピーが存在するか、又はそれらが高レベルの発現が起こるゲノム内の位置に統合された場合にのみ高レベルの発現が起こり得るように、弱いプロモーター又は本明細書に記載されるような発現を弱める他の配列要素に作動可能に連結している。このような場合には、メトトレキサートのようなDHFR阻害剤を使用する必要はないだろう。DHFRの発現が抑制されていれば、単に細胞の生存に十分なテトラヒドロ葉酸を合成するだけで、十分に厳しい選択ができ得る。
【0167】
いくつかの細胞株、例えば、HEK細胞やチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞では、外因的に加えられたHTがなくても細胞が生存できるように十分なDHFR酵素が発現している。これらの細胞は、CRISPR/Cas9などのゲノム編集技術を用いて、DHFR酵素の活性を低下させたり除去したりできる。しかし、CRISPRを用いたとしても、それは手間のかかるプロセスであり、他の遺伝子にオフターゲットの変異が入り得る。代替方法は、内在性のDHFR mRNAを標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドを、細胞ゲノムに安定的に組み込むことである。
【0168】
5.7.1 内因性ジヒドロ葉酸還元酵素を減少させるマイクロRNA
ハムスター細胞におけるジヒドロ葉酸還元酵素を阻害するために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、ジヒドロ葉酸還元酵素阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。ジヒドロ葉酸還元酵素阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ハムスターDHFR mRNA(その配列は配列番号22で示される)に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含む。ジヒドロ葉酸還元酵素阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号22に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー鎖配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド鎖配列は互いに異なる。ジヒドロ葉酸還元酵素阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号22に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のガイド鎖配列と、第3のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド鎖配列はすべて互いに異なる。各ガイド鎖配列は、それぞれのパッセンジャー鎖配列から5~35塩基の間で分離されている。ガイド鎖配列をそのパッセンジャー鎖配列から分離するための例示的な配列は、配列番号683~692から選択される配列を含む配列である。ハムスタージヒドロ葉酸還元酵素を阻害するための例示的なガイド鎖配列及びそのそれぞれのパッセンジャー鎖配列は、配列番号143及び447、配列番号144及び448、並びに配列番号145及び449である。
【0169】
マルチヘアピンamiRNA配列番号742は、CHOジヒドロ葉酸還元酵素mRNA標的(配列番号22)内の異なる配列に相補的なガイド鎖配列を含む。マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号22に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のガイド鎖配列と、第1のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー鎖配列とを含んでいた。マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号22に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2のガイド鎖配列と、第2のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第2パッセンジャー鎖配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド鎖配列は互いに異なっていた。マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号22に相補的な連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のガイド鎖配列と、第3のガイド鎖配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19又は20又は21又は22個のヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー鎖配列とをさらに含み、第1、第2及び第3のガイド鎖配列はすべて互いに異なっていた。各ガイド鎖配列は、それぞれのパッセンジャー鎖配列から5~35塩基の間で分離されている。マルチヘアピンamiRNA配列番号742の場合、各ガイド鎖配列は、配列番号683を含む配列によって、それぞれのパッセンジャー鎖配列から分離されている。マルチヘアピンamiRNA配列番号742は、配列番号143の第1のガイド鎖配列と、配列番号447の第1のパッセンジャー鎖配列とを含む。配列番号742は、配列番号144の第2のガイド鎖配列と、配列番号448の第2のパッセンジャー鎖配列とをさらに含む。配列番号742は、配列番号145の第3のガイド鎖配列と配列番号449の第3のパッセンジャー鎖配列をさらに含む。ガイド鎖配列配列番号143、配列番号144、及び配列番号145はすべて互いに異なる。
【0170】
5.7.2 DHFR栄養要求性の補完
機能的なDHFR遺伝子を欠く細胞(RNA干渉により内因性のDHFRの発現が低下した細胞を含む)において、外因的に加えられたDHFR遺伝子が、HTを含まない培地での増殖を可能にすることによって、セレクタブルマーカーとして機能できる。好ましくは、外因性のDHFR遺伝子を含む遺伝子導入ポリヌクレオチドを細胞に導入する。好ましくは、外因性のDHFR遺伝子は、その発現が、宿主細胞をDHFRに対して栄養要求性にするために使用された任意のRNA干渉によって阻害されないような配列特徴を有している。amiRNAガイド鎖を含むRNA干渉分子が内因性のDHFRのコード部分に向けられた場合、DHFRをコードする外来遺伝子は、コード配列が変更されても、例えば、標的領域のサイレントミューテーションによって、阻害を回避できる。amiRNAガイド鎖を含むRNA干渉分子が内在性DHFRの3'UTR又は5'UTR部分に向けられた場合、DHFRをコードする外来遺伝子は、天然のUTR配列を代替配列、例えば、他の天然遺伝子から採取又は適合されたUTR配列で置き換えることにより、阻害を回避できる。
【0171】
選択プロトコルは、DHFRセレクタブルマーカーをコードする配列を含む遺伝子導入ポリヌクレオチドを導入し、その後、DHFRをコードする外来遺伝子の非存在下で細胞が生存するために十分なHTを含まない培地で細胞を培養することを含む。
【0172】
好ましくは、DHFR遺伝子をコードする外来遺伝子は、弱いプロモーター又は発現を弱める他の配列要素に作動可能に連結されており、遺伝子導入ポリヌクレオチドの多くのコピーが存在するか、又はそれらが高レベルの発現が起こるゲノムの位置に組み込まれている場合にのみ、高レベルの発現が起こり得る。このような場合には、メチオニンスルホキシミンのようなDHFR阻害剤を使用する必要はないだろう。DHFRの発現が抑制されていれば、単に細胞の生存に十分なグルタミンを合成するだけで、十分に厳しい選択ができ得る。例示的なDHFRポリペプチド配列は、配列番号876~877で示される。
【0173】
5.8 免疫細胞の機能を改変する内因性の遺伝子標的
免疫細胞が身体への脅威に適切に対応するためには、免疫細胞が標的を攻撃するために十分な期間、生存していなければならない。免疫細胞をエクスビボで操作する必要がある治療法や研究では、免疫細胞を増殖させることが有益である。しかし、エクスビボでの培養条件や特定のインビトロ環境(例えば、固形腫瘍内の環境)は、免疫細胞の増殖には最適ではない。例えば、重度の前治療を受けたリンパ腫患者から採取したT細胞は、抗CD19キメラ抗原受容体で工学的に処理した場合、未治療の患者から採取したT細胞と比較して、生体外での増殖率及び臨床応答率が低い。さらに、標的抗原に長期間曝されたT細胞は、アネルギー又は疲弊することがあり、このアネルギー又は疲弊は、T細胞によって発現され、T細胞の表面に存在する受容体を介してしばしば行われる。そのため、特に免疫細胞にとって自然に適さない条件下で、ヒト免疫細胞の機能、持続性、増殖を高める方法が必要とされる。
【0174】
RNA干渉は、内因性の細胞遺伝子を阻害するために有利なメカニズムである。ヒト免疫細胞の持続性と増殖性を高めるための1つのアプローチは、特定の内因性の免疫細胞標的遺伝子の発現を阻害する阻害ポリヌクレオチドを免疫細胞のゲノムに組み込むことである。候補となる標的遺伝子には、通常の機能として、増殖を抑える、アポトーシスに参加する、あるいは、アネルギー又は疲弊経路に参加するものを含む。人工マイクロRNAは、キメラ抗原受容体などの免疫細胞の機能を改変できる第2の遺伝子を有するポリヌクレオチドにコードされていてもよい。好ましくは、このポリヌクレオチドはトランスポゾン又はウイルスベクターであり、amiRNAとキメラ抗原受容体の両方が免疫細胞のゲノムに一緒に組み込まれる。
【0175】
通常の機能として増殖を抑えたり、又はアポトーシスに関与したりするRNA干渉標的遺伝子の候補としては、カスパーゼ3、カスパーゼ7、カスパーゼ8、カスパーゼ9、カスパーゼ10、デス受容体4(腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー10A)、デス受容体5(腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー10B)、FAS(腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー6)、細胞傷害性Tリンパ球タンパク質4、アポトーシス制御因子BAX及びBAD(細胞死のBcl2-関連アゴニスト)を含む。通常の機能が疲弊経路に関与しているRNA干渉標的遺伝子の候補としては、転写因子の胸腺細胞選択関連高移動度グループボックス蛋白質TOX及びTOX2、プログラム細胞死蛋白質1(PD-1)、T細胞免疫グロブリンムチン受容体3(TIM-3)、及び核受容体サブファミリー4グループAメンバー1、2、及び3(NR4A1、NR4A2、及びNR4A3)を含む。
【0176】
5.8.1 TOX
胸腺細胞選択関連高移動度グループボックス蛋白質TOX(thymocyte selection-associated high mobility group box protein TOX)は、慢性的な抗原刺激によって引き起こされ、いくつかの阻害性受容体のアップレギュレーション及びエフェクター機能の喪失によって特徴付けられる低応答性、疲弊又は機能不全状態の誘導及び/又は維持に関与している(Seo et. al. 2019. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 116, 12410-12415. "TOX and TOX2 transcription factors cooperate with NR4A transcription factors to impose CD8+ T cell exhaustion")。マウスのTOX遺伝子の抑制はキメラ抗原受容体を発現しているT細胞の性能を向上させた。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるこの遺伝子の発現を抑制することは有益である。
【0177】
ヒト免疫細胞におけるTOXの阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、TOX阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。TOX阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトTOX mRNA(配列番号24)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号25)の3'にあるTOX mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。TOX阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号24に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2パッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。TOX阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号24に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3パッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞におけるTOXを阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号146及び450、配列番号147及び451、配列番号148及び452、配列番号149及び453、配列番号150及び454、配列番号151及び455、配列番号152及び456、配列番号153及び457、配列番号154及び458、配列番号155及び459、配列番号156及び460、配列番号157及び461である。ヒトTOXの阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号743~746である。
【0178】
好ましい実施形態は、TOXを標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部である、ポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。TOXを標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、TOX mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0179】
好ましい実施形態は、TOXを標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、TOXを標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。TOXを標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0180】
TOX mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、TOX遺伝子の活性が恒久的に低下又は消去し得る。任意に、TOX mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。TOXの発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。TOX mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0181】
5.8.2 TOX2
胸腺細胞選択関連高移動度グループボックス蛋白質TOX2(thymocyte selection-associated high mobility group box protein TOX2)は、慢性的な抗原刺激によって引き起こされ、いくつかの阻害性受容体のアップレギュレーション及びエフェクター機能の喪失によって特徴付けられる低応答性、疲弊又は機能不全状態の誘導及び/又は維持に関与している(Seo et. al. 2019. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 116, 12410-12415. "TOX and TOX2 transcription factors cooperate with NR4A transcription factors to impose CD8+ T cell exhaustion")。マウスのTOX2遺伝子の抑制はキメラ抗原受容体を発現しているT細胞の性能を向上させた。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるこの遺伝子の発現を抑制することは有益である。
【0182】
ヒト免疫細胞におけるTOX2の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、TOX2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。TOX2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトTOX2 mRNA(配列番号26)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号27)の3'にあるTOX2 mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。TOX2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号26に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2パッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。TOX2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号26に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3パッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞におけるTOX2を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号158及び462、配列番号463及び392、配列番号160及び464、配列番号161及び465、配列番号162及び466、配列番号163及び467、配列番号164及び468、配列番号165及び469、配列番号166及び470、配列番号167及び471、配列番号168及び472、配列番号169及び473、配列番号170及び474である。ヒトTOX2の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号747~750である。
【0183】
好ましい実施形態は、TOX2を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部である、ポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。TOX2を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、TOX2 mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、ヒト免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0184】
好ましい実施形態は、TOX2を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、TOX2を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。TOX2を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0185】
TOX2 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、TOX2遺伝子の活性が恒久的に低下又は消去し得る。任意に、TOX2 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。TOX2の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。TOX2 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0186】
5.8.3 TOX1及びTOX2
胸腺細胞選択関連高移動度グループボックス蛋白質TOX1及びTOX2は、慢性的な抗原刺激によって引き起こされ、いくつかの阻害性受容体のアップレギュレーション及びエフェクター機能の喪失によって特徴付けられる低応答性、疲弊又は機能不全状態を誘発及び/又は維持に共に関与している(Seo et. al. 2019. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 116, 12410-12415. "TOX and TOX2 transcription factors cooperate with NR4A transcription factors to impose CD8+ T cell exhaustion")。マウスにおけるTOX1とTOX2の両方一緒の抑制は、キメラ抗原受容体を発現しているT細胞の性能を向上させた。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるこれらの遺伝子の両方の発現を同時に抑制することは有益である。
【0187】
ヒト免疫細胞におけるTOX1及びTOX2の阻害に有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、両者のmRNAに相補的なガイドを持つマルチヘアピンamiRNA配列を含む。TOX/TOX2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトTOX mRNA(配列番号24)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。TOX/TOX2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号24に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1のガイド配列及び第2のガイド配列は互いに異なる。TOX/TOX2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトTOX2 mRNAの配列(配列番号26)に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第3パッセンジャー配列とをさらに含む。TOX/TOX2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号26に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第4ガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第4パッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第3及び第4ガイド配列は互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヘアピンは、阻害遺伝子導入ポリヌクレオチドにおいて、任意の順序で用いてもよい。例えば、TOXに相補的なガイドを含む2つのヘアピンは、互いに隣接していてもよいし、TOX2に相補的なガイドを含む1つ以上のヘアピンによって互いに分離されていてもよい。逆に、TOX2に相補的なガイドを含む2つのヘアピンは、互いに隣接していてもよいし、TOXに相補的なガイドを含む1つ以上のヘアピンによって互いに分離されていてもよい。ヒトのTOX及びTOX2を阻害するための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号751~754である。TOX及びTOX2を阻害するための他の例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号743~746から配列を選択し、配列番号747~750から配列を選択し、2つの配列を結合することによって得ることができる。2つの配列の順番は重要ではない。
【0188】
好ましい実施形態は、TOX及びTOX2を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。TOX及びTOX2を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、4つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、そのうちの2つはTOX mRNAに相補的であり、そのうちの2つはTOX2 mRNAに相補的であり、各ヘアピンは、ヒト免疫細胞において活性な異種のプロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0189】
好ましい実施形態は、TOX及びTOX2を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、TOX及びTOX2を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。TOX及びTOX2を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、4つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、そのうちの2つはTOX mRNAに相補的であり、そのうちの2つはTOX2 mRNAに相補的であり、各ヘアピンは、ヒトの免疫細胞で活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピンとプロモーターはトランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0190】
TOX mRNA内の2つの異なる配列及びTOX2 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な4つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、TOX及びTOX2遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失させ得る。任意に、TOX mRNA内の2つの異なる配列及びTOX2 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な4つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。TOX及びTOX2の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。TOX mRNA内の2つの異なる配列及びTOX2 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な4つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0191】
5.8.4 PD-1
プログラム細胞死蛋白質1(PD-1、(Programmed Cell Death Protein 1)は、T細胞の活動を抑制し、アポトーシスを促進することで免疫系をダウンレギュレートする役割を持つ免疫チェックポイントである。疲弊したT細胞は、高レベルのPD-1を発現する(Jiang et. al., 2015. Cell Death & Disease 6, e1972 https://doi.org/10.1038/cddis.2015.162. "T-cell exhaustion in the tumor microenvironment")。PD-1に対するsiRNAでT細胞を処理すると、インビトロのCAR-T細胞の機能性が向上した(Simon et al, 2018. Exp Dermatol. 27:769-778. "The siRNA-mediated downregulation of PD-1 alone or simultaneously with CTLA-4 shows enhanced in vitro CAR-T-cell functionality for further clinical development towards the potential use in immunotherapy of melanoma")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるこの遺伝子の発現を阻害することが有益である。
【0192】
ヒト免疫細胞におけるPD-1の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、PD-1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。PD-1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトPD-1 mRNA(配列番号28)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号29)の3'にあるPD-1 mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。PD-1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号28に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。PD-1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号28に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3パッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。免疫細胞においてヒトPD-1を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号171及び475、配列番号172及び476、配列番号173及び477、配列番号174及び478、配列番号175及び479、配列番号176及び480、配列番号177及び481、配列番号178及び482、配列番号179及び483、配列番号180及び484である。ヒトPD-1の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号755~758である。
【0193】
好ましい実施形態は、PD-1を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。PD-1を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、PD-1 mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、ヒト免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターはレンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0194】
好ましい実施形態は、PD-1を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、PD-1を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。PD-1を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0195】
PD-1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムが含む免疫細胞は、PD-1遺伝子の活性が恒久的に低下又は消去し得る。任意に、PD-1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。PD-1の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。PD-1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムが含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0196】
5.8.5 CTLA-4
細胞障害性Tリンパ球蛋白質4(CTLA-4、Cytotoxic T-lymphocyte Protein 4)は、免疫系をダウンレギュレートする免疫チェックポイントとして機能する蛋白質受容体である。疲弊したT細胞は、高レベルのCTLA-4を発現する(Jiang et. al., 2015. Cell Death & Disease 6, e1972 https://doi.org/10.1038/cddis.2015.162. "T-cell exhaustion in the tumor microenvironment")。CTLA-4に対するsiRNAでT細胞を処理すると、インビトロでCAR-T細胞の機能性が向上した(Simon et al, 2018. Exp Dermatol. 27:769-778. "The siRNA-mediated downregulation of PD-1 alone or simultaneously with CTLA-4 shows enhanced in vitro CAR-T-cell functionality for further clinical development towards the potential use in immunotherapy of melanoma")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるこの遺伝子の発現を阻害することが有益である。
【0197】
ヒト免疫細胞におけるCTLA-4の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、CTLA-4阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。CTLA-4阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトCTLA-4 mRNA(配列番号30)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号31)の3'にあるCTLA-4 mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。CTLA-4阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号30に相補的な連続する19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続する19ヌクレオチド配列を含む第2パッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。CTLA-4阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号30に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第3パッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。免疫細胞においてヒトCTLA-4を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号181及び485、配列番号182及び486、配列番号183及び487、配列番号184及び488、配列番号185及び489、配列番号186及び490、配列番号187及び491、配列番号188及び492、配列番号189及び493である。ヒトCTLA-4の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号759~762である。
【0198】
好ましい実施形態は、CTLA-4を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞の感染に使用させてもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。CTLA-4を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、CTLA-4 mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、ヒト免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆端末リピートによって挟まれている。
【0199】
好ましい実施形態は、CTLA-4を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、CTLA-4を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。CTLA-4を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種のプロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0200】
CTLA-4 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムが含む免疫細胞は、CTLA-4遺伝子の活性が恒久的に低下又は消去し得る。任意に、CTLA-4 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。CTLA-4の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。CTLA-4 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムが含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0201】
5.8.6 PD-1及びCTLA-4
プログラム細胞死蛋白質1(PD-1)は、免疫系をダウンレギュレートする役割を持つ免疫チェックポイントであり、細胞傷害性Tリンパ球蛋白質4(CTLA-4)は、免疫系をダウンレギュレートする免疫チェックポイントとして機能する蛋白質受容体である。PD-1とCTLA-4の両方に対するsiRNAでT細胞を処理すると、インビトロでのCAR-T細胞の機能が向上した(Simon et al, 2018. Exp Dermatol. 27:769-778. "The siRNA-mediated downregulation of PD-1 alone or simultaneously with CTLA-4 shows enhanced in vitro CAR-T-cell functionality for further clinical development towards the potential use in immunotherapy of melanoma")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるこれら両方の遺伝子の発現を同時に 阻害することが有益である。
【0202】
ヒト免疫細胞におけるPD-1及びCTLA-4の阻害に有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、両者のmRNAに相補的なガイドを有するマルチヘアピンamiRNA配列を含む。PD-1/CTLA-4阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトPD-1 mRNA(配列番号28)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。PD-1/CTLA-4阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号28に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第2パッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。PD-1/CTLA-4阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトCTLA-4 mRNA(配列番号30)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第3パッセンジャー配列とをさらに含む。PD-1/CTLA-4阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号30に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第4のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第4のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第3のガイド配列及び第4のガイド配列は互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヘアピンは、阻害遺伝子導入ポリヌクレオチドにおいて、任意の順序で用いてもよい。例えば、PD-1に相補的なガイドを含む2つのヘアピンは、互いに隣接していてもよいし、CTLA-4に相補的なガイドを含む1つ以上のヘアピンによって互いに分離されていてもよい。逆に、CTLA-4に相補的なガイドを含む2つのヘアピンは、互いに隣接していてもよいし、PD-1に相補的なガイドを含む1つ以上のヘアピンによって互いに分離されていてもよい。ヒトPD-1及びCTLA-4を阻害するための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号763~766である。PD-1及びCTLA-4の阻害のための他の例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号755~758からの配列、及び配列番号759~762からの配列を選択し、2つの配列を結合することによって得られてもよい。2つの配列の順番は重要ではない。
【0203】
好ましい実施形態は、PD-1及びCTLA-4を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。PD-1及びCTLA-4を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、4つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、少なくとも19個の連続した塩基の異なる配列を含み、そのうちの2つはPD-1 mRNAに相補的であり、そのうちの2つはCTLA-4 mRNAに相補的であり、各ヘアピンは、ヒト免疫細胞において活性な異種のプロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆端末リピートによって挟まれている。
【0204】
好ましい実施形態は、PD-1及びCTLA-4を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、PD-1及びCTLA-4を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。PD-1及びCTLA-4を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、4つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、少なくとも19個の連続した塩基の異なる配列を含み、そのうちの2つはPD-1 mRNAに相補的であり、そのうちの2つはCTLA-4 mRNAに相補的であり、各ヘアピンは、ヒト免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾンや、Sleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0205】
PD-1 mRNA内の2つの異なる配列及びCTLA-4 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な4つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、PD-1及びCTLA-4遺伝子の活性が恒久的に低下又は消去し得る。任意に、PD-1 mRNA内の2つの異なる配列及びCTLA-4 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な4つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。PD-1及びCTLA-4の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。
【0206】
5.8.7 TIM-3
T細胞免疫グロブリンムチン受容体3(TIM-3、T-cell immunoglobulin mucin receptor 3、A型肝炎ウイルス細胞受容体2)は、T細胞上の共阻害性受容体である。疲弊したT細胞はTIM-3を高レベルで発現する(Jiang et. al., 2015. Cell Death & Disease 6, e1972 https://doi.org/10.1038/cddis.2015.162. "T-cell exhaustion in the tumor microenvironment"). Tim-3 suppression can enhance T-cell anti-tumor activity (Das et. al., 2017. Immunol Rev. 276, 97-111. "Tim-3 and its role in regulating anti-tumor immunity")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるこの遺伝子の発現を阻害することは有益である。
【0207】
ヒト免疫細胞におけるTIM-3の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、TIM-3阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。TIM-3阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトTIM-3 mRNA(配列番号32)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号33)の3'にあるTIM-3 mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。TIM-3阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号32に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2パッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1のガイド配列と第2のガイド配列とが互いに異なる。TIM-3阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号32に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてTIM-3を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号190及び494、配列番号191及び495、配列番号192及び496、配列番号193及び497、配列番号194及び498、配列番号195及び499、配列番号196及び500、配列番号197及び501、配列番号198及び502、及び配列番号199及び503である。ヒトTIM-3の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号767~770である。
【0208】
好ましい実施形態は、TIM-3を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。TIM-3を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、TIM-3 mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆端末リピートによって挟まれている。
【0209】
好ましい実施形態は、TIM-3を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、はトランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、TIM-3を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。TIM-3を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0210】
TIM-3 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、TIM-3遺伝子の活性が恒久的に低下又は消去し得る。任意に、TIM-3 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。TIM-3の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。TIM-3 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムが含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0211】
5.8.8 NR4A1 (Nur77)
核内受容体4A1(Nur77、Nuclear receptor 4A1)は、固形腫瘍におけるT細胞の機能を阻害することに関与している(Rao et al 2019. Nature 567, 530-534 "NR4A transcription factors limit CAR T cell function in solid tumours.")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるこの遺伝子の発現を阻害することは有益である。
【0212】
ヒト免疫細胞におけるNUR77の阻害に有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、NUR77阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。NUR77阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトNUR77 mRNA(配列番号34)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号35)の3'にあるNUR77 mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。NUR77阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号34に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2パッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。NUR77阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号34に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3パッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてNUR77を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号200及び504、配列番号201及び505、配列番号202及び506、配列番号203及び507、配列番号204及び508、配列番号205及び509、配列番号206及び510、配列番号207及び511、配列番号208及び512である。ヒトNUR77の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号771~774である。
【0213】
好ましい実施形態は、NUR77を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。NUR77を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、NUR77 mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0214】
好ましい実施形態は、NUR77を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、NUR77を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。NUR77を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0215】
NUR77 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、NUR77遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失させ得る。任意に、NUR77 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。NUR77の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。Nur77 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムが含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0216】
5.8.9 NR4A2 (Nurr1)
核受容体4A2(Nurr1、Nuclear receptor 4A2)は、固形腫瘍におけるT細胞の機能の阻害に関与している(Rao et al 2019. Nature 567, 530-534 "NR4A transcription factors limit CAR T cell function in solid tumours.")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるこの遺伝子の発現を阻害することは有益である。
【0217】
ヒト免疫細胞におけるNURR1の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、NURR1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。NURR1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトNURR1 mRNA(配列番号36)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号37)の3'にあるNURR1 mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。NURR1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号36に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。NURR1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号36に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3パッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてNURR1を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号209及び513、配列番号210及び514、配列番号211及び515、配列番号212及び516、配列番号213及び517、配列番号214及び518、配列番号215及び519、配列番号216及び520である。ヒトNURR1の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号775~778である。
【0218】
好ましい実施形態は、NURR1を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。NURR1を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、NURR1 mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0219】
好ましい実施形態は、NURR1を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、NURR1を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。NURR1を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0220】
NURR1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、NURR1遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失させ得る。任意に、NURR1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。NURR1の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。NUUR1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0221】
5.8.10 NR4A3 (NOR1)
核内受容体4A3(NOR1、Nuclear receptor 4A3)は、固形腫瘍におけるT細胞の機能を阻害することに関与している(Rao et al 2019. Nature 567, 530-534 "NR4A transcription factors limit CAR T cell function in solid tumours.")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるこの遺伝子の発現を阻害することは有益である。
【0222】
ヒト免疫細胞におけるNOR1の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、NOR1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。NOR1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトNOR1 mRNAの配列(配列番号38)に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号39)の3'にあるNOR1 mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。NOR1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号38に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2パッセンジャー配列とをさらに含み、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。NOR1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号38に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なっている。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてNOR1を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号217及び521、配列番号218及び522、配列番号219及び523、配列番号220及び524、配列番号221及び525、配列番号222及び526、配列番号223及び527、配列番号224及び528、並びに配列番号225及び529である。ヒトNOR1の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号779~782である。
【0223】
好ましい実施形態は、NOR1を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。NOR1を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、NOR1 mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性である異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0224】
好ましい実施形態は、NOR1を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、ポリヌクレオチドはトランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、NOR1を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。NOR1を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0225】
NOR1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、NOR1遺伝子の活性を恒久的に低下又は除去し得る。任意に、NOR1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。NOR1の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。NOR1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0226】
5.8.11 NR4A1(Nur77)及びNR4A2(Nurr1)及びNR4A3(NOR1)
核内受容体4A1、2、及び3(Nur77、Nurr1、NOR1)は、固形腫瘍におけるT細胞の機能の阻害に共に関与し得る(Rao et al 2019. Nature 567, 530-534 "NR4A transcription factors limit CAR T cell function in solid tumours.")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるこれらの遺伝子の両方の発現を同時に阻害することが有益である。
【0227】
ヒト免疫細胞におけるNur77、NOR1及びNuur1の阻害に有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、3つの遺伝子全てのmRNAに相補的なガイドを有するマルチヘアピンamiRNA配列を含む。Nur77/NOR1/Nuur1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトNur77 mRNA(配列番号34)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。Nur77/NOR1/Nuur1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号34に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。Nur77/NOR1/Nuur1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトNuur1 mRNA(配列番号36)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第3パッセンジャー配列とをさらに含む。Nur77/Nuur1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号36に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第4のガイド配列と、第4のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第4のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第3及び第4のガイド配列は互いに異なる。Nur77/NOR1/Nuur1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトNOR1 mRNA(配列番号38)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第5のガイド配列と、第5のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第5のパッセンジャー配列とをさらに含む。Nur77/NOR1/Nuur1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号38に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第6のガイド配列と、第6のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第6のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第5及び第6のガイド配列は互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヘアピンは、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドにおいて、任意の順序で用いてもよい。例えば、Nur77に相補的なガイドを含む2つのヘアピンは、互いに隣接していてもよいし、Nuur1又はNOR1に相補的なガイドを含む1つ以上のヘアピンによって互いに分離されていてもよい。ヒトのNur77及びNuur1及びNOR1を阻害するための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号783~788である。Nur77及びNuur1及びNOR1を阻害するための他の例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号771~774からの選択された配列、及び配列番号775~778からの選択された配列、及び配列番号779~782からの選択された配列を選択し、これら3つの配列を連結することによって得てもよい。3つの配列の順番は重要ではない。
【0228】
好ましい実施形態は、Nur77、NOR1及びNuur1を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。Nur77、NOR1及びNuur1を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、6つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、少なくとも19個の連続した塩基の異なる配列を含み、そのうちの2つはNur77 mRNAに相補的であり、そのうちの2つはNOR1 mRNAに相補的であり、及びそのうちの2つはNuur1 mRNAに相補的であり、各ヘアピンは、ヒト免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの反転末端反復によって挟まれている。
【0229】
好ましい実施形態は、Nur77及びNuur1を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、Nur77、NOR1及びNuur1を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。Nur77、NOR1及びNuur1を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、6つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、そのうちの2つはNur77 mRNAに相補的であり、そのうちの2つはNOR1 mRNAに相補的であり、及びそのうちの2つはNuur1 mRNAに相補的であり、各ヘアピンは、ヒト免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピンとプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾンや、Sleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0230】
6つのガイド配列、6つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞(ここで、2つのガイド配列は、Nur77 mRNA内の2つの異なる配列に相補的であり、2つのガイド配列は、Nuur1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的であり、及び2つのガイド配列は、NOR1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的である)は、Nur77、NOR1及びNuur1遺伝子の活性を恒久的に低下又は除去し得る。任意に、6つのガイド配列、6つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNA(ここで、2つのガイド配列は、Nur77 mRNA内の2つの異なる配列に相補的であり、2つのガイド配列は、Nuur1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的であり、及び2つのガイド配列は、NOR1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的である)は、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。Nur77及びNuur1の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。
【0231】
5.8.9 NFAT
転写因子である活性化T細胞の核因子(NFAT、 nuclear factor of activated T-cells)は、CD8 T細胞の疲弊の促進に関与している(Martinez et al., 2015. Immunity 42, 265-278. "The transcription factor NFAT promotes exhaustion of activated CD8+ T cells")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるこの遺伝子の発現を阻害することが有益である。
【0232】
ヒト免疫細胞におけるNFATの阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、NFAT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。NFAT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトNFAT mRNA(配列番号40)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号41)の3'にあるNFAT mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。NFAT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号40に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。NFAT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号40に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とを含んでいてもよく、任意に第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてNFATを阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号226及び530、配列番号227及び531、配列番号228及び532、配列番号229及び533、配列番号230及び534、配列番号231及び535、配列番号232及び536、配列番号233及び537、配列番号234及び538、配列番号235及び539、並びに配列番号236及び540である。ヒトNFATの阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号789~792である。
【0233】
好ましい実施形態は、NFATを標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。NFATを標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、NFAT mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0234】
好ましい実施形態は、NFATを標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、NFATを標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。NFATを標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0235】
NFAT mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムが含む免疫細胞は、NFAT遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失させ得る。任意に、NFAT mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。NFATの発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。NFAT mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0236】
5.8.12 FAS (CD95)
キメラ抗原受容体(CAR)による抗原非依存性トニックシグナルは、T細胞の分化と疲弊を促進し、その有効性を制限し得る。CARに4-1BB共刺激物を組み込むことで、T細胞がこの機能的疲弊に抵抗でき得る。このトニックCAR由来4-1BBシグナルは、FAS依存性細胞死の増強を介してT細胞に毒性をもたらし得る(Gomes-Silva et. al., 2017. Cell Rep. 21, 17-26. "Tonic 4-1BB Costimulation in Chimeric Antigen Receptors Impedes T Cell Survival and Is Vector Dependent")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるFASの発現を阻害することが有益である。
【0237】
ヒト免疫細胞におけるFASの阻害に有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、FAS阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。FAS阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトFAS mRNA(配列番号42)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号43)の3'にあるFAS mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。FAS阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号42に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。FAS阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号42に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞におけるFASを阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号237及び541、配列番号238及び542、配列番号239及び543、配列番号240及び544、配列番号241及び545、配列番号242及び546、配列番号243及び547、配列番号244及び548である。ヒトFASの阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号793~796である。
【0238】
好ましい実施形態は、FASを標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。FASを標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、FAS mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートに挟まれている。
【0239】
好ましい実施形態は、FASを標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、FASを標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。FASを標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆末端反復によって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0240】
FAS mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、FAS遺伝子の活性を恒久的に低下又は消去し得る。任意に、FAS mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。FASの発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。FAS mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0241】
5.8.13 カスパーゼ3
カスパーゼ3の発現は、T細胞のアネルギーを誘発する際に活性化される。siRNAを用いてカスパーゼ3の発現を阻害すると、アレルギーの誘発が阻害される。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるカスパーゼ3の発現を阻害することが有益である。
【0242】
ヒト免疫細胞におけるカスパーゼ3の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、カスパーゼ3阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。カスパーゼ3阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトカスパーゼ3 mRNA(配列番号44)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号45)の3'にあるカスパーゼ3のmRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。カスパーゼ3阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号44に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。カスパーゼ3阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号44に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3パッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてカスパーゼ3を阻害するための例示的なガイド配列及びそれらのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号245及び549、配列番号246及び550、配列番号247及び551、配列番号248及び552、配列番号249及び553、配列番号250及び554、配列番号251及び555、配列番号252及び556である。ヒトカスパーゼ3の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号797~800である。
【0243】
好ましい実施形態は、カスパーゼ3を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。カスパーゼ3を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、カスパーゼ3のmRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートに挟まれている。
【0244】
好ましい実施形態は、カスパーゼ3を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、カスパーゼ3を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。カスパーゼ3を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0245】
カスパーゼ3 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、カスパーゼ3遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失させ得る。任意に、カスパーゼ3 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。カスパーゼ3の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。カスパーゼ3 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0246】
5.8.14 カスパーゼ7
カスパーゼ7の遺伝子を欠損したマウスは、エンドトキシン誘発リンパ球アポトーシスから保護される(Lamkanfi et. at. 2009. Blood 113, 2742-2745. "Caspase-7 deficiency protects from endotoxin-induced lymphocyte apoptosis and improves survival")。リンパ球アポトーシスを減少させることは、多くの免疫細胞療法において有益であり得る。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるカスパーゼ7の発現を阻害することは有益である。
【0247】
ヒト免疫細胞におけるカスパーゼ7の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、カスパーゼ7阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。カスパーゼ7阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトカスパーゼ7 mRNA(配列番号46)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号47)の3'にあるカスパーゼ7のmRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。カスパーゼ7阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号46に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。カスパーゼ7阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号46に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3パッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてカスパーゼ7を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号253及び557、配列番号254及び558、配列番号255及び559、配列番号256及び560、配列番号257及び561、配列番号258及び562、配列番号259及び563、配列番号260及び564である。ヒトカスパーゼ7の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号801~804である。
【0248】
好ましい実施形態は、カスパーゼ7を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。カスパーゼ7を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、カスパーゼ7のmRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートに挟まれている。
【0249】
好ましい実施形態は、カスパーゼ7を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、カスパーゼ7を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。カスパーゼ7を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0250】
カスパーゼ7 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、カスパーゼ7遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失させ得る。任意に、カスパーゼ7 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。カスパーゼ7の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。カスパーゼ7 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0251】
5.8.15 カスパーゼ8
Fas及び他のT細胞抑制性受容体は、カスパーゼ8遺伝子を介して作用する(Murali et. al., 2011. J. Clin. Cell Immunol. Suppl 3: 2. doi:10.4172/2155-9899.S3-002. "Apoptosis - an Ubiquitous T cell Immunomodulator")。リンパ球アポトーシスを減少させることは、多くの免疫細胞療法において有益であり得る。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるカスパーゼ8の発現を阻害することは有益である。
【0252】
ヒト免疫細胞におけるカスパーゼ8の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、カスパーゼ8阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。カスパーゼ8阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトカスパーゼ8 mRNA(配列番号48)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号49)の3'にあるカスパーゼ8のmRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。カスパーゼ8阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号48に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なっている。カスパーゼ8阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号48に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3パッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてカスパーゼ8を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号261及び565、配列番号262及び566、配列番号263及び567、配列番号264及び568、配列番号265及び569、配列番号266及び570、配列番号267及び571、配列番号268及び572、配列番号269及び573である。ヒトカスパーゼ8の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号805~808である。
【0253】
好ましい実施形態は、カスパーゼ8を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。カスパーゼ8を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、カスパーゼ8のmRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートに挟まれている。
【0254】
好ましい実施形態は、カスパーゼ8を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、カスパーゼ8を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。カスパーゼ8を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0255】
カスパーゼ8 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、カスパーゼ8遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失させ得る。任意に、カスパーゼ8 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。カスパーゼ8の発現を低下させることで、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。カスパーゼ8 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0256】
5.8.16 カスパーゼ9
カスパーゼ活性化を阻害することで、通常は寛容応答を引き起こすシグナルを、免疫原性シグナルに変えることができる(Murali et. al., 2011. J. Clin. Cell Immunol. Suppl 3: 2. doi:10.4172/2155-9899.S3-002. "Apoptosis - an Ubiquitous T cell Immunomodulator")。リンパ球アポトーシスを減少させることは、多くの免疫細胞療法において有益であり得る。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるカスパーゼ9の発現を阻害することは有益である。
【0257】
ヒト免疫細胞におけるカスパーゼ9の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、カスパーゼ9阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。カスパーゼ9阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトカスパーゼ9 mRNA(配列番号50)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号51)の3'にあるカスパーゼ9のmRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。カスパーゼ9阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号50に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。カスパーゼ9阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号50に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3パッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてカスパーゼ9を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号270及び574、配列番号271及び575、配列番号272及び576、配列番号273及び577、配列番号274及び578、配列番号275及び579、配列番号276及び580、配列番号277及び581、配列番号278及び582である。ヒトカスパーゼ9の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号809~812である。
【0258】
好ましい実施形態は、カスパーゼ9を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。カスパーゼ9を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、カスパーゼ9のmRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートに挟まれている。
【0259】
好ましい実施形態は、カスパーゼ9を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、カスパーゼ9を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。カスパーゼ9を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0260】
カスパーゼ9 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、カスパーゼ9遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失させ得る。任意に、カスパーゼ9 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。カスパーゼ9の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。カスパーゼ9 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0261】
5.8.17 カスパーゼ10
カスパーゼ活性化を阻害することで、通常は寛容応答を引き起こすシグナルを、免疫原性シグナルに変えることができる(Murali et. al., 2011. J. Clin. Cell Immunol. Suppl 3: 2. doi:10.4172/2155-9899.S3-002. "Apoptosis - an Ubiquitous T cell Immunomodulator")。リンパ球アポトーシスを減少させることは、多くの免疫細胞療法において有益であり得る。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるカスパーゼ10の発現を阻害することは有益である。
【0262】
ヒト免疫細胞におけるカスパーゼ10の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、カスパーゼ10阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。カスパーゼ10阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトカスパーゼ10 mRNA(配列番号52)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号53)の3'にあるカスパーゼ10のmRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。カスパーゼ10阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号52に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。カスパーゼ10阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号52に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3パッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてカスパーゼ10を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号279及び583、配列番号280及び584、配列番号281及び585、配列番号282及び586、配列番号283及び587、配列番号284及び588、配列番号285及び589、並びに配列番号286及び590である。ヒトカスパーゼ10の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号813~816である。
【0263】
好ましい実施形態は、カスパーゼ10を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。カスパーゼ10を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、カスパーゼ10のmRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートに挟まれている。
【0264】
好ましい実施形態は、カスパーゼ10を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、カスパーゼ10を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。カスパーゼ10を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆末端反復によって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0265】
カスパーゼ10 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、カスパーゼ10遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失させ得る。任意に、カスパーゼ10 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。カスパーゼ10の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。カスパーゼ10 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0266】
5.8.18 デス受容体4 (TNFRSF10A)
腫瘍の種類によって、免疫系を回避する方法は異なっていてもよい。例えば、大腸がんでは、TRAILリガンドを発現させることで、デス受容体シグナルを誘導し、TRAIL受容体1(デス受容体4、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー10A(TNFRSF10A))を刺激して、T細胞のアポトーシスを引き起こし得る(Murali et. al., 2011. J. Clin. Cell Immunol. Suppl 3: 2. doi:10.4172/2155-9899.S3-002. "Apoptosis - an Ubiquitous T cell Immunomodulator")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるデス受容体4の発現を阻害することは有益である。
【0267】
ヒト免疫細胞におけるデス受容体4の阻害に有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、デス受容体4を阻害するマルチヘアピンamiRNA配列を含む。デス受容体4阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトデス受容体4 mRNA(配列番号54)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号55)の3'にあるデス受容体4 mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。デス受容体4阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号54に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1のガイド配列と第2のガイド配列が互いに異なる。デス受容体4阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号54に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞におけるデス受容体4を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号287及び591、配列番号288及び592、配列番号289及び593、配列番号290及び594、配列番号291及び595、配列番号292及び596、配列番号293及び597、配列番号294及び598である。ヒトデス受容体4の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号817~820である。
【0268】
好ましい実施形態は、デス受容体4を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。デス受容体4を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、デス受容体4 mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0269】
好ましい実施形態は、デス受容体4を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、デス受容体4を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。デス受容体4を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類の免疫細胞において活性な異種のプロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆末端反復によって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0270】
デス受容体4 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、デス受容体4遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失させ得る。任意に、デス受容体4 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。デス受容体4の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。デス受容体4 mRNA内の異なる2つの配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0271】
5.8.19 デス受容体5 (TNFRSF10B)
腫瘍の種類によって、免疫系を回避する方法は異なっていてもよい。例えば、大腸がんでは、TRAILリガンドを発現させることで、デス受容体シグナルを誘導し、TRAIL受容体2(デス受容体5、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー10A(TNFRSF10B))を刺激して、T細胞のアポトーシスを引き起こし得る(Murali et. al., 2011. J. Clin. Cell Immunol. Suppl 3: 2. doi:10.4172/2155-9899.S3-002. "Apoptosis - an Ubiquitous T cell Immunomodulator")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるデス受容体5の発現を阻害することは有益である。
【0272】
ヒト免疫細胞におけるデス受容体5の阻害に有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、デス受容体5を阻害するマルチヘアピンamiRNA配列を含む。デス受容体5阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトデス受容体5 mRNA(配列番号56)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号57)の3'にあるデス受容体5 mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。デス受容体5阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号56に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。デス受容体5阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号56に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第3パッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞におけるデス受容体5を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号295及び599、配列番号296及び600、配列番号297及び601、配列番号298及び602、配列番号299及び603、配列番号300及び604、配列番号301及び605、配列番号302及び606、配列番号303及び607である。ヒトデス受容体5の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号821~824である。
【0273】
好ましい実施形態は、デス受容体5を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。デス受容体5を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、デス受容体5 mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0274】
好ましい実施形態は、デス受容体5を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、デス受容体5を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。マルチヘアピン型のデス受容体5を標的とするトランスポゾン担持amiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類の免疫細胞において活性な異種のプロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0275】
デス受容体5 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、デス受容体5遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失させ得る。任意に、デス受容体5 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。デス受容体5の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。デス受容体5 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0276】
5.8.20 デス受容体4及び5
腫瘍の種類によって、免疫系を回避するための方法が異なる場合がある。例えば、大腸がんでは、TRAILリガンドを発現させることで、デス受容体シグナルを誘導し、デス受容体4及び5を刺激して、T細胞アポトーシスを引き起こし得る(Murali et. al., 2011. J. Clin. Cell Immunol. Suppl 3: 2. doi:10.4172/2155-9899.S3-002. "Apoptosis - an Ubiquitous T cell Immunomodulator")。従って、マルチヘアピンのamiRNAを用いて、T細胞におけるデス受容体4及び5の発現を阻害することは有益である。
【0277】
ヒト免疫細胞におけるデス受容体4及びデス受容体5の阻害に有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、両者のmRNAに相補的なガイドを有するマルチヘアピンamiRNA配列を含む。本発明のデス受容体4/デス受容体5阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトデス受容体4 mRNA(配列番号54)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19塩基の配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。デス受容体4/デス受容体5阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号54に相補的な連続した19塩基配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19塩基配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。デス受容体4/デス受容体5阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトデス受容体5 mRNA(配列番号56)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とをさらに含む。デス受容体4/デス受容体5阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号56に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第4のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第4のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第3及び第4のガイド配列は互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヘアピンは、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドにおいて、任意の順序で用いてもよい。例えば、デス受容体4に相補的なガイドを含む2つのヘアピンは、互いに隣接していてもよいし、デス受容体5に相補的なガイドを含む1つ以上のヘアピンによって互いに分離されていてもよい。逆に、デス受容体5に相補的なガイドを含む2つのヘアピンは、互いに隣接していてもよいし、デス受容体4に相補的なガイドを含む1つ以上のヘアピンによって互いに分離されていてもよい。ヒトデス受容体4及びデス受容体5を阻害するための例示的なマルチヘアピンamiRNAの配列は、配列番号825~826である。ヒトの死受容体4及び死受容体5を阻害するための他の例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号817~820からの配列、及び配列番号821~824からの配列を選択し、2つの配列を連結することによって得てもよい。2つの配列の順番は重要ではない。
【0278】
好ましい実施形態は、デス受容体4及びデス受容体5を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞への感染に使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。デス受容体4及びデス受容体5を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、4つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、そのうちの2つはデス受容体4 mRNAに相補的であり、及びそのうちの2つはデス受容体5 mRNAに相補的であり、各ヘアピンは、ヒトの免疫細胞において活性な異種のプロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートに挟まれている。
【0279】
好ましい実施形態は、デス受容体4及びデス受容体5を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、デス受容体4及びデス受容体5を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。デス受容体4及びデス受容体5を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、4つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、そのうちの2つはデス受容体4 mRNAに相補的であり、及びそのうちの2つはデス受容体5 mRNAに相補的であり、各ヘアピンは、ヒトの免疫細胞において活性な異種のプロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0280】
デス受容体4 mRNA内の2つの異なる配列及びデス受容体5 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な4つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、デス受容体4及びデス受容体5の遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失させ得る。任意に、デス受容体4 mRNA内の2つの異なる配列及びデス受容体5 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な4つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。デス受容体4及びデス受容体5の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。
【0281】
5.8.21 Apaf1
アポトーシスペプチダーゼ活性化因子1(Apaf1、apoptotic peptidase activating factor 1)を欠損したマウスのT細胞は、より効率的に増殖し、活性化表現型を持つ細胞の割合が高いことが示された(Tong et. al. 2018 PLOS ONE, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0195119. "Apaf1 plays a negative regulatory role in T cell responses by suppressing activation of antigen-stimulated T cells")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるApaf1の発現を阻害することは有益である。
【0282】
ヒト免疫細胞におけるApaf1の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、Apaf1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。Apaf1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトApaf1 mRNA(配列番号58)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号59)の3'にあるApaf1 mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。Apaf1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号58に相補的な連続する19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続する19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。Apaf1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号58に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なっている。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてApaf1を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号304及び608、配列番号305及び609、配列番号306及び610、配列番号307及び611、配列番号308及び612、配列番号309及び613、配列番号310及び614、配列番号311及び615、配列番号312及び616、並びに配列番号313及び617である。ヒトApaf1の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号827~832である。
【0283】
好ましい実施形態は、Apaf1を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。Apaf1を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、Apaf1 mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0284】
好ましい実施形態は、Apaf1を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、Apaf1を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。Apaf1を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類の免疫細胞で活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0285】
Apaf1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、Apaf1遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失させ得る。任意に、Apaf1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。Apaf1の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。Apaf1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0286】
5.8.22 Blimp1
Bリンパ球誘導性成熟蛋白質-1(Blimp-1、B lymphocyte-induced maturation protein-1)の発現は、慢性的なウイルス感染(Fu et. al., 2017. J. Biomedical Science 24, 49 https://doi.org/10.1186/s12929-017-0354-8. "New insights into Blimp-1 in T lymphocytes: a divergent regulator of cell destiny and effector function")及びがん(Zhu et. al., 2017. J. Hematology and Oncology 10:124 https://doi.org/10.1186/s13045-017-0486-z. "Blimp-1 impairs T cell function via upregulation of TIGIT and PD-1 in patients with acute myeloid leukemia")の際のT細胞の疲弊と関連している。従って、マルチヘアピンのamiRNAを用いて、T細胞におけるBlimp1の発現を阻害することが有益である。
【0287】
ヒト免疫細胞におけるBlimp1の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、Blimp1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。Blimp1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトBlimp1 mRNA(配列番号60)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号61)の3'にあるBlimp1 mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。Blimp1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号60に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。Blimp1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号60に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてBlimp1を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号314及び618、配列番号315及び619、配列番号316及び620、配列番号317及び621、配列番号318及び622、配列番号319及び623、配列番号320及び624、配列番号321及び625、並びに配列番号322及び626である。ヒトBlimp1の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号833~838である。
【0288】
好ましい実施形態は、Blimp1を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。Blimp1を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、Blimp1 mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートに挟まれている。
【0289】
好ましい実施形態は、Blimp1を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、Blimp1を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。Blimp1を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞で活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0290】
Blimp1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、Blimp1遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失し得る。任意に、Blimp1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。Blimp1の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。Blimp1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0291】
5.8.23 BTLA
疲弊したT細胞は、高レベルのTリンパ球アテニュエーター(BTLA、T lymphocyte attenuator)を発現する(iang et. al., 2015. Cell Death & Disease 6, e1972 https://doi.org/10.1038/cddis.2015.162. "T-cell exhaustion in the tumor microenvironment")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるBTLAの発現を阻害することは有益である。
【0292】
ヒト免疫細胞におけるBTLAの阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、BTLA阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。BTLA阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトBTLA mRNA(例えば、配列番号62)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(例えば、配列番号63)の3'にあるBTLA mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。BTLA阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号62に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。BTLA阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号62に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてBTLAを阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号323及び627、配列番号324及び628、配列番号325及び629、配列番号326及び630、配列番号327及び631、配列番号328及び632、配列番号329及び633、並びに配列番号330及び634である。ヒトBTLAの阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号839~844である。
【0293】
好ましい実施形態は、BTLAを標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。BTLAを標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、BTLA mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0294】
好ましい実施形態は、BTLAを標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、BTLAを標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。BTLAを標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0295】
BTLA mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、BTLA遺伝子の活性を恒久的に低下又は除去し得る。任意に、BTLA mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。BTLAの発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。BTLA mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0296】
5.8.21 LAG-3
疲弊したT細胞は、高レベルのリンパ球活性化遺伝子3蛋白質(Lag-3、Lymphocyte activation gene 3 protein)を発現する(Jiang et. al., 2015. Cell Death & Disease 6, e1972 https://doi.org/10.1038/cddis.2015.162. "T-cell exhaustion in the tumor microenvironment")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるLag-3の発現を阻害することは有益である。
【0297】
ヒト免疫細胞におけるLAG-3の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、LAG-3阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。LAG-3阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトLAG-3 mRNA(例えば、配列番号64)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。LAG-3阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号64に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。LAG-3阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号64に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてLAG-3を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号331及び635、配列番号332及び636、配列番号333及び637、配列番号334及び638、配列番号335及び639、配列番号336及び640、配列番号337及び641、並びに配列番号338及び642である。ヒトLAG-3の阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号845~850である。
【0298】
好ましい実施形態は、LAG-3を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。LAG-3を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、LAG-3 mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0299】
好ましい実施形態は、LAG-3を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、LAG-3を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。LAG-3を標的とする トランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0300】
LAG-3 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、LAG-3遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失し得る。任意に、LAG-3 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。LAG-3の発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。LAG-3 mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0301】
5.8.22 TIGIT
疲弊したT細胞は、Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体(TIGIT、T-cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)を高レベルで発現する(Jiang et. al., 2015. Cell Death & Disease 6, e1972 https://doi.org/10.1038/cddis.2015.162. "T-cell exhaustion in the tumor microenvironment")。従って、マルチヘアピンamiRNAを用いて、T細胞におけるTIGITの発現を阻害することが有益である。
【0302】
ヒト免疫細胞におけるTIGITの阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、TIGIT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。TIGIT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトTIGIT mRNA(例えば、配列番号65)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(例えば、配列番号66)の3'にあるTIGIT mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。TIGIT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号65に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。TIGIT阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号65に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてTIGITを阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号340及び644、配列番号341及び645、配列番号342及び646、配列番号343及び647、配列番号344及び648、配列番号345及び649、並びに配列番号346及び650である。ヒトTIGITの阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号851~856である。
【0303】
好ましい実施形態は、TIGITを標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。TIGITを標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、TIGIT mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0304】
好ましい実施形態は、TIGITを標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、TIGITを標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。TIGITを標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0305】
TIGIT mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、TIGIT遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失し得る。任意に、TIGIT mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。TIGITの発現の低下は、腫瘍浸潤リンパ球の疲弊という表現型を緩和できる。TIGIR mRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムが含むT細胞は、腫瘍細胞を死滅させる能力が向上し得る。
【0306】
5.8.26 ベータ-2-ミクログロブリン
養子T細胞移植の限界は、患者自身のT細胞の機能が以前の治療によって損なわれている可能性があり、インビトロで細胞を増殖させることが困難であることである。さらに、患者自身のT細胞を抽出し、改変して患者に戻すというロジスティクスことは、ロジスティクス上の大きなハードルとなり得る。代わりに、例えば、ベータ-2-ミクログロブリンのノックアウトによって、一致しないドナーのT細胞から主要組織適合性複合体の発現を排除することが考えられる。これにより、養子移入T細胞が患者自身の免疫反応によって除去されることを防ぐことができる。この欠損は、CRISPR/Cas9を用いて効果的に行うことができる(Ren et. al., 2017. Clin. Cancer Res. 23: 2255-2266. "Multiplex genome editing to generate universal CAR T cells resistant to PD1 inhibition")。あるいは、ベータ-2-ミクログロブリンの発現の阻害を、マルチヘアピンamiRNAを用いて行うことができる。
【0307】
ヒト免疫細胞におけるベータ-2-ミクログロブリンの阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、ベータ-2-ミクログロブリン阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。ベータ-2-ミクログロブリン阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトベータ-2-ミクログロブリンmRNA(例えば、配列番号67)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(例えば、配列番号68)の3'にあるベータ-2-ミクログロブリンmRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。ベータ-2-ミクログロブリン阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号67に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。ベータ-2-ミクログロブリン阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号67に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞においてベータ-2-ミクログロブリンを阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号347及び651、配列番号348及び652、配列番号349及び653、配列番号350及び654、配列番号351及び655、配列番号352及び656、配列番号353及び657、並びに配列番号354及び658である。ヒトベータ-2-ミクログロブリンの阻害のための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号857~862である。
【0308】
好ましい実施形態は、ベータ-2-ミクログロブリンを標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞への感染に使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。ベータ-2-ミクログロブリンを標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、ベータ-2-ミクログロブリンmRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0309】
好ましい実施形態は、ベータ-2-ミクログロブリンを標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、ベータ-2-ミクログロブリンを標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。ベータ-2-ミクログロブリンを標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、2つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、標的mRNAに相補的な少なくとも19個の連続した塩基を含む異なる配列を含み、各ヘアピンは、哺乳類の免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、トランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくはT細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)、又はB細胞である。
【0310】
ベータ-2-ミクログロブリンmRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞は、ベータ-2-ミクログロブリン遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失し得る。そのような免疫細胞は、免疫原性を低減又は排除し得、そのため、その免疫細胞を受け取った患者による拒絶反応のリスクが低減し得る。任意に、ベータ-2-ミクログロブリンmRNA内の2つの異なる配列に相補的な2つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAは、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。
【0311】
5.8.27 T細胞受容体
一致しないドナーからのT細胞の養子移入には、2つのメジャーな潜在的な落とし穴がある。一つ目は、移植されたT細胞が宿主の免疫系の標的となることである。この問題は、ベータ-2-ミクログロブリンを欠損させることで回避できる。第2の問題は、移植されたT細胞が、一致しない宿主を認識して破壊し得ることである。この問題は、T細胞受容体の発現を阻止することで回避できる。これは、CRISPR/Cas9の使用が効果的である(Ren et. al., 2017. Clin. Cancer Res. 23: 2255-2266. "Multiplex genome editing to generate universal CAR T cells resistant to PD1 inhibition")。あるいは、T細胞受容体の発現阻害は、アルファ、ベータ1及びベータ2定常領域(それぞれTCRアルファ、TCRベータ1及びTCRベータ2)を標的とするマルチヘアピンamiRNAを用いて行うことができる。
【0312】
ヒト免疫細胞におけるTCRアルファの阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、TCRアルファ阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。TCRアルファ阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトTCRアルファmRNA(配列番号69)の定常領域の配列に相補的な連続した19ヌクレオチドの配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチドの配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号70)の3'にあるTCRアルファmRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。TCRアルファ阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号69に相補的な連続する19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続する19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。TCRアルファ阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号69に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞におけるTCRアルファを阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号355及び659、配列番号356及び660、配列番号357及び661、配列番号358及び662、配列番号359及び663、配列番号360及び664、配列番号361及び665、並びに配列番号362及び666である。
【0313】
ヒト免疫細胞におけるTCRベータ1の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、TCRベータ1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。TCR beta1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトTCR beta1 mRNA(配列番号71)の定常領域の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号72)の3'にあるTCR β1 mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。TCRベータ1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号71に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。TCRベータ1阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号71に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞におけるTCRベータ1を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号363及び667、配列番号364及び668、配列番号365及び669、配列番号366及び670、配列番号367及び671、配列番号368及び672、配列番号369及び673、並びに配列番号370及び674である。
【0314】
ヒト免疫細胞におけるTCRベータ2の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、TCRベータ2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列を含む。TCRベータ2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトTCRベータ2 mRNA(配列番号73)の定常領域の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。より好ましくは、第1のガイド配列は、オープンリーディングフレーム(配列番号74)の3'にあるTCR β2 mRNAの配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む。TCRベータ2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号73に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なる。TCRベータ2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号73に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とを任意に含んでいてもよく、ここで、第1、第2及び第3のガイド配列はすべて互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヒト免疫細胞におけるTCRベータ2を阻害するための例示的なガイド配列及びそのそれぞれのパッセンジャー配列は、配列番号371及び675、配列番号372及び676、配列番号373及び677、配列番号374及び678、配列番号375及び679、配列番号376及び680、配列番号377及び681、並びに配列番号378及び682である。
【0315】
ヒト免疫細胞におけるTCRアルファ、TCRベータ1及びTCRベータ2の阻害のために有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、3つの遺伝子全てのmRNAに相補的なガイドを有するマルチヘアピンamiRNA配列を含む。TCRアルファ/TCRベータ1/TCRベータ2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトTCRアルファmRNA(配列番号69)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチドの配列を含む第1のガイド配列と、第1のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチドの配列を含む第1のパッセンジャー配列とを含む。TCRアルファ/TCRベータ1/TCRベータ2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号69に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のガイド配列と、第2のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第2のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第1及び第2のガイド配列は互いに異なるものである。TCRアルファ/TCRベータ1/TCRベータ2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトTCRベータ2 mRNA(配列番号73)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のガイド配列と、第3のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第3のパッセンジャー配列とをさらに含む。TCRアルファ/TCRベータ2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号73に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第4のガイド配列と、第4のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第4パッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第3及び第4のガイド配列は互いに異なる。TCRアルファ/TCRベータ1/TCRベータ2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、ヒトTCRベータ1 mRNA(配列番号71)の配列に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第5のガイド配列と、第5のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一である連続した19ヌクレオチド配列を含む第5のパッセンジャー配列とをさらに含む。TCRアルファ/TCRベータ1/TCRベータ2阻害性マルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号71に相補的な連続した19ヌクレオチド配列を含む第6のガイド配列と、第6のガイド配列の逆相補鎖と少なくとも78%同一の連続した19ヌクレオチド配列を含む第6のパッセンジャー配列とをさらに含み、ここで、第5及び第6のガイド配列は互いに異なる。各ガイド配列は、それぞれのパッセンジャー配列から5~35塩基の間で分離されている。ヘアピンは、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドにおいて、任意の順序で用いてもよい。例えば、TCRアルファに相補的なガイドを含む2つのヘアピンは、互いに隣接していてもよいし、TCRベータ2又はTCRベータ1に相補的なガイドを含む1つ以上のヘアピンによって互いに分離されていてもよい。ヒトTCRアルファとTCRベータ2とTCRベータ1を阻害するための例示的なマルチヘアピンamiRNA配列は、配列番号863~868である。
【0316】
好ましい実施形態は、TCRアルファ、TCRベータ1及びTCRベータ2を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、レンチウイルスベクターの一部であるポリヌクレオチドを含む。マルチヘアピンamiRNAを含むレンチウイルスベクターは、パッケージ化し、免疫細胞に感染させるために使用してもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)である。TCRアルファ、TCRベータ1及びTCRベータ2を標的とするレンチウイルス担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、6つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、少なくとも19個の連続した塩基の異なる配列を含み、そのうちの2つはTCRアルファmRNAに相補的であり、そのうちの2つはTCRベータ1 mRNAに相補的であり、及びそのうちの2つはTCRベータ2 mRNAに相補的であり、各ヘアピンは、ヒトの免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピン及びプロモーターは、レンチウイルスの逆向きの末端リピートによって挟まれている。
【0317】
好ましい実施形態は、TCRアルファ及びTCRベータ2を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含むポリヌクレオチドであって、トランスポゾンの一部であるポリヌクレオチドを含む。トランスポゾンは、トランスポゾンエンドを含み、トランスポゾンが免疫細胞に導入され、免疫細胞が対応するトランスポザーゼを発現すると、TCRアルファ、TCRベータ1及びTCRベータ2を標的とするマルチヘアピンamiRNAが免疫細胞のゲノムに組み込まれる。TCRアルファ、TCRベータ1及びTCRベータ2を標的とするトランスポゾン担持マルチヘアピンamiRNAによって改変された免疫細胞は、6つのヘアピンを含み、各ヘアピンは、少なくとも19個の連続した塩基の異なる配列を含み、そのうちの2つはTCRアルファmRNAに相補的であり、そのうちの2つはTCRベータ1 mRNAに相補的であり、そのうちの2つはTCRベータ2 mRNAに相補的であり、各ヘアピンは、ヒトの免疫細胞において活性な異種プロモーターに作動可能に連結し、ここで、ヘアピンとプロモーターがトランスポゾンの逆向きの末端リピートによって挟まれている。トランスポゾンは、piggyBac様トランスポゾン、又はSleeping BeautyトランスポゾンのようなMarinerトランスポゾンであってもよい。免疫細胞は、好ましくは、T細胞(例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞)である。
【0318】
6つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNAを含む阻害性ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞(ここで、2つのガイド配列はTCRアルファmRNA内の2つの異なる配列に相補的であり、2つのガイド配列はTCRベータ1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的であり、及び2つのガイド配列はTCRベータ2 mRNA内の2つの異なる配列に相補的である)は、TCRアルファ及びTCRベータ2遺伝子の活性を恒久的に低下又は消失し得る。任意に、6つのガイド配列を含むマルチヘアピンamiRNA(ここで、2つのガイド配列はTCRアルファmRNA内の2つの異なる配列に相補的であり、2つのガイド配列はTCRベータ1 mRNA内の2つの異なる配列に相補的であり、及び2つのガイド配列は、TCRベータ2 mRNA内の2つの異なる配列に相補的である)は、キメラ抗原受容体をコードする遺伝子と同じプロモーターに作動可能に連結している。
【0319】
5.8.28促進された生存及び増殖
好ましくは、内在性免疫細胞遺伝子を標的とする阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞の半減期は、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドをゲノムに含まず、内在性免疫細胞遺伝子を通常レベルで発現している免疫細胞の半減期と比較して、少なくとも5%、又は少なくとも10%、又は少なくとも15%、又は少なくとも20%、又は少なくとも25%、又は少なくとも30%、又は少なくとも35%、又は少なくとも40%、又は少なくとも45%、又は少なくとも50%、又は少なくとも55%、又は少なくとも60%、又は少なくとも65%、又は少なくとも70%、又は少なくとも75%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも100%増加する。好ましくは、内在性免疫細胞遺伝子を標的とする阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞の最高寿命は、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドをゲノムに含まず、内在性免疫細胞遺伝子を通常レベルで発現している免疫細胞の最高寿命と比較して、少なくとも5%、又は少なくとも10%、又は少なくとも15%、又は少なくとも20%、又は少なくとも25%、又は少なくとも30%、又は少なくとも35%、又は少なくとも40%、又は少なくとも45%、又は少なくとも50%、又は少なくとも55%、又は少なくとも60%、又は少なくとも65%、又は少なくとも70%、又は少なくとも75%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも100%増加する。好ましくは、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを含まないゲノムを持ち、内在性免疫細胞遺伝子を通常レベルで発現している免疫細胞の倍加時間は、内在性免疫細胞遺伝子を標的とした阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを含むゲノムを持つ免疫細胞の倍加時間に比べて、少なくとも5%、又は少なくとも10%、又は少なくとも15%、又は少なくとも20%、又は少なくとも25%、又は少なくとも30%、又は少なくとも35%、又は少なくとも40%、又は少なくとも45%、又は少なくとも50%、又は少なくとも55%、又は少なくとも60%、又は少なくとも65%、又は少なくとも70%、又は少なくとも75%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも100%大きい。好ましくは、内在性免疫細胞遺伝子を標的とした阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドをゲノムに含む免疫細胞の増殖率は、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドをゲノムに含まず、内在性免疫細胞遺伝子を通常レベルで発現している免疫細胞の増殖率と比較して、少なくとも5%、又は少なくとも10%、又は少なくとも15%、又は少なくとも20%、又は少なくとも25%、又は少なくとも30%、又は少なくとも35%、又は少なくとも40%、又は少なくとも45%、又は少なくとも50%、又は少なくとも55%、又は少なくとも60%、又は少なくとも65%、又は少なくとも70%、又は少なくとも75%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも100%増加する。
【0320】
阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを含むゲノムを有する免疫細胞の増殖率は、特定の環境下、例えば、腫瘍微小環境下で増加し得る。阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを含むゲノムを有する免疫細胞の半減期は、特定の環境下、例えば、腫瘍微小環境下で増加し得る。阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを含むゲノムを有する免疫細胞の寿命は、特定の環境下、例えば、腫瘍微小環境下で増加し得る。阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを含むゲノムを有する免疫細胞の倍加時間は、例えば、特定の環境下、例えば、腫瘍微小環境下で減少し得る。
【0321】
細胞の生存率は、集団中の半分の細胞だけが生き残る時間(半減期)、又は集団中の全ての細胞が死ぬまでの時間(最高寿命)として測定できる。免疫細胞阻害性遺伝子を標的とする阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを発現している免疫細胞は、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを発現していない免疫細胞に比べて、より長く生き続けることができる。この効果を測定する一つの方法は、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを免疫細胞のゲノムに組み込むことであり、ここで、ポリヌクレオチドは、マルチヘアピンamiRNAを免疫細胞内で発現させる制御配列と作動可能に連結している、内因性免疫細胞阻害性遺伝子を標的とするマルチヘアピンamiRNAを含む。阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドをゲノムに含む細胞は、amiRNAを発現し、そのガイド鎖RNAがRISC複合体に取り込まれ、標的mRNAの発現を抑制する。生存率の向上は、インビトロ又はインビボにおいて、マルチヘアピンamiRNAを発現している免疫細胞の、amiRNAを発現していない免疫細胞に対する半減期の増加として測定できる。
【0322】
細胞の増殖は、集団内の細胞数が2倍になるまでの時間(倍加時間)、又は単位時間内に細胞集団が増加する割合(増殖率)として測定できる。内在性免疫細胞阻害性遺伝子を標的とするマルチヘアピンamiRNAを発現する免疫細胞は、マルチヘアピンamiRNAを発現していない免疫細胞と比較して、より長く分裂し得、あるいはより急速に分裂し得る。増殖の促進は、内在性免疫細胞阻害性遺伝子を通常発現している免疫細胞と比較して、マルチヘアピンamiRNAを発現している免疫細胞の倍加時間の減少として測定できる。増殖率又は倍加時間は、免疫細胞がマルチヘアピンamiRNAの発現を開始した後の様々な時点で測定してもよい。マルチヘアピンamiRNAを発現している免疫細胞の増殖率は、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドが免疫細胞のゲノムに組み込まれてから5日後、又は10日後、又は15日後、又は20日後、又は25日後、又は30日後、又は35日後、又は40日後、又は45日後、又は50日後、又は55日後、又は60日後に、マルチヘアピンamiRNAを発現していない同じ免疫細胞の増殖率と比較して、増加し得る。
【0323】
T細胞が標的腫瘍細胞を死滅させる能力は、ある定義された条件下で一定数の標的細胞を死滅させるために必要なT細胞の数として測定できる。より高い死滅効率を有するT細胞は、より多くの腫瘍細胞を死滅させることができる。腫瘍死滅能は、T細胞を標的細胞とインビトロで混合することにより、例えば、細胞培養で測定できる。また、既知の数の腫瘍細胞を動物に導入した動物モデルや、動物の腫瘍が一定の大きさまで成長したときなど、インビボで腫瘍死滅能を測定してもよい。免疫細胞の阻害性遺伝子を標的とした阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを発現するT細胞は、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを発現していない免疫細胞よりも長く生存し得る。また、腫瘍細胞を死滅させる能力も維持される。腫瘍死滅能の向上は、既知の数の腫瘍細胞を死滅させるために必要な免疫細胞阻害性遺伝子を標的とするマルチヘアピンamiRNAをゲノムに含むT細胞の数を、免疫細胞阻害性遺伝子を通常発現しているT細胞の数と比較して測定できる。免疫細胞阻害性遺伝子を標的とするマルチヘアピンamiRNAをゲノムに含むT細胞による腫瘍死滅能は、2倍に増加してもよく(即ち、同じ数の腫瘍細胞を死滅するために、免疫細胞阻害性遺伝子を通常発現しているT細胞の2倍の数が必要となる)、又は腫瘍死滅能は3倍に増加してもよく、又は、腫瘍死滅能は4倍に増加してもよく、又は、腫瘍死滅能は5倍に増加してもよく、又は、腫瘍死滅能は6倍に増加してもよく、又は、腫瘍死滅能は7倍に増加してもよく、又は、腫瘍死滅能は8倍に増加してもよく、又は、腫瘍死滅能は9倍に増加してもよく、又は、腫瘍死滅能は10倍以上に増加してもよい。
【0324】
本発明のいくつかの実施形態では、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドは、第1及び第2のガイドRNAがRISC複合体にロードされるようにRNAプロセシング酵素Drosha及びDicerによってプロセシング可能な2つのヘアピンを含み、第1及び第2のガイドRNAは、同じ内因性免疫細胞mRNAに相補的であり、その発現を阻害する。免疫細胞mRNAは、任意の天然免疫細胞遺伝子であってよい。免疫細胞遺伝子は、以下のいずれかから選択されてもよい。TOX、TOX2、PD-1、CTLA-4、TIM-3、Nur77、Nuur1、NOR1、NFAT、FAS受容体、カスパーゼ3、カスパーゼ7、カスパーゼ8、カスパーゼ9、カスパーゼ10、デス受容体4、デス受容体5、Apaf1、Blimp1、BTLA、LAG-3、TIGIT、ベータ-2-ミクログロブリン、T細胞受容体の定常領域。好ましくは、標的遺伝子の発現は、阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドをゲノムに含まない免疫細胞における標的遺伝子の通常の発現レベルの50%未満、又は40%未満、又は30%未満、又は20%未満、又は15%未満、又は10%未満、又は9%未満、又は8%未満、又は7%未満、又は6%未満、又は5%未満、又は4%未満、又は3%未満、又は2%未満、又は1%未満に減少する。
【0325】
5.9 標的の組み合わせ
培養哺乳類細胞に内在する複数の遺伝子の発現を同時に阻害することが有益であり得る。これは、異なるmRNAを標的とするガイド鎖配列を、適切なループ及びパッセンジャー鎖配列と組み合わせてヘアピンを形成することによって行うことができ、好ましくは、5.2.4項に記載されているように、ガイド-ループ-パッセンジャー鎖配列の5'及び3'にヘアピン安定化配列を付けて安定化させる。阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドは、任意の数の遺伝子を標的とすることができ、複数の阻害性遺伝子導入ポリヌクレオチドを培養哺乳類細胞のゲノムに組み込んでもよい。
【0326】
5.10 キット
本発明は、以下を含むキットも特徴とする。蛋白質として又は核酸によってコードされるトランスポザーゼ、及び/又はトランスポゾン;又は、本明細書に記載されているような蛋白質として又は核酸によってコードされるトランスポザーゼをトランスポゾンと組み合わせて含む、本明細書に記載されているような遺伝子導入システム;任意に、一緒になって、薬学的に許容される担体、アジュバント又はビヒクル、及び任意に使用説明書。本発明のキットの構成要素のいずれも、順次又は並行して細胞に投与及び/又はトランスフェクトしてもよく、例えば、トランスポゾンの投与及び/又はトランスフェクトに先立って、それと同時に、又はそれに続いて、トランスポザーゼ蛋白質又はそのコード核酸を上記で定義したように細胞に投与及び/又はトランスフェクトしてもよい。あるいは、トランスポゾンを、トランスポザーゼ蛋白質又はそのコード核酸のトランスフェクトに先立って、それと同時に、又はそれに続いて、上記で定義した細胞にトランスフェクトしてもよい。並行してトランスフェクトを行う場合、好ましくは、トランスフェクト前の転移を避けるために、両成分を分離した製剤で提供し、及び/又は投与前に直接相互に混合する。さらに、キットの少なくとも1つの成分の投与及び/又はトランスフェクトは、例えば、この成分を複数回投与することによって、時間をずらしたモードで行ってもよい。
【0327】
6. 実施例
以下の実施例は、本明細書に開示の方法、組成物、及びキットを例示するものであり、いかなる方法においても限定的に解釈されるべきではない。以下の実施例から様々な等価物が明らかになり得、そのような等価物もまた、本明細書に開示の本発明の一部であると考えられる。
【0328】
6.1 分泌蛋白質のフコシル化の抑制
6.1.1 マイクロRNAによる抗体のフコシル化の抑制
6.1.1.1 安定的に発現させた抗体のフコシル化の除去
マルチヘアピンamiRNA遺伝子を用いて、抗体のフコシル化を抑制した。この抗体は、配列番号870で示される成熟軽鎖と配列番号869で示される成熟重鎖を有し、抗体をコードする遺伝子は、5'-TTAA-3'標的配列と直後の配列番号1006(配列番号1004の一実施形態)のITR及び配列番号1000の追加配列を含む左端と、配列番号1002と直後の配列番号1007(配列番号1005の一実施形態)のITRと直後の5'-TTAA-3'標的配列を含む右端とを含むトランスポゾン上で、CHO細胞株のゲノムに組み込まれていた。トランスポゾンはさらに、グルタミン合成酵素セレクタブルマーカーをコードする遺伝子を含んでいた。
【0329】
Criteculus griseusアルファ-(1,6)-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8) mRNA(配列番号1を有する)を標的とする3つの異なるマルチヘアピンamiRNA遺伝子を構築した。配列番号725及び726で示される配列を持つ2つのマルチヘアピンamiRNAは、それぞれ3つのヘアピンを含み、第1のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号75と直後のループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号379を含み、第2のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号76と直後のループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号380を含み、第3のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号77と直後のループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号381を含んでいた。この3つのガイド鎖配列はそれぞれ、Criteculus griseusアルファ-(1,6)-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8) mRNA内の異なる領域の完全な逆相補鎖である22塩基の配列であった。各パッセンジャー鎖配列は、ガイド鎖の5'塩基とガイド鎖の12番目の塩基に対応するパッセンジャー鎖配列の塩基が非相補的に変更されていたことを除いて、対応するガイド鎖配列と相補的であった。配列番号75のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれGとCであり、対応するパッセンジャー鎖配列配列番号379の対応する塩基はそれぞれAとAである。配列番号76のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとAであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号380の対応する塩基はそれぞれCとCである。配列番号77のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとGであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号381の対応する塩基はそれぞれCとAである。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号725及び726の各ヘアピンは、さらに、追加のステム安定化配列を含み、ステム配列配列番号697がガイド鎖配列の直前にあり、ステム配列配列番号698がパッセンジャー鎖配列の直後にある。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号725及び726は、さらに、第1のヘアピンの5'の配列番号693の非構造化配列と、第3のヘアピンの3'の配列番号695非構造化配列とを含んでいた。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号726は、さらに、第1及び第2のヘアピンの間に配列番号716の非構造化配列を有し、第2及び第3のヘアピンの間に配列番号717の非構造化配列を有していた。各ガイド鎖配列は異なり、それぞれがCriteculus griseus FUT8 mRNA(配列番号1)に相補的である。
【0330】
また、配列番号727で示される配列を有する第3のマルチヘアピンamiRNAも3つのヘアピンを含み、第1のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号78と直後のループ配列配列番号685及びパッセンジャー鎖配列配列番号382を含み、第2のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号79と直後のループ配列配列番号685及びパッセンジャー鎖配列配列番号383を含み、第3のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号80と直後のループ配列配列番号685及びパッセンジャー鎖配列配列番号384を含んでいた。これら3つのガイド鎖配列はそれぞれ、Criteculus griseusアルファ-(1,6)-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8) mRNA内の異なる領域の完全な逆相補鎖である21塩基の配列であった。各パッセンジャー鎖配列は、ガイド鎖の12番目と13番目の塩基に対応するパッセンジャー鎖配列の塩基が欠失していることを除いて、対応するガイド鎖配列と相補的であった。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号727の各ヘアピンは、さらに追加のステム安定化配列を含み、ステム配列配列番号699がガイド鎖配列の直前にあり、ステム配列配列番号700がパッセンジャー鎖配列の直後にあった。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号727は、第1のヘアピンの5'に配列番号694の非構造化配列を、第3のヘアピンの3'に配列番号696の非構造化配列をさらに含んでいた。各ガイド鎖の配列は異なり、それぞれがCriteculus griseus FUT8 mRNA(配列番号1)に相補的である。
【0331】
3つのマルチヘアピンamiRNA配列のそれぞれを、赤色蛍光蛋白質をコードするオープンリーディングフレーム(配列番号723で示される)の3'に配置し、その後にウサギグロビンポリアデニル化配列を配置した。各マルチヘアピンamiRNA配列は、Pol IIプロモーター(表1に示すようなCMVプロモーター(配列番号927)又はEF1プロモーター(配列番号898))に作動可能に連結されたトランスポゾンベクターにクローンニングした。トランスポゾンは、5'-TTAA-3'標的配列とすぐ隣にある配列番号1010のITRと直後の配列番号1008の追加配列を含む左端と、配列番号1009と直後の配列番号1011のITRと直後の5'-TTAA-3'標的を含む右端を含んでいた。さらに、ピューロマイシンセレクタブルマーカーをコードする遺伝子(ポリペプチド配列配列番号886を有する)を含んでいた。トランスポゾンは、マルチヘアピンamiRNA、蛍光蛋白質遺伝子、及び必要な作動可能に連結された全ての制御要素が、対応するトランスポザーゼによって転移可能なように構成された。
【0332】
トランスポゾンを、トランスポザーゼ配列番号1086をコードするmRNAとともに、配列番号870で示される成熟軽鎖配列及び配列番号869で示される成熟重鎖配列を有する抗体を発現するクローンCHO細胞株に共トランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞のプールを、10μg/mlのピューロマイシンの存在下で、生存率が95%になるまで培養した。その後、Sigma Advanced Fed Batch培地を用いて、14日間、フェッドバッチで培養した。培養上清からプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて蛋白質を精製し、ジチオスレイトールで還元し、Agilent QTOF質量分析計で分析した。質量分析の結果を図3A-Gに示す。表1は、図3A-Gに示した各トレースに使用した様々なトランスポゾン成分を示している。
【0333】
図3A-Gでは、4つの質量分析ピークが矢印で示されている。(i)50,424 Daのピークは、G0で改変された重鎖であり、保存された七糖のコアは、2つのN-アセチルグルコサミン、3つのマンノース、及びα-6マンノース及びα-3マンノースにβ-1,2結合した2つの他のN-アセチルグルコサミン残基を含み、2つのアームを形成している。(ii) 50,571 Daのピークは、G0Fで改変された重鎖であり、保存された七糖のコアにフコース残基を加えたものである。(iii) 50,586 Daのピークは、G1で改変された重鎖であり、保存された七糖コアにガラクトース残基を加えたものである。(iv) 50,733 Daのピークは、G1Fで改変された重鎖であり、保存された七糖コアにガラクトース残基とフコース残基を加えたものである。図3Aに示すように、はじめのクローンCHO株の場合、50,424 Daに小さなG0ピークがあり、50,571 Daに大きなG0Fピークがあることから、抗体の大部分がフコシル化されていることが示されている(相対的なピークの高さ又は曲線下の積分を用いて約80%)。同様に、はじめのクローンCHO株では、50,733に顕著なG1Fピークがある。図3B-Gではいずれも、50,424 Daにはるかに大きなG0ピークがあり、50,571には検出可能なG0Fピークはなく、50,733にも検出可能なG1Fピークはない。以上から、3種類のマルチヘアピンamiRNAの形態は、ヘアピンが哺乳類細胞内で活性なPolIIプロモーター(CMVプロモーター又はEF1プロモーター)に作動可能に連結しており、FUT8の発現を十分に阻害し、抗体のフコシル化を完全に抑制すると結論づけた。
【0334】
6.1.1.2 異なるPol IIプロモーターに作動可能に連結されたマルチヘアピンamiRNA
配列番号870の成熟軽鎖配列と配列番号869の成熟重鎖配列を有す抗体のフコシル化を抑制するために、マルチヘアピンamiRNA遺伝子を使用した。ここで、抗体は6.1.1.1項に記載したCHO細胞株から安定的に発現させた。
【0335】
配列番号726で示される配列のマルチヘアピンamiRNAは、6.1.1.1項に記載されているように、Criteculus griseusアルファ-(1,6)-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8) mRNAに相補的なガイドを有する3つのヘアピンを含んでいた。マルチヘアピンamiRNA配列は、赤色蛍光蛋白質をコードするオープンリーディングフレーム(配列番号723で示される)の3'に配置され、その後にウサギグロビンのポリアデニル化配列が続いた。このマルチヘアピンamiRNA遺伝子は、3つの異なるBombyxトランスポゾンベクターにクローニングし、それぞれのベクターは、6.1.1.1項で使用した強力なEF1プロモーター及びCMVプロモーターよりも弱い異なるPol IIプロモーター(ラットEF2プロモーター(配列番号934で示される配列)、PGKプロモーター(配列番号969で示される配列)、及びUbbプロモーター(配列番号975で示される配列))に作動可能に連結した。トランスポゾンは、5'-TTAA-3'標的配列とすぐ隣にある配列番号1010のITRと直後の配列番号1008の追加配列を含む左端と、配列番号1009と直後の配列番号1011のITRと直後の5'-TTAA-3'標的を含む右端を含んでいた。さらに、配列番号886で示されるポリペプチド配列を有するピューロマイシンセレクタブルマーカーをコードするオープンリーディングフレームを含んでいた。トランスポゾンは、マルチヘアピンamiRNA、蛍光蛋白質遺伝子、セレクタブルマーカー遺伝子、及び必要な作動可能に連結された全ての制御要素が、対応するトランスポザーゼによって転移可能なように構成された。
【0336】
トランスポゾンを、トランスポザーゼ配列番号1086をコードするmRNAとともに、配列番号870で示される成熟軽鎖配列及び配列番号869で示される成熟重鎖配列を有する抗体を発現するクローンCHO細胞株に共トランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞のプールを、10μg/mlのピューロマイシンの存在下で、生存率が95%になるまで培養した。その後、Sigma Advanced Fed Batch培地を用いて、14日間、フェッドバッチで培養した。培養上清からプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて蛋白質を精製し、ジチオスレイトールで還元し、Agilent QTOF質量分析計で分析した。質量分析の結果を図4A-Dに示す。
【0337】
図4A-Dでは、3つの質量分析ピークが矢印で示されている。(i)50,424 Daのピークは、G0で改変された重鎖であり、保存された七糖のコアは、2つのN-アセチルグルコサミン、3つのマンノース、及びα-6マンノース及びα-3マンノースにβ-1,2結合した2つの他のN-アセチルグルコサミン残基を含み、2つのアームを形成している。(ii) 50,570 Daのピークは、G0Fで改変された重鎖であり、保存された七糖のコアにフコース残基を加えたものである。(iii) 23,443 Daのピークは軽鎖である。図4Aは、はじめのクローンCHO株の場合、重鎖が主に50,570の単一のG0Fピークとして存在しており、抗体の大部分がフコシル化されていることが示されている(相対的なピークの高さ又は曲線下の積分を用いて約85%)。図4B-Dではいずれも、50,424 Daに単一のG0ピークが存在し、50,570には検出可能なG0Fピークがない。以上から、これらのPol IIプロモーター、EEF2プロモーター、PGKプロモーター、又はユビキチンプロモーターの3つすべてが、マルチヘアピンamiRNAから十分なamiRNAの発現を促すことができ、FUT8の発現を十分に阻害し、抗体のフコシル化を完全に抑制すると結論づけた。
【0338】
6.1.1.3 脱フコシル化抗体の一過性生産のための宿主として機能するCHO細胞株の改変
CHO細胞のプールにおけるFUT 8の発現抑制のために、マルチヘアピンのamiRNA遺伝子を使用した。さらに、この細胞を用いて抗体を発現させ、フコシル化を調べた。
【0339】
配列番号726で示される配列を有すマルチヘアピンamiRNAは、6.1.1.1項に記載されているように、Criteculus griseusアルファ-(1,6)-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8) mRNAに相補的なガイドを有す3つのヘアピンを含んでいた。マルチヘアピンamiRNA配列は、赤色蛍光蛋白質をコードするオープンリーディングフレーム(配列番号723で示される)の3'に配置され、その後にウサギグロビンのポリアデニル化配列が続いた。このマルチヘアピンamiRNA遺伝子は、EF1プロモーター(配列番号898で示される配列)に作動可能に連結されたBombyxトランスポゾンベクターにクローニングした。トランスポゾンは、5'-TTAA-3'標的配列とすぐ隣にある配列番号1010のITRと直後の配列番号1008の追加配列を含む左端と、配列番号1009と直後の配列番号1011のITRと直後の5'-TTAA-3'標的を含む右端を含んでいた。さらに、配列番号886で示されるポリペプチド配列を有するピューロマイシンセレクタブルマーカーをコードするオープンリーディングフレームを含んでいた。トランスポゾンは、マルチヘアピンamiRNA、蛍光蛋白質遺伝子、セレクタブルマーカー遺伝子、及び必要な作動可能に連結された全ての制御要素が、対応するトランスポザーゼによって転移可能なように構成された。
【0340】
トランスポゾンを、トランスポザーゼ配列番号1086をコードするmRNAと一緒に、異種抗体配列を発現していないCHO細胞株に共トランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞のプールを、10μg/mlのプロマイシンの存在下で、生存率が95%になるまで培養した。次に、この細胞プールに、配列番号870で示される成熟軽鎖配列及び配列番号871で示される成熟重鎖配列を有する抗体をコードする遺伝子をトランスフェクトした。amiRNAを含まない親のCHO株にも、この抗体をコードするプラスミドをトランスフェクトしてコントロールとした。トランスフェクトされた細胞プールをThermoFisher ExpiCHO培地を用いて7日間、一過性培養で増殖させた。培養上清からプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて蛋白質を精製し、ジチオスレイトールで還元し、Agilent QTOF質量分析計で分析した。質量分析の結果を図5A-Bに示す。
【0341】
図5A-Bでは、3つの質量分析ピークが矢印で示されている。(i)50,521 Daのピークは、G0で改変された重鎖であり、保存された七糖のコアは、2つのN-アセチルグルコサミン、3つのマンノース、及びα-6マンノース及びα-3マンノースにβ-1,2結合した2つの他のN-アセチルグルコサミン残基を含み、2つのアームを形成している。(ii) 50,668 Daのピークは、G0Fで改変された重鎖であり、保存された七糖のコアにフコース残基を加えたものである。(iii) 23,444 Daのピークは軽鎖である。図5Aは、親のCHO株で作られた抗体の場合、重鎖は主に50,668にある単一のG0Fピークとして存在しており、検出可能な脱フコシル化された重鎖は存在しないことを示している。図5Bは、同じ抗体を、マルチヘアピンamiRNA遺伝子を含むゲノムを持つ細胞のプールで生産した場合、50,521 Daに単一の重鎖G0ピークが存在しており、50,668に検出可能なG0Fピークは存在しないことを示している。以上から、PolIIプロモーターに作動可能に連結された配列番号726を含むマルチヘアピンamiRNA遺伝子をCHOゲノムに安定的に組み込むことにより、FUT8の発現が脱フコシル化抗体のみを生産するようなレベルまで低下した細胞のプールが得られたと結論づけた。
【0342】
6.1.1.4 複数の異なる遺伝子を標的としたマルチヘアピンamiRNA遺伝子を用いた安定発現抗体のフコシル化の除去
フコシル化はゴルジ装置内で起こる。フコシルトランスフェラーゼを阻害する代わりに、フコースの細胞内合成を阻害することで、分泌された抗体のフコシル化を防止することが原理的に可能である。GDP-マンノース4,6-デヒドラターゼ(GMD)は、フコース合成の鍵となる酵素であり、従って、RNA干渉の潜在的標的である。しかし、フコースサルベージ経路も存在し、GMDステップでの阻害を回避できる可能性がある。この経路は、GDP-フコーストランスポーター1(GFT)を阻害することで、フコースのゴルジ体への取り込みを防ぐことで阻害できる。
【0343】
Criteculus griseus GDP-マンノース4,6-デヒドラターゼ(GMD)、及びGDP-フコーストランスポーター1(GFT)の両方を標的とするマルチヘアピンamiRNA遺伝子を設計した。配列番号732で示される配列のマルチヘアピンamiRNAは、4つのヘアピンを含み、第1のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号87(配列配列番号3のGMDのmRNAに相補的)と、直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号391を含み、第2のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号93(配列番号5で示される配列のGFTのmRNAに相補的)と、直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号397を含み、第3のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号88(配列配列番号3のGMDのmRNAに相補的)と、直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号392を含み、及び第4のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号94(配列番号5のGFTのmRNAに相補的)と、直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号398を含む。各パッセンジャー鎖配列は、ガイド鎖の5'塩基とガイド鎖の12番目の塩基に対応するパッセンジャー鎖配列の塩基が非相補的に変更されていることを除いて、対応するガイド鎖配列に相補的であった。配列番号87のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとGであり、対応するパッセンジャー鎖配列配列番号391の対応する塩基はそれぞれCとAである。配列番号93のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとCであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号397の対応する塩基はそれぞれCとAである。配列番号88のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとTであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号392の対応する塩基はそれぞれCとCである。配列番号94のガイド鎖の1番目と12番目の塩基は、それぞれTとGであり、対応するパッセンジャー鎖配列配列番号398の対応する塩基は、それぞれCとAである。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号732の各ヘアピンは、さらに、追加のステム安定化配列を含み、ステム配列配列番号697がガイド鎖配列の直前にあり、ステム配列配列番号698がパッセンジャー鎖配列の直後にあった。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号732は、さらに、第1のヘアピンの5'の配列番号693の非構造化配列と、第4ヘアピンの3'の配列番号695の非構造化配列とを含んでいた。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号732は、さらに、第1及び第2のヘアピンの間に配列番号716を有する非構造化配列を有し、第2及び第3のヘアピンの間に配列番号717の非構造化配列を有し、第3及び第4ヘアピンの間に配列番号718の非構造化配列を有する。マルチヘアピンamiRNA配列番号732は、このように、Criteculus griseus GMD mRNAに相補的な2つのガイド鎖配列と、Criteculus griseus GFT mRNAに相補的な2つのガイド鎖配列とを含み、ここで、各ガイド鎖配列は異なる。
【0344】
配列番号732のマルチヘアピンamiRNA配列を、赤色蛍光蛋白質をコードするオープンリーディングフレーム(配列番号723で示される)の3'に配置し、その後にウサギグロビンポリアデニル化配列を配置した。次に、このマルチヘアピンamiRNAをトランスポゾンベクターにクローニングし、Pol IIプロモーター(ヒトCMVプロモーター)に作動可能に連結した。トランスポゾンは、5'-TTAA-3'標的配列とすぐ隣にある配列番号1010のITRと直後の配列番号1008の追加配列を含む左端と、配列番号1009と直後の配列番号1011のITRと直後の5'-TTAA-3'標的を含む右端を含んでいた。さらに、ピューロマイシンセレクタブルマーカーをコードする遺伝子(ポリペプチド配列配列番号886)を含んでいた。トランスポゾンは、マルチヘアピンamiRNA、蛍光蛋白質遺伝子、及び必要な作動可能に連結された全ての制御要素が、対応するトランスポザーゼによって転移可能なように構成された。
【0345】
トランスポゾンを、トランスポザーゼ配列番号1086をコードするmRNAとともに、配列番号870で示される成熟軽鎖配列及び配列番号869で示される成熟重鎖配列を有する抗体を発現するクローンCHO細胞株に共トランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞のプールを、10μg/mlのピューロマイシンの存在下で、生存率が95%になるまで培養した。その後、Sigma Advanced Fed Batch培地を用いて、14日間、フェッドバッチで培養した。培養上清からプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて蛋白質を精製し、ジチオスレイトールで還元し、Agilent QTOF質量分析計で分析した。表2は、G0で改変された抗体重鎖(保存された七糖のコアは、2つのN-アセチルグルコサミン、3つのマンノース、及びα-6マンノース及びα-3マンノースにβ-1,2結合した2つの他のN-アセチルグルコサミン残基を含み、2つのアームを形成している)又はG1で改変された抗体重鎖(保存された七糖コアにガラクトース残基を加えたもの)を、G0F又はG1Fで改変された抗体重鎖(G0及びG1にフコース残基を加えたもの)の割合と比較して示したものである。
【0346】
表2に示すように、マルチヘアピンamiRNAを導入していないコントロール細胞株から発現させた抗体は、フコシル化レベルが約75%であった。一方、配列番号732のマルチヘアピンamiRNAをゲノムに持つ細胞のプールでは、質量分析によりフコースは検出されなかった。以上から、両方のマルチヘアピンamiRNAは抗体のフコシル化を完全に抑制したと結論づけた。また、PolIIプロモーターに作動可能に連結された配列番号732を含むマルチヘアピンamiRNA遺伝子をCHOゲノムに安定的に組み込むことにより、GMD及びGFTの発現が脱フコシル化抗体のみを生産するようなレベルまで低下した細胞のプールが得られたと結論づけた。
【0347】
6.1.1.5 脱フコシル化抗体の一過性生産のための宿主として機能するヒト細胞株の改変
ヒト細胞のフコシル化経路に関与する遺伝子(アルファ-(1,6)-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8)、GDP-マンノース4,6-デヒドラターゼ(GMD)、及びGDP-フコーストランスポーター1(GFT))を標的とする2つのマルチヘアピンamiRNA配列を設計した。配列番号734で示される配列の1つのマルチヘアピンamiRNAは、3つのヘアピンを含み、第1のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号81と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号385を含み、第2のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号82と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号386を含み、第3のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号83と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号387を含んでいた。これら3つのガイド鎖配列はそれぞれ、Homo sapiensアルファ-(1,6)-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8) mRNA内の異なる領域の完全な逆相補鎖である22塩基の配列であった。各パッセンジャー鎖配列は、ガイド鎖の5'塩基とガイド鎖の12番目の塩基に対応するパッセンジャー鎖配列の塩基が非相補的に変更されていたことを除いて、対応するガイド鎖配列と相補的であった。配列番号81のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれT及びTであり、対応するパッセンジャー鎖配列配列番号385の対応する塩基はそれぞれC及びCである。配列番号82のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとTであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号386の対応する塩基はそれぞれCとCである。配列番号83のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとAであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号387の対応する塩基はそれぞれCとCである。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号734の各ヘアピンは、さらに、追加のステム安定化配列を含み、ステム配列配列番号697がガイド鎖配列の直前にあり、ステム配列配列番号698がパッセンジャー鎖配列の直後にある。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号734は、さらに、第1のヘアピンの5'に配列番号693の非構造化配列を有し、第3のヘアピンの3'に配列番号695の非構造化配列を有していた。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号734は、さらに、第1及び第2のヘアピンの間に配列番号716を有する非構造化配列を有し、第2及び第3のヘアピンの間に配列番号717を有する非構造化配列を有していた。各ガイド鎖配列は異なり、それぞれがHomo sapiens FUT8 mRNA(配列番号7)に相補的である。
【0348】
第2のマルチヘアピンamiRNA遺伝子は、配列番号8で示されるmRNA配列のHomo sapiens GDP-マンノース4,6-デヒドラターゼ(GMD)と、配列番号9で示されるmRNA配列のGDP-フコーストランスポーター1(GFT)の両方を標的とするように設計した。配列番号736で示される配列のマルチヘアピンamiRNAは、4つのヘアピンを含み、第1のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号99(配列番号8のヒトGMDのmRNAに相補的)と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号403を含み、第2のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号104(配列番号9で示される配列のヒトGFTのmRNAに相補的)と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号408を含み、第3のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号102(配列番号9のヒトGFTのmRNAに相補的)と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号406を含み、第4のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号101(配列番号8のヒトGMDのmRNAに相補的)と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号405を含んでいた。各パッセンジャー鎖配列は、ガイド鎖の5'塩基とガイド鎖の12番目の塩基に対応するパッセンジャー鎖配列の塩基が非相補的に変更されていたことを除いて、対応するガイド鎖配列と相補的であった。配列番号99のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとGであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号403の対応する塩基はそれぞれCとAである。配列番号104のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとAであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号408の対応する塩基はそれぞれCとCである。配列番号102のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとGであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号406の対応する塩基はそれぞれCとAである。配列番号101のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとCであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号405の対応する塩基はそれぞれCとAである。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号736の各ヘアピンは、さらに、追加のステム安定化配列を含み、ステム配列配列番号697がガイド鎖配列の直前にあり、ステム配列配列番号698がパッセンジャー鎖配列の直後にあった。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号736は、さらに、第1のヘアピンの5'に配列番号693の非構造化配列を有し、第4ヘアピンの3'に配列番号695の非構造化配列を有していた。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号732は、さらに、第1のヘアピンと第2のヘアピンの間に配列番号716の非構造化配列を有し、第2のヘアピンと第3のヘアピンの間に配列番号717の非構造化配列を有し、第3のヘアピンと第4ヘアピンの間に配列番号718の非構造化配列を有していた。マルチヘアピンamiRNA 配列番号736は、このように、Homo sapiens GMD mRNAに相補的な2つのガイド鎖配列と、Homo sapiens GFT mRNAに相補的な2つのガイド鎖配列を含み、ここで、各ガイド鎖配列は異なっている。
【0349】
マルチヘアピンamiRNA配列を、赤色蛍光蛋白質をコードするオープンリーディングフレーム(配列番号723で与えられる)の3'に配置し、その後にウサギグロビンポリアデニル化配列を配置した。各マルチヘアピンamiRNA配列をトランスポゾンベクターにクローニングし、Pol IIプロモーター(配列番号927のCMVプロモーター)に作動可能に連結した。トランスポゾンは、5'-TTAA-3'標的配列とすぐ隣にある配列番号1010のITRと直後の配列番号1008の追加配列を含む左端と、配列番号1009と直後の配列番号1011のITRと直後の5'-TTAA-3'標的を含む右端を含んでいた。さらに、ピューロマイシンセレクタブルマーカーをコードする遺伝子(ポリペプチド配列配列番号886を有する)を含んでいた。トランスポゾンは、マルチヘアピンamiRNA、蛍光蛋白質遺伝子、及び必要な作動可能に連結された全ての制御要素が、対応するトランスポザーゼによって転移可能なように構成された。
【0350】
トランスポゾンを、トランスポザーゼ配列番号1086をコードするmRNAとともに、異種抗体配列を発現していないヒト胚性腎臓(HEK)細胞株に共トランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞のプールを、10μg/mlのピューロマイシンの存在下で、生存率が95%になるまで培養した。次に、細胞の各プールを、配列番号870で示される成熟軽鎖配列及び配列番号871で示される成熟重鎖配列を有する抗体をコードする遺伝子で、2回の独立した反応でトランスフェクトした。この抗体遺伝子を、ヒトCMVプロモーター及びウサギグロビンポリアデニル化シグナル配列に作動可能に連結した。トランスフェクトされた細胞プールを、ThermoFisher Expi293培地を用いて7日間、一過性培養で培養した。培養上清からプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて蛋白質を精製し、ジチオスレイトールで還元し、Agilent QTOF質量分析計で分析した。以下に対応するピークを同定及び定量した。(i)G0によって修飾された重鎖(保存された七糖のコアは、2つのN-アセチルグルコサミン、3つのマンノース、及びα-6マンノース及びα-3マンノースにβ-1,2結合した2つの他のN-アセチルグルコサミン残基を含み、2つのアームを形成している)。(ii)G0で改変された重鎖にフコースを加えたもの(G0F)。(iii)G0で改変された重鎖に追加のガラクトース残基を加えたもの(G1)。(iv)G0で改変された重鎖に追加のガラクトース残基を加えたものにフコースを加えたもの(G1F)。表3は、トランスフェクトしたHEK細胞プールから生産された抗体の力価と、それぞれのケースで観察されたフコシル化を示している。
【0351】
マルチヘアピンamiRNAが存在しない場合、HEK細胞が生産する抗体は93~100%のフコシル化を受けていた(表3の1行目と2行目)。配列番号736の抗GMD/GFTマルチヘアピンamiRNA遺伝子をゲノムに含む細胞プールの複製はいずれも、抗体のフコシル化の完全な消失を示した(表3の5行目と6行目)。また、配列番号734の抗FUT8マルチヘアピンamiRNAをゲノムに含む細胞プールの複製(表3の3行目と4行目)はいずれも、抗体のフコシル化が約90%減少した。以上から、配列番号734又は736を含むマルチヘアピンamiRNA遺伝子をHEKゲノムに安定的に組み込むことで、フコシル化経路の遺伝子の発現が抑制され、その結果、大部分又は完全に脱フコシル化された抗体を生産する細胞プールが得られると結論付けた。
【0352】
配列番号734の抗FUT8マルチヘアピンamiRNAをゲノムに含むHEK細胞のプールの1つをシングルセルクローニングにかけた。4つのモノクローナル細胞株を作製した。これらの細胞株のそれぞれに、配列番号870で示される成熟軽鎖配列及び配列番号871で示される成熟重鎖配列を有する抗体をコードする遺伝子を2回の独立した反応でトランスフェクトした。この抗体遺伝子を、ヒトCMVプロモーター及びウサギグロビンポリアデニル化シグナル配列に作動可能に連結した。トランスフェクトされた細胞を、ThermoFisher Expi293培地を用いて7日間、一過性培養で培養した。培養上清からプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて蛋白質を精製し、ジチオスレイトールで還元し、上述のようにフコシル化抗体の存在をAgilent QTOF質量分析計で分析した。表4は、クローンから調製した抗体のフコシル化レベルを示している。
【0353】
マルチヘアピンamiRNA遺伝子をゲノムに含まない細胞は、90~94%のフコシル化された抗体を生産した(表4の1行目と2行目)。4つの異なるクローンは、同じクローン細胞株で作られた複製の間では非常に類似したレベルであったが、フコシル化のレベルが著しく異なる抗体を生産した。クローン細胞株1は約40%のフコシル化を有する抗体を、クローン細胞株2は約20%のフコシル化を有する抗体を、クローン細胞株3は約13%のフコシル化を有する抗体を、クローン細胞株4は6~10%のフコシル化を有する抗体を生産した。また、4つのクローン株のうち、少なくとも1つのクローン株では、フコシル化の阻害が安定的に維持されていた。
【0354】
ヒトFUT8 mRNA(配列番号7で示される配列)内の異なる配列にそれぞれ相補的な複数のガイド鎖配列を含むマルチヘアピンamiRNA遺伝子を含むトランスポゾンを、HEK細胞が生産する抗体のフコシル化を低減させるためにHEK293細胞のゲノムに組み込むことができる。好ましくは、細胞株によって生産される抗体の40%未満がフコシル化され、より好ましくは、細胞株によって生産される抗体の20%未満がフコシル化され、より好ましくは、細胞株によって生産される抗体の10%未満がフコシル化される。
【0355】
6.1.2 二重機能性マイクロRNA:遺伝子ノックダウンとセレクタブルマーカーの減弱
6.1.2.1 セレクタブルマーカー遺伝子の3'UTRに組み込まれたフコシル化標的マイクロRNA
5.2.7項に記載のように、セレクタブルマーカー遺伝子の3'UTRにマルチヘアピンamiRNA配列を組み込むことは、特にセレクタブルマーカーがトランスポゾンの一部である場合に有益であり得る。転写後、amiRNA配列のプロセシングは、安定化するpolyA配列の除去を導くため、セレクタブルマーカーのmRNAが不安定になる。このことは、セレクタブルマーカー遺伝子がコードするセレクタブルマーカー蛋白質を十分に供給するためには、トランスポゾンからの発現量が、セレクタブルマーカー3'UTRにamiRNA配列を含まないトランスポゾンからの発現量よりも高い必要があることを意味する。従って、セレクタブルマーカーの3'UTRにamiRNA配列を含めると、ゲノムがトランスポゾンのコピーをより多く含む細胞、又はトランスポゾンがゲノムのより転写活性が高い領域に組み込まれている細胞のいずれかを選択する。別の利点は、トランスポゾンのサイズにごくわずかな追加(1,000bp未満の追加)をするだけで、1つ以上の宿主遺伝子の発現を阻害することによって、表現型の変化をもたらすことができることである。例えば、発現させたい蛋白質をコードする遺伝子の導入と同時に行うことができる。これを実証するために、哺乳類細胞でグルタミン合成酵素を発現させる遺伝子の3'UTRにamiRNA配列を配置した。
【0356】
トランスポゾン上のグルタミン合成酵素セレクタブルマーカーの3'UTRに、1-2-又は3-ヘアピンamiRNAを導入した。配列番号726で示される配列を持つマルチヘアピンamiRNAは、6.1.1.1項に記載のように3つのヘアピンを含んでいた。
【0357】
配列番号728で示される配列のマルチヘアピンamiRNAは、2つのヘアピンを含み、第1のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号75と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号379を含み、第2のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号76と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号380を含んでいた。この2つのガイド鎖配列はそれぞれ、Criteculus griseusアルファ-(1,6)-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8) mRNA内の異なる領域の完全な逆相補鎖である22塩基の配列であった。ガイド鎖とパッセンジャー鎖の配列のミスマッチについては、6.1.1.1項に記載されている通りである。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号728の各ヘアピンは、さらに、追加のステム安定化配列を含み、ステム配列配列番号697がガイド鎖配列の直前にあり、ステム配列配列番号698がパッセンジャー鎖配列の直後にある。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号728は、さらに、第1のヘアピンの5'に配列番号693の非構造化配列を有し、第3のヘアピンの3'に配列番号695の非構造化配列を有していた。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号728は、第1及び第2のヘアピンの間に配列番号716の非構造化配列をさらに含んでいた。各ガイド鎖の配列は異なり、それぞれがCriteculus griseus FUT8 mRNA(配列番号1)に相補的である。
【0358】
また、ガイド鎖配列配列番号75と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号379を含む1つのヘアピンを含む配列番号729で示される配列のシングルヘアピンamiRNAを設計及び合成した。ガイド鎖とパッセンジャー鎖の配列のミスマッチについては、6.1.1.1項に記載の通りである。amiRNA配列配列番号729のヘアピンは、さらに、追加のステム安定化配列を含み、ステム配列配列番号697がガイド鎖配列の直前にあり、ステム配列配列番号698がパッセンジャー鎖配列の直後にある。amiRNA配列配列番号729は、ヘアピンの5'に配列番号693の非構造化配列を有し、ヘアピンの3'に配列番号695の非構造化配列をさらに有していた。
【0359】
このamiRNA配列を、グルタミン合成酵素蛋白質(配列番号891で示されるポリペプチド配列を有する)をコードするオープンリーディングフレームの3'に配置し、その後にヒトグロビンポリアデニル化配列を配置した。このamiRNA遺伝子をトランスポゾンベクターにクローニングし、Pol IIプロモーターに作動可能に連結した。このトランスポゾンは、配列番号870で示される成熟軽鎖配列と配列番号872で示される成熟重鎖配列を有する抗体をコードする遺伝子をさらに含んでいた。トランスポゾンはさらに、5'-TTAA-3'標的配列と直後に配列番号1006(配列番号1004の一実施形態である)のITR及び配列番号1000の追加配列を含む左端と、配列番号1002と直後に配列番号1007(配列番号1005の一実施形態である)のITRと直後に5'-TTAA-3'標的配列を含む右端とを含んでいた。トランスポゾンは、マルチヘアピンamiRNA、グルタミン合成酵素遺伝子、両抗体鎖の遺伝子、及びすべての必要な作動可能に連結された制御要素が、対応するトランスポザーゼによって転移可能なように構成した。
【0360】
トランスポゾンを、トランスポザーゼ配列番号1056をコードするmRNAと一緒に、機能的なグルタミン合成酵素遺伝子を持たないCHO細胞株に共トランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞のプールを、グルタミンを培地に加えずに、生存率が95%になるまで培養した。その後、Sigma Advanced Fed Batch培地を用いて、14日間、フェッドバッチで培養した。培養上清からプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて蛋白質を精製し、ジチオスレイトールで還元し、Agilent QTOF質量分析計で分析した。50,456 Da(G0で改変された重鎖に相当(保存された七糖のコアは、2つのN-アセチルグルコサミン、3つのマンノース、及びα-6マンノース及びα-3マンノースにβ-1,2結合した2つの他のN-アセチルグルコサミン残基を含み、2つのアームを形成している))、及び50,602 Da(G0Fで改変された重鎖に相当(保存された七糖コアにフコース残基を加えたもの))のピーク下の面積を積分し、フコシル化及び脱フコシル化抗体の相対比率を計算した。結果を表5に示す。
【0361】
表5によれば、強いCMV又はEEF2プロモーターがグルタミン合成酵素遺伝子及びその3'UTRのマルチヘアピンamiRNAに作動可能に連結している場合、抗体は完全に脱フコシル化している(表5の1行目及び2行目)。これは、グルタミン合成酵素遺伝子の3'UTRにamiRNA配列が存在しない同等のトランスポゾンを用いた場合に見られた約80~85%のフコシル化とは対照的である(6.1.1.1及び6.1.1.2項に記載)。これらのプロモーターは強力であるため、高レベルのグルタミン合成酵素を発現し、細胞が生存するために十分なグルタミンを合成するため、組み込まれたトランスポゾンの多くのコピーを必要としないことを意味する。そのため、培養上清中の抗体価は低くなる。最も強力なプロモーター(CMV)の場合は最も低く(163 mg/L)、弱いプロモーター(EEF2)の場合は高く(443 mg/L)なった。CMV及びEEF2プロモーターは、マルチヘアピンamiRNA配列番号726と作動可能に連結されており(セレクタブルマーカーをコードするオープンリーディングフレームの後、ポリAシグナル配列の前にamiRNAヘアピンを組み込むことにより)、抗体のフコシル化を完全に除去した(表5のF及びG列)。
【0362】
弱いプロモーターがグルタミン合成酵素に作動可能に連結され、3'UTRが単一のamiRNAヘアピン(配列番号729のamiRNA、表5の3列目)を含む場合、抗体価は514 mg/Lとなり、CMVプロモーターを用いた場合よりも約3倍高くなるが、6.1.1.1項及び6.1.1.2項に記載のように、約80-85%の天然のレベルに対し、抗体はまだ約50%がフコシル化されている。グルタミン合成酵素の3'UTRに第2のamiRNAヘアピンを加えると(amiRNA配列番号728)、表5の4行目に示すように、抗体価の上昇(770mg/Lへ)と抗体のフコシル化の減少(10%へ)という2つの効果が得られる。この効果は、セレクタブルマーカーの3'UTRがより多くプロセシングされ、RISC複合体中でより多くのFUT8標的RNAが生成され、さらにグルタミン合成酵素セレクタブルマーカーmRNAの不安定化が増加することに起因する。この傾向は、表5の5行目に示すように、PGKプロモーターが、その3'UTRに3つのヘアピンのamiRNA(配列番号726)を伴うグルタミン合成酵素遺伝子に作動可能に連結している場合にも継続する。抗体価はさらに835mg/Lまで上昇し、抗体のフコシル化は完全に阻害されている。
【0363】
また、この実施例はマルチヘアピンamiRNA配列を使用することの利点を示している。ここでは、2つ以上の異なるガイド鎖配列が、同じ標的mRNAの2つ以上の異なる配列に相補的である。FUT8 mRNAに相補的な1つのガイド鎖配列を持つシングルヘアピンamiRNAを使用すると、FUT8の発現が減少し、その結果、抗体のフコシル化が約80%から50%に減少した。FUT8 mRNA内の異なる配列に相補的な2つの異なるガイド鎖配列を持つマルチヘアピンを使用すると、FUT8の発現がより減少し、その結果、抗体のフコシル化が10%に減少した。FUT8 mRNA内の異なる配列に相補的な3つの異なるガイド鎖配列を持つマルチヘアピンを使用すると、FUT8の発現はさらに減少し、抗体のフコシル化は検出限界未満にまで減少した。
【0364】
6.1.2.2 セレクタブルマーカー遺伝子の3'UTRに組み込まれ異なるプロモーターで駆動するフコシル化標的マイクロRNA
6.1.2.1項に記載のように、配列番号726のマルチヘアピンamiRNAは、抗体のフコシル化を完全に抑制することができた。しかし、私たちは抗体の力価を上げることも望んでいた。5.2.7項に記載のように、グルタミン合成酵素セレクタブルマーカーの発現を弱めることで、トランスポゾンにコードされた遺伝子の発現を向上できる。6.1.2.1項に記載のようにPGKプロモーターからのマルチヘアピンamiRNA配列の転写は、FUT8を介したフコシル化を検出可能なレベル未満に減少させるのに十分なRISC複合体に関連したガイド鎖を提供した。そこで我々は、マルチヘアピンamiRNAの転写を低下させない方法で、グルタミン合成酵素の発現を低下させたいと考えた。そしてグルタミン合成酵素遺伝子の前に、阻害性5'UTRを組み込むことを試みた。これにより、マルチヘアピンamiRNAの転写に影響を与えることなく、グルタミン合成酵素の発現を抑えることができるはずである。また、抑制性5'UTRの存在下で、グルタミン合成酵素と配列番号726のマルチヘアピンamiRNAを、弱めのHSV-TKプロモーターに作動可能に連結して発現させるテストも行った。
【0365】
配列番号726の3つのヘアピンのamiRNAをトランスポゾン上のグルタミン合成酵素セレクタブルマーカーの3'UTRに組み込んだ。amiRNAの配列を配列番号891で示されるポリペプチド配列を有するグルタミン合成酵素蛋白質をコードするオープンリーディングフレームの3'に配置し、その後にヒトグロビンのポリアデニル化配列を配置した。このamiRNA遺伝子を異なるトランスポゾンベクターにクローニングし、異なるPol IIプロモーターに作動可能に連結した。各トランスポゾンは、配列番号870で示される成熟軽鎖配列及び配列番号872で示される成熟重鎖配列を有する抗体をコードする遺伝子をさらに含んでいた。トランスポゾンはさらに、5'-TTAA-3'標的配列と直後に配列番号1006(配列番号1004の一実施形態である)のITR及び配列番号1000の追加配列を含む左端と、配列番号1002と直後に配列番号1007(配列番号1005の一実施形態である)のITRと直後に5'-TTAA-3'標的配列を有する右端とを有していた。トランスポゾンは、マルチヘアピンamiRNA、グルタミン合成酵素遺伝子、両抗体鎖の遺伝子、及びすべての必要な作動可能に連結された制御要素が、対応するトランスポザーゼによって転移可能なように構成した。
【0366】
トランスポゾンを、トランスポザーゼ配列番号1056をコードするmRNAと一緒に、機能的なグルタミン合成酵素遺伝子を持たないCHO細胞株に共トランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞のプールを、グルタミンを培地に加えずに、生存率が95%になるまで培養した。その後、Sigma Advanced Fed Batch培地を用いて、14日間、フェッドバッチで培養を行った。培養上清からプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて蛋白質を精製し、ジチオスレイトールで還元し、Agilent QTOF質量分析計で分析した。50,456 Da(G0で改変された重鎖に相当(保存された七糖のコアは、2つのN-アセチルグルコサミン、3つのマンノース、及びα-6マンノース及びα-3マンノースにβ-1,2結合した2つの他のN-アセチルグルコサミン残基を含み、2つのアームを形成している))、及び50,602 Da(G0Fで改変された重鎖に相当(保存された七糖コアにフコース残基を加えたもの))のピーク下の面積を積分し、フコシル化及び脱フコシル化抗体の相対比率を計算した。結果を表6に示す。
【0367】
表6によれば、配列番号985又は986の阻害性5'UTR配列をPGKプロモーターとグルタミン合成酵素遺伝子の間に配置した場合、抗体価は約2g/Lとなった(表6の2行目及び3行目)。これは、より高度に減弱したグルタミン合成酵素であっても、遺伝子の3'UTRにamiRNAヘアピンがない場合に見られる力価と非常によく似ており(表6の1行目)、6.1.2.1項及び表5の5行目でこの減弱する5'UTR要素がない場合に見られる力価の2倍超である。しかし、amiRNAの非存在下では、抗体の82%がフコシル化されており(表6のG列)、6.1.1.1及び6.1.1.2項で見られた80-85%のフコシル化と一致していた。トランスポゾンがグルタミン合成酵素遺伝子の3'UTRにamiRNAを含んでいた場合、抗体は完全に脱フコシル化されていた(表6のF列)。弱めのHSV-TKプロモーターを使用した場合も、完全に脱フコシル化された抗体が得られたが(表6の4行目及び5行目)、力価はPGKプロモーターを使用した場合ほど高くなかった。
【0368】
1-5行目に示したトランスポゾンの抗体オープンリーディングフレームは、EF1プロモーターに作動可能に連結していた。6-7行目では、抗体のオープンリーディングフレームはCMVプロモーターに作動可能に連結していた。6行目では、グルタミン合成酵素遺伝子は3'UTRにマルチヘアピンamiRNA配列を欠いていた。1行目のEF1駆動抗体と同様に、この抗体は約80%がフコシル化されており、力価は4.2g/Lであった。7行目のでは、グルタミン合成酵素遺伝子は3'UTRに配列番号726のマルチヘアピンamiRNA配列を含んでいた。2-5行目のEF1駆動抗体と同様に、抗体のフコシル化は完全に抑制され、一方で力価は3g/Lを超えていた。
【0369】
以上から、トランスポゾン上のセレクタブルマーカーの3'UTRにマルチヘアピンamiRNAを組み込み、トランスポゾンを培養哺乳類細胞のゲノムに組み込み、トランスポゾンから発現される遺伝子の良好な力価を得ると同時に、培養哺乳類細胞に内在する遺伝子を完全に阻害することが可能であると結論づけた。CHO FUT8 mRNAを標的とするマルチヘアピンamiRNA配列を含むグルタミン合成酵素遺伝子の例示的な配列は、配列番号1189~1198で示される。
【0370】
6.1.3 マイクロRNAによるグルタミン合成酵素ノックダウンのエンジニアリング
6.1.3.1 グルタミン合成酵素を標的とするマイクロRNA
5.6項に記載のように、配列番号741のマルチヘアピンamiRNAは、チャイニーズハムスターのグルタミン合成酵素mRNAの3つの異なる配列に相補的な3つのガイド鎖配列を含む。配列番号741で示される配列のマルチヘアピンamiRNAは、3つのヘアピンを含み、第1のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号114と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号418を含み、第2のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号115と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号419を含み、第3のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号116と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号420を含んでいた。これらの3つのガイド鎖配列はそれぞれ、Criteculus griseusグルタミン合成酵素mRNA内の異なる領域の完全な逆相補鎖である22塩基の配列であった。各パッセンジャー鎖配列は、ガイド鎖の5'塩基とガイド鎖の12番目の塩基に対応するパッセンジャー鎖配列の塩基が非相補的に変更されていたことを除いて、対応するガイド鎖配列と相補的であった。配列番号114のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとTであり、対応するパッセンジャー鎖配列配列番号418の対応する塩基はそれぞれCとCである。配列番号115のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとAであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号419の対応する塩基はそれぞれCとCである。配列番号116のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとGであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号420の対応する塩基はそれぞれCとAである。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号741の各ヘアピンは、さらに、追加のステム安定化配列を含み、ステム配列配列番号697がガイド鎖配列の直前にあり、ステム配列配列番号698がパッセンジャー鎖配列の直後にある。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号741は、第1のヘアピンの5'に配列番号693の非構造化配列を、第3のヘアピンの3'に配列番号695の非構造化配列をさらに含んでいた。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号741は、さらに、第1及び第2のヘアピンの間に配列番号716の非構造化配列を有し、第2及び第3のヘアピンの間に配列番号717の非構造化配列を有していた。各ガイド鎖の配列は異なり、それぞれがCriteculus griseusグルタミン合成酵素のmRNA(配列番号17)に相補的である。
【0371】
マルチヘアピンamiRNAは、配列番号724で示される配列のスペーサーポリヌクレオチドの3'のpiggyBac様トランスポゾンにクローニングし、配列番号969で示される配列のPGKプロモーターに作動可能に連結した。マルチヘアピンamiRNA遺伝子の配列は、配列番号1180で示される。このpiggyBac様トランスポゾンは、配列番号880で示されるアミノ酸配列のG418/ネオマイシンに対する耐性を付与するセレクタブルマーカーをさらに含んでいた。piggyBac様トランスポゾンは、標的配列5'-TTAA-3'と直後に配列番号1030の実施形態である配列番号1032の配列のITRと直後に配列番号1028の配列のトランスポゾンエンド配列をさらに含んでいた。piggyBac様トランスポゾンは、配列番号1029で示される配列と直後に配列番号1031の実施形態である配列番号1033の配列の第2のITRと直後に標的配列5'-TTAA-3'をさらに含んでいた。トランスポゾンは、マルチヘアピンamiRNA、スペーサーポリヌクレオチド、セレクタブルマーカーをコードする遺伝子、及び全ての必要な作動可能に連結された制御要素が、対応するトランスポザーゼによって転移可能なように構成した。マルチヘアピンamiRNA遺伝子とセレクタブルマーカーを含むトランスポゾンの完全な配列は、配列番号1184で示される。
【0372】
このトランスポゾンを、トランスポザーゼ配列番号1107をコードするmRNAとともに、インタクトなグルタミン合成酵素遺伝子を有すCHO細胞株に共トランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞のプールは、600又は1,000μg/mlのG418と5mMのグルタミンの存在下で、生存率が95%になるまで培養した。
【0373】
コントロールトランスポゾンは、RFPをコードするオープンリーディングフレームと、ピューロマイシンへの耐性を付与するセレクタブルマーカー遺伝子を含むが、マルチヘアピンamiRNA配列は含まれていなかった。このコントロールトランスポゾンを、対応するトランスポザーゼをコードするmRNAとともに、インタクトなグルタミン合成酵素遺伝子を有す同じCHO細胞株に導入した。トランスフェクトされた細胞のプールは、6又は8μg/mlのピューロマイシンと5mMのグルタミンの存在下で、生存率が95%になるまで培養した。
【0374】
トランスフェクトされた細胞プールが>95%の生存率に回復した後、グルタミンの非存在下での増殖能力をテストした。細胞をグルタミンを含まないSigma Advanced Fed Batch培地に移し、初期密度を0.3x106生細胞/mlにした。グルタミンを除去した後、様々な時間に生細胞密度を測定した。4日目には、増殖中の細胞に十分な栄養が行き渡るように、グルタミンを含まない培地で0.3x106生細胞/mlの生細胞密度に希釈し直した。表7は、マルチヘアピンamiRNAを欠いたコントロールトランスポゾンをトランスフェクトした細胞プールは、グルタミンを含まない培地に適応するため、最初は増殖が遅かったが、4日目には生細胞密度が約3倍に増加したことを示している(表7のD列及びE列、3行目と5行目を比較)。その後、4日目と6日目の希釈の間で生細胞密度は約3倍になり、6日目と8日目の間で再び2倍になった。一方、配列番号741のマルチヘアピンamiRNAを含むトランスポゾンでトランスフェクトし、600μg/mlのG418で選択した細胞のプールは、1日目と4日目の間で生細胞密度が50%未満に増加した(表7のC列、3行目と5行目を比較)が、一方、配列番号741のマルチヘアピンamiRNAを含むトランスポンを導入し、1,000μg/mlのG418で選択した細胞プールは、生細胞密度が全く増加しなかった(表7のB列、3行目と5行目を比較)。その後、6日目に配列番号741のマルチヘアピンamiRNAを含むトランスポゾンをトランスフェクトした両プールの生細胞密度が低下し始めた(表7のB列及びC列、6行目、7行目及び8行目を比較)。8日目には生細胞密度が急激に低下し、0.02x106生細胞/ml未満となった。グルタミン存在下で、コントロールトランスポゾン又は配列番号741のマルチヘアピンamiRNAを含むトランスポゾンをトランスフェクトした細胞の増殖には差がなく、全てのプールが良好に増殖した。以上から、CHOグルタミン合成酵素mRNA標的(配列番号21)内の3つの異なる配列に相補的なガイド鎖配列を含むマルチヘアピンamiRNAを用いれば、CHO細胞を外因的に供給されるグルタミンに依存させることができると結論づけた。このプールの細胞は、ネオマイシン/G418で選択されており、マルチヘアピンamiRNAを含むトランスポゾンをゲノムに持つ細胞の増殖が可能であった。8日目には、生細胞密度が300,000細胞/mlから20,000細胞/ml未満に低下し、7%未満の細胞が生きていた。また、マルチヘアピンamiRNA遺伝子を用いることで、必須代謝酵素であるグルタミン合成酵素の発現がプール中の93%超の細胞で細胞の増殖を妨げるレベルまで阻害された細胞のプールを作製することができた。
【0375】
また、配列番号741で示される配列のマルチヘアピンamiRNAを他の3つのpiggyBac様トランスポゾンにおいて、配列番号724で示される配列のスペーサーポリヌクレオチドの3'にクローニングした。第1のトランスポゾンでは、マルチヘアピンamiRNAを配列番号1188で示される配列のPGKプロモーターに作動可能に連結させた。このマルチヘアピンamiRNA遺伝子の配列は、配列番号1182で示される。第2のトランスポゾンでは、マルチヘアピンamiRNAを配列番号898で示される配列のEF1プロモーターに作動可能に連結させた。このマルチヘアピンamiRNA遺伝子の配列は、配列番号1181で示される。第3のトランスポゾンでは、マルチヘアピンamiRNAを配列番号934で示される配列のEF2プロモーターに作動可能に連結させた。このマルチヘアピンamiRNA遺伝子の配列は、配列番号1183で示される。各3つのpiggyBac-likeトランスポゾンは、配列番号886で示されるアミノ酸配列のピューロマイシンに対する耐性を与えるセレクタブルマーカーをさらに含んでいた。piggyBac様トランスポゾンは、標的配列5'-TTAA-3'と直後に配列番号1010の配列のITRと直後に配列番号1008の配列のトランスポゾンエンド配列をさらに含んでいた。piggyBac様トランスポゾンは、配列番号1009で示される配列と直後に配列番号1011の配列のITRと直後に標的配列5'-TTAA-3'をさらに含んでいた。トランスポゾンは、マルチヘアピンamiRNA、スペーサーポリヌクレオチド、及びセレクタブルマーカーをコードする遺伝子、並びに全ての必要な作動可能に連結された制御要素が、対応するトランスポザーゼによって転移可能になるように構成した。マルチヘアピンamiRNA遺伝子とセレクタブルマーカーを含む第1、第2及び第3のトランスポゾンの完全な配列は、それぞれ配列番号1186、1185及び1187で示される。各トランスポゾンを、トランスポザーゼ配列番号1086をコードするmRNAと一緒に、インタクトのグルタミン合成酵素遺伝子を有するCHO細胞株に別々に共トランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞のプールは、10μg/mlのピューロマイシンと5mMのグルタミンの存在下で、生存率が95%になるまで培養した。細胞プールが>95%の生存率に回復した後、グルタミンの非存在下での増殖能力を調べた。細胞をグルタミンを含まないSigma Advanced Fed Batch培地に移し、初期密度を0.3x106生細胞/mlにした。各トランスポゾンに由来する細胞のプールは、600ug/ml又は1,000ug/mlのネオマイシンで選択されたプールについて、表7に示すような基本的な挙動を示した。以上から、配列番号741のマルチヘアピンamiRNA配列を、様々な異なるプロモーターに作動可能に連結し、様々な異なるpiggyBac様トランスポゾンに配置し、対応するトランスポザーゼによって宿主ゲノムに組み込み、CHO細胞におけるグルタミン合成酵素の発現を阻害し、その細胞を外因的に供給されるグルタミンに依存させることができると結論づけた。
【0376】
6.1.3.2 グルタミン合成酵素を標的としたマルチヘアピンamiRNAがゲノムに組み込まれたクローン細胞株
配列番号741のマルチヘアピンamiRNAを含むトランスポゾンをトランスフェクトし、6.1.3.1項に記載の1,000μg/mlのG418で選択したプールから、3つのモノクローナル株(#23、#38、#129)を得た。グルタミンの存在下及び非存在下でのこれらのクローン細胞株の増殖を、グルタミン合成酵素遺伝子の両方のゲノムコピーが不活性化変異を含む細胞株の増殖と比較した。
【0377】
細胞をグルタミンを含まないSigma Advanced Fed Batch培地に移し、初期密度を0.3x106生細胞/mlにした。グルタミンを除去した後、様々なタイミングで生細胞密度を測定した。表8は、クローン細胞が表7に示した細胞プールと類似の挙動を示したことを示している。3つのクローン細胞株はすべて、6日目頃から生存細胞密度の減少を示した(表8のB、C及びD列)。グルタミン合成酵素遺伝子の両方のゲノムコピーに不活性化変異がある細胞株では、生細胞密度の低下がやや早く、4日目頃から見られた(表8のE列)。一方、グルタミン存在下では、いずれの細胞株も7日目から10日目まで高い生細胞密度を維持していた。10日目には生細胞密度の減少が見られた。これは、この実験では4日目に細胞を新鮮な培地に希釈しなかったためだと考えられる。グルタミン存在下では、4日目には全ての細胞が最大の生存細胞密度に達していたため(表8の5行目)、10日目には栄養が不足していた。以上から、3つのモノクローナル細胞株はすべて、外因的に供給されるグルタミンに依存していると結論づけた。またそのため、グルタミン合成酵素遺伝子を細胞のゲノムに第2のトランスポゾンを組み込むためのセレクタブルマーカーとして使用できることが期待される。
【0378】
6.1.3.3 マルチヘアピンamiRNAを用いてグルタミン合成酵素をノックダウンしたCHO細胞におけるグルタミン合成酵素選択を用いた抗体の発現
6.1.3.2項に記載のグルタミン合成酵素遺伝子の両ゲノムコピーに不活性化変異を導入したモノクローナル株及び細胞株に、抗体発現用トランスポゾンを導入するためにグルタミン合成酵素選択を行った。
【0379】
トランスポゾンの1つ(333286)は、マウスEF1プロモーターとポリアデニル化配列に作動可能に連結した配列番号870で示される配列の成熟軽鎖を含むポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームと、ヒトEF1プロモーターとポリアデニル化配列に作動可能に連結した配列番号872で示される配列の成熟重鎖を含むポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームとを含んでいた。このトランスポゾンは、さらに、異種プロモーター及び異種3'UTR及びポリアデニル化シグナル配列に作動可能に連結した、アミノ酸配列配列番号892のグルタミン合成酵素遺伝子をコードする配列番号893のオープンリーディングフレームを含んでいた。第2のトランスポゾン(346168)は、ヒトCMVプロモーターとポリアデニル化配列に作動可能に連結した配列番号870で示される配列の成熟軽鎖を含むポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームと、ヒトCMVプロモーターとポリアデニル化配列に作動可能に連結した配列番号872で示される配列の成熟重鎖を含むポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームとを含んでいた。このトランスポゾンは、さらに、異種プロモーター及び異種3'UTR及びポリアデニル化シグナル配列に作動可能に連結した、アミノ酸配列配列番号892のグルタミン合成酵素遺伝子をコードする配列番号893のオープンリーディングフレームを含んでいた。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号741の3つのガイド鎖配列は、すべてハムスターグルタミン合成酵素遺伝子の天然の3'UTR内に相補的な異なる配列である。従って、抗体をコードする配列を含むトランスポゾンからのグルタミン合成酵素遺伝子の発現は、抗グルタミン合成酵素マルチヘアピンamiRNA遺伝子によって影響を受けないはずである。
【0380】
両トランスポゾンは、5'-TTAA-3'標的配列と直後に配列番号1006(配列番号1004の一実施形態である)のITRと配列番号1000の追加配列を含む左端と、配列番号1002と直後に配列番号1007(配列番号1005の一実施形態である)のITRと直後に5'-TTAA-3'標的配列を含む右端をさらに含んでいた。トランスポゾンは、グルタミン合成酵素遺伝子及び両方の抗体鎖の遺伝子、及びすべての必要な作動可能に連結された制御要素が、対応するトランスポザーゼによって転移可能なように構成した。
【0381】
トランスポゾンを、ポリペプチド配列配列番号1056のトランスポザーゼをコードするmRNAとともに、4つの異なるCHO細胞株に共トランスフェクトした。ここで、1つは、遺伝子の両ゲノムコピーが不活性化欠失を含んでいるものであり、他の3つは、6.1.3.1項及び6.1.3.2項に記載のように、マルチヘアピンamiRNAを用いてグルタミン合成酵素を阻害したクローン細胞株#23、#38及び#129であった。これらのトランスポゾンに対応するトランスポザーゼは、CHO細胞の天然のグルタミン合成酵素遺伝子を阻害するためのamiRNA遺伝子を含む6.1.3.1項に記載した第1のトランスポゾンを転移するために使用したトランスポザーゼとは異なる。これにより、第2のトランスポザーゼの作用によって第1のトランスポゾンが切除又は不活性化されないようにした。トランスフェクトされた細胞のプールは、グルタミンを添加しない培地で、生存率が95%になるまで培養した。その後、Sigma Advanced Fed Batch培地を用いて、14日間、フェッドバッチで培養した。上清の蛋白質濃度をオクテットを用いて測定した。結果を表9に示す。グルタミン合成酵素の発現を、遺伝子のゲノムコピーに変異を導入することで初期に阻害した細胞(表9の4行目と8行目)が生産する抗体量は、グルタミン合成酵素の発現をamiRNA遺伝子で初期に阻害した3つの細胞株が生産する抗体量と同等であった(1~3行目と4行目、5~7行目と8行目を比較)。従って、第2のトランスポゾンのグルタミン合成酵素遺伝子を減弱させることで、グルタミン合成酵素の発現が干渉RNAによって阻害された細胞においても、グルタミン合成酵素遺伝子の直接的な遺伝子変異によってグルタミン合成酵素が阻害された細胞と同様に、第2のトランスポゾン上の他の遺伝子の発現を高レベルで選択できる。
【0382】
以上から、配列番号741を含むマルチヘアピンamiRNA遺伝子を含む第1のトランスポゾンをゲノムに組み込むことによりグルタミン合成酵素の発現が低下した哺乳類細胞において、第2のトランスポゾン上のセレクタブルマーカーとしてグルタミン合成酵素をコードする遺伝子を用いることにより、第2のトランスポゾンをゲノムに含む細胞を選択できると結論付けた。この第2のトランスポゾンは、哺乳類細胞で発現可能な追加の遺伝子を含み、抗体を生産する。このグルタミン合成酵素ノックダウン細胞株の生産性は、ゲノム変異によりグルタミン合成酵素を不活化した細胞株の生産性と同等である。
【0383】
6.1.3.4 マルチヘアピンamiRNAを用いてグルタミン合成酵素をノックダウンしたCHO細胞からの抗体発現の安定性
6.1.3.2項のクローン129に配列配列番号874の抗体発現トランスポゾンをトランスフェクトして得られた細胞のプール(6.1.3.3項に記載し、表9の7行目に示す)を30又は60の集団倍加で継代し、グルタミン合成酵素阻害マルチヘアピンamiRNAの導入に最初に使用した選択であるG418の存在下又は非存在下での発現の安定性を評価した。60の集団倍加の生産性がオリジナルの生産性の少なくとも70%であれば、クローン細胞は「安定」しているとみなされる。抗体をコードする遺伝子をゲノムに含むCHO細胞のプールは、典型的には、個体群動態の結果として、継代していくうちに生産性がさらに低下していく。生産性の低い細胞は代謝負荷が低いため、より早く増殖する傾向があり、プールを占領してしまう。
【0384】
継代後の細胞は、Sigma Advanced Fed Batch培地を用いて、14日間、フェッドバッチで培養した。上清の蛋白質濃度をオクテットを用いて測定した。結果を表10に示す。F列は14日目に生産された抗体価を示し、G列は非継代プール(1行目)に対するパーセンテージとしての抗体価を示す。表10によれば、G418存在下で30又は60の集団倍加のために継代した細胞プールは、非継代プールが生産した14日目の抗体価のそれぞれ89%及び85%を生産した。G418非存在下では、安定性はさらに向上した(G418非存在下では、60の集団倍加を行っても、14日目の抗体価は非継代プールの95%近くに達した)。これらの抗体価はいずれも、一般的に「クローンの安定性」の閾値と考えられている値を大幅に上回っている。
【0385】
以上から、必須酵素をコードする遺伝子をゲノムに組み込まれたマルチヘアピンamiRNA遺伝子を用いて阻害し、補完するセレクタブルマーカーを含む第2のポリヌクレオチドをゲノムに組み込むことで、細胞が阻害された必須機能を実行するための代替手段を提供すれば、第2のポリヌクレオチドにコードされる他の遺伝子の発現を安定的に維持できると結論づけた。
【0386】
6.1.4 マイクロRNAを用いたカルボキシペプチダーゼDのノックダウン
6.1.4.1 カルボキシペプチダーゼDを標的としたマイクロRNA
カルボキシペプチダーゼDは、CHO細胞から生産される抗体重鎖からC末端のリジンを除去する役割を担うペプチダーゼである。3-ヘアピンのamiRNA遺伝子と4-ヘアピンのamiRNA遺伝子が、カルボキシペプチダーゼDの発現を低下させ、抗体重鎖からのC末端リジンの除去を阻止する能力を比較した。
【0387】
配列番号740の3-ヘアピンのマルチヘアピンamiRNAは、チャイニーズハムスターのカルボキシペプチダーゼmRNA(配列は配列番号17で示される)の3つの異なる配列に相補的な3つのガイド鎖配列を含んでいた。第1のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号111と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号415を含み、第2のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号112と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号416を含み、第3のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号113と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号417を含んでいた。この3つのガイド鎖配列のそれぞれは、Criteculus griseusカルボキシペプチダーゼD mRNA内の異なる領域の完全な逆相補鎖である22塩基の配列であった。各パッセンジャー鎖配列は、ガイド鎖の5'塩基とガイド鎖の12番目の塩基に対応するパッセンジャー鎖配列の塩基が非相補的に変更されていたことを除いて、対応するガイド鎖配列と相補的であった。配列番号111のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとGであり、対応するパッセンジャー鎖配列配列番号415の対応する塩基はそれぞれCとAである。配列番号112のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとCであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号416の対応する塩基はそれぞれCとAである。配列番号113のガイド鎖の1番目と12番目の塩基は、それぞれTとGであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号417の対応する塩基は、それぞれCとAである。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号740の各ヘアピンは、さらに、追加のステム安定化配列を含み、ステム配列配列番号697がガイド鎖配列の直前にあり、ステム配列配列番号698がパッセンジャー鎖配列と直後にある。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号740は、第1のヘアピンの5'に配列番号693の非構造化配列を、第3のヘアピンの3'に配列番号695の非構造化配列をさらに含んでいた。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号740は、さらに、第1及び第2のヘアピンの間に配列番号716の非構造化配列を有し、第2及び第3のヘアピンの間に配列番号717の非構造化配列を有していた。各ガイド鎖配列は異なっており、それぞれがCriteculus griseusカルボキシペプチダーゼD mRNA(配列番号17)に相補的である。
【0388】
配列番号1179の4-ヘアピンのマルチヘアピンamiRNAは、チャイニーズハムスターカルボキシペプチダーゼmRNA(配列は配列番号17で示される)の4つの異なる配列に相補的な4つのガイド鎖配列を含んでいた。第1のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号1173と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号1174を含み、第2のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号1175と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号1176を含み、第3のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号1177と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号1178を含み、第4のヘアピンは、ガイド鎖配列配列番号111と直後にループ配列配列番号683及びパッセンジャー鎖配列配列番号415を含んでいた。これら3つのガイド鎖配列のそれぞれは、Criteculus griseusカルボキシペプチダーゼD mRNA内の異なる領域の完全な逆相補鎖を有す22塩基の配列であった。各パッセンジャー鎖配列は、ガイド鎖の5'塩基とガイド鎖の12番目の塩基に対応するパッセンジャー鎖配列の塩基が非相補的に変更されていたことを除いて、対応するガイド鎖配列と相補的であった。配列番号1173のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれT及びAであり、対応するパッセンジャー鎖配列配列番号1174の対応する塩基はそれぞれC及びCである。配列番号1175のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとGであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号1176の対応する塩基はそれぞれCとAである。配列番号1177のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれAとTであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号1178の対応する塩基はそれぞれCとCである。配列番号111のガイド鎖の1番目と12番目の塩基はそれぞれTとGであり、対応するパッセンジャー鎖の配列配列番号415の対応する塩基はそれぞれCとAである。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号1179の各ヘアピンは、さらに、追加のステム安定化配列を含み、ステム配列配列番号697がガイド鎖配列の直前にあり、ステム配列配列番号698がパッセンジャー鎖配列の直後にある。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号1179は、さらに、第1のヘアピンの5'に配列番号693の非構造化配列を有し、第3のヘアピンの3'に配列番号695の非構造化配列を有していた。マルチヘアピンamiRNA配列配列番号740は、さらに、第1及び第2のヘアピンの間に配列番号716の非構造化配列を有し、第2及び第3のヘアピンの間に配列番号717の非構造化配列を有し、及び第3及び第4ヘアピンの間に配列番号718の非構造化配列を有していた。各ガイド鎖配列は異なり、それぞれがCriteculus griseusカルボキシペプチダーゼDのmRNA(配列番号17)に相補的である。
【0389】
3つのマルチヘアピンamiRNA配列のそれぞれを、赤色蛍光蛋白質をコードするオープンリーディングフレーム(配列番号723で示される)の3'に配置し、その後にウサギグロビンポリアデニル化配列を配置した。各マルチヘアピンamiRNA配列をトランスポゾンベクターにクローニングし、Pol IIプロモーター(配列番号927で示される配列のCMVプロモーター)に作動可能に連結した。このトランスポゾンは、5'-TTAA-3'標的配列とすぐ隣にある配列番号1010のITRと直後に配列番号1008の追加配列を含む左端と、配列番号1009と直後に配列番号1011のITRと直後に5'-TTAA-3'標的配列を含む右端を含んでいた。さらに、ピューロマイシンセレクタブルマーカーをコードする遺伝子(ポリペプチド配列配列番号886)を含んでいた。トランスポゾンは、マルチヘアピンamiRNA、蛍光蛋白質遺伝子、及び全ての必要な作動可能に連結された制御要素が、対応するトランスポザーゼによって転移可能なように構成した。
【0390】
トランスポゾンを、トランスポザーゼ配列番号1086をコードするmRNAとともに、配列番号870で示される成熟軽鎖配列及び配列番号869で示される成熟重鎖配列を有する抗体を発現するクローンCHO細胞株に共トランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞のプールを、10μg/mlのピューロマイシンの存在下で、生存率が95%になるまで培養した。その後、Sigma Advanced Fed Batch培地を用いて、14日間、フェッドバッチで培養した。培養上清からプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて蛋白質を精製し、PNGaseFで処理してN-結合型糖鎖構造を除去し、ジチオスレイトールで還元し、Agilent QTOF質量分析計で分析した。非改変重鎖の質量は49,252 Daであった。C末端のリジンを除去すると、49,124 Daに減少した。マルチヘアピンamiRNA遺伝子の1つをゲノムに含む細胞と、マルチヘアピンamiRNA遺伝子を持たない細胞について、C末端リジンを持つ抗体重鎖と持たない抗体重鎖の割合を比較した。結果を表11に示す。
【0391】
表11に示すように、通常の条件でCHO細胞から抗体を生産すると、C末端のリジンが完全に失われた(1行目)。配列番号740の3-ヘアピンのマルチヘアピンamiRNA配列を含むトランスポゾンをゲノムに含む細胞では、重鎖の50%が完全長で且つC末端のリジンを保持した抗体が生産された。配列番号1179の4-ヘアピンのマルチヘアピンamiRNA配列を含むトランスポゾンをゲノムに含む細胞では、重鎖の70%超が完全長で且つC末端のリジンを保持した抗体が生産された。このことから、標的mRNAに相補的なガイド鎖配列を追加することで、標的mRNAをサイレンシングする効率が高まることが示唆された。
【0392】
表の簡単な説明
表1. 図3A-Gに示したデータの生成に使用したコンストラクト
トランスポゾンは、6.1.1.1項に記載されているように構築した。C列に配列番号が示されているマルチヘアピンamiRNAは、B列に示されているPol IIプロモーターに作動可能に連結した。対応する質量分析の結果は、D列で示された図3A-Gのパネルに示されている。
【0393】
表2. GMD及びGFTを標的としたamiRNAによる抗体のフコシル化の阻害
トランスポゾンは、6.1.1.4項に記載されているように構築した。amiRNA 配列番号はA列に示されている。14日間のバッチ生産後、脱フコシル化された抗体の割合をB列に、フコシル化された抗体の割合をC列に示した。BDL=検出限界未満。
【0394】
表3. 異なる標的遺伝子に向けられたマルチヘアピンamiRNAを用いたHEK細胞での抗体のフコシル化の阻害
トランスポゾンは、6.1.1.5項に記載されているように構築し、HEK細胞にトランスフェクトし、選択した。遺伝子導入用ポリヌクレオチドは、A列に記載された遺伝子に向けられたamiRNAを含んでいた。マルチヘアピンamiRNAは、B列に示す配列番号で示される配列を有していた。マルチヘアピンamiRNAに含まれるヘアピンの数をC列に示す。回収したプールに、配列番号870で示される成熟軽鎖配列と配列番号871で示される成熟重鎖配列を有する抗体をコードする遺伝子を一過性にトランスフェクトした。7日間の培養後、培養上清には、F列に示す濃度の抗体が含んでいた。脱フコシル化された抗体の割合をD列に、フコシル化された抗体の割合をE列に示した。BDL=検出限界未満。
【0395】
表4. FUT8に向けられたマルチヘアピンamiRNAを用いたクローンHEK細胞株での抗体のフコシル化の阻害
クローン細胞株は、表3の3行目と4行目に示すプールから生成した。細胞株の名前はA列に示した。配列番号870で示される成熟軽鎖配列及び配列番号871で示される成熟重鎖配列を有する抗体をコードする遺伝子を用いて、クローン細胞株を一過性にトランスフェクトした。7日間の培養後、培養上清には、D列に示す濃度の抗体が含まれていた。脱フコシル化された抗体の割合をB列に、フコシル化された抗体の割合をC列に示した。
【0396】
表5. 異なる数のamiRNAヘアピンにを用いた抗体のフコシル化の阻害
トランスポゾンは、6.1.2.1項に記載されているように構築した。グルタミン合成酵素ORF及びグロビンpolyA配列を含むamiRNA遺伝子の配列番号は、A列に示されている。B列に示されたPol IIプロモーターは、C列に配列番号が示されたamiRNAに作動可能に連結させた。このamiRNAはD列に示す数のヘアピンを含んでいた。14日間のバッチ式抗体生産を行った後、培養上清にはE列に示す濃度の抗体が含まれていた。脱フコシル化された抗体の割合をF列に、フコシル化された抗体の割合をG列に示した。BDL=検出限界未満。
【0397】
表6. 異なるプロモーターで駆動するマルチヘアピンamiRNAを用いた抗体のフコシル化の阻害
トランスポゾンは、6.1.2.2項に記載されているように構築した。3'UTRのマルチヘアピンamiRNA配列を含む、セレクタブルマーカーであるグルタミン合成酵素遺伝子の配列をA列に示す。B列に示すPol IIプロモーターは、(グルタミン合成酵素遺伝子に作動可能に連結させた)C列に示す阻害性の5'UTRに作動可能に連結させた。グルタミン合成酵素遺伝子の3'UTRに、D列に配列番号が示されているamiRNAを配置した。14日間のバッチ式抗体生産を行った後、培養上清にはE列に示す濃度の抗体が含まれていた。脱フコシル化された抗体の割合をF列に、フコシル化された抗体の割合をG列に示した。BDL=検出限界未満。
【0398】
表7. グルタミン合成酵素を標的としたamiRNAを導入した細胞のグルタミン非存在下での増殖
1行目に示す配列番号のマルチヘアピンamiRNAを含むトランスポゾンを細胞にトランスフェクトし、6.1.3.1項に記載されているように、2行目に示す濃度のG418又はピューロマイシンの添加によって選択した。細胞の生存率が> 95%に回復した後、細胞をグルタミンフリーの培地に、培地1mlあたり0.3x106個の生細胞で移した。生細胞密度は実験開始後のさまざまな時点で測定した。A列には、実験開始からの日数を示した。4日目に、細胞を0.3x106生細胞/mlに希釈し直した(5行目は希釈前、6行目は希釈後)。B-E列は、生存細胞密度x106生細胞/mlを示す。
【0399】
表8. グルタミン合成酵素を標的としたamiRNAを用いたクローン細胞のグルタミン非存在下での増殖
配列番号741のマルチヘアピンamiRNAを含むトランスポゾンをトランスフェクトしたプールをクローンニングし、3つのクローン株(クローンIDは1行目に示す)をグルタミンの存在下又は非存在下で増殖させた(グルタミン濃度は2行目に示す)。グルタミン合成酵素遺伝子の両ゲノムコピーに不活性化変異を持つ細胞株の増殖と比較した(E列及びI列、1行目にGS KOと表示)。細胞は培地1mlあたり0.3x106個の生細胞で播種した。生細胞密度は、実験開始からさまざまな時間に測定した。実験開始後の日数をA列に示した。B-I列は生細胞密度x106生細胞/mlを示す。
【0400】
表9. グルタミン合成酵素ノックダウン細胞における抗体の発現
6.1.3.2項に記載し、表8に示した4つの細胞株を、6.1.3.3項に記載したように、抗体の重鎖及び軽鎖をコードするオープンリーディングフレームを含む2つの異なるトランスポゾンでトランスフェクトした。クローンIDは1列目に示した。3つのクローンは、マルチヘアピンamiRNA配列番号741でトランスフェクトされたグルタミン合成酵素遺伝子の2つのインタクトなゲノムコピーを持つ細胞のプールに由来し、4行目ではグルタミン合成酵素遺伝子の2つのゲノムコピーが不活性化変異を含んでいた(1列目でGS KOと表示)。トランスポゾン配列番号は2列目に示されている。6.1.3.3項に記載のように細胞を選択した。回収後、14日間のフィードバッチに供し、オクテットによる力価測定のために7、10、12及び14日後にサンプルを採取した。培養上清で測定した抗体価を、C(7 日目)、D(10 日目)、E(12 日目)及び F(14 日目)の列にμg/mlで示した。
【0401】
表10. グルタミン合成酵素ノックダウン細胞からの抗体の発現の安定性。 6.1.3.3項に記載され、表9の7行目に示されている、クローン細胞株#129が配列番号874で示される配列を有するトランスポゾンでトランスフェクトされた細胞プールについて、B列に示されているように、0、30及び60の集団倍加で細胞を継代することによって、安定性について試験した。細胞はA列に示した濃度のG418の存在下又は非存在下で継代した。継代後、14日間のフェッドバッチに供し、7、10、12、14日後にサンプルを採取し、オクテットによる力価測定を行った。培養上清で測定した抗体価を、C(7日目)、D(10日目)、E(12日目)及びF(14日目)の各列にμg/mlで示す。14日目の生産性を継代を行わなかった細胞プール(1行目)の生産性に対する%で表した。
【0402】
表11. カルボキシペプチダーゼDの阻害
6.1.4項に記載のように、2つのトランスポゾンはマルチヘアピンamiRNA遺伝子を含んでいた。マルチヘアピンamiRNAの配列番号はA列に、ヘアピンの数はB列に示した。6.1.4項に記載のように、トランスポゾンを抗体を発現するクローンCHO細胞株にトランスフェクトし、選択し、トランスフェクトされた細胞のプールを培養して抗体を生産した。抗体を精製し、糖鎖を除去し、蛋白質を質量分析で分析して、C末端にリジンを持つ重鎖の割合を調べた。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【0403】
7. 参考文献
本書で引用されている全ての文献は、個々の出版物や特許、特許出願が全ての目的のためにその全体を参照して組み込まれることが明確かつ個別に示されているのと同じ程度に、全ての目的のために参照によって本明細書に組み込まれる。ある配列の異なるバージョンが異なる時期にアクセッション番号に関連付けられている場合、本願の有効出願日におけるアクセッション番号に関連付けられたバージョンを意味する。有効出願日とは、実際の出願日と、該当する場合にはアクセッション番号を参照する優先権出願の出願日のうち、いずれか早い方を意味する。同様に、出版物やウェブサイトなどの異なるバージョンが異なる時期に公開されている場合、他に指示がない限り、本願の有効出願日の最も最近に公開されたバージョンを意味する。
【0404】
本発明の任意の特徴、工程、要素、実施形態、又は側面は、特に他に示されていない限り、他のものと組み合わせて使用できる。当業者にはわかるように、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明の多くの改変及び変形を行うことができる。本明細書に記載されている特定の実施形態は、例としてのみ提供されており、本発明は、添付の特許請求の範囲の条件によってのみ限定されるものであり、そのような特許請求の範囲が権利を有する均等物の完全な範囲と共に提供されるものである。
図1A-1B】
図2A-2B】
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
【配列表】
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