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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】作業機械の診断装置
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/26 20060101AFI20230525BHJP
   G01D 21/00 20060101ALI20230525BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20230525BHJP
【FI】
E02F9/26 A
G01D21/00 Q
G01M99/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022054419
(22)【出願日】2022-03-29
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】松山 拓馬
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-232343(JP,A)
【文献】特開2020-166745(JP,A)
【文献】特開2016-125947(JP,A)
【文献】特開平6-74876(JP,A)
【文献】特開2018-5738(JP,A)
【文献】特開2005-227141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/26
G01D 21/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械の操作手順を表示する表示装置と、前記作業機械の状態量を検出するセンサから前記操作手順にしたがって前記作業機械が操作されている間の状態量を取得し、前記作業機械の前記状態量に基づいて前記作業機械の作動性能を診断するコントローラと、前記コントローラによって診断された診断結果を出力する出力装置と、を備えた作業機械の診断装置において、
前記コントローラは、
前記センサによって検出される複数の状態量に基づいて、前記作業機械の所定の作動性能を示す作動性能値と、前記作動性能値に影響を与える複数の要因パラメータと、を測定し、
前記複数の要因パラメータの測定値と、前記複数の要因パラメータ毎に予め定められた基準値とに基づいて、前記複数の要因パラメータのそれぞれにおける前記作動性能値に与える影響度を演算し、
前記作動性能値及び前記影響度を前記出力装置によって出力させる
ことを特徴とする作業機械の診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械の診断装置において、
前記コントローラは、
前記複数の要因パラメータの中のいずれかが、前記測定値から前記基準値に回復した場合の前記作動性能値の回復量を演算し、
前記回復量を前記出力装置によって出力させる
ことを特徴とする作業機械の診断装置。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機械の診断装置において、
作業者の操作に応じた信号を前記コントローラに入力する入力装置を備え、
前記コントローラは、前記入力装置から入力される信号に基づいて、前記複数の要因パラメータの中から1つ以上の要因パラメータを選択し、
前記選択された前記要因パラメータが、前記測定値から前記基準値に回復した場合の前記作動性能値の回復量を演算し、
前記回復量を前記出力装置によって出力させる
ことを特徴とする作業機械の診断装置。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械の診断装置において、
前記出力装置は、前記表示装置であり、
前記コントローラは、前記作動性能値とともに、前記複数の要因パラメータ毎の前記影響度を前記表示装置の一の画面に表示させる
ことを特徴とする作業機械の診断装置。
【請求項5】
請求項4に記載の作業機械の診断装置において、
前記コントローラは、前記複数の要因パラメータ毎に、前記測定値、前記影響度、及び前記基準値を前記表示装置の一の画面に並べて表示させる
ことを特徴とする作業機械の診断装置。
【請求項6】
請求項1に記載の作業機械の診断装置において、
前記作業機械は、作動油を吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される作動油によって駆動される油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータの操作装置と、中立位置で前記油圧ポンプから吐出される作動油をタンクに導くブリードオフ通路部を有するとともに、前記操作装置の操作量に応じて前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給される作動油の流量を制御する流量制御弁と、を備え、
前記コントローラは、
前記操作手順にしたがって前記作業機械が動かされたときの前記油圧アクチュエータの作動時間を前記作動性能値として計測し、
前記操作手順にしたがって前記作業機械が動かされているときに前記センサによって検出された前記複数の状態量に基づいて、前記油圧ポンプの回転速度、前記油圧ポンプの吐出容量、作動油の漏れ流量、及びブリードオフ流量のそれぞれを前記複数の要因パラメータとして測定する
ことを特徴とする作業機械の診断装置。
【請求項7】
請求項6に記載の作業機械の診断装置において、
前記コントローラは、
前記油圧アクチュエータの作動時間の間に前記油圧アクチュエータに流入した作動油の量をQaとし、前記油圧ポンプの回転速度の測定値をN、前記油圧ポンプの回転速度の基準値をNn、前記油圧ポンプの吐出容量の測定値をq、前記油圧ポンプの吐出容量の基準値をqn、前記作動油の漏れ流量の測定値をQl、前記作動油の漏れ流量の基準値をQln、前記ブリードオフ流量の測定値をQb、前記ブリードオフ流量の基準値をQbnとしたとき、
前記複数の要因パラメータのうち前記油圧ポンプの回転速度のみを前記測定値Nとし、前記油圧ポンプの回転速度以外の前記複数の要因パラメータのそれぞれを前記基準値qn,Qln,Qbnとした場合の前記油圧アクチュエータの作動時間と、前記複数の要因パラメータの全てを前記基準値Nn,qn,Qln,Qbnとした場合の前記油圧アクチュエータの作動時間である基準作動時間との時間差ΔT(N)を以下の式(1)により演算し、
【数1】
前記複数の要因パラメータのうち前記油圧ポンプの吐出容量のみを前記測定値qとし、前記油圧ポンプの吐出容量以外の前記複数の要因パラメータのそれぞれを前記基準値Nn,Qln,Qbnとした場合の前記油圧アクチュエータの作動時間と、前記基準作動時間との時間差ΔT(q)を以下の式(2)により演算し、
【数2】
前記複数の要因パラメータのうち前記作動油の漏れ流量のみを前記測定値Qlとし、前記作動油の漏れ流量以外の前記複数の要因パラメータのそれぞれを前記基準値Nn,qn,Qbnとした場合の前記油圧アクチュエータの作動時間と、前記基準作動時間との時間差ΔT(Ql)を以下の式(3)により演算し、
【数3】
前記複数の要因パラメータのうち前記ブリードオフ流量のみを前記測定値Qbとし、前記ブリードオフ流量以外の前記複数の要因パラメータのそれぞれを前記基準値Nn,qn,Qlnとした場合の前記油圧アクチュエータの作動時間と、前記基準作動時間との時間差ΔT(Qb)を以下の式(4)により演算し、
【数4】
前記時間差ΔT(N),ΔT(q),ΔT(Ql),ΔT(Qb)の総和ΔTsを演算し、
以下の式(5)により、前記油圧アクチュエータの作動時間に影響を与える前記油圧ポンプの回転速度の影響度Z(N)を演算し、
【数5】
以下の式(6)により、前記油圧アクチュエータの作動時間に影響を与える前記油圧ポンプの吐出容量の影響度Z(q)を演算し、
【数6】
以下の式(7)により、前記油圧アクチュエータの作動時間に影響を与える前記作動油の漏れ流量の影響度Z(Ql)を演算し、
【数7】
以下の式(8)により、前記油圧アクチュエータの作動時間に影響を与える前記ブリードオフ流量の影響度Z(Qb)を演算し、
【数8】
前記油圧アクチュエータの作動時間、及び前記影響度Z(N),Z(q),Z(Ql),Z(Qb)を前記出力装置によって出力させる
ことを特徴とする作業機械の診断装置。
【請求項8】
請求項7に記載の作業機械の診断装置において、
作業者の操作に応じた信号を前記コントローラに入力する入力装置を備え、
前記コントローラは、
前記入力装置から入力される信号に基づいて、前記複数の要因パラメータの中から1つ以上の要因パラメータを選択し、
前記選択された要因パラメータが前記測定値から前記基準値に回復した場合の前記作動性能値の回復量ΔTrを以下の式(9)により演算し、演算した前記回復量ΔTrを前記出力装置によって出力させる
ことを特徴とする作業機械の診断装置。
【数9】
ここで、N´は、前記複数の要因パラメータの中から前記油圧ポンプの回転速度が選択された場合には前記基準値Nnであり、前記複数の要因パラメータの中から前記油圧ポンプの回転速度が選択されていない場合には前記測定値Nであり、
q´は、前記複数の要因パラメータの中から前記油圧ポンプの吐出容量が選択された場合には前記基準値qnであり、前記複数の要因パラメータの中から前記油圧ポンプの吐出容量が選択されていない場合には前記測定値qであり、
Ql´は、前記複数の要因パラメータの中から前記作動油の漏れ流量が選択された場合には前記基準値Qlnであり、前記複数の要因パラメータの中から前記作動油の漏れ流量が選択されていない場合には前記測定値Qlであり、
Qb´は、前記複数の要因パラメータの中から前記ブリードオフ流量が選択された場合には前記基準値Qbnであり、前記複数の要因パラメータの中から前記ブリードオフ流量が選択されていない場合には前記測定値Qbである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械の診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の作業機械には、エンジン、油圧機器等の機器が搭載されている。作業機械が長期に亘って稼働されると、これらの機器が経年劣化し、作業機械の作動性能が低下する。土砂の掘削、積込み等の作業を行う作業機械にとって、作動性能の低下は作業効率の低下に直結する問題となる。そのため、定期的に機器のメンテナンス(点検、交換)を行い、作動性能を適正水準に保つことが望まれる。
【0003】
従来、予め定められた測定方法にしたがって測定された油圧ショベルの計測データと、出荷時に測定された出荷時データを表示装置に表示させる建設機械の情報管理装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-232343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
低下した作動性能を回復するためには、性能低下の要因となっている機器を特定し、特定した機器をメンテナンスすることが必要となる。作動性能の低下は必ずしも単一の要因によってもたらされるとは限らない。このため、性能低下の要因の特定に、多くの時間を要していた。
【0006】
特許文献1に記載の技術では、作動性能の低下を確認することはできるが、作動性能の低下の要因の特定まではなされていない。このため、メンテナンス対象機器の特定に手間がかかり、メンテナンス作業の効率が悪いという問題があった。
【0007】
本発明は、メンテナンス対象機器の特定を容易に行うことができ、メンテナンス作業の効率を向上可能な作業機械の診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による作業機械の診断装置は、作業機械の操作手順を表示する表示装置と、前記作業機械の状態量を検出するセンサから前記操作手順にしたがって前記作業機械が操作されている間の状態量を取得し、前記作業機械の前記状態量に基づいて前記作業機械の作動性能を診断するコントローラと、前記コントローラによって診断された診断結果を出力する出力装置と、を備える。前記コントローラは、前記センサによって検出される複数の状態量に基づいて、前記作業機械の所定の作動性能を示す作動性能値と、前記作動性能値に影響を与える複数の要因パラメータと、を測定し、前記複数の要因パラメータの測定値と、前記複数の要因パラメータ毎に予め定められた基準値とに基づいて、前記複数の要因パラメータのそれぞれにおける前記作動性能値に与える影響度を演算し、前記作動性能値及び前記影響度を前記出力装置によって出力させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、メンテナンス対象機器の特定を容易に行うことができ、メンテナンス作業の効率を向上可能な作業機械の診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、作業機械の一例として示す油圧ショベルの側面図である。
図2図2は、作業装置及び上部旋回体の動作を制御する油圧システムを示す図である。
図3図3は、コントロールバルブの構成を示す図である。
図4図4は、第1実施形態に係る診断装置のコントローラの機能ブロック図である。
図5図5は、ブリードオフ流量テーブルを示す図である。
図6A図6Aは、作業者による操作手順と、コントローラによる診断処理の流れの一例を示すフローチャートであり、診断モードの起動操作からブーム角度が測定開始角度に到達したと判定されるまでの流れについて示す。
図6B図6Bは、作業者による操作手順と、コントローラによる診断処理の流れの一例を示すフローチャートであり、測定開始時刻の記録処理から終了操作が行われるまでの流れについて示す。
図7図7は、診断対象選択画面の一例を示す図である。
図8図8は、診断準備画面の一例を示す図である。
図9図9は、操作指示画面の一例を示す図である。
図10図10は、診断結果画面の一例を示す図である。
図11図11は、第2実施形態に係る診断装置のコントローラの機能ブロック図である。
図12図12は、第2実施形態に係る診断装置の表示装置に表示される診断結果画面の一例について示す図である。
図13図13は、第2実施形態に係る診断装置の表示装置に表示される診断結果画面の別の例について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、本発明の実施形態に係る作業機械の診断装置について説明する。
【0012】
<第1実施形態>
図1は、本実施形態に係る作業機械の一例として示す油圧ショベル1の側面図である。図1に示すように、本実施形態に係る作業機械は、バックホウ方式の油圧ショベル1である。油圧ショベル1は、クローラ式の下部走行体2と、旋回装置3を介して下部走行体2上に旋回可能に取り付けられた上部旋回体4と、上部旋回体4の前方に回動可能に取り付けられたフロント作業装置(以下、単に作業装置と記す)9と、を備える。
【0013】
旋回装置3は、油圧動力を回転動力に変換する油圧アクチュエータである旋回モータ3A(図2参照)と、旋回モータ3Aの出力トルクを増幅する旋回減速機3B(図2参照)と、上部旋回体4の重量を支えつつ旋回を滑らかにする旋回ベアリング(図示しない)と、を備える。旋回モータ3Aは、油圧ポンプ22(図2参照)から吐出される作動油によって回転駆動される。
【0014】
上部旋回体4は、支持構造体である旋回フレーム5と、旋回フレーム5の前方に配置され、油圧ショベル1を操作する作業者が搭乗するキャブ6と、旋回フレーム5の後方に配置され、油圧ショベル1の全体重量バランスをとるカウンタウェイト7と、を備える。図示しないが、上部旋回体4には旋回角度を検出するための旋回角度センサ4A(図2参照)が取り付けられている。
【0015】
キャブ6内には、作業者が着座するための運転席(図示しない)が設けられている。キャブ6内における運転席の近傍には、作業装置9、上部旋回体4及び下部走行体2を動作させるために作業者が操作する操作装置61(図2参照)が設けられている。また、キャブ6内には、タッチパネルモニタ62(図2参照)が設けられている。
【0016】
図2に示すように、タッチパネルモニタ62は、液晶ディスプレイ装置などの表示装置62aと、表示装置62aの表示画面上に設けられた静電容量方式タッチセンサなどの入力装置62bと、を備える。表示装置62aは、油圧ショベル1の稼働情報、後述する油圧ショベル1の診断を行う際の油圧ショベル1の操作手順、及び、後述するコントローラ110によって診断された油圧ショベル1の診断結果を表す情報を画像として出力する出力装置である。入力装置62bは、作業者の操作に応じた信号をコントローラ110に入力する。
【0017】
図1に示すように、作業装置9は、基端が旋回フレーム5に回動可能に取り付けられたブーム10と、このブーム10の先端に回動可能に取り付けられたアーム11と、このアーム11の先端に回動可能に取り付けられたバケット12と、を有する。ブーム10には、上部旋回体4に対するブーム10の回動角度を検出するためのブーム角度センサ10A(図2参照)が取り付けられている。アーム11には、ブーム10に対するアーム11の回動角度を検出するためのアーム角度センサ11A(図2参照)が取り付けられている。バケット12には、アーム11に対するバケット12の回動角度を検出するためのバケット角度センサ12A(図2参照)が取り付けられている。
【0018】
作業装置9は、旋回フレーム5とブーム10を接続するブームシリンダ13と、ブーム10とアーム11を接続するアームシリンダ14と、アーム11とバケット12を接続するバケットシリンダ15を含んでいる。ブームシリンダ13、アームシリンダ14及びバケットシリンダ15は、油圧ポンプ22(図2参照)から吐出される作動油によって伸縮駆動される油圧アクチュエータである。ブームシリンダ13は、伸縮することによって駆動対象部材であるブーム10を回動させる。同様に、アームシリンダ14とバケットシリンダ15はそれぞれ伸縮によって駆動対象部材であるアーム11とバケット12を回動させる。以下では、ブームシリンダ13、アームシリンダ14、及びバケットシリンダ15を特に区別する必要が無い場合は、これらを油圧シリンダと総称する。
【0019】
図2は、作業装置9及び上部旋回体4の動作を制御する油圧システム1Sを示す図である。図2を参照して、油圧ショベル1に搭載される油圧システム1Sの主要な構成要素について説明する。図2に示すように、油圧システム1Sは、原動機であるエンジン21と、エンジン21によって駆動され作動油を吐出する油圧ポンプ22と、作動油が貯留されるタンク23と、油圧ポンプ22から油圧シリンダ13,14,15及び旋回モータ3Aに供給される作動油の流れを制御するコントロールバルブ24と、コントロールバルブ24の動作を制御する比例制御弁26と、比例制御弁26を制御するコントローラ110と、を備える。
【0020】
エンジン21は、例えば複数の気筒から構成されるディーゼルエンジンであり、油圧ポンプ22を回転駆動する。エンジン21には、エンジン21の回転速度を検出し、検出結果を表す信号をコントローラ110に出力するエンジン速度センサ21Aが設けられている。キャブ6内には、作業者によって操作されるエンジンコントロールダイヤル63が設けられている。エンジンコントロールダイヤル63は、コントローラ110に接続されている。コントローラ110は、エンジンコントロールダイヤル63の操作量に基づき、エンジン21の目標回転速度を設定する。コントローラ110は、実際のエンジン回転速度が設定した目標回転速度に近づくように、エンジン21の燃料噴射装置を制御する。
【0021】
油圧ポンプ22は、エンジン21によって回転駆動されることにより、タンク23から作動油を吸入し、吸入した作動油を油圧管路に吐出する。油圧ポンプ22は、例えば斜板式の可変容量型油圧ポンプである。すなわち、油圧ポンプ22は、斜板を有する容量可変部を備えている。容量可変部は、レギュレータ22Aによって駆動される。レギュレータ22Aは、コントローラ110と電気的に接続されており、コントローラ110から出力される指令信号にしたがって容量可変部を駆動する。容量可変部が駆動され、斜板の傾きが変更されることで、油圧ポンプ22の1回転当たりの吐出容量(押しのけ容積)が変化する。
【0022】
油圧ポンプ22の吐出口には、油圧ポンプ22の吐出圧力を検出し、検出結果を表す信号をコントローラ110に出力する圧力センサ22Bが設けられている。タンク23には、作動油の温度を検出し、検出結果を表す信号をコントローラ110に出力する作動油温度センサ23Aが設けられている。容量可変部には、油圧ポンプ22の斜板の傾転角度を検出し、検出結果を表す信号をコントローラ110に出力する傾転角度センサ22Cが設けられている。
【0023】
コントロールバルブ24は、油圧ポンプ22と油圧アクチュエータ3A,13,14,15との間に設けられている。図3を参照して、コントロールバルブ24の構成について説明する。図3は、コントロールバルブ24の構成を示す図である。図3に示すように、コントロールバルブ24の内部には、油圧ポンプ22から油圧アクチュエータ3A,13,14,15に供給される作動油の流量及び方向を制御するための流量制御弁24Aが設けられている。
【0024】
なお、図3には、油圧アクチュエータの一例として、ブームシリンダ13に供給される作動油の流れを制御する流量制御弁24Aのみ示すが、実際には、コントロールバルブ24には、アームシリンダ14、バケットシリンダ15、旋回モータ3Aに供給される作動油の流れを制御する複数の流量制御弁24Aが設けられている。
【0025】
流量制御弁24Aのスプール両端には、パイロット受圧部24PA,24PBが設けられる。パイロット受圧部24PA,24PBのそれぞれにタンク圧が作用している状態では、流量制御弁24Aは中立位置に位置する。パイロット受圧部24PA,24PBには、比例制御弁26(図2参照)により生成された操作圧力が導かれる。流量制御弁24Aのスプールの移動量は操作圧力によって制御され、流量制御弁24Aのスプールの移動によって油圧アクチュエータ(図3ではブームシリンダ13)への作動油の供給流量と方向が制御される。
【0026】
流量制御弁24Aは、油圧ポンプ22とタンク23とを接続するセンタバイパスライン17に設けられる。流量制御弁24Aは、中立位置で油圧ポンプ22から吐出される作動油をタンク23に導くブリードオフ通路部24Bと、油圧ポンプ22から供給される作動油をブームシリンダ13に導くメータイン通路部と、ブームシリンダ13から供給される作動油(戻り油)をタンク23に導くメータアウト通路部と、を有する。
【0027】
流量制御弁24Aは、中立位置からの変位量(スプールストローク)に応じて、ブームシリンダ13に供給される作動油の流量を制御する。流量制御弁24Aの中立位置からの変位量が大きくなるほど、ブームシリンダ13の速度は大きくなる。中立位置からの変位量は、後述する操作装置61の操作量の増加に応じて大きくなる。つまり、流量制御弁24Aは、操作装置61の操作量に応じて、ブームシリンダ13への作動油の供給流量を制御する。また、流量制御弁24Aが中立位置から一方に移動すると、ブームシリンダ13が伸長し、流量制御弁24Aが中立位置から他方に移動すると、ブームシリンダ13が収縮する。つまり、流量制御弁24Aは、ブームシリンダ13の駆動方向及び速度を制御する。
【0028】
図2に示す操作装置61は、各油圧アクチュエータ13~15,3Aを操作するための操作レバーと、各操作レバーの操作量を検出する操作量センサと、を有する。なお、説明の簡略化のため、図2では、ブームシリンダ13を駆動するための構成を代表して説明する。操作装置61は、ブーム10(ブームシリンダ13、流量制御弁24A)を操作する操作部材である操作レバー61aと、操作レバー61aの操作量を検出し、検出結果を表す信号をコントローラ110に出力する操作量センサ61bと、を有する。なお、図示しないが、操作装置61は、アーム11を操作するためのアーム操作レバー、バケット12を操作するためのバケット操作レバー、及び、上部旋回体4を操作するための旋回操作レバーを有する。
【0029】
コントローラ110は、操作量センサ61bによって検出される操作レバー61aの操作方向及び操作量に応じた指令信号を比例制御弁26に出力する。比例制御弁26は、コントローラ110から指令信号が入力されると、パイロット油圧源(例えば、パイロットポンプ)28に接続されるパイロットライン27の圧力(一次圧)を減圧し、操作レバー61aの操作量に応じた操作圧力(二次圧力)を生成する。なお、パイロットライン27の圧力は、パイロットリリーフバルブ29によって規定される。比例制御弁26は、生成した操作圧力を操作レバー61aの操作方向に対応した流量制御弁24Aのパイロット受圧部に出力する。操作レバー61aは、例えば、運転席の右側に設けられ、前後方向に操作される。操作レバー61aが後方に操作されると、ブーム10が上げ方向に動作する。操作レバー61aが前方に操作されると、ブーム10が下げ方向に動作する。
【0030】
比例制御弁26は、コントローラ110から出力される指令信号に比例した操作圧力を、コントロールバルブ24の流量制御弁24Aに供給し、流量制御弁24Aの移動量を制御する。比例制御弁26は、コントロールバルブ24のスプールのパイロット受圧部毎に設けられる。例えば、比例制御弁26には、ブームシリンダ13のパイロット受圧部24PAに操作圧力を出力するブーム上げ用の比例制御弁26と、ブームシリンダ13のパイロット受圧部24PBに操作圧力を出力するブーム下げ用の比例制御弁26がある。
【0031】
図3に示すように、ブーム上げ用の比例制御弁26から出力された操作圧力が、パイロット油路を介して流量制御弁24Aのパイロット受圧部24PAに導かれると、流量制御弁24Aのスプールが図示上方向に駆動する。これにより、油圧ポンプ22から吐出された作動油が流量制御弁24Aのメータイン通路部を通じてブームシリンダ13のボトム側油室に供給されると共に、ロッド側油室の作動油が流量制御弁24Aのメータアウト通路部を通じてタンク23に排出される。その結果、ブームシリンダ13が伸長し、ブーム10が上げ方向に動作する。
【0032】
ブーム下げ用の比例制御弁26から出力された操作圧力が、パイロット油路を介して流量制御弁24Aのパイロット受圧部24PBに導かれると、流量制御弁24Aのスプールが図示下方向に駆動する。これにより、油圧ポンプ22から吐出された作動油が流量制御弁24Aのメータイン通路部を通じてブームシリンダ13のロッド側油室に供給されると共に、ボトム側油室の作動油が流量制御弁24Aのメータアウト通路部を通じてタンク23に排出される。その結果、ブームシリンダ13が収縮し、ブーム10が下げ方向に動作する。
【0033】
図2に示すように、比例制御弁26とコントロールバルブ24とを接続するパイロット油路には、比例制御弁26で生成された操作圧力を検出し、検出結果をコントローラ110に出力する圧力センサ26Aが設けられている。
【0034】
コントロールバルブ24とタンク23とを接続する戻り油路には、コントロールバルブ24からタンク23に流れる作動油の圧力を検出し、検出結果を表す信号をコントローラ110に出力する圧力センサ25が設けられている。
【0035】
コントローラ110は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等の処理装置111、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ等の不揮発性メモリ112、所謂RAM(Random Access Memory)と呼ばれる揮発性メモリ113、入出力インタフェース、及び、その他の周辺回路を備えたコンピュータで構成される。これらのハードウェアは、協働してソフトウェアを動作させ、複数の機能を実現する。なお、コントローラ110は、1つのコンピュータで構成してもよいし、複数のコンピュータで構成してもよい。
【0036】
不揮発性メモリ112には、各種演算が実行可能なプログラムが格納されている。すなわち、不揮発性メモリ112は、本実施形態の機能を実現するプログラムを読み取り可能な記憶媒体である。処理装置111は、不揮発性メモリ112に記憶されたプログラムを揮発性メモリ113に展開して演算実行する装置であって、プログラムにしたがって入出力インタフェース、不揮発性メモリ112及び揮発性メモリ113から取り入れたデータに対して所定の演算処理を行う。
【0037】
コントローラ110は、角度センサ4A,10A,11A,12A、エンジン速度センサ21A、圧力センサ22B,25,26A、傾転角度センサ22C、作動油温度センサ23A、操作装置61の操作量センサ61b、タッチパネルモニタ62、エンジンコントロールダイヤル63、及び比例制御弁26のそれぞれに接続される。
【0038】
入出力インタフェースの入力部は、センサ(4A,10A,11A,12A,21A,22B,25,26A,22C,23A,61b)等から入力された信号を処理装置111で演算可能なデータに変換する。また、入出力インタフェースの出力部は、処理装置111での演算結果に応じた出力用の信号を生成し、その信号を各種装置(比例制御弁26、レギュレータ22A、表示装置62a)等に出力する。
【0039】
コントローラ110は、油圧ポンプ22及び比例制御弁26を制御することにより、油圧システム1Sを制御する。また、コントローラ110は、センサ(4A,10A,11A,12A,21A,22B,22C,23A,25,26A)によって検出される油圧ショベル1の複数の状態量(旋回角度、ブーム角度、アーム角度、バケット角度、エンジン21の回転速度、油圧ポンプ22の吐出圧力、油圧ポンプ22の斜板の傾転角度、作動油の温度、コントロールバルブ24からタンク23に流れる作動油の圧力、比例制御弁26で生成された操作圧力)に基づいて、油圧ショベル1の作動性能を診断する。
【0040】
圧力センサ22Bにより検出される油圧ポンプ22の吐出圧力は、センタバイパスライン17における流量制御弁24Aのブリードオフ通路部24Bの上流側の圧力に相当する。また、圧力センサ25により検出されるコントロールバルブ24からタンク23に排出される作動油の圧力は、センタバイパスライン17における流量制御弁24Aのブリードオフ通路部24Bの下流側の圧力に相当する。
【0041】
コントローラ110は、圧力センサ22Bにより検出される圧力P1と、圧力センサ25により検出される圧力P2とに基づいて、コントロールバルブ24の流量制御弁24Aのブリードオフ通路部24Bの前後差圧(圧力損失)ΔPbを演算する(ΔPb=P1-P2)。
【0042】
コントローラ110は、操作装置61の操作量センサ61bにより検出された操作レバー61aの操作量等に基づいて油圧ポンプ22の吐出容量(容積)を制御する。油圧ポンプ22から吐出された作動油が油圧アクチュエータ3A,13,14,15に供給されることにより、油圧アクチュエータ3A,13,14,15が動作し、駆動対象部材が動作する。
【0043】
油圧アクチュエータ3A,13,14,15の作動性能を表す物理量の一つである作動速度は、油圧ポンプ22から吐出される作動油の流量(以下、油圧ポンプ22の吐出流量とも記す)、作動油の漏れ流量、及びブリードオフ流量で決まる。なお、油圧ポンプ22の吐出流量は、油圧ポンプ22の回転速度と油圧ポンプ22の吐出容量で決まる。油圧ポンプ22の回転速度及び吐出容量の少なくとも一方が低下すると、油圧ポンプ22の吐出流量も低下する。
【0044】
作動油の漏れは、油圧ポンプ22から油圧アクチュエータ3A,13,14,15に作動油を供給する際、油圧ポンプ22、コントロールバルブ24、油圧アクチュエータ3A,13,14,15等の各油圧機器及び油圧機器を接続する油路等において生じる流量損失である。
【0045】
ブリードオフ流量は、油圧ポンプ22から吐出され、コントロールバルブ24のブリードオフ通路部24B及びセンタバイパスライン17を通ってタンク23に還流する作動油の流量である。例えば、比例制御弁26の経年劣化が進むと、コントローラ110の指令信号に応じた目標操作圧力に対して比例制御弁26により生成される操作圧力が低下する。実際の操作圧力が目標操作圧力に対して低下すると、操作レバー61aを操作したときの流量制御弁24Aの移動量が低下する。その結果、ブリードオフ流量が増大し、油圧アクチュエータ3A,13,14,15への作動油の供給流量が低下する。
【0046】
以上のように、油圧ショベル1の作動性能を表す物理量である作動性能値(例えば、油圧アクチュエータの作動速度)は、複数の要因パラメータ(例えば、油圧ポンプ22の回転速度、油圧ポンプ22の吐出容量、作動油の漏れ流量、ブリードオフ流量)によって決定づけられる。なお、ブームシリンダ13の作動速度は、ブームシリンダ13を所定の長さだけ変化させるのに要する作動時間によって評価することができる。つまり、ブームシリンダ13の作動時間は、油圧ショベル1の作動性能値の一つといえる。
【0047】
ここで、複数の要因パラメータのうち、油圧ショベル1の作動性能を表す物理量の低下に寄与する度合いの高い要因パラメータ、すなわち作動性能値に与える影響度の大きい要因パラメータが分かれば、作業者は、メンテナンスを行うべき機器を容易に特定することができる。
【0048】
そこで、本実施形態に係るコントローラ110は、油圧ショベル1の操作手順にしたがって油圧ショベル1が動かされているときに、油圧ショベル1に設けられて油圧ショベル1の種々の状態量を検出するセンサ(4A,10A,11A,12A,21A,22B,22C,23A,25,26A)によって検出されたセンサ値(検出値)を取得し、取得したセンサ値(検出された状態量)に基づいて、作動性能値に影響を与える複数の要因パラメータを測定する。さらに、コントローラ110は、複数の要因パラメータの測定値と、複数の要因パラメータ毎に予め定められた基準値とに基づいて、複数の要因パラメータ毎に、作動性能値に与える影響度を演算し、作動性能値及び影響度をタッチパネルモニタ62によって出力させる。
【0049】
以下、油圧ショベル1の診断処理を実行する診断装置100のコントローラ110の機能の詳細について説明する。診断装置100は、油圧ショベル1の診断を行う際の油圧ショベル1の操作手順を表示する表示装置62aと、診断を進めるために作業者により操作される入力装置62bと、複数のセンサ(4A,10A,11A,12A,21A,22B,22C,23A,25,26A)によって検出されたセンサ値に基づいて、作動性能値を測定し、測定した作動性能値を含む診断結果を出力装置としての表示装置62aによって出力させるコントローラ110と、を備える。
【0050】
図4は、診断装置100のコントローラ110の機能ブロック図である。コントローラ110は、不揮発性メモリ112に記憶されているプログラムを実行することにより、診断条件判定部101、測定部102、影響度演算部103、及び表示制御部104として機能する。
【0051】
表示制御部104は、表示装置62aを制御して、表示装置62aの表示画面に油圧ショベル1の操作手順を表示させる。これにより、作業者は、表示装置62aを確認しながら、油圧ショベル1の診断を進めることができる。
【0052】
診断条件判定部101は、診断開始条件が成立しているか否かを判定する。診断開始条件は、以下のとおりである。
診断開始条件:作業装置9が診断開始姿勢であり、かつ、作動油温度が目標範囲内であり、かつ、エンジンコントロールダイヤル63の操作量が目標範囲内であること。
【0053】
なお、診断条件判定部101は、ブーム角度センサ10Aにより検出されたブーム角度αが、予め定めたブーム目標範囲内にあり、アーム角度センサ11Aにより検出されたアーム角度βが予め定めたアーム目標範囲内にあり、バケット角度センサ12Aにより検出されたバケット角度γが予め定めたバケット目標範囲内にある場合に、作業装置9が診断開始姿勢であると判定する。
【0054】
診断条件判定部101は、ブーム角度α、アーム角度β、バケット角度γ、作動油温度、エンジンコントロールダイヤル63の操作量のうち、少なくとも一つが、目標範囲内にない場合には、診断開始条件は成立していないと判定する。
【0055】
測定部102は、診断開始条件が成立している場合において、作業者による診断開始操作が行われると、所定の測定範囲内において、複数の要因パラメータを測定する。
【0056】
測定部102は、操作レバー61aがフルストロークで操作され、ブームシリンダ13が単独で作動したときに、ブームシリンダ13が所定の長さuだけ変化するのに要した時間(以下、ブームシリンダ13の作動時間とも記す)Tを、油圧ショベル1の作動性能値の一つとして測定する。作動時間Tは、コントローラ110の内部時計(タイマ機能)により測定される。
【0057】
なお、測定部102は、ブームシリンダ13の作動時間と同様に、アームシリンダ14及びバケットシリンダ15の作動時間を作動性能値として測定する。また、測定部102は、操作装置61の旋回操作レバーがフルストロークで操作され、旋回モータ3Aが単独で作動したときに、旋回モータ3Aが所定の回転角度(回転数)だけ回転するのに要した時間(以下、旋回モータ3Aの作動時間とも記す)Tを、油圧ショベル1の作動性能値の一つとして測定する。
【0058】
以上のとおり、油圧アクチュエータの作動時間は、予め定められた所定の変位(ストローク長、あるいは回転角度)になるまでに要する時間である。このため、油圧アクチュエータの作動時間は、作動速度を表すパラメータともいえる。また、測定部102は、作動時間に代えて、所定の変位と、作動時間とに基づいて、油圧アクチュエータの作動速度を作動性能値として演算してもよい。
【0059】
測定部102は、ブーム角度αが測定開始角度α1から測定終了角度α2まで変化するまでの時間を、ブームシリンダ13の作動時間Tとして測定する。測定開始角度α1から測定終了角度α2までブーム10が回動すると、ブームシリンダ13の長さが所定の長さuだけ変化する。測定開始角度α1から測定終了角度α2までの測定範囲は、ブーム10の可動範囲内において予め設定される。測定開始角度α1及び測定終了角度α2は、予め定められ、不揮発性メモリ112に記憶されている。
【0060】
ブームシリンダ13の作動時間Tに影響を与える複数の要因パラメータの算出方法、及び、複数の要因がブームシリンダ13の作動時間Tに与える影響度の算出方法について説明する。
【0061】
ブームシリンダ13の作動時間T(作動速度)に影響を与える複数の要因パラメータには、油圧ポンプ22の回転速度、油圧ポンプ22の吐出容量、作動油の漏れ流量、及びブリードオフ流量がある。ブームシリンダ13の作動時間Tは、以下の式(1)で表される。
【0062】
【数1】
【0063】
式(1)において、Qaは、ブームシリンダ13の長さがuだけ変化する間に変化するブームシリンダ13の容積、すなわちブームシリンダ13の容積変化量である。つまり、Qaは、ブームシリンダ13の作動時間Tの間(測定開始時刻から測定終了時刻までの間)にブームシリンダ13に流入した作動油の量(体積)に相当する。ブームシリンダ13に流入する作動油の量(以下、作動油流入量とも記す)Qaは、ブームシリンダ13の断面積Aと、ブームシリンダ13のストローク変位uとを乗算することにより求められる(Qa=A・u)。なお、ブームシリンダ13が油圧ショベル1に2本設けられている場合には、Aは2本分のブームシリンダ13の断面積となる。
【0064】
Nは、ブームシリンダ13の長さがuだけ変化する間の油圧ポンプ22の回転速度の平均値であり、qは、ブームシリンダ13の長さがuだけ変化する間の油圧ポンプ22の吐出容量(ポンプ容積)の平均値である。Qlは、ブームシリンダ13の長さがuだけ変化する間の作動油の漏れ流量の平均値であり、Qbは、ブームシリンダ13の長さがuだけ変化する間のブリードオフ流量の平均値である。
【0065】
式(1)からも分かるように、ブームシリンダ13の作動時間Tの増加(作動速度の低下)は、油圧ポンプ22の回転速度の低下、油圧ポンプ22の吐出容量の低下、作動油の漏れ流量の増加、及びブリードオフ流量の増加によって生じる。
【0066】
コントローラ110の不揮発性メモリ112には、油圧ポンプ22の回転速度の基準値Nn、油圧ポンプ22の吐出容量の基準値qn、作動油の漏れ流量の基準値Qln、及びブリードオフ流量の基準値Qbnが記憶されている。これらの基準値(初期値)Nn,qn,Qln,Qbnは、出荷時に測定された値、もしくはブームシリンダ13の作動に関わる各機器の設計仕様に基づいて決められた値である。なお、本実施形態において、操作レバー61aがフルストローク操作されたときのブリードオフ流量の基準値Qbnは0(ゼロ)である。
【0067】
測定部102は、複数の要因パラメータの全てを基準値Nn,qn,Qln,Qbnとした場合のブームシリンダ13の作動時間である基準作動時間T0を演算する。基準作動時間T0は、式(1)のN,q,Ql,Qbを基準値Nn,qn,Qln,Qbnに置き換えることにより求められる。
【0068】
影響度演算部103は、複数の要因パラメータのうち油圧ポンプ22の回転速度のみをセンサ値(エンジン速度センサ21Aの検出結果)に基づいて測定された測定値Nとし、油圧ポンプ22の回転速度以外の複数の要因パラメータのそれぞれを基準値qn,Qln,Qbnとした場合のブームシリンダ13の作動時間Tnsを演算する。作動時間Tnsは、式(1)の測定値q,Ql,Qbを基準値qn,Qln,Qbnに置き換えることにより求められる。
【0069】
影響度演算部103は、作動時間Tnsから基準作動時間T0を減算することにより、作動時間Tnsと基準作動時間T0との時間差ΔT(N)を演算する。すなわち、影響度演算部103は、以下の式(2)により時間差ΔT(N)を演算する。
【0070】
【数2】
【0071】
影響度演算部103により演算された時間差ΔT(N)は、複数の要因パラメータのうち、油圧ポンプ22の回転速度のみが基準値(初期値)Nnから測定値Nに低下した場合の作動時間の増加量(作動性能値の低下量)に相当する。
【0072】
なお、測定部102は、エンジン速度センサ21Aにより検出されたエンジン21の回転速度に基づいて、油圧ポンプ22の回転速度Nを演算する。エンジン21と油圧ポンプ22が直結されている場合、油圧ポンプ22の回転速度Nは、エンジン21の回転速度と等しい。エンジン21と油圧ポンプ22がトランスミッション(図示しない)を介して連結されている場合、油圧ポンプ22の回転速度Nは、エンジン21の回転速度にトランスミッションの減速比を乗算したものと等しい。
【0073】
影響度演算部103は、複数の要因パラメータのうち油圧ポンプ22の吐出容量のみをセンサ値(傾転角度センサ22Cの検出結果)に基づいて測定された測定値qとし、油圧ポンプ22の吐出容量以外の複数の要因パラメータのそれぞれを基準値Nn,Qln,Qbnとした場合のブームシリンダ13の作動時間Tqsを演算する。作動時間Tqsは、式(1)の測定値N,Ql,Qbを基準値Nn,Qln,Qbnに置き換えることにより求められる。
【0074】
影響度演算部103は、作動時間Tqsから基準作動時間T0を減算することにより、作動時間Tqsと基準作動時間T0との時間差ΔT(q)を演算する。すなわち、影響度演算部103は、以下の式(3)により時間差ΔT(q)を演算する。
【0075】
【数3】
【0076】
影響度演算部103により演算された時間差ΔT(q)は、複数の要因パラメータのうち、油圧ポンプ22の吐出容量のみが基準値(初期値)qnから測定値qに低下した場合の作動時間の増加量(作動性能値の低下量)に相当する。
【0077】
なお、影響度演算部103は、傾転角度センサ22Cにより検出された傾転角度と、斜板式のピストンポンプである油圧ポンプ22の仕様(ピストン本数、ピストン径、シリンダピッチ円径等)とに基づいて、油圧ポンプ22の一回転当たりの吐出容量qを演算する。
【0078】
影響度演算部103は、複数の要因パラメータのうち作動油の漏れ流量のみをセンサ値(エンジン速度センサ21A、傾転角度センサ22C、ブーム角度センサ10Aの検出結果)に基づいて測定された測定値Qlとし、作動油の漏れ流量以外の複数の要因パラメータのそれぞれを基準値Nn,qn,Qbnとした場合のブームシリンダ13の作動時間Tlsを演算する。作動時間Tlsは、式(1)の測定値N,q,Qbを基準値Nn,qn,Qbnに置き換えることにより求められる。
【0079】
影響度演算部103は、作動時間Tlsから基準作動時間T0を減算することにより、作動時間Tlsと基準作動時間T0との時間差ΔT(Ql)を演算する。すなわち、影響度演算部103は、以下の式(4)により時間差ΔT(Ql)を演算する。
【0080】
【数4】
【0081】
影響度演算部103により演算された時間差ΔT(Ql)は、複数の要因パラメータのうち、作動油の漏れ流量のみが基準値(初期値)Qlnから測定値Qlに増大した場合の作動時間の増加量(作動性能値の低下量)に相当する。
【0082】
なお、測定部102は、油圧ポンプ22の吐出流量からブームシリンダ13に供給される作動油の流量(以下、ブームシリンダ13への供給流量とも記す)と後述のブリードオフ流量Qbを減算することにより、作動油の漏れ流量Qlを演算する。測定部102は、油圧ポンプ22の吐出容量qに油圧ポンプ22の回転速度Nを乗算することにより、油圧ポンプ22の吐出流量を演算する。測定部102は、ブームシリンダ13の断面積Aにブームシリンダ13のシリンダ速度を乗算することにより、ブームシリンダ13への供給流量を演算する。測定部102は、ブーム角度センサ10Aにより検出されたブーム角度に基づいて、ブームシリンダ13のストローク変位を演算する。測定部102は、ブームシリンダ13のストローク変位を時間微分することにより、ブームシリンダ13のシリンダ速度を演算する。
【0083】
影響度演算部103は、複数の要因パラメータのうちブリードオフ流量のみをセンサ値(圧力センサ22B,25,26Aの検出結果)に基づいて測定された測定値Qbとし、ブリードオフ流量以外の複数の要因パラメータのそれぞれを基準値Nn,qn,Qlnとした場合のブームシリンダ13の作動時間Tbsを演算する。作動時間Tbsは、式(1)の測定値N,q,Qlを基準値Nn,qn,Qlnに置き換えることにより求められる。
【0084】
影響度演算部103は、作動時間Tbsから基準作動時間T0を減算することにより、作動時間Tbsと基準作動時間T0との時間差ΔT(Qb)を演算する。すなわち、影響度演算部103は、以下の式(5)により時間差ΔT(Qb)を演算する。
【0085】
【数5】
【0086】
影響度演算部103により演算された時間差ΔT(Qb)は、複数の要因パラメータのうち、ブリードオフ流量のみが基準値(初期値)Qbnから測定値Qbに増大した場合の作動時間の増加量(作動性能値の低下量)に相当する。
【0087】
測定部102は、圧力センサ26Aにより検出された操作圧力と、コントロールバルブ24のブーム用の流量制御弁24Aの前後の圧力損失ΔPbに基づいて、ブリードオフ流量Qbを演算する。不揮発性メモリ112には、ブリードオフ流量の演算に用いられるブリードオフ流量テーブルが記憶されている。図5は、ブリードオフ流量テーブルを示す図である。図5に示すように、ブリードオフ流量テーブルは、操作圧力の増減に応じてブリードオフ流量が増減するように、操作圧力に応じたブリードオフ流量カーブ(流量特性)が複数記憶されている。ブリードオフ流量テーブルは、操作圧力が大きくなるほどブリードオフ流量Qbが小さくなり、流量制御弁24Aの圧力損失ΔPbが大きくなるほどブリードオフ流量Qbが大きくなるように設定されている。
【0088】
測定部102は、操作圧力の大きさに対応するブリードオフ流量カーブを選択し、選択したブリードオフ流量カーブを参照し、圧力損失ΔPbに基づいてブリードオフ流量Qbを演算する。
【0089】
図4に示す影響度演算部103は、複数の要因パラメータ毎に、ブームシリンダ13のシリンダ作動速度の低下に対する影響度Zを演算する。影響度Zは、無次元数である。
【0090】
影響度演算部103は、式(2)~(5)を用いて演算した時間差ΔT(N),ΔT(q),ΔT(Ql),ΔT(Qb)の総和ΔTsを演算する(ΔTs=ΔT(N)+ΔT(q)+ΔT(Ql)+ΔT(Qb))。
【0091】
影響度演算部103は、以下の式(6)により、ブームシリンダ13の作動時間Tに影響を与える油圧ポンプ22の回転速度の影響度Z(N)を演算する。
【0092】
【数6】
【0093】
影響度演算部103は、以下の式(7)により、ブームシリンダ13の作動時間に影響を与える油圧ポンプ22の吐出容量の影響度Z(q)を演算する。
【0094】
【数7】
【0095】
影響度演算部103は、以下の式(8)により、ブームシリンダ13の作動時間に影響を与える作動油の漏れ流量の影響度Z(Ql)を演算する。
【0096】
【数8】
【0097】
影響度演算部103は、以下の式(9)により、ブームシリンダ13の作動時間に影響を与えるブリードオフ流量の影響度Z(Qb)を演算する。
【0098】
【数9】
【0099】
影響度演算部103は、ブームシリンダ13の作動時間(作動速度)に影響を与える複数の要因パラメータ毎の影響度と同様に、アームシリンダ14及びバケットシリンダ15の作動時間(作動速度)に影響を与える複数の要因パラメータ毎の影響度を演算する。
【0100】
また、影響度演算部103は、旋回モータ3Aの作動時間(作動速度)に影響を与える複数の要因パラメータ毎の影響度を演算する。旋回モータ3Aの作動時間に対する要因パラメータの影響度の算出方法は、油圧シリンダの作動時間(作動速度)に対する要因パラメータの影響度の算出方法と同様である。
【0101】
旋回モータ3Aの作動時間T(作動速度)に影響を与える複数の要因パラメータには、油圧ポンプ22の回転速度、油圧ポンプ22の吐出容量、作動油の漏れ流量、及びブリードオフ流量がある。旋回モータ3Aの作動時間Tは、上部旋回体4が所定の旋回角度θだけ回転するのに要した時間であり、以下の式(10)で表される。
【0102】
【数10】
【0103】
ただし、式(10)において、Qaは、上部旋回体4が所定の旋回角度θだけ回転する間、すなわち旋回モータ3Aの作動時間の間に旋回モータ3Aに流入した作動油の量(体積)である作動油流入量である。Qaは、旋回モータ3Aの回転数に、旋回モータ3Aの容積qmを乗算することにより求められる。ここで、旋回モータ3Aの回転数は、上部旋回体4の旋回角度を旋回減速比rで除することにより求められる。なお、旋回減速比rは、旋回モータ3Aに対する上部旋回体4の回転数比である(旋回減速比r=上部旋回体の旋回速度/旋回モータの回転速度)。
【0104】
油圧ポンプ22の回転速度、油圧ポンプ22の吐出容量、ブリードオフ流量は、油圧シリンダの作動時間の演算に用いられる要因パラメータと同じ方法で測定される。測定部102は、油圧ポンプ22の吐出流量から旋回モータ3Aに供給される流量(以下、旋回モータ3Aへの供給流量とも記す)とブリードオフ流量Qbを減算することにより、作動油の漏れ流量Qlを演算する。測定部102は、旋回モータ3Aの容積qmに旋回モータ3Aの回転速度を乗算することにより、旋回モータ3Aへの供給流量を演算する。
【0105】
影響度演算部103は、式(2)~(5)を用いて時間差ΔT(N),ΔT(q),ΔT(Ql),ΔT(Qb)を演算し、式(6)~(9)を用いて上部旋回体4の作動時間(作動速度)に対する影響度Z(N),Z(q),Z(Ql),Z(Qb)を演算する。なお、式(2)~(5)のQaは、上述したように、上部旋回体4が所定の旋回角度θだけ回転する間に旋回モータ3Aに流入する作動油の量である作動油流入量である(Qa=(qm・θ)/r)。
【0106】
表示制御部104は、入力装置62bから入力される信号に基づいて、表示装置62aに、診断対象を選択する診断対象選択画面161(図7参照)、診断の準備操作を促すための診断準備画面162(図8参照)、診断に必要な油圧アクチュエータの操作を指示するための操作指示画面163(図9参照)を順次表示させる。診断対象選択画面161、診断準備画面162及び操作指示画面163は、油圧ショベル1の診断を行う際の操作手順を示す画面である。表示制御部104は、影響度演算部103により複数の影響度Zの演算が完了すると、油圧ショベル1の診断結果を示す画面である診断結果画面164(図10参照)を表示させる。
【0107】
以下、図6A図6B及び図7図10を参照して、コントローラ110による診断処理の内容と、診断処理により表示装置62aに表示される各種画面について詳しく説明する。図6A及び図6Bは、作業者による操作手順と、コントローラ110による診断処理の流れの一例を示すフローチャートである。図6Aに示すように、ステップS101において、作業者が入力装置62bを用いて診断モードの起動操作を行うと、コントローラ110は、診断モードを起動し、ステップS201以降の処理を開始する。
【0108】
ステップS201において、コントローラ110は、診断の対象とする系統を作業者に選択させるための診断対象選択画面161を表示装置62aに表示させる。図7は、診断対象選択画面161の一例を示す図である。図7に示すように、診断対象選択画面161は、「ブーム系統」、「アーム系統」、「バケット系統」、「旋回系統」の中から診断の対象とする系統を選択するための画面である。
【0109】
作業者は、図6Aに示すステップS102において、診断対象選択画面161の複数の系統の中から、診断対象とする系統を選択操作する。以下の説明では、作業者が「ブーム系統」の診断を選択したものとして説明する。ステップS102において、ブーム系統の診断を選択する操作が行われると、ステップS202において、コントローラ110は、ブーム系統の診断の準備を作業者に促すための診断準備画面162を表示装置62aに表示させる。
【0110】
図8は、診断準備画面162の一例を示す図である。図8に示すように、診断準備画面162には、エンジンコントロールダイヤル63の操作量、作動油温度、ブーム角度、アーム角度、及びバケット角度のそれぞれの目標値(目標範囲)と現在値が表示される。エンジンコントロールダイヤル63の操作量の現在値は、エンジンコントロールダイヤル63の出力結果から演算される。また、作動油温度の現在値は、作動油温度センサ23Aの検出結果から演算される。ブーム角度、アーム角度、及びバケット角度の現在値は、ブーム角度センサ10A、アーム角度センサ11A、及びバケット角度センサ12Aの検出結果から演算される。
【0111】
運転状態を表すパラメータであるエンジンコントロールダイヤル63の操作量及び作動油温度、並びに、作業装置9の姿勢を表すパラメータであるブーム角度、アーム角度、及びバケット角度の目標値及び目標範囲は、予め定められ不揮発性メモリ112に記憶されている。本実施形態では、図示するように、目標値と、目標値からの許容ずれ量とによって、目標範囲が表示されている。なお、表示方法はこれに限らず、コントローラ110は、目標範囲を示す下限値と上限値を表示装置62aに表示させてもよい。
【0112】
また、診断準備画面162には、作業者に、診断の準備を促すためのメッセージ「運転状態、フロント姿勢を表示目標に合わせてください。」が表示される。さらに、診断準備画面162には、診断開始ボタン162aが表示される。なお、後述する所定の条件が成立するまでは、診断開始ボタン162aは操作不能な状態となっている。
【0113】
図6Aに示すステップS103において、作業者は、運転状態を表すパラメータ、及び、作業装置9の姿勢を表すパラメータが目標範囲内に収まるように、エンジンコントロールダイヤル63及び操作装置61を操作する。なお、冬季、あるいは寒冷地で作業を行う場合、エンジン21の始動直後は、作動油温度が目標範囲内にない場合がある。この場合、作業者は、暖機運転により、作動油温度が目標範囲内に収まるまで待機する。
【0114】
ステップS203において、コントローラ110は、運転状態及び作業装置9の姿勢を表すパラメータの現在値の全てが目標範囲内にあるか否かを判定する。コントローラ110は、運転状態及び作業装置9の姿勢を表すパラメータの現在値の少なくとも一つが目標範囲内にないと判定すると、診断開始ボタン162aの操作が不能な状態を維持する。
【0115】
コントローラ110は、運転状態及び作業装置9の姿勢を表すパラメータの現在値の全てが目標範囲内にあると判定すると、診断開始ボタン162aの操作が可能な状態にする。また、コントローラ110は、診断開始ボタン162aの操作が可能な状態であることを知らせるための情報を診断準備画面162に表示させる。例えば、コントローラ110は、診断準備画面162の診断開始ボタン162aの表示態様を変更することにより、診断開始ボタン162aの操作が可能な状態であることを作業者に知らせる。
【0116】
ステップS104において、作業者は、診断開始ボタン162aを操作する。診断開始ボタン162aが操作されると、ステップS204において、コントローラ110は、操作指示画面163を表示装置62aに表示させる。
【0117】
図9は、操作指示画面163の一例を示す図である。図9に示すように、操作指示画面163には、診断のための油圧アクチュエータの操作方法を説明するメッセージ163aと中断ボタン163bが表示される。本実施形態では、ブーム系統の診断のための操作装置61の操作方法を表すメッセージ163aとして、操作レバー61aをブーム上げ側にフルストロークまで速やかに操作し、フルストロークで操作されている状態を終了指示が表示されるまで維持させることを促すメッセージが表示されている。中断ボタン163bは、診断を中断するための操作ボタンである。中断ボタン163bが操作されると、コントローラ110は、測定を中断し、診断対象選択画面161を表示装置62aに表示させる。
【0118】
図6Aに示すステップS105において、作業者がブーム上げ側に操作レバー61aを操作すると、コントローラ110は、比例制御弁26に指令信号を出力する。比例制御弁26は、操作レバー61aの操作量に応じた操作圧力を生成し、流量制御弁24Aに出力する。操作圧力により流量制御弁24Aのスプールが移動すると、油圧ポンプ22から吐出された作動油がブームシリンダ13に供給され、ブームシリンダ13が伸長し、ブーム10が上げ方向に動かされる。
【0119】
コントローラ110は、ブーム角度センサ10Aの検出結果に基づいて、ブーム角度αを所定の制御周期毎に繰り返し演算する。ステップS205において、コントローラ110は、ブーム角度αが測定開始角度α1に到達したか否かを判定する。
【0120】
ステップS205において、ブーム角度αが測定開始角度α1に到達したと判定されると、処理がステップS206(図6B参照)に進む。なお、ステップS205の判定処理は、ブーム角度αが測定開始角度α1に到達していると判定されるまで、繰り返し実行される。
【0121】
図6Bに示すように、ステップS206において、コントローラ110は、ステップS205の判定処理が肯定判定されたときの内部時計の時刻を測定開始時刻T1として揮発性メモリ113に記録し、処理をステップS207に進める。
【0122】
ステップS207において、コントローラ110は、センサ値に基づいて要因パラメータの演算し、演算結果をセンサ値と共に揮発性メモリ113に記録する。なお、要因パラメータとは、油圧ポンプ22の回転速度、油圧ポンプ22の吐出容量(容積)、作動油の漏れ流量、及びブリードオフ流量である。また、センサ値とは、エンジン速度センサ21A、傾転角度センサ22C、ブーム角度センサ10A、圧力センサ22B,25,26Aの検出結果である。
【0123】
ステップS208において、コントローラ110は、ブーム角度αが測定終了角度α2に到達したか否かを判定する。ステップS208において、ブーム角度αが測定終了角度α2に到達していないと判定されると、処理がステップS207に戻り、次の制御周期のセンサ値に基づいて要因パラメータが演算され、記憶される。ステップS208において、ブーム角度αが測定終了角度α2に到達したと判定されると、処理がステップS209に進む。
【0124】
ステップS209において、コントローラ110は、ステップS208の判定処理が肯定判定されたときの内部時計の時刻を測定終了時刻T2として揮発性メモリ113に記録し、処理をステップS211に進める。
【0125】
ステップS211において、コントローラ110は、操作装置61の操作の終了を指示する操作終了指示163c(図9参照)を表示装置62aに表示させる。作業者が、ステップS106で操作装置61の操作を終了すると、コントローラ110は、ステップS212において、測定開始時刻T1から測定終了時刻T2までの時間をブーム作動時間Tとして演算し、揮発性メモリ113に記録する。また、ステップS212において、コントローラ110は、測定開始時刻T1から測定終了時刻T2までの間に逐次演算された各要因パラメータの平均値を演算し、揮発性メモリ113に記録する。さらに、ステップS212において、コントローラ110は、複数の要因パラメータ毎の影響度を演算し、揮発性メモリ113に記録する。
【0126】
ステップS212の処理が終了すると、処理がステップS213に進む。ステップS213において、コントローラ110は、ステップS212の演算結果を示す診断結果画面164を表示装置62aに表示させる。図10は、診断結果画面164の一例を示す図である。図10に示すように、診断結果画面164には、ブーム系統の診断結果を表す情報として、ブーム作動時間T(171)及びブーム作動時間Tの基準値(172)、並びに、ブーム作動時間Tに影響を与える複数の要因パラメータのそれぞれの平均値(173)、基準値(174)及び影響度(175)が表示される。
【0127】
なお、診断結果画面164において、油圧ポンプ22の回転速度は「ポンプ回転数」、油圧ポンプ22の吐出容量は「ポンプ容積」と表示されている。また、診断結果画面164において、測定開始時刻T1から測定終了時刻T2までの間に逐次演算された各要因パラメータの平均値は、「測定値」と表示されている。
【0128】
図示するように、診断結果画面164には、ブーム作動時間T(171)とその基準値(172)が並んで比較表示される。また、診断結果画面164には、ブーム作動時間Tに影響する要因パラメータの平均値(173)、基準値(174)、及び影響度(175)が並んで表示される。
【0129】
複数の要因パラメータの中で、ある一つの要因パラメータのみが基準値から変化していれば、その要因パラメータの影響度は1となる。逆に、要因パラメータが基準値から変化していなければ、その要因パラメータの影響度は0となる。少なくとも二つの要因パラメータが基準値から変化している場合には、それら二つの要因パラメータの影響度は0~1の間の値となる。このように、要因パラメータの影響度は、作動性能値の低下(作動時間の増加)に対する影響の大きさを相対的に表す無次元指標として用いられる。なお、影響度の表示方法は、0~1の値で表示してもよいし、図示するように、影響度に100を乗算して百分率の形式で表示してもよい。
【0130】
図6Bに示すステップS107において、作業者は、診断結果画面164の表示内容を確認し、ブーム系統のメンテナンス作業の要否を判断する。作業者は、メンテナンス作業が必要と判断した場合には、メンテナンスの対象機器を特定する。
【0131】
なお、メンテナンスの優先順位を視覚的に判断し易くするため、コントローラ110は、影響度の大きさに応じて要因パラメータを降順に並び替えて、診断結果画面164に表示させてもよい。
【0132】
ブーム系統の診断が終了すると、作業者は、診断結果画面164の終了ボタン164a(図10参照)を操作する。終了ボタン164aが操作された場合、表示制御部104は、再び診断対象選択画面161を表示装置62aに表示させる。作業者は必要に応じて「アーム系統」、「バケット系統」、「旋回系統」のいずれかを選択し、上記と同じ手順にしたがって油圧ショベル1の診断を実行する。なお、アーム系統、バケット系統及び旋回系統の診断の手順は、ブーム系統の診断の手順と同様であるので、説明を省略する。
【0133】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0134】
(1)油圧ショベル1は、作動油を吐出する油圧ポンプ22と、油圧ポンプ22から吐出される作動油によって駆動される油圧アクチュエータ(例えば、ブームシリンダ13)と、油圧アクチュエータの操作装置61と、中立位置で油圧ポンプ22から吐出される作動油をタンク23に導くブリードオフ通路部24Bを有するとともに、操作装置61の操作量に応じて油圧ポンプ22から油圧アクチュエータに供給される作動油の流量を制御する流量制御弁24Aと、を備える。
【0135】
油圧ショベル(作業機械)1の診断装置は、油圧ショベル1の操作手順を表示する表示装置62aと、油圧ショベル1の状態量を検出するセンサ(10A,21A,22B,22C,25,26A)から操作手順にしたがって油圧ショベル1が操作されている間の状態量を取得し、油圧ショベル1の状態量に基づいて油圧ショベル1の作動性能を診断するコントローラ110と、を備える。なお、表示装置62aは、コントローラ110によって診断された診断結果の画像を出力する出力装置として機能する。本実施形態に係るコントローラ110は、油圧ショベル1の操作手順にしたがって油圧ショベル1が動かされたときの油圧アクチュエータの作動時間を作動性能値として計測する。具体的には、コントローラ110は、所定の作動範囲だけ油圧アクチュエータを動作させるのに要した時間を作動性能値として計測する。
【0136】
コントローラ110は、油圧ショベル1の操作手順にしたがって油圧ショベル1が動かされているときに、油圧ショベル1に設けられたセンサ(10A,21A,22B,22C,25,26A)によって検出されたセンサ値を取得する。コントローラ110は、センサ(10A,21A,22B,22C,25,26A)によって検出される複数の状態量に基づいて、油圧ショベル1の所定の作動性能を示す作動性能値(例えば、ブームシリンダ13の作動時間)と、作動性能値に影響を与える複数の要因パラメータと、を測定する。
【0137】
本実施形態に係るコントローラ110は、油圧ショベル1の操作手順にしたがって油圧ショベル1が動かされているときにセンサ(10A,21A,22B,22C,25,26A)によって検出された複数の状態量に基づいて、油圧ポンプ22の回転速度、油圧ポンプ22の吐出容量(ポンプ容積)、作動油の漏れ流量、及びブリードオフ流量のそれぞれを複数の要因パラメータとして測定する。コントローラ110は、複数の要因パラメータの測定値N,q,Ql,Qbと、複数の要因パラメータ毎に予め定められた基準値Nn,qn,Qln,Qbnとに基づいて、複数の要因パラメータのそれぞれにおける作動性能値に与える影響度Zを演算する。
【0138】
コントローラ110は、演算した作動性能値及び影響度Zを表示装置62aに出力する。表示装置62aは、作動性能値及び影響度Zを表示画面に表示する。つまり、コントローラ110は、表示装置62aを制御し、作動性能値である油圧アクチュエータの作動時間、及び影響度Z(N),Z(q),Z(Ql),Z(Qb)を表示装置62aによって出力させる。
【0139】
したがって、作業者は、複数の要因パラメータのうち、油圧ショベル1の作動性能値に与える影響度の大きい要因パラメータを知ることができ、メンテナンス対象機器を容易かつ迅速に特定することができる。これにより、作業者は、メンテナンススケジュールの計画を適切に立てることができ、メンテナンス作業の効率を向上することができる。メンテナンス作業の時間を低減することができるため、油圧ショベル1の稼働時間を増やすことができる。その結果、油圧ショベル1による掘削等の作業の効率を向上することができる。
【0140】
(2)コントローラ110は、作動性能値(ブーム作動時間T(171))とともに、複数の要因パラメータ毎の影響度(175)を表示装置62aの一の画面に表示させる(図10参照)。ここで、作動性能値と影響度を異なる画面に表示させる場合、画面を切り替える必要が生じる。これに対して、本実施形態では、一の画面に作動性能値と影響度が表示されるため、作業者は、画面の切り替え操作が不要であるとともに、両者の関係を容易に把握することができる。
【0141】
(3)コントローラ110は、複数の要因パラメータ毎に、測定値(平均値)、影響度、及び基準値を表示装置62aの一の画面に並べて表示させる(図10参照)。この構成によれば、作業者は、要因パラメータ毎の正常度合い(実測した要因パラメータの基準値からのずれ)を容易に判断することができる。その結果、作業者は、メンテンナンス対象機器の特定及びメンテナンススケジュールの計画をより適切に行うことができる。
【0142】
<第2実施形態>
図11及び図12を参照して、本発明の第2実施形態に係る診断装置200について説明する。図11は、第2実施形態に係る診断装置200のコントローラ210の機能ブロック図である。図12は、第2実施形態に係る診断装置200の表示装置62aに表示される診断結果画面264の一例について示す図である。なお、第1実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照記号を付し、相違点を主に説明する。
【0143】
本第2実施形態に係るコントローラ210は、入力装置62bから入力される信号に基づいて、複数の要因パラメータの中から1つ以上の要因パラメータを選択し、選択された要因パラメータが、測定値から基準値に回復した場合の作動性能値の回復量を演算する。つまり、コントローラ210は、選択した要因パラメータの影響度を0(ゼロ)とした場合の作動性能値の回復量を演算する。コントローラ210は、演算した回復量を表示装置62aによって出力させる。
【0144】
具体的には、コントローラ210は、選択された要因パラメータが測定値から基準値に回復した場合の作動性能値(作動時間)の回復量ΔTrを以下の式(11)により演算し、演算した回復量ΔTrを表示装置62aによって出力させる。
【0145】
【数11】
【0146】
ここで、N´は、複数の要因パラメータの中から油圧ポンプ22の回転速度が選択された場合には油圧ポンプ22の回転速度の基準値Nnであり、複数の要因パラメータの中から油圧ポンプ22の回転速度が選択されていない場合には油圧ポンプ22の回転速度の測定値Nである。q´は、複数の要因パラメータの中から油圧ポンプ22の吐出容量が選択された場合には油圧ポンプ22の吐出容量の基準値qnであり、複数の要因パラメータの中から油圧ポンプ22の吐出容量が選択されていない場合には油圧ポンプ22の吐出容量の測定値qである。Ql´は、複数の要因パラメータの中から作動油の漏れ流量が選択された場合には作動油の漏れ流量の基準値Qlnであり、複数の要因パラメータの中から作動油の漏れ流量が選択されていない場合には作動油の漏れ流量の測定値Qlである。Qb´は、複数の要因パラメータの中からブリードオフ流量が選択された場合にはブリードオフ流量の基準値Qbnであり、複数の要因パラメータの中からブリードオフ流量が選択されていない場合にはブリードオフ流量の測定値Qbである。
【0147】
この構成によれば、作業者は、任意の要因パラメータを選択し、選択した要因パラメータが測定値から基準値に回復した場合の回復量を確認することができる。したがって、作業者は、メンテナンスをした場合に期待できる効果を容易に把握することができ、メンテナンス計画を適切に立てることができる。また、この構成によれば、複数の要因パラメータを組み合わせて選択することができるので、単一の要因パラメータしか選択できない場合に比べて、より容易にメンテナンス計画を立てることができる。
【0148】
以下、図11及び図12を参照して、第2実施形態に係るコントローラ210の機能及び表示装置62aに表示される診断結果画面264の具体例について説明する。図11に示すように、コントローラ210は、第1実施形態で説明したコントローラ110の機能に加え、回復量演算部205及び選択部206としての機能を備える。選択部206は、入力装置62bから入力される信号に基づいて、複数の要因パラメータの中から1つ以上の要因パラメータを選択する。
【0149】
図12に示すように、表示装置62aに表示される診断結果画面264には、各要因パラメータに対応する選択ボックス281a,281b,281c,281dと、効果算出ボタン282と、期待効果表示部283と、が含まれる。作業者がタッチパネルモニタ62の選択ボックス281a,281b,281c,281dをタッチ操作すると、選択部206は、タッチ操作された選択ボックスに対応する要因パラメータを回復量の演算対象として選択する。例えば、選択ボックス281aがタッチ操作されると、選択部206は、油圧ポンプ22の回転速度を選択する。また、表示制御部204は、油圧ポンプ22の回転速度が選択された場合、選択されたことを示すチェックマークを選択ボックス281aに表示させる。
【0150】
選択部206は、効果算出ボタン282がタッチ操作されたか否かを判定する。回復量演算部205は、選択部206によって効果算出ボタン282がタッチ操作されたと判定されると、選択部206により選択された要因パラメータの影響度Zを0(ゼロ)とした場合の回復量を演算する。回復量は、測定部102により演算された作動時間(作動性能値)と、選択された要因パラメータの影響度Zを0(ゼロ)とした場合の作動時間(作動性能値)との差に相当する。
【0151】
回復量演算部205は、油圧ポンプ22の回転速度のみが選択された場合、以下の式(12)により、油圧ポンプ22の回転速度が測定値Nから基準値Nnに回復した場合の回復量(期待効果)ΔTr(N)を演算する。
【0152】
【数12】
【0153】
回復量演算部205は、油圧ポンプ22の吐出容量のみが選択された場合、以下の式(13)により、油圧ポンプ22の吐出容量が測定値qから基準値qnに回復した場合の回復量(期待効果)ΔTr(q)を演算する。
【0154】
【数13】
【0155】
回復量演算部205は、作動油の漏れ流量のみが選択された場合、以下の式(14)により、作動油の漏れ流量が測定値Qlから基準値Qlnに回復した場合の回復量(期待効果)ΔTr(Ql)を演算する。
【0156】
【数14】
【0157】
回復量演算部205は、ブリードオフ流量のみが選択された場合、以下の式(15)により、ブリードオフ流量が測定値Qbから基準値Qbnに回復した場合の回復量(期待効果)ΔTr(Qb)を演算する。
【0158】
【数15】
【0159】
表示制御部204は、回復量演算部205により回復量が演算されると、演算された回復量を表示装置62aに出力する。表示装置62aは、入力された回復量を期待効果表示部283に表示する。
【0160】
回復量演算部205は、選択部206により複数の要因パラメータが選択されている場合の回復量も演算する。例えば、回復量演算部205は、以下の式(16)により、作動油の漏れ流量及びブリードオフ流量のそれぞれが測定値Ql,Qbから基準値Qln,Qbnに回復した場合の回復量(期待効果)ΔTr(Ql,Qb)を演算する。
【0161】
【数16】
【0162】
なお、コントローラ210は、選択された要因パラメータを回復させる際にメンテナンスの対象となる機器の候補を表示装置62aに表示させてもよい。図13は、第2実施形態に係る診断装置200の表示装置62aに表示される診断結果画面364の別の例について示す図である。図13に示すように、表示制御部204は、効果算出ボタン282が操作されると、選択されている要因パラメータを回復させるためのメンテナンス対象機器の候補を、診断結果画面364の候補表示部384に表示させる。
【0163】
不揮発性メモリ112には、要因パラメータとメンテナンス対象機器の候補が紐付けられて記憶されている。要因パラメータとしての油圧ポンプ22の回転速度には、メンテナンス対象機器の候補として、エンジン21が紐づいて記憶されている。要因パラメータとしての油圧ポンプ22の吐出容量には、メンテナンス対象機器の候補として、レギュレータ22A、パイロットポンプ、及びパイロットリリーフバルブ29が記憶されている。要因パラメータとしての作動油の漏れ流量には、メンテナンス対象機器の候補として、油圧ポンプ22及び油圧アクチュエータが記憶されている。要因パラメータとしてのブリードオフ流量には、メンテナンス対象機器の候補として、比例制御弁26、コントロールバルブ24、パイロットポンプ、及びパイロットリリーフバルブ29が記憶されている。
【0164】
このように、メンテナンス対象機器の候補が表示装置62aに表示されるため、経験の浅い作業者であってもメンテナンス計画を適切に立てることができる。
【0165】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、上述の異なる実施形態で説明した構成同士を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせることも可能である。
【0166】
<変形例1>
上記実施形態では、コントローラ110,210が、測定範囲において所定の制御周期で繰り返し演算された要因パラメータの平均値を測定値として表示させる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。コントローラ110,210は、測定範囲において所定の制御周期で繰り返し演算された要因パラメータの最小値、あるいは最大値を測定値として表示させてもよい。
【0167】
<変形例2>
上記実施形態では、タッチパネルモニタ62が診断結果(情報)を出力する出力装置として機能する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。油圧ショベル1の診断を行う際の操作手順を表示するタッチパネルモニタ62とは別に、診断結果を出力する出力装置が設けられていてもよい。例えば、診断装置100,200は、出力装置として、診断結果を音声で出力するスピーカなどの音声出力装置を備えていてもよい。また、診断装置100,200は、出力装置として、診断結果を紙に印刷して出力する印刷装置を備えていてもよい。さらに、診断装置100,200は、出力装置として、診断結果を外部情報端末に送信する通信装置を備えていてもよい。この場合、外部情報端末の表示部に、診断結果を表す画面(図10図12図13参照)が表示される。
【0168】
<変形例3>
上記実施形態では、油圧ショベル1が、表示装置兼入力装置としてのタッチパネルモニタ62を備える例について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。油圧ショベル1は、表示装置62aと、入力装置62bとを個別に備えていてもよい。
【0169】
<変形例4>
上記実施形態では、コントローラ110,210が、ブリードオフ流量テーブル(図5参照)を用いて、ブリードオフ流量を演算する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。センタバイパスライン17上に流量センサを設け、コントローラ110,210が、流量センサの検出結果に基づき、流量制御弁24Aのブリードオフ通路部24Bを通過するブリードオフ流量を演算してもよい。
【0170】
<変形例5>
上記実施形態では、診断装置100,200が油圧ショベル1に搭載される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。診断装置100,200は、油圧ショベル1の外部に設けられていてもよい。この場合、油圧ショベル1に搭載されるコントローラは、取得したセンサ値を通信装置を介して、外部端末装置に送信する。外部端末装置のコントローラは、取得したセンサ値に基づいて、上記実施形態と同様、作動性能値及び要因パラメータを測定し、その測定結果に基づいて要因パラメータの影響度を演算する。外部端末装置のコントローラは、作動性能値(作動時間)及び影響度を外部端末装置の表示装置に表示させる。
【0171】
この構成では、油圧ショベル1を遠隔で操作する場合に、外部端末装置の表示装置に表示される操作手順にしたがって油圧ショベル1を動かすことができる。これにより、油圧ショベル1に作業者が搭乗しない場合であっても油圧ショベル1の診断を行うことができる。
【0172】
<変形例6>
第2実施形態では、入力装置62bが操作されることにより、任意の要因パラメータが回復量の演算対象として選択される例について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。コントローラ210は、複数の要因パラメータの中から予め定められている所定の要因パラメータの影響度を0(ゼロ)とした場合の作動性能値の回復量を演算し、回復量を表示装置62aの表示画面に表示させてもよい。また、コントローラ210は、複数の要因パラメータの中で影響度が最も大きい要因パラメータを回復量の演算対象として選択してもよい。これにより、他の要因パラメータに比べて作動性能値に与える影響度が大きい要因パラメータの回復量が、作業者の選択によらずに、表示装置62aの表示画面に表示される。本変形例によれば、作業者の選択操作の手間を省略することができる。
【0173】
以上のとおり、第2実施形態及び本変形例に係るコントローラ210は、複数の要因パラメータの中のいずれかが、測定値から基準値に回復した場合の作動性能値の回復量を演算し、回復量を表示装置62aによって出力させる。この構成によれば、作業者は、メンテナンスをした場合に期待できる効果を容易に把握することができる。したがって、回復量を出力しない診断装置に比べて、作業者は、メンテナンス計画をより適切に立てることができる。
【0174】
<変形例7>
上記実施形態では、ブーム系統、アーム系統、バケット系統、及び旋回系統の中から一つを選択し、ブーム系統が選択された場合には、ブーム系統の診断を行い、その診断結果を表示装置62aに表示する例について説明した。しかしながら、本発明は、これに限定されない。例えば、第2実施形態において、コントローラ210は、ブーム系統の診断結果画面264に、選択ボックス281a~281dにより選択された要因パラメータが測定値から基準値に回復した場合に、アーム系統、バケット系統及び旋回系統などの他の系統においても回復が見込める場合、そのことを示すメッセージを表示させてもよい。
【0175】
<変形例8>
上記実施形態では、油圧シリンダ13~15、旋回モータ3Aの作動性能を診断する例について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。本発明は、下部走行体2を走行させる走行用の油圧モータである走行モータの作動性能の診断に適用してもよい。例えば、診断装置は、下部走行体2が所定距離だけ走行するのに要した時間を走行モータの作動時間として測定する。また、作動時間を作動性能値として測定する場合に限られることもない。診断装置は、所定の操作量で操作したときの走行モータの回転速度を作動性能値として測定してもよい。
【0176】
<変形例9>
上記実施形態で説明したコントローラ110,210の機能は、それらの一部または全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現してもよい。
【0177】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。上述した実施形態及び変形例は本発明を理解し易く説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、ある実施形態、変形例の構成の一部を他の実施形態、変形例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態、変形例の構成に他の実施形態、変形例の構成を加えることも可能である。なお、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0178】
また、上記実施形態では、作業機械が油圧ショベル1である例について説明したが、本発明は、ホイール式ショベル、ホイールローダ、フォークリフトなど、種々の作業機械に適用することができる。
【符号の説明】
【0179】
1…油圧ショベル(作業機械)、2…下部走行体、3…旋回装置、3A…旋回モータ(油圧アクチュエータ)、4…上部旋回体、4A…旋回角度センサ(センサ)、9…作業装置、10…ブーム(駆動対象部材)、10A…ブーム角度センサ(センサ)、11…アーム(駆動対象部材)、11A…アーム角度センサ(センサ)、12…バケット(駆動対象部材)、12A…バケット角度センサ(センサ)、13…ブームシリンダ(油圧シリンダ、油圧アクチュエータ)、14…アームシリンダ(油圧シリンダ、油圧アクチュエータ)、15…バケットシリンダ(油圧シリンダ、油圧アクチュエータ)、17…センタバイパスライン、21…エンジン、21A…エンジン速度センサ(センサ)、22…油圧ポンプ、22A…レギュレータ、22B…圧力センサ(センサ)、22C…傾転角度センサ(センサ)、23…タンク、23A…作動油温度センサ(センサ)、24…コントロールバルブ、24A…流量制御弁、24B…ブリードオフ通路部、24PA,24PB…パイロット受圧部、25…圧力センサ(センサ)、26…比例制御弁、26A…圧力センサ(センサ)、27…パイロットライン、28…パイロット油圧源、29…パイロットリリーフバルブ、61…操作装置、61a…操作レバー、61b…操作量センサ(センサ)、62…タッチパネルモニタ、62a…表示装置(出力装置)、62b…入力装置、63…エンジンコントロールダイヤル、100…診断装置、101…診断条件判定部、102…測定部、103…影響度演算部、104…表示制御部、110…コントローラ、111…処理装置、112…不揮発性メモリ、113…揮発性メモリ、161…診断対象選択画面、162…診断準備画面、163…操作指示画面、164…診断結果画面、200…診断装置、204…表示制御部、205…回復量演算部、206…選択部、210…コントローラ、264…診断結果画面、281a,281b,281c,281d…選択ボックス、364…診断結果画面
【要約】
【課題】メンテナンス対象機器の特定を容易に行うことができ、メンテナンス作業の効率を向上可能な作業機械の診断装置を提供する。
【解決手段】作業機械の診断装置は、作業機械の操作手順を表示する表示装置と、作業機械の状態量を検出するセンサから操作手順にしたがって作業機械が操作されている間の状態量を取得し、作業機械の状態量に基づいて作業機械の作動性能を診断するコントローラと、診断結果を出力する出力装置とを備える。コントローラは、センサによって検出される複数の状態量に基づいて、作業機械の所定の作動性能を示す作動性能値と、作動性能値に影響を与える複数の要因パラメータとを測定し、複数の要因パラメータの測定値と、複数の要因パラメータ毎に予め定められた基準値とに基づいて、複数の要因パラメータのそれぞれにおける作動性能値に与える影響度を演算し、作動性能値及び影響度を出力装置によって出力させる。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
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図13