(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】大腸がんを検出するためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230525BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20230525BHJP
G01N 33/573 20060101ALI20230525BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230525BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230525BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/574 A
G01N33/573 A
G01N33/53 D
G01N33/53 V
G01N27/62 V
(21)【出願番号】P 2019527058
(86)(22)【出願日】2018-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2018024806
(87)【国際公開番号】W WO2019004430
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2017129941
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝長 毅
(72)【発明者】
【氏名】白水 崇
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-130477(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0188883(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0141273(US,A1)
【文献】特表2008-545634(JP,A)
【文献】DUNCAN, R. et al.,Characterisation and protein expression profiling of annexins in colorectal cancer,BRITISH JOURNAL OF CANCER,2008年,Vol.98, No.2,p.426-433
【文献】GURLULER, E et al.,Serum annexin A2 levels in patients with colon cancer in comparison to healthy controls and in relat,Med Sci Monit.,2014年,20,1801-1807
【文献】YU, J et al.,High-throughput proteomics integrated with gene microarray for discovery of colorectal cancer potent,ONCOTARGET,2016年09月20日,Vol. 7, No. 46,75279-75292
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
G01N 33/574
G01N 33/573
G01N 33/53
G01N 27/62
C07K 14/47
C07K 14/705
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の
項番1のタンパク質若しくはその部分ペプチドと、以下の
項番2、3、5、6、8、11、16、17及び22のタンパク質若しくはその部分ペプチドの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ又は9つを組合せてなる(
項番1(アネキシンA11)と
項番3(アネキシンA4)の組合せを除く)大腸がん検出のための大腸がんバイオマーカー:
項番1.アネキシンA11(Annexin A11) (ANXA 11)(配列番号1)若しくはその部分ペプチド;
項番2.アネキシンA3(Annexin A3) (ANXA 3)(配列番号2)若しくはその部分ペプチド;
項番3.アネキシンA4(Annexin A4) (ANXA 4)(配列番号3)若しくはその部分ペプチド;
項番5.トランスフェリン受容体タンパク質1(Transferrin receptor protein 1) (TFRC)(配列番号5)若しくはその部分ペプチド;
項番6.グルコーストランスポーター1(GLUT-1)(SLC2A1)(配列番号6)若しくはその部分ペプチド;
項番8.CD88抗原(CD88 antigen) (C5AR1)(配列番号8)若しくはその部分ペプチド;
項番11.マトリックスメタロプロテアーゼ9(Matrix metalloproteinase-9) (MMP9)(配列番号11)若しくはその部分ペプチド;
項番16.アネキシンA5(Annexin A5)(ANXA 5)(配列番号16)若しくはその部分ペプチド;
項番17.オルファクトメジン-4(Olfactomedin-4) (OLFM4)(配列番号17)若しくはその部分ペプチド;
項番22.好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(Neutrophil gelatinase-associated lipocalin) (LCN2)(配列番号22)若しくはその部分ペプチド。
【請求項2】
請求項1記載の1、2、3、5、6、8、11、16、17及び22のタンパク質の部分ペプチドが以下の配列番号で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1に記載の大腸がん検出のための大腸がんバイオマーカー:
1.配列番号23
若しくは24
2.配列番号25
若しくは26、
3.配列番号27
若しくは28、
5.配列番号31
若しくは32、
6.配列番号33
若しくは34、
8.配列番号37
若しくは38
11.配列番号43
若しくは44
16.配列番号53
17.配列番号54
22.配列番号59。
【請求項3】
請求項1または2に記載の大腸がんバイオマーカーとCEAとを組合せてなる、大腸がん検出のための大腸がんバイオマーカー。
【請求項4】
血液中の細胞外小胞(EV)中の請求項1~3のいずれか1項に記載の大腸がんバイオマーカーを測定することを含む大腸がんの検出のための指標としてその測定値を提供する方法。
【請求項5】
血液中の細胞外小胞(EV)中のアネキシンA11(Annexin A11) (ANXA 11)(配列番号1)若しくはその部分ペプチドを測定することを含む大腸がんの検出のための指標としてその測定値を提供する方法。
【請求項6】
血液中の細胞外小胞(EV)中のアネキシンA11(Annexin A11) (ANXA 11)(配列番号1)若しくはその部分ペプチド、並びに血液中の細胞外小胞(EV)中のアネキシンA4(Annexin A4) (ANXA 4)(配列番号3)若しくはその部分ペプチドを測定することを含む大腸がんの検出のための指標としてその測定値を提供する方法。
【請求項7】
アネキシンA4およびアネキシンA11の部分ペプチドが、それぞれ配列番号23または24、ならびに27または28で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
生体試料中の請求項1~3のいずれか1項に記載の大腸がんバイオマーカーを測定し、該バイオマーカーが健常人と比較して高濃度で存在する場合に、大腸がんに罹患していると判断するための指標としてその存在を提供する、大腸がんの検出のための方法。
【請求項9】
検出が免疫学的測定法または質量分析法により行われる、請求項4~7のいずれか1項に記載の大腸がんの検出のための指標としてその測定値を提供する方法。
【請求項10】
検出が免疫学的測定法または質量分析法により行われる、請求項8に記載の大腸がんの検出のための方法。
【請求項11】
生体試料中の請求項1~3のいずれか1項に記載の大腸がんバイオマーカーに対する抗体を含む大腸がんの検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸がんの検出に用い得る新規なタンパク質又はペプチドバイオマーカに関する。
【背景技術】
【0002】
大腸がん(CRC)は、世界で最も頻度の高いがんの1つであり、CRCのための効果的バイオマーカーの開発は、ヒトの生存率向上に不可欠である。しかし、現在用いられる大腸がんの診断法は便潜血やCEAなど非常に精度の低いものばかりで、大腸がんを早期に高精度に診断できる新しいバイオマーカーは見つかっておらず、血中バイオマーカーが切実に求められている。
【0003】
これまで大規模なオミクス研究により、多数のがん関連因子およびがんのバイオマーカー候補が発見されてきたにもかかわらず、臨床応用に至った血中バイオマーカーは未だ存在しない。それを裏付ける証拠として、近年の、米食品医薬品局(FDA)により承認されたバイオマーカーは、毎年2件以下と極めて少ない。この停滞の原因の1つは、バイオマーカー開発の戦略に深刻な問題があると考えられている。
【0004】
従来、多くの臨床検査において、タンパク質バイオマーカーの検出は抗体ベースの定量化分析法(主に酵素結合抗体免疫測定法(ELISA)を用いた)によって行われてきた。これらの方法は抗体の品質に大きく依存しているので、精度、特に特異度に問題があり、また多項目のマーカー候補を同時に評価することは難しい。
【0005】
質量分析計(MS)の最近の進歩によりは、臨床検査法が大きく変わる可能性が出てきた。その理由として、ターゲットプロテオミクスを代表する手法である選択反応モニタリング/多重反応モニタリング法(SRM/MRM)は、高精度でバイオマーカータンパク質の定量ができるだけでなく、多項目のマーカーを同時に定量することができるからである。以前の報告で、Whiteakerらは、SRM/MRM法を用いて患者血漿中の多項目の乳がんバイオマーカー候補タンパク質の定量を実施した(非特許文献1を参照)。それ以外にも、SRM/MRM法を使って種々のがんのバイオマーカー候補タンパク質を検証した例は本発明者らのグループの報告も含めていくつか報告されている(非特許文献2~4を参照)。
【0006】
このように、SRM/MRM法を用いたターゲットプロテオミクスは、バイオマーカー発見のための強力なツールとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Whiteaker, J. et al., Nat. BIotechnol. 29, 625-634 (2011)
【文献】Kume, H. et al., Mol. Cell. Proteomics 13, 1471-1484 (2014)
【文献】Muraoka, S. et al., J. Proteome Res. 11, 4201-4210 (2012)
【文献】Narumi, R. et al., J. Proteome Res. 11, 5311-5322 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、大腸がんを早期に検出するためのバイオマーカーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、まずPubMedの文献検索からCRCバイオマーカー候補タンパク質を検索した。それらのバイオマーカー候補タンパク質を血中で検出するために、血中の細胞外小胞(EV)に着目した。なぜならば、EVは細胞間コミュニケーションの仲介者として働くことが最近注目されているだけでなく、種々の病気の発症や進展に関わると言われ、バイオマーカー候補を多く含んでいると考えられているからである。また、質量分析計を用いて血中の微量なタンパク質を検出しようとする際に、アルブミン等の血中に多量に存在する夾雑タンパク質により、微量なマーカー候補タンパク質の検出が阻害されることがある。しかし、血中のEVを精製する際に、多量な夾雑タンパク質が除去されるので、EV中の微量なバイオマーカー候補タンパク質の検出が可能になる。従って、EV含有タンパク質は有望なバイオマーカー候補であると考えられた。
【0010】
本発明者らは文献検索で見つかったバイオマーカー候補タンパク質の中で、血中EVに存在する可能性があるタンパク質に候補を絞り、SRM/MRM法を用いてそれらのタンパク質の定量を行った。その結果として、CRCの早期診断のためのいくつかのバイオマーカー候補を特定し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の態様は以下のとおりである。
[1] 以下の1~22の22個のタンパク質の少なくとも1つのタンパク質、または1~22のタンパク質の部分ペプチドの少なくとも1つのペプチドからなる大腸がん検出のための大腸がんバイオマーカー:
1.アネキシンA11(Annexin A11) (ANXA 11)(配列番号1);
2.アネキシンA3(Annexin A3) (ANXA 3)(配列番号2);
3.アネキシンA4(Annexin A4) (ANXA 4)(配列番号3);
4.テネイシン-N(Tanascin-N) (TNN)(配列番号4);
5.トランスフェリン受容体タンパク質1(Transferrin receptor protein 1) (TFRC)(配列番号5);
6.グルコーストランスポーター1(GLUT-1)(SLC2A1)(配列番号6);
7.補体成分C9(Complement component C9) (C9)(配列番号7);
8.CD88抗原(CD88 antigen) (C5AR1)(配列番号8);
9.78kDa グルコース制御タンパク質(78kDa glucose-regulated protein) (HSPA5)(配列番号9);
10.α-1-酸性グリコプロテイン(α-1-acid glycoprotein) (ORM1)(配列番号10);
11.マトリックスメタロプロテアーゼ9(Matrix metalloproteinase-9) (MMP9)(配列番号11);
12.アンジオポエチン-1(Angiopoietin-1) (ANGPT1)(配列番号12);
13.CD67抗原(CD67 antigen) (CEACAM8)(配列番号13);
14.ムチン-5B(Mucin-5B) (MUC5B)(配列番号14);
15.アダプタータンパク質 GRB2(Adapter protein GRB2) (GRB2)(配列番号15);16.アネキシンA5(Annexin A5)(ANXA 5)(配列番号16);
17.オルファクトメジン-4(Olfactomedin-4) (OLFM4)(配列番号17);
18.中性アミノ酸トランスポーターB(0)(Neutral amino acid transporter B(0))(SLC1A5)(配列番号18);
19.トリペプチジルペプチダーゼ1(Tripeptidyl-peptidase 1) (TPP1)(配列番号19);
20.熱ショック関連70kDaタンパク質2(Heat shock-related 70kDa protein 2)(HSPA2)(配列番号20);
21.プロテアソームサブユニットαタイプ-5(Proteasome subunit alpha type-5) (PSMA5)(配列番号21);または
22.好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(Neutrophil gelatinase-associated lipocalin) (LCN2)(配列番号22)。
[2] [1]の1~22の22個のタンパク質の2以上のタンパク質、または1~22のタンパク質の部分ペプチドの2以上のペプチドを組合せてなる、[1]の大腸がん検出のための大腸がんバイオマーカー。
[3] [1]の1~22のタンパク質の部分ペプチドが配列番号23~59で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、[1]または[2]の大腸がん検出のための大腸がんバイオマーカー。
[4] 以下の12個のタンパク質の少なくとも1つのタンパク質、または該12個のタンパク質の部分ペプチドの少なくとも1つのペプチドからなる、[1]の大腸がん検出のための大腸がんバイオマーカー:
1.アネキシンA11(配列番号1);
2.アネキシンA3(配列番号2);
3.アネキシンA4(配列番号3);
4.テネイシン-N(配列番号4);
5.トランスフェリン受容体タンパク質1(配列番号5);
6.グルコーストランスポーター1(配列番号6);
8.CD88抗原(配列番号8);
11.マトリックスメタロプロテアーゼ9(配列番号11);
16.アネキシンA5(配列番号16);
17.オルファクトメジン-4(配列番号17);
19.トリペプチジルペプチダーゼ1(配列番号19);または
22.好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(配列番号22)。
[5] [4]の12個のタンパク質の2以上のタンパク質、または該12個のタンパク質の部分ペプチドの2以上のペプチドを組合せてなる、[4]の大腸がん検出のための大腸がんバイオマーカー。
[6] [4]の12個のタンパク質の部分ペプチドが配列番号23~34、37、38、43、44、53、54、56および59で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、[4]または[5]の大腸がん検出のための大腸がんバイオマーカー。
[7] アネキシンA4若しくはアネキシンA11、またはそれらの部分ペプチドからなる、[1]の大腸がん検出のための大腸がんバイオマーカー。
[8] アネキシンA4とアネキシンA11、またはアネキシンA4の部分ペプチドとアネキシンA11の部分ペプチドを組合せてなる、[7]の大腸がん検出のための大腸がんバイオマーカー。
[9] アネキシンA4およびアネキシンA11の部分ペプチドが配列番号23、24、27および28で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、[7]または[8]に記載の大腸がん検出のための大腸がんバイオマーカー。
[10] [1]~[9]のいずれかの大腸がんバイオマーカーとCEAとを組合せてなる、大腸がん検出のための大腸がんバイオマーカー。
[11] 生体試料中の[1]~[10]のいずれかの大腸がんバイオマーカーを測定することを含む大腸がんの検出方法。
[12] 生体試料中の[1]~[10]のいずれかの大腸がんバイオマーカーを測定し、該バイオマーカーが健常人と比較して高濃度で存在する場合に、大腸がんに罹患していると判断する、大腸がんの検出方法。
[13] 生体試料が血液中の細胞外小胞(EV)である、[11]または[12]の大腸がんの検出方法。
[14] 検出が免疫学的測定法または質量分析法により行われる、[11]~[13]のいずれかの大腸がんの検出方法。
[15] 生体試料中の[1]~[10]のいずれかの大腸がんバイオマーカーに対する抗体を含む大腸がんの検出キット。
【0012】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2017-129941号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバイオマーカーにより大腸がんを高感度かつ高特異的に検出することができ、特に早期の大腸がんを検出することができる。さらに、バイオマーカーを組合せることにより、さらに高感度かつ高特異的な検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】細胞外小胞(EV)中の大腸がんマーカーの探索のための戦略を示す図である。図中には、それぞれの工程で選抜された候補タンパク質の数を示す。
【
図2】EVにおける、CRCバイオマーカー候補タンパク質のためのショットガン・プロテオミクス分析の方法を示す図である。
図2aはEVの調製及びMS分析の工程を示し、
図2bはショットガンプロテオーム解析によって同定されたバイオマーカー候補タンパク質及びEVタンパク質のベン図解析の結果を示す。 血清又は細胞培養上清から同定されたEVタンパク質のうち、356個の大腸がんバイオマーカー候補タンパク質がEVタンパク質として同定された。
【
図3】SRM標的タンパク質(46)及びペプチド(71)を示す図である。
【
図4】高度の正確さ(AUC>0.7)で検証されたタンパク質のリストを示す図である。
【
図5-1】SRM分析による3群(N、C及びCm)の間の血清中ペプチドの相対的定量の結果を示す図である。Nは非がん対照患者を示し、Cは転移のないがん患者を示し、Cmは転移のあるがん患者を示す。ドットプロットグラフは、SIペプチドに対する内在的ペプチドのピーク面積比を示す(*; p<0.05, **; p<0.01, N.S; 有意差なし)。縦軸はArea Ratio(面積比)を示す。
【
図5-2】SRM分析による3群(N、C及びCm)の間のペプチドの相対的定量の結果を示す図である(
図5-1の続き)。
【
図5-3】SRM分析による3群(N、C及びCm)の間のペプチドの相対的定量の結果を示す図である(
図5-2の続き)。
【
図5-4】SRM分析による3群(N、C及びCm)の間のペプチドの相対的定量の結果を示す図である(
図5-3の続き)。
【
図5-5】SRM分析による3群(N、C及びCm)の間のペプチドの相対的定量の結果を示す図である(
図5-4の続き)。
【
図5-6】SRM分析による3群(N、C及びCm)の間のペプチドの相対的定量の結果を示す図である(
図5-5の続き)。
【
図6-1】標的ペプチドの統計的解析の結果を示す図である(その1)。
図6-1aはSRM分析による3群(N、C及びCm)の間のペプチドの相対的定量の結果を示す。Nは非がん対照を示し、Cは転移のないがんを示し、Cmは転移のあるがんを示す。ドットプロットグラフは、SIペプチドに対する内在的ペプチドのピーク面積比を示す(*; p<0.05, **; p<0.01, N.S; 有意差なし)。縦軸はArea Ratio(面積比)を示す。
図6-1bはNとCを識別するためのROC曲線分析の結果(1)及びCとCmを識別するためのROC曲線分析の結果(2)を示す。識別のための曲線下の面積(AUC)をそれぞれのグラフに示す。縦軸はsensitivity(感度)を示し、横軸は1-specificity(特異性)を示す。
【
図6-2】標的ペプチドの統計的解析の結果を示す図である(その2)。
図6-2cはSRM分析による3群(N、C及びCm)の間のペプチドの相対的定量の結果を示す。Nは非がん対照を示し、Cは転移のないがんを示し、Cmは転移のあるがんを示す。ドットプロットグラフは、SIペプチドに対する内在的ペプチドのピーク面積比を示す(*; p<0.05, **; p<0.01, N.S; 有意差なし)。縦軸はArea Ratio(面積比)を示す。
図6-2dはNとCを識別するためのROC曲線分析の結果(1)及びCとCmを識別するためのROC曲線分析の結果(2)を示す。識別のための曲線下の面積(AUC)をそれぞれのグラフに示す。縦軸はsensitivity(感度)を示し、横軸は1-specificity(特異性)を示す。
【
図7-1】NとCを識別するためのROC曲線(1)及びCとCmを識別するためのROC曲線(2)を示す図である(その1)。識別のための曲線下の面積(AUC)をそれぞれのグラフに示す。縦軸はsensitivity(感度)を示し、横軸は1-specificity(特異度)を示す。
【
図7-2】NとCを識別するためのROC曲線(1)及びCとCmを識別するためのROC曲線(2)を示す図である(
図7-1の続き)。
【
図7-3】NとCを識別するためのROC曲線(1)及びCとCmを識別するためのROC曲線(2)を示す図である(
図7-2の続き)。
【
図7-4】NとCを識別するためのROC曲線(1)及びCとCmを識別するためのROC曲線(2)を示す図である(
図7-3の続き)。
【
図7-5】NとCを識別するためのROC曲線(1)及びCとCmを識別するためのROC曲線(2)を示す図である(
図7-4の続き)。
【
図7-6】NとCを識別するためのROC曲線(1)及びCとCmを識別するためのROC曲線(2)を示す図である(
図7-5の続き)。
【
図8-1】標的ペプチドの組合せのROC曲線分析の結果を示す図である(その1)。ペプチドを組合せたときの診断の感度をNとCの間で評価した。曲線下の面積(AUC)、感度(sensitivity)及び特異度(specificity)をそれぞれのグラフに示した。
【
図8-2】標的ペプチドの組合せのROC曲線分析の結果を示す図である(その2)。ペプチドを組合せたときの診断の感度をNとCの間で評価した。曲線下の面積(AUC)、感度(sensitivity)及び特異性(specificity)をそれぞれのグラフに示した。
【
図9】標的ペプチドの組合せのROC曲線分析の結果を示す図である。ペプチドの組合せたときの診断の感度をNとCの間で評価した。曲線下の面積(AUC)、感度(sensitivity)及び特異度(specificity)をそれぞれのグラフに示した。
図9は、高い正確性(AUC>0.9)の組合せを示す。他の組合せは
図8-1及び
図8-2に示した。
【
図10-1】標的ペプチドとCEAの感度(sensitivity)の比較の結果を示す図である。カットオフ値をNの最大ピーク面積に設定した場合の感度は、サンプルの割合として算出される(点線は、特異度が100%であることを示す)。縦軸はArea Ratio(面積比)を示す。
【
図10-2】標的ペプチドとCEAの感度(sensitivity)の比較の結果を示す図である(
図10-1の続き)。
【
図10-3】標的ペプチドとCEAの感度(sensitivity)の比較の結果を示す図である(
図10-2の続き)。
【
図11】標的ペプチドとCEAの感度の比較の結果を示す図である。カットオフ値(Cutoff)をNの最大ピーク面積に設定した場合の感度(sensitivity)は、サンプルの割合として算出される(点線は、特異性が100%であることを示す)。
図11においては、NとCの識別における感度がトップ3つのペプチドを示す。3つのぺプチドについてのグラフの縦軸はArea Ratio(面積比)を示す。CEAより感度が高い他のペプチドは
図10-1~10-3に示した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明は、大腸がん(CRC:colorectal cancer)を検出するためのバイオマーカーとしてのタンパク質又はその部分ペプチドである。また本発明は、該バイオマーカーを用いて大腸がんを検出する方法である。さらに本発明は、該バイオマーカーを用いて大腸がんを診断するための補助的データを取得する方法である。本発明のバイオマーカーを用いることにより、大腸がんを早期で検出することが可能である。
【0017】
本発明で用いるバイオマーカーは、例えば、プロテオーム解析技術により探索することができる。例えば、以下の工程で探索することができる。
【0018】
最初に、大腸がん患者の組織を用いて定量ショットガン・プロテオミクスによりバイオマーカーの候補となるタンパク質を探索する。この際、健常人の大腸組織若しくは大腸良性腫瘍組織と転移のない大腸がん症例の組織と転移のある大腸がん症例の組織の間で比較定量を行い、組織間で変動が認められるタンパク質を候補タンパク質として絞ることができる。また、バイオマーカー候補タンパク質の探索は、先行研究において、大腸がんの発症や進展に関連すると言われたタンパク質を用いることによっても行える。それらのバイオマーカー候補に対して、特定の質量の親イオンを選択的に破壊し、生成した娘イオンの中の特定のイオンを検出することにより複雑なサンプル内から標的とするタンパク質由来のペプチドを高感度に検出することができるSRM/MRM(Selected reaction monitoring(選択反応モニタリング)/Multiple reaction monitoring(多重反応モニタリング))法(Gillette MA et al., Nat Methods. 2013; 10:28-34)を用いたターゲットプロテオミクス法により組織間での発現量の変動の検証を行うことができる。この検証により、大腸がんバイオマーカーの最終候補を選抜することができる。次いで、これらのバイオマーカー候補が血液等の生体試料中で検出、定量ができるかを確認する。この際、好ましくは血中の細胞外小胞(EV)画分中で検出、定量を行う。
【0019】
本発明の方法において、以下のタンパク質が大腸がん検出のためのバイオマーカーとして挙げられる。
1.アネキシンA11(Annexin A11) (ANXA 11)(配列番号1)
2.アネキシンA3(Annexin A3) (ANXA 3)(配列番号2)
3.アネキシンA4(Annexin A4) (ANXA 4)(配列番号3)
4.テネイシン-N(Tanascin-N) (TNN)(配列番号4)
5.トランスフェリン受容体タンパク質1(Transferrin receptor protein 1) (TFRC)(配列番号5)
6.グルコーストランスポーター1(GLUT-1)(SLC2A1)(配列番号6)
7.補体成分C9(Complement component C9) (C9)(配列番号7)
8.CD88抗原(CD88 antigen) (C5AR1)(配列番号8)
9.78kDa グルコース制御タンパク質(78kDa glucose-regulated protein) (HSPA5)(配列番号9)
10.α-1-酸性グリコプロテイン(α-1-acid glycoprotein) (ORM1)(配列番号10)11.マトリックスメタロプロテアーゼ9(Matrix metalloproteinase-9) (MMP9)(配列番号11)
12.アンジオポエチン-1(Angiopoietin-1) (ANGPT1)(配列番号12)
13.CD67抗原(CD67 antigen) (CEACAM8)(配列番号13)
14.ムチン-5B(Mucin-5B) (MUC5B)(配列番号14)
15.アダプタータンパク質 GRB2(Adapter protein GRB2) (GRB2)(配列番号15)
16.アネキシンA5(Annexin A5)(ANXA 5)(配列番号16)
17.オルファクトメジン-4(Olfactomedin-4) (OLFM4)(配列番号17)
18.中性アミノ酸トランスポーターB(0)(Neutral amino acid transporter B(0))(SLC1A5)(配列番号18)
19.トリペプチジルペプチダーゼ1(Tripeptidyl-peptidase 1) (TPP1)(配列番号19)
20.熱ショック関連70kDaタンパク質2(Heat shock-related 70kDa protein 2)(HSPA2)(配列番号20)
21.プロテアソームサブユニットαタイプ-5(Proteasome subunit alpha type-5) (PSMA5)(配列番号21)
22.好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(Neutrophil gelatinase-associated lipocalin) (LCN2)(配列番号22)
【0020】
また、大腸がん検出のためのバイオマーカーとして用い得る上記タンパク質の部分ペプチドとして、
配列番号23若しくは24で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(アネキシンA11の部分ペプチド)、
配列番号25若しくは26で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(アネキシンA3の部分ペプチド)、
配列番号27若しくは28で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(アネキシンA4の部分ペプチド)、
配列番号29若しくは30で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(テネイシン-Nの部分ペプチド)、
配列番号31若しくは32で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(トランスフェリン受容体タンパク質1の部分ペプチド)、
配列番号33若しくは34で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(グルコーストランスポーター1の部分ペプチド)、
配列番号35若しくは36で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(補体成分C9の部分ペプチド)、
配列番号37若しくは38で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(CD88抗原の部分ペプチド)、
配列番号39若しくは40で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(78kDa グルコース制御タンパク質の部分ペプチド)、
配列番号41若しくは42で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(α-1-酸性グリコプロテインの部分ペプチド)、
配列番号43若しくは44で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(マトリックスメタロプロテアーゼ9の部分ペプチド)、
配列番号45若しくは46で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(アンジオポエチン-1の部分ペプチド)、
配列番号47若しくは48で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(CD67抗原の部分ペプチド)、
配列番号49若しくは50で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(ムチン-5Bの部分ペプチド)、
配列番号51若しくは52で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(アダプタータンパク質 GRB2の部分ペプチド)、
配列番号53で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(アネキシンA5の部分ペプチド)、
配列番号54で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(オルファクトメジン-4の部分ペプチド)、
配列番号55で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(中性アミノ酸トランスポーターB(0)の部分ペプチド)、
配列番号56で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(トリペプチジルペプチダーゼ1の部分ペプチド)、
配列番号57で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(熱ショック関連70kDaタンパク質2の部分ペプチド)、
配列番号58で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(プロテアソームサブユニットαタイプ-5の部分ペプチド)、
配列番号59で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンの部分ペプチド)等が挙げられる。
【0021】
本発明においては、上記のタンパク質あるいはそのタンパク質の部分ペプチドをバイオマーカーとして用いるが、配列番号1~59に表されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加したアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチドも含み、これらのタンパク質又はペプチドも本発明の方法においてバイオマーカーとして用いることができる。ここで、「1個若しくは数個」とは「1個若しくは3個」、「1個若しくは2個」又は「1個」をいう。
【0022】
ペプチドは、一般的には分子量1万以下のアミノ酸がペプチド結合により連結したものをいい、アミノ酸残基の数としては数個から50個以下程度のものをいう。本明細書においては、タンパク質又はその部分ペプチドをバイオマーカーとして用いることができ、部分ペプチドという場合、タンパク質の有するアミノ酸配列の一部の部分的アミノ酸配列を有するペプチドであって分子量は限定されないが、好ましくは1万以下のものをいう。部分ペプチドは、転写・翻訳による発現合成過程で生成する場合もあり、またタンパク質として合成された後に、生体内で消化分解を受けて消化分解産物ペプチドとして生成する場合もある。
【0023】
これらのタンパク質及びペプチドの中でもROC解析の結果、良好な検出感度及び特異度で大腸がんを検出し得ることが判明した、グルコーストランスポーター1、トランスフェリン受容体タンパク質1、アネキシンA5、マトリックスメタロプロテアーゼ9、アネキシンA4、アネキシンA11、テネイシン-N、アネキシンA3、オルファクトメジン-4、CD88抗原、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン若しくはトリペプチジルペプチダーゼ1、又はそれらの部分ペプチドが大腸がん検出のためのバイオマーカーとして用いるのが好ましい。さらに、アネキシンA4若しくはアネキシンA11、又はそれらの部分ペプチドを大腸がん検出のためのバイオマーカーとして用いるのが好ましい。
【0024】
本発明において、バイオマーカーとして上記の22個のタンパク質及び部分ペプチドのうち少なくとも一つのタンパク質および/または部分ペプチドを用いることができるが、好ましくは2種類以上、さらに好ましくは3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上、10種類以上、11種類以上、12種類以上、13種類以上、14種類以上、15種類以上、16種類以上、17種類以上、18種類以上、19種類以上、20種類以上、21種類以上、又は22種類のタンパク質または部分ペプチドを用いるとより高精度で大腸がんを検出することができる。この場合、異なるタンパク質の組合わせでもよいし、あるタンパク質とそのタンパク質以外のタンパク質の部分ペプチドあるいは部分ペプチドの組合わせであってもよい。また、複数のインタクトなタンパク質のみをバイオマーカーとしてもよい。このように、複数のタンパク質または部分ペプチドをバイオマーカーとして用いることにより、大腸がんをより正確に検出することができ、また大腸がんの進行状態を的確に判断することができる。
【0025】
例えば、グルコーストランスポーター1とトランスフェリン受容体タンパク質1の組合せ、グルコーストランスポーター1とアンジオポエチン-1の組合せ、マトリックスメタロプロテアーゼ9とトランスフェリン受容体タンパク質1の組合せ、トランスフェリン受容体タンパク質1と好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンの組合せ、トランスフェリン受容体タンパク質1とアンジオポエチン-1の組合せ、トランスフェリン受容体タンパク質1とアダプタータンパク質の組合せ、78kDa グルコース制御タンパク質とトリペプチジルペプチダーゼ1の組合せ、テネイシン-Nと好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンの組合せ、トランスフェリン受容体タンパク質1と好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンとアンジオポエチン-1の組合せ、トランスフェリン受容体タンパク質1とオルファクトメジン-4の組合せ、テネイシン-Nとアンジオポエチン-1の組合せ、オルファクトメジン-4とアンジオポエチン-1の組合せ、テネイシン-Nとオルファクトメジン-4の組合せ、オルファクトメジン-4とトリペプチジルペプチダーゼ1の組合せ等が挙げられる。それぞれのタンパク質の部分ペプチドの組合せでもよい。
【0026】
また、上記のタンパク質又は部分ペプチドを、従来より大腸がんのバイオマーカーとして知られているCEA(がん胎児性抗原)と組合わせて大腸がん検出のためのバイオマーカーとして用いることにより、単独で用いるよりも高感度かつ高特異度で検出することができる。
【0027】
大腸がん患者において、上記タンパク質又は部分ペプチドの発現が上昇する。従って、血液中のこれらのタンパク質又は部分ペプチドを定量すればよい。ここで、血液は、血清及び血漿を含む。また、上記タンパク質は細胞外小胞(EV)中に存在する。従って、血中に存在するEVを単離し、必要ならば濃縮後、EV中のタンパク質又は部分ペプチドを検出してもよい。EVは、例えば、超遠心分離によりEV画分として分離することができる。また、EVに特異的なマーカーにより単離することができる。EVのマーカーとして、CD9、CD63、CD81等が挙げられ、これらのマーカーに対する抗体を結合させた磁気ビーズ等を利用して分離することができる。また、他のEVのマーカーとしてホスファチジルセリン(PS)
が挙げられ、ホスファチジルセリンに対して親和性を有するホスファチジルセリン結合蛋白を結合させた磁気ビーズ等を利用して分離することができる。 ホスファチジルセリン結合蛋白としては例えばT細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子4(Tim4)、アネキシンA5(Annexin A5)、アネキシンV(Annexin V)、乳脂肪球-EGF因子蛋白8(MFG-E8)などがある。
【0028】
本発明の方法において、生体試料中のタンパク質/部分ペプチドプロファイルを調べるが、用いる生体試料は限定されない。例えば、生体から採取し得る液体試料、例えば全血、血清、血しょう、尿、唾液等の体液が挙げられる。なお、生体試料の保存状態によっては、生体試料中のタンパク質、部分タンパク質および部分ペプチドがさらに分解を受けることもあるので、生体試料は凍結融解を繰り返さずに用いるのが好ましい。また、生体試料中にプロテアーゼインヒビター等を添加してもよい。あるいは、FACS又はフローサイトメーターを用いて、上記マーカーを指標にエクソソームを分離することもできる。
【0029】
単離したエクソソームからタンパク質やペプチドを抽出し、上記タンパク質又はペプチドを測定すればよい。
【0030】
タンパク質又は部分ぺプチドは種々の方法で検出することができる。以下に例示するが、それらには限定されない。
【0031】
例えば、検出しようとするそれぞれのタンパク質又は部分ペプチドに対する抗体を用いた免疫学的測定法により測定することができる。免疫学的測定法としては、例えば、固相免疫測定法(RIA、EIA、FIA、CLIA等)、ドット・ブロッティング法、ラテックス凝集法(LA:Latex Agglutination-Turbidimetric Immunoassay)、イムノクロマト法などが挙げられる。抗体は基板上に固定化し用いることができる。
【0032】
この中でも、定量性の観点からEIA(Enzyme Immunoassay)法の1種であるELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法が好ましい。ELISA法では、抗体を固相化したマイクロタイタープレートのウェルに検体を添加し、抗原・抗体反応を行わせ、さらに酵素標識した抗体を添加し、抗原・抗体反応をさせ、洗浄後、酵素基質と反応・発色させ、吸光度を測定してサンプル中のマーカータンパク質又は部分ペプチドを検出すると共に、その測定値から検体中のタンパク質又は部分ペプチド濃度を算出することができる。また、蛍光標識した抗体を用いて、抗原・抗体反応をさせた後に蛍光を測定してもよい。抗原抗体反応は4℃~45℃、より好ましくは20℃~40℃、さらに好ましくは25℃~38℃で行うことができ、また、反応時間は、10分~18時間、より好ましくは10分~1時間、さらに好ましくは30分~1時間程度である。
【0033】
免疫学的方法において用いられるマーカータンパク質又は部分ペプチドに対する抗体は、モノクローナル抗体でも、ポリクローナル抗体でもよく、モノクローナル抗体のFab、F(ab')、F(ab')2等の結合活性断片を用いることもできる。
【0034】
本発明は上記の22種のタンパク質あるいはその部分ベプチドの1つ又は複数に対する抗体を含む、大腸がん検出用検査試薬又はキットをも包含する。
【0035】
大腸がん検出のためのバイオマーカータンパク質又はその部分ペプチドを質量分析計を用いた質量分析法により解析することもできる。質量分析法は、特に部分ペプチドの検出に適している。
【0036】
また、質量分析計を用いて検出することもできる。特に、バイオマーカータンパク質の部分ペプチドの検出には質量分析計の利用が適している。質量分析計は、試料導入部、イオン化室、分析部、検出部、記録部等を含む。イオン化法としては電子衝撃イオン化(EI)法、化学イオン化(CI)法、フィールドデソープション(FD)法、二次イオン化(SIMS)法、高速原子衝突(FAB)法、matrix-assisted laser desorption ionization(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法等を用いればよい。また、分析部は、二重収束質量分析計、四重極型質量分析計、飛行時間型質量分析計、フーリエ変換質量分析計、イオンサイクロトロン質量分析計等が用いられる。精密な分析のために質量分析計を2台結合した、タンデム質量分析計(MS/MS)を用いることもできる。
【0037】
質量分析計は単独で用いられてもよいし、液体クロマトグラフィーなどの分離機器や測定機器などと接続してもよく、高速液体クロマトグラフィーと組み合わせた液体クロマトグラフ質量分析(LC/MS、LC/MS/MS)で分析することができる。質量分析はペプチドの定量的検出のために当分野において広く用いられているLC/MS(LC/MS/MS)システムの、トリプル四重極型質量分析計による選択反応モニタリング(SRM:Selected reaction monitoring, SRM)または多重反応モニタリング(MRM:Multiple reaction monitoring))によって行うことができる。SRM/MRMにより、多因子を同時に測定することができ、1回の測定で数百種類のタンパク質やペプチドを同時に測定することができる。
【0038】
被験体から採取したサンプル中に上記バイオマーカータンパク質又は部分ペプチドが多く存在している場合、すなわち陽性である場合、該被験体は大腸がんに罹患していると判断することができる。
【0039】
本発明においては、健常人から採取したサンプルを陰性対象として同時に測定してもよい。この場合、被験体が大腸がんに罹患している場合、被験体の検体中のバイオマーカータンパク質又は部分ペプチド濃度が健常人に比べて上昇するので、被験体におけるバイオマーカータンパク質又は部分ペプチド濃度が健常人よりも多い場合、バイオマーカータンパク質又は部分ペプチドは陽性と判断され、被験体が大腸がんに罹患していると判断することができる。サンプル中のバイオマーカータンパク質又は部分ペプチドが陽性か否かは、あらかじめSRM/MRM法で検出されたバイオマーカーペプチドのピークの面積値と内部標準である安定同位体標識ペプチドのピークの面積値の比又は抗体測定値についてカットオフ値を定めておき、該カットオフ値を基準としカットオフ値を超えた場合に、陽性であると判断することができる。
【0040】
カットオフ値は、例えば、ROC(receiver operating characteristic curve:受信者動作特性曲線)解析により定めることができる。また、ROC解析により本発明の方法による診断精度(感度及び特異性)を決定することができる。ROC解析は、試料として大腸がん患者から採取した試料と健常者から採取した試料についてバイオマーカータンパク質又は部分ペプチドを測定し、各カットオフ値での感度及び偽陽性率(1-特異性)を算出し、横軸と1-特異性とし、縦軸を感度とした座標上にプロットする。
【0041】
本発明の方法の測定結果についてROC解析により診断精度を解析した場合の、曲線下面積(AUC:area under the curve)は0.9以上と高く、感度は70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上であり、特異性は70%以上、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上である。本発明の方法により、非常に高い精度で初期の大腸がんを検出することができる。
【実施例】
【0042】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0043】
方法
大腸がん患者および健常者血清および大腸がん培養細胞
大腸がん患者51名、および健常者26名の血清(千葉大医学部にて採取)を採取した。各検体血清サンプルは、解析まで-80℃に保存しておいた。
【0044】
4つの大腸がん細胞株HCT116 (ATCC; CCL-247), DLD-1 (ATCC; CCL-221), SW480 (ATCC; CCL-228) and SW620 (ATCC; CCL-227)は10%牛血清(FBS)及び抗生物質含有RPMI-1640培地(Gibco Laboratories)で培養した。
【0045】
細胞がサブコンフルエントまで増殖するまで、各細胞は5%CO2のインキュベーターで37℃に維持したで培養し、サブコンフルエントまで増殖させた。その後、これらの培養細胞は、FBS非含有培地で洗浄し、新鮮FBS非含有培地を添加した。さらにインキュベーターで48時間培養した後に、馴化上清培地を集め、EV(extracellular vesicle)を単離用のサンプルとした。
【0046】
EV(extracellular vesicle:細胞外小胞)の単離
EVの単離は、超遠心法により行った。遠心管の底にショ糖緩衝剤を敷くことで、EV回収時に低密度の夾雑物を効率よく分離することができる。超遠心前の処理として、血清100μlを300gで10分間、遠心分離し、大きな夾雑物を除去した。その後、回収した上清を、0.22μmスピンフィルタ(Agilent Technologies, Santa Clara, CA)に通し、100,000gで90分間、30%のショ糖/D2O緩衝剤で遠心分離を行った。緩衝剤を回収し、さらに100,000gで70分間超遠心分離機に二度かけた後、遠心管に沈殿したEV画分を回収した。
【0047】
EVからのタンパク質抽出及び消化
タンパク質抽出及びタンパク質消化は、相間移動溶解剤(PTS:Phase transfer surfactant)プロトコール(Masuda T et al. J. Proteome Res. 7, 731-740 (2008)) により行った。EV画分タンパク質はMPEX PTS試薬キット(GL Science、日本)で溶解した後、ジチオトレイトールを終濃度5mMで加えて室温で30分間還元反応を行い、さらにヨードアセトアミドを終濃度20mMで加えてアルキル化反応を行った。
【0048】
その後、サンプルに1%(w/w)トリプシン(proteomics grade; Roche Mannheim, Germany)を加えて、37℃オーバーナイトで消化した。消化後、液量と等量の酢酸エチルと終濃度1%の三フルオロ酢酸を加えてボルテックスし、液中の界面活性剤を有機層に分離した。遠心分離後、ペプチドを含んでいる水相を回収し、Stage Tips(Rappsilber J. et al., Nat. Protoc. 2, 1896-1906 (2007))による脱塩を行った。
【0049】
液体クロマトグラフィー(LC)-質量分析計(MS/MS)及びプロテオームのデータ分析
消化されたペプチドは、C18-SCX StageTipクロマトグラフィーカラムによって7分画した。その後、LC(UltiMate3000 Nanoflow HPLC system (Dionex、サニーヴェール、CA))を連結した質量分析計(Q-Exactive(Thermo Scientific、ブレーメン、ドイツ))で分析した。サンプルの質量分析器への導入は、内径75μm長さ300mmのニードルに1.9μmのC18-AQ樹脂を封入した自作の分析カラムを用いた。LCの移動相は、緩衝液A(0.1%ギ酸及び2%アセトニトリル)及びB(0.1%ギ酸及び90%アセトニトリル)から構成される。消化されたペプチドを緩衝液Aに溶解し、トラップカラム0.075 × 20 mm, Acclaim PepMap RSLC
Nano-Trap Column; Thermo Scientific)にロードした。ナノLCは280nL /分で送液され、移動相は120分で5~35%Bの勾配で展開された。質量分析はFull MSスキャン(350~1800m/z、イオン積算3×106分解能70,000)およびMS/MSスキャン(Top10プリカーサーイオン、インジェクションタイム120ms、分解能35,000、MS/MSイオン選択閾値5×104カウント、分離幅3.0Da)で測定した。データファイルの解析は、MaxQuantソフトウェア(Ver 1.5.1.2)により行った。検索エンジンにはAndromeda、UniProtヒトタンパク質データベースに対して、ピークリストの検索を行った。プリカーサー質量誤差範囲は7ppm、断片イオン質量誤差範囲は0.01Daに設定した。同定タンパク質およびペプチドは、リバースデータベースに対する1%未満の偽陽性率(FDR 1%>)で判定した。
【0050】
LC-SRM/MRM解析
LC-SRM/MRM解析は以前に報告された方法により行った(Kume, H. et al., Mol. Cell. Proteomics 13, 1471-1484 (2014): Muraoka, S. et al., J. Proteome Res. 11, 4201-4210 (2012): Narumi, R. et al., J. Proteome Res. 11, 5311-5322 (2012))。消化ペプチドは0.1%のトリフルオロ酢酸(TFA)を含む2%のアセトニトリル溶液に溶解され、その後、ナノフローLC Paradigm MS2 (Michrom BioResources, Auburn, CA)を連結したトリプル四重極質量分析計 TSQ-Vantage(Thermo Fisher Scientific, Bremen, Germany)を用いて分析した。サンプルの質量分析器への導入は、内径75μm長さ100mmのニードルに1.9μmのC18-AQ樹脂を封入した自作の分析カラムを用いた。LCの移動相は、緩衝液A(0.1%ギ酸及び2%アセトニトリル)及びB(0.1%ギ酸及び90%アセトニトリル)から構成される。消化されたペプチドを緩衝液Aに溶解し、トラップカラム0.075 × 20 mm, Acclaim PepMap RSLC Nano-Trap Column; Thermo Scientific)にロードした。ナノLCは280nL /分で送液され、移動相は60分で5~35%Bの勾配で展開された。SRMモードでの解析は以下の条件で行った(Q1 Peak Width 0.7 FWHM, Cycle time:1 sec, Collision Gass Pressure 1.8
mTorr)。衝突エネルギーはSRMトランジションごとに最適化され、各トランジションの強度はピーク時間幅5分のスケジュールモードで測定した。
【0051】
SI-ペプチドを用いた標的ペプチドの定量
SRMによる標的ペプチドの定量は、内部標準として標的ペプチドと同配列のStable isotope-labeled peptide (SI-ペプチド)を各検体血清から調製したEVに混合し、SRM解析により検出された内在性ペプチド/SI-ペプチドのピークエリア比(Peak Area Ratio)により算出した。標的ペプチドと同配列のSI-ペプチドのスパイク量は事前分析を実行することによって内在性ペプチドに近くなるように調整した。
【0052】
SRM解析によるピークエリア比率の統計分析
SRM解析により算出された各検体のPeak Area Ratioより、標的ペプチドの大腸バイオマーカーとしての評価を行うため、SRMデータの統計分析を行った。統計分析には、SPSSソフトウェア(バージョン23)(SPSS Inc., Chicago, IL)を用いた。まず、それぞれの標的ペプチド単独でのバイオマーカーとしての評価を、ROC解析(ROC:Receiver Operating Characteristic)によるAUC(AUC:Area under the Curve)の値を算出して行った。さらに、複数の標的ペプチドを組み合わせた、マルチマーカーとしての評価も行った。標的ペプチドの組み合わせにはSPSSソフトウェアを用いてロジスティック回帰モデルを作成し、評価した。モデルが有効なペプチドの組み合わせに対して、同じくROC解析により算出したAUCの値により評価した。
【0053】
結果
CRC関連バイオマーカー候補タンパク質の探索
図1に、本件のバイオマーカー候補探索の戦略を示す。CRCバイオマーカー候補タンパク質のリストを、医学と生物学文献のPubMed Databaseから得た。検索式として、「cancer」AND 「colorectal」AND 「expression」を用いて、2003年から2014年のデータベース上の文献検索を行い、大腸癌関連の687のタンパク質についてCRCバイオマーカー候補としてリスト化した。候補タンパク質の選択は以下の(1)~(4)の基準により行った。
(1)ヒトCRC組織又は血液におけるタンパク質発現を、ウエスタンブロット、ELISA又は免疫組織化学によって確認している。
(2)標的タンパク質ががんにおいて発現上昇していることが確認されている。(発現が上昇するタンパク質は発現が減少するタンパク質よりも検出が容易であるため、バイオマーカーに適している)。
(3)がんの発現及び進行に関連する標的タンパク質の分子機能が、RNAiまたは分子の過剰発現によって実験的に確認されている。
(4)大規模な分析(例えばomics分析)で特定されただけのタンパク質は、除外した。
【0054】
さらに、本発明者らは、以前臨床検体の標的プロテオミクスによって、44のCRCバイオマーカー候補タンパク質を特定していた(Kume, H. et al., Mol. Cell. Proteomics 13,
1471-1484 (2014))。これらの44のタンパク質は上記のバイオマーカー候補と合わせ、重複するタンパク質を除いた、合計725のタンパク質を、CRCバイオマーカー候補として選択した。
【0055】
ショットガン・プロテオミクス解析によるEV含有バイオマーカー候補の選択
選択されたバイオマーカー候補タンパク質の中から、EVに存在するタンパク質を選択するために、血清および培養細胞上清から調製したEVを用いて、ショットガン・プロテオミクス解析によりEVタンパク質の定性解析を行った。ショットガン・プロテオミクスのワークフローを
図2aに示す。
【0056】
血清と細胞上清からのEVの調製は超遠心法によって行った。血清EVは、健常者、転移のない癌患者、転移のある癌患者それぞれ8人より採取した。培養細胞上清は、4つのCRC細胞(HCT116、DLD-1、SW480、SW620)から採取した。抽出したタンパク質は相関移動溶解剤(PTS)法を用いることによって消化した後、C-18 Stage SCX Tipカラムにより分画した(Masuda, T et al., J. Proteome Res. 7, 731-740 (2008); Adachi, J. et al. Anal. Chem. 88, 7899-7903 (2016))。分画サンプルをLC-MS/MSで分析し、マスコット・データベース検索により、それぞれ702(血清EV)および4749の(細胞上清EV)タンパク質を同定した。これらのEV同定タンパク質とバイオマーカー候補タンパク質の比較により、356のタンパク質が、EVタンパク質含有のバイオマーカー候補であると同定された(
図2b)。
【0057】
EV中に同定されたバイオマーカー候補タンパク質からのSRMターゲットペプチドの選択
候補タンパク質がバイオマーカーとして有効か検証するため、CRC患者血清から採取したEV分画のSRM解析を行った。SRM候補ペプチドは、ショットガン・プロテオミクスで特定されたペプチドから選択した。候補ペプチド選択の基準として、以下の(1)~(3)を用いた。
(1)同定されたタンパク質はタンパク質に固有のペプチド配列であり、複数ある場合はショットガン解析において強度の高い標的を選択した。
(2)トリプシンによる切断ミスや、SRM解析に適さないアミノ酸修飾(例えば、酸化されたメチオニン等)を有するペプチドは除外した。
(3)長すぎるペプチド(> 20アミノ酸)は、安定同位体標識ペプチド(SI-ペプチド)を合成することが困難であるため、標的ペプチドから除外した。
【0058】
これらの基準を満たすペプチドは、すべての同定されたペプチドの中で3316ペプチド(346のタンパク質)存在した。
【0059】
次に、これらの候補からSRM標的ペプチドを選ぶために、非がんコントロールの健常者(N)プール血清(n=26)、転移のないがん患者(C)のプール血清(n=26)、転移のあるがん患者(Cm)のプール血清(n=25)から調製したEV分画を用いてSRM分析を行った。ショットガン解析の結果から、ペプチドあたりに3つまたは4つのトランジション(プリカーサーイオンとプロダクトイオンの対)を選択した。SRM解析はそれぞれのプールごとに3回繰り返し測定し、ペプチドピーク面積はSkylineソフトウェアを用いて定量化した。ピーク面積がプールサンプル(N対CまたはC対Cm)の間で2倍以上有意(p<0.01)に増加した標的ペプチドをマーカー候補ペプチドとして選択した。二つ以上の候補ペプチドが検出されたタンパク質については、SRM解析でのピーク強度が高い2つのペプチドを選択した。これらの基準を考慮して、71のペプチド(46のタンパク質)を、バイオマーカ候補の標的ペプチドとして選択した(
図3)。
【0060】
血清EV画分における標的ペプチドのSRMによる定量
個々の患者の血清から調製したEV画分中の37バイオマーカー候補ペプチドについて、SRMによる定量解析を行った。個々のEV画分は、3つの群の患者血清(健常者(N); n=26、転移なしがん患者(C); n=26、転移ありがん患者(Cm); n=25)のグループから調製した。各検体には等量のSI-peptideを内部標準として加え、内在性の標的ペプチドに対するピーク面積比をSkylineソフトウェアを用いて算出した。それぞれの標的ペプチドについて、N,C,およびCmのグループ間での定量値の比較をt検定により行ったところ、NとCまたはCとCmの間で有意な定量値の増加が見られた(p <0.05)(
図4及び
図5-1、5-2、5-3、5-4、5-5及び5-6)。
【0061】
標的ペプチドの統計分析によるバイオマーカーとしての評価
バイオマーカーの候補ペプチドの評価をするために、37ペプチドについてROC(Receiver Operating Characteristic、受信者動作特性)分析を行った。各候補ペプチドについて、NとCとの間およびCとCmとの間の区別を評価した。4つのペプチド(3つのタンパク質)は非常に感度が高いタンパク質(AUC>0.9、
図6-1a,b)であった。そして、22のペプチドはNとCを識別するために十分に感度が高かった(0.7-0.9AUC、
図7-1、7-2、7-3、7-4、7-5及び7-6)。一方、11のペプチドはCとCm(
図6-2c,d)を識別するために十分に感度が高かった。
【0062】
次に、候補ペプチドを組合せてマルチマーカーとしてより高い感度が得られるかどうかを、ロジスティック回帰分析により調べた。ペプチドの有意な組み合わせについては、SPSSソフトウェアを用いて評価した。2つ以上のペプチドによるロジスティック分析の結果は、マルチマーカーのROC曲線のAUCにより評価した。候補ペプチドの14の組合せについてはAUCはマーカー単独の値よりも増加し(
図8-1及び8-2)、特に8つの組合せについてはAUCが0.9<であった(
図9)。最も高いAUC (0.97)は、3つのペプチド(トランスフェリン受容体タンパク1、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンおよびアンジオポエチン-1)の組合せによって得られた。これらの結果は、複数のマーカーの組み合わせが大腸がんの診断の精度を改善するのに有効であることを示唆している。
【0063】
広く使われている腫瘍マーカー(がん胎児性抗原CEA)と標的ペプチドの感度の比較
CEAは今日、最も広く利用されている大腸がんの血中マーカーの1つである。しかし、CEAの感度は、早期のステージ患者を見つけるのに十分ではなく、ステージ2の患者に対する感度は30%程度であることが報告されている。そこで、新たに確立した37のバイオマーカー候補とCEA比較の比較を行った。各標的ペプチドのSRM定量値のカットオフ点は、CEA特異性がほぼ100%であるため、100%の特異性に設定した。検証に用いた検体グループCに対するCEAの感度は、38.8%であった。一方、37の標的ペプチドのうち17のペプチド(12のタンパク質;Annexin A3、Annexin A4、Annexin A5、Annexin A11、Tenascin-N、Transferrin受容体タンパク1、GLUT-1、マトリックス・メタロプロテイナーゼ-9、Olfactomedin-4、CD88抗原、Tripeptidyl-ペプチダーゼ1、Neutrophilゼラチナーゼ関連のlipocalin)の感度はCEAを大きく上回っていた(
図10-1、10-2及び10-3)。特に、Annexin A4およびA11の3つのペプチドの感度は、80%<であった(
図11)。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の方法により大腸がんを早期で検出することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0065】
配列番号23~59 合成
【0066】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表】