IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立造船株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図1
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図2
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図3
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図4
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図5
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図6
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図7
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図8
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図9
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図10
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図11
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図12
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図13
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図14
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図15
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図16
  • 特許-カーボンナノチューブ成形体の製造方法 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/168 20170101AFI20230525BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230525BHJP
【FI】
C01B32/168
B82Y40/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019238484
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107296
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】藤本 典史
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/147475(WO,A1)
【文献】特開2017-122018(JP,A)
【文献】特開2017-019690(JP,A)
【文献】特開2000-141056(JP,A)
【文献】特開2010-280528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/168
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ成形体の製造方法であって、
a)前記カーボンナノチューブ成形体の前駆体を準備する工程と、
b)前記前駆体から前記カーボンナノチューブ成形体を形成する工程と、
を備え、
前記b)工程において、炭素質治具により前記カーボンナノチューブ成形体が取り扱われ、
前記b)工程は、
c)前記前駆体である第1のカーボンナノチューブドローイングフィルム上に保持具により端部を保持された前記前駆体である第2のカーボンナノチューブドローイングフィルムを積層して接合することにより、前記カーボンナノチューブ成形体である接続フィルムを形成する工程と、
d)前記c)工程よりも後に、前記炭素質治具により前記接続フィルムの前記第2のカーボンナノチューブドローイングフィルムを押さえて前記接続フィルムを前記保持具から離間させる工程と、
を備えることを特徴とするカーボンナノチューブ成形体の製造方法。
【請求項2】
カーボンナノチューブ成形体の製造方法であって、
a)前記カーボンナノチューブ成形体の前駆体を準備する工程と、
b)前記前駆体から前記カーボンナノチューブ成形体を形成する工程と、
を備え、
前記b)工程において、炭素質治具により前記カーボンナノチューブ成形体が取り扱われ、
前記b)工程は、
e)前記前駆体である2枚のカーボンナノチューブドローイングフィルムを積層して接続することにより、前記カーボンナノチューブ成形体である接続フィルムを形成する工程と、
f)前記炭素質治具により前記接続フィルムにおける前記2枚のカーボンナノチューブドローイングフィルムの積層部を撫でつける工程と、
を備えることを特徴とするカーボンナノチューブ成形体の製造方法。
【請求項3】
カーボンナノチューブ成形体の製造方法であって、
a)前記カーボンナノチューブ成形体の前駆体を準備する工程と、
b)前記前駆体から前記カーボンナノチューブ成形体を形成する工程と、
を備え、
前記b)工程において、炭素質治具により前記カーボンナノチューブ成形体が取り扱われ、
前記炭素質治具は、対向して配置された2つのローラであり、
前記b)工程は、
g)前記前駆体である2枚のカーボンナノチューブドローイングフィルムを積層して接続することにより、前記カーボンナノチューブ成形体である接続フィルムを形成する工程と、
h)前記2つのローラにより、前記接続フィルムにおける前記2枚のカーボンナノチューブドローイングフィルムの積層部、または、前記2枚のカーボンナノチューブドローイングフィルムのうち前記積層部以外の部位を挟んで厚密する工程と、
を備えることを特徴とするカーボンナノチューブ成形体の製造方法。
【請求項4】
カーボンナノチューブ成形体の製造方法であって、
a)前記カーボンナノチューブ成形体の前駆体を準備する工程と、
b)前記前駆体から前記カーボンナノチューブ成形体を形成する工程と、
を備え、
前記b)工程において、炭素質治具により前記前駆体であるカーボンナノチューブドローイングフィルムが取り扱われ、
前記炭素質治具は、前記カーボンナノチューブドローイングフィルムを挟んで上下方向に対向して配置される上切断要素および下切断要素を備え、
前記b)工程では、前記上切断要素および前記下切断要素が前記カーボンナノチューブドローイングフィルムを挟んで上下方向において重なることにより、前記カーボンナノチューブドローイングフィルムが擦れ合い切断されることを特徴とするカーボンナノチューブ成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数のカーボンナノチューブを様々な形状に成形し、ヒータやセンサ等の様々な製品に利用することが提案されている。例えば、特許文献1では、基板上に形成されたカーボンナノチューブアレイから初期カーボンナノチューブフィルムを引き出し、初期カーボンナノチューブフィルムを引き伸ばすことにより連続的なカーボンナノチューブフィルムを製造する技術が開示されている。具体的には、初期カーボンナノチューブフィルムの端部を棒部材に直接的に接着し、当該棒部材を移動させることにより初期カーボンナノチューブフィルムが引き伸ばされる。棒部材は、金属、ガラス、ゴムまたはプラスチック製であり、比表面積が大きく強い接着性を有する初期カーボンナノチューブフィルムが直接的に接着可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-91240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の棒部材は、上述のように、カーボンナノチューブフィルムとの間に強い接着力を示す。このため、カーボンナノチューブフィルム等のカーボンナノチューブ成形体の製造において、カーボンナノチューブ成形体(または、その前駆体)に一時的に接触した後に離間する治具として利用することはできない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、カーボンナノチューブ成形体またはその前駆体の治具への付着を抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、カーボンナノチューブ成形体の製造方法であって、a)前記カーボンナノチューブ成形体の前駆体を準備する工程と、b)前記前駆体から前記カーボンナノチューブ成形体を形成する工程と、を備え、前記b)工程において、炭素質治具により前記カーボンナノチューブ成形体が取り扱われ、前記b)工程は、c)前記前駆体である第1のカーボンナノチューブドローイングフィルム上に保持具により端部を保持された前記前駆体である第2のカーボンナノチューブドローイングフィルムを積層して接合することにより、前記カーボンナノチューブ成形体である接続フィルムを形成する工程と、d)前記c)工程よりも後に、前記炭素質治具により前記接続フィルムの前記第2のカーボンナノチューブドローイングフィルムを押さえて前記接続フィルムを前記保持具から離間させる工程とを備える。
【0008】
請求項2に記載の発明は、カーボンナノチューブ成形体の製造方法であって、a)前記カーボンナノチューブ成形体の前駆体を準備する工程と、b)前記前駆体から前記カーボンナノチューブ成形体を形成する工程と、を備え、前記b)工程において、炭素質治具により前記カーボンナノチューブ成形体が取り扱われ、前記b)工程は、e)前記前駆体である2枚のカーボンナノチューブドローイングフィルムを積層して接続することにより、前記カーボンナノチューブ成形体である接続フィルムを形成する工程と、f)前記炭素質治具により前記接続フィルムにおける前記2枚のカーボンナノチューブドローイングフィルムの積層部を撫でつける工程とを備える。
【0009】
請求項3に記載の発明は、カーボンナノチューブ成形体の製造方法であって、a)前記カーボンナノチューブ成形体の前駆体を準備する工程と、b)前記前駆体から前記カーボンナノチューブ成形体を形成する工程と、を備え、前記b)工程において、炭素質治具により前記カーボンナノチューブ成形体が取り扱われ、前記炭素質治具は、対向して配置された2つのローラであり、前記b)工程は、g)前記前駆体である2枚のカーボンナノチューブドローイングフィルムを積層して接続することにより、前記カーボンナノチューブ成形体である接続フィルムを形成する工程と、h)前記2つのローラにより、前記接続フィルムにおける前記2枚のカーボンナノチューブドローイングフィルムの積層部、または、前記2枚のカーボンナノチューブドローイングフィルムのうち前記積層部以外の部位を挟んで厚密する工程を備える。
【0010】
請求項に記載の発明は、カーボンナノチューブ成形体の製造方法であって、a)前記カーボンナノチューブ成形体の前駆体を準備する工程と、b)前記前駆体から前記カーボンナノチューブ成形体を形成する工程と、を備え、前記b)工程において、炭素質治具により前記前駆体であるカーボンナノチューブドローイングフィルムが取り扱われ、前記炭素質治具は、前記カーボンナノチューブドローイングフィルムを挟んで上下方向に対向して配置される上切断要素および下切断要素を備え、前記b)工程では、前記上切断要素および前記下切断要素が前記カーボンナノチューブドローイングフィルムを挟んで上下方向において重なることにより、前記カーボンナノチューブドローイングフィルムが擦れ合い切断される
【発明の効果】
【0011】
本発明では、カーボンナノチューブ成形体またはその前駆体の治具への付着を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一の実施の形態に係る成形体製造装置の側面図である。
図2】成形体製造装置の平面図である。
図3】CNTドローイングフィルムの接合の流れを示す図である。
図4】CNTドローイングフィルムの接合の様子を示す側面図である。
図5】CNTドローイングフィルムの接合の様子を示す側面図である。
図6】CNTドローイングフィルムの接合の様子を示す側面図である。
図7】CNTドローイングフィルムの接合の様子を示す側面図である。
図8】CNTドローイングフィルムの接合の様子を示す側面図である。
図9】CNTドローイングフィルムの接合の様子を示す側面図である。
図10】CNTドローイングフィルムの接合の様子を示す側面図である。
図11】CNTドローイングフィルムの接合の様子を示す側面図である。
図12】CNTドローイングフィルムの接合の様子を示す側面図である。
図13】CNTドローイングフィルムの接合の様子を示す側面図である。
図14】CNTドローイングフィルムの接合の様子を示す側面図である。
図15】CNTドローイングフィルムの接合の様子を示す側面図である。
図16】CNTドローイングフィルムの接合の様子を示す側面図である。
図17】CNTドローイングフィルムの接合部近傍の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一の実施の形態に係るカーボンナノチューブ成形体を製造するカーボンナノチューブ成形体製造装置1(以下、単に「成形体製造装置1」と呼ぶ。)を示す側面図である。図2は、成形体製造装置1を示す平面図である。図1および図2に示す例では、成形体製造装置1は、複数のカーボンナノチューブ(CNT)により形成されるフィルム状(シート状とも呼ぶ。)のカーボンナノチューブ成形体を製造する装置である。以下の説明では、フィルム状のカーボンナノチューブ成形体を「カーボンナノチューブドローイングフィルム」または「CNTドローイングフィルム」とも呼ぶ。また、図1中における上側および下側を、単に「上側」および「下側」とも呼ぶ。図1中の上下方向は、必ずしも実際の鉛直方向と一致しなくてもよい。
【0014】
成形体製造装置1は、第1基板保持部21と、第2基板保持部22と、回収部23と、第1カッター24と、第2カッター25と、接合補助部26とを備える。図1に示す例では、第1基板保持部21および第2基板保持部22は上下方向に並んでおり、第2基板保持部22は、第1基板保持部21の上側に配置される。図2では、図の理解を容易にするために、第2基板保持部22等の一部の構成の図示を省略している。また、図1では、第1カッター24、第2カッター25、接合補助部26および後述するカーボンナノチューブドローイングフィルム95を、当該カーボンナノチューブドローイングフィルム95の幅方向中央における縦断面にて描いている。後述する他の側面図においても同様である。第1基板保持部21および第2基板保持部22はそれぞれ、基板92を下側から保持する。なお、第1基板保持部21および第2基板保持部22は、上下を反対向きにした基板92を上側から保持してもよい。
【0015】
基板92は、例えば、平面視における形状が略矩形の薄板状部材である。基板92は、例えば、シリコン基板、または、表面にセラミック膜(アルミナ(三酸化二アルミ)、二酸化ケイ素等)が設けられた金属(例えば、ステンレス鋼製)の基板である。第1基板保持部21および第2基板保持部22に保持される基板92の主面には、多数のカーボンナノチューブの集合であるカーボンナノチューブアレイ91(以下、(「CNTアレイ91」とも呼ぶ。)が立設している。図2では、CNTアレイ91に平行斜線を付す。CNTアレイ91の平面視における形状は、例えば略矩形である。CNTアレイ91は、例えば、化学気相成長法(すなわち、CVD法)により、基板92の主面に対して略垂直に配向する多数のカーボンナノチューブを基板92上に成長させることにより形成される。CNTアレイ91の形成は、他の様々な方法により行われてもよい。
【0016】
CNTアレイ91の厚さ(すなわち、CNTアレイ91に含まれるカーボンナノチューブの基板92に垂直な方向における長さ)は、例えば、50μm~1000μmである。本実施の形態では、CNTアレイ91の厚さは、50μm~500μmである。CNTアレイ91の厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製)または非接触膜厚計(株式会社キーエンス製)により測定される。図1では、図の理解を容易にするために、CNTアレイ91の厚さを、実際よりも厚く描いている。
【0017】
CNTアレイ91では、例えば、1cm当たりに10本~1011本のカーボンナノチューブが存在する。隣接するカーボンナノチューブ間の距離は、例えば、30nm~300nmである。各カーボンナノチューブの直径は、例えば、4nm~30nmである。各カーボンナノチューブは、例えば、5層~20層の多層カーボンナノチューブである。各カーボンナノチューブは、4層以下または21層以上の多層カーボンナノチューブであってもよく、単層カーボンナノチューブであってもよい。
【0018】
CNTアレイ91の嵩密度は、例えば、10mg/cm~80mg/cmである。好ましくは、CNTアレイ91の嵩密度は、20mg/cm~60mg/cmである。CNTアレイ91の嵩密度は、単位面積当たりのCNTアレイ91の質量(すなわち、目付量)を、CNTアレイ91の厚さで除算することにより求められる。
【0019】
回収部23は、回収ローラ231と、回転機構232とを備える。回収ローラ231は、図1の紙面に略垂直な方向を向く回転軸を中心とする略円柱状または略円筒状の部材である。回転機構232は、回転軸を中心として回収ローラ231を図1中の時計回り方向に回転する。回転機構232は、例えば電動モータである。
【0020】
成形体製造装置1では、回転機構232によって回収ローラ231が回転することにより、第1基板保持部21に保持された基板92上のCNTアレイ91から、多数のカーボンナノチューブの集合体であるフィルム状のCNTドローイングフィルム95が略矩形状に引き出され、回収ローラ231に巻回される。すなわち、回収部23は、CNTアレイ91からCNTドローイングフィルム95を引き出す引出機構でもある。図1および図2に示す例では、CNTドローイングフィルム95は、CNTアレイ91の図中の右側のエッジから、右方へと引き出される。以下の説明では、図1および図2中の左右方向を「引出方向」とも呼ぶ。当該引出方向は、CNTドローイングフィルム95の長手方向でもある。CNTアレイ91から引き出されたCNTドローイングフィルム95は、回収ローラ231に巻き取られることにより回収される。
【0021】
図1に示す状態では、第2基板保持部22により保持されている基板92上のCNTアレイ91から、CNTドローイングフィルム95の引き出しは行われていない。後述するように、成形体製造装置1では、第1基板保持部21により保持されている基板92上のCNTアレイ91からのCNTドローイングフィルム95の引き出しが終了に近づくと、第2基板保持部22上の基板92からCNTドローイングフィルム95が引き出され、第1基板保持部21上の基板92からのCNTドローイングフィルム95に接合される。図1では、第2基板保持部22上の基板92から引き出される予定のCNTドローイングフィルム95を二点鎖線にて描く。
【0022】
第1カッター24は、第1基板保持部21上の基板92から引き出されるCNTドローイングフィルム95を、当該基板92上のCNTアレイ91と回収部23との間において切断(すなわち、裁断)する。第1カッター24は、第1上切断要素271と、下切断要素272と、要素駆動機構(図示省略)とを備える。第1上切断要素271および下切断要素272は、第1基板保持部21上の基板92から引き出されるCNTドローイングフィルム95の上下において、当該CNTドローイングフィルム95の全幅に亘って延びる。第1上切断要素271は、当該CNTドローイングフィルム95の上側の主面に対向し、下切断要素272は、CNTドローイングフィルム95の下側の主面に対向する。
【0023】
図1に示す状態では、第1上切断要素271と下切断要素272とは、上下方向(すなわち、上述のCNTドローイングフィルム95の主面に略垂直な方向)において、CNTドローイングフィルム95を挟んでおよそ対向して配置される。詳細には、当該CNTドローイングフィルム95の長手方向(すなわち、引出方向)において、第1上切断要素271の位置と下切断要素272の位置とは僅かに異なる。換言すれば、当該長手方向において、第1上切断要素271と下切断要素272との間にクリアランスが設けられる。第1上切断要素271および下切断要素272のクリアランスをより小さくすることで、切断後のCNTドローイングフィルム95の2つの端部(すなわち、切断面)が直線状となる。例えば、第1上切断要素271および下切断要素272は、CNTドローイングフィルム95の長手方向に僅かにずれて(例えば、1mm程度のクリアランスを設けて)配置される。図1に示す例では、第1上切断要素271が、下切断要素272よりも回収部23に近い側に配置される。上記クリアランスは、後述するように、第1上切断要素271と下切断要素272とが擦れ合う距離が好ましい。
【0024】
図2に示すように、下切断要素272は、平面視においてCNTドローイングフィルム95の長手方向(すなわち、図2中の左右方向)に対して傾斜する方向に延びる。下切断要素272が延びる方向とCNTドローイングフィルム95の長手方向との成す角度は、例えば0°~90°であり、好ましくは15°~60°である。図2に示す例では、当該角度は約45°である。図2では図示を省略しているが、第1上切断要素271および後述する第2上切断要素274は、平面視において下切断要素272に略平行に延びる。
【0025】
第1上切断要素271および下切断要素272は、例えば、ステンレス鋼(SUS)等により形成された金属箔(実施例として、厚さ50μmのSUS箔を利用。)であり、上述のCNTドローイングフィルム95の両主面に略垂直に配置される。第1上切断要素271および下切断要素272は、必ずしも箔状である必要はなく、鋭利な(すなわち、細線状の)エッジがCNTドローイングフィルム95の主面に対向するように配置された刃状であってもよい。あるいは、第1上切断要素271および下切断要素272は、略水平に延びる多角柱状の部材であり、略水平に延びる側面の1つの鋭利な辺が、CNTドローイングフィルム95の主面に対向するように配置されてもよい。第1上切断要素271と下切断要素272とは、同じ形状であってもよく、異なる形状であってもよい。第1上切断要素271および下切断要素272は、金属以外の材料(例えば、後述する炭素質材料)により形成されてもよい。第1上切断要素271と下切断要素272とは、異なる種類の材料により形成されてもよい。
【0026】
要素駆動機構は、第1上切断要素271および下切断要素272のうち少なくとも一方を、他方に対して上下方向に相対的に進退させる。要素駆動機構としては、例えば、リニアモータまたはエアシリンダが利用可能である。図1に示す例では、要素駆動機構は、第1上切断要素271を下方に移動させ、下切断要素272を上方に移動させることにより、第1上切断要素271および下切断要素272を互いに近付ける。そして、下切断要素272の上端縁が、第1上切断要素271の下端縁よりも上側まで移動することにより、CNTドローイングフィルム95が、第1上切断要素271の下端縁と下切断要素272の上端縁との間にて切断される。換言すれば、第1上切断要素271および下切断要素272が、CNTドローイングフィルム95を挟んで上下方向において重なることにより、CNTドローイングフィルム95が、擦れ合い切断される。また、要素駆動機構は、下切断要素272を水平方向にも移動する。下切断要素272は、図1中において二点鎖線にて示す2つの位置の間で移動可能である。
【0027】
第2カッター25は、第2基板保持部22上の基板92から引き出されるCNTドローイングフィルム95を切断する。第2カッター25は、第2上切断要素274を備え、上述の下切断要素272および要素駆動機構を第1カッター24と共有する。図1中において、下切断要素272が左側の二点鎖線にて示す位置に位置する状態では、第2上切断要素274および下切断要素272は、第2基板保持部22上の基板92から引き出されるCNTドローイングフィルム95の両主面にそれぞれ対向し、当該CNTドローイングフィルム95の全幅に亘って延びる。当該CNTドローイングフィルム95の長手方向(すなわち、引出方向)において、第2上切断要素274の位置と下切断要素272の二点鎖線にて示す位置とは僅かに異なる。図1に示す例では、第2上切断要素274が、二点鎖線にて示す下切断要素272よりも回収部23に近い側に配置される。
【0028】
第2上切断要素274の形状および材料は、上述の第1上切断要素271および下切断要素272と同様に、様々に選択することが可能である。第2上切断要素274の形状および材料は、第1上切断要素271および下切断要素272の形状および材料と同じであってもよく、異なっていてもよい。図1に示す例では、第2上切断要素274は、ステンレス鋼等により形成された金属箔(実施例として、厚さ50μmのSUS箔を利用。)である。
【0029】
要素駆動機構は、第2上切断要素274および下切断要素272を、上下方向において互いに近付ける。第2上切断要素274および下切断要素272が、第2基板保持部22上の基板92からのCNTドローイングフィルム95を挟んで上下方向において重なることにより、上述のCNTドローイングフィルム95の切断と同様に、第2基板保持部22上の基板92からのCNTドローイングフィルム95が切断される。
【0030】
以下の説明では、第1上切断要素271および下切断要素272の組み合わせを「一対の第1切断要素」とも呼び、第2上切断要素274および下切断要素272の組み合わせを「一対の第2切断要素」とも呼ぶ。上述のように、図1に示す例では、下切断要素272は、一対の第1切断要素および一対の第2切断要素の双方に含まれているが、必ずしもこれには限定されず、第1カッター24と第2カッター25とが、それぞれ個別の下切断要素を備えていてもよい。
【0031】
接合補助部26は、後述するCNTドローイングフィルム95同士の接合の際に利用される。接合補助部26は、治具261と、図示省略の移動機構とを備える。図1に示す例では、CNTドローイングフィルム95の上下に配置される2つの治具261が設けられる。各治具261は、第1基板保持部21上の基板92から引き出されるCNTドローイングフィルム95の主面に沿って略水平に延びる略円柱状または略円筒状の部材である。図2に示すように、治具261は、平面視において下切断要素272と略平行に延びる。図2では、CNTドローイングフィルム95の上側の治具261の図示を省略している。
【0032】
治具261は、主に炭素質材料により形成される炭素質治具である。炭素質材料は、例えば、非結晶形炭素(無定形炭素ともいう。)により主に構成される一般的な炭素質材料(ピッチコークス、カーボンブラック等)、黒鉛結晶により主に構成される黒鉛質材料、炭素の結晶化の程度が上述の一般的な炭素質材料と黒鉛質材料との中間に位置する炭素黒鉛質材料、および、金属粉と黒鉛とを混合して成形した金属黒鉛質材料を含む。上記黒鉛質材料には、天然黒鉛を高温および/または高圧で処理した一般的な黒鉛質材料、および、炭素を電気炉で高温度に加熱焼成し人工黒鉛とした電気黒鉛質材料等が含まれる。
【0033】
図1および図2に示す例では、治具261は、上述の黒鉛質材料により形成された略円柱状の黒鉛ロッドである。上記移動機構は、各治具261をCNTドローイングフィルム95の主面に沿って略水平に往復移動させる。また、当該移動機構は、各治具261を上下方向にも移動可能であり、各治具261をCNTドローイングフィルム95の側方へと退避させることも可能である。2つの治具261は、独立して移動可能である。移動機構としては、例えば、リニアモータまたはエアシリンダが利用可能である。
【0034】
図3は、第1基板保持部21上の基板92から引き出されたCNTドローイングフィルム95と、第2基板保持部22上の基板92から引き出されたCNTドローイングフィルム95との接合の流れを示す図である。以下の説明では、第1基板保持部21に保持される基板92を「第1基板92a」とも呼ぶ。また、第1基板92a上のCNTアレイ91を「第1のCNTアレイ91a」とも呼び、第1のCNTアレイ91aから引き出されるCNTドローイングフィルム95を「第1のCNTドローイングフィルム95a」とも呼ぶ。さらに、第2基板保持部22に保持される基板92を「第2基板92b」とも呼び、第2基板92b上のCNTアレイ91を「第2のCNTアレイ91b」とも呼び、第2のCNTアレイ91bから引き出されるCNTドローイングフィルム95を「第2のCNTドローイングフィルム95b」とも呼ぶ。
【0035】
図4ないし図16は、第1CNTドローイングフィルム95aと第2CNTドローイングフィルム95bとの接合の様子を示す側面図である。図4ないし図16では、成形体製造装置1の構成の一部の図示を省略する。まず、図4に示すように、第1のCNTアレイ91aから引き出されて回収部23により支持された第1のCNTドローイングフィルム95aが準備される(ステップS11)。回収部23は、第1のCNTドローイングフィルム95aを巻回して支持する支持部材である。
【0036】
図4に示す状態では、図1に示す状態よりも第1のCNTドローイングフィルム95aの形成が進んでおり、第1基板92a上に残っている第1のCNTアレイ91aの量(すなわち、第1のCNTアレイ91aの残量)は、図1に示す状態よりも少なくなっている。第1のCNTアレイ91aの残量が所定の閾値以下となると、回収部23の回転機構232が停止され、第1のCNTドローイングフィルム95aの引き出しが一旦停止される。上記閾値は、例えば、側面視における第1のCNTアレイ91aの引出方向の長さである。
【0037】
続いて、図5に示すように、要素駆動機構(図示省略)により、第1上切断要素271が下降して第1のCNTドローイングフィルム95aの上面に近づき、下切断要素272が上昇して第1のCNTドローイングフィルム95aの下面に近づく。そして、図6に示すように、下切断要素272が、第1のCNTドローイングフィルム95aの下面に接触し、第1のCNTドローイングフィルム95aを上方へと持ち上げる。第1カッター24では、下切断要素272と第1上切断要素271とが上下方向に交差する。これにより、下切断要素272と第1上切断要素271との間にて第1のCNTドローイングフィルム95aが切断される。なお、第1カッター24による第1のCNTドローイングフィルム95aの切断の際、下切断要素272および第1上切断要素271の昇降の順序は変更されてよい。
【0038】
第1のCNTアレイ91aと回収部23との間において切断された第1のCNTドローイングフィルム95aの2つの端部(すなわち、第1カッター24による切断により形成された2つの端部)の切断縁は、第1上切断要素271の鋭利な下端縁および下切断要素272の鋭利な上端縁に付着した状態で保持される。具体的には、第1のCNTアレイ91aから回収部23の方へと延びる第1のCNTドローイングフィルム95aの端部は、下切断要素272により保持される。また、回収部23から第1基板92aの方へと延びる第1のCNTドローイングフィルム95aの端部は、第1カッター24の第1上切断要素271により保持される(ステップS12)。
【0039】
次に、要素駆動機構により下切断要素272を下降させ、第1基板92aに近づく方向へと略水平に移動させる。そして、第1基板92aから延びる第1のCNTドローイングフィルム95aの端部が下切断要素272から取り外され、図7に示すように、第1基板92aが第1基板保持部21から取り外されて除去される(ステップS13)。下切断要素272は、第2カッター25の第2上切断要素274と上下方向に対向する位置に配置される。なお、下切断要素272の水平移動と、下切断要素272からの第1のCNTドローイングフィルム95aの取り外しとは、どちらが先に行われてもよく、並行して行われてもよい。
【0040】
第1基板92aが除去されると、図8に示すように、第2基板保持部22に保持されている第2基板92bの第2のCNTアレイ91bから、第2のCNTドローイングフィルム95bが引き出されて準備される(ステップS14)。図8に示す例では、第2のCNTドローイングフィルム95bの引き出しは、第2のCNTドローイングフィルム95bの端部が固定された略円柱状または略円筒状の引出治具275を、略水平方向に延びる回転軸を中心として回転させることにより行われる。あるいは、引出治具275を、第2基板92bから離れる方向へと略水平に移動することにより、第2基板92bから第2のCNTドローイングフィルム95bが引き出されてもよい。
【0041】
引出治具275は、第2のCNTドローイングフィルム95bの引出方向において、第2カッター25の第2上切断要素274よりも第2基板92bから離れた位置に位置する。また、引出治具275は、第2上切断要素274と第1カッター24の第1上切断要素271との間に位置する。第2のCNTドローイングフィルム95bは、第2基板92bの第2のCNTアレイ91bから、上下方向に対向する第2上切断要素274と下切断要素272との間を通過して、回収部23に向かって延びる。
【0042】
なお、図8に示す例では、第2基板92bは第2基板保持部22により保持されているが、第2基板保持部22は成形体製造装置1から省略されてもよい。この場合、ステップS13において第1基板92aが第1基板保持部21から除去された後、当該第1基板保持部21により第2基板92bが保持され、上述のステップS14が行われる。
【0043】
第2のCNTドローイングフィルム95bが準備されると、図9に示すように、要素駆動機構により、下切断要素272が上昇して第2のCNTドローイングフィルム95bの下面に接触し、第2のCNTドローイングフィルム95bを上方へと持ち上げる。そして、図10に示すように、第2カッター25の第2上切断要素274が下降し、下切断要素272と第2上切断要素274とが上下方向に交差し、下切断要素272と第2上切断要素274との間にて第2のCNTドローイングフィルム95bが切断される。なお、第2カッター25による第2のCNTドローイングフィルム95bの切断の際、下切断要素272および第2上切断要素274の昇降の順序は変更されてよい。
【0044】
第2のCNTアレイ91bと引出治具275との間において切断された第2のCNTドローイングフィルム95bの2つの端部(すなわち、第2カッター25による切断により形成された2つの端部)の切断縁は、第2上切断要素274の鋭利な下端縁および下切断要素272の鋭利な上端縁に付着した状態で保持される。具体的には、第2のCNTアレイ91bから引出治具275および回収部23の方へと延びる第2のCNTドローイングフィルム95bの端部は、下切断要素272により保持される。また、引出治具275から第2基板92bの方へと延びる第2のCNTドローイングフィルム95bの端部は、第2上切断要素274により保持される(ステップS15)。すなわち、第2カッター25は、第2のCNTドローイングフィルム95bの端部を保持する保持部材である。
【0045】
続いて、図11に示すように、要素駆動機構により第2上切断要素274を上昇させ、引出治具275から延びる第2のCNTドローイングフィルム95bの端部が第2上切断要素274から取り外される。引出治具275は、第2基板92bからの第2のCNTドローイングフィルム95bの引出方向に対して、側方または上下方向等、第2のCNTドローイングフィルム95bの引き出しを阻害しない退避位置(図示省略)へと移動される。
【0046】
次に、第2のCNTドローイングフィルム95bの端部を保持している下切断要素272が、要素駆動機構により下降された後、図12に示すように、第2基板92bから離れる方向に略水平に移動される。これにより、第2基板92b上の第2のCNTアレイ91bから第2のCNTドローイングフィルム95bが略水平に引き出される(ステップS16)。なお、ステップS16では、下切断要素272が移動することなく、第2基板92bを保持する第2基板保持部22が、下切断要素272から離れる方向に略水平に移動されてもよい。すなわち、ステップS16では、下切断要素272が第2のCNTアレイ91bに対して相対移動することにより、第2のCNTドローイングフィルム95bが第2のCNTアレイ91bから引き出される。
【0047】
ステップS16では、第2のCNTアレイ91bから第2のCNTドローイングフィルム95bを引き出す力(以下、「引出力F1」とも呼ぶ。)は、第2のCNTドローイングフィルム95bの引出方向における下切断要素272による第2のCNTドローイングフィルム95bの保持力F2よりも小さい。このため、下切断要素272の相対移動により第2のCNTドローイングフィルム95bが第2のCNTアレイ91bから引き出される際に、第2のCNTドローイングフィルム95bの端部が下切断要素272から脱落することが防止される。
【0048】
また、上述の保持力F2は、第2のCNTドローイングフィルム95bの長手方向における破断荷重F3よりも小さい。これにより、下切断要素272の相対移動により第2のCNTドローイングフィルム95bが第2のCNTアレイ91bから引き出される際に、第2のCNTドローイングフィルム95bが長手方向(すなわち、引出方向)に破断することが防止される。
【0049】
引出力F1は、例えば0.1×10-3N/mm~1.0×10-3N/mmであり、好ましくは0.25×10-3N/mm~0.6×10-3N/mmである。破断荷重F3は、例えば0.5×10-3N/mm~15.0×10-3N/mmであり、好ましくは2.0×10-3N/mm~8.0×10-3N/mmである。保持力F2は、引出力F1よりも大きく、かつ、破断荷重F3よりも小さい値になるように、後述する第1上切断要素271および下切断要素272の形状が選択される。例えば、第1上切断要素271および下切断要素272は、金属箔等の薄い平板状、または、先端(例えば、刃先)が鋭利な角度を有する形状とされる。第1上切断要素271および下切断要素272が金属箔である場合、金属箔の材質によっても異なるが、当該金属箔の厚さは、例えば、20μm~500μmであることが好ましい。なお、引出力F1、保持力F2および破断荷重F3の値は、CNTアレイ91の厚さや本数密度、CNTアレイ91におけるCNTの絡まり方等によって様々に変化する。
【0050】
表1および表2はそれぞれ、引出力F1および破断荷重F3の測定値を示す。引出力F1および破断荷重F3の測定は、微小荷重用ロードセルを利用して実施した。表1および表2では、CNTドローイングフィルム95の幅を変更した複数のサンプルについて、測定結果を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
引出力F1の測定では、まず、基板92上のCNTアレイ91から引き出されたCNTドローイングフィルム95の先端が台紙に固定される。続いて、基板92が、主面が上下方向に略平行となるように固定台に固定され、台紙は、固定台の上方にてロードセルに固定される。CNTドローイングフィルム95は、基板92からロードセルに向かって上方に延びている。その後、ロードセルにより台紙が上方に引き上げられ、引出力F1が測定される。ロードセルとしては、「株式会社共和電業製、品番:LTS-50GA(定格容量500mN)」を用いた。また、ロードセルによる引上速度は0.2mm/secであり、引き上げ前の固定台と台紙との間の上下方向の距離である初期ギャップは50mmである。
【0054】
破断荷重F3の測定では、まず、CNTアレイ91から切り離されたCNTドローイングフィルム95が準備され、当該CNTドローイングフィルム95の両端が一対の台紙に固定される。そして、CNTドローイングフィルム95の主面が上下方向に略平行となるように、一方の台紙が固定台に固定され、他方の台紙は、固定台の上方にてロードセルに固定される。CNTドローイングフィルム95は、固定台からロードセルに向かって上方に延びている。その後、ロードセルにより台紙が上方に引き上げられ、CNTドローイングフィルム95が破断する際の荷重である破断荷重F3が測定される。使用したロードセル、並びに、引上速度および初期ギャップは、上記と同様である。
【0055】
図12に示す状態では、下切断要素272は、第2のCNTドローイングフィルム95bの引出方向において、第1上切断要素271と回収部23との間に位置する。換言すれば、第1上切断要素271は、当該引出方向において第2基板92bと下切断要素272との間に位置する。下切断要素272に保持されている第2のCNTドローイングフィルム95bの端部は、第1上切断要素271に保持されている第1のCNTドローイングフィルム95aの端部と、上下方向に重なる位置に位置する。第2のCNTドローイングフィルム95bの端部は、第1のCNTドローイングフィルム95aの端部の下側に位置する。
【0056】
第1のCNTドローイングフィルム95aの端部の向きは、第2のCNTドローイングフィルム95bの端部の向きと反対である。換言すれば、第1のCNTドローイングフィルム95aの端部は、第2のCNTドローイングフィルム95bの端部と長手方向において対向する。第1のCNTドローイングフィルム95aの端部の向きとは、回収部23から第1のCNTドローイングフィルム95aの端部に向かって第1のCNTドローイングフィルム95aが延びる向きであり、図12中では略左向きである。第2のCNTドローイングフィルム95bの端部の向きとは、第2のCNTアレイ91bから第2のCNTドローイングフィルム95bの端部に向かって第2のCNTドローイングフィルム95bが延びる向きであり、図12中では略右向きである。
【0057】
続いて、要素駆動機構により、図13に示すように、第1上切断要素271が下降し、第1のCNTドローイングフィルム95aの端部が、第2のCNTドローイングフィルム95bの端部上に積層されて接合される(ステップS17)。換言すれば、第1のCNTドローイングフィルム95aの端部と、第2のCNTドローイングフィルム95bの端部とが貼り合わされる。なお、第1のCNTドローイングフィルム95aと第2のCNTドローイングフィルム95bとの積層は、下切断要素272が上昇することにより実現されてもよい。要素駆動機構は、第2カッター25の下切断要素272を第1のCNTドローイングフィルム95aに対して相対的に移動し、第2のCNTドローイングフィルム95bを第1のCNTドローイングフィルム95aに積層して接合する駆動機構である。
【0058】
次に、図14に示すように、接合補助部26において、下側の治具261が第2のCNTドローイングフィルム95bの下方に側方から挿入されて上昇し、第1のCNTドローイングフィルム95aと第2のCNTドローイングフィルム95bとの接合部951(すなわち、2層のCNTドローイングフィルムの積層部)において第2のCNTドローイングフィルム95bの下面に接触する。そして、治具261により第2のCNTドローイングフィルム95bが押さえられた状態で、下切断要素272が下降して第2のCNTドローイングフィルム95bの端部から離間する。これにより、下切断要素272による第2のCNTドローイングフィルム95bの端部の保持が解除される(ステップS18)。
【0059】
また、図15に示すように、接合補助部26において、上側の治具261が第1のCNTドローイングフィルム95aの上方に側方から挿入されて下降し、第1のCNTドローイングフィルム95aと第2のCNTドローイングフィルム95bとの接合部951において第1のCNTドローイングフィルム95aの上面に接触する。そして、治具261により第1のCNTドローイングフィルム95aが押さえられた状態で、第1上切断要素271が上昇して第1のCNTドローイングフィルム95aの端部から離間する。これにより、第1上切断要素271による第1のCNTドローイングフィルム95aの端部の保持が解除される(ステップS19)。なお、ステップS19は、ステップS18よりも先に行われてもよく、ステップS18と並行して行われてもよい。
【0060】
ステップS18,S19が終了すると、接合補助部26の移動機構(図示省略)により、2つの治具261が接合部951の上下において、接合部951の主面に接触しつつ略水平に往復移動される。図14および図15に示す例では、各治具261の移動範囲は、接合部951の略全面に亘る。これにより、接合部951の第1のCNTドローイングフィルム95aと第2のCNTドローイングフィルム95bとが互いに対して付勢されるように撫でつけられる(ステップS20)。第1のCNTドローイングフィルム95aと第2のCNTドローイングフィルム95bとは、撫でつけられることによって互いのファンデルワールス力により付着する。その結果、第1のCNTドローイングフィルム95aと第2のCNTドローイングフィルム95bとの接合強度が増大する。
【0061】
なお、ステップS18では、下切断要素272と第2のCNTドローイングフィルム95bとの離間は、必ずしも治具261により第2のCNTドローイングフィルム95bが押さえられた状態で行われる必要はない。例えば、接合部951の下面に対してガスが噴射され、当該ガス噴射により接合部951が僅かに押し上げられ、第2のCNTドローイングフィルム95bが下切断要素272から離間してもよい。ステップS19における第1上切断要素271と第1のCNTドローイングフィルム95aとの離間についても同様である。
【0062】
ステップS20では、接合部951を挟んで対向して配置された2つの治具261がそれぞれ、各治具261の中心軸を中心として回転しつつ、接合部951を上下から撫でつけてもよい。また、2つの治具261が互いに反対向き(すなわち、時計回りと反時計回り)に回転しつつ、互いに対して上下方向に付勢されることにより、2つの治具261の間に挟まれた接合部951が厚密されてもよい。この場合、2つの治具261は、接合部951を厚密する2つのローラとして働く。成形体製造装置1では、当該2つのローラにより第1のCNTドローイングフィルム95aおよび第2のCNTドローイングフィルム95bのうち、接合部951以外の部位が挟まれて厚密されてもよい。
【0063】
ステップS20が終了すると、2つの治具261が上下方向に移動して第1のCNTドローイングフィルム95aおよび第2のCNTドローイングフィルム95bから離間し、図示省略の退避位置に退避する(ステップS21)。上述のように、第1のCNTドローイングフィルム95aおよび第2のCNTドローイングフィルム95bを取り扱う治具261は、黒鉛ロッド等の炭素質治具であるため、金属、ガラスまたは樹脂により形成された治具に比べて、第1のCNTドローイングフィルム95aおよび第2のCNTドローイングフィルム95bの治具261に対する付着力を低減することができる。したがって、第1のCNTドローイングフィルム95aおよび第2のCNTドローイングフィルム95bからの治具261の離間を容易に行うことができる。すなわち、治具261として黒鉛ロッド等の炭素質治具を用いることにより、治具261と第1のCNTドローイングフィルム95aとが接着する力、および、治具261と第2のCNTドローイングフィルム95bとが接着する力よりも、第1のCNTドローイングフィルム95aと第2のCNTドローイングフィルム95bとが接着する力の方が大きくなる。
【0064】
その後、図16に示すように、回収部23の回収ローラ231が回転することにより、第1のCNTドローイングフィルム95aと第2のCNTドローイングフィルム95bとが接合部951において接続された長尺状のCNTドローイングフィルム950(以下、「接続フィルム950」とも呼ぶ。)が、回収ローラ231に巻き取られ、第2のCNTアレイ91bから第2のCNTドローイングフィルム95bが引き出されることにより、接続フィルム950の形成が実施される。長尺状の接続フィルム950は、上述のカーボンナノチューブ成形体であり、第1のCNTドローイングフィルム95aおよび第2のCNTドローイングフィルム95bは、カーボンナノチューブ成形体を形成するための前駆体である。
【0065】
図17は、第1のCNTドローイングフィルム95aと第2のCNTドローイングフィルム95bとの接合部951近傍を示す平面図である。上述のように、下切断要素272(図2参照)は第2のCNTドローイングフィルム95bの長手方向に対して傾斜して延びているため、当該接合部951では、第2のCNTドローイングフィルム95bの端縁952bが、第2のCNTドローイングフィルム95bの長手方向(すなわち、接続フィルム950の長手方向であり、図17中の左右方向)に対して傾斜する方向に延びる。端縁952bが延びる方向と第2のCNTドローイングフィルム95bの長手方向との成す角度は、例えば15°~60°であり、図17に示す例では約45°である。また、接合部951では、第1のCNTドローイングフィルム95aの端縁952aは、第2のCNTドローイングフィルム95bの端縁952bに対して略平行な方向に延びる。
【0066】
以上に説明したように、接続フィルム950の製造方法は、カーボンナノチューブ成形体の前駆体(すなわち、第1のCNTドローイングフィルム95aおよび第2のCNTドローイングフィルム95b)を準備する工程(ステップS11,S14)と、当該前駆体からカーボンナノチューブ成形体(すなわち、接続フィルム950)を形成する工程(ステップS17~S20)と、を備える。そして、ステップS17~S20において、炭素質治具(すなわち、治具261)により、当該前駆体または当該カーボンナノチューブ成形体が取り扱われる。
【0067】
炭素質治具である治具261は、上述のように、金属、ガラスまたは樹脂により形成された治具に比べて、カーボンナノチューブ成形体および前駆体に対する付着力が低い。したがって、カーボンナノチューブ成形体の製造において、カーボンナノチューブ成形体または前駆体の治具261への付着を抑制することができる。その結果、カーボンナノチューブ成形体の製造を容易とすることができる。なお、治具261は、必ずしも略円柱状または略円筒状には限定されず、様々な形状を有していてよい。
【0068】
上述のように、前駆体からカーボンナノチューブ成形体を形成する工程は、第1のCNTドローイングフィルム95a上に、保持具(上記例では、第2カッター25の下切断要素272)により端部を保持された第2のCNTドローイングフィルム95bを積層して接合する工程(ステップS17)と、ステップS17よりも後に、治具261により第2のCNTドローイングフィルム95bを押さえて、第2のCNTドローイングフィルム95bを当該保持具から離間させる工程(ステップS18)と、を備えることが好ましい。この場合、第2のCNTドローイングフィルム95bの治具261への付着を抑制して、第1のCNTドローイングフィルム95aの保持解除を容易に行うことができる。
【0069】
上述のように、前駆体からカーボンナノチューブ成形体を形成する工程は、2枚のCNTドローイングフィルム(すなわち、第1のCNTドローイングフィルム95aおよび第2のCNTドローイングフィルム95b)を積層する工程(ステップS17)と、治具261により当該2枚のCNTドローイングフィルムの積層部(すなわち、接合部951)を撫でつける工程(ステップS20)と、を備えることも好ましい。この場合、接合部951が治具261に付着することを抑制しつつ、接合部951において2枚のCNTドローイングフィルムを馴染ませて接合強度を増大することができる。
【0070】
上述のように、治具261は、対向して配置された2つのローラであり、前駆体からカーボンナノチューブ成形体を形成する工程は、当該2つのローラによりCNTドローイングフィルム(すなわち、接合部951、第1のCNTドローイングフィルム95aおよび第2のCNTドローイングフィルム95bの少なくとも1つ)を挟んで厚密する工程を備えることも好ましい。この場合、CNTドローイングフィルムが治具261に付着することを抑制しつつ、CNTドローイングフィルムの厚密を容易に行うことができる。
【0071】
上述のように、第1カッター24および第2カッター25はそれぞれ、炭素質材料により形成されてもよい。換言すれば、第1カッター24および第2カッター25はそれぞれ、炭素質治具であってもよい。上述の前駆体からカーボンナノチューブ成形体を形成する工程は、第1カッター24により上記前駆体である第1のCNTドローイングフィルム95aを切断する工程を備えることが好ましい。これにより、第1のCNTドローイングフィルム95aが第1カッター24に付着することを抑制しつつ、第1のCNTドローイングフィルム95aの切断を容易に行うことができる。また、前駆体からカーボンナノチューブ成形体を形成する工程は、第2カッター25により上記前駆体である第2のCNTドローイングフィルム95bを切断する工程を備えることが好ましい。これにより、第2のCNTドローイングフィルム95bが第2カッター25に付着することを抑制しつつ、第2のCNTドローイングフィルム95bの切断を容易に行うことができる。
【0072】
上述の成形体製造装置1および接続フィルム950の製造方法では、様々な変更が可能である。
【0073】
炭素質治具は、上述の第1のCNTドローイングフィルム95aおよび第2のCNTドローイングフィルム95bの押圧、厚密および切断、並びに、接合部951の撫でつけおよび厚密以外にも、カーボンナノチューブ成形体および前駆体を取り扱う様々な場面で利用されてよい。
【0074】
上記製造方法により製造されるカーボンナノチューブ成形体は、上述の接続フィルム950には限定されず、様々な形状を有するものであってよい。例えば、上記製造方法により製造された接続フィルム950を線状(すなわち、糸状)に成形することにより、長尺状のカーボンナノチューブワイヤが製造されてもよい。また、カーボンナノチューブ成形体の前駆体は、必ずしも2枚のCNTドローイングフィルム(すなわち、第1のCNTドローイングフィルム95aおよび第2のCNTドローイングフィルム95b)には限定されず、例えば、1枚のCNTドローイングフィルムであってもよい。
【0075】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0076】
24 第1カッター
25 第2カッター
95 CNTドローイングフィルム
95a 第1のCNTドローイングフィルム
95b 第2のCNTドローイングフィルム
261 治具
271 第1上切断要素
272 下切断要素
274 第2上切断要素
950 接続フィルム
951 接合部
S11~S21 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17