(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】断熱材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 59/02 20060101AFI20230525BHJP
C08L 101/00 20060101ALN20230525BHJP
C08K 3/36 20060101ALN20230525BHJP
C08K 3/00 20180101ALN20230525BHJP
C08K 3/01 20180101ALN20230525BHJP
C09D 201/00 20060101ALN20230525BHJP
C09D 7/62 20180101ALN20230525BHJP
【FI】
F16L59/02
C08L101/00
C08K3/36
C08K3/00
C08K3/01
C09D201/00
C09D7/62
(21)【出願番号】P 2019015681
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-10-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【氏名又は名称】進藤 素子
(72)【発明者】
【氏名】吉川 均
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 信志
(72)【発明者】
【氏名】片山 直樹
【審査官】▲高▼藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-508049(JP,A)
【文献】特開2015-197662(JP,A)
【文献】特開2017-166610(JP,A)
【文献】特開2015-163815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/00-59/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒子が連結して骨格をなし内部に細孔を有する複数の多孔質構造体と、該多孔質構造体同士を結合するバインダーと、を有し、
該多孔質構造体と該多孔質構造体との間には空隙が存在し、
断熱材における該空隙の体積割合は10%以上55%以下である
断熱材の製造方法であって、
該多孔質構造体がバインダー液に分散した塗料を調製する塗料調製工程と、
該塗料に含まれる気体の状態を調整する調整工程と、
該塗料を基材の表面に塗布、乾燥する塗工工程と、
を有し、
該調整工程は、該塗料を撹拌する撹拌工程と、該撹拌工程の後に該塗料を静置する静置工程と、を有することを特徴とする断熱材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゲルなどの多孔質構造体を用いた断熱材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカエアロゲルは、シリカ微粒子が連結して骨格をなし10~50nm程度の大きさの細孔構造を有する多孔質材料である。シリカエアロゲルの熱伝導率は、空気のそれよりも小さい。このため、シリカエアロゲルの高い断熱性を活かした断熱材の開発が進んでいる。
【0003】
例えば、特許文献1には、断熱吸音材を構成する断熱層として、エアロゲル粒子と、エアロゲル粒子同士を結合する結合剤と、を含む断熱層が記載されている。同文献に記載されている断熱層は、エアロゲル粒子と結合剤との混合物をプレス成形して製造されている。同文献の段落[0020]には、エアロゲル粒子の間の空孔が少なく、エアロゲル粒子の充填率が高いと、断熱性が向上することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、複数のエアロゲル粒子が接着剤で結合されてなる断熱材が記載されている。同文献の段落[0041]には、断熱材の内部に空孔ができると断熱性が低下するため、空孔の発生を防止するために、エアロゲル粒子の平均粒径を500μm以上にすることが記載されている。段落[0074]~[0077]には、接着剤を付着させたエアロゲル粒子をプレス機に入れ、加熱加圧成形して断熱材を製造することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、表面に水溶性シランカップリング剤層を備えるエアロゲル粒子と、エアロゲル粒子同士を接着するバインダーと、を含む断熱材が記載されている。同文献の段落[0035]、[0036]には、断熱材の密度が低くなると、エアロゲル粒子間の隙間が大きくなり断熱性が低下するため、断熱材の好適な密度は0.1~0.5g/cm3であることが記載されている。段落[0041]には、エアロゲル粒子とバインダーとの混合物を加熱加圧成形して、断熱材を製造することが記載されている。
【0006】
特許文献4には、エアロゲル粒子がゴム系結合剤で結合されてなり、密度が0.1~0.5g/cm3であるエアロゲル層(断熱層)を備える断熱シートが記載されている。同文献の段落[0038]、[0039]には、エアロゲル粒子間の隙間の割合は、エアロゲル層全体から見てそれほど大きくなく、体積割合は最大で10%程度であることが記載されている。また、エアロゲル層の密度が低くなると、エアロゲル粒子間の隙間が大きくなり空気量が多くなるため、断熱性が低下することが記載されている。同文献の段落[0071]~[0076]には、エアロゲル粒子とゴム系結合剤との混合物を加熱加圧成形して、エアロゲル層を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-197662号公報
【文献】国際公開第2014/024413号
【文献】特開2018-100679号公報
【文献】国際公開第2015/045211号
【文献】特表2013-534958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1~4に記載されているように、エアロゲル粒子を用いた断熱材は、エアロゲル粒子とバインダーとの混合物をプレス成形して製造されている。そして、断熱性を向上させるには、できるだけエアロゲル粒子を高充填し、エアロゲル粒子間の空隙を少なくして密度を高めることが有効であるという考え方で、開発が進められている。しかしながら、エアロゲル粒子が高充填されると、断熱材が脆くなるため、表面にひび割れが生じたり、エアロゲル粒子が脱落(いわゆる粉落ち)しやすくなる。
【0009】
他方、特許文献5に記載されているように、プレス成形ではなく、エアロゲル粒子をバインダー液に分散させて塗料を調製し、当該塗料を乾燥して断熱材を製造する方法も知られている。この方法によると、乾燥する際に塗料が収縮して歪みが生じるため、得られる断熱材にひび割れや粉落ちが生じやすいという課題があった。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、断熱性に優れ、ひび割れや粉落ちが生じにくい断熱材、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記課題を解決するため、本発明の断熱材は、複数の粒子が連結して骨格をなし内部に細孔を有する複数の多孔質構造体と、該多孔質構造体同士を結合するバインダーと、を有し、該多孔質構造体と該多孔質構造体との間には空隙が存在し、断熱材における該空隙の体積割合は10%以上55%以下であることを特徴とする。
【0012】
(2)上記本発明の断熱材の製造方法は、多孔質構造体がバインダー液に分散した塗料を調製する塗料調製工程と、該塗料に含まれる気体の状態を調整する調整工程と、該塗料を基材の表面に塗布、乾燥する塗工工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
(1)本発明の断熱材を構成する多孔質構造体は、複数の粒子が連結して骨格をなし内部に細孔を有する。多孔質構造体の骨格と骨格との間に形成される細孔の大きさは10~50nm程度であり、細孔の多くは、50nm以下のいわゆるメソ孔である。メソ孔は、空気の平均自由行程よりも小さいため、熱の移動が阻害される。よって、本発明の断熱材は断熱性に優れる。
【0014】
本発明の断熱材においては、多孔質構造体と多孔質構造体との間に空隙が存在する。断熱材における空隙の体積割合は10%以上55%以下である。上述したように、従来は、できるだけ多孔質構造体間の空隙を少なくして、多孔質構造体を高充填することにより、断熱性を向上させるという考え方であった。しかしながら、本発明においてはそれとは逆の発想で、多孔質構造体間に積極的に空隙を存在させている。これにより、断熱材の製造方法として、多孔質構造体をバインダー液に分散させて塗料を調製し、当該塗料を基材に塗布、乾燥する方法を採用した場合に、乾燥時の収縮歪みが空隙により緩衝されて、ひび割れの発生や、それに伴う多孔質構造体の脱落(粉落ち)を抑制することができる。また、本発明者の検討によると、空隙の体積割合が10%以上55%以下であれば、熱伝導率の変化は小さく、所望の断熱性を確保できることが確認されている。
【0015】
空隙が多くなると、バインダーを多孔質構造体同士の結合に効率良く用いることができるため、多孔質構造体同士の結合力が大きくなり、多孔質構造体の脱落抑制に効果的である。また、本発明の断熱材によると、多孔質構造体を高充填することなく、所望の断熱性を確保できるため、コスト削減を図ることができる。
【0016】
(2)本発明の断熱材の製造方法は、塗料を調製した後、該塗料に含まれる気体の状態を調整する調整工程を有する。調整工程において、塗料に含有される空気などの気体の量の調整、気泡の大きさの調整、気泡の大きさの均一化などを行う。これにより、塗料に適量の気体を含有させることができ、次の塗工工程において、むらが少ない均一な塗膜を形成することができる。そして、当該塗膜の乾燥時には、多孔質構造体間に形成される空隙により収縮時の歪みが緩衝されるため、ひび割れの発生を抑制することができる。
【0017】
また、本発明の断熱材の製造方法によると、塗膜の表面が加圧されないため、得られる断熱材の表面に微小な凹凸が生成されやすい。この凹凸に空気が介在することにより、界面の熱抵抗が大きくなる。よって、プレス成形などの加熱加圧成形法と比較して、断熱材の断熱性向上に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の断熱材の一実施形態における断面模式図である。
【
図3】同断熱材の厚さ方向断面のSEM写真である(倍率50倍)。
【
図5】同断熱材の厚さ方向断面のSEM写真である(倍率50倍)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明の断熱材の一実施形態を説明する。
図1に、本実施形態の断熱材の断面模式図を示す。
図1に示すように、断熱材1は、複数の多孔質構造体10と、バインダー11と、を有している。多孔質構造体10は、複数のシリカ粒子が連結して骨格をなし内部に細孔を有するシリカエアロゲルである。バインダー11は、スチレンブタジエンゴムをバインダー成分とする水性エマルジョン系バインダーからなる。バインダー11は、多孔質構造体10同士を結合している。多孔質構造体10と多孔質構造体10との間には、空隙12が存在している。断熱材1における空隙12の体積割合は、36.5%である。
【0020】
断熱材1は、多孔質構造体10(シリカエアロゲル)を有しているため、断熱性に優れる。シリカエアロゲルは、表面および内部に疎水部位を有している。よって、親水性を有する水性エマルジョン系バインダーは、シリカエアロゲルの細孔に浸入しにくく、シリカエアロゲルによる断熱効果を阻害しない。多孔質構造体10と多孔質構造体10との間には、36.5%の体積割合で空隙12が存在している。空隙12が存在しても、その体積割合が10%以上55%以下であるため、所望の断熱性は維持される。そして、多孔質構造体10がバインダー液に分散した塗料を塗布、乾燥して断熱材1を製造する場合に、乾燥時の収縮歪みが空隙12により緩衝される。これにより、ひび割れの発生が抑制され、さらには多孔質構造体の脱落(粉落ち)も抑制される。
【0021】
以上、本発明の断熱材の一実施形態について説明したが、本発明の断熱材は、上記形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。次に、本発明の断熱材およびその製造方法の好適な形態を説明する。
【0022】
<断熱材>
本発明の断熱材は、複数の多孔質構造体と、該多孔質構造体同士を結合するバインダーと、を有する。
【0023】
[多孔質構造体]
多孔質構造体は、複数の粒子が連結して骨格をなし内部に細孔を有する。骨格をなす粒子(一次粒子)の直径は、2~5nm程度、骨格と骨格との間に形成される細孔の大きさは、10~50nm程度であることが望ましい。細孔の多くは、50nm以下のいわゆるメソ孔である。多孔質構造体の形状は、球状、異形状の塊状など、特に限定されない。多孔質構造体の最大長さを粒子径とした場合、多孔質構造体の平均粒子径は、1~200μm程度が望ましい。多孔質構造体の粒子径が大きいほど、表面積が小さくなり細孔容積が大きくなるため、断熱性を高める効果は大きくなる。例えば、平均粒子径が10μm以上のものが好適である。一方、多孔質構造体をバインダー液に分散させた塗料の安定性、塗工のしやすさ、さらには断熱材における多孔質構造体の脱落抑制などを考慮すると、平均粒子径が100μm以下のものが好適である。また、粒子径が異なる二種類以上を併用すると、小径の多孔質構造体が大径の多孔質構造体間の隙間に入りこむため、空隙を確保しつつ充填量を多くすることができ、断熱性を高める効果が大きくなる。
【0024】
多孔質構造体には、表面や内部に親水部位を有する親水性のものと、疎水部位を有する疎水性のものと、がある。このうち、親水性の多孔質構造体は、脆く崩れやすい。また、内部に水分などが浸入して細孔が潰れるおそれがある。したがって、本発明の断熱材においては、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する疎水性のものが好適である。疎水性の多孔質構造体を用いると、水を溶媒とする水性バインダーを用いた場合に、当該バインダーが多孔質構造体の細孔に浸入しにくいため、断熱性が阻害されにくい。また、多孔質構造体の表面を、シランカップリング剤などで表面処理したものを用いてもよい。表面処理を施すことにより、多孔質構造体の表面に親水性または疎水性などの機能を付与することができる。
多孔質構造体の種類は特に限定されない。一次粒子として、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどが挙げられる。なかでも化学的安定性に優れるという観点から、一次粒子がシリカである、すなわち複数のシリカ粒子が連結して骨格をなすシリカエアロゲルが望ましい。シリカエアロゲルは白色を呈し赤外線を反射する。よって、シリカエアロゲルを用いると、断熱材に遮熱効果を付与することができる。
【0025】
表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有するシリカエアロゲルは、製造過程において、疎水基を付与するなどの疎水化処理を施して製造することができる。少なくとも表面に疎水部位を有すると、水分などの染み込みを抑制することができるため、細孔構造が維持され、断熱性が損なわれにくい。シリカエアロゲルの製造方法は、特に限定されず、乾燥工程を常圧で行ったものでも、超臨界で行ったものでも構わない。例えば、疎水化処理を乾燥工程前に行うと、超臨界で乾燥する必要がなくなる、すなわち常圧で乾燥すればよいため、より容易かつ低コストに製造することができる。シリカエアロゲルは、例えば、特許第5250900号公報に記載されている方法で製造すればよい。
【0026】
断熱材における多孔質構造体の含有量は、断熱材の熱伝導率、柔軟性、機械的強度などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、熱伝導率を小さくする(断熱性を高くする)という観点では、多孔質構造体の含有量は、断熱材全体の質量を100質量%とした場合の40質量%以上であることが望ましい。50質量%以上、65質量%以上であるとより好適である。一方、多孔質構造体が多すぎると脱落しやすくなったり、断熱材が硬くなり機械的強度が低下するおそれがある。このため、多孔質構造体の含有量は、断熱材全体の質量を100質量%とした場合の75質量%以下であることが望ましい。
【0027】
[バインダー]
バインダーの種類は、多孔質構造体同士を結合することができれば限定されない。多孔質構造体が疎水性の場合には、当該多孔質構造体の細孔に浸入しにくいという理由から、水を溶媒とする水性バインダーが好適である。水性バインダーとしては、水溶性のバインダー、エマルジョン状のバインダーがあるが、なかでもエマルジョン状のバインダー(水性エマルジョン系バインダー)が好適である。水性エマルジョン系バインダーは、界面活性剤または親水基の導入により乳化されている。水性エマルジョン系バインダーによると、乾燥時に界面活性剤や親水基が揮発することにより親水性が低下し、水に溶解しにくくなるため、塗料の硬化後にべたつきが生じにくいと考えられる。エマルジョン化する方法としては、界面活性剤を乳化剤として使用した強制乳化型でも、親水基が導入された自己乳化型でも構わない。
【0028】
バインダー成分は、樹脂でもゴムでもよい。多孔質構造体に対する粘着性が高く、断熱材を柔軟にしてひび割れしにくくするという観点から、バインダーのガラス転移温度(Tg)は-5℃以下、さらには-20℃以下であることが望ましい。例えば、水性エマルジョン系バインダーの場合、樹脂エマルジョンでもゴムエマルジョンでもよい。樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂とウレタン樹脂との混合物などが挙げられる。ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴムなどが挙げられる。断熱材を柔軟にするという観点から、ウレタン樹脂、スチレンブタジエンゴムなどが好適である。バインダー部分の強度を高めて、断熱材の強度を向上させるという観点から、架橋剤などを併用してバインダー成分を架橋させてもよい。
【0029】
バインダーの含有量は、多孔質構造体同士の結合性、断熱材の熱伝導率などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、多孔質構造体同士の結合力を高めるという観点では、バインダーの含有量は、断熱材全体の質量を100質量%とした場合の10質量%以上であることが望ましい。15質量%以上であるとより好適である。一方、熱伝導率を小さくする(断熱性を高くする)という観点では、バインダーの含有量は、断熱材全体の質量を100質量%とした場合の25質量%以下であることが望ましい。20質量%以下であるとより好適である。
【0030】
[他の成分]
表面や内部に疎水部位を有する多孔質構造体は、水になじみにくい。なかでもシリカエアロゲルは比重が小さいため、水に浮きやすい。よって、水を溶媒とするバインダー液にシリカエアロゲルを分散させるのは難しく、分散工程に時間を要する。また、塗料を調製しても、シリカエアロゲルが水と分離して浮きやすいという問題がある。また、塗料に圧力を加えると分離するおそれがあり、塗工機による塗工が難しく、連続生産に不向きである。
【0031】
このような課題を解決するため、本発明の断熱材は、多孔質構造体、バインダーに加えて、多糖類を有することが望ましい。多糖類は、一種または二種以上の単糖類がグリコシド結合したものであり、高い粘性を有する。後述するように、バインダー液に多孔質構造体を添加して塗料を調製する場合、多糖類を配合すると、塗料の粘性が高くなり、バインダー液から多孔質構造体が分離しにくくなる。よって、多孔質構造体の分散性が向上し、塗料中に多孔質構造体を安定して保持させることができる。また、塗料の粘性が高くなると液だれしにくくなるため、塗料を基材に塗布しやすい。多糖類は、分子鎖の絡み合いで増粘することにより多孔質構造体の分離を抑制する。このため、多糖類を配合しても、熱の伝達経路が形成されにくく、断熱性は低下しにくい。
【0032】
例えば、多孔質構造体が疎水性の場合、親水部位と疎水部位の両方を有する多糖類を配合すると、疎水部位が多孔質構造体の疎水部位と選択的に結合し、親水部位が多孔質構造体の周りを囲むように配置されることにより、保護コロイドのような状態になる。この作用によっても、バインダー液と多孔質構造体との分離が抑制されると共に、多孔質構造体の分散性が向上する。これにより、分散に要する時間を短縮することができ、塗料化が容易になる。また、親水部位を有する多糖類は、疎水性の多孔質構造体の細孔に浸入しにくい。
【0033】
多糖類としては、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、キサンタンガム、アガロース、カラギナンなどが挙げられる。なかでも主鎖が長く、側鎖がないか短いものは、分子鎖の絡み合いが多くなる。これにより、多孔質構造体の保持性が高くなるため、断熱材における多孔質構造体の脱落を抑制することができる。例えば、カルボキシメチルセルロースが好適である。
【0034】
以上説明したように、本発明の断熱材は、多孔質構造体、バインダーに加えて、架橋剤、多糖類などの他の成分(添加剤)を含んでいてもよい。
【0035】
[空隙]
本発明の断熱材は、多孔質構造体と該多孔質構造体との間に空隙を有する。空隙は複数存在し、断熱材の機械的強度や厚さなどを考慮すると、空隙一つあたりの大きさは、塗膜の厚さ未満、例えば500μm以下、さらには300μm以下であることが望ましい。本明細書において、空隙の大きさとは、空隙の最大長さを意味する。
【0036】
断熱材における空隙の体積割合は、10%以上55%以下である。空隙の体積割合が10%未満の場合には、多孔質構造体がバインダー液に分散した塗料を塗布、乾燥して断熱材を製造する場合に、乾燥時の収縮歪みを緩衝することができず、ひび割れが発生しやすくなる。好適な空隙の体積割合は、10%より大きい、さらには25%以上である。反対に、空隙の体積割合が55%を超えると、断熱材の機械的強度が小さくなり脆くなる。好適な空隙の体積割合は、40%以下である。
【0037】
空隙の体積割合は、次式(I)により算出するか、断熱材の断面を電子顕微鏡で観察し、得られた断面写真を画像解析することにより測定することができる。式(I)の計算値と断面写真の画像解析値とは、ほぼ一致する。例えば、断熱材の実測密度が不明な場合は断面写真による画像解析値を、断面写真が明瞭でない場合は式(I)の計算値を採用すればよい。
空隙の体積割合(%)=[空気の体積]/[断熱材の実測密度から算出された固形分※1全体の体積]×100 ・・・(I)
式(I)中、[空気の体積]は次式(Ia)により算出される。
[空気の体積]=[断熱材の実測密度から算出された固形分※1全体の体積]-[固形分※1の個々の体積の計算値の和] ・・・(Ia)
※1 固形分には、多孔質構造体、バインダー、添加剤が含まれる。
【0038】
本明細書においては、断熱材の密度をJIS Z 8807:2012に規定される「液中ひょう量法」により測定し、その値を「断熱材の実測密度」とする。なお、断熱材の実測密度は、多孔質構造体間の空隙だけでなく、多孔質構造体内の細孔も寄与した値になる。所望の空隙を含有し、熱伝導率が小さく、実用に耐えうる機械的強度を有するという観点から、断熱材の実測密度は、0.15g/cm3未満、さらには0.1g/cm3未満であることが望ましい。
【0039】
[その他]
本発明の断熱材の厚さは、断熱性や耐久性などを考慮して適宜決定すればよい。断熱材が薄すぎると所望の断熱効果が得られない。よって、断熱材の厚さは、0.2mm以上であることが望ましい。反対に、断熱材が厚すぎると、コスト高になるだけでなく、強度が低下して脆くなる。よって、断熱材の厚さは、1mm以下、さらには0.5mm以下にすると好適である。
【0040】
後述するように、本発明の断熱材は、塗料の塗布、乾燥により製造されることが望ましい。例えば、プレス成形すると、加圧されて断熱材の表面は均一になる。これに対して、塗料を塗布、乾燥して製造する場合には、加圧されないため、塗膜(断熱材)の表面に微小な凹凸が生成されやすい。この凹凸に空気が介在することにより、界面の熱抵抗が大きくなるため、断熱性の向上に有利になる。例えば、断熱材の表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.1μm以上20μm以下であることが望ましい。
【0041】
例えば、曲面に配置する場合などにおいてもひび割れせずに形状を保持できるという観点から、本発明の断熱材は柔軟であることが望ましい。例えば、弾性率は、0.01MPa以上、0.02MPa以上、100MPa以下、50MPa以下であることが望ましい。切断時伸びは、1.5%以上、2.0%以上、10%以下であることが望ましい。切断時引張強さは、0.10MPa以上、1MPa以下であることが望ましい。弾性率、切断時伸び、切断時引張強さについては、JIS K 6251:2010に規定される引張試験を行って測定された値を採用する。引張試験は、ダンベル状3号形の試験片を用い、チャック間距離20mm、引張速度を20mm/minとして行うものとする。弾性率については、引張距離0.1~0.4mm間の応力-歪み(SS)曲線の傾きから算出することとする。
【0042】
<断熱材の製造方法>
本発明の断熱材の製造方法は特に限定されるものではないが、所望の体積割合で空隙を含有させるという観点から、以下に説明する本発明の製造方法が好適である。本発明の断熱材の製造方法は、塗料調製工程と、調整工程と、塗工工程と、を有する。
【0043】
[塗料調製工程]
本工程は、多孔質構造体がバインダー液に分散した塗料を調製する工程である。バインダー液は、水などの溶媒にバインダーが溶解または分散した液である。本工程においては、多孔質構造体、バインダー、必要に応じて多糖類、架橋剤などの添加剤を、水などの溶媒に添加して、塗料を調製すればよい。例えば、表面や内部に疎水部位を有する多孔質構造体は、水になじみにくい。また、比重が小さい場合には、水に浮きやすく分散しにくい。よって、多孔質構造体の分散性などを考慮して多糖類を配合する場合には、水にバインダーおよび多糖類を加えて液の粘度を高めてから、多孔質構造体を添加するとよい。
【0044】
[調整工程]
本工程は、前工程にて調製された塗料に含まれる気体の状態を調整する工程である。前工程における塗料の調製は、撹拌しながら行うことが多い。空気中で塗料を撹拌すると、塗料に空気が取り込まれ、含有される気体量が増加する。本工程においては、塗料に含有される空気などの気体の量の調整、気泡の大きさの調整、気泡の大きさの均一化などを行う。例えば、撹拌速度、撹拌時間などを調整して塗料の撹拌を続けたり、塗料を脱泡処理したり、塗料に気体を吹き込んだりすればよい。脱泡処理としては、自転および公転するミキサーを用いた撹拌処理、静置などが挙げられる。
【0045】
気体の状態を容易に調整できるという観点から、本工程は、塗料を撹拌する撹拌工程を有することが望ましい。さらには、撹拌工程の後に、塗料を静置する静置工程を有することが望ましい。撹拌速度が大きく、撹拌時間が長いほど、塗料に含有される気体量は多くなる。反対に、撹拌後の静置時間が長いほど、脱泡され、塗料に含有される気体量は少なくなる。撹拌は、羽根撹拌でもよいが、積極的にせん断力を加えたり、超音波を加えたりしてもよい。自転公転撹拌装置や、メディア型撹拌装置を用いてもよい。
【0046】
[塗工工程]
本工程は、前工程で気体の状態が調整された塗料を基材の表面に塗布、乾燥する工程である。基材の材質は、不織布などの布、樹脂などが挙げられる。基材の形状は特に限定されず、フィルム状でも成形体でもよい。塗布には、ブレードコーター、バーコーター、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、ロールコーターなどの塗工機や、スプレーなどを使用すればよい。あるいは、基材を塗料に浸漬してもよい。基材が布や多孔質な材料からなる場合には、塗布した塗料の一部が基材の内部に含浸する。乾燥は、80~120℃の温度下で、数分~数十分程度行えばよい。
【実施例】
【0047】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0048】
<断熱材の製造>
[実施例1]
まず、水に、水性エマルジョン系バインダーとしてのスチレンブタジエンラテックスA(旭化成(株)製「A7609」、固形分52.2質量%、バインダー成分のTg2℃)と、多糖類としてのカルボキシルメチルセルロース(CMC:分子量38万、密度0.90g/cm3)と、を添加して、撹拌羽根で撹拌しながら、表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲル(平均粒子径90μm、中心細孔径30nm、密度0.11g/cm3)を添加した(塗料調製工程)。そのまま、撹拌羽根で30分間撹拌し続けた後、60分間静置して、塗料を製造した(撹拌工程、静置工程)。撹拌工程における撹拌羽根の回転速度は、1000rpmとした。シリカエアロゲルについては、特許第5250900号公報の段落[0102]~[0106]に記載されている方法に従って、次のようにして製造した。
【0049】
まず、酢酸水溶液に界面活性剤および尿素を添加して溶解した。次に、メチルトリメトキシシラン(MTMS)を撹拌しながら添加した。この時のモル比は、MTMS:水:酢酸:尿素=1:15.9:0.0860(5mM):1.43とした。続いて、この混合溶液を室温で30分撹拌した後、密閉容器に入れ、60℃下で3日間静置して、ゲル化と熟成を行った。その後、得られた湿潤ゲルをメタノールに60℃下で8時間浸して洗浄した。洗浄は合計3回行った。続いて、洗浄した湿潤ゲルをヘキサンに55℃下で8時間浸して溶媒交換した。溶媒交換は合計2回行った。それから、溶媒交換した湿潤ゲルを空気中で一晩風乾し、100℃のオーブンで重量変化がなくなるまで乾燥した。このようにして、表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲルを得た。得られたシリカエアロゲルは、粉砕機で粒子径が90μm程度になるまで粉砕して使用した。
【0050】
次に、静置後の塗料を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにブレードコーティングした。そして、100℃下で1時間乾燥させて、厚さ5mmのシート状の断熱材を製造した(塗工工程)。製造された断熱材を、実施例1の断熱材と称す。実施例1の断熱材におけるシリカエアロゲルの含有量は82.8質量%、バインダーの含有量は14.6質量%である。使用した原料の配合量は、後出の表1にまとめて示す。
【0051】
JIS Z 8807:2012に規定される「液中ひょう量法」により、実施例1の断熱材の密度を測定したところ、0.093g/cm3であった。この密度の値(実測密度)を用いて先の式(I)により実施例1の断熱材における空隙の体積割合を算出したところ、36.5%であった。
【0052】
図2に、実施例1の断熱材の上面写真を示す。
図3に、同断熱材の厚さ方向断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真を示す(倍率50倍)。
図2に示すように、実施例1の断熱材には、ひび割れは見られなかった。また、
図3に示すように、多孔質構造体と多孔質構造体との間に黒っぽい部分が見られ、多孔質構造体間に空隙が存在することが確認された。空隙一つあたりの大きさは、300~1000μm、平均すると500μm程度であった。
図3のSEM写真では、左上に空隙が多く見られた。
【0053】
[実施例2]
撹拌工程における撹拌条件、および静置工程における静置時間を変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例2の断熱材を製造した。実施例2の断熱材の製造方法においては、撹拌羽根の回転速度を500rpm、撹拌時間を10分間とし、静置時間を180分間とした。実施例1と同様にして、実施例2の断熱材の密度を測定したところ、0.136g/cm3であった。この密度の値を用いて先の式(I)により実施例2の断熱材における空隙の体積割合を算出したところ、10.8%であった。
【0054】
[実施例3]
撹拌工程における撹拌条件、および静置工程における静置時間を変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例3の断熱材を製造した。実施例3の断熱材の製造方法においては、撹拌羽根の回転速度を1200rpm、撹拌時間を15分間とし、静置時間を10分間とした。実施例1と同様にして、実施例3の断熱材の密度を測定したところ、0.069g/cm3であった。この密度の値を用いて先の式(I)により実施例3の断熱材における空隙の体積割合を算出したところ、54.9%であった。
【0055】
[実施例4]
バインダーの種類を、スチレンブタジエンラテックスB(JSR(株)製「JSR-0545」、固形分54質量%、バインダー成分のTg-31℃)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例4の断熱材を製造した。実施例1と同様にして、実施例4の断熱材の密度を測定したところ、0.091g/cm3であった。この密度の値を用いて先の式(I)により実施例4の断熱材における空隙の体積割合を算出したところ、33.0%であった。
【0056】
[比較例1]
撹拌工程における撹拌条件、および静置工程における静置時間を変更した点以外は、実施例1と同様にして、比較例1の断熱材を製造した。比較例1の断熱材の製造方法においては、撹拌時間を5分間とし、静置時間を300分間とした。実施例1と同様にして、比較例1の断熱材の密度を測定したところ、0.156g/cm3であった。この密度の値を用いて先の式(I)により比較例1の断熱材における空隙の体積割合を算出したところ、4%であった。
【0057】
図4に、比較例1の断熱材の上面写真を示す。
図5に、同断熱材の厚さ方向断面のSEM写真を示す(倍率50倍)。
図4に示すように、比較例1の断熱材においては、全体にひび割れが生じていた。また、
図5に示すように、多孔質構造体と多孔質構造体との間に若干黒っぽい部分が見られ、ごく僅かな空隙が存在することが確認された。
【0058】
[比較例2]
各原料の配合量、および静置工程における静置時間を変更した点以外は、実施例1と同様にして、比較例2の断熱材を製造した。比較例2の断熱材の製造方法においては、実施例1よりもバインダーの配合割合を多くし、静置時間を300分間とした。比較例2の断熱材におけるシリカエアロゲルの含有量は68.6質量%、バインダーの含有量は29.3質量%である。実施例1と同様にして、比較例2の断熱材の密度を測定したところ、0.2g/cm3であった。この密度の値を用いて先の式(I)により比較例2の断熱材における空隙の体積割合を算出したところ、2%であった。
【0059】
[比較例3]
各原料の配合量、および製造方法を変更して、比較例3の断熱材を製造した。比較例3の断熱材の製造方法においては、実施例1よりもバインダーの配合割合を多くすると共に、塗料を塗工するのではなくプレス成形した。比較例3の断熱材におけるシリカエアロゲルの含有量は88.7質量%、バインダーの含有量は10.3質量%である。プレス成形は次のようにして行った。まず、成形型の底部に離型紙を配置して、その上に塗料を充填した。それから型締めし、0.98MPaの圧力で30分間加圧して、厚さ5mmのシート状に成形した。実施例1と同様にして、比較例3の断熱材の密度を測定したところ、0.2g/cm3であった。この密度の値を用いて先の式(I)により比較例3の断熱材における空隙の体積割合を算出したところ、2%であった。
【0060】
<断熱材の物性測定>
製造した各断熱材の弾性率、切断時伸び(Eb)、切断時引張強さ(Tb)を、JIS K 6251:2010に規定される引張試験を行って測定した。引張試験は、ダンベル状3号形の試験片を用い、チャック間距離20mm、引張速度を20mm/minとして行った。弾性率については、引張距離0.1~0.4mm間の応力-歪み(SS)曲線の傾きから算出した。測定結果については、後出の表1にまとめて示す。
【0061】
<断熱材の評価>
製造した各断熱材について、断熱性、ひび割れの有無、およびシリカエアロゲルの脱落性(粉落ちの程度)を評価した。
【0062】
[断熱性]
断熱材の熱伝導率を、JIS A1412-2:1999の熱流計法に準拠した、英弘精機(株)製の熱流束計「HC-074」を用いて測定した。熱伝導率が0.024W/m・K以下であれば断熱性良好(後出の表1中、〇印で示す)、熱伝導率が0.024W/m・Kを超えたら断熱性不良(後出の表1中、×印で示す)と評価した。
【0063】
[ひび割れの有無]
断熱材を、幅20mm、長さ100mmの帯状に切り出して、試験片を作製した。作製した試験片を、直径40mmの円柱状部材の周囲に、長辺が円周方向に沿うように巻き付けて、巻き付け前後の試験片の状態を比較した。巻き付け後に試験片の表面にひび割れが生じなければ、ひび割れ無し(後出の表1中、〇印で示す)、ひび割れが生じたら、ひび割れ有り(後出の表1中、×印で示す)と評価した。
【0064】
[シリカエアロゲルの脱落性]
断熱材の表面に、弱粘着テープ(スリーエム社製「スコッチ(登録商標)はってはがせるテープ」(製品番号:811-3-12))を貼り、それを剥がした時にシリカエアロゲルが付着するか否かを調べた。そして、シリカエアロゲルが付着しなかった場合を脱落無し(後出の表1中、〇印で示す)、多量に付着した場合を脱落有り(同表中、×印で示す)と評価した。
【0065】
表1に、使用した原料の配合量、製造条件、断熱材の物性および評価結果を示す。
【表1】
【0066】
表1に示すように、空隙の体積割合が10%以上55%以下の実施例1~4の断熱材においては、ひび割れは見られず、シリカエアロゲルの脱落もほとんどなかった。これは、塗料に適度な空気を含有させて成膜することにより、シリカエアロゲル間に空隙が形成され、当該空隙により乾燥時に生じる収縮歪みを緩衝できたためと考えられる。また、実施例1~4の断熱材が柔軟であることは、これらの切断時伸びが1.5%以上であることからもわかる。また、実施例1~4の断熱材においては、空隙が存在するにも関わらず、熱伝導率は小さかった。例えば、40℃の空気の熱伝導率は0.0272W/m・K程度である。つまり、実施例1~4の断熱材は、当該空気よりも高い断熱性を有することがわかる。
【0067】
これに対して、比較例1、3の断熱材には、ごく僅かな空隙しか存在しない。このため、比較例1の断熱材においては、成膜時にひび割れが生じてしまい、比較例3の断熱材においては、プレス成形により製造できたものの、柔軟性に乏しいため、曲げようとするとひび割れが生じてしまった。加えて、比較例3の断熱材は、多糖類を配合しないで製造したため、シリカエアロゲルの保持性が悪く、脱落が多くなった。なお、比較例2の断熱材は、バインダーの配合量が多いため、僅か2%の空隙しか有しないにも関わらず、ひび割れは生じなかった。しかしながら、シリカエアロゲルが少ないことに加えて、バインダーが熱の伝達経路になるため、熱伝導率は大きくなり、断熱性に劣るという結果になった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の断熱材は、自動車用断熱内装材、住宅用断熱材、家電用断熱材、電子部品用断熱材、保温保冷容器用断熱材などに好適である。
【符号の説明】
【0069】
1:断熱材、10:多孔質構造体、11:バインダー、12:空隙。