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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】擁壁構造及び擁壁の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/02 20060101AFI20230525BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
E02D29/02 308
E02D17/20 103Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018233673
(22)【出願日】2018-12-13
(65)【公開番号】P2020094429
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000230788
【氏名又は名称】日本基礎技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤川 直
(72)【発明者】
【氏名】金子 広明
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-073040(JP,U)
【文献】特開平11-256601(JP,A)
【文献】特開2004-019283(JP,A)
【文献】特開平09-279584(JP,A)
【文献】特開2001-003366(JP,A)
【文献】特開2007-146528(JP,A)
【文献】特開昭52-001903(JP,A)
【文献】米国特許第05480255(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/02
E02D 17/00-17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面を保護する擁壁構造であって、
複数の長尺部材により組み上げられた定規部と、
該定規部に沿って積み上げられた複数の廃タイヤと、
該複数の廃タイヤの内部に打設された内部部材と、を含み、
前記定規部は、前記法面から間隔を空けた位置で擁壁勾配に傾斜して延在する前記長尺部材が、前記法面の側方向に互いに間隔を空けて複数設置された斜設部と、少なくとも前記斜設部が傾倒しないように支持する支持部と、を含み、
前記複数の廃タイヤは、前記法面の側方向に複数列並ぶと共に、各列において、前記法面に対して間接的或いは直接的にもたれかかる態様で、前記定規部の前記斜設部を基準位置として積み上げられており、
更に前記複数の廃タイヤは、前記各列において、廃タイヤのサイドウォール部同士が接触する向きで、前記擁壁勾配に沿って階段状に或いは前記擁壁勾配と平行に斜めに積み上げられており、
前記支持部は、該支持部を構成する前記長尺部材の先端が前記法面内に挿入されること、前記支持部を構成する前記長尺部材が差筋により地盤に固定されること、或いは、前記支持部を構成する前記長尺部材上に前記廃タイヤが載置されることのうち、少なくとも1つによって固定されており、
前記複数の廃タイヤは、前記斜設部を基準位置として積み上げられる際に、前記各列の廃タイヤが、前記斜設部を構成する複数の前記長尺部材のうち前記側方向に隣接する長尺部材の間に配置される、或いは、前記斜設部を構成する複数の前記長尺部材の各々と前記法面との間に配置されることを特徴とする擁壁構造。
【請求項2】
積み上げられた前記複数の廃タイヤの1段或いは複数段毎に、該廃タイヤの前記法面と反対側に立設される態様で、前記法面の側方向に直列に並べられて配置され、前記定規部の前記斜設部に固定された複数の縦枠板を含むことを特徴とする請求項1記載の擁壁構造。
【請求項3】
少なくとも、前記複数の廃タイヤの段方向に隣接する前記複数の縦枠板間の隙間と、最上段に積み上げられた前記複数の廃タイヤの上面とに、緑化工が施されていることを特徴とする請求項2記載の擁壁構造。
【請求項4】
前記複数の縦枠板が、網状部材であることを特徴とする請求項3記載の擁壁構造。
【請求項5】
法面を保護する擁壁の構築方法であって、
複数の長尺部材を使用して、前記法面から間隔を空けた位置で擁壁勾配に傾斜して延在する前記長尺部材が、前記法面の側方向に互いに間隔を空けて複数設置された斜設部と、少なくとも前記斜設部が傾倒しないように支持する支持部と、を含む定規部を組み上げる組立工程と、
複数の廃タイヤを、前記法面の側方向に複数列並べると共に、各列において、前記法面に対して間接的或いは直接的にもたせかける態様で、前記定規部の前記斜設部を基準位置として積み上げ、このとき、前記複数の廃タイヤを、前記各列において、廃タイヤのサイドウォール部同士が接触する向きで、前記擁壁勾配に沿って階段状に或いは前記擁壁勾配と平行に斜めに積み上げる積み上げ工程と、
該複数の廃タイヤの内部に内部部材を打設する打設工程と、を含み、
前記組立工程において、前記支持部を構成する前記長尺部材の先端を前記法面内に挿入すること、前記支持部を構成する前記長尺部材を差筋により地盤に固定すること、或いは、前記支持部を構成する前記長尺部材上に前記廃タイヤを載置することのうち、少なくとも1つによって前記支持部を固定し、
前記積み上げ工程において、前記斜設部を基準位置として前記複数の廃タイヤを積み上げる際に、前記各列の廃タイヤを、前記斜設部を構成する複数の前記長尺部材のうち前記側方向に隣接する長尺部材の間に配置する、或いは、前記斜設部を構成する複数の前記長尺部材の各々と前記法面との間に配置することを特徴とする擁壁の構築方法。
【請求項6】
複数の縦枠板を、積み上げられた前記複数の廃タイヤの1段或いは複数段毎に、該廃タイヤの前記法面と反対側に立設する態様で、前記法面の側方向に直列に並べて配置し、前記定規部の前記斜設部に固定する枠設置工程を含むことを特徴とする請求項6記載の擁壁の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面を保護する擁壁構造及び擁壁の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、法面を保護する擁壁を構築する際に、コスト低減や廃棄物の有効利用等の観点から、廃タイヤを用いて擁壁を構築することが行われている。例えば、特許文献1には、傾斜面に沿わせて廃タイヤを積み重ねる際に、すぐ下位の段よりも傾斜面側にずらすと共に、すぐ下位の段の2つの廃タイヤに跨るように積み上げ、廃タイヤの穴の中に土砂を入れて、土留めを施工する発明が開示されている。又、特許文献2には、廃タイヤを縦横に積み重ねて連結し、廃タイヤの中にコンクリートを充填して擁壁を構成し、擁壁の上面に土を充填する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-272265号公報
【文献】特開2004-19283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述した特許文献1の土留めには、廃タイヤの設置中に廃タイヤが動いてしまい、精度良く設置するのが困難であり、擁壁に偏圧が生じて局部的に不安定な部分ができること、土砂を入れた廃タイヤの穴にのみしか植生できないため、廃タイヤ自体が露出し景観が悪いこと、木本類を植生した場合はその成長に伴って根が伸長し、廃タイヤの隙間に侵入して廃タイヤの積層構造に変状を与える虞があること等の、複数の課題がある。同様に、特許文献2の擁壁には、廃タイヤの連結に手間がかかること、使用する廃タイヤのサイズを揃える必要があること、景観が悪いこと、擁壁の上面にのみ植生できること等の課題がある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、廃タイヤを利用した擁壁を精度良く容易に構築することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)法面を保護する擁壁構造であって、複数の長尺部材により組み上げられた定規部と、該定規部に沿って積み上げられた複数の廃タイヤと、該複数の廃タイヤの内部に打設された内部部材と、を含み、前記定規部は、前記法面から間隔を空けた位置で擁壁勾配に傾斜して延在する前記長尺部材が、前記法面の側方向に互いに間隔を空けて複数設置された斜設部と、少なくとも前記斜設部が傾倒しないように支持する支持部と、を含み、前記複数の廃タイヤは、前記法面の側方向に複数列並ぶと共に、各列において、前記法面に対して間接的或いは直接的にもたれかかる態様で、前記定規部の前記斜設部を基準位置として積み上げられており、更に前記複数の廃タイヤは、前記各列において、廃タイヤのサイドウォール部同士が接触する向きで、前記擁壁勾配に沿って階段状に或いは前記擁壁勾配と平行に斜めに積み上げられており、前記支持部は、該支持部を構成する前記長尺部材の先端が前記法面内に挿入されること、前記支持部を構成する前記長尺部材が差筋により地盤に固定されること、或いは、前記支持部を構成する前記長尺部材上に前記廃タイヤが載置されることのうち、少なくとも1つによって固定されており、前記複数の廃タイヤは、前記斜設部を基準位置として積み上げられる際に、前記各列の廃タイヤが、前記斜設部を構成する複数の前記長尺部材のうち前記側方向に隣接する長尺部材の間に配置される、或いは、前記斜設部を構成する複数の前記長尺部材の各々と前記法面との間に配置される擁壁構造(請求項1)。
【0008】
本項に記載の擁壁構造は、定規部、複数の廃タイヤ及び内部部材を含み、定規部は、複数の長尺部材により組み上げられ、斜設部と支持部とを含んでいる。斜設部は、法面から間隔を空けた位置に、長尺部材が、予め設定される擁壁勾配に傾斜して延在するように配置され、このような長尺部材が、法面の側方向に互いに間隔を空けて複数設置されることで構成されている。又、支持部は、そのような斜設部を少なくとも傾倒しないように支持するものであり、例えば、法面の基点となる地面と平行に延びる複数の長尺部材が、互いに及び/又は斜設部を構成する長尺部材と接続されることで構成されている。更に、支持部は、支持部を構成する長尺部材の先端が法面内に挿入されること、支持部を構成する長尺部材が差筋により地盤に固定されること、或いは、支持部を構成する長尺部材上に、後述するように積み上げられる廃タイヤが載置されることのうち、少なくとも1つによって固定される。ここで、本明細書における「法面」とは、既設の法面だけではなく、擁壁構造の構築と同時に盛土されることで新たに形成される法面(以下、「計画法面」とも言う。)も含んでいる。すなわち、上述した定規部は、法面がまだ形成されていない状態で、これから盛土されて形成される計画法面を基準として設置されてもよい。
【0009】
複数の廃タイヤは、法面の側方向に複数列並べられ、それらの各列において、法面に対して間接的或いは直接的にもたれかかる態様で、定規部の斜設部を基準位置として積み上げられており、このとき、複数の廃タイヤは、上記の各列において、廃タイヤのサイドウォール部同士が接触する向きで、擁壁勾配に沿って階段状に或いは擁壁勾配と平行に斜めに積み上げられている。すなわち、複数の廃タイヤは、まず、斜設部を構成している、法面の側方向に互いに間隔を空けて設置された複数の長尺部材を基準位置として、法面の側方向に複数列並べられる。更に、それらの各列において、各列の近傍で擁壁勾配に傾斜して延在している長尺部材を基準位置として、法面にもたせかけられながら積み上げられる。この際、法面に対して廃タイヤがもたれかかる状態は、法面に対して廃タイヤが直接的にもたれかかる状態に加え、廃タイヤと法面との間に土砂等の裏込め材が充填されて、裏込め材を介して間接的にもたれかかる状態も含むものとする。又、各列の廃タイヤは、斜設部を構成する複数の長尺部材のうち側方向に隣接する長尺部材の間に配置される、或いは、斜設部を構成する複数の長尺部材の各々と法面との間に配置される。そして、このような積み上げと並行して、廃タイヤの内部に土砂等の内部部材が打設され、状況に応じて転圧されるものである。又、別途、廃タイヤの内部に内部部材を打設したものを先行して作成し、これを積み上げることとしてもよい。なお、擁壁構造と同時に法面が形成される場合は、廃タイヤが1段或いは複数段積み上げられる毎に、積み上げられた廃タイヤの高さに対応した高さまで、廃タイヤと接触するように盛土が行われればよい。
【0010】
上記のように、廃タイヤの積み上げ時に定規部が利用されることで、複数の廃タイヤが擁壁勾配通りに精度良く積み上げられることとなり、又、ある程度大きさの異なる複数の廃タイヤの積み上げにも対応するものとなる。更に、積み上げ時には定規部の斜設部が拠り所となるため、積み上げ作業が容易になる。加えて、複数の廃タイヤが、定規部の斜設部を構成する長尺部材に対して、近接或いは接触するような位置に積み上げられることとすれば、定規部が廃タイヤのズレ止めとしても機能するようになる。これにより、廃タイヤの積み上げ時、内部部材の打設時や転圧時等に、廃タイヤのズレが防止され、積み上げの精度がより向上されるものとなる。又、複数の廃タイヤが、裏込め材を介して間接的或いは直接的に法面にもたれかかるようにして積み上げられるため、廃タイヤによるもたれ擁壁の効果により、土圧に対して効果的に対抗するものとなる。更に、廃タイヤの積み上げ精度の向上によって、景観の悪化が抑制されると共に、もたれ擁壁の効果が偏りなく発揮されるものとなる。
【0011】
(2)上記(1)項において、積み上げられた前記複数の廃タイヤの1段或いは複数段毎に、該廃タイヤの前記法面と反対側に立設される態様で、前記法面の側方向に直列に並べられて配置され、前記定規部の前記斜設部に固定された複数の縦枠板を含む擁壁構造(請求項2)。
本項に記載の擁壁構造は、更に、複数の縦枠板を含むものであり、これら複数の縦枠板は、積み上げられた複数の廃タイヤの1段或いは複数段毎に、廃タイヤの法面と反対側に立設される態様で、法面の側方向に直列に並べられて配置される。ここで、複数の廃タイヤは、例えば、擁壁勾配に沿って階段状に積み上げられると、サイドウォール部の一部が上方に露出すると共に、法面側と反対側のトレッド面の一部が、法面の正面視で視認されるように積み上げられる。又、廃タイヤの各々が側面視で傾斜する態様で、擁壁勾配と平行に斜めに積み上げられると、サイドウォール部の大部分が一段上の廃タイヤにより覆われるものの、法面側と反対側のトレッド面の一部が、法面の正面視で視認されるようになる。
【0012】
そこで、複数の縦枠板が、複数の廃タイヤの1段或いは複数段毎に、それらの廃タイヤの、法面と反対側に立設されることで、廃タイヤのトレッド面の一部を覆い隠す目隠しとして機能するようになる。このため、複数の縦枠板の各々は、1段の廃タイヤ毎に立設される場合は、1段の廃タイヤの積み上げ高さより大きい高さを有し、複数段の廃タイヤ毎に立設される場合は、複数段の廃タイヤの積み上げ高さより大きい高さを有するものとする。又、複数の縦枠板は、各々が目隠し対象とする最下段の直下の段の廃タイヤの、上方に露出しているサイドウォール部上(廃タイヤが階段状に積み上げられている場合)や、サイドウォール部とトレッド面との境目(ショルダー部)近傍(廃タイヤが斜めに積み上げられている場合)、法面の基点となる地面上等に立設される。しかも、複数の縦枠板は、法面の側方向に直列に並べられて、定規部の斜設部に固定されるため、法面の側方向に複数列並べられた全ての廃タイヤの、法面の正面視で視認される状態であったトレッド面の一部が覆い隠され、視認され難くなる。これにより、景観の悪化が抑制され、擁壁としての見栄えが向上されると共に、廃タイヤのタイヤ臭の軽減が図られるものである。なお、縦枠板は、平板状のものだけでなく、例えば、廃タイヤのトレッド面の曲率に近似した曲率で湾曲した板等も含むものである。
【0013】
(3)上記(2)項において、少なくとも、前記複数の廃タイヤの段方向に隣接する前記複数の縦枠板間の隙間と、最上段に積み上げられた前記複数の廃タイヤの上面とに、緑化工が施されている擁壁構造(請求項3)。
本項に記載の擁壁構造は、緑化工が施されたものであり、この緑化工は、少なくとも、複数の廃タイヤの段方向に隣接する複数の縦枠板間の隙間と、最上段に積み上げられた複数の廃タイヤの上面とに施される。ここで、上記(2)項に記載したように複数の縦枠板が配置された状態では、廃タイヤの段方向に隣接する複数の縦枠板間の隙間から、平面視で、各廃タイヤのサイドウォール部やトレッド面の一部が視認される状態であると共に、最上段に積み上げられた廃タイヤの上面(サイドウォール部全体)が露出している。
【0014】
このため、上記の位置に緑化工が施されることで、視認される状態にあった各廃タイヤの部位が、各緑化工で用いられる緑化材等の材料により覆われて、各廃タイヤの全体が視認され難くなり、より一層見栄えが向上するものである。しかも、緑化工が施される範囲は、平面視で擁壁の略全域にわたるため、広範囲において植生が進められることになる。更に、廃タイヤの1段或いは複数段毎に立設される縦枠板の高さに応じた、緑化材等の厚みが確保されるため、植生が有利に進められることになる。又、植生によって木本類が成長する場合であっても、定規部による廃タイヤのズレ止め機能により、木本類の根に起因する廃タイヤのズレが防止されるものである。加えて、廃タイヤのタイヤ臭がより一層軽減されるものとなる。
【0015】
(4)上記(3)項において、前記複数の縦枠板が、網状部材である擁壁構造(請求項4)。
本項に記載の擁壁構造は、複数の縦枠板が網状部材であることで、廃タイヤの段方向に隣接する複数の縦枠板間の隙間に施された緑化工によって、成長が促される植物が、網状部材の網目を通ってより広範囲に繁殖し易くなり、擁壁の緑化が効率的に進められるものである。
【0016】
(5)上記(1)から(4)項において、前記定規部を構成する前記複数の長尺部材が、鋼材である擁壁構造。
本項に記載の擁壁構造は、定規部を構成する複数の長尺部材が鋼材であることで、定規部が組み上げられる際の溶接作業が容易になると共に、部材の入手性が向上されるものである。
【0017】
(6)法面を保護する擁壁の構築方法であって、複数の長尺部材を使用して、前記法面から間隔を空けた位置で擁壁勾配に傾斜して延在する前記長尺部材が、前記法面の側方向に互いに間隔を空けて複数設置された斜設部と、少なくとも前記斜設部が傾倒しないように支持する支持部と、を含む定規部を組み上げる組立工程と、複数の廃タイヤを、前記法面の側方向に複数列並べると共に、各列において、前記法面に対して間接的或いは直接的にもたせかける態様で、前記定規部の前記斜設部を基準位置として積み上げ、このとき、前記複数の廃タイヤを、前記各列において、廃タイヤのサイドウォール部同士が接触する向きで、前記擁壁勾配に沿って階段状に或いは前記擁壁勾配と平行に斜めに積み上げる積み上げ工程と、該複数の廃タイヤの内部に内部部材を打設する打設工程と、を含み、前記組立工程において、前記支持部を構成する前記長尺部材の先端を前記法面内に挿入すること、前記支持部を構成する前記長尺部材を差筋により地盤に固定すること、或いは、前記支持部を構成する前記長尺部材上に前記廃タイヤを載置することのうち、少なくとも1つによって前記支持部を固定し、前記積み上げ工程において、前記斜設部を基準位置として前記複数の廃タイヤを積み上げる際に、前記各列の廃タイヤを、前記斜設部を構成する複数の前記長尺部材のうち前記側方向に隣接する長尺部材の間に配置する、或いは、前記斜設部を構成する複数の前記長尺部材の各々と前記法面との間に配置する擁壁の構築方法(請求項5)。
【0018】
(7)上記(6)項において、複数の縦枠板を、積み上げられた前記複数の廃タイヤの1段或いは複数段毎に、該廃タイヤの前記法面と反対側に立設する態様で、前記法面の側方向に直列に並べて配置し、前記定規部の前記斜設部に固定する枠設置工程を含む擁壁の構築方法(請求項6)。
(8)上記(7)項において、少なくとも、前記複数の廃タイヤの段方向に隣接する前記複数の縦枠板間の隙間と、最上段に積み上げられた前記複数の廃タイヤの上面とに、緑化工を施す緑化工程を含む擁壁の構築方法。
【0019】
(9)上記(8)項における、前記枠設置工程において、前記複数の縦枠板として網状部材を設置する擁壁の構築方法。
(10)上記(6)から(9)項における、前記組立工程において、前記定規部を構成する前記複数の長尺部材として鋼材を利用する擁壁の構築方法。
そして、(6)から(10)項の擁壁の構築方法は、上記(1)から(5)項の擁壁構造を構築するものであり、上記(1)から(5)項の擁壁構造と同等の作用を奏するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明は上記のような構成であるため、廃タイヤを利用した擁壁を精度良く容易に構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】既設の法面を保護対象として、本発明の実施の形態に係る擁壁構造を構築する様子を示す斜視イメージ図である。
図2図1に引き続き、本発明の実施の形態に係る擁壁構造を構築する様子を示す斜視イメージ図である。
図3】新たに形成される法面を保護対象として、本発明の実施の形態に係る擁壁構造を構築する様子を示す斜視イメージ図である。
図4図3に引き続き、本発明の実施の形態に係る擁壁構造を構築する様子を示す斜視イメージ図である。
図5】本発明の実施の形態に係る擁壁構造で利用する縦枠板の別例を示す平面図である。
図6】本発明の実施の形態に係る擁壁構造で利用する定規部の別例を示す斜視イメージ図である。
図7】本発明の実施の形態に係る擁壁構造の、定規部と複数の廃タイヤとの位置関係の別例を示す斜視イメージ図である。
図8】本発明の実施の形態に係る擁壁構造の、複数の廃タイヤの積み上げ方法の別例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、又、図面の全体にわたって、同一部分又は対応する部分は、同一符号で示している。
図1及び図2は、既設の法面Sを保護対象として、本発明の実施の形態に係る擁壁構造10を構築する様子を示している。これらの図1及び図2を参照して、本発明の実施の形態に係る擁壁構造10の構成と、擁壁構造10を構築するための、本発明の実施の形態に係る擁壁の構築方法とについて説明する。
【0023】
本発明の実施の形態に係る擁壁構造10は、法面Sを保護するものであり、概して、図1(a)及び(b)で確認できる定規部14、図1(b)及び図2(a)で確認できる複数の廃タイヤ20及び内部部材24、図2(a)及び(b)で確認できる複数の縦枠板28、並びに、図2(b)で確認できる本実施例では緑化基盤である緑化材等30を含んでいる。まず、図1(a)を参照して、定規部14は、本実施例では鋼材の複数の長尺部材が組み合わされて形成されたものであり、斜設部16と支持部18とを有している。斜設部16は、法面Sから間隔を空けた位置で、予め設定された擁壁構造10の擁壁勾配に傾斜して延在する長尺部材12a~12fが、法面Sの側方向(符号Xで示す方向)に間隔を空けて複数(図示の例では6本)設置されたものである。すなわち、斜設部16を構成している長尺部材12a~12fの各々は、符号Yで示す奥行方向と符号Zで示す高さ方向との間で傾斜して延びている。
【0024】
支持部18は、少なくとも斜設部16が傾倒しないように支持するものであり、本実施例では、側方向Xに延びて、斜設部16を構成する長尺部材12a~12fの下端間を接続している長尺部材12gと、長尺部材12a~12fの下端から奥行方向Yに延びている6本の長尺部材12h~12mとを含んでいる。これらの長尺部材12a~12m間の接続は、本実施例では溶接等により行われる。又、支持部18は、少なくともその一部が固定されていることが望ましく、例えば、図1(a)に示すように、長尺部材12h~12mの先端が法面S内に挿入されて固定されていてもよく、長尺部材12g~12mが差筋34等により地盤に固定されていてもよい。或いは、後述するように、長尺部材12g上や長尺部材12h~12m上に廃タイヤ20を載置することで、支持部18の固定を図ってもよい。なお、図示の便宜上、図2(a)、(b)では差筋34の図示を省略している。
【0025】
上記のような構成の定規部14は、保護対象の法面Sの形状等に合わせて、現地で組み上げられ(組立工程)、定規部14の斜設部16を構成する、側方向Xに間隔を空けて設置される長尺部材の数も、法面Sの大きさに合わせて設定される。これに限定されるものではないが、定規部14は、例えば、長尺部材12a~12fの隣接する長尺部材間の大きさが0.5~2m程度(廃タイヤ20の大きさに依存する)、高さ方向Zに沿った高さが3~5m程度が想定される。本実施例では、定規部14を構成する長尺部材12a~12mとして、溝形鋼(チャンネル)、山形鋼(アングル)、鋼板等の鋼材が用いられており、これらの鋼材が溶接により接続されて、斜設部16及び支持部18が組み上げられている。なお、長尺部材12a~12mの各々は、1本の長尺部材により構成されている必要はなく、使用される長尺部材の長さ等に応じて、複数の長尺部材が直列に接続されたものであってよい。又、定規部14を構成する長尺部材として、鋼材以外の金属や、樹脂等の耐久性のある他の材料が用いられていてもよく、樹脂製の長尺部材としては、例えば、各種の継手で接続される塩ビ管が挙げられる。
【0026】
次に、図1(b)を参照すると、擁壁構造10は、上述した定規部14に沿って、複数の廃タイヤ20が、本実施例では階段状に積み上げられており(積み上げ工程)、個々の廃タイヤ20は略水平に積まれている。そのうちの最下段の廃タイヤ20の各々は、斜設部16を構成する長尺部材12a~12fの隣接する長尺部材間において、支持部18の長尺部材12gの上に載置されており、この結果、長尺部材12b~12eを挟んで5箇所に載置されている。そして、これら5箇所に載置された廃タイヤ20の各々の上に、複数の廃タイヤ20が積み上げられることで、階段状に積み上げられた廃タイヤ20の列が、図示の例では側方向Xに5列形成されている。それらの各列において、複数の廃タイヤ20は、斜設部16を構成する長尺部材12a~12fのうちの、各列の廃タイヤ20の側方(側方向X)に位置する長尺部材を基準位置として、階段状に積み上げられている。例えば、図1(b)において最も左側の列の複数の廃タイヤ20は、長尺部材12a及び12bを基準位置として、これらの間に配置されるようにして積み上げられる。
【0027】
更に、複数の廃タイヤ20は、法面Sにもたれかかるようにして積み上げられており、この際、法面Sと廃タイヤ20との間に、土砂や砕石等の裏込め材が充填されることで、廃タイヤ20が法面Sに間接的にもたれかかってもよい。すなわち、例えば、擁壁構造10の施工に先立ち、法面Sの表面が切り崩されること等により、法面Sと廃タイヤ20との間に隙間がある場合には、その隙間に裏込め材が充填される。複数の廃タイヤ20は、上記のようにして、斜設部16を構成する長尺部材12a~12fの上端近傍まで積み上げられ、これと並行して、複数の廃タイヤ20の内部に、土砂、コンクリート、モルタル、エアモルタル、エアミルク、セメント改良土等の内部部材24が打設される(打設工程)。本実施例では、廃タイヤ20の内部に内部部材24として土砂が充填されており、必要に応じて、充填された土砂が転圧される。
【0028】
続いて、図2(a)を参照すると、擁壁構造10は、階段状に積み上げられた複数の廃タイヤ20の段(本実施例では1段)毎に、複数の縦枠板28が設置されており(枠設置工程)、これら複数の縦枠板28の各々は、本実施例では略矩形の板状をなすと共に、金網等で構成された網状部材で形成されている。又、複数の縦枠板28は、廃タイヤ20の各段において、側方向Xに直列に並べられた状態で立設されている。すなわち、最下段に位置する複数の廃タイヤ20の、法面Sと反対側(図中左下側)には、法面Sの基点となる地面の上に、図示の例では6枚の縦枠板28が直列に並べられた状態で立設されている。又、最下段を除く廃タイヤ20の各段では、各段の廃タイヤ20の、法面Sと反対側に、一つ下の段の廃タイヤ20のサイドウォール部上に立設される態様で、6枚の縦枠板28が直列に並べられている。
【0029】
そして、複数の縦枠板28の各々は、廃タイヤ20の各段に上述したように配置された状態で、定規部14の斜設部16に固定されている。すなわち、図1(b)で確認できるように、本実施例では廃タイヤ20の各々の側方に、斜設部16を構成する長尺部材12a~12fの何れかが延在しているため、それらの長尺部材に、例えば鉄筋等を介して溶接で、縦枠板28の各々が固定されている。なお、長尺部材が金属製ではなく樹脂製等の場合は、長尺部材に対して番線等で縦枠板28を固定すればよい。又、縦枠板28の各々は、図2(a)のように立設された状態での、高さ方向Zに沿った長さが、廃タイヤ20の厚みよりも大きいものとする。ここで、複数の縦枠板28は、積み上げられた廃タイヤ20の1段毎に設置される必要はなく、2段や3段等の任意の複数段の廃タイヤ20毎に設置されてもよい。この場合は、各縦枠板28の高さ方向Zに沿った長さが、廃タイヤ20の上述した任意の複数段の高さよりも大きいものとする。
【0030】
更に、図2(b)を参照して、擁壁構造10は、廃タイヤ20の段方向(奥行方向Y)に隣接する縦枠板28の間の隙間と、最上段に積み上げられた廃タイヤ20の上面とに、緑化工が施されて、緑化材等(本実施例では緑化基盤)30が覆設されている(緑化工程)。すなわち、緑化材等30は、図2(a)で確認できるように、奥行方向Yに隣接する縦枠板28間の隙間や最上段において露出している、廃タイヤ20のサイドウォール部上や、側方向Xに隣接する廃タイヤ20間の隙間に覆設される。このとき、特に隣接する廃タイヤ20間の隙間等の、高さ方向Zに深みを有する空間の全てに緑化材等30が充填されていなくてもよく、例えば先に土砂が投入されて、その上から緑化材等30が覆設されていてもよい。ここで、緑化工程で行われる緑化工には、種子散布工、客土吹付工、植生基材吹付工、植生シート工、植生マット工、植生筋工、植生土のう工、植生基材注入工、張芝工、筋芝工、樹木植栽工、苗木設置吹付工といった、種々の緑化工が含まれる。そして、緑化材等30の材料や施工方法等は、各種の緑化工に応じたものが利用される。なお、図1及び図2では、図示の便宜上、各図の右下側において法面Sが露出しているように見えるが、実際にはこのような隙間が生じないように、廃タイヤ20や裏込め材等によって隙間なく擁壁が構築される。
【0031】
続いて、図3及び図4には、新たに形成される法面(計画法面)S’(図3(a)にのみ図示)を保護対象として、本発明の実施の形態に係る擁壁構造10を構築する様子を示している。このような計画法面S’には、例えば、これから造成する道路の両脇の法面等が挙げられる。この場合は、まず、図3(a)に示すように、斜設部16及び支持部18を有する定規部14が、計画法面S’の仮想的な位置に合わせて設置される。すなわち、斜設部16を構成する複数の長尺部材12a~12fが、これから形成される計画法面S’から間隔を空けた位置で、擁壁勾配に傾斜して延在するように、定規部14が設置される。このとき、支持部18は、差筋34等により地盤に固定される。なお、図示の便宜上、図4(a)、(b)では差筋34の図示を省略している。
【0032】
次に、図3(b)に示すように、定規部14の斜設部16を基準にして、最下段の廃タイヤ20が設置される。図示の例では、斜設部16を構成する長尺部材12a~12fの隣接する長尺部材間において、支持部18の長尺部材12gの上に、最下段の5つの廃タイヤ20が載置されている。そして、各廃タイヤ20の内部には、土砂、コンクリート、モルタル、エアモルタル、エアミルク、セメント改良土等の内部部材24が打設される。続いて、図4(a)に示すように、計画法面S’(図3(a)参照)が考慮されながら、設置された廃タイヤ20に接触しかつ廃タイヤ20間の隙間を埋めるようにして、廃タイヤ20の高さに対応した高さまで盛土が行われる。
【0033】
更に、図4(b)に示すように、複数の廃タイヤ20が定規部14の斜設部16を基準にして積み上げられ、各廃タイヤ20の内部に内部部材24が打設され、積み上げられた廃タイヤ20の高さに対応した高さまで盛土が行われる。このようにして、廃タイヤ20が1段或いは複数段積み上げられる毎に、内部部材24の打設、及び、廃タイヤ20の高さに対応した盛土が行われ、最終的に、図1(b)に示したような状態になる。その後は、必要に応じて、図2(a)に示したような複数の縦枠板28の配置や、図2(b)に示したような緑化材等30の覆設が行われる。
【0034】
ここで、図1図4の実施形態では、最終的に必要な高さまで定規部14を組み上げた後に、廃タイヤ20を積み上げているが、これに限定されることなく、定規部14を下方から徐々に組み上げ、それに応じて数段ずつ廃タイヤ20を積み上げていってもよい。又、本発明の実施の形態に係る擁壁構造10は、仮設的な使用では仮設道路の両側の法面Sや、災害で崩れた法面S等の保護が想定されるが、永久的に使用されるものであってもよい。
【0035】
更に、本発明の実施の形態に係る擁壁構造10は、図2(b)に示した緑化工まで施された状態に限らず、図1(b)に示した廃タイヤ20が積み上げられて内部部材24が充填された状態や、図2(a)に示した複数の縦枠板28が固定された状態で、法面Sを保護するものであってもよい。又、複数の縦枠板28は、網状部材に限定されることなく、日光に強い樹脂製や鉄筋コンクリート製等の、化粧パネルや化粧板であってもよい。この場合は、化粧パネルや化粧板を型枠として、コンクリート、エアモルタル、モルタル、エアミルク等で間詰めしてもよい。更に、縦枠板28の形状は、平板状に限定されるものではなく、例えば図5に示すような、廃タイヤ20のトレッド面の曲率に近似した曲率で湾曲した板状であってもよい。
【0036】
加えて、本発明の実施の形態に係る擁壁構造10の定規部14は、例えば図6に示すような構成であってもよい。図6(a)に示す定規部14は、6本の長尺部材12a~12fで構成される斜設部16が、長尺部材12a~12fの下端から奥行方向Yに延びる6本の長尺部材12h~12mと、側方向Xに延在して長尺部材12h~12mの先端間を接続する長尺部材12gとで構成された、支持部18によって支持されている。又、図6(b)に示す定規部14は、6本の長尺部材12a~12fで構成される斜設部16が、側方向Xに延在して長尺部材12a~12fの下端間を接続する長尺部材12gと、この長尺部材12gの、長尺部材12a~12fの下端との接続位置と異なる5箇所から、奥行方向Yに延びる5本の長尺部材12h~12lとで構成された、支持部18によって支持されている。又、定規部14は、法面Sが側方向Xに湾曲しながら延在しているような場合は、それに合わせて湾曲して組み上げられてもよい。
【0037】
更に、本発明の実施の形態に係る擁壁構造10は、定規部14の斜設部16を基準位置として複数の廃タイヤ20が積み上げられていれば、例えば図7に示すような構成であってもよい。図7に示す複数の廃タイヤ20は、側方向Xに並ぶ5列の各々が、斜設部16を構成する5本の長尺部材12a~12eの各々と法面Sとの間で、階段状に積み上げられて構成されており、最下段の廃タイヤ20が長尺部材12g~12kの上に載置されている。この場合は、図2に示した縦枠板28を配置すると、縦枠板28と長尺部材12a~12eとの距離が近くなるため、縦枠板28を番線等で長尺部材12a~12eに固定してもよい。
【0038】
又、廃タイヤ20の大きさ等に応じて、斜設部16を構成する長尺部材毎に2列の廃タイヤ20を積み上げてもよく、法面Sの傾斜角度等に応じて、複数の廃タイヤ20を例えば2段毎に階段状に積み上げてもよい。更に、複数の廃タイヤ20は、例えば図8に示すように積み上げてもよい。図8に示された複数の廃タイヤ20は、擁壁勾配に対応した角度に傾けられて、擁壁勾配と略平行な方向に積み上げられている。最下段の廃タイヤ20の下には、廃タイヤ20を傾けて設置するために土砂等が配置される。又、図8に示された例においても、複数の廃タイヤ20は定規14を基準にして積み上げられ、必要に応じて縦枠板28の配置及び緑化材等30の覆設が行われる。
【0039】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る擁壁構造10は、図1に示すように、定規部14、複数の廃タイヤ20及び内部部材24を含み、定規部14は、複数の長尺部材12a~12mにより組み上げられ、斜設部16と支持部18とを含んでいる。斜設部16は、法面Sから間隔を空けた位置に、長尺部材12a~12fが、予め設定される擁壁勾配に傾斜して延在するように配置され、このような長尺部材12a~12fが、法面Sの側方向Xに互いに間隔を空けて複数(図示の例では6本)設置されることで構成されている。又、支持部18は、そのような斜設部16を少なくとも傾倒しないように支持するものであり、例えば、法面Sの基点となる地面と平行に延びる複数の長尺部材12g~12mが、互いに及び/又は斜設部16を構成する長尺部材12a~12fと接続されることで構成されている(図6も参照のこと)。
【0040】
複数の廃タイヤ20は、法面Sの側方向Xに複数列(図1の例では5列)並べられ、それらの各列において、法面Sに対して間接的或いは直接的にもたれかかる態様で、定規部14の斜設部16を基準位置として、図1の例では階段状に積み上げられている。すなわち、複数の廃タイヤ20は、まず、斜設部16を構成している、法面Sの側方向Xに互いに間隔を空けて設置された複数の長尺部材12a~12fを基準位置として、法面Sの側方向Xに複数列並べられる。更に、それらの各列において、各列の近傍で擁壁勾配に傾斜して延在している長尺部材12a~12fを基準位置として、法面Sにもたせかけられながら階段状に積み上げられる。この際、法面Sに対して廃タイヤ20がもたれかかる状態は、法面Sに対して廃タイヤ20が直接的にもたれかかる状態に加え、廃タイヤ20と法面Sとの間に土砂等の裏込め材が充填されて、裏込め材を介して間接的にもたれかかる状態も含むものとする。そして、このような積み上げと並行して、廃タイヤ20の内部に土砂等の内部部材24が打設され、状況に応じて転圧されるものである(図7も参照のこと)。なお、擁壁構造10と同時に法面が形成される場合は、図4に示すように、廃タイヤ20が1段或いは複数段積み上げられる毎に、積み上げられた廃タイヤ20の高さに対応した高さまで、廃タイヤ20と接触するように盛土が行われる。
【0041】
上記のように、廃タイヤ20の積み上げ時に定規部14を利用することで、複数の廃タイヤ20を擁壁勾配通りに精度良く積み上げることができ、又、ある程度大きさの異なる複数の廃タイヤ20の積み上げにも対応することができる。更に、積み上げ時には定規部14の斜設部16が拠り所となるため、積み上げ作業を容易に行うことができる。加えて、複数の廃タイヤ20を、定規部14の斜設部16を構成する長尺部材12a~12fに対して、近接或いは接触するような位置に積み上げることとすれば、定規部14を廃タイヤ20のズレ止めとしても機能させることができる。これにより、廃タイヤ20の積み上げ時、内部部材24の打設時や転圧時等に、廃タイヤ20のズレを防止することができ、積み上げの精度をより向上することが可能となる。又、複数の廃タイヤ20が、裏込め材を介して間接的或いは直接的に法面Sにもたれかかるようにして積み上げられるため、廃タイヤ20によるもたれ擁壁の効果により、土圧に対して効果的に対抗することができる。更に、廃タイヤ20の積み上げ精度の向上によって、景観の悪化を抑制できると共に、もたれ擁壁の効果を偏りなく発揮することが可能となる。なお、擁壁勾配を可能な限り急勾配に設定することで、擁壁構造10により保護される法面S上の土地面積が広くなるため好ましい。
【0042】
又、本発明の実施の形態に係る擁壁構造10は、図2(a)に示すように、複数の縦枠板28を含むものであってもよく、これら複数の縦枠板28は、積み上げられた複数の廃タイヤ20の1段或いは複数段毎に、廃タイヤ20の法面Sと反対側に立設される態様で、法面Sの側方向Xに直列に並べられて配置される。ここで、複数の廃タイヤ20は、例えば図1(b)の例のように、擁壁勾配に沿って階段状に積み上げられると、サイドウォール部の一部が上方に露出すると共に、法面S側と反対側のトレッド面の一部が、法面Sの正面視で視認されるように積み上げられる。又、図8に示す例のように、廃タイヤ20の各々が側面視で傾斜する態様で、擁壁勾配と平行に斜めに積み上げられると、サイドウォール部の大部分が一段上の廃タイヤ20により覆われるものの、法面S側と反対側(図8における左側)のトレッド面の一部が、法面Sの正面視で視認されるようになる。
【0043】
そこで、図2(a)や図8に示すように、複数の縦枠板28を、複数の廃タイヤ20の1段或いは複数段毎に、それらの廃タイヤ20の、法面Sと反対側に立設することで、廃タイヤ20のトレッド面の一部を覆い隠す目隠しとして機能させることができる。このとき、複数の縦枠板28は、各々が目隠し対象とする最下段の直下の段の廃タイヤ20の、上方に露出しているサイドウォール部上や、サイドウォール部とトレッド面との境目(ショルダー部)近傍、法面Sの基点となる地面上等に立設される。しかも、複数の縦枠板28は、法面Sの側方向Xに直列に並べられて、定規部14の斜設部16に固定されるため、法面Sの側方向Xに複数列並べられた全ての廃タイヤ20の、法面Sの正面視で視認される状態であったトレッド面の一部を覆い隠すことができ、視認し難くすることができる。これにより、景観との親和性を高めることができ、擁壁としての見栄えを向上することができると共に、廃タイヤ20のタイヤ臭の軽減を図ることが可能となる。
【0044】
加えて、本発明の実施の形態に係る擁壁構造10は、図2(b)に示すように、緑化工が施されて緑化材等30が覆設されたものであってもよく、この緑化材等30は、少なくとも、複数の廃タイヤ20の段方向(奥行方向Y)に隣接する複数の縦枠板28間の隙間と、最上段に積み上げられた複数の廃タイヤ20の上面とに覆設される。ここで、図2(a)に示したように複数の縦枠板28が配置された状態では、廃タイヤ20の段方向に隣接する複数の縦枠板28間の隙間から、平面視で、各廃タイヤ20のサイドウォール部やトレッド面の一部が視認される状態であると共に、最上段に積み上げられた廃タイヤ20の上面(サイドウォール部全体)が露出している。
【0045】
このため、上記の位置に緑化工が施されることで、視認される状態にあった各廃タイヤ20の部位を、各緑化工で用いられる緑化材等30により覆うことができ、各廃タイヤ20の全体を視認し難くできるため、より一層見栄えを向上することが可能となる。しかも、緑化工が施される範囲は、平面視で擁壁の略全域にわたるため、広範囲において植生を進めることができる。更に、廃タイヤ20の1段或いは複数段毎に立設される縦枠板28の高さに応じた、緑化材等30の厚みを確保することができるため、植生を有利に進めることが可能となる。又、植生によって木本類が成長する場合であっても、定規部14による廃タイヤ20のズレ止め機能により、木本類の根に起因する廃タイヤ20のズレを防止することができる。加えて、廃タイヤ20のタイヤ臭をより一層軽減することができる。なお、緑化材等30の覆設に先立って、隣接する廃タイヤ20間の隙間等に土砂を投入することで、費用を安く抑えることができる。
【0046】
しかも、本発明の実施の形態に係る擁壁構造10は、複数の縦枠板28が網状部材であることで、廃タイヤ20の段方向に隣接する複数の縦枠板28間の隙間に施された緑化工によって、成長が促される植物が、網状部材の網目を通ってより広範囲に繁殖し易くなるため、擁壁の緑化を効率的に進めることができ、延いては、擁壁構造10を全面緑化することができる。更に、定規部14を構成する複数の長尺部材12a~12mが鋼材であることで、定規部14を組み上げる際の溶接作業を容易にすることができると共に、部材の入手性を向上することができる。
【0047】
一方、本発明の実施の形態に係る擁壁の構築方法は、上述した本発明の実施の形態に係る擁壁構造10を構築するものであり、本発明の実施の形態に係る擁壁構造10と同等の作用効果を奏するものである。
【符号の説明】
【0048】
10:擁壁構造、12a~12m:長尺部材、14:定規部、16:斜設部、18:支持部、20:廃タイヤ、24:内部部材、28:縦枠板、S:法面、X:側方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8