(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】電子カルテ記録集約/参照システム
(51)【国際特許分類】
G16H 10/60 20180101AFI20230525BHJP
G06F 16/215 20190101ALI20230525BHJP
【FI】
G16H10/60
G06F16/215
(21)【出願番号】P 2022143351
(22)【出願日】2022-09-09
【審査請求日】2022-09-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502351659
【氏名又は名称】株式会社医療情報技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100196760
【氏名又は名称】大野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】姫野 信吉
【審査官】木村 大吾
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112100331(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111863175(CN,A)
【文献】特開2020-194520(JP,A)
【文献】区 駿業、他7名,PDF形式で保存される検査レポートからデータの抽出と構造化を実現するプログラムの開発,第41回医療情報学連合大会(第22回日本医療情報学会学術大会)論文集 [CD-ROM],日本,一般社団法人 日本医療情報学会,2021年11月18日,第41巻,第914-917ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
G06F 40/00-40/58
G06F 16/00-16/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療/介護で用いられる電子カルテにおいて、
特定の患者に関する特定の記述項目を示すキーと、そのキーの記述内容を示すバリューを備え、
電子カルテ文書の記述項目をキーとバリューの組合せとして記録するキーバリューストア記録手段と、前記キーを用いて前記キーバリューストア記録手段から元の電子カルテ文書の記述項目のバリューを復元する文書記述項目復元手段を備え、
施設ごとの電子カルテが異なっていても、同じ記述項目は同じキーバリューストアに記録されるよう、前記電子カルテの記述項目のリストを定義する記述項目リスト定義手段を備えたことを特徴とする電子カルテ記録集約/参照システム。
【請求項2】
前記文書記述項目復元手段において、複数の記述項目についてバリューが揃っている文書の記述項目バリューを抽出する抽出リスト作成手段を備えたことを特徴とする
請求項1記載の電子カルテ記録集約/参照システム。
【請求項3】
前記抽出リスト作成手段において、記録項目の一部の欠落を許容する欠落許容抽出リスト作成手段を備えたことを特徴とする
請求項2記載の電子カルテ記録集約/参照システム。
【請求項4】
前記抽出リスト作成手段において、同一事象と推定される一連の文書から、
バリューの代表的な値に応じた文書のみを選択し、リストを縮約する抽出リスト縮約手段を備えたことを特徴とする
請求項2または3記載の電子カルテ記録集約/参照システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として医療や介護で用いられる電子カルテに記録された記述項目群を、各々キーバリューストアと呼ばれる記録手段を用いて多施設にわたって集約記録し、必要に応じて前記集約記録を参照し、任意の記述項目間の関係を分析可能とするシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療や介護の現場などでは、日々大量の記録文書が電子カルテの形で作成されている。通常は記録として残されるのみであったが、記述項目間の関連を分析して新規知見の発見につなげようとする試みも始まっている。
この出願に関連する先行技術文献としては次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-108665号公報
【文献】特開2000-298696号公報
【文献】特許第6792750号公報
【0004】
【文献】https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo_iryokaigo_dai2/siryou5.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
退院サマリー文書などを用いて、患者の症状や検査所見といった記述項目から診断名を推測する試みがある(特許文献3)。しかし、より広範な分析を行う必要も増加している。例えば、高齢者の服用している薬剤は多数に上ること(ポリファーマシー)が多い。6剤以上になると、様々な複合した副作用が増加することが知られている。薬剤の承認を得る際の治験では、併用する薬剤を限定して成績データの安定を図っている。このため、複数の薬剤の併用下でいかなる相互作用が起こるかは不詳であることが多い。併用薬の組合せは無数にあり、相互作用から起こる症状や検査所見の変化は決して著明ではない。分析には、大量のデータ(いわゆるビッグデータ)が不可欠である。しかし、どのようにしてビッグデータを収集し、蓄積するか、さらにどのようにして必要な記述項目のデータを参照するかといった方法論が未確立である。
診療報酬の請求データ(いわゆるレセプトデータ)は国家レベルで集約される (リアルワールドデータ Real World Data:以下RWD)。大量のデータが電子化されているため分析目的によっては有用である。しかし、診断名と、検査、治療内容だけで症状の記載項目が含まれない。
医療/介護機関で集積されている電子カルテを集約できれば最も汎用的である。しかし、電子カルテの様式は統一されておらず、また個人情報保護の観点から多施設の患者データの集積には慎重を要する。
【0006】
本発明はかかる従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、電子カルテの記述項目をキーバリューストアと呼ばれる匿名性の高い方式で、記述項目別に大量集積すること、必要に応じて任意の患者の任意の時間の任意の記述項目を参照可能とし、当該記述項目間の相互関係を分析できるシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための手段として請求項1記載の電子カルテ記録集約/参照システ
ムでは、医療/介護で用いられる電子カルテにおいて、特定の患者に関する特定の記述項目を示すキーと、そのキーの記述内容を示すバリューを備え、電子カルテ文書の記述項目をキーとバリューの組合せとして記録するキーバリューストア記録手段と、前記キーを用いて前記キーバリューストア記録手段から元の電子カルテ文書の記述項目のバリューを復元する文書記述項目復元手段を備え、施設ごとの電子カルテが異なっていても、同じ記述項目は同じキーバリューストアに記録されるよう、前記電子カルテの記述項目のリストを定義する記述項目リスト定義手段を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の電子カルテ記録集約/参照システムでは、請求項1記載の電子カルテ記録集約/参照システムにおいて、前記文書記述項目復元手段において、複数の記述項目についてバリューが揃っている文書の記述項目バリューを抽出する抽出リスト作成手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の電子カルテ記録集約/参照システムでは、請求項2記載の電子カルテ記録集約/参照システムにおいて、前記抽出リスト作成手段において、記録項目の一部の欠落を許容する欠落許容抽出リスト作成手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の電子カルテ記録集約/参照システムでは、請求項2または3記載の電子カルテ記録集約/参照システムにおいて、前記抽出リスト作成手段において、同一事象と推定される一連の文書から、バリューの代表的な値に応じた文書のみを選択し、リストを縮約する抽出リスト縮約手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の電子カルテ記録集約/参照システムでは、電子カルテ文書の記述項目をキーとバリューの組合せとして記録するキーバリューストア記録手段と、前記キーを用いて前記キーバリューストア記録手段から元の電子カルテ文書の記述項目のバリューを復元する文書記述項目復元手段を備えるので、電子カルテの記述項目を匿名性の高い方式で、記述項目別に大量集積でき、それによって、必要に応じて任意の患者の時期を同じくする任意の記述項目を参照可能とし、当該記述項目間の相互関係を分析できる。
【0013】
請求項1記載の電子カルテ記録集約/参照システムでは、記述項目リスト定義手段を備 えるので、施設ごとの電子カルテが異なっていても、同じ記述項目は同じキーバリュース トアに記録されるよう、前記電子カルテの記述項目のリストを定義する。
【0014】
請求項2記載の電子カルテ記録集約/参照システムでは、抽出リスト作成手段を備える ので、複数の記述項目についてバリューが揃っている文書の記述項目バリューを抽出する。
【0015】
請求項3記載の電子カルテ記録集約/参照システムでは、記録項目の一部の欠落を許容 する欠落許容抽出リスト作成手段を備えている。
【0016】
請求項4記載の電子カルテ記録集約/参照システムでは、抽出リスト縮約手段を備える ので、同一事象と推定される一連の文書から、代表的な文書のみを選択し、リストを縮約 する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】キーバリューのキーに使用されるIDのマスター群である。
【
図5】記述項目ごとのキーバリューストアに対してキーによる検索を行い、元の文書の記述項目を復元する説明図である。
【
図6】目的とする実データが全て揃っている文書の記述項目のみ抽出して、抽出リストを作成したものである。
【
図7】抽出リスト作成手段のアルゴリズムを表示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明のハードウェア構成図を示す。
院内サーバーは施設内にあって電子カルテシステムが動作している。
有線ないし無線LANで院内の端末は連結されている。
端末はPC、タブレット、スマートフォンなどのデバイス群からなる。
必要に応じてクラウド上にもメインないしバックアップ用のサーバーを設置することも可能である。
【0019】
同じくクラウド上にある記述項目集約記録データベースは、電子カルテを構成ずる記述項目の各々について自院をはじめ多施設の記述項目データを集約し、キーバリューストアとして記録/管理するものである。
参加医療/介護機関や許可を得た分析者の必要に応じて条件に合致した記述項目データを抽出し(抽出リスト作成手段)、参加医療/介護機関や許可を得た分析者の分析に供する。
分析は、記述項目集約記録データベースのサーバー内で行い、分析結果だけを分析者に送信するのが送信負荷も少なく好ましいが、記述項目データの抽出リストを直接分析者に送信しても良い。
【0020】
図2は、キーバリューストアのキーに使用されるIDのマスター群である。
キーは、或るデータ (バリュー)が、どの患者の、何時の、どの記述項目であるのかを一意的に識別するために用いられる。
施設IDマスター:多施設からの記述項目集約記録データである場合、患者の所属する施設の識別に用いる。
各施設別患者IDマスター:各施設別の患者IDマスターである。前記施設IDと各施設別患者IDの組合せにより、どの患者のデータであるかが一意的に決まる。
より匿名性を高めるために、前記施設IDと施設別患者IDを統合して多施設間の統合患者IDを発行、管理しても良い。
記述項目IDマスター:バリューがどの記述項目に対するかを決定する。電子カルテの記述から記述項目を抽出し記録する際のタグとなる。
電子カルテの文書構成はベンダーによって異なっているが、本マスターに基づいて記述項目のデータを抽出することで、多施設にわたる記述項目集約記録データを記録することができる。
【0021】
図3は、記述項目集約記録の例である。
ここでは、体温、頭痛といった記述項目別にキーバリューストアを作成している。
キーは、日付、施設ID、各施設別患者IDである。日付に関して、必要があれば、日付+時間としても良い。
もし、複数の記述項目に対して単一のキーバリューストアを作成する場合は、キーとして記述項目IDを追加する必要がある。しかしビッグデータがさらに巨大化すること、検索の際に並列処理が難しいなどの観点から、記述項目別にキーバリューストアを構成したほうが好ましいだろう。
キーの構成順番は、任意の順番で良いが、高速検索を行うため、キーは常にソートされた索引構造となる。このため、新たなデータが追加された際、キーをソートし直して再構成する必要がある。
日付などの時間キーが先頭にあれば、追加データはキーバリューストアの最後尾に追加されるので、キーの再構成は局所的で最小の計算量で済む。
目的に応じて異なるキーの構成順番を用いても良いが、キーの再構成はストア全体にわたる。適宜、目的とキー再構成の計算量を考え併せてキー内の構成順番を考えればよい。
【0022】
図4は、より詳細な記述項目集約記録の例である。
左の医師経過記事に含まれる体温、頭痛、呼吸苦などの記述項目と、右の別施設の看護チャートに記録されている体温、頭痛、呼吸苦などの記述項目がそれぞれの記述項目ごとのキーバリューストアに記録されている。電子カルテで、個々の文書ごとの内容を記録せずキーバリューストアに記録を一元化することも可能ではあるが、日常的な使用は文書単位であり、キーバリューストアは記録の集約/参照にビッグデータの分析として、電子カルテの個々の文書は従来通り記録して、別途記述項目ごとキーバリューストアに記録するのが妥当だろう。
【0023】
図5は、記述項目ごとのキーバリューストアに対してキーによる検索を行い、元の文書の記述項目を復元する説明図である。(1例だけの抽出リスト作成)
任意のキー(本図では、2020122509601697)を用いて、各記述項目のキーバリューストアに検索を行う。
前記キーと同じキーが各記述項目のキーバリューストアにバリューが存在すれば、当該記述項目のバリュー(値)を抽出する。
もし、同じキーを持つデータが存在しなければスキップする。
実際の電子カルテでは、記述項目がすべて記載されているとは限らず、欠落値が少なくない。検索対象となるバリューが存在する記述項目群から、元の文書の記述項目群を復元することができる。
【0024】
図6は、目的とする実データが全て揃っている文書の記述項目のみ抽出して、抽出リストを作成したものである。
本図では、「頭痛」と「呼吸苦」について検索したが、3個以上の記述項目についても抽出リストを作成できる。
こうすることで、各記述項目の出現頻度や平均といった記述項目の個別統計を超えて、各記述項目間の相関係数や共分散といった統計指標を計算することができる。
このようにして、例えば多剤を投与した際の相互作用といった多変量解析に供することができる。
抽出リストの作成、分析は、分析を行う医療介護機関などに送信(ダウンロード)して行っても良いが、巨大なデータであり、送信には相当な負荷を費用が発生する。
前記抽出リストの作成、分析は、記述項目集約記録データベースのサーバー内で行い、分析結果だけを分析者に送信するのが送信負荷も少なく好ましいと言えよう。
【0025】
図7は、抽出リスト作成手段のアルゴリズムを表示したものである。
(1)主軸となる記述項目(本図では「頭痛」)のキーバリューストアから最初のキーとバリューを取り出す。
(2)前記キーで他のキーバリューストア(本図では「呼吸苦」)を検索し、同一キーが存在するかを確認する。
(3)同一キーがあれば、当該キーのバリューを、抽出リストにコピーする。同一キーが無ければスキップする。
(4)主軸となる記述項目に次のキーがあれば、そのキーとバリューを取り出し(2)に戻る。次のキーが無ければ終了する。
ここで、3個以上の記述項目について分析する際は、全ての記述項目が揃ったキーのみ有効として、欠落値があればスキップする。
もし、全ての記述項目が揃った文書が過少であれば、一部の欠落を許容した抽出リストを作成する(欠落許容リスト作成手段)。この場合は、各記述項目間の相関係数は求められないので、代替指標として、共頻度を用いても良い。
【0026】
病状の時間的変化に応じて、同じ病状に関する複数の文書が作成される。
この際、関連した全ての文書の記述項目を採用すると、一つの事象に対してのデータが過大評価される危険があること、また、症状が揃っていない初期や、治りかけの時期の文書の記述項目データが混在することとなるため、1事象1文書、ピーク時の文書に限定した抽出リストの作成といったデータのクレンジング処理が必要になることがある(抽出リスト縮約手段)。
バリューの最大値/最小値/中央値など等、目的に応じて適切な抽出条件を選べばよい。
【0027】
以上、実施例を説明したが、本発明の具体的な構成は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、医療/介護の電子カルテを用いて説明したが、売り上げデータや天候、社会現象の記述などの文書データに関しても、同様にキーバリューストアでの記録、抽出リストの作成による分析が可能である。
【要約】 (修正有)
【課題】電子カルテの記述項目をキーバリューストアと呼ばれる匿名性の高い方式で、記述項目別に大量集積し、必要に応じて任意の患者の任意の時間の任意の記述項目を参照可能とし、当該記述項目間の相互関係を分析できる電子カルテ記録集約/参照システムを提供する。
【解決手段】医療/介護で用いられる電子カルテにおいて、電子カルテ文書の記述項目をキーとバリューの組合せとして記録するキーバリューストア記録手段と、前記キーを用いて前記キーバリューストア記録手段から元の電子カルテ文書の記述項目のバリューを復元する文書記述項目復元手段を備えている。
【選択図】
図4