(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】コンクリート構造物用水分センサおよび水分量検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/22 20060101AFI20230525BHJP
G01N 27/02 20060101ALI20230525BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
G01N27/22 C
G01N27/02 B
G01N33/38
(21)【出願番号】P 2019141386
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391023518
【氏名又は名称】一般社団法人日本建設機械施工協会
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】工藤 正智
(72)【発明者】
【氏名】江里口 玲
(72)【発明者】
【氏名】中崎 豪士
(72)【発明者】
【氏名】梅津 基宏
(72)【発明者】
【氏名】小野 秀一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 晋也
(72)【発明者】
【氏名】久保 善司
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-180298(JP,A)
【文献】特開2009-168575(JP,A)
【文献】特開平05-010911(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0126433(US,A1)
【文献】特開平11-142361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の表面または内部に設置し、前記コンクリートの水分量を検出する水分検出方法であって、
柱状に形成された誘電体と、前記誘電体の対向する表面に設けられ、耐腐食性の材料で形成された一対以上の電極と、前記各電極に電気的に接続された通電部と、を備える水分センサを前記コンクリートの表面または内部に設置し、
前記水分センサに交流電界を印加し、
前記水分センサの電気特性値の変化とコンクリートの水分量との相関性に基づいて、前記コンクリートの水分量を検出し、
前記水分センサから得られた、前記交流電界の各周波数に対する静電容量値または比誘電率の値の傾きと水分量との相関性から水分量を検出することを特徴とする水分検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の表面および内部の水分量を検出する水分センサおよび水分量検出方法に関する。
【0002】
従来から、コンクリート中の水分は、セメントの水和反応、コンクリートの収縮とクリープの進行などの特性を決定づける重要な役割をもつ。また、外部から侵入する水分は内部鉄筋の腐食因子となることや、塩化物イオンの浸透を促進するため、コンクリート中の水分の分布や状態を把握することはコンクリートの耐久性を決定づける重要な情報である。また、コンクリート構造物の含水状態は、強度発現や乾燥収縮などへ関与し、仕上げ工事や防水工事の作業性およびその品質にも大きく影響を与えている。仕上げ工事では、高い含水状態で仕上げ材を施すと、十分な接着強度が得られず、ふくれ、剥離、ひび割れなどが発生する場合がある。このようなことから、コンクリート中の水分量を把握することは重要である。
【0003】
コンクリート中の含水状態を把握する方法として、例えば、特許文献1では、コンクリートの含水率と電気抵抗値との関係に基づいて電気抵抗の測定値からコンクリートの含水率を予測する方法(電気抵抗式)に関するが開示されている。また、特許文献2では、コンクリートの水分量と静電容量との関係に基づいて静電容量の測定値からコンクリートの水分量を予測する方法(静電容量式)に関する技術が開示されている。また、その他のコンクリート中の含水状態を把握する方法として、コンクリートに設けた小孔内部の湿度を測定する方法、コンクリート表面に不透湿シートを貼り付けて湿度を測定する方法、コンクリート表面に変色紙を貼り付けて水分量及び湿度を測定する方法、などが用いられている。そして、コンクリートの水分量の測定において、測定条件にバラツキのある建築物の工事現場等では、時間をかけずに簡便な方法を用いることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭62-087841号公報
【文献】特開2013-250215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の方法は、簡便な作業で迅速にコンクリートの水分量を測定できるため、床工事等の工事現場で広く用いられているが、コンクリート表面に電極を埋め込む、またはコンクリート表面に電極を押し当てて、コンクリートの水分量を測定するため、コンクリート表面部のみのデータとなり、表面から数cm以上深いところは正確には測定できない(
図13(a)(b))。また、特許文献1記載の方法では、電極埋め込み式の場合、測定物を傷め、接触式では表面状態の影響を大きく受けるため、正確な水分量が測定できない(
図13(a))。また、特許文献2記載の方法では、静電容量は測定物の厚さ、比重に依存するため、別途、比重や厚みを把握する必要がある(
図13(b))。接触式の場合、大量に測定する際、センサ部に汚れが付着することがあり、信頼性に劣る。また、コンクリートに設けた小孔内部の湿度を測定する方法、コンクリート表面に不透湿シートを貼り付けて湿度を測定する方法、コンクリート表面に変色紙を貼り付けて水分量及び湿度を測定する方法では、測定に時間を要するため、迅速に測定を行うことができない。
【0006】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、コンクリート構造物を破壊することなく、簡便にコンクリートの表面または内部の水分量を把握するコンクリート構造物用水分センサおよび水分用検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の水分センサは、コンクリートの水分量を検出する水分センサであって、柱状に形成された誘電体と、前記誘電体の対向する表面に設けられ、耐腐食性の材料で形成された一対以上の電極と、前記各電極に電気的に接続された通電部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
これにより、コンクリート構造物に設置された水分センサの電気特性値の変化をモニタリングすることができ、コンクリート構造物の表面または内部の水分量を、簡便、かつ高精度で測定することが可能となる。また、水分センサを、コンクリート構造物の任意の場所に設置することができるため、コンクリート構造物の表面だけでなく、コンクリート構造物の深部でも測定が可能となり、コンクリート構造物の水分量の分布を把握することが可能となる。
【0009】
(2)また、本発明の水分センサにおいて、前記誘電体は、セメント硬化体またはセラミックスであることを特徴とする。これにより、測定対象となるコンクリート構造物と同等の吸水性を有することとなり、高精度で水分量を測定することが可能となる。
【0010】
(3)また、本発明の水分センサにおいて、前記誘電体は、中空の円筒状に形成され、前記電極は、前記中空の円筒状に形成された誘電体の外周面および内周面に設けられたことを特徴とする。これにより、正確に電気特性値を測定することが可能となる。また、交流電圧を、電極間において一部に偏ることなく、均等に印加することが可能となる。さらに、誘電体内へ浸透する水分の均一性が担保される。
【0011】
(4)また、本発明の水分検出方法は、コンクリート構造物の表面または内部に設置され、前記コンクリートの水分量を検出する水分検出方法であって、(1)から(3)のいずれかに記載の水分センサを前記コンクリートの表面または内部に設置し、前記水分センサに交流電界を印加し、前記水分センサの電気特性値の変化とコンクリートの水分量との相関性に基づいて、前記コンクリートの水分量を検出することを特徴とする。
【0012】
これにより、コンクリート構造物に設置された水分センサの電気特性値の変化をモニタリングすることができ、コンクリート構造物の表面または内部の水分量を、簡便かつ高精度で測定することが可能となる。また、水分センサを、コンクリート構造物内の任意の場所に設置することができるため、コンクリート構造物の表面だけでなく、コンクリート構造物の深部でも測定が可能となり、コンクリート構造物の水分量の分布を把握することが可能となる。
【0013】
(5)また、本発明の水分検出方法は、前記水分センサから得られた、前記交流電界の任意の周波数における静電容量値または比誘電率の値と水分量との関係に基づいて、前記コンクリートの水分量を検出することを特徴とする。これにより、交流電界の任意の周波数における静電容量値または比誘電率の値からコンクリート構造物の水分量を検出することが可能となる。
【0014】
(6)また、本発明の水分検出方法は、前記水分センサから得られ、前記交流電界の各周波数に対する静電容量値または比誘電率の値の傾きと水分量との相関性から水分量を検出することを特徴とする。このように、広範囲の周波数領域に対する静電容量値または比誘電率の値の測定データから傾きとの相関関係を導き出すため、周波数一定の下、測定するよりも高精度で水分量を測定することが可能となる。
【0015】
(7)また、本発明の水分検出方法は、前記水分センサから得られた、前記交流電界の任意の周波数におけるインピーダンスの値と水分量との関係に基づいて、前記コンクリートの水分量を検出することを特徴とする。これにより、交流電界の任意の周波数におけるインピーダンスの値からコンクリート構造物の水分量を検出することが可能となる。
【0016】
(8)また、本発明の水分検出方法は、前記水分センサから得られた、前記交流電界の任意の周波数における誘電正接値と水分量との関係に基づいて、前記コンクリートの水分量を検出することを特徴とする。これにより、交流電界の任意の周波数における誘電正接値からコンクリート構造物の水分量を検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、コンクリート構造物内の電気特性値の変化をモニタリングすることができ、コンクリート構造物内の水分量を、簡便、かつ高精度で測定することが可能となる。また、水分センサを、コンクリート構造物の任意の場所に設置することができるため、コンクリート構造物の表面だけでなく、深部でも測定が可能となり、コンクリート構造物の水分量の分布を把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る水分センサの概略構成を示す図である。
【
図3】誘電体内への水分の浸透の様子を示す図である。
【
図4】本実施例で使用する水分センサの概要を示す図である。
【
図5】周波数1kHzにおける水分センサの含水率と静電容量の関係を示すグラフである。
【
図6】周波数1kHzにおける水分センサの含水率と比誘電率の関係を示すグラフである。
【
図7】周波数1kHzにおける水分センサの各含水率とインピーダンスの関係を示すグラフである。
【
図8】周波数1kHzにおける水分センサの含水率と誘電正接の関係を示すグラフである。
【
図9】各含水率における周波数と静電容量の関係を示すグラフである。
【
図10】各含水率における周波数と比誘電率の関係を示すグラフである。
【
図11】水分センサの各含水率における周波数と静電容量または比誘電率の関係から算出した傾き係数aと水分量の関係を示すグラフである。
【
図12】本実施例にかかる水分センサをコンクリート試験体に設置した状態を示す概要図である。
【
図13】従来の水分センサによる水分量測定の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、コンクリート構造物の表面または内部の水分量の把握が重要であることに着目し、コンクリート構造物の表面または内部に水分センサを設置し、水分センサの含水率に応じた電気特性値を測定することで、コンクリートの表面または内部の水分量を把握できることを見出し、本発明をするに至った。本実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
[水分センサの構成]
図1は、本実施形態に係る水分センサ100の概略構成を示す図である。水分センサ100は、柱状に形成された誘電体3と、誘電体3の対向する表面に設けられ、耐腐食性の材料で形成された一対以上の電極5と、各電極5に接続され通電部を構成するリード線7と、を備え、誘電体の含水率に応じて変化する静電容量、インピーダンス、誘電正接等の電気特性値を検出する。リード線7は、半田で電極5に接着されている。リード線7を計測器9に接続し、交流電界を印加することにより、誘電体3の電気特性値を検出する。
【0021】
図2(a)~(d)は、誘電体の形状の例を示す図である。
図2(a)~(d)に示すように、誘電体は、直方体、多角形を底面とする柱体である角柱、円柱、またはリング状の形状を有する。
【0022】
誘電体3の電極間距離の厚さは、3mm以上50mm以下が好ましい。電極間距離が3mmより短いと、短絡する可能性があり、50mmより長いと、含水のむらが測定精度に影響を与える可能性がある。また、誘電体3のコンクリート接触面間の厚さは、3mm以上50mm以下が好ましい。コンクリート接触面間の厚さが、3mmより短いと、強度が弱く破損する可能性があり、50mmより長いと、水の浸透に時間が掛かり、応答性が低下する可能性がある。
【0023】
誘電体3に用いる材料は、含水するものであればよく、測定対象となるコンクリート構造物と同等の吸水性を有する材料を用いることが好ましい。例えば、セメント硬化体(セメントペースト、モルタル、コンクリート)、セラミックス等が良い。また、一部樹脂を含浸したセメント硬化体を用いても良い。
【0024】
また、セメント種は、普通ポルトランドセメント、早強セメントなど、何でも良いが、水和反応の観点から、早強セメントを用いることが好ましい。セメント硬化体の材齢は、水和反応がほぼ完了する28日以上が好ましい。
【0025】
誘電体3に、セメントペーストを用いた場合は、水/セメント比は、コンクリート構造物と同等の吸水性を有する配合が好ましい。
【0026】
誘電体3に、モルタルを用いた場合は、コンクリート構造物と同等の吸水性を有する配合が好ましく、具体的には、水/セメント比(W/C)は15~70%、セメントと細骨材の比率は、セメント1に対し、細骨材2~3が好ましい。水/セメント比が15%より小さい場合は、モルタル内の気孔量が少なくなり過ぎること、70%より大きい場合は、吸水量が増大することから、水分量がコンクリート構造物と近似しなくなる。細骨材の比率が、セメント比2より小さい場合は、モルタル内の気孔量が少なくなり過ぎること、セメント比3より大きい場合は、細骨材の吸水の影響を受けやすくなることから、水分量がコンクリート構造物と近似しなくなるためである。また、細骨材は、細骨材の吸水の影響を受けやすくするため、細骨材の物性が、吸水率3.0%以下、比表面積400cm2/g以下が好ましい。細骨材として、例えば、緻密な人工砂が良い。
【0027】
誘電体3に、コンクリートを用いた場合は、測定対象となるコンクリート構造物と同等の吸水性を有する配合が好ましい。
【0028】
誘電体3にセメント硬化体やセラミックスを使用することにより、コンクリートとの密着性を高めることができ、コンクリートの強度や耐久性に影響を与えにくい。
【0029】
このように、誘電体3のセメント硬化体の配合を制御することで、水分センサ100とコンクリート構造物内部の水分量との整合性を高めることができる。つまり、誘電体3に用いるセメント硬化体の吸水率を、測定対象となるコンクリート構造物と同等とすることで、コンクリートの水分量を適切に把握できる。
【0030】
電極は、誘電体の形状が直方体、多角形を底面とする柱体である角柱、円柱などの場合は、誘電体の対向する面(円柱の場合は上面、底面)に平行平板電極を形成する。平行平板電極の場合、対向する一対の電極は同一の形状、大きさであることが好ましい。また、なお、測定精度の観点から、電極間の距離は、一定が好ましい。
【0031】
また、誘電体の形状がリング状である場合は、リング状の上面と底面に電極を設け、平行平板電極を形成しても良いが、リング状の同軸上に存在する内円および外円に電極を設け、同心円筒電極を形成しても良い。リング状とは真円でなく楕円でも良い。リング状の場合、中心の空間は、他の材料で埋められても良いし、空洞でも良い。
【0032】
図3(a)(b)は、誘電体内への水分の浸透の様子を示す図である。
図3(b)に示すように、平行平板状の電極の場合は、側面が解放されるため、水分の浸透が不均一となる場合がある。一方、
図3(a)に示すように、誘電体の形状をリング状にし、曲面に電極を形成した構造では、誘電体側面が閉塞されており、誘電体内へ浸透する水分の均一性が担保されるため、最も好ましい。なお、水分センサの誘電体の露出部の一部の面が樹脂などで被覆されていても良い。
【0033】
電極は、耐腐食性が高い性能を有する金属やカーボン等の導電体で形成されることが好ましい。また、電極材料は、コンクリートやモルタルと熱膨張率が近いことが好ましい。例えば、金または白金、パラジウム等に代表される貴金属をはじめ、SUS304、SUS316、SUS430等のステンレス鋼材が好ましい。
【0034】
[水分センサの設置方法]
水分センサを測定対象コンクリート構造物の表面または内部に設置する。設置する際に、電極に接続されたリード線は、測定対象コンクリート構造物の側面から外部へ出しておく。リード線をLCRメーター等の測定器に接続する。また、水分センサは、コンクリート構造物の表面にボルトで固定するなどして、設置しても良い。
【0035】
[水分量の算出]
本実施形態に係る水分センサは、交流電圧下、周波数一定下において、誘電体の静電容量(C)、比誘電率(εr)、インピーダンス(Z)、誘電正接(tanδ)と水分量との相関性から、測定対象となるコンクリート構造物のコンクリートの水分量を検出する。
【0036】
比誘電率(εr)は、静電容量(C)と電極形状に以下(式1)から(式3)の関係式があることから、計算にて算出することができる。
εr=ε/ε0 ・・・(式1)
εr:誘電体の比誘電率
ε:誘電体の誘電率(F/m)
ε0:真空の誘電率,約8.854×10-12(F/m)
【0037】
(電極形状が平行平板状電極の場合)
C=ε×S/d ・・・(式2)
C:誘電体の静電容量(F)
S:電極面積(m2)
d:電極間距離(m)
⇒εr=C×d/(S×ε0)
【0038】
(電極形状が同軸円筒状電極の場合)
C=2π×ε×L/log(d2/d1) ・・・(式3)
ε:誘電体の誘電率(F/m)
L:長さ(m)
d1:内径半径(m)
d2:外形半径(m)
⇒εr=C×log(d2/d1)/(2π×L×ε0)
【0039】
また、10Hz~100MHzの周波数領域において、誘電体の静電容量(C)を測定し、周波数(対数)に対する各測定値(対数)の傾きとの相関から、対象となるコンクリート構造物の水分量を検出する。同様に、比誘電率(εr)についても、上述の関係式から、周波数(対数)に対する各測定値(対数)の傾きとの相関から、対象となるコンクリート構造物の水分量を検出することもできる。
【0040】
後者の検出方法については、広範な周波数に対する測定データから傾きを導くため、周波数一定下で測定するよりも、測定精度が高まる。
【0041】
[実施例]
図4は、本実施例で使用する水分センサの概要を示す図である。本実施例では、
図4に示す水分センサを用いて、実際に、コンクリート試験体内部の水分量の測定を行った。
【0042】
(1)水分センサの作製
材質SUS304、厚さ2.0mm、幅10mmの金属板を用いて、外径32mmのリング形状の外側電極を作製し、同じ材質で、厚さ1.0mm、幅10mmの外径8.2mmのリング形状の内側電極を作製し、内側電極を外側電極の中央に配置する。次に、2つの電極間に形成された空間に、モルタルを充填し、誘電体を形成した。
【0043】
モルタルは、セメント:細骨材=1:3とし、セメントは普通ポルトランドセメント、細骨材は比表面積300cm2/gの人工砂を用いた。W/Cは、55%とし、材齢期間は、28日間とした。リング状に形成された水分センサの外側と内側の電極に、リード線を半田で接着した。
【0044】
(2)水分センサの含水率と電気特性値の相関性
水分センサの含水率と電気特性値の相関性について説明する。まず、水分センサの含水率と電気的特性との相関データを採取した。
【0045】
(i)水分センサを絶乾状態とし、絶乾状態となった水分センサの総重量から電極の重量を差し引いた重量を初期重量(W0)とした。次に、水分センサを真空環境下で浸水し、誘電体内部を飽和含水状態とした。そして、温度20℃、湿度80%の環境下で24時間放置し、含水量1(W1)を測定した。さらに、同一環境下で12時間放置し、含水量2(W2)を測定し、W1=W2であることを確認し、平衡状態であることを確認した。
【0046】
(ii)次に、含有量2(W2)/初期重量(W0)×100により、誘電体内の含水率(A80)を算出した。この水分センサについて、リード線に接続されたLCRメーターを用いて、周波数1kHzにおいて、水分センサの静電容量(C)、インピーダンス(Z)および誘電正接(tanδ)を測定した。また、静電容量については、周波数100Hz、100kHzについても測定を行った。なお、比誘電率(εr)については、上述の関係式から計算により算出した。
【0047】
湿度80%と同様に、温度一定(20℃)で湿度40%、60%の環境においても、(i)および(ii)の作業を繰り返し行った。この結果、湿度40%、60%、80%環境下における水分センサの含水率(A40、A60、A80)は、それぞれ、2.0wt%、4.6wt%、6.2wt%であった。
【0048】
周波数1kHzにおいて、静電容量、比誘電率、インピーダンス、誘電正接の各値について、水分センサの含水率との相関を算出した。
図5は、周波数1kHzにおける水分センサの含水率と静電容量の関係を示すグラフである。
図6は、周波数1kHzにおける水分センサの含水率と比誘電率の関係を示すグラフである。
図7は、周波数1kHzにおける水分センサの含水率とインピーダンスの関係を示すグラフである。
図8は、周波数1kHzにおける水分センサの含水率と誘電正接の関係を示すグラフである。
【0049】
また、静電容量および比誘電率については、各含水率における周波数との相関を算出した。
図9は、各含水率における周波数と静電容量の関係を示すグラフである。
図10は、各含水率における周波数と比誘電率の関係を示すグラフである。なお、比誘電率については、上述の関係式(式1)~(式3)から計算により算出した。
【0050】
次に、100Hz~100kHzの周波数領域において、各含水率におけるプロットの傾きを算出し、傾き係数aとした。なお、静電容量と比誘電率の傾き係数aは同値である。
図11は、水分センサの各含水率における周波数と静電容量または比誘電率の関係から算出した傾き係数aと水分量の関係を示すグラフである。これにより、測定対象となるコンクリート試験体に埋設された水分センサにて測定して得られたデータから算出した周波数と静電容量または比誘電率の関係から算出した傾きXから、水分量(W)を、以下の式(式4)で算出することができる。
【0051】
W=Xa ・・・(式4)
W:水分量
a:事前に水分センサの各含水率における周波数と静電容量または比誘電率の関係から算出した傾き係数
X:測定対象となるコンクリート試験体に埋設された水分センサにて測定して得られたデータから算出した周波数と静電容量または比誘電率の関係から算出した傾き
【0052】
(3)水分センサのコンクリート試験体への埋設
リング状に形成された水分センサの外側と内側の電極に、リード線を半田で接着した。水分センサは、φ50×20mmの型枠の中央に配置し、リード線を型枠の上面から出した状態とし、本型枠を用いて、水分センサが埋設されたコンクリート試験体を作製した。
【0053】
上記のコンクリート試験体を絶乾状態とした総重量を測定し、これより水分センサおよびリード線の重量を差し引いた重量を初期重量(W0´)とした。次に、温度20℃、湿度90%の環境下で48時間放置した後、コンクリート試験体の総重量を測定し、水分センサおよびリード線の重量を差し引いた重量を含水時の重量(W1´)とする。計算式(W0´-W1´)/W1´×100にて算出した数値をコンクリート試験体の真の含水量とした。実測の結果、コンクリート試験体の真の含水量は5.4%であった。
【0054】
(4)電気特性値の測定
図12は、本実施例にかかる水分センサをコンクリート試験体に埋設した状態を示す概要図である。コンクリート試験体の上面のリード線をLCRメーター(キーサイト社製:型式U1733C)に接続し、周波数1kHzにおいて、静置後の水分センサの静電容量、インピーダンスおよび誘電正接を測定した。また、静電容量については、周波数100Hz、100kHzについても測定を行い、周波数と静電容量の関係から傾きを算出した。なお、比誘電率については、上述の関係式から計算により算出した。
【0055】
(5)水分量の算出
次に、事前に評価した水分センサ内部の含水率と静電容量、比誘電率、インピーダンスおよび誘電正接との関係から水分量を算出した。表1に測定結果を示す。
【0056】
【0057】
コンクリート試験体の真の含水量とコンクリート試験体に埋設した水分センサから算出した水分量は、近似した値を示した。特に、静電容量または比誘電率の傾き係数から算出した水分量は、非常に近い値を示した。一方、従来からある既存の水分センサを用いて、本実施例で用いたコンクリート試験体の表面部付近の水分量を計測したが、水分量は一致しなかった。
【0058】
以上説明したように、本実施形態にかかる水分センサを、コンクリート構造物の表面または内部に設置し、電気特性値の変化をモニタリングすることにより、コンクリート構造物の表面および内部の水分量を、簡便、かつ高精度で測定することが可能となる。また、水分センサを、コンクリート構造物内の任意の場所に設置することができるため、コンクリート構造物の表面付近だけでなく、深部でも測定が可能となり、コンクリート構造物内のコンクリートの水分量の分布を把握することが可能となる。
【符号の説明】
【0059】
100 水分センサ
3 誘電体
5 電極
7 リード線、通電部
9 計測器、LCRメーター