(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】バリ取り研磨方法及びバリ取り研磨装置
(51)【国際特許分類】
B24B 31/10 20060101AFI20230525BHJP
【FI】
B24B31/10 B
(21)【出願番号】P 2019015974
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】513065789
【氏名又は名称】株式会社ブルー・スターR&D
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】柴野 佳英
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3212134(JP,U)
【文献】特公昭46-009916(JP,B1)
【文献】特開昭52-139630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 31/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部の洗浄液を頂部縁部の一部に設けたオーバーフロー部からオーバーフローさせて液面の高さを一定とさせた水槽中
で前記洗浄液に浸漬した複数のワークの表面に存在するバリを除去するとともに表面研磨をするバリ取り研磨方法であって、
オーバーフローした前記洗浄液に含まれる気体の含有量を減じて
これを再度、前記水槽に送出して
前記水槽内の前記洗浄液の内部に前記オーバーフロー部への流れ方向
Fを形成させるとともに所定の温度に管理し、
前記水槽の底面の一部を形成する振動板を所定の周波数で振動させ、
前記温度及び前記周波数から算出される波長λに対して、前記振動板と前記洗浄液の
前記液面との間隔H1について、
H1=(λ/4)+(n×λ/2) ・・・(式1)
ただし、nは自然数を満たすように前記液面の高さを制御し、
中心回転軸を有する管状であって壁面に多数の貫通孔を形成されてその内部に前記ワークを収容可能なバレルの一部を少なくとも前記洗浄液に浸漬させながら前記中心回転軸を水平にして回転させ、バリ取り研磨するにあたり、
前記中心回転軸を前記流れ方向
Fと直交する方向且つ前記液面よりも高い位置に与えることで、前記振動板から前記洗浄液中に発射された超音波によって前記水槽中に定在波を与えて前記バレル中にキャビティを形成させ、その破裂に伴って生じる衝撃波で前記ワークの前記バリを除去しつつ前記バレル内での前記ワークどうしの衝突によって表面研磨をすることを特徴とするバリ取り研磨方法。
【請求項2】
前記バレルの回転方向を、前記流れ方向
Fの上流に向けて前記バレル内で前記ワークを移動させるような方向とすることを特徴とする請求項1記載のバリ取り研磨方法。
【請求項3】
前記気体の含有量を減じた前記洗浄液を前記流れ方向
Fに沿って前記水槽の
前記液面に流すことを特徴とする請求項1又は2に記載のバリ取り研磨方法。
【請求項4】
前記バレルは、前記中心回転軸方向の断面形状が正多角形であることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載のバリ取り研磨方法。
【請求項5】
前記洗浄液は水であって、前記温度は4~8℃の間の温度であることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載のバリ取り研磨方法。
【請求項6】
内部の洗浄液を頂部縁部の一部に設けたオーバーフロー部からオーバーフローさせて液面の高さを一定とさせた水槽中
で前記洗浄液に浸漬した複数のワークの表面に存在するバリを除去するとともに表面研磨するバリ取り研磨装置であって、
オーバーフローした前記洗浄液に含まれる気体の含有量を減じて
これを再度、前記水槽に送出して
前記水槽内の前記洗浄液の内部に前記オーバーフロー部への流れ方向
Fを形成させるとともに所定の温度に管理する液体制御部と、
前記水槽の底面の一部を形成する振動板を所定の周波数で振動させる振動制御部と、
前記温度及び前記周波数から算出される波長λに対して、前記振動板と前記洗浄液の液面との間隔H1について、
H1=(λ/4)+(n×λ/2) ・・・(式1)
ただし、nは自然数
を満たすように前記液面の高さを制御する前記水槽のオーバーフロー部と、
中心回転軸を有する管状であって壁面に多数の貫通孔を形成されてその内部に前記ワークを収容可能であり、その一部を少なくとも前記洗浄液に浸漬させながら前記中心回転軸を水平にして回転するバレルと、を含み、
前記中心回転軸を前記流れ方向
Fと直交する方向且つ前記液面よりも高い位置に与えることで、前記振動板から前記洗浄液中に発射された超音波によって前記水槽中に定在波を与えて前記バレル中にキャビティを形成させ、その破裂に伴って生じる衝撃波で前記ワークの前記バリを除去しつつ前記バレル内での前記ワークどうしの衝突によって表面研磨をすることを特徴とするバリ取り研磨装置。
【請求項7】
前記バレルの回転方向を、前記流れ方向
Fの上流に向けて前記バレル内で前記ワークを移動させるような方向とすることを特徴とする請求項6記載のバリ取り研磨装置。
【請求項8】
前記気体の含有量を減じた前記洗浄液を前記流れ方向
Fに沿って前記水槽の液面に流すノズルを含むことを特徴とする請求項6又は7に記載のバリ取り研磨装置。
【請求項9】
前記バレルは、前記中心回転軸方向の断面形状が正多角形であることを特徴とする請求項6乃至8のうちの1つに記載のバリ取り研磨装置。
【請求項10】
前記洗浄液は水であって、前記温度を4~8℃の間の所定温度に維持することを特徴とする請求項6乃至9のうちの1つに記載のバリ取り研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水槽中の洗浄液に浸漬した複数のワークの表面に存在するバリを除去するとともに表面研磨をするバリ取り研磨方法及びバリ取り研磨装置に関し、特に、超音波を用いたバリ取り研磨方法及びバリ取り研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機械加工をはじめとした各種成形加工後のワークには、加工に伴って生じるバリが残存し、これを手作業によって除去することが生産性向上の上での大きな課題となっている。例えば、リューターでバリを削り取り、又は、エアガンやブラストを噴射してバリを吹き飛ばすにしても、バリを確認し当該箇所に向けてエアガン等を仕向けていく繰り返し作業はかなりの重労働である。特に、比較的小さいワークに残存するバリの除去作業はこのような手作業では煩雑且つ困難である。そこで、手作業によること無く、全自動でバリ取り作業を行い得るバリ取り装置が各種提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、磁気ディスク間に介装されるスペーサ等の金属部品と、砥粒を結合材で結合したメディアと、をバレル槽の内部に洗浄液とともに入れて閉じ、該バレルを回転させて金属部品とメディアとを衝突させて金属部品のバリ取りを行う方法が開示されている。ここでは、バリ取りだけでなく、金属部品の角部のR付け等も同時に行い得るとしている。
【0004】
ところで、メディアと被処理物とを洗浄液とともにバレルに入れてこれを回転させるバレル研磨においては、研磨終了後、被処理物とメディアの分離、更に、互いに異物であるメディアと被処理物との衝突を制御するように洗浄液に水以外の溶剤を用いた場合には該溶剤の洗浄が必要となる。そこで、バリを除去できるような塑性変形能を有する強力な超音波洗浄機を用いたバリ取り方法も提案されている。
【0005】
例えば、特許文献2では、複数の工作物を収容することができ外壁に多数の透し孔を形成させたバレル(収容カゴ)の少なくとも一部について、洗浄液を貯留した洗浄槽に浸漬させ、このバレルを水平の回転軸周りに回転させつつ、洗浄槽の下方に配置された振動板から液面に向けて洗浄液中に超音波を発振する超音波洗浄装置が開示されている。ここで、バリ取りを与えるような強力な超音波を洗浄槽に与えると、衝撃波の影響で液面が乱れて洗浄槽及びこれを支持する支持部に悪影響及び不具合を生じさせてしまうことがある。そのため、液面の高さを所定に調整することでこれを抑制し、キャビテーションの衝撃力を安定させてバリ取り研磨を良好に与え得る。ここでは、バレルによる工作物同士の共摺りの効果と超音波によるキャビテーションの衝撃力の効果によって、工作物からバリを除去するとともに表面の研磨も与えるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-164886号公報
【文献】実用新案登録第3212134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
洗浄槽の下方に配置された振動板から液面に向けて洗浄液中に超音波を発振する超音波洗浄装置において、液面の高さを所定値にすることで、液面高さ付近における振幅をゼロとできて、この状態で波を反射できるために液面が安定する。かかる液面の高さの条件は、液面への超音波の入射波と反射波との間で定在波を形成する条件と一致する。故に、定在波における強め合いの位置では、より高いエネルギーのキャビティを生成し得て、よりバリ取り能力に優れる超音波バリ取り装置を得られることが期待される。
【0008】
ここで、特許文献2のように収容カゴ(バレル)を組み合わせた超音波バリ取り装置を考慮すると、洗浄槽に定在波を形成させつつ、これに影響を与えないように、バレルを該洗浄槽の洗浄液中に浸漬させ且つこれを回転させ、さらに、被洗浄物をバレル内で十分に研磨されるように転動させる必要がある。
【0009】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、一定の研磨能を確保するとともに、よりバリ取り能力に優れるバリ取り研磨方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるバリ取り研磨方法は、水槽中の洗浄液に浸漬した複数のワークの表面に存在するバリを除去するとともに表面研磨をするバリ取り研磨方法であって、前記洗浄液に含まれる気体の含有量を減じて、前記水槽に送出して所定の流れ方向を形成させるとともに所定の温度に管理し、前記水槽の底面の一部を形成する振動板を所定の周波数で振動させ、前記温度及び前記周波数から算出される波長λに対して、前記振動板と前記洗浄液の液面との間隔H1について、
H1=(λ/4)+(n×λ/2) ・・・(式1)
ただし、nは自然数
を満たすように前記液面の高さを制御し、中心回転軸を有する管状であって壁面に多数の貫通孔を形成されてその内部に前記ワークを収容可能なバレルの一部を少なくとも前記洗浄液に浸漬させながら前記中心回転軸を水平にして回転させ、バリ取り研磨するにあたり、前記中心回転軸を前記流れ方向と直交する方向且つ前記液面よりも高い位置に与えることで、前記振動板から前記洗浄液中に発射された超音波によって前記水槽中に定在波を与えて前記バレル中にキャビティを形成させ、その破裂に伴って生じる衝撃波で前記ワークの前記バリを除去しつつ前記バレル内での前記ワークどうしの衝突によって表面研磨をすることを特徴とする。
【0011】
また、本発明によるバリ取り研磨装置は、水槽中の洗浄液に浸漬した複数のワークの表面に存在するバリを除去するとともに表面研磨するバリ取り研磨装置であって、前記洗浄液に含まれる気体の含有量を減じて、前記水槽に送出して所定の流れ方向を形成させるとともに所定の温度に管理する液体制御部と、前記水槽の底面の一部を形成する振動板を所定の周波数で振動させる振動制御部と、前記温度及び前記周波数から算出される波長λに対して、前記振動板と前記洗浄液の液面との間隔H1について、
H1=(λ/4)+(n×λ/2) ・・・(式1)
ただし、nは自然数
を満たすように前記液面の高さを制御する前記水槽のオーバーフロー部と、中心回転軸を有する管状であって壁面に多数の貫通孔を形成されてその内部に前記ワークを収容可能であり、その一部を少なくとも前記洗浄液に浸漬させながら前記中心回転軸を水平にして回転するバレルと、を含み、前記中心回転軸を前記流れ方向と直交する方向且つ前記液面よりも高い位置に与えることで、前記振動板から前記洗浄液中に発射された超音波によって前記水槽中に定在波を与えて前記バレル中にキャビティを形成させ、その破裂に伴って生じる衝撃波で前記ワークの前記バリを除去しつつ前記バレル内での前記ワークどうしの衝突によって表面研磨をすることを特徴とする。
【0012】
かかる発明によれば、振動板から洗浄液中に発射された超音波によって水槽中に定在波を与えるとともに、バレルの浸漬により影響を受けないようにバレルの中心回転軸の方向あるいは高さを調整することにより、該バレル中に安定したキャビティを形成させ、バレル内でのワークどうしの共摺りによる研磨とともにキャビティの破裂に伴って生じる衝撃波でのワークのバリの除去ができ、一定の研磨能が確保されるとともに、バリ取り能力にも優れるのである。
【0013】
上記した方法及び装置の発明において、前記バレルの回転方向を、前記流れ方向の上流に向けて前記バレル内で前記ワークを移動させるような方向とするように構成してもよい。かかる発明によれば、バレル内でのワークの移動方向と洗浄液の流れ方向とが対向することから、バレルの回転の定在波への影響を減じ得て且つワークをより攪拌できるため、ワークの研磨能及びバリ取り能力を向上させることができる。
【0014】
上記した方法及び装置の発明において、前記水槽において、前記気体の含有量を減じた前記洗浄液を前記流れ方向に沿って前記水槽の液面に流すように構成してもよい。かかる発明によれば、洗浄液の液面と外気との間に表面層が形成されることにより、洗浄液に含まれる気体の含有量及び温度の変動を小さくできるため、結果として定在波がより安定に形成され、且つ、キャビティの崩壊による水温上昇が抑制されて、バリ取り能力を向上させることができる。
【0015】
上記した方法及び装置の発明において、前記バレルは、前記中心回転軸方向の断面形状が正多角形であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、バレル側面に角が形成されることから共摺り効果が周期的に現れるため、ワークの研磨効果を向上させることができる。
【0016】
上記した方法及び装置の発明において、前記洗浄液は水であって、前記温度を4~8℃の間の所定温度に維持するように構成してもよい。かかる発明によれば、洗浄液中により安定した定在波を形成することができ、且つ、キャビティの崩壊による水温上昇を抑制できるため、バリ取り能力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一例によるバリ取り研磨装置の部分断面による側面図である。
【
図2】
図1のバリ取り研磨装置のA1-A1断面による正面図である。
【
図3】
図1の空気含有量調整機構の詳細を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の1つの実施例としての水槽中の洗浄液に浸漬した複数のワークの表面に存在するバリを除去するとともに表面研磨するバリ取り研磨装置について、
図1乃至3を用いて説明する。
【0019】
図1及び
図2に示すように、バリ取り研磨装置10は、RO水等の洗浄液Lを貯留する水槽部100と、洗浄液Lに含まれる気体(例えば空気)の含有量を減じつつその温度を所定に維持し流れを制御する液体制御部200と、水槽部100の下面に取り付けられ洗浄液L内に超音波を発射させる振動板330を含む振動制御部300と、その内部に複数のワークを収容可能とし洗浄液Lに一部を浸漬させながら中心回転軸を水平にして回転する管状のバレル140と、このバレル140の回転あるいは液体制御部200及び振動制御部300の動作を制御する制御機構400と、を備える。バリ取り研磨装置10では、洗浄液L中に浸漬したバレル140に収容されたワークWどうしを共摺りさせて表面を研磨するとともに、ワークWに残存するバリを、キャビティの破裂に伴って生じる衝撃波によって除去するのである。
【0020】
水槽部100は、バレル140の少なくとも一部を浸漬させる洗浄槽110、オーバーフロー槽120からなり、洗浄槽110の頂部縁部をオーバーフロー部として傾斜面130を接続させて、洗浄槽110に送出された洗浄液Lがオーバーフロー槽120に向けて流れるようにしたフロー水槽として構成されている。つまり、洗浄液Lが洗浄槽110に供給されて、バレル140の少なくとも一部を浸漬させ且つワークWを投入しても、頂部を超えて溢れた(オーバーフローした)洗浄液Lがオーバーフロー槽120に流れるため、洗浄槽110において洗浄液Lの液面LSの高さが一定に維持される。
【0021】
複数のワークWを収容したバレル140は、中心回転軸Cのまわりに回転自在であって、この中心回転軸Cを洗浄槽110からオーバーフロー槽120への洗浄液Lの流れ方向Fに直交させるように取り付けられている。ここで、バレル140は、中心回転軸Cの延びる方向を横切る断面において、半径Rの円に内接する正多角形であることが好ましく、特に、正六角形であることが好ましい。これにより、バレル140に収容された複数のワークWは、バレル140の回転に伴って多角形の角部の位置する角度周期毎に重力落下し、ワークWの不均一な形状変化をもたらすような研磨を抑制し、均一な研磨を得られる。なお、水槽部100の上面側には、バレル140を出し入れするために開閉自在な蓋部材150が設けられている。
【0022】
バレル140に形成される貫通孔140aの開口率は、側面の総面積に対して30%以上とする。この開口率が30%未満では、超音波がバレル140内に入りにくくなってキャビティ効果を得にくくなる。なお、ワークWの大きさに対応して適宜、開口率を決定することになる。なお、バレル140の少なくとも側面全域にわたって多数の貫通孔140aを形成するが、後述する振動板330から洗浄液Lの液面に向かう超音波がバレル140を透過するような開口率及び開口形態で設けられることが好ましい。また、洗浄槽110において、洗浄液Lの流れFは貫通孔140aによりバレル140内に入り込むが、バレル140内に形成される定在波を攪乱しないよう、この流れFの速さ及び流量を調整することが好ましい。これにより、
図1に示すように、洗浄槽110内部での超音波による定在波の形成を阻害することなく、バレル140を与えられるので、その内部で超音波振動によるキャビティ効果をワークWに効率よく与えることができる。
【0023】
特に、
図2に示すように、バレル140は、中心回転軸Cに沿って両端面に回転軸142が固着されており、その一方の端部は洗浄槽110の一方の側面112に固定された固定軸受144に回転自在に受けられる。他方の回転軸142の端部は、側面112に対向する側面114に固定された駆動軸受146に回転自在に受けられるとともに、この駆動軸受146にさらに取り付けられた駆動源148に接続されている。駆動源148は、制御機構400からの指令により、バレル140の回転方向Tや回転速度を調整する。ここで、バレル140の回転速度は、貫通孔140aから超音波をその内部を透過できるよう、例えば3~10rpmとされている。
【0024】
このように、洗浄槽110に流れる洗浄液Lに対して、バレル140の中心回転軸Cの流れ方向Fに対して直交させつつ回転させて、バレル140の一部を洗浄液Lに浸漬させることにより、洗浄液Lがバレル140の外部から貫通孔140aを通ってスムーズにバレル140の内部を通過する。故に、バレル140の回転が洗浄液Lの流れに及ぼす影響を小さくすることができる。更に、上記したように、バレル140の貫通孔140aから超音波がバレル140内部を透過できるため、結果として、超音波の定在波を形成させ且つその安定性を向上させることができる。このとき、バレル140の回転方向Tを、洗浄液Lの流れ方向Fの上流に向けてバレル140内でワークWを移動させるような方向(
図1における時計回り)とすることが好ましい。これにより、バレル140内でのワークWの移動方向と洗浄液Lの流れ方向Fとが対向し、ワークWをより攪拌できる一方、上記した定在波の形成及びその安定性を阻害しないため、ワークWのバリ取り効果を高めるとともに、表面の研磨効果をも向上させることができる。
【0025】
水槽部100には、液体供給口160を介して、例えばRO水等の不純物を予め取り除いた洗浄液Lを取り入れる液体供給管160aが接続されている。また、水槽部100の洗浄槽110側には、洗浄液Lの液面LSの液面高さに、液体制御部200から供給された空気の含有量を減じられた洗浄液Lを層流状態の表面層LFとして液面に沿って流す層流形成ノズル162と、同じく液体制御部200から供給された空気の含有量及び温度を調整された洗浄液Lを再度、洗浄槽110に流入させる液体供給ノズル164と、が設けられている。なお、液面LSに脱気された洗浄液Lによる表面層LFを形成することにより、洗浄槽110に貯留された洗浄液Lと外気との間に表面層LFが介在するため、洗浄液Lに含まれる空気の含有量及び温度の変動を小さくすることができる。これにより、結果として定在波がより安定に形成され、且つ、キャビティの崩壊による水温上昇が抑制されて、バリ取り能力を向上させることができる。
【0026】
なお、上記した蓋部材150等の作用により十分な気密が確保できるような場合には、必ずしも層流形成ノズル162を省略でき得る。また、洗浄槽110のオーバーフロー槽120側の液面近傍において、オイルスキマー(図示せず)を用いて洗浄液LによりワークWから除去されて液面LS上に浮遊する油を回収するように構成してもよい。これにより、洗浄液中の油が後述する液体制御部200の空気含有量調整機構250や液温調整機構260が含まれる循環経路に入り込むことを防止できる。
【0027】
液体制御部200は、水槽部100から導かれる洗浄液Lから比較的大きな不純物を除去するストレーナー230と、このストレーナー230を通った洗浄液Lを下流に流すことで水槽部100に再度供給するための循環ポンプ240と、洗浄液Lに含まれる空気の含有量を所定範囲内に減じる空気含有量調整機構250と、洗浄液Lの温度を所定範囲内の一定温度に制御する液温調整機構260と、を含む。そして、水槽部100、ストレーナー230、循環ポンプ240、空気含有量調整機構250及び液温調整機構260は、それぞれ循環配管210~213により接続されている。
【0028】
水槽部100のオーバーフロー槽120の下部近傍には、液体取込口180が取り付けられており、循環配管210に接続され、さらに下流側でストレーナー230に接続されている。循環配管210には、取込バルブ220が設けられており、最初に洗浄液を溜める際には、この取込バルブ220が閉塞される。また、ストレーナー230には、例えばフィルター(図示せず)等が内蔵されており、取り込まれた洗浄液Lに含まれる比較的大きな不純物を分離して回収する機能を有する。
【0029】
図3に示すように、空気含有量調整機構250は、流れてくる洗浄液Lを清浄にするろ過モジュール251と、清浄化された洗浄液Lが通過する真空中空糸モジュール253と、当該真空中空糸モジュール253内にある洗浄液Lから空気を脱気する真空ポンプ254と、真空中空糸モジュール253内の真空度を測定する真空計255と、を含む。ろ過モジュール251は、例えば洗浄液Lとして水を用いた場合に、ストレーナー230を通って循環ポンプ240から流れてくる水をRO水化する機能を有しており、接続配管252を介して真空中空糸モジュール253に接続されている。
【0030】
真空中空糸モジュール253は、樹脂製の中空糸を封止材とともに筒状のハウジングに収容した構造を有し、その上部側で取込口256a及び取込側バルブ257を介してストレーナー230からの循環配管213に接続されており、下端部側で排出口256bを介して液温調整機構260に至る循環配管213に接続されている。一方、真空中空糸モジュール253の上端近傍には、真空引き口256c及び真空側配管258を介して真空ポンプ254及び真空計255が接続されている。
【0031】
このように、空気含有量調整機構250は、制御機構400からの指令により、取込側バルブ257を開閉して真空中空糸モジュール253の内部に洗浄液Lを導入し、真空計255の計測値に応じて真空ポンプ254が洗浄液L中の空気を脱気して、洗浄液Lを排出する処理を実行する。このとき、洗浄液L中の溶存空気量は、例えば1mg/リットル以下となるように調整される。
【0032】
空気含有量調整機構250からの循環配管213は、下流側で液温調整機構260に接続される。液温調整機構260は、水槽部100からの洗浄液Lを取り込んで所定温度範囲内の一定温度に調整する機能を有するものであればいずれの構成を採用してもよいが、チラーであることが好ましい。また、水槽部100に供給される洗浄液L(例えば水)はキャビティの崩壊による熱を吸収するように冷却されて、且つ、洗浄液L内での超音波の波長を一定に維持させるように、その液温が4~8℃の低温且つ狭い温度範囲となるように調整される。
【0033】
液温調整機構260は、下端部側で循環配管214に接続されており、この循環配管214はさらに下流側で液体供給ノズル164に接続されている。また、循環配管214はさらに分岐し、その下流側で上述した層流形成ノズル162に接続されている。これにより、層流形成ノズル162及び液体供給ノズル164には、それぞれ含有される空気量と液温とが所定範囲内で一定に調整された洗浄水Lが供給される。このように、水槽部100から各種の循環配管を介して、ストレーナー230、循環ポンプ240、空気含有量調整機構250及び液温調整機構260と経由して再び水槽部100に戻る経路により、脱気及び調温された洗浄液Lの循環経路が構成される。
【0034】
ここで、バリ取り研磨装置10に適用されるワークWには、加工にあたり表面に油が残留しているものを含み得るが、上記のとおり、洗浄液Lは液温調整機構260で液温が所定温度、例えば、4~8℃程度の一定温度に冷却維持されるため、これらの油は乳化して洗浄液Lの表面に浮遊することになる。このような油を上記したオイルスキマー(図示せず)で回収することでオーバーフロー槽120には油が残存することが抑制されるため、液体制御部200には、油分が除去された洗浄液Lが取り込まれて循環される。
【0035】
再び、
図2を参照すると、振動制御部300は、本体ユニット310と、この本体ユニット310上に取り付けられた超音波振動ユニット320と、超音波振動ユニット320の上面にさらに取り付けられた振動板330と、により構成されている。超音波振動ユニット320は、略箱状の部材の内部にほぼ等間隔で複数の超音波振動子(図示せず)を取り付けた構造を有し、これらの超音波振動子を取り付けた面に振動板330が取り付けられる。
【0036】
また、本体ユニット310は、その内部に超音波振動ユニット320に対して電力を供給する給電機構(図示せず)を含む。これにより、超音波振動ユニット320の複数の超音波振動子が同期して振動し、振動板330がその全面で、矢印VDで示すような進退運動(搖動)して超音波を放射する。ここで、振動板330からの超音波による振動波の振動数(周波数)fは、例えば20~275(kHz)となるように設定されており、振動板330からは、そのワット密度が2(W/cm2)以上の超音波振動が放射される。
【0037】
制御機構400は、液体制御部200の循環ポンプ240、空気含有量調整機構250及び液温調整機構260と、振動制御部300の本体ユニット310とにそれぞれ信号線で接続されてこれらに制御信号を送信するとともに、水槽部100に設けられた水温計等のセンサと接続されることにより、水槽部100内部の状態を把握できるように構成されている。これにより、制御機構400は、水槽部100内部の状態、特に洗浄液Lの液温や空気含有量等の数値を所定範囲内にフィードバック制御することが好ましい。
【0038】
再び
図1及び
図2を参照して、バリ取り研磨装置10で実施される洗浄動作について説明する。
【0039】
図2に示すように、バリ取り研磨装置10における振動制御部300の振動板330は、水槽部100の洗浄槽110の底面に露出して取り付けられている。このとき、超音波振動が伝播する媒質となる洗浄液Lの温度が一定に調整されているため、一定の振動数fに対して放射される振動波の波長λも一定となる。例えば、洗浄液Lとして水(RO水)を用いた場合、5℃における超音波の伝播速度vは1426.5(m/秒)であるため、振動数20(kHz)の振動波の波長λは、λ=v/f≒71.3(mm)で一定となる。
【0040】
そこで、バリ取り研磨装置10においては、上記算出された波長λに対して、振動板330と洗浄液Lの表面層LSの液面との間隔H1が、以下の式1
H1=(λ/4)+(n×λ/2) ・・・(式1)
ただし、nは自然数
で算出される値となるように液面高さを設定する。これにより、液面で反射される超音波の直接波及び反射波において、液面位置に直接波と反射波との波形におけるいわゆる腹が位置することになり、洗浄液L中において、振動板330と洗浄液Lの液面との間に定在波(合成波)が安定的に形成される。
【0041】
そして、洗浄槽110の洗浄液Lが存在する空間において、放射された超音波による直接波と反射波とが互いに強め合う位置(いわゆる波形の腹の位置)が形成されるため、強め合う超音波域の振動波のエネルギーにより、これらの位置において洗浄液Lに3次元状に多数のキャビティ(空洞)が発生する。この状態で、
図2に示すように、多数の貫通孔140aが形成され、内部に複数のワークWを収容するバレル140を中心回転軸Cまわりに回転させつつ、バレル140の一部を中心回転軸Cが洗浄液Lの流れ方向Fと直交する方向で洗浄液Lに浸漬させることにより、バレル140内のワークWが洗浄液L中に発生したキャビティの発生位置に位置させることができるため、上記した3次元状に発生したキャビティが破裂(消滅)する際の衝撃波でワークWの表面のバリや付着物等の異物が除去される。
【0042】
このとき、バレル140の内部では、バレル140の回転により複数のワークWが互いに衝突し擦れ合う「共摺り」状態となるため、この共摺り効果によるワーク表面の研磨が併せて行われる。バリ取り研磨装置10では、バレル140の回転によるワークWどうしの「共摺り効果」と、上記超音波振動による「キャビティ効果」とによる相乗効果で、一定の研磨能力と高いバリ取り能力とが得られる。
【0043】
また、バリ取り研磨装置10においては、上述のとおり、洗浄液L中に超音波の直接波と反射波とによって定在波が形成されるため、両者の波が重なり合った部分においては、反射直後すなわち液面に最も近い腹の位置で、強め合いの強度が最も大きくなり、この位置で最もエネルギーの大きなキャビティが発生する。そこで、
図2に示すように、バレル140の中心回転軸Cと振動板330との間隔H2が、液面から振動板330までの間隔H1よりも大となるように配置される(ただし、H2-H1<R)。これにより、上記した最もエネルギーの大きなキャビティの発生領域にバレル140内を転動させたワークWを通過させ、その後、バレル140の中心回転軸Cの配置故、バレル140の内壁での勾配は大きくないものの、液面近傍で表面層LSによって液面を越えること無く、重力によってバレル140の底部に転動、落下していき、ワークWの共摺りを生じさせることになる。
【0044】
さらに、バリ取り研磨装置10において、水槽部100の洗浄槽110の底面の振動板330が配置された近傍に追加的な液体取込口及び開閉バルブを設け、この開閉バルブからの循環配管210を経由してストレーナー230に接続するように構成してもよい。これにより、バレル140内のワークWから除去されたバリ片などの異物を、洗浄液Lごと取り込んでストレーナー230で回収することができる。すなわち、洗浄槽110の底面からの排液にドレン機能を持たせることにより、振動板330上に除去された異物が残存するのを抑制することができる。
【0045】
以上述べた装置及び方法によれば、ワークを収容したバレルの配置、配向及び回転方向を、水槽中の洗浄液の液面に対して調整し、且つ洗浄液に含まれる気体の含有量を減じるとともに温度を管理して所定方向に流しつつ、その液面高さを洗浄液の温度及び超音波の周波数から得られる波長に基づいて所定高さに制御することにより、バレルを沈めた状態でも洗浄液中の超音波による定在波を安定して形成できる。つまり、バレル内でのワークどうしを共摺りさせて研磨するとともにキャビティの破裂に伴って生じる衝撃波でバリを除去するが、一定の研磨能を確保するとともに、バリ取り能力に優れるバリ取り研磨方法及びその装置を得られるのである。
【0046】
ここまで本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれらの例に限定されるものではない。また、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0047】
10 バリ取り研磨装置
100 水槽部
110 洗浄槽
120 オーバーフロー槽
130 傾斜面
140 バレル
140a 貫通孔
142 回転軸
144 固定軸受
146 駆動軸受
148 駆動源
150 蓋部材
160 液体供給口
160a 液体供給管
162 層流形成ノズル
164 液体供給ノズル
180 液体取込口
200 液体制御部
210、211、212、213、214、215 循環配管
220 取込バルブ
230 ストレーナー
240 循環ポンプ
250 空気含有量調整機構
251 ろ過モジュール
252 接続配管
253 真空中空糸モジュール
254 真空ポンプ
255 真空計
256a 取込口
256b 排出口
256c 真空引き口
257 取込側バルブ
258 真空側配管
260 液温調整機構
300 振動制御部
310 本体ユニット
320 超音波振動ユニット
330 振動板
400 制御機構