(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】塗装代替フィルム、複合フィルム、ラミネート金属板、加工品および成型品
(51)【国際特許分類】
B32B 27/20 20060101AFI20230525BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
B32B27/20 A
B32B15/08 N
(21)【出願番号】P 2019166989
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 良敬
(72)【発明者】
【氏名】久保 耕司
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0059167(US,A1)
【文献】特開2013-014027(JP,A)
【文献】国際公開第2019/078369(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/20
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム、着色層およびハードコート層を備え、
前記基材フィルム、前記着色層および前記ハードコート層がこの順で積層されており、
前記基材フィルムが、熱可塑性樹脂および隠蔽材を含み、
前記隠蔽材の屈折率が1.70以上であり、
前記基材フィルムにおける波長400nmから700nmの散乱係数が0.20μm
-1以上であり、
前記基材フィルムを20%伸長した際のコントラスト比が0.70以上であ
り、
前記基材フィルムが、第一層、および第一層上に積層された第二層を備え、前記第一層が前記着色層と前記第二層との間に位置し、
前記第一層がポリエステル樹脂を含み、
前記第二層が共重合ポリエステル樹脂を含む、
塗装代替フィルム。
【請求項2】
前記基材フィルムにおいて、波長400nmから700nmの全光線透過率の最大値と、波長400nmから700nmの全光線透過率の最小値との差が10%以下ある、請求項1に記載の塗装代替フィルム。
【請求項3】
前記基材フィルムの厚みが10μm~150μmである、請求項1または2に記載の塗装代替フィルム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の塗装代替フィルムと、
前記塗装代替フィルムの前記ハードコート層上に設けられた保護フィルムと、を備える、
複合フィルム。
【請求項5】
金属板と、
前記金属板にラミネートされた、請求項1~3のいずれかに記載の塗装代替フィルム、または請求項4に記載の複合フィルムと、を備える、
ラミネート金属板。
【請求項6】
請求項5に記載のラミネート金属板をプレス加工した加工品。
【請求項7】
車両用の金属部材と、
前記金属部材の表面の少なくとも一部に設けられた、請求項1~3のいずれかに記載の塗装代替フィルム、または請求項4に記載の複合フィルムと、を備える、
加工品。
【請求項8】
車両用の樹脂部材と、
前記樹脂部材の表面の少なくとも一部に設けられた、請求項1~3のいずれかに記載の塗装代替フィルム、または請求項4に記載の複合フィルムと、を備える、
成型品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装代替フィルム、複合フィルム、ラミネート金属板、加工品および成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を構成する部材、たとえば外装部材(たとえば、フェンダ、バンパ、ボンネット、ホイールキャップなど)には塗装が施されている。塗装のために、生地に塗料を吹き付けること、つまりスプレー塗装が一般的に行われている。
【0003】
しかし、スプレー塗装で使用される塗料は揮発性有機化合物(VOC)を含むため、スプレー塗装は、環境負荷が大きい。しかも、スプレー塗装は、繰り返しておこなうため、スプレー塗装をおこなう者は、広大なスペースを必要とする。
【0004】
車両用外装部材へのスプレー塗装を省略することが可能な方法が、すでにいくつか提案されている(たとえば、特許文献1および2参照)。たとえば、特許文献1では、インサート成形で、インサートフィルムと樹脂とを一体化することによって外装部材を製造する方法が提案されている。この方法によれば、透明な基体シートと、基体シート上に設けられたメタリック層と、バインダーおよび顔料を含む隠蔽層とを有するインサートフィルムで、生地としての樹脂を隠蔽するため、生地を装飾することができるとともに、生地を保護することができる。いっぽう、特許文献2では、透明なキャストフィルム(特許文献2では、キャストフィルムを外層とも呼んでいる。)と、キャストフィルム上に設けられた着色塗膜と、着色塗膜上に設けられた接着被膜とを有する化粧シート材を、金属基板に貼り付ける方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3333677号公報
【文献】特開昭63-123469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような特許文献1の方法では、隠蔽層が、インサート成形の際に部分的に伸びることがあるところ、隠蔽層が基体シートにくらべてかなり薄いため、隠蔽層の伸びた部分では、生地の色を隠蔽する能力、すなわち隠蔽力が大きく低下する。その結果、大きな隠蔽ムラが生じる。特許文献2の方法でも、着色塗膜がキャストフィルムにくらべてかなり薄いため、着色塗膜が部分的に伸びた際に、着色塗膜の伸びた部分では、隠蔽力が大きく低下する。その結果、大きな隠蔽ムラが生じる。
【0007】
本発明は、生地の色を隠蔽したうえで生地を装飾することが可能であるとともに、生地を保護することが可能であり、しかも、部分的な伸びに起因する隠蔽ムラを抑制することができる塗装代替フィルムおよび複合フィルムを提供することを目的とする。本発明は、塗装代替フィルムを備えるラミネート金属板や、加工品、成型品を提供することも目的とすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明は、下記項1の構成を備える。
【0009】
項1
基材フィルム、着色層およびハードコート層を備え、
前記基材フィルム、前記着色層および前記ハードコート層がこの順で積層されており、
前記基材フィルムが、熱可塑性樹脂および隠蔽材を含み、
前記隠蔽材の屈折率が1.70以上であり、
前記基材フィルムにおける波長400nmから700nmの散乱係数が0.20μm-1以上であり、
前記基材フィルムを20%伸長した際のコントラスト比が0.70以上である、
塗装代替フィルム。
【0010】
項1では、基材フィルムが、熱可塑性樹脂および隠蔽材を含む。ここで、「基材フィルムが、熱可塑性樹脂および隠蔽材を含む。」とは、基材フィルムが複数の層を含む場合には、複数の層のうちの、少なくとも一つの層が、熱可塑性樹脂および隠蔽材を含むことを意味する。
「屈折率」とは、絶対屈折率である。「20%伸長する」とは、基材フィルム(これは、基材フィルムから得た試験片であり得る。)の伸長前の長さを100%としたときに、120%の長さになるように基材フィルムを伸ばすことを意味する。
「散乱係数」とは、Kubelka-Munkの散乱係数を指し、下記式(1)で算出される。
S={(1-T)/T}/d・・・(1)
ここで、Sは、散乱係数を示し、μm-1で表される。Tは、基材フィルム(これは、基材フィルムから切り出した試料であり得る。)の、波長400nmから700nmの全光線透過率の平均値を示し、%で表される。dは、基材フィルム(これは、基材フィルムから切り出した試料であり得る。)の厚みを示し、μmで表される。
「コントラスト比」とは、基材フィルムを、黒部と白部とを有する隠蔽率試験紙(具体的には、黒部と白部とを有する、JIS K 5600に基づく隠蔽率試験紙)に熱圧着することによって、基材フィルム付き隠蔽率試験紙を作製し、基材フィルム付き隠蔽率試験紙の黒部と白部とから試料を切り出し、これらの試料について、波長400nmから700nmの全光線反射率の平均値を求め、黒部から切り出した試料の平均値(すなわち、波長400nmから700nmの全光線反射率の平均値)を、白部から切り出した試料の平均値(すなわち、波長400nmから700nmの全光線反射率の平均値)で割ることによって、算出される値である。
【0011】
項1によれば、基材フィルムが熱可塑性樹脂を含むことによって、基材フィルムが、外力によって伸びることができる。
【0012】
しかも、基材フィルムが隠蔽材を含むことによって、基材フィルムが、隠蔽力を有するので、生地(たとえば、車両用の金属板)の色を隠蔽することができる。それだけでなく、基材フィルムが隠蔽材を含むことによって、基材フィルムが部分的に伸びた場合に、伸びた部分の厚みが過度に薄くなることを防止できるので、伸びた部分の隠蔽力の低下を抑制できる。その結果、部分的な伸びに起因する隠蔽ムラを抑制することができる。そのうえ、隠蔽材の屈折率が1.70以上であることによって、隠蔽材の表面で反射される光を多くすることができるため、基材フィルムに、隠蔽力を効果的に付与することができる。
【0013】
さらに、基材フィルムにおける波長400nmから700nmの散乱係数が0.20μm-1以上であることによって、基材フィルムが、可視光に対して優れた隠蔽力を有するので、生地の色を効果的に隠蔽することができる。ここで、散乱係数とは、Kubelka-Munkの理論式を構成する散乱係数を指す。Kubelka-Munkの散乱係数は、隠蔽力の指標であり、散乱係数が大きいほど、隠蔽力が高いことを示す。
【0014】
さらに、基材フィルムを20%伸長した際のコントラスト比が0.70以上であることによって、基材フィルムが部分的に伸びた場合に、コントラスト比の変化を抑制できるので、部分的な伸びに起因する隠蔽ムラを効果的に抑制することができる。ここで、塗装代替フィルムを、車両用の金属板(たとえば、鋼板、アルミニウム合金板など)に設けることによってラミネート金属板を得て、ラミネート金属板を、車両用の外装部材にプレス成形する場合に、隠蔽ムラを特に効果的に抑制することができる。なぜなら、ラミネート金属板をプレス成形する場合には塗装代替フィルムが部分的に伸びるところ、その伸びが、最大で20%程度であるためである。
【0015】
そのうえ、塗装代替フィルムが着色層を備えることによって、生地を装飾することができる。
【0016】
これに加えて、塗装代替フィルムがハードコート層を備えることによって、着色層を保護することができる。
【0017】
本発明は、下記項2以降の構成をさらに備えることが好ましい。
【0018】
項2
前記基材フィルムにおいて、波長400nmから700nmの全光線透過率の最大値と、波長400nmから700nmの全光線透過率の最小値との差が10%以下ある、項1に記載の塗装代替フィルム。
【0019】
項2によれば、基材フィルムにおいて、波長400nmから700nmの全光線透過率の最大値と最小値との差が10%以下あることによって、可視光の波長域内で全光線透過率のムラを抑えることができる。
【0020】
項3
前記熱可塑性樹脂が結晶性樹脂を含む、項1または2に記載の塗装代替フィルム。
【0021】
項3によれば、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂を含むことによって、基材フィルムの伸びムラを抑制することができる。なぜなら、結晶性樹脂では、応力-ひずみ曲線(具体的には、応力を縦軸に、ひずみを横軸にプロットした応力-ひずみ曲線)の傾きが、ひずみの増大によって小さくなり難いことによって、伸び始めの部分の応力が効果的に増大する傾向があるので、伸び始めの部分が伸びにくくなるためである。
【0022】
項4
前記基材フィルムの厚みが10μm~150μmである、項1~3のいずれかに記載の塗装代替フィルム。
【0023】
項4によれば、基材フィルムの厚みが10μm~150μmであることによって、基材フィルムが部分的に伸びた場合に、伸びた部分の厚みが過度に薄くなることを効果的に防止できるので、伸びた部分の隠蔽力の低下を効果的に抑制できる。その結果、部分的な伸びに起因する隠蔽ムラを効果的に抑制することができる。
【0024】
項5
項1~4のいずれかに記載の塗装代替フィルムと、
前記塗装代替フィルムの前記ハードコート層上に設けられた保護フィルムと、を備える、
複合フィルム。
【0025】
項5によれば、複合フィルムが、塗装代替フィルムのハードコート層上に設けられた保護フィルムを備えることによって、塗装代替フィルムを保護することができる。
【0026】
項6
金属板と、
前記金属板にラミネートされた、項1~4のいずれかに記載の塗装代替フィルム、または項5に記載の複合フィルムと、を備える、
ラミネート金属板。
【0027】
項6によれば、ラミネート金属板が、金属板と、金属板にラミネートされた塗装代替フィルムまたは複合フィルムとを備えることによって、金属板の色を効果的に隠蔽したうえで金属板を装飾することができるとともに、金属板を保護することができる。しかも、塗装代替フィルムを構成する基材フィルムの部分的な伸びに起因する隠蔽ムラを抑制することができる。
【0028】
項7
項6に記載のラミネート金属板をプレス加工した加工品。
【0029】
項7によれば、ラミネート金属板をプレス加工した加工品であることによって、基材フィルムの部分的な伸びに起因する隠蔽ムラが低減されているため、優れた外観を有する。
【0030】
項8
車両用の金属部材と、
前記金属部材の表面の少なくとも一部に設けられた、項1~4のいずれかに記載の塗装代替フィルム、または項5に記載の複合フィルムと、を備える、
加工品。
【0031】
項8によれば、加工品が、車両用の金属部材と、金属部材の表面の少なくとも一部に設けられた、塗装代替フィルムまたは複合フィルムと、を備えることによって、金属部材の色を効果的に隠蔽したうえで金属部材を装飾することができるとともに、金属部材を保護することができる。しかも、塗装代替フィルムを構成する基材フィルムの部分的な伸びに起因する隠蔽ムラを抑制することができる。
【0032】
項9
車両用の樹脂部材と、
前記樹脂部材の表面の少なくとも一部に設けられた、項1~4のいずれかに記載の塗装代替フィルム、または項5に記載の複合フィルムと、を備える、
成型品。
【0033】
項9によれば、成型品が、車両用の樹脂部材と、樹脂部材の表面の少なくとも一部に設けられた、塗装代替フィルムまたは複合フィルムと、を備えることによって、樹脂部材の色を効果的に隠蔽したうえで樹脂部材を装飾することができるとともに、樹脂部材を保護することができる。しかも、塗装代替フィルムを構成する基材フィルムの部分的な伸びに起因する隠蔽ムラを抑制することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の塗装代替フィルムによれば、生地の色を隠蔽したうえで生地を装飾することが可能であるとともに、生地を保護することが可能であり、しかも、部分的な伸びに起因する隠蔽ムラを抑制することができる。本発明の複合フィルムによっても、生地の色を隠蔽したうえで生地を装飾することが可能であるとともに、生地を保護することが可能であり、しかも、部分的な伸びに起因する隠蔽ムラを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本実施形態における複合フィルムの概略断面図である。
【
図2】本実施形態におけるラミネート金属板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0037】
<1.複合フィルム>
図1に示すように、本実施形態の複合フィルム7は、塗装代替フィルム8と、保護フィルム9と、を備える。保護フィルム9が、塗装代替フィルム8上に設けられている。具体的には、保護フィルム9が、塗装代替フィルム8のハードコート層83上に設けられている。
【0038】
<1.1.塗装代替フィルム>
塗装代替フィルム8は、基材フィルム81、着色層82およびハードコート層83を備える。基材フィルム81、着色層82およびハードコート層83がこの順で積層されている。
【0039】
<1.1.1.基材フィルム>
基材フィルム81は、生地の色を隠蔽する役割と、生地と着色層82とを接着する役割とを担うことができる。
【0040】
基材フィルム81における波長400nmから700nmの散乱係数は0.20μm-1以上であり、好ましくは0.22μm-1以上である。0.20μm-1以上であることによって、基材フィルム81が、可視光に対して優れた隠蔽力を有するので、生地の色を効果的に隠蔽することができる。散乱係数の上限は特に限定されないところ、たとえば0.50μm-1以下が好ましく、0.40μm-1以下がより好ましい。ここで、散乱係数とは、Kubelka-Munkの理論式を構成する散乱係数を指す。Kubelka-Munkの散乱係数は、隠蔽力の指標であり、散乱係数が大きいほど、隠蔽力が高いことを示す。散乱係数は、たとえば、隠蔽材の種類、隠蔽材の含有量によってコントロールできる。たとえば、隠蔽材の屈折率が大きいほど、隠蔽材の屈折率の、熱可塑性樹脂の屈折率に対する比(つまり、隠蔽材の屈折率/熱可塑性樹脂の屈折率)が大きくなることによって、隠蔽材の表面で反射される光が多くなるため、散乱係数が大きくなる傾向がある。隠蔽材の含有量は多いほど、散乱係数が大きくなる傾向がある。
【0041】
散乱係数は、下記式(1)で算出する。
S={(1-T)/T}/d・・・(1)
ここで、Sは、散乱係数を示し、μm-1で表される。Tは、基材フィルム81(これは、基材フィルム81から切り出した試料であり得る。)の、波長400nmから700nmの全光線透過率の平均値を示し、%で表される。dは、基材フィルム81(これは、基材フィルム81から切り出した試料であり得る。)の厚みを示し、μmで表される。
【0042】
基材フィルム81のコントラスト比(具体的には、伸長なしでのコントラスト比)は0.70以上が好ましく、0.75以上がより好ましい。0.70以上であると、基材フィルム81が、優れた隠蔽力を有するので、生地の色を効果的に隠蔽することができる。基材フィルム81のコントラスト比は、1.00未満であってもよく、0.98未満であってもよい。
【0043】
ここで、コントラスト比とは、基材フィルム81を、黒部と白部とを有する隠蔽率試験紙(具体的には、黒部と白部とを有する、JIS K 5600に基づく隠蔽率試験紙)に熱圧着することによって、基材フィルム81付き隠蔽率試験紙を作製し、基材フィルム81付き隠蔽率試験紙の黒部と白部とから試料を切り出し、これらの試料について、波長400nmから700nmの全光線反射率の平均値を求め、黒部から切り出した試料の平均値(すなわち、波長400nmから700nmの全光線反射率の平均値)を、白部から切り出した試料の平均値(すなわち、波長400nmから700nmの全光線反射率の平均値)で割ることによって、算出される値である。
【0044】
基材フィルム81を20%伸長した際のコントラスト比は0.70以上であり、0.75以上がより好ましい。0.70以上であることによって、基材フィルム81が部分的に伸びた場合に、コントラスト比の変化を抑制できるので、部分的な伸びに起因する隠蔽ムラを効果的に抑制することができる。ここで、塗装代替フィルム8を、車両用の金属板(たとえば、鋼板、アルミニウム合金板など)に設けることによってラミネート金属板を得て、ラミネート金属板を、車両用の外装部材にプレス成形する場合に、隠蔽ムラを特に効果的に抑制することができる。なぜなら、ラミネート金属板をプレス成形する場合には塗装代替フィルム8が部分的に伸びるところ、その伸びが、最大で20%程度であるためである。基材フィルム81を20%伸長した際のコントラスト比は、1.00未満であってもよく、0.98未満であってもよい。コントラスト比は、たとえば、隠蔽材の種類、隠蔽材の含有量、基材フィルム81の厚み(具体的には、生地の色を隠蔽する役割を担う、後述の第一層811の厚み)によってコントロールできる。たとえば、隠蔽材の屈折率が大きいほど、コントラスト比が大きくなる傾向がある。隠蔽材の含有量は多いほど、コントラスト比が大きくなる傾向がある。基材フィルム81の厚みが大きくなるほど、コントラスト比が大きくなる傾向がある。
【0045】
基材フィルム81において、波長400nmから700nmの全光線透過率の最大値と、波長400nmから700nmの全光線透過率の最小値との差(以下、「透過率差」と言う。)は、10%以下が好ましい。10%以下であると、可視光の波長域内で全光線透過率のムラを抑えることができる。
【0046】
基材フィルム81を20%伸長した際の透過率差(以下、「20%透過率差」と言う。)は、10%以下が好ましい。
【0047】
基材フィルム81において、波長400nmから700nmの全光線透過率の平均値(以下、「平均透過率」と言う。)は、20%以下が好ましく、18%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。20%以下であると、生地に到達する光を低減することができるため、生地の色の影響(具体的には、生地の色が、塗装代替フィルム8の色合いに与える影響)を低減することができる。平均透過率は、1%以上であってもよく、3%以上であってもよい。
【0048】
基材フィルム81を20%伸長した際の平均透過率(以下、「20%平均透過率」と言う。)と、平均透過率(具体的には、伸長なしでの平均透過率。すなわち、初期平均透過率。)との差は、絶対値で、10%以下が好ましく、7%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
【0049】
基材フィルム81において、波長400nmから700nmの全光線反射率の平均値(以下、「平均反射率」と言う。)は、50%以上が好ましい。平均反射率は、98%以下であってもよく、95%以下であってもよい。
【0050】
基材フィルム81を20%伸長した際の平均反射率(以下、「20%平均反射率」と言う。)は、50%以上が好ましい。20%伸び平均反射率は、98%以下であってもよく、95%以下であってもよい。
【0051】
100℃下で20%伸長した際の基材フィルム81の引張応力は、1MPa以上が好ましく、3MPa以上がより好ましい。1MPa以上であると、基材フィルム81の伸びムラを抑制することができる。引張応力は、50MPa以下が好ましく、30MPa以下がより好ましい。
【0052】
基材フィルム81の厚みは、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。10μm以上であると、基材フィルム81が部分的に伸びた場合に、伸びた部分の厚みが過度に薄くなることを効果的に防止できるので、伸びた部分の隠蔽力の低下を効果的に抑制できる。その結果、部分的な伸びに起因する隠蔽ムラを効果的に抑制することができる。基材フィルム81の厚みは、150μm以下が好ましく、125μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましく、75μm以下がさらに好ましい。
【0053】
基材フィルム81の厚みが、着色層82の厚みよりも大きいことが好ましい。もちろん、基材フィルム81の厚みが、着色層82の厚みよりも小さくてもよい。
【0054】
基材フィルム81の厚みが、ハードコート層83の厚みよりも大きいことが好ましい。もちろん、基材フィルム81の厚みが、ハードコート層83の厚みよりも小さくてもよい。
【0055】
基材フィルム81は、第一層811、および第一層811上に積層された第二層812を備える。第一層811は、着色層82と、第二層812との間に位置する。第一層811が、生地の色を隠蔽する役割を担う。第二層812が、生地に密着する役割を担う。
【0056】
<1.1.1.1.第一層>
第一層811の厚みは、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。10μm以上であると、第一層811が部分的に伸びた場合に、伸びた部分の厚みが過度に薄くなることを効果的に防止できるので、伸びた部分の隠蔽力の低下を効果的に抑制できる。その結果、部分的な伸びに起因する隠蔽ムラを効果的に抑制することができる。第一層811の厚みは、150μm以下が好ましく、125μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましく、75μm以下がさらに好ましい。150μm以下であると、第一層811の体積が、過度に大きくならないように制限することが可能であるので、隠蔽材の量が過度に多くならないように制限することができる。
【0057】
第一層811の厚みの、基材フィルム81の厚みに対する比(つまり、第一層811の厚み/基材フィルム81の厚み)は、0.50以上が好ましく、0.60以上が好ましい。0.50以上であると、第一層811が部分的に伸びた場合に、伸びた部分の厚みが過度に薄くなることを効果的に防止できるので、伸びた部分の隠蔽力の低下を効果的に抑制できる。その結果、部分的な伸びに起因する隠蔽ムラを効果的に抑制することができる。この比は、0.95以下が好ましく、0.90以下が好ましい。
【0058】
第一層811の結晶化度は20%以上が好ましく、25%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。20%以上であると、応力-ひずみ曲線の傾きが、ひずみの増大に伴って単調に増加する傾向があるので、伸び始めの部分が伸びにくくなるため、第一層811の伸びムラを抑制することができる。これに加えて、着色層82を形成する際に使用され得る有機溶剤によって、第一層811が受け得るダメージを抑えることができる。
【0059】
第一層811は熱可塑性樹脂を含む。これは、第一層811が、熱可塑性樹脂を含む組成物からなる、と言い換えることができる。第一層811が熱可塑性樹脂を含むことによって、第一層811が、外力によって伸びることができる。
【0060】
熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂などを挙げることができる。なかでも、第一層811の伸びムラを抑制することができるという理由から、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂のような結晶性樹脂が好ましい。なぜなら、結晶性樹脂では、応力-ひずみ曲線(具体的には、応力を縦軸に、ひずみを横軸にプロットした応力-ひずみ曲線)の傾きが、ひずみの増大によって小さくなり難いことによって、伸び始めの部分の応力が効果的に増大する傾向があるので、伸び始めの部分が伸びにくくなるためである。なかでも、ポリエステル樹脂がさらに好ましい。なぜなら、着色層82の塗工時の乾燥熱などに耐えることができるためである。なお、これらは、共重合によって変性されていてもよい。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0061】
ポリエステル樹脂としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、共重合ポリエステル樹脂などを挙げることができる。共重合ポリエステル樹脂としては、たとえば、共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂、共重合ポリエチレンナフタレート樹脂などを挙げることができる。なかでも、ポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。なお、共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂については、第二層812で説明するので、重複を避けるために、ここでは説明を省略する。
【0062】
熱可塑性樹脂の含有量は、第一層811を100質量%としたとき(すなわち、第一層811を構成する組成物を100質量%としたとき)、70質量%以上が好ましく、72質量%以上がより好ましく、75質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上がさらに好ましい。70質量%以上であると、延伸によって応力を効果的に付与できる。熱可塑性樹脂の含有量は、第一層811を100質量%としたとき、99質量%以下が好ましく、98質量%以下がより好ましく、97質量%以下がさらに好ましく、96質量%以下がさらに好ましい。
【0063】
第一層811は隠蔽材を含む。これは、第一層811が、隠蔽材を含む組成物からなる、と言い換えることができる。第一層811が隠蔽材を含むことによって、第一層811が、隠蔽力を有するので、生地(たとえば、車両用の金属板)の色を隠蔽することができる。
【0064】
隠蔽材の含有量は、第一層811を100質量%としたとき(すなわち、第一層811を構成する組成物を100質量%としたとき)、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、4質量%以上がさらに好ましい。1質量%以上であると、基材フィルム81の隠蔽力を高めることができる。隠蔽材の含有量は、第一層811を100質量%としたとき、30質量%以下が好ましく、28質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。30質量%以下であると、延伸によって応力を効果的に付与できる。
【0065】
隠蔽材の屈折率は、1.70以上が好ましい。1.70以上であることによって、隠蔽材の表面で反射される光を多くすることができるため、基材フィルム81に、隠蔽力を効果的に付与することができる。隠蔽材の屈折率は、たとえば、8.00以下であってもよく、6.00以下であってもよく、4.00以下であってもよく、3.00以下であってもよい。ここで、屈折率とは、絶対屈折率である。
【0066】
隠蔽材は粒子状をなすことができるところ、隠蔽材の粒子径は、0.10μm以上が好ましく、0.15μm以上がより好ましく、0.20μm以上がさらに好ましい。隠蔽材の粒子径は、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましく、10μm以下がさらに好ましく、3μm以下がさらに好ましい。
【0067】
隠蔽材として、たとえば、アルミニウム粉のような金属粉、酸化チタン粒子、亜鉛華のような金属酸化物などを挙げることができる。これらは、表面処理されていてもよい。なかでも、アルミニウム粉、酸化チタン粒子が好ましい。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0068】
隠蔽材として使用可能なアルミニウム粉としては、たとえば、アルミニウムフレークを挙げることができる。アルミニウムフレークはリーフィングタイプであってもよく、ノンリーフィングタイプであってもよい。
【0069】
アルミニウム粉の粒子径は、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましく、10μm以上がさらに好ましい。1μm以上であると、単位体積を占めるアルミニウム粉の割合が過度に小さくなることを防止できるため、隠蔽力を高めることができる。アルミニウム粉の粒子径は、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましく、10μm以下がさらに好ましく、3μm以下がさらに好ましい。30μm以下であると、アルミニウム粉同士の隙間を狭めることが可能であるため、隠蔽力を高めることができる。
【0070】
アルミニウム粉の含有量は、第一層811を100質量%としたとき(すなわち、第一層811を構成する組成物を100質量%としたとき)、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、4質量%以上がさらに好ましい。1質量%以上であると、隠蔽力を高めることができる。アルミニウム粉の含有量は、第一層811を100質量%としたとき、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、12質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。20質量%以下であると、延伸によって応力を効果的に付与できる。
【0071】
隠蔽材として使用可能な酸化チタン粒子としては、アナターセ型チタンやルチル型チタンなどを挙げることができる。なかでも、隠蔽力が優れていることからルチル型チタンが好ましい。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0072】
酸化チタン粒子の粒子径は、0.05μm以上が好ましく、0.10μm以上がより好ましく、0.15μm以上がさらに好ましい。0.05μm以上であると、単位体積を占める酸化チタン粒子の割合が過度に小さくなることを防止できるため、隠蔽力を高めることができる。酸化チタン粒子の粒子径は、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。10μm以下であると、酸化チタン粒子同士の隙間を狭めることが可能であるため、隠蔽力を高めることができる。
【0073】
酸化チタン粒子の含有量は、第一層811を100質量%としたとき(すなわち、第一層811を構成する組成物を100質量%としたとき)、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、7質量%以上がさらに好ましい。1質量%以上であると、隠蔽力を高めることができる。酸化チタン粒子の含有量は、第一層811を100質量%としたとき、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。40質量%以下であると、延伸によって応力を効果的に付与できる。
【0074】
第一層811は、ほかの添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、たとえば、染料、蛍光増白剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤などを挙げることができる。
【0075】
<1.1.1.2.第二層>
第二層812の厚みは、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましい。1μm以上であると、生地の表面粗さ(つまり凹凸)を埋めることが可能であるので、生地への密着性に優れる。第二層812の厚みは、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。
【0076】
第二層812は熱可塑性樹脂を含む。これは、第二層812が、熱可塑性樹脂を含む組成物からなる、と言い換えることができる。第二層812が熱可塑性樹脂を含むことによって、塗装代替フィルム8を生地に融着することができる。
【0077】
熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂などを挙げることができる。なかでも、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂のような結晶性樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂がさらに好ましい。なお、これらは、共重合によって変性されていてもよい。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0078】
ポリエステル樹脂としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、共重合ポリエステル樹脂などを挙げることができる。共重合ポリエステル樹脂としては、たとえば、共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂、共重合ポリエチレンナフタレート樹脂などを挙げることができる。なかでも、共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0079】
共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂は、エチレンテレフタレートで構成される単位(以下、「エチレンテレフタレート単位」という。)を含む。エチレンテレフタレート単位は、全繰返し単位中、70モル%以上が好ましく、75モル%以上がより好ましい。エチレンテレフタレート単位は、全繰返し単位中、98モル%以下であってもよく、95モル%以下であってもよく、90モル%以下であってもよい。
【0080】
共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を得るための共重合成分、特にジカルボン酸としては、たとえば、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族カルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環族ジカルボン酸などを挙げることができる。なかでも、イソフタル酸が好ましい。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を得るための共重合成分、特にジオールとしては、ブタンジオール、ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノールのような脂環族ジオールなどを挙げることができる。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0081】
熱可塑性樹脂の含有量は、第二層812を100質量%としたとき(すなわち、第二層812を構成する組成物を100質量%としたとき)、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。80質量%以上であると、塗装代替フィルム8を生地に良好に融着することができる。
【0082】
第二層812は隠蔽材を含んでいてもよく、含んでいなくともよい。隠蔽材としては、第一層811で説明した隠蔽材を例示することができる。第二層812に隠蔽材を含む場合、隠蔽材の含有量は、第二層812を100質量%としたとき(すなわち、第二層812を構成する組成物を100質量%としたとき)、20質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。20質量%以上であると、塗装代替フィルム8を生地に良好に融着することができる。
【0083】
第二層812は、ほかの添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、たとえば、染料、蛍光増白剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤などを挙げることができる。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0084】
<1.1.1.3.基材フィルムの作製方法>
基材フィルム81は、たとえば、第一層811を形成するための原料を第一の押出機に供給するとともに、第二層812を形成するための原料を第二の押出機に供給し、次いで、第一の押出機からフィードブロックに成形材料を導くとともに、第二の押出機から成形材料をフィードブロックに導き、フィードブロックでこれら成形材料を積層し、次いで、ダイからシートを溶融押出しし、次いで、このシートを冷却ロールで固化し、必要に応じて二軸延伸する、という手順で作製することができる。二軸延伸によって、結晶化度を高めることができる。二軸延伸は、縦横同時二軸延伸であってもよく、逐次二軸延伸であってもよい。なかでも、逐次二軸延伸が好ましい。逐次二軸延伸では、たとえば、冷却ロールを経たシートを、縦方向すなわちMachine Direction(以下、「MD」と言う。)方向に延伸し、MD方向延伸後のシートを、横方向すなわちTransverse Direction(以下、「TD」と言う。)方向に延伸することが好ましい。MD方向の延伸温度、MD方向の延伸倍率、TD方向の延伸温度、およびTD方向の延伸倍率は適宜設定することができる。MD方向の延伸倍率と、TD方向の延伸倍率との積(以下、「面倍」と言う。)は、9.0倍~20倍が好ましい。なお、一回目の延伸(たとえばMD方向の延伸)と、二回目の延伸(たとえばTD方向の延伸)との間に、必要に応じてシートに表面処理のような加工を施してもよい。
【0085】
これとは別の方法に関して、たとえば、基材フィルム81は、第一層811を形成するための原料を押出機に供給し、ダイからシートを溶融押出しし、このシートを冷却ロールで固化し、必要に応じて二軸延伸することで第一層811を作製し、第一層811上に第二層812をコーティングで形成する、という手順で作製することもできる。
【0086】
<1.1.2.着色層>
着色層82は、生地を装飾する役割を担う。着色層82は、バインダーと、顔料および染料の少なくとも一方とを含むことが好ましい。着色層82がバインダーを含むことによって、塗装代替フィルム8が伸びた際に、着色層82にクラックが生じることを防止できる。バインダーは、透明性を有することが好ましい。バインダーとしては、たとえば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、PVDF(ポリフッ化ビニルデン)などを挙げることができる。なかでも、アクリル樹脂が好ましい。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。また、これらの樹脂は共重合されていても良い。顔料や染料としては、たとえば、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー、アルミニウム、真鍮、二酸化チタン、真珠光沢顔料などを挙げることができる。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。調色のために、そのほかの着色剤や、添加剤を使用してもよい。
【0087】
着色層82の厚みは、2μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。着色層82の厚みは、100μm以下が好ましく、75μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましく、45μm以下がさらに好ましく、30μm以下がさらに好ましい。なお、着色層82は、単層構成であってもよく、複層構成であってもよい。
【0088】
着色層82は、基材フィルム81の第一層811上に、任意の方法で形成することができる。たとえば、コーティング、溶融押出、ラミネートなどによって、着色層82を形成することができる。なかでも、着色層82を容易に形成できるという理由でコーティングが好ましい。
【0089】
<1.1.3.ハードコート層>
ハードコート層83は、着色層82を保護する役割を担う。ハードコート層83が、着色層82の硬度よりも高い硬度を有することができる。ハードコート層83は、透明性を有することが好ましい。
【0090】
ハードコート層83が、硬化性を有することが好ましく、熱硬化性を有することがより好ましい。ハードコート層83の硬化状態は、半硬化であること、つまりBステージであることが好ましい。これにより、ハードコート層83を外力によって変形させることができるため、塗装代替フィルム8を、生地の形状や、生地の形状の変形に追従させることができるとともに、後ほど硬化させることが可能できるため、硬化させることによって着色層82を効果的に保護することができる。
【0091】
ハードコート層83が、たとえば、樹脂および架橋剤を含むことができる。樹脂としては、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂は一種以上用いても良いし、共重合されていても良い。架橋剤は、適宜選択して使用することができる。ハードコート層83が、ほかの添加剤を含んでいてもよい。
【0092】
ハードコート層83の厚みは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましい。5μm以上であると、着色層82、基材フィルム81および生地の損傷を効果的に防止することができる。ハードコート層83の厚みは、100μm以下が好ましく、75μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましく、50μm以下がさらに好ましく、40μm以下がさらに好ましい。なぜなら、ハードコート層83の厚みが薄いほど、経済的であるためである。なお、厚みが厚いほど、色彩に深みを出すことが可能であるので、適宜厚みを調整することが好ましい。なお、ハードコート層83は、単層構成であってもよく、複層構成であってもよい。
【0093】
ハードコート層83は、着色層82上に、任意の方法で形成することができる。たとえば、コーティング、溶融押出、ラミネートなどによって、ハードコート層83を形成することができる。ハードコート層83を容易に形成できるという理由でコーティングが好ましい。なお、二層構成のハードコート層83を形成するために塗料を二度コーティングする場合、一度目と二度目とで乾燥条件を変えて、各層の硬化度合を調整してもよい。
【0094】
<1.2.保護フィルム>
保護フィルム9は、塗装代替フィルム8からはく離されることが予定されているものの、はく離されるまではハードコート層83を保護する役割を担うことができる。つまり、保護フィルム9が、ハードコート層83を傷から守る役割を担う。なお、保護フィルム9が、透明性を有することが好ましい。
【0095】
保護フィルム9の厚みは、10μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましく、38μm以上がさらに好ましい。10μm以上であると、剛性に優れる。保護フィルム9の厚みは、150μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、75μm以下がさらに好ましく、50μm以下がさらに好ましい。なぜなら、保護フィルム9の厚みが薄いほど、経済的であるためである。なお、保護フィルム9は、単層構成であってもよく、複層構成であってもよい。
【0096】
保護フィルム9の両面のうち、少なくともハードコート層83に接する面の表面粗さは1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。10nm以上であると、保護フィルム9の搬送性が良好であるため、取扱い性が良好である。表面粗さは、1000nm以下が好ましく、800nm以下がより好ましく、500nm以下がさらに好ましい。保護フィルム9の表面形状が、ハードコート層83に転写され得るところ、表面粗さが1000nm以下であると、それによってハードコート層83の外観が悪化することを防止できる。
【0097】
保護フィルム9の両面のうち、少なくともハードコート層83に接する面が、はく離処理されていることが好ましい。はく離処理では、たとえば、シリコーン系はく離剤、ふっ素系はく離剤、長鎖脂肪族系はく離剤を使用することができる。なかでも、安価であるという理由で、シリコーン系はく離剤が好ましい。
【0098】
保護フィルム9は熱可塑性樹脂を含むことができる。熱可塑性樹脂としては、動的粘弾性測定における損失弾性率の貯蔵弾性率に対する比(すなわちtanδ)の主ピークを示す温度が80℃以上であることが好ましい。80℃以上であると、耐熱性が良好であるので、複合フィルム7の搬送時に複合フィルム7にかかる張力によって歪みが生じにくいため、歪みによってハードコート層83の表面が粗くなることを防止できる。主ピークを示す温度の上限は特に設定されない。耐熱性が良好であるとともに、保護フィルム9をラミネートするときにシワが入りにくいという理由で、熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂であることが好ましい。ポリエステル樹脂としては、第一層811で説明したポリエステル樹脂を例示することができる。なお、第一層811でポリエステル樹脂を使用する場合、保護フィルム9にもポリエステル樹脂を使用することが好ましい。
【0099】
保護フィルム9は、塗装代替フィルム8のハードコート層83上に、任意の方法で形成することができる。たとえば、コーティング、溶融押出、ラミネートなどによって、保護フィルム9を形成することができる。なかでも、容易であるという理由で、ラミネートが好ましい。
【0100】
<2.ラミネート金属板、加工品および成型品>
図2に示すように、ラミネート金属板4は、金属板5と、金属板5にラミネートされた複合フィルム7とを備える。金属板5としては、たとえば、鋼板、アルミニウム合金板、マグネシウム合金板などのような合金板を挙げることができる。なかでも、鋼板が好ましい。これらは、亜鉛合金めっきのような前処理が施されていてもよい。なお、この図には、金属板5の両面のうち一方の面に、複合フィルム7が設けられた様子を示しているものの、複合フィルム7は、金属板5の両面に設けられていてもよい。
【0101】
ラミネート金属板4は、たとえば、加熱された金属板5に、複合フィルム7を構成する基材フィルム81(より詳しくは、基材フィルム81の第二層812)が接するように複合フィルム7を熱圧着し、冷却することで、得ることができる。これは、ロールtоロールでおこなうことができる。なお、複合フィルム7に代えて、塗装代替フィルム8を金属板5に熱圧着してもよい。
【0102】
ラミネート金属板4を、所望の形状(たとえば、フェンダの形状、ボンネットの形状など)にプレス成形することで加工品を得ることができる。なお、プレス成形の後には、ハードコート層83をCステージに硬化させることができる。このようにして得られた加工品は、車両用の部材、たとえば、内装部材、外装部材などであることができる。なかでも、車両用の外装部材であることが好ましい。なお、車両としては、たとえば、自動車、鉄道車両、飛行機などを挙げることができる。なかでも、自動車が好ましい。自動車のような車両に加工品が使用される場合には、加工品が、車両用の金属部材と、金属部材の表面の少なくとも一部に設けられた複合フィルム7または塗装代替フィルム8と、を備える、と言うことができる。
【0103】
いっぽう、成型品は、車両用の樹脂部材と、樹脂部材の表面の少なくとも一部に密着した塗装代替フィルム8とを備える。樹脂部材は熱可塑性樹脂を含むことができる。これは、樹脂部材が、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなる、と言い換えることができる。熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂などを挙げることができる。なかでも、ポリオレフィン樹脂が好ましい。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。樹脂組成物は、強化繊維を含んでいてもよい。樹脂組成物は、添加剤を含んでいてもよい。
【0104】
成型品は、たとえば、塗装代替フィルム8を、金型のキャビティに挿入し、キャビティに樹脂組成物を注入することで、作製することができる。つまり、インモールド成形で成型品を作製することができる。ここで、塗装代替フィルム8を構成する基材フィルム81(より詳しくは、基材フィルム81の第二層812)が樹脂組成物と接することができるように、塗装代替フィルム8を金型に挿入する。インモールド成形では、塗装代替フィルム8の挿入から樹脂組成物の注入までに、ハードコート層83を硬化させてもよく、樹脂組成物の注入から型開きまでにハードコート層83を硬化させてもよい。なお、塗装代替フィルム8に代えて、複合フィルム7を金型に挿入してもよい。
【0105】
このようにして得られた成型品も、車両用の部材、たとえば、内装部材、外装部材などであることができる。なかでも、車両用の外装部材であることが好ましい。なお、車両としては、たとえば、自動車、鉄道車両、飛行機などを挙げることができる。なかでも、自動車が好ましい。
【0106】
<3.上述の実施形態には種々の変更を加えることができる>
上述の実施形態には、種々の変更を加えることができる。たとえば、以下の変形例から、一つまたは複数を選択して、上述の実施形態に変更を加えることができる。
【0107】
上述の実施形態では、第一層811が、生地を隠蔽する役割を担い、第二層812が、生地に密着する役割を担う、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、第二層812が、生地を隠蔽する役割と、生地に密着する役割との両者を担う、という構成でもよい。なお、この場合、第一層811が透明性を有することが好ましい。
【0108】
上述の実施形態では、基材フィルム81が、第一層811および第二層812を備える、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、基材フィルム81が単層構成である、という構成でもよい。この場合の基材フィルム81の説明は、上述の第一層811の説明と重複するため省略する。上述の第一層811の説明は、単層構成の基材フィルム81の説明として扱われることができる。いっぽう、基材フィルム81が、第一層811および第二層812の間に第三層(図示していない)を含む、という構成でもよい。第三層は、熱可塑性樹脂を含むことができる。熱可塑性樹脂としては、第一層811で説明した熱可塑性樹脂を例示することができる。第三層は、隠蔽材を含んでいてもよく、ほかの添加剤などを含んでいてもよい。
【0109】
上述の実施形態では、基材フィルム81が、生地と着色層82とを接着する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、基材フィルム81の両面を、着色層82が設けられた面(以下、「第一面」と言う。)と、第一面とは反対側の面(以下、「第二面」と言う。)と呼ぶとき、第二面上に、接着剤からなる接着層が積層されている、という構成でもよい。このように、接着層、基材フィルム81、着色層82およびハードコート層83がこの順で積層されていることができる。つまり、塗装代替フィルム8は、接着層を有していてもよい。なお、接着層上にはセパレータが設けられていてもよい。
【0110】
上述の実施形態では、複合フィルム7または塗装代替フィルム8を、金属板5に熱圧着する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、金属板5を、所望の形状(たとえば、フェンダの形状、ボンネットの形状など)にプレス成形し、これに、複合フィルム7または塗装代替フィルム8を熱圧着してもよい。
【0111】
上述の実施形態では、インモールド成形で成型品を作製する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、成型品を作製するために、樹脂部材を成形し、樹脂部材に、複合フィルム7または塗装代替フィルム8を熱圧着する、という構成でもよい。
【0112】
上述の実施形態では、複合フィルム7または塗装代替フィルム8を用いて、ラミネート金属板4、加工品、および成型品を作製する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。
【実施例】
【0113】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ質量部および質量%を意味する。
【0114】
<各特性の測定方法>
(1)厚み
基材フィルムの厚みを、打点式の膜厚測定機(マイクロメータ:(株)ミツトヨ社製)を用いて、基材フィルムの幅方向に50mm間隔で10点測定した。その平均値を、基材フィルムの厚みとして表1に示す。着色層の厚みは、着色層を基材フィルムに設けた後に、基材フィルムおよび着色層の合計厚みを同様の方法で測定し、合計厚みから基材フィルムの厚みを差し引くことによって求めた。ハードコート層の厚みは、ハードコート層を着色層に設けた後に、基材フィルム、着色層およびハードコート層の合計厚みを同様の方法で測定し、合計厚みから、着色層の厚みと基材フィルムの厚みとを差し引くことによって求めた。
【0115】
(2)平均透過率(波長400nmから700nmの全光線透過率の平均値)
分光光度計(島津製作所製UV-3101PC)を用いて、積分球方式で試料(具体的には、基材フィルムから切り出した試料)を透過した光の可視光波長での透過率を測定した。測定結果としての波長400nmから波長700nmの全光線透過率から平均値を算出した。これを平均透過率として表1に示す。
【0116】
(3)平均反射率(波長400nmから700nmの全光線反射率の平均値)
分光光度計(島津製作所製UV-3101PC)を用いて、試料(具体的には、基材フィルムから切り出した試料)で反射した光の可視光波長での全光線反射率を測定した。この際受光部は8°であった。測定結果としての波長400nmから波長700nmの全光線反射率から平均値を算出した。これを平均反射率として表1に示す
【0117】
(4)散乱係数
散乱効果による隠蔽力の指標としての、Kubelka-Munkの散乱係数Sを、下記式(1)にて算出した。
S={(1-T)/T}/d・・・(1)
ここで、Tは、試料(具体的には、基材フィルムから切り出した試料)の、平均透過率(すなわち、波長400nmから700nmの全光線透過率の平均値)を示し、%で表される。dは、試料の厚みを示し、μmで表される。したがい、散乱係数Sは、μm-1という次元を有する数値として算出される。
【0118】
(5)コントラスト比
黒部と白部とを有する、JIS K 5600に基づく隠蔽率試験紙(TP技研社製タテ白黒Aタイプ)に、基材フィルムを100℃でロールラミネートして圧着することによって、基材フィルム付き隠蔽率試験紙を得た。基材フィルム付き隠蔽率試験紙の黒部と白部とから試料を切り出し、これらの試料について平均反射率(すなわち、波長400nmから700nmの全光線反射率の平均値)を、上述の方法で測定した。黒部から切り出した試料の平均反射率をRBとして、白部から切り出した試料の平均反射率をRWとして表1に示す。RBをRWで割ることによって、つまり、下記式(2)によってコントラスト比を算出した。なお、基材フィルムと隠蔽率試験紙とが強固に密着していなかったものの、十分に密着した状態であると言える。
コントラスト比=RB/RW・・・(2)
【0119】
<実施例1~5および比較例3>
(1)塗装代替フィルムの作製
塗装代替フィルムを作製するため、まず基材フィルムを作成した。基材フィルムの第一層を形成するために、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、およびグリコール成分としてエチレングリコールからなるポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)と、隠蔽材とを、表1にしたがって用いた。基材フィルムの第二層を形成するために、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸およびイソフタル酸と、グリコール成分としてエチレングリコールとからなる共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(共重合PET)を、表1にしたがって用いた。
160℃で4時間乾燥後のポリエチレンテレフタレート樹脂、および隠蔽材を第一の押出機に供給するとともに、160℃で4時間乾燥後の共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を第二の押出機に供給した。第一の押出機からフィードブロックに成形材料を導くとともに、第二の押出機から成形材料をフィードブロックに導き、フィードブロックでこれら成形材料を積層し、ダイから溶融押出しした。ダイから出てきたシートを、冷却ロールでガラス化し、90℃で縦延伸を行い、リバース式のロールコーターにて両面にアクリル樹脂で表面コーティングを行い、その後100℃で横延伸を行い、ロール状に巻きとった。このようにして、ポリエチレンテレフタレート樹脂および隠蔽材を含む第一層と、共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む第二層とを備える、面倍11倍に延伸された基材フィルムを得た。
基材フィルムを繰り出し、基材フィルムの第一層上に、着色層をコンマコーターで塗工した。着色層を形成するために、アクリルウレタン系樹脂および10質量%のアルミ顔料を含有し、不揮発成分が35質量%の溶剤塗料を用いた。着色層の厚みが20μmになるように塗工を行い、90℃の乾燥炉で乾燥後、巻き取りした。
このようにして得られた原反(すなわち、着色層を有する原反)を繰り出し、後述のハードコート用塗料を、ハードコート層の厚みが30μmとなるようにコンマコーターで着色層上に塗工し、90℃の乾燥炉で十分に乾燥を行った。
このような手順で塗装代替フィルムを得た。塗装代替フィルムを構成するハードコート層は半硬化状態であった。
【0120】
(2)複合フィルムの作製
セパレータ(はく離処理された二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム)を、塗装代替フィルムを構成するハードコート層上にラミネートし、ロール状に巻きとり、
図1に示すような複合フィルムを得た。
【0121】
(3)ハードコート用塗料
冷却管、撹拌装置、温度計、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、メチルイソブチルケトンを150質量部仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら昇温した。フラスコ内の温度が74℃になったらこの温度を合成温度として維持し、メタクリル酸メチル3質量部、メタクリル酸n-ブチル82.54質量部、アクリル酸-4-ヒドロキシブチル12.85質量部、メタクリル酸0.61質量部、ファンクリルFA-711MM(日立化成社製、メタクリル酸-ペンタメチルピペリジニル) 1質量部、およびアゾビスイソブチロニトリル0.1質量部を混合したモノマー溶液を2時間かけてフラスコに滴下した。モノマー滴下終了1時間後から1時間毎に、アゾビスイソブチロニトリルを0.02質量部ずつ加えて反応を続け、モノマー溶液中の未反応モノマーが1%以下になるまで反応を続けた。未反応モノマーが1%以下になったら冷却して反応を終了し、固形分約40質量%のアクリル系共重合体溶液を得た。このアクリル系共重合体溶液に、ポリイソシアネート化合物としてデュラネート「P301-75E」(旭化成ケミカルズ社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアネート体)59.9質量部(固形質量)を加え、さらに固形分が30質量%となるようにメチルイソブチルケトンを加えて撹拌し、ハードコート用塗料を得た。
【0122】
(4)隠蔽材
アルミ粉 東洋アルミニウム(株)製のPCF7130
酸化チタン粒子 堺化学工業(株)製のR42
炭酸カルシウム 丸尾カルシウム(株)製のカルファイン200
【0123】
<比較例1>
隠蔽材を使用しなかったこと以外は、実施例3と同じ要領で基材フィルムを作製した。アルミ顔料を使用しなかったこと以外は、実施例3と同じ要領で着色層を形成した。これら以外は、実施例3と同じ要領で複合フィルムを作製した。
【0124】
<比較例2>
基材フィルムを構成する第一層上に、アルミコート層を形成したこと以外は、実施例3と同じ要領で複合フィルムを作製した。この複合フィルムでは、基材フィルム、アルミコート層、着色層およびハードコート層がこの順で積層されていた。なお、アルミコート層はバインダーを含んでいなかった。
【0125】
<表1についての補足説明>
表1に示す「共重合量」とは、共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂の全繰返し単位を100モル%としたときの、イソフタル酸およびエチレングリコールで構成される単位の量である。
表1に示す「基材フィルム付き生地」とは、基材フィルムの第二層が生地(隠蔽率試験紙または亜鉛メッキ鋼板)に接するように、基材フィルムを生地に熱圧着することによって作製されたものである。なお、比較例2に限っては、基材フィルム付き生地が、アルミコートを有する。
表1に示す「20%伸長基材フィルム付き生地」とは、基材フィルムを20%伸長した後、基材フィルムの第二層が生地(隠蔽率試験紙または亜鉛メッキ鋼板)に接するように、20%伸長を維持したままで基材フィルムを生地に熱圧着することによって作製されたものである。なお、比較例2に限っては、20%伸長基材フィルム付き生地が、アルミコートを有する。
表1に示す「平均反射率差」とは、基材フィルムの状態で測定した平均反射率(すなわち、波長400nmから700nmの全光線反射率の平均値)と、基材フィルム付き生地の状態で測定した平均反射率との差の絶対値である。
【0126】
【0127】
実施例1~5では、散乱係数が高かった。20%伸長時のコントラスト比(すなわち、RB20/RW20)も高かった。
【0128】
いっぽう、比較例1では、基材フィルムを構成する第一層が隠蔽材を含まなかったため、散乱係数が極めて小さく、伸長なしでのコントラスト比が極めて小さく、20%伸長時のコントラスト比も極めて小さかった。比較例2では、20%伸長によって、隠蔽力を有するアルミコートが割れたため、20%伸長時のコントラスト比が低かった。比較例3では、隠蔽材の屈折率が小さかったため、散乱係数が小さく、伸長なしでのコントラスト比が小さく、20%伸長時のコントラスト比も小さかった。
【0129】
7…複合フィルム、8…塗装代替フィルム、9…保護フィルム、81…基材フィルム、82…着色層、83…ハードコート層、811…第一層、812…第二層、4…ラミネート金属板、5…金属板