(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】スポンジコバルト触媒組成物
(51)【国際特許分類】
B01J 25/00 20060101AFI20230524BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230524BHJP
【FI】
B01J25/00 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2022563138
(86)(22)【出願日】2022-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2022026528
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2021110950
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 啓智
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-516308(JP,A)
【文献】特開平07-185352(JP,A)
【文献】特表2008-528459(JP,A)
【文献】特表2002-512606(JP,A)
【文献】特開平03-002145(JP,A)
【文献】GARCIANO II, Leonito O. et al.,Development of Raney cobalt catalysts for the hydrogenation of squalene type compounds,Reac. Kinet. Mech. Catal.,HU,Akademiai Kiad,2012年09月18日,Vol. 108,pp. 127-138,DOI: 10.1007/s11144-012-0498-1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07B 31/00-63/04
C07C 1/00-409/44
Scopus
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、オキソ酸、スポンジコバルト触媒を含み、
前記オキソ酸はWまたはMoを含み、
前記オキソ酸の一部または全部が前記スポンジコバルト触媒に吸着され、
Wを含む前記オキソ酸が、W換算で、前記スポンジコバルト触媒1kgに対して5mg以上、1200mg以下の範囲で前記スポンジコバルト触媒に吸着された、
ニトリルを水素化する反応に用いる、スポンジコバルト触媒組成物。
【請求項2】
Moを含む前記オキソ酸が、Mo換算で、前記スポンジコバルト触媒1kgに対して5mg以上、1000mg以下の範囲で前記スポンジコバルト触媒に吸着された、請求項1に記載のスポンジコバルト触媒組成物。
【請求項3】
前記オキソ酸が、WO
4
2-、MoO
4
2-、Mo
7O
24
6-、Mo
8O
26
4-か
ら選ばれる少なくとも1種である、請求項1または請求項2に記載のスポンジコバルト触媒組成物。
【請求項4】
前記スポンジコバルト触媒に吸着されたオキソ酸に含まれるWと前記スポンジコバルト触媒に含まれるCoとのモル比率(W/Co)が、0.00001以上、0.0005以下の範囲にある、請求項1または請求項2に記載のスポンジコバルト触媒組成物。
【請求項5】
前記スポンジコバルト触媒に吸着されたオキソ酸に含まれるMoと前記スポンジコバルト触媒に含まれるCoとのモル比率(Mo/Co)が、0.00001以上、0.01以下の範囲にある、請求項1または請求項2に記載のスポンジコバルト触媒組成物。
【請求項6】
前記スポンジコバルト触媒に吸着された前記オキソ酸に含まれるWとMoとのモル比率(Mo/W)が、1以上、10以下の範囲にある、請求項1または請求項2に記載のスポンジコバルト触媒組成物。
【請求項7】
前記スポンジコバルト触媒に含まれるコバルトの含有量が、30質量%以上、70質量%以下の範囲にある、請求項1または請求項2に記載のスポンジコバルト触媒組成物。
【請求項8】
前記スポンジコバルト触媒に含まれるアルミニウムの含有量が、30質量%以上、70質量%以下の範囲にある、請求項1または請求項2に記載のスポンジコバルト触媒組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポンジコバルト触媒組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジ金属触媒とは、ラネー(登録商標)金属触媒とも呼ばれており、スポンジ状形態の活性金属を主成分とする触媒の総称である。より詳しくは、久保松照夫、小松信一郎、「ラネー触媒」、共立出版(1971)に記載されている。スポンジ金属触媒は、触媒作用を有する金属(例えばニッケル、コバルト、銅、鉄、銀、およびパラジウム等)と、溶出金属(例えば、アルミニウム、珪素、亜鉛、およびマグネシウム等)との合金を作り、合金から溶出金属を溶出する(以下、「展開する」ともいう。)方法で得られる。スポンジ金属触媒は、このような製造方法に由来する微細な空孔を多く有しており、この特徴を生かして種々の触媒反応に利用されている。スポンジコバルト触媒は、スポンジ金属触媒の1種であって、水素化反応用の触媒として広く利用されている。例えば、ニトリルの水素化反応用として利用されている。
【0003】
特許文献1および2には、アジポニトリルを水素化してヘキサメチレンジアミンを合成する反応にスポンジコバルト触媒を用いることが開示されている。また、特許文献3および4には、フタロニトリルを水素化してキシリレンジアミンを合成する反応にスポンジコバルト触媒を用いることが開示されている。更に、特許文献5には、アミノアセトニトリルを水素化してエチレンジアミンを合成する反応にスポンジコバルト触媒を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-302595号公報
【文献】特表2002-529227号公報
【文献】特開昭54-41804号公報
【文献】特開2013-177346号公報
【文献】特表2010-520175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のスポンジコバルト触媒は、長期間使用するとその触媒活性が低下しやすいという課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、長期間使用しても触媒活性が高いスポンジコバルト触媒を含むスポンジコバルト触媒組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、以下のスポンジコバルト触媒組成物およびその製造方法が提供される。
[1]水、オキソ酸、スポンジコバルト触媒を含み、
前記オキソ酸はWまたはMoを含み、
前記オキソ酸の一部または全部が前記スポンジコバルト触媒に吸着された、
スポンジコバルト触媒組成物。
[2]Wを含む前記オキソ酸が、W換算で、前記スポンジコバルト触媒1kgに対して5mg以上、1200mg以下の範囲で前記スポンジコバルト触媒に吸着された、[1]に記載のスポンジコバルト触媒組成物。
[3]Moを含む前記オキソ酸が、Mo換算で、前記スポンジコバルト触媒1kgに対して5mg以上、1000mg以下の範囲で前記スポンジコバルト触媒に吸着された、[1]または[2]に記載のスポンジコバルト触媒組成物。
[4]前記オキソ酸が、WO4
2-、MoO4
2-、Mo7O24
6-、Mo8O26
4-から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載のスポンジコバルト触媒組成物。
[5]前記スポンジコバルト触媒に吸着されたオキソ酸に含まれるWと前記スポンジコバルト触媒に含まれるCoとのモル比率(W/Co)が、0.00001以上、0.0005以下の範囲にある、[1]~[4]のいずれかに記載のスポンジコバルト触媒組成物。
[6]前記スポンジコバルト触媒に吸着されたオキソ酸に含まれるMoと前記スポンジコバルト触媒に含まれるCoとのモル比率(Mo/Co)が、0.00001以上、0.01以下の範囲にある、[1]~[5]のいずれかに記載のスポンジコバルト触媒組成物。
[7]前記スポンジコバルト触媒に吸着された前記オキソ酸に含まれるWとMoとのモル比率(Mo/W)が、1以上、10以下の範囲にある、[1]~[6]のいずれかに記載のスポンジコバルト触媒組成物。
[8]前記スポンジコバルト触媒に含まれるコバルトの含有量が、30質量%以上、70質量%以下の範囲にある、[1]~[7]のいずれかに記載のスポンジコバルト触媒組成物。
[9]前記スポンジコバルト触媒に含まれるアルミニウムの含有量が、30質量%以上、70質量%以下の範囲にある、[1]~[8]のいずれかに記載のスポンジコバルト触媒組成物。
[10]ニトリルを水素化する反応に用いる、[1]~[9]のいずれかに記載のスポンジコバルト触媒組成物。
[11]コバルトおよびアルミニウムを含む合金を準備する合金調製工程、
前記合金から前記アルミニウムを除去してスポンジコバルト触媒を得る展開工程、
前記スポンジコバルト触媒を水に浸漬する浸漬工程、
WまたはMoを含むオキソ酸塩を前記水に添加して前記スポンジコバルト触媒に前記オキソ酸を吸着させる吸着工程、を含む
スポンジコバルト触媒組成物の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のスポンジコバルト触媒組成物のイメージ図である。
【
図2】実施例1~3(スポンジコバルト触媒に吸着されたW:88~534mg/kg-cat)および比較例1(Wなし)のスポンジコバルト触媒を用いた活性試験における、反応液に含まれるイソフタロニトリル割合と反応回数との関係を示すグラフである。
【
図3】実施例1~3(スポンジコバルト触媒に吸着されたW:88~534mg/kg-cat)および比較例1(Wなし)のスポンジコバルト触媒を用いた活性試験における、反応液に含まれるメタキシリレンジアミン割合と反応回数との関係を示すグラフである。
【
図4】実施例1(Wを含むオキソ酸が吸着)、実施例4(Moを含むオキソ酸が吸着)、実施例5(Wを含むオキソ酸およびMoを含むオキソ酸が吸着)および比較例1(オキソ酸が吸着していない)のスポンジコバルト触媒を用いた活性試験における、反応液に含まれるイソフタロニトリル割合と反応回数との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例1(Wを含むオキソ酸が吸着)、実施例4(Moを含むオキソ酸が吸着)、実施例5(Wを含むオキソ酸およびMoを含むオキソ酸が吸着)および比較例1(オキソ酸が吸着していない)のスポンジコバルト触媒を用いた活性試験における、反応液に含まれるメタキシリレンジアミン割合と反応回数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者は、前述の課題を解決するため、触媒反応が起こるスポンジコバルト触媒の表面状態について検討した。具体的には、スポンジコバルト触媒の表面にWまたはMoを含むオキソ酸を吸着させることで、長期間使用しても触媒活性が高くなることを見出した。
【0010】
本発明は、WまたはMoを含むオキソ酸が吸着されたスポンジコバルト触媒を含む、スポンジコバルト触媒組成物に関する。以下、本発明のスポンジコバルト触媒組成物(以下、「本発明の触媒組成物」ともいう。)について詳述する。
【0011】
[本発明の触媒組成物]
本発明の触媒組成物は、水、オキソ酸、スポンジコバルト触媒を含む。スポンジコバルト触媒が大気雰囲気に曝されるとその表面が劣化するので、本発明の触媒組成物に含まれるスポンジコバルト触媒は水中に存在している。この水中に存在するオキソ酸の一部または全部は、前記スポンジコバルト触媒の表面に吸着されている(
図1参照)。本発明の触媒組成物に含まれるスポンジコバルト触媒は、その表面がオキソ酸で改質され、長期間使用しても触媒活性が高くなるものと考えられる。
【0012】
前記オキソ酸は、W(タングステン)またはMo(モリブデン)を含む。Wを含むオキソ酸は、WO4
2-であることが好ましい。また、Moを含むオキソ酸は、MoO4
2-、Mo7O24
6-、Mo8O26
4-であることが好ましい。前記オキソ酸が表面に吸着したスポンジコバルト触媒は、長期間使用しても触媒活性が高い。また、Wを含むオキソ酸とMoを含むオキソ酸とを吸着したスポンジコバルト触媒は、長期間使用した際の触媒活性がより高い。
【0013】
前記オキソ酸の中でスポンジコバルト触媒の表面に吸着されたオキソ酸(「オキソ酸(吸着)」ともいう。)の好ましい含有量は、オキソ酸(吸着)がWを含む場合、Moを含む場合とで異なる。オキソ酸(吸着)がWを含む場合、その含有量は、W換算で、スポンジコバルト触媒1kgに対して5mg以上、1200mg以下であることが好ましく、10mg以上、300mg以下であることがより好ましく、20mg以上、200mg以下であることが特に好ましい。またオキソ酸(吸着)がMoを含む場合、前記含有量は、Mo換算で、スポンジコバルト触媒1kgに対して5mg以上、2000mg以下の範囲にあることが好ましく、50mg以上、1500mg以下の範囲にあることがより好ましく、100mg以上、1200mg以下の範囲にあることが特に好ましい。オキソ酸(吸着)の含有量が前述の範囲にあると、長期間使用した際のスポンジコバルト触媒の触媒活性が高くなりやすい。なお、この含有量は、本発明のスポンジコバルト触媒組成物に含まれるW、Moの全量から、水に含まれるW、Moの量を引いた値を使って算出される。
【0014】
オキソ酸(吸着)に含まれるWとスポンジコバルト触媒に含まれるCoとのモル比率(W/Co)は、0.00001以上、0.0005以下であることが好ましく、0.00002以上、0.0003以下であることがより好ましく、0.00003以上、0.0001以下であることが特に好ましい。また、オキソ酸(吸着)に含まれるMoとスポンジコバルト触媒に含まれるCoとのモル比率(Mo/Co)は、0.00001以上、0.01以下であることが好ましく、0.00005以上、0.005以下であることがより好ましく、0.0001以上、0.003以下であることが特に好ましい。このモル比率が前述の範囲にあると、スポンジコバルト触媒を長期間使用してもその触媒活性が高い。
【0015】
スポンジコバルト触媒の表面にWを含むオキソ酸とMoを含むオキソ酸とが吸着されている場合、そのモル比率(Mo/W)は、1以上、10以下が好ましく、1以上、7以下がより好ましく、1以上、5以下が特に好ましい。このモル比率が前述の範囲にあると、スポンジコバルト触媒を長期間使用してもその触媒活性が高い。
【0016】
前記スポンジコバルト触媒は、Co(コバルト)およびAl(アルミニウム)を含む合金からAlの一部が除去され、スポンジ状になっている。スポンジ状になることで、Coの金属表面が増加し、触媒活性も高くなる。
【0017】
前記スポンジコバルト触媒に含まれるCoの含有量は、30質量%以上、70質量%以下の範囲にあることが好ましく、40質量%以上、60質量%以下の範囲にあることがより好ましく、50質量%以上、60質量%以下の範囲にあることが特に好ましい。前記含有量が前述の範囲にあると、前記スポンジコバルト触媒の初期活性が高くなりやすい。
【0018】
前記スポンジコバルト触媒は、Alを含むことが好ましい。本発明の触媒のAl含有量は、30質量%以上、70質量%以下であることが好ましく、40質量%以上、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上、60質量%以下であることが特に好ましい。
【0019】
前記スポンジコバルト触媒は、粒状であることが好ましい。本発明においては、短径および長径が1mm未満の塊を粉と定義し、それ以外の塊を粒と定義する。前記スポンジコバルト触媒は、粒状であっても、粉状であっても発明の効果を発揮し、特に粒状の場合にその効果を発揮する。粒状のスポンジコバルト触媒は、粉状のスポンジコバルト触媒と比べてその外表面積が小さくなりやすく、長期間使用した際に触媒活性も低下しやすい。しかしながら、前記スポンジコバルト触媒は、その表面に前記オキソ酸が吸着されているので、長期間使用しても触媒活性が高い。また、粒状のスポンジコバルト触媒は、固定床用の触媒として用いることができ、触媒と生成物との分離が容易であることから、生産性に優れる。前記スポンジコバルト触媒は、粒の大きさ(粒度)が1mm以上、5mm以下の範囲にあることがより好ましい。粒の大きさは、篩の目開きで判断できるものとする。例えば、目開きが1mmの篩を使って本発明の触媒をふるったとき、篩上が1mm以上の大きさの粒、篩下が1mm未満の大きさの粉であると判断することができる。
【0020】
前記水は、スポンジコバルト触媒の表面を保護する役割と、オキソ酸をスポンジコバルト触媒に吸着させる媒体としての働きがある。したがって、前記水の含有量は、スポンジコバルト触媒の表面を覆う程度に含まれていればよい。例えば、
図1のように、スポンジコバルト触媒の全てが水に浸かっている状態が好ましい。したがって、スポンジコバルト触媒の量によって水の量は適宜調整される。
【0021】
前記水に含まれるオキソ酸の割合は、本発明の触媒組成物に含まれるオキソ酸の総量に対して、50%以下が好ましく、40%以下がより好ましい。本発明の触媒組成物に含まれるオキソ酸は、その全てがスポンジコバルト触媒に吸着するわけではなく、吸着平衡によってその一部が前記水に残留することがある。本発明の触媒組成物を使用する際には水とスポンジコバルト触媒とを分離するので、水にオキソ酸が含まれていたとしても、大きな影響はない。しかしながら、排水処理等で問題になることがあるので、前記割合は小さいほうが好ましい。
【0022】
前記水のpHは、8以上であることが好ましく、8.5以上であることがより好ましく、9以上であることが特に好ましい。pHがこの範囲にあると、スポンジコバルト触媒の表面が正電荷を帯びるので、負電荷のオキソ酸がより吸着されやすくなる。
【0023】
本発明の触媒組成物は、W、Mo、CoおよびAl以外に、アンモニウムイオン、またはアルカリイオンを含んでいてもよい。これらのイオンは、前記オキソ酸のカウンターカチオンとして含まれることがある。また、スポンジコバルト触媒を調製する際に使用したアルカリに由来するイオンとして含まれることもある。
【0024】
本発明の触媒組成物は、W、Mo、Co、Al、アンモニウムイオン、およびアルカリイオン以外の成分を10質量%以下の範囲で含んでいてもよい。例えば、C(カーボン)、Si(シリコン)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)等の混入しやすい元素や、ニッケル、モリブデン、ジルコニウム、銅、クロム、鉄およびマンガン等の助触媒として機能する元素を含んでいてもよい。具体的には、混入しやすい元素は、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。また、助触媒として機能する成分は、0.1質量%以上、10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上、5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上、3質量%以下であることが特に好ましい。
【0025】
本発明の触媒組成物は、コバルト触媒が使用される分野の用途であれば、幅広い分野で使用することができる。例えば、水素化反応用の触媒として使用することができる。水素化反応には、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、ベンゼン核、ピリジン、カルボニル基、ニトロ基、ニトリル、脂肪酸およびエステル等の反応が知られている。本発明の触媒は、ニトリルの水素化反応の触媒として好適に使用できる。これらの用途で本発明の本発明の触媒組成物を使用する場合、水を除去してスポンジコバルト触媒を取り出す。このときスポンジコバルト触媒の表面に吸着された前記オキソ酸は、水に含まれるカウンターカチオンと塩を形成するものと考えられる。例えば、Wを含むオキソ酸がスポンジコバルト触媒に吸着していて、ナトリウムイオンがカウンターカチオンとして存在している場合、スポンジコバルト触媒の表面でNa2WO4が形成されているものと考えられる。
【0026】
[本発明の触媒組成物の製造方法]
本発明の触媒組成物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)は、CoおよびAlを含む合金を準備する合金調製工程、前記合金から前記Alを除去してスポンジコバルト触媒を得る展開工程、前記スポンジコバルト触媒を水に浸漬する浸漬工程、WまたはMoを含むオキソ酸塩を前記水に添加して前記スポンジコバルト触媒に前記オキソ酸を吸着させる吸着工程、を含む。以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0027】
[合金調製工程]
前記合金は、従来公知の方法で調製することができる。例えば、金属Coおよび金属Alを混合し、溶融する方法で調製することができる。前記合金に含まれるCoの含有量は、20質量%以上、70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上、60質量%以下であることがより好ましい。また、前記合金に含まれるAlの含有量は、30質量%以上、80質量%以下であることが好ましく、40質量%以上、70質量%以下であることがより好ましい。本発明の製造方法において、前記合金に含まれるAlの一部は後述の展開工程で除去され、Alが存在していた場所が空洞になり、スポンジ状のコバルト合金が形成される。したがって、前記合金に含まれるAlが多いほど空洞が増えやすくなるものの、強度は低下しやすくなる。したがって、前記合金のCoの含有量およびAlの含有量は、前述の範囲にあることが好ましい。
【0028】
前記合金調製工程は、前記合金の粒度を調整する粒度調整工程を含むことが好ましい。具体的には、前記合金を粉砕し、粒の大きさを1mm以上、5mm以下に調整することが好ましい。このように、前記合金の粒度を調整すると、後述の展開工程でAlが除去されやすくなり、生産効率が高くなる。
【0029】
[展開工程]
前記合金からAlを除去する方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、前記合金をアルカリ溶液で処理する方法を用いることができる。アルカリ溶液を用いる場合、アルカリの種類は特に限定されず、アルカリ水酸化物、アルカリ炭酸塩といった従来公知のアルカリを用いることができる。より具体的には、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウムを用いることが好ましい。また、アルカリ溶液のアルカリ量は、前記合金中のAl含有量に対して、モル比で0.01倍以上、3倍以下であることが好ましい。アルカリ溶液のアルカリ量が前述の範囲にあると、効率的に前記合金中のAlを除去することができる。また、Alの除去が不十分である場合は、処理回数を増やす等によって、目標とするレベルまでAlを除去すればよい。更に、前記合金にAlを残留させる場合は、アルカリ溶液のアルカリ量が、前記合金中のAl量に対して、0.1以上、1倍以下であることが好ましい。
【0030】
前記展開工程において、展開温度は、10℃以上、100℃未満であることが好ましく、20℃以上、90℃以下であることがより好ましい。展開温度が高くなるとAlは溶出しやすくなる。しかし、急激にAlが溶出すると展開後のスポンジコバルト触媒が崩壊しやすくなるので、Alの除去具合によって適宜調整すればよい。また、展開時間についてもAlの除去具合によって適宜調整すればよく、処理量にもよるが、0.5時間以上、12時間以下であれば問題なくAlを除去できる。
【0031】
[浸漬工程]
前記展開工程において得られたスポンジコバルト触媒を水に浸漬することで、スポンジコバルト触媒の表面が保護される。また、水はオキソ酸をスポンジコバルト触媒の表面に吸着させる媒体ともなる。
【0032】
前記浸漬工程は、スポンジコバルト触媒を洗浄する洗浄工程を含んでいてもよい。例えば、スポンジコバルト触媒に水を流通させて洗浄した後で、水に浸漬してもよい。スポンジコバルト触媒を洗浄する際の水の温度は、20℃以上、60℃以下であることが好ましく、30℃以上、50℃以下であることがより好ましい。このような温度の水で洗浄することで、スポンジコバルト触媒に含まれる可溶性の不純物が除去されやすくなる。
【0033】
前記浸漬工程は、pH調整工程を含むことが好ましい。pHを8以上、好ましくは8.5以上、特に好ましくは9以上に調整することで、後述の吸着工程においてスポンジコバルト触媒の表面にオキソ酸がより吸着しやすくなる。pHを調整する方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性化合物を添加することで、pHを調整することができる。
【0034】
[吸着工程]
WまたはMoを含むオキソ酸塩を前記水に添加して前記スポンジコバルト触媒に前記オキソ酸を吸着させる方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、Na2WO4、K2WO4、Na2MoO4、Mo7O24(NH4)6等のオキソ酸塩を前記水に添加するとよい。このとき、前記オキソ酸を含む水溶液の温度は、10℃以上、100℃以下であることが好ましく、10℃以上、50℃以下であることがより好ましい。また、これらの処理を行う時間は、処理量にもよるが、1時間以上、24時間以下であれば問題なく前記オキソ酸をスポンジコバルト触媒の表面に吸着できる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[測定方法ないし評価方法]
各種測定ないし評価は以下のように行った。
【0036】
[1]組成分析
測定試料をビーカーに採取し、塩酸と硝酸とを加えて加熱した後、水を加えて溶解させた。さらに、これを水で希釈した後、ICP装置(アジレントテクノロジー株式会社製、730ICP-OES、誘導結合プラズマ発光分光分析法)を用いてCo、Al、WおよびMoの含有量を測定した。なお、スポンジコバルト触媒に吸着されたWまたはMoを含むオキソ酸の量は、触媒組成物に含まれるオキソ酸の全量から、水に含まれるオキソ酸の量を引いて算出した。
【0037】
[2]活性試験
特開昭54-41804号公報の実施例に記載された方法を参考に、ニトリルの水素化活性試験を行った。具体的には、330mLオートクレーブにイソフタロニトリル8g、メタノール24mL、トルエン96mL、測定試料(スポンジコバルト触媒)3gおよび水酸化ナトリウム水溶液(50質量%)1gを仕込み、水素圧8MPa、反応温度70℃、撹拌数900rpmで6時間反応させた。反応後、測定試料を除去し、反応液をガスクロマトグラフィーで分析した。得られたチャートから、イソフタロニトリルとメタキシリレンジアミンのピークを分離し、チャートに含まれるすべてのピークエリアに対する各成分の比率を求めた。
【0038】
[実施例1]
コバルト40質量%、アルミニウム60質量%の組成からなるCoAl合金粒(大きさ:1mm以上、5mm以下)を水酸化ナトリウムで展開・洗浄し、スポンジコバルト触媒を得た。展開後のスポンジコバルト触媒を水に浸漬した後、25℃でpHを測定したところ、10であった。その後、スポンジコバルト触媒の重量(水中重量)に対して150ppmのNa
2WO
4を含む水溶液(Na
2WO
4・2H
2O:和光純薬社製、試薬特級)を常温で添加した(ここで、150ppmのNa
2WO
4を含む水溶液とは、Na
2WO
4に由来するWを150ppm含む水溶液を指すものである。これをスポンジコバルト触媒1kgに対するNa
2WO
4の添加量に換算すると、240mgに相当する)。その後、12時間以上放置した後、スポンジコバルト触媒組成物を得た。得られたスポンジコバルト組成物の仕込み組成、組成分析等により得られた性状を表1に示す。また、この触媒組成物から分離されたスポンジコバルト触媒について、活性試験を行った。その結果を表1に示す。更に、活性試験の結果を
図2、
図3、
図4および
図5に示す。
【0039】
[実施例2]
スポンジコバルト触媒1kgに対するNa
2WO
4の添加量を150mgとしたこと以外は、実施例1と同様の方法でスポンジコバルト触媒組成物を得た。得られたスポンジコバルト組成物の仕込み組成、組成分析等により得られた性状を表1に示す。また、この触媒組成物から分離されたスポンジコバルト触媒について、活性試験を行った。その結果を表1に示す。更に、活性試験の結果を
図2および
図3に示す。
【0040】
[実施例3]
スポンジコバルト触媒1kgに対するNa
2WO
4の添加量を1600mgとしたこと以外は、実施例1と同様の方法でスポンジコバルト触媒組成物を得た。得られたスポンジコバルト組成物の仕込み組成、組成分析等により得られた性状を表1に示す。また、この触媒組成物から分離されたスポンジコバルト触媒について、活性試験を行った。その結果を表1に示す。更に、活性試験の結果を
図2および
図3に示す。
【0041】
[実施例4]
Na
2WO
4をMo
7O
24(NH
4)
6(和光純薬社製、試薬特級)に変更したこと、スポンジコバルト触媒1kgに対する、Mo
7O
24(NH
4)
6の添加量を240mgとしたこと以外は、実施例1と同様の方法でスポンジコバルト触媒組成物を得た。得られたスポンジコバルト組成物の仕込み組成、組成分析等により得られた性状を表1に示す。また、この触媒組成物から分離されたスポンジコバルト触媒について、活性試験を行った。その結果を表1に示す。更に、活性試験の結果を
図4および
図5に示す。
【0042】
[実施例5]
Na
2WO
4およびMo
7O
24(NH
4)
6を添加したこと、スポンジコバルト触媒1kgに対する添加量をそれぞれ240mgとしたことしたこと以外は、実施例1と同様の方法でスポンジコバルト触媒組成物を得た。得られたスポンジコバルト組成物の仕込み組成、組成分析等により得られた性状を表1に示す。また、この触媒組成物から分離されたスポンジコバルト触媒について、活性試験を行った。その結果を表1に示す。更に、活性試験の結果を
図4および
図5に示す。
【0043】
[実施例6]
Na2WO4をK2WO4(和光純薬社製、試薬)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でスポンジコバルト触媒組成物を得た。得られたスポンジコバルト組成物の仕込み組成、組成分析等により得られた性状を表1に示す。また、この触媒組成物から分離されたスポンジコバルト触媒について、活性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
[実施例7]
スポンジコバルト触媒1kgに対する、Mo7O24(NH4)6の添加量を1000mgとしたこと以外は、実施例4と同様の方法でスポンジコバルト触媒組成物を得た。得られたスポンジコバルト組成物の仕込み組成、組成分析等により得られた性状を表1に示す。また、この触媒組成物から分離されたスポンジコバルト触媒について、活性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
Na
2WO
4を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でスポンジコバルト触媒組成物を得た。得られたスポンジコバルト組成物の仕込み組成、組成分析等により得られた性状を表1に示す。また、この触媒組成物から分離されたスポンジコバルト触媒について、活性試験を行った。その結果を表1に示す。更に、活性試験の結果を
図2、
図3、
図4および
図5に示す。
【0046】
【0047】
図2の結果から、WO
4が吸着した実施例1のスポンジコバルト触媒は、WO
4が吸着していない比較例1のスポンジコバルト触媒と比較して、反応液中のイソフタロニトリルの割合が少ない。反応液中に含まれるイソフタロニトリルは反応せずに残留したものであって、反応液中に含まれるイソフタロニトリルが少ないほど、反応したイソフタロニトリルが多いことを表しており、つまり触媒活性が高いことを示している。したがって、実施例1のスポンジコバルト触媒は、比較例1のスポンジコバルト触媒と比較して触媒活性が高いと考えられる。更に、これを継続して使用することでその差はより顕著になり、5回反応後のイソフタロニトリル割合でみると、比較例1のイソフタロニトリル割合が約6%であるのに対し、実施例1のイソフタロニトリル割合は約1%である。
【0048】
図2の結果に加え、
図3の結果に示される通り、イソフタロニトリルを水素化して得られるメタキシリレンジアミンの割合でみても、実施例1のスポンジコバルト触媒を用いたほうが、比較例1のスポンジコバルト触媒を用いた場合と比較してメタキシリレンジアミンの生成量が多いことが分かる。
【0049】
図4および
図5の結果から、Mo
7O
24が吸着した実施例4のスポンジコバルト触媒は、Mo
7O
24が吸着していない比較例1のスポンジコバルト触媒と比較して、5回反応後の触媒活性が高くなっており、WO
4が吸着した実施例1のスポンジコバルト触媒と同じように、Mo
7O
24が吸着したスポンジコバルト触媒は長期間使用しても触媒活性が高いことが分かる。更に、WO
4およびMo
7O
24が吸着した実施例5のスポンジコバルト触媒は、WO
4が吸着した実施例1のスポンジコバルト触媒およびMo
7O
24が吸着した実施例4のスポンジコバルト触媒と比較して、5回反応後の触媒活性が高い。
【要約】
【課題】長期間使用しても触媒活性が高いスポンジコバルト触媒を提供すること。
【解決手段】水、オキソ酸、スポンジコバルト触媒を含み、前記オキソ酸はWまたはMoを含み、前記オキソ酸の一部または全部が前記スポンジコバルト触媒に吸着された、スポンジコバルト触媒組成物。
【選択図】なし