(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】超音波送受波器
(51)【国際特許分類】
G01S 7/521 20060101AFI20230525BHJP
G01S 15/96 20060101ALI20230525BHJP
H04R 1/44 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
G01S7/521 B
G01S15/96
H04R1/44 330C
(21)【出願番号】P 2022536999
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2022015447
【審査請求日】2022-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】流田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】山本 重雄
(72)【発明者】
【氏名】樋口 和樹
(72)【発明者】
【氏名】若林 稔
(72)【発明者】
【氏名】安田 直輝
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-016275(JP,A)
【文献】特開2007-331507(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0088239(US,A1)
【文献】特開平10-186030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/52-7/64
G01S 15/00-15/96
H04R 1/00-1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信する超音波振動子をケース内に収容した状態でモールドした構造を有し、船底に設けられたスカッパー孔を利用して取付可能な超音波送受波器であって、
前記ケースは、ケース長さ方向の寸法が前記スカッパー孔の内径よりも大きい一方で、ケース幅方向の寸法が前記スカッパー孔の内径よりも小さい縦長形状を有し、
前記ケースの上面にケーブル引出部を有するとともに、前記ケーブル引出部が前記ケースの中心部を基準として端部寄りの位置に偏心して配置され、
前記ケーブル引出部の外周面には、前記ケースを前記スカッパー孔に対して前記船底の上側から固定する際に用いる雄ねじ構造部が形成されている
ことを特徴とする超音波送受波器。
【請求項2】
前記超音波振動子は、互いに照射方向が異なる複数の超音波振動子を含み、複数の前記超音波振動子は、前記ケース長さ方向に沿って配列されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波送受波器。
【請求項3】
複数の前記超音波振動子は、第1音響放射面及び前記第1音響放射面に直交する第1中心軸を有する第1超音波振動子と、第2音響放射面及び前記第2音響放射面に直交する第2中心軸を有する複数の第2超音波振動子とからなり、
複数の前記第2超音波振動子は、前記第2中心軸が前記第1中心軸に対して20°以上40°以下の範囲から選択した1つの角度をなすように傾斜して配置されている
ことを特徴とする請求項2に記載の超音波送受波器。
【請求項4】
複数の前記超音波振動子は、2列かつ千鳥状に配列されていることを特徴とする請求項3に記載の超音波送受波器。
【請求項5】
複数の前記超音波振動子は、2列かつ千鳥状に配列されているとともに、複数の前記第2超音波振動子は、隣接する前記ケースの側壁と反対側を向くように傾斜して配置されていることを特徴とする請求項3に記載の超音波送受波器。
【請求項6】
複数の前記超音波振動子を所定の位置及び傾きに保持する振動子ホルダを備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の超音波送受波器。
【請求項7】
複数の前記超音波振動子を所定の位置及び傾きに保持する振動子ホルダを備えるとともに、
複数の前記超音波振動子を保持した前記振動子ホルダは、前記ケース内に収容された状態で充填剤によってモールドされ、
前記充填剤は、前記超音波振動子の音響整合層よりも固有音響インピーダンスが低く、防水性を有するとともに、外表面が前記ケースの開口部と面一になるように充填されることで前記ケースの開口部を塞いでいる
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の超音波送受波器。
【請求項8】
前記ケーブル引出部と前記スカッパー孔との隙間を埋めるとともに、前記ケーブル引出部の前記雄ねじ構造部に螺着可能な雌ねじ構造部を有する固定具をさらに備え、
前記ケースは、前記固定具の挿入により前記隙間を埋めた状態で、前記雄ねじ構造部に前記雌ねじ構造部を螺着して締め付けることにより、前記スカッパー孔に対して固定される
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の超音波送受波器。
【請求項9】
スペーサとナットとを含む固定具をさらに備え、
前記スペーサは、前記ケーブル引出部と前記スカッパー孔との隙間を埋める略円筒状のスペーサ本体部と、前記スペーサ本体部の一端側に設けられ、前記スカッパー孔における上部開口側の環状段部上に載置されるフランジ部とを有し、
前記ナットは、前記スペーサと別体で形成され、前記ケーブル引出部の前記雄ねじ構造部に螺着可能な雌ねじ構造部を有し、
前記ケースは、前記スペーサ本体部の挿入により前記隙間を埋めた状態で、前記雄ねじ構造部に前記ナットの前記雌ねじ構造部を螺着して締め付けることにより、前記スカッパー孔に対して固定される
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の超音波送受波器。
【請求項10】
前記超音波振動子は、長手方向の寸法が前記スカッパー孔の内径よりも大きい1つ以上の超音波振動子を含み、前記超音波振動子は、自身の長手方向を前記ケース長さ方向に沿わせるようにして配置されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波送受波器。
【請求項11】
前記超音波振動子は、互いに照射方向が異なる複数の長尺状超音波振動子を含むことを特徴とする請求項10に記載の超音波送受波器。
【請求項12】
複数の前記長尺状超音波振動子を所定の位置及び傾きに保持する振動子ホルダを備えることを特徴とする請求項11に記載の超音波送受波器。
【請求項13】
複数の前記長尺状超音波振動子を所定の位置及び傾きに保持する振動子ホルダを備えるとともに、
複数の前記長尺状超音波振動子を保持した前記振動子ホルダは、前記ケース内に収容された状態で充填剤によってモールドされ、
前記充填剤は、前記長尺状超音波振動子の音響整合層よりも固有音響インピーダンスが低く、防水性を有するとともに、外表面が前記ケースの開口部と面一になるように充填されることで前記ケースの開口部を塞いでいる
ことを特徴とする請求項11に記載の超音波送受波器。
【請求項14】
前記ケーブル引出部と前記スカッパー孔との隙間を埋めるとともに、前記ケーブル引出部の前記雄ねじ構造部に螺着可能な雌ねじ構造部を有する固定具をさらに備え、
前記ケースは、前記固定具の挿入により前記隙間を埋めた状態で、前記雄ねじ構造部に前記雌ねじ構造部を螺着して締め付けることにより、前記スカッパー孔に対して固定される
ことを特徴とする請求項10乃至12のいずれか1項に記載の超音波送受波器。
【請求項15】
スペーサとナットとを含む固定具をさらに備え、
前記スペーサは、前記ケーブル引出部と前記スカッパー孔との隙間を埋める略円筒状のスペーサ本体部と、前記スペーサ本体部の一端側に設けられ、前記スカッパー孔における上部開口側の環状段部上に載置されるフランジ部とを有し、
前記ナットは、前記スペーサと別体で形成され、前記ケーブル引出部の前記雄ねじ構造部に螺着可能な雌ねじ構造部を有し、
前記ケースは、前記スペーサ本体部の挿入により前記隙間を埋めた状態で、前記雄ねじ構造部に前記ナットの前記雌ねじ構造部を螺着して締め付けることにより、前記スカッパー孔に対して固定される
ことを特徴とする請求項10乃至12のいずれか1項に記載の超音波送受波器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を送受信する超音波振動子を備えた超音波送受波器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波の送受信によって魚群などの被探査物を検知するための装置として、スキャニングソナーがよく知られている。一般的なスキャニングソナーは、超音波を送受信する超音波振動子を有する超音波送受波器と、その超音波送受波器を旋回及び回転させる駆動機構とを備えている。そして、この種のスキャニングソナーでは、超音波送受波器を旋回及び回転させながら超音波の送受信を行い、水中を探査するようになっている。
【0003】
ところで、上記のような駆動機構を持たない代わりに、平面や球面を有する支持体の上に多数の超音波振動子をマトリックス状あるいはアレイ状に配置したスキャニングソナーも従来幾つか提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。また、このようなスキャニングソナーを船底にあるスカッパー孔を利用して取り付ける技術も従来提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-105850号公報(
図1等)
【文献】中華人民共和国特許公開CN-A-109959915号公報(
図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のスキャニングソナーの場合、比較的大きなものをスカッパー孔を介して船内側から取付可能としたものは提案されていない。仮に、船内側から取り付けようとすると、スキャニングソナー全体を小型にしなければならないという問題がある。また、従来において、スカッパー孔よりも大きなケースを、超音波振動子を収容した状態で取り付けるためには、船舶を上架する必要があるため、ケースの取付固定が困難である。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、スカッパー孔よりも大きなケースを、スカッパー孔を介して簡単に船内側から船外側に出して取付固定することができる超音波送受波器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、超音波を送受信する超音波振動子をケース内に収容した状態でモールドした構造を有し、船底に設けられたスカッパー孔を利用して取付可能な超音波送受波器であって、前記ケースは、ケース長さ方向の寸法が前記スカッパー孔の内径よりも大きい一方で、ケース幅方向の寸法が前記スカッパー孔の内径よりも小さい縦長形状を有し、前記ケースの上面にケーブル引出部を有するとともに、前記ケーブル引出部が前記ケースの中心部を基準として端部寄りの位置に偏心して配置され、前記ケーブル引出部の外周面には、前記ケースを前記スカッパー孔に対して前記船底の上側から固定する際に用いる雄ねじ構造部が形成されていることを特徴とする超音波送受波器をその要旨とする。
【0008】
従って、請求項1に記載の発明によると、ケースが、ケース長さ方向の寸法がスカッパー孔の内径よりも大きくなるものの、ケース幅方向の寸法がスカッパー孔の内径よりも小さい縦長形状を有している。しかも、ケースの上面に設けられたケーブル引出部が、ケースの中心部を基準として端部寄りの位置に偏心して配置されている。その結果、スカッパー孔よりも大きなケースを、スカッパー孔を介して船内側から船外側に出した後、ケーブル引出部に形成された雄ねじ構造部を用いてスカッパー孔に簡単に固定することができる。ゆえに、ケースの取り付けに際して、船舶を上架しなくても済む。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記超音波振動子は、互いに照射方向が異なる複数の超音波振動子を含み、複数の前記超音波振動子は、前記ケース長さ方向に沿って配列されていることをその要旨とする。
【0010】
従って、請求項2に記載の発明によると、複数の超音波振動子がケース長さ方向に沿って配列されるため、ケースをコンパクトに構成することができる。また、各超音波振動子の照射方向が互いに異なるため、超音波振動子を回転させたりしなくても、多周波、多方位の探知が可能となる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、複数の前記超音波振動子は、第1音響放射面及び前記第1音響放射面に直交する第1中心軸を有する第1超音波振動子と、第2音響放射面及び前記第2音響放射面に直交する第2中心軸を有する複数の第2超音波振動子とからなり、複数の前記第2超音波振動子は、前記第2中心軸が前記第1中心軸に対して20°以上40°以下の範囲から選択した1つの角度をなすように傾斜して配置されていることをその要旨とする。
【0012】
従って、請求項3に記載の発明によると、第1超音波振動子の第1中心軸を基準として、複数の第2超音波振動子の第2中心軸を傾斜させて配置している。このように配置することで、各々の第2超音波振動子の第2音響放射面を、互いに異なる方向を向いた状態とすることができる。ゆえに、水中の広い探査エリアを限られた少ない数の超音波振動子でカバーすることが可能となり、広範囲を比較的早く探査することができる。しかも、超音波振動子の総数が少ないことから、ケースをコンパクトに構成することができる。さらに、チャンネル数も少なくて済むため、切換制御のための構成が簡略化され、安価な超音波送受波器とすることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3において、複数の前記超音波振動子は、2列かつ千鳥状に配列されていることをその要旨とする。
【0014】
従って、請求項4に記載の発明によると、特定の超音波振動子から照射される超音波が、別の超音波振動子の陰になって遮られることを防止できる。また、複数の超音波振動子が2列かつ千鳥状に配置されることにより、ケースのケース長さ方向の寸法を短くすることができるため、ケースの取り扱いが容易になる。しかも、各超音波振動子は、2列であっても千鳥状に配置されるため、ケースのケース幅方向の寸法が大きくなり過ぎない。よって、ケースのケース幅方向の寸法を、スカッパー孔の内径よりも小さく抑えることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項3において、複数の前記超音波振動子は、2列かつ千鳥状に配列されているとともに、複数の前記第2超音波振動子は、隣接する前記ケースの側壁と反対側を向くように傾斜して配置されていることをその要旨とする。
【0016】
従って、請求項5に記載の発明によると、特定の第2超音波振動子から照射される超音波が、ケースの側壁の陰になって遮られることを防止できる。しかも、特定の超音波振動子から照射される超音波が、別の超音波振動子の陰になって遮られることも防止できる。さらに、ケースが有する側壁により、ケースを補強することができる。また、複数の超音波振動子が2列かつ千鳥状に配置されることにより、ケースのケース長さ方向の寸法を短くすることができるため、ケースの取り扱いが容易になる。しかも、各超音波振動子は、2列であっても千鳥状に配置されるため、ケースのケース幅方向の寸法が大きくなり過ぎない。よって、ケースのケース幅方向の寸法を、スカッパー孔の内径よりも小さく抑えることができる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか1項において、複数の前記超音波振動子を所定の位置及び傾きに保持する振動子ホルダを備えることをその要旨とする。
【0018】
従って、請求項6に記載の発明によると、複数の超音波振動子を、簡単にかつ確実に所定の正しい位置及び傾きに保持することができる。また、このような振動子ホルダを用いることで、各超音波振動子同士を位置決めするときの面倒な作業が不要になる。よって、高品質であって製造が容易な超音波送受波器とすることができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか1項において、複数の前記超音波振動子を所定の位置及び傾きに保持する振動子ホルダを備えるとともに、複数の前記超音波振動子を保持した前記振動子ホルダは、前記ケース内に収容された状態で充填剤によってモールドされ、前記充填剤は、前記超音波振動子の音響整合層よりも固有音響インピーダンスが低く、防水性を有するとともに、外表面が前記ケースの開口部と面一になるように充填されることで前記ケースの開口部を塞いでいることをその要旨とする。
【0020】
従って、請求項7に記載の発明によると、振動子ホルダにより、複数の超音波振動子を、簡単にかつ確実に所定の正しい位置及び傾きに保持することができる。また、このような振動子ホルダを用いることで、各超音波振動子同士を位置決めするときの面倒な作業が不要になる。よって、高品質であって製造が容易な超音波送受波器とすることができる。
【0021】
しかも、請求項7に記載の発明では、複数の超音波振動子がケース内に収容された状態で充填剤によってモールドされている。この充填剤は、超音波振動子の音響整合層よりも固有音響インピーダンスが低く、防水性を有する。また、この充填剤は、外表面がケースの開口部と面一になるように充填され、開口部を塞いでいる。従って、複数の超音波振動子が充填剤に埋設されて不可視となる結果、各超音波振動子が保護され、防水性が向上する。また、ケースの開口部側が凹凸のない超音波放射面となるので、見た目が煩雑になりにくく、水中での抵抗も低減される。
【0022】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか1項において、前記ケーブル引出部と前記スカッパー孔との隙間を埋めるとともに、前記ケーブル引出部の前記雄ねじ構造部に螺着可能な雌ねじ構造部を有する固定具をさらに備え、前記ケースは、前記固定具の挿入により前記隙間を埋めた状態で、前記雄ねじ構造部に前記雌ねじ構造部を螺着して締め付けることにより、前記スカッパー孔に対して固定されることをその要旨とする。
【0023】
従って、請求項8に記載の発明によると、超音波送受波器を構成する縦長形状のケースを、スカッパー孔を介して船内側から船外側に出した後、ケーブル引出部とスカッパー孔との隙間を固定具で埋めることにより、ケースの位置ずれを防止することができる。
【0024】
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか1項において、スペーサとナットとを含む固定具をさらに備え、前記スペーサは、前記ケーブル引出部と前記スカッパー孔との隙間を埋める略円筒状のスペーサ本体部と、前記スペーサ本体部の一端側に設けられ、前記スカッパー孔における上部開口側の環状段部上に載置されるフランジ部とを有し、前記ナットは、前記スペーサと別体で形成され、前記ケーブル引出部の前記雄ねじ構造部に螺着可能な雌ねじ構造部を有し、前記ケースは、前記スペーサ本体部の挿入により前記隙間を埋めた状態で、前記雄ねじ構造部に前記ナットの前記雌ねじ構造部を螺着して締め付けることにより、前記スカッパー孔に対して固定されることをその要旨とする。
【0025】
従って、請求項9に記載の発明によると、超音波送受波器を構成する縦長形状のケースを、スカッパー孔を介して船内側から船外側に出した後、固定具を構成するスペーサのスペーサ本体部を用いて、ケーブル引出部とスカッパー孔との隙間を埋めることにより、ケースの位置ずれを防止することができる。また、スペーサを構成するフランジ部が、スカッパー孔における上部開口側の環状段部上に載置される。このため、スペーサ本体部とケーブル引出部との隙間やスペーサ本体部とスカッパー孔との隙間から船内側への水の浸入を、フランジ部によって防ぐことができる。
【0026】
請求項10に記載の発明は、請求項1において、前記超音波振動子は、長手方向の寸法が前記スカッパー孔の内径よりも大きい1つ以上の超音波振動子を含み、前記超音波振動子は、自身の長手方向を前記ケース長さ方向に沿わせるようにして配置されていることをその要旨とする。
【0027】
従って、請求項10に記載の発明によると、長手方向の寸法がスカッパー孔の内径よりも大きい超音波振動子が、自身の長手方向をケース長さ方向に沿わせるようにして配置される。このため、ケース内に超音波振動子を収容するに際して、ケースをケース長さ方向やケース幅方向に大型化しなくても済む。
【0028】
請求項11に記載の発明は、請求項10において、前記超音波振動子は、互いに照射方向が異なる複数の長尺状超音波振動子を含むことをその要旨とする。
【0029】
従って、請求項11に記載の発明によると、複数の長尺状超音波振動子の照射方向が互いに異なるため、長尺状超音波振動子を移動させたりしなくても、多周波、多方位の探知が可能となる。
【0030】
請求項12に記載の発明は、請求項11において、複数の前記長尺状超音波振動子を所定の位置及び傾きに保持する振動子ホルダを備えることをその要旨とする。
【0031】
従って、請求項12に記載の発明によると、複数の長尺状超音波振動子を、簡単にかつ確実に所定の正しい位置及び傾きに保持することができる。また、このような振動子ホルダを用いることで、各長尺状超音波振動子同士を位置決めするときの面倒な作業が不要になる。よって、高品質であって製造が容易な超音波送受波器とすることができる。
【0032】
請求項13に記載の発明は、請求項11において、複数の前記長尺状超音波振動子を所定の位置及び傾きに保持する振動子ホルダを備えるとともに、複数の前記長尺状超音波振動子を保持した前記振動子ホルダは、前記ケース内に収容された状態で充填剤によってモールドされ、前記充填剤は、前記長尺状超音波振動子の音響整合層よりも固有音響インピーダンスが低く、防水性を有するとともに、外表面が前記ケースの開口部と面一になるように充填されることで前記ケースの開口部を塞いでいることをその要旨とする。
【0033】
従って、請求項13に記載の発明によると、振動子ホルダにより、複数の長尺状超音波振動子を、簡単にかつ確実に所定の正しい位置及び傾きに保持することができる。また、このような振動子ホルダを用いることで、各長尺状超音波振動子同士を位置決めするときの面倒な作業が不要になる。よって、高品質であって製造が容易な超音波送受波器とすることができる。
【0034】
しかも、請求項13に記載の発明では、複数の長尺状超音波振動子がケース内に収容された状態で充填剤によってモールドされている。この充填剤は、長尺状超音波振動子の音響整合層よりも固有音響インピーダンスが低く、防水性を有する。また、この充填剤は、外表面がケースの開口部と面一になるように充填され、開口部を塞いでいる。従って、複数の長尺状超音波振動子が充填剤に埋設されて不可視となる結果、各長尺状超音波振動子が保護され、防水性が向上する。また、ケースの開口部側が凹凸のない超音波放射面となるので、見た目が煩雑になりにくく、水中での抵抗も低減される。
【0035】
請求項14に記載の発明は、請求項10乃至12のいずれか1項において、前記ケーブル引出部と前記スカッパー孔との隙間を埋めるとともに、前記ケーブル引出部の前記雄ねじ構造部に螺着可能な雌ねじ構造部を有する固定具をさらに備え、前記ケースは、前記固定具の挿入により前記隙間を埋めた状態で、前記雄ねじ構造部に前記雌ねじ構造部を螺着して締め付けることにより、前記スカッパー孔に対して固定されることをその要旨とする。
【0036】
従って、請求項14に記載の発明によると、超音波送受波器を構成する縦長形状のケースを、スカッパー孔を介して船内側から船外側に出した後、ケーブル引出部とスカッパー孔との隙間を固定具で埋めることにより、ケースの位置ずれを防止することができる。
【0037】
請求項15に記載の発明は、請求項10乃至12のいずれか1項において、スペーサとナットとを含む固定具をさらに備え、前記スペーサは、前記ケーブル引出部と前記スカッパー孔との隙間を埋める略円筒状のスペーサ本体部と、前記スペーサ本体部の一端側に設けられ、前記スカッパー孔における上部開口側の環状段部上に載置されるフランジ部とを有し、前記ナットは、前記スペーサと別体で形成され、前記ケーブル引出部の前記雄ねじ構造部に螺着可能な雌ねじ構造部を有し、前記ケースは、前記スペーサ本体部の挿入により前記隙間を埋めた状態で、前記雄ねじ構造部に前記ナットの前記雌ねじ構造部を螺着して締め付けることにより、前記スカッパー孔に対して固定されることをその要旨とする。
【0038】
従って、請求項15に記載の発明によると、超音波送受波器を構成する縦長形状のケースを、スカッパー孔を介して船内側から船外側に出した後、固定具を構成するスペーサのスペーサ本体部を用いて、ケーブル引出部とスカッパー孔との隙間を埋めることにより、ケースの位置ずれを防止することができる。また、スペーサを構成するフランジ部が、スカッパー孔における上部開口側の環状段部上に載置される。このため、スペーサ本体部とケーブル引出部との隙間やスペーサ本体部とスカッパー孔との隙間から船内側への水の浸入を、フランジ部によって防ぐことができる。
【発明の効果】
【0039】
以上詳述したように、請求項1~15に記載の発明によると、スカッパー孔よりも大きなケースを、スカッパー孔を介して簡単に船内側から船外側に出して取付固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本実施形態における超音波送受波器を示す斜視図。
【
図2】超音波送受波器を下から見たときの状態を示す斜視図。
【
図9】超音波送受波器の取付構造を示す概略断面図。
【
図10】超音波送受波器、スカッパー及びスペーサを組み付けた状態を示す斜視図。
【
図11】超音波送受波器、スカッパー及びスペーサを示す分解斜視図。
【
図12】他の実施形態における超音波送受波器を示す下面図。
【
図13】(a),(b)は、他の実施形態における超音波送受波器を示す概略断面図。
【
図14】(a),(b)は、他の実施形態における超音波送受波器を示す概略断面図。
【
図15】(a),(b)は、他の実施形態における超音波送受波器を示す概略断面図。
【
図16】(a),(b)は、他の実施形態における超音波送受波器を示す概略断面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明をスキャニングソナーに用いられる超音波送受波器11に具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0042】
スキャニングソナーは、水中に超音波を照射することにより、水中に存在する魚群などの被探査物を探査するための装置である。本実施形態のスキャニングソナーは、超音波送受波器11(
図1~
図5参照)を備えるほか、表示装置や制御装置等(いずれも図示略)を含んで構成されている。表示装置は、船舶の操舵室内に設置されており、操作部及び表示部を有している。また、制御装置も、操舵室内に設置されており、表示装置に電気的に接続されている。この制御装置は、所定のプログラムに従って超音波送受波器11を駆動制御し、超音波の送受信を行わせる。また、制御装置は、所定のプログラムに従って表示装置を駆動制御し、水中探査結果を超音波画像として表示させる。
【0043】
図1~
図5に示されるように、超音波送受波器11は、超音波を送受信する複数の超音波振動子31をケース21内に収容した状態でモールドした構造を有している。ケース21は、ABS樹脂などの樹脂材料を用いて形成され、下端に開口部22を有する形状を呈している。また、ケース21は、ケース長さ方向の寸法L1がスカッパー孔72の内径D1(
図9参照)よりも大きい一方で、ケース幅方向の寸法L2がスカッパー孔72の内径D1よりも小さい縦長形状を有している。さらに、ケース21は、ケース長さ方向の寸法L1がケース幅方向の寸法L2の3倍以上10倍以下(本実施形態では4倍程度)の長さとなっている。なお、ケース21は、ケース長さ方向が船舶の前後方向と同一方向となるように配置されている。また、ケース21を横から見たときに(
図3参照)、ケース21の前端側外周面21aは、ケース21の上面23(船底70の外側面)に垂直な面に対して後傾した傾斜面となっている。同様に、ケース21を横から見たときに、ケース21の後端側外周面21bは、ケース21の上面23(船底70の外側面)に垂直な面に対して前傾した傾斜面となっている。
【0044】
図1~
図4に示されるように、ケース21の上面23には、略円筒状をなすケーブル引出部24が突設されている。ケーブル引出部24は、ケース21の中心部を基準として前端部(
図1,
図3では左端部)寄りの位置に偏心して配置されている。具体的に言うと、ケーブル引出部24は、前端側外周面21aよりも後端部(
図1,
図3では右端部)寄りの範囲内において、ケース21の最前端の位置に配置されている。よって、ケース21の前端(
図1,
図3では左端)からケーブル引出部24の中心軸O1(
図3参照)までの距離は、ケースの後端(
図1,
図3では右端)からケーブル引出部24の中心軸O1までの距離よりも短くなる。さらに、ケース21の前端からケーブル引出部24の中心軸O1までの距離は、ケース21の中心部から中心軸O1までの距離よりも短くなる。そして、ケーブル引出部24の外周面には雄ねじ構造部25が形成されている。雄ねじ構造部25は、ケース21をスカッパー孔72に対して船底70(
図9参照)の上側から固定する際に用いられるようになっている。また、ケーブル引出部24内にはケーブル挿通孔26が設けられている。ケーブル挿通孔26は、上端がケーブル引出部24の上端にて開口するとともに、下端がケース21の開口部22内にて開口している(
図3参照)。
【0045】
図2~
図5に示されるように、ケース21内に収容された複数の超音波振動子31は、ケース長さ方向に沿って配列されている。具体的に言うと、各超音波振動子31は、2列かつ千鳥状に配列されている。また、各超音波振動子31は、ケース21の前端部(
図3,
図5では左端部)寄りの位置に配置された1つの第1超音波振動子31Aと、ケース長さ方向に沿って配列された6つの第2超音波振動子31Bとからなっている。
【0046】
図2,
図5に示されるように、第1超音波振動子31Aは、第1音響放射面34Aと、第1音響放射面34Aに直交する第1中心軸C1とを有している。第1超音波振動子31Aにおいては、第1中心軸C1の方向が、音響放射方向(照射方向)であると把握することができる。また、各第2超音波振動子31Bは、第2音響放射面34Bと、第2音響放射面34Bに直交する第2中心軸C2とを有している。第2超音波振動子31Bにおいては、第2中心軸C2の方向が、音響放射方向であると把握することができる。
【0047】
そして、超音波送受波器11では、第2中心軸C2が第1中心軸C1に対して角度をなすように第2音響放射面34Bを傾斜させた状態で、各第2超音波振動子31Bが配置されている。なお、第1超音波振動子31Aの音響放射方向は、ケース21のケース高さ方向と同じ方向(
図2では上方向)を向いている。これに対し、各第2超音波振動子31Bの音響放射方向は、ケース高さ方向とは異なる方向を向いている。具体的に言うと、各第2超音波振動子31Bは、隣接するケース21の両側壁27とは反対側を向くように傾斜して配置されている。このとき、第2中心軸C2は第1中心軸C1に対して20°以上40°以下の範囲から選択した1つの角度をなしていることがよく、本実施形態では角度がそれぞれ30°となっている。さらに、ケース21を下面側から見たときの各第2超音波振動子31Bの第2中心軸C2は、互いに異なる方向(本実施形態では、60°ずつ異なる方向)を向いている(
図5参照)。従って、本実施形態の各超音波振動子31A,31Bは、音響放射方向(照射方向)が互いに異なっている。なお、「60°」は、360°を第2超音波振動子31Bの数(6つ)で均等に分割することによって得られる角度である。
【0048】
図7,
図8に示されるように、本実施形態において使用される複数の超音波振動子31は、互いに同じ大きさ及び形状を有する円板状の構造物である。各超音波振動子31は、基材32及び圧電素子33を備えている。基材32は、音響整合層を兼ねる円板状の樹脂製板材であり、本実施形態ではガラスエポキシ製の基材が用いられている。
【0049】
圧電素子33は、圧電セラミックス製の板状物であって、本実施形態ではチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いて形成された円板状の板状物が用いられている。圧電素子33は、基材32に対して接合された前面41と、前面41の反対側にある背面42と、前面41及び背面42に直交する外周面43とを有している。圧電素子33の前面41には前面側電極44が形成され、圧電素子33の背面42には背面側電極45が形成されている。本実施形態では、圧電素子33の前面41の全体が、前面側電極44及び接着層(図示略)を介して基材32に接合されている。
【0050】
図7,
図8に示されるように、圧電素子33は、平面視で互いに平行な溝部52により分割されており、複数の略帯状の振動部51を備えた構造を有している。また、各振動部51は、圧電素子33の前面41側の端部において互いに繋がっている。
【0051】
さらに、背面側電極45は、各振動部51の表面を架け渡すようにして形成されている。本実施形態では、背面側電極45として、銅、銀、錫などの電気抵抗が小さい金属材料からなる導電性金属箔が用いられている。そして、前面側電極には第1のリード線(図示略)が電気的に接続され、背面側電極45には第2のリード線(図示略)が電気的に接続されている。これらのリード線は、1本の配線用ケーブル(図示略)内に収容されて結束されている。配線用ケーブルは、ケース21に設けられたケーブル引出部24のケーブル挿通孔26を通ってケース21外に引き出されている。
【0052】
図2~
図6に示されるように、超音波送受波器11は、7つの超音波振動子31を所定の位置及び傾きに保持する振動子ホルダ61を備えている。振動子ホルダ61は、基板62、複数の支持柱63及び複数の保持部64を含んで構成された樹脂成形品である。本実施形態では、支持柱63及び保持部64の数がそれぞれ7つとなっている。即ち、振動子ホルダ61は、7つある超音波振動子31と同数の支持柱63及び保持部64を備えている。基板62は、略矩形板状の部材であって、各支持柱63を支持している。また、基板62の前端部(
図3,
図5では左端部)には、ケーブル挿通孔26に連通する貫通孔62aが設けられている。
【0053】
各保持部64は、円形状の開口部を有するカップ状をなし、底部65及び周壁66を備えている。振動子ホルダ61の前端部(
図3,
図5,
図6では左端部)に位置する1つの保持部64は、第1超音波振動子31Aを保持するための保持部である。また、振動子ホルダ61に位置する残り6つの保持部64は、第2超音波振動子31Bを保持するための保持部である。なお、前端部に位置する保持部64に対して、残り6つの保持部64は30°傾斜している。
【0054】
なお、各保持部64の底部65には、底部65の表裏面を連通する複数の配線用孔67が形成されている。これらの配線用孔67には、超音波振動子31から引き出された第1のリード線及び第2のリード線がそれぞれ挿通されている。
【0055】
そして、
図2~
図5に示されるように、7つの超音波振動子31を保持した振動子ホルダ61は、ケース21内に収容された状態で充填剤28によってモールドされている。なお、充填剤28としては、超音波振動子31の基材32よりも固有音響インピーダンスが低く、防水性を有する樹脂材料(例えば、ウレタン樹脂等)が使用される。充填剤28の外表面はケース21の開口部22と面一になるように充填されており、これによりケース21の開口部22が塞がれている。
【0056】
なお、
図9~
図11に示されるように、超音波送受波器11は、船舶の船底70に設けられたスカッパー71のスカッパー孔72を利用して、船底70に取付可能となっている。詳述すると、船底70には排水孔70aが設けられ、排水孔70aには、スカッパー71を構成する略円筒状のスカッパー取付具73が嵌め込まれている。スカッパー取付具73は、同じくスカッパー71を構成する略円環状のナット74で固定されている。
【0057】
また、超音波送受波器11は、スペーサ81とナット82とを含む固定具83をさらに備えている。スペーサ81は、スペーサ本体部84とフランジ部85とを有している。スペーサ本体部84は、上端が閉塞された略円筒状をなしている。スペーサ本体部84の上端部86には、ケーブル引出部24を挿通させるための引出部挿通孔87が設けられている。引出部挿通孔87は、上端部86の中心よりも前端部(
図9,
図10では左端部)寄りの位置に偏心して配置されている。なお、スペーサ本体部84は、略円筒状をなすケーブル引出部24と円形状をなすスカッパー孔72との隙間を埋めるためのものである。また、フランジ部85は、スペーサ本体部84の上端側の外周面に設けられ、スカッパー孔72における上部開口側の環状段部88上に載置されている。また、ナット82は、スペーサ81とは別体で形成され、ケーブル引出部24の雄ねじ構造部25に螺着可能な雌ねじ構造部89を有している。なお、ケース21は、スペーサ本体部84の挿入により上記した隙間を埋めた状態で、雄ねじ構造部25にナット82の雌ねじ構造部89を螺着して締め付けることにより、スカッパー孔72(スカッパー71)に対して固定される。
【0058】
次に、超音波送受波器11を備えたスキャニングソナーにより、水中を探査する方法を説明する。まず、制御装置を駆動させて、超音波送受波器11に超音波の送受信を行わせる。即ち、各超音波振動子31に対して発振信号を出力する制御を行い、超音波振動子31を駆動させる。このとき、圧電素子33の各振動部51は、収縮と伸長とを繰り返す。振動子51が高さ方向に収縮すると振動部51が幅方向に若干膨らむように変形し、逆に振動部51が高さ方向に伸長すると振動部51が幅方向に若干細るように変形する。その結果、圧電素子33が振動し、超音波振動子31から水中に対して超音波が照射(送信)される。被探査物に到達した超音波の反射波は、超音波送受波器11の各々の超音波振動子31に入力(受信)される。制御装置は、各超音波振動子31が受信した超音波の反射波を受信信号に変換して取り込み、これに基づき所定の演算処理を行う。そして、制御装置は、演算処理により得られた水中探査結果を表示装置に表示させる。より具体的には、各々の超音波振動子31の駆動タイミングを制御して送受信を行うことで、各々の受信信号の情報から各方位の水中探査結果が画像化され、表示装置に表示される。その結果、魚群等がどの方角及びどの程度の深さにいるのかということを、タイムラグなく常時監視することが可能となる。従って、本実施形態の超音波送受波器11を備えたスキャニングソナーは、魚群等の移動方向を知るのに有効な手段となり得る。
【0059】
次に、超音波送受波器11の組付方法を説明する。まず、振動子ホルダ61を用意し、前端部に位置する1つの保持部64に第1超音波振動子31Aを保持させ、それ以外の6つの保持部64に第2超音波振動子31Bを保持させる。このとき、第1超音波振動子31A及び第2超音波振動子31Bを、接着剤等を用いて保持部64の内面に接合してもよい。また、第1超音波振動子31A及び第2超音波振動子31Bの背面側に、図示しない防音材を配置してもよい。次に、超音波振動子31を保持した状態の振動子ホルダ61を、ケース21内に収容して位置決めする。具体的には、第1超音波振動子31Aの音響放射方向(照射方向)が、ケース21のケース高さ方向と同じ方向になるように調整する。その際、振動子ホルダ61の一部をケース21の内面21c(
図3,
図4参照)に当接させることにより、位置決めを行ってもよい。例えば、振動子ホルダ61の基板62に複数本の柱部(図示略)を突設させる。そして、各柱部をケース21の内面21cの複数箇所に当接させることにより、確実な位置決めを図ってもよい。次に、この状態で充填剤28を用いてモールドすることにより、複数の超音波振動子31を保持した振動子ホルダ61をケース21内に封入する。
【0060】
次に、船内側にある超音波送受波器11のケース21を、後端部(
図1,
図3,
図9では右端部)を下にした状態で、後端側からスカッパー71のスカッパー孔72に挿入する。そして、ケース21をスカッパー孔72から船外側に出した後、ケース21の向きを水平に変え、ケース21の上面23全体を船舶の船底70に接触させる。この時点で、ケーブル引出部24は、スカッパー孔72を挿通した状態となっている。
【0061】
次に、スカッパー孔72の環状段部88上に環状のパッキン(図示略)を載置した後、スカッパー孔72内にスペーサ81を挿入する。このとき、スペーサ81のスペーサ本体部84により、ケーブル引出部24とスカッパー孔72との隙間が埋められる。また、スペーサ81のフランジ部85は、環状段部88上に載置したパッキン上に載置される。そして、スペーサ81の上端部86上にケーブル引出部24を包囲する環状のパッキン(図示略)を載置した後、ケーブル引出部24に形成された雄ねじ構造部25に対して、ナット82の雌ねじ構造部89を螺着して締め付ける。その結果、スペーサ81とナット82とがパッキンを介して密着する。さらに、ケース21の上面23が船底70の外側面に密着するとともに、スカッパー71とスペーサ81とがパッキンによって水密になった状態で、ケース21がスカッパー71に固定され、超音波送受波器11の組み付けが完了する。
【0062】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0063】
(1)本実施形態の超音波送受波器11では、ケース21が、ケース長さ方向の寸法L1がスカッパー孔72の内径D1よりも大きくなるものの、ケース幅方向の寸法L2がスカッパー孔72の内径D1よりも小さい縦長形状を有している。しかも、ケース21の上面23に設けられたケーブル引出部24が、ケース21の中心部を基準として端部寄りの位置に偏心して配置されている。その結果、スカッパー孔72よりも大きなケース21を、スカッパー孔72を介して船内側から船外側に出した後、ケーブル引出部24の雄ねじ構造部25に対してナット82の雌ねじ構造部89を螺着させることにより、ケース21をスカッパー孔72に簡単に固定することができる。ゆえに、ケース21の取り付けに際して、船舶を上架しなくても済む。また本実施形態では、超音波送受波器11を、既存のスカッパー71(スカッパー孔72)を利用して船内側から船底70に簡単に取り付けることができる。
【0064】
(2)本実施形態では、第1超音波振動子31Aの第1中心軸C1を基準として、複数の第2超音波振動子31Bの第2中心軸C2を傾斜させて配置している。しかも、ケース21を下面側から見たときの各第2超音波振動子31Bの第2中心軸C2は、60°ずつ異なる方向を向いている。その結果、各々の第2超音波振動子31Bの第2音響放射面34Bを、互いに異なる方向を向いた状態とすることができる。ゆえに、水中に広い探査エリアを限られた少ない数の超音波振動子31でカバーすることが可能となり、広範囲を比較的早く探査することができる。しかも、超音波振動子31の総数が少ないことから、ケース21をコンパクトに構成することができる。さらに、チャンネル数も少なくて済むため、切換制御のための構成が簡略化され、安価な超音波送受波器11とすることができる。
【0065】
(3)本実施形態の超音波送受波器11では、充填剤28が、外表面がケース21の開口部22と面一になるように充填され、開口部22を塞いでいる。その結果、ケース21の開口部22側が凹凸のない超音波放射面となるため、泡噛みを防止できるとともに、ケース21に作用する水の抵抗を低減することができる。しかも、ケース21の前端側外周面21aは、船底70の外側面に垂直な面ではなく、垂直な面に対して後傾した傾斜面となっている。その結果、船舶が前方に進んだ際に、ケース21に作用する水の抵抗を低減することができる。また、ケース21の後端側外周面21bは、上記の垂直な面に対して前傾した傾斜面となっている。この場合、ケース21を前後逆に取り付けたとしても、船舶の進行時にケース21に作用する水の抵抗を低減することができる。
【0066】
(4)本実施形態の超音波送受波器11では、ケーブル引出部24が、ケース21の前端部寄り(船首寄り)の位置に配置されている。これにより、ケース21の前端からケーブル引出部24までの距離が、ケース21の後端からケーブル引出部24までの距離よりも短くなるため、船舶が前方に進んだ際にケース21の前端部が水圧を受けたとしても、ケース21はケーブル引出部24を軸として回転しにくくなる。その結果、ケース21を船底70に安定して固定することができる。また、ケース21の回転による、ケース21に作用する水の抵抗増大を防止することができる。
【0067】
(5)本実施形態の超音波送受波器11では、全ての超音波振動子31が、互いに同じ大きさ及び形状を有している。従って、各超音波振動子31の感度特性を揃えることができるため、測定精度に優れた超音波送受波器11とすることができる。
【0068】
なお、本実施形態を以下のように変更してもよい。
【0069】
・上記実施形態の超音波送受波器11では、複数の超音波振動子31が2列かつ千鳥状に配置されていた。しかし、
図12の超音波送受波器91に示されるように、複数の超音波振動子31を1列かつ直線上に配置してもよい。
【0070】
・
図13に示されるように、超音波送受波器101は、長手方向の寸法L3がスカッパー孔72の内径D1よりも大きい長尺状超音波振動子102をケース103内に収容した構造を有していてもよい。なお、長尺状超音波振動子102は、自身の長手方向をケース長さ方向に沿わせるようにしてケース103の底面に配置されている。このようにすれば、上記実施形態の超音波送受波器11よりも振動子の数を大幅に減らすことができるため、より安価な超音波送受波器101とすることができる。
【0071】
・
図14に示されるように、超音波送受波器111は、互いに照射方向が異なる複数(ここでは2つ)の長尺状超音波振動子102をケース112内に収容した構造を有していてもよい。
図14においては、各長尺状超音波振動子102が、ケース112の左右の側壁113上にそれぞれ設置されている。なお、超音波送受波器111は、各長尺状超音波振動子102を所定の位置及び傾きに保持する振動子ホルダ(図示略)を備えていてもよい。
【0072】
・
図15に示されるように、超音波送受波器121は、ケース122の底部123と前端側傾斜部124とに、超音波振動子31をそれぞれ設置した構造を有していてもよい。
【0073】
・上記実施形態の超音波送受波器11では、互いに照射方向が異なる複数の超音波振動子31がケース21内に収容されていた。しかし、
図16の超音波送受波器131に示されるように、ケース133内に収容される複数の超音波振動子132は、照射方向が同じ方向を向いていてもよい。また、各超音波振動子132は、ボルト締めランジュバン型の超音波振動子であってもよい。この場合、各超音波振動子132は、例えば並列駆動されるものであってもよい。また、各超音波振動子は、ボルト締めランジュバン型の超音波振動子132と、溝部52により分割された圧電素子33を基材32に接合したタイプの超音波振動子31とを組み合わせたものであってもよい。
【0074】
・上記実施形態の超音波送受波器11の組付工程において、スカッパー孔72内にスペーサ81を挿入した後(
図10参照)、スカッパー71及びスペーサ81の上に円形状の板状部材(図示略)を載置してもよい。この場合、ケーブル引出部24の雄ねじ構造部25に対してナット82の雌ねじ構造部89を螺着して締め付けることにより、板状部材が、ナット82とスカッパー71との間に挟み込まれた状態で固定される。なお、板状部材の外径をスカッパー孔72の内径D1よりも大きくすれば、スペーサ81とスカッパー孔72との隙間から船内側への水の浸入を、板状部材によって防ぐことができる。
【0075】
・上記実施形態の超音波送受波器11では、スカッパー孔72内にスペーサ81を挿入していた。しかし、スペーサ81の外周に、スカッパー孔72内に設けられたねじ山72a(
図11参照)と螺合するねじ山を設け、スカッパー71とスカッパー81とを締結固定してもよい。
【0076】
・上記実施形態の超音波送受波器11では、
図6に示したような構造の振動子ホルダ61を用いたが、これに限定される訳ではない。例えば、振動子ホルダ61自体に吸音材としての機能を付与してもよい。また、振動子ホルダ61は、金型成型法以外の方法(例えば、3Dプリンティング等)で作製されてもよいほか、樹脂以外の材料(例えば金属等)を用いて作製されてもよい。なお、振動子ホルダ61は省略されていてもよい。
【0077】
・上記実施形態では、複数の超音波振動子31が互いに同じ大きさ及び形状を有していたが、これに限定される訳ではない。例えば、大きさが異なっていてもよいし、形状が異なっていても勿論よい。
【0078】
・上記実施形態では、各々の第2超音波振動子31Bが、ケース21の側壁27とは反対側を向くように傾斜して配置されていた。しかし、これとは逆に、各第2超音波振動子31Bは、ケース21の側壁27側を向くように傾斜して配置されていてもよい。
【0079】
・上記実施形態の圧電素子33は、平面視で互いに平行な溝部52により分割されており、複数の略帯状の振動部51を備えた構造を有していたが、これに限定されない。例えば、平面視で放射状の複数の溝部により、圧電素子33を分割してもよい。
【0080】
・上記実施形態の超音波送受波器11は、スキャニングソナーに用いられていたが、例えば、水の深さを計測する測深機などに用いてもよい。
【符号の説明】
【0081】
11,91,101,111,121,131…超音波送受波器
21,103,112,122…ケース
22…ケースの開口部
23…ケースの上面
24…ケーブル引出部
25…雄ねじ構造部
27…ケースの側壁
28…充填剤
31,132…超音波振動子
31A…第1超音波振動子
31B…第2超音波振動子
32…超音波振動子の音響整合層としての基材
34A…第1音響放射面
34B…第2音響放射面
61…振動子ホルダ
70…船底
72…スカッパー孔
81…スペーサ
82…ナット
83…固定具
84…スペーサ本体部
85…フランジ部
88…環状段部
89…雌ねじ構造部
102…長尺状超音波振動子
C1…第1中心軸
C2…第2中心軸
D1…スカッパー孔の内径
L1…ケース長さ方向の寸法
L2…ケース幅方向の寸法
L3…超音波振動子の長手方向の寸法
【要約】
スカッパー孔よりも大きなケースを、スカッパー孔を介して簡単に船内側から船外側に出して取付固定できる超音波送受波器を提供する。本発明の超音波送受波器11は、超音波を送受信する超音波振動子をケース21内に収容した状態でモールドした構造を有し、船底に設けられたスカッパー孔を利用して取付可能である。ケース21は、ケース長さ方向の寸法L1がスカッパー孔の内径よりも大きい一方で、ケース幅方向の寸法L2がスカッパー孔の内径よりも小さい縦長形状を有する。ケース21は、上面23にケーブル引出部24を有し、ケーブル引出部24は、ケース21の中心部を基準として端部寄りの位置に偏心して配置される。ケーブル引出部24の外周面には、ケース21をスカッパー孔に対して船底の上側から固定する際に用いる雄ねじ構造部25が形成される。選択図:
図1