(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】コークス強度の推定方法
(51)【国際特許分類】
C10B 57/00 20060101AFI20230525BHJP
G01N 33/22 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
C10B57/00
G01N33/22 A
(21)【出願番号】P 2019152857
(22)【出願日】2019-08-23
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000156961
【氏名又は名称】関西熱化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】北尾 政人
(72)【発明者】
【氏名】天能 浩次郎
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-032223(JP,A)
【文献】特開2013-047333(JP,A)
【文献】特開2008-069258(JP,A)
【文献】特開2003-041263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 1/00-57/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質と気孔とを有するコークスの強度を推定する方法であって、
上記基質の強度を算出する工程と、上記コークスに対しCTスキャンを行い、コークス断面画像情報を取得し解析する工程とを有し、
上記コークス断面画像情報の解析工程が、上記気孔を、断面面積が15mm
2未満の小気孔と断面面積が15mm
2以上の大気孔に分類し、
上記小気孔が全気孔に対して占める面積の割合を小気孔率として算出し、上記大気孔が全気孔に対して占める面積の割合を大気孔率として算出し、上記小気孔率を上記基質強度に関与させて基質マトリクス強度を算出するようになっており、
上記基質マトリクス強度および大気孔率をコークス強度に関与する因子とし、これらの因子とコークス強度との関係を関係式で表し、上記関係式に基づいてコークス強度を推定することを特徴とするコークス強度の推定方法。
【請求項2】
上記関係式が、下記の式(1)であることを特徴とする請求項1記載のコークス強度の推定方法。
コークス強度(%)=a+b×基質マトリクス強度(%)-c×大気孔率(%)・・・(1)
[ただし、a、b、cはいずれも最小二乗法によって求められた係数である。]
【請求項3】
基質と気孔とを有するコークスの強度を推定する方法であって、
上記基質強度を算出する工程と、上記コークスに対しCTスキャンを行い、コークス断面画像情報を取得し解析する工程とを有し、
上記コークス断面画像情報の解析工程が、上記気孔を、断面面積が15mm
2未満の小気孔と断面面積が15mm
2以上の大気孔に分類し、
上記小気孔が全気孔に対して占める面積の割合を小気孔率として算出し、上記大気孔が全気孔に対して占める面積の割合を大気孔率として算出し、上記小気孔率を上記基質強度に関与させて基質マトリクス強度を算出し、上記大気孔率の標準偏差を求めるとともに、上記大気孔の輪郭形状を解析し、上記解析に基づいて上記大気孔の輪郭形状の凹凸率を求めており、
上記基質マトリクス強度、大気孔率、大気孔率の標準偏差および大気孔の輪郭形状の凹凸率をコークス強度に関与する因子とし、これらの因子とコークス強度との関係を関係式で表し、上記関係式に基づいてコークス強度を推定することを特徴とするコークス強度の推定方法。
【請求項4】
上記関係式が、下記の式(2)であることを特徴とする請求項3記載のコークス強度の推定方法。
コークス強度(%)=a+b×基質マトリクス強度(%)-c×大気孔率(%)-d×大気孔率の標準偏差-e×大気孔の輪郭形状の凹凸率・・・(2)
[ただし、a、b、c、d、eはいずれも最小二乗法によって求められた係数である。]
【請求項5】
上記大気孔の輪郭形状の凹凸率が、下記の式(3)を用いて算出されるものであることを特徴とする請求項3または4記載のコークス強度の推定方法。
大気孔の輪郭形状の凹凸率=L
2/4πS・・・(3)
[ただし、Lは大気孔輪郭形状の周囲の長さ(mm)、Sは大気孔断面面積(mm
2)である。]
【請求項6】
上記基質マトリクス強度が、下記の式(4)を用いて算出されるものであることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のコークス強度の推定方法。
基質マトリクス強度(%)=基質強度(%)×exp(-1×小気孔率(%))・・・(4)
[ただし、expは指数関数である。]
【請求項7】
上記基質強度を算出する方法が、以下の方法[α]であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のコークス強度の推定方法。
方法[α]:コークスを、140メッシュパス-390メッシュオンの範囲内におさまる粒径となるよう予備的に粉砕する第1粉砕工程と、得られた予備粉砕コークスの粒度分布を測定してそのメディアン径d50(0)を求める工程と、上記予備粉砕コークスをさらに粉砕する第2粉砕工程と、得られた粉砕コークスの粒度分布を測定してそのメディアン径d50(1)を求める工程とを備え、
上記第2粉砕工程
を、ボールミル粉砕機を用いて、上記コークスの予備粉砕品5gと、直径3mmのアルミナボールを110g分と、直径10mmのアルミナボールを220g分とを装入し、回転数350rpm、粉砕時間10分の粉砕条件
で行い、得られたメディアン径d50(0)およびメディアン径d50(1)の値を下記の式(5)を用いて算出する。
基質強度(%)=d50(1)/d50(0)×100・・・(5)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークスの品質を特定するために用いることのできる、コークス強度の推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークスは、一般的に石炭粉を高温で乾留して製造されるため、その製造工程において石炭中の水素、メタン等のガス成分が揮発し、基質と気孔とを有する多孔質体として得られる。基質と気孔とからなるコークスは、搬送時や高炉投入時の衝撃に耐えうる高い強度が要求されるため、コークス強度を把握することは、生産管理および品質管理の点から重要となっている。
【0003】
上記コークス強度は、一般に、JIS規格によって定められたドラム強度指数(DI)によって測定されるが、この測定には、大掛かりな設備と煩雑な手間を要するため、もっと簡便にコークス強度を推定することのできる方法が、いろいろと提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1ではコークスの基質強度からコークス強度を推定する方法が提案されており、特許文献2ではコークスの気孔構造や気孔壁厚からコークス強度を推定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭57-144443号公報
【文献】特開2013-047333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、コークスの強度は、基質の強度や気孔率だけではなく、気孔の分布の状態や気孔の形状等によっても左右されると考えられるため、より正確なコークス強度を推定するには、これらを考慮することが必要となる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、コークスの強度を、より簡便かつ正確に推定する方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の[1]~[7]を要旨とする。
[1]基質と気孔とを有するコークスの強度を推定する方法であって、上記基質の強度を算出する工程と、上記コークスに対しCTスキャンを行い、コークス断面画像情報を取得し解析する工程とを有し、上記コークス断面画像情報の解析工程が、上記気孔を、断面面積が15mm2未満の小気孔と断面面積が15mm2以上の大気孔に分類し、上記小気孔が全気孔に対して占める面積の割合を小気孔率として算出し、上記大気孔が全気孔に対して占める面積の割合を大気孔率として算出し、上記小気孔率を上記基質強度に関与させて基質マトリクス強度を算出するようになっており、上記基質マトリクス強度および大気孔率をコークス強度に関与する因子とし、これらの因子とコークス強度との関係を関係式で表し、上記関係式に基づいてコークス強度を推定するコークス強度の推定方法。
【0009】
[2]上記関係式が、下記の式(1)であることを特徴とする請求項1記載のコークス強度の推定方法。
コークス強度(%)=a+b×基質マトリクス強度(%)-c×大気孔率(%)・・・(1)
[ただし、a、b、cはいずれも最小二乗法によって求められた係数である。]
【0010】
[3]基質と気孔とを有するコークスの強度を推定する方法であって、上記基質強度を算出する工程と、上記コークスに対しCTスキャンを行い、コークス断面画像情報を取得し解析する工程とを有し、上記コークス断面画像情報の解析工程が、上記気孔を、断面面積が15mm2未満の小気孔と断面面積が15mm2以上の大気孔に分類し、上記小気孔が全気孔に対して占める面積の割合を小気孔率として算出し、上記大気孔が全気孔に対して占める面積の割合を大気孔率として算出し、上記小気孔率を上記基質強度に関与させて基質マトリクス強度を算出し、上記大気孔率の標準偏差を求めるとともに、上記大気孔の輪郭形状を解析し、上記解析に基づいて上記大気孔の輪郭形状の凹凸率を求めており、上記基質マトリクス強度、大気孔率、大気孔率の標準偏差および大気孔の輪郭形状の凹凸率をコークス強度に関与する因子とし、これらの因子とコークス強度との関係を関係式で表し、上記関係式に基づいてコークス強度を推定するコークス強度の推定方法。
【0011】
[4]上記関係式が、下記の式(2)である[3]記載のコークス強度の推定方法。
コークス強度(%)=a+b×基質マトリクス強度(%)-c×大気孔率(%)-d×大気孔率の標準偏差-e×大気孔の輪郭形状の凹凸率・・・(2)
[ただし、a、b、c、d、eはいずれも最小二乗法によって求められた係数である。]
【0012】
[5]上記大気孔の輪郭形状の凹凸率が、下記の式(3)を用いて算出されるものである[3]または[4]記載のコークス強度の推定方法。
大気孔の輪郭形状の凹凸率=L2/4πS・・・(3)
[ただし、Lは大気孔輪郭形状の周囲の長さ(mm)、Sは大気孔断面面積(mm2)である。]
【0013】
[6]上記基質マトリクス強度が、下記の式(4)を用いて算出されるものである[1]~[5]のいずれかに記載のコークス強度の推定方法。
基質マトリクス強度(%)=基質強度(%)×exp(-1×小気孔率(%))・・・(4)
[ただし、expは指数関数である。]
【0014】
[7]上記基質強度を算出する方法が、以下の方法[α]である[1]~[6]のいずれかに記載のコークス強度の推定方法。
方法[α]:コークスを、140メッシュパス-390メッシュオンの範囲内におさまる粒径となるよう予備的に粉砕する第1粉砕工程と、得られた予備粉砕コークスの粒度分布を測定してそのメディアン径d50(0)を求める工程と、上記予備粉砕コークスをさらに粉砕する第2粉砕工程と、得られた粉砕コークスの粒度分布を測定してそのメディアン径d50(1)を求める工程とを備え、上記第2粉砕工程における粉砕条件が、上記予備粉砕コークスの粒度分布におけるメディアン径d50(0)の値を1とした場合に、上記メディアン径d50(1)の値が0.75~0.45の範囲内におさまる粒度分布となるように調整されており、得られたメディアン径d50(0)およびメディアン径d50(1)の値を下記の式(5)を用いて算出する。
基質強度(%)=d50(1)/d50(0)×100・・・(5)
【0015】
すなわち、本発明者らは、ドラム強度指数(DI)によって測定されるコークス強度と同様の値が簡便に得られる方法について、種々の研究を重ねた。その研究の結果、コークスの基質強度に、CTスキャンにより得られた断面画像情報から気孔の断面形状を解析した結果を関与させることにより、DIによって測定された値と同レベルの推定ができることを見出した。
【発明の効果】
【0016】
本発明の推定方法は、コークスの基質部分の強度を算出し、その算出結果をコークスの気孔部分の構造を3次元的に解析した結果に関与させているため、従来のように大掛かりな装置を必要とせず、コークス強度を正確かつ簡便に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施の形態であるコークス強度の推定方法において、コークス断面画像情報を取得する工程の説明図である。
【
図2】(a)は本発明の一実施の形態であるコークス強度の推定方法において、気孔を小気孔と大気孔とに分類する工程の説明図であり、(b)はその部分拡大図である。
【
図3】本発明の一実施の形態であるコークス強度の推定方法によって得られた推定値(%)と測定値(%)との関係を示した図である。
【
図4】上記実施の形態と異なる実施の形態によって得られた推定値(%)と測定値(%)との関係を示した図である。
【
図5】上記コークス強度の推定方法に対する比較例によって得られた推定値(%)と測定値(%)との関係を示した図である。
【
図6】上記コークス強度の推定方法に対する他の比較例によって得られた推定値(%)と測定値(%)との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明のコークス強度の推定方法は、基質と気孔とを有するコークスの強度を推定する方法であって、以下の工程(I)~(II)を備えており、その工程(II)において、以下の(II-1)および(II-2)を行っている。
(I)基質の強度を算出する工程。
(II)コークスに対しCTスキャンを行い、コークス断面画像情報を取得し解析する工程。
(II-1)上記解析工程において、上記気孔であると認定された箇所を、断面面積が15mm2未満の小気孔と断面面積が15mm2以上の大気孔に分類し、上記小気孔が全気孔に対して占める面積の割合を小気孔率として算出し、上記大気孔が全気孔に対して占める面積の割合を大気孔率として算出する。
(II-2)上記小気孔率を上記基質強度に関与させて基質マトリクス強度を算出する。
【0020】
そして、これらの工程で算出された各値(基質マトリクス強度および大気孔率)をコークス強度に関与する因子とし、これらの因子とコークス強度との関係を関係式で表し、上記関係式からコークス強度を求める。
以下、これらの工程について、順を追って詳しく説明する。
【0021】
[(I)基質強度の算出工程]
本発明では、まず、基質強度を求める。上記基質強度を求める方法としては色々と提案されているが、例えば、下記の方法[α]により算出することができる。
方法[α]:測定対象とするコークスを、140メッシュパス-390メッシュオンの範囲内におさまる粒径となるよう予備的に粉砕する第1粉砕工程と、得られた予備粉砕コークスの粒度分布を測定してそのメディアン径d50(0)を求める工程と、上記予備粉砕コークスを一定の条件にしたがって粉砕する第2粉砕工程と、得られた粉砕コークスの粒度分布を測定してそのメディアン径d50(1)を求める工程とを備える。上記第2粉砕工程における粉砕条件が、上記予備粉砕コークスの粒度分布におけるメディアン径d50(0)の値を1とした場合に、上記メディアン径d50(1)の値が0.75~0.45の範囲内におさまる粒度分布となるように調整されており、下記の式(5)を用いて算出する。
基質強度(%)=d50(1)/d50(0)×100・・・(5)
【0022】
上記方法において、コークスを予備粉砕するのは、コークスが基質と気孔を有する多孔質体であることから、気孔の影響を受けることなく基質自体の強度を推定するには、気孔部分を破砕して、コークスの粒が全て気孔部分のない基質のみで構成されたものにすればよい、との着想に基づくものである。
【0023】
上記第1の粉砕工程において、コークスを粉砕する方法は、特に限定するものではないが、粒径数十mm~数百mmの、比較的大きなコークスを粒径1mm程度まで粉砕するには、ジョークラッシャー、コーヒーミル、ロールクラッシャー等の、一般的な粉砕機を用いるのが好適である。そして、そのコークスを、粒径1mm程度からさらに小さく粉砕するには、手動で粉砕するか、ロータースピードミルのような精密粉砕機を用いることが好適である。
【0024】
上記第1の粉砕工程で得られた予備粉砕コークスの粒度分布を測定して、そのメディアン径d50(0)を求める際に用いる機器は、レーザ回折粒度分布測定装置、X線回折粒度分布測定装置等、どのようなタイプであってもよい。ただし、粒度分布のデータ処理を行い、メディアン径が自動的に算出されるものであることが望ましい。
【0025】
また、上記第2の粉砕工程における粉砕は、粒径が数十μmとなる微小なスケールでの粉砕が可能な方法であれば、特に限定するものではなく、例えば、ボールミルを用いた粉砕や、乾式ビーズミルを用いることができる。なかでも、種類も豊富で価格も比較的安価なボールミルを用いることが好適である。そして、ボールミルによれば、硬質ボールの組み合わせや回転条件を調整するだけで、所望の粉砕状態を得ることができる点においても、好適である。
【0026】
上記第2粉砕工程における粉砕条件は、前記第1粉砕工程後に求めたメディアン径d50(0)の値を1とした場合に、この第2粉砕工程によって得られる粉砕コークスの粒度分布から求められるメディアン径d50(1)の値が0.75~0.45の範囲内におさまる粒度分布となるように調整することが重要である。上記の値が0.75より大きいということは、第1粉砕工程によって得られた予備粉砕コークスが、この第2粉砕工程においてあまり粉砕されていないということであり、基質強度を推定するのに適したデータとなっていないおそれがある。また、上記の値が0.45より小さいということは、この第2粉砕工程においてかなり粉砕が進行してコークスの粒径が小さくなっているということである。この状態では、基質強度の大小にかかわらず、粉砕コークスがそれ以上破砕できないほど微小な屑と化して、似たような粒度分布に収束していく傾向があり、粉砕があまり進行していない段階と同様、基質強度を推定するのに適したデータとなっていないおそれがある。
【0027】
したがって、粉砕のための条件、例えば粉砕時間や粉砕のために試料にかける負荷等を調整して、メディアン径d50(0)の値を1とした場合のd50(1)の値が上記の範囲内となるよう粉砕の程度を調整することが望ましく、そのなかでも、特に、上記の値が0.5を超え0.7未満であることが、とりわけ高い精度でコークスの基質強度を推定することができ、好適である。
【0028】
[(II)コークス断面画像情報を取得し解析する工程]
また、本発明では、コークスにおける気孔がどのような状態で分布しているかを特定するため、コークスのCTスキャンを行い、得られた断面画像情報を解析する。この工程では、強度を推定しようとするコークスから、まず、試料片を作製する。
【0029】
すなわち、対象とするコークスの塊から、例えば、直径が26mmのボール盤を用いてボーリングをしてコークス柱を作製する。上記コークス柱をリファインカッター等で高さが20~30mmとなるように切断する。上記切断片を、超音波洗浄機を用いて水で洗浄し乾燥して、
図1に示すように、試料片30とする。そして、上記試料片30(コークス)に対し、CTスキャン(μX線CTスキャン)を行い、複数の2次元の断面画像情報31(XY平面画像情報)を得る。上記CTスキャンの条件は、例えば、解像度20μm/pixel、スライスピッチ22μm/pixel、撮影範囲は直径20mmとすることができる。この条件でCTスキャンを行うと、上記試料片30について、およそ1000枚の2次元の断面画像情報31を得ることができる。
【0030】
上記CTスキャンの条件は、測定対象とする試料片30(コークス)の種類等に応じて適宜選択することが好ましい。
【0031】
つぎに、上記得られた複数の断面画像情報31(通常、500~2000枚を撮像)のうち、最初と最後に撮影されたそれぞれ100枚を除いた断面画像情報31について基質部分と気孔部分とを明確に分離する。上記分離には、例えば、2値化処理等の画像解析を行うことができる。また、上記断面画像情報31の解析に用いる画像処理ソフトとしては、例えば、三谷商事社製のWINROOF等を好適に用いることができる。
【0032】
[(II-1)気孔の分類および大気孔率、小気孔率の算出]
基質と気孔とを分離したら、上記気孔部分(コークスの低輝度部分)の断面形状を解析する。断面画像を模式的に示すと、
図2(a)に示すように、基質32部分が白っぽく見え、気孔部分(大気孔33)が暗く見える。そこで、
図2(a)の部分拡大図である
図2(b)に示すように、全気孔を、断面面積が15mm
2未満の小気孔34と、断面面積が15mm
2以上の大気孔33とに分類する。そして、上記小気孔34が全気孔(小気孔34+大気孔33)に対して占める面積の割合を小気孔率として算出し、上記大気孔33が全気孔(小気孔34+大気孔33)に対して占める面積の割合を大気孔率として算出する。
【0033】
[(II-2)基質マトリクス強度の算出]
基質マトリクス強度とは、先の工程[I]で求めた基質強度に対して小気孔率を関与させた因子であり、例えば、下記の式(4)を用いて算出することができる。すなわち、上記「基質マトリクス強度」とは、基質強度そのものではない。しかし、この基質マトリクス強度を用いることにより、基質が小気孔の存在によって受ける影響をコークス強度に盛り込むことができ、より正確にコークス強度を推定することができる。なお、下記の式(4)においてexpは指数関数を示す。
基質マトリクス強度(%)=基質強度(%)×exp(-1×小気孔率(%))・・・(4)
【0034】
本発明のコークス強度の推定方法においては、上記工程(II)において、下記(II-3)を求めることが好ましい。
[(II-3)大気孔率の標準偏差]
上述のとおり、CTスキャンによって得られる断面画像情報は、通常、数百枚以上となるため、上記大気孔率は断面画像情報ごとに異なっている。よって、これらの大気孔率に対して標準偏差を求めることにより、簡易的に大気孔率を実際の気孔構造に近似させる操作を行う。
【0035】
さらに、本発明のコークス強度の推定方法は、上記工程(II)において、上記大気孔の輪郭形状を解析し、以下の(II-4)を求めることが好ましい。
[(II-4)大気孔の輪郭形状の凹凸率]
コークスの気孔構造は、そのコークスの強度に強く影響を与えるものであり、一般に、気孔の形状が球体に近いほどコークスの強度は強くなり、球体から離れるほどコークスの強度は弱くなることが知られている。よって、得られた断面画像情報において、上記大気孔の輪郭形状(断面の輪郭形状)が真円に近いほどコークスの強度は強くなり、真円から離れるほどコークスの強度が弱くなると推定できる。
このため、上記大気孔の輪郭形状が真円に近いか、あるいは真円からどの程度離れているか(凹凸が形成されているか)を下記の式(3)を用いて算出し、大気孔の輪郭形状の凹凸率を算出する。
大気孔の輪郭形状の凹凸率=L2/4πS・・・(3)
[ただし、Lは大気孔断面周囲の長さ(mm)、Sは大気孔断面面積(mm2)である。]
【0036】
[各因子とコークス強度との関係を表す関係式について]
このように、本発明は、基質マトリクス強度、大気孔率をコークス強度に関与する因子とし、これらの因子がコークス強度に関与する程度を考慮し、コークス強度との関係を関係式で表し、得られた関係式を用いることでコークス強度を推定することができる。
さらに、大気孔についてはその形状(凹凸度)と大気孔率の分布(標準偏差)もコークス強度に関与する因子とし、これらの因子(基質マトリクス強度、大気孔率、大気孔の凹凸率、大気孔率の標準偏差)とコークス強度との関係を関係式で表すことで、より正確にコークス強度を推定することができる。
【0037】
例えば、上記基質マトリクス強度、大気孔率を説明変数とし、予め求めた測定値を目標変数として、回帰回析を行うことにより、下記の式(1)が得られる。これにより、各因子がコークス強度に与える影響の大きさを近似的に数値化することができる。
コークス強度(%)=a+b×基質マトリクス強度-c×大気孔率・・・(1)
[ただし、a、b、cはいずれも最小二乗法によって求められた係数である。]
【0038】
さらに、本発明が、大気孔率の標準偏差を求める工程を有し、上記コークス断面画像情報を解析する工程において、上記大気孔の輪郭形状を解析し、上記解析に基づいて上記大気孔の輪郭形状の凹凸率を求めており、上記基質マトリクス強度、大気孔率、大気孔率の標準偏差および大気孔の輪郭形状の凹凸率を説明変数とし、予め求めた測定値を目標変数として、回帰回析を行うことにより、下記の式(2)が得られる。これにより、より一層の正確なコークス強度の推定が可能になる。
コークス強度(%)=a+b×基質マトリクス強度(%)-c×大気孔率(%)-d×大気孔率の標準偏差-e×大気孔の輪郭形状の凹凸率・・・(2)
[ただし、a、b、c、d、eはいずれも最小二乗法によって求められた係数である。]
【0039】
このようにして求められる値の大小によって、コークスの強度の大小を推定することができる。例えば、上記式(1)および(2)において、コークス強度(%)の値が大きければ大きい程、コークスは強くなる傾向がみられる。なお、気孔に関する因子の係数c、d、eは、コークス強度に対してマイナスとして、気孔の存在状態をコークス強度に反映させることができる。また、上記式(1)および(2)における各項の係数は、強度を推定したいコークスの原料や製造方法によって変動する場合がある。
【0040】
本発明のコークス強度の推定方法によれば、CTスキャンを行い、コークスの気孔構造を3次元的に解析するだけで、コークスの気孔構造を関係式に反映させることができるため、ごく簡単な操作で、コークス強度をより正確に推定することができ、実用的価値が高い。
【0041】
なお、本発明において、コークス強度を推定する関係式の精度(確からしさ)は、推定値と測定値との関係を示す関係式の決定係数[R2]の値を用いて評価することができる。一般に、決定係数[R2]が0.7以上あれば一定の精度があると判断されるが、より好ましくは決定係数[R2]が0.8以上あることであり、さらに精度が高いというためには、決定係数[R2]が0.9以上あることが望ましい。
【0042】
また、本発明において、コークス強度を推定する関係式は、通常、一次式となるが、二次式以上の高次式であっても差し支えない。
【実施例】
【0043】
つぎに、実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
後記の表1に示す13種類の銘柄のコークス(コークスi~xiii)を準備した。なお、コークスi~iiiは単味炭であり、コークスiv~xiiiは配合炭である。これらの各コークスについては、予め、シャッター試験(落差2m)を2回実施後、JIS K2151に規定されるコークス強度の評価方法〔ドラム試験機で150回転(DI150
15)〕を行い、測定値(%)を求めた。
【0045】
<基質の強度>
まず、上記各コークスについて下記の手順にしたがって基質の強度を算出した。
すなわち、上記各コークスi~xiiiを、手粉砕で予備的に粉砕し、その粒径が、200メッシュパス-280メッシュオン(粒径が75μm~53μm)となるよう調製した。
そして、得られた予備粉砕品の粒度分布を、粒度測定装置(SALD-2000、島津製作所社製)により測定し、d50(0)を求めた。ただし、n=2とし、その平均値を算出した。
つぎに、上記コークスの予備粉砕品を、ボールミル粉砕機(pulverisette6、FRITSCH社製)を用いてさらに粉砕した。粉砕は、アルミナ容器(直径32.5mm、深さ約70mm)に、上記コークスの予備粉砕品5gと、直径3mmのアルミナボールを110g分と、直径10mmのアルミナボールを220g分とを装入し、回転数350rpm、粉砕時間10分で実施した。粉砕品の粒度分布を、前記粒度測定装置(SALD-2000、島津製作所社製)により測定し、d50(1)を求めた。ただし、n=2とし、その平均値を算出した。
上記メディアン径d50(0)の値とメディアン径d50(1)の値とを用い、下記の式(5)により、コークスの基質強度を求めた。これを後記の表1に示す。
基質強度(%)=d50(1)/d50(0)×100・・・(5)
【0046】
<CTスキャン、画像情報解析>
上記各コークスに対し、X線CTスキャナー装置(Xradia社製、MicroXCT-400)を用いて上記実施の形態に準じてCTスキャンを行い、各1000枚程度の2次元の断面画像情報を得た。上記各断面画像情報について、上記実施の形態に準じて断面画像情報の解析を行い、全気孔を大気孔と小気孔のいずれかに分類し、各値を算出した。
【0047】
<各値の算出>
上記解析において、小気孔が全気孔に対して占める面積の割合を小気孔率(%)として算出し、上記大気孔が全気孔に対して占める面積の割合を大気孔率(%)として算出した。そして、コークスの基質部分について、上記小気孔率を関与させた基質マトリクス強度を下記の式(4)を用いて算出した。なお、下記の式(4)において、expは指数関数である。
基質マトリクス強度(%)=基質強度(%)×exp(-1×小気孔率(%))・・・(4)
【0048】
<コークス強度推定>
得られた各値(基質マトリクス強度(%)、大気孔率(%))を後記の表1に併せて示す。そして、これらを説明変数とし、予め求めた測定値(%)を目標変数として回帰分析したところ下記の関係式が得られた。
コークス強度(%)=74.4+0.2×基質マトリクス強度(%)-0.3×大気孔率(%)
そして、DI
150
15に基づき予め求めた測定値と上記一次式に基づく推定値との関係を求めると、
図3に示す一次式となり、その決定係数[R
2]は0.9619と極めて高いことがわかった。よって、実施例1では、高い精度でコークス強度を推定できることがわかる。
【0049】
【0050】
[実施例2]
実施例1の各コークスに対し、大気孔の輪郭形状からその凹凸率を下記の式(3)を用いて算出した。
大気孔の輪郭形状の凹凸率=L
2/4πS・・・(3)
[ただし、Lは大気孔輪郭形状の周囲の長さ(mm)、Sは大気孔断面面積(mm
2)である。]
また、実施例1で算出していた大気孔率(%)について、その標準偏差を常法に基づいて算出した。
<コークス強度推定>
上記で得られた各値を加えたもの(基質マトリクス強度(%)、大気孔率(%)、大気孔の輪郭形状の凹凸率、大気孔率(%)の標準偏差)を後記の表2に併せて示す。そして、これらの各値を説明変数とし、予め求めた測定値(%)を目標変数として回帰分析したところ下記の関係式が得られた。
コークス強度(%)=74.01+0.19×基質マトリクス強度(%)-0.19×大気孔率(%)-0.02×大気孔の輪郭形状の凹凸率-0.01×大気孔率(%)の標準偏差
そして、DI
150
15に基づく測定値と上記一次式に基づく推定値との関係を求めると、
図4に示す一次式となり、その決定係数[R
2]は0.9722とより高いことがわかった。よって、実施例2では、さらに高い精度でコークス強度を推定できることがわかる。
【0051】
【0052】
[比較例1]
実施例1と同様のコークスを準備し、まず、JIS K2151に準拠して気孔率(%)をそれぞれ求めた。その結果を表3に示す。そして、上記気孔率(%)を説明変数とし、予め求めた測定値(%)を目標変数として回帰分析したところ下記の関係式が得られた。
コークス強度(%)=114.55-0.69×気孔率(%)
そして、DI
150
15に基づく測定値と上記一次式に基づくの推定値との関係を求めると、
図5に示す一次式となり、その決定係数[R
2]は0.7393であった。
【0053】
【0054】
[比較例2]
実施例1と同様のコークスを準備し、上記と同様にして気孔率(%)および基質強度(%)を算出した。その結果を表4に示す。そして、上記気孔率(%)および基質強度(%)を説明変数とし、予め求めた測定値(%)を目標変数として回帰分析したところ下記の関係式が得られた。
コークス強度(%)=97.76+0.11×基質強度(%)-0.51×気孔率(%)
そして、DI
150
15に基づく測定値と上記一次式に基づくの推定値との関係を求めると、
図6に示す一次式となり、その決定係数[R
2]は0.8512であった。
【0055】
【0056】
これらの結果から、実施例1および2では、測定値と推定値の差がJIS許容差内(±1.5%以内)に留まっており、しかも、推定値(%)と測定値(%)の相関(決定係数R2)が高く、とりわけ、実施例2では、推定値(%)と測定値(%)の相関(決定係数R2)が極めて高いことがわかった。
これに対し、従来法である比較例1および比較例2では、測定値(%)と推定値(%)の差がJIS許容差内(±1.5%以内)から外れるものが散見され、しかも、推定値(%)と測定値(%)の相関(決定係数R2)が、いずれも0.9未満であった。
よって、本発明のコークス強度の推定方法は、従来法に比べてより信頼性に優れていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のコークス強度の推定方法は、簡単な作業で、極めて高い精度でコークス強度を推定する方法として、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
32 基質
33 大気孔
34 小気孔