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特許7285355ウレタンプレポリマー組成物、湿気硬化型接着剤、積層体、及び合成擬革
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】ウレタンプレポリマー組成物、湿気硬化型接着剤、積層体、及び合成擬革
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/72 20060101AFI20230525BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20230525BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20230525BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20230525BHJP
   C09J 175/06 20060101ALI20230525BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20230525BHJP
   D06N 3/14 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
C08G18/72 010
C08G18/10
C08G18/76 014
C08G18/65 011
C09J175/06
B32B27/40
D06N3/14 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022039496
(22)【出願日】2022-03-14
【審査請求日】2022-07-26
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】松岡 陽一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一弥
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-128550(JP,A)
【文献】特開昭59-154634(JP,A)
【文献】特開2014-177574(JP,A)
【文献】特開平08-165372(JP,A)
【文献】特開2017-203137(JP,A)
【文献】特開平03-239476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00- 77/62
C09J 175/00-175/16
D06N 3/00- 3/18
CAPlus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オール(A)とポリイソシアネート(B)の反応物であるウレタンプレポリマー(C)(但し、カルボキシル基又はスルファミン酸(塩)基を有する樹脂を除く)と、
トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(D)と、を含有し、
前記オール(A)が、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位を有するポリエステルポリオール(A-1)を5~90質量%含み、
前記ウレタンプレポリマー(C)100質量部に対する、前記トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(D)の含有量が、0.2~25質量部であり、
前記ウレタンプレポリマー(C)及び前記トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(D)の合計を基準とするイソシアネート基含有率が、1.0~6.0質量%であり、
前記オール(A)が、ポリエステルポリオール(但し、前記ポリエステルポリオール(A-1)を除く)、ポリエーテルポリオール、及びポリカーボネートポリオールからなる群より選択される少なくとも一種のその他のポリオール(A-2)をさらに含むとともに、前記ジオール(A)中の前記ポリエステルポリオール(A-1)と前記その他のポリオール(A-2)の合計が100質量%であり
前記オール(A)中、前記その他のポリオール(A-2)の割合が、10~95質量%であるウレタンプレポリマー組成物。
【請求項2】
前記オール(A)中、前記ポリエステルポリオール(A-1)の割合が、5~70質量%であり、
前記オール(A)中、前記その他のポリオール(A-2)の割合が、30~95質量%である請求項1に記載のウレタンプレポリマー組成物。
【請求項3】
前記オール(A)と前記ポリイソシアネート(B)とのモル比(NCO基/OH基)が、1.3~2.0である請求項1又は2に記載のウレタンプレポリマー組成物。
【請求項4】
前記ウレタンプレポリマー(C)の100℃における溶融粘度が、110dPa・s以下である請求項1~のいずれか一項に記載のウレタンプレポリマー組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のウレタンプレポリマー組成物を含有する湿気硬化型接着剤。
【請求項6】
基材と、
前記基材上に設けられる、請求項に記載の湿気硬化型接着剤の硬化物で形成された硬化物層と、を備える積層体。
【請求項7】
表皮層と、
前記表皮層上に設けられる、請求項に記載の湿気硬化型接着剤の硬化物で形成された硬化物層と、
前記硬化物層上に設けられる基材層と、を備える合成擬革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタンプレポリマー組成物、湿気硬化型接着剤、積層体、及び合成擬革に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタンプレポリマーは、接着剤、塗料、及びシーリング材料等に用いられている。なかでも、湿気硬化型のウレタンプレポリマーは空気中の水分で硬化するため、1液で使用できる利点がある。このようなウレタンプレポリマーは、空気中や塗布される基材中に存在する水(湿気)と反応して架橋構造を形成しうるイソシアネート基(NCO基)等の官能基を分子内に有する化合物である。ウレタンプレポリマーは、未硬化であるとともに、常温で液状又は固体状であり、多種多様なものが用途に応じて開発されている。
【0003】
例えば、ポリエステルポリオールを含むポリオールに由来する構造を有するウレタンプレポリマーと、ポリメリックMDI等の多官能イソシアネートとを含有する湿気硬化型のホットメルト組成物が提案されている(特許文献1)。また、ポリエーテルポリオール等のポリオールに由来する構造を有するウレタンプレポリマーと、HDIトリマー等のポリイソシアネートとを含有する反応性の接着剤が提案されている(特許文献2)。さらに、ウレタンプレポリマーと、ポリメリックMDIとを含有する湿気硬化型の接着剤組成物が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6836713号公報
【文献】特表2003-515636号公報
【文献】特開2005-75877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、人工皮革や合成皮革等の合成擬革を製造する際の接着剤としても、ウレタンプレポリマーが用いられている。合成擬革は、靴、衣料、鞄、家具、及び車両内装材(例えば、インパネ、ドア、コンソール、座席シート)等の多様な製品を製造するための材料として用いられている。合成擬革は、通常、表皮層、接着剤層(硬化物層)、及び基材層がこの順で積層された積層体であり、種々のウレタンプレポリマーによって硬化物層が形成されている。上記の多様な製品に用いられる合成擬革を構成する硬化物層に対しては、良好な柔軟性を有することの他、製造加工時の熱に耐えうる耐熱性を有することが要求される。
【0006】
しかしながら、特許文献1~3等で提案された従来の接着剤等を硬化させて形成される硬化物層は、柔軟性と耐熱性のいずれもがバランスよく優れているとはいえなかった。また、従来の上記接着剤等は保存中に粘度変化しやすく、保存安定性が必ずしも良好であるとはいえないとともに、形成される硬化物層の耐溶剤性についても改良の余地があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、保存安定性に優れているとともに、柔軟性、耐熱性、及び耐溶剤性に優れた硬化物層を形成することが可能なウレタンプレポリマー組成物、並びにこのウレタンプレポリマー組成物を用いた湿気硬化型接着剤を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記のウレタンプレポリマー組成物を用いた積層体及び合成擬革を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示すウレタンプレポリマー組成物が提供される。
[1]ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)の反応物であるウレタンプレポリマー(C)と、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(D)と、を含有し、前記ポリオール(A)が、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位を有するポリエステルポリオール(A-1)を5~90質量%含み、前記ウレタンプレポリマー(C)100質量部に対する、前記トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(D)の含有量が、0.2~25質量部であり、前記ウレタンプレポリマー(C)及び前記トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(D)の合計を基準とするイソシアネート基含有率が、1.0~6.0質量%であるウレタンプレポリマー組成物。
[2]前記ポリオール(A)が、ポリエステルポリオール(但し、前記ポリエステルポリオール(A-1)を除く)、ポリエーテルポリオール、及びポリカーボネートポリオールからなる群より選択される少なくとも一種のその他のポリオール(A-2)をさらに含む前記[1]に記載のウレタンプレポリマー組成物。
[3]前記ポリオール(A)と前記ポリイソシアネート(B)とのモル比(NCO基/OH基)が、1.3~2.0である前記[1]又は[2]に記載のウレタンプレポリマー組成物。
[4]前記ウレタンプレポリマー(C)の100℃における溶融粘度が、110dPa・s以下である前記[1]~[3]のいずれかに記載のウレタンプレポリマー組成物。
【0009】
また、本発明によれば、以下に示す湿気硬化型接着剤、積層体、及び合成擬革が提供される。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載のウレタンプレポリマー組成物を含有する湿気硬化型接着剤。
[6]基材と、前記基材上に設けられる、前記[5]に記載の湿気硬化型接着剤の硬化物で形成された硬化物層と、を備える積層体。
[7]表皮層と、前記表皮層上に設けられる、前記[5]に記載の湿気硬化型接着剤の硬化物で形成された硬化物層と、前記硬化物層上に設けられる基材層と、を備える合成擬革。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保存安定性に優れているとともに、柔軟性、耐熱性、及び耐溶剤性に優れた硬化物層を形成することが可能なウレタンプレポリマー組成物、並びにこのウレタンプレポリマー組成物を用いた湿気硬化型接着剤を提供することができる。また、本発明によれば、上記のウレタンプレポリマー組成物を用いた積層体及び合成擬革を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ウレタンプレポリマー組成物>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のウレタンプレポリマー組成物の一実施形態は、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)の反応物であるウレタンプレポリマー(C)と、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(D)と、を含有するものである。ポリオール(A)は、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位を有するポリエステルポリオール(A-1)を5~90質量%含む。また、ウレタンプレポリマー(C)100質量部に対する、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(D)の含有量は、0.2~25質量部である。そして、ウレタンプレポリマー(C)及びトリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(D)の合計を基準とするイソシアネート基含有率が、1.0~6.0質量%である。以下、本実施形態のウレタンプレポリマー組成物の詳細について説明する。
【0012】
(ウレタンプレポリマー(C))
ウレタンプレポリマー(C)(以下、単に「プレポリマー(C)」とも記す)は、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)の反応物である。プレポリマー(C)を構成する、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とのモル比(NCO基/OH基)は、1.1~2.2であることが好ましく、1.3~2.0であることがさらに好ましく、1.4~1.9であることが特に好ましい。ポリオール(A)の水酸基(OH基)に対する、ポリイソシアネート(B)のイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO基/OH基)を上記の範囲内とすることで、加工性が向上するとともに、より風合いの良好な合成擬革を製造することが可能になる。NCO基/OH基(モル比)が2.2超であると、形成される硬化層の柔軟性が低下しやすくなることがある。
【0013】
プレポリマー(C)の100℃における溶融粘度は、120dPa・s以下であることが好ましく、110dPa・s以下であることがさらに好ましく、105dPa・s以下であることが特に好ましい。プレポリマー(C)の溶融粘度が120dPa・s超であると、粘稠となり、取り扱い性が低下しやすくなるとともに、加工が困難になる場合がある。プレポリマー(C)の溶融粘度は、例えば、ポリオール(A)中のポリエステルポリオール(A-1)の割合によって制御することができる。なお、プレポリマー(C)の100℃における溶融粘度は、コーンプレート粘度計を使用して測定することができる。
【0014】
プレポリマー(C)のイソシアネート基(NCO基)含有率は、硬化後の物性、例えば、合成擬革とした際の柔軟性などの観点から、0.5~8.0質量%であることが好ましく、1.0~6.0質量%であることがさらに好ましく、1.5~4.0質量%であることが特に好ましい。本明細書における「NCO基含有率(質量%)」は、JIS K 1603-1:2007に準拠し、電位差滴定法によって測定される値である。
【0015】
[ポリオール(A)]
ポリオール(A)は、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位を有するポリエステルポリオール(A-1)を含む。芳香族ジカルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸等を挙げることができる。なかでも、溶融粘度や柔軟性などを考慮すると、イソフタル酸が好ましい。
【0016】
ポリエステルポリオール(A-1)は、通常、芳香族ジカルボン酸と、ジオール類との反応物である。ジオール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、n-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、へキシレングリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、及びネオペンチルグリコール等を挙げることができる。
【0017】
ポリオール(A)中、ポリエステルポリオール(A-1)の割合は、5~90質量%、好ましくは10~80質量%、さらに好ましくは20~70質量%、特に好ましくは25~60質量%である。ポリオール(A)中のポリエステルポリオール(A-1)の割合を上記の範囲とすることで、例えばグラビア塗工時などにおいて取り扱い性が良好な適度な溶融粘度のプレポリマー(C)とすることができる。
【0018】
ポリエステルポリオール(A-1)の数平均分子量(Mn)は、4,000以下であることが好ましく、3,000以下であることがさらに好ましく、2,800以下であることが特に好ましい。ポリエステルポリオール(A-1)の数平均分子量(Mn)が4,000超であると粘度が過度に高くなるので、実用性が低下する場合がある。なお、本明細書における「数平均分子量(Mn)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値である。
【0019】
ポリオール(A)は、通常、ポリエステルポリオール(A-1)以外のその他のポリオール(A-2)をさらに含む。その他のポリオール(A-2)は、ポリエステルポリオール(但し、ポリエステルポリオール(A-1)を除く)、ポリエーテルポリオール、及びポリカーボネートポリオールからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0020】
ポリエステルポリオール(A-1)以外のポリエステルポリオールとしては、脂肪族ジカルボン酸と、ジオール類との反応物を用いることができる。脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、及びアゼライン酸等を挙げることができる。ジオール類としては、ポリエステルポリオール(A-1)を構成しうる前述のジオール類と同様のものを挙げることができる。
【0021】
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリテトラメチレングリコール(ブロック又はランダム)、ポリテトラメチレングリコール、及びポリヘキサメチレングリコール等を挙げることができる。なかでも、柔軟性の観点から、ポリテトラメチレングリコールが好ましい。
【0022】
ポリカーボネートポリオールとしては、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリネオペンチルカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンカーボネート)ジオール、及びこれらのランダム/ブロック共重合体等を挙げることができる。
【0023】
ポリオール(A)中、その他のポリオール(A-2)の割合は、10~95質量%であることが好ましく、20~90質量%であることがさらに好ましく、30~80質量%であることが特に好ましく、40~75質量%であることが最も好ましい。
【0024】
その他のポリオール(A-2)の数平均分子量(Mn)は、4,000以下であることが好ましく、3,000以下であることがさらに好ましく、2,800以下であることが特に好ましい。その他のポリオール(A-2)の数平均分子量(Mn)が3,000超であると粘度が過度に高くなるので、実用性が低下する場合がある。
【0025】
[ポリイソシアネート(B)]
ポリイソシアネートとしては、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、及び芳香族ジイソシアネート等の2官能のポリイソシアネートを用いることが好ましい。
ポリイソシアネートの具体例としては、トリレンジイソシアネート、4-メトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-イソプロピル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-クロロ-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-ブトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、2,4-ジイソシアネート-ジフェニルエーテル、メシチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジュリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ベンジジンジイソシアネート、o-ニトロベンジジンジイソシアネート、4,4-ジイソシアネートジベンジル、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート等を挙げることができる。なかでも、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましい。
【0026】
(ウレタンプレポリマー(C)の製造方法)
プレポリマー(C)は、例えば、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)を、ワンショット法又は多段法により、好ましくは20~150℃、さらに好ましくは60~110℃で、生成物が理論NCO基含有率(質量%)となるまで反応させることによって製造することができる。ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)の反応時には、必要に応じて触媒を併用してもよい。触媒としては、ジブチルチンラウレート、ジオクチルチンラウレート、スタナスオクトエート、オクチル酸鉛、テトラn-ブチルチタネート等の金属塩や有機金属誘導体;トリエチルアミン等の有機アミン;ジアザビシクロウンデセン系触媒;等を挙げることができる。
【0027】
ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)は、有機溶媒等の溶媒の非存在下、すなわち、無溶剤で反応させることが好ましい。有機溶媒等の溶媒の非存在下でポリオール(A)とポリイソシアネート(B)を反応させることで、無溶剤ウレタンプレポリマー(C)を得ることができる。
【0028】
(トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(D))
本実施形態のウレタンプレポリマー組成物は、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(D)(以下、単に「TDIアダクト体(D)」とも記す)を含有する。TDIアダクト体(D)を含有させることで、耐熱性が向上した接着剤層(硬化物層)を形成することができる、一液タイプの湿気硬化型接着剤として有用なウレタンプレポリマー組成物とすることができる。さらに、TDIアダクト体(D)を含有させることで、耐熱性だけでなく、柔軟性及び耐溶剤性にも優れた硬化物層を形成しうるウレタンプレポリマー組成物とすることができる。
【0029】
ウレタンプレポリマー組成物中、ウレタンプレポリマー(C)100質量部に対する、TDIアダクト体(D)の含有量は0.2~25質量部、好ましくは0.3~20質量部、さらに好ましくは0.5~18質量部、特に好ましくは1.0~15質量部である。TDIアダクト体(D)の含有量を上記の範囲内とすることで、柔軟性、耐熱性、及び耐溶剤性に優れた硬化物層を形成することが可能なウレタンプレポリマー組成物とすることができる。TDIアダクト体(D)の含有量が、プレポリマー(C)100質量部に対して0.2質量部未満であると、十分な耐熱性、耐溶剤性を示す硬化物層を形成することができない。一方、TDIアダクト体(D)の含有量が、プレポリマー(C)100質量部に対して25質量部超であると、形成される硬化物層の柔軟性が低下するとともに、ウレタンプレポリマー組成物の保存安定性が低下する。
【0030】
プレポリマー(C)及びTDIアダクト体(D)の合計を基準とするイソシアネート基(NCO基)含有率(以下、「TOTAL NCO基含有率」とも記す)は、1.0~6.0質量%、好ましくは1.1~5.0質量%、さらに好ましくは1.2~4.0質量%である。TOTAL NCO基含有率を上記の範囲とすることで、柔軟性、耐熱性、及び耐溶剤性に優れた硬化物層を形成可能な、保存安定性に優れたウレタンプレポリマー組成物とすることができる。TOTAL NCO基含有率が1.0質量%未満であると、形成される硬化物層の耐熱性が低下する。一方、TOTAL NCO基含有率が6.0質量%超であると、形成される硬化物層の柔軟性が不十分になる。
【0031】
<湿気硬化型接着剤>
本発明の湿気硬化型接着剤の一実施形態は、前述のウレタンプレポリマー組成物を含有するものである。本実施形態の湿気硬化型接着剤は、合成擬革の他、各種の積層体を製造するための一液型の接着剤として特に好適である。
【0032】
本実施形態の湿気硬化型接着剤には、必要に応じて、熱可塑性樹脂、粘着付与樹脂、触媒、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、難燃剤、充填剤、及び発泡剤等の各種添加剤を適量配合してもよい。但し、本実施形態の湿気硬化型接着剤は、前述のウレタンプレポリマー組成物のみで実質的に構成されることが好ましい。本実施形態の湿気硬化型接着剤は、合成擬革用の接着剤として好適である。
【0033】
本実施形態の接着剤は、被着体表面に塗布することにより被着体どうしを容易に接着させることができる。上記の合成擬革用の基材層以外の被着体としては、例えば、金属、非金属(ポリカーボネート、ガラス等)の基材を挙げることができる。
【0034】
<積層体>
本発明の積層体の一実施形態は、フィルム状又はシート状等の基材と、この基材上に設けられる、前述の湿気硬化型接着剤の硬化物で形成された硬化物層と、を備えるものである。すなわち、本実施形態の積層体は、前述の湿気硬化型接着剤を塗工等して形成された塗膜を湿気により硬化させて形成された硬化物層(接着剤層)を備える。基材としては、合成擬革用の表皮層や基材層の他にも、光学フィルム、光学板、フレキシブルプリント基板、ガラス基板、及びこれらの基板にITOを蒸着した基板等を挙げることができる。
【0035】
コンマコート、ナイフコート、ロールコート等の公知の方法によって湿気硬化型接着剤を基材上に塗布して、塗膜を形成する。次いで、形成した塗膜を湿気硬化させて硬化物層とすることで、積層体を得ることができる。
【0036】
<合成擬革>
本発明の合成擬革の一実施形態は、表皮層と、表皮層上に設けられる、前述の湿気硬化型接着剤の硬化物で形成された硬化物層と、硬化物層上に設けられる基布等の基材層と、を備えるものである。基材層を構成する基布としては、例えば、綾織り、平織り等からなる織物、当該織物の綿生地を機械的に起毛して得られる起毛布、レーヨン布、ナイロン布、ポリエステル布、ケブラー布、不織布(ポリエステル、ナイロン、各種ラテックス)、各種フィルム、シート等を挙げることができる。また、表皮層としては、溶剤系ポリウレタン、水系ポリウレタン、TPU等の表皮層形成用塗料で形成されたものを挙げることができる。
【0037】
合成擬革は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、コンマコート、ナイフコート、ロールコート、グラビアコート、ダイコート、スプレーコート等の公知の方法によって、表皮層を形成する表皮層形成用の塗料を離型紙上に塗布する。塗布した塗料を適宜乾燥して表皮層を形成した後、コンマコート、ナイフコート、ロールコート等の公知の方法によって、形成した表皮層上に前述の湿気硬化型接着剤を塗布する。塗布した湿気硬化型接着剤と基材層を75~155℃で圧着した後、必要に応じて所定の条件下で熟成等する。次いで、離型紙から剥離することで、目的とする合成擬革を得ることができる。本実施形態の合成擬革は、靴、衣料、鞄、家具、車両内装材(例えば、インパネ、ドア、コンソール、座席シート)等を構成する材料として好適である。
【実施例
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0039】
<プレポリマーの製造>
(製造例1)
撹拌機、温度計、及びガス導入口を装着したガラス製の反応容器に、イソフタル酸系ポリエステルポリオール(Mn:2,000)10部、ポリテトラメチレングリコール2000(PTMG2000)(Mn:2,000、三菱ケミカル社製)90質量部、及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)16.3部を仕込んだ。イソフタル酸系ポリエステルポリオールとしては、イソフタル酸及び1,4-ブタンジオール(1,4-BD)からなるポリエステルポリオールを用いた。また、ポリオール(イソフタル酸系ポリエステルポリオール及びPTMG2000)のOH基に対する、MDIのNCO基のモル比(NCO基/OH基)は1.3とした。加熱減圧して脱水処理した後、窒素ガスを封入した。内温100℃で120分間撹拌して反応させて、プレポリマー(C-1)を得た。得られたプレポリマー(C-1)の100℃における粘度は95dPa・sであり、NCO基含有率は1.08%であった。
【0040】
(製造例2~10)
表1に示す配合としたこと以外は、前述の製造例1と同様にして、プレポリマー(C-2)~(C-10)を得た。得られたプレポリマーの特性を表1に示す。なお、表1中の略号の意味を以下に示す。また、表1中の「ポリカーボネートポリオール」は、1,6-ヘキサンジオールベースのポリカーボネートジオール(商品名「ETERNACOLL UH-200」、宇部興産社製)である。
・1,4-BD:1,4-ブタンジオール
・IPA:イソフタル酸
・PTMG2000:ポリテトラメチレングリコール2000
・AA:アジピン酸
・1,6-HD:1,6-ヘキサンジオール
・TPA:テレフタル酸
【0041】
【0042】
<プレポリマー組成物の製造>
(実施例1)
製造例1で得たプレポリマー(C-1)100部(但し、不揮発分として)に対して、TDIアダクト体(商品名「タケネートD-103H」、三井化学社製、NCO基含有率:13.0%、固形分:75%)0.67部を添加した。プレポリマー(C-1)の不揮発分100部に対する、TDIアダクト体の量(不揮発分)は、0.3部であった。加熱減圧して脱溶剤化しながら撹拌して、プレポリマー組成物を得た。得られたプレポリマー組成物のTOTAL NCO基含有率は、1.13%であった。
【0043】
(実施例2~13、比較例1~10)
表2-1及び2-2に示す配合としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、プレポリマー組成物を得た。得られたプレポリマー組成物のTOTAL NCO基含有率を表2-1及び2-2に示す。なお、表2-1及び2-2中の各成分の詳細を以下に示す。
・ポリメリックMDI:商品名「ルプラネートM20S」、BASF INOACポリウレタン社製
・HDIヌレート体:商品名「デュラネートTPA-100」、旭化成社製
・HDIアダクト体:商品名「デュラネートAE700-100」、旭化成社製
・HDIビュレット体:商品名「デュラネート24A-100」、旭化成社製
【0044】
<合成擬革の製造>
溶液型のウレタン樹脂(商品名「レザミンNE-8875-30M」、大日精化工業社製)を離型紙上に塗工した後、120℃で5分間乾燥して、膜厚40μmの表皮層を形成した。一方、製造した各プレポリマー組成物(湿気硬化型接着剤)を別の離型紙上に塗工した後、25℃、60RH%の条件で48時間熟成して、膜厚100μmの接着層を形成した。離型紙から剥離した接着層を、表皮層と基布(試験用ポリエステルメッシュ素材)で挟み込んだ。シーラーを使用し、表皮層に接した離型紙側に熱源を配置した状態で、170℃、0.15MPaの条件で30秒間ラミネートした。その後、表皮層に接した離型紙を剥離して合成擬革を得た。
【0045】
<評価>
(柔軟性)
ポリウレタン樹脂接着剤(商品名「レザミンUD-8351NT」、大日精化工業社製)100部、及びイソシアネート系架橋剤(商品名「C-50架橋剤」、大日精化工業社製)10部を混合して接着剤を調製した。調製した接着剤を、前述の「合成擬革の製造」で形成した離型紙上の表皮層に塗工して、膜厚100μmの接着剤層を形成した。形成した接着剤層を80℃で2分間予備乾燥した後、ラミネートロール温度40℃の条件で基材(織物)と加圧圧着した。その後、50℃で48時間熟成して、柔軟性評価用の標準合成擬革を得た。
【0046】
製造した合成擬革及び標準合成擬革を手で触った感触を比較し、以下に示す評価基準にしたがって合成擬革の柔軟性を評価した。結果を表2-1及び2-2に示す。なお、「◎」、「○」、及び「△」を合格とした。
◎:標準合成擬革よりも柔らかかった。
○:標準合成擬革と同程度に柔らかかった
△:標準合成擬革よりも少し硬かった。
×:標準合成擬革よりも大幅に硬かった。
【0047】
(耐熱性)
100℃に加温したプレポリマー組成物を離型紙上にコーティングした。25℃、60RH%の条件で48時間以上熟成した後、離型紙から剥離して、膜厚50μm、幅8cm、長さ15cmの半透明のフィルムを得た。得られたフィルムを120℃で400時間保持する耐熱性試験を実施した。引張試験装置(型名「オートグラフ AGS-100A」、島津製作所社製)を使用して、耐熱性試験前後のフィルムの破断強度を25℃、引張速度200mm/minの条件で測定し、以下に示す評価基準にしたがって耐熱性を評価した。結果を表2-1及び2-2に示す。なお、「◎」及び「○」を合格とした。
◎:破断強度の保持率が50%以上であった。
○:破断強度の保持率が25%以上50%未満であった。
×:破断強度の保持率が25%未満であった、又はフィルムが溶解した。
【0048】
(ポットライフ(保存安定性))
製造したプレポリマー組成物を容器に入れ、容器を開放した状態で、100℃で8時間保管した。保管前後のプレポリマー組成物の粘度を測定し、以下に示す評価基準にしたがってポットライフを評価した。結果を表2-1及び2-2に示す。なお、「◎」及び「○」を合格とした。
◎:粘度変化率が150%未満であった。
○:粘度変化率が150%以上250%未満であった。
×:粘度変化率が250%以上であった。
【0049】
(耐溶剤性)
100℃に加温したプレポリマー組成物を離型紙上にコーティングした。25℃、60RH%の条件で48時間以上熟成した後、離型紙から剥離して、膜厚50μm、幅5cm、長さ5cmの半透明のフィルムを得た。得られたフィルムをアセトンに10分間浸漬させた後に取り出した。取り出したフィルムの線膨潤率(={(浸漬後のフィルムの幅)/(浸漬前のフィルムの幅)}×100(%))を算出し、以下に示す評価基準にしたがって耐溶剤性を評価した。結果を表2-1及び2-2に示す。なお、「◎」及び「○」を合格とした。
◎:フィルムの1辺の線膨潤率が120%未満であった。
○:フィルムの1辺の線膨潤率が120%以上150%未満であった。
△:フィルムの1辺の線膨潤率が150%以上であった。
×:フィルムが溶解した。
【0050】
【0051】
【0052】
TDIアダクト体を用いることで、HDI等の脂肪族系のポリイソシアネートを用いた場合に比して、合成擬革用途に必須とされる耐溶剤性などの機械的強度が向上することがわかった。また、TDIアダクト体を用いることで、ポリメリックMDIを用いた場合には得ることができない柔軟性及びポットライフが向上することがわかった。なお、TDIアダクト体を用いた場合であっても、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位を有するポリエステルポリオール(A-1)を特定量含むポリオール(A)を用いなければ、得られる合成擬革の柔軟性が劣ることがわかる(比較例6)。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のウレタンプレポリマー組成物は、合成擬革及び各種積層体を製造するための接着剤として有用である。

【要約】
【課題】保存安定性に優れているとともに、柔軟性、耐熱性、及び耐溶剤性に優れた硬化物層を形成することが可能なウレタンプレポリマー組成物を提供する。
【解決手段】ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)の反応物であるウレタンプレポリマー(C)と、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(D)とを含有し、ポリオール(A)が、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位を有するポリエステルポリオール(A-1)を5~90質量%含み、ウレタンプレポリマー(C)100質量部に対する、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(D)の含有量が、0.2~25質量部であり、ウレタンプレポリマー(C)及びトリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(D)の合計を基準とするイソシアネート基含有率が1.0~6.0質量%のウレタンプレポリマー組成物である。
【選択図】なし