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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】変速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/72 20060101AFI20230525BHJP
   F16H 3/74 20060101ALI20230525BHJP
   F16H 3/093 20060101ALI20230525BHJP
   F16H 3/02 20060101ALI20230525BHJP
   F16H 47/04 20060101ALI20230525BHJP
   F16H 61/44 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
F16H3/72 A
F16H3/74 Z
F16H3/093
F16H3/02 B
F16H47/04 A
F16H61/44
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022553264
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2020036938
(87)【国際公開番号】W WO2022070261
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鯉沼 琢麻
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/027983(WO,A1)
【文献】特開2001-317611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/72
F16H 3/74
F16H 3/093
F16H 3/02
F16H 47/04
F16H 61/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源に繋がる入力軸と、負荷に繋がる出力軸と、前記入力軸と前記出力軸との間に設けられた遊星機構と、前記遊星機構に接続された第1バリエータと、前記第1バリエータとは別に設けられた第2バリエータと、前記第1バリエータの回転速度を変更するコントローラとを備え、
前記遊星機構は、キャリアと、前記キャリアの回転中心軸を中心として自転する第1サン部材と、前記キャリアの回転中心軸を中心として自転する第2サン部材との3つの部材を含んで構成されており、
前記遊星機構の前記3つの部材のうちの1つである第1部材は、前記入力軸に直接または他の部材を介して接続されており、
前記遊星機構の前記3つの部材のうちの前記第1部材とは別の第2部材は、前記第1バリエータに直接または他の部材を介して接続されており、
前記遊星機構の前記3つの部材のうちの前記第1部材および前記第2部材とは別の第3部材は、前記出力軸に直接または他の部材を介して接続されており、
前記遊星機構の前記キャリアには、前記キャリアの回転中心軸を中心に公転しつつ前記第1サン部材と前記第2サン部材と回転しながら動力伝達を行うプラネット部材およびバランス部材が支持されており、
前記遊星機構は、前記動力源から前記遊星機構に伝達されたトルクを前記第2部材と前記第3部材とに分配し、
前記遊星機構は、前記第1部材と前記第2部材と前記第3部材との間で2自由度の回転運動をし、
前記第2バリエータは、前記第1バリエータから伝達された動力を前記負荷または前記動力源に伝達し、または、前記負荷または前記動力源から伝達された動力を前記第1バリエータに伝達し、
前記コントローラは、前記第1バリエータの回転速度を変更することにより、前記入力軸の回転速度に対する前記出力軸の回転速度を変更することを特徴とする変速装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速装置において、
前記コントローラは、前記遊星機構の前記第2部材の回転を停止し、前記第1部材と前記第2部材と前記第3部材との間で2自由度の回転運動をする状態から1自由度の回転運動をする状態に変化させ、前記1自由度の状態で前記動力源から前記遊星機構に伝達された動力を前記負荷に伝達することを特徴とする変速装置。
【請求項3】
請求項1に記載の変速装置において、
前記遊星機構を通じて前記動力源から前記負荷に動力を伝達する動力伝達経路を第1動力伝達経路とした場合に、前記第1動力伝達経路と並行して設けられ前記遊星機構を介さずに歯車同士の噛み合いにより前記負荷に動力を伝達する第2動力伝達経路を備えており、
前記第2動力伝達経路は、締結と解放とを切換える第1クラッチを備えており、
前記コントローラは、前記第1クラッチを締結し、前記第2動力伝達経路を通じて動力伝達を行うことを特徴とする変速装置。
【請求項4】
請求項1に記載の変速装置において、
前記第2部材と前記第1バリエータとの間には、前記第2部材と前記第1バリエータとの間の動力の伝達と解放とを切換える第2クラッチが設けられており、
前記コントローラは、車両が停止しているときに、前記第2クラッチを解放することにより前記第2部材と前記第1バリエータとの間の動力伝達を切り離すことを特徴とする変速装置。
【請求項5】
請求項1に記載の変速装置において、
前記第3部材と前記出力軸との間には、これらの間で歯車の噛み合い回数が奇数回である第1出力伝達経路と、0回または偶数回である第2出力伝達経路とが設けられており、
前記第1出力伝達経路は、前記第1出力伝達経路の動力の伝達と解放とを切換える第1出力クラッチを備えており、
前記第2出力伝達経路は、前記第2出力伝達経路の動力の伝達と解放とを切換える第2出力クラッチを備えており、
前記コントローラは、前記第1出力クラッチが締結されると共に前記第2出力クラッチが解放された正転モードと、前記第1出力クラッチが解放されると共に前記第2出力クラッチが締結された逆転モードとを切換えることにより、車両の進行方向を反転することを特徴とする変速装置。
【請求項6】
動力源に繋がる入力軸と、負荷に繋がる出力軸と、前記入力軸と前記出力軸との間に設けられた遊星機構と、前記遊星機構に接続された第1バリエータと、前記第1バリエータとは別に設けられた第2バリエータと、前記第1バリエータの回転速度を変更するコントローラとを備え、
前記遊星機構は、キャリアと、前記キャリアの回転中心軸を中心として自転するサン部材と、前記サン部材よりも径方向外側に位置して前記キャリアの回転中心軸を中心として自転するリング部材との3つの部材を含んで構成されており、
前記遊星機構の前記3つの部材のうちの1つである第1部材は、前記入力軸に直接または他の部材を介して接続されており、
前記遊星機構の前記3つの部材のうちの前記第1部材とは別の第2部材は、前記第1バリエータに直接または他の部材を介して接続されており、
前記遊星機構の前記3つの部材のうちの前記第1部材および前記第2部材とは別の第3部材は、前記出力軸に直接または他の部材を介して接続されており、
前記遊星機構の前記キャリアには、前記キャリアの回転中心軸を中心に公転しつつ前記サン部材と前記リング部材と回転しながら動力伝達を行うプラネット部材が支持されており、
前記遊星機構は、前記動力源から前記遊星機構に伝達されたトルクを前記第2部材と前記第3部材とに分配し、
前記遊星機構は、前記第1部材と前記第2部材と前記第3部材との間で2自由度の回転運動をし、
前記第2バリエータは、前記第1バリエータから伝達された動力を前記負荷または前記動力源に伝達し、または、前記負荷または前記動力源から伝達された動力を前記第1バリエータに伝達し、
前記コントローラは、前記第1バリエータの回転速度を変更することにより、前記入力軸の回転速度に対する前記出力軸の回転速度を変更し、
さらに、
前記遊星機構を通じて前記動力源から前記負荷に動力を伝達する動力伝達経路を第1動力伝達経路とした場合に、前記第1動力伝達経路と並行して設けられ前記遊星機構を介さずに歯車同士の噛み合いにより前記負荷に動力を伝達する第2動力伝達経路を備えており、
前記第2動力伝達経路は、締結と解放とを切換える第1クラッチを備えており、
前記コントローラは、前記第1クラッチを締結し、前記第2動力伝達経路を通じて動力伝達を行うことを特徴とする変速装置。
【請求項7】
請求項6に記載の変速装置において、
前記コントローラは、前記遊星機構の前記第2部材の回転を停止し、前記第1部材と前記第2部材と前記第3部材との間で2自由度の回転運動をする状態から1自由度の回転運動をする状態に変化させ、前記1自由度の状態で前記動力源から前記遊星機構に伝達された動力を前記負荷に伝達することを特徴とする変速装置。
【請求項8】
請求項6に記載の変速装置において、
前記第2部材と前記第1バリエータとの間には、前記第2部材と前記第1バリエータとの間の動力の伝達と解放とを切換える第2クラッチが設けられており、
前記コントローラは、車両が停止しているときに、前記第2クラッチを解放することを特徴とする変速装置。
【請求項9】
請求項6に記載の変速装置において、
前記第3部材と前記出力軸との間には、これらの間で歯車の噛み合い回数が奇数回である第1出力伝達経路と、0回または偶数回である第2出力伝達経路とが設けられており、
前記第1出力伝達経路は、前記第1出力伝達経路の動力の伝達と解放とを切換える第1出力クラッチを備えており、
前記第2出力伝達経路は、前記第2出力伝達経路の動力の伝達と解放とを切換える第2出力クラッチを備えており、
前記コントローラは、前記第1出力クラッチが締結されると共に前記第2出力クラッチが解放された正転モードと、前記第1出力クラッチが解放されると共に前記第2出力クラッチが締結された逆転モードとを切換えることにより、車両の進行方向を反転することを特徴とする変速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ホイールローダ、油圧ショベル等の車両に搭載される変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、遊星歯車機構と電動モータとを組み合わせた遊星式無段変速機構により動力の伝達を行う建設機械が記載されている。特許文献1の建設機械によれば、遊星式無段変速機構を用いることにより、エンジンの回転速度の急変を低減し、荷役作業機の動作速度が急変することを抑制することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-247269号公報(特許第5095252号)
【発明の概要】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された技術は、遊星式無段変速機構の増速の変速範囲を有効に使うことができない可能性がある。
【0005】
本発明の一実施形態の目的は、遊星式無段変速機構の増速の変速範囲を有効に使うことができる変速装置を提供することにある。
【0006】
本発明の一実施形態による無段変速装置は、動力源に繋がる入力軸と、負荷に繋がる出力軸と、前記入力軸と前記出力軸との間に設けられた遊星機構と、前記遊星機構に接続された第1バリエータと、前記第1バリエータとは別に設けられた第2バリエータと、前記第1バリエータの回転速度を変更するコントローラとを備え、前記遊星機構は、キャリアと、前記キャリアの回転中心軸を中心として自転する第1サン部材と、前記キャリアの回転中心軸を中心として自転する第2サン部材との3つの部材を含んで構成されており、前記遊星機構の前記3つの部材のうちの1つである第1部材は、前記入力軸に直接または他の部材を介して接続されており、前記遊星機構の前記3つの部材のうちの前記第1部材とは別の第2部材は、前記第1バリエータに直接または他の部材を介して接続されており、前記遊星機構の前記3つの部材のうちの前記第1部材および前記第2部材とは別の第3部材は、前記出力軸に直接または他の部材を介して接続されており、前記遊星機構の前記キャリアには、前記キャリアの回転中心軸を中心に公転しつつ前記第1サン部材と前記第2サン部材と回転しながら動力伝達を行うプラネット部材およびバランス部材が支持されており、前記遊星機構は、前記動力源から前記遊星機構に伝達されたトルクを前記第2部材と前記第3部材とに分配し、前記遊星機構は、前記第1部材と前記第2部材と前記第3部材との間で2自由度の回転運動をし、前記第2バリエータは、前記第1バリエータから伝達された動力を前記負荷または前記動力源に伝達し、または、前記負荷または前記動力源から伝達された動力を前記第1バリエータに伝達し、前記コントローラは、前記第1バリエータの回転速度を変更することにより、前記入力軸の回転速度に対する前記出力軸の回転速度を変更する。
【0007】
また、本発明の一実施形態による無段変速装置は、動力源に繋がる入力軸と、負荷に繋がる出力軸と、前記入力軸と前記出力軸との間に設けられた遊星機構と、前記遊星機構に接続された第1バリエータと、前記第1バリエータとは別に設けられた第2バリエータと、前記第1バリエータの回転速度を変更するコントローラとを備え、前記遊星機構は、キャリアと、前記キャリアの回転中心軸を中心として自転するサン部材と、前記サン部材よりも径方向外側に位置して前記キャリアの回転中心軸を中心として自転するリング部材との3つの部材を含んで構成されており、前記遊星機構の前記3つの部材のうちの1つである第1部材は、前記入力軸に直接または他の部材を介して接続されており、前記遊星機構の前記3つの部材のうちの前記第1部材とは別の第2部材は、前記第1バリエータに直接または他の部材を介して接続されており、前記遊星機構の前記3つの部材のうちの前記第1部材および前記第2部材とは別の第3部材は、前記出力軸に直接または他の部材を介して接続されており、前記遊星機構の前記キャリアには、前記キャリアの回転中心軸を中心に公転しつつ前記サン部材と前記リング部材と回転しながら動力伝達を行うプラネット部材が支持されており、前記遊星機構は、前記動力源から前記遊星機構に伝達されたトルクを前記第2部材と前記第3部材とに分配し、前記遊星機構は、前記第1部材と前記第2部材と前記第3部材との間で2自由度の回転運動をし、前記第2バリエータは、前記第1バリエータから伝達された動力を前記負荷または前記動力源に伝達し、または、前記負荷または前記動力源から伝達された動力を前記第1バリエータに伝達し、前記コントローラは、前記第1バリエータの回転速度を変更することにより、前記入力軸の回転速度に対する前記出力軸の回転速度を変更し、さらに、前記遊星機構を通じて前記動力源から前記負荷に動力を伝達する動力伝達経路を第1動力伝達経路とした場合に、前記第1動力伝達経路と並行して設けられ前記遊星機構を介さずに歯車同士の噛み合いにより前記負荷に動力を伝達する第2動力伝達経路を備えており、前記第2動力伝達経路は、締結と解放とを切換える第1クラッチを備えており、前記コントローラは、前記第1クラッチを締結し、前記第2動力伝達経路を通じて動力伝達を行う。
【0008】
本発明の一実施形態によれば、遊星機構と第1バリエータと第2バリエータとを含んで構成される遊星式無段変速機構の増速の変速範囲を有効に使うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施の形態による変速装置を搭載したホイールローダを示す左側面図である。
図2図1中の変速装置を示す一部破断の側面図である。
図3】第1の実施の形態による変速装置を示す構成図である。
図4図3中の変速装置を遊星機構の内部も一緒に示す構成図である。
図5図4中の(V)部の拡大図である。
図6図4中の遊星機構を動力源側からみた説明図である。
図7図4中の遊星機構(後述の表4の「No1-A」)の各部材の回転速度の関係を示す特性線図である。
図8】後述の表4の「No1-C」の遊星機構の各部材の回転速度の関係を示す特性線図である。
図9】後述の表4の「No1-B」の遊星機構の各部材の回転速度の関係を示す特性線図である。
図10図4中の(X)部の拡大図である。
図11】ホイールローダの車速とけん引力との理想的な関係を示す駆動力線図である。
図12】第1の実施の形態によるホイールローダの車速とけん引力との関係を示す駆動力線図である。
図13】第1の変形例(外部ロックアップなしの構成)を示す図3と同様の構成図である。
図14】第2の変形例(内部ロックアップをブレーキにより行う構成)を示す図3と同様の構成図である。
図15】第3の変形例(内部ロックアップをブレーキにより行い、かつ、アイドラ部材なしの構成)を示す図3と同様の構成図である。
図16】外部ロックアップなしの変速装置が搭載されたホイールローダの車速とけん引力との関係を示す駆動力線図である。
図17】内部ロックアップなしの変速装置が搭載されたホイールローダの車速とけん引力との関係を示す駆動力線図である。
図18】第4の変形例(入力軸が第1サン部材に接続され、第1バリエータがキャリアに接続された構成)を示す図4と同様の構成図である。
図19】第5の変形例(入力軸が第1サン部材に接続され、第1バリエータが第2サン部材に接続された構成)を示す図4と同様の構成図である。
図20】第6の変形例(第2バリエータが出力軸に接続された構成)を示す図4と同様の構成図である。
図21】第2の実施の形態を示す図4と同様の構成図である。
図22図21中の(XXII)部の拡大図である。
図23図21中の遊星機構を動力源側からみた説明図である。
図24図21中の遊星機構の3つの部材の回転速度の関係を示す特性線図である。
図25】第7の変形例(入力軸がリング部材に接続され、第1バリエータがキャリアに接続された構成)を示す図21と同様の構成図である。
図26】第8の変形例(入力軸がキャリアに接続され、第1バリエータがリング部材に接続された構成)を示す図21と同様の構成図である。
図27】第9の変形例(入力軸がリング部材に接続され、第1バリエータがサン部材に接続された構成)を示す図21と同様の構成図である。
図28】第10の変形例(入力軸がサン部材に接続され、第1バリエータがリング部材に接続された構成)を示す図21と同様の構成図である。
図29】第11の変形例(入力軸がサン部材に接続され、第1バリエータがキャリアに接続された構成)を示す図21と同様の構成図である。
図30】第12の変形例(第2バリエータが入力軸に接続された構成)を示す図3と同様の構成図である。
図31】第13の変形例(第2バリエータがアイドラ要素に繋がる第3連結部材に接続された構成)を示す図3と同様の構成図である。
図32】第14の変形例(第2バリエータが多段変速機構の奇数段ギヤに接続された構成)を示す図3と同様の構成図である。
図33】第15の変形例(第2バリエータが多段変速機構の前進1速ギヤに接続された構成)を示す図3と同様の構成図である。
図34】第16の変形例(第2バリエータが多段変速機構の前進3速ギヤに接続された構成)を示す図3と同様の構成図である。
図35】第17の変形例(第2バリエータが多段変速機構の前進2速ギヤに接続された構成)を示す図3と同様の構成図である。
図36】第18の変形例(第2バリエータが多段変速機構の前進4速ギヤに接続された構成)を示す図3と同様の構成図である。
図37】第19の変形例(第2バリエータが多段変速機構の後進1速ギヤに接続された構成)を示す図3と同様の構成図である。
図38】第20の変形例(第2バリエータが出力軸に接続された構成)を示す図3と同様の構成図である。
図39】第21の変形例(第2バリエータが変速装置の出力軸よりも負荷側に接続された構成)を示す図3と同様の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態による変速装置(トランスミッション)を、ホイールローダに適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0011】
図1ないし図12は、第1の実施の形態を示している。図1において、ホイールローダ1は、車両(作業車両)の代表例である。ホイールローダ1は、左,右の前車輪2が設けられた前部車体3と左,右の後車輪4が設けられた後部車体5とが左,右方向に屈曲可能に連結されたアーティキュレート式の作業車両として構成されている。即ち、前部車体3および後部車体5は、ホイールローダ1の車体を構成している。前部車体3と後部車体5との間には、センタヒンジ6、ステアリングシリンダ(図示せず)が設けられている。前部車体3と後部車体5は、ステアリングシリンダを伸長・縮小させることにより、センタヒンジ6を中心に左,右方向に屈曲する。これにより、ホイールローダ1は、走行時の操舵を行うことができる。
【0012】
ホイールローダ1の前部車体3には、作業装置とも呼ばれる荷役作業機7が俯仰の動作を可能に設けられている。荷役作業機7は、ローダバケット7Aを備えている。一方、ホイールローダ1の後部車体5には、内部が運転室となったキャブ8、エンジン9、油圧ポンプ10、トランスミッション(動力伝達装置)である変速装置21等が設けられている。エンジン9は、ホイールローダ1の動力源(原動機)である。動力源は、内燃機関となるエンジン9単体で構成できる他、例えば、エンジンと電動モータ、または、電動モータ単体により構成してもよい。油圧ポンプ10は、エンジン9と接続されている。油圧ポンプ10は、荷役作業機7を動作させるための油圧源である。後述の図3等に示すように、油圧ポンプ10は、エンジン9と歯車10A,10Bを介して接続されている。
【0013】
前部車体3の下側には、左,右方向に延びるフロントアクスル12が設けられている。フロントアクスル12の両端側には、左,右の前車輪2が取付けられている。一方、後部車体5の下側には、左,右方向に延びるリヤアクスル13が設けられている。リヤアクスル13の両端側には、左,右の後車輪4が取付けられている。
【0014】
フロントアクスル12は、前プロペラシャフト14を介して変速装置21に接続されている。リヤアクスル13は、後プロペラシャフト15を介して変速装置21に接続されている。変速装置21は、エンジン9の回転を増速および減速して前プロペラシャフト14および後プロペラシャフト15に伝達する。即ち、エンジン9からの動力は、エンジン9に結合された変速装置21に伝達される。
【0015】
エンジン9からの動力は、変速装置21で回転数と回転方向を調整された後、変速装置21の前,後の出力軸23A,23Bから前プロペラシャフト14および後プロペラシャフト15を介してフロントアクスル12およびリヤアクスル13に伝達される。即ち、図2に示すように、変速装置21は、エンジン9と接続される入力軸22と、前プロペラシャフト14に接続される前側の出力軸23Aと、後プロペラシャフト15に接続される後側の出力軸23Bとを備えている。変速装置21は、変速装置21内の動力伝達経路を切換えることにより、入力軸22と出力軸23A,23Bとの間で変速および正転・逆転の切換えを行う。
【0016】
次に、ホイールローダ1の動作について説明する。ホイールローダ1は、ダンプ積み作業を主体としたVサイクルやホッパ等への直接投入するロード&キャリーといった動作パターンを繰り返す。Vサイクルは、発進した後に土砂等を掘削し、ダンプに積込する動作パターンである。ロード&キャリーは、発進した後に土砂等を掘削し、運搬(高負荷走行)し、ダンプへ排土し、回送(低負荷走行)する動作パターンである。ホイールローダ1は、発進、掘削、運搬、積込、回送等の種々の作業状態に最適な走行速度と駆動力を得るために、変速装置21を頻繁に切換える必要がある。
【0017】
掘削および発進時において、変速装置21は、高い牽引力が要求される。このため、変速装置21は、減速比を上昇させて出力軸23A,23Bの出力トルクを上昇させる必要がある。さらに、ホイールローダ1の車速が0km/h(出力軸23A,23Bの回転速度が0)であっても、動力源であるエンジン9が停止しないように、入力軸22の回転速度を所定以上に保つ必要があり、変速装置21の変速比は無限大となる構造である必要がある。なお、ホイールローダ1の掘削時の車速は、例えば0~4km/hである。
【0018】
運搬時において、変速装置21は、省燃費のために高い伝達効率で、入力軸22から出力軸23A,23Bに動力伝達を行う必要がある。運搬時の車速は、例えば0~13km/hである。一方、ダンプへ排土する場合、ホイールローダ1は、運搬しながら荷役作業機7を上昇させる。このため、荷役作業機7の上昇速度が急に遅くなると、ダンプへ荷役作業機7を衝突させてしまう可能性がある。このため、ダンプに接近する際は、油圧ポンプ10の吐出流量の急激な変化を抑制できることが望ましい。そして、このためには、エンジン9の回転速度が急変しないように変速装置21を制御する必要がある。ダンプへ排土するときに、ダンプへ接近するための車速は、例えば0~7km/hである。この車速では、エンジン9の急激な回転速度の変動を抑制できることが望ましい。
【0019】
一般道または作業現場内を積荷がない状態で走行する回送時において、変速装置21は、省燃費のために、高い伝達効率で入力軸22から出力軸23A,23Bに動力伝達を行う必要がある。回送時の車速は、例えば0~40km/hである。回送時には、荷役作業機7の高い操作性が要求されない。このため、エンジン9の回転速度の急変は許容できる。ただし、省燃費のために、運搬時よりも高い伝達効率で入力軸22から出力軸23A,23Bに動力伝達を行う必要がある。
【0020】
図11は、ホイールローダ1の理想的な駆動力線図を示している。図11中には、前進方向の理想的な駆動力線Lfと、後進方向(後退方向)の理想的な駆動力線Lrとを示している。前進のときは、掘削時に高い牽引力が求められ、回送時に高い車速(0~40km/h)での走行が求められる。また、ホイールローダ1は、採石場等に設けられた多様な勾配の上り坂を安定して登坂する必要がある。このため、例えば、時速3km/h以上では、車速によらず等馬力の牽引力であることが望ましい。
【0021】
図11中の範囲Aは、掘削をするために高い牽引力が求められる範囲、即ち、掘削時の駆動力線の範囲Aを示している。図11中の範囲Bは、車速によらず等馬力の牽引力が求められる範囲、即ち、前進方向の等馬力の駆動力線の範囲Bを示している。図11中、範囲Cは、車速によらず等馬力の牽引力が求められる範囲、即ち、後進方向の等馬力の駆動力線の範囲Cを示している。前進方向の等馬力の駆動力線の範囲Bおよび後進方向の等馬力の駆動力線の範囲Cは、下記の数1式が成立する。
【0022】
【数1】
【0023】
なお、ホイールローダ1は、後進方向に掘削しない。このため、後進方向の理想的な駆動力線Lrの最大牽引力は、前進時と比べて低くなっている。
【0024】
ところで、ホイールローダ1等の作業車両に用いる変速装置21は、無段変速機構による動力伝達とロックアップ機構による動力伝達との切換えが可能であることが好ましい。この場合、変速装置21は、無段変速機構の増速の変速範囲を有効に使うことができることが好ましい。これに加えて、無段変速機構による動力伝達からロックアップ機構による動力伝達に切換えるときに、車両の加減速度の変化を少なくできることが好ましい。また、バリエータの回転速度の上限値と発生(吸収)可能トルクの上限値とが限られている場合に、遊星機構(遊星歯車機構)の変速比(ギヤ比)が最適な値となる配列(歯車配列)を提供ができ、無段変速機構の伝達効率を向上できることが好ましい。
【0025】
そこで、図3および図4に示すように、第1の実施の形態による変速装置21は、遊星式無段変速機構24を無段階変速させながら動力を伝達するモードと、遊星式無段変速機構24を内部ロックアップさせて動力を伝達するモードと、遊星歯車機構29を経由しない外部ロックアップ機構(直結機構27)により動力を伝達するモードとを備えている。内部ロックアップによる動力伝達は、遊星歯車機構29の3つの回転部材(例えば、キャリア、第1サンギヤ、第2サンギヤ)のうちの第1バリエータ33に繋がる回転部材(例えば、第1サンギヤ)の回転を停止させることにより行う。これにより、遊星式無段変速機構24の増速の変速範囲を有効に使うことができる。
【0026】
一方、外部ロックアップによる動力伝達は、遊星式無段変速機構24の外部に取付けられた外部ロックアップ機構(直結機構27)を経由して行う。この場合、外部ロックアップによる動力伝達は、遊星式無段変速機構24による動力伝達を停止した状態で行う。この停止は、遊星歯車機構29の3つの回転部材(例えば、キャリア、第1サンギヤ、第2サンギヤ)のうちの第1バリエータ33に繋がる回転部材(例えば、第1サンギヤ)を解放させる(またはトルクを低減させる)ことにより行う。これにより、内部ロックアップより高い伝達効率で動力を伝達することができると共に、遊星式無段変速機構24の増速の変速範囲をさらに増速して動力伝達を行うことができる。
【0027】
さらに、第1の実施の形態によれば、図4ないし図6に示すように、遊星歯車機構29は、2つのサンギヤ29B,29Cと、これら2つのサンギヤ29B,29Cの中心軸S(図6)を中心として公転しながら自転するプラネットギヤ29Dおよびバランスギヤ29Eと、プラネットギヤ29Dおよびバランスギヤ29Eを回転可能に支持すると共に2つのサンギヤ29B,29Cの中心軸Sを中心として自転する1つのキャリア29Aとを備えている。これにより、遊星歯車機構29は、ギヤ比が最適な値となる歯車配列とすることができる。即ち、この配列の遊星歯車機構29を用いることにより、回転速度の上限値と発生(吸収)可能トルクの上限値とが限られた廉価で小型の第1バリエータ33を用いた場合でも、遊星式無段変速機構24の伝達効率を向上できる。
【0028】
以下、第1の実施の形態による変速装置21について詳細に説明する。なお、図3では、変速装置21の遊星歯車機構29をボックスで示しているのに対して、図4では、遊星歯車機構29の内部、即ち、遊星歯車機構29の具体的な歯車配列についても示している。また、図3および図4では、図面が複雑になることを避けるために、変速装置21の出力軸23を、フロントアクスル12およびリヤアクスル13との両方に動力を伝達する共通の出力軸23(=出力軸23A,23B)として簡略的に表している。即ち、図3および図4では、例えばセンタディファレンシャル機構等を介して前側の出力軸23Aと後側の出力軸23Bとに動力を分割する構成に関しては省略している。
【0029】
図3および図4は、第1の実施の形態による変速装置21、より具体的には、内部ロックアップと外部ロックアップの両方を備えた変速装置21の機構図である。変速装置21は、入力部材としての入力軸22と、出力部材としての出力軸23と、無段変速機構(主変速機構)としての遊星式無段変速機構24と、コントローラ25とを備えている。また、より好ましくは、変速装置21は、有段変速機構(副変速機構)としての多段変速機構26と、外部ロックアップ機構としての直結機構27とを備えている。直結機構27は、直結機構27を通じて動力の伝達を行うときに接続される第1クラッチ27Cを備えている。また、変速装置21は、遊星式無段変速機構24と多段変速機構26と直結機構27とを機械的に結合するアイドラ要素28(アイドラ軸28A、アイドラギヤ28B)を備えている。遊星式無段変速機構24は、第1動力伝達経路を構成している。直結機構27は、第2動力伝達経路を構成している。
【0030】
変速装置21の入力軸22には、エンジン9が接続されている。入力軸22には、油圧ポンプ10に動力を伝達するための歯車10Bが設けられている。また、入力軸22には、直結機構27のインプットギヤ27Aが設けられている。入力軸22は、後述の第2連結部材31を介して遊星式無段変速機構24(より具体的には、遊星歯車機構29)と接続されている。一方、変速装置21の出力軸23からは、動力が出力される。変速装置21の出力軸23は、後述の多段変速機構26の出力軸53を兼ねている。入力軸22から入力された動力は、遊星式無段変速機構24または直結機構27を経由して、アイドラ要素28に伝達される。アイドラ要素28に伝達された動力は多段変速機構26を通じて出力軸23から出力される。
【0031】
なお、遊星式無段変速機構24は、遊星歯車機構29(例えば、第1サンギヤ29B)と第1バリエータ33とを接続する第1連結部材30を停止させることにより、内部ロックアップの状態を形成される。この内部ロックアップの状態は、例えば、第1バリエータ33をブレーキ操作させて第1連結部材30を停止させることにより形成される。遊星式無段変速機構24が内部ロックアップしている状態では、入力軸22から入力された動力は、「遊星歯車機構29(例えば、キャリア29A)と入力軸22とを接続する第2連結部材31」、「遊星歯車機構29」、「遊星歯車機構29(例えば、第2サンギヤ29C)とアイドラ要素28とを接続する第3連結部材32」を通じて、アイドラ要素28に伝達される。このような内部ロックアップについては、後述する。
【0032】
第1の実施の形態では、エンジン9から入力軸22に入力された動力を多段変速機構26に伝達する動力伝達経路を、次の(A)、(B)、(C)の3つの経路のうちから任意に選択することができる。
(A)エンジン9から入力軸22に入力された動力を、遊星式無段変速機構24を無段階変速させた状態で多段変速機構26に伝達する無段階変速経路(遊星式無段変速機構24を経由する第1動力伝達経路)。このとき、第1クラッチ27Cは解放され、第2クラッチ36および第3クラッチ37は接続(締結)される。
(B)エンジン9から入力軸22に入力された動力を、遊星式無段変速機構24を内部ロックアップさせた状態で多段変速機構26に伝達する内部ロックアップ経路(遊星式無段変速機構24を経由する第1動力伝達経路)。このとき、第1クラッチ27Cは解放され、第2クラッチ36は接続(締結)される。第3クラッチ37は必要に応じて接続(締結)される。
(C)エンジン9から入力軸22に入力された動力を、直結機構27を経由して多段変速機構26に伝達する外部ロックアップ経路(遊星式無段変速機構24を経由せずに直結機構27を経由する第2動力伝達経路)。このとき、第1クラッチ27Cは接続(締結)され、第2クラッチ36と第3クラッチ37は必要に応じて解放される。
【0033】
これにより、遊星式無段変速機構24を無段階変速させることが適しているときは、遊星式無段変速機構24を無段階変速させて動力伝達を行うことができる。遊星式無段変速機構24を内部ロックアップさせることが適しているときは、遊星式無段変速機構24を内部ロックアップさせて動力伝達を行うことができる。直結機構27を経由して動力伝達を行うことが適しているときは、直結機構27を経由して動力伝達を行うことができる。
【0034】
遊星式無段変速機構24を無段階変速させて動力の伝達を行うことが適しているときは、掘削中および運搬中で、かつ、車速が0~7km/hの範囲である。この理由は、次の(a)~(c)の通りである。
(a)車両の発進時および掘削時の伝達効率が高い。
(b)変速比を無限大にすることが可能である。即ち、エンジン9が回転している場合であっても、出力軸23の回転を停止しなから出力軸23にトルクを伝達することが可能である。このため、掘削作業に適している。
(c)エンジン9が発生した動力のうち変速装置21を通じて出力軸23に伝達するトルクを制御可能である。即ち、荷役作業機7を動かす油圧ポンプ10と変速装置21との間で、動力の分配が可能である。
【0035】
遊星式無段変速機構24を内部ロックアップさせて動力の伝達を行うことが適しているときは、運搬中および回送中で、かつ、車速が7~9km/hの範囲である。この理由は、次の(d)~(e)の通りである。
(d)車速が高くなると、遊星式無段変速機構24を無段階変速させるよりも、遊星式無段変速機構24を内部ロックアップさせて動力伝達を行った方が、伝達効率が高い。
(e)無段階変速から内部ロックアップへは、機構的に切換えが可能である。このため、無段階変速から内部ロックアップへの切換え時に、エンジン9の急激な回転変動を抑制できる。これにより、油圧ポンプ10の吐出流量の急激な変動を抑制でき、荷役作業機7の操作性を向上できる。これと共に、切換え時の出力軸23のトルクの変動を小さくでき、ホイールローダ1の乗り心地を向上できる。
【0036】
直結機構27を経由して動力の伝達を行うことが適しているときは、運搬中で、かつ、車速が9~13km/hの範囲である。また、回送中で、かつ、車速が9~40km/hの範囲である。この理由は、次の通りである。即ち、直結機構27を経由して動力の伝達を行う外部ロックアップは、動力の伝達効率が最も高い。即ち、外部ロックアップは、一対の歯車27A,27B同士の噛み合いで動力を伝達するため、遊星歯車機構29を介して動力伝達を行う内部ロックアップと比較して伝達効率が高い。なお、車速が9km/h以下は、回送の途中または運搬の途中で急に掘削が開始される可能性がある。一方、直結機構27(外部ロックアップ)から遊星式無段変速機構24に動力伝達経路を切換える場合、この切換えに時間を要する可能性がある。このため、車速が9km/h以下では、直結機構27を使用しないことが望ましい。
【0037】
下記の表1は、内部ロックアップと外部ロックアップとの両方を備えた変速装置21の動力伝達経路の組み合わせを示している。この場合、多段変速機構26は、前進4段と後進1段の変速段を備えている。このため、直結機構27(外部ロックアップ機構)を経由して動力伝達を行う場合、多段変速機構26は、前進1速、前進2速、前進3速、前進4速、後進1速の変速段を選択できる。
【0038】
【表1】
【0039】
なお、多段変速機構26の速度段が、前進2速、前進3速、前進4速のいずれかの場合であっても、直結機構27を経由せずに遊星式無段変速機構24を経由して動力伝達を行ってもよい。このときの遊星式無段変速機構24の動作は、無段階変速動作であってもよいし、内部ロックアップさせた状態であってもよい。しかし、遊星式無段変速機構24を無段階変速動作させると、内部ロックアップおよび外部ロックアップと比較して遊星式無段変速機構24の伝達効率が低くなる。これにより、変速装置21の伝達効率が低下するため、好適には上記表1に示す動力伝達経路の組み合わせを選択することが好ましい。
【0040】
図12は、内部ロックアップと外部ロックアップとの両方が存在する変速装置21の駆動力線図を示している。図12に示すように、前進は、前進1速無段階変速Lf1、前進1速内部ロックアップLf2、前進1速外部ロックアップLf3、前進2速外部ロックアップLf4、前進3速外部ロックアップLf5、前進4速外部ロックアップLf6の6段階に変速が可能となっている。これにより、前進方向の理想的な駆動力線Lfに限りなく近付けることができる。
【0041】
一方、後進は、後進1速無段階変速Lr1、後進1速内部ロックアップLr2、後進1速外部ロックアップLr3の3段階に変速が可能となっている。これにより、後進方向の理想的な駆動力線Lrに限りなく近付けることができる。これらにより、掘削時に高い牽引力を得ることができ、回送時に高い車速(0~40km/h)を得ることができ、かつ、多様な勾配の上り坂を安定して登坂することができる。
【0042】
なお、広い変速比幅を実現するためには、「遊星式無段変速機構24の内部ロックアップ」と「直結機構27による外部ロックアップ」との両方を備えた構成が好ましい。しかし、「遊星式無段変速機構24の増速の変速範囲を有効に使いつつ、無段階変速からロックアップ状態への動力伝達の切換え時に車両の加減速度の変化を抑制すること」を達成するためには、内部ロックアップと外部ロックアップとのうちのいずれか一方のみを備えた構成でもよい。
【0043】
図13は、ロックアップを実現する手段として、遊星式無段変速機構24の内部ロックアップのみを備えた第1の変形例による変速装置21Aを示している。この第1の変形例による変速装置21Aは、遊星式無段変速機構24の内部ロックアップ動作が可能であるが、外部ロックアップ機構(直結機構27)を備えていない。下記の表2は、内部ロックアップのみを備えた変速装置21Aの動力伝達経路の組み合わせを示している。
【0044】
【表2】
【0045】
第1の変形例では、直結機構27(外部ロックアップ)による変速段が1つ少なくなる。このため、内部ロックアップと外部ロックアップとの両方が存在する変速装置21と同等の変速比を得るために、第1の変形例では、多段変速機構26Aは、前進5段と後進2段の変速段を備えている。また、第1の変形例では、後述するように内部ロックアップを実現するためのブロック機構40を備えている。なお、図14は、第2の変形例による変速装置21Bを示している。第2の変形例による変速装置21Bも、第1の変形例のように外部ロックアップ機構を省略している。また、第2の変形例では、後述するように内部ロックアップを実現するためのブレーキ機構41を備えている。さらに、図15は、第3の変形例による変速装置21Cを示している。第3の変形例による変速装置21Cは、外部ロックアップ機構を省略し、かつ、ブレーキ機構41を備えていることに加えて、アイドラ要素28を省略している。即ち、直結機構27(外部ロックアップ)を省略する構成の場合は、アイドラ要素28も省略できる。
【0046】
図16は、遊星式無段変速機構24(内部ロックアップ)を備えているが直結機構27(外部ロックアップ)を備えていない変速装置21A,21B,21C(図13図14図15)の駆動力線図を示している。図16に示すように、前進は、前進1速無段階変速Lf1、前進1速内部ロックアップLf2、前進2速内部ロックアップLf3、前進3速内部ロックアップLf4、前進4速内部ロックアップLf5、前進5速内部ロックアップLf6の6段階に変速が可能となっている。一方、後進は、後進1速無段階変速Lr1、後進1速内部ロックアップLr2、後進2速内部ロックアップLr3の3段階に変速が可能となっている。
【0047】
これに対して、外部ロックアップのみを備えた構成は、例えば、第1の実施の形態の変速装置21(図3図4)で内部ロックアップ動作を行わないことにより実現できる。下記の表3は、外部ロックアップ(直結機構27)を備えているが内部ロックアップ動作を行わない変速装置21の動力伝達経路の組み合わせを示している。
【0048】
【表3】
【0049】
図17は、内部ロックアップ動作を行わない変速装置21の駆動力線図を示している。図17に示すように、前進は、前進1速無段階変速Lf1、前進1速外部ロックアップLf2、前進2速外部ロックアップLf3、前進3速外部ロックアップLf4、前進4速外部ロックアップLf5の5段階に変速が可能となっている。一方、後進は、後進1速無段階変速Lr1、後進1速外部ロックアップLr2の2段階に変速が可能となっている。
【0050】
次に、遊星式無段変速機構24について、図3を参照しつつ説明する。遊星式無段変速機構24は、遊星歯車機構29と、第1バリエータ33と、第2バリエータ34と、伝達要素35と、第2クラッチ36と、第3クラッチ37とを備えている。遊星歯車機構29は、第1連結部材30を介して第1出力側(第1バリエータ33側)に接続されている。遊星歯車機構29は、第2連結部材31を介して入力側(エンジン9側)に接続されている。遊星歯車機構29は、第3連結部材32を介して第2出力側(アイドラ要素28側)に接続されている。
【0051】
第1バリエータ33および第2バリエータ34は、電動モータ・ジェネレータ(電動モータ、電動ジェネレータ)または油圧ポンプ・モータ(油圧ポンプ、油圧モータ)等により構成されている。第1バリエータ33および第2バリエータ34は、第1バリエータ33の回転速度と第2バリエータ34の回転速度とが異なる場合に、無段階に変速を行いつつ両者間で動力伝達を行うことが可能に構成されている。このために、第1バリエータ33と第2バリエータ34との間には、両者間で動力を伝達するための伝達要素35が設けられている。伝達要素35は、例えば、電気配線または油圧配管により構成されている。伝達要素35の途中には、動力貯蔵源38が取り付けられていてもよい。動力貯蔵源38は、例えば、油圧アキュームレーターまたは蓄電池により構成することができる。また、第1バリエータ33と第2バリエータ34と伝達要素35の機能は、変速比無限大変速機(IVT)により構成してもよい。
【0052】
遊星歯車機構29と第1バリエータ33との間、即ち、第1連結部材30と第1バリエータ33との間には、第2クラッチ36が設けられている。第2クラッチ36は、例えば、摩擦接合によるクラッチ(摩擦板)、ドグクラッチまたはシンクロメッシュ付ドグクラッチにより構成されている。第2クラッチ36は、第1連結部材30と第1バリエータ33との間で両者の機械的な結合(接続)と解放とを行う。即ち、第2クラッチ36は、遊星歯車機構29と第1バリエータ33との間で、これら遊星歯車機構29と第1バリエータ33との間の動力の伝達と解放とを切換える。
【0053】
コントローラ25は、例えば、演算回路(CPU)、メモリ等を備えたマイクロコンピュータを含んで構成されている。コントローラ25は、第1クラッチ27Cの締結と解放、第2クラッチ36の締結と解放、第3クラッチ37の締結と解放とを制御する。コントローラ25は、第1バリエータ33の回転速度を制御する。コントローラ25は、必要に応じて第2バリエータ34の回転速度を制御する。コントローラ25は、必要に応じて伝達要素35、動力貯蔵源38を制御する。コントローラ25は、必要に応じて、後述するブロック機構40(図13)、ブレーキ機構41(図14図15)を制御する。さらに、コントローラ25は、後述する多段変速機構26のクラッチ58,59,60,66,67,68,69の締結と解放とを制御する。
【0054】
ここで、コントローラ25は、第2クラッチ36の締結と解放とを制御する。例えば、遊星式無段変速機構24による動力伝達が不要なときは、コントローラ25は、第2クラッチ36を解放する信号を出力し、第2クラッチ36を解放する。これにより、第1バリエータ33の回転を停止(または低下させる)ことができ、第1バリエータ33の回転による動力損失を低減できる。
【0055】
第2バリエータ34は、第3クラッチ37を介してアイドラ要素28と接続されている。第3クラッチ37は、第2バリエータ34とアイドラ要素28との間で、これら第2バリエータ34とアイドラ要素28との間の動力の伝達と解放とを切換える。即ち、第3クラッチ37は、第2バリエータ34とアイドラ要素28との間に設けられている。アイドラ要素28は、アイドラ軸28Aと、アイドラ軸28Aに設けられたアイドラギヤ28Bとを備えている。アイドラ軸28Aは、第1クラッチ27Cを介して直結機構27のロックアップギヤ27B(より具体的には、ロックアップギヤ27Bの回転軸27B1)に接続される。
【0056】
また、アイドラ軸28Aは、変速機39および第3クラッチ37を介して第2バリエータ34に接続される。アイドラギヤ28Bは、第3連結部材32と噛合しており、第3連結部材32を介して遊星歯車機構29と接続されている。第2バリエータ34とアイドラ要素28との間には、第2バリエータ34とアイドラ要素28との間で変速を行う変速機39が設けられている。この変速機39は、省略してもよい。この場合には、アイドラ要素28のアイドラ軸28Aと第2バリエータ34の回転軸との間に第3クラッチ37を設け、第3クラッチ37によりアイドラ軸28Aと第2バリエータ34の回転軸との接続(締結)と解放とを行うことができる。
【0057】
第3クラッチ37は、例えば、摩擦接合によるクラッチ(摩擦板)、ドグクラッチまたはシンクロメッシュ付ドグクラッチにより構成されている。第3クラッチ37は、第2バリエータ34とアイドラ要素28との間で両者の機械的な結合(接続)と解放とを行う。コントローラ25は、第3クラッチ37の締結と解放とを制御する。例えば、第2バリエータ34による動力伝達が不要なときは、コントローラ25は、第3クラッチ37を解放する信号を出力し、第3クラッチ37を解放する。これにより、第2バリエータ34の回転を停止(または低下させる)ことができ、第2バリエータ34の回転による動力損失を低減できる。ただし、これらの条件の下で、必ずしも第3クラッチ37を解放しなくてもよい。
【0058】
なお、第2バリエータ34による動力伝達が不要なとき、および、遊星式無段変速機構24による動力伝達が不要なときは、例えば、次の(f)~(i)通りである。ただし、これら(f)~(i)の条件の下で必ずしも第2クラッチ36または第3クラッチ37を解放しなくてもよい。
(f)入力軸22から入力された動力が、直結機構27を介してアイドラ要素28へ伝達されるとき。
(g)第1連結部材30の回転が第1バリエータ33以外の別の手段(例えばブレーキ機構41)によって固定されることにより、遊星式無段変速機構24が内部ロックアップ状態になっているとき。
(h)車両が停止しているとき。
(i)車両が滑走(慣性走行)しているとき。
【0059】
エンジン9から第2連結部材31に伝達された動力は、遊星歯車機構29により、第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30とアイドラ要素28に繋がる第3連結部材32とに分配される。第1連結部材30に分配された動力は、第2クラッチ36、第1バリエータ33、伝達要素35、第2バリエータ34、第3クラッチ37、変速機39を通じ、アイドラ要素28に伝達される。第3連結部材32に分配された動力は、アイドラ要素28に伝達される。第1連結部材30と第3連結部材32とのトルクの分配比率は、常に一定であり、遊星歯車機構29の形式と歯車の噛み合い半径に依存する。
【0060】
ただし、第1連結部材30と第3連結部材32とのトルクの分配比率は、一定となる。このため、常に第1バリエータ33から第2バリエータ34に動力が伝達されるわけではなく、第2バリエータ34から第1バリエータ33へ動力伝達される場合がある。第3連結部材32からアイドラ要素28に伝達される動力は、第1連結部材30から第1バリエータ33および第2バリエータ34を経由する動力より損失が小さい。このため、バリエータ33,34と遊星歯車機構29とを組み合わせた遊星式無段変速機構24は、バリエータのみで動力伝達を行う無段階変速装置に比べて動力伝達効率が高い。
【0061】
次に、遊星歯車機構29について説明する。図3では、遊星歯車機構29を四角(ブロック)で示している。ここで、遊星歯車機構29は、動力源であるエンジン9に繋がる第1部材と、第1バリエータ33に繋がる第2部材と、出力軸23側となるアイドラ要素28に繋がる第3部材との3つの部材(回転部材)を有している。ここで、第1の実施形態では、遊星歯車機構29は、キャリアと2つのサンギヤ(第1サンギヤ、第2サンギヤ)とにより構成されている。下記の表4は、遊星歯車機構29の構成要素(キャリア、第1サンギヤ、第2サンギヤ)の組み合わせを示している。表4中の「No1-A」は、遊星式無段変速機構24の伝達効率を向上させつつ遊星歯車機構29を小型で軽量に構成する面から最も好適である。
【0062】
【表4】
【0063】
図4ないし図6に示すように、第1の実施形態(即ち、表4のNo1-A)では、遊星歯車機構29は、第1部材に対応するキャリア29Aと、第2部材に対応する第1サンギヤ29Bと、第3部材に対応する第2サンギヤ29Cと、プラネットギヤ29Dと、バランスギヤ29Eとを備えている。なお、第1サンギヤ29B、第2サンギヤ29C、プラネットギヤ29Dおよびバランスギヤ29Eは、ギヤ(歯車)の噛み合いによる動力伝達でなくてもよく、例えば、ローラ(外周面)の摩擦による動力伝達であってもよい。
【0064】
エンジン9は、第2連結部材31を介してキャリア29Aに結合されている。第1サンギヤ29Bは、第1連結部材30を介して第1バリエータ33に接続されている。第2サンギヤ29Cは、第3連結部材32を介してアイドラ要素28(アイドラギヤ28B)に接続されている。第1サンギヤ29Bは、プラネットギヤ29Dと噛み合っている。第2サンギヤ29Cは、バランスギヤ29Eと噛み合っている。バランスギヤ29Eは、プラネットギヤ29Dと噛み合っている。
【0065】
プラネットギヤ29Dの自転軸Sp(図6)およびバランスギヤ29Eの自転軸Sb(図6)は、キャリア29Aに支持されている。このため、プラネットギヤ29Dおよびバランスギヤ29Eは、遊星歯車機構29の中心軸S(図6)を中心に公転しながら自転する。プラネットギヤ29Dは、第1サンギヤ29Bと噛み合うギヤ部29D1と、バランスギヤ29Eと噛み合うギヤ部29D2とを備えている。遊星歯車機構29の成立の制約条件は、第1サンギヤ29Bの中心軸Sとプラネットギヤ29Dの自転軸Spとの間の距離と、第2サンギヤ29Cの中心軸Sとプラネットギヤ29Dの自転軸Spとの間の距離とが一致することである。このため、第1サンギヤ29B、プラネットギヤ29D、第1サンギヤ29Bと噛み合うギヤ部29D1、第2サンギヤ29C、バランスギヤ29E、および、バランスギヤ29Eと噛み合うギヤ部29D2のそれぞれの歯数、歯車のモジュール、歯車の転位、バランスギヤ29Eの自転中心位置を調整し、前記距離を一致させることが必要である。即ち、前記距離を一致させることができればよく、例えば、第1サンギヤ29Bと第2サンギヤ29Cの歯数の差を小さくすること、または、同じ歯数にすることが可能である。このため、遊星歯車機構29の減速比を自由に設定できる。
【0066】
なお、第1の実施の形態によれば、バランスギヤ29Eは、第2サンギヤ29Cとプラネットギヤ29Dとの間に設けられているが、第1サンギヤ29Bとプラネットギヤ29Dとの間に設けてもよい。ただし、「第2サンギヤ29Cとプラネットギヤ29Dとの間」と「第1サンギヤ29Bとプラネットギヤ29Dとの間」との両方にバランスギヤ29Eを設ける場合、または、両方にバランスギヤ29Eを設けない場合でも、動力伝達を行うことが可能である。ただし、好適には、いずれか一方にバランスギヤを設ける。
【0067】
次に、キャリア29Aと2つのサンギヤ29B,29Cとにより構成される遊星歯車機構29の動作を説明する。以下は、表4の「No1-A」、「No1-B」、「No1-C」の全ての条件で成立する。
【0068】
まず、遊星歯車機構29の3つの部材(キャリア29Aと2つのサンギヤ29B,29C)のトルクの分配について説明する。図6は、遊星歯車機構29を動力源側からみた断面図である。キャリア29A、第1サンギヤ29Bおよび第2サンギヤ29Cは、同心に配置されている。即ち、キャリア29A、第1サンギヤ29Bおよび第2サンギヤ29Cの中心軸S(回転中心軸)は一致している。第1サンギヤ29Bは、プラネットギヤ29Dのギヤ部29D1と噛み合う。第2サンギヤ29Cは、バランスギヤ29Eと噛み合う。バランスギヤ29Eは、プラネットギヤ29Dのギヤ部29D2と噛み合う。バランスギヤ29Eとプラネットギヤ29Dは、それぞれの歯車の噛み合いが成立するように、キャリア29Aによって自転方向に自由に回転し、かつ、中心軸Sに対して公転方向に拘束されている。このため、プラネットギヤ29Dは、プラネットギヤ29Dの中心軸である自転軸Spを中心に自転し、かつ、キャリア29Aの中心軸Sを中心に公転する。このため、プラネットギヤ29Dの中心軸(自転軸Sp)の軌跡Cpは、キャリア29Aの中心軸Sを中心とした円となる。バランスギヤ29Eは、バランスギヤ29Eの中心軸である自転軸Sbを中心に自転し、かつ、キャリア29Aの中心軸Sを中心に公転する。このため、バランスギヤ29Eの中心軸(自転軸Sb)の軌跡Cbは、キャリア29Aの中心軸Sを中心とした円となる。
【0069】
第1サンギヤ29Bの噛み合い半径rs1は、第1サンギヤ29Bとプラネットギヤ29Dとが噛み合うときの第1サンギヤ29B側の噛み合い半径である。プラネットギヤ29Dのギヤ部29D1の噛み合い半径rp1は、第1サンギヤ29Bとプラネットギヤ29Dとが噛み合うときのギヤ部29D1側の噛み合い半径である。第2サンギヤ29Cの噛み合い半径rs2は、第2サンギヤ29Cとバランスギヤ29Eとが噛み合うときの第2サンギヤ29C側の噛み合い半径である。プラネットギヤ29Dのギヤ部29D2の噛み合い半径rp2は、バランスギヤ29Eとプラネットギヤ29Dとが噛み合うときプラネットギヤ29D側の噛み合い半径である。
【0070】
第1の実施の形態(表4のNo1-A)では、キャリア29Aは、エンジン9に繋がる部材、即ち、第2連結部材31に接続されているため、キャリア29AのトルクTcは、エンジン9が発生することができるトルクである。第1サンギヤ29Bは、第1バリエータ33に繋がる部材、即ち、第1連結部材30に接続されているため、第1サンギヤ29BのトルクTs1は、第1バリエータ33が発生することができるトルクである。第2サンギヤ29Cは、アイドラ要素28に繋がる部材、即ち、第3連結部材32に接続されているため、第2サンギヤ29CのトルクTs2は、アイドラギヤ28Bから受けるトルク反力である。
【0071】
図18に示す第4の変形例(即ち、表4のNo1-B)の変速装置21Dでは、第1サンギヤ29Bは、エンジン9に繋がる部材、即ち、第2連結部材31に接続されているため、第1サンギヤ29BのトルクTs1は、エンジン9が発生することができるトルクである。キャリア29Aは、第1バリエータ33に繋がる部材、即ち、第1連結部材30に接続されているため、キャリア29AのトルクTcは、第1バリエータ33が発生することができるトルクである。第2サンギヤ29Cは、アイドラ要素28に繋がる部材、即ち、第3連結部材32に接続されているため、第2サンギヤ29CのトルクTs2は、アイドラギヤ28Bから受けるトルク反力である。
【0072】
図19に示す第5の変形例(即ち、表4のNo1-C)の変速装置21Eでは、第1サンギヤ29Bは、エンジン9に繋がる部材、即ち、第2連結部材31に接続されているため、第1サンギヤ29BのトルクTs1は、エンジン9が発生することができるトルクである。第2サンギヤ29Cは、第1バリエータ33に繋がる部材、即ち、第1連結部材30に接続されているため、第2サンギヤ29CのトルクTs2は、第1バリエータ33が発生することができるトルクである。キャリア29Aは、アイドラ要素28に繋がる部材、即ち、第3連結部材32に接続されているため、キャリア29AのトルクTcは、アイドラギヤ28Bから受けるトルク反力である。
【0073】
次に、第1サンギヤ29BのトルクTs1、第2サンギヤ29CのトルクTs2およびキャリア29AのトルクTcの関係性を説明する。まず、第1サンギヤ29Bと第2サンギヤ29Cは、プラネットギヤ29Dとバランスギヤ29Eとを介して噛み合っている。また、バランスギヤ29Eとプラネットギヤ29Dは、キャリア29Aによって自転方向に自由に回転し、かつ、キャリア29Aの中心軸Sに対して公転方向に拘束されている。これらから、作用反作用の関係を求めると、下記の数2式、数3式、数4式が成立する。
【0074】
【数2】
【0075】
【数3】
【0076】
【数4】
【0077】
これらの式より、第1サンギヤ29BのトルクTs1、第2サンギヤ29CのトルクTs2およびキャリア29AのトルクTcは、ギヤ部29D2の噛み合い半径rp2、第2サンギヤ29Cの噛み合い半径rs2、ギヤ部29D1の噛み合い半径rp1および第1サンギヤ29Bの噛み合い半径rs1から計算することができる。ギヤ部29D2の噛み合い半径rp2、第2サンギヤ29Cの噛み合い半径rs2、ギヤ部29D1の噛み合い半径rp1、第1サンギヤ29Bの噛み合い半径rs1は、それぞれの歯車の噛み合い半径で決まるため、遊星式無段変速機構24が動力伝達している間に変更できない。このため、第1サンギヤ29BのトルクTs1、第2サンギヤ29CのトルクTs2およびキャリア29AのトルクTcの比率は、遊星式無段変速機構24が動力伝達している間は不変である。
【0078】
コントローラ25は、この法則に基づいて、第1バリエータ33を制御する信号を出力し、第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30(例えば、第1サンギヤ29B)のトルクを制御する。即ち、コントローラ25は、第1バリエータ33を制御することにより第1連結部材30(例えば、第1サンギヤ29B)のトルクを制御する。これにより、コントローラ25は、エンジン9に繋がる第2連結部材31(例えば、キャリア29A)のトルクとアイドラ要素28に繋がる第3連結部材32(例えば、第2サンギヤ29C)のトルクとを間接的に制御する。この結果、エンジン9に繋がる第2連結部材31(例えば、キャリア29A)とアイドラ要素28に繋がる第3連結部材32(例えば、第2サンギヤ29C)との間で、伝達トルクを制御することができる。
【0079】
次に、第1サンギヤ29Bの自転速度、第2サンギヤ29Cの自転速度およびキャリア29Aの自転速度の関係性を説明する。まず、第1サンギヤ29Bと第2サンギヤ29Cは、プラネットギヤ29Dとバランスギヤ29Eとを介して噛み合っている。また、バランスギヤ29Eとプラネットギヤ29Dは、キャリア29Aによって自転方向に自由に回転し、かつ、キャリア29Aの中心軸Sに対して公転方向に拘束されている。これらから、回転速度の関係を求めると、下記の数5式が成立する。なお、数5式中の「Ka」は、数6式の通りである。なお、キャリア29Aの自転速度を「Vc」とし、第1サンギヤ29Bの自転速度を「Vs1」とし、第2サンギヤ29Cの自転速度を「Vs2」とする。
【0080】
【数5】
【0081】
【数6】
【0082】
図7は、遊星歯車機構29の回転速度の関係を示している。図7中の速度関係線Y1は、数5式を線図で表している。キャリア29Aの自転速度が一定と仮定する。この場合、第2サンギヤ29Cの自転速度を高くすると、第1サンギヤ29Bの自転速度が低くなる。反対に、第2サンギヤ29Cの自転速度を低くすると、第1サンギヤ29Bの自転速度が高くなる。コントローラ25は、この法則に基づいて、第1バリエータ33を制御する信号を出力し、第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30(例えば、第1サンギヤ29B)の回転速度を制御する。即ち、コントローラ25は、第1バリエータ33を制御することにより第1連結部材30(例えば、第1サンギヤ29B)の回転速度を制御する。これにより、コントローラ25は、エンジン9に繋がる第2連結部材31(例えば、キャリア29A)の回転速度とアイドラ要素28に繋がる第3連結部材32(例えば、第2サンギヤ29C)の回転速度とを間接的に制御する。この結果、エンジン9に繋がる第2連結部材31(例えば、キャリア29A)とアイドラ要素28に繋がる第3連結部材32(例えば、第2サンギヤ29C)との間で、変速比を制御することができる。
【0083】
前述したように、遊星歯車機構29は、第1サンギヤ29Bの中心軸Sとプラネットギヤ29Dの自転軸Spとの間の距離と、第2サンギヤ29Cの中心軸Sとプラネットギヤ29Dの自転軸Spとの間の距離とを一致させる必要がある。即ち、これらの距離を一致させることができればよく、例えば、第1サンギヤ29Bの噛み合い半径rs1とギヤ部29D1の噛み合い半径rp1と第2サンギヤ29Cの噛み合い半径rs2とギヤ部29D2の噛み合い半径rp2を自由に設定することができる。従って、遊星歯車機構29は、トルクTc,Ts1,Ts2の関係式(数2式、数3式、数4式)および自転速度Vs1,Vs2,Vcの関係式(数5式、数6式)から、第1バリエータ33が吸収できるトルクと許容可能な最高回転速度とに応じて、第1サンギヤ29Bの噛み合い半径rs1とギヤ部29D1の噛み合い半径rp1と第2サンギヤ29Cの噛み合い半径rs2とギヤ部29D2の噛み合い半径rp2とを調整する。これにより、数6式のKaの値を理想的な値に設定し、図7に示す速度関係線Y1の傾きを理想的な値とすることにより、第1バリエータ33が吸収できるトルクと許容可能な最高回転速度との両方に、遊星歯車機構29のトルクと回転速度を合せることが可能となる。この結果、小型で廉価な第1バリエータ33を用いることができ、かつ、遊星式無段変速機構24の伝達効率を向上できる。
【0084】
なお、第1バリエータ33の大きさおよび価格は、第1バリエータ33が吸収できるトルクの大きさと比例する。このため、第1バリエータ33の吸収トルクは、小さい方が望ましい。第1の実施の形態(即ち、表4のNo1-A)で具体例を挙げて説明する。まず、数6式のKaの値は、小さくすることが望ましい。さらに、遊星歯車機構29とアイドラ要素28との間の動力の伝達効率を検討する。この場合、第1連結部材30、第1バリエータ33、伝達要素35、第2バリエータ34、変速機39および第3クラッチ37を経由する動力伝達経路の伝達効率は、70~80%程度である。一方、第3連結部材32を経由する動力伝達経路の伝達効率は、99%程度である。このため、第1バリエータ33に分配されるトルクは小さい方が、遊星式無段変速機構24の伝達効率を向上できる。このため、数6式のKaの値を小さくすることは遊星式無段変速機構24にとって好都合である。
【0085】
一方で、図7に示す速度関係線Y1から、Kaの値を小さくすると、「第2サンギヤの回転速度/キャリア回転速度(縦軸)」が小さいときの「第1サンギヤの回転速度/キャリアの回転速度(横軸)」が大きくなる。第2サンギヤ29Cは、アイドラ要素28、多段変速機構26を介して出力軸23に繋がっているので、「第2サンギヤの回転速度/キャリア回転速度」が小さいときは、動力源(エンジン9)が回転しており車速が低速である状態である。即ち、キャリア29Aの回転速度(動力源の回転速度)が一定のもとで、Kaを小さくすると、車両が低速のときの第1バリエータ33の回転速度が上昇してしまう。一例として、具体的な例を挙げると、「第2サンギヤの回転速度/キャリア回転速度」が0の時、第2サンギヤ29Cは0回転である。第2サンギヤ29Cは、アイドラ要素28、多段変速機構26を介して出力軸23に繋がっているため、第2サンギヤ29Cが0min-1の場合、車速は0km/hである。つまり、遊星式無段変速機構24の変速比は無限大である。第1サンギヤ29Bの回転速度の制限は、6000min-1程度であり、動力源(エンジン9)をディーゼルエンジンとすると、キャリア29Aの回転速度の制限は、2000min-1程度であるため、「第1サンギヤの回転速度/キャリアの回転速度」は、3.0となる。数5式に、「第2サンギヤの回転速度/キャリア回転速度=0」、「第1サンギヤの回転速度/キャリアの回転速度=3」を代入すると、Ka=0.5となる。つまり、Ka=0.5前後が下限値となる。以上のように、Kaの値は、第1バリエータ33の許容可能な最高回転速度を越えない範囲で小さくすることが望ましい。そして、キャリアと2つのサンギヤとから構成される遊星歯車機構29は、第1サンギヤ29Bの噛み合い半径rs1とギヤ部29D1の噛み合い半径rp1と第2サンギヤ29Cの噛み合い半径rs2とギヤ部29D2の噛み合い半径rp2とを自由に設定できることから、Kaの値を自由に決めることができる。このため、第1バリエータ33の許容可能な最高回転速度まで運転することができる。これにより、小型で廉価な第1バリエータ33を用いることができ、かつ、遊星式無段変速機構24の伝達効率を80~93%まで向上できる。
【0086】
これに対して、図19に示す第5の変形例(即ち、表4のNo1-C)について説明をする。第5の変形例では、第1バリエータ33は第2サンギヤ29Cに接続されているため、第1バリエータ33側に分配されるトルクはTs2となる。数3式より、Ts2は、rs2およびrp1が小さい方が、rs1およびrp2が大きい方が、小さくなる。前述のように、第1バリエータ33側に分配されるトルクは、伝達効率とバリエータの価格の面から小さい方が好ましいので、rs2およびrp1は小さく、rs1およびrp2は大きくすれば良い。この場合、Kaは、数6式により大きくなる。つまり、Kaが大きいほど、第1バリエータ33の必要なトルクは小さくなると言える。数5式を変形し、下記の数7式が導き出せる。数7式の線図を図8に示す。
【0087】
【数7】
【0088】
一例として具体例をあげると、キャリア29Aはアイドラ要素28、多段変速機構26を介して出力軸23とつながっているので、Vcが0min-1の場合に、車速は0km/hになる。この場合、「Vc/Vs1」は、0となる。ここで、動力源となるエンジン9がディーゼルエンジンの場合、エンジン9の最高回転速度は、2000min-1程度であるため、Vs1は、2000min-1となる。また、第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30の許容回転速度(Vs2)は、-6000min-1から6000min-1程度である。これにより、「Vs2/Vs1」は、-3~3の範囲を取ることができる。数7式に、「Vc/Vs1=0」、「Vs2/Vs1=-3」を代入し、Kaを求めると、Ka=3となる。つまり、この場合のKaの上限値は3前後となる。このためKaの値は、第1バリエータ33の許容可能な最高回転速度を越えない範囲で大きくすることが望ましい。そして、上述のようにKaの値を自由に決めることができるため、第1バリエータ33の許容可能な最高回転速度まで運転することができる。これにより、小型で廉価な第1バリエータ33を用いることができ、かつ、遊星式無段変速機構24の伝達効率を80~93%まで向上できる。
【0089】
これに対して、図18に示す第4の変形例(即ち、表4のNo1-B)について説明をする。第4の変形例では、第1バリエータ33はキャリア29Aに接続されているため、第1バリエータ33側に分配されるトルクはTcとなる。数4式より、Ts1(動力源となるエンジン9からのトルク)が一定値のもとで、Tcを小さくするためには、Ts2を小さくすれば良い。数3式より、Ts2は、rs2およびrp1が小さい方が、rs1およびrp2が大きい方が、小さくなる。前述のように、第1バリエータ33側に分配されるトルクは、伝達効率とバリエータの価格の面から小さい方が好ましいので、rs2およびrp1は小さく、rs1およびrp2は大きくすれば良い。この場合、Kaは、数6式により大きくなる。つまり、Kaが大きいほど、第1バリエータ33の必要なトルクは小さくなると言える。数5式を変形し、下記の数8式が導き出せる。数8式の線図を図9に示す。
【0090】
【数8】
【0091】
一例として具体例をあげると、第2サンギヤ29Cはアイドラ要素28、多段変速機構26を介して出力軸23とつながっているので、Vs2が高回転で回転する場合に車速はより高い車速で走行する。遊星式無段変速機構24の変速の範囲は、広い方が良いので、「Vs2/Vs1」の最大値は大きい方が望ましい。しかし、アイドラ要素28に繋がる第3連結部材32の許容回転速度(Vs2)は、8000min-1程度である。また、動力源となるエンジン9がディーゼルエンジンの場合、エンジン9の最高回転速度は、2000min-1程度であるため、Vs1は、2000min-1となる。このため、「Vs2/Vs1」の上限値は、4.0程度となる。さらに、第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30の許容回転速度(Vs2)は、-6000min-1から6000min-1程度である。これにより、「Vc/Vs1」は、-3~3の範囲を取ることができる。数8式に、「Vs/Vs1=4.0」、「Vs2/Vs1=3」を代入し、Kaを求めると、Ka=0.5となる。つまり、Kaは、0.5程度が上限値となる。そして、上述のようにKaの値を自由に決めることができるため、第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30の許容可能な最高回転速度まで運転することができる。これにより、第1バリエータ33の伝達トルクが小さくなり、小型で廉価な第1バリエータ33を用いることができる。
【0092】
次に、遊星式無段変速機構24の内部ロックアップ動作について説明する。遊星式無段変速機構24は、動力伝達効率が80~93%であり、無段階変速機としては伝達効率が高い。これに対して、例えば、一対の歯車同士の噛み合いによる歯車変速機の動力伝達効率は、99%程度である。このため、遊星式無段変速機構24は、一対の歯車同士の噛み合いによる変速機よりも動力伝達効率が低い。この理由を、図3を参照しつつ説明する。
【0093】
即ち、遊星歯車機構29とアイドラ要素28(アイドラギヤ28B)との間の動力の伝達効率を考える。ここで、第1連結部材30、第1バリエータ33、伝達要素35、第2バリエータ34、変速機39および第3クラッチ37を経由する動力伝達経路の伝達効率は、70~80%程度である。これに対して、第3連結部材32を経由する動力伝達経路の伝達効率は、99%程度である。このため、伝達効率を高めるためには、第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30の回転を停止させ、第1バリエータ33と第2バリエータ34との間で動力伝達を行なわないようにすればよい。これにより、エンジン9から第2連結部材31を通じて遊星歯車機構29に供給された動力は、第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30に分配されずに、アイドラ要素28(アイドラギヤ28B)に繋がる第3連結部材32に全て伝達される。
【0094】
第3連結部材32とアイドラギヤ28Bは、歯車同士の噛み合いで動力が伝達されるため、エンジン9から第2連結部材31を通じて遊星歯車機構29に供給された動力は、高い効率でアイドラギヤ28Bに伝達できる。これにより、遊星式無段変速機構24の動力伝達効率が97%程度まで向上し、変速装置21の伝達効率を向上できる。この結果、ホイールローダ1を省燃費にできる。
【0095】
遊星式無段変速機構24が内部ロックアップ動作している場合、遊星式無段変速機構24は固定変速比となる。ここで内部ロックアップ変速比をInとすると、内部ロックアップ変速比Inは、次の数9式で表すことができる。なお、第3連結部材32の回転速度を「V32」とし、第2連結部材31の回転速度を「V31」とし、第1連結部材30の回転速度を「V30」とする。
【0096】
【数9】
【0097】
内部ロックアップ動作時においても、前述の数5式は成立する。このため、数5式に第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30の回転速度を0として代入することにより、内部ロックアップ変速比Inを計算できる。例えば、第1の実施の形態(表4のNo1-A)では、数5式に、第1連結部材30に接続された第1サンギヤ29Bの自転速度Vs1を0として代入する。即ち、内部ロックアップ変速比Inは、次の数10式となる。
【0098】
【数10】
【0099】
図18に示す第4の変形例(表4のNo1-B)では、数8式に、第1連結部材30に接続されたキャリア29Aの自転速度Vcを0として代入する。即ち、内部ロックアップ変速比Inは、次の数11式となる。
【0100】
【数11】
【0101】
図19に示す第5の変形例(表4のNo1-C)では、数7式に、第1連結部材30に接続された第2サンギヤ29Cの自転速度Vs2を0として代入する。即ち、内部ロックアップ変速比Inは、次の数12式となる。
【0102】
【数12】
【0103】
このように、内部ロックアップ変速比Inは、遊星歯車機構29の歯車の組み合わせと、Kaに依存する。遊星式無段変速機構24を内部ロックアップの状態とするためには、遊星歯車機構29に繋がる3つの連結部材30,31,32のうちの第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30の回転を停止させればよい。第1バリエータ33および第2バリエータ34が油圧ポンプ・モータである場合、コントローラ25は、第1バリエータ33の油圧ポンプ・モータの容積を所定以上(好適には最大容積の10%以上)に保持し、第2バリエータ34の油圧ポンプ・モータの容積を0に制御する。
【0104】
また、第1連結部材30の回転を停止させるために、例えば、図13に示す第1の変形例のように、第1バリエータ33と第2バリエータ34との間で動力伝達を行う伝達要素35にブロック機構40を設ける構成を採用してもよい。ブロック機構40は、コントローラ25によって制御されることにより、第1バリエータ33と第2バリエータ34との間の動力伝達を遮断する。
【0105】
例えば、伝達要素35の動力伝達が油圧によって行われる場合、ブロック機構40は、油圧バルブにより構成できる。コントローラ25は、ブロック機構40に信号を送り、第1バリエータ33と第2バリエータ34と間の油の流れを遮断する。また、第1バリエータ33と第2バリエータ34間の動力伝達が電力で行われる場合、ブロック機構40は、インバータ・コンバータにより構成できる。この場合、インバータ・コンバータは、電力線間に擬似的な抵抗を与え、電力線間の電圧を上昇させる。また、ブロック機構40としては、マグネットコンタクタにより電力の流れを遮断る構成、抵抗器で電力線間に抵抗を与える構成を採用してもよい。いずれの場合も、コントローラ25は、ブロック機構40に動力の伝達と遮断の信号を送り、ブロック機構40を制御する。
【0106】
また、内部ロックアップ状態は、第1バリエータ33の回転軸を非回転部に固定し、第1バリエータ33の回転を止めることにより実現してもよい。例えば、図14に示す第2の変形例および図15に示す第3の変形例のように、第1連結部材30を非回転部(例えば、変速装置21のケース)にブレーキ機構41で固定することにより、内部ロックアップ状態を実現してもよい。ブレーキ機構41は、摩擦結合または機械的な噛み合い結合により、第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30を非回転部に固定する構成を採用できる。特に、第1バリエータ33が発電機である場合には、内部ロックアップの動作時であっても第1バリエータ33(発電機)に電流を流す必要がある。このため、動力損出の観点からは、第1連結部材30を非回転部にブレーキ機構41で固定することが望ましい。即ち、第1バリエータ33が発電機である場合には、動力損出の観点から、第1連結部材30を非回転部にブレーキ機構41で固定することが望ましい。これにより、内部ロックアップ時の遊星式無段変速機構24の動力伝達を向上でき、ホイールローダ1を省燃費にできる。
【0107】
なお、図13ないし図15に示す第1ないし第3の変形例の変速装置21A,21B,21Cは、遊星式無段変速機構24の内部ロックアップ動作を行うことができるが、外部ロックアップ機構(直結機構27)を備えていない。このような変速装置21A,21B,21Cの場合、発進時および掘削時は、遊星式無段変速機構24を無段階変速させて動力伝達を行い、運搬時および回送時は、遊星式無段変速機構24を内部ロックアップさせて動力伝達を行う。これにより、無段階変速が必要な発進時および掘削時(車速0~7km/h)は、遊星式無段変速機構24による無段階変動で動力伝達効率を高めることができる。一方、無段階変速が必要ない運搬時および回送時(車速7km/h以上)は、遊星式無段変速機構24を内部ロックアップ動作させ、無段階変速よりもさらに伝達効率を高めることができる。これにより、ホイールローダ1を省燃費にできる。
【0108】
次に、外部ロックアップ機構である直結機構27について、図3を参照しつつ説明する。直結機構27は、エンジン9から供給された動力を、遊星式無段変速機構24を介さずに歯車同士の噛み合いによりアイドラギヤ28Bに伝達する。直結機構27の動力伝達効率は、99%程度であるため、変速装置21の伝達効率が向上し、ホイールローダ1を省燃費にできる。直結機構27は、入力軸22に設けられたインプットギヤ27Aと、インプットギヤ27Aと噛合するロックアップギヤ27Bと、第1クラッチ27Cとを備えている。ロックアップギヤ27Bが設けられた回転軸27B1は、第1クラッチ27Cを介してアイドラ要素28のアイドラ軸28Aと接続される。第1クラッチ27Cは、例えば、摩擦接合によるクラッチ(摩擦板)、ドグクラッチまたはシンクロメッシュ付ドグクラッチにより構成されている。第1クラッチ27Cは、ロックアップギヤ27Bとアイドラギヤ28Bとの間の機械的な結合(接続)と解放とを行うものである。第2クラッチ36を解放し、第1クラッチ27Cを結合することより、入力軸22から入力された動力は、インプットギヤ27A、ロックアップギヤ27B、第1クラッチ27Cを経由し、アイドラギヤ28Bに伝達される。これにより、エンジン9から供給された動力は、遊星式無段変速機構24を経由せずに、外部ロックアップ機構である直結機構27を経由してアイドラギヤ28Bに伝達できる。
【0109】
遊星式無段変速機構24は、図7に示す速度関係線Y1の遊星歯車機構29の特性により、動力源(エンジン9)に繋がる第2連結部材31に対してアイドラギヤ28Bに繋がる第3連結部材32を増速できる。遊星式無段変速機構24の増速の範囲を有効に使うために、直結機構27を経由する動力伝達は、増速した方が好ましい。ここで、遊星歯車機構29に繋がる3つの連結部材30,31,32のうち、第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30とアイドラギヤ28Bに繋がる第3連結部材32との回転速度が同じとき、エンジン9に繋がる第2連結部材31とアイドラギヤ28Bに繋がる第3連結部材32との回転速度が同じになる。
【0110】
このときのアイドラギヤ28Bの回転速度は、次の数13式となる。なお、アイドラギヤ28Bの回転速度を「V28B」とし、エンジン9に繋がる第2連結部材31の回転速度を「V31」とし、アイドラギヤ28Bに繋がる第3連結部材32の歯数を「N32」とし、アイドラギヤ28Bの歯数を「N28B」とする。
【0111】
【数13】
【0112】
ここで、同期回転速度比Idを次の数14式のように定義する。なお、第3連結部材32の歯数を「N32」とし、アイドラギヤ28Bの歯数を「N28B」とする。
【0113】
【数14】
【0114】
また、外部ロックアップ回転速度比Irを次の数15式のように定義する。なお、インプットギヤ27Aの歯数を「N27A」とし、ロックアップギヤ27Bの歯数を「N27B」とする。
【0115】
【数15】
【0116】
この場合、外部ロックアップ回転速度比Irを、同期回転速度比Idより大きくすることにより、遊星式無段変速機構24の増速範囲を有効に使うことができる。例えば、外部ロックアップを備えるが内部ロックアップ動作を行わない変速装置21の場合は、次のように動力伝達を行う。即ち、無段階変速が必要な発進時および掘削時(車速0~7km/h)は、遊星式無段変速機構24を経由して動力伝達を行う。無段階変速が必要ない運搬時および回送時(車速7km/h以上)は、外部ロックアップ機構(直結機構27)を経由して動力伝達を行う。
【0117】
一方、外部ロックアップ機構(直結機構27)を備え、かつ、内部ロックアップ動作を行う変速装置21の場合は、外部ロックアップ回転速度比Irを内部ロックアップ変速比In以上とすることが望ましい。この場合、例えば、次のように動力伝達を行う。無段階変速が必要な発進時および掘削時(車速0~7km/h)は、遊星式無段変速機構24を経由して無段変速をさせながら動力伝達を行う。無段階変速が必要ない運搬時および回送時(車速7km/h以上)は、遊星式無段変速機構24を経由して内部ロックアップを動作させながら動力伝達を行う。無段階変速が必要ない運搬時および回送時(車速10km/h以上)は、外部ロックアップ機構(直結機構27)を経由して動力伝達を行う。これにより、変速装置21は、掘削、発進、運搬、回送の全ての動作時に、最も動力伝達効率の高い動力伝達経路を選択することができる。この結果、ホイールローダ1を省燃費にできる。
【0118】
次に、多段変速機構26について説明する。多段変速機構26は、歯車の噛み合い、クラッチの切換え、および、ブレーキの切換えにより変速する変速機構である。多段変速機構26は、例えば、遊星変速機、カウンターシャフト型変速機、マニュアルトランスミッション、オートメーティッドマニュアルトランスミッション、デュアルクラッチトランスミッション等に相当する。第1の実施形態では、多段変速機構26は、前進4段変速、後進1段変速のデュアルクラッチトランスミッションにより構成されている。これに対して、図13に示す第1の変形例、図14に示す第2の変形例、図15に示す第3変形例では、多段変速機構26Aは、前進5段変速、後進2段変速のデュアルクラッチトランスミッションにより構成されている。なお、多段変速機構26,26Aは、これらの構成に限定されず、例えば、前進は1段変速から16段変速まで想定でき、後進は1段変速から8段変速まで想定できる。
【0119】
デュアルクラッチトランスミッションである多段変速機構26について、図10を参照しつつ説明する。多段変速機構26は、奇数軸51と、偶数軸52と、出力軸53と、カウンタギヤ54とを備えている。多段変速機構26の出力軸53は、変速装置21の出力軸23にも対応する。奇数軸51は、奇数段ギヤ55と、前進1速ギヤ56と、前進3速ギヤ57と、第1出力クラッチとしての第4クラッチ58と、第6クラッチ59と、第8クラッチ60と、奇数段シャフト61とを含んで構成されている。偶数軸52は、偶数段ギヤ62と、前進2速ギヤ63と、前進4速ギヤ64と、後進1速ギヤ65と、第2出力クラッチとしての第5クラッチ66と、第7クラッチ67と、第10クラッチ68と、第9クラッチ69と、偶数段シャフト70とを含んで構成されている。
【0120】
カウンタギヤ54は、出力軸53の回転方向を逆転させるためのギヤである。出力軸53は、前進1速出力ギヤ71と、前進2速出力ギヤ72と、前進3速出力ギヤ73と、前進4速出力ギヤ74と、後進1速出力ギヤ75とを含んで構成されている。偶数段ギヤ62および奇数段ギヤ55は、アイドラギヤ28Bと常時噛合しており、アイドラギヤ28Bと共に回転する。また、前進1速ギヤ56と前進1速出力ギヤ71、前進2速ギヤ63と前進2速出力ギヤ72、前進3速ギヤ57と前進3速出力ギヤ73、前進4速ギヤ64と前進4速出力ギヤ74は、それぞれ常時噛合している。また、後進1速ギヤ65とカウンタギヤ54と後進1速出力ギヤ75も、常時噛合している。第4クラッチ58は、奇数段ギヤ55と奇数段シャフト61との結合(締結)と解放とを行う。第4クラッチ58により、奇数段ギヤ55と奇数段シャフト61とが結合されることで、アイドラギヤ28Bと奇数段シャフト61との間で動力伝達が可能となる。第5クラッチ66は、偶数段ギヤ62と偶数段シャフト70との結合(締結)と解放とを行う。第5クラッチ66により、偶数段ギヤ62と偶数段シャフト70とが結合されることで、アイドラギヤ28Bと偶数段シャフト70との間で動力伝達が可能となる。
【0121】
第6クラッチ59は、前進1速ギヤ56と奇数段シャフト61との結合(締結)と解放とを行う。第6クラッチ59により、前進1速ギヤ56と奇数段シャフト61とが結合されることで、出力軸53と奇数段シャフト61との間で動力伝達が可能となる。第8クラッチ60により、前進3速ギヤ57と奇数段シャフト61とが結合されることで、出力軸53と奇数段シャフト61との間で動力伝達が可能となる。第7クラッチ67により、前進2速ギヤ63と偶数段シャフト70とが結合されることで、出力軸53と偶数段シャフト70との間で動力伝達が可能となる。第10クラッチ68により、前進4速ギヤ64と偶数段シャフト70とが結合されることで、出力軸53と偶数段シャフト70との間で動力伝達が可能となる。第9クラッチ69により、後進1速ギヤ65と偶数段シャフト70とが結合されることで、出力軸53と偶数段シャフト70との間で動力伝達が可能となる。なお、第6クラッチ59、第7クラッチ67、第8クラッチ60、第9クラッチ69、第10クラッチ68は、ドグクラッチまたはシンクロメッシュ付ドグクラッチにより構成されている。
【0122】
次に、多段変速機構26の動作を説明する。アイドラギヤ28Bに入力された動力を前進1速で出力軸53に伝達するためには、第4クラッチ58を結合し、第5クラッチ66を解放し、第6クラッチ59を結合し、第8クラッチ60を解放する。この状態で、第7クラッチ67と第10クラッチ68と第9クラッチ69とのうちのいずれか2つ以上のクラッチを解放する。前進1速は、後述の表5のNo1からNo4に相当する。
【0123】
前進2速で出力軸53に動力伝達するためには、第5クラッチ66および第7クラッチ67を結合し、第4クラッチ58、第10クラッチ68および第9クラッチ69を解放する。この状態で、第6クラッチ59と第8クラッチ60とのうちのいずれか一方または両方を解放する。前進2速は、後述の表5のNo9からNo11に相当する。
【0124】
前進3速で出力軸53に動力伝達するためには、第4クラッチ58および第8クラッチ60を結合し、第5クラッチ66および第6クラッチ59を解放する。この状態で、第7クラッチ67と第10クラッチ68と第9クラッチ69とのうちのいずれか2つ以上を解放する。前進3速は、後述の表5のNo5からNo8に相当する。
【0125】
前進4速で出力軸53に動力伝達するためには、第5クラッチ66および第10クラッチ68を結合し、第4クラッチ58、第7クラッチ67および第9クラッチ69を解放する。この状態で、第6クラッチ59と第8クラッチ60とのうちのいずれか一方または両方を解放する。前進4速は、後述の表5のNo12からNo14に相当する。
【0126】
後進1速で出力軸53に動力伝達するためには、第5クラッチ66および第9クラッチ69を結合し、第4クラッチ58、第7クラッチ67および第10クラッチ68を解放する。この状態で、第6クラッチ59と第8クラッチ60とのうちのいずれか一方または両方を解放する。後進1速は、後述の表5のNo15からNo17に相当する。
【0127】
アイドラギヤ28Bから奇数軸51を通じて出力軸53に動力を伝達しているときは、第7クラッチ67、第10クラッチ68および第9クラッチ69の結合と解放との切換えを行うことができる。これにより、前進2速ギヤ63、前進4速ギヤ64または後進1速ギヤ65のいずれかを、偶数段シャフト70に予め結合しておくことができる。同様に、アイドラギヤ28Bから偶数軸52を通じて出力軸53に動力を伝達しているときは、第6クラッチ59および第8クラッチ60の結合と解放との切換えを行うことができる。これにより、前進1速ギヤ56または前進3速ギヤ57のいずれかを、奇数段シャフト61と予め結合しておくことができる。
【0128】
アイドラギヤ28Bから出力軸53への動力伝達は、第4クラッチ58を結合して第5クラッチ66を解放している状態から第4クラッチ58を解放して第5クラッチ66を結合することにより、奇数段シャフト61経由から偶数段シャフト70経由に切換えることができる。同様に、アイドラギヤ28Bから出力軸53への動力伝達は、第4クラッチ58を解放して第5クラッチ66を結合している状態から第4クラッチ58を結合して第5クラッチ66を解放することにより、偶数段シャフト70経由から奇数段シャフト61経由に切換えることができる。
【0129】
ただし、第4クラッチ58と第5クラッチ66との結合の切換えは、必ずしも交互に行う必要はない。例えば、下記の表5中に示す、No1~4からNo5~8への切換え、No5~8からNo1~4への切換えがある。この場合、第4クラッチ58を解放した後に、第6クラッチ59と第8クラッチ60とを結合または解放する。その後、解放している第4クラッチ58を結合させる。また、No9~11からNo12~14への切換え、No12~14からNo9~11への切換え、No9~11からNo15~17への切換え、No15~17からNo9~11への切換え、No12~14からNo15~17への切換え、No15~17からNo12~14への切換えがある。この場合、第5クラッチ66を解放した後に、第7クラッチ67と第10クラッチ68と第9クラッチ69とを結合または解放する。その後、解放している第5クラッチ66を結合させる。
【0130】
【表5】
【0131】
なお、ホイールローダ1が砂利等のダンプ積み作業を主体としたVサイクルを行う場合、車両を前進させて砂利等の掘削を行い、その後、車両を後退させてダンプに向けて移動する。このとき、第1の実施の形態(即ち、表4のNo1-A)での具体例を挙げて説明する。遊星式無段変速機構24は、図7に示す遊星歯車機構29の速度関係線Y1の関係より、第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30の回転速度を制御することで、アイドラギヤ28Bに繋がる第3連結部材32の回転方向を反転することができる。しかし、第1サンギヤ29Bの回転方向に対して第2サンギヤ29Cの回転方向を逆転させようとした場合(即ち、図7の右下の方向に制御する場合)、第1サンギヤ29Bの回転速度が高くなる。同様に、第2サンギヤ29Cの回転方向に対して第1サンギヤ29Bの回転方向を逆転させようとした場合(図7の左上の方向に制御する場合)、第2サンギヤ29Cの回転速度が高くなる。
【0132】
このような場合、第1連結部材30に接続される第1バリエータ33は、最高回転速度の制限がより高いものを採用しなければならなくなる。このため、第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30を高速に回転させ、アイドラギヤ28Bに繋がる第3連結部材32の回転方向を正転から逆転することは、最高回転速度の高い高価な第1バリエータ33を採用することになる。これにより、遊星式無段変速機構24の原価が増大する可能性がある。このため、ホイールローダ1が後進するときは、多段変速機構26を用い、出力軸53(出力軸23)の回転方向を前進方向から後進方向に逆転をさせることが望ましい。これにより、逆転時に接続される第1バリエータ33の回転速度を低下させることが可能となり、廉価な第1バリエータ33を用いることができる。なお、第1の実施の形態(即ち、表4のNo1-A)を例に挙げたが、第4の変形例(即ち、表4のNo1-B)、第5の変形例(即ち、表4のNo1-C)の場合は、同様に、多段変速機構26を用い、出力軸53の回転方向を切換えることで、前進方向と後進方向を切換えた方が、逆転時に接続される第1バリエータ33の回転速度を低下させることが可能となり、廉価な第1バリエータ33を用いることができる。
【0133】
以上のように、第1の実施の形態によれば、変速装置21は、動力源(エンジン9)に繋がる入力軸22(入力部材)と、負荷(フロントアクスル12、リヤアクスル13)に繋がる出力軸23(出力部材)と、入力軸22と出力軸23との間に設けられた遊星歯車機構29(遊星機構)と、遊星歯車機構29に接続された第1バリエータ33と、第1バリエータ33とは別に設けられた第2バリエータ34と、第1バリエータ33の回転速度を変更するコントローラ25とを備えている。そして、遊星歯車機構29は、キャリア29Aと、キャリア29Aの回転中心軸を中心として自転する第1サンギヤ29B(第1サン部材)と、キャリア29Aの回転中心軸を中心として自転する第2サンギヤ29C(第2サン部材)との3つの部材(回転部材)を含んで構成されている。
【0134】
この場合、例えば、図4および図5に示すように、3つの部材のうちの1つである第1部材となるキャリア29Aは、入力軸22に第2連結部材31(他の部材)を介して接続されている。キャリア29Aとは別の第2部材となる第1サンギヤ29Bは、第1バリエータ33に第1連結部材30、第2クラッチ36(いずれも他の部材)を介して接続されている。キャリア29Aおよび第1サンギヤ29Bとは別の第3部材となる第2サンギヤ29Cは、出力軸23に第3連結部材32、アイドラ要素28、多段変速機構26(いずれも他の部材)を介して接続されている。なお、キャリア29A(第1部材)は、入力軸22に直接接続してもよい。第1サンギヤ29B(第2部材)は、第1バリエータ33に直接接続してもよい。第2サンギヤ29C(第3部材)は、出力軸23に直接接続してもよい。
【0135】
ここで、キャリア29Aには、キャリア29Aの回転中心軸Sを中心に公転しつつ第1サンギヤ29Bと第2サンギヤ29Cと回転しながら動力伝達を行うプラネットギヤ29D(プラネット部材)およびカウンタギヤとなるバランスギヤ29E(バランス部材)が支持されている。そして、遊星歯車機構29は、エンジン9から遊星歯車機構29のキャリア29A(第1部材)に伝達されたトルクを第1サンギヤ29B(第2部材)と第2サンギヤ29C(第3部材)とに分配する。遊星歯車機構29は、キャリア29Aと第1サンギヤ29Bと第2サンギヤ29Cとの間で2自由度の回転運動をする。第2バリエータ34は、第1バリエータ33から伝達された動力を負荷(出力軸23)または動力源(入力軸22)に伝達し、または、負荷(出力軸23)または動力源(入力軸22)から伝達された動力を第1バリエータ33に伝達する。そして、コントローラ25は、第1バリエータ33の回転速度を変更することにより、入力軸22の回転速度に対する出力軸23の回転速度を変更する。
【0136】
即ち、第1の実施形態の変速装置21は、遊星歯車機構29により無段階に変速を行い、動力源(入力軸22)からの動力を負荷(出力軸23)に、または、負荷(出力軸23)からの動力を動力源(入力軸22)に伝達する。この場合、変速装置21は、入力軸22と出力軸23との間に設けられた遊星歯車機構29と、遊星歯車機構29に接続された第1バリエータ33と、第1バリエータ33から伝達された動力を負荷または動力源に伝達する第2バリエータ34とを備えている。そして、遊星歯車機構29は、入力軸22に接続されると共にプラネットギヤ29Dおよびバランスギヤ29Eが支持されたキャリア29Aと、第1バリエータ33に接続された第1サンギヤ29Bと、アイドラ要素28および多段変速機構26を介して出力軸23に接続された第2サンギヤ29Cとを備えている。さらに、変速装置21は、内部ロックアップと外部ロックアップ(直結機構27)とのうちの少なくとも一方のロックアップを備えている。そして、変速装置21は、遊星式無段変速機構24による動力伝達とロックアップによる動力伝達との切換えを行うことができる。
【0137】
このため、伝達効率の高い変速装置21を提供することができ、作業車両であるホイールローダ1の動力損失を低減できる。この場合、遊星歯車機構29と第1バリエータ33と第2バリエータ34とを含んで構成される遊星式無段変速機構24の増速の変速範囲を有効に使うことができる。これに加えて、遊星式無段変速機構24による動力伝達からロックアップによる動力伝達に切換えるときに、車両の加減速度の変化を少なくできる。さらに、第1バリエータ33の回転速度の上限値と発生(吸収)可能トルクの上限値とが限られている場合に、遊星歯車機構29のギヤ比が最適な値になる歯車配列を提供でき、遊星式無段変速機構24の伝達効率を向上できる。即ち、回転速度の上限値と発生(吸収)可能トルクの上限値とが限られている廉価で小型の第1バリエータ33を用いる場合でも、遊星式無段変速機構24の伝達効率を向上できる。
【0138】
例えば、第1の実施形態では、荷役作業機7を動作させない、または、荷役作業機7の高い操作性が要求されていない条件では、ロックアップ機構による動力伝達を行う。このため、この場合には、伝達効率の高い歯車同士の噛み合いにより動力伝達(内部ロックアップ、外部ロックアップ)を行うことができる。一方、荷役作業機7を動作させている、または、荷役作業機7の高い操作性が要求されている条件では、遊星式無段変速機構24による動力伝達を行う。このため、遊星式無段変速機構24を動作させ、無段階変速を行うことができる。なお、遊星式無段変速機構24による動力伝達は、歯車同士の噛み合いのみによって行われる動力伝達(内部ロックアップ、外部ロックアップ)よりも伝達効率が低くなる可能性がある。しかし、遊星式無段変速機構24による無段階変速は、トルクコンバータによる無段階変速よりも伝達効率を高くできる。これにより、1つのエンジン9の動力を「車両を走行させるための変速装置21」と「荷役作業機7を動かすための油圧ポンプ10」とに分配するときに、変速装置21の変速によるエンジン9の回転速度の変化を穏やかにすることができる。このため、荷役作業機7の動作速度が急変することを抑制でき、荷役作業機7の操作性を向上できる。これに加えて、1つのエンジン9の動力を変速装置21と油圧ポンプ10とに分配したときに、分配による動力損失を低減できる。
【0139】
第1の実施形態によれば、コントローラ25は、遊星歯車機構29の第1サンギヤ29B(第2部材)の回転を停止し、内部ロックアップの状態を実現する。即ち、コントローラ25は、第1サンギヤ29Bの回転を停止し、キャリア29Aと第1サンギヤ29Bと第2サンギヤ29Cとの間で2自由度の回転運動をする状態から、1自由度の回転運動をする状態に変化させる。これにより、変速装置21は、遊星歯車機構29が1自由度の状態で、動力源から遊星歯車機構29に伝達された動力を負荷に伝達する。このとき、コントローラ25は、第1バリエータ33に回転速度を0とする指令を出力する。または、コントローラ25は、第1バリエータ33に接続される部材の回転を機械的な結合により停止させる指令を出力する。または、コントローラ25は、第1バリエータ33から第2バリエータ34に送る動力を遮断する指令を出力する。これにより、コントローラ25は、第1サンギヤ29Bの回転を停止する。いずれの場合も、遊星歯車機構29の第1サンギヤ29Bの回転を停止することにより、内部ロックアップを実現することができ、伝達効率を向上できる。
【0140】
第1の実施形態によれば、変速装置21は、第1動力伝達経路(遊星式無段変速機構24)と第2動力伝達経路(直結機構27)との2つの動力伝達経路を備えている。即ち、遊星歯車機構29を通じて動力源から負荷(出力軸23)に動力を伝達する動力伝達経路を第1動力伝達経路とする。この場合に、変速装置21には、第1動力伝達経路と並行して第2動力伝達経路が設けられている。第2動力伝達経路は、遊星歯車機構29を介さずに歯車同士の噛み合いにより負荷(出力軸23)に動力を伝達する直結機構27(外部ロックアップ機構)である。第2動力伝達経路(直結機構27)は、締結と解放とを切換える第1クラッチ27Cを備えている。コントローラ25は、第1クラッチ27Cを締結し、第2動力伝達経路(直結機構27)を通じて動力伝達を行う。これにより、例えば、内部ロックアップのみを行う構成と比較して、伝達効率を向上できる。
【0141】
第1の実施形態によれば、キャリア29A(第1部材)の回転速度と第2サンギヤ29C(第3部材)の回転速度とが同じときの速度比を同期回転速度比としている。また、第1クラッチ27Cを締結することにより第2動力伝達経路(直結機構27)を経由して動力伝達が行われるときの第2サンギヤ29C(第3部材)の回転速度を動力源の回転速度で割った値をロックアップ回転速度比としている。この場合に、ロックアップ回転速度比は、同期回転速度比よりも大きい。このため、外部ロックアップ機構である第2動力伝達経路を通じて動力を伝達するときに、増速できる。
【0142】
第1の実施形態によれば、第1サンギヤ29B(第2部材)と第1バリエータ33との間には、第1サンギヤ29B(第2部材)と第1バリエータ33との間の動力の伝達と解放とを切換える第2クラッチ36が設けられている。そして、コントローラ25は、作業車両(ホイールローダ1)が停止しているときに、第2クラッチ36を解放することにより、第1サンギヤ29B(第2部材)と第1バリエータ33との間の動力伝達を切り離す。これにより、ホイールローダ1の車速が0のときに、第1バリエータ33への動力伝達を阻止できる。
【0143】
第1の実施形態によれば、コントローラ25は、第1サンギヤ29B(第2部材)を停止させるために、第2クラッチ36を締結する。このため、内部ロックアップのときに、第1サンギヤ29B(第2部材)の回転を停止できる。また、第1の実施形態では、第2バリエータ34と負荷または動力源との間には、第2バリエータ34と負荷または動力源との間の動力の伝達と解放とを切換える第3クラッチ37が設けられている。そして、コントローラ25は、第1サンギヤ29B(第2部材)が停止しているときに、第3クラッチ37を解放する。このため、内部ロックアップのときに、第2バリエータ34への動力伝達を阻止できる。なお、内部ロックアップのときは、第2クラッチ36は締結しなければならないが、第3クラッチ37は解放、締結のどちらでもよい。
【0144】
第1の実施形態によれば、コントローラ25は、第1クラッチ27Cが締結されているときに、第2クラッチ36を解放する。このため、外部ロックアップのときに、第1バリエータ33への動力伝達を阻止できる。また、コントローラ25は、第1クラッチ27Cが締結されているときに、第3クラッチ37を解放する。このため、外部ロックアップのときに、第2バリエータ34への動力伝達を阻止できる。なお、外部ロックアップのときは、第2クラッチ36と第3クラッチ37は解放、締結のどちらでもよい。
【0145】
第1の実施形態によれば、変速装置21は、第2サンギヤ29C(第3部材)と出力軸23(出力部材)との間に多段変速機構26が設けられている。多段変速機構26は、第1出力伝達経路(奇数軸51)と第2出力伝達経路(偶数軸52)とを備えている。この場合、第1出力伝達経路(奇数軸51)は、第2サンギヤ29C(第3部材)と出力軸23(出力部材)との間で、歯車噛合回数が奇数回である。第2出力伝達経路(偶数軸52)は、第2サンギヤ29C(第3部材)と出力軸23(出力部材)との間で、歯車噛合回数が奇数回と偶数回の両方がある。具体的には、第2出力伝達経路(偶数軸52)のうち、アイドラギヤ28Bから偶数段ギヤ62、第5クラッチ66、第9クラッチ69、カウンタギヤ54、後進1速ギヤ75を経由して出力軸53に伝達する経路が、偶数回の歯車噛合回数である。他の経路による第2サンギヤ29C(第3部材)と出力軸23(出力部材)との歯車噛合回数は奇数回となる。そして、第1出力伝達経路(奇数軸51)は、第1出力伝達経路の動力の伝達と解放とを切換える第1出力クラッチ(第4クラッチ58、第6クラッチ59、第8クラッチ60)を備えている。第2出力伝達経路(偶数軸52)は、第2出力伝達経路の動力の伝達と解放とを切換える第2出力クラッチ(第5クラッチ66、第7クラッチ67、第10クラッチ68、第9クラッチ69)を備えている。コントローラ25は、第1出力クラッチ(例えば、第4クラッチ58、第6クラッチ59)が締結されると共に第2出力クラッチ(例えば、第5クラッチ66)が解放された正転モード(例えば、1速モード)と、第1出力クラッチ(例えば、第4クラッチ58)が解放されると共に第2出力クラッチ(例えば、第5クラッチ66、第9クラッチ69)が締結された逆転モード(後進モード)とを切換えることにより、ホイールローダ1(車両)の進行方向を反転する。このため、変速装置21は、負荷(出力軸23)の回転方向を反転できる。
【0146】
第1の実施形態によれば、変速装置21には、副変速機構である多段変速機構26が設けられている。そして、第2バリエータ34は、遊星歯車機構29と多段変速機構26との間に設けられたアイドラ要素(具体的には、回転要素となるアイドラギヤ28B)に接続されている。なお、図20に示す第6の変形例のように、第2バリエータ34は、出力軸23(出力部材)に接続してもよい。即ち、後述する図30ないし図39に示すように、第2バリエータ34は、入力軸22(入力部材)と駆動源(エンジン9)との間に設けられた回転要素、多段変速機構26を構成する回転要素、多段変速機構26と出力軸23(出力部材)との間に設けられた回転要素、出力軸23(出力部材)、または、出力軸23と負荷との間に設けられた回転要素に接続する構成としてもよい。
【0147】
次に、図21ないし図24は、第2の実施の形態を示している。第2の実施の形態の特徴は、遊星歯車機構をキャリアとサンギヤとリングギヤとにより構成したことにある。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0148】
第1の実施の形態では、遊星式無段変速機構24の遊星歯車機構29をキャリアと2つのサンギヤとにより構成した場合を例に挙げて説明した。これに対して、第2の実施の形態では、遊星式無段変速機構24の遊星歯車機構81を、キャリア81Aと、サンギヤ81Bと、リングギヤ81Cとにより構成している。下記の表6は、遊星歯車機構81の構成要素(キャリア、サンギヤ、リングギヤ)の組み合わせを示している。いずれの場合も、動力伝達が可能である。表6中の「No2-A」は、遊星式無段変速機構24の伝達効率を向上でき、第1バリエータ33の最大吸収トルクを小さくでき、かつ、遊星式無段変速機構24全体を小型で軽量に構成できる面から最も好適である。
【0149】
【表6】
【0150】
図21および図22に示すように、第2の実施形態では、遊星歯車機構81は、第1部材に対応するキャリア81Aと、第2部材に対応するサンギヤ81Bと、第3部材に対応するリングギヤ81Cと、プラネットギヤ81Dとを備えている。なお、サンギヤ81B、リングギヤ81C、プラネットギヤ81Dは、ギヤ(歯車)の噛み合いによる動力伝達でなくてもよく、例えば、ローラ(外周面)の摩擦による動力伝達であってもよい。
【0151】
エンジン9は、第2連結部材31を介してキャリア81Aに結合されている。サンギヤ81Bは、第1連結部材30を介して第1バリエータ33に接続されている。リングギヤ81Cは、第3連結部材32を介してアイドラ要素28(アイドラギヤ28B)に接続されている。サンギヤ81Bは、プラネットギヤ81Dと噛み合っている。また、プラネットギヤ81Dは、リングギヤ81Cと噛み合っている。プラネットギヤ81Dの自転軸Sp(図23)は、キャリア81Aに支持されている。このため、プラネットギヤ81Dは、遊星歯車機構81の中心軸S(図23)を中心に公転しながら自転する。
【0152】
次に、キャリア81Aとサンギヤ81Bとリングギヤ81Cとにより構成される遊星歯車機構81の動作を説明する。以下は、表6の「No2-A」、「No2-B」、「No2-C」、「No2-D」、「No2-F」の全ての条件で成立する。
【0153】
まず、遊星歯車機構81の3つの部材(キャリア81A、サンギヤ81B、リングギヤ81C)のトルクの分配について説明する。図23は、遊星歯車機構81を動力源側からみた断面図である。キャリア81A、サンギヤ81Bおよびリングギヤ81Cは、同心に配置されている。即ち、キャリア81A、サンギヤ81Bおよびリングギヤ81Cの中心軸S(回転中心軸)は一致している。プラネットギヤ81Dは、サンギヤ81Bの外周とリングギヤ81Cの内周に接するように配置されている。プラネットギヤ81Dは、サンギヤ81Bおよびリングギヤ81Cと噛み合う。キャリア81A、サンギヤ81Bおよびリングギヤ81Cは、それぞれの歯車の噛み合いが成立するように、中心軸Sを中心に自転可能に、かつ、他方向に動けないように、遊星式無段変速機構24のケーシングによって支持されている。プラネットギヤ81Dは、プラネットギヤ81Dの中心軸である自転軸Spを中心に自転可能に、かつ、他方向に動けないように、キャリア81Aによって支持されている。プラネットギヤ81Dは、キャリア81Aの中心軸Sを中心に公転しながらプラネットギヤ81Dの中心軸Spを中心に自転する。
【0154】
遊星歯車機構81の制約条件は、図23に示すように、サンギヤ81Bとリングギヤ81Cとプラネットギヤ81Dとが噛み合う必要があることである。また、歯車の強度を確保するためには、プラネットギヤ81Dの直径を大きくする必要がある。即ち、遊星歯車機構81の制約条件は、サンギヤ81Bの噛み合い半径rsは、リングギヤ81Cの噛み合い半径rrより大幅に小さくなることである。
【0155】
表6の「No2-A」の構成は、キャリア81Aがエンジン9(動力源)に繋がる第2連結部材31に接続されている。このため、キャリア81AのトルクTcは、エンジン9が発生できるトルクである。サンギヤ81Bは、第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30に接続されている。このため、サンギヤ81BのトルクTsは、第1バリエータ33が発生できるトルクである。リングギヤ81Cは、アイドラ要素28に繋がる第3連結部材32に接続されている。このため、リングギヤ81CのトルクTrは、アイドラギヤ28Bから受けるトルク反力である。
【0156】
表6の「No2-B」の構成は、リングギヤ81Cが第2連結部材31に接続されている。このため、リングギヤ81CのトルクTrは、エンジン9が発生できるトルクである。キャリア81Aは、第1連結部材30に接続されている。このため、キャリア81AのトルクTcは、第1バリエータ33が発生できるトルクである。サンギヤ81Bは、第3連結部材32に接続されている。このため、サンギヤ81BのトルクTsは、アイドラギヤ28Bから受けるトルク反力である。
【0157】
表6の「No2-C」の構成は、キャリア81Aが第2連結部材31に接続されており、リングギヤ81Cが第1連結部材30に接続されており、サンギヤ81Bが第3連結部材32に接続されている。表6の「No2-D」の構成は、リングギヤ81Cが第2連結部材31に接続されており、サンギヤ81Bが第1連結部材30に接続されており、キャリア81Aが第3連結部材32に接続されている。表6の「No2-E」の構成は、サンギヤ81Bが第2連結部材31に接続されており、リングギヤ81Cが第1連結部材30に接続されており、キャリア81Aが第3連結部材32に接続されている。表6の「No2-F」の構成は、サンギヤ81Bが第2連結部材31に接続されており、キャリア81Aが第1連結部材30に接続されており、リングギヤ81Cが第3連結部材32に接続されている。
【0158】
次に、サンギヤ81BのトルクTs、リングギヤ81CのトルクTrおよびキャリア81AのトルクTcの関係性を説明する。サンギヤ81Bとリングギヤ81Cは、プラネットギヤ81Dを介して噛み合っている。このため、サンギヤ81Bとプラネットギヤ81Dの噛み合い接線力と、プラネットギヤ81Dとリングギヤ81Cの噛み合い接線力は等しい。即ち、下記の数16式および数17式が得られる。
【0159】
【数16】
【0160】
【数17】
【0161】
作用反作用の関係により、下記の数18式が得られる。
【0162】
【数18】
【0163】
これら数16式、数17式、数18式より、サンギヤ81BのトルクTs、リングギヤ81CのトルクTrおよびキャリア81AのトルクTcは、リングギヤ81Cの噛み合い半径rrおよびサンギヤ81Bの噛み合い半径rsより計算できる。リングギヤ81Cの噛み合い半径rrおよびサンギヤ81Bの噛み合い半径rsは、それぞれの歯車の噛み合い半径で決まるため、遊星式無段変速機構24が動力伝達している間に変更できない。このため、サンギヤ81BのトルクTs、リングギヤ81CのトルクTrおよびキャリア81AのトルクTcの比率は、遊星式無段変速機構24が動力伝達している間は不変である。
【0164】
コントローラ25は、この法則に基づいて、第1バリエータ33を制御する信号を出力し、第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30(例えば、サンギヤ81B)のトルクを制御する。即ち、コントローラ25は、第1バリエータ33を制御することにより第1連結部材30(例えば、サンギヤ81B)のトルクを制御する。これにより、コントローラ25は、エンジン9に繋がる第2連結部材31(例えば、キャリア81A)のトルクとアイドラ要素28に繋がる第3連結部材32(例えば、リングギヤ81C)のトルクとを間接的に制御する。この結果、エンジン9に繋がる第2連結部材31(例えば、キャリア81A)とアイドラ要素28に繋がる第3連結部材32(例えば、リングギヤ81C)との間で、伝達トルクを制御することができる。
【0165】
次に、サンギヤ81Bの自転速度、リングギヤ81Cの自転速度およびキャリア81Aの自転速度の関係性を説明する。まず、サンギヤ81Bとリングギヤ81Cは、プラネットギヤ81Dを介して噛み合っている。サンギヤ81Bとリングギヤ81Cは、中心軸Sを中心に自転する。プラネットギヤ81Dは、キャリア81Aによって自転方向に自由に回転し、かつ、キャリア29Aの中心軸Sに対して公転方向に拘束されている。これらから、回転速度の関係を求めると、下記の数19式が成立する。なお、数19式中の「Kb」は、数20式の通りである。なお、キャリア81Aの自転速度を「Vc」とし、サンギヤ81Bの自転速度を「Vs」とし、リングギヤ81Cの自転速度を「Vr」とする。
【0166】
【数19】
【0167】
【数20】
【0168】
図24は、遊星歯車機構81の回転速度の関係を示している。図24中の速度関係線Y2は、数19式を線図で表している。キャリア81Aの自転速度が一定と仮定する。この場合、リングギヤ81Cの自転速度を高くすると、サンギヤ81Bの自転速度が低くなる。反対に、リングギヤ81Cの自転速度を低くすると、サンギヤ81Bの自転速度が高くなる。コントローラ25は、この法則に基づいて、第1バリエータ33を制御する信号を出力し、第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30(例えば、サンギヤ81B)の回転速度を制御する。即ち、コントローラ25は、第1バリエータ33を制御することにより第1連結部材30(例えば、サンギヤ81B)の回転速度を制御する。これにより、コントローラ25は、エンジン9に繋がる第2連結部材31(例えば、キャリア81A)の回転速度とアイドラ要素28に繋がる第3連結部材32(例えば、リングギヤ81C)の回転速度とを間接的に制御する。この結果、エンジン9に繋がる第2連結部材31(例えば、キャリア81A)とアイドラ要素28に繋がる第3連結部材32(例えば、リングギヤ81C)との間で、変速比を制御することができる。
【0169】
前述したように、遊星歯車機構81は、サンギヤ81Bとリングギヤ81Cとプラネットギヤ81Dとが噛み合う必要がある。また、歯車の強度を確保するために、プラネットギヤ81Dの直径を大きくする必要がある。しかし、プラネットギヤ81Dの直径を大きくすると、遊星歯車機構81が大型化する。即ち、遊星歯車機構81の構造的制約は、遊星歯車機構81を小型に設計しようとすると、サンギヤ81Bの噛み合い半径rsはリングギヤ81Cの噛み合い半径rrより大幅に小さくなることである。このため、遊星歯車機構81は、Kbの値を0.3よりも大きくすることが難しく、理想的なKbの値よりも小さくなり過ぎる可能性がある。
【0170】
この構造的制約より、遊星歯車機構81は、トルクTc,Ts,Trの関係式(数16式、数17式、数18式)および自転速度Vs,Vr,Vcの関係式(数19式、数20式)から、第1バリエータ33が吸収できるトルクと許容可能な最高回転速度とに応じて、サンギヤ81Bの噛み合い半径rsとリングギヤ81Cの噛み合い半径rrとを調整する。これにより、数20式のKbの値を理想的な値に設定し、図24に示す速度関係線Y2の傾きを理想的な値とすることにより、第1バリエータ33が吸収できるトルクと許容可能な最高回転速度との両方を低減できるようにする。しかし、このようにすると、Kbの値が小さくなり過ぎ、両立することが難しい。即ち、第2の実施の形態は、第1の実施の形態と比較して、第1バリエータ33の吸収できるトルクと許容可能な最高回転速度との両方が最適化された遊星歯車機構81の配列を提供する点で不利になる可能性がある。即ち、第2の実施の形態は、第1の実施の形態と比較して、第1バリエータ33が高価になる傾向があり、かつ、遊星式無段変速機構24の伝達効率が低下する可能性がある。
【0171】
なお、第1バリエータ33の大きさおよび価格は、吸収できるトルクの大きさに比例する。このため、第1バリエータ33の吸収トルクは、小さい方が望ましい。第2の実施の形態(即ち、表6のNo2-A)で具体例を挙げて説明する。まず、数20式のKbの値は、小さくすることが望ましい。また、第1バリエータ33に分配されるトルクは小さい方が、遊星式無段変速機構24の伝達効率を向上できる。このため、数20式のKbの値を小さくすることは遊星式無段変速機構24にとって好都合である。
【0172】
一方で、図24に示す速度関係線Y2から、Kbの値を小さくすると、第1バリエータ33の回転速度が上昇してしまう。このため、Kbの値は、第1バリエータ33の許容可能な最高回転速度を越えない範囲で小さくすることが望ましい。サンギヤとリングギヤとキャリアとから構成される遊星歯車機構81は、遊星歯車機構81を小型に設計しようとすると、サンギヤ81Bの噛み合い半径rsは、リングギヤ81Cの噛み合い半径rrより大幅に小さくなる構造的制約を持っている。このため、遊星歯車機構81を小型に設計しようとすると、Kbの値が小さくなり過ぎる。この結果、第1バリエータ33の回転速度が高くなり、第1バリエータ33の許容可能な最高回転速度を超える可能性がある。このため、高回転で運転可能な遊星歯車機構81が必要になる。即ち、第1バリエータ33は、高回転に対応できる高価なものになり、遊星歯車機構81は大型のものとなり、かつ、遊星式無段変速機構24の伝達効率が低下する可能性がある。
【0173】
次に、第1の実施の形態の遊星歯車機構29と第2の実施の形態の遊星歯車機構81とを比較する。即ち、これらの2つの遊星歯車機構29,81は、それぞれ特徴があり、一概にどちらが優れているとは断言できない。即ち、第1バリエータ33が吸収できるトルクと第1バリエータ33の許容可能な最高回転速度とを自由に設定できる場合は、構造的に簡易な遊星歯車機構81を採用することが好ましい。これにより、遊星歯車機構81のサンギヤ81Bの噛み合い半径rsとリングギヤ81Cの噛み合い半径rrの構造的制約(Kbの値)に合わせて、第1バリエータ33を設計することにより、小型で廉価な第1バリエータ33を用いることができる。この結果、遊星歯車機構81を簡易にでき、かつ、遊星式無段変速機構24の伝達効率を向上させることが出来る。
【0174】
一方で、第1バリエータ33が吸収できるトルクと許容可能な最高回転速度を自由に設定できない場合には、第1の実施の形態の遊星歯車機構29を採用することが好ましい。この場合、Kaの値を理想的な値に設定し、図7に示す速度関係線Y1の傾きを理想的な値とすることにより、第1バリエータ33が吸収できるトルクと許容可能な最高回転速度とを全て使用できるようにすることが望ましい。これにより、小型で廉価な第1バリエータ33を用いることができ、かつ、遊星式無段変速機構24の伝達効率を向上できる。
【0175】
次に、第2の実施の形態による遊星式無段変速機構24の内部ロックアップ変速比Inについて説明する。内部ロックアップ動作時は、前述の数19式に第1バリエータ33に繋がる第1連結部材30の回転速度を0として代入することにより、内部ロックアップ変速比Inを計算できる。例えば、第2の実施の形態(表6のNo2-A)では、数19式に、第1連結部材30と接続されたサンギヤ81Bの自転速度Vsを0として代入する。即ち、内部ロックアップ変速比Inは、次の数21式となる。
【0176】
【数21】
【0177】
図25に示す第7の変形例(表6のNo2-B)では、数19式を変形すると共に、第1連結部材30に接続されたキャリア81Aの自転速度Vcを0として代入する。即ち、内部ロックアップ変速比Inは、次の数22式となる。
【0178】
【数22】
【0179】
図26に示す第8の変形例(表6のNo2-C)では、数19式に、第1連結部材30に接続されたリングギヤ81Cの自転速度Vrを0として代入する。即ち、内部ロックアップ変速比Inは、次の数23式となる。
【0180】
【数23】
【0181】
図27に示す第9の変形例(表6のNo2-D)では、数19式に、第1連結部材30に接続されたサンギヤ81Bの自転速度Vsを0として代入する。即ち、内部ロックアップ変速比Inは、次の数24式となる。
【0182】
【数24】
【0183】
図28に示す第10の変形例(表6のNo2-E)では、数19式に、第1連結部材30に接続されたリングギヤ81Cの自転速度Vrを0として代入する。即ち、内部ロックアップ変速比Inは、次の数25式となる。
【0184】
【数25】
【0185】
図29に示す第11の変形例(表6のNo2-F)では、数19式を変形し、第1連結部材30に接続されたキャリア81Aの自転速度Vcを0として代入する。即ち、内部ロックアップ変速比Inは、次の数26式となる。
【0186】
【数26】
【0187】
このように、第2の実施の形態による遊星式無段変速機構24の内部ロックアップ変速比Inは、遊星歯車機構81の歯車の組み合わせと、Kbに依存する。
【0188】
以上のように、第2の実施の形態によれば、変速装置21は、入力軸22(入力部材)と、出力軸23(出力部材)と、遊星歯車機構81(遊星機構)と、第1バリエータ33と、第2バリエータ34と、コントローラ25とを備えている。そして、遊星歯車機構81は、キャリア81Aと、キャリア81Aの回転中心軸を中心として自転するサンギヤ81B(サン部材)と、サンギヤ81Bよりも径方向外側に位置してキャリア81Aの回転中心軸を中心として自転するリングギヤ81C(リング部材)との3つの部材(回転部材)を含んで構成されている。
【0189】
この場合、例えば、図21および図22に示すように、3つの部材のうちの1つである第1部材となるキャリア81Aは、入力軸22に第2連結部材31(他の部材)を介して接続されている。キャリア81Aとは別の第2部材となるサンギヤ81Bは、第1バリエータ33に第1連結部材30、第2クラッチ36(いずれも他の部材)を介して接続されている。キャリア81Aおよびサンギヤ81Bとは別の第3部材となるリングギヤ81Cは、出力軸23に第3連結部材32、アイドラ要素28、多段変速機構26(いずれも他の部材)を介して接続されている。なお、キャリア81A(第1部材)は、入力軸22に直接接続してもよい。サンギヤ81B(第2部材)は、第1バリエータ33に直接接続してもよい。リングギヤ81C(第3部材)は、出力軸23に直接接続してもよい。
【0190】
ここで、キャリア81Aには、キャリア81Aの回転中心軸Sを中心に公転しつつサンギヤ81Bとリングギヤ81Cと回転しながら動力伝達を行うプラネットギヤ81D(プラネット部材)が支持されている。そして、遊星歯車機構81は、エンジン9から遊星歯車機構81のキャリア81A(第1部材)に伝達されたトルクをサンギヤ81B(第2部材)とリングギヤ81C(第3部材)とに分配する。遊星歯車機構81は、キャリア81Aとサンギヤ81Bとリングギヤ81Cとの間で2自由度の回転運動をする。第2バリエータ34は、第1バリエータ33から伝達された動力を負荷(出力軸23)または動力源(入力軸22)に伝達し、または、負荷(出力軸23)または動力源(入力軸22)から伝達された動力を第1バリエータ33に伝達する。そして、コントローラ25は、第1バリエータ33の回転速度を変更することにより、入力軸22の回転速度に対する出力軸23の回転速度を変更する。
【0191】
即ち、第2の実施形態の変速装置21は、遊星歯車機構81により無段階に変速を行い、動力源(入力軸22)からの動力を負荷(出力軸23)に、または、負荷(出力軸23)からの動力を動力源(入力軸22)に伝達する。この場合、変速装置21は、入力軸22と出力軸23との間に設けられた遊星歯車機構81と、遊星歯車機構81に接続された第1バリエータ33と、第1バリエータ33から伝達された動力を負荷または動力源に伝達する第2バリエータ34とを備えている。そして、遊星歯車機構81は、入力軸22に接続されると共にプラネットギヤ81Dが支持されたキャリア29Aと、第1バリエータ33に接続されたサンギヤ81Bと、アイドラ要素28および多段変速機構26を介して出力軸23に接続されたリングギヤ81Cとを備えている。さらに、変速装置21は、内部ロックアップと外部ロックアップ(直結機構27)とのうちの少なくとも一方のロックアップを備えている。そして、変速装置21は、遊星式無段変速機構24による動力伝達とロックアップによる動力伝達との切換えを行うことができる。このため、第2の実施の形態も第1の実施の形態と同様の作用・効果を奏することができる。
【0192】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、変速装置21は、第1動力伝達経路(遊星式無段変速機構24)と第2動力伝達経路(直結機構27)との2つの動力伝達経路を備えている。これにより、例えば、内部ロックアップのみを行う構成と比較して、伝達効率を向上できる。
【0193】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、コントローラ25は、遊星歯車機構81のサンギヤ81B(第2部材)の回転を停止し、内部ロックアップの状態を実現する。この場合、コントローラ25は、第1バリエータ33に回転速度を0とする指令を出力する。または、コントローラ25は、第1バリエータ33に接続される部材の回転を機械的な結合により停止させる指令を出力する。または、コントローラ25は、第1バリエータ33から第2バリエータ34に送る動力を遮断する指令を出力する。これにより、コントローラ25は、サンギヤ81Bの回転を停止する。いずれの場合も、遊星歯車機構81のサンギヤ81Bの回転を停止することにより、内部ロックアップを実現することができ、伝達効率を向上できる。
【0194】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、ロックアップ回転速度比は、同期回転速度比よりも大きい。このため、外部ロックアップ機構である第2動力伝達経路(直結機構27)を通じて動力を伝達するときに、増速できる。
【0195】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、コントローラ25は、車両が停止しているときに、第2クラッチ36を解放する。このため、車速が0のときに、第1バリエータへの動力伝達を阻止できる。
【0196】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、コントローラ25は、サンギヤ81B(第2部材)を停止させるために、第2クラッチ36を締結する。そして、第3クラッチ37を解放する。このため、内部ロックアップのときに、第2バリエータ34への動力伝達を阻止できる。
【0197】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、コントローラ25は、第1クラッチ27Cが締結されているときに、第2クラッチ36と第3クラッチ37とのうちの少なくとも一方のクラッチを解放する。このため、外部ロックアップのときに、第1バリエータ33と第2バリエータ34とのうちの少なくとも一方のバリエータへの動力伝達を阻止できる。
【0198】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、変速装置21は、リングギヤ81C(第3部材)と出力軸23(出力部材)との間に、副変速機構となる多段変速機構26が設けられている。このため、変速装置21は、負荷(出力軸23)の回転方向を反転できる。
【0199】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、第2バリエータ34は、遊星歯車機構81と多段変速機構26との間に設けられたアイドラ要素28(具体的には、回転要素となるアイドラギヤ28B)に接続されている。なお、図30ないし図39に示すように、第2バリエータ34は、入力軸22(入力部材)と駆動源(エンジン9)との間に設けられた回転要素、多段変速機構26を構成する回転要素、多段変速機構26と出力軸23(出力部材)との間に設けられた回転要素、出力軸23(出力部材)、または、出力軸23と負荷との間に設けられた回転要素に接続する構成としてもよい。
【0200】
即ち、第1の実施形態および第2の実施形態では、第2バリエータ34を遊星歯車機構29よりも出力軸23(出力部材)側に接続する構成、即ち、第2バリエータ34を遊星歯車機構29と出力軸23との間に接続する構成としている。これに対して、図30は、第12の変形例を示している。第12の変形例では、第2バリエータ34は、入力軸22に設けられた直結機構27のインプットギヤ27Aに接続されている。即ち、第2バリエータ34は、遊星歯車機構29と入力軸22(入力部材)との間に接続されている。このように、第2バリエータ34は、遊星歯車機構29よりもエンジン9側(駆動源側)に接続する構成としてもよい。なお、図示は省略するが、第2バリエータ34を直結機構27のロックアップギヤ27Bに接続してもよい。
【0201】
図31は、第13の変形例を示している。第13の変形例では、第2バリエータ34は、アイドラ要素28に繋がる第3連結部材32に接続されている。図32は、第14の変形例を示している。第14の変形例では、第2バリエータ34は、多段変速機構26の奇数段ギヤ55に接続されている。なお、図示は省略するが、第2バリエータ34を多段変速機構26の偶数段ギヤ62に接続してもよい。図33は、第15の変形例を示している。第15の変形例では、第2バリエータ34は、多段変速機構26の前進1速ギヤ56に接続されている。図34は、第16の変形例を示しており、第2バリエータ34は、多段変速機構26の前進3速ギヤ57に接続されている。図35は、第17の変形例を示しており、第2バリエータ34は、多段変速機構26の前進2速ギヤ63に接続されている。図36は、第18の変形例を示しており、第2バリエータ34は、多段変速機構26の前進4速ギヤ64に接続されている。図37は、第19の変形例を示しており、第2バリエータ34は、多段変速機構26の後進1速ギヤ65に接続されている。なお、図示は省略するが、第2バリエータ34を多段変速機構26のカウンタギヤ54に接続してもよい。
【0202】
図38は、第20の変形例を示しており、第2バリエータ34は、多段変速機構26の出力軸53(変速装置21の出力軸23)に接続されている。なお、図示は省略するが、第2バリエータ34を多段変速機構26の1速出力ギヤ71、2速出力ギヤ72、3速出力ギヤ73、4速出力ギヤ74または後進1速出力ギヤ75に接続してもよい。図39は、第21の変形例を示しており、第2バリエータ34は、変速装置21の出力軸23よりも負荷側(フロントアクスル12側、リヤアクスル13側)に接続されている。なお、図示は省略するが、第2バリエータ34をフロントアクスル12、リヤアクスル13、前プロペラシャフト14または後プロペラシャフト15に接続してもよい。これらの変形例、例えば、図33ないし図39に示す第15ないし第21の変形例によれば、第2バリエータ34をアイドラギヤ28Bよりも出力軸53側に接続することにより、アイドラ要素28(アイドラギヤ28B)および多段変速機構26を小型にできる。これにより、変速装置21を廉価に製造できる。
【0203】
なお、第1の実施の形態では、多段変速機構26を備えた変速装置21を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、変速装置21は、多段変速機構26を省略してもよい。この場合、例えば、第3連結部材32に出力軸23の出力ギヤを螺合することにより、遊星式無段変速機構24の遊星歯車機構29と出力軸23(出力部材)とを接続することができる。また、この場合に、第2バリエータ34は、遊星歯車機構29よりも出力軸23側(出力部材側)に接続してもよいし、遊星歯車機構29よりも入力軸22側(入力部材側)に接続してもよい。さらに、第1の実施の形態では、外部ロックアップ機構としての直結機構27を備えた変速装置21を例に挙げて説明したが、直結機構27を省略してもよい。これらのことは、第2の実施の形態および各変形例についても同様である。
【0204】
第1の実施の形態では、変速装置21をホイールローダ1に搭載した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、変速装置21は、例えば、油圧ショベル、油圧クレーン、ダンプトラック、フォークリフト等のホイールローダ以外の作業車両(建設機械)に搭載してもよい。また、作業車両に限らず、自動車、鉄道車両等の各種の車両、または、各種の産業機械、一般機械に組み込まれる変速装置として、広く適用することができる。このことは、第2の実施の形態および各変形例についても同様である。
【0205】
また、上述した各実施の形態および各変形例は例示であり、異なる実施の形態および変形例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0206】
1 ホイールローダ(作業車両)
21,21A,21B,21C,21D,21E 変速装置
22 入力軸(入力部材)
23,23A,23B 出力軸(出力部材)
24 遊星式無段変速機構(第1動力伝達経路)
25 コントローラ
26 多段変速機構(副変速機構、第1出力伝達経路、第2出力伝達経路)
27 直結機構(外部ロックアップ機構、第2動力伝達経路)
27C 第1クラッチ
28 アイドラ要素
29 遊星歯車機構(遊星機構)
29A キャリア(第1部材、第2部材、第3部材)
29B 第1サンギヤ(第1サン部材、第1部材、第2部材、第3部材)
29C 第2サンギヤ(第2サン部材、第1部材、第2部材、第3部材)
33 第1バリエータ
34 第2バリエータ
36 第2クラッチ
51 奇数軸(第1出力伝達経路)
52 偶数軸(第2出力伝達経路)
58 第4クラッチ(第1出力クラッチ)
66 第5クラッチ(第2出力クラッチ)
69 第9クラッチ(第2出力クラッチ)
81 遊星歯車機構(遊星機構)
81A キャリア(第1部材、第2部材、第3部材)
81B サンギヤ(サン部材、第1部材、第2部材、第3部材)
81C リングギヤ(リング部材、第1部材、第2部材、第3部材)
図1
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