(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】光デバイス及びファイバレーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/067 20060101AFI20230524BHJP
【FI】
H01S3/067
(21)【出願番号】P 2022515226
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2021006361
(87)【国際公開番号】W WO2021210267
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2020072971
(32)【優先日】2020-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】益子 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】阪本 真一
(72)【発明者】
【氏名】並木 翔
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-103751(JP,A)
【文献】特許第6550494(JP,B1)
【文献】国際公開第2018/207615(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0205196(US,A1)
【文献】特開2010-177553(JP,A)
【文献】国際公開第2018/070412(WO,A1)
【文献】特開2015-197638(JP,A)
【文献】国際公開第2014/141766(WO,A1)
【文献】特開2012-054349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 -3/02
H01S 3/04 -3/0959
H01S 3/10 -3/102
H01S 3/105-3/131
H01S 3/136-3/213
H01S 3/23 -4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1反射部を有する第1ファイバと、
第2反射部を有する第2ファイバと、
前記第1ファイバに接続される第1端及び前記第2ファイバに接続される第2端を有し、規格化周波数が5.13以上である増幅用ファイバと、
を備え、
前記増幅用ファイバは、
一平面上で交差しないように且つ前記第1端が内側に位置するように巻回されており、
円状に巻回された外側区間と、LP11モードよりも高次のモードが損失を受けるように曲率半径が設定された第1円弧部が少なくとも2つ形成されるよう巻回された内側区間と、を有する、
光デバイス。
【請求項2】
前記内側区間は、前記第1円弧部と、前記第1円弧部よりも曲率半径が大きな第2円弧部が交互に現れるように巻回されている、請求項1記載の光デバイス。
【請求項3】
前記内側区間は、楕円形状に巻回されている、請求項1又は請求項2記載の光デバイス。
【請求項4】
少なくとも2つの前記第1円弧部は、前記第1端からの距離がコヒーレント長よりも短くなる位置に形成されている、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の光デバイス。
【請求項5】
前記増幅用ファイバは、複数のモードの光を伝播可能なフューモードファイバであり、
前記第1円弧部は、所定のモードよりも高次のモードの光が前記増幅用ファイバのコアから除かれるように曲げられている、
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の光デバイス。
【請求項6】
前記第1反射部の反射率は、前記第2反射部の反射率よりも高い、請求項1から請求項5の何れか一項に記載の光デバイス。
【請求項7】
前記第1端を収容する第1補強部と、
前記第2端を収容する第2補強部と、
を備える請求項1から請求項6の何れか一項に記載の光デバイス。
【請求項8】
前記第2端は、前記外側区間の外側に配置されており、
前記外側区間と前記第2端との間に、LP11モードよりも高次のモードが損失を受けるように曲率半径が設定された第3円弧部が少なくとも2つ形成されている、
請求項1から請求項7の何れか一項に記載の光デバイス。
【請求項9】
請求項1から請求項8の何れか一項に記載の光デバイスと、
複数の励起光源と、
前記複数の励起光源から射出される励起光を前記光デバイスに結合させるコンバイナと、
を備えるファイバレーザ装置。
【請求項10】
前記コンバイナは、前記光デバイスの前記第1ファイバ及び前記第2ファイバの少なくとも一方に前記励起光を結合させる、請求項9記載のファイバレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイス及びファイバレーザ装置に関する。
本願は、2020年4月15日に日本に出願された特願2020-072971号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、加工分野、自動車分野、医療分野等の様々な分野において、ファイバレーザ装置が注目されている。ファイバレーザ装置は、従来のレーザ装置(例えば、炭酸ガスレーザ装置)に比べて、ビーム品質及び集光性が優れているという特徴がある。また、ファイバレーザ装置は、空間光学部品が不要なため、アライメント等の問題がない、メンテナンスが不要である、等の利点もある。
【0003】
特許文献1には、コアに希土類イオンが添加された増幅用ファイバにフィルタ部を設け、基本モードに加えて特定の高次モードのみを伝搬させるようにしたファイバレーザ装置が開示されている。このファイバレーザ装置では、特定の高次モードを伝搬させることで、コアの中心およびコアの中心近傍を除いた領域(すなわちコアの外周部近傍の領域)に分布する希土類イオンも光の増幅に寄与できるようになる。このため、出射光のビーム品質を維持しつつ希土類イオンによる増幅効率を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高出力のファイバレーザ装置では、TMI(Transverse Mode Instability:Thermal Modal Instability ともいう)現象が発生し得る。TMI現象とは、増幅用ファイバに投入する励起光のパワーを増大させていくと、量子欠損に起因する周期的な熱グレーティングが発生し、基本モードから高次モードへモード間の結合が生じて、信号光(レーザ光)の出力が抑制されたり、信号光のビーム品質が悪化したりする現象である。特許文献1では、TMI現象が何ら考慮されておらず、励起光から信号光への変換効率を高めることについて改善の余地があった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、励起光から信号光への変換効率を高めることができる光デバイス及びファイバレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様による光デバイスは、第1反射部(13a)を有する第1ファイバ(13)と、第2反射部(15a)を有する第2ファイバ(15)と、前記第1ファイバに接続される第1端(14a)及び前記第2ファイバに接続される第2端(14b)を有し、規格化周波数が5.13以上である増幅用ファイバ(14)と、を備え、前記増幅用ファイバが、一平面上で交差しないように且つ前記第1端が内側に位置するように巻回されており、円状に巻回された外側区間(SC1)と、LP11モードよりも高次のモードが損失を受けるように曲率半径が設定された第1円弧部(AR1)が少なくとも2つ形成されるよう巻回された内側区間(SC2)と、を有する。
【0008】
上記態様による光デバイスでは、増幅用ファイバが、一平面上で交差しないように且つ前記第1端が内側に位置するように巻回されている。この増幅用ファイバは、円状に巻回された外側区間と、LP11モードよりも高次のモードが損失を受けるように曲率半径が設定された第1円弧部が少なくとも2つ形成されるよう巻回された内側区間と、を有する。第1ファイバと増幅用ファイバの第1端との接続点で生じたLP11モードよりも高次のモードが内側区間の第1円弧部で除去されることにより、熱グレーティングの形成が抑制されてTMI現象は発生しない。その結果、励起光から信号光への変換効率を高めることができる。また、増幅用ファイバが一平面上で交差しないことにより(第一端が内側に位置するように巻回されることにより)、増幅用ファイバが交差する場合と比較して、増幅用ファイバの温度が上昇しづらいため、変換効率を高めることができる。
【0009】
また、上記態様による光デバイスは、前記内側区間が、前記第1円弧部と、前記第1円弧部よりも曲率半径が大きな第2円弧部(AR2)が交互に現れるように巻回されていてもよい。
【0010】
また、上記態様による光デバイスは、前記内側区間が、楕円形状に巻回されていてもよい。
【0011】
また、上記態様による光デバイスは、少なくとも2つの前記第1円弧部が、前記第1端からの距離がコヒーレント長よりも短くなる位置に形成されていてもよい。
【0012】
また、上記態様による光デバイスは、前記増幅用ファイバが、複数のモードの光を伝播可能なフューモードファイバであり、前記第1円弧部が、所定のモードよりも高次のモードの光が前記増幅用ファイバのコアから除かれるように曲げられていてもよい。
【0013】
また、上記態様による光デバイスは、前記第1反射部の反射率が、前記第2反射部の反射率よりも高くてもよい。
【0014】
また、上記態様による光デバイスは、前記第1端を収容する第1補強部(Q1)と、前記第2端を収容する第2補強部(Q2)と、を備えていてもよい。
【0015】
また、上記態様による光デバイスは、前記第2端が、前記外側区間の外側に配置されており、前記外側区間と前記第2端との間に、LP11モードよりも高次のモードが損失を受けるように曲率半径が設定された第3円弧部(AR3)が少なくとも2つ形成されていてもよい。
【0016】
本発明の第2の態様によるファイバレーザ装置(1~3)は、上記の何れかに記載の光デバイスと、複数の励起光源(11、18)と、前記複数の励起光源から射出される励起光を前記光デバイスに結合させるコンバイナ(12、19)と、を備える。
【0017】
また、上記態様によるファイバレーザ装置は、前記コンバイナが、前記光デバイスの前記第1ファイバ及び前記第2ファイバの少なくとも一方に前記励起光を結合させてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の上記態様によれば、励起光から信号光への変換効率を高めることができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態によるファイバレーザ装置の要部構成を示す図である。
【
図2】本発明の第1実施形態による光デバイスの平面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態において、恒久ねじれが付与された増幅用ファイバを示す説明図である。
【
図4】本発明の第2実施形態によるファイバレーザ装置の要部構成を示す図である。
【
図5】本発明の第2実施形態による光デバイスの平面図である。
【
図6】本発明の第3実施形態によるファイバレーザ装置の要部構成を示す図である。
【
図7A】比較例のファイバレーザ装置が備える光デバイスの平面図である。
【
図7B】その他の比較例のファイバレーザ装置が備える光デバイスの平面図である。
【
図8】実施例及び比較例のファイバレーザ装置における投入電流と変換効率との関係を示すグラフである。
【
図9】実施例及び比較例で用いた励起光源のスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による光デバイス及びファイバレーザ装置について詳細に説明する。また、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0021】
〔第1実施形態〕
〈ファイバレーザ装置〉
図1は、本発明の第1実施形態によるファイバレーザ装置の要部構成を示す図である。
図1に示す通り、本実施形態のファイバレーザ装置1は、複数の励起光源11、コンバイナ12、共振器用ファイバ13(第1ファイバ)、増幅用ファイバ14、共振器用ファイバ15(第2ファイバ)、デリバリファイバ16、及び出力端17を備える。このようなファイバレーザ装置1は、いわゆる前方励起型のファイバレーザ装置である。
【0022】
ここで、共振器用ファイバ13、増幅用ファイバ14、及び共振器用ファイバ15は、光デバイスRを構成している。光デバイスRは、励起光源11が出力する励起光によってレーザ光である信号光を生成する共振器である。尚、光デバイスRに、他の構成要素(例えば、デリバリファイバ16、出力端17等)を含めてもよい。
【0023】
尚、本明細書では、増幅用ファイバ14から見て、励起光源11側を「前方」といい、出力端17側を「後方」という場合がある。
【0024】
また、
図1では、各種ファイバの融着接続部を×印で示している。この融着接続部は、実際には、補強部Q1,Q2(
図2参照)の内部に配置されて保護される。補強部Q1,Q2は、例えば、光ファイバを収容可能な溝が形成されたファイバ収容体と、融着接続部がファイバ収容体の溝に収容された状態で各種ファイバをファイバ収容体に固定する樹脂とを備える。尚、
図1以外の図においても、各種ファイバの融着接続部を×印で示している。
【0025】
励起光源11は、励起光(前方励起光)を出力する。励起光源11の数は、ファイバレーザ装置1の出力端17から出力されるレーザ光のパワーに応じて任意の数とすることができる。励起光源11としては、例えば、レーザダイオードを用いることができる。コンバイナ12は、励起光源11の各々が出力した励起光を、光デバイスRの前方の端部(共振器用ファイバ13の前方の端部)に結合させる。
【0026】
共振器用ファイバ13の前方の端部は、コンバイナ12に融着接続されており、共振器用ファイバ13の後方の端部は、増幅用ファイバ14の前方の端部14a(第1端)に融着接続されている。尚、以下では、共振器用ファイバ13と増幅用ファイバ14との融着接続部を「融着接続部F1」という。共振器用ファイバ13のコア内には、HR-FBG(High Reflectivity-Fiber Bragg Grating)13a(第1反射部)が形成されている。HR-FBG13aは、励起状態にされた増幅用ファイバ14の活性元素が放出する光のうち、信号光の波長の光をほぼ100%の反射率で反射するように調整されている。HR-FBG13aは、その長手方向に沿って一定の周期で高屈折率の部分が繰り返される構造となっている。
【0027】
増幅用ファイバ14は、1種類又は2種類以上の活性元素が添加されたコアと、コアを覆う第1クラッドと、第1クラッドを覆う第2クラッドと、第2クラッドを覆う被覆とを有する。つまり、増幅用ファイバ14は、ダブルクラッドファイバである。コアに添加される活性元素としては、例えばエルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、或いはネオジム(Nd)等の希土類元素が使用される。これらの活性元素は、励起状態で光を放出する。
【0028】
コア及び第1クラッドとしてはシリカガラス等を用いてもよい。第2クラッドとしては、ポリマー等の樹脂を用いてもよい。被覆としては、アクリル樹脂やシリコーン樹脂等の樹脂材料を用いてもよい。増幅用ファイバ14は、いわゆるフューモードファイバであり、複数のモードを伝播可能である。フューモードファイバが伝播するモードの数は、例えば、2以上25以下である。
【0029】
増幅用ファイバ14の規格化周波数は、3.83以上であることが望ましい。好ましくは、増幅用ファイバ14の規格化周波数は、5.13以上であることが望ましい。規格化周波数が5.13以上の増幅用ファイバは、規格化周波数が3.83以上の増幅用ファイバと比較して、コア径を拡大することができ、ファイバの実行断面積を大きくすることができるので、非線形光学効果を抑制することができる。ここで、規格化周波数は、光ファイバの仕様を表す指標の1つであり、光ファイバを伝播するモードの数を規定する。光ファイバを伝播することができるモードの数は、規格化周波数が大きいほど多くなり、小さいほど少なくなる。
【0030】
規格化周波数が5.13(有効数字3桁の場合)未満である場合に、光ファイバ内を伝播できるモードは、高次モードであるLP02モード、LP21モード、LP11モードと、基本モードであるLP01モードとの合計4モードである。増幅用ファイバ14の規格化周波数が5.13以上である場合には、上記の4モードに加えて、より高次のモードが増幅用ファイバ14を伝播できる。
【0031】
尚、規格化周波数が3.83(有効数字3桁の場合)未満である場合に、光ファイバ内を伝播できるモードは、LP11モード及びLP01モードの合計2モードである。規格化周波数が2.40(有効数字3桁の場合)未満である場合に、光ファイバ内を伝播できるモードは、LP01モードのみとなる。尚、規格化周波数の詳細については、例えば、前述した特許文献1を参照されたい。
【0032】
増幅用ファイバ14内における融着接続部F1の近傍には、モードフィルタMF1が設けられている。このモードフィルタMF1は、共振器用ファイバ13と増幅用ファイバ14との融着接続部F1で発生する高次モード(TMI現象を発生させ得る高次モード)を除去し、TMI現象を抑制するために設けられる。モードフィルタMF1は、例えば、増幅用ファイバ14の一部が曲げられることによって実現され、LP11モードよりも高次のモード(例えば、LP02モードやLP21モード等)を除去するように設計されている。つまり、モードフィルタMF1は、LP01モード及びLP11モードが通過できるよう設計されている。尚、モードフィルタMF1を含めた光デバイスRの具体的な構成については後述する。
【0033】
共振器用ファイバ15の前方の端部は、増幅用ファイバ14の後方の端部14b(第2端)に融着接続されており、共振器用ファイバ15の後方の端部は、デリバリファイバ16の前方の端部に融着接続されている。尚、以下では、共振器用ファイバ15と増幅用ファイバ14との融着接続部を「融着接続部F2」という。共振器用ファイバ15のコア内には、OC-FBG(Output Coupler-Fiber Bragg Grating)15a(第2反射部)が形成されている。OC-FBG15aは、HR-FBG13aとほぼ同様の構造を有しているが、HR-FBG13aよりも低い反射率で、光を反射するように調整されている。例えば、OC-FBG15aは、信号光の波長の光に対する反射率が10~20%程度となるように調整されている。
【0034】
増幅用ファイバ14内では、HR-FBG13a及びOC-FBG15aで反射した信号光が、増幅用ファイバ14の長手方向で往復する。信号光は、この往復に伴って増幅されてレーザ光となる。このように、光デバイスR内では、光が増幅されて信号光(レーザ光)が生成される。
【0035】
デリバリファイバ16は、光デバイスR内で生成されたレーザ光を伝送する。デリバリファイバ16、コアと、コアを囲うクラッドと、クラッドを覆う被覆とを備える。デリバリファイバ16としては、例えば、シングルモードファイバを用いてもよい。デリバリファイバ16は、例えば、マルチモードファイバであっても、フューモードファイバであってもよい。
【0036】
出力端17は、デリバリファイバ16の後方の端部に接続されており、デリバリファイバ16によって伝送されてきたレーザ光を射出する。出力端17は、デリバリファイバ16によって伝送されてきたレーザ光を透過する柱状体(光透過柱状部材)を備える。この部材は、いわゆるエンドキャップと呼ばれる。
【0037】
〈光デバイス〉
図2は、本発明の第1実施形態による光デバイスの平面図である。尚、
図2においては、
図1に示す構成と同じ構成には同じ符号を付してある。
図2に示す通り、光デバイスRは、共振器用ファイバ13、増幅用ファイバ14、及び共振器用ファイバ15を備えており、放熱板P上に搭載されている。放熱板Pは、例えば、熱伝導性の高い材料(例えば、アルミニウム、銅等)によって形成された平板状の部材である。放熱板Pは、光デバイスRを冷却するために設けられる。尚、放熱板Pは、内部に冷媒を流通することができる流路を有していてもよい。
【0038】
増幅用ファイバ14は、一平面上(放熱板P上)で交差しないように巻回されている。具体的に、増幅用ファイバ14は、端部14a(第1端)が最内周に位置し、端部14b(第2端)が最外周に位置し、且つ一平面上(放熱板P上)で交差しないように一方向(
図2に示す例では、端部14bから右回り(時計回り))に巻回されている。つまり、増幅用ファイバ14は、増幅用ファイバ14と共振器用ファイバ13との融着接続部F1が最内周に位置し、増幅用ファイバ14と共振器用ファイバ15との融着接続部F2が最外周に位置するよう巻回されている。
【0039】
増幅用ファイバ14に接続された共振器用ファイバ13は、増幅用ファイバ14に交差するように、増幅用ファイバ14の外側(
図2に示す例では、紙面左側)に延出している。尚、
図2に示す例では、HR-FBG13aが増幅用ファイバ14の外側に配されているが、HR-FBG13aは、増幅用ファイバ14の内側に配されていてもよい。増幅用ファイバ14に接続された共振器用ファイバ15は、紙面右側に延出している。
【0040】
ここで、共振器用ファイバ13,15は、希土類元素を実質的に含んでおらず、増幅用ファイバ14に比べて発熱を生じにくい。このため、
図2に示す通り、共振器用ファイバ13が、増幅用ファイバ14に交差するように配置されていても光デバイスR全体としての放熱効果を実質的に維持することができる。従って、増幅用ファイバ14で発生する熱により被るダメージを低減できる。
【0041】
尚、融着接続部F1を補強するための補強部Q1(第1補強部)を設けてもよく、融着接続部F2を補強するための補強部Q2(第2補強部)を設けてもよい。補強部Q1,Q2は、融着接続部F1,F2及び融着接続部F1,F2近傍における破損を防ぐために、
図2に例示するように、一定の直線部分を有していてもよい。
【0042】
また、増幅用ファイバ14は、外側区間SC1と内側区間SC2とを有する。外側区間SC1は、軸Oの回りに円状(渦状)に巻回されて、内側に空間を有するコイル状にされた区間である。外側区間SC1において、増幅用ファイバ14の曲率半径は、端部14bから端部14aにかけて漸減し、外側区間SC1の最内周(外側区間SC1と内側区間SC2との境界)において最小となる。
【0043】
内側区間SC2は、コイル状(渦状)にされた外側区間SC1の内側の空間に配置されている。内側区間SC2は、LP11モードよりも高次のモードが損失を受けるように曲率半径が設定された円弧部が少なくとも2つ形成されるように、増幅用ファイバ14が巻回された区間である。ここで、増幅用ファイバ14の端部14aは、内側区間SC2の終点を規定し、前述した通り、増幅用ファイバ14の最内周に位置するようにされる。このため、増幅用ファイバ14は、増幅用ファイバ14の内側区間SC2で囲まれる領域よりも内側に端部14aが位置するように巻回されているということができる。
【0044】
図2に例示する内側区間SC2は、楕円状に1周半に亘って巻回されている。つまり、
図2に例示する内側区間SC2は、端部14aから外側区間SC1にかけて、LP11モードよりも高次のモードが損失を受けるように曲率半径が設定された円弧部AR1(第1円弧部)と、円弧部AR1よりも曲率半径が大きな円弧部AR2(第2円弧部)とが交互に現れるように巻回されている。
【0045】
内側区間SC2の円弧部AR1は、
図1に示すモードフィルタMF1として機能する部位である。つまり、内側区間SC2の円弧部AR1は、共振器用ファイバ13と増幅用ファイバ14との融着接続部F1で発生する高次モード(TMI現象を発生させ得る高次モード)を除去するために設けられる。このような円弧部AR1を内側区間SC2に少なくとも2つ設けるのは、上記の高次モードを十分に除去するためである。また、円弧部AR1,AR2が交互に現れるように巻回することで、増幅用ファイバ14が補強部Q1と接触することなく、高次のモードに十分な損失を与えることが可能なモードフィルタMF1を形成することができる。
【0046】
図2に例示する通り、内側区間SC2を楕円状に巻回することで、円弧部AR1の合計の長さ(円弧部AR1の弧の長さの合計)を円弧部AR1の曲率半径を有する円の1周の長さ以上にすることができるとともに、巻き回された増幅用ファイバ14の内側に、直線部分を有する補強部Q1を配置することができる。円弧部AR1の合計の長さを円弧部AR1の曲率半径を有する円の1周の長さ以上にすることで、高次モードに対して十分な損失を与えることが可能になる。ここで、例えば、円弧部AR1の長さが融着接続部F1の直後にある半周分のみである場合には、増幅用ファイバ14が高温になると、高次モードに対して十分な損失を与えられない可能性が考えられる。尚、円弧部AR2の曲率半径は、円弧部AR1の曲率半径よりも大きければよく、外側区間SC1の曲率半径の最小値より大きくてもよく、小さくてもよい。或いは、円弧部AR2は、直線状とされていてもよい。
【0047】
ここで、円弧部AR1の曲率半径の最小値rminは、増幅用ファイバ14内を伝播するビーム品質を悪化させずに且つ、増幅用ファイバ14の機械的信頼性を満たす曲率半径rsの2倍以下であってもよい。増幅用ファイバ14内を伝播するビーム品質を悪化させない曲率半径rbは、所定のモードよりも高次のモードの光が増幅用ファイバ14のコアから除かれる曲率半径と定義することができる。例えば、当該所定のモードが、LP11モードよりも高次のモード光である場合には、曲率半径rbは、LP11モードよりも高次のモード光が増幅用ファイバのコアから除かれる(損失を受ける)曲率半径である。
【0048】
増幅用ファイバ14の機械的信頼性を満たす曲率半径rsは、増幅用ファイバ14を曲げたときに破断する曲率半径と定義することができる。曲率半径rb及び曲率半径rsのうち何れか大きい方を曲率半径rfとすると、rf<rmin≦2rsを満たすように、円弧部AR1の曲率半径の最小値rminを設定することができる。上記式を満たすように円弧部AR1の曲率半径の最小値rminを設定することで、所望のビーム品質及び機械的強度を確保することができる。また、増幅用ファイバ14のフットプリントをより小さくすることもできる。即ち、所望のビーム品質及び機械的強度を確保しつつ、より小型な光部品を提供できる。
【0049】
モードフィルタMF1(円弧部AR1)は、高次モードの発生箇所である融着接続部F1の近傍に配置されることが好ましい。その理由は以下の通りである。つまり、本実施形態のようなファイバレーザ装置1は、一般的に、非線形光学効果を抑制するため、縦モード(発振波長)もマルチモードになっている。そのため、融着接続部F1では、波長に拘わらず基本モード(LP01モード)から高次モードへモード間の結合が生ずる。融着接続部F1で生じた高次モードは、波長毎に伝搬速度が違うことに起因し、しばらく導波するとコヒーレンシーが失われてしまう。
【0050】
つまり、融着接続部F1からコヒーレント長(モード間干渉により生じるビートの持続長)以上に離れた箇所では、各基本モードと高次モードとが可干渉性を失っているため、熱グレーティングが小さくなり、結果として高次モードへの結合が小さくなる。コヒーレント長以上に離れた箇所で高次モードを除去したとしても、その箇所に至るまでに高次モードへの結合が生じているため、効率低下の抑制という観点では効果を発現しにくい。このような理由で、モードフィルタMF1(円弧部AR1)は、融着接続部F1の近傍に配置されることが好ましい。
【0051】
このことを踏まえると、融着接続部F1(端部14a)とモードフィルタMF1(円弧部AR1)との間の間隔は、増幅用ファイバ14を伝播する信号光の波長の光においてコヒーレント長よりも短いと良い。また、モードフィルタMF1の長さ(円弧部AR1の合計の長さ)は長ければ長い方が良いが、モードフィルタMF1(少なくとも2つの円弧部AR1)は、融着接続部F1(端部14a)と、融着接続部F1(端部14a)からコヒーレント長だけ離れた位置と、の間の領域に配置されていると良い。
【0052】
また、融着接続部F1を補強する補強部Q1が設けられている場合には、モードフィルタMF1(円弧部AR1)は、補強部Q1の後方の端部の直後に設けられているのが望ましい。尚、増幅用ファイバ14の融着接続部F1に近い部位は、発熱により光学特性が変化しやすい場合がある。このような場合は、融着接続部F1(端部14a)とモードフィルタMF1(円弧部AR1)との間の間隔を長くするのが望ましい。但し、その間隔は、上記のコヒーレント長よりも短いと良い。
【0053】
ここで、増幅用ファイバ14を伝播する任意の2つのモードの実行屈折率Neffの差をΔNeffとし、増幅用ファイバ14の伝搬波長をλ、波長幅をΔλとすると、モード間干渉により生じるビートの持続長であるコヒーレント長Lcは、以下の(1)式で表される。
Lc=2/ΔNeff×λ2/Δλ …(1)
【0054】
例えば、比屈折率差が0.3%であり、コア媒体屈折率が1.45であり、コア径が50μmである増幅用ファイバ14のコアを、伝搬波長λが1070nmであり、波長幅Δλが1nmであるLP01モードとLP02モードとが増幅用ファイバ14を伝播するとする。このときのLP01モードとLP02モードとの実行屈折率差ΔNeffは、0.00028となる。上記(1)式から、モード間干渉により生じるビートの持続長であるコヒーレント長Lcは、8.18mと求められる。
【0055】
ここで、増幅用ファイバ14には、恒久ねじれが付与されていてもよい。
図3は、本発明の第1実施形態において、恒久ねじれが付与された増幅用ファイバを示す説明図である。
図3に示す例において、増幅用ファイバ14は、コア21と、コア21の外側を覆う第1クラッド22と、第1クラッド22の外側を覆う第2クラッド23と、を有するダブルクラッド光ファイバである。増幅用ファイバ14の長手方向に垂直な断面において、第1クラッド22の断面は正7角形(非円形クラッド)である。
【0056】
第1クラッド22と第2クラッド23との境界が2回軸対称でない正7角形であるため、クラッドを導波してコアに到達せず、励起光として寄与しない光、いわゆるスキュー光を抑制することができる。しかしながら、第1クラッド22の断面形状を多角形にしただけでは、依然としてスキュー光が残る。スキュー光をさらに低減し、励起光の利用効率をさらに向上させるために、増幅用ファイバ14は、増幅用ファイバ14の中心軸を中心として周方向にねじられるように巻回されている。
【0057】
増幅用ファイバ14がねじられているため、第1クラッド22の正7角形の向きが増幅用ファイバ14の場所によって異なる。そのため、
図3に示すように、スキュー光Lsの入射角θ1,θ2,θ3(反射角)は、増幅用ファイバ14の長手方向において場所によって変化する。すなわち、θ1≠θ2≠θ3である。この入射角および反射角の変化により、スキュー光Lsは、第1クラッド22内を進むうちにコア21に入射するようになり、励起光として寄与する。これにより、励起光の利用効率を上げることができ、出力光のパワーを高めることができる。
【0058】
増幅用ファイバ14のねじれ量が多すぎると、ビーム品質が低下するという問題が生じる。このため、増幅用ファイバ14のねじれ量は、3回転/m以下であることが好ましい。この場合、ビーム品質の劣化、具体的にはM2値の上昇を抑えることができる。M2値は、ガウスビームからのずれを定量的に示す指標であり、回折限界の何倍までビームを絞ることができるかを示す。尚、増幅用ファイバ14の全長にわたってねじれ量が一定であってもよい。或いは、増幅用ファイバ14のねじれ量を、HR-FBG13aに近づくにつれて大きくなるように設定してもよい。
【0059】
ここで、TMI現象の発現は、熱グレーティングの発生と密接な関係がある。熱グレーティングの発生に影響を与えるパラメータとしては、例えば、以下のパラメータが挙げられる。
αpump:増幅用ファイバ14における励起光の吸収率
Ppump:増幅用ファイバ14に入力される励起光のパワー
a:信号光密度と励起光密度との比率
ω:ビート変調度(モード間干渉によって生じる増幅用ファイバ14内の光強度のうねりにおける山部と谷部との差又は比)
TMI現象は、αpump、Ppump、ωが大きいほど発現しやすく、aが小さいほど発現しやすい。
【0060】
以上の通り、本実施形態では、規格化周波数が5.13以上である増幅用ファイバ14が、一平面上で交差しないように且つ端部14aが最内周に位置するように巻回されている。この増幅用ファイバ14は、円状に巻回された外側区間SC1と、外側区間SC1の内側に巻回された内側区間SC2とを有している。内側区間SC2には、LP11モードよりも高次のモードが損失を受けるように曲率半径が設定された円弧部AR1が少なくとも2つ形成されており、この円弧部AR1がモードフィルタMF1として機能する。
【0061】
共振器用ファイバ13と増幅用ファイバ14との融着接続部F1で発生した高次モード(TMI現象を発生させ得る高次モード)は、増幅用ファイバ14内における融着接続部F1の近傍に設けられたモードフィルタMF1で除去される。例えば、増幅用ファイバ14のコアを伝播するLP11モードよりも高次のモード(例えば、LP02モードやLP21モード等)がモードフィルタMF1で除去される。
【0062】
これにより、上述したパラメータのうちのビート変調度ωを小さくすることができるため、TMI現象の発現を抑制することができ、その結果として、励起光から信号光への変換効率を高めることができる。また、本実施形態では、巻き回された増幅用ファイバ14の内側に、直線部分を有する補強部Q1を配置することができるため、信頼性(機械的信頼性)を高めることができる。また、増幅用ファイバが一平面上で交差しないことにより(第一端が内側に位置するように巻回されることにより)、増幅用ファイバが交差する場合と比較して、増幅用ファイバの温度が上昇することを抑えることができるため、変換効率を高めることができる。
【0063】
〔第2実施形態〕
〈ファイバレーザ装置〉
図4は、本発明の第2実施形態によるファイバレーザ装置の要部構成を示す図である。尚、
図4においては、
図1に示す構成と同様の構成については同一の符号を付してある。本実施形態のファイバレーザ装置2は、モードフィルタMF1に加えてモードフィルタMF2が増幅用ファイバ14に形成されている点が、
図1に示すファイバレーザ装置1とは異なる。
【0064】
モードフィルタMF2は、増幅用ファイバ14内における融着接続部F2の近傍に設けられている。このモードフィルタMF2は、増幅用ファイバ14と共振器用ファイバ15との融着接続部F2で発生する高次モードを除去する。モードフィルタMF2は、モードフィルタMF1と同様に、例えば、増幅用ファイバ14の一部が曲げられることによって実現され、LP11モードよりも高次のモード(例えば、LP02モードやLP21モード等)を除去するように設計されている。つまり、モードフィルタMF2も、LP01モード及びLP11モードのみが通過できるよう設計されている。
【0065】
〈光デバイス〉
図5は、本発明の第2実施形態による光デバイスの平面図である。尚、
図5においては、
図2に示す構成と同じ構成には同じ符号を付してある。
図5に示す光デバイスRは、増幅用ファイバ14の外側区間SC1と端部14bとの間に、LP11モードよりも高次のモードが損失を受けるように曲率半径が設定された円弧部AR3(第3円弧部)が少なくとも2つ形成されている。
【0066】
円弧部AR3は、
図4に示すモードフィルタMF2として機能する部位である。つまり、円弧部AR3は、増幅用ファイバ14と共振器用ファイバ15との融着接続部F2で発生する高次モードを除去するために設けられる。このような円弧部AR3を少なくとも2つ設けるのは、上記の高次モードを十分に除去するためである。円弧部AR3は、例えば内側区間SC2に形成された円弧部AR1と同じ曲率半径に形成されている。
【0067】
図5に示す例では、光デバイスRは、外側区間SC1から端部14bにかけて、円弧部AR3、円弧部AR3よりも曲率半径が大きな円弧部AR4、及び円弧部AR3が順に現れるように形成されている。ここで、円弧部AR4は、2つの円弧部AR3を接続するために設けられる部位であり、一平面上で自身が交差しないよう且つ2つの円弧部AR3とも交差しないようにされている。すなわち、モードフィルタMF2は、円状(渦状)に巻き回された増幅用ファイバ14により構成されていてもよい。円弧部AR3の合計の長さは、例えば、円弧部AR3の曲率半径を有する円の1周の長さ以上にされる。
【0068】
モードフィルタMF2(円弧部AR3)は、高次モードの発生箇所である融着接続部F2の近傍に配置されることが好ましい。また、融着接続部F2(端部14b)とモードフィルタMF2(円弧部AR3)との間の間隔は、増幅用ファイバ14を伝播する信号光の波長の光において前述したコヒーレント長よりも短いと良い。また、モードフィルタMF2の長さ(円弧部AR3の合計の長さ)は長ければ長い方が良いが、モードフィルタMF2(円弧部AR3)は、融着接続部F2(端部14b)と、融着接続部F2(端部14b)からコヒーレント長だけ離れた位置と、の間の領域に配置されていると良い。
【0069】
また、融着接続部F2を補強する補強部Q2が設けられている場合には、モードフィルタMF2(円弧部AR3)は、補強部Q2の前方の端部の直前に設けられているのが望ましい。また、増幅用ファイバ14には、第1実施形態と同要に、恒久ねじれが付与されていてもよい。
【0070】
また、本実施形態でも、規格化周波数が5.13以上である増幅用ファイバ14が、一平面上で交差しないように且つ端部14aが最内周に位置するように巻回されている。この増幅用ファイバ14は、円状(渦状)に巻回された外側区間SC1と、外側区間SC1の内側に巻回された内側区間SC2とを有している。内側区間SC2には、LP11モードよりも高次のモードが損失を受けるように曲率半径が設定された円弧部AR1が少なくとも2つ形成されている。この円弧部AR1は、モードフィルタMF1として機能し、LP11モードよりも高次のモード(例えば、LP02モードやLP21モード等)がモードフィルタMF1で除去される。
【0071】
また、本実施形態では、増幅用ファイバ14の外側区間SC1と端部14bとの間に、LP11モードよりも高次のモードが損失を受けるように曲率半径が設定された円弧部AR3が少なくとも2つ形成されている。この円弧部AR3は、モードフィルタMF2として機能し、LP11モードよりも高次のモード(例えば、LP02モードやLP21モード等)がモードフィルタMF2で除去される。
【0072】
以上により、前述したビート変調度ωを小さくすることができるため、TMI現象の発現を抑制することができ、その結果として、励起光から信号光への変換効率を高めることができる。また、本実施形態でも、巻き回された増幅用ファイバ14の内側に、直線部分を有する補強部Q1を配置することができるため、信頼性(機械的信頼性)を高めることができる。また、増幅用ファイバが一平面上で交差しないことにより(第一端が内側に位置するように巻回されることにより)、増幅用ファイバが交差する場合と比較して、増幅用ファイバの温度が上昇しづらいため、変換効率を高めることができる。
【0073】
〔第3実施形態〕
〈ファイバレーザ装置〉
図6は、本発明の第3実施形態によるファイバレーザ装置の要部構成を示す図である。尚、
図6においては、
図4に示す構成と同様の構成については同一の符号を付してある。本実施形態のファイバレーザ装置3は、複数の励起光源18及びコンバイナ19を備える点が、
図4に示すファイバレーザ装置2とは異なる。このようなファイバレーザ装置3は、いわゆる双方向励起型のファイバレーザ装置である。
【0074】
励起光源18は、励起光(後方励起光)を出力する。励起光源18の数は、ファイバレーザ装置3の出力端17から出力されるレーザ光のパワーに応じて任意の数とすることができる。励起光源18としては、励起光源11と同様に、例えば、レーザダイオードを用いることができる。コンバイナ19は、励起光源18の各々が出力した励起光を、光デバイスRの後方の端部(共振器用ファイバ15の後方の端部)に結合させる。
【0075】
本実施形態のファイバレーザ装置3が備える光デバイスRは、第2実施形態のファイバレーザ装置2が備える光デバイスRと同じ構成である。但し、本実施形態のファイバレーザ装置3が備える光デバイスRは、前方励起光のみならず後方励起光が供給される点が第2実施形態のファイバレーザ装置2が備える光デバイスRとは異なる。
【0076】
また、本実施形態でも、規格化周波数が5.13以上である増幅用ファイバ14が、一平面上で交差しないように且つ端部14aが最内周に位置するように巻回されている。この増幅用ファイバ14は、円状(渦状)に巻回された外側区間SC1と、外側区間SC1の内側に巻回された内側区間SC2とを有している。内側区間SC2には、LP11モードよりも高次のモードが損失を受けるように曲率半径が設定された円弧部AR1が少なくとも2つ形成されている。この円弧部AR1は、モードフィルタMF1として機能し、LP11モードよりも高次のモード(例えば、LP02モードやLP21モード等)がモードフィルタMF1で除去される。
【0077】
また、本実施形態では、増幅用ファイバ14の外側区間SC1と端部14bとの間に、LP11モードよりも高次のモードが損失を受けるように曲率半径が設定された円弧部AR3が少なくとも2つ形成されている。この円弧部AR3は、モードフィルタMF2として機能し、LP11モードよりも高次のモード(例えば、LP02モードやLP21モード等)がモードフィルタMF2で除去される。
【0078】
以上により、前述したビート変調度ωを小さくすることができるため、TMI現象の発現を抑制することができ、その結果として、励起光から信号光への変換効率を高めることができる。また、本実施形態でも、巻き回された増幅用ファイバ14の内側に、直線部分を有する補強部Q1を配置することができるため、信頼性(機械的信頼性)を高めることができる。また、増幅用ファイバが一平面上で交差しないことにより(第一端が内側に位置するように巻回されることにより)、増幅用ファイバが交差する場合と比較して、増幅用ファイバの温度が上昇しづらいため、変換効率を高めることができる。
【実施例】
【0079】
本出願の発明者は、上記第1実施形態のファイバレーザ装置1を実施例として用意した。つまり、モードフィルタMF1が形成された増幅用ファイバ14と共振器用ファイバ13,15とによって構成される光デバイスRを備えるファイバレーザ装置1を実施例として用意した。増幅用ファイバ14は、規格化周波数が5.13以上であり、コアにYbが添加されている。増幅用ファイバ14は、
図2に示す通りに巻回され、コイル状(渦状)の外側区間SC1と、モードフィルタMF1として機能する円弧部AR1が形成された内側区間SC2とを有する。
【0080】
円弧部AR1の曲率半径は、LP11モードよりも高次のモード(例えば、LP02モードやLP21モード等)が損失を受けるよう(除去されるよう)にした。共振器用ファイバ13におけるHR-FBG13aの反射率を99%とし、共振器用ファイバ15におけるOC-FBG15aの反射率を10%とした。
図9は、実施例及び比較例で用いた励起光源のスペクトルを示す図である。
図9に示す通り、励起光源11から射出される励起光の強度がピークとなる波長は975nmである。
【0081】
比較例として、
図7Aおよび
図7Bに示す構成の光デバイスR1,R2を備えるファイバレーザ装置を用意した。その他の構成は、上記した実施例のファイバレーザ装置1と同様である。
図7Aおよび
図7Bは、比較例のファイバレーザ装置が備える光デバイスの平面図である。尚、
図7Aに示す光デバイスR1は、比較例1のファイバレーザ装置に備えられ、
図7Bに示す光デバイスR2は、比較例2のファイバレーザ装置に備えられている。
【0082】
比較例1のファイバレーザ装置が備える光デバイスR1は、
図7Aに示す通り、LP11モードよりも高次のモードが損失を受けるように曲率半径が設定された円弧部AR1を有しない。また、共振器用ファイバ13と増幅用ファイバ14との融着接続部F1及び補強部Q1が巻き回された増幅用ファイバ14の外側に配置されている。
【0083】
比較例2のファイバレーザ装置が備える光デバイスR2には、
図7Bに示す通り、LP11モードよりも高次のモードが損失を受けるように曲率半径が設定された円弧部AR1が1箇所だけ形成されている。尚、円弧部AR1の長さは、円弧部AR1の曲率半径を有する円の半周の長さである。
【0084】
図8は、実施例及び比較例のファイバレーザ装置における投入電流と変換効率との関係を示すグラフである。
図8に示すグラフの横軸は励起光源11に投入した電流[A]であり、縦軸は励起光からレーザ光への変換効率[%]である。尚、横軸の値が大きいほど増幅用ファイバ14に入力される励起光のパワーが大きくなる。
【0085】
図8に示す通り、比較例1のファイバレーザ装置は、投入電流が36Aを超えると投入電流と変換効率との線形性が崩れ、変換効率の急峻な低下が確認された。変換効率の急激な低下は、投入電流が40Aになるまで確認された。また、比較例2のファイバレーザ装置は、投入電流が36Aを超えても投入電流と変換効率との線形性がほぼ維持され、変換効率の低下を抑制することができた。しかしながら、投入電流が40Aを超えると変換効率の急峻な低下が確認された。これに対し、実施例のファイバレーザ装置は、投入電流が40Aを超えても変換効率の急峻な低下は確認されなかった。
【0086】
本実施例及び比較例では、強度のピークとなる波長が975nmである励起光を用いている。この波長(975nm)は、Ybが添加されている増幅用ファイバ14における吸収ピーク波長と一致しているため、比較例1ではビートによる熱グレーディングが生じ、前述したTMI現象によって変換効率の低下が起きたと考えられる。
【0087】
ここで、比較例2では、
図7Bに示す円弧部AR1によって余分な高次モードがある程度除去されたことで、ビートによる熱グレーティングの形成を抑制することができたと考えられる。しかしながら、比較例2では、円弧部AR1が十分な長さでなく、高次モードの除去が不十分であるために、投入電流が40Aを超えた場合にビートによる熱グレーディングが生じ、前述したTMI現象によって変換効率の低下が起きたと考えられる。
【0088】
これに対し、実施例では、モードフィルタMF1(複数の円弧部AR1)によって余分な高次モードが除去されたことで、ビートによる熱グレーティングの形成を抑制することができたと考えられる。これにより、投入電流が40Aを超えた場合であっても、ビートによる熱グレーティングの形成が抑制され、前述したTMI現象による変換効率の急激な低下は起きなかったと考えられる。このように、モードフィルタMF1(複数の円弧部AR1)を用いて不要な高次モードを十分に除去することによる効果を確認することができた。
【0089】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。
例えば、
図2及び
図5に示す光デバイスRにおいて、HR-FBG13aとOC-FBG15aとが入れ替わっていてもよい。つまり、共振器用ファイバ13にOC-FBG15aが形成されており、共振器用ファイバ15にHR-FBG13aが形成されていてもよい。
【0090】
また、上述した実施形態のファイバレーザ装置1~3は、1つの出力端17を有するが、出力端17の先にさらに光ファイバ等を接続してもよい。また、出力端17の先にビームコンバイナを接続し、複数のレーザ装置からのレーザ光を束ねるように構成されていてもよい。
【0091】
また、上述した第1,第2実施形態のファイバレーザ装置は、いわゆる前方励起型のファイバレーザ装置であり、上述した第3実施形態のファイバレーザ装置は、いわゆる双方向励起型のファイバレーザ装置であった。しかしながら、ファイバレーザ装置は、第3実施形態のファイバレーザ装置3(
図6参照)が備える励起光源11及びコンバイナ12が省略された、いわゆる後方励起型のファイバレーザ装置であってもよい。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0092】
1~3…ファイバレーザ装置、11…励起光源、12…コンバイナ、13…共振器用ファイバ(第1ファイバ)、13a…HR-FBG(第1反射部)、14…増幅用ファイバ、14a,14b…端部、15…共振器用ファイバ(第2ファイバ)、15a…OC-FBG(第2反射部)、18…励起光源、19…コンバイナ、AR1~AR3…円弧部、Q1,Q2…補強部、R…光デバイス、SC1…外側区間、SC2…内側区間