(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/172 20060101AFI20230525BHJP
【FI】
B60T8/172 Z
(21)【出願番号】P 2020062455
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】深見 翔
(72)【発明者】
【氏名】野口 敬悟
【審査官】前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-111084(JP,A)
【文献】特開2010-76468(JP,A)
【文献】特開2004-291778(JP,A)
【文献】特開2000-264183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 - 8/1769
8/32 - 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制動時に、制動操作部材の操作に基づいた目標制動力を導出し、該目標制動力に応じた制動力を発生させるように制動装置を制御する制動制御装置であって、
前記制動操作部材の操作量および操作速度を取得する処理を制御サイクル毎に実行する操作取得部と、
前記目標制動力の導出に用いる中間制動力を導出する処理を前記制御サイクル毎に実行するものであり、当該処理では前記操作量が大きくなるにしたがって前記中間制動力が大きくなるように該中間制動力を導出する中間制動力導出部と、
前記目標制動力を調整するゲインである操作速度ゲインを導出する処理を前記制御サイクル毎に実行するものであり、当該処理では前記操作速度が速いほど前記操作速度ゲインを大きくする操作速度ゲイン導出部と、
前記中間制動力の今回導出時の値と前記中間制動力の前回導出時の値との差を差分として、前記操作速度ゲインを前記差分に乗算した値を前記中間制動力の今回導出時の値に加算して前記目標制動力として導出する処理を前記制御サイクル毎に実行する調整部と、を備える
制動制御装置。
【請求項2】
前記中間制動力導出部は、
前記操作量が大きいほど基礎制動力を大きく導出する基礎制動力導出部と、
前記目標制動力を調整するゲインである車速ゲインを前記車両の車速が高いほど大きく導出する車速ゲイン導出部と、を有し、
前記車速ゲインを前記基礎制動力に乗算した値を前記中間制動力とする
請求項1に記載の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の制動時に、ブレーキペダルのペダルストロークと制動力との関係に基づいて車両に付与する制動力を発生させる制動力制御方法が開示されている。
特許文献1に開示されている制動力制御方法では、ペダルストロークと制動力との関係として、ブレーキペダルの操作速度が速いときのマップまたは操作速度が遅いときのマップが用いられる。操作速度が速いときのマップでは、ペダルストロークが所定の値であるときに対応する制動力が、操作速度が遅いときのマップの場合よりも大きくされている。制動が開始されたときの操作速度に応じたマップが選択され当該制動が終了するまでは選択されたマップを用いて、ペダルストロークに応じた制動力を付与するように制動装置が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている制動力制御方法では、制動が開始されてから操作速度が途中で変化したとしても、制動力の導出に用いられるマップは変更されない。すなわち、制動操作中に運転者が意図的にブレーキペダルの操作速度を変えても、操作速度の変化が制動力の制御に反映されない。
【0005】
また、操作速度が速いときのマップと操作速度が遅いときのマップとではペダルストロークが所定の値であるときにペダルストロークに対応する制動力の大きさが異なる。このため、仮に制動操作中に操作速度の変化に基づいてマップを切り換えるとすると、操作速度が変化した前後で制動力が大きく変動する場合があり、車両の減速度が大きく変動するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための制動制御装置は、車両の制動時に、制動操作部材の操作に基づいた目標制動力を導出し、該目標制動力に応じた制動力を発生させるように制動装置を制御する制動制御装置であって、前記制動操作部材の操作量および操作速度を取得する処理を制御サイクル毎に実行する操作取得部と、前記目標制動力の導出に用いる中間制動力を導出する処理を前記制御サイクル毎に実行するものであり、当該処理では前記操作量が大きくなるにしたがって前記中間制動力が大きくなるように該中間制動力を導出する中間制動力導出部と、前記目標制動力を調整するゲインである操作速度ゲインを導出する処理を前記制御サイクル毎に実行するものであり、当該処理では前記操作速度が速いほど前記操作速度ゲインを大きくする操作速度ゲイン導出部と、前記中間制動力の今回導出時の値と前記中間制動力の前回導出時の値との差を差分として、前記操作速度ゲインを前記差分に乗算した値を前記中間制動力の今回導出時の値に加算して前記目標制動力として導出する処理を前記制御サイクル毎に実行する調整部と、を備えることをその要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、制動操作部材の操作速度が反映された操作速度ゲインが制御サイクル毎に導出され、操作速度ゲインによって目標制動力が増大される。このため、制動中に操作速度が変わったときには操作速度に応じて制動力を大きくできる。すなわち、運転者が意図的に操作速度を変えた場合に操作速度の変化を制動力に反映することができる。
【0008】
また、上記構成では、操作速度ゲインによって目標制動力を調整するにあたって、操作速度ゲインは、中間制動力の差分に乗算される。すなわち、操作速度ゲインは、目標制動力が変化する勾配を補正することになる。このため、制動中に操作速度が変わった場合に、操作速度の変化を目標制動力に反映しつつも操作速度が変わる前後で目標制動力の変化が大きくなりにくい。これによって、操作速度が変わる前後での車両の減速度の変動が大きくなることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】車両の制動制御装置の一実施形態と、同制動制御装置が適用される車両と、を示す模式図。
【
図3】同制動制御装置によって導出される目標制動力と制動操作部材の操作量との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、制動制御装置の一実施形態について、
図1~
図3を参照して説明する。
図1は、本実施形態の制動制御装置10と、制動制御装置10を搭載する車両90と、を示す。
【0011】
車両90は、制動機構84を備えている。制動機構84は、車両90の各車輪にそれぞれ設けられている。
図1には、車両90が備える車輪のうち一つの車輪91と、車輪91に対応する制動機構84と、を図示している。制動機構84では、ホイールシリンダ85内の液圧が高いほど、制動機構84に対応する車輪91と一体回転する回転体86に対して摩擦材87が強く押し付けられる。摩擦材87を回転体86に押し付けることによって、車輪91に制動力が付与される。
【0012】
車両90は、ホイールシリンダ85内の液圧を制御することによって車輪91に付与する制動力を調整する制動装置80を備えている。制動装置80は、制動機構84に加えて、液圧発生装置81と、制動アクチュエータ83とを有している。液圧発生装置81は、制動操作部材92が運転者によって操作されているときに、その操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダ82を備えている。運転者によって制動操作部材92の操作が行われている場合、マスタシリンダ82で発生した液圧に応じた量のブレーキ液が制動アクチュエータ83を介してホイールシリンダ85内に供給される。制動操作部材92は、たとえば運転者が踏むことによって操作するブレーキペダルである。制動アクチュエータ83は、各ホイールシリンダ85内の液圧を制御することによって、車輪に付与する制動力を調整できる。
【0013】
車両90は、車両90の状態を検出するための各種センサを備えている。車両90は、各種センサの一例として、車両90の各車輪における車輪速度を検出する車輪速センサ93を備えている。車輪速センサ93は、各車輪にそれぞれ設けられている。車両90は、制動操作部材92の操作量を検出するストロークセンサ94を備えている。
【0014】
図1に示すように、各種センサからの検出信号は、制動制御装置10に入力される。
なお、制動制御装置10は、以下(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える。プロセッサは、CPU並びに、RAMおよびROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。(b)各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備える。専用のハードウェア回路は、たとえば、特定用途向け集積回路すなわちASIC(Application Specific Integrated Circuit)、または、FPGA(Field Programmable Gate Array)等である。(c)各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行する専用のハードウェア回路と、を備える。
【0015】
図2に示すように、制動制御装置10は、機能部として、操作取得部11と、車速取得部12と、制動制御部13と、を備えている。さらに、制動制御装置10は、車両90に付与する制動力の目標値として目標制動力BPTを導出する目標制動力導出部20を備えている。
【0016】
操作取得部11は、制動操作部材92の操作量としてペダルストロークSPを取得する。たとえば、操作取得部11は、ストロークセンサ94からの検出信号に基づいて、制動操作部材92の操作量としてペダルストロークSPを導出する。また、操作取得部11は、制動操作部材92の操作速度DSPを取得する。たとえば、操作取得部11は、ペダルストロークSPの変化速度に基づいて、制動操作部材92の操作速度DSPを導出する。操作速度DSPは、たとえばペダルストロークSPを時間微分することによって導出することができる。操作取得部11は、ペダルストロークSPを時間微分することによって操作速度DSPを導出する。すなわち、操作取得部11は、制動操作部材92が操作されているとき、すなわち車両90の制動時に、制動操作部材92のペダルストロークSPおよび操作速度DSPを取得する処理を所定の制御サイクル毎に実行する。
【0017】
以下では、制動操作部材92の踏み込みによってペダルストロークSPが規定の第1判定値よりも大きくなってから、制動操作部材92の踏み込みが解消されてペダルストロークSPが規定の第2判定値よりも小さくなるまでの期間のことを制動操作中という。第1判定値は、たとえば「0」が設定される。あるいは、第1判定値は、「0」よりも僅かに大きい値でもよい。第2判定値は、第1判定値と等しい値を設定してもよいし、第1判定値とは異なる値を設定することもできる。
【0018】
車速取得部12は、車輪速センサ93からの検出信号に基づいて、各車輪の車輪速VWを導出する。車速取得部12は、各車輪の車輪速VWに基づいて、車速VSを導出する。
制動制御部13には、目標制動力導出部20によって導出された目標制動力BPTが入力される。制動制御部13は、目標制動力BPTに基づいて制動装置80を制御することで、各車輪に付与する制動力を調整する。
【0019】
目標制動力導出部20は、基礎制動力導出部22を備えている。基礎制動力導出部22には、操作取得部11からペダルストロークSPが入力される。基礎制動力導出部22には、ペダルストロークSPと、目標制動力BPTの導出に用いる基礎制動力BPBと、の関係が記憶されている。基礎制動力導出部22は、当該関係を満たすようにペダルストロークSPに基づいて基礎制動力BPBを導出する処理を実行する。当該処理は、制動操作中に所定の制御サイクル毎に実行される。ペダルストロークSPと基礎制動力BPBとの関係は、ペダルストロークSPが大きいほど基礎制動力BPBが大きくなる関係である。
図2には、ペダルストロークSPと基礎制動力BPBとの関係の一例を示している。
【0020】
目標制動力導出部20は、車速ゲイン導出部23を備えている。車速ゲイン導出部23には、車速取得部12から車速VSが入力される。車速ゲイン導出部23には、車速VSと、基礎制動力BPBに乗算するゲインとしての車速ゲインK1と、の関係が記憶されている。車速ゲインK1は、車速VSが大きいほど目標制動力BPTを大きく補正するためのゲインである。車速ゲインK1の最小値は、「1」である。車速VSと車速ゲインK1との関係は、車速VSが大きいほど車速ゲインK1が大きくなる関係である。車速ゲイン導出部23は、当該関係を満たすように車速VSに基づいて車速ゲインK1を導出する。
図2には、車速VSと車速ゲインK1との関係の一例を示している。この例では、車速VSが車速第1値v1以下であるときには、車速ゲインK1が最小値となる。車速VSが車速第1値v1よりも大きく車速第2値v2よりも小さいときには、車速VSが大きいほど車速ゲインK1が大きくなる。車速VSが車速第2値v2以上であるときには、車速ゲインK1が最大値となる。
【0021】
なお、車速ゲイン導出部23は、制動が開始されたとき、すなわち制動操作部材92の操作が開始されたときに、制動開始時の車速VSに基づいて車速ゲインK1を導出する処理を実行する。車速ゲイン導出部23は、制動開始時に導出したものと同じ値の車速ゲインK1を制動操作中に出力し続ける。
【0022】
目標制動力導出部20は、第1調整部24を備えている。第1調整部24には、基礎制動力導出部22によって導出される基礎制動力BPBと、車速ゲイン導出部23によって導出される車速ゲインK1と、が入力される。第1調整部24は、目標制動力BPTの導出に用いる中間制動力BPIを導出する処理を実行する。当該処理は、制動操作中に所定の制御サイクル毎に実行される。
【0023】
第1調整部24は、中間制動力BPIを導出する処理では、基礎制動力BPBに車速ゲインK1を乗算した値を中間制動力BPIとする。基礎制動力BPBが大きいほど中間制動力BPIが大きい値となる。また、車速ゲインK1が大きいほど中間制動力BPIが大きい値となる。すなわち、中間制動力BPIは、制動開始時の車速VSが大きいほど大きい値として導出され、ペダルストロークSPが大きくなるにしたがって大きくされる。
【0024】
制動制御装置10では、基礎制動力導出部22、車速ゲイン導出部23および第1調整部24によって、中間制動力BPIを導出する中間制動力導出部21が構成されている。
目標制動力導出部20は、操作速度ゲイン導出部25を備えている。操作速度ゲイン導出部25には、操作取得部11から操作速度DSPが入力される。操作速度ゲイン導出部25には、操作速度DSPと、操作速度ゲインK2と、の関係が記憶されている。操作速度ゲインK2は、操作速度DSPが速いほど目標制動力BPTを大きくするためのゲインである。たとえば、操作速度ゲインK2は、「0」以上「1」未満の値である。操作速度ゲインK2は、後述するように、中間制動力BPIの差分に乗算される。操作速度DSPと操作速度ゲインK2との関係は、操作速度DSPが大きいほど操作速度ゲインK2が大きくなる関係である。操作速度ゲイン導出部25は、当該関係を満たすように操作速度DSPに基づいて操作速度ゲインK2を導出する処理を実行する。当該処理は、制動操作中に所定の制御サイクル毎に実行される。
図2には、操作速度DSPと操作速度ゲインK2との関係の一例を示している。この例では、操作速度DSPが操作速度第1値d1以下であるときには、操作速度ゲインK2が最小値となる。操作速度DSPが操作速度第1値d1よりも大きく操作速度第2値d2よりも小さいときには、操作速度DSPが大きいほど操作速度ゲインK2が大きくなる。操作速度DSPが操作速度第2値d2以上であるときには、操作速度ゲインK2が最大値となる。
【0025】
目標制動力導出部20は、第2調整部26を備えている。第2調整部26には、第1調整部24によって導出される中間制動力BPIと、操作速度ゲイン導出部25によって導出される操作速度ゲインK2と、が入力される。第2調整部26は、中間制動力BPIと操作速度ゲインK2とに基づいて目標制動力BPTを導出する処理を実行する。当該処理は、制動操作中に所定の制御サイクル毎に実行される。
【0026】
第2調整部26によって目標制動力BPTが導出される処理の詳細を説明する。第2調整部26は、入力される中間制動力BPIの値を記憶する機能を備えている。ここで、目標制動力BPTを導出する処理が実行されたときの、今回の処理において入力された中間制動力BPIを今回導出値BPI1として、前回の処理において入力された中間制動力BPIを前回導出値BPI0とする。第2調整部26は、前回導出値BPI0を用いて、今回導出値BPI1と前回導出値BPI0との差を導出して中間制動力BPIの差分ΔBPIとする。すなわち、第2調整部26は、前回の制御サイクルにおいて第1調整部24によって導出された中間制動力BPIと、今回の制御サイクルにおいて第1調整部24によって導出された中間制動力BPIとの差分を導出する。差分ΔBPIは、今回導出値BPI1についての前回導出値BPI0からの増大量を示す。本実施形態では差分ΔBPIの最小値を「0」とする。このため、前回導出値BPI0の方が今回導出値BPI1よりも大きい場合には、差分ΔBPIが「0」にされる。
【0027】
次に、第2調整部26は、差分ΔBPIに操作速度ゲインK2を乗算した値を今回導出値BPI1に加算して、目標制動力BPTとして導出する。第2調整部26は、「前記中間制動力の今回導出時の値と前記中間制動力の前回導出時の値との差を差分として、前記操作速度ゲインを前記差分に乗算した値を前記中間制動力の今回導出時の値に加算して前記目標制動力として導出する処理を前記制御サイクル毎に実行する調整部」に対応する。
【0028】
第2調整部26によって導出される目標制動力BPTは、操作速度ゲインK2が大きいほど今回導出値BPI1に対して大きくなる。さらに言えば、操作速度ゲインK2が大きいほど、目標制動力BPTが前回導出値BPI0に対して大きくなる。すなわち、前回の処理において導出された目標制動力BPTに対して今回の処理において導出された目標制動力BPTが大きくなる。このように、第2調整部26は、操作速度ゲインK2によって、目標制動力BPTが変化する勾配を補正する。
【0029】
本実施形態の作用および効果について説明する。
制動制御装置10では、制動操作部材92が操作されて車両90の制動が開始されると、基礎制動力導出部22によって基礎制動力BPBが導出され、車速ゲイン導出部23によって車速ゲインK1が導出される。基礎制動力BPBおよび車速ゲインK1に基づいて、第1調整部24によって中間制動力BPIが導出される。これによって、制動開始時の車速VSが大きいほど中間制動力BPIを大きくすることができる。
【0030】
また、制動操作中には、操作取得部11によって制御サイクル毎に操作速度DSPが導出される。操作速度DSPは、目標制動力導出部20に入力され、操作速度ゲイン導出部25によって操作速度DSPが反映された操作速度ゲインK2が制御サイクル毎に導出される。目標制動力導出部20では、第2調整部26によって、中間制動力BPIおよび操作速度ゲインK2に基づいて目標制動力BPTが導出される。すなわち、制動制御装置10によれば、操作速度DSPが反映された操作速度ゲインK2が制御サイクル毎に導出されて、操作速度ゲインK2によって目標制動力BPTが増大される。
【0031】
目標制動力導出部20によって導出された目標制動力BPTは、制動制御部13に入力される。制動制御部13によって目標制動力BPTに基づいて制動装置80が制御される。この結果、目標制動力BPTに応じた制動力が車輪91に付与される。
【0032】
これによって、制動中に操作速度DSPが変わったときには操作速度DSPに応じて制動力を大きくできる。すなわち、運転者が意図的に操作速度DSPを変えた場合に操作速度DSPの変化を制動力に反映することができる。
【0033】
図3を用いて制動操作中に操作速度DSPが変わる場合の目標制動力BPTについて説明する。
図3に示す例では、ペダルストロークSPのストローク第1値s1が、制動操作の開始が判定される第1判定値に対応している。ストローク第2値s2は、ストローク第1値s1よりも大きい値である。
図3には、ペダルストロークSPに対する中間制動力BPIの一例を破線で示している。
【0034】
ペダルストロークSPがストローク第2値s2以下であるときには操作速度DSPを操作速度第1値d1以下として、ペダルストロークSPがストローク第2値s2よりも大きくなるときに操作速度DSPを操作速度第1値d1よりも速くしたとする。ペダルストロークSPがストローク第2値s2以下である間、操作速度ゲインK2は、最小値の「0」である。制動制御装置10では、操作速度ゲインK2によって目標制動力BPTを調整するにあたって、中間制動力BPIの差分ΔBPIに操作速度ゲインK2が乗算された値が今回導出値BPI1に加算される。すなわち、目標制動力BPTが変化する勾配が操作速度ゲインK2によって補正されることになる。このため、ペダルストロークSPがストローク第2値s2以下である間、操作速度ゲインK2が「0」であることで、
図3に実線で示すように目標制動力BPTは、破線で示す中間制動力BPIと同様に推移する。ペダルストロークSPがストローク第2値s2よりも大きい場合は、操作速度DSPが速くされることで操作速度ゲインK2が大きくなる。このため、ペダルストロークSPがストローク第2値s2よりも大きい場合は、
図3に実線で示すように、破線で示す中間制動力BPIと比較してペダルストロークSPが増加したときの目標制動力BPTの増加量が大きくなる。すなわち、目標制動力BPTの変化勾配が大きくなる。
【0035】
このように制動制御装置10によれば、操作速度ゲインK2が大きいほど目標制動力BPTの変化勾配が大きくなるため、操作速度DSPが速くなるように制動操作部材92が操作された際に目標制動力BPTの変化勾配を大きくできる。これによって、操作速度DSPが速いほど大きな制動力を付与することができる。すなわち、大きな制動力が付与されることを求めて運転者が制動操作部材92を速く踏み込んだときに、運転者の意図に合わせて制動力を大きくすることができる。
【0036】
さらに、制動制御装置10では、目標制動力BPTを調整するにあたって、操作速度DSPを反映した操作速度ゲインK2を乗算するのは、中間制動力BPIの差分ΔBPIに対してである。操作速度ゲインK2による影響を受けて増大されるのが目標制動力BPTの全体からすると一部の割合にとどまるため、
図3に示した例におけるストローク第2値s2の前後のように、制動中に操作速度DSPが変わった場合に、操作速度DSPが変わる前後で目標制動力BPTの変化が大きくなりにくい。すなわち、操作速度DSPの変化を目標制動力BPTに反映しつつも操作速度DSPが変わる前後で目標制動力BPTの変化が大きくなりにくい。これによって、操作速度DSPが変わる前後での制動力の変動が大きくなることを抑制でき、車両90の減速度の変動が大きくなることを抑制できる。
【0037】
なお、制動中に制動操作部材92の踏み込み量が維持されておりペダルストロークSPが一定である場合には、基礎制動力導出部22によって導出される基礎制動力BPBが一定の値を示す。このため、ペダルストロークSPが一定である間は、中間制動力導出部21によって導出される中間制動力BPIに関して、前回導出値BPI0と今回導出値BPI1とが等しくなる。すなわち、中間制動力BPIの差分ΔBPIが「0」となる。制動制御装置10では、操作速度ゲインK2が乗算されるのが中間制動力BPIの差分ΔBPIであるため、この場合の目標制動力BPTは、今回導出値BPI1と等しくなる。
【0038】
また、
図3には、実線で示す例と比較してペダルストロークSPがストローク第1値s1である時点から操作速度DSPが速い場合に導出される目標制動力BPTの例を二点鎖線で示している。二点鎖線で示す例は、実線で示す例と比較して、ペダルストロークSPがストローク第1値s1であるときから操作速度ゲインK2が大きくなる。このため、ペダルストロークSPが小さいときから中間制動力BPIに対する変化勾配が大きくされ、中間制動力BPIとの差が大きくなっている。このように、ペダルストロークSPが小さいときから操作速度DSPが速ければ、ペダルストロークSPが小さい段階から制動力が大きくされる。
【0039】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、基礎制動力BPBに車速ゲインK1を乗算して中間制動力BPIを導出しているが、中間制動力BPIの導出に車速ゲインK1を用いることは必須ではない。たとえば、基礎制動力導出部22によって導出される基礎制動力BPBを中間制動力BPIとしてもよい。操作速度ゲインK2を用いて目標制動力BPTが導出されれば、上記実施形態と同様に、制動中の操作速度DSPの変化を制動力に反映することができる。
【0040】
・上記実施形態では、制動開始時に車速ゲインK1を導出して、制動中は制動開始時に導出された車速ゲインK1の値を基礎制動力BPBに乗算している。これに限らず、制御サイクル毎に車速ゲインK1を導出してもよい。
【0041】
・上記実施形態では、ペダルストロークSPを制動操作部材92の操作量としているが、運転者が制動操作部材92に加える踏力を制動操作部材92の操作量とすることもできる。踏力は、踏力センサによって検出することができる。
【0042】
また、上記実施形態の制動装置80は、制動操作部材92の操作に応じてマスタシリンダ82で液圧が発生する。このため、マスタシリンダ82で発生する液圧を制動操作部材92の操作量とすることもできる。
【0043】
・操作速度ゲイン導出部25に記憶されている操作速度DSPと操作速度ゲインK2との関係は、
図2に示した例に限らない。操作速度DSPが大きいほど操作速度ゲインK2が大きくなる関係であるならば、
図2に示した例と異なる傾向の関係を採用してもよい。
【0044】
また、傾向が異なる複数の関係が操作速度ゲイン導出部25に記憶されていてもよい。こうした傾向が異なる複数の関係は、制動時の車両90の状態に応じて切り換えて使用することができる。なお、目標制動力BPTが制動中に大きく変動することを抑制するため、制動中には複数の関係のうち特定の関係のみに基づいて操作速度ゲインK2を導出することが好ましい。
【0045】
基礎制動力導出部22に記憶されているペダルストロークSPと基礎制動力BPBとの関係、および車速ゲイン導出部23に記憶されている車速VSと車速ゲインK1との関係についても、
図2に示した例とは傾向が異なる関係を採用してもよい。基礎制動力導出部22および車速ゲイン導出部23にも傾向が異なる複数の関係が記憶されていてもよい。
【0046】
・基礎制動力BPBに対応する目標制動力BPTの上限を設定してもよい。これによって、車両90に付与される制動力が大きくなりすぎることを抑制できる。
たとえば、目標制動力BPTを導出する際に、車速ゲインK1による基礎制動力BPBからの増大分と操作速度ゲインK2による中間制動力BPIからの増大分との合計が規定の増大上限量を超えないようにすることで、目標制動力BPTの上限を設定することができる。
【0047】
また、たとえば、操作速度ゲインK2を導出する際に、車速ゲインK1と操作速度ゲインK2との合計が規定のゲイン上限値を超えないようにすることでも、目標制動力BPTに上限を設定することができる。この場合には、車速ゲインK1が十分に大きいと、ゲイン上限値と車速ゲインK1との差の範囲に収まるように操作速度ゲインK2が導出される。また、車速ゲインK1が十分に大きく車速ゲインK1のみでゲイン上限値に達していると、操作速度DSPは、目標制動力BPTには反映されない。
【0048】
・目標制動力BPTの導出に用いる操作速度ゲインK2は、当該制動操作中に導出された操作速度ゲインK2の最大値を使うようにしてもよい。たとえば、制動操作中のある制御サイクルにおいて導出された今回の操作速度ゲインK2が前回導出された操作速度ゲインK2よりも小さくなった場合、今回の操作速度ゲインK2ではなく前回の操作速度ゲインK2を用いて目標制動力BPTを導出する。このように、制動中に操作速度DSPが速くなるときには操作速度DSPの上昇に応じて操作速度ゲインK2を大きくする一方で、制動中に操作速度DSPが遅くなるときには操作速度ゲインK2の最大値を用いることで操作速度ゲインK2を小さくしないようにしてもよい。
【0049】
・上記実施形態では、制動制御装置10が制御対象とする車両90の制動装置80として、ブレーキ液を用いて摩擦材87を回転体86に押し付けることで車輪91に制動力を付与する摩擦制動装置を例示している。制動装置としてはこれに限定されるものではない。たとえば、電動モータの駆動によって摩擦材を回転体に押し付けることで車輪に制動力を付与することのできる摩擦制動装置を採用してもよい。また、制動装置は、車輪に回生制動力を付与する回生制動装置でもよい。また、車両90は、摩擦制動装置および回生制動装置を備えていてもよい。
【0050】
車両90が上記いずれの制動装置を備えている場合であっても、車両90に付与される制動力が目標制動力BPTとなるように制動装置が制動制御装置10によって制御されることで、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0051】
10…制動制御装置
11…操作取得部
12…車速取得部
13…制動制御部
20…目標制動力導出部
21…中間制動力導出部
22…基礎制動力導出部
23…車速ゲイン導出部
24…第1調整部
25…操作速度ゲイン導出部
26…第2調整部
80…制動装置
90…車両
92…制動操作部材
93…車輪速センサ
94…ストロークセンサ