(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】複合材料および複合材料成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20230525BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20230525BHJP
C08G 61/08 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
C08J5/24 CEZ
C08L65/00
C08G61/08
(21)【出願番号】P 2020523152
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2019022388
(87)【国際公開番号】W WO2019235538
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2018109480
(32)【優先日】2018-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503423096
【氏名又は名称】RIMTEC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正基
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-524067(JP,A)
【文献】特開平01-319538(JP,A)
【文献】特開平04-357010(JP,A)
【文献】特開平11-322957(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152623(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/098636(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/044461(WO,A1)
【文献】特開2013-116998(JP,A)
【文献】特開平04-278316(JP,A)
【文献】特開平08-081566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
C08G 61/08
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B32B 1/00-43/00
B29C 39/00-39/44
B29C 43/00-43/58
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系樹脂をバインダーとし、プリフォームされた繊維状充填材に、シクロオレフィンモノマー
、メタセシス重合触媒
及びジイソシアネート化合物を含む重合性組成物を含浸させた複合材料であって、
前記炭化水素系樹脂が、シクロペンタジエン系単量体を主成分として重合された脂環族系石油樹脂及び/又はシクロペンタジエン系単量体を主成分として重合された脂環族系石油樹脂の水素化物であ
り、
前記繊維状充填材が、炭素繊維である複合材料。
【請求項2】
前記シクロオレフィンモノマーが、極性基を有しないシクロオレフィンモノマーである請求項
1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記シクロオレフィンモノマーが、ジシクロペンタジエン類及び四環以上の環状オレフィン類を含有する請求項1
または2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記重合性組成物が、ラジカル発生剤
、及び多官能(メタ)アクリレート化合物から選択される少なくとも1種をさらに含有する請求項1~
3のいずれかに記載の複合材料。
【請求項5】
前記プリフォームされた繊維状充填材が、予めサイジング剤が付着した繊維状充填材を、前記炭化水素系樹脂をバインダーとして、プリフォームされたものである請求項1~
4のいずれかに記載の複合材料。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の複合材料を硬化させた複合材料成形体。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれかに記載の複合材料を製造する方法であって、
繊維状充填材に、バインダーとしての粉状の前記炭化水素系樹脂を、前記繊維状充填材に振り掛け、予め形状を付与することで、前記繊維状充填材をプリフォームする工程と、
プリフォームした前記繊維状充填材に、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物を含浸させる工程と、を備える複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料、および複合材料を硬化させた複合材料成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
複合材料成形体のマトリックス樹脂として近年、高強度、低ボイド性に優れた、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物からなる重合体が用いられている。(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2010/044461号
【文献】国際公開第2015/098636号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物は、繊維状充填材にプリフォームを目的として予め付着させる通常の樹脂材料とは親和性が低く、そのような樹脂材料を用いる場合、かかる重合性組成物を含浸させた際に含浸むらができ、このような複合材料を用いて得られる複合材料成形体は、強度に劣るものとなってしまう場合があった。
本発明の課題は、含浸むらがなく、優れた強度を有する複合材料成形体を与えることのできる複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成すべく検討を行ったところ、繊維状充填材に予め付着させる樹脂として、炭化水素系樹脂を用い、炭化水素系樹脂を付着した繊維状充填材に、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物を含浸させることで、含浸むらがなく、優れた強度を有する複合材料成形体を与えることのできる複合材料を得ることできることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明によれば、炭化水素系樹脂を付着した繊維状充填材に、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物を含浸させた複合材料が提供される。
本発明の複合材料において、前記繊維状充填材が、炭素繊維及び/又はガラス繊維であることが好ましい。
本発明の複合材料において、前記炭化水素系樹脂が、石油樹脂及び/又は石油樹脂の水素化物であることが好ましい。
本発明の複合材料において、前記炭化水素系樹脂が、脂環族系石油樹脂及び/又は脂環族系石油樹脂の水素化物であることが好ましい。
本発明の複合材料において、前記脂環族系石油樹脂が、シクロペンタジエン系単量体を主成分として重合された樹脂であることが好ましい。
本発明の複合材料において、前記シクロオレフィンモノマーが、極性基を有しないシクロオレフィンモノマーであることが好ましい。
本発明の複合材料において、前記シクロオレフィンモノマーが、ジシクロペンタジエン類及び四環以上の環状オレフィン類を含有することが好ましい。
本発明の複合材料において、前記重合性組成物が、ラジカル発生剤、ジイソシアネート化合物、及び多官能(メタ)アクリレート化合物から選択される少なくとも1種をさらに含有することが好ましい。
また、本発明によれば、上記本発明の複合材料を硬化させた複合材料成形体が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、含浸むらがなく、優れた強度を有する複合材料成形体を与えることのできる複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物を、繊維状充填材に含浸させる複合材料において、繊維状充填材のプリフォームの際に用いるバインダーとして炭化水素系樹脂を用いることを特徴とするものである。
ここで、繊維状充填材の代表例としての炭素繊維には、毛羽立ちやハンドリング性を考慮してサイジング剤が付与されている。また、炭素繊維は、布と同様な性状を有するため、形を造るためにはプリフォームが必要とされ、その際にバインダーが使用される。一般に炭素繊維にはエポキシ樹脂が含浸されるため、バインダーとしては通常ポリエステル樹脂が用いられる。しかし、本発明で用いる、シクロオレフィンモノマーは、ポリエステル樹脂をはじいてしまい、そのため、シクロオレフィンモノマーを含む重合性組成物を含浸させると、含浸むらができ、得られる複合材料成形体が強度に劣るものとなってしまう場合があった。
【0009】
これに対し、本発明者が、鋭意検討を行ったところ、プリフォームの際に用いるバインダーとして炭化水素系樹脂を用いることにより、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物との馴染みを高めることでき、これにより、優れた強度を有する複合材料成形体を与えることのできる複合材料を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0010】
本発明で用いる炭化水素系樹脂とは、樹脂の骨格(主鎖)が炭化水素である樹脂をいう。炭化水素系樹脂は、特に限定されないが、中でも粘着付与樹脂に分類されるものが好適に用いられる。当該樹脂としては、例えば、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、共重合系(C5-C9系)石油樹脂、脂環族系(ジシクロペンタジエン系)石油樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体(SB)、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン共重合体(SI)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、及びそれらの水素化物などが挙げられる。中でも、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物とより馴染みがよいことから、石油樹脂及びその水素化物が好ましく、脂環族系石油樹脂及びその水素化物がより好ましい。
【0011】
脂環族系石油樹脂としては、シクロペンタジエン系単量体を主成分として重合された樹脂であることが好ましく、シクロペンタジエン系単量体の具体例としては、シクロペンタジエン;メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエンなどのシクロペンタジエンのアルキル置換体;ジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエンなどのシクロペンタジエンまたはそのアルキル置換体の多量体が好適に挙げられる。脂環族系石油樹脂としては、たとえば、いずれも日本ゼオン株式会社製の製品として、「クイントン(登録商標、以下、同様) 1105」、「クイントン 1325」、「クイントン 1340」、「クイントン 1500」、「クイントン 1525L」、「クイントン 1920」、「クイントン 2940」等の市販品を好適に用いることができる。
【0012】
石油樹脂の分子量は、特に限定されないが、数平均分子量(Mn)は通常100~2500の範囲であり、重量平均分子量(Mw)は通常500~5500の範囲であり、Z平均分子量(Mz)は通常1000~12000の範囲である。また、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)は通常1.0~4.0の範囲であり、重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)は通常1.0~4.0の範囲である。石油樹脂の軟化点は通常70℃~170℃の範囲である。
【0013】
石油樹脂は、常法にしたがって製造することが可能である。たとえば、フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒を用いて、単量体混合物を付加重合することにより、製造することができる。単量体混合物の調製方法は特に限定されず、それぞれ純粋な化合物を混合して目的の単量体混合物を得てもよいし、例えばナフサ分解物の留分などに由来する、目的の単量体を含む混合物を用いて、目的の単量体混合物を得てもよい。例えば、単量体混合物に1,3-ペンタジエンなどを配合するためには、イソプレンおよびシクロペンタジエン(その多量体を含む)を抽出した後のC5留分を好適に用いることができる。また、このようにして得られる石油樹脂について、水素添加(水添)反応を行うことにより、石油樹脂の水素化物を得ることができる。
【0014】
炭化水素系樹脂の、繊維状充填材への付着量としては、繊維状充填材と炭化水素系樹脂との合計量中、通常、0.1~5質量%、好ましくは0.2~3質量%、より好ましくは0.5~2質量%である。付着量がこの範囲にあれば、繊維間の適度な接着性が得られ、得られる複合材料成形体の物性に影響のない範囲で繊維状充填材の形状が保持される。
【0015】
繊維状充填材と炭化水素系樹脂との接触は、上方よりの投下、ローラー浸漬法やローラー接触法等、一般に工業的に用いられている方法により適宜行うことができる。これにより、繊維状充填材に炭化水素系樹脂が付着する。繊維状充填材と炭化水素系樹脂との接触は、通常、炭化水素系樹脂粉末を上方からふりかけて加熱溶融したり、分散液又は溶液を接触後、溶媒を乾燥等で除去したりすればよい。乾燥工程は、熱風、熱板、ローラー、各種赤外線ヒーター等を熱媒として利用した方法等により行うことができる。あるいは、炭化水素系樹脂を加熱溶融させ、加熱溶融状態の炭化水素系樹脂を繊維状充填材表面に塗布するホットメルト塗工により、繊維状充填材と炭化水素系樹脂とを接触させてもよい。
【0016】
なお、繊維状充填材への炭化水素系樹脂の付着は、後述の、サイジング剤付着後に行うのが好ましく、サイジング剤を用いないときは炭素繊維表面への活性水素含有基の導入や凹凸の導入の後に行うのが好ましい。
【0017】
本発明で用いる繊維状充填材としては、本発明の技術分野で使用されるものであれば特に限定されない。入手性及び有用性の観点から、繊維状充填材としては、好ましくは、炭素繊維又はガラス繊維であり、両者を併用してもよい。炭素繊維とガラス繊維とを併用する場合、両者の混合比率は限定されないが、混合効果の観点から、炭素繊維1質量部に対してガラス繊維0.1~10質量部が好ましい。
【0018】
本発明で用いる炭素繊維としては、特に限定はなく、例えば、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系等の、従来公知の方法で製造される各種の炭素繊維を任意に用いることができる。これらのなかでも、ポリアクリロニトリル繊維を原料として製造されるPAN系炭素繊維は、後述の重合性組成物を用いた際に、メタセシス開環重合反応の阻害を起こさず、得られる複合材料成形体において機械的強度及び耐熱性等の特性を向上させることができ、好適に用いられる。
【0019】
炭素繊維の目付量は使用目的に応じて適宜選択されるが、樹脂充填性、繊維体積含有率(Vf)、及び賦形性の観点から、50~500g/m2が好ましく、100~400g/m2がより好ましく、200~300g/m2がさらに好ましい。
【0020】
炭素繊維は、その弾性率が高いほど剛性を維持できるため、得られる複合材料成形体の厚みを薄くでき、好ましい。一方、弾性率が高すぎると引張伸度が低下する場合がある。炭素繊維としては、樹脂含浸ストランド引張試験(JIS R-7601)による引張弾性率が、200~400GPaの範囲にあるものが好ましく、220~300GPaの範囲にあるものがより好ましい。また、炭素繊維としては、引張伸度が高いものが好ましい。引張伸度としては、好ましくは1.7%以上、より好ましくは1.85%以上、さらに好ましくは2%以上である。かかる引張伸度に上限は特にないが、通常、2.5%以下である。炭素繊維の引張伸度は、前記樹脂含浸ストランド引張試験により測定することができる。炭素繊維の引張伸度が高いほど、繊維が強くて扱いやすく、得られる複合材料成形体の機械的強度が高くなり、好ましい。
【0021】
後述の重合性組成物を用いた際における、炭素繊維と樹脂材料との密着性をより向上させる観点から、炭素繊維の表面に、少なくとも、カルボキシル基又は水酸基等の活性水素含有基を適当量存在させるのが好ましい。炭素繊維の活性水素含有基の量は、X線光電子分光法により測定される表面酸素濃度(O/C)で定量することができる。炭素繊維の活性水素含有基の量としては、O/Cで、0.02~0.2であるのが好ましい。この範囲にあれば、シクロオレフィンモノマー又は後述のジイソシアネート化合物に含有される活性水素反応性基の炭素繊維に対する作用性が高まり、炭素繊維表面の酸化の程度も適度であり、好適である。炭素繊維の活性水素含有基の量としては、O/Cで、より好ましくは0.04~0.15、さらに好ましくは0.06~0.1である。
【0022】
活性水素含有基を炭素繊維に導入する方法は、特に限定されず、通常用いられる方法を適宜採用すればよい。オゾン法や酸溶液中での電解酸化等があるが、好ましくは溶液中の酸化反応が経済的に優れてよい。この際、活性水素含有基の量は、電流量や温度、酸性浴中の滞在時間、酸性度等で適宜調整可能である。
【0023】
炭素繊維の表面状態は、特に限定されず、平滑でも凹凸であってもよい。アンカー効果が期待できることから、凹凸であるのが好ましい。この凹凸の程度は適宜選択すればよい。炭素繊維表面への凹凸の導入は、例えば、上記した溶液中の酸化反応の際に同時に行うことができる。
【0024】
炭素繊維の断面形状としては、特に限定はないが、実質的に円形であるのが好ましい。断面形状が円形であると、重合性組成物を含浸させる際、フィラメントの再配列が起こりやすくなり、繊維間への重合性組成物の浸み込みが容易になる。また、繊維束の厚みを薄くすることが可能となり、ドレープ性に優れた複合材料を得やすいという利点がある。なお、断面形状が実質的に円形であるとは、その断面の外接円半径Rと内接円半径rとの比(R/r)を変形度として定義した場合に、この変形度が1.1以下であることをいう。
【0025】
炭素繊維の長さは、用途に応じて適宜選択すればよく、短繊維及び長繊維のいずれのものも用いることができる。得られる複合材料成形体の機械的強度をより高める観点から、炭素繊維の長さは、通常、1cm以上、好ましくは2cm以上、より好ましくは3cm以上であり、特に連続繊維である炭素繊維を用いるのが好ましい。
【0026】
本発明に用いる炭素繊維は、予めサイジング剤が付着したものである必要はないが、繊維毛羽立ちによる成形後物性低下の不具合や、後述の重合性組成物を用いた際における、シクロオレフィンポリマーと炭素繊維との密着性をより向上させる観点から、予めサイジング剤を付着してなる炭素繊維を用いるのが好ましい。
【0027】
サイジング剤としては、特に限定はなく、公知のものを用いることができる。サイジング剤としては、例えば、エポキシ樹脂;ウレタン樹脂;ビニルエステル樹脂;ポリアミド樹脂;ナイロン樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリエステル樹脂;及びフェノール樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。サイジング剤としては、入手が容易であることから、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、及びポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、エポキシ樹脂及び/又はビニルエステル樹脂がより好ましい。
【0028】
このようなサイジング剤の具体例としては、いずれも松本油脂製薬社製の製品として、KP-226、KP-0110、KP-136、KP-300、KP-752、及びKP-1005等の、エポキシ樹脂からなるサイジング剤;KP-2816、KP-2817、KP-2807、KP-2820、及びKP-2821等の、ウレタン樹脂からなるサイジング剤;KP-371やKP-372等の、ビニルエステル樹脂からなるサイジング剤;KP-1008等のナイロン樹脂からなるサイジング剤;P-138等のポリエチレン樹脂からなるサイジング剤;TPE-100やTPE-102等の、ポリプロピレン樹脂からなるサイジング剤;KP-880やKP-881等の、ポリエステル樹脂からなるサイジング剤等が挙げられる。
【0029】
炭素繊維へのサイジング剤の付着は、サイジング剤を炭素繊維に接触させることにより行うことができる。その際、サイジング剤を水、又はアセトン等の有機溶剤に分散又は溶解し、分散液又は溶液として使用するのが好ましい。サイジング剤の分散性を高め、液安定性を良好にする観点から、当該分散液又は溶液には適宜界面活性剤を添加するのが好ましい。
【0030】
炭素繊維へのサイジング剤の付着量としては、炭素繊維とサイジング剤との合計量中、通常、0.1~5質量%、好ましくは0.2~3質量%、より好ましくは0.5~2質量%である。付着量がこの範囲にあれば、適度な炭素繊維の収束性が得られ、炭素繊維の充分な耐擦過性が得られて機械的摩擦等による毛羽の発生が抑制され、また、重合性組成物中のシクロオレフィンモノマーの含浸性が向上し、得られる複合材料成形体における機械的強度が向上し得る。
【0031】
炭素繊維とサイジング剤との接触は、ローラー浸漬法やローラー接触法等、一般に工業的に用いられている方法により適宜行うことができる。炭素繊維とサイジング剤との接触は、通常、サイジング剤の分散液又は溶液を用いて行われるため、該接触後、乾燥工程に供し、サイジング剤の分散液や溶液に含まれていた水、又は有機溶剤を除去すればよい。乾燥工程は、熱風、熱板、ローラー、各種赤外線ヒーター等を熱媒として利用した方法等により行うことができる。
【0032】
なお、炭素繊維へのサイジング剤の付着は、前記した、炭素繊維表面への活性水素含有基の導入や凹凸の導入の後に行うのが好ましい。
【0033】
本発明においてバインダーとして使用される炭化水素系樹脂の炭素繊維への付着は、炭化水素系樹脂を炭素繊維に接触させることにより行うことができる。その際、粉状の炭化水素系樹脂を炭素繊維に振り掛けてもよく、炭化水素系樹脂を水、又はアセトン等の有機溶剤に分散又は溶解し、分散液又は溶液として使用してもよい。また炭化水素系樹脂の分散性を高め、液安定性を良好にする観点から、当該分散液又は溶液には適宜界面活性剤を添加してもよい。
【0034】
炭素繊維への炭化水素系樹脂の付着量としては、炭素繊維と炭化水素系樹脂との合計量中(炭素繊維に予めサイジング剤を付着させた場合には、サイジング剤を付着させた炭素繊維と炭化水素系樹脂との合計量中)、通常、0.1~5質量%、好ましくは0.2~3質量%、より好ましくは0.5~2質量%である。付着量がこの範囲にあれば、繊維に予め形状を付与(プリフォーム)するのに適度な形状保持性が得られ得る。
【0035】
炭素繊維と炭化水素系樹脂との接触は、上方よりの投下、ローラー浸漬法やローラー接触法等、一般に工業的に用いられている方法により適宜行うことができる。炭化水素系樹脂の分散液又は溶液を用いた場合は、該接触後、乾燥工程に供し、炭化水素系樹脂の分散液や溶液に含まれていた水、又は有機溶剤を除去すればよい。乾燥工程は、熱風、熱板、ローラー、各種赤外線ヒーター等を熱媒として利用した方法等により行うことができる。あるいは、炭化水素系樹脂を加熱溶融させ、加熱溶融状態の炭化水素系樹脂を炭素繊維表面に塗布するホットメルト塗工により、炭素繊維と炭化水素系樹脂とを接触させてもよい。
【0036】
なお、炭素繊維として、予めサイジング剤が付着した炭素繊維を用いる場合には、炭素繊維にサイジング剤を付着させた後、サイジング剤が付着した炭素繊維に、炭化水素系樹脂を付着させる方法を採用することが好ましい。
【0037】
本発明で用いるガラス繊維は、特に限定されるものではなく、例えば、連続繊維、織布及び不織布等の形状を有するものが挙げられ、種々の厚みのものが市販品として入手可能である。ガラス繊維の形状や厚みは得られる複合材料成形体の用途に応じて適宜選択できる。
【0038】
本発明で用いるガラス繊維の目付量は使用目的に応じて適宜選択されるが、200g/m2以上が好ましく、200~2000g/m2がより好ましく、300~1800g/m2がさらに好ましい。 ガラス繊維の目付量が過度に少ないと、隣り合うガラス繊維同士の間に隙間ができて、得られる複合材料成形体の機械的強度が不充分となり、一方、過度に目付量が多いと可撓性が低下したり、隣り合うガラス繊維同士が重なる箇所ができて重合性組成物の含浸性を損ねる傾向がある。
【0039】
ガラス繊維は、表面を疎水化処理されていることが好ましい。疎水化処理されたガラス繊維を用いることで、得られる複合材料成形体中にガラス繊維を均一に分散させることができ、複合材料成形体の剛性や寸法安定性を均一にでき、さらには異方性を小さくすることができる。疎水化処理に用いられる処理剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、脂肪酸、油脂、界面活性剤、ワックス、その他の高分子等が挙げられる。これらの処理剤はサイジング剤としての機能も果たしうる。
【0040】
ガラス繊維への炭化水素系樹脂の付着量としては、ガラス繊維と炭化水素系樹脂との合計量中(炭素繊維の場合に準ずる)、通常、0.1~5質量%、好ましくは0.2~3質量%、より好ましくは0.5~2質量%である。付着量がこの範囲にあれば、繊維に予め形状を付与(プリフォーム)するのに適度な形状保持性が得られ得る。
【0041】
本発明で用いるガラス繊維と炭化水素系樹脂との接触は、上方よりの投下、ローラー浸漬法やローラー接触法等、一般に工業的に用いられている方法により適宜行うことができる。これにより、ガラス繊維に炭化水素系樹脂が付着する。炭化水素系樹脂の分散液又は溶液を用いた場合は、該接触後、乾燥工程に供し、炭化水素系樹脂の分散液や溶液に含まれていた水、又は有機溶剤を除去すればよい。乾燥工程は、熱風、熱板、ローラー、各種赤外線ヒーター等を熱媒として利用した方法等により行うことができる。あるいは、炭化水素系樹脂を加熱溶融させ、加熱溶融状態の炭化水素系樹脂をガラス繊維表面に塗布するホットメルト塗工により、ガラス繊維と炭化水素系樹脂とを接触させてもよい。
【0042】
本発明に用いる繊維状充填材の形態は、特に限定されず、繊維状充填材を一方向に引き揃えた一方向材、織物、不織布、マット、ニット、組み紐、ロービング、チョップド等から適宜選択すればよい。中でも、一方向材、織物、ロービング等の連続繊維の形態であるのが好ましく、一方向材がより好ましい。一方向材は、樹脂材料の含浸性を高度に向上でき、また、繊維の割合が高いため、得られる複合材料成形体の機械的強度を高度に向上させることができ、好適である。
【0043】
織物の形態としては、従来公知のものが利用可能であり、例えば、平織、繻子織、綾織、3軸織物等の繊維が交錯する織り構造の全てが利用できる。また、織物の形態としては、2次元だけでなく、織物の厚み方向に繊維が補強されているステッチ織物や3次元織物等も利用できる。
【0044】
繊維状充填材を織物等で使用する場合、通常、繊維束糸条として利用する。繊維束糸条1本中のフィラメント数としては、特に限定はないが、好ましくは1,000~100,000本、より好ましくは5,000~50,000本、さらに好ましくは10,000~30,000本の範囲である。
【0045】
そして、このような炭化水素系樹脂を付着させた繊維状充填材について加熱圧を加えることで炭化水素系樹脂を溶融接着させ、次いで熱圧を取り除くことにより成形前に予め所望の形状を付与することが好ましい。加熱圧の程度は形状付与に鑑み適宜決定すればよいが、温度は炭化水素系樹脂の融点以上が好ましく、圧力は型水平方向の投影圧として0.2MPa以上が好ましく、0.5MPa以上がより好ましく、1MPa以上がさらにより好ましい。
【0046】
本発明で用いる繊維状充填材は、たとえばアルミニウム、ニッケル電鋳、スチール、ZAS等の金属や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、またそれらに金属粉やシリカ、アルミナ等の金属塩が分散されている樹脂等で作られた型を用いて成形できる。かかる型に塗布する離型剤は一般に使用されているものなら何でもよく、シリコーン系、フッ素樹脂系などが用いられる。
【0047】
そして、上述した炭化水素系樹脂を付着した繊維状充填材に、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物を含浸させることで、本発明の複合材料を得ることがきる。この際における製造方法としては、反応射出成形(RIM)、レジントランスファー成形(RTM)、真空アシストレジントランスファー成形(VaRTM)等、所望の成形方法を用いることができる。
【0048】
シクロオレフィンモノマーは、分子内に脂環式構造と炭素-炭素二重結合とを有する化合物である。
【0049】
シクロオレフィンモノマーを構成する脂環式構造としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環及びこれらの組み合わせ多環等が挙げられる。脂環式構造を構成する炭素数に格別な制限はないが、通常4~30個、好ましくは5~20個、より好ましくは5~15個である。
【0050】
シクロオレフィンモノマーとしては、単環シクロオレフィンモノマーや、ノルボルネン系モノマー等が挙げられ、ノルボルネン系モノマーが好ましい。ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環構造を分子内に有するシクロオレフィンモノマーである。これらは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基等の炭化水素基や、極性基等によって置換されていてもよい。また、ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環の二重結合以外に、二重結合を有していてもよい。
【0051】
単環シクロオレフィンモノマーとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、シクロペンタジエン、1,5-シクロオクタジエン等が挙げられる。
【0052】
ノルボルネン系モノマーの具体例としては、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン等のジシクロペンタジエン類;
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-フェニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン-4-カルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン-4,5-ジカルボン酸無水物等のテトラシクロドデセン類;
2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-フェニル-2-ノルボルネン、アクリル酸5-ノルボルネン-2-イル、メタクリル酸5-ノルボルネン-2-イル、5-ノルボルネン-2-カルボン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物等のノルボルネン類;
7-オキサ-2-ノルボルネン、5-エチリデン-7-オキサ-2-ノルボルネン等のオキサノルボルネン類;
テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロ-9H-フルオレンともいう)、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ-4,10-ジエン、ペンタシクロ[9.2.1.02,10.03,8]ペンタデカ-5,12-ジエン、トリシクロペンタジエン等の四環以上の環状オレフィン類等が挙げられる。
【0053】
これらのシクロオレフィンモノマーのうち、極性基を有しないシクロオレフィンモノマーが、低吸水性の成形体を得ることができるので好ましい。またテトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン等の芳香族性の縮合環を有するものを用いると重合性組成物の粘度を下げることができる。
【0054】
これらのシクロオレフィンモノマーは一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。組み合わせることで、得られるシクロオレフィン系樹脂の物性を適宜調整することができる。
なお、本発明で用いる重合性組成物には、本発明の効果の発現が阻害されない限り、上述したシクロオレフィンモノマーと共重合可能な任意のモノマーが含まれていてもよい。
【0055】
本発明で用いるメタセシス重合触媒は、シクロオレフィンモノマーを開環重合できるものであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0056】
本発明で用いるメタセシス重合触媒は、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体である。遷移金属原子としては、第5、6及び8族(長周期型周期表、以下同様)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、第5族の原子としては、たとえばタンタルが挙げられ、第6族の原子としては、例えば、モリブデンやタングステンが挙げられ、第8族の原子としては、例えば、ルテニウムやオスミウムが挙げられる。これら遷移金属原子の中でも、第8族のルテニウムやオスミウムが好ましい。すなわち、本発明に使用されるメタセシス重合触媒としては、ルテニウム又はオスミウムを中心原子とする錯体が好ましく、ルテニウムを中心原子とする錯体がより好ましい。ルテニウムを中心原子とする錯体としては、カルベン化合物がルテニウムに配位してなるルテニウムカルベン錯体が好ましい。ここで、「カルベン化合物」とは、メチレン遊離基を有する化合物の総称であり、(>C:)で表されるような電荷のない2価の炭素原子(カルベン炭素)を持つ化合物をいう。ルテニウムカルベン錯体は、塊状開環重合時の触媒活性に優れるため、得られる重合体には未反応のモノマーに由来する臭気が少なく、生産性良く良質な重合体が得られる。また、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも使用可能である。メタセシス重合触媒は、一種類のみを使用しても良く、複数の種類を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
ルテニウムカルベン錯体としては、下記一般式(1)又は一般式(2)で表されるものが挙げられる。
【化1】
【0058】
上記一般式(1)及び(2)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基;であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。R1及びR2が互いに結合して環を形成した例としては、フェニルインデニリデン基等の、置換基を有していてもよいインデニリデン基が挙げられる。
【0059】
ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基の具体例としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~20のアルケニルオキシ基、炭素数2~20のアルキニルオキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、炭素数1~8のアルキルチオ基、カルボニルオキシ基、炭素数1~20のアルコキシカルボニル基、炭素数1~20のアルキルスルホニル基、炭素数1~20のアルキルスルフィニル基、炭素数1~20のアルキルスルホン酸基、炭素数6~20のアリールスルホン酸基、ホスホン酸基、炭素数6~20のアリールホスホン酸基、炭素数1~20のアルキルアンモニウム基、及び炭素数6~20のアリールアンモニウム基等を挙げることができる。これらの、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基は、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、及び炭素数6~10のアリール基等を挙げることができる。
【0060】
X1及びX2は、それぞれ独立して、任意のアニオン性配位子を示す。アニオン性配位子とは、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、ハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、カルボキシル基等を挙げることができる。
【0061】
L1及びL2は、ヘテロ原子含有カルベン化合物又はヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物を表す。ヘテロ原子含有カルベン化合物及びヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ化合物である。触媒活性向上の観点からヘテロ原子含有カルベン化合物が好ましい。ヘテロ原子とは、周期律表第15族及び第16族の原子を意味し、具体的には、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、ヒ素原子、及びセレン原子等を挙げることができる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、窒素原子、酸素原子、リン原子、及び硫黄原子が好ましく、窒素原子がより好ましい。
【0062】
前記ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、下記一般式(3)又は(4)で示される化合物が好ましく、触媒活性向上の観点から、下記一般式(3)で示される化合物がさらに好ましい。
【化2】
【0063】
上記一般式(3)及び(4)中、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20個の有機基;を表す。ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基の具体例は、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様である。
また、R3、R4、R5及びR6は任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。
【0064】
なお、本発明の効果がより一層顕著になることから、R5及びR6が水素原子であることが好ましい。また、R3及びR4は、置換基を有していてもよいアリール基が好ましく、置換基として炭素数1~10のアルキル基を有するフェニル基がより好ましく、メシチル基がさらに好ましい。
【0065】
前記中性電子供与性化合物としては、例えば、酸素原子、水、カルボニル類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、ホスフィナイト類、ホスファイト類、スルホキシド類、チオエーテル類、アミド類、イミン類、芳香族類、環状ジオレフィン類、オレフィン類、イソシアニド類、及びチオシアネート類等が挙げられる。
【0066】
上記一般式(1)及び(2)において、R1、R2、X1、X2、L1及びL2は、それぞれ単独で、及び/又は任意の組合せで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0067】
また、本発明で用いるルテニウムカルベン錯体としては、上記一般式(1)又は(2)で表される化合物の中でも、本発明の効果がより顕著になるという点より、上記一般式(1)で表される化合物が好ましく、中でも、以下に示す一般式(5)又は一般式(6)で表される化合物であることがより好ましい。
【0068】
【0069】
上記一般式(5)中、Zは、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、NR12、PR12又はAsR12であり、R12は、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基;であるが、本発明の効果がより一層顕著になることから、Zとしては酸素原子が好ましい。
【0070】
なお、R1、R2、X1及びL1は、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様であり、それぞれ単独で、及び/又は任意の組み合わせで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成しても良いが、X1及びL1が多座キレート化配位子を形成せず、かつ、R1及びR2は互いに結合して環を形成していることが好ましく、置換基を有していてもよいインデニリデン基であることがより好ましく、フェニルインデニリデン基であることがさらに好ましい。
また、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子又は珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様である。
【0071】
上記一般式(5)中、R7及びR8は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、又は炭素数6~20のヘテロアリール基で、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。置換基の例としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基又は炭素数6~10のアリール基を挙げることができ、環を形成する場合の環は、芳香環、脂環及びヘテロ環のいずれであってもよいが、芳香環を形成することが好ましく、炭素数6~20の芳香環を形成することがより好ましく、炭素数6~10の芳香環を形成することがさらに好ましい。
【0072】
上記一般式(5)中、R9、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基;であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。また、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様である。
【0073】
R9、R10及びR11は、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましい。
【0074】
なお、上記一般式(5)で表わされる化合物の具体例及びその製造方法としては、例えば、国際公開第03/062253号(特表2005-515260)に記載のもの等が挙げられる。
【0075】
【0076】
上記一般式(6)中、mは、0又は1である。mは1が好ましく、その場合、Qは、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、メチレン基、エチレン基又はカルボニル基であり、好ましくはメチレン基である。
【0077】
上記一般式(6)中、
【化5】
は、単結合又は二重結合であり、好ましくは単結合である。
【0078】
R1、X1、X2及びL1は、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様であり、それぞれ単独で、及び/又は任意の組み合わせで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよいが、X1、X2及びL1が多座キレート化配位子を形成せず、かつ、R1は水素原子であることが好ましい。
【0079】
R13~R21は、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基;であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。また、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子又は珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様である。
【0080】
R13は、好ましくは炭素数1~20のアルキル基、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、R14~R17は、好ましくは水素原子であり、R18~R21は、好ましくは水素原子又はハロゲン原子である。
【0081】
なお、上記一般式(6)で表わされる化合物の具体例及びその製造方法としては、例えば、国際公開第11/079799(特表2013-516392)に記載のもの等が挙げられる。
【0082】
また、上記一般式(1)で表される化合物としては、上記一般式(5)又は一般式(6)で表される化合物のほか、以下の化合物(7)も好適に用いることができる。化合物(7)において、PCy
3はトリシクロヘキシルホスフィンを示し、Mesはメシチル基を示す。
【化6】
【0083】
メタセシス重合触媒の含有量は、反応に使用する全シクロオレフィンモノマー1モルに対して、好ましくは0.005ミリモル以上であり、より好ましくは0.01~50ミリモル、さらに好ましくは0.015~20ミリモルである。
【0084】
重合性組成物には、ラジカル発生剤、ジイソシアネート化合物、多官能(メタ)アクリレート化合物、及びその他の任意成分が、必要に応じて含まれていてもよい。
【0085】
ラジカル発生剤は、加熱によってラジカルを発生し、それによりシクロオレフィン系樹脂において架橋反応を誘起する作用を有する。ラジカル発生剤が架橋反応を誘起する部位は、主にシクロオレフィン系樹脂の炭素-炭素二重結合であるが、飽和結合部分でも架橋が生ずることがある。
【0086】
ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物及び非極性ラジカル発生剤が挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルヒドロペルオキシド、p-メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類;ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類;2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン、1,3-ジ(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン等のペルオキシケタール類;t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート等のペルオキシエステル類;t-ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナート等のペルオキシカルボナート類;t-ブチルトリメチルシリルペルオキシド等のアルキルシリルペルオキサシド等が挙げられる。中でも、特に塊状重合におけるメタセシス重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシドが好ましい。
【0087】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4'-ビスアジドベンザル(4-メチル)シクロヘキサノン、4,4'-ジアジドカルコン、2,6-ビス(4'-アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6-ビス(4'-アジドベンザル)-4-メチルシクロヘキサノン、4,4'-ジアジドジフェニルスルホン、4,4'-ジアジドジフェニルメタン、2,2'-ジアジドスチルベン等が挙げられる。
【0088】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、2,3-ジフェニルブタン、1,4-ジフェニルブタン、3,4-ジメチル-3,4-ジフェニルヘキサン、1,1,2,2-テトラフェニルエタン、2,2,3,3-テトラフェニルブタン、3,3,4,4-テトラフェニルヘキサン、1,1,2-トリフェニルプロパン、1,1,2-トリフェニルエタン、トリフェニルメタン、1,1,1-トリフェニルエタン、1,1,1-トリフェニルプロパン、1,1,1-トリフェニルブタン、1,1,1-トリフェニルペンタン、1,1,1-トリフェニル-2-プロペン、1,1,1-トリフェニル-4-ペンテン、1,1,1-トリフェニル-2-フェニルエタン等が挙げられる。
【0089】
重合性組成物におけるラジカル発生剤の量としては、使用する全シクロオレフィンモノマー100質量部に対して、通常、0.1~10質量部、好ましくは0.5~5質量部である。
【0090】
ジイソシアネート化合物としては、例えば、4,4’-ジイソシアン酸メチレンジフェニル(MDI)、トルエン-2,4-ジイソシアネート、4-メトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-イソプロピル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-クロル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-ブトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、2,4-ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ベンジジンジイソシアネート、o-ニトロベンジジンジイソシアネート、及び4,4’-ジイソシアネートジベンジル等の芳香族ジイソシアネート化合物;メチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、及び1,10-デカメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物;4-シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添MDI、及び水添XDI等の脂環式ジイソシアネート化合物等や、これらのジイソシアネート化合物と低分子量のポリオールやポリアミンを、末端がイソシアネートとなるように反応させて得られるポリウレタンプレポリマー等が挙げられる。また、これらの化合物をイソシアヌレート体、ビューレット体、アダクト体、又はポリメリック体とした、多官能のイソシアネート基を有するもので、従来使用されている公知のものが、特に限定なく使用できる。そのようなものとしては、例えば、2,4-トルイレンジイソシアネートの二量体、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス-(p-イソシアネートフェニル)チオフォスファイト、多官能芳香族イソシアネート化合物、多官能芳香族脂肪族イソシアネート化合物、多官能脂肪族イソシアネート化合物、脂肪酸変性多官能脂肪族イソシアネート化合物、ブロック化多官能脂肪族イソシアネート化合物等の多官能ブロック型イソシアネート化合物、ポリイソシアネートプレポリマー等が挙げられる。これらの中でも、入手容易性、及び取り扱い容易性に優れることから、多官能非ブロック型イソシアネート化合物である、芳香族ジイソシアネート化合物、脂肪族ジイソシアネート化合物、及び脂環式ジイソシアネート化合物が好適に用いられる。
これらの化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0091】
なお、多官能ブロック型イソシアネート化合物とは、分子内の少なくとも2つのイソシアネート基を活性水素含有化合物と反応させて、常温では不活性としたものである。当該イソシアネート化合物は、一般的にはアルコール類、フェノール類、ε-カプロラクタム、オキシム類、及び活性メチレン化合物類等のブロック剤によりイソシアネート基がマスクされた構造を有する。多官能ブロック型イソシアネート化合物は、一般的に常温では反応しないため保存安定性に優れるが、通常140~200℃の加熱によりイソシアネート基が再生され、優れた反応性を示しうる。
【0092】
ジイソシアネート化合物は、分子内の活性水素反応性基が、多官能(メタ)アクリレート化合物を併用する場合、多官能(メタ)アクリレート化合物に存在する水酸基や、繊維状充填材表面の水酸基、シクロオレフィン系樹脂の水酸基等と化学結合を形成し、結果として、シクロオレフィン系樹脂と繊維状充填材との密着性を向上させる役目を果たすと考えられる。
【0093】
ジイソシアネート化合物は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明に用いる重合性組成物へのジイソシアネート化合物の配合量は、全シクロオレフィンモノマー100質量部に対して、好ましくは0.5~20質量部、より好ましくは1~15質量部、さらに好ましくは2~10質量部である。この範囲にあれば、樹脂の強度や耐熱性も制御しつつ、繊維状充填材と樹脂の密着性を両立でき、好ましい。
【0094】
繊維状充填材の密着性を高め、得られる複合材料成形体の機械的強度を向上させる観点から、多官能(メタ)アクリレート化合物を用いてもよい。当該化合物をジイソシアネート化合物と共に用いることで、ジイソシアネート化合物の密着性向上剤又は密着性付与剤としての機能が相乗的に高められるものと推定される。多官能(メタ)アクリレート化合物としては、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート及びネオペンチルグリコールジメタクリレートが好ましい例として挙げられる。
【0095】
多官能(メタ)アクリレート化合物は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。それらの化合物の配合量としては、使用する全シクロオレフィンモノマー100質量部に対して、好ましくは0.5~20質量部、より好ましくは1~15質量部、さらに好ましくは2~10質量部である。この範囲にあれば、ジイソシアネート化合物の密着性向上剤又は密着性付与剤としての機能が相乗的に高められ、シクロオレフィン系樹脂と繊維状充填材との密着性が優れたものとなり、好ましい。
【0096】
その他の任意成分としては、活性剤、活性調節剤、エラストマー、酸化防止剤等が挙げられる。
【0097】
活性剤は、上述したメタセシス重合触媒の共触媒として作用し、該触媒の重合活性を向上させる化合物である。活性剤としては、例えば、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド等のアルキルアルミニウムハライド;これらのアルキルアルミニウムハライドの、アルキル基の一部をアルコキシ基で置換したアルコキシアルキルアルミニウムハライド;有機スズ化合物等が用いられる。活性剤の使用量は、特に限定されないが、通常、重合性組成物で使用する全メタセシス重合触媒1モルに対して、0.1~100モルが好ましく、より好ましくは1~10モルである。
【0098】
活性調節剤は、後述のように2以上の反応原液を混合して重合性組成物を調製し、型内に注入して重合を開始させる際に、注入途中で重合が開始することを防止するために用いられる。
【0099】
メタセシス重合触媒として周期表第5族又は第6族の遷移金属の化合物を用いる場合の活性調節剤としては、メタセシス重合触媒を還元する作用を持つ化合物等が挙げられ、アルコール類、ハロアルコール類、エステル類、エーテル類、ニトリル類等を用いることができる。中でもアルコール類及びハロアルコール類が好ましく、ハロアルコール類がより好ましい。
【0100】
アルコール類の具体例としては、n-プロパノール、n-ブタノール、n-ヘキサノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール等が挙げられる。ハロアルコール類の具体例としては、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、2-クロロエタノール、1-クロロブタノール等が挙げられる。
【0101】
メタセシス重合触媒として、特にルテニウムカルベン錯体を用いる場合の活性調節剤としては、ルイス塩基化合物が挙げられる。ルイス塩基化合物としては、トリシクロペンチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスファイト、n-ブチルホスフィン等のリン原子を含むルイス塩基化合物;n-ブチルアミン、ピリジン、4-ビニルピリジン、アセトニトリル、エチレンジアミン、N-ベンジリデンメチルアミン、ピラジン、ピペリジン、イミダゾール等の窒素原子を含むルイス塩基化合物等が挙げられる。また、ビニルノルボルネン、プロペニルノルボルネン及びイソプロペニルノルボルネン等の、アルケニル基で置換されたノルボルネンは、前記のシクロオレフィンモノマーであると同時に、活性調節剤としても働く。これらの活性調節剤の使用量は、用いる化合物によって適宜調整すればよい。
【0102】
エラストマーとしては、例えば、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)及びこれらの水素化物等が挙げられる。エラストマーを重合性組成物に溶解させて用いることにより、その粘度を調節することができる。また、エラストマーを添加することで、得られる複合材料成形体の耐衝撃性を改良できる。エラストマーの使用量は、重合性組成物中の全シクロオレフィンモノマー100質量部に対して、好ましくは0.5~20質量部、より好ましくは2~10質量部である。
【0103】
酸化防止剤としては、フェノール系、リン系、アミン系等の各種のプラスチック・ゴム用酸化防止剤が挙げられる。
【0104】
本発明で用いる重合性組成物は、公知の方法に従って、上記各成分を適宜混合することにより調製され、炭化水素系樹脂を付着した繊維状充填材に含浸させる直前に、2以上の反応原液を、混合装置などを用いて混合することにより調製してもよい。当該反応原液は、1液のみでは塊状重合しないが、全ての液を混合すると、各成分を所定の割合で含む重合性組成物となるように、上記した各成分を2以上の液に分けて調製される。かかる2以上の反応原液の組み合わせとしては、用いるメタセシス重合触媒の種類により、下記(a)、(b)の二通りが挙げられる。
【0105】
(a):前記メタセシス重合触媒として、単独では重合反応活性を有しないが、活性剤を併用することで重合反応活性を発現するものを用いることができる。この場合は、シクロオレフィンモノマー及び活性剤を含む反応原液(A液)と、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む反応原液(B液)とを用い、これらを混合することで重合性組成物を得ることができる。さらに、シクロオレフィンモノマーを含み、かつメタセシス重合触媒及び活性剤のいずれも含まない反応原液(C液)を併用してもよい。
【0106】
(b):また、メタセシス重合触媒として、単独で重合反応活性を有するものを用いる場合は、シクロオレフィンモノマーを含む反応原液(i)と、メタセシス重合触媒を含む反応原液(ii)とを混合することで重合性組成物を得ることができる。このとき反応原液(ii)としては、通常、メタセシス重合触媒を少量の不活性溶媒に溶解又は分散させたものが用いられる。かかる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン等のケトン類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類;ジエチルエーテル、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル等が挙げられるが、芳香族炭化水素が好ましく、トルエンがより好ましい。
【0107】
ラジカル発生剤、ジイソシアネート化合物、多官能(メタ)アクリレート化合物などの任意成分は、前記反応原液のいずれに含有させてもよいし、又は、前記反応原液以外の混合液の形で添加してもよい。
【0108】
上記反応原液の混合に用いられる混合装置としては、例えば、反応射出成型法で一般的に用いられる衝突混合装置のほか、ダイナミックミキサーやスタティックミキサー等の低圧混合機等が挙げられる。
【0109】
また、重合性組成物は、繊維状充填材層への含浸を促進させるため、20℃での粘度が0.2Pa・s以下であることが好ましい。粘度は、B型粘度計により測定する。
なお、重合性組成物には、着色用の顔料の使用や、成形後の耐久性等を考慮し、酸化防止剤、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤を適宜配合してもよい。
【0110】
そして、本発明によれば、このようにして重合性組成物を、炭化水素系樹脂を付着した繊維状充填材に含浸させることにより得られる複合材料について、重合性組成物を完全硬化もしくは半硬化させることにより、複合材料成形体を得ることができる。重合性組成物を硬化させる方法としては、特に限定されず、重合性組成物中に含まれるモノマーの組成やメタセシス重合触媒の種類に応じて選択すればよいが、重合性組成物を含浸させた後、室温下で放置する方法や、所定温度に加熱する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0111】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。なお、「部」や「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0112】
<石油樹脂を付着させた炭素繊維の調製>
長さ300mm、幅250mmに切断した一方向炭素繊維(製品名「SNU1230M」、株式会社マジックボックス製、サイジング剤あり、目付200g/m2)の表面に対し、バインダーとしての石油樹脂(製品名「クイントン(登録商標) 1105」、日本ゼオン株式会社製、ジシクロペンタジエンを主成分として重合された脂環族系石油樹脂、軟化点=107℃、Mn=270、Mw=800、Mz=2300)0.15gを粉末状にして、均一にまぶすことで、一方向炭素繊維と石油樹脂との積層体を得た。そして、同じ操作を行うことにより得られた8つの積層体を同一方向に積層し、上方より120℃に温めたアイロンを万遍なく押し当て、全体を溶着させることで、石油樹脂を付着させた炭素繊維を調製した。
【0113】
<複合材料成形体の製造例>
離型処理された内寸長さ300mm、幅250mm、深さ4mmのアルミニウム5052製金型に、上記にて得られた石油樹脂を付着させた炭素繊維を配置した。ここで、上記にて得られた石油樹脂を付着させた炭素繊維は、一方向材を同一方向に積層しているため、成形及び硬化後に得られる複合材料成形体は一方向材となる。型を40℃に設定した後、20℃に設定した。
【0114】
そして、金型内に配置した石油樹脂を付着させた炭素繊維の上に、離形フィルム(製品名「Dahlar(登録商標)」、AirTech社製)、樹脂流動剤(製品名「Greenflow(登録商標)」、AirTech社製)、および気密性フィルム(製品名「IPPLON(登録商標)KM1300」、AirTech社製)をこの順に積層し、最上層の気密性フィルムの裏面とアルミニウム金型とを、粘着テープ(製品名「AT200-Y(登録商標)」、AirTech社製)により接着し、気密空間を形成した後、オイルポンプを用いて気密空間の内部を100Paまで減圧した。
【0115】
20℃に設定したRIMモノマー(日本ゼオン株式会社製)100部、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)5部、4,4’-ジイソシアン酸メチレンジフェニル5部、ジ-t-ブチルペルオキシド(製品名「カヤブチルD(登録商標)」、化薬アクゾ株式会社製)1.7部、及びメタセシス重合触媒として前記化合物(7)0.04部からなる重合性組成物(粘度(20℃):10mPa・s)32gを上記で得られた一体物(以後「型」と称す)内一杯に導入し、石油樹脂を付着させた炭素繊維に含浸させた。なお、その際、型は40℃に設定した。減圧ラインと組成物導入ラインを閉塞し、型を1時間放置した。引き続き型を90℃に昇温して0.5時間放置した後、さらに200℃まで昇温し1時間放置することで、複合材料成形体を得た。
【0116】
得られた複合材料成形体を確認したところ、該複合材料成形体中における、重合性組成物の含浸性は良好であり、目視観察で含浸むらは存在せず、泡やボイドは見られなかった。そのため、得られた複合材料成形体は、含浸むらに起因する強度低下が有効に抑制されており、曲げ強度(JIS K7017で測定)に優れたものであった。一方、比較として、バインダーとしてポリエステル樹脂を用いた場合について、上記と同様にして複合材料成形体を得たが、含浸むらが認められ、バインダーとして上記石油樹脂を用いた場合と比較して曲げ強度に劣った。なお、上記のRIMモノマーの組成は、ジシクロペンタジエン約90部及びトリシクロペンタジエン約10部からなり、メタセシス重合触媒の使用量は、これらの全シクロオレフィンモノマー1モルに対して0.055ミリモルであった。