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特許7285259イオントフォレーシス用マイクロニードルデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】イオントフォレーシス用マイクロニードルデバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20230525BHJP
   A61N 1/30 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
A61M37/00 510
A61N1/30
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020535307
(86)(22)【出願日】2018-09-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2018074583
(87)【国際公開番号】W WO2019053051
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-07-30
(31)【優先権主張番号】62/557,473
(32)【優先日】2017-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】300005035
【氏名又は名称】エルテーエス ローマン テラピー-ジステーメ アーゲー
(73)【特許権者】
【識別番号】512239608
【氏名又は名称】ニュージャージー・インスティチュート・オブ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ポール・ロナンダー
(72)【発明者】
【氏名】ローレント・サイモン
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-532482(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0182306(US,A1)
【文献】特表2011-516166(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0262416(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
A61N 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚を通して高分子化合物(API)を送達するための、マイクロスケールで中実の複数のマイクロニードルを有するポリマー性マイクロニードルアレイであって、
該マイクロニードルは:
バインダーとしての15~40wt%の水溶性ポリマー、
2wt%未満の保湿剤/柔軟剤、および
2wt%未満の界面活性剤;ならびに
その中にカプセル化された1~15wt%の高分子化合物(API)
を含む乾燥されたポリマー組成物
からなり、
wt%は、乾燥前の液体ポリマー組成物に対して定義される、前記ポリマー性マイクロニードルアレイ。
【請求項2】
水溶性ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)である、請求項1に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項3】
水溶性ポリマーは、平均分子量(Mw)約40,000の中粘度PVPである、請求項2に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項4】
保湿剤および柔軟剤は、グリセリンである、請求項1~3のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項5】
界面活性剤は、ポリソルベート80である、請求項1~4のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項6】
高分子化合物(API)は、親水性である、請求項1~5のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項7】
高分子化合物(API)は、スマトリプタンまたはスマトリプタンコハク酸塩である、請求項1~6のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項8】
水溶性ポリマーは、乾燥前の液体ポリマー組成物中に20~30wt%の量で存在する、請求項1~7のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項9】
保湿剤および柔軟剤は、乾燥前の液体ポリマー組成物中に0.5~1.5wt%の量で存在する、請求項1~8のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項10】
界面活性剤は、乾燥前の液体ポリマー組成物中に0.05~1.0wt%の量で存在する、請求項1~9のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項11】
高分子化合物(API)は、乾燥前のポリマー組成物中に5~10wt%の量で存在する、請求項1~10のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項12】
皮膚を通して高分子化合物(API)を送達するための能動的経皮パッチデバイスであって:
制御可能な電流源を有する電源、
該電源に電気的に接続された皮膚カソード、および
該電源に電気的に接続された皮膚アノード
を含み、該アノードは請求項1~11のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイを含む、前記能動的経皮パッチデバイス。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載のポリマー性マイクロニードルアレイの製造のための方法であって:
バインダーとしての15~40wt%の水溶性ポリマー、
2wt%未満の保湿剤/柔軟剤、および
2wt%未満の界面活性剤、ならびに
1~15wt%の高分子化合物(API)
を水に溶解して液体ポリマー組成物を製造する工程であって、wt%が乾燥前の液体ポリマー組成物に対して定義される、工程;
生産しようとするマイクロアレイの雌型を有する可撓性の型の中で、液体ポリマー組成物を成形する工程;
ポリマー組成物を型の中で乾燥する工程;および
形成された中実マイクロニードルを有する乾燥されたポリマー性マイクロニードルアレイを、型から取り出す工程
を含む、前記方法。
【請求項14】
高分子化合物(APIを患者に経皮投与するためのポリマー性マイクロニードルアレイであって:
高分子化合物(APIがその中にカプセル化された請求項1~11のいずれか1項に記載のポリマー性マイクロニードルアレイを患者の皮膚の上に載置することによって患者の皮膚に微小孔を形成し、それによりマイクロニードルを皮膚の角質層に浸透させ、
イクロニードルアレイを介してアノード電流を印加し、それにより、高分子化合物(APIをマイクロニードルから患者の皮膚の中に放出させるように構成された、前記ポリマー性マイクロニードルアレイ
【請求項15】
放出される高分子化合物(APIの量は、マイクロアレイを介して流れるアノード電流のレベルによって制御される、請求項14に記載のマイクロニードルアレイ
【請求項16】
片頭痛に罹患した患者における片頭痛の予防および治療のためのポリマー性マイクロニードルアレイであって、スマトリプタンがその中にカプセル化された請求項1~11、14および15のいずれか1項に記載のポリマー性マイクロニードルアレイを用いスマトリプタンを経皮投与するように構成された、前記ポリマー性マイクロニードルアレイ
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は医用薬剤デバイスの分野に属し、経皮薬剤送達システム(TDDS)に関する。新規なイオントフォレーシス用マイクロニードルデバイスならびに予防および治療のための経皮送達薬剤を介する薬剤の投与におけるその使用が提供される。
【0002】
生物学的製剤および医薬製剤の経口投与には、薬剤の吸収が十分でないこと、および/または胃腸管もしくは肝臓における初回通過効果によって代謝されることによる限界がある。最も一般的な代替策は皮下/筋肉内注射または静脈内輸注による薬剤投与である。しかし、皮下注射針を用いることには、注射に関連する疼痛、薬剤を投与するための訓練された人材の必要性、薬剤および滅菌のコストなどのいくつかの欠点がある。別の不利益は、これらの薬剤投与ルート(静脈内輸注を除く)が血漿中の薬剤濃度の変動を招き、それが有毒な影響または無効な治療に繋がることである。
【0003】
たとえば、極めて魅力的な活性医薬成分(API)であるスマトリプタンコハク酸塩またはスマトリプタンは、処方箋による抗片頭痛療法の至適基準と考えられている。現在のところ、スマトリプタンは鼻内および経口を含むいくつかの剤形で、また皮下およびイオントフォレーシス手段によっても送達されている。しかし、それぞれの方法にはそれ自体の限界があり、そのため患者が治療に応じる意思を大きく減退させることがある。たとえば、個人がすでに片頭痛によって能力を失っている場合には、皮下注射は投与が困難である。経口錠剤および経鼻スプレーの生体利用効率は一般に、それぞれ15%以下および14%以下と低く、また吐き気および嘔吐という副作用を伴いやすい。
【0004】
魅力的な最小侵襲性の代替策は、経皮システム(TDDS)、即ちいわゆる経皮パッチの使用であろう。経皮パッチは自己投与が可能で、制御されしかも信頼できる速度で皮膚を通して薬剤を送達することができる。皮膚には強い表皮バリアがあるため、経皮技術は現在のところ小さな親油性分子のAPIに限られている。皮膚を通しての拡散および薬剤取り込みを増大させるため、いくつかの物理的および化学的浸透法、たとえば化学的促進剤、イオントフォレーシス、またはマイクロニードルが研究されてきた。これらの方法は主として皮膚の角質層の脂質二重層構造を破壊して透過を増大させ、薬剤の全身吸収を促進することを目的としている。これらの方法は実験室内の研究では有望であることが示されたが、臨床的および商業的な成功には限界がある。
【0005】
最小侵襲性の経皮システムとしてマイクロニードル(MN)が開発され、皮膚を通して高分子または親水性化合物のAPIを送達することも期待されている。そのようなマイクロニードルは角質層および表皮を効果的に迂回することができ、その先に到達して下部の真皮における薬剤の全身的取り込みを達成することができる。マイクロニードルは通常、マイクロメーターサイズの「孔」で表皮を穿刺し、毛細血管に富む下部の真皮に薬剤を直接流入させる流路を創成して薬剤を即時に全身循環させるために用いられるマイクロメーターサイズの針のアレイとともに設計されている。
【0006】
個々のマイクロニードルは、約50~900μmの高さおよび約2000本/cmまたはそれ未満の表面密度の針を有して設計される。これらの寸法により、針は角質層および真皮を穿刺して浸透することができるが、神経線維および血管まで延びることはない。
【0007】
既知のマイクロニードルはシリコン、金属、またはポリマー等の材料から製造され、円錐、ピラミッド、または円筒等の形態で形成され、環状、三角形状、または四角形状の列で配置される。
【0008】
現在のところ、5種類の異なった型のマイクロニードルアレイ(MN):中実MN、コーティングされたMN、可溶性MN、中空MN、およびハイドロゲルMNが開発中である。たとえば、中空MNを用いるインフルエンザワクチン接種が、現在広く臨床使用されている。
【0009】
可溶性マイクロニードル(DMN)は、マイクロニードルアレイの中にAPIを組み込んだ水溶性生分解性ポリマーから作られている。針は表皮内に挿入されて数分で溶解し、皮膚および真皮の層にAPIを放出して、体液中に迅速に分布させる。使用後の処理のため、鋭い医療廃棄物は残存しない。プロセス中で創成される皮膚穿刺は痛みを伴わず、3日以内に治癒することが示されている。
【0010】
イオントフォレーシスとマイクロニードル技術の組み合わせにより、薬剤送達速度を調節しながら皮膚を通しての高分子の取り込みを増大させることが示された。イオントフォレーシスは、局所電流を印加することによって皮膚を通して体内に荷電粒子を導入する手法である。
【0011】
高分子(たとえばウシインスリン)を負荷したポリ(メチルビニルエーテル-マレイン酸)(PMVE-Ma)マイクロニードルを用いたインビトロ実験により、マイクロニードルまたはイオントフォレーシス単独の場合と比較してブタ皮膚を通しての送達が増大することが示された(非特許文献1)。ヘアレスラットにおけるイオントフォレーシスと組み合わせたマルトースマイクロニードルを用いたインビトロ研究により、メトトレキサートの送達の25倍の増大が示された(非特許文献2)。それにも関わらず、これらの組み合わせ技術には限界があり、基礎研究のためのスケールでしか適用できない。
【0012】
特許文献1には、マイクロニードルの上にある薬剤を含むリザーバを圧縮することによって生物学的組織にわたって薬剤を送達するための中空マイクロニードルを用いるマイクロニードルデバイスが記載されている。
【0013】
特許文献2には、低電流または低電圧の条件下で生体に高分子量のイオン化可能な薬剤を送達することができるイオントフォレーシスデバイスが記載されている。
【0014】
特許文献3には、マイクロニードルデバイスを用いて皮膚に微小孔を形成し、微小孔形成に続いて、微小孔が形成された皮膚にイオントフォレーシスによってペプチド分子を投与する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許第7226439号
【文献】米国特許第7437189B2号
【文献】米国特許出願公開第2009/0082713A1号
【非特許文献】
【0016】
【文献】Garland,Martin J.ら、「Dissolving Polymeric Microneedle Arrays for Electrically Assisted Transdermal Drug Delivery」、J.of Controlled Release、159(2012)、52~59頁
【文献】Vemulapalli,V.ら、「Synergistic effect of iontophoresis and soluble microneedles for transdermal delivery of methotrexate」、J.Pharm.Pharmacol.、60(2008)、27~33頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
皮膚を通しての生体高分子または薬剤高分子の経皮送達のための新規なイオントフォレーシス用ポリマー性マイクロニードルアレイデバイスが提供される。マイクロニードルアレイは、カプセル化された分子を含む溶解する生分解性の可溶性ポリマー性溶液からなっている。
【0018】
デバイスは、いずれの技術にも固有の欠陥を除去することになる。たとえば、マイクロニードルシステムには患者が治療効果を得るまでに固有の遅延時間がある。イオントフォレーシスによる電流の印加によって薬剤の拡散が増大し、遅延効果が低減される。次いで電流が制御されて患者への持続治療用量が得られる。
【0019】
さらに、イオントフォレーシス用デバイスに必要な電流の量が低減される。マイクロニードルは角質層バリアに浸透して薬剤分子を皮膚層に侵入させるために必要な全電気エネルギーを低減させる。これにより、バッテリの要求性能がより小さくなるとともにイオントフォレーシス用デバイスの寸法が小さくなり、より効率的でより長期の治療ができる可能性がもたらされる。
【0020】
第1の態様では、皮膚を通して高分子化合物(API)を送達するための、マイクロスケールで中実の複数のマイクロニードルを有するポリマー性マイクロニードルアレイが提供される。本発明によれば、マイクロニードルは乾燥されたポリマーからなる。乾燥前の液体ポリマー組成物は:
バインダーとしての、15~40wt%、好ましくは20~30wt%の量の水溶性ポリマー;
2wt%未満、好ましくは0.5~1.5wt%、最も好ましくは約1wt%の量の保湿剤/柔軟剤;および
2wt%未満、好ましくは0.05~1.0wt%、最も好ましくは約0.1wt%の量の界面活性剤;ならびに
1~15wt%、好ましくは5~10wt%の量でその中にカプセル化された高分子化合物(API)
を含む。
【0021】
それに関連する第2の態様では、患者の皮膚を通して高分子化合物(API)を送達するための能動的経皮パッチデバイス、特にマイクロイオントフォレーシス用デバイスが提供される。本発明によれば、デバイスは
制御可能な電流源を有する電源、
電源に電気的に接続された第1の皮膚電極、即ちカソード、および
電源に電気的に接続された第2の皮膚電極、即ちアノード
を含み、
第2の皮膚電極、即ちアノードは、本明細書に記載した本発明のポリマー性マイクロニードルアレイを含む。
【0022】
第3の態様は、本明細書に記載した本発明のポリマー性マイクロニードルアレイの製造のための方法である。本発明の方法は:
(a)バインダーとしての、好ましくは15~40wt%、より好ましくは20~30wt%の量の水溶性ポリマー;
好ましくは2wt%未満、または0.5~1.5wt%、最も好ましくは約1wt%の量の保湿剤/柔軟剤、および
好ましくは2wt%未満、または0.05~1.0wt%、最も好ましくは約0.1wt%の量の界面活性剤、ならびに
好ましくは1~15wt%、より好ましくは5~10wt%の量の高分子化合物(API)
を水に溶解して液体ポリマー組成物を製造する工程であって、wt%が乾燥前の液体ポリマー組成物に対して定義される、工程;
(b)生産しようとするマイクロアレイの雌型を有する可撓性の型の中で、液体ポリマー組成物を成形する工程;
(c)ポリマー組成物を型の中で乾燥する工程;および
(d)形成された中実マイクロニードルを有する乾燥されたポリマー性マイクロニードルアレイを、型から取り出す工程
を含む。
【0023】
その中にカプセル化された高分子化合物(API)を有するポリマー性マイクロニードルアレイが得られる。用いたポリマー成分の可溶性により、ポリマー性マイクロニードルアレイは、皮膚との接触によって溶解可能である。
【0024】
本発明の第4の態様は、高分子APIを患者に経皮投与するための方法であって:
(a)高分子APIがその中にカプセル化された本発明のポリマー性マイクロニードルアレイを患者の皮膚の上にまたはその中に載置することによって患者の皮膚に微小孔を形成し、それによりマイクロニードルを皮膚の角質層に浸透させる工程、および
(b)前記マイクロニードルアレイを介してアノード電流(+)を印加し、それにより、その中にカプセル化された正荷電の高分子APIをマイクロニードルから患者の皮膚の中に放出させる工程
を含む方法である。
【0025】
放出されるAPIの量は、マイクロアレイを介して流れるアノード電流(+)のレベルによって制御することができる。電流発生のために、マイクロイオントフォレーシスデバイスが用いられる。
【0026】
本発明のさらに別の関連する態様は、片頭痛に罹患した患者における片頭痛の予防および/または治療のための方法であって、その中にカプセル化された高分子APIとしてスマトリプタンを有する本発明のポリマー性マイクロニードルアレイを用い、本明細書で上記した第4の態様の方法の工程を適用することによって、高分子APIとしてのスマトリプタンを経皮投与する工程を含む方法である。
【0027】
本明細書において、冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は冠詞の文法的目的語の1つまたは2つ以上(即ち、少なくとも1つ)を意味して用いられる。たとえば、「要素(an element)」は1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0028】
本明細書において、用語「および/または」は、関連して列挙した項目の1つまたはそれ以上の任意のおよび全ての組み合わせを含む。
【0029】
本明細書において、「約」は、量、時間的継続、その他の測定可能な数値に言及する場合、その計算または測定が、値においていくらかの僅かな不正確性を許容することを示している(値における正確性にいくらか近づく場合には「およそ」、または合理的に値に近い場合には「ほぼ」)。ある理由で「約」によって生じる不正確性が当技術においてこの通常の意味によって他に理解されない場合には、本明細書における「約」は、そのようなパラメーターを測定しまたは使用する通常の方法から生じ得る変動を少なくとも示す。
【0030】
本発明の上記の概要は、本発明のそれぞれの開示した実施形態または全ての実行を記述することを意図していない。以下の詳細な説明により、実例的な実施形態をより詳細に例示する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】マイクロニードル中にカプセル化された薬剤の迅速なまたは制御された放出のための可溶性マイクロニードルの概略図である。
図2】マイクロニードルアレイおよび個別の針の顕微鏡画像である。(A~B)F1マイクロニードル;(C~D)F2マイクロニードル;(E~F)F3マイクロニードル;(G~H)F4マイクロニードル。
図3】3点曲げ装置を用いた力-変位曲線によるテクスチャー解析である。(A)F1マイクロニードル;(B)F2マイクロニードル;(C)F3マイクロニードル;(D)F4マイクロニードル。平均値、n=3。
図4】スマトリプタンコハク酸塩(SS)を負荷したマイクロニードルの32時間後の浸透プロファイルである。(A)F1マイクロニードル、F1対照(皮膚上で反転したマイクロニードル)、F1対照+テープ引き剥がし(15回)、および参照溶液(スマトリプタンコハク酸塩5mg/mL);(B)F2マイクロニードル、F2対照、F2対照+テープ引き剥がし(15回)、および参照溶液;(C)F3マイクロニードルおよび参照溶液。平均値±SD、n=3;参照溶液、n=6。
図5】スマトリプタンコハク酸塩(SS)を負荷したマイクロニードルの8時間後の浸透プロファイルである。電流0.6mA/cmでのF1マイクロニードル(平均値±SD、n=3)、F1マイクロニードルのみ(平均値±SD、n=2)。
図6】拡散実験後のミニブタ組織サンプルの写真および顕微鏡画像である。(A)ブランクミニブタ組織サンプルの写真;(B~C)ニトラジンイエロー指示薬(青色染料)を含むF2マイクロニードルアレイで処置したミニブタ皮膚の写真;(D)ブランクミニブタ組織の顕微鏡画像(10倍拡大);(E)F1マイクロニードルアレイで処置したミニブタ皮膚の顕微鏡画像、指示薬なし(10倍拡大);(F)F1マイクロニードルアレイで処置したミニブタ皮膚の顕微鏡画像、指示薬なし(50倍拡大)。
図7】(A~B)気泡およびビーズ形成効果を生じる20%PVP DMNアレイの写真;(C~D)気泡またはビーズ形成効果のない可撓性のDMNアレイを示す製剤F3の写真である。
図8】制御可能な電流源を有する電源(10)、およびそれぞれ電源(10)と電気的に接続された2つの皮膚電極(20、30)を含む本発明の経皮薬剤送達デバイスの概略図である。カソード(30)は患者の皮膚(50)と直接接触させることができる。電源(10)およびカソード(30)を通して皮膚組織にカソード電流(-)を印加することができる。本発明によれば、アノード(20)はポリマー性マイクロニードルアレイ(22)からなっているか、それを有する。患者の皮膚にデバイスを取り付けると、アノードのマイクロニードルアレイ(22)のマイクロニードルが皮膚に浸透し、それにより角質層(52)を通して表皮(54)の下部組織に到達することができる。電源(10)およびアノード(20)を通して皮膚組織にアノード電流を印加することができる。ポリマー性マイクロニードル中にカプセル化されたAPIの荷電分子は電気運動力によって能動的に放出され、表皮(54)の組織中に進入し、結果的に患者の循環系に入る。
【発明を実施するための形態】
【0032】
ポリマー性マイクロニードルアレイは、乾燥前には1つの溶媒、特に水、主成分であるバインダーとしての水溶性ポリマー、また保湿剤/柔軟剤および界面活性剤を含む液体ポリマー組成物から製造される。高分子化合物(API)はこのポリマー組成物の中にカプセル化されている。ポリマー組成物の乾燥の間に大部分の溶媒、即ち水は揮発する。
【0033】
ポリマー組成物中に包含すべき/カプセル化すべきAPIの化学的および物理的な性質に主として応じて、緩衝剤、pH調節剤、溶媒、可溶化剤または安定剤等のさらなる賦形剤が少量存在してもよいことに注意されたい。しかし特定の実施形態では、ポリマー組成物はそのような他の賦形剤を含まず、水溶性ポリマー、保湿剤/柔軟剤、界面活性剤、およびカプセル化された高分子化合物(API)のみからなるポリマー性マイクロニードルアレイが提供される。
【0034】
本発明のマイクロニードルアレイは、基本的には中実の可溶性マイクロニードルを形成する水溶性または生分解性のポリマーからなっている。そのような生分解性ポリマーは、好ましくは乳酸およびグリコール酸等のヒドロキシ酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリラクチド-co-グリコリド、ならびにPEG、ポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリウレタン、ポリ(酪酸)、ポリ(吉草酸)、ポリ(ラクチド-co-カプロラクトン)等とのコポリマーから選択される。より好ましい実施形態では、水溶性分解性ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)であり、最も好ましくは平均分子量(Mw)30,000~50,000の中粘度PVP、好ましくは一般的にPVP-K30ポリマーとして入手可能な分子量約40,000のPVPである。
【0035】
好ましい保湿剤および柔軟剤としては、好ましくは尿素、グリセリン(glycerol、glycerin)、ソルビトール、キシリトール等の多価アルコール、または低分子量PEG、1-2-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、または1,2,6-ヘキサントリオール、アルファヒドロキシ酸、ジメチコン、メチルグルセス-20、プランクトン抽出物、およびマンニトールがある。好ましいものの1つはグリセリンである。
【0036】
好ましい界面活性剤は非イオン性界面活性剤または乳化剤である。非イオン性界面活性剤としては、ポリエトキシレート、脂肪族アルコール(たとえばセテス-20(平均約20個のエチレンオキシド単位を有するポリエチレンオキシドのセチルエーテル)およびICI Americas Inc.社(Wilmington、Del.)から入手可能なその他の「BRIJ」(登録商標)非イオン性界面活性剤)、コカミドプロピルベタイン、アルキルフェノール、ソルビトール、ソルビタン、またはポリオキシエチレンソルビタンの脂肪酸エステルがある。
【0037】
乳化剤によって、相間の界面張力を低減し、エマルジョンの形成および安定性を改善することができる。乳化剤は非イオン性、カチオン性、アニオン性、および両イオン性乳化剤でよい(McCutcheon’s(1986);米国特許第5011681号;第4421769号;第3755560号を参照。これらは乳化剤について参照によって組み入れられる)。非限定的な例としては、グリセリンのエステル、プロピレングリコールのエステル、ポリエチレングリコールの脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコールの脂肪酸エステル、ソルビトールのエステル、ソルビタン無水物のエステル、カルボン酸コポリマー、グルコースのエステルおよびエーテル、エトキシル化エーテル、エトキシル化アルコール、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪族エーテルホスフェート、脂肪酸アミド、アシルラクチレート、石鹸、ステアリン酸TEA、オレス-3リン酸DEA、ポリエチレングリコール20ソルビタンモノラウレート(ポリソルベート20)、ポリエチレングリコール5ソヤステロール、ステアレス-2、ステアレス-20、ステアレス-21、セテアレス-20、PEG-2メチルグルコースエーテルジステアレート、セテス-10、ポリソルベート80、リン酸セチル、セチルリン酸カリウム、ジエタノールアミンセチルホスフェート、ポリソルベート60、ステアリン酸グリセリル、ステアリン酸PEG-100、およびそれらの混合物がある。好ましいものの1つはポリソルベート80である。
【0038】
好ましい実施形態では、ポリマー性マイクロニードルアレイ中にカプセル化される薬剤または化合物(API)は高分子であり、親水性である。より好ましい実施形態では、APIはアルカロイド、好ましくは神経活性アルカロイド、およびそれらの混合物から選択される。最も好ましくは、APIは抗片頭痛剤スマトリプタン(CAS登録番号:103628-46-2)またはその誘導体、特にスマトリプタンコハク酸塩である。
【0039】
本発明のポリマー性マイクロニードルアレイを製造するため、本明細書の他の箇所に記載した特定の量のポリマー組成物の全ての成分、好ましくはPVP、グリセリン、ポリソルベート80、およびAPIを、好ましい溶媒としての水に溶解することが好ましい。約2mLの液体ポリマー溶液を、可撓性で好ましくは乾燥したシリコンエラストマーから作られた雌型に注ぐことができる。マイクロニードルアレイの形態は可撓性の鋳型によって提供される。鋳型を室温で好ましくは一夜乾燥する。乾燥したのち、中実のマイクロニードルアレイを鋳型から剥がし、シールされた湿度抵抗性容器の中で保存することができる。
【実施例
【0040】
1.化学物質および試薬
Meohs Fine Chemicals社(Iberica、SL)製のスマトリプタンコハク酸塩[3-[2-(ジメチルアミノ)エチル]-N-メチル-インドール-5-メタン-スルホンアミドスクシネート(1:1)](MW=413.5)、ポリビニルピロリドン(Kollidon K30、MW=40,000、BASF社、Ludwigshafen、Germany);P&G Chemicals社(Cincinnati、OH)製のグリセリン(グリセロール);Croda社(New Castle、DE)製のポリソルベート80;およびAlfa Aesar社(Ward Hill、MA)製のニトラジンイエロー。
【0041】
2.スマトリプタンマイクロニードルアレイの製造
スマトリプタンコハク酸塩がカプセル化された可溶性マイクロニードル製剤を製造するため;PVP、グリセリン、ポリソルベート80、およびスマトリプタンコハク酸塩を水に溶解して、2.0mLの溶液を作成した。
【0042】
白金硬化したシリコン(PDMS)マイクロニードルアレイの雌型は、LTS Lohmann Therapie-Systeme AG社(Andernach、Germany)から入手した。Ripolinら(「Successful application of large microneedle patches by human volunteers」、Int.J.Pharm.、521(2017)、92~101頁)によって記載された方法により、シリコーンPDMS鋳型にPVP-スマトリプタン溶液を満たした。
【0043】
次いで、周囲条件および室温で、鋳型を実験台上で一夜乾燥した。乾燥したマイクロニードルアレイを鋳型から注意深く剥がし、シールされた湿度抵抗性容器の中で保存した。
【0044】
同じ手順を採用して4つの異なったPVP-スマトリプタン(PVP-S)マイクロニードル製剤を製造した。表1にまとめた濃度のPVP-S溶液を用いて、マイクロニードルアレイを製造した。
【0045】
【表1】
【0046】
高いF4製剤濃度(15wt%)ではスマトリプタンは溶液中に完全には溶解しなかった。しかし、DMNの物理的特性に対する高い薬剤濃度の影響を特性解析するため、F4 DMNアレイを生産した。
【0047】
マイクロニードルアレイの製剤化および処理の手順を、製造への関連を考慮しながら開発した。この目的のため、一般に用いられるミキサーで容易に混合できて水溶液を作成することができる材料に重点を置いた。得られるシステムは容易に脱気できる必要がある。容易に溶解できる中粘度のポリビニルピロリドンK30ポリマーを用いて、親水性のスマトリプタンコハク酸塩化合物を製剤化した。ポリマーは水に溶解し、ゆっくりと撹拌すること、または実験台上に静置しておくことによって、容易に脱気できた。
【0048】
最初の実験では20wt%のPVPおよび水を用いてDMNを製剤化し、気泡を含んだガラス状でもろいDMNアレイが得られた。この溶液は高い表面張力を示し、そのためビーズ形成効果が生じて、DMNの丸い鋳型を溶液で完全に覆うことができなかった。表面張力を低下させ、気泡発生およびビーズ形成効果を最小化するために、界面活性剤としてポリソルベート80を加えた。湿度を保ち、可撓性を増大して、一様でない皮膚表面に適用するために、保湿剤としてグリセリンを加えた(図7)。
【0049】
3.マイクロニードルアレイの顕微鏡による特性解析
光学顕微鏡(Nikon Optiphot-2、株式会社ニコン、日本)、デジタルサイト(Nikon D5-Fil、株式会社ニコン、日本)および画像ソフトウェア(NIS-Elements、株式会社ニコン、日本)を用いて、マイクロニードルアレイの目視による特性解析を行なった。
【0050】
全てのマイクロニードルは、PVP-Sの組成によらず一定の外観、形状、および寸法を保っていた。それぞれのアレイは不透明でオフホワイトの外観を有し、直径10mmの円形の領域内に600本の針を含んでいた。個別の針は高さ500μm、基底幅300μmのピラミッドの形態を有していた。DMNの間のピッチ間隔(中心と中心の間)は350μmであった(図2)。
【0051】
4.マイクロニードルアレイの機械的試験
DMNが皮膚に浸透することが可能か否かを評価するために、引っ張り試験機(TA.XTPlus、Stable Microsystems Ltd社、Godalming、UK)が必要であった。3点曲げ装置を取り付けた機器(HPD/3PB、Stable Microsystems Ltd社、Godalming、UK)を圧縮モードで用いて、マイクロニードルアレイの機械的破壊力を測定した。試験を行なう前に、25℃および相対湿度45%で24時間を超えてマイクロニードルを保存した。単一のマイクロニードルアレイを固定台の上に載置して、センサープローブによって0.1mm/sの速度でDMNに軸方向の力を印加した。最大変位(5mm)が得られるか、または力が閾値未満(<0.1N)にまで低下すれば、試験を中断した。
【0052】
3点曲げ装置を取り付けたテクスチャーアナライザーを用いて、針の機械的挙動を決定した。DMNの破壊力を測定するために、DMNアレイを5mmの軸方向変位に供した(0.1mm/s)。試験の間、いずれのDMNアレイも破損しなかった。力の平均値(n=3)に基づき、力対変位のプロファイル(応力-歪み曲線と類似)を全ての製剤について生成した(図3)。機械的試験の前後に光学顕微鏡を用いて針を検査した。印加した力によっていくつかの針は曲がったが、破損(即ち破砕)しなかった。
【0053】
5.皮膚への浸透およびTEWL測定
雌Gottingenミニブタ皮膚組織全体をEllegaard Gottingen Minipigs Agricultural Service社(Dalmose、Denmark)から入手した。室温で組織を解凍し、水で洗浄した。電気デルマトームAcculan 3TI(Aesculap AG社、Tuttlingen、Geremany)を用いてミニブタの背中の皮膚を厚み800μmに切除した。切除した皮膚からパンチで直径25mmのサンプルを作成し、凍結して9か月以内の使用のために保存した。
【0054】
マイクロニードルの浸透は、TEWLデバイス(Biox AquaFlux社、AF200、London、UK)を用いて経皮水分損失(TEWL)を測定することによっても評価することができる。この評価は、選択したミニブタ皮膚サンプルについてマイクロニードルアレイを皮膚に挿入する前後に実施した。比較のため、テープ引き剥がし法によって角質層を除去する前後にも試験を実施した。この手法は、直径3/4インチ(19mm)の標準的なアクリルテープを皮膚の角質層側に10秒間貼り付けて除去することからなっていた。角質層が完全に除去されたことを確実にするため、この手順を15回繰り返した。
【0055】
経皮水分損失(TEWL)によって、ミニブタの皮膚のバリア機能に対するマイクロニードルの適用の影響を評価した。製剤1を用いた処置の前後のミニブタ皮膚サンプルの性質を測定するために、水分損失量を用いた(表2)。皮膚にDMNアレイを適用し、その場所に15秒間保持してから除去した。これを、テープ引き剥がし法(15回)によって角質層を除去する前後におけるミニブタ皮膚についての結果と比較した。
【0056】
【表2】
【0057】
6.インビトロ拡散研究
拡散面積1.595cmの垂直なフランツ(Franz)セル(Glastechnik、Grafenroda、Germany)で実験を行なった。皮膚を解凍し、角質層を上向きにして実験台上に載置した。実際の条件を模倣するため、サンプルはあらかじめ水で湿潤させなかった。挿入の間、マイクロニードルアレイにわたって一様な衝撃力(ほぼ150N/cm)を適用する標準的な適用条件を提供するため特製のデバイスを用いて、あらかじめ製造したPVP-Sマイクロニードルアレイを真皮層に導入した。この処置の後、DMNの底部をドナー区画に対向するようにして、皮膚サンプルをフランツセルに穏やかに載置した。アジ化ナトリウム(0.1%、w/w)を含む10mLのリン酸塩緩衝液(pH7.4)(PBS)でレシーバーセルを満たし、撹拌して32℃で制御した。皮膚の状態を維持するため、所定の間隔でレシーバー溶液を完全に取り出し、新鮮なPBSで置き換えた。5mLのメタノール中で皮膚切片を24時間振盪することによって、インビトロ拡散実験の後のサンプル中に残存する薬剤残留物を抽出した。
【0058】
レシーバー区画から取り出したアリコートを、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)システム(Jasco社LC-2000Plus Series、東京、日本)を用いて分析した。HPLCにはUV検出器(Jasco社2077)およびC18 Kromasilカラム(250×4.6mm、5μm、VDS Optilab社、Berlin、Germany)を取り付けた。移動相はリン酸二水素ナトリウム溶液およびアセトニトリルの(90:10)混合物からなっており、pHは3.2、流量は1.5mL/分であった。注入量は20μL、UV検出は227nmに設定した。
【0059】
製剤F1、F2、およびF3から製造したマイクロニードルアレイを用いて、雌ミニブタ皮膚を通してのAPIの経皮拡散を測定した。3つの製剤全てにおける薬剤の累積量(μg/cm)を、32時間の期間にわたって記録した。反転したミニブタ皮膚にマイクロニードルアレイ(製剤F1およびF2)を適用して(即ち、針を上向きにして)、比較のために受動的拡散(対照)実験も行なった。テープ引き剥がし法(15回)によって角質層を除去した後のミニブタ皮膚における反転したマイクロニードルアレイ(製剤F1およびF2)を用いる追加の受動的拡散実験を行なった。PBS(pH7.4)中に5mg/mlのスマトリプタンを含む参照ドナー溶液からの経皮輸送を決定した(図4)。
【0060】
マイクロニードルへの薬剤の負荷(μg/cm);累積量、Q(μg/cm)、24時間で放出された百分率;スマトリプタンの定常状態フラックス、Jss(μg/cm・時間);皮膚に保持されたスマトリプタン(μg/cm);および遅延時間(時間)を含むデータを記録しまたは計算した(表3)。累積フラックス曲線の定常状態部分の勾配を取ることによって、全ての実験について定常状態フラックスおよび遅延時間(時間)を近似した。マイクロニードルアレイおよびテープを引き剥がした反転したサンプルにおいては2~8時間以内に定常状態フラックスが生じた。対照および参照サンプルでは定常状態フラックスに達するまで24~32時間を要した。サンプルをメタノールに溶解することによって、皮膚から薬剤を抽出した。
【0061】
【表3】
【0062】
拡散実験に続いて、マイクロニードルが完全に溶解して皮膚に浸透したか否かを決定するため、皮膚のサンプルを目視で検査した。皮膚内で青色を呈する指示薬(ニトラジンイエロー、0.01%、w/w)をマイクロニードルの大部分に添加したので、この手順を実行することが可能であった。製剤F1、F2、F3についてマイクロニードルアレイは完全に溶解し、皮膚に浸透することが示された。
【0063】
製剤F2のマイクロニードルで処置した皮膚の写真は、マイクロニードルが皮膚に浸透した場所で暗青色のマークを有するアレイパターンを皮膚内に示す(図6)。ニトラジンイエロー指示薬を含まないF1マイクロニードルで処置したミニブタの皮膚において、針の空洞が顕微鏡で観察された(図6)。図6は光学顕微鏡(Swift-Duo Vision Engineering社、Woking、UK)および画像ソフトウェア(M3 Metrology、Vision Engineering社、Working、UK)を用いて作成した。
【0064】
別の実験で、製剤F1から製造したマイクロニードルアレイを用いて、雌ミニブタ皮膚を通してのイオントフォレーシス(即ち電流)によるAPIの能動的経皮拡散を測定した。イオントフォレーシスのサンプルについては、マイクロニードルの上に位置するアノード電極とフランツセルのレシーバー区画の中に位置するカソード電極との間に0.6mA/cmの電流を印加した。製剤中の薬剤の累積量(μg/cm)を8時間の期間にわたって記録した。比較のため、同じロットの雌ミニブタ皮膚を用いて、マイクロニードルアレイを用いる非イオントフォレーシス拡散実験を行なった。大部分のイオントフォレーシス処置計画は8時間未満であるので、8時間の期間を適当として選択した。
【0065】
マイクロニードルへの薬剤の負荷(μg/cm);累積量、Q(μg/cm)、8時間で放出された百分率;スマトリプタンの定常状態フラックス、Jss(μg/cm・時間)および遅延時間(時間)を含むデータを記録しまたは計算した(表4)。累積フラックス曲線の定常状態部分の勾配を取ることによって、全ての実験について定常状態フラックスおよび遅延時間(時間)を近似した。マイクロニードルアレイおよびテープを引き剥がした反転したサンプルにおいて4~8時間以内に定常状態フラックスが生じた。
【0066】
【表4】
【0067】
本明細書に開示した全ての参照文献は、参照によって組み入れられる。特定の実施形態は好ましい実施形態の説明のために本明細書に示され記述されているが、本発明の範囲から逸脱することなく、同じ目的を達成するために計算される広範囲の代替または等価の実施によって、提示し説明した特定の実施形態を置き換えることが可能であることは、当業者には認識されよう。本出願は本明細書で考察した好ましい実施形態の任意の適応または変動を包含することが意図されている。したがって、本発明が特許請求の範囲およびその等価物によってのみ限定されることが明白に意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8