(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】発酵ブロスからシアル酸を精製するための方法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/26 20060101AFI20230525BHJP
【FI】
C12P19/26
(21)【出願番号】P 2020528111
(86)(22)【出願日】2018-10-31
(86)【国際出願番号】 EP2018079908
(87)【国際公開番号】W WO2019101489
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-10-29
(32)【優先日】2017-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511297753
【氏名又は名称】クリスチャン・ハンセン・ハーエムオー・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Chr. Hansen HMO GmbH
【住所又は居所原語表記】Maarweg 32 53619 Rheinbreitbach Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】イェンネワイン,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ヘルフリッヒ,マルクス
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/008362(WO,A1)
【文献】特開平02-261343(JP,A)
【文献】特表2017-506065(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104628794(CN,A)
【文献】特表2010-505403(JP,A)
【文献】特開平08-119986(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0296542(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的とするシアル酸を細胞内で生成し、生成したシアル酸を発酵ブロス中に排出する遺伝子修飾生体細胞の発酵によって得られる、発酵ブロスからシアル酸を精製するための方法であって、
シアル酸を含む発酵ブロスからバイオマスを除去する工程であり、清澄化溶液が提供される工程と、
カチオン性イオン交換材料によるカチオン性イオン交換処理であり、シアル酸がカチオン性イオン交換材料を通過し、通過液中に存在する条件下で行われる、カチオン性イオン交換処理;および
アニオン性イオン交換材料によるアニオン性イオン交換処理であり、シアル酸がアニオン性イオン交換材料を通過し、通過液中に存在する条件下で行われる、アニオン性イオン交換処理
に清澄化溶液を供することによって、精製溶液を提供する工程と;
電気透析によって精製溶液から塩を除去する工程と
を含む方法。
【請求項2】
i)クロマトグラフィー分離;ならびに/または
ii)エタノールおよび/もしくは酢酸エチルの使用、任意選択で有機溶媒の使用を含まない;ならびに/または
iii)有機溶媒を含む溶液で固定相からシアル酸を溶出する工程;ならびに/または
iv)重金属の使用;ならびに/または
v)発酵ブロス、清澄化溶液および/もしくは精製溶液を、45℃超の温度に加熱する工程
を含まないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
バイオマスが、遠心分離および/または濾過によって発酵ブロスから除去されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
カチオン性イオン交換処理において強カチオン性イオン交換体が使用される、および/またはアニオン性イオン交換処理において強アニオン交換体が使用されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
カチオン性イオン交換処理が、不特定のカチオンを除去して
それらを特定のカチオンH
+
またはNa
+
で置き換えるために行われ、不特定のカチオンがH
+で置き換えられる場合、通過液のpHは
、さらなる処理工程を行う前に
6~8のpHに調整されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
アニオン交換工程が、不特定のアニオンを除去して
それらを特定のアニオンCl
-
またはOH
-
で置き換えるために行われ、不特定のアニオンがCl
-で置き換えられる場合、通過液のpHは
、さらなる処理工程を行う前に
6~8のpHに調整されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
シアル酸がアニオン交換材料およびカチオン交換材料を通過する条件が、清澄化溶液のpHおよび/または塩濃度を調整することによって
、清澄化溶液のpHを6~8の範囲内のpHに調整することによって確立されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
カチオン性イオン交換処理およびアニオン性イオン交換処理後、精製溶液が、シアル酸、色彩付与物質および塩を
含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
アニオン性イオン交換処理において、塩化物形態のアニオン交換材料が使用され、および/またはカチオン性イオン交換処理において、水素形態のカチオン性イオン交換材料が使用されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
清澄化溶液が、まずカチオン性イオン交換処理に供され、その後アニオン性イオン交換処理に供されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
精製溶液が
、ナノ濾過および/または逆浸透によって
濃縮されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
清澄化溶液および/または精製溶液が、
i)
100g/L以上のシアル酸濃度まで濃縮される;および/または
ii)
4℃~45℃の温度でのナノ濾過によって濃縮される;および/または
iii)
20℃~50℃の温度での逆浸透によって濃縮される;および/または
iv)
5バール超50バール未満の間の圧力で濃縮されることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
電気透析が、中性条件下での電気透析または酸性条件下での電気透析であることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
精製溶液から塩を除去した後に、
i)精製溶液中の塩の量が、
10%(w/w)未満である;および/または
ii)導電率が、
0.2~10.0mS/cm
2
の間であることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
清澄化溶液および/または精製溶液が、
活性炭での処理による、変色の工程に供され、前記除去が、任意選択で、
i)清澄化溶液の透析濾過および/もしくは濃縮の工程の前もしくは後に行われる;ならびに/または
ii)清澄化溶液の電気透析および/もしくは透析濾過の工程の前もしくは後
に行われることを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
清澄化溶液および/または精製溶液に含まれるシアル酸が
、そのナトリウム形態に変換されることを特徴とする、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
精製溶液が噴霧乾燥され、ここで、精製溶液は
、ナトリウム形態のシアル酸を含むことを特徴とする、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
精製溶液が
、結晶化に供されることを特徴とする、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵ブロスからシアル酸を単離するための効率的な手法を記載する。発酵ブロスに含まれるシアル酸は、細菌発酵により生成される。本発明の方法は、発酵ブロスからバイオマスを除去する工程と、得られた溶液をカチオン性イオン交換処理およびアニオン性イオン交換処理の少なくとも1つに供する工程と、イオン交換処理後に塩を除去する工程とを含む。方法は、噴霧乾燥形態、およびシアル酸結晶の形態のシアル酸を提供し得る。
【背景技術】
【0002】
シアル酸は、9炭素骨格を有し、カルボン酸官能基を有する単糖であるノイラミン酸のN-またはO-置換誘導体の一般名である。カルボン酸基は、適切なpHで糖に負電荷を付与し得る。全ての既知のシアル酸構造は、(a)2-ケト-3-デオキシノノン酸(deoxynononic acid)(Kdn)、(b)ノイラミン酸(Neu)、(c)N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)および(d)N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)の4つの主要コア構造から誘導され、C-4、C-7、C-8およびC-9のヒドロキシル基に置換基を有し得る(O-アセチル基、O-メチル基、O-硫酸基、O-ラクチル基またはリン酸基)。ラクトンはNeuのC-2とC-7、C-4もしくはC-8との間に、またはラクタムはC-2とC-5アミノ基との間に生じ得る。さらに、2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-N-アセチルノイラミン酸(Neu2en5Ac、DANAとしても知られる)等の天然のデヒドロシアル酸もまた知られている。DANA等のデヒドロシアル酸は、シアリダーゼに対する阻害特性を有し得、したがってある特定のウイルス(例えばインフルエンザウイルス)に対する潜在的阻害特性を有し得る。
【0003】
シアル酸は通常、α-グリコシドとして存在し、これは糖脂質および糖タンパク質等のグリコール複合体におけるヘテロ-オリゴ糖の非還元性末端を占有し、構造および機能の両方においてグリカンの多様性の極端な例を提供する。シアル酸のファミリーは、N-およびO-置換体を含む9炭素ノイラミン酸の40を超える誘導体からなる。前記ファミリーのメンバーの構造的特徴は、5位におけるアミノ基、および1位におけるカルボキシル基に起因して特殊化されており、これによって全てのシアル酸は、生理学的条件下で負電荷を有する強い有機酸となる。
【0004】
シアル酸は、脊椎動物および高等無脊椎動物の細胞表面複合糖質(糖タンパク質および糖脂質)に存在するグリカンの末端糖として存在する。シアル酸はまた、大腸菌K1、インフルエンザ菌、軟性下疳菌、パスツレラ・ムルトシダ、淋菌、髄膜炎菌、カンピロバクター・ジェジュニおよびストレプトコッカス・アガラクティエを含む病原性細菌のリポ多糖類および莢膜多糖類の成分である。哺乳動物では、シアル酸は、主に細胞表面上の糖複合体の末端残基として見られる。Neuの2つの誘導体である、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)およびそのヒドロキシル化誘導体、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)が、哺乳動物細胞において見られる最も一般的なシアル酸構造である。哺乳動物のうち、ヒトは、CMP-Neu5AcをCMP-Neu5Gcに修飾するNeu5Gcが、ヒドロキシラーゼにおける不活性化突然変異に起因して、欠失していることが知られている例外である。
【0005】
天然に見られる非置換形態のノイラミン酸に関して、最も広く見られるシアル酸は、N-アセチルノイラミン酸(「Neu5Ac」または「NANA」とも略される)である。Neu5Acは、アミノ基のN原子がアセチル化されたシアル酸である。文献では、「シアル酸」という用語は、特定のシアル酸Neu5Acの同義語として使用される場合があるが、以下では、「シアル酸」という用語は、全てのシアル酸のファミリーとして理解され、Neu5Acは、前記ファミリーの特定のメンバーとして、すなわちN-アセチルノイラミン酸として理解される。
【0006】
Neu5Acは、微生物、ウイルス、毒素およびホルモンの受容体として作用することにより、様々な生物学的機能を行う。Neu5Acは、細胞-細胞相互作用に重要なアミノ糖の特徴的な成分である。
【0007】
別の有意な天然のバリエーションはN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)であり、これは、アセチル基のメチル部分における水素原子の1つをヒドロキシル基で置換することにより形成される。Neu5Gcは、動物種において、特にブタ組織において多数存在するが、特定の種類のがんに罹患した個人を除きヒト組織では検出されていない。
【0008】
なかでも、Neu5Acは、プロテアーゼによる分解からタンパク質を保護するように機能する。神経細胞の膜で生じるガングリオシドにおける高濃度のNeu5Acに起因して、Neu5Acは、神経発達および神経系の機能における重要な役割に寄与する。さらに、ヒトインフルエンザウイルスまたは鳥インフルエンザウイルス等の数多くのウイルス病原体が、人体の感染においてシアリル化化合物を利用することが知られている。Neu5Ac、Neu5Acを含む化合物、およびNeu5Acから誘導された化合物は、ウイルス感染症に対する活性物質において既に使用されている。さらなる研究は、最適な神経発達を確保するため、または変性脳疾患を予防するためのこれらの化合物の使用に焦点を置いている。
【0009】
細胞表面分子のNeu5Ac改質は、タンパク質構造安定性、細胞接着の制御、および信号伝達等の多くの生物学的現象において役割を担っている。遺伝性封入体ミオパシー(HIBM)、空胞型遠位型ミオパシー(DMRV)またはNonakaミオパシーとしても知られるGNEミオパシー等のNeu5Ac欠乏疾患は、シアル酸生成の減少により生じる臨床疾患である。Neu5Acの生成は、突然変異が疾患を引き起こす重要な理由である。経路の遺伝的閉鎖後の代謝産物の置き換えによって、理論的にはNeu5Ac欠乏の症状が軽減され得る(Jayら、Gene Reg. and Sys.、2009年 Biology 3:181~190)。しかしながら、in vivoでのNeu5Ac生合成経路における1種または複数種の化合物の投与は、著しく困難である。これらの化合物はクリアランス速度が極めて速く、代謝され得る前に尿中に排出される。
【0010】
人間の体内では、脳中に最も高い濃度のNeu5Acが見られ、Neu5Acは、シナプス形成および神経伝達においてガングリオシド構造の不可欠な部分として関与する(Wangら、Eur J Clin Nutr.2003年11月;57(11):1351~69)。特に生後一年の間、Neu5Acは脳の発達において主要な役割を果たすと思われる。乳児の脳の急速な成長には、特に早産児の場合では食生活からの栄養物供給の必要量が極めて高い。Neu5Acは、神経細胞接着分子(NCAM)を改質する脳ガングリオシドおよびポリシアル酸(polySia)鎖の不可欠な成分である。シアル酸レベルは、ヒト母乳中で高く、主に特定のシアル酸Neu5Acのレベルが高い。対照的に、乳児用フォーミュラは、Neu5AcおよびNeu5Gcの両方の含有レベルが低い(Wang、Annu Rev Nutr.2009年;29:177~222)。したがって、Neu5Acは、乳児の脳の発達を補助する乳児用フォーミュラにおける使用のための高い可能性を示す。
【0011】
シアル酸は、胎児神経系の発達、転移、免疫応答の制御、および細菌またはウイルスの感染を含む多くの生理学的および病態生理学的プロセスにおいて重要な役割を果たす。シアル酸は、細胞-細胞相互作用、ニューロン伸長、シナプス接続および記憶形成の修正を促進する神経細胞接着分子(NCAM)を改質する脳ガングリオシドおよびポリシアル酸鎖の不可欠な成分である。仔豚では、シアル酸高濃度食は、脳シアル酸のレベルおよび2つの学習関連遺伝子の発現を増加させた。したがって、食事もまた学習および記憶を向上させる。
【0012】
乳児、特に早産児は、この発育段階における急速な脳の成長および免疫系の発達に起因して、シアル酸を含む栄養物の要求量が高い。また、人間の母乳には、高レベルのシアル酸、特にNeu5Acが存在する(約0.5g/L)。対照的に、今日まで、乳児用フォーミュラは、Neu5Acの含有量が低い、またはさらには無視できる程度である。遊離Neu5Acの他に、ヒトミルクは、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)のファミリーに属する様々な酸性の、すなわちシアリル化オリゴ糖を含み(Urashima T.ら、(2011年) Nutrition and diet research progress:Milk oligosaccharides、Nova Sciences Publishers Inc、New York、ISBN-978-1-61122-831-1)、最も顕著には3’-シアリルラクトース、6’-シアリラクトース、およびラクト-N-テトラオース(LNT)のシアリル化誘導体、例えばLST-a、LST-b、LST-cおよびジシアリル化LNTを含む。一部の哺乳動物、例えば齧歯類からの乳は特にシアリル化ミルクオリゴ糖に富むが、ヒトミルクは、中性オリゴ糖、例えば2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオースおよびラクト-N-フコペンタオースIに富む。
【0013】
創薬において重要な別の側面は、活性物質が、薬学的品質の医薬製剤のために、可能な限り安定な結晶形態を有するべきであるということである。製薬分野における当業者には、原薬の結晶化が、重要な物理化学的品質、例えば安定性、溶解度、バイオアベイラビリティ、粒子サイズ、かさ密度、流動特性、多形含量、および他の特性を制御するための最善の方法を提供することが理解される。したがって、Neu5Ac等のシアル酸の結晶形態、およびそのような形態を生成するための方法が必要とされている。これらの結晶形態は、薬学的使用に好適となるべきである。
【0014】
Neu5Acの誘導体の別の使用は、ウイルス感染、例えばインフルエンザの処置のためのノイラミニダーゼ阻害剤としての使用である。一例として、Neu5Acは、鳥インフルエンザウイルスH5N1等のA型およびB型インフルエンザの両方の感染を予防および処置するために使用され得るザナミビルの合成における潜在的原材料である(Kaweiら、Clin Infect Dis 2009年、48:996~997)。さらに、Neu5Acは、抗がん、抗接着および抗炎症活性等の幅広い範囲の医薬品用途を有する(Varkiら、Lab Invest 2007年、87:851~857)。
【0015】
Neu5Acの高いコストは、その入手可能性および供給量が低いことに起因する。Neu5Acを調製するためのいくつかの戦略がある。従来、Neu5Acは、卵黄、乳清および食用の鳥の巣等の天然物質から抽出される。しかしながら、天然源におけるNeu5Acの含量は比較的低く、その結果、特に複雑な精製プロセス、純度の低い出発材料および低収率の観点から、分離および精製プロセスが比較的複雑であり、時間を要し、また面倒である(Taoら、Appl Microbiol Biotechnol 2010、87:1281~1289)。したがって、従来の方法では、Neu5Acの大規模生産にはコスト効率が低い。
【0016】
上記のように、Neu5Acは、食用の鳥の巣から単離され得る。食用の鳥の巣は、Neu5Acの含量が最も高い天然源である。食用の鳥の巣におけるNeu5Acの含量は、卵黄中の2g/kgと対照的に、最大100g/kgである(Koketsuら、Glycoconj J.1992年4月;9(2):70~4)。多くの場合において、Neu5Acは、完全には精製されず、強化されるのみである。次いで生成物は、鳥の巣抽出物として販売される。この鳥の巣抽出物は、わずか1.5%のシアル酸を含む(Bird’s Nest Extract、ORYZA OIL & FAT CHEMICAL CO., LTD)。
【0017】
CN104072533Aは、鳥の巣からNeu5Acを単離するための手法を開示している。材料が水でインキュベートされ、121℃まで加熱され、凍結乾燥される。そのようにして処理された巣から、エタノールを添加することによりNeu5Acが取り出された。エタノールを濾過して不溶性材料を除去し、酢酸エチルでインキュベートしてNeu5Acを沈殿させた。これにより、約79%の純度のNeu5Acが得られ、精製収率は55~60%である。
【0018】
Neu5Acの工業生産のための1つの可能な手法は、化学合成である。例えば、N-アセチル-グルコサミン(GlcNAc)およびオキサロ酢酸は、アルカリ条件下で縮合され、続いて脱炭酸され得る(Cornforthら、Biochem J 1958年 68:57~61により説明されている)。別の手法は、D-マンノースおよび非糖前駆体、例えば1,2-cis-ジヒドロ-カテコールからの不斉合成による調製である(Danishefskyら、J Am Soc 1988年、110:3929~3940)。しかしながら、ほとんどの場合において、Neu5Acの化学合成は、骨の折れる反復的な逐次的保護および脱保護工程を含み、または必要とし、多くの反応中間体および異性体の形成をもたらし得る。これらの事実は、極めて複雑、困難および高コストの分離プロセスをもたらし得る。
【0019】
Neu5Acの工業生産のための第3の選択肢は、生体触媒プロセスによる生成である。前記生体触媒プロセスは、酵素触媒、全細胞生体触媒および発酵を含む。生体触媒および発酵プロセスは、様々な物質を生成するための重要なツールとなった。これらの技術は、バルク化学物質、農薬中間体、原薬および食品成分の大規模な生産または合成に使用される。生体触媒および発酵は、様々な物質の容易で低コストの生成の可能性を提供する。方法のほとんどは、穏やかな条件下での環境に優しい操作を採用している。
【0020】
Neu5Acの生成には、生体触媒(biocatalyic)または酵素ベース生成に使用され得る2つの異なる酵素が説明される。酵素は、Neu5Acシンターゼ(EC4.1.3.19)およびNeu5Acアルドラーゼ(NAL、以前の名称はNeu5Acリアーゼ、EC4.1.3.3)である。Neu5Acアルドラーゼは、Neu5Acシンターゼより好ましいが、これは、その基質であるピルベートが、Neu5Acシンターゼの基質であるホスホエノールピルベートよりはるかに入手可能であるためである(Taoら、Appl Microbiol Biotechnol 2010年、87:1281~1289)。NALは、1960年に、原材料としてN-アセチル-D-マンノサミン(ManNAc)およびピルベートと共にNeu5Ac生成に初めて使用された(Combら、J Biol Chem 160 235:2529~2537)。この方法によるNeu5Acの大規模生産のための1つの重要な点は、N-アセチル-D-マンノサミンの非常に高いコストである。さらに、今日まで、N-アセチル-D-マンノサミンは大量に入手可能ではない。
【0021】
DE3937891A1は、生体触媒プロセスによるNeu5Acの生成が、大規模生産に転換可能であることを開示している。N-アセチルグルコサミン-2-エペリメラーゼ(eperimerase)(EC5.1.3.8)により触媒されるN-アセチルグルコサミンからN-アセチルマノサミン(acetylmanosamine)への異性化、ならびにその後のN-アセチルノイラミン酸ピルベートリアーゼ(EC4.1.3.3)およびピルベートの存在下でのNeu5Acへの反応を、バイオリアクタ内で成功裏に行うことができる。
【0022】
WO94/29476A1は、N-アセチル-D-グルコサミン(NAG、GlcNAc)からのN-アセチル-D-ノイラミン酸の調製のためのin vitro法を開示している。調製において、NAGは、塩基触媒エピマー化によりN-アセチル-D-マンノサミン(NAM、ManNAc)に変換される。その後、NAMは、Neu5Ac-アルドラーゼにより触媒される反応においてピルベートと反応し、Neu5Acを生成する。Neu5Ac-アルドラーゼは、前記Neu5Ac-アルドラーゼを発現する組換え大腸菌細胞から調製された。アルドラーゼ酵素は、Eupergit-C(登録商標)ビーズを前記組換え大腸菌細胞の粗抽出物と混合することにより固定された。NAMからNeu5Acへの変換は、その固定された酵素ビーズをNAMおよびピルベートの混合物に添加することにより開始された。反応混合物からNeu5Acが得られたが、ここで、濾過により酵素が除去され、濾液が氷酢酸および少量のシードと混合されて、「湿潤ケーキ」が得られた。湿潤ケーキは、アセトン脱溶媒和または菱形結晶化(rhomboid crystallization)のいずれかに供された。
【0023】
EP0578825A1は、N-アセチルグルコサミンおよびピルビン酸の混合物をアルカリ条件下でN-アセチルノイラミン酸リアーゼで処理することによりNeu5Acを生成するためのin vitro法を開示している。反応生成物は、Dowex 1(Dow Chemical Company)を使用したイオン交換カラムクロマトグラフィーによって単離され、単離物は結晶化により濃縮された。
【0024】
反応混合物へのN-アセチル-D-マンノサミンの使用を回避するために、N-アセチル-D-グルコサミンが基質として使用される酵素的アプローチが知られている。第1の工程中、N-アセチル-D-グルコサミンが、N-アシル-D-グルコサミン-2-エピメラーゼによりN-アセチル-D-マンノサミンに77%の変換率で変換された。第2の工程中、そのようにして生成されたN-アセチル-D-マンノサミンおよびピルベートが、N-アセチルノイラミン酸リアーゼの基質として使用され、Neu5Acが生成された(Maruら、Carbohydrate Research、1998年;306:575~578)。この方法により、27kgのN-アセチル-D-グルコサミンから29kgのNeu5Acを生成することができた。生成されたNeu5Acは、直接結晶化により回収された。溶液は、含有する酵素を沈殿させるために、80℃に5分間加熱された。不溶性部分は、濾過により除去された。反応混合物からNeu5Acを回収するために、5体積分の氷酢酸が溶液に添加された。結晶化後、濾過によりNeu5Acが回収され、エタノールにより洗浄されて、残留する酢酸が除去された。一定重量が得られるまで、材料を40℃で乾燥させた。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および赤外(IR)分光法を使用すると、そのようにして生成および単離されたNeu5Acは、天然Neu5Acと区別不可能であった。
【0025】
Neu5Acを生成するためのこの方法はまた、大規模生産のための別のアプローチからも知られている。前記アプローチでは、Neu5Acは、大腸菌K12誘導体の修飾株から得られるアルドラーゼ酵素調合物[N-アセチルノイラミネートリアーゼ;CAS:9027-60-5;E.C.:4.1.3.3.アルドラーゼ酵素]を使用して合成される。酵素は、N-アセチルマンノサミンおよびピルビン酸ナトリウムがカップリングしてN-アセチルノイラミン酸を生成するのを触媒する。(Gras Notice 602、N-アセチル-D-ノイラミン酸(NANA)のGRAS免除請求、Glycom A/S)。このようにして生成されたNeu5Acは、次いでいくつかの工程で精製される。第1の工程は、濾過により触媒生成工程からタンパク質を除去することである。濾過後、結晶化により反応混合物から無水Neu5Acが除去される。第1の結晶化工程の後、材料は再び溶解され、色および不純物を除去するためにチャコールで処理され、再び結晶化され、結晶性二水和物形態のNeu5Acが得られた。しかしながら、シアル酸の生体触媒生成は、数百kg規模で技術的に可能なだけであり、食品、例えば乳児および幼児用栄養製品における用途のために、数トン規模でNeu5Ac等のシアル酸を提供するための現実的な選択肢ではない。乳児用栄養製品中に約0.5g/lの天然濃度でNeu5Acを含めるには、乳児用食品フォーミュラ1kg当たり約3.75gの量のNeu5Acが必要である。したがって、「少量の」乳児用食品フォーミュラ製品であっても、材料は数トンとなる。さらに、シアル酸の生体触媒生成は、今日では食品用途には高額すぎる。
【0026】
in vitroでの生体触媒生成方法に加えて、in vivoでの微生物の助けを借りた発酵によりNeu5Acを生成する可能性もある。この場合、使用される酵素は、微生物内で生成されるが、上記のように単離されない。むしろ、反応カップとして全細胞が使用され、Neu5Acが細胞内で生成され、生成中、Neu5Acは、周囲の培地中に分泌される。発酵後、Neu5Acは培養ブロスから単離される。Neu5Acの生成のために、特に大腸菌等の細菌および酵母が文献中で説明されている。
【0027】
EP1484406A1は、Neu5Acが培養培地中に蓄積し、そこから回収され得るような、Neu5Acを生成する能力を有するが野生型株と比較してNeu5Acを分解する能力が限られている、またはその能力を有さない微生物を使用して、Neu5Acを生成するための方法を説明している。Neu5Acの生成を可能にするために、微生物は、強いN-アセチルノイラミン酸シンターゼ活性および/またはN-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼ活性を有する。
【0028】
CN106929461Aは、グルコサミン-フルクトース-6-ホスフェートトランスアミナーゼ、グルコサミン-6-ホスフェートN-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミンイソメラーゼおよびN-アセチルノイラミン酸シンターゼをコードする遺伝子を発現する枯草菌細胞を使用してNeu5Acを生成するための方法を開示している。細胞は、さらに、ホスホトランスフェラーゼ系EIICBA欠失のグルコース特異的成分をコードするptsG遺伝子を有する。これらの細胞をグルコース含有培地中で培養することにより、0.66g・L-1の収量のNeu5Acが得られた。
【0029】
Zhu,D.ら(Zhu,D.ら(2017年)Biotechnol.Lett.39:227~234)は、大腸菌においてPEP合成関連遺伝子pckおよびppsAの過剰発現に高コピー数の同時発現ベクターを使用すると、Neu5Ac生成が向上することを報告している。より具体的には、大腸菌細胞がランダム突然変異誘発に供され、グルコース含有培地では有利に増殖するがNeu5Ac含有培地では限られた増殖を示す、または増殖を示さない細胞系統が、N-アセチルノイラミン酸シンターゼおよびN-アセチルグルコサミン-2-エピメラーゼをコードする発現プラスミドで転換された。培養期間後、細胞は遠心分離によってペレット化され、いわゆる「湿潤細胞」として-20℃で保存され、必要に応じて解凍後に使用された。Neu5Acの生成のために、90g・L-1のN-アセチルグルコサミンと、50g・L-1のグルコースと、10mL・L-1のキシレンと、4g・L-1の洗剤の存在により透過処理されている200g・L-1の前記湿潤細胞とを含む反応混合物(30mL)が用意された。in-vitro反応の完了後、HPLCによってNeu5Acの形成が評価された。
【0030】
US2003/0109007A1は、透過処理された微生物を利用することによりNeu5Acを生成するための方法を開示している。方法は、(i)N-アセチルノイラミン酸アルドラーゼ活性もしくはN-アセチルノイラミン酸シンテターゼ活性を有する微生物の培養物、または培養物に由来する処理後の物質;(ii)ピルビン酸を生成することができる微生物の培養物(もしくは培養物に由来する処理後の物質)、またはホスホエノールピルビン酸を生成することができる微生物の培養物(もしくは培養物から得られた処理後の物質);(iii)N-アセチルマンノサミン;および(iv)ピルビン酸またはホスホエノールピルビン酸の形成に必要なエネルギー源を含有する混合物の調製を含む。混合物は、水性媒体中でのNeu5Acの形成および蓄積を可能にするキレート剤または界面活性剤を含む水性媒体中で調製される。反応生成物は、炭水化物分析システムを使用して定量された。上述の方法の欠点は、小規模生成のみが可能であり、反応平衡をNeu5Acに傾けるためには過剰のピルベートが必要となることである。さらに、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルマンノサミンおよびホスホエノールピルベートは、これらの反応には高価な基質である。
【0031】
WO2008/040717A2は、培地中での微生物の培養を含む、Neu5Acを生成するための方法を開示しており、前記微生物は、シアル酸シンターゼ(NeuB)およびUDP-GlcNAcエピメラーゼ(NeuC)をコードする異種遺伝子を保持し、前記微生物は、CMP-Neu5Acシンターゼ(NeuA)をコードする遺伝子を有さず、または、CMP-Neu5Acシンターゼ(NeuA)をコードするいかなる遺伝子も不活性化または欠失しており、シアル酸アルドラーゼ(NanA)、シアル酸トランスポーター(NanT)および任意選択でManNAcキナーゼ(NanK)をコードする内在性遺伝子は、欠失または不活性化している。Neu5Acは、氷酢酸を使用した沈殿により、培養物の上清(2リットル)から精製されている。
【0032】
WO2008/097366A2は、Neu5Acを生成する代謝操作大腸菌細胞に関する。この細胞では、nanT(シアル酸トランスポーター)およびnanA(シアル酸アルドラーゼ)遺伝子が不活性化され、髄膜炎菌群BにおけるNeu5Ac生合成を促進するneuCおよびneuB遺伝子が導入され、前述のnanT-nanA大腸菌細胞内で発現プラスミドを使用して過剰発現される。さらに、大腸菌グルコサミンシンターゼ遺伝子(glmS)は、neuBおよびneuCで同時過剰発現される。Neu5Acは、イオン交換クロマトグラフィーにより培養ブロスから精製された。
【0033】
CN106929461Aは、Neu5Acの生成を改善する枯草菌の遺伝子操作株に関する。発酵培養物中のNeu5Acの量は、HPLCにより決定された。したがって、工業規模でより効率的に、および唯一の炭素源として安価な炭素源を使用してNeu5Acを生成することができる微生物を提供することが目的であった。
【0034】
WO2012/083329A1は、N-アセチルグルコサミン-2-エピメラーゼおよびN-アセチルノイラミン酸シンターゼを構成的に発現するトリコデルマ属の遺伝子操作真菌細胞によりNeu5Acを生成するための方法および薬剤を開示している。そのようなトリコデルマ細胞は、GlcNAcの存在下で培養された。そのようなトリコデルマ株の菌糸が、Neu5Acの存在についてHPLC-MSにより分析された。
【0035】
EP0474410A2は、脱脂された(dilapidated)卵黄を加水分解することによりNeu5Acを生成するための方法を開示している。方法は、脱脂された卵黄を加水分解することにより得ることができるNeu5Acを含有する溶液を脱塩する工程と、Neu5Acをアニオン交換樹脂に吸着させる工程と、次いでNeu5Acを溶出する工程とを含む。脱塩は、逆浸透膜、電気透析膜または透析膜を使用することにより達成され得る。吸着プロセスは、脱塩された加水分解物をカチオン交換樹脂に通し、それをさらにアニオン交換樹脂に通すことを含んでもよい。最終溶出物は減圧下で乾燥され、固体が得られた。
【0036】
JP08-119986Aは、シアル酸アルドラーゼの存在下でN-アセチルマンノサミンをピルビン酸と縮合させることによるNeu5Acの合成を含む、Neu5Acまたはその類似体を精製するための方法を説明している。Neu5Acまたはその類似体を含む溶液は、エバポレーターを使用して濃縮される。濃縮溶液は、2個または3個の炭素原子を含有する有機酸と混合される。その後、混合物は50℃に加熱され、4℃で静置され、Neu5Acの白色結晶が沈殿する。
【0037】
精製シアル酸を提供するための現行の試みは、小規模の実証にのみ関連しているが、今日まで、発酵ブロスからの食品グレード純度および食品グレード品質の大量精製プロセスは利用可能ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
本発明の目的は、高純度のシアル酸(例えばNeu5Ac)の大量(工業規模)精製のための方法を提供することであった。具体的には、方法は、食品グレード品質でkg規模からトン規模のシアル酸を提供するのに好適であるべきであり、連続的な様式で実行されるのに好適であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0039】
この目的は、請求項1に記載の方法、請求項19に記載の組成物、請求項22に記載の食品組成物、請求項29に記載の液体の即時使用可能な乳児または幼児用栄養製品、請求項30に記載の噴霧乾燥乳児用フォーミュラ製品、請求項31に記載の健康補助食品、請求項32に記載のプレミックス、および請求項34に記載の組成物の使用によって解決される。従属請求項は、有利な実施形態を例示している。
【0040】
本発明によれば、発酵ブロスからシアル酸を精製するための方法が提供される。この方法は、
シアル酸を含む発酵ブロスからバイオマスを除去する工程であり、清澄化溶液が提供される工程と、
カチオン性イオン交換材料によるカチオン性イオン交換処理であり、シアル酸がカチオン性イオン交換材料を通過し、通過液中に存在する条件下で行われる、カチオン性イオン交換処理;および
アニオン性イオン交換体によるアニオン性イオン交換処理であって、シアル酸がアニオン性イオン交換材料を通過し、通過液中に存在する条件下で行われる、アニオン性イオン交換処理に清澄化溶液を供することによって、精製溶液を提供する工程と;
電気透析によって精製溶液から塩を除去する工程と
を含む。
【0041】
本発明の方法は、高純度(食品グレード品質)および大量(1回の実行当たりkgからトンの範囲の工業規模)の目的とするシアル酸を提供するのに好適である。さらに、本発明の方法は、極めて迅速および安価な様式で行うことができる。したがって、これは非常に経済的に実行され得る。さらに、方法は、バッチ式または連続式で行うことができる。後者は、回数当たりに得ることができる収率をさらに改善する。方法の最後には、シアル酸の純度は、80%超、好ましくは90%超、より好ましくは95%超、最も好ましくは少なくとも98%となり得る。
【0042】
シアル酸の精製のための提示された方法はまた、目的とするシアル酸の生成に使用される組換え微生物発酵株由来の組換えDNAおよび組換えタンパク質を、シアル酸の調合物が含まないという点で有利である。
【0043】
本発明の方法は、発酵ブロスからの特定のシアル酸(例えばNeu5Ac)の精製のために考案されたものであるが、前記方法はまた、in vitroでの酵素反応、いわゆるin vitro 生体触媒反応により、または透過処理された全細胞生体触媒アプローチを使用することにより生成された特定のシアル酸の精製にも使用され得る。in vitro生体触媒反応の反応混合物からのシアル酸の精製は、反応混合物からのバイオマスの除去を必要としないことが理解される。したがって、in vitro生体触媒反応の反応混合物は、清澄化プロセスストリームに対応する。
【発明を実施するための形態】
【0044】
定義
本発明によれば、「純度」という用語は、化学的純度を指し、特定の単一シアル酸等の物質が異物で希釈されていない、または異物と混合されていない程度を指定するものである。したがって、化学的純度は、単一物質と副生成物/不純物との間の関係の指標である。化学的純度は、パーセンテージ(%)として表現され、以下の式を用いて計算される。
【0045】
【0046】
シアル酸を含む組成物において、シアル酸の純度は、当業者に公知の任意の好適な方法によって、例えばHPLCを使用することによって決定され得る。適切な検出器は、電気化学的検出器、屈折率(RI)検出器、質量分析計(MS)、ダイオードアレイ検出器(DAD)およびNMR検出器からなる群から選択される検出器であってもよい。例えば、HPLCにおいて、同じクロマトグラムにおける特定のシアル酸(例えばNeu5Ac)および特定のシアル酸とは異なる化合物の量の両方を表すピーク下面積の合計に対する特定のシアル酸の量を表すピーク下面積の比。しかしながら、これは、選ばれたHPLC法によってすべての不純物が分析され得ることを暗に意味する。さもなければ、質量収支アプローチ、すなわち目的とする生成物(例えばNeu5Ac)の絶対的定量が必要である。このアプローチでは、純度の定量のために参照物質として純粋な物質が使用され、そして純度は生成物(目的とする生成物および全不純物)から得られた乾燥物量に対して鑑定される。前記質量収支アプローチはまた、本発明による純度を決定するために使用され得る。
【0047】
本発明にしたがって、「シアル酸」という用語は、全シアル酸のファミリーメンバーに含まれるシアル酸を指す。したがって、本発明によれば、精製されるシアル酸は、好ましくは、ノイラミン酸のN-またはO-置換誘導体、より好ましくはノイラミン酸のN-置換誘導体、より一層好ましくはN-アセチルノイラミン酸(2-ケト-5-アセトアミド-3,5-ジデオキシ-D-グリセロ-D-ガラクトノヌロピラノース-1-オン酸、「Neu5Ac」もしくは「NANA」と略される)、N-グリコリルノイラミン酸(「Neu5Gc」と略される)、または2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-N-アセチルノイラミン酸(「Neu2en5Ac」もしくは「DANA」と略される)である。本発明の特に好ましい実施形態において、シアル酸は、N-アセチルノイラミン酸(「Neu5Ac」または「NANA」)である。
【0048】
本発明によれば、「培養ブロス」は、精製されるシアル酸を含有する発酵後の任意の液体を指す。「培養ブロス」、「発酵ブロス」および「培養培地」という用語は、本明細書において同義語として使用される。培養ブロスは、精製されるシアル酸だけでなく、バイオマス(例えば生体細胞および細胞残屑)、培地成分、塩、ならびに他の酸および有色化合物等の夾雑物を含む。培養ブロス中の精製されるシアル酸の純度は、80%未満であってもよい。培養ブロス中に含まれる生体細胞は、目的とするシアル酸(例えばNeu5Ac)を細胞内で生成し、生成したシアル酸を液体培養培地中に排出する生体細胞である。生体細胞は、遺伝子修飾生体細胞、例えば遺伝子修飾大腸菌細胞を含んでもよく、またはそれからなってもよい。遺伝子修飾は、特にその生体細胞の増殖期の間に単一の(目的とする)シアル酸(例えばNeu5Ac)を生成するための修飾を含んでもよく、またはそれからなってもよい。
【0049】
「バイオマス」という用語は、本明細書において使用される場合、発酵工程の最後に発酵ブロス中に存在する生体細胞全体を指す。バイオマスは、目的とするシアル酸(例えばNeu5Ac)を生成した微生物の細胞、発酵工程中に目的とするシアル酸(例えばNeu5Ac)を生成する能力を失っていてもよい微生物の子孫細胞、および発酵工程の最後に発酵ブロス中に意図せずに存在する任意の他の細胞を含む。したがって、清澄化発酵ブロス、すなわちプロセスストリームが実質的に細胞を含まないように、発酵工程の最後に発酵ブロス中に存在する本質的にすべての生体細胞が、発酵ブロスから分離される。
【0050】
「プロセスストリーム」という用語は、精製される特定のシアル酸を含む任意の溶液を指す。
「通過液」という用語は、イオン交換材料(すなわちカチオンおよび/またはアニオン交換材料)を通過した直後の、精製されるシアル酸を含む溶液を指し、すなわち、固相イオン交換材料に接触した後の、シアル酸を含む移動相である。換言すれば、通過液中に存在するシアル酸は、固定相に吸着されない、または固定相により吸収されない。
【0051】
本発明によれば、弱カチオン性イオン交換材料と強カチオン性イオン交換材料との間の違いは、前者のイオン交換に好適な化学基はpKaが少なくとも1(例えばカルボキシレート基のpKaのように、pKaが2~5)であり、一方で後者はpKaが1未満(例えばスルホン酸基のpKaのように、pKaが-4~0)であるという点である。
【0052】
清澄化溶液の生成
バイオマスは、遠心分離および/または濾過によって発酵ブロスから除去され得る。
培養ブロスからバイオマスを除去するための好適な遠心分離法では、バイオマスはペレットとして得られ、上清は、さらなる処理に供される清澄化プロセスストリームとして得られる。培養ブロスからバイオマスを除去するための好適な濾過法では、濾液が清澄化プロセスストリームとなる。バイオマスを除去するための好ましい濾過法は、精密濾過および/または限外濾過である。限外濾過では、精密濾過の場合よりもさらに小さい粒子が除去され得る。任意選択で、限外濾過は、クロスフロー限外濾過である。
【0053】
精密濾過は、粒子を含有する流体が媒体に通される物理的分離プロセスであり、前記媒体は、粒子を保持するための入り組んだ(torturous)チャネルを含有する多孔質物質(深層濾過)、および/または特定の細孔サイズより小さい粒子/分子を通過させる、前記細孔サイズを有する膜(膜濾過もしくはデッドエンド濾過)を含む。「精密濾過」という用語は、本明細書において使用される場合、生体細胞(および細胞残屑)が発酵ブロスから除去されて(清澄化)プロセスストリームから離れる物理的分離プロセスを指す。
【0054】
限外濾過は、デッドエンド精密濾過と根本的には異ならない膜濾過の形態である。限外濾過では、圧力および濃度勾配により生成された力が、粒子および巨大可溶性分子を含む液体を半透膜に通し、粒子および巨大可溶性分子をいわゆる保持物中に保持させることによりそのような粒子および巨大可溶性分子の除去をもたらし、一方、水および低分子量溶質、例えば精製されるシアル酸等は、膜を通過して透過液(濾液)中に入る。限外濾過用の膜は、膜を通過して透過液中に入ることができる可溶性分子の最大分子量を表すその分子量カットオフ(MWCO)により定義される。MWCOより大きい任意の粒子および分子は、膜を通過することができず、保持物中に残留する。限外濾過は、液体の流れが膜表面と平行であるクロスフローモードで、または液体の流れが膜表面に垂直であるデッドエンドモードで適用されてもよい。
【0055】
発酵ブロスからバイオマスを除去するための精密濾過および/または限外濾過用の非限定的な例および好適なフィルタは、コンパクトな設計およびより良好な性能を提供するためにらせん状に巻回されたポリエーテルスルホン膜を備えるモジュールであり、限外濾過用途のために0.05μmの公称細孔サイズを有するSPIRA-CEL(登録商標)DS MP005 4333を含む。精密濾過によりバイオマスを除去するための好適な膜は、少なくとも0.2μmの細孔サイズを有し得る。あるいは、バイオマスの除去は、バイオマスおよびより大きなタンパク質等の追加的な細胞残屑を除去するために100~1000KDaの間、好ましくは150kDa~500kDaの間のMWCOを有する膜を用いた精密濾過により行われてもよい。例えば、150,000ダルトン(150kDa)のMWCOを有するポリエーテルスルホン膜(5m2)を使用した中空繊維限外濾過モジュールであるFS10-FC FUS1582(Microdyn-Nadir GmbH、Wiesbaden、DE)を代替として使用することができる。
【0056】
追加的および/または代替的実施形態において、より小さい粒子および巨大可溶性分子は、クロスフロー限外濾過によって清澄化プロセスストリームから除去される。ここで、清澄化プロセスストリームは、10kDaのMWCOを有するフィルタ、例えば、10,000ダルトン(10kDa)のMWCOを有するポリエーテルスルホン膜を使用したらせん状巻回限外濾過モジュール(5.7m2)であるSpira-Cel DSUP010(Microdyn-Nadir GmbH、Wiesbaden、DE)を使用した限外濾過工程に供されてもよい。
【0057】
要約すると、発酵ブロスからバイオマスを除去するための以下の可能性が、本発明において採用され得る。
1)遠心分離による採取。不溶性部分が、1工程で培養ブロスから除去される。利点:不溶性部分の迅速な除去;
2)精密濾過による採取。ある特定のサイズを超える不溶性部分および巨大分子が、1工程で培養ブロスから除去される。精密濾過では、らせん状巻回膜または中空繊維クロスフローフィルタが使用され得る。500kDa以上の範囲内、より好ましくは150KDa以上の範囲内の分子量カットオフを有する精密濾過膜が使用され得る。利点:ある特定のサイズを超える不溶性部分および巨大分子の迅速な除去;
3)限外濾過による採取。ある特定のサイズを超える不溶性部分、巨大分子および小分子が、1工程で培養ブロスから除去される。限外濾過では、らせん状巻回膜または中空繊維クロスフローフィルタが使用され得る。100kDa以下の範囲内、より好ましくは10KDa以下の範囲内の分子量カットオフを有する限外濾過膜が使用され得る。利点:ある特定のサイズを超える不溶性部分、巨大分子および小分子の迅速な除去;
4)精密濾過と組み合わせた遠心分離による採取:ある特定のサイズを超える不溶性部分および巨大分子が、2工程で培養ブロスから除去される。精密濾過では、らせん状巻回膜または中空繊維クロスフローフィルタが使用され得る。500kDa以上の範囲内、より好ましくは150KDa以上の範囲内の分子量カットオフを有する精密濾過膜が使用され得る。利点:精密濾過に使用される膜またはフィルタを詰まらせることのない、ある特定のサイズを超える不溶性部分および巨大分子の迅速な除去;
5)限外濾過と組み合わせた遠心分離による採取:ある特定のサイズを超える不溶性部分、巨大分子および小分子が、2工程で培養ブロスから除去される。限外濾過では、らせん状巻回膜または中空繊維クロスフローフィルタが使用され得る。100kDa以下の範囲内、より好ましくは10KDa以下の範囲内の分子量カットオフを有する限外濾過膜が使用され得る。利点:限外濾過に使用される膜またはフィルタを詰まらせることのない、ある特定のサイズを超える不溶性部分、巨大分子および小分子の迅速な除去;
6)限外濾過工程と組み合わせた精密濾過による採取:ある特定のサイズを超える不溶性部分、巨大分子および小分子が、2工程で培養ブロスから除去される。精密濾過および/または限外濾過では、らせん状巻回膜または中空繊維クロスフローフィルタが使用され得る。500kDa以上の範囲内、より好ましくは150KDa以上の範囲内の分子量カットオフを有する精密濾過膜が使用され得る。100kDa以下の範囲内、より好ましくは10KDa以下の範囲内の分子量カットオフを有する限外濾過膜が使用され得る。利点:限外濾過に使用される膜またはフィルタを詰まらせるリスクが少ない、ある特定のサイズを超える不溶性部分、巨大分子および小分子の最も迅速な除去。
【0058】
シアル酸を含む清澄化プロセスストリームは通常、(これらに限定されないが)一価イオン、二価イオン、アミノ酸、ポリペプチド、タンパク質、有機酸、核酸、単糖および/またはオリゴ糖を含む、実質的な量の望ましくない不純物を含有し得る。
【0059】
好ましくは本発明の方法には存在しない工程
本発明の方法は、クロマトグラフィー分離を含まないことを特徴とし得る。利点は、溶出溶液を調製するためおよびそれを使用して固相からシアル酸を溶出するための時間および経費が省かれることから、この方法がより迅速に、かつより安価に実行され得ることである。
【0060】
さらに、本発明の方法は、エタノールおよび/または酢酸エチルの使用を含まないこと、また任意選択で有機溶媒の使用を含まないことを特徴とし得る。利点は、最終生成物である最終的なシアル酸またはシアル酸を含む組成物が、エタノールおよび/または酢酸エチルを含まず、任意選択でいかなる有機溶媒も含まないことが確実となり得ることである。さらに、方法はより安価となり、また作業者にとってより安全となる。
【0061】
さらに、本発明の方法は、有機溶媒を含む溶液で固定相からシアル酸を溶出する工程を含まないことを特徴とし得る。利点は、精製シアル酸がいかなる有機溶媒も含まないことを維持し得ることである。さらに、方法はより安価となり、また作業者にとってより安全となる。
【0062】
さらに、本発明の方法は、重金属の使用を含まないことを特徴とし得る。利点は、精製シアル酸が重金属を含まないことが確実となり得ることである。
さらに、本発明の方法は、発酵ブロス、清澄化溶液および/または精製溶液を45℃超の温度に加熱する工程を含まないことを特徴とし得る。利点は、そのような熱処理工程を採用する先行技術の方法と比較して、各溶液を加熱するためのエネルギーが削減され、それによって方法がより経済的で、かつより環境に優しくなることである。
【0063】
カチオン性イオン交換処理
不純物のなかでも、カチオンは、本発明の方法のカチオン性イオン交換処理工程によって、すなわち少なくとも1回のカチオン交換処理を清澄化プロセスストリームに適用することによって、清澄化プロセスストリームから除去され得る。具体的には、カチオンは、清澄化プロセスストリームがカチオン性イオン交換処理工程に適用される前にカチオン交換体(固定相)の材料に結合している他のカチオンに、交換される。重要なことに、カチオン性イオン交換処理が、清澄化プロセスストリームからアンモニアおよび汚染タンパク質の一部を除去することが判明した。
【0064】
カチオン性イオン交換処理工程では、正電荷を有する材料が樹脂に結合するため、それらは、細胞を含まない培養ブロスから除去され得る。シアル酸の水溶液は、正電荷を有する材料をカチオン交換材料に吸着させる一方でシアル酸を通過させる任意の好適な様式で接触する。カチオン交換樹脂と接触した後に得られる液体は、水、所定のカチオン(この工程の前にカチオン性イオン交換材料に固定されていたカチオン)、アニオン、着色物質および目的とするシアル酸を含む。
【0065】
カチオン交換処理は、弱カチオン性イオン交換材料または強カチオン性イオン交換材料を用いて行うことができ、好ましくは強カチオン性イオン交換材料を用いて行われる。
本発明の方法のカチオン性イオン交換処理では、強カチオン性イオン交換体が使用され得る。正電荷を有する化合物を除去するのに好適なカチオン交換樹脂は、強酸性カチオン交換樹脂、例えば、固体骨格(例えばポリスチレン骨格)に結合したカルボキシレート基(弱カチオン交換体)またはスルホン酸基(強カチオン交換体)を含む樹脂である。好適な樹脂は、(これらに限定されないが)Lewatit(登録商標)S2568(H+)(Lanxess AG、ケルン、DE)、Dowex(登録商標)50WX2(Merck KGaA、ダルムシュタット、DE);Amberlite(登録商標)IR-116(オルガノ株式会社)およびDiaion(商標)SK-102(三菱ケミカル株式会社)を含む。
【0066】
カチオン性イオン交換処理工程は、培養培地からのバイオマスの除去後の第1の工程、すなわち清澄化培養培地が供される第1の工程であってもよい。
不特定のカチオンは、好ましくは、特定のカチオンH+またはNa+により置き換えられる。不特定のカチオンがH+により置き換えられる場合、通過液のpHは、好ましくは、さらなる処理工程(例えばアニオン性イオン交換処理)を行う前に、最も好ましくは通過液にNaOHを添加することにより6~8のpHに調整される。
【0067】
好ましい実施形態において、清澄化プロセスストリームがカチオン交換体に適用される前に、カチオン性イオン交換材料はH+形態で存在する、すなわちカチオン性イオン交換材料のイオン交換リガンドがプロトン化されている。これによって、カチオン交換の間に、清澄化プロセスストリーム中のカチオンがH+により置き換えられる。したがって、前記の工程後の溶液(通過液)のpHは、前記の工程前の溶液のpHよりも酸性である。好ましくは、その後の精製工程の前に、通過液のpHは中性またはほぼ中性のpH値(例えばpH6.5以上pH7.5以下)まで上昇する。pHの上昇は、プロセスストリームにNaOHを添加することにより達成され得る。この手段によって、プロトン化形態(H+形態)のシアル酸がシアル酸塩に変換される。NaOHを添加する場合、ナトリウム塩形態(Na+形態)のシアル酸が得られる。
【0068】
カチオン性イオン交換体は、対イオンとして任意のアルカリ金属(Li+、Na+、K+)、アルカリ土類金属(例えばCa2+、Mg2+)、アンモニウムイオンまたは炭酸イオンと共に使用され得る。好ましくは、ナトリウム(Na+)がカチオン性イオン交換体の対イオンである。より好ましくは、水素(H+)が対イオンである。対イオンとしての水素の利点は、カチオン性イオン交換材料と接触した際にプロトン化形態のシアル酸が生成され、それが通過液中に存在する、すなわちカチオン性イオン交換材料を通過した溶液中に存在することである。その後、プロトン化形態のシアル酸は、シアル酸をその塩形態(例えばナトリウム形態)に変換する塩基(例えばNaOH)を生成物ストリームに添加することによって中和され得る。ナトリウム形態のシアル酸を得ることは、ナトリウムイオンが比較的小さいカチオンであり、より大きいカチオンよりもナノ濾過および/または電気透析によって容易に除去され得るため有益である。
【0069】
好ましくは、カチオン交換処理工程は、アニオン交換処理工程の前に行われる。この順番の利点は、シアル酸がカチオン性イオン交換材料に結合しない(すなわち通過液中存在する)ため、アニオン性イオン交換材料を通過した、目的とするシアル酸を含むプロセスストリームが、低い塩濃度を有することである。次いで、その通過液は、脱塩工程を必要とせずにアニオン性イオン交換処理に適用され得る。しかしながら、原則的に、カチオン性イオン交換処理はまたアニオン交換処理工程後に行うことができる。
【0070】
カチオン交換樹脂の粒子サイズは、好ましくは、0.1~1mmの間の範囲内である。この粒子サイズ範囲は、使用された細胞を含まない培養ブロスが効率的に流動する一方で、それでも電荷を有する材料がカチオン交換樹脂により効果的に除去されることを可能にする。イオンの効率的な交換が生じ得ることを確実にするために、流速は、好ましくは床容積の0.5倍超2.5倍未満の間、より好ましくは1.0倍超2.0倍未満の間となるべきである。イオン交換処理は、従来の様式で、例えばバッチ式または連続式で、好ましくは連続式で行うことができる。
【0071】
シアル酸がカチオン交換材料を通過する条件は、清澄化溶液のpHおよび/または塩濃度を調整することによって、好ましくは清澄化溶液のpHを6~8の範囲内のpHに調整すること、および/または必要に応じて塩濃度を調整することによって確立され得る。
【0072】
カチオン性イオン交換処理およびアニオン性イオン交換処理後、精製溶液は、シアル酸、色彩付与物質および塩を含んでもよく、塩は、好ましくはNaClである。本発明の好ましい実施形態によれば、アニオン性イオン交換処理において、塩化物形態のアニオン交換材料が使用される。
【0073】
本発明のさらなる好ましい実施形態によれば、カチオン性イオン交換処理において、水素形態のカチオン性イオン交換材料が使用される。水素形態(H+対イオン)のカチオン交換体の使用は、任意の他の形態(H+以外の対イオン)のカチオン交換材料と比較して、塩および汚染タンパク質のはるかにより良好な結合が得られるため有益であることが発見された。水素形態の使用によって、通過液がカチオン性イオン交換処理に適用された溶液よりも酸性のpHを有するようになる。しかしながら、前記pHは、塩基、好ましくはNaOHの添加によって容易に中性pHまで、好ましくは6~8の範囲内のpHまで上昇する。NaOHによる中和は、導入されるナトリウムイオンが比較的小さく、ナノ濾過および/または電気透析によって容易に除去され得るため有益である。
【0074】
カチオン交換樹脂の粒子サイズは、使用された細胞を含まない培養ブロスが効率的に流動する一方で、それでも電荷を有する材料がカチオン性イオン交換樹脂により効果的に除去されることを可能にするように選択されるべきである。イオンの効率的な交換が生じ得ることを確実にするために、流速は、好ましくは床容積の0.2倍超2.0倍未満、より好ましくは0.5倍超1.5倍未満となるべきである。イオン交換処理は、従来の様式で、例えばバッチ式または連続式で、好ましくは連続式で行うことができる。
【0075】
清澄化溶液は、まずカチオン性イオン交換処理に供され、その後アニオン性イオン交換処理に供されてもよい。このプロセスの順番は、カチオン性イオン交換材料が汚染タンパク質の強い結合を得るためにH+形態となり得、塩基(例えばNaOH)での中和後に、アニオン性イオン交換材料に所定の塩形態のシアル酸(例えばNa+形態のシアル酸)を含む溶液が流され得るという利点を有する。
【0076】
アニオン性イオン交換処理
好ましくは、アニオン交換処理工程は、カチオン交換処理工程の後に行われる。しかしながら、原則的に、アニオン交換処理工程は、カチオン交換処理工程の前に、すなわちプロセスストリームがカチオン性イオン交換体で処理された後に行うことができる。
【0077】
アニオン交換工程は、不特定のアニオンを除去し、それらを特定のアニオン、好ましくは特定のアニオンCl-またはOH-により置き換えるために行われる。不特定のアニオンがCl-により置き換えられる場合、通過液のpHは、好ましくは、さらなる処理工程(例えば電気透析により精製溶液から塩を除去する工程)を行う前に、最も好ましくは通過液にNaOHを添加することにより6~8のpHに調整される。
【0078】
アニオンは、本発明の方法のアニオン性イオン交換処理工程によって、すなわち少なくとも1回のアニオン性イオン交換処理を清澄化プロセスストリームに適用することによって、清澄化プロセスストリームから除去され得る。アニオン性イオン交換処理工程は、培養培地からのバイオマスの除去後の第1の工程、すなわち清澄化培養培地が供される第1の工程であってもよい。好ましくは、アニオン性イオン交換処理は、カチオン性イオン交換処理工程の後の工程で行われる。
【0079】
負電荷を有する材料は、アニオン性イオン交換樹脂に結合するため、プロセスストリームから除去され得る。目的とするシアル酸を含む水溶液は、負電荷を有する材料をアニオン交換材料に吸着させる一方でシアル酸を通過させる任意の好適な様式で接触する。アニオン交換樹脂と接触した後に得られる液体は、水、所定のカチオン、所定のアニオン、着色物質および目的とするシアル酸を含む。アニオン性イオン交換工程の条件は、シアル酸がアニオン交換材料に結合しない、すなわち材料と接触した後に通過液中に存在するような条件である。
【0080】
アニオン性イオン交換処理の開始時は、生成物ストリームのpHは好ましくはpH6~8(最も好ましくはpH7)に調整される。通過液(アニオン性イオン交換材料を通過した生成物ストリーム)は、より低いpH、例えば4.5~6の範囲内のpHを有し得る。このpHでは、シアル酸はナトリウム形態として存在する。通過液のpHは、塩基、例えばNaOHを添加することにより上昇する。
【0081】
アニオン交換の間、清澄化プロセスストリーム中のアニオンは、Cl-により置き換えられ得る。したがって、プロセスストリームのpHは若干より酸性となる。好ましくは、pHは、その後の精製工程の前に、好ましくはプロセスストリームの中性またはほぼ中性のpH値(pH6.5以上pH7.5以下)を達成するように増加される。より好ましくは、プロセスストリームのpHの増加は、プロセスストリームにNaOHを添加することにより達成される。
【0082】
アニオン交換体は、弱アニオン性イオン交換体または強アニオン性イオン交換体、好ましくは強アニオン性イオン交換体であってもよい。
好適な強塩基性アニオン交換樹脂は、固体骨格(例えばポリスチレン骨格)に結合したトリメチルアンモニウム基またはヒドロキシエチル基を含む樹脂である。好適な樹脂は、(これらに限定されないが)Lewatit(登録商標)S6368A、Lewatit(登録商標)S4268、Lewatit(登録商標)S5528、Lewatit(登録商標)S6368A(Lanxess AG、ケルン、DE)、Dowex(登録商標)AG 1x2(メッシュ200~400)、Dowex(登録商標)1x8(メッシュ100~200)、Purolite(登録商標)Chromalite CGA100x4(Purolite GmbH、ラーティンゲン、DE)、Amberlite(登録商標)FPA51(Dow Chemicals、MI、USA)を含む。好ましくは、アニオン交換樹脂は、塩化物形態で存在する。好適な弱アニオン交換樹脂は、固体骨格(例えばポリスチレン骨格)に結合したアミノ酸を含む樹脂である。
【0083】
アニオン性イオン交換体は、対イオンとして任意の塩基、例えばHCO3
-、I-、Br-、NO3
-等と共に使用され得る。好ましくは、対イオンは、水酸化物イオン(OH-)である。より好ましくは、対イオンは、塩化物イオン(Cl-)である。対イオンとして塩化物イオンを使用する利点は、Cl-アニオンが、発酵ブロス中に元々存在する多くの他のアニオンより小さいことである。これによって、電気透析により塩化物アニオンがプロセスストリームからより容易に除去され得る。対イオンとしてOH-アニオンを使用する利点は、アニオン性イオン交換処理後の工程においてpHがHClで中和される場合、他のアニオンより容易に除去され得る小さい塩化物アニオンがプロセスストリームに導入されることである。
【0084】
アニオン交換樹脂の粒子サイズは、使用されたプロセスストリームが効率的に流動する一方で、それでも電荷を有する材料がアニオン交換樹脂により効果的に除去されることを可能にするために、好ましくは0.1~1mmの間である。イオンの効率的な交換が生じ得ることを確実にするために、流速は、好ましくは床容積の0.5倍超2.5倍未満、より好ましくは1.0倍超2.0倍未満となるべきである。イオン交換処理は、従来の様式で、例えばバッチ式または連続式で、好ましくは連続式で行うことができる。
【0085】
シアル酸がアニオン交換材料を通過する条件は、清澄化溶液のpHおよび/または塩濃度を調整することによって、好ましくは清澄化溶液のpHを6~8の範囲内のpHに調整することによって、および/または必要に応じて塩濃度を調整することによって確立され得る。例えば、NaOHの添加によりpH6~8に調整された、対イオンとしてH+を用いたカチオン性イオン交換処理の通過液に由来するシアル酸を含む溶液がアニオン性イオン交換処理に供される場合、通過液の塩濃度は、アニオン性イオン交換樹脂へのシアル酸の結合を回避するのに十分高いことが観察された。しかしながら、前述の条件下では、アニオン交換樹脂に汚染物(例えばある特定のタンパク質、DNA分子および有色物質)がまだ結合することが観察された。
【0086】
好ましい実施形態において、精製プロセスは、水素(H+)形態のカチオン交換樹脂および塩化物(Cl-)形態のアニオン交換樹脂による処理を含む。カチオン交換樹脂は、好ましくは、強カチオン交換体である。アニオン交換体は、弱または強アニオン交換体であってもよく、好ましくは強アニオン交換体である。さらに、アニオン交換材料はまた、吸収体材料であってもよい。カチオン性イオン交換樹脂およびアニオン性イオン交換樹脂の両方による処理は、生成物ストリームからの全ての不特定のイオンの除去を可能にする。したがって、不特定のイオンは、特定のアニオン、好ましくはナトリウムカチオン(例えば、対イオンとしてH+を有するカチオン性イオン交換材料との接触後のNaOHによる生成物ストリームの中和により導入される)および塩化物アニオンにより置き換えられ得る。ナトリウムカチオンおよび塩化物アニオンは、共に比較的小さいイオンであり、より大きいイオンよりも迅速および経済的に電気透析によって除去され得る。
【0087】
精製溶液の濃縮
好ましい実施形態において、目的とするシアル酸(例えばN-アセチルノイラミン酸)を含むイオン交換処理後の溶液(通過液)は、好ましくはナノ濾過、逆浸透および/または真空蒸発(例えば、流下膜式蒸発器、回転蒸発器もしくはプレート蒸発器の使用による)によって濃縮される。逆浸透および/またはナノ濾過が好ましい方法である(例えば、20Å以上のサイズ排除限界を有するナノ濾過膜によるナノ濾過)。ナノ濾過が特に好ましい。逆浸透に勝るナノ濾過の利点は、ナノ濾過がより迅速な濃縮を達成し、また塩イオンの部分的除去を達成することである。真空蒸発に勝るナノ濾過の利点は、シアル酸とのカラメル化反応が生じないこと、すなわち濃縮中に有色カラメル体(caramel bodies)が生成されないことである。
【0088】
精製溶液は、最も好ましくはナノ濾過により濃縮され、最も好ましくは、100~200kDaの範囲内の分子量カットオフを有するナノ濾過膜が使用される。この分子量カットオフの利点は、精製されるシアル酸が阻止される一方で塩イオンが膜を通過し得る、すなわち濃縮の他に脱塩が実現されることである。
【0089】
溶液の濃縮の前に、溶液中のシアル酸は、20%(w/w)以下、10%(w/w)以下または5%(w/w)以下の濃度を有し得る。
プロセス中、清澄化溶液および/または精製溶液は、100g/L以上、好ましくは200g/L以上、より好ましくは300g/L以上のシアル酸濃度まで濃縮され得る。
【0090】
さらに、清澄化溶液および/または精製溶液は、80℃未満、好ましくは50℃未満、より好ましくは4℃~45℃、より好ましくは10℃~40℃、より一層好ましくは15~30℃、最も好ましくは15~20℃の温度でのナノ濾過によって濃縮され得る。
【0091】
さらに、清澄化溶液および/または精製溶液は、20℃~50℃、より好ましくは30℃~45℃、最も好ましくは35℃~45℃の温度での逆浸透によって濃縮され得る。
さらに、清澄化溶液および/または精製溶液は、5バール超50バール未満の間の圧力、好ましくは10バール超40バール未満の間の圧力、より好ましくは15バール超30バール未満の間の圧力で濃縮され得る。
【0092】
逆浸透は、溶液(プロセスストリーム)から0.1nm超の粒子を除去する膜濾過法である。プロセスストリームから水のみが除去され、一方で、イオン、糖等の全ての他の分子は保持物中に濃縮される。逆浸透を使用することによって、シアル酸の濃度の上昇のみが達成され得るが、その脱塩は達成されない。
【0093】
追加的および/または代替的実施形態において、濃縮工程は、以下のパラメータの少なくとも1つ、任意選択で以下のパラメータの全てを含む。
i)濃縮は、100g/L以上、好ましくは200g/L以上、より好ましくは300g/L以上のシアル酸濃度まで行われる;
ii)濃縮がナノ濾過により行われる場合、濃縮は、80℃未満、好ましくは50℃以下、より好ましくは4℃~45℃、最も好ましくは4℃~40℃の温度で行われる;
iii)濃縮が逆浸透および/または真空蒸発により行われる場合、濃縮は、50℃未満、好ましくは20℃~45℃、最も好ましくは30℃~45℃、より好ましくは35℃~45℃の温度で行われる;ならびに
iv)濃縮は、5バール超50バール未満の間の圧力、好ましくは10バール超40バール未満の間の圧力、より好ましくは15バール超30バール未満の間の圧力で行われる。
【0094】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、シアル酸を含む溶液は、電気透析工程後に、真空蒸発(例えば流下膜式蒸発器もしくはプレート蒸発器の使用による)、逆浸透またはナノ濾過(例えば20Å以上のサイズ排除限界を有するナノ濾過膜によるナノ濾過)を使用して、好ましくはナノ濾過または逆浸透を使用して、より好ましくはナノ濾過を使用して濃縮される。
【0095】
塩の除去
シアル酸を精製するための方法は、塩が溶液から除去される、好ましくは清澄化溶液および/または精製溶液から除去される工程を含む。塩の除去は、脱塩される溶液をナノ濾過および/または電気透析に供することにより達成され得る。
【0096】
ナノ濾過は、膜がナノメートルサイズの細孔を含む膜濾過法である。ナノ濾過膜は、1~10ナノメートルの範囲の細孔サイズを有する。ナノ濾過膜の細孔サイズは、精密濾過の細孔サイズより小さく、さらには限外濾過膜の細孔サイズより小さいが、実際には逆浸透に使用される膜の細孔サイズより大きい。ナノ濾過における使用のための膜は、主に薄いポリマーフィルムから形成される。一般的に使用される材料は、ポリエチレンテレフタレートまたはアルミニウム等の金属を含む。細孔密度は、1cm2当たり1~106個の細孔の範囲であってもよい。ナノ濾過は、目的とするシアル酸を精製するための方法において、溶液中、例えば清澄化溶液および/または精製溶液中のシアル酸の濃度を増加させるために使用される。さらに、溶液(プロセスストリーム)の脱塩が生じる。
【0097】
ナノ濾過に好適な膜は、150~300Daの範囲内のサイズ排除を提供するポリアミドまたはポリピペラジンの薄いフィルム複合膜、例えばDow Filmtec(商標)NF270(Dow Chemical Company、USA)を含む。そのような膜は、高フラックスを可能にする。特に、100~300KDaの間の分子カットオフを有するナノ濾過膜は、プロセスストリーム中の目的とするシアル酸(例えばNeu5Ac)の濃度を上昇させるのに有益(benegical)である。この分子カットオフを有する膜は、膜を通したシアル酸の通過を防止し、それらはまた、イオン交換材料での処理後のプロセスストリーム中に存在する塩(例えば塩化ナトリウム)が膜を通過し、シアル酸から分離されるため、脱塩を実現するという利点を有する。ナノ濾過のための好適な膜の追加の例は、Trisep 4040-XN45-TSF(Microdyn-Nadir GmbH、Wiesbaden、DE)、GE4040F30およびGH4040F50(GE Water & Process Technologies、ラーティンゲン、DE)を含む。
【0098】
ナノ濾過は、シアル酸を含む溶液の電気透析処理の前に、実質的な量の夾雑物(例えば塩イオン)を効率的に除去することが判明した。ナノ濾過はまた、(例えば限外濾過工程による)発酵ブロスからのバイオマスの除去後の清澄化発酵ブロスから低分子量夾雑物を除去するのに効率的であることが判明した。低分子量成分の除去は、イオン交換処理前にシアル酸を含む溶液を濃縮および脱ミネラル化するのに有益である。シアル酸の濃度を上昇させるためのナノ濾過の使用は、より低いエネルギーおよび処理コストをもたらし、また低減された熱曝露に起因して製品のよりよい品質をもたらす。
【0099】
電気透析は、透析および電気分解を組み合わせたものであり、半透膜を通したその選択的エレクトロマイグレーションに基づく溶液中のイオンの分離および濃縮に使用され得る。工業的電気透析の応用は1960年代初頭に遡り、この方法は乳児用フォーミュラに含めるための乳清の脱ミネラル化に使用された。電気透析のさらなる応用は、ワイン、ブドウマスト、リンゴジュースおよびオレンジジュース等の飲料のpHの調整を含む。
【0100】
今日では、飲料水の製造のための汽水の脱塩および乳児用食品製造のための乳清の脱ミネラル化が、電気透析の最も普及した用途である。電気透析の基本原理は、直流発電機に接続された、イオン伝導のために電解質に浸漬された電極の対を備える電解槽からなる。直流発電機の陽極に接続された電極はアノードであり、陰極に接続された電極はカソードである。次いで電解液は電流の流れを担うが、これは、それぞれアノードおよびカソードに向かう陰イオンおよび陽イオンの移動から生じる。電気透析に使用される膜は、本質的に、負電荷基または正電荷基を有する多孔質イオン交換樹脂のシートであり、したがってそれぞれカチオン膜またはアニオン膜と説明される。イオン交換膜は、通常、ジビニルベンゼンで架橋された好適な官能基(例えば、カチオン膜の場合はスルホン酸基、またはアニオン膜の場合は四級アンモニウム基)を保持するポリスチレンマトリックスからなる。
【0101】
電解質は、例えば、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムおよび/またはスルファミン酸を含む水溶液であってもよい。電解質はカソードおよびアノードを包囲し、槽内の電流の流れを可能にするように機能する。次いで、イオンが枯渇しているストリームが、イオンが高濃度化されているストリームから十分に分離される(2つの溶液はまた、希釈物(イオンが枯渇している)および濃縮物(イオンが高濃度化されている)と呼ばれる)ように、アニオン膜およびカチオン膜が2つの電極ブロック間のフィルタプレスのように平行となる手法で電気透析積層体が組み立てられる。
【0102】
電気透析プロセスの中心は膜積層体であり、これは、2つの電極間に設置されるスペーサーで隔てられたいくつかのアニオン交換膜およびカチオン交換膜からなる。直流電流を印加することにより、アニオンおよびカチオンは膜を介して電極に移動し、(脱塩された)希釈物ストリームおよび濃縮物ストリームを生成する。
【0103】
電気透析における使用のためのイオン交換膜の細孔サイズは、希釈物ストリームと濃縮物ストリームとの間の高い濃度差により生じる、希釈物ストリームから濃縮物ストリームへの生成物の拡散を防止するのに十分小さい。バイオマスからの分離、ならびに/またはカチオンおよび/もしくはアニオンの交換後、タンパク質、および特に組換えDNA分子(断片から全ゲノムまでのサイズ範囲)は、目的とする生成物から定量的に除去されなければならない。
【0104】
電気透析は、水溶液からイオンを除去するために使用され、一方で、シアル酸はプロセスストリーム中に残留する。電気透析の重要な利点は、精製されるシアル酸を含む溶液から組換えDNA分子が完全に除去され得ることである。さらに、プロセスストリーム中の塩の量が、電気透析により大幅に低減され得ることが見いだされた。実際に、生成物ストリームから塩化ナトリウムが完全に除去され得ることが発見された。これは、塩化ナトリウム等の塩を含まないシアル酸が提供され得るという利点を有し、これによって塩(例えば塩化ナトリウム)の存在が最終生成物、例えば乳児用食品において有し得るいかなる悪影響も防止される。
【0105】
電気透析は、0.2~10.0mS/cm2、好ましくは0.4~5.0mS/cm2、より好ましくは0.5~1.0mS/cm2の間の安定な導電率(mS/cm2)が達成されるまで行うことができる。さらに、電気透析は、10.0g/l未満、好ましくは5.0g/l未満、より好ましくは1.0g/l未満、最も好ましくは0.5g/l未満の塩の量(g/l)が達成されるまで行うことができる。
【0106】
電気透析は、中性条件下または酸性条件下で行うことができる。2つの異なる型の間の違いは、シアル酸の形態にある。中性pHでは、シアル酸はナトリウム塩として存在する。この場合、pH値は、電気透析の間制御されなければならない。酸性pHでは、シアル酸は遊離形態(水素形態)として存在する。酸性条件下で電気透析を使用する利点は、ナトリウム形態のシアル酸がその電気透析に供され、電気透析後に遊離形態(水素形態)のシアル酸が存在することである。つまり、酸性条件下での電気透析は、シアル酸塩(例えばシアル酸のナトリウム塩)からの汚染塩の除去をもたらすだけでなく、シアル酸塩を遊離形態(水素形態)のシアル酸に変換する。
【0107】
電気透析の間中性条件を適用することにより、精製されるナトリウム形態のシアル酸は電荷を有さないようである(シアル酸の負電荷を有するカルボキシル基と正電荷を有するナトリウムイオンとの相互作用)。電気透析を開始する前に、プロセスストリームのpHは、5.0~9.0、好ましくは6.0~8.0、より好ましくは6.5~7.5のpHに達するまで、酸、好ましくは塩酸(HCl)で、または塩基、好ましくは水酸化ナトリウム(NaOH)で調整され得る。
【0108】
電気透析の間酸性条件を適用することにより、プロトン化形態のシアル酸は電荷を有さないようである(シアル酸の負電荷を有するカルボキシル基と正電荷を有するプロトンとの相互作用)。電気透析を開始する前に、プロセスストリームは、1.0~3.0、好ましくは1.5~2.5、より好ましくは1.8~2.2のpHに達するまで、酸、好ましくは塩酸(HCl)で酸性化される。電気透析は、好ましくは、安定な導電率(mS/cm2)およびpHが達成されるまで行われる。
【0109】
電気透析は、1.0~10.0mS/cm2、好ましくは1.5~10.0mS/cm2、より好ましくは2.0~8.0mS/cm2の間の安定な導電率(mS/cm2)が達成されるまで行うことができる。電気透析の間、pHは、塩基、好ましくは水酸化ナトリウムで制御および調整されなければならない。この中性条件下で、電気透析は、バイポーラ膜を使用して行うことができる。この場合、シアル酸は別個の電気透析濃縮回路で濃縮され得る。したがって、シアル酸は電気透析の間高濃度化され得る。
【0110】
プロセスにおいて、精製溶液から塩を除去した後、
i)精製溶液中の塩の量は、10%(w/w)未満、好ましくは5%(w/w)未満、より好ましくは1%(w/w)未満となり得る;および/または
ii)導電率は、0.2~10.0mS/cm2の間、好ましくは0.4~5.0mS/cm2の間、より好ましくは0.5~1.0mS/cm2の間となり得る。
【0111】
清澄化および/または精製溶液の変色
清澄化溶液および/または精製溶液は、好ましくは活性チャコールでの処理、ならびに/または直列に結合されたカチオン性イオン交換体およびアニオン性イオン交換体での処理による変色の工程に供されてもよい。
【0112】
変色工程は、
i)清澄化溶液の透析濾過および/もしくは濃縮の工程の前もしくは後;ならびに/または
ii)清澄化溶液の電気透析および/もしくは透析濾過の工程の前もしくは後に行われてもよい。
【0113】
任意選択で、前記工程は、ナノ濾過工程の後および/または電気透析工程の前に行われる。
カチオン性イオン交換体およびアニオン性イオン交換体(直列に(in series)結合されている)での処理と比較した、活性チャコールでの処理による色彩付与物質の除去の利点は、電荷を有する色彩付与物質および電荷を有さない(中性の)色彩付与物質の両方が除去され得、また電荷を有さない(中性の)オリゴ糖が除去され得ることである。
【0114】
活性チャコールとも呼ばれる活性炭は、吸着に利用可能な表面積を増加させる微小な低容積細孔を有するように加工された炭素の形態である。典型的には、わずか1グラムの活性炭は、その高度のミクロ多孔性に起因して、ガス吸着により決定される3000m2を超える表面積を有する。
【0115】
単糖またはオリゴ糖等の炭水化物物質は、水溶液からチャコール粒子の表面に結合する傾向を有する。オリゴ糖の活性チャコールとの相互作用は、単糖の相互作用よりはるかに強力である。この挙動はその構造によりもたらされ、これによって、シアル酸(例えばNeu5Ac)は、汚染オリゴ糖より、弱く結合する、すなわちより少量が活性チャコールに結合する。オリゴ糖以外に、有色材料が活性チャコールに吸着する。塩等の他の水溶性材料は、より弱く結合し、チャコールを水で洗浄することにより(インキュベーション後)目的とするシアル酸と共に活性チャコールから溶出される。水での溶出後、吸着したオリゴ糖および有色物質は依然として活性チャコールに結合したままである。したがって、活性チャコールでの処理工程により、汚染オリゴ糖および有色夾雑物の除去が可能である。要するに、活性チャコール工程は、着色剤、他の不純物を除去し、塩等の水溶性夾雑物の量を低減する。
【0116】
色彩付与化合物、オリゴ糖または夾雑物の除去に好適な活性チャコールは、(これらに限定されないが)顆粒化活性チャコール、例えばNorit GAC830EN(Carbot Cooperation)およびEpibon Y12×40 spezial(Donaucarbon)、または粉末化活性チャコール、例えばNorit DX1、Norit SA2(Carbot Cooperation)およびCarbopal MB4(Donaucarbon)である。
【0117】
カチオン性イオン交換体およびアニオン性イオン交換体(直列に(in series)結合されている)での処理による色彩付与物質の除去は、活性チャコールでの処理と比較して、色彩付与物質が溶液から除去され得るだけでなく、溶液中の不特定の塩イオンが特定の塩イオン、例えばNa+およびCl-に交換され得ることである。このイオン交換の利点は、脱塩プロセスがより効率的となり得ることである(Na+およびCl-は、他の可能なイオンと比較して小さいイオンであり、したがって脱塩処理工程によってより容易に除去され得る)。さらなる利点は、シアル酸の結晶化に対するある不特定の塩の悪影響が回避され得ることである。
【0118】
イオン交換処理は、電荷を有する材料および色彩付与物質が各イオン交換材料に吸着し、一方でシアル酸は各イオン交換材料を通過する、すなわち通過液中に位置するように行われる。得られる液体(通過液)は、水、少量の所定のイオン、低減された量の色彩付与物質、およびシアル酸を含む。
【0119】
カチオン交換体は、弱カチオン性イオン交換体または強カチオン性イオン交換体であってもよく、好ましくは強カチオン性イオン交換体である。
好適なカチオン交換樹脂は、(これらに限定されないが)Lewatit(登録商標)S2568(H+)(Lanxess AG、ケルン、DE)、Dowex(登録商標)50WX2(Merck KGaA、ダルムシュタット、DE);Amberlite(登録商標)IR-116(オルガノ株式会社)およびDiaion(商標)SK-102(三菱ケミカル株式会社)等の強酸性カチオン交換樹脂である。
【0120】
カチオン性イオン交換体は、対イオンとして任意のアルカリ金属(Li+、Na+、K+)、アルカリ土類金属(例えばCa2+、Mg2+)、アンモニウムイオンまたは炭酸イオンと共に使用され得る。好ましくは、ナトリウムイオン(Na+)が対イオンである。
【0121】
アニオン交換体は、弱アニオン交換体または強アニオン交換体であってもよく、好ましくは強アニオン性イオン交換体である。
好適なアニオン交換樹脂は、(これらに限定されないが)Lewatit(登録商標)S6368A、Lewatit(登録商標)S4268、Lewatit(登録商標)S5528、Lewatit(登録商標)S6368A(Lanxess AG、ケルン、DE)、Dowex(登録商標)AG 1x2(メッシュ200~400)、Dowex(登録商標)1x8(メッシュ100~200)、Purolite(登録商標)Chromalite CGA100x4(Purolite GmbH、ラーティンゲン、DE)、Amberlite(登録商標)FPA51(Dow Chemicals、MI、USA)等の強塩基性(I型)アニオン交換樹脂である。好ましくは、アニオン交換樹脂は、塩化物形態で存在する。
【0122】
アニオン性イオン交換体は、対イオンとして任意の塩基と、例えばHCO-
3、I-、Br-、NO-
3等と共に使用され得る。好ましくは、水酸化物イオン(OH-)が対イオンとして使用される。より好ましくは、塩化物イオン(Cl-)が対イオンとして使用される。
【0123】
カチオン性イオン交換体とアニオン性イオン交換体が直列に結合した場合、アニオン性イオン交換体は、カチオン性イオン交換体の上流側または下流側に位置し得る。好ましくは、アニオン性イオン交換体は、それと直列に結合されたカチオン性イオン交換体の下流側に位置する。したがって、上記の直列構造を通過する溶液は、まずカチオン性イオン交換体を通過し、次いでアニオン性イオン交換体を通過する。
【0124】
カチオン性イオン交換体および/またはアニオン性イオン交換体を通過したプロセスストリーム(すなわち対応する通過液)のpHは、好ましくは2.0超10.0未満、より好ましくは3.0超9.0、最も好ましくは4.0超8.0未満である。
【0125】
イオン交換樹脂の粒子サイズは、プロセスストリームが効率的に流動する一方で、それでも電荷を有する材料および色彩付与物質がイオン交換樹脂により効果的に除去されることを可能にするように選択されるべきである。イオンの効率的な交換が生じ得ることを確実にするために、流速は、好ましくは床容積の0.2倍超2.0倍未満の間、より好ましくは床容積の0.5倍超1.5倍未満の間、最も好ましくは床容積の0.75倍超1.2倍未満となるべきである。イオン交換処理は、従来の様式で、例えばバッチ式または連続式で、好ましくは連続式で行うことができる。
【0126】
エンドトキシンの無菌濾過および/または除去
本発明の好ましい実施形態において、精製溶液は、好ましくは10kDa以下のフィルタモジュールを通した精製溶液の濾過により、無菌濾過されおよび/またはエンドトキシン除去に供される。一例として、シアル酸を含有する精製溶液は、3kDaフィルタを通した、または6kDaフィルタを通した精製溶液の濾過により、無菌濾過されおよび/またはエンドトキシン除去工程に供される。エンドトキシンの除去は、シアル酸が人による消費に意図される場合に必要である。
【0127】
遊離シアル酸(水素形態)のその塩形態への変換
遊離酸形態のシアル酸またはナトリウム塩形態のシアル酸を異なる塩形態に変換するために、任意のアルカリ金属(Li+、Na+、K+)、アルカリ土類金属(例えばCa2+、Mg2+)、アンモニウムイオンまたは炭酸イオンと共にカチオン性イオン交換体が使用され、対応する塩が形成され得る。塩形態(特にナトリウム形態)のシアル酸は、遊離酸形態よりも大幅に安定であり、なぜなら、これは、遊離酸形態とは異なり、水性媒体中で変色反応が生じないことが判明したためである。
【0128】
清澄化溶液および/または精製溶液に含まれるシアル酸は、好ましくは精製溶液をナトリウム形態の強カチオン性イオン交換材料で処理することによって、好ましくはそのナトリウム形態に変換される。ナトリウム形態の利点は、それが中性pH物質であること、すなわち水に溶解されても水のpHが中性のままであることである。一方、遊離形態のシアル酸(水素形態)が水に溶解されると、水のpHは酸性になる。酸性条件下および10℃を超える温度では、シアル酸(特にNeu5Ac)は変色する傾向がある、すなわち有色化合物を形成しやすいことが観察された。ナトリウム形態のシアル酸はpH低下挙動を示さないため、ナトリウム形態は、有色化合物の形成に対してより安定である。
【0129】
ナトリウム形態のシアル酸のその遊離形態(水素形態)への変換
シアル酸のナトリウム塩は、別のカチオン交換工程により遊離シアル酸(プロトン化形態)に変換され得る。この工程中、シアル酸に会合したまたは清澄化プロセスストリーム中のナトリウムイオン(Na+)は、プロトン(H+)により置き換えられる。この交換によって、プロセスストリームのpHはより酸性となる。
【0130】
正電荷を有するナトリウムイオンは、シアル酸のナトリウム塩を含む溶液を水素(H+)形態のカチオン性イオン交換体で処理することによって、シアル酸から除去され得る。カチオン性イオン交換体は、弱カチオン性イオン交換体または強カチオン性イオン交換体であってもよく、好ましくは強カチオン性イオン交換体である。この工程では、シアル酸からの正電荷を有するナトリウムイオンが、脱プロトン化されたシアル酸分子から除去されて樹脂に結合し得、H+イオンが樹脂から放出されて、脱プロトン化されたシアル酸をプロトン化し得る。シアル酸の水溶液は、ナトリウムイオンを水素イオンに交換し、ナトリウムイオンをカチオン交換材料に吸着させる一方でシアル酸を通過させる任意の好適な様式で接触する。カチオン交換樹脂との接触後に得られる液体は、プロトン化されたシアル酸を含む。
【0131】
シアル酸溶液から正電荷を有するナトリウムを除去するのに好適なカチオン交換樹脂は、(これらに限定されないが)Lewatit(登録商標)S2568(H+)(Lanxess AG、ケルン、DE)、Dowex(登録商標)50WX2(Merck KGaA、ダルムシュタット、DE);Amberlite(登録商標)IR-116(オルガノ株式会社)およびDiaion(商標)SK-102(三菱ケミカル株式会社)等の強酸性カチオン交換樹脂である。
【0132】
カチオン性イオン交換処理によりシアル酸の塩を遊離酸または異なる塩形態に変換する代わりに、電気透析工程を代替として行うことができる。電気透析は、酸性条件下でプロセスストリームからナトリウムを除去する一方で、シアル酸がプロトン化された形態としてプロセスストリーム中に残留するように使用され得る。
【0133】
電気透析の間酸性条件を適用することにより、シアル酸はプロトン化され得、したがって電荷を有さないようである(カルボニル基のプロトン化)。電気透析を開始する前に、プロセスストリームは、1.0~3.0、好ましくは1.5~2.5、より好ましくは1.8~2.2のpHに達するまで、酸、好ましくは塩酸(HCl)で酸性化される。電気透析は、好ましくは、安定な導電率(mS/cm2)およびpHが達成されるまで行われる。
【0134】
シアル酸の噴霧乾燥形態の提供
好ましい実施形態において、精製溶液は噴霧乾燥される。噴霧乾燥に供される精製溶液は、好ましくは、ナトリウム形態のシアル酸を含む。
【0135】
精製溶液は、5~35%(w/w)、好ましくは10~30%(w/w)、より好ましくは15~25%(w/w)のシアル酸濃度で噴霧乾燥され得る。入口温度は、110~150℃、好ましくは120~140℃、より好ましくは125~135℃の範囲内であってもよい。出口温度は、60~80℃、好ましくは65~70℃の範囲内であってもよい。
【0136】
シアル酸の結晶化形態の提供
精製溶液は、好ましくは精製溶液に酢酸を添加することにより結晶化に供されてもよい。この実施形態によれば、シアル酸は、好ましくは二水和物結晶形態で提供される。
【0137】
本発明の実施形態に従うために、水溶液からシアル酸を結晶化させるための方法が本明細書で説明される。シアル酸(例えばNeu5Ac等)は、酵素または発酵(培養)ブロスを使用した生体触媒アプローチから二水和物形態として選択的に結晶化され得ることが発見された。
【0138】
好ましい実施形態において、結晶化に使用されるシアル酸の精製(水)溶液は、20%(w/w)超、好ましくは30%(w/w)超、好ましくは40%(w/w)超、特に50%(w/w)超の炭水化物含量を有する。あるいは、結晶化に使用される精製(水)溶液中のシアル酸濃度は、450~600g/l、好ましくは500~550g/lである。
【0139】
上記濃度範囲および比率は、好ましくは、前に説明した方法を使用することにより培養ブロスから例えば細胞、色彩付与物質、塩および/または電荷を有する分子を除去した後に、培養ブロスからの水性プロセスストリームを濃縮することによって、従来の様式で達成され得る。
【0140】
シアル酸含有溶液の濃度は、真空蒸発(例えば回転蒸発器もしくはプレート蒸発器の使用による)によって、またはナノ濾過によって達成され得る。結晶化を開始するために、20℃~50℃の間、好ましくは25℃の温度の前述の濃縮シアル酸溶液にシード結晶が添加される。
【0141】
シアル酸を含む溶液は、50%(w/w)超の炭水化物濃度を有してもよい。結晶化アプローチは、真空下、好ましくは以下の条件の少なくとも1つの下でインキュベートされ得る:
i)200ミリバール未満の圧力、より好ましくは100ミリバール未満の圧力、特に50ミリバール未満の圧力;
ii)15℃~60℃の間、好ましくは20℃~45℃の間、より好ましくは25℃~40℃の間、特に30℃~35℃の間の生成物温度;および
iii)炭水化物濃度が60%超、好ましくは70%未満に達するまで、または粘凋性結晶化パルプ(viscous crystallization pulp)が生成するまでのインキュベーション時間。
【0142】
有機溶媒、好ましくはイソプロパノールが、結晶化溶液に添加されてもよい。結晶化プロセスを促進するために、1リットルの結晶化材料が0.5~3l、好ましくは0.7~2.0l、より好ましくは1.0~1.5lのイソプロパノールと混合される。20℃~30℃の間の開始温度を有する最終的な結晶化アプローチは、0~15℃、好ましくは2~12℃、より好ましくは4~8℃の間の温度まで、撹拌なしまたは撹拌ありで冷却される。好ましい温度に達した後、結晶化アプローチは、2~48時間、好ましくは6~36時間、より好ましくは12~24時間、選択された温度で、撹拌なしまたは撹拌ありでインキュベートされる。
【0143】
シアル酸結晶は、真空ありもしくはなしでの濾過により、または遠心分離により液相から取り出され得る。残りの母液を除去するために、結晶は、有機溶媒、例えばエタノール、メタノールおよび/またはイソプロパノール、好ましくはイソプロパノールで洗浄され得る。残りの母液を除去するために、1kgの結晶化シアル酸(例えばN-アセチルノイラミン酸)は、0.5~3l、好ましくは0.7~2.0l、より好ましくは1.0~1.5lのイソプロパノールで洗浄される。
【0144】
得られた結晶は、4~48時間、好ましくは8~36時間、より好ましくは12~24時間、または重量の変化が観察され得なくなるまで乾燥される。乾燥温度は、10℃~80℃の間、好ましくは20℃~70℃の間、より好ましくは30℃~60℃の間、特に40℃~50℃の間であってもよい。
【0145】
水溶液からの二水和物としてのシアル酸(例えばNeu5Ac)の結晶化に関して、二水和物として水溶液からシアル酸を結晶化するための第2の代替の方法が、本明細書において説明される。
【0146】
結晶化を開始するために、20℃~50℃の間、好ましくは25℃の温度の濃縮シアル酸にシード結晶が添加される。シアル酸の溶液は、50%(w/w)超の炭水化物濃度を有してもよい。結晶化アプローチは、結晶化が生じるまで、好ましくは0.5~2時間、より好ましくは1~1.5時間撹拌下でインキュベートされるべきである。
【0147】
有機溶媒、好ましくはイソプロパノールが、結晶化溶液に添加される。結晶化プロセスを促進するために、1リットルの結晶化材料が0.5~6.0l、好ましくは1.0~4.0l、より好ましくは1.5~2.5lのイソプロパノールと混合される。20℃~30℃の間の開始温度を有する最終的な結晶化アプローチは、0~15℃、好ましくは2~12℃、より好ましくは4~8℃の間の温度まで、撹拌なしまたは撹拌ありで冷却される。好ましい温度に達した後、結晶化アプローチは、2~48時間、好ましくは6~36時間、より好ましくは12~24時間、選択された温度で、撹拌なしまたは撹拌ありでインキュベートされる。
【0148】
シアル酸結晶は、真空ありもしくはなしでの濾過により、または遠心分離により、液相から取り出され得る。残りの母液を除去するために、結晶は、有機溶媒、例えばエタノール、メタノールおよび/またはイソプロパノール、好ましくはイソプロパノールで洗浄され得る。残りの母液を除去するために、1kgの結晶化シアル酸(N-アセチルノイラミン酸)は、0.5~3l、好ましくは0.7~2.0l、より好ましくは1.0~1.5lのイソプロパノールで洗浄される。
【0149】
得られた結晶は、4~48時間、好ましくは8~36時間、より好ましくは12~24時間、または重量の変化が観察され得なくなるまで乾燥される。乾燥温度は、10℃~80℃の間、好ましくは20℃~70℃の間、より好ましくは30℃~60℃の間、特に40℃~50℃の間で選択される。
【0150】
水溶液からシアル酸(例えばNeu5Ac)を選択的に結晶化するための代替の方法が、本明細書で説明される。シアル酸は、氷酢酸を添加することにより、酵素または発酵(培養)ブロスを使用した生体触媒アプローチから選択的に結晶化され得ることが発見された。
【0151】
好ましい実施形態において、酢酸で処理されるシアル酸の精製(水)溶液は、10%(w/w)超、好ましくは20%(w/w)超、より好ましくは30%(w/w)超、特に約35~40%(w/w)の炭水化物含量を有する。あるいは、酢酸で処理される精製(水)溶液中のシアル酸濃度は、250~350g/l、好ましくは290~330g/lである。
【0152】
上記濃度範囲および比率は、好ましくは、前に説明した方法を使用することにより培養ブロスから例えば細胞、色彩付与物質、塩および/または電荷を有する分子を除去した後に、培養ブロスからの水性プロセスストリームを濃縮することによって、従来の様式で達成され得る。
【0153】
シアル酸含有溶液の濃度は、真空蒸発(例えば回転蒸発器もしくはプレート蒸発器の使用による)によって、またはナノ濾過によって達成され得る。
得られた水溶液に、20℃~50℃の間、好ましくは25℃の温度で酢酸が添加される。酢酸は、0.5~2時間、好ましくは1~1.5時間の期間にわたり、1工程で完全に、またはいくつかに分けて、水溶液に添加される。好ましくは、水溶液は、酢酸が添加される一方で結晶化が生じている間、および好ましくはその時点の後、に同じ温度で継続的に撹拌される。
【0154】
好ましくは、水溶液中のシアル酸1キログラム当たり約5~25lの氷酢酸が使用される。したがって、炭水化物含量が30%(w/w)超である250~350g/l、好ましくは290~330グラム/リットルのシアル酸の水溶液の場合、水溶液中のシアル酸1キログラム当たり少なくとも約5~25リットル、好ましくは7~20リットル、より好ましくは10~18リットル、特に12~16リットルの酢酸が使用される。
【0155】
20℃~50℃の間の開始温度を有する結果的な結晶化アプローチは、0~15℃、好ましくは2~12℃、より好ましくは4~8℃の間の温度まで、撹拌なしまたは撹拌ありで冷却される。好ましい温度に達した後、結晶化アプローチは、2~48時間、好ましくは6~36時間、より好ましくは12~24時間、選択された温度で、撹拌なしまたは撹拌ありでインキュベートされる。
【0156】
シアル酸結晶は、真空ありもしくはなしでの濾過により、または遠心分離により、液相から取り出される。残りの酢酸を除去するために、結晶は、有機溶媒、例えばエタノール、メタノールおよび/またはイソプロパノールで、好ましくはイソプロパノールで洗浄される。残りの酢酸を除去するために、1kgの結晶化シアル酸が、0.5~3l、好ましくは0.7~2.0l、より好ましくは1.0~1.5lのイソプロパノールで洗浄される。
【0157】
得られた結晶は、4~48時間、好ましくは8~36時間、より好ましくは12~24時間、または重量の変化が観察され得なくなるまで乾燥される。乾燥温度は、10℃~80℃の間、好ましくは20℃~70℃の間、より好ましくは30℃~60℃の間、特に40℃~50℃の間で選択される。
【0158】
シアル酸の凍結乾燥形態の提供
シアル酸を含む精製溶液はまた、凍結乾燥されてもよい。この凍結乾燥において、シアル酸を含む精製溶液は凍結され、次いで、凍結した水が固相から気相に直接昇華するように減圧される。この方法は通常、吸湿性のシアル酸粉末を生成する。
【0159】
本発明により提供される組成物および製品
本発明によれば、
a)少なくとも98wt.%のシアル酸;
b)最大1wt.%の有機溶媒;および
c)シアル酸の塩形態とは異なる最大1wt.%の塩
を含む組成物が提供される。
【0160】
好ましい実施形態において、組成物は、
a)98.50~100.00wt.%のシアル酸、好ましくは99.00~100.00wt.%のシアル酸、より好ましくは99.50~100.00wt.%のシアル酸、任意選択で99.70~99.90wt.%のシアル酸;および/または
b)0.00~1.00wt.%の有機溶媒、好ましくは0.00~0.50wt.%の有機溶媒、より好ましくは0.00~0.40wt.%の有機溶媒、任意選択で0.10~0.20wt.%の有機溶媒;および/または
c)シアル酸の塩形態とは異なる0.00~1.00wt.%の塩、好ましくはシアル酸の塩形態とは異なる0.00~0.50wt.%の塩、より好ましくはシアル酸の塩形態とは異なる0.00~0.40wt.%の塩、任意選択でシアル酸の塩形態とは異なる0.10~0.20wt.%の塩を含む。
【0161】
好ましくは、組成物は、
a)0.00~0.50wt%のタンパク質、より好ましくは0.00~0.40wt%のタンパク質、任意選択で0.10~0.20wt%のタンパク質;および/または
b)0.00~0.50wt%のDNA、より好ましくは0.00~0.40wt%のDNA、任意選択で0.10~0.20wt%のDNA
(のみ)を含む。
【0162】
組成物は、シアル酸が、非晶質形態または結晶形態で、好ましくは顆粒形態または結晶形態で、より好ましくは噴霧乾燥形態または結晶形態で存在することを特徴とし得る。結晶形態は、好ましくは二水和物結晶形態である。
【0163】
食品組成物、好ましくは乳児用食品フォーミュラ、幼児用食品フォーミュラまたは医療用栄養製品が提供され、食品組成物は、シアル酸および少なくとも1種のヒトミルクオリゴ糖を含む。
【0164】
食品組成物は、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトースおよびラクト-N-ネオテトラオースからなる群から選択される少なくとも1種の糖を含んでもよい。
【0165】
食品組成物は、
i)液体食品組成物であってもよく、1mg/l~2g/lの濃度、より好ましくは5mg/l~1.5g/lの濃度、より一層好ましくは20mg/l~1g/lの濃度、最も好ましくは50mg/l~0.7g/lの濃度のシアル酸を含む;または
ii)固体食品組成物であってもよく、5mg/kg~15g/kgの濃度、より好ましくは25mg/kg~10g/kgの濃度、より一層好ましくは100mg/kg~10g/kgの濃度、最も好ましくは375mg/kg~5.25g/kgの濃度のシアル酸を含む。
【0166】
食品組成物は、
i)少なくとも1種の中性ヒトミルクオリゴ糖、好ましくは2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオースおよびラクト-N-ネオテトラオースからなる群から選択される少なくとも1種の中性ヒトミルクオリゴ糖、最も好ましくはその中性ヒトミルクオリゴ糖の全て;ならびに
ii)少なくとも1種の酸性ヒトミルクオリゴ糖、好ましくは3’-シアリルラクトースおよび6’-シアリルラクトースからなる群から選択される少なくとも1種の酸性ヒトミルクオリゴ糖、最も好ましくはその酸性ヒトミルクオリゴ糖の全て;ならびに
iii)L-フコース
を含んでもよい。
【0167】
組成物は、さらに、ラクトース、乳清タンパク質、ビオチン、無脂肪乳、植物油、脱脂粉乳、モルティエラ・アルピン(Mortierella alpine)の油、魚油、炭酸カルシウム、塩化カリウム、ビタミンC、塩化ナトリウム、ビタミンE、酢酸鉄、硫酸亜鉛、ナイアシン、カルシウム-D-パントテネート、硫酸銅、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB6、硫酸マグネシウム、ヨウ化カリウム、葉酸、ビタミンK、亜セレン酸ナトリウムおよびビタミンDからなる群から選択される少なくとも1種の物質、任意選択で全ての物質を含んでもよい。
【0168】
食品組成物は、タンパク質源、ビタミン、油、ミネラル、酵素、さらなる炭水化物およびプロバイオティクス株からなる群から選択される少なくとも1種の物質を含んでもよい。
【0169】
組成物は、医療用食品組成物、健康補助食品、小袋製品、液体の即時使用可能な乳児用栄養製品、液体の即時使用可能な幼児用栄養製品、顆粒化製品、噴霧乾燥乳児用フォーミュラ製品、およびそれらの組合せからなる群から選択される組成物であってもよい。
【0170】
さらに、1mg/l~2g/lの濃度のシアル酸、L-フコースならびに
i)2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ジフコシルラクトース、ラクト-N-テトラオースおよびラクト-N-ネオテトラオースからなる群から選択される少なくとも1種の中性ヒトミルクオリゴ糖;ならびに/または
ii)3’-シアリルラクトース(sialylactose)または6’-シアリルラクトースからなる群から選択される少なくとも1種の酸性ヒトミルクオリゴ糖
を含む、液体の即時使用可能な乳児または幼児用栄養製品が提供される。
【0171】
本発明はまた、5mg/kg~15g/kgの濃度のシアル酸、L-フコースならびに
i)2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ジフコシルラクトース、ラクト-N-テトラオースおよびラクト-N-ネオテトラオースからなる群から選択される少なくとも1種の中性ヒトミルクオリゴ糖;ならびに/または
ii)3’-シアリルラクトースおよび6’-シアリルラクトースからなる群から選択される少なくとも1種の酸性ヒトミルクオリゴ糖
を含む、噴霧乾燥乳児用フォーミュラ製品を提供する。
【0172】
さらに、シアル酸、ならびに2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ジフコシルラクトース、ラクト-N-テトラオースおよびラクト-N-ネオテトラオースからなる群から選択される少なくとも1種の中性HMOを含む健康補助食品が提供される。
【0173】
本発明によれば、シアル酸(例えばNeu5Ac)、ならびにタンパク質源、ビタミン、油、ミネラル、酵素、さらなる炭水化物(例えばプレミックス中にすでに存在するシアル酸とは異なる炭水化物)およびプロバイオティクス株からなる群から選択される少なくとも1種の物質を含む、食品用のプレミックス(例えば乳児用食品フォーミュラ用のプレミックス)が提供される。より好ましくは、プレミックスは、それらの物質の全てを含む。
【0174】
タンパク質源は、乳清、トウモロコシ大豆ブレンド(CSB)、タンパク質加水分解物およびそれらの組合せからなる群から選択され得る。
ビタミンは、ビタミンA、チアミン、リボフラビン、ビタミンB12、フォレートおよびそれらの組合せからなる群から選択され得る。
【0175】
油は、パーム油、DHA、アラキドン酸およびそれらの組合せからなる群から選択され得る。
ミネラルは、塩化カリウム、ヨウ化カリウム、酸化亜鉛およびそれらの組合せからなる群から選択され得る。
【0176】
酵素は、アミラーゼ、アミログルコシダーゼおよびそれらの組合せからなる群から選択され得る。
炭水化物は、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、イヌリン(FOS)、L-フコース、さらなるシアル酸、ラクトースおよびそれらの組合せからなる群から選択され得る。
【0177】
プロバイオティクス株は、(カプセル化)ラクトバチルス、ビフィドバクテリア株およびそれらの組合せからなる群から選択され得る。
プレミックスは、粉末乾燥、顆粒化または液体(シロップ)製品の形態であってもよい。
【0178】
本発明によれば、医薬組成物、好ましくはウイルス感染、細菌感染、記憶障害および腸内毒素症の少なくとも1つの予防または処置における使用のための医薬組成物が提供される。医薬組成物は、本発明による組成物を含み、任意選択で、シアル酸とは異なる少なくとも1種の糖および/または少なくとも1種のプロバイオティクス細菌株を含み、少なくとも1種の糖は、好ましくは、ラクトース、ラクツロース、イヌリンおよびスクロースからなる群から選択される少なくとも1種の糖である。
【0179】
シアル酸、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくはエステルの放出製剤は、先行技術において公知であり、例えばWO2012/009474およびWO2013/109906に記載されており、それらの内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0180】
例示的食品組成物
本発明の方法は、特に乳児および幼児用栄養製品に含めるのに有用な、食品または食事用途での使用を可能にするのに十分な純度の目的とするシアル酸を提供する。得られるシアル酸、特にNeu5Acは、それを乳児用ベースフォーミュラの成分と混合することにより、乳児用フォーミュラの調製に使用され得る。乳児用フォーミュラは、粉末フォーミュラまたは即時使用可能な液体乳児用フォーミュラであってもよい。
【0181】
ベースフォーミュラは、以下の成分の少なくとも1つ、任意選択で全てを有し得る。
【表A】
【0182】
本発明の組成物の使用
食品組成物および/または医薬組成物の製造における本発明の組成物の使用が提案される。
本発明の態様には、以下も含まれる。
態様1
発酵ブロスからシアル酸を精製するための方法であって、
シアル酸を含む発酵ブロスからバイオマスを除去する工程であり、清澄化溶液が提供される工程と、
カチオン性イオン交換材料によるカチオン性イオン交換処理であり、シアル酸がカチオン性イオン交換材料を通過し、通過液中に存在する条件下で行われる、カチオン性イオン交換処理;および
アニオン性イオン交換材料によるアニオン性イオン交換処理であり、シアル酸がアニオン性イオン交換材料を通過し、通過液中に存在する条件下で行われる、アニオン性イオン交換処理
に清澄化溶液を供することによって、精製溶液を提供する工程と;
電気透析によって精製溶液から塩を除去する工程と
を含む方法。
態様2
i)クロマトグラフィー分離;ならびに/または
ii)エタノールおよび/もしくは酢酸エチルの使用、任意選択で有機溶媒の使用を含まない;ならびに/または
iii)有機溶媒を含む溶液で固定相からシアル酸を溶出する工程;ならびに/または
iv)重金属の使用;ならびに/または
v)発酵ブロス、清澄化溶液および/もしくは精製溶液を、45℃超の温度に加熱する工程
を含まないことを特徴とする、態様1に記載の方法。
態様3
バイオマスが、遠心分離および/または濾過によって発酵ブロスから除去されることを特徴とする、態様1または2に記載の方法。
態様4
カチオン性イオン交換処理において強カチオン性イオン交換体が使用される、および/またはアニオン性イオン交換処理において強アニオン交換体が使用されることを特徴とする、態様1~3のいずれかに記載の方法。
態様5
カチオン性イオン交換処理が、不特定のカチオンを除去してそれらを特定のカチオンで置き換えるために、好ましくはそれらを特定のカチオンH
+
またはNa
+
で置き換えるために行われ、不特定のカチオンがH
+
で置き換えられる場合、通過液のpHは、好ましくは、さらなる処理工程を行う前に6~8のpHに、最も好ましくはNaOHを通過液に添加することによって、調整されることを特徴とする、態様1~4のいずれかに記載の方法。
態様6
アニオン交換工程が、不特定のアニオンを除去してそれらを特定のアニオンで、好ましくは特定のアニオンCl
-
またはOH
-
で置き換えるために行われ、不特定のアニオンがCl
-
で置き換えられる場合、通過液のpHは、好ましくは、さらなる処理工程を行う前に6~8のpHに、最も好ましくはNaOHを通過液に添加することによって、調整されることを特徴とする、態様1~5のいずれかに記載の方法。
態様7
シアル酸がアニオン交換材料およびカチオン交換材料を通過する条件が、清澄化溶液のpHおよび/または塩濃度を調整することによって、好ましくは清澄化溶液のpHを6~8の範囲内のpHに調整することによって確立されることを特徴とする、態様1~6のいずれかに記載の方法。
態様8
カチオン性イオン交換処理およびアニオン性イオン交換処理後、精製溶液が、シアル酸、色彩付与物質および塩を含み、塩は、好ましくはNaClであることを特徴とする、態様1~7のいずれかに記載の方法。
態様9
アニオン性イオン交換処理において、塩化物形態のアニオン交換材料が使用され、および/またはカチオン性イオン交換処理において、水素形態のカチオン性イオン交換材料が使用されることを特徴とする、態様1~8のいずれかに記載の方法。
態様10
清澄化溶液が、まずカチオン性イオン交換処理に供され、その後アニオン性イオン交換処理に供されることを特徴とする、態様1~9のいずれかに記載の方法。
態様11
精製溶液が、好ましくはナノ濾過および/または逆浸透によって、より好ましくはナノ濾過によって濃縮され、最も好ましくは、100~200kDaの範囲内の分子量カットオフを有するナノ濾過膜が使用されることを特徴とする、態様1~10のいずれかに記載の方法。
態様12
清澄化溶液および/または精製溶液が、
i)100g/L以上、好ましくは200g/L以上、より好ましくは300g/L以上のシアル酸濃度まで濃縮される;および/または
ii)80℃未満、好ましくは50℃未満、より好ましくは4℃~45℃、より好ましくは10℃~40℃、より一層好ましくは15~30℃、最も好ましくは15~20℃の温度でのナノ濾過によって濃縮される;および/または
iii)20℃~50℃、より好ましくは30℃~45℃、最も好ましくは35℃~45℃の温度での逆浸透によって濃縮される;および/または
iv)5バール超50バール未満の間の圧力、好ましくは10バール超40バール未満の間の圧力、より好ましくは15バール超30バール未満の間の圧力で濃縮されることを特徴とする、態様1~11のいずれかに記載の方法。
態様13
電気透析が、中性条件下での電気透析または酸性条件下での電気透析であることを特徴とする、態様1~12のいずれかに記載の方法。
態様14
精製溶液から塩を除去した後に、
i)精製溶液中の塩の量が、10%(w/w)未満、好ましくは5%(w/w)未満、より好ましくは1%(w/w)未満である;および/または
ii)導電率が、0.2~10.0mS/cm
2
の間、好ましくは0.4~5.0mS/cm
2
の間、より好ましくは0.5~1.0mS/cm
2
の間であることを特徴とする、態様1~13のいずれかに記載の方法。
態様15
清澄化溶液および/または精製溶液が、好ましくは活性炭での処理による、変色の工程に供され、前記除去が、任意選択で、
i)清澄化溶液の透析濾過および/もしくは濃縮の工程の前もしくは後に行われる;ならびに/または
ii)清澄化溶液の電気透析および/もしくは透析濾過の工程の前もしくは後
に行われることを特徴とする、態様1~14のいずれかに記載の方法。
態様16
清澄化溶液および/または精製溶液に含まれるシアル酸が、好ましくは精製溶液をナトリウム形態の強カチオン性イオン交換材料で処理することによって、そのナトリウム形態に変換されることを特徴とする、態様1~15のいずれかに記載の方法。
態様17
精製溶液が噴霧乾燥され、ここで、精製溶液は、好ましくはナトリウム形態のシアル酸を含むことを特徴とする、態様1~16のいずれかに記載の方法。
態様18
精製溶液が、好ましくは酢酸を精製溶液に添加することによって、結晶化に供され、ここで、特に好ましくはシアル酸が二水和物結晶形態で提供されることを特徴とする、態様1~17のいずれかに記載の方法。
態様19
a)少なくとも98.00wt.%のシアル酸;
b)最大1.00wt.%の有機溶媒;および
c)シアル酸の塩形態とは異なる最大1.00wt.%の塩
を含む組成物。
態様20
a)98.50~100wt.%のシアル酸、好ましくは99.00~100.00wt.%のシアル酸、より好ましくは99.50~100.00wt.%のシアル酸、任意選択で99.70~99.90wt.%のシアル酸;および/または
b)0.00~1.00wt.%の有機溶媒、好ましくは0.00~0.50wt.%の有機溶媒、より好ましくは0.00~0.40wt.%の有機溶媒、任意選択で0.10~0.200wt.%の有機溶媒;および/または
c)シアル酸の塩形態とは異なる0.00~1.00wt.%の塩、好ましくはシアル酸の塩形態とは異なる0.00~0.50wt.%の塩、より好ましくはシアル酸の塩形態とは異なる0.00~0.40wt.%の塩、任意選択でシアル酸の塩形態とは異なる0.10~0.20wt.%の塩
を含むことを特徴とする、態様19に記載の組成物。
態様21
シアル酸が、非晶質形態または結晶形態で、好ましくは顆粒形態または結晶形態で、より好ましくは噴霧乾燥形態または結晶形態で存在することを特徴とする、態様19または20に記載の組成物。
態様22
シアル酸および少なくとも1種のヒトミルクオリゴ糖を含む食品組成物、好ましくは乳児用食品フォーミュラ、幼児用食品フォーミュラまたは医療用栄養製品。
態様23
2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトースおよびラクト-N-ネオテトラオースからなる群から選択される少なくとも1種の糖を含む、態様22に記載の食品組成物。
態様24
i)液体食品組成物であり、1mg/l~2g/lの濃度、より好ましくは5mg/l~1.5g/lの濃度、より一層好ましくは20mg/l~1g/lの濃度、最も好ましくは50mg/l~0.7g/lの濃度のシアル酸を含む;または
ii)固体食品組成物であり、5mg/kg~15g/kgの濃度、より好ましくは25mg/kg~10g/kgの濃度、より一層好ましくは100mg/kg~10g/kgの濃度、最も好ましくは375mg/kg~5.25g/kgの濃度のシアル酸を含むことを特徴とする、態様22または23に記載の食品組成物。
態様25
i)少なくとも1種の中性ヒトミルクオリゴ糖、好ましくは2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオースおよびラクト-N-ネオテトラオースからなる群から選択される少なくとも1種の中性ヒトミルクオリゴ糖、最も好ましくは前記中性ヒトミルクオリゴ糖の全て;ならびに
ii)少なくとも1種の酸性ヒトミルクオリゴ糖、好ましくは3’-シアリルラクトースおよび6’-シアリルラクトースからなる群から選択される少なくとも1種の酸性ヒトミルクオリゴ糖、最も好ましくは前記酸性ヒトミルクオリゴ糖の全て;ならびに
iii)L-フコース
を含むことを特徴とする、態様22~24のいずれかに記載の食品組成物。
態様26
ラクトース、乳清タンパク質、ビオチン、無脂肪乳、植物油、脱脂粉乳、モルティエラ・アルピン(Mortierella alpine)の油、魚油、炭酸カルシウム、塩化カリウム、ビタミンC、塩化ナトリウム、ビタミンE、酢酸鉄、硫酸亜鉛、ナイアシン、カルシウム-D-パントテネート、硫酸銅、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB6、硫酸マグネシウム、ヨウ化カリウム、葉酸、ビタミンK、亜セレン酸ナトリウムおよびビタミンDからなる群から選択される少なくとも1種の物質、任意選択で全ての物質を含むことを特徴とする、態様22~25のいずれかに記載の食品組成物。
態様27
タンパク質源、ビタミン、油、ミネラル、酵素、さらなる炭水化物およびプロバイオティクス株からなる群から選択される少なくとも1種の物質を含むことを特徴とする、態様22~26のいずれかに記載の食品組成物。
態様28
医療用食品組成物、健康補助食品、小袋製品、液体の即時使用可能な乳児用栄養製品、液体の即時使用可能な幼児用栄養製品、顆粒化製品、噴霧乾燥乳児用フォーミュラ製品、およびそれらの組合せからなる群から選択される組成物であることを特徴とする、態様22~27のいずれかに記載の食品組成物。
態様29
1mg/l~2g/lの濃度のシアル酸、L-フコースならびに
i)2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ジフコシルラクトース、ラクト-N-テトラオースおよびラクト-N-ネオテトラオースからなる群から選択される少なくとも1種の中性ヒトミルクオリゴ糖;ならびに/または
ii)3’-シアリルラクトースまたは6’-シアリルラクトースからなる群から選択される少なくとも1種の酸性ヒトミルクオリゴ糖
を含む、液体の即時使用可能な乳児または幼児用栄養製品。
態様30
5mg/kg~15g/kgの濃度のシアル酸、L-フコースならびに
i)2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ジフコシルラクトース、ラクト-N-テトラオースおよびラクト-N-ネオテトラオースからなる群から選択される少なくとも1種の中性ヒトミルクオリゴ糖;ならびに/または
ii)3’-シアリルラクトースおよび6’-シアリルラクトースからなる群から選択される少なくとも1種の酸性ヒトミルクオリゴ糖
を含む、噴霧乾燥乳児用フォーミュラ製品。
態様31
シアル酸、ならびに2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ジフコシルラクトース、ラクト-N-テトラオースおよびラクト-N-ネオテトラオースからなる群から選択される少なくとも1種の中性HMOを含む健康補助食品。
態様32
シアル酸、ならびにタンパク質源、ビタミン、油、ミネラル、酵素、さらなる炭水化物およびプロバイオティクス株からなる群から選択される少なくとも1種の物質を含む、好ましくは噴霧乾燥、顆粒化または液体製品の形態の、プレミックスであって、好ましくは、
i)タンパク質源は、乳清、トウモロコシ大豆ブレンド、タンパク質加水分解物およびそれらの組合せからなる群から選択される;ならびに/または
ii)ビタミンは、ビタミンA、チアミン、リボフラビン、ビタミンB12、フォレートおよびそれらの組合せからなる群から選択される;ならびに/または
iii)油は、パーム油、DHA、アラキドン酸およびそれらの組合せからなる群から選択される;ならびに/または
iv)ミネラルは、塩化カリウム、ヨウ化カリウム、酸化亜鉛およびそれらの組合せからなる群から選択される;ならびに/または
v)酵素は、アミラーゼ、アミログルコシダーゼおよびそれらの組合せからなる群から選択される;ならびに/または
vi)炭水化物は、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、イヌリン(FOS)、L-フコース、さらなるシアル酸、ラクトースおよびそれらの組合せからなる群から選択される;ならびに/または
vii)プロバイオティクス株は、(カプセル化)ラクトバチルス、ビフィドバクテリア株およびそれらの組合せからなる群から選択される、プレミックス。
態様33
態様19~21のいずれかに記載の組成物を含み、任意選択で、シアル酸とは異なる少なくとも1種の糖および/または少なくとも1種のプロバイオティクス細菌株を含み、少なくとも1種の糖は、好ましくは、ラクトース、ラクツロース、イヌリンおよびスクロースからなる群から選択される少なくとも1種の糖である、好ましくはウイルス感染、細菌感染、記憶障害および腸内毒素症の少なくとも1つの予防または処置における使用のための、医薬組成物。
態様34
食品組成物および/または医薬組成物の製造における、態様19~21のいずれかに記載の組成物の使用。
【0183】
以下の図面および実施例を参照しながら、本発明による主題をより詳細に説明するが、その主題を本明細書に示す特定の態様に限定することは望まない。
【図面の簡単な説明】
【0184】
【
図1】シアル酸であるN-アセチルノイラミン酸を精製するための本発明の方法の例を示す図である。発酵後、発酵ブロスは遠心分離および/または濾過により清澄化される。清澄化発酵ブロスは、イオン交換処理に供される。次いで、イオン交換処理の通過液は、透析濾過および/または濃縮に供される。この工程後、シアル酸を含む溶液は、活性チャコールに通される。次いで、シアル酸を含む溶液は、電気透析および/または透析濾過に供される。その後、シアル酸を含む溶液は、噴霧乾燥または結晶化に供される。
【
図2】シアル酸であるN-アセチルノイラミン酸を精製するための本発明の第2の方法の例を示す図である。発酵後、発酵ブロスは遠心分離および/または濾過により清澄化される。清澄化発酵ブロスは、イオン交換処理に供される。次いで、イオン交換処理の通過液は、電気透析および/または透析濾過に供される。この工程後、シアル酸を含む溶液は、活性チャコールに通される。次いで、シアル酸を含む溶液は、透析濾過および/または濃縮に供される。その後、シアル酸を含む溶液は、噴霧乾燥または結晶化に供される。
【
図3】シアル酸であるN-アセチルノイラミン酸を精製するための本発明の第3の方法の例を示す図である。発酵後、発酵ブロスは遠心分離および/または濾過により清澄化される。清澄化発酵ブロスは、イオン交換処理に供される。次いで、イオン交換処理の通過液は、活性チャコールに通される。この工程後、シアル酸を含む溶液は、透析濾過および/または濃縮に供される。次いで、シアル酸を含む溶液は、電気透析および/または透析濾過に供される。その後、シアル酸を含む溶液は、噴霧乾燥または結晶化に供される。
【
図4】シアル酸であるN-アセチルノイラミン酸を精製するための本発明の第4の方法の例を示す図である。発酵後、発酵ブロスは遠心分離および/または濾過により清澄化される。清澄化発酵ブロスは、イオン交換処理に供される。次いで、イオン交換処理の通過液は、電気透析および/または透析濾過に供される。この工程後、シアル酸を含む溶液は、透析濾過および/または濃縮に供される。次いで、シアル酸を含む溶液は、活性チャコールに通される。その後、シアル酸を含む溶液は、噴霧乾燥または結晶化に供される。
【
図5】N-アセチルノイラミン酸の結晶の顕微鏡写真を示す図である。N-アセチルノイラミン酸は、2~8μmの長さを有する微小針状物を形成することが観察され得る。
【
図6】二水和物として結晶化したN-アセチルノイラミン酸に対して記録されたHPLCダイアグラムを示す図である。結晶化したN-アセチルノイラミン酸の純度は、98.7%として検出される。
【
図7】酢酸塩で結晶化したN-アセチルノイラミン酸に対して記録されたHPLCダイアグラムを示す図である。結晶化したN-アセチルノイラミン酸の純度は、他の糖と比較して、98.2%として検出される。乾燥後の酢酸の量は、材料の全質量と比較して2.8%であった。
【
図8】噴霧乾燥されたN-アセチルノイラミン酸に対して記録されたHPLCダイアグラムを示す図である。噴霧乾燥されたN-アセチルノイラミン酸の純度は、99.1%として検出される。
【実施例】
【0185】
実施例1
細菌発酵からのシアル酸であるN-アセチルノイラミン酸の精製
シアル酸であるN-アセチルノイラミン酸を細菌発酵により生成し、濾過により採取したが、透明な粒子を含まないシアル酸溶液(37g/l)が得られた。
【0186】
透明な粒子を含まない溶液を、まず強カチオン性イオン交換体(プロトン形態のLewatit S2568、Lanxess)で処理した。
水酸化ナトリウム(NaOH)での中和後、溶液をさらに強アニオン性イオン交換体(塩化物形態のLewatit S6368A)で処理した。
【0187】
イオン交換処理後の溶液中のN-アセチルノイラミン酸の濃縮および脱塩のために、溶液をさらにナノ濾過工程によって処理した。Emrich EMRO1.8逆浸透システム(Emrich Edelstahlbau)は、Trisep(登録商標)XN45ナノ濾過モジュールを備えていた。入口圧力を30バールに設定し、流速が毎時100リットル未満に降下するまで溶液を濃縮した。溶液を、等量の逆浸透水で3回透析濾過した。塩の量を低減するために、溶液を、等体積の逆浸透水で3回透析濾過した。
【0188】
色の除去のために、N-アセチルノイラミン酸含有溶液を活性炭粉末で処理した。溶液を撹拌下でNorit SA2活性チャコールと共に2時間インキュベートした。インキュベーション後、活性炭を濾過により除去し、水酸化ナトリウムでpHをpH7.0に調整した。
【0189】
残りの色および不特定のイオンを除去するために、溶液を再び強カチオン性イオン交換体(ナトリウム形態のLewatit S2568、Lanxess)および強アニオン性イオン交換体(塩化物形態のLewatit S6368A)で処理した。この処理後、pHをpH7.0に調整した。
【0190】
塩化ナトリウムの除去のために、PCCell ED 1000A膜積層体を備えるPCCell P15電気透析システム(PCell、ホイスヴァイラー、ドイツ)を使用して溶液を電気透析した。前記積層体はサイズ排除限界60Daをもつ下記の膜から構成されていた:カチオン交換膜CEM:PC SK、およびアニオン交換膜CEM:PcAcid60。安定な導電率が達成されるまで、溶液を電気透析した。電気透析の間、NaOHの添加によりpHをpH7.0で安定化した。
【0191】
電気透析後、CSM RE8040BE逆浸透モジュールを備えるEmrich EMRO1.8逆浸透システム(Emrich Edelstahlbau)を使用して、逆浸透により溶液を乾燥物量20%(w/v)まで濃縮した。
【0192】
その後、5kDa限外濾過膜(Spira-Cell WY UP005 2440 Cモジュール)に溶液を通すことによって、溶液を濾過してエンドトキシンを除去し、無菌濾過した。次いで、無菌溶液を室温(20℃)で保存し、無菌液体濃縮生成物として使用するか、または無菌溶液を噴霧乾燥した。
【0193】
実施例2
シアル酸であるN-アセチルノイラミン酸のナトリウム塩のその遊離酸への変換
遊離酸形態のシアル酸を単離するために、実施例1に記載の活性チャコール処理後に、pHが1.7~2.3の間となるまで30%の塩酸を添加した。
【0194】
pH調整後、溶液を強カチオン交換体(プロトン形態のLewatit S2568、Lanxess)で再び処理した。イオン交換処理後、PCCell ED 1000A膜積層体を備えるPCCell P15電気透析システム(PCe、ホイスヴァイラーll、ドイツ)を使用して溶液を再び電気透析した。前記積層体はサイズ排除限界60Daをもつ下記の膜から構成されていた:カチオン交換膜CEM:PC SK、およびアニオン交換膜CEM:PcAcid60。安定な導電率が達成されるまで、溶液を電気透析した。電気透析の間、塩酸の添加によりpHをpH2.0で安定化した。
【0195】
実施例3
噴霧乾燥による固体状のシアル酸であるN-アセチルノイラミン酸の取得
実施例1および2において上述したようにナトリウム形態または遊離酸形態の単離プロセスにより得られたシアル酸を20%(w/w)に濃縮し、5kDaの限外濾過膜(Spira-Cell WY UP005 2440 Cモジュール、Microdyn Nadir、ヴィースバーデン、ドイツ)に溶液を通すことによって、溶液を濾過してエンドトキシンを除去し、無菌濾過した。そのようにして得られたN-アセチルノイラミン酸を含む無菌溶液を、次いでNUBILOSA LTC-GMP噴霧乾燥機(NUBILOSA、コンスタンツ、ドイツ)を使用して噴霧乾燥した。N-アセチルノイラミン酸溶液の噴霧乾燥のために、溶液を3.5バールの圧力下で130℃に設定された噴霧乾燥ノズルに通し、66℃~67℃の間の排出温度を維持するように流量を調整した。これらの設定を用いて、含水率5%未満の噴霧乾燥粉末を得ることができた。含水率をカールフィッシャー滴定法により測定した。
【0196】
実施例4
二水和物形態としてのシアル酸であるN-アセチルノイラミン酸の結晶化
CSM RE8040BE逆浸透モジュールを備えるEmrich EMRO1.8逆浸透システム(Emrich Edelstahlbau)を使用して、逆浸透により遊離形態のシアル酸であるN-アセチルノイラミン酸を乾燥物量20%(w/w)まで濃縮した。
【0197】
結晶化のために、5リットルのこの溶液を、Hei-VAP工業用蒸発器(Heidolph Instruments GmbH、シュヴァーバッハ、ドイツ)により乾燥物量50%(w/w)まで濃縮した。溶液をシード結晶と共にインキュベートし、結晶が形成されるまで真空下で濃縮した(溶液の乾燥物量:約75%w/w)。
【0198】
結晶溶液をイソプロパノールと1:1で混合し、5分間撹拌した。溶液を4℃で少なくとも12時間インキュベートした。結晶化したシアル酸を真空濾過により母液から取り出し、結晶をイソプロパノールで洗浄した。
【0199】
沈殿したN-アセチルノイラミン酸の収率は、75~85%の間であった。
実施例5
シアル酸であるN-アセチルノイラミン酸の酢酸による結晶化
CSM RE8040BE逆浸透モジュールを備えるEmrich EMRO1.8逆浸透システム(Emrich Edelstahlbau)を使用して、逆浸透により、遊離形態のシアル酸であるN-アセチルノイラミン酸を乾燥物量30%(w/w)まで濃縮した。
【0200】
結晶化のために、5リットルの氷酢酸を撹拌下でいくつかに分けて1リットルのN-アセチルノイラミン酸溶液に添加した。溶液を室温(20℃)から4℃に3時間で冷却した。最終温度(4.5℃)に達した後、結晶化アプローチをこの温度で12~36時間インキュベートした。
【0201】
結晶溶液をイソプロパノールと1:1で混合し、5分間撹拌した。結晶化したN-アセチルノイラミン酸を真空濾過により母液から取り出し、結晶を等量のイソプロパノールで2回洗浄した。
【0202】
沈殿したN-アセチルノイラミン酸の収率は、74~81%の間であった。
培養ブロスからのN-アセチルノイラミン酸の例示的精製における純度を、表1に示す。
【0203】
【0204】
実施例6
代表的な乳児用フォーミュラ製品の組成物
以下では、代表的な乳児用フォーミュラ製品の組成物が示される(以下の表2を参照されたい)。
【0205】
組成物は、豊富な中性HMOである2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)および任意選択でラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)およびラクト-N-フコペンタオースI(LNFP-I)、酸性HMO(6’-シアリルラクトース(6’-SL)および3’-シアリルラクトース(3’-SL))、ならびにL-フコースと組み合わせたシアル酸であるNeu5Acを含む。
【0206】
1種または複数種のプロバイオティクス株が製品中に存在してもよい。各成分の最終濃度は、90mlの水中の13.5gの粉末の調製に基づいている。
【0207】
【0208】
【0209】
実施例7
ヒトミルクオリゴ糖、単糖Neu5Acおよび単糖L-フコースを含む乳児用フォーミュラ製品用の代表的プレミックスの組成物
以下では、乳児用フォーミュラ製品用の代表的プレミックスの組成物が示される(以下の表3を参照されたい)。
【0210】
組成物は、豊富な中性HMOである2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)および任意選択でラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)およびラクト-N-フコペンタオースI(LNFP-I)、酸性HMO(6’-シアリルラクトース(6’-SL)および3’-シアリルラクトース(3’-SL))、ならびに単糖遊離L-フコースと組み合わせた、シアル酸であるNeu5Acを含む。
【0211】
プレミックスは、乳清、ラクトース、脂質(飽和および不飽和脂肪酸)ならびにミネラル等の乳児用食品フォーミュラを再構成するために必要な他の栄養製品に前記プレミックスを添加することにより、乳児用フォーミュラに再構成するために使用され得る。表3に示されるプレミックスは、1kgの最終的な乳児用フォーミュラ製品に使用されることが意図される。
【0212】