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特許7285170製紙用フェルトの基布として使用される経2層織物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】製紙用フェルトの基布として使用される経2層織物
(51)【国際特許分類】
   D21F 7/08 20060101AFI20230525BHJP
   D03D 11/00 20060101ALI20230525BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20230525BHJP
   D03D 3/04 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
D21F7/08 Z
D03D11/00 Z
D03D1/00 Z
D03D3/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019154448
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021031805
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000229852
【氏名又は名称】日本フエルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 勝也
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-146191(JP,A)
【文献】特開2009-155747(JP,A)
【文献】米国特許第05826627(US,A)
【文献】特開2004-156164(JP,A)
【文献】特開2019-131901(JP,A)
【文献】特開2008-057052(JP,A)
【文献】特開平03-119193(JP,A)
【文献】特開2014-141769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙用フェルトの基布として使用される経2層織物であって、
製紙面側に配置された上経糸と、
2本の前記上経糸に対して1本の割合で走行面側に配置された下経糸と、
前記上経糸及び前記下経糸の双方に織り込まれた緯糸と
を備え、
前記緯糸の前記上経糸及び前記下経糸に対する織り込みの基本パターンが、1本の前記上経糸を織り込む部分を互いの境界として交互に繰り返される第1部分と第2部分とによって構成され、前記第1部分は、4本の前記上経糸の下を通るとともに、前記境界との間に2本ずつの前記上経糸が存在する箇所に配置された1本の前記下経糸を織り込み、前記第2部分は、2本の前記上経糸の下を通って、前記下経糸を織り込まないことを特徴とする経2層織物。
【請求項2】
完全組織が、8本の前記上経糸と、4本の前記下経糸と、4本の前記緯糸とによって構成され、
任意の前記緯糸に対し、経方向の一方に隣接する前記緯糸は、緯方向の一方に2本の前記上経糸の分だけずれた位置で前記上経糸に織り込まれたことを特徴とする請求項1に記載の経2層織物。
【請求項3】
前記上経糸は、前記下経糸の48%以上かつ77%以下の太さのモノフィラメントの撚り糸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の経2層織物。
【請求項4】
前記上経糸は、直径0.1mm以上かつ0.22mm以下の前記モノフィラメントを2本以上かつ7本以下で束ねて、1cm当たり0.2回以上かつ2回以下(1インチ当たり0.5回以上かつ5回以下)の撚りをかけた片撚り糸によって構成されたことを特徴とする請求項3に記載の経2層織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、製紙用フェルトの基布として使用される経2層織物に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙機における湿紙から水分を機械的に搾るプレスパートで、湿紙の運搬及び搾水のために使用される製紙用フェルトは、経糸及び緯糸が互いに織り込まれた基布と、短繊維からなるバット層とをニードリングによって一体化して形成される。製紙用フェルトには、湿紙運搬性(走行性を含む)、搾水性、紙の表面にマークを付けない表面性(紙面性)、抄紙機に装着されてから好ましい状態になるまでの時間に関する初期馴染み性、防汚性、及び耐久性等が要求される。このような製紙用フェルトに要求される性能は、基布の構造に影響を受ける。
【0003】
製紙面側に比較的細い糸を配置して表面性を高め、走行面側に比較的太い糸を配置して耐久性を高めた2層構造の織物を製紙用フェルトの基布として用いる場合がある。例えば、特許文献1及び2には、上経糸と、下経糸と、上経糸及び下経糸に織り込まれた緯糸とを有する、製紙用フェルトの基布として使用される経2層織物であって、上経糸と下経糸との本数の比が2:1である織物が記載されている。
【0004】
特許文献1には、完全組織が12本の上経糸と、6本の下経糸と、6本の緯糸とによって構成される織物であって、上層に着目すると、緯糸が、1本の上経糸を織り込んだ(上を通った)後、8本の上経糸の下を通り、1本の上経糸を織り込み、2本の上経糸の下を通るパターンを繰り返し、下層に着目すると、緯糸が、8本の上経糸の下を通る区間の中央で1本下経糸を織り込んでいる(下を通っている)織物が記載されている。
【0005】
特許文献2には、完全組織が12本の上経糸と、6本の下経糸と、6本の緯糸とによって構成される織物であって、上層に着目すると、緯糸が、1本の上経糸を織り込んだ後、5本の上経糸の下を通るパターンを繰り返し、下層に着目すると、緯糸が、5本の上経糸の下を通る区間を1つおきにその区間の中間で1本の下経糸を織り込む織物が記載されている(図2(A)参照)。また、特許文献2には、別の例として、完全組織が8本の上経糸と、4本の下経糸と、4本の緯糸とによって構成される織物であって、上層に着目すると、緯糸が、1本の上経糸を織り込んだ後、3本の上経糸の下を通るパターンを繰り返し、下層に着目すると、緯糸が、3本の上経糸の下を通る区間を1つおきにその区間の中間で1本の下経糸を織り込む織物が記載されている(図2(B)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-146191号公報
【文献】特開2009-155747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
緯糸が上経糸を織り込む部分は、織物の表面に凹凸を生じさせ、紙の表面にマークを付ける原因となる。特許文献1に記載の織物は、8本の連続する上経糸を織り込まない部分を有するため、緯糸が上経糸を織り込む部分が少なくなり、製紙用フェルトの表面性を向上させる。しかし、緯糸が上経糸を織り込む部分が少ないため、緯糸に対する上経糸の安定性が低かった(織物自体がグズになった)。そのため、バット層の短繊維の締まりが悪く、脱毛や毛羽立ちが生じる場合があるとともに、初期馴染み性が低かった。また、緯糸に対する上経糸の安定性が低いことによって、フェルトの筋曲がりも大きくなり、走行が安定しないものになった。特許文献2に記載の緯糸が5本の上経糸の下を通る例においても、同様の問題が生じた。
【0008】
特許文献2に記載の緯糸が3本の上経糸の下を通る別例では、緯糸が上経糸を織り込む部分が比較的多いため上記の問題は生じないが、緯糸が下経糸を織り込む部分と上経糸を織り込む部分との間隔が狭くなって、その部分で緯糸の屈曲が大きくなった。この部分では、緯糸の張力によって上経糸及び下経糸間に隙間が生じて表面性が悪化した。また、隙間を許容するために単位幅あたりの経糸本数を減らす必要が生じ、この点からも表面性を悪化させた。
【0009】
このような問題に鑑み、本発明は、表面性、バット層の短繊維の締まり、及び走行安定性の良好な製紙用フェルトの基布として使用される経2層織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、製紙用フェルトの基布として使用される経2層織物(1)であって、製紙面側に配置された上経糸(2)と、2本の前記上経糸に対して1本の割合で走行面側に配置された下経糸(3)と、前記上経糸及び前記下経糸の双方に織り込まれた緯糸(4)とを備え、前記緯糸の前記上経糸及び前記下経糸に対する織り込みの基本パターンが、1本の前記上経糸を織り込む部分を互いの境界として交互に繰り返される第1部分(5)と第2部分(6)とによって構成され、前記第1部分は、4本の前記上経糸の下を通るとともに、前記境界との間に2本ずつの前記上経糸が存在する箇所に配置された1本の前記下経糸を織り込み、前記第2部分は、2本の前記上経糸の下を通って、前記下経糸を織り込まないことを特徴とする。ここで、緯糸が上経糸を織り込むとは、緯糸が上経糸の上を通ることを意味し、緯糸が下経糸を織り込むとは、緯糸が下経糸の下を通ることを意味する。また、「上」は製紙面側、「下」は走行面側を意味する。
【0011】
この構成によれば、8本中2本の上経糸と4本中1本の下経糸とが緯糸に織り込まれるため、上経糸及び下経糸が緯糸に対して安定し、バット層の短繊維の締まりが良好になり、走行が安定する。また、緯糸が上経糸を織り込む部分と緯糸が下経糸を織り込む部分とが互いに近すぎないため、両織り込み部分が互いに離間せず、表面性が良好である。
【0012】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、完全組織が、8本の前記上経糸と、4本の前記下経糸と、4本の前記緯糸とによって構成され、任意の前記緯糸に対し、経方向の一方に隣接する前記緯糸は、緯方向の一方に2本の前記上経糸の分だけずれた位置で前記上経糸に織り込まれたことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、緯糸が上経糸を織り込む部分及び緯糸が下経糸を織り込む部分が、それぞれ、織物の表面に概ね均等に配置されるため、表面性が良好になり、筋曲がりが抑制されて走行安定性が良好になる。また、4シャフトであるため、比較的多くの織機で本件の織物を製造することができる。
【0014】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成の何れかにおいて、前記上経糸は、前記下経糸の48%以上かつ77%以下の太さのモノフィラメントの撚り糸であることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、適度な太さの上経糸によって、マーク性及び搾水性が向上する。
【0016】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記上経糸は、直径0.1mm以上かつ0.22mm以下の前記モノフィラメントを2本以上かつ7本以下で束ねて、1cm当たり0.2回以上かつ2回以下(1インチ当たり0.5回以上かつ5回以下)の撚りをかけた片撚り糸によって構成されたことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、上経糸が扁平化しやすいため、上経糸が緯糸に織り込まれることによって生じる凹凸が抑制され、表面性が良好になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、表面性、バット層の短繊維の締まり、及び走行安定性の良好な製紙用フェルトの基布として使用される経2層織物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る織物の緯方向断面図
図2】織物の緯方向断面図(A:比較例1、B:比較例2、C:実施形態)
図3】圧力分布測定の結果を示す写真(A:比較例2、B:実施例)
図4】比較例2の緯方向断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0021】
図1は、実施形態に係る製紙用フェルトの基布として使用される経2層織物(以下、単に「織物」と記す)1の緯方向断面図(緯方向を含む鉛直断面図)である。製紙用フェルトは、織物1からなる基布と、短繊維からなるバット層とをニードリングによって一体化して形成される。製紙用フェルトは丈方向(機械方向)に無端状とされて抄紙機に取り付けられ、外側が湿紙を載置する製紙面側となり、内側が走行面側となる。
【0022】
織物1は、製紙面側に配置された上経糸2と、走行面側に配置された下経糸3と、上経糸2及び下経糸3の双方に織り込まれた緯糸4とを備える。上経糸2と下経糸3との本数の比は、2:1である。織物1の完全組織は、8本の上経糸2と、4本の下経糸3と、4本の緯糸4とによって構成される。上経糸2及び下経糸3は概ね製紙用フェルトの丈方向に延在し、緯糸4は概ね製紙用フェルトの幅方向に延在する。
【0023】
緯糸4の上経糸2及び下経糸3に対する織り込みの基本パターンは、1本の下経糸3を織り込んでいる第1部分5と、下経糸3を織り込まない第2部分6との交互の繰り返しである。第1部分5と第2部分6との境界は、緯糸4が1本の上経糸2を織り込む部分である。なお、緯糸4が上経糸2を織り込むとは、緯糸4が上経糸2の上を通ることを意味し、緯糸4が下経糸3を織り込むとは、緯糸4が下経糸3の下を通ることを意味する。
【0024】
第1部分5は、緯糸4に織り込まれていない上経糸2を4本含み、その4本の上経糸2の緯方向の中央で下経糸3を織り込んでいる。すなわち、第1部分5は、緯糸4に織り込まれた下経糸3に対して緯方向の双方に、緯糸4に織り込まれていない2本ずつの上経糸2を含む。第2部分6は、緯糸4の織り込まれていない2本の上経糸2を含む。このように、第1部分5と第2部分6とでは、緯方向の間隔が互いに異なっている。
【0025】
換言すると、緯糸4は、上層に着目すると、1本の上経糸2を織り込み、4本の上経糸2の下を通り、1本の上経糸2を織り込み、2本の上経糸2の下を通ることを繰り返し、下層に着目すると、第1部分5の緯方向の中央で1本の下経糸3を織り込み、3本の下経糸3の上を通ることを繰り返す。
【0026】
図1(B)~(D)に示す緯糸4は、図1(A)~(C)に示す緯糸4に対して、それぞれ、1本の緯糸4の分だけ経方向の一方にずれた位置の緯糸4を示し、図1(A)~(D)に示す部分によって、織物1の完全組織が構成される。任意の緯糸4(例えば図1(A)に示す緯糸4)に対して経方向の一方に隣接する他の緯糸4(例えば図1(B)に示す緯糸4)は、2本の上経糸2の分だけ緯方向の一方(図の右方)にずれた位置で上経糸2を織り込んでいる。
【0027】
上経糸2は、下経糸3の48%以上かつ77%以下の太さのモノフィラメントの撚り糸である。上経糸2は、直径0.1mm以上0.22mm以下のモノフィラメントを2本以上かつ7本以下で束ねて、1cm当たり0.2回以上かつ2回以下(1インチ当たり0.5回以上かつ5回以下)の撚りをかけた片撚り糸によって構成される。なお、上経糸2、下経糸3及び緯糸4の糸を構成する素材として、ナイロン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂が使用できる。
【0028】
図2を参照して、従来技術と比較しながら実施形態に係る織物1の作用効果を説明する。図2(A)は比較例1に係る織物1aを示し、図2(B)は比較例2に係る織物1bを示し、図2(C)は実施形態に係る織物1を示す。比較例1及び2は、特許文献2に記載された例に相当する。
【0029】
図2(A)に示すように、比較例1に係る織物1aでは、第1部分5a及び第2部分6aの双方において、緯糸4aが5本の上経糸2aの下を通り、第1部分5aにおいては、第2部分6aとの境界である上経糸2aの織り込み部分から2本及び3本の上経糸2aの分だけ離れた位置で緯糸4aが1本の下経糸3aを1回織り込んでいる。また、比較例1に係る織物1aの完全組織は、12本の上経糸2aと、6本の下経糸3aと、6本の緯糸4aとによって構成される。比較例1に係る織物1aは、緯糸4aが上経糸2aを織り込む部分が少ないため、表面性に優れるが、緯糸4aに対する上経糸2aの安定性が低い。
【0030】
図2(B)に示すように、比較例2に係る織物1bでは、第1部分5b及び第2部分6bの双方において、緯糸4bが3本の上経糸2bの下を通り、第1部分5bにおいては、上経糸2bの織り込み部分から1本及び2本の上経糸2bの分だけ離れた位置で緯糸4bが1本の下経糸3bを1回織り込んでいる。また、比較例2に係る織物1bの完全組織は、8本の上経糸2bと、4本の下経糸3bと、4本の緯糸4bとによって構成される(図4参照)。比較例2に係る織物1bは、比較例1に比べて、緯糸4aが上経糸2aを織り込む部分が多いため、緯糸4aに対する上経糸2aの安定性が高い。
【0031】
しかし、緯糸4bの下経糸3bへの織り込み部分は、第1部分5bの緯方向の中央ではなく、緯方向の一方に偏っており、その偏った側では上経糸2bへの織り込み部分から1本の上経糸2bの分しか離れていない。そのため、緯糸4bの張力が作用すると、この偏った側における上経糸2bへの織り込み部分と下経糸3bへの織り込み部分とが互いに離間し、表面性が悪化する。比較例1に係る織物1aでは、上経糸2bへの織り込み部分と下経糸3bへの織り込み部分とが、少なくとも2本の上経糸2aの分だけ互いに離れているため、このような問題は生じない。
【0032】
図2(C)に示すように、実施形態に係る織物1では、第1部分5で緯糸4が4本の上経糸2の下を通るとともに、第2部分6との境界から2本の上経糸2の分だけ間隔をあけて緯糸4が下経糸3を織り込み、第2部分6で緯糸4が2本の上経糸2の下を通る。実施形態に係る織物1は、緯糸4が8本の上経糸2に対して1本ずつ2回織り込み、この織り込み回数は比較例2と同等であるため、緯糸4に対する上経糸2の安定性が高い。また、下経糸3の織り込み部分を含む第1部分5では、緯糸4が緯方向の中央で1本の下経糸3を1回織り込んでおり、この織り込み部と上経糸2の織り込み部との間には緯方向の双方に2本の上経糸2の分だけ間隔がある。このように、比較例2に比べて下経糸3の織り込み部と上経糸2の織り込み部との間隔が広く、かつ下経糸3の織り込み部から見たその間隔が緯方向の双方で等しいため、緯糸4に張力が作用しても、下経糸3の織り込み部と上経糸2の織り込み部とは互いに離間せず、表面性の悪化が防止される。
【0033】
以上のように実施形態に係る織物1は、第1部分5と第2部分6との長さが互いに相違し、第1部分5を長くすることによって緯糸4が上経糸2を織り込む部分と緯糸4が下経糸3を織り込む部分との間隔を広くし、第2部分6を短くすることによって全体として緯糸4が上経糸2を織り込む部分を多くしている。
【0034】
従って、比較例1に比べて、緯糸4の上経糸2及び下経糸3への織り込み部が多いため、緯糸4に対して上経糸2及び下経糸3が安定して、バット層の短繊維の締まりが良好になる。そのため、初期馴染み性が向上し、バット層の短繊維の脱毛や毛羽立ちが抑制される。また、緯糸4に対して上経糸2及び下経糸3が安定することにより、筋曲がりが抑制されて走行が安定する。また、比較例1に係る織物1aの完全組織中の緯糸4aの本数は6本(6シャフト)であり、実施形態に係る織物1の完全組織中の緯糸4の本数は4本(4シャフト)である。織機の中には4シャフトに対応しても6シャフトに対応していないものもあるため、実施形態に係る織物1は、比較例1に係る織物1aに比べて多くの織機で製造することができる。
【0035】
また、実施形態に係る織物1は、比較例2に比べて下経糸3の織り込み部と上経糸2の織り込み部との間隔が広く、かつ下経糸3の織り込み部から見たその間隔が緯方向の双方で等しいため、緯糸4に張力が作用しても、下経糸3の織り込み部と上経糸2の織り込み部とは互いに離間しない。両織り込み部が互いに離間しないことそれ自体により表面性が向上する。また、隙間が生じる分だけ上経糸2bの本数が少なかった比較例2に比べて、両織り込み部が互いに離間しないことによって緯方向の単位長さあたりの経糸本数を増やすことができるため、織物1の表面性が向上する。
【0036】
上経糸2の本数は下経糸3の本数の倍なので、上経糸2が48%未満の太さでは、下経糸3間の広さ(隙間面積、空間)より上経糸2間の広さ(隙間面積、空間)が広くなるため、マーク性や搾水性が悪くなる。逆に77%より大きいと上経糸2間の広さが狭すぎるため通水性が悪くなり、こちらも搾水性に影響する。そこで、上経糸2の太さを下経糸3の48%以上かつ77%以下とすることによってこのようなことが抑制され、マーク性及び搾水性が向上する。上経糸2が扁平化し易い片撚り糸であることによって、緯糸4が織り込まれることによって生じる凹凸が抑制されて表面性が向上する。
【実施例
【0037】
上記の比較例1に相当する織物1aと上記の実施形態に相当する織物1(実施例)とについて、バイアス方向10%伸長時の強度(左右斜め方向の合計)試験(7cm×7cmの正方形サンプルを、対角線方向(2方向)に引っ張った時の強伸度値の測定)と、学振型摩耗試験機での脱毛量試験(1500回)が行われた。表1はその試験結果を示す。
【表1】
【0038】
10%伸長時強度が大きいほど、試験片が斜め方向に伸び難いこと、すなわち、筋曲がりし難いことを示す。実施例に係る織物1は、比較例1に係る織物1aよりも10%伸長時強度が大きく、筋曲がりし難いものであった。また、実施例に係る織物1は、比較例1に係る織物1aよりも脱毛量が小さかった。従って、実施例に係る織物1は、比較例1に係る織物1aよりも脱毛し難く、耐摩耗性が高かった。
【0039】
また、上記の比較例2に相当する織物1bと上記の実施形態に相当する織物1(実施例)とについて、圧力分布測定が行われた。図3は、その結果を示す。また、図4は、試験に使用した比較例2に相当する織物1bの完全組織を示す。図4(B)~(D)に示す緯糸4bは、図4(A)~(C)に示す緯糸4bに対して、それぞれ、経方向の一方に1本の緯糸4の分だけずれた位置の緯糸4bを示す。試験結果の写真の濃淡差が大きいほど圧力に差が有り、湿紙にマークが付き易いことを意味する。比較例2は、緯糸4bが上経糸2bを織り込む部分とそこから1本の上経糸2bを挟むように位置する緯糸4bが下経糸3bを織り込む部分との間に隙間ができるため、その隙間が淡く(白く)示され濃淡差が大きかった。一方、実施例は、そのような淡い部分が少なく、比較的濃淡差が小さく、表面性が高いことが示された。
【0040】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。
【符号の説明】
【0041】
1:経2層織物
2:上経糸
3:下経糸
4:緯糸
5:第1部分
6:第2部分
図1
図2
図3
図4