(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】タング及びシートベルト装置
(51)【国際特許分類】
B60R 22/12 20060101AFI20230525BHJP
【FI】
B60R22/12
(21)【出願番号】P 2021074759
(22)【出願日】2021-04-27
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小野 勝康
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 修司
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-166586(JP,A)
【文献】特開2013-121843(JP,A)
【文献】登録実用新案第3217720(JP,U)
【文献】特開2012-071640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のタングプレートに形成され、バックルに差し込まれるためのインサート部と、
ウェビングが挿通されるためのウェビング挿通孔と、
前記ウェビング挿通孔を画定する縁部のうち、前記インサート部とは反対側の第1の縁部に、摩擦係数が互いに異なる複数のウェビング接触面と、を備え
、
前記複数のウェビング接触面は、摩擦係数が互いに異なる複数の部材により形成され、
前記複数の部材は、
前記タングプレートにおける、前記インサート部と反対側の外面を被覆する被覆樹脂部材と、
前記被覆樹脂部材よりも摩擦係数が高い摩擦部材と、を含んでいる、タング。
【請求項2】
前記摩擦部材は、ウレタンゴム、シリコーンゴム、天然ゴム、合成ゴム又はエラストマー樹脂から形成されている、請求項
1に記載のタング。
【請求項3】
前記摩擦部材は、前記タングプレートに取り付けられ又は固着されている、請求項
1又は2に記載のタング。
【請求項4】
前記タングプレートは、前記ウェビング挿通孔に対応する位置に開口を有しており、
前記摩擦部材は、前記タングプレートにおける前記開口を画定する縁に取り付けられ又は固着されている、請求項
3に記載のタング。
【請求項5】
前記摩擦部材は、前記開口を画定する縁に取り付けられ又は固着された部分の少なくとも一部を前記被覆樹脂部材により被覆されている、請求項
4に記載のタング。
【請求項6】
前記摩擦部材は、係合部を有し、
前記タングプレートは、前記係合部に係合される受容部を有している、請求項
3から5のいずれか一項に記載のタング。
【請求項7】
前記受容部は、前記タングプレートの厚み方向にわたって貫通して形成されている、請求項
6に記載のタング。
【請求項8】
前記係合部は、前記タングプレートに対して凸及び/又は凹に形成され、
前記受容部は、前記係合部と相補的な形状に形成されている、請求項
6に記載のタング。
【請求項9】
前記複数のウェビング接触面は、前記被覆樹脂部材により形成された第1のウェビング接触面と、前記摩擦部材により形成された第2のウェビング接触面と、を有する、請求項
1から8のいずれか一項に記載のタング。
【請求項10】
前記第1のウェビング接触面と前記第2のウェビング接触面とは、前記第1の縁部に沿って交互に設けられている、請求項
9に記載のタング。
【請求項11】
前記第1のウェビング接触面と前記第2のウェビング接触面とは、
前記第1の縁部に沿った長さ、及び
前記インサート部側への突出量、
の少なくとも一つが互いに異なる、請求項
9又は10に記載のタング。
【請求項12】
前記第1のウェビング接触面と前記第2のウェビング接触面とは
前記第1の縁部に沿った長さ、及び
前記インサート部側への突出量、
の少なくとも一つが互いに同じである、請求項
9又は10に記載のタング。
【請求項13】
請求項1から
12のいずれか一項に記載のタングを備えたシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タング及びシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、三点式シートベルト装置では、乗員を拘束するウェビングが、車内上方のスルーアンカからタングまで延在するショルダー側ウェビングと、タングから車内下方のラップアンカまで延在するラップ側ウェビングと、を有している(例えば特許文献1~4参照)。タングをバックルに差し込んで締結させると、ショルダー側ウェビングが乗員の胸部の前で斜めに架け渡され、また、ラップ側ウェビングが乗員の腰部の前で架け渡される。
【0003】
ウェビングは、通常、リトラクタから自由に繰り出すことができる一方、車両衝突時には、リトラクタがロックされてそれ以上繰り出されることが阻止されるようになっている。また、ウェビングは、タングの挿通孔に挿通されている。タングをバックルに差し込んだ装着状態では、ウェビングは挿通孔の位置で折り返され、ショルダー側ウェビングとラップ側ウェビングとに区画される。タングとバックルとの装着を解除すると、余分なウェビングがリトラクタの巻取りばねによってリトラクタに巻き取られる。このウェビングの巻取りに伴って、ウェビングと共にタングも移動して原点位置(スルーアンカの位置)に戻されるようになっている。
【0004】
この種のタングとして、タング内に可動に設けた金属製のロック部材によりウェビングをクランプして、ウェビングの移動を阻止するようにしたロッキングタングが知られている(参照:特許文献1)。このロッキングタングによれば、車両衝突時にかかるショルダー側ウェビング及びラップ側ウェビングの各張力をロッキングタングで分断することができ、ラップ側ウェビングの張力増加に引きずられてショルダー側ウェビングの張力が増加することを防止することができる。
【0005】
また、別のタングとして、ロック部材を用いずに、摩擦抵抗を利用してウェビングを保持するようにしたものも知られている(参照:特許文献2及び3)。例えば特許文献2では、タングの挿通孔におけるベルト摺動部に多数の溝を軸方向・周方向に形成している。このタングによれば、車両衝突時に、ウェビングとベルト摺動部との摩擦抵抗が大きくなり、それによりラップ側ウェビングの伸び出しが抑制されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-122622号公報
【文献】特開2009-166586号公報
【文献】特開2012-71640号公報
【文献】特開2014-015201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のようなロッキングタングは、金属製のロック部材を備えているため、重くなりやすい。このため、タングとバックルとの装着を解除した際の余分なウェビングの巻き取りに影響を及ぼすおそれがあり得る。この点、リトラクタの巻取りばねのバネ力を強くすることも可能であるが、その分、ウェビングに大きな引き出し力が必要となり、ウェビングの装着操作性に影響をあたえ、また、装着時に乗員に圧迫感をあたえる可能性がある。
【0008】
一方、特許文献2のような、ロック部材を用いないタングは、挿通孔におけるウェビングの保持力が不足しやすい。溝の態様を工夫して保持力を向上することが可能であるかもしれないが、ウェビングの摩耗など、ウェビングのダメージが大きくなるおそれがあり得る。
【0009】
本発明は、軽量化と保持力の向上とを両立でき、しかもウェビングの損傷を抑制することができるタング及びシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係るタングは、バックルに差し込まれるためのインサート部と、ウェビングが挿通されるためのウェビング挿通孔と、ウェビング挿通孔を画定する縁部のうち、インサート部とは反対側の第1の縁部に、摩擦係数が互いに異なる複数のウェビング接触面と、を備える。
【0011】
この態様によれば、ウェビング接触面を一つの摩擦係数だけで形成する場合に比べて、ウェビングとウェビング接触面との摩擦抵抗を増大させることができるので、ウェビングの保持力の向上につながる。とりわけ、複数のウェビング接触面をインサート部と反対側に設けているため、例えばタングを車両の三点式シートベルト装置に使用した際の車両衝突時には、ショルダー側ウェビング及びラップ側ウェビングのそれぞれから受ける張力によって、ウェビングが複数のウェビング接触面に押し付けられ、それにより摩擦力が発生する。この摩擦力は、ウェビング接触面を一つの摩擦係数だけで形成する場合に比べて大きくなる。したがって、保持力が向上する。
【0012】
加えて、ロック部材を設けずに済むため、タングの重量を軽くすることができる。また、摩擦力を発生させるウェビングとウェビング接触面との接触が面接触であるため、ウェビングの損傷を抑制することもできる。
【0013】
本発明の一態様においては、複数のウェビング接触面は、摩擦係数が互いに異なる複数の部材により形成されてもよい。この態様によれば、素材が異なる複数の部材を用いるという簡易な構成により、複数のウェビング接触面の摩擦係数を互いに異ならせることができる。
【0014】
本発明の一態様においては、インサート部は、金属製のタングプレートに形成されており、複数の部材は、タングプレートにおける、インサート部と反対側の外面を被覆する被覆樹脂部材と、被覆樹脂部材よりも摩擦係数が高い摩擦部材と、を含んでもよい。この態様によれば、一般のタングで使用される被覆樹脂部材に摩擦部材を追加することで、ウェビングの保持力の向上を図ることができる。
【0015】
本発明の一態様においては、摩擦部材は、ウレタンゴム、シリコーンゴム、天然ゴム、合成ゴム又はエラストマー樹脂から形成されていてもよい。ウレタンゴムなどの比較的柔らかい素材を用いることで、ウェビングのダメージを減らすことができる。
【0016】
本発明の一態様においては、摩擦部材は、タングプレートに取り付けられ又は固着されていてもよい。この場合、タングプレートは、ウェビング挿通孔に対応する位置に開口を有しており、摩擦部材は、タングプレートにおける開口を画定する縁に取り付けられ又は固着されてもよい。また、摩擦部材は、開口を画定する縁に取り付けられ又は固着された部分の少なくとも一部を被覆樹脂部材により被覆されてもよい。このような態様によれば、被覆樹脂部材を有効に利用して、タングプレートからの摩擦部材の剥離を抑制することができる。
【0017】
本発明の一態様においては、摩擦部材は、係合部を有し、タングプレートは、係合部に係合される受容部を有してもよい。この態様によれば、構造上、タングプレートに対する摩擦部材の取り付け・固着が強化される。これにより、タングプレートからの摩擦部材の剥離をより一層抑制することができる。
【0018】
本発明の一態様においては、受容部は、タングプレートの厚み方向にわたって貫通して形成されてもよい。本発明の別の態様においては、係合部は、タングプレートに対して凸及び/又は凹に形成され、受容部は、係合部と相補的な形状に形成されてもよい。
【0019】
本発明のいくつかの態様においては、複数のウェビング接触面は、被覆樹脂部材により形成された第1のウェビング接触面と、摩擦部材により形成された第2のウェビング接触面と、を有してもよい。この場合、第1のウェビング接触面と第2のウェビング接触面とは、第1の縁部に沿って交互に設けられてもよい。また、両者は、第1の縁部に沿った長さ及び/又はインサート部側への突出量が互いに異なってもよい。別の態様では、これらが互いに同じでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係るタングを備えたシートベルト装置を示す図である。
【
図3】実施形態に係るタングの半部を示す平面図である。
【
図4】
図3のIV-IV線で切断した断面図である。
【
図7】実施形態に係るタングをバックルに装着したときの、タングまわりの斜視図である。
【
図8】実施形態の第1の変形例に係るタングの、
図5と同様の断面図である。
【
図9】実施形態の第2の変形例に係るタングの、
図5と同様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係るタングを車両のシートベルト装置に適用した例について説明する。以下では、まず、車両シート及びシートベルト装置の概要を説明し、次いで、タングの詳細を説明する。
【0022】
図1に示すように、車両シート1は、乗員の背中を支えるシートバック10と、乗員が着座するシートクッション12と、乗員の頭部を支えるヘッドレスト14と、を備えている。車両シート1は、前席(すなわち運転席又は助手席)であってもよいし、後席であってもよい。
【0023】
シートベルト装置2は、車両シート1に関連付けて設けられる。シートベルト装置2は、乗員を拘束するウェビング20を有し、ウェビング20は、上部アンカ21からタング22まで延在するショルダーウェビング20aと、タング22からラップアンカ24まで延在するラップウェビング20bと、を有している。ショルダーウェビング20aは、車両シート1に着座した乗員の左右一方の上部から左右他方の下部へと乗員の胸の前で斜めに架け渡される。ラップウェビング20bは、乗員の左右一方から左右他方へと乗員の腰の前で架け渡される。ショルダーウェビング20aとラップウェビング20bとは、連続した一本の態様であり、帯状に形成されている。
【0024】
上部アンカ21は、車室内の上壁部又はシートバック10の上部に設けられる。ラップアンカ24は、ウェビング20の他端部を車両構造の部分(例えば車両フレーム)に固定する。図示省略したが、上部アンカ21の下方には、ウェビング20の一端側を巻き取るリトラクタが設けられている。ウェビング20は、通常時、リトラクタから繰り出し可能に巻き取り方向に付勢されている一方、車両衝突時には、リトラクタがロックされてそれ以上繰り出されることが阻止される。タング22は、ウェビング20を挿通していると共に、バックル28に装着可能に構成されている。タング22がバックル28に装着されて締結されることで、ウェビング20が、タング22の位置で折り返され、ショルダーウェビング20aとラップウェビング20bとに分けられる。したがって、タング22がバックル28に装着された際、シートベルト装置2は、上部アンカ21と、タング22(バックル28)と、ラップアンカ24との間に3点拘束を画定する。
【0025】
図2~5に示すように、タング22は、金属製のタングプレート30と、被覆樹脂部材40と、摩擦部材50と、を有している。また、タング22は、ウェビング20が挿通されるウェビング挿通孔60を有している。
【0026】
タングプレート30は、略T字状に形成されている。タングプレート30は、バックル28に差し込まれるインサート部32を有している。インサート部32は、「T字」の縦方向に延在しており、その中央部に縦長のラッチ孔33が貫通形成されている。インサート部32がバックル28に差し込まれた際、バックル28のラッチ部材がラッチ孔33に係止し、それによりタング22がバックル28に締結されることになる。
【0027】
また、タングプレート30は、「T字」の横方向に延在する把持部34を有している。把持部34は、主に被覆樹脂部材40によって覆われ、インサート部32の一端側に連結されている。把持部34は、ウェビング挿通孔60に対応する位置に開口36を有しており、この開口36を画定する周縁を囲うようにして被覆樹脂部材40及び摩擦部材50が設けられている。
【0028】
タングプレート30は、例えば金属板をプレス加工することにより形成される。本実施形態では、タングプレート30は、「T字」の縦方向の両側では平坦部となり、これらの間では傾斜部となるように形成されている。具体的には、把持部34の縦方向の一端側と、把持部34の縦方向の他端側及びこれに連結されるインサート部32とは、互いに平行な平坦部となっている一方、把持部34の縦方向の中間部は、これら平坦部をつなぐように傾斜部となっている。
【0029】
被覆樹脂部材40は、タングプレート30における、インサート部32とは反対側の外面(把持部34の外面)を被覆する。被覆樹脂部材40は、例えば、合成樹脂材料によって、タングプレート30の所定領域の外面を被覆するようにモールド成形される。被覆樹脂部材40の材質は、例えば、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)などを使用することができる。既知の一般的なタングでは、ポリアミド(PA)が使用され、本実施形態の好適な一例においても、被覆樹脂部材40の材質としてポリアミド(PA)が用いられる。ポリアミド(被覆樹脂部材40)の摩擦係数は、一般に0.37である。
【0030】
摩擦部材50は、被覆樹脂部材40よりも摩擦係数が高いものとなっている。詳細には、被覆樹脂部材40及び摩擦部材50はともにウェビング20に接触するところ、ウェビング20との関係において、摩擦部材50は、被覆樹脂部材40よりも摩擦係数(静止摩擦係数及び動摩擦係数のいずれも)が高くなっている。また、摩擦部材50は、被覆樹脂部材40よりも柔らかい特性を有している。このような摩擦部材50の材質は、例えば、ウレタンゴム、シリコーンゴム、天然ゴム、合成ゴム又はエラストマー樹脂であるが、これらに限られない。本実施形態の好適な一例では、摩擦部材50の材質としてウレタンゴムが用いられる。ウレタンゴム(摩擦部材50)の一般的な摩擦係数は0.5~0.8であるが、本実施形態では0.6以上のものが用いられるとよい。
【0031】
他の好適な実施態様では、摩擦部材50の材質としてシリコーンゴムを用いてもよい。シリコーンゴムには摩擦係数が1を超えるものもあり、ウレタンゴムと同様に使用することができる。また、これらに限らず、他の材質(エラストマー樹脂等)であっても、タングの被覆樹脂部材に従来使用されている材質(ポリアミド等)よりも高い摩擦係数を有するものであれば、同様に使用することができる。
【0032】
摩擦部材50は、その一部がウェビング挿通孔60に位置するように、タングプレート30に設けられる。詳細には
図4及び5に示すように、摩擦部材50は、タングプレート30の開口36を画定する周縁のうち、インサート部32とは反対側の縁38に取り付けられ又は固着される。また、摩擦部材50は、タングプレート30の開口36の縁38に沿って取り付けられ又は固着される。そして、摩擦部材50は、縁38に取り付けられ又は固着された部分の少なくとも一部を被覆樹脂部材40により被覆される。
【0033】
摩擦部材50の設け方としては、様々あるが、例えば以下の二つの方法がある。一つ目の方法は、摩擦部材50をあらかじめウレタンピースとして成形しておくものである。この場合、まず、ウレタンピースとしての摩擦部材50をタングプレート30の所定位置(開口36の縁38)に取り付ける。次いで、摩擦部材50の一部(数か所)を被覆するように、被覆樹脂部材40用のポリアミドでモールド成形することで、ウレタンピースとしての摩擦部材50をタングプレート30に固定する。
【0034】
二つ目の方法は、タングプレート30の所定領域(開口36の縁38)を被覆するようにウレタンゴムでモールド成形するというものである。かかるモールド成形により、樹脂モールド部としての摩擦部材50がタングプレート30に固着される。その後は、一つ目の方法と同様に、摩擦部材50の一部(数か所)を被覆するように、被覆樹脂部材40用のポリアミドでモールド成形することで、摩擦部材50をタングプレート30にさらに固定する。
【0035】
摩擦部材50について被覆樹脂部材40との関係で領域分けすると、摩擦部材50は、被覆樹脂部材40に被覆されず外部に露出している露出部分52と、被覆樹脂部材40に被覆された非露出部分54と、で構成されているとみることができる。露出部分52及び非露出部分54は、一方向に交互に並んでいる。ここでは、露出部分52は4つあり、非露出部分54は、例えば、隣り合う露出部分52、52の間の3つと、両端の露出部分52、52の各外側の2つとからなる計5つがある。露出部分52及び非露出部分54は、いずれも略半円形状の縦断面を有している。ただし、ここでは、露出部分52の方が、非露出部分54よりも大きい断面積を有している。また、露出部分52及び非露出部分54は、開口36の縁38を略C字状に囲むように、縁38に取り付けられ又は固着されている。非露出部分54は、被覆樹脂部材40によって略C字状に被覆されている(参照:
図5)。
【0036】
ウェビング挿通孔60は、タング22を貫通した細長の孔であり、略直線状に形成されている。ウェビング挿通孔60は、インサート部32の長手方向(バックル28へのタング22の差込み方向)と直交する方向に延在し、被覆樹脂部材40及び摩擦部材50によって画定されている。ウェビング挿通孔60を画定する縁部のうち、インサート部32と反対側の第1の縁部61には被覆樹脂部材40及び摩擦部材50の両方が存在し、その他の縁部62、63、64には被覆樹脂部材40のみが存在している。したがって、第1の縁部61に、摩擦係数が互いに異なる複数のウェビング接触面71、72が位置付けられている。
【0037】
ウェビング接触面71は、被覆樹脂部材40により形成された第1のウェビング接触面を構成している。ウェビング接触面72は、摩擦部材50により形成された第2のウェビング接触面を構成している。したがって、ウェビング接触面72は、ウェビング接触面71よりも摩擦係数が高くなっている。
【0038】
ウェビング接触面71は、摩擦部材50の非露出部分54を覆う被覆樹脂部材40の面であり、ウェビング挿通孔60の長手方向に複数形成されている。同様に、ウェビング接触面72は、摩擦部材50の露出部分52の面であり、ウェビング挿通孔60の長手方向に複数形成されている。ウェビング接触面71とウェビング接触面72とは、ウェビング挿通孔60の第1の縁部61に沿って交互に設けられている。
【0039】
ウェビング接触面71及びウェビング接触面72は、半円状の円弧面となっており、半円状の円弧の頂部がウェビング挿通孔60の内部に位置している。また、ウェビング接触面71及びウェビング接触面72は、凹凸のない平滑面となっている。
【0040】
ウェビング接触面71とウェビング接触面72とは、第1の縁部61に沿った長さ(ウェビング挿通孔60の長手方向の長さ。すなわち幅。)が異なっている。ここでは、ウェビング接触面72は、ウェビング接触面71よりも幅広に形成されている。
【0041】
また、ウェビング接触面71とウェビング接触面72とは、インサート部32側への突出量(ウェビング挿通孔60の長手方向に直交する方向の長さ)が異なっている。ここでは、ウェビング接触面72は、ウェビング接触面71よりも、インサート部32側へとわずかに長く突出している。したがって、ウェビング接触面71とウェビング接触面72とは、面一ではなく、これらの境界にはわずかな段差が生じている。
【0042】
ここで、ウェビング接触面71及びウェビング接触面72の各幅及び/又は各突出量は、ウェビング20の保持力に影響を与える要素である。例えば、個々のウェビング接触面72の幅や複数のウェビング接触面72の合計幅が大きいほど、ウェビング20との摩擦力が大きくなる。また、個々のウェビング接触面72の突出量が多い場合についても、同様であるが、この場合には、摩擦力の増大のみならず、摩擦力が発生するタイミングも早くなる。ウェビング20の性状や、リトラクタの巻取りばねのバネ力などを考慮して、ウェビング接触面71及びウェビング接触面72の各幅及び/又は各突出量を調整することで、ウェビング20の保持力を調整することができる(フリクションコントロール)。
【0043】
他の実施態様では、フリクションコントロールのために、ウェビング接触面71及びウェビング接触面72の各幅及び各突出量の一方を同じにし、他方を異ならせることかも可能である。また、上記の設定とは異なり、ウェビング接触面71をウェビング接触面72よりも幅広に形成することもできるし、ウェビング接触面71をウェビング接触面72よりもインサート部32側へとわずかに長く突出させることもできる。さらに、ウェビング接触面71及びウェビング接触面72の各個数(いずれも1つ又は複数とすることができる。)や、これらの配置についても、同様に適宜設定することができる。例えば、1つのウェビング接触面72をウェビング挿通孔60の長手方向の中央部に位置させ、2つのウェビング接触面71をウェビング挿通孔60の長手方向の両端部に位置させることも可能である。
【0044】
図6及び7に示すように、ウェビング20がウェビング挿通孔60に挿通された状態では、ウェビング20がウェビング接触面71及びウェビング接触面72に接触する。とりわけ、タング22がバックル28に締結された状態では、ウェビング20は、ウェビング挿通孔60で折り返されるようになるが、このとき、ウェビング20の折り返し部分は、ウェビング接触面71及びウェビング接触面72に接触する。
【0045】
ここで、タング22がバックル28に締結された車両通常状態では、ウェビング20は、ウェビング挿通孔60で折り返され、ショルダーウェビング20aとラップウェビング20bとに分けられる。
【0046】
車両衝突時には、ウェビング20は、リトラクタがロックされてそれ以上繰り出されることが阻止され、ショルダーウェビング20aの張力は一定荷重に制御される。一方、ラップウェビング20bの張力は、乗員の慣性によりショルダーウェビング20aの張力よりも高くなり、ショルダーウェビング20aがラップウェビング20b側に移動しようとする。ウェビング20の折り返し部分は、ショルダーウェビング20a及びラップウェビング20bのそれぞれから受ける張力によって、ウェビング接触面71及びウェビング接触面72に押し付けられ、摩擦力が発生する。とりわけ比較的摩擦係数が高いウェビング接触面72において、大きな摩擦力が発生する。かかる摩擦力によって、ショルダーウェビング20aがラップウェビング20b側に移動しようとするのが制限される。すなわち、ウェビング20の保持力が確保される。
【0047】
なお、車両通常状態においてタング22とバックル28との締結を解除すると、ウェビング20はリトラクタに巻き取られる。この巻取りに伴って、ウェビング20と共にタング22も移動し、原点位置(上部アンカ21の位置)に戻される。
【0048】
以上説明したとおり、本実施形態に係るタング22は、ウェビング挿通孔60における、インサート部32と反対側の第1の縁部61に、摩擦係数が互いに異なる複数のウェビング接触面71、72を有している。
【0049】
かかる態様によれば、ウェビング接触面を例えばウェビング接触面71だけで形成する場合に比べて、ウェビング20とウェビング接触面(71、72)との摩擦抵抗を増大させることができるので、車両衝突時におけるウェビング20の保持力の向上につながる。一方、乗員がウェビング20を装着しようとする際は、タング22を原点位置(上部アンカ21の位置)からバックル28の位置に移動させ、それに伴い、ウェビング20をリトラクタから繰り出すが、このときのタング22のスムーズな移動をウェビング接触面71によって確保することができる。
【0050】
加えて、本実施形態によれば、従来のようなロック部材を設けずに済むため、タング22を軽量化することができる。また、摩擦力を発生させるウェビング20とウェビング接触面71、72との接触が面接触であるため、ウェビング20の損傷を抑制することもできる。とりわけ、ウェビング20の保持力確保のためのウェビング接触面72を形成する部材(摩擦部材50)を柔らかい素材(例えばウレタンゴム)にすることで、ウェビング20のダメージを減らすことができる。
【0051】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0052】
例えば、複数のウェビング接触面は、摩擦係数が互いに異なる2種類(ウェビング接触面71、72)ではなく、摩擦係数が互いに異なる3種類以上で構成されてもよい。また、これに対応して、摩擦係数が互いに異なる2種類の部材(被覆樹脂部材40、摩擦部材50)ではなく、摩擦係数が互いに異なる3種類以上の部材により複数のウェビング接触面を形成してもよい。
【0053】
また、タングプレート30に対する摩擦部材50の取り付け・固着を強化してもよい。これに関して、
図8及び
図9を参照して、二つの例を説明する。
【0054】
図8に示すように、摩擦部材50は、係合部80を有し、タングプレート30は、係合部80に係合される受容部82を有している。受容部82は、タングプレート30の厚み方向にわたって貫通した穴として形成されている。受容部82は、例えば、タングプレート30の把持部34の傾斜部に一つ又は複数形成することができる。
【0055】
係合部80は、タングプレート30を貫通して受容部82に嵌まりこむように受容部82の内面に係合する。例えば、インサート部品(タングプレート30)に対して摩擦部材50をモールド成形する場合、係合部80は、受容部82の内面に固着することで係合される。係合部80は、例えば、摩擦部材50のウェビング接触面72とは反対側において、摩擦部材50に一つ又は複数形成することができる。
【0056】
図9に示すように、摩擦部材50は、係合部90を有し、タングプレート30は、係合部90に係合される受容部92を有している。この場合、受容部92は穴ではなく、係合部90及び受容部92は、部分的に段差・突起が付けられたものからなり、これにより係合部90と受容部92との引っ掛かりを強化している。
【0057】
具体的には、係合部90は、タングプレート30に対して凸となる突出部94と、タングプレート30に対して凹となる窪み部95と、を有している。突出部94及び窪み部95は、摩擦部材50のウェビング接触面72とは反対側において、摩擦部材50に一つ又は複数形成することができる。また、突出部94と窪み部95とは、タングプレート30の厚み方向に沿って並ぶように形成することができる。
【0058】
受容部92は、係合部90と相補的な形状に形成されている。したがって、受容部92は、係合部90の突出部94を受け入れるように係合する凹部96と、係合部90の窪み部95に嵌まるように係合する凸部97と、を有している。凹部96及び凸部97は、例えば、タングプレート30の把持部34の傾斜部に一つ又は複数形成することができる。例えば、インサート部品(タングプレート30)に対して摩擦部材50をモールド成形する場合、係合部90の各部94、95は、受容部92の各部96、97に固着することで係合される。
【0059】
他の実施態様では、係合部90は、突出部94及び窪み部95の一方のみを有し、これに対応して、受容部92は、凹部96及び凸部97の一方のみを有するものであってもよい。
【0060】
図8及び9に示すいずれの例においても、構造上、タングプレート30に対する摩擦部材50の取り付け・固着が強化される。これにより、タングプレート30からの摩擦部材50の剥離をより一層抑制することができる。
【0061】
また、上述したタングは、車両以外の乗り物に用いるシートベルト装置に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…車両シート、2…シートベルト装置、10…シートバック、12…シートトクッション、14…ヘッドレスト、20…ウェビング、20a…ショルダーウェビング、20b…ラップウェビング、21…上部アンカ、22…タング、24…ラップアンカ、28…バックル、30…タングプレート、32…インサート部、33…ラッチ孔、34…把持部、36…開口、38…縁、40…被覆樹脂部材、50…摩擦部材、52…露出部分、54…非露出部分、60…ウェビング挿通孔、61…第1の縁部、62、63、64…他の縁部、71、72…ウェビング接触面、80…係合部、82…受容部、90…係合部、92…受容部、94…突出部、95…窪み部、96…凹部、97…凸部