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特許7284911蓄電素子の管理装置、システム、及び、蓄電素子の管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】蓄電素子の管理装置、システム、及び、蓄電素子の管理方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20230525BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20230525BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230525BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20230525BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20230525BHJP
   H02H 7/18 20060101ALI20230525BHJP
   G01R 35/00 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
H02J7/00 S ZHV
G01R31/382
H02J7/00 Y
H01M10/48 P
H01M10/44 P
B60R16/02 650V
H02H7/18
G01R35/00 L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019040660
(22)【出願日】2019-03-06
(65)【公開番号】P2020145841
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白石 剛之
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-130827(JP,A)
【文献】特開2008-043188(JP,A)
【文献】特開2018-060641(JP,A)
【文献】特開2017-229152(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168544(WO,A1)
【文献】特開2018-136314(JP,A)
【文献】特開2017-156187(JP,A)
【文献】特開2014-96975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
H01M 10/42 - 10/48
H02H 7/00
H02H 7/10 - 7/20
G01R 31/36 - 31/44
G01R 35/00 - 35/06
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電素子の管理装置であって、
前記蓄電素子が収容されている外装体と、
前記蓄電素子と直列に接続される遮断器と、
前記蓄電素子に関する物理量を計測する計測部と、
外部装置と通信する通信部と、
前記外装体に収容されている管理部と、
を備え、
前記管理部は、
前記計測部によって計測された物理量に基づいて前記蓄電素子の異常の有無を検出し、異常有りの場合は前記遮断器をオープンして前記蓄電素子を異常から保護する第1のオープン処理と、
前記計測部の故障を診断し、前記計測部が故障している場合は前記遮断器のオープンを禁止する禁止処理と、
前記通信部を介して前記外部装置から前記遮断器のオープンが指示された場合に、前記禁止処理によって前記遮断器のオープンが禁止されていても前記遮断器をオープンする第2のオープン処理と、
を実行する、管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の管理装置であって、
互いに異なる前記物理量を計測する複数の前記計測部を備え、
前記管理部は、いずれかの前記計測部が故障して前記遮断器のオープンを禁止した場合であっても、故障と診断されていない他の前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記蓄電素子の異常が検出された場合は前記遮断器をオープンする、管理装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の管理装置であって、
前記管理部は、前記遮断器をオープンしているときに前記外部装置から前記通信部を介して前記遮断器のクローズが指示された場合は前記遮断器をクローズするクローズ処理を実行する、管理装置。
【請求項4】
蓄電素子と、
前記蓄電素子を管理する請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の管理装置と、
前記通信部を介して前記管理装置に前記遮断器のオープンを指示する外部装置と、
を備えるシステム。
【請求項5】
蓄電素子の管理方法であって、
前記蓄電素子に関する物理量を計測する計測部によって計測された物理量に基づいて前記蓄電素子の異常の有無を検出し、異常有りの場合は前記蓄電素子と直列に接続されている遮断器をオープンして前記蓄電素子を異常から保護する第1のオープンステップと、
前記計測部の故障を診断し、前記計測部が故障している場合は前記遮断器のオープンを禁止する禁止ステップと、
通信部を介して、前記蓄電素子が収容されている外装体の外にある外部装置から前記遮断器のオープンが指示された場合に、前記禁止ステップによって前記遮断器のオープンが禁止されていても前記遮断器をオープンする第2のオープンステップと、
を含む、管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
蓄電素子の管理装置、システム、及び、蓄電素子の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電素子と直列に接続されている遮断器と、蓄電素子に関する物理量を計測する計測部とを備える管理装置において、計測部によって計測された物理量に基づいて蓄電素子の異常を検出し、異常を検出した場合は遮断器をオープン(開)して蓄電素子を異常から保護するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-163836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した計測部は故障する可能性がある。計測部が故障すると計測される物理量の信頼性が低下するため、蓄電素子が正常であっても遮断器が誤ってオープンされる可能性がある。遮断器が誤ってオープンされると外部装置に電力が供給されない電源失陥(パワーフェール)が起きる可能性がある。このため、従来、計測部が故障した場合は遮断器を誤ってオープンしないように遮断器のオープンを禁止することも行われている。
【0005】
外部装置に蓄電素子の安全性に関わる何らかの異常が発生することがある。遮断器のオープンが禁止されているとき、外部装置に蓄電素子の安全性に関わる異常が発生すると蓄電素子の安全性が損なわれる場合がある。
【0006】
本明細書では、計測部が故障して遮断器のオープンを禁止しているとき、外部装置に蓄電素子の安全性に関わる異常が発生した場合の蓄電素子の安全性を向上させる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
蓄電素子の管理装置であって、前記蓄電素子と直列に接続される遮断器と、前記蓄電素子に関する物理量を計測する計測部と、外部装置と通信する通信部と、管理部と、を備え、前記管理部は、前記計測部の故障を診断し、前記計測部が故障している場合は前記遮断器のオープンを禁止する禁止処理と、前記通信部を介して前記外部装置から前記遮断器のオープンが指示された場合に、前記禁止処理によって前記遮断器のオープンが禁止されていても前記遮断器をオープンするオープン処理と、を実行する。
【発明の効果】
【0008】
計測部が故障して遮断器のオープンを禁止しているとき、外部装置側で蓄電素子の安全性に関わる異常が発生した場合の蓄電素子の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】蓄電装置、及び、その蓄電装置が搭載されている車両の模式図
図2】車両システムを概略的に示すブロック図
図3】蓄電装置の分解斜視図
図4A】蓄電素子の平面図
図4B図4Aに示すA-A線の断面図
図5】本体内に蓄電素子を収容した状態を示す斜視図
図6図5の蓄電素子にバスバーを装着した状態を示す斜視図
図7】蓄電装置の電気的構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本実施形態の概要)
蓄電素子の管理装置であって、前記蓄電素子と直列に接続される遮断器と、前記蓄電素子に関する物理量を計測する計測部と、外部装置と通信する通信部と、管理部と、を備え、前記管理部は、前記計測部の故障を診断し、前記計測部が故障している場合は前記遮断器のオープンを禁止する禁止処理と、前記通信部を介して前記外部装置から前記遮断器のオープンが指示された場合に、前記禁止処理によって前記遮断器のオープンが禁止されていても前記遮断器をオープンするオープン処理と、を実行する。
【0011】
例えば、蓄電素子が、車両(外部装置)のエンジンを始動するスタータや車両の補機類(ヘッドライド、エアコン、オーディオなど)に電力を供給するものであるとする。そして、計測部が故障して遮断器のオープンを禁止しているとする。その場合、車両のオルタネータに高電圧異常が生じて蓄電素子に異常に高い充電電流が流れると蓄電素子が過充電となり、蓄電素子の安全性が低下する可能性がある。
上記の管理装置によると、外部装置から遮断器のオープンが指示された場合は遮断器のオープンが禁止されていても遮断器をオープンする。このため、例えばオルタネータが故障した場合(蓄電素子の安全性に関わる異常が発生した場合)は車両のECU(Electronic Control Unit)が管理装置に遮断器のオープンを指示することにより、遮断器をオープンさせることができる。このため、計測部が故障して遮断器のオープンを禁止しているとき、外部装置に蓄電素子の安全性に関わる異常が発生した場合の蓄電素子の安全性を向上させることができる。
【0012】
互いに異なる前記物理量を計測する複数の前記計測部を備え、前記管理部は、いずれかの前記計測部が故障して前記遮断器のオープンを禁止した場合であっても、故障と診断されていない他の前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記蓄電素子の異常が検出された場合は前記遮断器をオープンしてもよい。
【0013】
故障した計測部によって計測された物理量は信頼性が低いので蓄電素子の異常の検出に用いることは望ましくないが、他の故障していない計測部によって計測された物理量は信頼性が高い。このため、故障と診断されていない他の計測部によって計測された物理量に基づいて蓄電素子の異常が検出された場合は遮断器をオープンすることにより、蓄電素子を異常からより確実に保護できる。
【0014】
前記管理部は、前記遮断器をオープンしているときに前記外部装置から前記通信部を介して前記遮断器のクローズが指示された場合は前記遮断器をクローズするクローズ処理を実行してもよい。
【0015】
外部装置から遮断器のオープンが指示されて遮断器をオープンした後、何らかの理由によって外部装置に電力が必要となる可能性もある。上記の管理装置によると、外部装置は管理装置に遮断器のクローズを指示することにより、遮断器のオープンを指示した後も必要であれば蓄電素子から電力供給を受けることができる。
【0016】
システムであって、蓄電素子と、前記蓄電素子を管理する請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の管理装置と、前記通信部を介して前記管理装置に前記遮断器のオープンを指示する外部装置と、を備える。
【0017】
上記のシステムによると、計測部が故障して遮断器のオープンを禁止しているときに、外部装置に蓄電素子の安全性に関わる異常が発生した場合の蓄電素子の安全性を向上させることができる。
【0018】
本明細書によって開示される発明は、装置、方法、これらの装置または方法の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の種々の態様で実現できる。
【0019】
<実施形態1>
実施形態1を図1ないし図7によって説明する。
図1に示す車両2はエンジン自動車であり、エンジンを始動させるスタータや補機類(ヘッドライト、エアコン、オーディオなど)を備えている。蓄電装置1は車両2に搭載されてスタータや補機類に電力を供給する始動用の蓄電装置である。図1では蓄電装置1がエンジンルーム2Aに収容されている場合を示しているが、蓄電装置1は居室の床下やトランクに収容されてもよい。
【0020】
(1)車両システム
図2を参照して、車両2に搭載されている車両システム3(システムの一例)について概略的に説明する。車両システム3はECU60(外部装置の一例)、蓄電装置1、オルタネータ61、その他システム62などで構成されている。ECU60は通信線を介して各機器(蓄電装置1、オルタネータ61、その他システム62など)と通信可能に接続されている。ECU60に接続されている各機器は異常が発生するとECU60にその異常を表す異常情報を送信する。ECU60は各機器から異常情報を受信すると、受信した異常情報に応じて各機器を制御する。
【0021】
(2)蓄電装置の構成
図3に示すように、蓄電装置1は外装体10と、外装体10の内部に収容される複数の蓄電素子12とを備える。外装体10は合成樹脂材料からなる本体13と蓋体14とで構成されている。本体13は有底筒状であり、平面視矩形状の底面部15とその4辺から立ち上がって筒状となる4つの側面部16とで構成される。4つの側面部16によって上端部分に上方開口部17が形成されている。
【0022】
蓋体14は平面視矩形状であり、その4辺から下方に向かって枠体18が延びている。蓋体14は本体13の上方開口部17を閉鎖する。蓋体14の上面には平面視略T字形の突出部19が形成されている。蓋体14の上面には突出部19が形成されていない2箇所のうち一方の隅部に正極外部端子20が固定され、他方の隅部に負極外部端子21が固定されている。
【0023】
蓄電素子12は繰り返し充電可能な二次電池であり、具体的には例えばリチウムイオン電池である。図4(a)及び図4(b)に示すように、蓄電素子12は直方体形状のケース22内に電極体23を非水電解質と共に収容したものである。ケース22はケース本体24と、その上方の開口部を閉鎖するカバー25とで構成されている。
【0024】
電極体23は、詳細については図示しないが、銅箔からなる基材に活物質を塗布した負極要素と、アルミニウム箔からなる基材に活物質を塗布した正極要素との間に多孔性の樹脂フィルムからなるセパレータを配置したものである。これらはいずれも帯状であり、セパレータに対して負極要素と正極要素とを幅方向の反対側にそれぞれ位置をずらした状態で、ケース本体24に収容可能となるように扁平状に巻回されている。
【0025】
正極要素には正極集電体26を介して正極端子27が接続されている。負極要素には負極集電体28を介して負極端子29が接続されている。正極集電体26及び負極集電体28は平板状の台座部30と、台座部30から延びる脚部31とを有している。台座部30には貫通孔が形成されている。脚部31は正極要素又は負極要素に接続されている。正極端子27及び負極端子29は、端子本体部32と、その下面中心部分から下方に突出する軸部33とを有している。そのうち正極端子27の端子本体部32と軸部33とはアルミニウム(単一材料)によって一体成形されている。負極端子29においては、端子本体部32がアルミニウム製であり、軸部33が銅製であり、これらを組み付けたものである。正極端子27及び負極端子29の端子本体部32はカバー25の両端に絶縁材料からなるガスケット34を介して配置され、このガスケット34から外方へ露出されている。
【0026】
図5に示すように、蓄電素子12は複数個(例えば12個)が幅方向に並設された状態で本体13内に収容されている。ここでは本体13の一端側から他端側(矢印Y1からY2方向)に向かって3つの蓄電素子12を1組として、同一組では隣り合う蓄電素子12の端子極性が同じになり、隣り合う組同士では隣り合う蓄電素子12の端子極性が逆になるように配置されている。最も矢印Y1側に位置する3つの蓄電素子12(第1組)では矢印X1側が負極、矢印X2側が正極となっている。第1組に隣接する3つの蓄電素子12(第2組)では矢印X1側が正極、矢印X2側が負極となっている。さらに第2組に隣接する第3組では第1組と同じ配置となっており、第3組に隣接する第4組では第2組と同じ配置となっている。
【0027】
図6に示すように、正極端子27及び負極端子29には導電部材としての端子用バスバー(接続部材)36~40が溶接により接続されている。第1組の矢印X2には正極端子27群が第1バスバー36によって接続されている。第1組と第2組の間では矢印X1に第1組の負極端子29群と第2組の正極端子27群とが第2バスバー37によって接続されている。第2組と第3組の間では矢印X2に第2組の負極端子29群と第3組の正極端子27群とが第3バスバー38によって接続されている。第3組と第4組の間では、矢印X1に第3組の負極端子29群と第4組の正極端子27群とが第4バスバー39によって接続されている。第4組の矢印X2には、負極端子29群が第5バスバー40によって接続されている。
【0028】
図3を併せて参照すると、電気の流れの一端に位置する第1バスバー36は第1の電子機器42A(例えばヒューズ)、第2の電子機器42B(例えばリレー)、バスバー43及びバスバーターミナル(図示せず)を介して正極外部端子20に接続されている。電気の流れの他端に位置する第5バスバー40はバスバー44A,44B及び負極バスバーターミナル(図示せず)を介して負極外部端子21に接続されている。これによりそれぞれの蓄電素子12は正極外部端子20及び負極外部端子21を介して充電と放電とが可能になっている。電子機器42A,42Bと電気部品接続用バスバー43、44A及び44Bとは、積層配置した複数の蓄電素子12の上部に配置された回路基板ユニット41に取り付けられている。バスバーターミナルは、蓋体14に配置されている。
【0029】
(3)蓄電装置の電気的構成
図7に示すように、蓄電装置1は前述した複数の蓄電素子12と、それらの蓄電素子12を管理するBMS(Battery Management System)50とを備えている。BMS50は管理装置の一例である。
【0030】
BMS50は管理部55、電流センサ51(計測部の一例)、電圧センサ52(計測部の一例)、2つの温度センサ53(計測部の一例)、リレー54(遮断器の一例)、及び、通信部56を備えている。
管理部55はCPUやRAMなどが1チップ化されたマイクロコンピュータ55A(マイコン)、ROM55Bなどを備えている。これらは図3に示す回路基板ユニット41に実装されている。ROM55Bには管理プログラムや各種のデータが記憶されている。マイクロコンピュータ55AはROM55Bに記憶されている管理プログラムを実行することによって蓄電装置1の各部を管理する。
【0031】
電流センサ51は蓄電素子12と直列に接続されている。電流センサ51は蓄電素子12の充放電電流を計測して管理部55に出力する。
【0032】
電圧センサ52は蓄電素子12の電圧を計測して管理部55に出力する。電圧センサ52は各蓄電素子12の電圧を個別に計測する第1の電圧センサ52Aと、複数の蓄電素子12全体の電圧を計測する第2の電圧センサ52Bとを備えている。電圧センサ52の内部には各蓄電素子12と第1の電圧センサ52Aとを並列に接続する図示しない複数の計測線と、各計測線に設けられている複数のスイッチとが設けられている。管理部55がこれらのスイッチを切り替えることにより、第1の電圧センサ52Aによって各蓄電素子12の電圧を個別に計測できる。
【0033】
2つの温度センサ53は互いに異なる蓄電素子12に取り付けられている。各温度センサ53はそれぞれ蓄電素子12の温度を計測して管理部55に出力する。
リレー54は蓄電素子12と直列に接続されている。リレー54は蓄電素子12を異常から保護するためのものであり、管理部55によってオープン/クローズされる。リレー54は車両2が駐車中のときに暗電流によって蓄電素子12の充電状態(SOC:State Of Charge)が低下することを防止するためにオープンされる場合もある。
【0034】
通信部56はマイクロコンピュータ55Aが車両2のECU60(図2参照)と通信するためのものであり、通信コネクタ57を介してECU60と通信可能に接続される。
【0035】
(4)管理部によって実行される管理処理
管理部55によって実行される管理処理のうちSOC推定処理、第1のオープン処理、禁止処理、第2のオープン処理(オープン処理の一例)、及び、クローズ処理について説明する。
【0036】
(4-1)SOC推定処理
SOC推定処理は、電流積算法によって蓄電素子12の充電状態を推定する処理である。電流積算法は、電流センサ51によって蓄電素子12の充放電電流を所定の時間間隔で計測することで蓄電素子12に出入りする電力量を計測し、これを初期容量から加減することでSOCを推定する方法である。
【0037】
電流積算法は蓄電素子12の使用中でもSOCを推定できるという利点がある反面、常に電流を計測して充放電電力量を積算するので電流センサ51の計測誤差が累積して次第に不正確になる可能性がある。このため、管理部55は、電流積算法によって推定したSOCを蓄電素子12の開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)に基づいてリセットしてもよい。具体的には、OCVとSOCとの間には比較的精度の良い相関関係があるので、OCVからSOCを推定し、電流積算法によって推定したSOCを、OCVから推定したSOCでリセットしてもよい。
【0038】
OCVは回路が開放されている状態の電圧に限られない。例えば、OCVは蓄電素子12に流れる電流の電流値が微小な基準値未満であるときの電圧であってもよい。
【0039】
(4-2)第1のオープン処理
第1のオープン処理は、各センサ(第1の電圧センサ52A、電流センサ51、温度センサ53)によって計測された物理量(電流値、電圧、温度)に基づいて蓄電素子12の異常を検出し、異常を検出した場合にリレー54をオープンして蓄電素子12を異常から保護する処理である。ここでは蓄電素子12の異常として電圧異常、SOC異常、電流異常及び温度異常について説明する。
【0040】
電圧異常について説明する。管理部55は第1の電圧センサ52Aによって所定の時間間隔で各蓄電素子12の電圧を計測し、計測された電圧が所定の上限値以上(あるいは所定の下限値以下)である場合は蓄電素子12を過充電(あるいは過放電)から保護するためにリレー54をオープンする。
【0041】
SOC異常について説明する。前述したように管理部55は電流センサ51によって計測された電流値から電流積算法によってSOCを推定する。管理部55は推定したSOCが所定の上限値以上(あるいは所定の下限値以下)である場合は蓄電素子12を過充電(あるいは過放電)から保護するためにリレー54をオープンする。
【0042】
電流異常について説明する。例えば正極外部端子20と負極外部端子21とが短絡して蓄電素子12に大電流が流れることがある。管理部55は電流センサ51によって充放電電流を所定の時間間隔で計測し、計測した電流値が所定の基準値以上の場合は蓄電素子12を大電流から保護するためにリレー54をオープンする。電流異常の判断に用いる電流値は前述したSOC推定処理で計測されたものであってもよい。
【0043】
温度異常について説明する。蓄電素子12は何らかの原因によって高温になることがある。管理部55は2つの温度センサ53によって所定の時間間隔で蓄電素子12の温度を計測し、少なくとも一方の温度センサ53によって計測された温度が所定の基準値以上である場合は蓄電素子12を高温から保護するためにリレー54をオープンする。
【0044】
(4-3)禁止処理
禁止処理は、所定の時間間隔で第1の電圧センサ52A、電流センサ51及び温度センサ53の故障を診断し、いずれかのセンサが故障している場合はそのセンサによって計測された物理量に基づくリレー54のオープンを禁止する処理である。リレー54のオープンを禁止するとは、管理部55がリレー54のオープンを行わないことをいう。以下、具体的に説明する。
【0045】
(4-3-1)第1の電圧センサ
第1の電圧センサ52A及び第2の電圧センサ52Bがいずれも正常である場合は、第1の電圧センサ52Aによって計測された各蓄電素子12の電圧を合計した合計値と、第2の電圧センサ52Bによって計測された複数の蓄電素子12全体の電圧とがほぼ同じになる。
【0046】
管理部55は、第1の電圧センサ52Aによって所定の時間間隔で各蓄電素子12の電圧を個別に計測するとともに、第2の電圧センサ52Bによって所定の時間間隔で複数の蓄電素子12全体の電圧を計測する。そして、管理部55は第1の電圧センサ52Aによって計測された各蓄電素子12の電圧を合計し、その合計値と第2の電圧センサ52Bによって計測された複数の蓄電素子12全体の電圧との差の絶対値が所定値以上である場合は第1の電圧センサ52A又は第2の電圧センサ52Bが故障していると判断する。
【0047】
管理部55は、第1の電圧センサ52A又は第2の電圧センサ52Bが故障している場合は、第1の電圧センサ52Aによって計測された電圧に基づくリレー54のオープンを禁止する。言い換えると、管理部55は前述した電圧異常を理由とするリレー54のオープンを禁止する。
【0048】
(4-3-2)電流センサ
ここでは電流センサ51の故障を診断する方法として3つの方法を説明する。以下に説明する3つの方法はいずれか一つのみを用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
(方法1)通常、電流値が変動すると電圧も変動する。このため、電流値が一定であるにもかかわらず電圧が変動する場合は電流センサ51又は電圧センサ52が故障している可能性がある。管理部55は、例えば電流センサ51によって計測された電流値がほぼ一定であり、その間に第1の電圧センサ52Aによって計測された電圧がある程度大きく変動した場合は、電流センサ51又は電圧センサ52が故障していると判断する。
【0050】
そして、管理部55は、第1の電圧センサ52A及び第2の電圧センサ52Bがいずれも正常である場合は電流センサ51が故障していると判断する。第1の電圧センサ52A及び第2の電圧センサ52Bがいずれも正常であるか否かは前述した方法によって判断できる。
【0051】
(方法2)想定される最大電流は蓄電装置1の用途に応じて決まっているので、通常、用途に応じた最大電流を大きく超える電流が長時間流れることはない。管理部55は、用途に応じた最大電流を大きく超える電流が電流センサ51によってある程度の時間継続して計測された場合は電流センサ51が故障していると判断する。
【0052】
(方法3)例えば車両2がアイドリングストップ車であり、アイドリングストップ中は蓄電素子12から車両2に数10Aの電流が流れるとする。そして、アイドリングストップ中はECU60から通信部56を介して管理部55にアイドリングストップ中であることが通知されるとする。この場合、管理部55は、ECU60からアイドリングストップ中であることが通知されているにもかかわらず電流センサ51によって計測された電流値が0Aあるいは数Aである場合は電流センサ51が故障していると判断する。
【0053】
管理部55は、電流センサ51が故障した場合は、電流センサ51によって計測された電流値に基づくリレー54のオープンを禁止する。言い換えると、管理部55は前述したSOC異常や電流異常を理由とするリレー54のオープンを禁止する。
【0054】
(4-3-3)温度センサ
2つの温度センサ53はそれぞれ異なる蓄電素子12の温度を計測するので計測された温度は必ずしも一致しない。しかしながら、通常、2つの温度センサがどちらも故障していない場合は計測される温度に大きな差は生じない。このため、管理部55は、2つの温度センサ53によって所定の時間間隔で蓄電素子12の温度を計測し、計測した温度の差の絶対値が一定値以上である場合はいずれかの温度センサ53が故障していると判断する。
【0055】
管理部55は、温度センサ53が故障した場合は、温度センサ53によって計測された温度に基づくリレー54のオープンを禁止する。言い換えると、管理部55は前述した温度異常を理由とするリレー54のオープンを禁止する。
【0056】
(4-3-4)リレーのオープンの禁止の例外
例えば電圧センサ52が故障した場合、管理部55は電圧異常を理由とするリレー54のオープンを禁止するが、SOC異常、電流異常及び温度異常を理由とするリレー54のオープンは禁止しない。このため、管理部55はSOC異常、電流異常あるいは温度異常が生じた場合はリレー54をオープンする。
【0057】
ここでは電圧異常を例に説明したが、SOC異常、電流異常及び温度異常についても同様である。すなわち、管理部は、あるセンサが故障した場合はそのセンサによって計測された物理量に基づくリレー54のオープンを禁止するが、他の正常なセンサによって計測された物理量に基づくリレー54のオープンは禁止しない。
【0058】
(4-3-5)センサ異常情報の送信
図2に示すように、管理部55は、上述した各センサが故障した場合は通信部56を介してECU60にセンサ異常情報を送信する。
【0059】
(4-4)第2のオープン処理
第2のオープン処理は、通信部56を介してECU60からリレー54のオープンが指示された場合に、禁止処理によってリレー54のオープンを禁止していてもリレー54をオープンする処理である。
【0060】
例えば、車両2のECU60は、蓄電装置1からセンサ異常情報を受信している場合は、オルタネータ61の高電圧異常を検出すると蓄電装置1にリレー54のオープンを指示する。蓄電装置1の管理部55は、ECU60からリレー54のオープンが指示されると、前述した禁止処理によってリレー54のオープンを禁止していてもリレー54をオープンする。
【0061】
上述したオルタネータ61の高電圧異常は蓄電素子12の安全性に関わる異常の一例である。蓄電素子12の安全性に関わる異常はオルタネータ61の高電圧異常に限定されるものではなく、ECU60によって決定される。例えば図2に示すその他システム62で異常が発生した場合に、その異常が蓄電素子12の安全性に関わるものである場合は、ECU60は管理部55にリレー54のオープンを指示してもよい。
【0062】
蓄電素子12の安全性に関わる異常が発生した場合、車両2の状況(走行状態、蓄電素子12の負荷状態、車両2に搭載されているシステムの異常状態など)によっては直ちにリレー54をオープンすると車両2の安全が損なわれる可能性がある。このため、ECU60は車両2の状況を判断し、リレー54をオープンしても安全なときにリレー54のオープンを指示することが望ましい。
【0063】
(4-5)クローズ処理
前述したように、ECU60は蓄電素子12の安全性に関わる異常が発生すると蓄電装置1にリレー54のオープンを指示する。しかしながら、その後にオルタネータ61による電力供給だけでは電力が不足する状況になった場合は、ECU60は蓄電装置1にリレー54のクローズ(閉)を指示することもできる。
【0064】
蓄電装置1の管理部55は、ECU60からリレー54のクローズが指示された場合はリレー54をクローズする。リレー54は蓄電素子12を異常から保護するためにオープンされているので、リレー54をクローズすると蓄電素子12が保護されなくなる。しかしながら、車両2の電力不足は乗員の安全に影響するので、管理部55は蓄電素子12の保護よりも乗員の安全を優先してリレー54をクローズする。
【0065】
(5)実施形態の効果
実施形態1に係るBMS50によると、ECU60からリレー54のオープンが指示された場合はリレー54のオープンが禁止されていてもリレー54をオープンする。このため、例えばオルタネータ61が故障した場合(蓄電素子12の安全性に関わる異常が発生した場合)はECU60が蓄電装置1にリレー54のオープンを指示することにより、リレー54のオープンが禁止されていてもリレー54をオープンさせることができる。よってBMS50によると、センサが故障してリレー54のオープンを禁止しているとき、ECU60に蓄電素子12の安全性に関わる異常が発生した場合の蓄電素子12の安全性を向上させることができる。
【0066】
BMS50によると、いずれかのセンサが故障してリレー54のオープンを禁止した場合であっても、故障と診断されていない他のセンサによって計測された物理量に基づいて蓄電素子12の異常が検出された場合はリレー54をオープンする。故障したセンサによって計測された物理量は信頼性が低いので蓄電素子12の異常の検出に用いることは望ましくないが、他の故障していないセンサによって計測された物理量は信頼性が高いので、故障と診断されていない他のセンサによって計測された物理量に基づいて蓄電素子12の異常が検出された場合はリレー54をオープンすることにより、蓄電素子12を異常からより確実に保護できる。
【0067】
BMS50によると、管理部55は、リレー54をオープンしているときにECU60からリレー54のクローズが指示された場合はリレー54をクローズする。このため、車両2はリレー54のオープンを指示した後も必要であれば蓄電素子12から電力供給を受けることができる。
【0068】
<他の実施形態>
本明細書によって開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本明細書によって開示される技術的範囲に含まれる。
【0069】
(1)上記実施形態では管理部55とECU60とが通信部56を介して通信するが、通信部56が故障して車両2から管理部55にリレー54をオープンする指示が伝わらなくなることも考え得る。このため、冗長化のために、ECU60からリレー54をオープンする指示を受け付ける別の手段を更に備えてもよい。リレー54をオープンする指示を受け付ける手段は通信部56とは別の信号線を介して指示を受信するものであってもよいし、ECU60から無線通信によって指示を受信するものであってもよい。
【0070】
(2)上記実施形態では電流センサ51の故障を診断する方法として3つの方法を例に説明したが、電流センサ51の故障を診断する方法はこれらに限られない。例えば2つの電流センサ51を直列に設け、それらの電流センサ51によって計測された電流値の差の絶対値が所定の基準値以上であれば電流センサ51が故障していると判断してもよい。
【0071】
(3)上記実施形態ではセンサが故障すると管理部55がECU60のセンサ異常情報を送信するが、管理部55はECU60にセンサ異常情報を送信しなくてもよい。そして、ECU60は、例えばオルタネータ61の高電圧異常が発生した場合は、蓄電装置1からセンサ異常情報を受信していなくても蓄電装置1にリレー54のオープンを指示してもよい。
【0072】
(4)上記実施形態では蓄電素子12として始動用の蓄電素子を例に説明したが、蓄電素子12は始動用に限られない。例えば、蓄電素子12は電気自動車やハイブリッド自動車などに搭載されて補機類に電力を供給する補機用であってもよい。
【0073】
(5)上記実施形態では遮断器としてリレー54を例に説明したが、遮断器はこれに限られない。例えば、遮断器はFET(Field Effect Transistor)であってもよい。
【0074】
(6)上記実施形態では計測部として電流センサ51、電圧センサ52及び温度センサ53を例に説明したが、管理部55の一部が計測部の一部を兼ねていてもよい。具体的には、マイクロコンピュータ55Aはこれらのセンサに計測を指示する処理や、これらのセンサによって計測された計測値を物理値に変換する処理なども行う。このため、マイクロコンピュータ55Aは蓄電素子に関する物理量を計測する計測部の一部であるといえる。このため、計測部の故障はマイクロコンピュータ55Aの故障であってもよい。
【0075】
(7)上記実施形態では蓄電素子12としてリチウムイオン電池を例に説明したが、蓄電素子12はこれに限られない。例えば、蓄電素子12は電気化学反応を伴うキャパシタであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
3 車両システム(システムの一例)
12 蓄電素子
50 BMS(管理装置の一例)
51 電流センサ(計測部の一例)
52 電圧センサ(計測部の一例)
53 温度センサ(計測部の一例)
54 リレー(遮断器の一例)
55 管理部
55E 通信部
60 ECU(外部装置の一例)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7