(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】肝前駆細胞を含む細胞集団を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20230525BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20230525BHJP
A61K 35/407 20150101ALI20230525BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20230525BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230525BHJP
A61K 35/33 20150101ALN20230525BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/077
A61K35/407
A61L27/38 300
A61P37/06
A61K35/33
(21)【出願番号】P 2019068911
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100179039
【氏名又は名称】伊藤 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100199923
【氏名又は名称】嶽小原 幸
(72)【発明者】
【氏名】堺 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】江口 晋
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/018851(WO,A1)
【文献】特表2009-520474(JP,A)
【文献】特表2011-514169(JP,A)
【文献】国際公開第2017/119512(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/079714(WO,A1)
【文献】Cell Stem Cell,2017年,Vol.20,p.41-55
【文献】Cell Stem Cell,2014年,Vol.14,p.561-574
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/071
C12N 5/077
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝前駆細胞を含む細胞集団を製造する方法であって、
(1)肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団を含む培養基材を準備する工程、
(2)線維芽細胞のコロニーを前記培養基材から物理的に除去する工程、
(3)前記培養基材から細胞を剥離させ、剥離された細胞を回収する工程
、
(4)前記工程(3)で回収された細胞をゼラチンコートされた培養基材上で培養し、前記培養基材に未接着の細胞を回収する工程、
(
5)前記工程(
4)で回収された細胞をコラーゲンコートされた培養基材上で培養し、前記培養基材に未接着の細胞を回収する工程
、及び
(6)前記工程(5)で回収された細胞をコラーゲンコートされた培養基材上で培養し、前記培養基材に未接着の細胞を除去する工程
を含む、方法。
【請求項2】
工程(
6)の後に、(
7)前記培養基材に接着した細胞を、コンフルエントに達する前に前記培養基材から剥離して回収する工程をさらに含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
工程(
6)の後に、(
7’)前記培養基材に接着した細胞を、コンフルエントに達した後に前記培養基材から剥離して回収する工程をさらに含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
工程(
5)における培養時間が5分間~15分間である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(1)で準備される細胞集団が、肝細胞をリプログラミングすることにより得られる肝前駆細胞を含む細胞集団である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(
4)~工程(
6)を少なくとも2回繰り返す、請求項
1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団から、線維芽細胞を除去する方法であって、
(1)肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団を含む培養基材を準備する工程、
(2)線維芽細胞のコロニーを前記培養基材から物理的に除去する工程、
(3)前記培養基材から細胞を剥離させ、剥離された細胞を回収する工程
、
(4)前記工程(3)で回収された細胞をゼラチンコートされた培養基材上で培養し、前記培養基材に未接着の細胞を回収する工程、
(
5)前記工程(
4)で回収された細胞をコラーゲンコートされた培養基材上で培養し、前記培養基材に未接着の細胞を回収する工程
、及び
(6)前記工程(5)で回収された細胞をコラーゲンコートされた培養基材上で培養し、前記培養基材に未接着の細胞を除去する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団から、線維芽細胞を除去する工程を含む、肝前駆細胞を含む細胞集団の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
肝再生医療の分野において、肝前駆細胞は細胞ソースとして注目されているが、肝前駆細胞は肝臓内に僅かにしか存在しておらず、その採取は困難である。近年では、低分子化合物を用いたリプログラミング法により、インビトロで肝細胞から肝前駆細胞を作製することが可能になった。具体的には、哺乳動物の肝細胞にTGFβ受容体阻害薬、さらにGSK3阻害薬及び/又はROCK阻害薬を接触させることにより、肝幹/前駆細胞の作製が可能である(特許文献1及び非特許文献1)。また、ヒト成熟肝細胞を血清、A-83-01(TGFβシグナル阻害薬)及びCHIR99021(GSK3阻害薬)を含有する培地で培養することにより、ヒト肝前駆細胞の調製が可能である(特許文献2)。
【0003】
しかしながら、肝臓は肝細胞、線維芽細胞を含むため、肝臓内から単離された肝前駆細胞を含む細胞集団や、上記の方法により低分子化合物を用いたリプログラミング法により肝細胞から得られた肝前駆細胞を含む細胞集団には、線維芽細胞が混在する。線維芽細胞は肝前駆細胞よりも早く増殖するため、培養物に線維芽細胞が混在していると肝前駆細胞の増殖が妨げられてしまう。したがって、肝前駆細胞を含む細胞集団を用いる場合、あらかじめ線維芽細胞を除去し、肝前駆細胞の純度を上げることが必要となる。
【0004】
斯かる線維芽細胞を除去する方法として、FACS(Fluorescence activated cell sorting)法やMACS(Magnetic cell sorting)法が一般的に用いられている。しかし、肝前駆細胞を精度よく単離できる細胞表面マーカーが見つかっていないため、肝前駆細胞の選別及び線維芽細胞の除去を十分かつ多量に行うことは困難である。また、FACSやMACSを用いる場合には、細胞へのダメージが無視できず、単離された肝前駆細胞の活性等にも悪影響を及ぼす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO 2017/119512 A1
【文献】WO 2018/079714 A1
【非特許文献】
【0006】
【文献】Cell Stem Cell 20, 41-55, January 5, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、FACSやMACSを用いることなく、肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団から、線維芽細胞が十分に除去された細胞集団を製造する方法を提供することを課題とする。また、該方法においては継代を重ねても長期間安定的に肝前駆細胞の純度を高い割合で維持できることも課題とする。さらに、斯かる方法を用いて、肝前駆細胞の純度が高い細胞集団を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、肝前駆細胞と線維芽細胞の培養基材への接着性の差異に着目し、1種類または複数の異なる種類の培養基材を用いて、該接着性により肝前駆細胞と線維芽細胞とを分離できるのではないかとの着想を得た。該着想に基づき研究を進めた結果、肝前駆細胞と線維芽細胞とを含む細胞集団から、十分に線維芽細胞を除去し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 肝前駆細胞を含む細胞集団を製造する方法であって、
(1)肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団を含む培養基材を準備する工程、
(2)線維芽細胞のコロニーを前記培養基材から物理的に除去する工程、
(3)前記培養基材から細胞を剥離させ、剥離された細胞を回収する工程、及び
(4)前記工程(3)で回収された細胞をコラーゲンコートされた培養基材上で培養し、前記培養基材に未接着の細胞を回収する工程
を含む、方法。
[2] 工程(4)の後に、(5)前記回収された細胞をコラーゲンコートされた培養基材上で培養し、前記培養基材に未接着の細胞を除去する工程をさらに含む、[1]に記載の方法。
[3] 工程(3)及び工程(4)の間に、(3')前記回収された細胞をゼラチンコートされた培養基材上で培養し、前記培養基材に未接着の細胞を回収する工程をさらに含む、[2]に記載の方法。
[4] 工程(5)の後に、(6)前記培養基材に接着した細胞を、コンフルエントに達する前に前記培養基材から剥離して回収する工程をさらに含む、[2]または[3]に記載の方法。
[5] 工程(5)の後に、(7)前記培養基材に接着した細胞を、コンフルエントに達した後に前記培養基材から剥離して回収する工程をさらに含む、[2]または[3]に記載の方法。
[6] 工程(4)における培養時間が5分間~15分間である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 工程(1)で準備される細胞集団が、肝細胞をリプログラミングすることにより得られる肝前駆細胞を含む細胞集団である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 工程(3')~工程(5)を少なくとも2回繰り返す、[3]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団から、線維芽細胞を除去する方法であって、
(1)肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団を含む培養基材を準備する工程、
(2)線維芽細胞のコロニーを前記培養基材から物理的に除去する工程、
(3)前記培養基材から細胞を剥離させ、剥離された細胞を回収する工程、及び
(4)前記工程(3)で回収された細胞をコラーゲンコートされた培養基材上で培養し、前記培養基材に未接着の細胞を回収する工程
を含む、方法。
[10] [1]~[8]のいずれかの方法により得られた、肝前駆細胞を含む細胞集団。
[11] [10]に記載の細胞集団を含有してなる、細胞移植療法剤。
[12] [10]に記載の細胞集団を分化誘導することにより得られる、肝細胞を含む細胞集団。
[13] [10]に記載の細胞集団を分化誘導することにより得られる、胆管上皮細胞を含む細胞集団。
[14] 被検化合物の哺乳動物体内での代謝を評価する方法であって、
(1)[10]、[12]及び[13]のいずれかに記載の細胞と、被検化合物とを接触させる工程、及び
(2)前記細胞における被検化合物の代謝を測定する工程
を含む、方法。
[15] 哺乳動物に対する被検化合物の肝毒性を評価する方法であって、
(1)[10]、[12]及び[13]のいずれかに記載の細胞と、被検化合物とを接触させる工程、及び
(2)前記細胞の障害の有無若しくはその程度を検出または測定する工程
を含む、方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、FACSやMACSを用いることなく、肝細胞由来の肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団から、線維芽細胞が十分に除去された細胞集団を製造する方法が提供される。また、該方法によれば、継代を重ねても長期間安定的に肝前駆細胞の純度を高い割合で維持できる。さらに、斯かる方法を用いて、肝前駆細胞の純度が高い細胞集団が提供される。本発明で得られる肝前駆細胞は、FACSやMACSを用いていないため、これらを用いた従来法で得られた肝前駆細胞と比較して、高い活性を有し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の概要を示す図である。上段は線維芽細胞のコロニーを細胞基材から物理的に除去する工程に係る手法の一例である。
【
図2】
図2は、肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団をゼラチンコート、及びコラーゲンコートされた培養基材上で培養した細胞の位相差顕微鏡画像である。左からそれぞれ、ゼラチンコートされた培養基材、コラーゲンコートされた培養基材、及びコラーゲンコートされた培養基材上で培養した細胞である。
【
図3】
図3は、
図2と同様に、肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団をゼラチンコート、及びコラーゲンコートされた培養基材上で培養した細胞の位相差顕微鏡画像である。左からそれぞれ、ゼラチンコートされた培養基材、コラーゲンコートされた培養基材、及びコラーゲンコートされた培養基材上で培養した細胞である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1. 肝前駆細胞を含む細胞集団を製造する方法
本発明は、肝前駆細胞を含む細胞集団を製造する方法(以下、「本発明の製造方法」と称する場合がある)を提供する。本発明の製造方法は、以下:
(1)肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団を含む培養基材を準備する工程、
(2)線維芽細胞のコロニーを前記培養基材から物理的に除去する工程、
(3)前記培養基材から細胞を剥離させ、剥離された細胞を回収する工程、及び
(4)前記工程(3)で回収された細胞をコラーゲンコートされた培養基材上で培養し、前記培養基材に未接着の細胞を回収する工程
を含む。
【0013】
上述の通り、本発明の製造方法により、線維芽細胞が除去された、肝前駆細胞を含む細胞集団が得られる。したがって、本発明はまた、上記工程(1)~(4)を含む、肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団から、線維芽細胞を除去する方法(以下、「本発明の除去方法」と称する場合がある)を提供する。以下では、本発明の製造方法と、本発明の除去方法を纏めて、単に「本発明の方法」と称することがある。
【0014】
1-1. 工程(1)
前記工程(1)で準備する細胞集団に含まれる肝前駆細胞は、特に限定されず、例えば、肝臓からFACSやMACSなどを用いて単離された肝前駆細胞であってもよく、または肝細胞を、低分子化合物を用いてリプログラミングすることで樹立された肝前駆細胞であってもよいが、十分量の細胞が得られるとの観点からは、肝細胞をリプログラミングして樹立された肝前駆細胞(以下、「CLiP(Chemically-induced Liver Progenitor)」と称する場合がある)が好ましい。肝臓から肝前駆細胞を単離する方法は、自体公知の方法により行うことができるが、例えば、下記で記載する肝前駆細胞のマーカーを指標として、FACSまたはMACSを用いて単離する方法が挙げられる。また、肝細胞のリプログラミング法も、下述する自体公知の方法により行うことができる。このようにして得られた肝前駆細胞を含む細胞集団には、前記のとおり、通常肝前駆細胞と線維芽細胞が混在している。また、上記細胞集団が含まれる培養基材は、特に制限されず、例えば、ディッシュ、ペトリディッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、シャーレなどが挙げられる。
【0015】
本明細書において、「肝前駆細胞」とは、(a)自己再生能を有し、かつ(b)肝細胞及び胆管上皮細胞の両方に分化し得る両能性を有する細胞を意味する。ここで「胆管上皮細胞」(「BEC」ともいう)とは、BECマーカーであるサイトケラチン19(CK19)及びGRHL2を発現する細胞をいう。胎児肝臓の肝芽細胞や、肝障害時に出現するオーバル細胞も肝前駆細胞に包含される。好ましい一実施態様において、本発明の方法で用いる肝前駆細胞は、上記(a)及び(b)の性質に加えて、(c)表面抗原マーカーとして上皮細胞接着分子(EpCAM)を発現する。また、一実施態様において、本発明の方法で用いる肝前駆細胞は、既知LSCマーカーであるデルタホモログ1(Dlk1)、ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体5(LGR5)及びFoxL1も発現していない。
【0016】
CLiPは、例えば、哺乳動物の肝細胞に、インビトロでTGFβ受容体阻害薬を接触させることを含む方法(WO 2017/119512 A1、Cell Stem Cell 20, 41-55, January 5, 2017)(以下、「肝幹/前駆細胞の作製法」と称する場合がある)により作製することができる。また、CLiPは、ヒト成熟肝細胞を血清、A-83-01及びCHIR99021を含有する培地で培養することを含む方法(WO 2018/079714 A1)(以下、「ヒト肝前駆細胞の調製方法」と称する場合がある)により作製することもできる。
【0017】
以下、CLiPの作製法に基づいて、肝細胞由来の肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団(以下、「本発明における細胞集団」と称する場合がある)を準備する工程を説明する。
【0018】
本発明における細胞集団の出発材料として使用される「肝細胞」は、肝細胞マーカー遺伝子(例えば、アルブミン(ALB)、トランスサイレチン(TTR)、グルコース-6-ホスファターゼ(G6PC)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)、トリプトファン-2,3-ジオキシゲナーゼ(TDO2)、cytochrome P450(CYP)、miR-122等)の少なくとも1種(好ましくはALB、TTR、G6PC、TAT、TDO2及びCYPから選ばれる2種以上、より好ましくは3種以上、さらに好ましくは4種以上、特に好ましくは5種以上、最も好ましくは6種すべて)を発現している細胞をいう。該肝細胞は機能的であることが望ましい。「機能的」な肝細胞とは、(i)毛細胆管構造を有し、薬物代謝物を当該小管に蓄積する、(ii)細胞膜にABCトランスポーター(例、MDR1、MRP等)を発現する、(iii) ALBの分泌発現、(iv)グリコーゲン蓄積、(v)薬物代謝酵素(例、CYP1A1、CYP1A2等)活性から選ばれる1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上、最も好ましくは全ての機能を保持した肝細胞をいう。
【0019】
本発明における細胞集団の準備に用いる肝細胞は、上記肝細胞マーカー遺伝子の発現により特徴づけられるものであれば、いかなるソースから提供されてもよく、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウシ、サル等、好ましくはヒト、ラット、マウス)の胚性幹細胞(ES細胞)もしくはiPS細胞等の多能性幹細胞から、自体公知の分化誘導方法(例えば、Zhu, S. et al., Nature 508, 93-97 (2014))により得られた肝細胞や、あるいは線維芽細胞からダイレクトリプログラミングにより誘導された肝細胞(Huang, P. et al., Nature 475, 386-389 (2011)及びSekiya, S., and Suzuki, A. Nature 475, 390-393 (2011))等も包含され得る。しかしながら、遺伝子改変を伴わないCLiPを安全かつ迅速に提供するという点を考慮すれば、肝細胞として、哺乳動物から摘出した肝臓から単離精製された肝細胞を使用することが望ましい。例えばラットの場合、10-20週齢の成体ラットから摘出した肝臓を用いることが好ましいが、2ヶ月齢以下の幼若ラット由来の肝臓を用いてもよい。ヒトの場合、外科手術により切除した成人の肝臓組織片を用いることが好ましいが、死亡胎児から切除した肝臓を用いてもよい。または、肝癌等で切除した肝組織の非癌部組織を用いてもよい。あるいは、これら摘出した肝臓または肝組織の非癌部組織から単離精製された肝細胞を凍結した細胞(凍結肝細胞)を用いることもできる。
【0020】
哺乳動物の肝臓もしくはその組織片から肝細胞を精製する方法としては、灌流法(「培養細胞実験ハンドブック」(羊土社、2004年)等)が挙げられる。即ち、門脈を通じてEGTA液で予備灌流した後、コラゲナーゼやディスパーゼ等の酵素溶液(ハンクス液等)で灌流して肝臓を消化し、濾過、低速遠心等によって細胞片や非実質細胞を除去して肝細胞を精製する。
【0021】
上記のようにして調製された肝細胞に、TGFβ受容体阻害薬を含む1以上の低分子シグナル伝達経路阻害薬を、インビトロで接触させる。
本発明における細胞集団の準備に用いられるTGFβ受容体阻害薬としては、トランスフォーミング増殖因子(TGF)β受容体の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル-2-tert-ブチル-1H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン、3-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(4-キノリル)-1-フェニルチオカルバモイル-1H-ピラゾール(A-83-01)、2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル)ピリジン-4-イルアミン(SD-208)、3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン(以上、メルク社)、SB431542(Sigma Aldrich社)などが挙げられる。好ましくはA-83-01が挙げられる。TGFβ受容体阻害薬には、TGFβ受容体アンタゴニストも含まれる。
これらのTGFβ受容体阻害薬は、1種の化合物を用いてもよいし、2種以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
TGFβ受容体阻害薬以外の低分子シグナル伝達経路阻害薬としては、好ましくはGSK3阻害薬とROCK阻害薬とが挙げられる。
【0023】
本発明における細胞集団の準備に用いられるGSK3阻害薬としては、グリコーゲン合成酵素キナーゼ(GSK)3の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、SB216763(Selleck社)、CHIR98014(Axon medchem社)、CHIR99021(Axon medchem社、AdooQ BioScience社)、SB415286(Tocris Bioscience社)、Kenpaullone(コスモ・バイオ社)などが挙げられる。好ましくはCHIR99021が挙げられる。
これらのGSK3阻害薬は、1種の化合物を用いてもよいし、2種以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明における細胞集団の準備に用いられるROCK阻害薬としては、Rho結合キナーゼの機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されない。ROCK阻害薬としては、例えば、GSK269962A(Axon medchem社)、Fasudil hydrochloride(Tocris Bioscience社)、Y-27632(和光純薬工業社、AdooQ BioScience社)、H-1152(和光純薬工業社)などが挙げられる。好ましくはY-27632が挙げられる。
これらのROCK阻害薬は、1種の化合物を用いてもよいし、2種以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
GSK3阻害薬とROCK阻害薬は、それぞれ単独で肝細胞に接触させても、ほとんどCLiPを誘導することはできないが、TGFβ受容体阻害薬とともにGSK3阻害薬を肝細胞に接触させると、TGFβ受容体阻害薬のみを接触させた場合と比較して、CLiPの誘導効率(「リプログラミング効率」ともいう)が顕著に上昇する。また、TGFβ受容体阻害薬とともにROCK阻害薬を肝細胞に接触させた場合も、TGFβ受容体阻害薬のみを接触させた場合と比較して、リプログラミング効率は上昇する。従って、本発明における細胞集団の準備においては、TGFβ受容体阻害薬に加えて、GSK3阻害薬及び/またはROCK阻害薬をさらに肝細胞に接触させることが好ましい。とりわけ、TGFβ受容体阻害薬としてA-83-01(A)を用い、GSK3阻害薬としてCHIR99021(C)を組み合わせること(AC)、TGFβ受容体阻害薬としてA-83-01(A)を用い、ROCK阻害薬としてY-27632(Y)を組み合わせること(YA)、TGFβ受容体阻害薬としてA-83-01(A)を用い、GSK3阻害薬としてCHIR99021(C)及びROCK阻害薬としてY-27632(Y)を組み合わせること(YAC)が好ましい。
TGFβ受容体阻害薬にGSK3阻害薬及びROCK阻害薬を組み合わせて用いた場合、TGFβ受容体阻害薬とGSK3阻害薬とを組み合わせて用いた場合と比較して、リプログラミング効果には大きな差は認められないが、前者の方が、後者に比べて、得られるCLiPの増殖能に優れている。従って、本発明における細胞集団の準備の特に好ましい実施態様においては、TGFβ受容体阻害薬、GSK3阻害薬及びROCK阻害薬を、肝細胞に接触させる。
【0026】
本発明における細胞集団の準備においては、GSK3阻害薬、ROCK阻害薬以外の低分子シグナル伝達経路阻害薬をTGFβ受容体阻害薬と組み合わせることもできる。そのような阻害薬としては、例えばMEK阻害薬等が挙げられるが、これに限定されない。MEK阻害薬としては、MEK(MAP kinase-ERK kinase)の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、AZD6244、CI-1040(PD184352)、PD0325901、RDEA119(BAY869766)、SL327、U0126(以上、Selleck社)、PD98059、U0124、U0125(以上、コスモ・バイオ社)などが挙げられる。
【0027】
本発明における細胞集団の準備において、肝細胞とTGFβ受容体阻害薬を含む低分子シグナル伝達経路阻害薬との接触は、これらの阻害薬の存在下で肝細胞を培養することにより行うことができる。具体的には、培地中に有効な濃度でこれらの阻害薬を添加して培養を行う。ここで培地としては、広く動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として利用することができる。市販されている基礎培地を利用してもよく、それらとしては、例えば、最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、Ham’s F12培地、William's E培地等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができるが(例えば、DMEM及びHam’s F12培地の混合培地(DMEM/F12)等)、これらに特に限定されない。培地への添加剤としては、例えば、各種アミノ酸(例えば、L-グルタミン、L-プロリン等)、各種無機塩(亜セレン酸塩、NaHCO3等)、各種ビタミン(ニコチンアミド、アスコルビン酸誘導体等)、各種抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン等)、抗真菌剤(例えば、アンホテリシン等)、緩衝剤(HEPES等)、サプリメント(insulin-transferrin-serine(ITS)-X supplement等)、NaOHなどが挙げられる。
また、培地には、1~20%の血清(FBS等)を添加することもできるが、無血清培地であってもよい。無血清培地の場合、血清代替物(BSA、HAS、KSR等)を添加してもよい。さらに、通常、増殖因子、サイトカイン、ホルモン等の因子が添加される。これらの因子としては、例えば上皮増殖因子(EGF)、インスリン、トランスフェリン、肝細胞増殖因子(HGF)、オンコスタチンM(OsM)、ヒドロコルチゾン 21-ヘミコハク酸またはその塩、デキサメタゾン(Dex)等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0028】
TGFβ受容体阻害薬の培地への添加濃度は、例えば、0.01~10μM、好ましくは0.1~9μM、より好ましくは0.3~7μM、さらに好ましくは0.5~5μMである。
GSK3阻害薬の培地への添加濃度は、例えば、0.01~100μM、好ましくは1~10μM、より好ましくは1~5μM、さらに好ましくは3μMである。
ROCK阻害薬の培地への添加濃度は、例えば、0.0001~500μM、好ましくは1~50μM、より好ましくは1~25μM、さらに好ましくは10μMである。
これらの阻害薬が水不溶性もしくは水難溶性の化合物の場合、少量の低毒性の有機溶媒(例えば、DMSO等)に溶解した後、上記の最終濃度となるよう培地に添加すればよい。
【0029】
当該培養に用いられる培養容器は、接着培養に適したものであれば特に限定されないが、例えば、ディッシュ、ペトリディッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バックなどが挙げられる。培養容器は、内表面が、細胞との接着性を向上させる目的で細胞支持用基質によりコーティングされたものを用いることができる。そのような細胞支持用基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、マトリゲル、ポリ-L-リジン、ラミニン、フィブロネクチンなどが挙げられる。好ましくはコラーゲンまたはマトリゲルが挙げられる。
【0030】
肝細胞は、102~106細胞/cm2、好ましくは103~105細胞/cm2(例えば、1.2×104細胞/cm2等)の細胞密度で培養容器上に播種することができる。培養は、CO2インキュベータ中、1~10%、好ましくは2~5%、より好ましくは約5%のCO2濃度の雰囲気下において、酸素濃度は1~25%、好ましくは2~22%、より好ましくは3~20%、培養温度は30~40℃、好ましくは35~37.5℃、より好ましくは約37℃で行うことができる。培養期間としては、例えば1~4週間、好ましくは1~3週間、より好ましくは約2週間が挙げられる。または、コンフルエントに達するまでの期間(例えば、1~2ヶ月等)が挙げられる。1~3日ごとに新鮮な培地に交換する。
【0031】
上記のようにして、肝細胞をTGFβ受容体阻害薬、並びに任意でGSK3阻害薬及び/またはROCK阻害薬に接触させることにより、肝細胞をCLiPにリプログラムすることができる。成熟肝細胞はインビトロでは増殖しないと一般的に考えられているが、例えば、TGFβ受容体阻害薬としてA-83-01(A)を用い、GSK3阻害薬としてCHIR99021(C)及びROCK阻害薬としてY-27632(Y)を組み合わせて(YAC)、ラット初代成熟肝細胞を培養した場合、2週間の培養により約15倍に増殖することが明らかとなった。また、低密度(1×102細胞/cm2)で播種したラット初代成熟肝細胞をYAC存在下で培養し、低速度撮影にて単一細胞ごとの増殖を調べたところ、YACとの接触開始後2日目から6日目までの5日間の培養の間に、5細胞以上に増殖した単一細胞の割合は約25%で、YAC非存在下で培養した場合の約1.4%に比べて著しく増加した。
【0032】
1-2. 工程(2)
工程(2)において、線維芽細胞のコロニーを培養基材から物理的に除去する方法としては、例えば、スクレーパーやピペットチップ等を用いる方法が挙げられる。具体的には、顕微鏡下で線維芽細胞のコロニーの位置を培養基材にマーキングし、スクレーパーやピペットチップ等を用いて線維芽細胞のコロニーを剥がした後、培地でウォッシュし、上清を除去する方法が挙げられる。以降の工程においても線維芽細胞を除去するため、線維芽細胞のコロニーは一部残っていてもよい。また、工程(2)は後述する工程(3)と共に1又は複数回(例:2、3、4、5、6、7、8、9回)行ってもよい。
【0033】
1-3. 工程(3)
工程(3)において、培養基材から細胞を剥離させ、該剥離された細胞を回収する方法としては、例えば、酵素処理または細胞分散液により細胞を剥離し、回収する方法が挙げられる。酵素としては、例えば、トリプシン、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼ、エラスターゼ、プロナーゼ、DNase、及びパパイン等が挙げられる。細胞分散液としては、例えば、TrypLE Select (Life Technologies社製)及びTrypLE Express (Life Technologies社製)等が挙げられる。
【0034】
上記トリプシンとしては、市販のトリプシンまたはその代替物(例えば、TrypLETM Express(Thermo Fisher Scientific)等)を用いてもよい。細胞とトリプシンとの接触は、通常の培養条件で行われてよく、例えば、CO2インキュベータ中、1~10%、好ましくは2~5%、より好ましくは約5%のCO2濃度の雰囲気下において、30~40℃、好ましくは35~37.5℃、より好ましくは約37℃で行うことができる。トリプシンの濃度は、細胞間接着及び細胞-培養基材間接着を剥離させる限り特に限定されず、例えば、0.01~0.5%、好ましくは0.05~0.25%である。処理時間は、細胞間接着及び細胞-培養基材間接着を剥離させる限り特に限定されず、例えば、1~15分間、好ましくは3~12分間、より好ましくは5~10分間、さらに好ましくは10分間である。
【0035】
剥離された細胞を回収する方法は特に限定されず、例えば、先端径の大きな5mL ピペット等で細胞をピペッティング後、上清を回収する方法が挙げられる。
【0036】
1-4. 工程(4)
工程(4)で用いるコラーゲンコートされた培養基材は、培養基材の表面がコラーゲンによりコートされている限り特に限定されない。コラーゲンコートされた培養基材は、作製したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。コラーゲンコートされた培養基材は、例えば、滅菌した0.01N塩酸を用いて滅菌した0.5%コラーゲン溶液を0.01%に希釈後、コラーゲン溶液を培養基材に加え、培養基材を揺らしてコラーゲン溶液を全体に行き渡らせ、余分なコラーゲン溶液を除去することにより作製することができる。市販品としては、例えば、コラーゲン コートディッシュ(IWAKI)、BioCoa コラーゲンI 培養用ディッシュ(コーニングインターナショナル株式会社)等が挙げられる。
【0037】
工程(3)において回収された細胞は、例えば、1×104~5×105細胞/cm2、好ましくは5×104~1×105細胞/cm2の細胞密度でコラーゲンコートされた培養基材上に播種し、培養することができる。培地としては、広く動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として利用することができる。市販されている基礎培地を利用してもよく、それらとしては、例えば、最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、Ham’s F12培地、William's E培地等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができるが(例えば、DMEM及びHam’s F12培地の混合培地(DMEM/F12)等)、これらに特に限定されない。培養は、例えば、CO2インキュベータ中、1~10%、好ましくは2~5%、より好ましくは約5%のCO2濃度の雰囲気下において、酸素濃度は1~25%、好ましくは2~22%、より好ましくは3~20%、培養温度は30~40℃、好ましくは35~37.5℃、より好ましくは約37℃で行うことができる。
培養時間は、細胞が培養基材に接着する限り特に限定されず、例えば、5~15分間、好ましくは7~13分間、より好ましくは8~12分間、さらに好ましくは10分間である。
【0038】
工程(4)において、上記の短時間(5~15分間)では、肝前駆細胞がコラーゲンコートされた培養基材に接着するよりも早く、線維芽細胞が培養基材に接着する傾向にある。したがって、培養後、未接着の細胞を回収することにより、肝前駆細胞の純度を高めることができる。工程(4)で回収した細胞は、再度、コラーゲンコートされた培養基材上に播種し、工程(4)を繰り返してもよい。該繰り返しは、複数回(例:2、3、4、5、6、7、8、9回)行ってもよい。
【0039】
1-5. その他の工程
前記の工程(1)~工程(4)により、線維芽細胞が除去された、純度が高い肝前駆細胞を含む細胞集団を製造することができるが、純度をさらに高めるため、さらなる工程を行ってもよい。さらなる工程として、例えば、工程(3)及び工程(4)の間に、工程(3)で回収された細胞をゼラチンコートされた培養基材上で培養し、前記培養基材に未接着の細胞を回収する工程(工程(3'))が挙げられる。
【0040】
上記工程(3')で用いるゼラチンコートされた培養基材は、培養基材の表面がゼラチンによりコートされている限り特に限定されない。ゼラチンコートされた培養基材は、作製したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。ゼラチンコートされた培養基材は、例えば、オートクレーブ処理した0.1% ゼラチン溶液を培養基材に加え、培養基材を揺らしてゼラチン溶液を全体に行き渡らせ、室温で10分以上静置後、余分なゼラチン溶液を除去することにより作製することができる。市販品としては、例えば、ゼラチンコート ディッシュ(IWAKI)、BioCoatゼラチン培養用ディッシュ(コーニングインターナショナル株式会社)等が挙げられる。
【0041】
工程(3)において回収された細胞は、例えば、5×103~2×106細胞/cm2、好ましくは5×104~5×105細胞/cm2の細胞密度でゼラチンコートされた培養基材上に播種し、培養することができる。培地及び培養条件は、工程(4)と同様である。培養時間は、細胞が培養基材に接着する限り特に限定されず、例えば、10分間~5時間、好ましくは20分間~4時間、より好ましくは30分間~3時間である。
【0042】
工程(3')において、線維芽細胞と比較して、肝前駆細胞はゼラチンコートされた培養基材に接着しにくい傾向にある。したがって、培養後、未接着の細胞を回収することにより、肝前駆細胞の純度を高めることができる。
【0043】
また、さらなる工程として、例えば、工程(4)の後に、工程(4)で回収された細胞をコラーゲンコートされた培養基材上で培養し、前記培養基材に未接着の細胞を除去する工程(工程(5))が挙げられる。
【0044】
工程(5)で用いるコラーゲンコートされた培養基材としては、工程(4)で用いたものと同様のものが挙げられる。
【0045】
工程(4)において回収された細胞は、例えば、工程(4)の半分の細胞密度でコラーゲンコートされた培養基材上に播種することができる。培地及び培養条件は、工程(4)と同様である。培養時間は、細胞が培養基材に接着する限り特に限定されず、例えば、コンフルエントに達するまで培養してもよい。具体的な培養時間としては、例えば、90日間~3日間(例:90日間、80日間、70日間、60日間、50日間、40日間、35日間、30日間、28日間、24日間、21日間、18日間、14日間、12日間、10日間、7日間、5日間、4日間、3日間)が挙げられる。
【0046】
工程(5)においては、線維芽細胞と比較して、肝前駆細胞が多く存在するため、結果として、コラーゲンコートされた培養基材には肝前駆細胞がより多く接着する傾向にある。したがって、培養後、肝前駆細胞の純度を高めることができる。
【0047】
本発明において、工程(3')、工程(4)及び工程(5)の一連の工程は、1又は複数回(例:2、3、4、5、6、7、8、9回)行ってもよい。また、工程(4)及び工程(5)の一連の工程は、1又は複数回(例:2、3、4、5、6、7、8、9回)行ってもよい。
【0048】
また、さらなる工程として、例えば、工程(5)において培養基材に接着した細胞を、コンフルエントに達する前に前記培養基材から剥離して回収する工程(工程(6))が挙げられる。「コンフルエントに達する前」とは、20~95%コンフルエント、好ましくは50~90%コンフルエント、より好ましくは70~85%コンフルエントの状態をいう。細胞を剥離する方法、及び剥離した細胞を回収する方法としては、工程(3)と同様の方法が挙げられる。
【0049】
工程(6)において、線維芽細胞と比較して、肝前駆細胞はトリプシン処理により剥離しやすい傾向にある。したがって、トリプシン処理により剥離した細胞を回収することにより、肝前駆細胞の純度を高めることができる。
【0050】
また、工程(6)の前後に、あるいは工程(6)を行わずに、工程(5)において培養基材に接着した細胞を、コンフルエントに達した後に前記培養基材から剥離して回収する工程(工程(7))を行ってもよい。「コンフルエントに達した」とは、90~100%コンフルエント、好ましくは95~100%コンフルエント、より好ましくは98~100%コンフルエントをいう。細胞を剥離する方法としては、工程(3)と同様の方法が挙げられる。剥離した細胞を回収する方法は特に限定されず、例えば、細胞をピペッティングする前にディッシュを優しく揺らし、ネットワーク状に凝集した細胞(例:線維芽細胞)を剥離して除去した後、先端径の大きな5mL ピペット等で細胞をピペッティング後、新たに剥離した細胞を回収する方法が挙げられる。
【0051】
工程(7)において、線維芽細胞と比較して、肝前駆細胞はトリプシン処理により剥離しにくい傾向にある。したがって、トリプシン処理により剥離した細胞を除去することにより、肝前駆細胞の純度を高めることができる。
【0052】
2. 肝前駆細胞を含む細胞集団
また、本発明は、本発明の製造方法により得られた、肝前駆細胞を含む細胞集団(以下、「本発明の細胞集団」と称する場合がある)を提供する。一実施態様において、前記細胞集団中の肝前駆細胞の割合(肝前駆細胞数/全細胞数)は、少なくとも50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上である。したがって、本発明の最も好ましい態様では、肝前駆細胞の割合(肝前駆細胞数/全細胞数)が90%以上(例:91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%)である、該肝前駆細胞を含む細胞集団を提供する。肝前駆細胞の割合は、上記1.で記載のマーカーを指標としたフローサイトメトリーにより測定することができる。このような細胞集団は、従来法でえられた細胞集団よりも肝前駆細胞の割合が高く、また活性も高くなり得る。
【0053】
3. 細胞移植療法剤
本発明はまた、本発明の細胞集団を含有してなる、細胞移植療法剤(以下、「本発明の細胞移植療法剤」と称する場合がある)を提供する。上述の通り、本発明の細胞集団は、肝前駆細胞の純度が高いとの性質を有する、品質の高い細胞集団である。よって、本発明の細胞集団は、細胞移植療法剤の原料として用いることに適しており、該細胞集団または本発明の細胞移植療法剤は、アルコール性あるいは非アルコール性の肝障害、肝線維化、脂肪肝等の治療、改善または予防に有用である。従って、本発明の細胞集団または細胞移植療法剤の有効量を治療または予防の対象とする哺乳動物(例:ヒト、マウス、ラット、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ等)に投与または移植する、肝障害の治療、改善または予防方法も、本発明に包含される。治療、改善または予防の対象とする肝障害としては、特に限定されないが、例えば、ウイルス性肝炎、急性肝炎、慢性肝炎などの肝炎、アルコール性肝障害、薬物性肝障害等が挙げられる。
【0054】
本発明の細胞集団を、細胞移植療法剤に用いる場合、拒絶反応が起こらないという観点から、移植先の個体のHLA遺伝子型が同一若しくは実質的に同一である幹細胞から樹立した肝前駆細胞を含む細胞集団を用いることが望ましい。ここで、「実質的に同一」とは、移植した細胞に対して免疫抑制剤により免疫反応が抑制できる程度にHLA遺伝子型が一致していることであり、例えば、HLA-A、HLA-B及びHLA-DRの3遺伝子座或いはHLA-Cを加えた4遺伝子座が一致するHLA型を有する体細胞である。上記細胞が、肝障害の原因となる遺伝子変異を有する場合には、例えば、ゲノム編集(例:CRISPRシステム、TALEN、ZFN等)などの手法を用いて、該遺伝子の変異を予め修復しておくことが好ましい。年齢や体質などの理由から充分な細胞が得られない場合には、ポリエチレングリコールやシリコンのようなカプセル、多孔性の容器などに包埋して拒絶反応を回避した状態で移植することも可能である。
【0055】
上記細胞集団は、常套手段にしたがって医薬上許容される担体と混合するなどして、注射剤、懸濁剤、点滴剤等の非経口製剤として製造される。当該非経口製剤に含まれ得る医薬上許容される担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)などの注射用の水性液を挙げることができる。本発明の細胞移植療法剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤、酸化防止剤などと配合してもよい。本発明の移植療法剤を水性懸濁液剤として製剤化する場合、上記水性液に約1×106~約1×108細胞/mLとなるように、細胞集団を懸濁させればよい。また、本発明の細胞集団または細胞移植療法剤の投与量または移植量及び投与回数または移植回数は、投与される哺乳動物の年齢、体重、症状などによって適宜決定することができる。
【0056】
本発明の細胞移植療法剤は、細胞の凍結保存(例:CELLBANKER(登録商標)1(タカラバイオ株式会社))に通常使用される条件で凍結保存された状態で提供され、用時融解して用いることもできる。その場合、血清若しくはその代替物、有機溶剤(例:DMSO)等をさらに含んでいてもよい。この場合、血清若しくはその代替物の濃度は、特に限定されるものではないが約1~約30%(v/v)、好ましくは約5~約20%(v/v)であり得る。有機溶剤の濃度は、特に限定されるものではないが0~約50%(v/v)、好ましくは約5~約20%(v/v)であり得る。
【0057】
4. 肝細胞または胆管上皮細胞を含む細胞集団
本発明はまた、本発明の細胞集団を分化誘導することにより得られる、肝細胞または胆管上皮細胞を含む細胞集団を提供する。肝前駆細胞から肝細胞への分化誘導は、自体公知の方法により行うことができる。例えば、オンコスタチンM(OsM)、デキサメタゾン(Dex)、肝細胞増殖因子(HGF)等を添加した培養液で培養する方法(Journal of Cellular Physiology, Vol.227(5), p.2051-2058 (2012); Hepatology, Vol.45(5), p.1229-1239 (2007))、マトリゲル重層法を組み合わせた方法(Hepatology 35, 1351-1359 (2002))等が挙げられる。肝細胞への分化誘導用培地には、TGFβ受容体阻害薬、GSK3阻害薬、ROCK阻害薬を添加してもしなくてもよいが、添加することが好ましい。肝前駆細胞からBECへの分化誘導は、自体公知の方法により行うことができる。例えば、コラーゲンゲルを用いて、EGF、インスリン様増殖因子2(IGF2)を含む培地中で培養する方法等が挙げられる。あるいは、WO2017/119512に記載の方法を用いてもよい。
【0058】
5. 本発明の肝細胞または胆管上皮細胞の用途
本発明はまた、本発明の肝細胞または胆管上皮細胞と、被検化合物とを接触させる工程を含む、被検化合物の哺乳動物体内での代謝を評価する方法、あるいは哺乳動物に対する被検化合物の肝毒性を評価する方法を提供する。これらの方法は、肝細胞における被検化合物の代謝を測定する工程、あるいは該細胞の障害の有無またはその程度を検出または測定する工程を含む。
【0059】
被検化合物の代謝や肝毒性の評価には、従来、動物モデル等が用いられていたが、一度に評価できる被検化合物の数に制限があり、また動物モデル等で得られた評価を、そのままヒトに適用できないという問題があった。そのため、ヒト肝癌細胞株や初代正常ヒト培養肝細胞を用いる評価方法が採用されている。しかしながら、ヒト肝癌細胞株は癌細胞であるため、ヒト肝癌細胞株で得られた評価が、ヒト正常肝細胞に適用できないという可能性が残る。また、初代正常ヒト培養肝細胞は安定供給やコストの面での問題がある。また、初代正常ヒト培養肝細胞を不死化した細胞株は、不死化していない場合と比較して、CYP3A4の活性が低下していることが示されている(International Journal of Molecular Medicine 14: 663-668, 2004, Akiyama I. et al.)。CLiPを用いることで、このような問題を解決し得るが、従来の方法により提供されるCLiP及び該細胞から誘導される肝細胞や胆管上皮細胞の量は十分であるとはいえない。したがって、本発明の方法により十分量のCLiPから誘導される肝細胞や胆管上皮細胞の量は、上記方法に適している。
【0060】
本発明で用いる被検化合物としては、特に制限はない。例えば、生体異物、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチド等の単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられるが、これらに限定されない。生体異物としては、例えば薬剤や食品の候補化合物、既存の薬剤や食品が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、生体にとって異物である限り、本発明の生体異物に含まれる。より具体的には、Rifampin、Dexamethasone、Phenobarbital、Ciglirazone、Phenytoin、Efavirenz、Simvastatin、β-Naphthoflavone、Omeprazole、Clotrimazole、3-Methylcholanthrene等が例示できる。
【0061】
肝細胞と被検化合物との接触は、通常、培地や培養液に被検化合物を添加することによって行うが、この方法に限定されない。被検化合物がタンパク質等の場合には、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより、接触を行うこともできる。
【0062】
被検化合物の代謝は、当業者に周知の方法で測定することが可能である。例えば被検化合物の代謝産物が検出された場合に、被検化合物が代謝されたと判定される。また、被検化合物の接触により、CYP(チトクロムp450)、MDR、MRP等の酵素遺伝子の発現が誘導された場合や、これら酵素の活性が上昇した場合に、被検化合物が代謝されたと判定される。また、障害の程度は、例えば肝細胞の生存率やGOTやGPT等の肝障害マーカーを指標に測定できる。
【実施例】
【0063】
以下に実施例などを挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例などにより限定されるものではない。
【0064】
実施例1
1. 肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団の準備(工程(1))
1-1. ヒト初代肝細胞の調製
1-1-1. 試薬
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
1-1-2. ヒト初代肝細胞の調製方法
インフォームドコンセントを得た後、肝癌等で切除した肝組織の非癌部組織(約30g)を手術室で切除し、ボウル内で4℃のソルラクト約250mLで洗浄した。輸送瓶にソルラクト約250mLを入れ、ヒト肝組織を浸漬し、実験室のクリーンベンチに運んだ。遊離成熟ヒト肝実質細胞は二段階コラゲナーゼ灌流法により調製した。その手順を以下に示す。
(1) 20mLのシリンジと18Gサーフロー留置針を用い、肝切離面の血管から37℃に温めた前灌流液を200mL/7~12minで流して脱血した。
(2) 37℃に温めたコラゲナーゼ溶液を400mL/15~20minで流し、肝細胞を分散した。
(3) 肝被膜内部がペースト状になった肝臓をはさみで細分した。
(4) ザルにガーゼ2枚を重ね置き、4℃を保持したHepatocyte Medium 1(Hep 1培地)で湿らせた上で細胞を濾過した。
(5) 金属メッシュのフィルター(孔径63μm)で濾過した。
(6) 遠心分離(50×g、2min×3回)を行った。
(7) Hep 1培地を30mL添加して懸濁させ、細胞数計数および生存率の測定を行った。
(8) 27%パーコール溶液により遠心分離し(70×g、7min、4℃)、非実質細胞と死細胞を除去した。具体的には、Percoll原液 (Percoll PLUS, #17-5445-01, GE Healthcare, Sweden)(13.5mL)、10x Hanks(1.5mL)、及び細胞懸濁液(35mL)(肝細胞懸濁液+Hep 1培地)(総量50mL)を25mLずつ2本のコニカルチューブに分注し遠心にかけた。
(9) 上清を捨て、残ったペレットにHep 1培地を一定量(20~30mL)加えた。細胞数計数および生存率の測定を行った。
【0069】
1-2. 肝細胞由来の肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団
1-2-1. 培地調製
hCLiP(human Chemically-induced Liver Progenitors)誘導培地(SHM+YAC)の組成を以下に示す。(Katsuda T, et al., Cell Stem Cell, 2017のラット、マウスCLiP誘導培地を利用した。) ここで、SHMは小型肝細胞培養培地を意味する。CLiPは、Y-27632、A-83-01、及びCHIR99021(YAC)により成熟肝細胞から誘導された肝前駆細胞を意味する。
【0070】
【0071】
1-2-2. 肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団を準備する方法
低分子化合物を用いたリプログラミング法により、肝細胞から肝前駆細胞を得た。具体的には以下のとおりである。
コラーゲンコートディッシュに、前記「1-1. ヒト初代肝細胞の調製」により得られたヒト初代肝細胞を1.2×104cells/cm2で播種(SHM+YAC)した。2日に1回培地交換をして、コンフルエントになるまで37℃で培養(1~2ヶ月間)した。TrypLETM Expressで10分間処理して継代した。(下記の線維芽細胞除去法を組み合わせながら実施し、Passege 1~3あたりで純度の高いhCLiPが得られる。)
【0072】
2. 培養基材から細胞の剥離、回収(工程(2)および工程(3))
顕微鏡下で線維芽細胞コロニー(培養10日目頃から出現)の位置を油性マジックで培養基材にマーキングした。スクレーパーやピペットチップ等を利用して、線維芽細胞コロニーを物理的に剥離した。培養培地で2回Washして上清(剥離した線維芽細胞)を除去した。コンフルエントになるまでに2、3回、実施した。TrypLE
TM Expressで10分間処理して継代した。
線維芽細胞のコロニーを細胞基材から物理的に除去する工程は、
図1上段に示すように行った。
【0073】
3. 回収された細胞をゼラチンコートされた培養基材上で培養し、培養基材に未接着の細胞の回収(工程(3'))
継代したhCLiPをゼラチンコーティングデッシュ(IWAKI)に2.5×105 cells/cm2で播種(SHM+YAC)して、37℃で30分間培養して細胞を接着させ(Gelatin)、培養培地で2回Washして上清(未接着細胞)を回収した。
【0074】
4. 回収された細胞をコラーゲンコートされた培養基材上で培養し、培養基材に未接着の細胞を回収(工程(4))
回収した未接着細胞をコラーゲンコーティングデッシュ(IWAKI)に5.0×104 cells/cm2で播種(SHM+YAC)して、37℃で10分間培養して細胞を接着させ(Collagen 1)、培養培地で2回Washして上清(未接着細胞)を回収した。
【0075】
5. 回収された細胞をコラーゲンコートされた培養基材上で培養し、培養基材に未接着の細胞を除去(工程(5))
回収した未接着細胞を、コラーゲンコーティングデッシュ(IWAKI)に2.5×104 cells/cm2で播種(SHM+YAC)して、37℃で細胞を接着させ、未接着細胞を除去し、コンフルエントに達するまで培養した(Collagen 2)。
【0076】
6. 結果
結果を
図2に示す。左は、上記3.においてゼラチンコートされた培養基材上で1日間培養した細胞の位相差顕微鏡画像である。線維芽細胞が接着しているのみであり、hCLiPはほとんど検出されなかった。中央は、上記4.においてコラーゲンコートされた培養基材上で12日間培養した細胞の位相差顕微鏡画像である。線維芽細胞が多く増殖し、hCLiPが一部に認められた。右は、上記5.においてコラーゲンコートされた培養基材上で12日間培養した細胞の位相差顕微鏡画像である。ほとんどがhCLiPであり、線維芽細胞はわずかであった。目視により確認したところ、hCLiP/全細胞数の割合は、少なくとも80%以上であった。上記中央図及び右図の結果から、上記4.において回収されなかった細胞の多くが線維芽細胞であり、回収された細胞の多くがhCLiPであることが理解され、工程(4)の時点で、十分にhCLiPの純度が高められていることが理解される。
【0077】
実施例2
実施例1の1.~5.と同様の方法により、コラーゲンコートされた培養基材に接着した細胞を得た。該細胞を回収し、実施例1の3.~5.と同様の操作を行い、コラーゲンコートされた培養基材に接着した細胞を得た。該細胞を回収し、実施例1の3.及び4.と同様の操作を行い、該4.で培養している細胞がコンフルエントになったことを確認し、実施例1と同様の酵素処理で細胞を剥離して回収した。続いて、該回収した細胞について、実施例1の3.~5.と同様の操作を行った。5.の操作において、コンフルエントに達するまでの培養期間は28日間であった。
【0078】
7. 結果
結果を
図3に示す。左は、最後の3.の操作においてゼラチンコートされた培養基材上で1日間培養した細胞の位相差顕微鏡画像である。線維芽細胞がわずかに接着しているのみであり、hCLiPはほとんど検出されなかった。中央は、最後の4.の操作においてコラーゲンコートされた培養基材上で28日間培養した細胞の位相差顕微鏡画像である。線維芽細胞が多く増殖し、hCLiPが一部に認められた。右は、最後の5.の操作においてコラーゲンコートされた培養基材上で28日間培養した細胞の位相差顕微鏡画像である。ほとんどがhCLiPであり、線維芽細胞はわずかであった。目視により確認したところ、hCLiP/全細胞数の割合は、少なくとも90%以上であった。以上の結果より、継代を重ねてもhCLiPの密度を高く維持できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の方法は、肝細胞由来の肝前駆細胞、及び線維芽細胞を含む細胞集団から、線維芽細胞を十分に除去することができ、したがって、線維芽細胞が十分に除去され肝前駆細胞の純度が高められた細胞集団の製造に利用可能である。