(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】鉛化合物の付着した電解用電極から鉛化合物を含む電極表面付着物を除去する方法
(51)【国際特許分類】
C25D 21/00 20060101AFI20230525BHJP
C23G 1/02 20060101ALI20230525BHJP
C23G 1/14 20060101ALI20230525BHJP
C25C 7/02 20060101ALI20230525BHJP
C25D 17/12 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
C25D21/00 J
C23G1/02
C23G1/14
C25C7/02 302L
C25D17/12 B
(21)【出願番号】P 2019172596
(22)【出願日】2019-09-24
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2018217922
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(72)【発明者】
【氏名】岩田 学
(72)【発明者】
【氏名】寺田 宏一
(72)【発明者】
【氏名】松井 尚平
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-150700(JP,A)
【文献】特開平09-256184(JP,A)
【文献】特表2010-516891(JP,A)
【文献】特開平06-128799(JP,A)
【文献】特開2016-003346(JP,A)
【文献】特開平09-209194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 21/00~21/22
C25D 17/10~17/14
C25B 11/00~11/097
C25C 1/12
C25C 7/02
C23G 1/02~1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に鉛化合物を含む電極表面付着物が付着した電解用電極を、
1質量%から48質量%のアルカリ水溶液に
0℃~90℃の範囲で10分~10時間浸漬するアルカリ浸漬工程と、
アルカリ浸漬工程後に、有機酸に浸漬する酸処理工程に付することにより、電解用電極表面に付着した鉛化合物を含む電極表面付着物を除去する方法であって、
前記アルカリ水溶液が、アンモニア水、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物
、若しくは炭酸塩の水溶液である。
【請求項9】
前記金属がチタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム及びハフニウムから選択される1種以上の金属または金属酸化物若しくはその合金である請求項
8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解銅箔製造、または銅メッキ等の工業電解における電解により、表面に鉛化合物を含む電極表面付着物が付着した電解用電極から電極表面付着物を除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電解銅箔製造、または銅メッキ等の工業電解における電解においては、チタン、タンタル等のバルブメタル、またはバルブメタル合金からなる電極基体の表面に、直接、イリジウム酸化物を含有する電極触媒層が被覆された酸素発生用電極が用いられている。
【0003】
しかしながら、この種の酸素発生用電極は、一定期間以上使用すると、チタン、タンタル等のバルブメタル、またはバルブメタル合金からなる電極基体とイリジウム酸化物等の電極触媒層との界面が腐食し、電極基体の表面に不働態層が形成されるため電解を行うことが困難となる。そのため、電極基体表面を新しい表面が出るまで物理的方法で削るか、若しくは新たに電解用電極を電極基体から製作する必要があった。
【0004】
また、酸素発生用電極として、チタン、タンタル等のバルブメタル、またはバルブメタル合金からなる電極基体の表面に、0.5~20μmのタンタル、ニオブ等の金属、または金属酸化物、若しくは金属合金を含む層を形成し、該層の表面にイリジウム酸化物を含有する電極触媒層が被覆された電解用電極を用いた場合、電極基体と触媒層の界面腐食が抑制されることが分かっている。
【0005】
しかしながら、上記酸素発生用電極であっても、これを電解銅箔製造、または銅メッキにおける電解に使用した場合、電解用電極の電極表面に、硫酸鉛または酸化鉛を含む鉛化合物が付着する。電解時においては、電解液中に含まれる鉛は、良導電体である酸化鉛として電極表面に付着するが、電解停止時には、導電体の酸化鉛から不良導電体である硫酸鉛に変化する。更に、電極表面付着物である鉛化合物(硫酸鉛、または酸化鉛)は、電解開始・停止時若しくは電解中に、電解用電極の表面から脱落する。その結果、上記の酸素発生用電極は、電解用電極として、電流分布が不均一となり、銅箔厚み不良の原因となり、電解用電極として長期間、継続使用できないという課題を有していた。
【0006】
このような場合、上記酸素発生用電極は、電解に使用した電解用電極の表面を物理的に研磨、洗浄することでこすり落とすか、あるいは濃硝酸と過酸化水素水の混合溶液に電解用電極を浸漬する酸処理工程の後、高圧で水洗することにより、鉛化合物を含む電極表面付着物を除去していた(特許文献1)。
しかるに、上記酸素発生用電極は、連続で3ヶ月使用した場合、前記研磨、洗浄処理による電解用電極表面から鉛化合物を含む電極付着物を除去することは困難であった。
また、前記酸処理工程を用いる電解用電極から鉛化合物を含む電極付着物の除去方法は、鉛化合物を含む電極付着物の除去性には優れるが、取扱いにくい過酸化水素水を用いる点、環境負荷が大きい硝酸を用いる点等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来法の課題を解消し、電解銅箔製造、または銅メッキ等の工業電解における電解により、表面に鉛化合物を含む電極表面付着物が付着した電解用電極、特に、バルブメタル、またはバルブメタル合金からなる電極基体の表面にタンタル、ニオブ等の金属または金属酸化物、若しくは金属合金を含む層(中間層)を形成し、該層(中間層)の表面に電極触媒層が被覆された電解用電極の表面に付着した、鉛化合物を含む電極表面付着物を効率的に除去することができ、安全且つ環境負荷の低い除去方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の電解用電極表面からの鉛化合物を含む電極付着物の除去方法を提供することにある。
【0010】
項1. 表面に鉛化合物を含む電極表面付着物が付着した電解用電極を、
アルカリ水溶液に浸漬するアルカリ浸漬工程と、
有機酸に浸漬する酸処理工程に付することにより、電解用電極表面に付着した鉛化合物を含む電極表面付着物を除去する方法。
項2. アルカリ浸漬工程後、及び/または酸処理工程後に、表面洗浄工程に付することを特徴とする項1に記載の方法。
項3. 有機酸が、カルボン酸、またはスルホン酸である項1または2に記載の方法。
項4. 有機酸が酢酸、ギ酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸から選択される1種以上である項1から3の何れかに記載の方法。
項5. アルカリ水溶液が、アンモニア水、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩の水溶液である項1から4の何れかに記載の方法。
項6. アルカリ水溶液が、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウムの水溶液である項1から5の何れかに記載の方法。
項7. 鉛化合物が、硫酸鉛、または酸化鉛である項1から6の何れかに記載の方法。
項8. 電解用電極が、該電極表面に白金族金属、またはその酸化物を含有する電極触媒層が被覆された電解用電極である項1から7の何れかに記載の方法。
項9. 電解用電極が、バルブメタル、またはバルブメタル合金からなる電極基体の表面に金属、または金属酸化物、若しくは金属合金を含む層(中間層)が被覆された電解用電極である項1から8の何れかに記載の方法。
項10. 前記金属がチタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム及びハフニウムから選択される1種以上の金属または金属酸化物、若しくはその合金である項9に記載の方法。
項11. 表面に鉛化合物を含む電極表面付着物が付着した電解用電極を、
電解用電極表面にアルカリ水溶液を塗布するアルカリ塗布工程に付することにより、電解用電極表面に付着した鉛化合物を含む電極表面付着物を除去する方法。
項12. アルカリ塗布工程後に、電解用電極を乾燥工程に付することを特徴とする項11に記載の方法。
項13. 乾燥工程後に、表面洗浄工程に付することを特徴とする項11または項12に記載の方法。
項14. アルカリ水溶液が、アンモニア水、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、若しくは炭酸塩の水溶液である項11から13の何れかに記載の方法。
項15. アルカリ水溶液が、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウムの水溶液である項11から14の何れかに記載の方法。
項16. 鉛化合物が、硫酸鉛、または酸化鉛である項11から15の何れかに記載の方法。
項17. 電解用電極が、該電極表面に白金族金属、またはその酸化物を含有する電極触媒層が被覆された電解用電極である項11から16の何れかに記載の方法。
項18. 電解用電極が、バルブメタルまたはバルブメタル合金からなる電極基体の表面に金属、または金属酸化物、若しくは金属合金を含む層(中間層)が被覆された電解用電極である項11から17の何れかに記載の方法。
項19. 前記金属がチタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム及びハフニウムから選択される1種以上の金属または金属酸化物、若しくはその合金である項18に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電解用電極表面から鉛化合物を含む電極付着物の除去方法によれば、電解用電極表面に付着した鉛化合物である硫酸鉛、または酸化鉛を含む電極表面付着物を水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液に浸漬するアルカリ浸漬工程に付することよって、硫酸鉛または酸化鉛を水酸化鉛または炭酸鉛に変換させ、次いで水酸化鉛または炭酸鉛を含む電極表面付着物を有機酸(例えば、カルボン酸またはスルホン酸等)に浸漬する酸処理工程に付することによって、水酸化鉛または炭酸鉛を除去(溶解)することができる。
また、電解用電極表面に付着した鉛化合物(硫酸鉛または酸化鉛)を含む電極表面付着物に、水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液を塗布するアルカリ塗布工程によって、硫酸鉛または酸化鉛を水酸化鉛または炭酸鉛に変化させ、水酸化鉛または炭酸鉛を除去可能となる。
【0012】
更に、アルカリ浸漬工程と酸処理工程、またはアルカリ塗布工程に付した後、電解用電極表面に残存する鉛化合物(水酸化鉛または炭酸鉛)を、ブラシ等を用いたブラッシングによる表面洗浄工程に付することによって、物理的に除去することが出来るため、鉛化合物である電極表面付着物を効果的に除去することが可能となる。
【0013】
本発明の除去方法は、酸処理工程を用いる場合、用いる酸は、鉱酸等の強酸ではなく、安全且つ環境負荷の低い有機酸を用いるか、または酸処理工程を用いないため、安全且つ環境負荷の低く、電解用電極表面から鉛化合物を含む電極付着物の除去効率に優れる除去方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0015】
(アルカリ浸漬工程)
電解用電極が、金属箔製造用(例えば、銅箔製造用)である場合、電解用電極の表面には、鉛化合物を含む電極表面付着物が付着し、電解用電極の電極性能が阻害される。このような場合、表面に鉛化合物(例えば、硫酸鉛、または酸化鉛等)を含む電極表面付着物が付着した(電極性能が阻害されている)電解用電極を、アルカリ浸漬工程に付することで電解用電極表面に付着した鉛化合物を含む電極表面付着物を除去することができる。
【0016】
具体的には、アンモニア水、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、若しくは炭酸塩等のアルカリ水溶液に、電解用電極を数時間程度浸漬することで、鉛化合物を含む電極表面付着物中の硫酸鉛または酸化鉛を水酸化鉛または炭酸鉛へ変換させることができる。
【0017】
また、電解用電極が、金属メッキ用(例えば、銅メッキ用)である場合、電解用電極の表面には、鉛化合物である硫酸鉛を含む電極表面付着物が付着し、電解用電極の電極性能が阻害される。このような場合、表面に鉛化合物を含む電極付着物が付着した(電極性能が阻害されている)電解用電極を、アルカリ浸漬工程に付することで、電解用電極表面に付着した鉛化合物を含む電極表面付着物を除去することができる。
【0018】
具体的には、アンモニア水、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、若しくは炭酸塩等のアルカリ水溶液に電解用電極を数時間程度浸漬することで、鉛化合物を含む電極表面付着物中の硫酸鉛を水酸化鉛または炭酸鉛へ変換させることができる。
【0019】
なお、本発明において、電解用電極の電極性能が阻害されているとは、電解によって生成される金属箔またはメッキの単位面積当たり重量(厚み)公差が、電極表面に鉛化合物を含む電極表面付着物が付着することにより、基準値以上になったものを意味する。例えば、連続的に製造される銅箔の場合、1m2あたりの銅箔重量が基準値より1%以上異なる場合、電解用電極の電極性能が阻害されていると判断する。電解によって生成される金属箔またはメッキの厚み公差が基準値以上になった電解用電極を本発明の除去方法に付することにより、電解用電極表面から鉛化合物を含む電極付着物を効率的に除去することができる。
【0020】
本発明のアルカリ浸漬工程に用いることのできるアルカリ水溶液は、電解用電極表面に付着した鉛化合物を含む電極表面付着物を効率的に除去できるものであれば、特に制限なく用いることができる。例えば、アルカリ水溶液としては、アンモニア水、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩の水溶液を例示することができる。
【0021】
アルカリ金属、またはアルカリ土類金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等を例示することができる。
【0022】
アルカリ金属、またはアルカリ土類金属の炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸ベリリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等を例示することができる。上述したものの中でも、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウムがより好ましい。
【0023】
本発明のアルカリ浸漬工程に用いるアルカリ水溶液の濃度は、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、1質量%から48質量%(室温25℃)の範囲のものであれば特に問題なく用いることができる。好ましくは3質量%~35質量%(室温25℃)の範囲であり、より好ましくは4質量%から30質量%(室温25℃)の範囲である。なお、アルカリ水溶液の濃度は、48質量%を超えると、電解用電極の触媒層が剥離する恐れがあり、1質量%未満では、鉛化合物を含む電極表面付着物中の硫酸鉛を水酸化鉛または炭酸鉛に変換する反応が十分におこらず、除去効率の点で不十分となる。
【0024】
本発明のアルカリ浸漬工程において、アルカリ水溶液の温度は特に制限されないが、例えば、0~90℃程度の範囲であればよく、好ましくは室温(25℃)~80℃程度の範囲であり、より好ましくは50℃から70℃程度の範囲である。また、アルカリ浸漬工程における、アルカリ水溶液への電解用電極の浸漬時間については、電解用電極表面に付着した鉛化合物が(硫酸鉛または酸化鉛が水酸化鉛または炭酸鉛等へ)変換する程度の時間であればよく、例えば、電解用電極表面に付着した鉛化合物が硫酸鉛である場合、アルカリ水溶液として、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属の水酸化物、若しくは炭酸塩の水溶液を用いた際には、付着した硫酸鉛が水酸化鉛、または炭酸鉛に変換するために十分な時間であればよい。また、電解用電極表面に付着した鉛化合物が酸化鉛である場合、アルカリ水溶液として、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属の水酸化物、若しくは炭酸塩の水溶液を用いた際には、付着した酸化鉛が水酸化鉛、または炭酸鉛に変換するために十分な時間であればよい。アルカリ水溶液への浸漬時間は通常、10分~10時間程度であればよく、好ましくは1時間から5時間程度である。
【0025】
アルカリ浸漬工程に付した電解用電極は、そのまま後述する酸処理工程に付してもよく、また、後述する表面洗浄工程に付した後、酸処理工程に付してもよい。アルカリ浸漬工程に付した後にどの工程に付すかは、電解用電極表面に付着した鉛化合物を含む電極表面付着物の付着量に応じて、適宜検討することができる。
【0026】
(酸処理工程)
本発明の除法方法において、アルカリ浸漬工程に次いで、電解用電極を酸処理工程に付することで、電解用電極表面に付着した鉛化合物を含む電極表面付着物を効率的に除去することができる。
【0027】
具体的には、電解用電極を有機酸に数時間程度浸漬し、アルカリ浸漬工程で変換した水酸化鉛または炭酸鉛を溶解させることで、電解用電極表面から鉛化合物を含む電極付着物を除去することができる
【0028】
本発明の酸処理工程に用いることのできる有機酸は、特に限定されないが、例えば、カルボン酸、またはスルホン酸を用いることができる。
【0029】
具体的ものとしては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、蟻酸、酢酸、酒石酸等のカルボン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸等のスルホン酸等を例示することができる。
【0030】
中でも、酢酸、ギ酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸が好ましく、酢酸またはギ酸がより好ましい。用いる有機酸の濃度は特に限定されないが、50質量%以上(室温25℃)であればよく、75質量%以上(室温25℃)が好ましく、90質量%以上(室温25℃)がより好ましい。
【0031】
本発明の酸処理工程において、有機酸の温度は特に制限されないが、例えば、0~90℃程度の範囲であればよく、好ましくは室温(25℃)~80℃程度の範囲であり、より好ましくは50℃から70℃程度の範囲である。また、酸処理工程における、有機酸への電解用電極の浸漬時間については、電解用電極表面に付着した鉛化合物が溶解する程度の時間であればよく、例えば、電解用電極表面に付着した鉛化合物が水酸化鉛または炭酸鉛である場合、水酸化鉛、または炭酸鉛が溶解するために十分な時間であればよい。有機酸への浸漬時間は通常、10分~10時間程度であればよく、好ましくは1時間から5時間程度である。
【0032】
酸処理工程に付した電解用電極は、そのまま後述する表面洗浄工程に付してもよい。また、再度アルカリ浸漬工程に付することで効率的に電解用電極表面から鉛化合物を含む電極付着物を除去することができる。
【0033】
(アルカリ塗布工程)
本発明における除去方法として、上述したアルカリ浸漬工程と酸処理工程に付する以外の態様として、電解用電極表面にアルカリ溶液を塗布するアルカリ塗布工程に付することにより、電解用電極表面に付着した鉛化合物を含む電極表面付着物を除去することができる。
【0034】
具体的には、表面に鉛化合物を含む電極表面付着物が付着した電解用電極の表面に、アンモニア水、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、若しくは炭酸塩等のアルカリ水溶液を塗布することで、鉛化合物を含む電極表面付着物中の硫酸鉛、または酸化鉛を水酸化鉛または炭酸鉛へ変換させ、電極表面付着物を除去することができる。
【0035】
アルカリ塗布工程における電解用電極表面へのアルカリ水溶液を塗布する方法としては、特に制限されず、刷毛・ローラー等によって塗布する方法、スプレー法、ディップコート法等公知の方法を採用することができる。
【0036】
本発明のアルカリ塗布工程に用いることのできるアルカリ水溶液は、電解用電極表面に付着した鉛化合物を含む電極表面付着物を効率的に除去できるものであれば、特に制限なく用いることができる。例えば、アルカリ水溶液としては、アンモニア水、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属の水酸化物、または炭酸塩の水溶液を例示することができる。
【0037】
アルカリ金属、またはアルカリ土類金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等を例示することができる。
【0038】
アルカリ金属、またはアルカリ土類金属の炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸ベリリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等を例示することができる。上述したものの中でも、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムがより好ましい。
【0039】
本発明のアルカリ塗布工程に用いるアルカリ水溶液は、1質量%から飽和濃度(例えば、20度では、52.2質量%等のように、各温度での最大溶解濃度を意味する)の範囲のものであれば特に問題なく用いることができる。好ましくは20質量%~48質量%(室温:25℃)の範囲であり、より好ましくは32%質量%~48質量%(室温:25℃)の範囲である。なお、1質量%未満では、鉛化合物を含む電極表面付着物中の硫酸鉛を水酸化鉛または炭酸鉛に変換する反応が十分におこらず、除去効率の点で不十分となる。
【0040】
アルカリ塗布工程におけるアルカリ水溶液の塗布量は、電解用電極表面に付着した鉛化合物を含む電極表面付着物を十分に変換できる量であればよく、具体的には、硫酸鉛または酸化鉛等の鉛化合物を水酸化鉛または炭酸鉛等へ変換することができる量であればよく、例えば、100ml/m2~1000ml/m2の範囲であればよく、好ましくは200ml/m2~800ml/m2の範囲である。
【0041】
アルカリ塗布工程に付した電解用電極は、乾燥工程に付して電解用電極を乾燥させてもよい。乾燥工程は、塗布したアルカリ水溶液が蒸発する程度の条件で行えばよく、例えば、室温で10分から24時間程度乾燥すればよく、室温以上200℃以下の温度で5分から10数時間程度行うことが好ましい。
【0042】
アルカリ塗布工程に付した電解用電極は、そのまま後述する表面洗浄工程に付してもよく、乾燥工程に付した後、表面洗浄工程に付してもよい。また、表面処理工程に付した後、電解用電極を再度アルカリ塗布工程と表面洗浄工程に繰り返し付することでより、効率的に電解用電極表面から鉛化合物を含む電極付着物を除去することができる。
【0043】
(表面洗浄工程)
本発明の除去方法においては、アルカリ浸漬工程後、及び/または酸処理工程後、若しくはアルカリ塗布工程後に、表面洗浄工程に付することにより、電解用電極表面の鉛化合物を含む電極表面付着物を物理的に除去することができる。
【0044】
表面洗浄工程としては、通常電極表面の表面洗浄に用いることのできる手法を用いることができる。例えば、5~100メガパスカル程度の圧力の高圧水を電極表面に吹き付けて表面洗浄を行う方法でもよく、ブラシや刷毛等を用いて研磨(ブラッシング)を行うことで表面洗浄を行う手法でもよい。電解用電極について、表面洗浄処理を行うことで、電解用電極表面に残存する鉛化合物を物理的に除去することによって、電解用電極表面からの鉛化合物を含む電極付着物の除去することができる。
なお、研磨(ブラッシング)により表面洗浄を行う際に、水(例えば、イオン交換水、蒸留水、純水、水道水等)を用いながらブラッシングを行ってもよい。
【0045】
(電解用電極)
本発明の除去方法を適用することのできる電解用電極は、電解用電極の表面に付着する鉛化合物を含む電極表面付着物が付着しているものであり、鉛化合物を含む電極表面付着物は、電解めっきや金属箔製造電解によって、電解用電極表面に硫酸鉛または酸化鉛等を含む鉛化合物が付着しているものである。
【0046】
電極表面付着物中の鉛化合物としては、硫酸鉛、または酸化鉛を含んでいれば、その含有量は特に制限されないが、少なくとも電極表面付着物中の50%以上が、鉛化合物である場合、本発明の除去方法を好適に適用することできる。また、電極表面付着物には、鉛化合物以外に各種の金属不純物を含んでいてもよい。即ち、本発明の除去方法は、電解めっきや金属箔製造電解に用いる電解用電極表面に酸化鉛、または硫酸鉛等の鉛化合物を含む電極表面付着物が付着することで電解用電極の電極性能が阻害されている電解用電極へ用いることができる。
【0047】
電解用電極に付着した電極表面付着物中の鉛化合物の除去量は、実施例に記載する方法により測定することができる。具体的には、電極表面を、蛍光X線分析装置を用いて鉛のピーク強度を測定し、除去方法に付する前の電極表面の鉛のピーク強度(初期強度)と除去方法に付した後の電極表面の鉛のピーク強度から求めることができる。
【0048】
電解用電極の電極基体は、金属性材料が用いられ、導電性や適当な剛性を有するものであれば材質や形状は特に制限なく用いることができる。例えば、耐食性の良いチタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム等のバルブメタル、またはバルブメタルの合金が好ましい。また、電極基体は必要ならば予め焼鈍、ブラスト等による表面粗化、酸洗等による表面清浄化等の物理的、化学的前処理を適宜行ったものであってもよい。
【0049】
更に、電解用電極は、該電極基体の表面には、金属、または金属酸化物、若しくは金属合金を含む層(中間層)で被覆されていることが好ましい。該層(中間層)を形成する金属は、導電性や耐食性に優れ、基体や電極触媒層との密着が良好なものであれば特に限定されない。中間層に用いる代表的な金属として、耐食性に優れたチタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、ハフニウム等、及びこれらの酸化物、若しくはこれらの合金等が挙げられ、これらはチタン等のバルブメタルからなる電極基体との密着性に優れる。なお、金属、または金属酸化物、若しくは金属合金を含む層(中間層)における金属は1種類のみでもよく、複数の金属を組み合わせたものでもよい。複数を組み合わせて用いる場合の比率は適宜調整することが可能である。中でも、タンタル、チタン、またはこれらの酸化物、若しくはこれらの合金が好ましい。
【0050】
電極基体上に層(中間層)を被覆させる方法としては、真空スパッタリングによる層形成方法が挙げられる。真空スパッタリングとしては、例えば、直流スパッタリング、高周波スパッタリング、アークイオンプレーティング、イオンビームプレーティング、クラスターイオンビーム法等、種々の装置を適用することが可能であり、真空度、基板温度、ターゲット板の組成や純度、析出速度(投入電力)等の条件を適宜設定することにより所望の物性の層(中間層)を形成することができる。該層(中間層)の厚さは、通常0.1~10μmの範囲でよく、耐食性や生産性等の実用的見地から適宜選定すればよい。かくして、表面が被覆された電極基体は、その表面の熱的酸化に対する優れた特性、即ち酸化皮膜の成長挙動に顕著な特色を有する。
【0051】
電解用電極は、上述した手法により電極基体上に層(中間層)で被覆され、さらに電極触媒層で被覆されたものが好ましい。該電極触媒層は、用途に応じて既知の種々のものを適用することが可能であり、特に限定されないが、例えば、耐久性を特に要求される酸素発生反応用においては、イリジウム酸化物等の白金族金属酸化物を含むものが好ましい。
【0052】
電解用電極に電極触媒層を被覆させる方法として、種々の方法が知られおり、目的に応じて適宜の選択することができる。例えば、熱分解法等を例示することができ、触媒層成分金属の塩化物、硝酸塩、アルコキシド、レジネート等の原料塩を塩酸、硝酸、アルコール、有機溶媒等の溶剤に溶解して被覆液とし、前記電極基体表面に塗布し、乾燥後空気中等の酸化性雰囲気で焼成炉中にて加熱処理することによって、電極触媒層を形成されることができる。なお、電極触媒層の厚みは通常0.1~30μmの範囲である。また、電極触媒層中における金属は1種のみでもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。複数を組み合わせて用いる場合は各種金属の比率は適宜調整することができる。
【0053】
また、予め金属酸化物を作製し、適当な有機バインダー、有機溶媒を加えてペースト状とし、電極基体上に印刷し焼成を行う厚膜法、或いはCVD法を用いて、電極基体上に電極触媒層を形成させることも可能である。
【0054】
更に、本発明の除去方法において、電極表面付着物を除去した電解用電極に上述した手法により、電極触媒層を形成させることも可能である。
【0055】
本発明の除去方法に用いる電解用電極は、金属箔製造用電極、または金属メッキ用電極に用いるものであればよく。具体的には、金属箔製造用電極(例えば、銅箔製造用電極)は、円筒状の陰極上に銅をめっきし、それを剥離することによって銅箔を連続的に製造に用いられる電極のことである。また、金属メッキ用電極(例えば、銅めっき用電極)は、電解質中に含まれる任意の金属成分(例えば銅)を還元し、被めっき物上に電析させることによって薄膜層を形成させる電解に用いられる電極のことである。
【実施例】
【0056】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0057】
<実施例1>
下記試験電極を電解条件において、銅箔製造電解の模擬電解試験に使用した電解用電極を用いた。なお、電極表面付着物中の鉛化合物の除去量は後述する蛍光X線分析装置を用いて測定した。
【0058】
市販の金属箔製造用の電解用電極(ダイソーエンジニアリング株式会社製 品番:MD-220、基体:チタン、電極触媒層:イリジウム酸化物、中間層;チタンとタンタルの合金)
【0059】
電解条件
・対極(陰極):Pt板
・電流密度:100A/dm2
・電解温度:80℃
・電解液:50ppmのPb(NO3)2を添加した 20重量% H2SO4と 10重量% Na2SO4の溶液
・電解時間:168時間
【0060】
蛍光X線分析条件
測定機器:(株)リガク製、3270
ターゲット:Rh(ロジウム)
出力設定:20kV、30mA
測定時間:30秒
測定雰囲気:大気下
試料の調製:試験電極を縦10mm×横10mm×厚み1mmの大きさに切断した切片
【0061】
上記電解条件で硫酸鉛を含む電極表面付着物が付着した電解用電極の切片(縦10mm×横10mm×厚み1mm)を24質量%の水酸化ナトリウム水溶液(東京化成工業株式会社製)に浸漬し、60℃で2時間浸漬し、電解用電極表面に付着した電極表面付着物中の硫酸鉛を水酸化鉛へ変換するアルカリ浸漬工程に付した。その後、電解用電極表面にイオン交換水を吹きかけながらブラシでブラッシングすることにより、アルカリ浸漬工程によって除去可能となった鉛化合物(主に水酸化鉛)の一部を物理的に除去し、表面洗浄工程を行った。次いで、電解用電極の切片を99.5質量%の酢酸(東京化成工業株式会社製)に浸漬し、60℃で1時間浸漬し、酸処理工程付し、水酸化鉛を溶解させた。更に、電解用電極表面にイオン交換水を吹きかけながらブラシでブラッシングし、残存する鉛化合物(主に水酸化鉛)を物理的に除去し、表面洗浄工程を行った。表面から鉛化合物を含む電極付着物の除去した電解用電極について、電極表面を、蛍光X線分析装置を用いて鉛のピーク強度を測定した。初期強度のピーク強度(表面から鉛化合物を含む電極付着物の除去前の電極表面における鉛のピーク強度を100とする)と比較して、鉛化合物が94.4%減少していた。
【0062】
<実施例2>
実験に用いた水酸化ナトリウムを12質量%に変更した以外は、実施例1と同様に試験を行った。表面から鉛化合物を含む電極付着物の除去した電解用電極について、電極表面を、蛍光X線分析装置を用いて鉛のピーク強度を測定した。初期強度のピーク強度と比較して、鉛化合物が85.6%減少していた。
【0063】
<実施例3>
実験に用いた水酸化ナトリウムを6質量%に変更した以外は、実施例1と同様に試験を行った。表面から鉛化合物を含む電極付着物の除去した電解用電極について、電極表面を、蛍光X線分析装置を用いて鉛のピーク強度を測定した。初期強度のピーク強度と比較して、鉛化合物が78.1%減少していた。
【0064】
<実施例4>
上記電解条件で硫酸鉛を含む電極表面付着物が付着した電解用電極の切片上(縦10mm×横10mm×厚み1mm)に48質量%の水酸化ナトリウム水溶液(東京化成工業株式会社製)を400ml/m2となるように刷毛を用いて塗布し、電解用電極表面に付着した電極表面付着物中の硫酸鉛を水酸化鉛へ変換するアルカリ塗布工程に付した。その後、室温(25℃)で一晩自然乾燥し、乾燥工程に付した。更に、電解用電極表面にイオン交換水を吹きかけながらブラシでブラッシングし、鉛化合物(主に水酸化鉛)を物理的に除去し、表面洗浄工程を行った。表面から鉛化合物を含む電極付着物の除去した電解用電極について、電極表面を、蛍光X線分析装置を用いて鉛のピーク強度を測定した。初期強度のピーク強度(表面から鉛化合物を含む電極付着物の除去前の電極表面における鉛のピーク強度を100とする)と比較して、鉛化合物が65.6%減少していた。さらに、同様の手順で、アルカリ塗布工程、乾燥工程、表面洗浄工程に繰り返し行い、電極表面の鉛化合物の除去率を測定したところ、2サイクル後は、鉛化合物が初期強度のピーク強度と比較して81.5%減少しており、3サイクル後は、鉛化合物が初期強度のピーク強度と比較して94.4%減少していた。
【0065】
<比較例1>
<実施例1>で用いたものと同様の電解試験に用いた電解用電極の切片(縦10mm×横10mm×厚み1mm)を、6質量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、60℃で2時間浸漬し、電解用電極表面に付着した電極表面付着物中の硫酸鉛を水酸化鉛へ変換するアルカリ浸漬工程に付した。その後、電解用電極表面にイオン交換水を吹きかけながら(ブラシで)ブラッシングすることにより、アルカリ浸漬工程によって除去可能となった鉛化合物(主に水酸化鉛)の一部を物理的に除去し表面洗浄工程を行った。表面から鉛化合物を含む電極付着物の除去した電解用電極について、電極表面を、蛍光X線分析装置を用いて鉛のピーク強度を測定した。初期強度のピーク強度と比較して、鉛化合物が31.7%減少していた。
【0066】
<比較例2>
<実施例1>で用いたものと同様の電解試験に用いた電解用電極の切片(縦10mm×横10mm×厚み1mm)を、98質量%の酢酸に浸漬し、90℃で3時間浸漬し、酸処理工程に付した。その後、電解用電極表面にイオン交換水を吹きかけながら(ブラシで)ブラッシングすることにより、酸処理工程によって除去可能となった鉛化合物の一部を物理的に除去し表面洗浄工程を行った。表面から鉛化合物を含む電極付着物の除去した電解用電極について、電極表面を、蛍光X線分析装置を用いて鉛のピーク強度を測定した。初期強度のピーク強度と比較して、鉛化合物が29.3%減少していた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の除去方法は、電解銅粉、電解銅箔の製造または銅メッキだけでなく、各種の電解用電極表面から鉛化合物を含む電極付着物の除去することが可能である。