(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】めっき装置
(51)【国際特許分類】
C25D 17/20 20060101AFI20230525BHJP
【FI】
C25D17/20 A
C25D17/20 B
(21)【出願番号】P 2019139547
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】390025232
【氏名又は名称】城南樹脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】中島 久貴
(72)【発明者】
【氏名】冨士原 晴夫
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-043329(JP,A)
【文献】特開2005-133138(JP,A)
【文献】特開平06-248477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 13/00-21/22
C23C 18/00-20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき材を収容するバスケットを備えためっき装置であって、
2つの駆動ギヤと、
前記2つの駆動ギヤを連結するプーリーギヤと、
前記2つの駆動ギヤに偏心して取り付けられた2つの偏心軸と、
前記2つの偏心軸に軸支されたアームとを有し、
前記バスケットは、前記アームに支持されていて、
前記バスケットを水平方向に円運動させながら、前記被めっき材にめっき処理を施すことを特徴とするめっき装置。
【請求項2】
前記バスケットは、前記アームの下方向に吊り下げられていることを特徴とする請求項1に記載のめっき装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小さな部品をめっき処理する際に用いられるめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
めっき装置としては、例えばバレルめっき装置が知られている。バレルめっき装置は、小さな部品(以下、被めっき材)をめっき処理する装置であり、回転するバレルを備えている。バレルは、多角形柱(主に六角形)の形状をしていて、壁面がメッシュで構成され、壁面をめっき液が流通するようになっている。バレルめっき装置は、被めっき材をめっき処理する際、このバレル内に被めっき材を収容し、バレルごとめっき液に浸した状態でバレルを回転させる。
【0003】
ところが、近年の電子部品の微少化により、めっき装置では、0402(0.4mm×0.2mm)や0603(0.6mm×0.3mm)などの極めて小さな被めっき部材もめっき処理する必要がある。このような場合、バレルめっき装置では、バレルの壁面のメッシュも目が細かくなり、めっき液の通りが悪くなる。
【0004】
めっき処理は、被めっき材にめっき被膜が形成されるにつれて、めっき液の金属イオン濃度が低下する。しかしながらメッシュにおいてめっき液の通りが悪いため、バレル内外のめっき液の循環が悪く、めっき速度が低下するという問題がある。
【0005】
これに対して特許文献1には、被めっき材を収容して回転するバレルに代えて、バスケットを備えためっき装置が記載されている。このめっき装置では、被めっき材を収容するバスケットと、バスケット支持部と、駆動装置とをする。バスケット支持部は、バスケットを着脱可能な状態で揺動自在に保持する。駆動装置は、バスケット支持部を水平方向に往復運動させる。
【0006】
特許文献1のめっき装置は、バスケット支持部に保持されたバスケットを駆動装置により水平方向で往復運動させるだけの簡単な仕組みであり、めっき処理工程や洗浄工程などにおいて被めっき材をめっき液に浸けた状態で撹拌できる、としている。さらにめっき装置では、バスケット支持部によってバスケットが揺動自在に保持されているので、バスケット支持部の往復運動によってバスケットが揺動(首振り運動)し、被めっき材の撹拌効果をより高める、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献1のめっき装置は、バスケットを水平方向で往復運動させ、バスケット支持部に対してバスケットを揺動するものに過ぎない。つまり、このめっき装置は、振り子を揺するようにバスケットを一軸方向に動かすものであるため、バスケットに収容された被めっき材の混ざり方にムラが生じる。このため、このめっき装置では、めっき被膜の膜厚を均質化することが困難であり、また、めっき被膜で被めっき材同士がくっついたりする場合もある。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、被めっき材をまんべんなく混ぜて、めっき被膜の膜厚を均質化して品質を向上できるめっき装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかるめっき装置の代表的な構成は、被めっき材を収容するバスケットを備えためっき装置であって、バスケットを水平方向に円運動させながら、被めっき材にめっき処理を施すことを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、被めっき材を収容するバスケットを水平方向に円運動させながら、被めっき材にめっき処理を施すため、円運動により被めっき材をまんべんなく混ぜることができる。このため、めっき被膜の膜厚を均質化して品質を向上できる。さらに、めっき被膜で被めっき材同士がくっついてしまうことも防止できる。
【0012】
上記のめっき装置は、2つの駆動ギヤと、2つの駆動ギヤを連結するプーリーギヤと、2つの駆動ギヤに偏心して取り付けられた2つの偏心軸と、2つの偏心軸に軸支されたアームとを有し、バスケットは、アームに支持されているとよい。
【0013】
上記構成では、2つの駆動ギヤのいずれか一方の駆動ギヤを、例えばモータの駆動軸に取り付けてモータを駆動すると、2つの駆動ギヤは、プーリーギヤを介して同期して同一方向に回転する。このため、2つの駆動ギヤに偏心して取り付けられた2つの偏心軸は、同期して円運動を行う。さらに円運動を行う2つの偏心軸には、バスケットを支持するアームが軸支されている。このため、バスケットは、アームのうちバスケットを支持する部位の動きに合わせて、水平方向に円運動を行うことができる。したがって、バスケットに収容された被めっき材を円運動でまんべんなく混ぜることができる。
【0014】
上記のバスケットは、アームの下方向に吊り下げられているとよい。このように、アームの下方向にバスケットが吊り下げられているため、めっき装置の設置面積を削減し小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被めっき材をまんべんなく混ぜて、めっき被膜の膜厚を均質化して品質を向上できるめっき装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態におけるめっき装置の構成を示す図である。
【
図2】
図1のめっき装置を斜め上方から見た状態を示す図である。
【
図3】
図1のめっき装置の駆動部を説明する図である。
【
図4】本発明の他の実施形態におけるめっき装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態におけるめっき装置100の構成を示す図である。
図2は、
図1のめっき装置100を斜め上方から見た状態を示す図である。
【0019】
めっき装置100は、被めっき材(不図示)にめっき処理を施す装置であって、バスケット102を備える。バスケット102は、横向きに設置される容器であって、例えば
図2に示すように六角柱状体と六角錐を組み合わせた形状を有する。バスケット102は、めっき液が流通するようにメッシュ104で構成された壁面106と、被めっき材が投入される開口108とを有する。開口108は、
図2に示すようにバスケット102の上面が開放されて形成されている。
【0020】
めっき装置100はさらに、枠体110、112と、枠体110、112の上部に取り付けられた制御ボックス114と、駆動部116とを備える。なお
図2は、
図1に示す制御ボックス114の側壁118を透過して、制御ボックス114の内部も示している。制御ボックス114内には、
図2に示すモータ120が収容されている。
【0021】
制御ボックス114の側壁118には、作業者によって操作されるコントローラ122が設置されている。またモータ120は、
図2に示す制御ボックス114の下壁124の上側に設置されていて、コントローラ122の操作に応じて駆動する。駆動部116は、制御ボックス114の下壁124の下側に設置されていて、モータ120の駆動力によって駆動する(後述)。
【0022】
またバスケット102内には、
図2に示すように開口108を通って電極126が挿入されている。めっき処理を行う際には、バスケット102内に被めっき材を収容し、バスケット102ごと不図示のめっき槽のめっき液に浸漬した状態で、被めっき材に電極126を接触させて通電させる。
【0023】
このようなめっき処理により、被めっき材にはめっき被膜が形成される。ところが、めっき処理では、被めっき材にめっき被膜が形成されるにつれて、めっき液の金属イオン濃度が低下する。さらに被めっき材が例えば0.4mm×0.2mm、0.6mm×0.3mmなどの極めて小さな電子部品などである場合、バスケット102の壁面106のメッシュ104も目が細かくなり、めっき液の通りが悪くなる。その結果、バスケット102内外のめっき液の循環が悪く、めっき速度が低下してしまう。
【0024】
そこでめっき装置100では、被めっき材を収容するバスケット102を水平方向に円運動させながら、被めっき材にめっき処理を施す機構(駆動部116)を採用した。
【0025】
図3は、
図1のめっき装置100の駆動部116を説明する図である。
図3は、
図1のめっき装置100を斜め下方から見上げた状態を示していて、さらに
図2と同様に制御ボックス114の内部も示している。
【0026】
駆動部116は、2つの駆動ギヤ128、130と、プーリーギヤ132と、2つの偏心軸134、136と、アーム138とを有する。駆動ギヤ128は、モータ120の駆動軸140に取り付けられている。駆動ギヤ130は、駆動ギヤ128と同一形状を有していて、制御ボックス114の下壁124に設置された軸部142に回転自在に支持されている。
【0027】
プーリーギヤ132は、図示のように2つの駆動ギヤ128、130の間に配置されていて、2つの駆動ギヤ128、130を連結している。なおプーリーギヤ132は、制御ボックス114の下壁124に設置された軸部144に回転自在に支持されている。このため駆動部116では、モータ120を駆動すると、2つの駆動ギヤ128、130は、プーリーギヤ132を介して同期して、図中矢印に示すように同一方向に回転する。
【0028】
偏心軸134は、駆動ギヤ128の下部146の回転中心から偏心した位置に取り付けられている。また偏心軸136は、駆動ギヤ130の下部148の回転中心から偏心した位置に取り付けられている。このように、2つの偏心軸134、136は、同期して同一方向に回転する2つの駆動ギヤ128、130に偏心して取り付けられている。このため、2つの偏心軸134、136は、モータ120を駆動すると、同期して円運動を行う。
【0029】
アーム138は、円運動を行う2つの偏心軸134、136に軸支されている。アーム138は、2つの偏心軸134、136に軸支された基部150と、基部150の両端から下方に屈曲して延びる支持部152、154とを有する。支持部152、154は、基部150の下方でバスケット102の両側端156、158を水平方向に支持し固定している。このため、バスケット102は、図示のようにアーム138の下方向に吊り下げられている。
【0030】
このように駆動部116では、円運動を行う2つの偏心軸134、136に、バスケット102を支持するアーム138が軸支されている。このため、バスケット102は、アーム138の支持部152、154の動きに合わせて、図中矢印に示すように水平方向に円運動を行うことができる。
【0031】
したがってめっき装置100によれば、被めっき材を収容するバスケット102を水平方向に円運動させながら、被めっき材にめっき処理を施すため、円運動により被めっき材をまんべんなく混ぜることができる。このため、めっき被膜の膜厚を均質化して品質を向上できる。さらに、めっき被膜で被めっき材同士がくっついてしまうことも防止できる。
【0032】
また、めっき装置100では、作業者がコントローラ122を操作してモータ120の回転方向や回転速度を適宜調整することで、バスケット102の円運動の方向を時計回り、反時計回りのいずれにも設定でき、さらに円運動の速度を速くしたり遅くしたりすることもできる。このようにすれば、被めっき材をよりまんべんなく混ぜることができる。
【0033】
さらに、めっき装置100では、アーム138の下方向にバスケット102が吊り下げられているため、装置の設置面積を削減し小型化を図ることもできる。
【0034】
上記実施形態では、被めっき材を収容するバスケット102を水平方向に円運動させながら、被めっき材にめっき処理を施す構成について説明したが、これに限定されない。一例として、バスケット102を水平方向に円運動させながら、さらにバスケット102を上下方向に振り子運動(揺動)をさせるようにしてもよい(
図4参照)。
【0035】
図4は、本発明の他の実施形態におけるめっき装置100Aの構成を示す図である。めっき装置100Aは、バスケット102を水平方向に円運動させる駆動部116に加え、バスケット102を上下方向に揺動する揺動部160を備える点で、上記めっき装置100と主に異なる。
【0036】
めっき装置100Aは、揺動部160と、駆動部116を設置する設置台162と、制御ボックス164とを備える。揺動部160は、円板状のカム166と、リンク部材168と、連結部材170とを備える。カム166は、制御ボックス164内に配置された不図示のモータの駆動軸に取り付けられ、さらに図示のように、制御ボックス164の側壁172に設置されている。なお制御ボックス164の側壁172には、作業者によって操作されるコントローラ122A、122Bが設置されている。
【0037】
リンク部材168の一端部174は、カム166の回転中心から偏心した位置でカム166に対して回動自在に結合されている。またリンク部材168の他端部176は、設置台162に対して回動自在に結合されている。連結部材170は、設置台162と制御ボックス164とを連結する部材であり、図示のように上端部178が制御ボックス164に固定されている。また連結部材170の下端部180は、設置台162に対して回動自在に結合されている。
【0038】
このようにして設置台162は、連結部材170によって制御ボックス164から下方に離間した位置に位置決めされ、さらにリンク部材168によって制御ボックス164の下方に吊り下げられている。このため揺動部160では、制御ボックス164内のモータを駆動してカム166を図中矢印に示すように回転させると、設置台162が連結部材170の下端部180を中心として、リンク部材168の他端部176の動きに連動して上下に揺動する。そして揺動する設置台162には、バスケット102を水平方向に円運動させる駆動部116が設置されている。
【0039】
したがってめっき装置100Aによれば、被めっき材を収容するバスケット102を駆動部116によって水平方向に円運動させながら、さらに、揺動部160によってバスケット102に上下方向の揺動すなわち振り子運動をさせることができる。このようにして、めっき装置100Aでは、被めっき材にめっき処理を施すため、円運動および振り子運動により被めっき材をまんべんなく混ぜることができる。このため、めっき被膜の膜厚を均質化して品質を向上できる。さらに、めっき被膜で被めっき材同士がくっついてしまうことも防止できる。
【0040】
また駆動部116、揺動部160は、例えばコントローラ122A、122Bの操作に応じてそれぞれ駆動する。このため、めっき装置100Aでは、作業者がコントローラ122A、122Bを操作して、駆動部116や揺動部160のモータの回転方向や回転速度を適宜調整することができる。その結果、めっき装置100Aでは、バスケット102の円運動の方向を時計回り、反時計回りのいずれにも設定でき、さらに円運動や振り子運動の速度を速くしたり遅くしたりすることもできる。このようにすれば、被めっき材をよりまんべんなく混ぜることができる。
【0041】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、小さな部品をめっき処理する際に用いられるめっき装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
100、100A…めっき装置、102…バスケット、104…メッシュ、106…壁面、108…開口、110、112…枠体、114、164…制御ボックス、116…駆動部、118、172…制御ボックスの側壁、120…モータ、122、122A、122B…コントローラ、124…制御ボックスの下壁、126…電極、128、130…駆動ギヤ、132…プーリーギヤ、134、136…偏心軸、138…アーム、140…モータの駆動軸、142、144…軸部、146、148…駆動ギヤの下部、150…アームの基部、152、154…アームの支持部、156、158…バスケットの両側端、160…揺動部、162…設置台、166…カム、168…リンク部材、170…連結部材、174…リンク部材の一端部、176…リンク部材の他端部、178…連結部材の上端部、180…連結材の下端部