IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルテクスの特許一覧

<>
  • 特許-機械振動加工装置及び機械振動加工方法 図1
  • 特許-機械振動加工装置及び機械振動加工方法 図2
  • 特許-機械振動加工装置及び機械振動加工方法 図3
  • 特許-機械振動加工装置及び機械振動加工方法 図4
  • 特許-機械振動加工装置及び機械振動加工方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】機械振動加工装置及び機械振動加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/10 20060101AFI20230525BHJP
【FI】
B23K20/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019213335
(22)【出願日】2019-11-26
(65)【公開番号】P2021084119
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-07-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594114019
【氏名又は名称】株式会社アルテクス
(74)【代理人】
【識別番号】100136180
【弁理士】
【氏名又は名称】羽立 章二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 茂
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/189057(WO,A1)
【文献】特開2011-143419(JP,A)
【文献】特開2003-220648(JP,A)
【文献】特許第3338008(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象物に対して加工を行う機械振動加工装置であって、
前記加工対象物に接するホーンと、
前記ホーンに対して機械振動及び回転駆動をさせて前記加工を行う制御部を備え、
前記制御部は、
機械振動をさせる第1振動状態と、前記第1振動状態よりも機械振動が少ない第2振動状態とを交互に繰り返して、前記ホーンに対する周期的に変える機械振動を実現し、
回転駆動をさせる第1回転状態と、前記第1回転状態よりも回転駆動が小さい第2回転状態とを交互に繰り返して、前記ホーンに対する周期的に変える回転駆動を実現し、
前記第2回転状態の一部又は全部において前記第1振動状態として、回転駆動が小さい状態で前記第1振動状態での機械振動による加工を実現し、
前記第2振動状態の一部又は全部において前記第1回転状態として、機械振動が小さい状態で前記第1回転状態での回転駆動を実現する、機械振動加工装置。
【請求項2】
前記第2振動状態は機械振動をさせない状態であり、前記第2回転状態は回転駆動をさせない状態である、請求項記載の機械振動加工装置。
【請求項3】
前記加工対象物は金属であって、前記加工は連続して金属同士を接合するものであり、又は、前記加工対象物は樹脂であって、前記加工は連続して樹脂を溶着するものである、請求項1又は2に記載の機械振動加工装置
【請求項4】
加工対象物に対して加工を行う機械振動加工方法であって、
制御部が、前記加工対象物に接するホーンに対して機械振動及び回転駆動をさせて前記加工を行う加工ステップを含み、
前記加工ステップにおいて、前記制御部は、
機械振動をさせる第1振動状態と、前記第1振動状態よりも機械振動が少ない第2振動状態とを交互に繰り返して、前記ホーンに対する周期的に変える機械振動を実現し、
回転駆動をさせる第1回転状態と、前記第1回転状態よりも回転駆動が小さい第2回転状態とを交互に繰り返して、前記ホーンに対する周期的に変える回転駆動を実現し、
前記第2回転状態の一部又は全部において前記第1振動状態として、回転駆動が小さい状態で前記第1振動状態での機械振動による加工を実現し、
前記第2振動状態の一部又は全部において前記第1回転状態として、機械振動が小さい状態で前記第1回転状態での回転駆動を実現する、機械振動加工方法
【請求項5】
前記第2振動状態は機械振動をさせない状態であり、前記第2回転状態は回転駆動をさせない状態である、請求項4記載の機械振動加工方法
【請求項6】
前記加工対象物は金属であって、前記加工は連続して金属同士を接合するものであり、又は、前記加工対象物は樹脂であって、前記加工は連続して樹脂を溶着するものである、請求項4又は5に記載の機械振動加工方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械振動加工装置及び機械振動加工方法に関し、特に、加工対象物に対して加工を行う機械振動加工装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1にあるように、発明者は、加工対象物に接するホーンを機械振動及び回転駆動させて、超音波振動などの機械振動を利用した加工を行うことを研究開発してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3338008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図5は、従来の機械振動、回転駆動及びアンビル上昇加圧を制御する制御信号の一例を示す。図5(a)において、上から順に、機械振動、回転駆動及びアンビル上昇加圧を制御するための制御信号を示すグラフである。各グラフにおいて、横軸は時間であり、縦軸は、制御信号のオン/オフの状態を示す。従来、プロセス中には、機械振動、回転駆動及びアンビル上昇加圧は、一定で継続するように制御していた。
【0005】
しかしながら、図5(b)にあるように、機械振動、回転駆動及びアンビル上昇加圧を一定にすると、接合が不安定になった。これは、厚鋼板が360°方向(平面)へ連続的に変位しようとする力が不均一となることによると考えられる。その結果、図5(c)に示すように、力が強くかかる部分と弱まる部分とが生じて、接合面が不安定になったと考えられる。
【0006】
よって、本発明は、安定した加工面を形成することに適した機械振動加工装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の第1の観点は、加工対象物に対して加工を行う機械振動加工装置であって、前記加工対象物に接するホーンと、前記ホーンに対して機械振動及び回転駆動をさせて前記加工を行う制御部を備え、前記制御部は、前記ホーンに対する機械振動及び/又は回転駆動を周期的に変える。
【0008】
本願発明の第2の観点は、第1の観点の機械振動加工装置であって、前記制御部は、機械振動をさせる第1振動状態と、前記第1振動状態よりも機械振動が少ない第2振動状態とを交互に繰り返して、前記ホーンに対する周期的に変える機械振動を実現し、回転駆動をさせる第1回転状態と、前記第1回転状態よりも回転駆動が小さい第2回転状態とを交互に繰り返して、前記ホーンに対する周期的に変える回転駆動を実現するものであり、前記制御部は、前記加工において、前記ホーンの機械振動を周期的に変えるならば、少なくとも前記第2振動状態の一部又は全部において回転駆動をさせ、前記ホーンの回転駆動を周期的に変えるならば、少なくとも前記第2回転状態の一部又は全部において機械振動をさせる。
【0009】
本願発明の第3の観点は、第2の観点の機械振動加工装置であって、前記制御部は、前記加工において、前記ホーンの機械振動及び回転運動を周期的に変えるならば、前記第2回転状態の一部又は全部において前記第1振動状態として、回転駆動が小さい状態で前記第1振動状態での機械振動による加工を実現し、前記第2振動状態の一部又は全部において前記第1回転状態として、機械振動が小さい状態で前記第1回転状態での回転駆動を実現する。
【0010】
本願発明の第4の観点は、第2又は第3の観点の機械振動加工装置であって、前記第2振動状態は機械振動をさせない状態であり、前記第2回転状態は回転駆動をさせない状態である。
【0011】
本願発明の第5の観点は、加工対象物に対して加工を行う機械振動加工方法であって、制御部が、前記加工対象物に接するホーンに対して機械振動及び回転駆動をさせて前記加工を行う加工ステップを含み、前記加工ステップにおいて、前記制御部は、前記ホーンに対する機械振動及び/又は回転駆動を周期的に変える。
【0012】
本願発明の第6の観点は、第5の観点の機械振動加工方法であって、前記制御部は、機械振動をさせる第1振動状態と、前記第1振動状態よりも機械振動が少ない第2振動状態とを交互に繰り返して、前記ホーンに対する周期的に変える機械振動を実現し、回転駆動をさせる第1回転状態と、前記第1回転状態よりも回転駆動が小さい第2回転状態とを交互に繰り返して、前記ホーンに対する周期的に変える回転駆動を実現するものであり、前記加工ステップにおいて、前記制御部は、前記ホーンの機械振動を周期的に変えるならば、前記第2振動状態の一部又は全部において回転駆動をさせ、前記ホーンの回転駆動を周期的に変えるならば、前記第2回転状態の一部又は全部において機械振動をさせる。
【発明の効果】
【0013】
本願発明の各観点によれば、機械振動(20kHz以上の超音波振動、20kHz未満の音波振動など)及び回転駆動の少なくとも一方を周期的に変えることにより、力がかかった状態で生じたストレスが、周期的な変化により発散される状態を生じ、これにより、安定した加工面を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)本願発明の実施の形態に係る機械振動加工装置1の構成の一例を示すブロック図と、(b)制御信号の一例を示すグラフと、(c)及び(d)接合面の一例を示す図である。
図2図1(a)の機械振動加工装置1の実際の機械の一例を説明するための図である。
図3】他の実施の形態における制御信号の一例を示すグラフである。
図4】亜鉛めっき鋼板について、15kHzの機械振動を利用して4辺をそれぞれ連続シームしたものである。
図5】従来の(a)制御信号の一例を示すグラフと、(b)及び(c)接合面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本願発明の実施例について述べる。なお、本願発明の実施の形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0016】
図1は、(a)本願発明の実施の形態に係る機械振動加工装置1の構成の一例を示すブロック図と、(b)制御信号の一例を示すグラフと、(c)及び(d)接合面の一例を示す図である。
【0017】
図1は、本願発明の実施の形態に係る機械振動加工装置1の構成の一例を示すブロック図である。機械振動は、例えば、20kHz未満の機械振動である音波振動、20kHz以上の機械振動である超音波振動を含む。
【0018】
図1(a)を参照して、機械振動加工装置1は、制御部3(本願請求項の「制御部」の一例)と、電気信号発振部5と、振動子部7と、駆動部9と、ホーン11(本願請求項の「ホーン」の一例)と、圧力調整部13を備える。
【0019】
制御部3は、振動子部7、駆動部9及び圧力調整部13に対して、それぞれ、機械振動制御信号、回転駆動制御信号及びアンビル上昇加圧制御信号により動作を制御する。例えば、振動子部7、駆動部9及び圧力調整部13は、対応する制御信号がオンの状態では動作し、オフの状態では動作しない。
【0020】
電気信号発振部5は、電気信号を発生する。振動子部7は、電気信号発振部5が発生した電気信号を機械振動に変換する。
【0021】
駆動部9は、ホーン11を両持ち支持して回転駆動させる。振動子部7が変換した機械振動は、駆動部9を介してホーン11に伝搬する。
【0022】
ホーン11は、直接に、加工対象物15に押し当り、加工(接合や溶着など)を行う。
【0023】
ホーン11及び圧力調整部13は、ホーン11は上から、圧力調整部13は下から、加工対象物15を挟む。圧力調整部13は、制御部3からの制御信号に従って上昇して、ホーン11と加工対象物15との間の圧力を調整する。なお、圧力調整部13は、ホーン11が駆動することと同期してアンビル(受け治具)が駆動するものであってもよい。
【0024】
図2は、図1(a)の機械振動加工装置1の実際の機械の一例を説明するための図である。図2(a)は、実際の機械の全体を示す。図2(b)は、図2(a)においてアクチュエータの部分を示す。
【0025】
図2(c)は、音波ロータリーシステムの概要を示す図である。横振動(水平方向)又は縦振動(ラジアル方向)のモードで振動するホーン39が、回転しながらパーツ41に音波エネルギーを伝えることで、連続して金属同士を接合したり、樹脂同士を溶着したりする。図2(c)において、電気信号(Electric signal)31、トランスデューサ(Transducer)33、ブースター35及び37(Booster)、ホーン(Horn)39並びにパーツ(Parts)41が、それぞれ、図1の電気信号発振部5が発生する電気信号、振動子部7、駆動部9、ホーン11及び加工対象物15に対応する。
【0026】
図2(d)及び(e)は、それぞれ、横振動及び縦振動を説明するための図である。ホーン11の振動モードは、ホーンの形状により変化する。振動モードは、例えば、横振動モードと縦振動モードがある。横振動モードは、一波長を基本としたホーンのセンターの振動振幅最大点を中心として、振動が平行する水平方向の横振動として伝達される。主として音波金属接合に使用される。縦振動モードは、半波長を基本としたホーンのセンターの応力最大点を中心として、振幅がラジアル方向の縦振動へ分岐される。主として音波樹脂溶着に使用される。
【0027】
図1(b)は、機械振動制御信号、回転駆動制御信号及びアンビル上昇加圧制御信号の一例を示すグラフである。上から順に、機械振動制御信号、回転駆動制御信号及びアンビル上昇加圧制御信号を示すグラフである。各グラフにおいて、横軸は時間である。縦軸は、制御信号のオン/オフの状態を示す。横軸に一致する部分がオフの状態を示し、横軸とは異なる部分はオンの状態を示し、横軸から離れた度合いは、制御の強さを示す。
【0028】
機械振動制御信号は、オンの状態とオフの状態を周期的に繰り返す。機械振動制御信号がオンの状態であるときには、振動子部7は電気信号を機械振動に変換して、ホーン11が機械振動する(本願請求項の「第1振動状態」の一例)。機械振動制御信号がオフの状態であるときには、振動子部7は電気信号を機械振動に変換せず、ホーン11が機械振動しない(本願請求項の「第2振動状態」の一例)。
【0029】
回転駆動制御信号は、オンの状態とオフの状態を周期的に繰り返す。回転駆動制御信号がオンの状態であるときには、駆動部9はホーン11を回転駆動する(本願請求項の「第1回転状態」の一例)。回転駆動制御信号がオフの状態であるときには、駆動部9はホーン11を回転駆動しない(本願請求項の「第2回転状態」の一例)。
【0030】
アンビル上昇加圧制御信号は、プロセス中で一定で継続する。
【0031】
この例では、機械振動制御信号及び回転駆動制御信号は、一方がオンの状態であれば、他方がオフの状態となるように、交互にオン/オフの状態となるように制御する(間欠交互制御)。なお、厳密に一方がオンの状態であることと他方がオフの状態であることとが対応する必要はなく、オンの状態とオフの状態が変更するときに、双方がオフの状態が存在してもよい。
【0032】
図1(c)は、交互にオン/オフの状態として行った加工を示す。図1(d)は、断面図の概要を示す図である。図1(c)にあるように、接合面は安定したものとなった。図1(d)にあるように、オン/オフを交互に行うことによって、オフの状態を利用して不均一な力を発散させて、安定した加工面を実現することができる。
【0033】
図3は、他の実施の形態における制御信号の一例を示すグラフである。各グラフにおいて、上から順に、機械振動制御信号、回転駆動制御信号及びアンビル上昇加圧制御信号を示す。各グラフにおいて、横軸は時間である。縦軸は、制御信号のオン/オフの状態を示す。横軸に一致する部分がオフの状態を示し、横軸とは異なる部分はオンの状態を示し、横軸から離れた度合いは、制御の強さを示す。
【0034】
例えば図3(a)にあるように、機械振動制御信号及び回転駆動制御信号の一方をオンの状態とオフの状態を周期的に変化させ、他方は、オンの状態において制御の強さを周期的に変化させるものであってもよい。図3(a)は、機械振動制御信号をオンの状態とオフの状態で周期的に変化させる例を示す。回転駆動制御信号は、機械振動制御信号がオンの状態のときには回転駆動を弱めて力のストレスがかかりにくくし、機械振動制御信号がオフの状態のときに回転駆動を強めて力のストレスが低い状態で大きく移動させるようにする。
【0035】
例えば図3(b)にあるように、機械振動制御信号のみをオンの状態とオフの状態を周期的に変化させ、回転駆動制御信号は、オンの状態とするものであってもよい。機械振動制御信号がオフの状態を利用して、力のストレスを発散させることができる。
【0036】
例えば図3(c)にあるように、回転駆動制御信号のみをオンの状態とオフの状態を周期的に変化させ、機械振動制御信号は、オンの状態とするものであってもよい。回転駆動制御信号がオフの状態を利用して、力のストレスを発散させることができる。
【0037】
図4は、亜鉛めっき鋼板について、間欠交互制御を利用して4辺をそれぞれ連続シームしたものである。亜鉛めっき鋼板の抵抗スポット溶接では、連続的にスポット溶接を繰り返すと、ある打点数でナゲットと呼ばれる継手板・板間の溶接部が得られなくなる。亜鉛めっき鋼板は、極端に少ないことが知られていた(例えば、近藤、外3名著,「合金化溶融亜鉛めっき鋼板の抵抗スポット溶接における電極先端形状の消耗変化」,溶接学会論文集,第27巻,第3号,2009,p.230-239参照)。
【0038】
図4によれば、亜鉛めっき鋼板で、間欠交互制御を利用して連続シームを得られている。機械振動と回転駆動は、1.0秒間機械振動させつつ回転を停止して、0.5秒間回転駆動させて機械振動を停止することを繰り返す間欠交互制御を行った。接合条件は、周波数が15kHz、加圧が300N、回転数は1.0rpm、振幅は50.0μm、シーム長さは300mm、接合幅は5.0mmである。
【0039】
さらに、発明者は、実験により、本願発明によって、アルミニウム、ステンレス、高張力鋼(ハイテン)などの広い範囲の金属の接合や、樹脂の溶着が可能となったことを確認した。
【符号の説明】
【0040】
1 機械振動加工装置、3 制御部、5 電気信号発振部、7 振動子部、9 駆動部、11 ホーン、13 圧力調整部、31 電気信号、33 トランスデューサ、35,37 ブースター、39 ホーン、41 パーツ
図1
図2
図3
図4
図5