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特許7285127スパッタリング装置およびスパッタリング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】スパッタリング装置およびスパッタリング方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230525BHJP
   C23C 14/54 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
C23C14/34 M
C23C14/34 U
C23C14/54 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019084169
(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公開番号】P2020180339
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】大澤 篤史
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 一人
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-057034(JP,A)
【文献】特開2010-150594(JP,A)
【文献】特開2015-229794(JP,A)
【文献】特開2016-098425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C23C 14/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象物に成膜処理を行うスパッタリング装置であって、
チャンバーと、
前記チャンバー内において前記成膜対象物を保持する保持部と、
前記チャンバー内において前記成膜対象物と対向する位置に設けられており、アルミニウムによって形成された筒状のターゲットを含む回転カソードと、
前記回転カソードを回転させる回転駆動部と、
前記チャンバー内にスパッターガスを供給するスパッターガス供給部と、
前記チャンバー内に酸素ガスである反応性ガスを供給する反応性ガス供給部と、
定電圧下で、前記スパッターガスの流量に対する前記酸素ガスの流量の割合が12%から25%の範囲において、前記成膜対象物の成膜レートが前記酸素ガスの前記割合に対して正の相関関係を有するときの電圧を、スパッター電圧として前記回転カソードに印加して、前記ターゲットの表面に形成される酸化膜に対するスパッタリングにより、前記酸化膜から、前記ターゲットの2次電子よりも高い放出率で2次電子を放出させて、該2次電子により前記スパッターガスのイオンを生成させ、前記スパッター電圧により、該イオンで前記酸化膜および前記ターゲットに対してスパッタリングを行わせる電圧印加部と
を備える、スパッタリング装置。
【請求項2】
成膜対象物に成膜処理を行うスパッタリング装置であって、
チャンバーと、
前記チャンバー内において前記成膜対象物を保持する保持部と、
前記チャンバー内において前記成膜対象物と対向する位置に設けられており、シリコンによって形成された筒状のターゲットを含む回転カソードと、
前記回転カソードを回転させる回転駆動部と、
前記チャンバー内にスパッターガスを供給するスパッターガス供給部と、
前記チャンバー内に酸素ガスである反応性ガスを供給する反応性ガス供給部と、
定電圧下で、前記スパッターガスの流量に対する前記酸素ガスの流量の割合が10%から20%の範囲において、前記成膜対象物の成膜レートが前記酸素ガスの前記割合に対して正の相関関係を有するときの電圧を、スパッター電圧として前記回転カソードに印加して、前記ターゲットの表面に形成される酸化膜に対するスパッタリングにより、前記酸化膜から、前記ターゲットの2次電子よりも高い放出率で2次電子を放出させて、該2次電子により前記スパッターガスのイオンを生成させ、前記スパッター電圧により、該イオンで前記酸化膜および前記ターゲットに対してスパッタリングを行わせる電圧印加部と
を備える、スパッタリング装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のスパッタリング装置であって、
前記電圧印加部は電圧制御により前記スパッター電圧を制御する、スパッタリング装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記成膜対象物側に開口し、前記回転カソードを囲む仕切部材をさらに備え、
前記反応性ガス供給部は、前記チャンバー内に前記反応性ガスを吐出するノズルを含み、
前記ノズルは前記仕切部材の内部に設けられている、スパッタリング装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記反応性ガス供給部は、前記チャンバー内に前記反応性ガスを吐出するノズルを含み、
前記ノズルは前記成膜対象物よりも前記回転カソードに近い位置に設けられている、スパッタリング装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記チャンバー内のプラズマ発光分光をモニタするセンサをさらに備え、
前記反応性ガス供給部は、前記センサによってモニタされるプラズマ発光分光に基づいて前記反応性ガスの流量を調整する、スパッタリング装置。
【請求項7】
成膜対象物に成膜処理を行うスパッタリング方法であって、
チャンバー内にスパッターガスを供給する工程と、
前記チャンバー内に酸素ガスである反応性ガスを供給する工程と、
前記チャンバー内に設けられ、アルミニウムによって形成された筒状のターゲットを含む回転カソードを回転させる工程と、
定電圧下で、前記スパッターガスの流量に対する前記酸素ガスの流量の割合が12%から25%の範囲において、前記成膜対象物の成膜レートが前記酸素ガスの前記割合に対して正の相関関係を有するときの電圧を、スパッター電圧として前記回転カソードに印加して、前記ターゲットの表面に形成される酸化膜に対するスパッタリングにより、前記酸化膜から、前記ターゲットの2次電子よりも高い放出率で2次電子を放出させて、該2次電子により前記スパッターガスのイオンを生成させ、前記スパッター電圧により、該イオンで前記酸化膜および前記ターゲットに対してスパッタリングを行わせる工程と
を備える、スパッタリング方法。
【請求項8】
成膜対象物に成膜処理を行うスパッタリング方法であって、
チャンバー内にスパッターガスを供給する工程と、
前記チャンバー内に酸素ガスである反応性ガスを供給する工程と、
前記チャンバー内に設けられ、シリコンによって形成された筒状のターゲットを含む回転カソードを回転させる工程と、
定電圧下で、前記スパッターガスの流量に対する前記酸素ガスの流量の割合が10%から20%の範囲において、前記成膜対象物の成膜レートが前記酸素ガスの前記割合に対して正の相関関係を有するときの電圧を、スパッター電圧として前記回転カソードに印加して、前記ターゲットの表面に形成される酸化膜に対するスパッタリングにより、前記酸化膜から、前記ターゲットの2次電子よりも高い放出率で2次電子を放出させて、該2次電子により前記スパッターガスのイオンを生成させ、前記スパッター電圧により、該イオンで前記酸化膜および前記ターゲットに対してスパッタリングを行わせる工程と
を備える、スパッタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、スパッタリング装置およびスパッタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、反応性スパッタリング装置が開示されている。このスパッタリング装置は反応性スパッタリングにより、成膜対象物に薄膜を形成する。具体的には、スパッタリング装置は、真空チャンバー内に、スパッター蒸発源(カソード)と、ガス導入機構とを含んでいる。スパッター蒸発源は平板型マグネトロンによって構成され、金属ターゲットが設けられる。ガス導入機構はスパッター用の不活性ガス、および、酸素などの反応性ガスを真空チャンバー内に導入する。
【0003】
スパッター蒸発源には、スパッター電圧が印加される。これにより、不活性ガスがプラズマ化し、そのプラズマが金属ターゲットに作用して金属粒子が飛び出す。金属粒子は反応性ガスと反応しつつ、成膜対象物の上に堆積される。これにより、成膜対象物に金属化合物の薄膜を形成することができる。
【0004】
この反応性スパッタリングにおいて、反応性ガスの導入量が小さい場合、成膜速度(以下、成膜レートと呼ぶ)は高いものの、金属が過剰な薄膜が成膜対象物に形成される。よって、反応性ガスの導入量が小さいモードは、メタルモードと呼ばれる。一方で、反応性ガスの導入量が大きい場合、金属ターゲットの表面に金属化合物が形成されるので、ターゲットから飛び出す金属粒子の量が低下する。これにより、成膜レートはメタルモードに比べて著しく低下する。よって、反応性ガスの導入量が大きいモードは、ポイズニングモードと呼ばれる。
【0005】
メタルモードとポイズニングモードとの間の遷移モードにおいては、比較的に高い成膜レートで金属化合物の薄膜を成膜対象物に形成することができる。そこで、特許文献1のスパッタリング装置は、真空チャンバー内のプラズマ発光の分光スペクトルを測定し、その分光スペクトルによって把握される反応性ガスの分圧が目標値となるように、スパッター電圧を制御する。これにより、スパッタリング装置1は遷移モードにおいて反応性スパッタリングを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-342725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、遷移モードにおいて反応性スパッタリングを行うことに拘泥している。そのため、成膜レートの向上に限界があった。
【0008】
そこで、本願は、成膜レートをさらに向上することができるスパッタリング装置およびスパッタリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
スパッタリング装置の第1の態様は、成膜対象物に成膜処理を行うスパッタリング装置であって、チャンバーと、前記チャンバー内において前記成膜対象物を保持する保持部と、前記チャンバー内において前記成膜対象物と対向する位置に設けられており、アルミニウムによって形成された筒状のターゲットを含む回転カソードと、前記回転カソードを回転させる回転駆動部と、前記チャンバー内にスパッターガスを供給するスパッターガス供給部と、前記チャンバー内に酸素ガスである反応性ガスを供給する反応性ガス供給部と、定電圧下で、前記スパッターガスの流量に対する前記酸素ガスの流量の割合が12%から25%の範囲において、前記成膜対象物の成膜レートが前記酸素ガスの前記割合に対して正の相関関係を有するときの電圧を、スパッター電圧として前記回転カソードに印加して、前記ターゲットの表面に形成される酸化膜に対するスパッタリングにより、前記酸化膜から、前記ターゲットの2次電子よりも高い放出率で2次電子を放出させて、該2次電子により前記スパッターガスのイオンを生成させ、前記スパッター電圧により、該イオンで前記酸化膜および前記ターゲットに対してスパッタリングを行わせる電圧印加部とを備える。
【0010】
スパッタリング装置の第2の態様は、成膜対象物に成膜処理を行うスパッタリング装置であって、チャンバーと、前記チャンバー内において前記成膜対象物を保持する保持部と、前記チャンバー内において前記成膜対象物と対向する位置に設けられており、シリコンによって形成された筒状のターゲットを含む回転カソードと、前記回転カソードを回転させる回転駆動部と、前記チャンバー内にスパッターガスを供給するスパッターガス供給部と、前記チャンバー内に酸素ガスである反応性ガスを供給する反応性ガス供給部と、定電圧下で、前記スパッターガスの流量に対する前記酸素ガスの流量の割合が10%から20%の範囲において、前記成膜対象物の成膜レートが前記酸素ガスの前記割合に対して正の相関関係を有するときの電圧を、スパッター電圧として前記回転カソードに印加して、前記ターゲットの表面に形成される酸化膜に対するスパッタリングにより、前記酸化膜から、前記ターゲットの2次電子よりも高い放出率で2次電子を放出させて、該2次電子により前記スパッターガスのイオンを生成させ、前記スパッター電圧により、該イオンで前記酸化膜および前記ターゲットに対してスパッタリングを行わせる電圧印加部とを備える。
【0011】
スパッタリング装置の第3の態様は、第1または第2の態様にかかるスパッタリング装置であって、前記電圧印加部は電圧制御により前記スパッター電圧を制御する。
【0012】
スパッタリング装置の第4の態様は、第1から第3のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記成膜対象物側に開口し、前記回転カソードを囲む仕切部材をさらに備え、前記反応性ガス供給部は、前記チャンバー内に前記反応性ガスを吐出するノズルを含み、前記ノズルは前記仕切部材の内部に設けられている。
【0013】
スパッタリング装置の第5の態様は、第1から第3のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記反応性ガス供給部は、前記チャンバー内に前記反応性ガスを吐出するノズルを含み、前記ノズルは前記成膜対象物よりも前記回転カソードに近い位置に設けられている。
【0014】
スパッタリング装置の第6の態様は、第1から第5のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記チャンバー内のプラズマ発光分光をモニタするセンサをさらに備え、前記反応性ガス供給部は、前記センサによってモニタされるプラズマ発光分光に基づいて前記反応性ガスの流量を調整する。
【0015】
スパッタリング方法の第1の態様は、成膜対象物に成膜処理を行うスパッタリング方法であって、チャンバー内にスパッターガスを供給する工程と、前記チャンバー内に酸素ガスである反応性ガスを供給する工程と、前記チャンバー内に設けられ、アルミニウムによって形成された筒状のターゲットを含む回転カソードを回転させる工程と、定電圧下で、前記スパッターガスの流量に対する前記酸素ガスの流量の割合が12%から25%の範囲において、前記成膜対象物の成膜レートが前記酸素ガスの前記割合に対して正の相関関係を有するときの電圧を、スパッター電圧として前記回転カソードに印加して、前記ターゲットの表面に形成される酸化膜に対するスパッタリングにより、前記酸化膜から、前記ターゲットの2次電子よりも高い放出率で2次電子を放出させて、該2次電子により前記スパッターガスのイオンを生成させ、前記スパッター電圧により、該イオンで前記酸化膜および前記ターゲットに対してスパッタリングを行わせる工程とを備える。
スパッタリング方法の第2の態様は、成膜対象物に成膜処理を行うスパッタリング方法であって、チャンバー内にスパッターガスを供給する工程と、前記チャンバー内に酸素ガスである反応性ガスを供給する工程と、前記チャンバー内に設けられ、シリコンによって形成された筒状のターゲットを含む回転カソードを回転させる工程と、定電圧下で、前記スパッターガスの流量に対する前記酸素ガスの流量の割合が10%から20%の範囲において、前記成膜対象物の成膜レートが前記酸素ガスの前記割合に対して正の相関関係を有するときの電圧を、スパッター電圧として前記回転カソードに印加して、前記ターゲットの表面に形成される酸化膜に対するスパッタリングにより、前記酸化膜から、前記ターゲットの2次電子よりも高い放出率で2次電子を放出させて、該2次電子により前記スパッターガスのイオンを生成させ、前記スパッター電圧により、該イオンで前記酸化膜および前記ターゲットに対してスパッタリングを行わせる工程とを備える。
【発明の効果】
【0016】
スパッタリング装置の第1および第2の態様ならびにスパッタリング方法の第1および第2の態様によれば、成膜レートを向上できる。
【0017】
スパッタリング装置の第3の態様によれば、安定して高い成膜レートで成膜処理を行うことができる。
【0018】
スパッタリング装置の第4および第5の態様によれば、ターゲットに近い位置から反応性ガスを吐出できるので、効率的に成膜レートを向上できる。
【0019】
スパッタリング装置の第6の態様によれば、反応性ガスの濃度を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】スパッタリング装置の構成の一例を概略的に示す図である。
図2】プラズマ処理部の周辺の一例を概略的に示す図である。
図3】成膜レートと反応性ガスの割合との関係の一例を示すグラフである。
図4】成膜レートと反応性ガスの割合との関係の一例を示すグラフである。
図5】スパッタリング装置の構成の一例を概略的に示す図である。
図6】基材、回転カソードおよび反応性ガスの吐出位置の位置関係の一例を概略的に示す図である。
図7】スパッタリング装置の構成の一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、実施形態について説明する。図面では同様な構成および機能を有する部分に同じ符号が付され、下記説明では重複説明が省略される。なお、以下の実施形態は一例であり、技術的範囲を限定する事例ではない。また、図面においては、理解容易のため、各部の寸法および数が誇張または簡略化して図示されている場合がある。また、各図面には、方向を説明するためにXYZ直交座標軸が適宜に付されている。該座標軸におけるZ方向は鉛直方向を示し、XY平面は水平面である。以下では、X方向の一方側を+X側と呼び、その反対側を-X側と呼ぶことがある。Y軸およびZ軸についても同様であり、+Z側は鉛直上側を示す。
【0022】
<スパッタリング装置1の全体構成>
図1は、スパッタリング装置1の構成の一例を概略的に示す図である。スパッタリング装置1は、反応性スパッタリングによって成膜対象物(ここでは、例えば基材91)の成膜対象面に薄膜を形成する成膜装置である。基材91は例えばシリコンウェハである。
【0023】
スパッタリング装置1は、チャンバー100(真空チャンバー)と、保持搬送機構10(保持部)と、プラズマ処理部20と、ガス供給部500と、制御部200とを含む。
【0024】
チャンバー100は、例えば直方体形状の外形を有する中空部材である。チャンバー100はその底板の上面が水平姿勢となるように配置されている。なお、X軸およびY軸の各々は、チャンバー100の側壁と平行な軸である。
【0025】
保持搬送機構10はチャンバー100内に設けられており、基材91を保持し、基材91を搬送経路Lに沿って搬送する。ここでは、搬送経路Lの延在方向は水平方向(図1ではX方向)である。
【0026】
ガス供給部500は処理空間V(後述)内にスパッターガスおよび反応性ガスを供給する。スパッターガスとしては、例えばアルゴンガスまたはキセノンガスなどの不活性ガスを採用できる。反応性ガスとしては、基材91に形成する薄膜の種類に応じたガスを採用できる。より具体的には、例えば酸素ガス、窒素ガス、水蒸気、フッ素ガス、アンモニアガスおよび炭素系ガス(例えばメタンガス)の少なくともいずれか1つ採用することができる。
【0027】
プラズマ処理部20は処理空間V内において、搬送経路Lと対向する位置に設けられている。図1の例では、プラズマ処理部20は搬送経路Lよりも-Z側に設けられている。プラズマ処理部20はターゲット32(図2も参照)を有している。プラズマ処理部20は、後に詳述するように、プラズマを生じさせてターゲット32に対してスパッタリングを行う。スパッタリングによってターゲット32から飛び出したターゲット粒子は反応性ガスと反応しつつ基材91の成膜対象面に堆積して、薄膜を形成する。
【0028】
図1の例では、スパッタリング装置1は仕切部材(以下、「チムニー130」と呼ぶ)をさらに含む。チムニー130はチャンバー100内において、プラズマ処理部20の周囲を取り囲むように配置され、搬送経路L側(図1では+Z側)に開口部を有する。この開口部は搬送経路Lの一部とZ方向において対向する。以下では、チムニー130の内部空間、および、チムニー130の開口部と搬送経路Lとの間の空間を、処理空間Vと規定する。
【0029】
図1の例では、スパッタリング装置1は温調部120をさらに含む。温調部120は例えば板状の形状を有しており、搬送経路Lに対してプラズマ処理部20とは反対側(図1では+Z側)に設けられる。温調部120は、チャンバー100内を搬送される基材91を加熱または冷却する。一例として、温調部120はセラミックヒータなどのヒータを内蔵する。また別の例として、温調部120は水冷ジャケットを含む。
【0030】
図1の例では、チャンバー100のうち搬送経路Lの-X側の端部には、基材91をチャンバー100内に搬入するためのゲート160が設けられている。他方、チャンバー100のうち搬送経路Lの+X側の端部には、基材91をチャンバー100外に搬出するためのゲート161が設けられている。また、チャンバー100のX方向両端部は、ロードロックチャンバーまたはアンロードロックチャンバーなどの他のチャンバーの開口部が気密を保った形態で接続可能に構成される。各ゲート160,161は、開閉の切替可能に構成される。
【0031】
図1の例では、チャンバー100には、高真空排気系170が接続されている。この高真空排気系170はチャンバー100の内部空間の気体を所定のプロセス圧(例えば0.5[Pa])に減圧する。高真空排気系170は、例えば、それぞれ図示省略の真空ポンプと、排気配管と、排気バルブとを含む。排気配管は、一端が真空ポンプに接続され、他端がチャンバー100の内部空間に連通接続される。また、排気バルブは、排気配管の経路途中に設けられる。排気バルブは、具体的には、排気配管を流れるガスの流量を自動調整できるバルブである。この構成において、真空ポンプが作動された状態で、排気バルブが開放されると、チャンバー100の内部空間が排気される。高真空排気系170は、処理空間V内の圧力を所定のプロセス圧に保つように制御部200により制御される。
【0032】
<保持搬送機構>
図1の例では、保持搬送機構10は、一対の搬送ローラ11と、駆動部(図示省略)とを含む。一対の搬送ローラ11はY方向における搬送経路Lの両側にそれぞれ設けられ、Y方向において互いに対向する。なお、図1では、一対の搬送ローラ11のうち図示手前側(-Y側)に位置するローラが描かれている。搬送ローラ11は、搬送経路Lの延在方向に沿って複数対設けられる。駆動部は、搬送ローラ11を同期させて回転駆動する。駆動部は制御部200によって制御される。
【0033】
基材91は、例えば、キャリア90の下面に設けられた図示省略の爪状部材などによってキャリア90の下に着脱可能に保持される。つまり、保持搬送機構10は成膜対象面がターゲット32側(ここでは-Z側)に向くように、基材91を保持する。キャリア90は、板状のトレーなどによって構成されている。なお、キャリア90における基材91の保持態様は、本実施形態の態様の他にも種々の態様を採用しうる。例えば、上下方向に貫通する中空部を有する板状トレーの該中空部に基材91を嵌めこむことによって、基材91の下面を成膜可能な状態で該基材91を保持する態様であっても構わない。
【0034】
基材91が配設されたキャリア90がゲート160を介してチャンバー100内に搬入されると、各搬送ローラ11が該キャリア90の端縁(±Y側の端縁)付近に下方から当接する。そして、駆動部(図示省略)によって各搬送ローラ11が同期回転されることによって、キャリア90およびキャリア90に保持される基材91が搬送経路Lに沿って搬送される。本実施形態では、各搬送ローラ11が時計回りおよび反時計回りの双方に回転可能であり、キャリア90およびキャリア90に保持される基材91が双方向(±X方向)に搬送される態様について説明する。搬送経路Lは、プラズマ処理部20に対向した被成膜箇所Pを含む。具体的には、被成膜箇所Pはチムニー130の開口部と対向する箇所である。このため、保持搬送機構10によって搬送される基材91が被成膜箇所Pを通過する期間中は基材91の成膜対象面への成膜処理が行われ、基材91が被成膜箇所Pを通過しない期間中は基材91の成膜対象面への成膜処理が行われない。
【0035】
<ガス供給部>
ガス供給部500は処理空間V内にガスを供給する。より具体的には、ガス供給部500は、反応性ガス供給部510と、スパッターガス供給部520とを含む。反応性ガス供給部510は反応性ガスを処理空間V内に供給する。スパッターガス供給部520はスパッターガスを処理空間V内に供給する。ガス供給部500がスパッターガスおよび反応性ガスを供給することで、処理空間V内には、スパッターガスと反応性ガスとの混合雰囲気が形成される。
【0036】
図2は、プラズマ処理部20およびその周辺の一例を概略的に示す図である。図2の例では、誘導結合アンテナ151が設けられているものの、スパッタリング装置1は必ずしも誘導結合アンテナ151を含んでいる必要はない。誘導結合アンテナ151については後に詳述する。
【0037】
図1も参照して、反応性ガス供給部510は、反応性ガスの供給源である反応性ガス供給源511と、配管612とを含む。配管612は、一端が反応性ガス供給源511と接続され、他端が複数に分岐して、各分岐端が、処理空間Vと連通するノズル614に接続される。図示の例では、2つのノズル614はチムニー130よりも+Z側に位置している。具体的には、2つのノズル614は搬送経路Lとチムニー130との間の高さ位置に設けられている。
【0038】
2つのノズル614はX方向において、チムニー130の開口部に対して互いに反対側に設けられている。図示の例では、平面視において(つまりZ方向に沿って見て)、2つのノズル614はチムニー130の開口部とは重ならないように設けられる。ノズル614はY方向に延在するバーノズルであってもよい。2つのノズル614の互いに対向する面には、例えば、Y方向に間隔を空けて並ぶ複数の吐出口が形成される。2つのノズル614は各吐出口からチムニー130の開口部側に向かってX方向に沿って反応性ガスを吐出する。吐出された反応性ガスは処理空間V内において広がる。
【0039】
配管612の経路途中には、バルブ613が設けられる。バルブ613は、制御部200の制御下で処理空間Vに供給される反応性ガスの量を調整する。バルブ613は、配管を流れるガスの流量を自動調整できるバルブであることが好ましく、具体的には、例えば、マスフローコントローラ等を含んでいることが好ましい。
【0040】
スパッターガス供給部520は、スパッターガスの供給源であるスパッターガス供給源521と、配管522とを含む。配管522は、一端がスパッターガス供給源521と接続され、他端が複数に分岐して、各分岐端が、処理空間Vに設けられたノズル524に接続される。図示の例では、2つのノズル524はチムニー130の内部空間のうち+Z側の空間に位置している。具体的な一例として、2つのノズル524はチムニー130の天井面と回転カソード30の上端との間の高さ位置に設けられる。
【0041】
2つのノズル524はX方向において、チムニー130の開口部に対して互いに反対側に設けられている。図示の例では、平面視において、ノズル524はチムニー130の開口部とは重ならないように設けられる。ノズル524はY方向に延在するバーノズルであってもよい。2つのノズル524の互いに対向する面には、例えば、Y方向に間隔を空けて並ぶ複数の吐出口が形成される。2つのノズル524は各吐出口からチムニー130の開口部側に向かってX方向に沿ってスパッターガスを吐出する。吐出されたスパッターガスは処理空間V内において広がる。
【0042】
配管522の経路途中には、バルブ523が設けられる。バルブ523は、制御部200の制御下で処理空間Vに供給されるスパッターガスの量を調整する。バルブ523は、配管を流れるガスの流量を自動調整できるバルブであることが好ましく、具体的には、例えば、マスフローコントローラ等を含んでいることが好ましい。
【0043】
搬送経路Lの上流側の各ノズル524よりも-Z側には、光ファイバーのプローブ140が設けられる。また、プローブ140に入射するプラズマ発光の分光強度を測定可能な各分光器180が設けられている。分光器180は、プラズマ発光分光をモニタするセンサである。各分光器180は制御部200と電気的に接続されており、分光器180の測定値は制御部200に出力される。制御部200は、分光器180の出力に基づいて、プラズマエミッションモニター(PEM)法によりバルブ523を制御することで、スパッターガス供給部520からチャンバー100内に供給されるスパッターガスの導入量(流量)を制御する。バルブ523は、配管を流れるガスの流量を自動調整できるバルブであることが好ましく、例えば、マスフローコントローラ等を含んでいることが好ましい。
【0044】
<制御部>
スパッタリング装置1の各構成要素は制御部200と電気的に接続されており、当該各構成要素は制御部200により制御される。制御部200は、具体的には、例えば、各種演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)、プログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)、演算処理の作業領域となるRAM(Random Access Memory)、プログラムや各種のデータファイルなどを記憶するハードディスク、LAN(Local Area Network)等を介したデータ通信機能を有するデータ通信部等がバスラインなどにより互いに接続された、一般的なFA(Factory Automation)コンピュータにより構成される。また、制御部200は、各種表示を行うディスプレイ、キーボードおよびマウスなどで構成される入力部等と接続されている。スパッタリング装置1においては、制御部200の制御下で、基材91に対して定められた処理が実行される。
【0045】
<プラズマ処理部>
プラズマ処理部20は、回転カソード30と、回転駆動部19と、スパッター用電源311(スパッター電圧印加部)とを含む。
【0046】
回転カソード30は、スパッタリングに用いられる電極として機能する。回転カソード30は筒状形状を有しており、その中心軸線Q1の周りで回転可能にチムニー130内に設けられる。回転カソード30は、その中心軸線Q1が搬送経路Lの延在方向(ここではX方向)と交差(例えば直交)するように設けられる。図示の例では、回転カソード30はその中心軸線Q1がY方向に沿うように設けられている。回転駆動部19は制御部200によって制御され、回転カソード30を中心軸線Q1の周りで回転させる。
【0047】
回転カソード30は、ベース部材31と、ターゲット32とを含む。ベース部材31は略円筒形状を有しており、その中心軸線Q1がY方向に沿うように設けられる。ベース部材31は導電体である。ターゲット32も略円筒形状を有しており、ベース部材31の外周を被覆する。ターゲット32の外周面は処理空間V内で露出している。ターゲット32に用いられる材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)またはインジウム(In)等の材料が採用される。ターゲット32の形成は、例えば、ターゲット材料の粉末を圧縮成型して円筒状に形成し、その後、ベース部材31を挿入し、ロー付けする手法などによって行われる。なお、ターゲット32が導電体である場合には、回転カソード30がベース部材31を含まずに、ターゲット32によって構成されてもよい。
【0048】
図1および図2の例では、磁石ユニット(磁界形成部)40が設けられている。磁石ユニット40は回転カソード30の内部に設けられており、ターゲット32の外周面の近傍に磁界(磁場)を形成する。磁石ユニット40は磁極面40a,40bを有しており、この磁極面40a,40bは、回転カソード30の内周面のうち周方向における一部の領域と対面している。図示の例では、磁石ユニット40は、磁極面40a,40bを搬送経路L側(図の例では+Z側)に向けて設けられているので、磁極面40a,40bは回転カソード30の内周面のうち搬送経路L側の領域と対面する。この磁石ユニット40は、ターゲット32の外周面のうち、当該領域の付近に磁界を形成する。
【0049】
回転カソード30は磁石ユニット40に対して相対的に回転可能に設けられる。回転カソード30が磁石ユニット40に対して回転することにより、磁界はターゲット32の外周面を相対的に周回する。つまり、磁界はターゲット32の全周に作用する。
【0050】
ベース部材31および磁石ユニット40は、併せてマグネトロンカソード(円筒状マグネトロンカソード)とも称される。ベース部材31が設けられない場合には、ターゲット32および磁石ユニット40がマグネトロンカソードを構成することとなる。
【0051】
スパッター用電源311は、回転カソード30にスパッター電圧を印加する。スパッター用電源311は例えばスイッチング電源回路(不図示)を含んでいる。このスイッチング電源回路は例えば定電圧型のスイッチング電源回路であり、スパッター電圧を回転カソード30に出力する。スパッター用電源311はスイッチング電源回路を制御することにより、パルス状のスパッター電圧を出力することができる。スパッター用電源311はこのパルスのデューティを制御することにより、スパッター電圧を制御することができる。デューティとは、パルスの1周期に対するパルス幅の比である。
【0052】
スパッター電圧が回転カソード30に印加されると、回転カソード30の外周面の近傍、特に磁石ユニット40による磁界において、プラズマが生じる。そして、このプラズマ中のイオンなどの高エネルギー体がターゲット32に衝突することにより、ターゲット32からターゲット粒子が飛び出す(いわゆるスパッタリング)。このターゲット粒子は反応性ガスと反応し、その結果、反応生成物の膜が基材91の-Z側の表面(成膜対象面)上に形成される。
【0053】
回転カソード30が磁石ユニット40に対して相対的に回転することにより、磁界はターゲット32の外周面を相対的に周回するので、ターゲット32の外周面のうち全周に亘ってスパッタリングが行われることとなる。よって、ターゲット32を効率的に活用することができる。
【0054】
プラズマ処理部20は、一対のシール軸受9と、円筒形状の支持棒2とをさらに含んでいる。一方のシール軸受9は回転カソード30の長手方向(Y方向)の一端に設けられ、他方のシール軸受9は回転カソード30の他端に設けられている。シール軸受9の各々は、チャンバー100の底板の上面から立設された台部と、台部の上部に設けられた略円筒状の円筒部とを含む。
【0055】
支持棒2は一対のシール軸受9の円筒部に軸受されている。支持棒2は中心軸線Q1に沿って回転カソード30を貫通し、回転カソード30の外に延出している。この支持棒2のうち回転カソード30から延出された部分は、所定の台座等などの固定部材によってチャンバー100の例えば底板に固定される。
【0056】
図示の例では、磁石ユニット40は、ヨーク41(支持板)と、複数の磁石43とを含む。ヨーク41は磁性鋼などの磁性材料により形成される。複数の磁石43は中央磁石43aおよび周辺磁石43bを含み、ヨーク41上に設けられている。
【0057】
ヨーク41は例えば平板状の部材であり、回転カソード30の内周面に対向して回転カソード30の長手方向(Y方向)に延在している。回転カソード30の内周面に対向するヨーク41の主面(表面)上には、中央磁石43aおよび周辺磁石43bが立設されている。中央磁石43aはヨーク41の長手方向に延在し、ヨーク41の長手方向に沿った中心線上に配置されている。周辺磁石43bはヨーク41の表面の外縁部において、中央磁石43aの周囲を囲む環状(無端状)に設けられている。中央磁石43aおよび周辺磁石43bは、例えば、ネオジム磁石などの永久磁石である。
【0058】
中央磁石43aおよび周辺磁石43bの、それぞれのターゲット32側の磁極面40a,40bの極性は、互いに異なっている。例えば、中央磁石43aの磁極面40aの極性はN極であり、周辺磁石43bの磁極面40bの極性はS極である。
【0059】
ヨーク41の他方の主面(裏面)には、固定部材47の一端が接合されている。固定部材47の他端は、支持棒2に接合されている。これにより、磁石ユニット40は支持棒2に連結される。
【0060】
回転カソード30は、ベース部材31の両端において、例えば、一対のシール軸受9により支持棒2と共通の中心軸線Q1を中心に回転可能に支持されている。これにより、回転カソード30の内部空間と、処理空間Vとは互いに遮断されている。
【0061】
一方のシール軸受9の台部には、モータと、モータの回転を伝達するギア(それぞれ図示省略)とを含む回転駆動部19が設けられている。また、回転カソード30には、回転駆動部19のギアと噛み合うギア(図示省略)が設けられている。
【0062】
回転駆動部19(回転部)は、モータの回転によって中心軸線Q1を中心に回転カソード30を回転させる。回転カソード30の回転速度は例えば10~20回転/分に設定され、成膜処理の期間中は上記した回転速度で定速回転される。また、回転カソード30は、シール軸受9および支持棒2を介して内部に冷却水を循環させるなどして、適宜、冷却されている。回転カソード30は例えば図2において時計回りに回転する。
【0063】
スパッター用電源311に接続される電線は処理空間Vに導入されて、回転カソード30のシール軸受9内に導かれている。電線の先端には、回転カソード30のベース部材31と電気的に接続するブラシが設けられている。スパッター用電源311は、このブラシを介してベース部材31に、負電圧を含むスパッター電圧を印加する。スパッター電圧は、別の表現として、ターゲット電圧、カソード印加電圧、またはバイアス電圧とも称される。
【0064】
ベース部材31(ひいては、ターゲット32)にスパッター電圧が印加されることによって、ターゲット32の外周面の近傍にスパッターガスのプラズマ(マグネトロンプラズマ)が生成され、特に磁石ユニット40が形成する磁界において、高密度なスパッターガスのプラズマが閉じ込められる。言い換えれば、スパッター用電源311は、マグネトロンカソードが形成する磁界によって処理空間Vにマグネトロンプラズマが発生するように、ターゲット32に負電圧を含むスパッター電圧を印加する。
【0065】
<スパッタリング装置1の動作>
次にスパッタリング装置1の動作の一例について概説する。まず、スパッタリング装置1のゲート160を介して基材91が搬入される。制御部200は保持搬送機構10を制御して、この基材91をチムニー130の開口部と対向する位置に搬送させる。制御部200は保持搬送機構10を制御して、基材91をX方向において往復移動させてもよい。
【0066】
次に、制御部200はガス供給部500を制御して、スパッターガスおよび反応性ガスを処理空間Vに供給させつつ、スパッター用電源311を制御して、スパッター電圧を回転カソード30に印加させる。これにより、高密度のスパッターガスのプラズマが生成され、当該プラズマがターゲット32に作用してターゲット32からターゲット粒子が飛び出す。ターゲット粒子は反応性ガスと反応しつつ、基材91の成膜対象面に堆積し、薄膜が形成される。
【0067】
なお、保持搬送機構10は成膜処理中において必ずしも基材91を往復移動させる必要はなく、例えば基材91を-X側から+X側に一方向に移動させてもよい。あるいは、保持搬送機構10は成膜処理中において基材91を静止させてもよい。
【0068】
<スパッター電圧>
図3は、成膜レートと反応性ガスの割合との関係の一例を示すグラフである。図3では、ターゲット32としてアルミニウムを採用し、スパッターガスおよび反応性ガスとしてそれぞれアルゴンガスおよび酸素ガスを採用したときの実験結果が示されている。この実験においては、基材91の成膜対象面には、酸化アルミニウム膜が形成される。
【0069】
図3では、スパッター電圧が低い場合の当該関係の一例が点P1によって示されており、スパッター電圧が高い場合の当該関係の一例が点P2によって示されている。具体的には、点P1はスパッター電圧が280[V]であるときの当該関係を示しており、点P2は、スパッター電圧が340[V]であるときの当該関係を示している。
【0070】
ここでは、反応性ガスの割合として、スパッターガス(ここではアルゴンガス)の流量に対する反応性ガス(ここでは酸素ガス)の流量の割合を採用している。スパッターガスおよび反応性ガスは処理空間Vに充填されるので、当該割合は実質的に反応性ガスの濃度(体積分率)を示しているといえる。あるいは、当該割合は反応性ガスの分圧(%)を示しているともいえる。成膜レートは、スタティックレート[nm/min]とも呼ばれ得る。また、成膜処理中に基板W1を移動させる場合の成膜レートとして、ダイナミックレート[nm・m/min]を採用してもよい。ダイナミックレートDRとスタティックレートSRは、チムニー130の開口部の幅W(X方向に沿う幅)を用いて、SR=DR/Wの換算式が成立する。
【0071】
図3の例では、スパッター電圧が低い場合、酸素割合が低い領域(10数[%]以下の領域)において、成膜レートは酸素割合にあまり依存せずに略一定となる。また図3の例では、酸素割合が10数[%]を超えると、点P1がプロットされていない。これは、次に詳述するように、酸素割合が10数[%]を超えると、基材91の成膜対象面に薄膜がほとんど形成されなくなり、成膜レートの測定が不可能となるからである。つまり、酸素分圧を増加させて酸素割合が増加すると、ターゲット32の外周面に形成される酸化膜(酸化アルミニウム膜)の形成速度が高まる。これにより、この酸化膜がスパッターにより除去される割合も増加する。この酸化膜に対するスパッターによって生じる2次電子の放出率は、アルミニウムに対するスパッターによって生じる2次電子の放出率よりも高いので、ターゲット32の外周面近傍の2次電子の量は増加する。2次電子はアルゴン原子を電離させることができるので、2次電子の量の増加により、ターゲット32の外周面近傍においてアルゴンイオンの量も増加する。しかしながら、スパッター電圧は低いので、アルゴンイオンによるスパッター率は低く、ターゲット32の外周面の酸化膜が徐々に増加し、アルゴンイオンはその下層のターゲット32自体にほとんど作用できなくなる。したがって、基材91には薄膜がほとんど形成されなくなる。
【0072】
以上のように、スパッター電圧が低い場合には、酸素割合を10数[%]以上に増加させることにより、成膜レートは略零に低下する。このような成膜レートと酸素割合との関係は従来から知られている。
【0073】
一方で、図3に例示するように、スパッター電圧が高い場合には、酸素割合が10数[%]以下の領域において、点P2がプロットされていない。これは、高いスパッター電圧によってターゲット32から飛び出すターゲット粒子が増加するのに対して、酸素割合(酸素分圧)が低いために、基材91の成膜対象面に形成される薄膜において、アルミニウムが過剰となるからである。つまり、基材91の成膜対象面において、適切な組成で酸化アルミニウム膜が形成されないので、酸化アルミニウム膜の成膜レートが測定されない。
【0074】
図3の例では、酸素割合が10数[%]を超えると、成膜レートが測定されて点P2としてプロットされている。これは、酸素割合が10数[%]を超えると、ターゲット32から飛び出したターゲット粒子が十分な酸素と反応して基材91の成膜対象面に堆積されて、基材91の成膜対象面に酸化アルミニウム膜が形成されるからである。
【0075】
図3に例示するように、酸素割合が10数[%]以上の領域(以下、増加領域と呼ぶ)において、成膜レートは酸素割合と正の相関関係を有している。より正確に説明すると、成膜レートは、少なくとも酸素割合が12[%]程度から25[%]程度までの増加領域において、酸素割合に対して正の相関関係を有している。
【0076】
また図3の例では、スパッター電圧が高い場合の成膜レートの最小値Rminは、スパッター電圧が低い場合の成膜レートの最大値Rmaxよりも高く、具体的には、5倍程度以上である。
【0077】
スパッター電圧が高い場合の上記関係(点P2参照)は、従来知られていたスパッター電圧が低い場合の上記関係(点P1参照)とは一線を画す。スパッター電圧が高い場合の関係(点P2参照)が成立する理由は、以下のように考察され得る。
【0078】
上述したように、酸素分圧が増加すると、ターゲット32の外周面に形成される酸化膜の形成速度が高まり、この酸化膜に対してスパッタリングが行われる割合も増加する。酸化膜(酸化アルミニウム膜)からの2次電子の放出率は、ターゲット32(アルミニウム)からの2次電子の放出率よりも高いので、酸素分圧が増加するにつれて、ターゲット32の外周面近傍におけるアルゴンイオンの量は増加する。そして、スパッター電圧が高い場合には、これらのアルゴンイオンがターゲット32の外周面の酸化膜を突破し、酸化膜およびターゲット32の両方に作用する。これにより、酸化膜およびターゲット32の両方から粒子が外部空間に飛び出す。
【0079】
このようにスパッター電圧が高い場合には、ターゲット32の酸化膜に対するスパッタリングに起因して増加したアルゴンイオンが、ターゲット32に作用してターゲット粒子を飛び出させることができる。よって、アルゴンイオンの増加に応じて、ターゲット粒子も増加する。したがって、より多くのターゲット粒子が酸素と反応して基材91の成膜対象面に堆積し、酸化アルミニウム膜が形成される。これにより、成膜レートを向上することができる。つまり、酸素割合の増大に応じて成膜レートが増大する。言い換えれば、成膜レートは酸素割合に対して正の相関関係を有する。
【0080】
なお、スパッター電圧が少なくとも340[V]以上であれば、アルゴンイオンはターゲット32の外周面の酸化膜を突破できるので、成膜レートは所定の増加領域において、酸素割合に対して正の相関関係を有する。
【0081】
また、酸素割合は処理空間Vにおける酸素濃度を示しているといえるので、以下では、酸素割合に替えて酸素濃度を用いて説明することがある。
【0082】
スパッター用電源311は、成膜レートが、少なくとも所定の増加領域において、酸素濃度に対して正の相関関係を有するときの電圧を、スパッター電圧として回転カソード30に印加する。例えばスパッター用電源311は340[V]のスパッター電圧を回転カソード30に印加する。実用の範囲を考慮して、例えば340[V]以上かつ1000[V]以下の範囲内の電圧をスパッター電圧として採用することができる。
【0083】
また、ガス供給部500は、酸素濃度が増加領域内の値(図3では、酸素割合が12[%]程度から25[%]程度までの値)となるように、スパッターガスおよび反応性ガスを処理空間V内に供給する。
【0084】
これにより、高い成膜レートで基材91の成膜対象面に対して薄膜を形成することができる。より具体的には、従来に比して、成膜レートを5倍程度から10数倍に向上することができる。
【0085】
<ターゲットの材料>
図4は、成膜レートと反応性ガスの割合との関係の他の一例を示している。図4では、ターゲット32としてシリコンを採用し、スパッターガスおよび反応性ガスとしてそれぞれアルゴンガスおよび酸素ガスを採用したときの実験結果が示されている。この実験においては、基材91の成膜対象面には、酸化シリコン膜が形成される。
【0086】
図4では、スパッター電圧が低い場合の当該関係の一例が点P3によって示されており、スパッター電圧が高い場合の当該関係の一例が点P4によって示されている。具体的には、点P3はスパッター電圧が200[V]であるときの当該関係を示しており、点P4は、スパッター電圧が300[V]であるときの当該関係を示している。
【0087】
図4に例示するように、スパッター電圧が低い場合、成膜レートは酸素濃度に対して正の相関関係を有していない。むしろ図4の点P3においては、成膜レートは酸素濃度の増加に対して減少する。
【0088】
一方で、スパッター電圧が高い場合には、成膜レートは酸素濃度に対して正の相関関係を有している。具体的には、成膜レートは、少なくとも酸素割合が10[%]程度から20[%]程度までの増加領域において、酸素濃度(酸素割合)に対して正の相関関係を有している。
【0089】
以上のように、ターゲット32がシリコンであり、反応性ガスが酸素である場合には、スパッター電圧が300[V]以上であれば、成膜レートは所定の増加領域において酸素濃度に対して正の相関関係を有する。よって、スパッター用電源311は、成膜レートが少なくとも所定の増加領域において酸素濃度に対して正の相関関係を有するときの電圧を、スパッター電圧として回転カソード30に印加する。実用の範囲を考慮して、例えば300[V]以上かつ1000[V]以下の範囲内の電圧をスパッター電圧として採用することができる。
【0090】
なお、ターゲット32の材料はアルミニウムおよびシリコンに限定されず、反応性ガスも酸素ガスに限定されない。要するに、2次電子の放出率がターゲット32自体よりも、ターゲット32の外周面に形成される化合物(上述の例では酸化膜)の方が大きければよい。例えば反応性ガスとして酸素ガスを採用する場合、アルミニウム、シリコン、スズ、鉛、亜鉛、銅、ニッケルおよびインジウムなどの金属は上記条件を満足する。よって、ターゲット32として、これらの金属を採用するとよい。
【0091】
反応性ガスとして、酸素ガス以外のガス(例えば窒素ガス)を採用する場合にも同様である。つまり、反応性ガスによりターゲット32の外周面に形成される化合物からの2次電子の放出率が、ターゲット32からの2次電子の放出率よりも高くなる材料を、ターゲット32の材料として採用すればよい。
【0092】
<反応性ガスの流量>
反応性ガス供給部510のノズル614から供給される反応性ガスの一部は処理空間Vにおいてプラズマ化するので、反応性ガスの流量が増大すると、分光器180によって測定された反応性ガスの分光強度が増大する。
【0093】
そこで、制御部200は分光器180の測定値に基づいてバルブ613を制御して、反応性ガスの流量を制御してもよい。つまり、反応性ガス供給部510は、分光器180によってモニタされるプラズマ発光分光に基づいて、反応性ガスの流量を調整してもよい。これにより、処理空間V内の反応性ガスの濃度(分圧)をより高い精度で制御することができる。
【0094】
なお、図2の例では、分光器180のプローブ140は、スパッターガスを吐出するノズル524の吐出口の近傍に設けられている。そこで、分光器180のプローブ140とは異なるプローブを、ノズル614の吐出口の近傍に設けても構わない。言い換えれば、当該プローブを、ノズル524の吐出口よりもノズル614の吐出口に近い位置に設けてもよい。
【0095】
<誘導結合アンテナ>
図1および図2の例では、プラズマ処理部20は誘導結合アンテナ151をさらに含んでいる。なお、プラズマ処理部20は誘導結合アンテナ151を含まなくてもよい。本実施の形態では、誘導結合アンテナ151は本質ではないため、誘導結合アンテナ151については簡単な説明に留める。
【0096】
図1の例では、誘導結合アンテナ151は、チャンバー100の底板のうち、搬送経路Lの延在方向において回転カソード30に対して互いに反対側に、それぞれ、設けられている。各誘導結合アンテナ151は、石英(石英硝子)などからなる誘電体の保護部材152によって覆われて、チャンバー100の底板を貫通して設けられる。
【0097】
また、搬送経路Lの延在方向における各誘導結合アンテナ151の前後には、反応性ガス供給源511から供給される反応性ガスを処理空間V内に導入する一対のノズル514がそれぞれ設けられている。ノズル514は配管512を介して反応性ガス供給源511と接続される。配管512の経路途中には、バルブ513が設けられる。バルブ513は、制御部200の制御下で処理空間V(具体的には、誘導結合アンテナ151の近傍)に供給される反応性ガスの量を調整する。バルブ513は、配管を流れるガスの流量を自動調整できるバルブであることが好ましく、具体的には、例えば、マスフローコントローラ等を含んで構成することが好ましい。
【0098】
さらに、搬送経路Lの延在方向おける各誘導結合アンテナ151の前後には、スパッターガス供給源521から供給されるスパッターガスを処理空間V内に導入する一対のノズル624がそれぞれ設けられている。ノズル624は配管622を介してスパッターガス供給源521と接続される。配管622の経路途中には、バルブ623が設けられる。バルブ623は、制御部200の制御下で処理空間V(具体的には、誘導結合アンテナ151の近傍)に供給されるスパッターガスの量を調整する。バルブ623は、配管を流れるガスの流量を自動調整できるバルブであることが好ましく、具体的には、例えば、マスフローコントローラ等を含んで構成することが好ましい。
【0099】
各誘導結合アンテナ151は、例えば、金属製のパイプ状導体をU字形に曲げたものであり、「U」の字を上下逆向きにした状態でチャンバー100の底板を貫通して処理空間Vの内部に突設されている。誘導結合アンテナ151は、内部に冷却水を循環させるなどして、適宜、冷却されている。
【0100】
各誘導結合アンテナ151の一端は、整合回路154を介して、高周波電源153に電気的に接続されている。また、各誘導結合アンテナ151の他端は接地されている。この構成において、高周波電源153から誘導結合アンテナ151に高周波電力(例えば、13.56MHzの高周波電力)が供給されると、誘導結合アンテナ151の周囲に高周波誘導磁界が生じ、処理空間Vにスパッターガスと反応性ガスとのそれぞれの誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)が発生する。上記誘導結合プラズマは、高周波誘導結合プラズマとも称される。
【0101】
<スパッター用電源311の制御方法>
次に、スパッター用電源311の制御方法について述べる。スパッター用電源311は電力制御を行っても構わない。例えば図3または図4に例示する関係に基づいて、成膜レートが目標レートとなるようにスパッター電圧および酸素濃度を決定すれば、そのときのスパッター用電源311の出力電流も、シミュレーションまたは実験により予め分かる。よって、そのときの電力(=スパッター電圧×出力電流)を電力目標値として算出できる。スパッター用電源311は出力電力がこの電力目標値と一致するように電力制御を行う。例えば、スパッター用電源311の出力電流を検出する電流センサを設け、電流センサによって検出された出力電流に基づいて、スパッター用電源311の出力電圧(スパッター電圧)を制御することによって、出力電力を制御する。スパッター電圧は例えばパルス状の電圧であり、スパッター用電源311は例えばパルスのデューティを制御することにより、スパッター電圧を制御することができる。
【0102】
また、ガス供給部500は、決定した酸素濃度を濃度目標値として、酸素ガスの流量を制御する。
【0103】
これによれば、スパッタリング装置1は、目標となる成膜レートで基材91の成膜対象面に薄膜を形成することができる。
【0104】
しかしながら、電力制御によれば、次に詳述するように酸素濃度の変動に脆弱となる。例えば酸素濃度は制御範囲内において濃度目標値から変動する。また、ノイズ等により、酸素濃度が制御範囲を超えて濃度目標値からずれる場合もある。例えば酸素濃度が濃度目標値よりも増大すると、ターゲット32の外周面に形成される酸化膜の形成速度が高まり、酸化膜に対してスパッタリングが行われる割合が増加する。これにより、酸化膜からの2次電子の放出量が増加し、スパッター用電源311の出力電流が増加する。出力電流が増加すると、出力電力を一定に制御するためにスパッター電圧は減少する。スパッター電圧が減少すると、ターゲット32に作用できるアルゴンイオンが低減する。逆に言えば、酸化膜に対してスパッターが行われる割合が高まり、2次電子の放出量がさらに増加する。つまり、出力電流はさらに増加し、スパッター電圧はさらに減少する。この悪循環により、成膜レートは急激に減少する。以上のように、電力制御は酸素濃度の変動に脆弱である。
【0105】
そこで、第2の実施の形態では、スパッター用電源311は電圧制御によりスパッター電圧を制御する。具体的には、成膜レートが目標レートとなるように、酸素濃度およびスパッター電圧を決定する。この決定したスパッター電圧を電圧目標値に設定する。スパッター用電源311はスパッター電圧がこの電圧目標値と一致するように電圧制御を行う。またガス供給部500は、決定した酸素濃度を濃度目標値として、酸素ガスの流量を制御する。
【0106】
この電圧制御によれば、スパッター電圧は電圧目標値に基づいて制御されるので、酸素濃度が変動してスパッター用電源311の出力電流が変動しても、スパッター電圧は制御範囲内で略一定に制御される。よって、酸素濃度が変動しても、電力制御における悪循環は生じずに、比較的安定して高い成膜レートで基材91の成膜対象面に薄膜を形成することができる。
【0107】
<反応性ガスの吐出位置>
図5は、スパッタリング装置1Aの構成の一部の一例を概略的に示す図である。スパッタリング装置1Aは、反応性ガスの吐出位置という点を除いて、スパッタリング装置1と同様の構成を有している。
【0108】
スパッタリング装置1Aにおいては、反応性ガス供給部510のノズル614はチムニー130の内部に位置している。より具体的な一例として、2つのノズル614は、チムニー130の内部空間のうちチムニー130の天井面(基材91側の内周面)と、回転カソード30の上端(基材91側の端部)との間の高さ位置に設けられている。なお、図5の例においても、2つのノズル614はX方向において、チムニー130の開口部に対して互いに反対側に設けられている。
【0109】
従来では、ターゲット32の外周面に化合物(例えば酸化膜)が形成されることを回避するために、反応性ガスを吐出するノズル614はチムニー130よりも外側に設けられる。これに対して、スパッタリング装置1Aでは、ノズル614をチムニー130の内部に設けている。これにより、ノズル614はチムニー130の外部に設けられる場合に比して、反応性ガスをよりターゲット32に近い位置で吐出することができる。よって、ターゲット32の表面における化合物(例えば酸化膜)の生成および除去の割合を増加させることができる。これにより、2次電子の放出量を増加させることができ、ターゲット32の外周面近傍におけるアルゴンイオンを効率的に増加させることができる。したがって、より効率的に成膜レートを向上することができる。
【0110】
図5の例では、スパッターガスを吐出するノズル524も、チムニー130の天井面と回転カソード30の上端との間の高さ位置に設けられている。図5の例では、ノズル614はノズル524よりも+Z側に位置しているものの、必ずしもこれに限らない。ノズル614はノズル524よりも-Z側に設けられてもよい。これによれば、ノズル614はさらにターゲット32に近い位置から反応性ガスを吐出することができる。
【0111】
図6は、基材91とノズル614と回転カソード30との位置関係の一例を示す図である。反応性ガス供給部510のノズル614は、基材91よりも回転カソード30に近い位置に設けられてもよい。ここで、ノズル614と基材91との間の距離およびノズル614と回転カソード30との間の距離として、それぞれ距離D1および距離D2を導入する。距離D1は、例えば、基材91のX方向における中心が回転カソード30の中心とZ方向において対向する状態で規定される。距離D1は、ノズル614の吐出口と、基材91の成膜対象面のX方向における中心との間の距離である。距離D2は、ノズル614の吐出口と、回転カソード30のターゲット32の上端との間の距離である。
【0112】
ノズル614は距離D2が距離D1よりも短くなる位置に設けられる。これによれば、ノズル614はターゲット32により近い位置から反応性ガスを吐出することができる。
【0113】
<変形例>
以上、スパッタリング装置の実施の形態について説明したが、この実施の形態はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。
【0114】
例えば上記した成膜処理は、有機EL(Electro-Luminescence)上のカソード電極の成膜または太陽電池半導体のパッシベーション成膜など種々の成膜処理に適用可能である。
【0115】
例えばスパッター用電源311はスパッター電圧として、交流電圧を回転カソード30に印加してもよい。この場合、スパッター電圧の大きさとして、交流電圧の振幅を採用することができる。言い換えれば、スパッター用電源311は、成膜レートが少なくとも所定の増加領域において酸素濃度に対して正の相関関係を有するときの振幅の交流電圧を、スパッター電圧として回転カソード30に印加する。
【0116】
また、上述の例では、1つの回転カソード30が設けられているものの、複数の回転カソード30が搬送経路Lの延在方向において間隔を空けて配列されていてもよい。図7は、スパッタリング装置1Bの構成の一部の一例を示している。図7の例では、2つの回転カソード30がX方向において間隔を空けて設けられている。2つの回転カソード30はスパッター用電源311に接続されている。スパッター用電源311は、負電圧を含むスパッター電圧を回転カソード30に印加する。例えば、スパッター用電源311が2つの回転カソード30に相互に逆位相の交流スパッター電圧を印加してもよい。また該態様の他にも、スパッター用電源311はスパッター電圧として負電圧を印加してもよく、スパッター電圧として負電圧と正電圧とからなるパルス状の電圧を印加してもよい。スパッター電圧として、パルス電圧または交流電圧を印加する場合には、並設された回転カソード30に交互にスパッター電圧を印加して反応性スパッタリングを行ってもよい。
【0117】
2つ回転カソード30の内部に設けられる磁石ユニット40は、その磁極面が互いに対向するように、設けられている。つまり、一方の磁石ユニット40の磁極面40a,40bがそれぞれ他方の磁石ユニット40の磁極面40a,40bとX方向において対向している。これによれば、2つの回転カソード30の間の空間に磁界を形成することができ、当該空間において高密度なプラズマを形成することができる。
【0118】
図7の例では、誘導結合アンテナ151も設けられている。図7の例では、誘導結合アンテナ151はX方向において2つの回転カソード30の間に設けられている。
【0119】
このスパッタリング装置1Bにおいても、スパッター用電源311は、成膜レートが、少なくとも所定の増加領域において、反応性ガスの濃度に対して正の相関関係を有するときの電圧を、スパッター電圧として出力する。これにより、高い成膜レートで基材91の成膜対象面に薄膜を形成することができる。
【0120】
以上、実施形態およびその変形例にかかるスパッタリング装置について説明したが、これらは好ましい実施形態の例であって、実施の範囲を限定するものではない。本実施の形態は、その開示の範囲内において、各実施形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0121】
1,1A,1B スパッタリング装置
30 回転カソード
32 ターゲット
10 保持部(保持搬送機構)
91 成膜対象物(基材)
100 チャンバー
180 センサ(分光器)
311 電圧印加部(スパッター用電源)
510 反応性ガス供給部
520 スパッターガス供給部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7