(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】法面安定化擁壁における擁壁パネルの支持装置
(51)【国際特許分類】
E02D 29/02 20060101AFI20230525BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
E02D29/02 301
E02D17/20 103H
(21)【出願番号】P 2023028121
(22)【出願日】2023-02-27
【審査請求日】2023-03-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029012
【氏名又は名称】株式会社エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】加来 哲也
(72)【発明者】
【氏名】早川 道洋
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特許第6746264(JP,B1)
【文献】特許第7194853(JP,B1)
【文献】特開平07-090827(JP,A)
【文献】特開平06-057756(JP,A)
【文献】特開平07-034464(JP,A)
【文献】特許第7234438(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/02
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面に沿い、前記法面の上部から下方に向けて配置される擁壁パネルを備える法面安定化擁壁において、
前記擁壁パネルの上部の背面に接合され、前記擁壁パネルに一体化する保持部材と、この保持部材が一体化した前記擁壁パネルを前記擁壁パネルの下端の下方の地山に形成された支持面に支持させる支柱とを備え、
前記保持部材の背面側に前記法面に接触し得る調整プレートが、前記保持部材の前記背面からの距離の調整と、前記保持部材の前記背面との角度の調整が自在に接続されていることを特徴とする法面安定化擁壁における擁壁パネルの支持装置。
【請求項2】
前記支柱は前記支持面から前記保持部材までに到達する長さを持ち、前記保持部材は、前記支柱に支持、もしくは保持される被支持部を有することを特徴とする請求項1に記載の法面安定化擁壁における擁壁パネルの支持装置。
【請求項3】
前記保持部材は、前記擁壁パネルに接合される表面側片と前記調整プレートが接続される背面側片、及び前記表面側片と前記背面側片をつなぐつなぎ片を持ち、前記被支持部は前記つなぎ片の下方に突出した状態で前記つなぎ片、もしくは前記支柱に支持されることを特徴とする請求項2に記載の法面安定化擁壁における擁壁パネルの支持装置。
【請求項4】
前記支柱の下端部に前記支柱の高さを調整する昇降装置が着脱自在に接続されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の法面安定化擁壁における擁壁パネルの支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は法面に沿って配列し、法面安定化の目的を持つ擁壁を構成する擁壁パネルを設置完了までの間、法面と擁壁パネル背面との距離等の影響を受けずに擁壁パネルを法面に固定するために使用される、法面安定化擁壁における擁壁パネルの支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地山への掘削(切土)により形成された法面を崩落に対して安定化させる目的で、法面に沿って擁壁パネルを高さ方向に配列させて擁壁を構築する場合に、最上段に設置されるべき擁壁パネルの位置が決まっているような場合、擁壁パネルは上段側から下段側へ向かって設置されていくことになる。この場合、法面に最初に設置される最上段の擁壁パネルは切土される前の地山に支持されながら、法面に設置され、支持される。
【0003】
この方法で、ある段の擁壁パネルを法面に設置するときに、その擁壁パネルを上段側の擁壁パネルに支持させることができなければ、擁壁パネルはその下端において地山に支持されることになる。この関係で、設置すべき擁壁パネルの下端が位置する箇所の地山を残し、地山に水平面等の支持面を形成しながら、地山を掘削することが必要になる(特許文献1~特許文献5参照)。
【0004】
これらの方法に対し、下段側の擁壁パネルを上段側の擁壁パネルに支持させながら、擁壁パネルを下向きに設置していくことを可能にする法面安定化擁壁の構築方法を出願人は先に提案している(特許文献6参照)。
【0005】
この方法では法面の上部に、直下に配置される擁壁パネルを支持する能力を持つ墨出しブロックを擁壁パネルに先行して固定し、墨出しブロックに擁壁パネルを係合させることで、擁壁パネルを墨出しブロックに支持させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-34464号公報(請求項1、段落0005~0018、
図6~
図8)
【文献】特開2010-106433号公報(段落0020、
図4~
図8)
【文献】特開2012-246706号公報(請求項1、段落0012~0016、
図2~
図5)
【文献】特開2014-109189号公報(請求項1、段落0002~0006、
図1、
図2)
【文献】特開2015-1084号公報(
図1~
図5)
【文献】特許第6746264号公報(請求項1、段落0009~0036、
図1~
図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
但し、擁壁パネルに先行して法面に固定される墨出しブロックを法面に固定する際に、法面から墨出しブロックまでの距離と法面の傾斜角度が墨出しブロックの設置箇所毎に相違することがあるため、擁壁パネルの設置に先立ち、法面を整形(整地)することが必要になることもある。
【0008】
本発明は上記背景より、擁壁パネルを法面に設置する場合に、上記した墨出しブロックを使用する場合の法面への整形を不要にするか、簡略化させることを可能にする擁壁パネルの支持装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明の法面安定化擁壁における擁壁パネルの支持装置は、法面に沿い、前記法面の上部から下方に向けて配置される擁壁パネルを備える法面安定化擁壁において、
前記擁壁パネルの上部の背面に接合され、前記擁壁パネルに一体化する保持部材と、この保持部材が一体化した前記擁壁パネルを前記擁壁パネルの下端の下方の地山に形成された支持面に支持させる支柱とを備え、
前記保持部材の背面側に前記法面に接触し得る調整プレートが、前記保持部材の前記背面からの距離の調整と、前記保持部材の前記背面との角度の調整が自在に接続されていることを構成要件とする。
【0010】
「法面に沿い、法面の上部から下方に向けて配置される擁壁パネル」とは、擁壁パネル6の長さ方向を法面8の上部に沿った長さ方向に向け、擁壁パネル6の幅方向を法面8の高さ方向に向けて擁壁パネル6が法面8に配置されることを言う。「法面の上部」は基本的に
図8に示す法面8の最上部の縦断面上、隅角部となった部分を指す。
【0011】
擁壁パネル6は長さ方向に複数枚、隣接することもあり、幅方向に複数枚、隣接することもあるが、(法面安定化)擁壁10は最小では1枚の擁壁パネル6のみで成立することもある。擁壁パネル6は、
図5に示すように擁壁パネル6を厚さ方向に貫通する補強材7が地山中に形成される削孔中に挿入され、グラウト材中に埋設されて定着されることで、法面8に固定された状態を永続的に維持する。
【0012】
補強材7の地山中への挿入後には、擁壁パネル6はグラウト材中に定着された補強材7により地山(法面8)に固定され、支持される。擁壁パネル6はその背面と法面8との間に充填される充填材に支持される状態になる。擁壁パネル6が地山に固定されることで、擁壁パネル6を支持していた支持装置1(支柱3)の役目は終える。
【0013】
図5に示すように法面8に先行して設置され、支持装置1に支持される1段目(最上段)の擁壁パネル6を設置するために地山は掘削される。このときに形成された法面8に1段目の擁壁パネル6が設置され、支持装置1に支持される。法面8(擁壁パネル6)の下には未掘削の地山が残されている。この法面8下の地山の上面が支持面9になる。
【0014】
「擁壁パネルの背面に接合され、擁壁パネルに一体化する保持部材」とは、擁壁パネル6の法面8側の面に保持部材2が直接、もしくは間接的に重なって
図1、
図5に示すボルト等の連結具24により接合され、擁壁パネル6の一部になることを言う。保持部材2は擁壁パネル6の一部になることで、擁壁パネル6が法面8に固定されたときに法面8に固定される。
【0015】
保持部材2は擁壁パネル6の背面に接合されながら、支柱3に支持されればよく、形態は問われない。保持部材2は擁壁パネル6には、例えば保持部材2の擁壁パネル6との重なり部分と擁壁パネル6をボルトやピン等の連結具24が挿通し、双方に留められることで、接合される。
【0016】
保持部材2の下方には、擁壁パネル6の下端の下方の地山に形成された上記支持面9に支持される支柱3が配置され、支柱3に保持部材2が支持される。「擁壁パネルの下端の下方の地山に形成された支持面」とは、支持装置1に支持された擁壁パネル6の下端の位置より下方に支持面9が形成されることを言う。支柱3の下端はこの支持面9に直接、もしくは間接的に接触し、支持面9(地山)に支持される。
【0017】
支柱3は保持部材2の下方に配置され、何らかの形で保持部材2を支持できればよく、保持部材2が直接、または保持部材2が一体化した擁壁パネル6が支柱3の上端に載置されることで、保持部材2が支柱3に支持される。擁壁パネル6の法面8への固定後には、擁壁パネル6の背面側に充填される充填材中に保持部材2と共に埋設(埋殺し)されることもあるため、支柱3は保持部材2に接合(固定)されることもある。
【0018】
この他、例えば保持部材2の、擁壁パネル6との接触箇所以外の位置に、支柱3に支持、もしくは保持される被支持部22が接続されるか一体化し、この被支持部22が支柱3に支持されることで、保持部材2が一体化した擁壁パネル6を支持面9に支持させることもある(請求項2)。「被支持部22が支柱3に支持される」とは、被支持部22が支柱3に直接、もしくは間接的に支持されることを言い、「支柱に保持」とは、被支持部22が支柱3に保持、または把持されて支持されることを言う。「間接的に支持」とは、被支持部22が一体化した保持部材2が、または保持部材2が一体化した擁壁パネル6が支柱3に支持されることを言う。
【0019】
この場合、支柱3は支持面9から保持部材2までに到達する長さを持ち(請求項2)、被支持部22は支柱3には、支持等された状態で支柱3から離脱しないように支持等されればよい。例えば支柱3が中空材であれば、
図1、
図8に示すように被支持部22が支柱3の内部に挿入されながら、被支持部22か保持部材2等が支柱3の上端に下向きに係止する形状に形成される。被支持部22が支柱3の内部に挿入される場合、保持部材2は支柱3からの抜け出しに対して安定する。
【0020】
「保持部材の背面側に法面に接触し得る調整プレートが接続され」とは、保持部材2の法面8側に調整プレート4が、調整プレート4の法面8側の面が法面8に接触可能な状態に接続されることを言う。「接触」は調整プレート4の全面が法面8に接触する場合と一部が接触する場合がある。
【0021】
「保持部材の背面からの距離の調整と、背面との角度の調整が自在」とは、保持部材2の背面から法面8(調整プレート4)までの距離の調整と、保持部材2の背面と、調整プレート4の保持部材2側の面とのなす角度の調整が自在な状態に調整プレート4が保持部材2に接続されることを言う。調整プレート4が接続される保持部材2は擁壁パネル6に一体化するため、調整プレート4は間接的に擁壁パネル6に接続される。
【0022】
「保持部材の背面から法面までの距離の調整」は例えば
図2-(a)、(c)に示すように保持部材2の背面側に突設されたボルト等の連結具24の調整プレート4への螺合位置等、接続位置を調整することで可能になる。「角度の調整」は例えば調整プレート4に形成される、連結具24用の挿通孔4aを連結具24の径より大きくする等により調整プレート4を連結具24に対して任意の方向に回転自在に連結されることで可能になる。
【0023】
保持部材2は具体的には、
図2、
図3に示すように擁壁パネル6に接合される表面側片21と調整プレート4が接続される背面側片22、及び表面側片21と背面側片22をつなぐつなぎ片23を持ち、被支持部26がつなぎ片23の下方に突出した状態でつなぎ片23、もしくは支柱3に支持される(請求項3)。表面側片21は擁壁パネル6には直接、もしくは間接的に重なる。保持部材2が表面側片21と背面側片22、及びつなぎ片23を持つ場合、鋼材では例えば
図2、
図3に示すように溝形鋼等であるが、H型鋼も使用可能である。
【0024】
この場合、保持部材2は
図1-(b)に示すように表面側片21に形成された挿通孔2aを挿通する、上記したボルト等の連結具24で擁壁パネル6に接合され、背面側片22に形成された挿通孔2bを挿通するか、挿通孔2bに螺合する連結具24に調整プレート4が接続される。
【0025】
被支持部26はつなぎ片23に接続されるか、もしくはつなぎ片23に下向きに係止する、またはつなぎ片23に一体化する等によりつなぎ片23に支持される。あるいは
図6に示すように被支持部26として既製品その他の継手部材を用い、被支持部26の下方側の部分が支柱3内に挿入されながら、上方側の部分がつなぎ片23から上方へ突出した状態で支柱3に支持されることもある。
図6の例では被支持部26の軸方向中間部に接続されている環状材が支柱3の上端に載り、環状材の上に保持部材2のつなぎ片23が載る状態になる。
【0026】
以上のように支柱3が、擁壁パネル6に一体化した保持部材2を支持しながら、擁壁パネル6の荷重を支柱3の下端を通じて支持面9に支持させることで、擁壁パネル6自体は法面8に固定される必要がなくなる。
【0027】
また擁壁パネル6に接続される調整プレート4が、保持部材2の背面からの距離の調整と、背面との角度の調整が自在に保持部材2に接続されることで、特許文献6の墨出しブロックを直接、法面8に固定する場合のように、墨出しブロックや擁壁パネル6の背面を法面8に密着させるための、法面8への整形作業が不要になり、その分、擁壁パネル6の設置に要する時間が短縮される。
【0028】
加えて保持部材2が直接、擁壁パネル6に接合されながら、支柱3に支持されることで、特許文献6が必要としていた墨出しブロックの使用が不要になるため、墨出しブロックを使用する場合より支持装置1の構成が簡略化され、支持装置1を用いた擁壁パネル6の設置作業も単純化され、効率化される。
【0029】
支柱3の支持面9上への設置に当たり、例えば擁壁パネル6の下端より下方の支持面9の形成時に、施工誤差が生じた場合のように、支柱3の下端と支持面9との間の距離の調整が必要な場合には、支柱3の下端部に支柱3の高さを調整する昇降装置30が着脱自在に接続される(請求項4)。「支柱の高さ」は支持面9からの支柱3の設置高さ、あるいは支持面9から支柱3の上端部までの高さを言い、この高さの調整により支持面9から擁壁パネル6の設置位置までの位置が調整される。
【0030】
昇降装置30は例えば
図1、
図5に示すように支持面9に接触するベースプレート34と、これに接続され、支柱3の下端部に接続される軸部31を有し、支持面9が水平面でなくとも、ベースプレート34の底面が支持面9に面接触できるよう、軸部31はベースプレート34に対して任意の方向に回転自在に(自在継手で)連結される。
【0031】
昇降装置30は例えば筒状の支柱3の内部に挿入可能な、外周面に雄ねじが形成された鋼棒等、鋼材の軸部31と、この雄ねじに螺入するハンドル33付きのナット32から構成され、ハンドル33(ナット32)の軸部31の軸(中心)回りの回転に伴い、ハンドル33が軸部31に対して昇降し、それに応じ、ハンドル33かナット32に支持された支柱2が昇降することで、支柱3の高さが調整される。
【発明の効果】
【0032】
支持装置は擁壁パネルの背面に接合されて一体化する保持部材と、この下方に配置され、下端部が擁壁パネルの下方の地山に形成された支持面に支持され、擁壁パネルを支持面に支持させる支柱とを備え、支柱が擁壁パネルに一体化した保持部材を支持しながら、擁壁パネルの荷重を支柱の下端を通じて支持面に支持させるため、擁壁パネル自体を法面に固定する必要がなくなる。
【0033】
また保持部材の背面側に法面に接触し得る調整プレートを、保持部材の背面からの距離の調整と、背面との角度の調整が自在に接続しているため、従来の墨出しブロックを直接、法面に固定する場合のように、墨出しブロックや擁壁パネルの背面を法面に密着させるための、法面への整形が不要になり、その分、擁壁パネルの設置に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】(a)は支持装置と擁壁パネルの関係を示した立面図、(b)は(a)のx-x線断面図である。
【
図2】(a)は支持装置を構成する、調整プレートと被支持部が付いた保持部材の製作例を示した平面図、(b)は(a)の立面図、(c)は(b)の側面図である。
【
図3】(a)は
図2に示す保持部材の本体の製作例を示した立面図、(b)は(a)の側面図、(c)は保持部材に接続される調整プレートを示した立面図である。
【
図4】(a)は擁壁パネルの製作例を示した立面図であり、中心線の左側が表面側を、右側が背面側(法面側)を示している。(b)は(a)のx-x線断面図、(c)は(a)の平面図である。
【
図5】支持装置を用いて擁壁パネルを支持面に支持させたときの様子を示した縦断面図である。
【
図6】
図1、
図2に示す被支持部とは異なる形態の被支持部を使用して保持部材を支柱に支持させた場合の例を示した一部断面立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は
図5に示す法面8に沿い、法面8の上部から下方に向けて配置される擁壁パネル6を備える法面安定化擁壁(擁壁)10において、擁壁パネル6の上部の背面に接合され、擁壁パネル6に一体化する保持部材2と、保持部材2が一体化した擁壁パネル6を擁壁パネル6の下端の下方の地山に形成された支持面9に支持させる支柱3とを備える支持装置1の構成例を示す。
【0036】
図3に示す保持部材2の本体20の背面側(法面8側)には、
図2に示すように法面8に接触し得、保持部材2の背面と法面8との間の距離と、保持部材2の背面と法面8との間の角度を調整する調整プレート4が接続されている。調整プレート4は例えば保持部材2の背面側に接続されたボルト等の連結具24に接続されることで、保持部材2と法面8との間の距離と角度の調整が自在な状態に保持部材2に接続される。
【0037】
保持部材2の本体20は具体的には
図1~
図3に示すように擁壁パネル6の背面に直接、もしくは間接的に重なる表面側片21と、調整プレート4が接続される背面側片22、及び表面側片21と背面側片22をつなぐつなぎ片23を持つ溝形等の形状をし、背面側片22に螺合等により接続された連結具24に調整プレート4が接続される。調整プレート4は背面側片22から法面8側へ突出した状態になる。調整プレート4が接続される連結具24は背面側片22に形成された挿通孔2bに螺合する等により接続される。
【0038】
保持部材2の表面側片21には、保持部材2を擁壁パネル6に接合するための連結具24が螺合等により接続される挿通孔2aが形成されている。この連結具24は
図4、
図5に示すように擁壁パネル6の上方側の凹部61の位置に擁壁パネル6を貫通して形成された挿通孔63を挿通し、表面側片21の挿通孔2aに螺入するか、挿通孔2aを挿通し、背面側片22側へ突出してナットに螺合する。連結具24による擁壁パネル6と表面側片21との接合により擁壁パネル6は保持部材2に接合される。
【0039】
保持部材2には支柱3に支持、もしくは保持される被支持部26が接続される等により一体化するが、保持部材2がつなぎ片23を有する場合、被支持部26は
図2-(b)、
図6に示すように下部側の部分がつなぎ片23の下面から支柱3側へ突出した状態でつなぎ片23に、または支柱3に支持される。被支持部26の軸方向は実質的に支柱3の軸方向に一致させられる。
【0040】
図1、
図2では被支持部26として、軸方向の少なくとも一部に雄ねじが形成された棒鋼を使用し、被支持部26の下側をつなぎ片23に形成された、
図3に示す貫通孔2cを貫通させ、つなぎ片23の上側に位置する部分にナット27を螺合させて被支持部26を保持部材2に固定し、保持部材2に被支持部26を一体化させている。
【0041】
被支持部26は支柱3に支持、もしくは保持される形状であればよく、例えば支柱3が鋼管等の中空断面材であれば、被支持部26には支柱3内に挿入可能な、上記した棒鋼や鉄筋、またはフラットバー等の棒状材が使用される。その場合、被支持部26は下方部分が支柱3内に挿入された状態で、ナット27等によりつなぎ片23に接合され、つなぎ片23が支柱3の上端に載置されることで、擁壁パネル6が保持部材2と共に支柱3に支持される。
【0042】
図6は被支持部26として既製品等の継手部材を用いた場合の保持部材2の支柱3への支持例を示す。ここに示す被支持部26は支柱3の内部に挿入可能な太さを持つ鋼管と、その軸方向の中間部の外周にボルトで鋼管に接続される環状材からなり、鋼管の下側部分が支柱3の内部に挿入され、支柱3の上端に環状材が載置されることで、被支持部26が支柱3に支持される。鋼管の上側部分は保持部材本体部20のつなぎ片23から上方へ突出し、つなぎ片23の下面は環状材の上に載置される。保持部材2は表面側片21に直接、もしくは間接的に重なって接合された擁壁パネル6の質量で支柱3上に載置された状態を維持する。
【0043】
この場合、
図2-(b)に示す例と異なり、被支持部26はつなぎ片23にその上から拘束されないため、擁壁パネル6の荷重が保持部材2に伝達されたときに、被支持部26の軸心と擁壁パネル6の重心との間の偏心距離に応じたモーメントが被支持部26の支柱3内への挿入区間に作用する。これに対し、被支持部26を構成する鋼管の外周に配置される環状材が鋼管の肉厚を増す働きをし、鋼管を補剛するため、被支持部26(鋼管)をモーメントに対して安定させる効果を持つ。
【0044】
図1等に示す例では雄ねじの形成された被支持部26の下方部分を支柱3の上部の内周面に形成された雌ねじに螺入させることで、保持部材2が支柱3に支持された状態で被支持部26が支柱3の上端から離脱しないようにしている。被支持部26は
図2に示すように保持部材2の長さ方向(軸方向)に間隔を置き、複数箇所、固定される。
【0045】
連結具24がボルトの場合、連結具24の軸部は
図3-(c)に示す調整プレート4の挿通孔4aを挿通し、調整プレート4を挟んだ両側において
図2-(b)に示すように軸部にナット25、25が螺合することで、調整プレート4は連結具24の軸方向に自由に移動自在でありながら、連結具24の軸方向の任意の位置で固定(拘束)可能になる。連結具24の軸部は調整プレート4を貫通し、調整プレート4からの突出長さが調整され、拘束された状態で、調整プレート4の背面から法面8側へ突出する。
【0046】
また調整プレート4の挿通孔4aが連結具24の軸部の径等の太さより大きく形成されることで、軸部に対する調整プレート4の軸回りの傾斜角度が自由に調整可能になる。なお、連結具24の軸部(雄ねじ)が調整プレート4の挿通孔4aに螺合する場合には、ナット25は不要である。
【0047】
支柱3は保持部材2の被支持部26を支持、もしくは保持可能で、保持部材2と共に擁壁パネル6を支持可能な構造と形状をしていればよいが、図面では単純な形状の鋼管を支柱3に使用している。この場合、支柱3は
図1、
図5に示すように下端において擁壁パネル6下の支持面9に直接、もしくは間接的に支持され、上端から被支持部26が挿入され、上端に保持部材2の下端が載置されることで、保持部材2を擁壁パネル6と共に支持する。被支持部26が保持部材2のつなぎ片23を貫通して支柱3内に挿入されるか、螺入することで、保持部材2は支柱3に保持部材2の軸方向及び幅方向の移動に対して拘束される。支柱3は平面上、被支持部26の配置位置に対応した位置に配置される。
【0048】
支持面9の施工状態に応じ、支柱3の下端のレベルの調整が必要な場合には、支柱3の下端部に、
図1に示すように支持面9からの支柱3の上部の高さを調整する昇降装置30が着脱自在に接続される。昇降装置30は例えばジャッキベース等、筒状の支柱3の内部に螺入可能な、外周面に雄ねじが形成された鋼棒等、鋼材の軸部31と、軸部31の雄ねじに螺入するハンドル33付きのナット32と、軸部31の下端に接続されるか、一体化するベースプレート34から構成される。軸部31の上部は支柱2内に単純に挿入されることもある。
【0049】
軸部31が支柱3に螺入する場合、ハンドル33(ナット32)の軸回りの回転に伴い、ハンドル33が軸部31に対して昇降し、それに応じ、ハンドル33かナット32に支持された支柱2が昇降する。昇降装置3は軸部31の下端に接続、または接合されたベースプレート34において支持面9上に載置される。
【0050】
ここで、
図5に基づき、支持装置1による擁壁パネル6の支持面9への支持から法面8への固定までの作業手順を説明する。支柱3を支持面9上に設置するときには、支柱3の上部に保持部材2が接続され、支持されている。保持部材2は上記のように例えばその一部となる被支持部26を支柱3の上端部から挿入し、つなぎ片23を支柱3の上端に載置し、被支持部26にナット27を締結することで、支柱3に接続され、支持される。
【0051】
擁壁パネル6は上記のように上部に形成された挿通孔63を挿通し、保持部材本体20の表面側片21の挿通孔2aに螺入等する連結具24により保持部材2に接合されており、保持部材2の支柱3への支持時に、擁壁パネル6も支柱3に支持される。
【0052】
支柱3を支持すべき支持面9の形成後、
図5の場合、支持面9上に昇降装置30が接続された支柱3を設置し、支柱3の上端のレベル、すなわち擁壁パネル6の設置位置を調整する。このとき、調整プレート4を貫通して法面8側へ突出する連結具24の軸部は地山中に差し込まれ、保持部材2が位置決めされる。
【0053】
隣接する支柱3、3間には、
図1-(a)に示すように擁壁パネル6を支持した状態での支柱3、3の下端部間の間隔を保持し、両支柱3、3の安定性を確保するつなぎ材5が架設され、各支柱3に接続される。つなぎ材5は支柱3には直交クランプ等の把持具51で接続される。
【0054】
支持装置1を用いて擁壁パネル6を支持面9に支持させ、法面8に設置する際、擁壁パネル6の重心に作用する荷重(質量)の内、支柱3の軸方向に平行な成分は支柱3の軸方向圧縮力として支柱3に作用し、支柱3の軸方向に垂直な方向の成分は支柱3を法面8に押し付けるように支柱3に作用する。このため、法面8が傾斜面で、支柱3の軸方向が鉛直方向でない限り、擁壁パネル6を支持した支柱3を含めた支持装置1の安定性が損なわれることはなく、擁壁パネル6が法面8の反対側へ転倒することはない。支柱3の軸方向が鉛直方向であっても、ベースプレート34が十分な面積を持てば、擁壁パネル6を支持した支柱3の転倒は回避される。
【0055】
設置後の擁壁パネル6の下段側に、幅方向に隣接する擁壁パネル6を設置する場合には、擁壁パネル6の幅(高さ)相当分の地山を最上段の擁壁パネル6の設置時の支持面9から下方へ掘削し、新たな支持面9が形成される。最上段の擁壁パネル6を支持した支持装置1の支柱3は擁壁パネル6の背面側に充填される充填材中に埋設されるため、基本的に埋め殺しされ、昇降装置30のみ回収され、下段側の擁壁パネル6の設置時に、新たな支持面9上に新たに設置される支柱3の下端に接続される。
【0056】
擁壁パネル6が幅方向(法面8の高さ方向)に隣接して配列する場合、擁壁パネル6の下方側には、
図4、
図5に示すように表面側が凹となった凹部65が形成され、凹部65の下に表面側が凸となった凸部66が形成される。
【0057】
この擁壁パネル6の下段側に隣接する擁壁パネル6の上方側には、背面側が凸となり、上段側の擁壁パネル6の下方側の凹部65に嵌合する凸部62が形成され、凸部62の下に、背面側が凹となり、上段側の擁壁パネル6の下方側の凸部66に嵌合する凹部61が形成される。
【0058】
下段側の擁壁パネル6の上部の凸部62は上段側の擁壁パネル6の下部の凹部65に厚さ方向に嵌合し、下部の凸部66に下向きに係合する。下段側の擁壁パネル6の上部の凹部61には上段側の擁壁パネル6の下部の凸部66が厚さ方向に嵌合する。下段側の擁壁パネル6の上部の凸部62は上段側の擁壁パネル6の凸部66に下向きに係合することで、下段側の擁壁パネル6の荷重の一部は上段側の擁壁パネル6の下部の凸部66に支持される。
【0059】
下段側の擁壁パネル6は上記のように
図4に示す、上方側の凹部61の位置に形成された挿通孔63を挿通し、上段側の擁壁パネル6の下方側の凸部66の表面側から埋設されたインサート(挿通孔)69に螺入するボルト等により上段側の擁壁パネル6に接合される。
【0060】
支持装置1を用いた擁壁パネル6の法面8への設置後、擁壁パネル6の下方に接続される、図示しない引寄せ装置と、擁壁パネル6の下端部の凸部66の表面に重なって接合される調整材を用いて擁壁パネル6の下端部の厚さ方向の位置が調整される。このとき、擁壁パネル6の設置角度が調整され、同時に下端部の高さが調整される。
【0061】
擁壁パネル6の設置角度等の調整後、
図4に示す擁壁パネル6の挿通孔64を通じ、二重管のケーシングパイプ等の削孔器具を用いて挿通孔64を挿通する補強材7を挿入するための削孔を形成する。削孔内への補強材7の挿入後か挿入前、または同時に削孔内にモルタル等のグラウト材が充填され、グラウト材の硬化によって補強材7を削孔内(グラウト材中)に定着させる。
【0062】
挿通孔64は
図4に示すように擁壁パネル6を表面側から、または背面側から見たときの立面上の中心部の1箇所、または幅方向の中心線付近の複数箇所に形成されている。補強材7は擁壁パネル6を厚さ方向に貫通し、地山中に埋設され、定着される。補強材7の、擁壁パネル6の表面から突出する頭部は擁壁パネル6表面の、挿通孔64の周囲に定着される。
【0063】
擁壁パネル6の背面と法面8との間には擁壁パネル6を法面8に安定的に固定する目的で、モルタル等の充填材(裏込め材)が充填されることから、
図4-(a)、(b)に示すように擁壁パネル6の背面には充填材の漏れを阻止し、充填材の充填領域を区画するための止液材67が埋め込み等により固定(装着)される。充填材は法面8に鉛直面をなして、または傾斜して設置された擁壁パネル6の背面に充填されるため、止液材67は擁壁パネル6の少なくとも下側(下方)に装着される。充填材は擁壁パネル6の上方に、厚さ方向を貫通して形成される注入孔68から充填される。
【0064】
補強材7の定着と並行して、または前後して擁壁パネル6の背面と法面8との間の空隙に、擁壁パネル6の注入孔68を通じて充填材が追加で充填(注入)され、擁壁パネル6が法面8に固定される。充填材は補強材7が挿入された削孔内に充填されるグラウト材と実質的に同一材料である。
【0065】
擁壁パネル6の背面には
図4に示すように充填材の充填領域を区画し、充填領域からの充填材の漏れ(充填材の無秩序な流出)を阻止するための止液材(シール材)67が固定されているため、削孔内へのグラウト材の充填時に充填材としてのグラウト材を削孔内から溢れ(流出)させて擁壁パネル6の背面側へ回り込ませることもある。
【0066】
1……支持装置、
2……保持部材、20……本体、21……表面側片、22……背面側片、23……つなぎ片、2a……(表面側片の)挿通孔、2b……(背面側片の)挿通孔、2c……貫通孔、24……連結具(ボルト)、25……(連結具用)ナット、26……被支持部、27……(被支持部用)ナット、
3……支柱、30……昇降装置、31……軸部、32……ナット、33……ハンドル、34……ベースプレート、
4……調整プレート、4a……挿通孔、
5……つなぎ材、51……把持具、
6……擁壁パネル、61……(上方側の)凹部、62……(上方側の)凸部、63……(ボルト用)挿通孔、64……(補強材用)挿通孔、65……(下方側の)凹部、66……(下方側の)凸部、67……止液材、68……注入孔、69……インサート、
7……補強材、
8……法面、
9……支持面、
10……法面安定化擁壁(擁壁)。
【要約】
【課題】法面に沿って配列する擁壁パネルを設置完了までの間、法面と擁壁パネル背面との距離等の影響を受けずに擁壁パネルを法面に固定する。
【解決手段】法面8に沿い、法面8の上部から下方に向けて配置される擁壁パネル6を備える法面安定化擁壁において、擁壁パネル6の上部の背面に接合され、擁壁パネル6に一体化する保持部材2と、保持部材2が一体化した擁壁パネル6を擁壁パネル6の下端の下方の地山に形成された支持面9に支持させる支柱3から支持装置1を構成し、保持部材2の背面側に法面8に接触し得る調整プレート4を、保持部材2の背面からの距離の調整と、保持部材2の背面との角度の調整を自在に接続する。
【選択図】
図1