IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤマハ発動機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-4ストロークエンジン 図1
  • 特許-4ストロークエンジン 図2
  • 特許-4ストロークエンジン 図3
  • 特許-4ストロークエンジン 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-24
(45)【発行日】2023-06-01
(54)【発明の名称】4ストロークエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/34 20060101AFI20230525BHJP
【FI】
F02D41/34
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023515062
(86)(22)【出願日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2022019158
【審査請求日】2023-03-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩城 洋平
(72)【発明者】
【氏名】杉本 剛史
(72)【発明者】
【氏名】浜松 茂
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正彦
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-202783(JP,A)
【文献】特開平9-280094(JP,A)
【文献】特開2001-349242(JP,A)
【文献】特開2002-81338(JP,A)
【文献】特開2009-197720(JP,A)
【文献】特開2010-84656(JP,A)
【文献】特開2014-47648(JP,A)
【文献】特許第4636564(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室を備えた少なくとも一つの気筒と、
前記燃焼室に接続される吸気通路と、
前記燃焼室と前記吸気通路との接続部である吸気開口を開閉する少なくとも1つの吸気弁と、
前記吸気通路の内部に設けられ、前記燃焼室に吸入される空気量を調整するスロットル弁と、
前記スロットル弁の位置を検出するスロットル弁位置検出器と、
前記吸気通路に燃料を噴射する燃料噴射装置と、
少なくとも前記スロットル弁位置検出器の信号に基づいて前記燃料噴射装置を制御する制御装置と、
を備え、
ピストン位置で規定した圧縮行程から始まり、膨張行程、排気行程及び吸気工程で終了する4つの行程を1つの燃焼サイクルと定義した場合、
前記制御装置が、
前記スロットル弁の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、
前記1つの燃焼サイクル内の圧縮行程以後の前記吸気弁が閉じている閉弁期間に前記燃料噴射装置から噴射される吸気閉弁時噴射量及び前記閉弁期間の後の前記吸気弁が開いている開弁期間に前記燃料噴射装置から噴射される吸気開弁時噴射量を取得し、
取得した前記吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量となるように前記燃料噴射装置を制御する
4ストロークエンジンであって、
前記制御装置は、
前記吸気閉弁時噴射量が吸気閉弁時噴射の開始前の前記スロットル弁の位置変化率である第1スロットル弁位置変化率に応じ、
前記吸気開弁時噴射量が吸気閉弁時噴射の開始後の前記スロットル弁の位置変化率である第2スロットル弁位置変化率に応じるように前記吸気閉弁時噴射量及び前記吸気開弁時噴射量を取得する
4ストロークエンジン。
【請求項2】
前記第1スロットル弁位置変化率は、第1単位時間または第1単位クランク回転角度当たりのスロットル弁位置の変化量であり、
前記第2スロットル弁位置変化率は、前記第1単位時間よりも短い第2単位時間または前記第1単位クランク回転角度よりも小さい第2単位クランク回転角度当たりの前記スロットル弁位置の変化量である
請求項1に記載の4ストロークエンジン。
【請求項3】
前記制御装置は、前記スロットル弁の位置についての所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出し、
前記第1スロットル弁位置変化率は、算出された前記差分値または前記微分値に対して第1平滑化度合いで平滑化処理を行った値であり、
前記第2スロットル弁位置変化率は、算出された前記差分値または前記微分値に対して前記第1平滑化度合いよりも低い第2平滑化度合いで前記平滑化処理を行った値である
請求項1に記載の4ストロークエンジン。
【請求項4】
前記第1スロットル弁位置変化率は、所定時間ごとの前記スロットル弁の位置の検出値に対して第3平滑化度合いで平滑化処理を行った処理結果について所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出した値であり、
前記第2スロットル弁位置変化率は、前記所定時間ごとの前記スロットル弁の位置の検出値に対して前記第3平滑化度合いよりも低い第4平滑化度合いで前記平滑化処理を行った処理結果について所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出した値である
請求項1に記載の4ストロークエンジン。
【請求項5】
前記平滑化処理は、移動平均値を算出する処理であり、
前記第1スロットル弁位置変化率は、サンプリング項数を第1項数とするまたはサンプリング周期を第1サンプリング周期として前記移動平均値を算出した値であり、
前記第2スロットル弁位置変化率は、サンプリング項数を前記第1項数よりも少ない第2項数とするまたはサンプリング周期を前記第1サンプリング周期よりも短い第2サンプリング周期として前記移動平均値を算出した値である
請求項3又は請求項4に記載の4ストロークエンジン。
【請求項6】
前記平滑化処理は、前記差分値または前記微分値に対するローパスフィルタ処理であり、
前記第1スロットル弁位置変化率は、カットオフ周波数を第1カットオフ周波数として前記ローパスフィルタ処理を行った値であり、
前記第2スロットル弁位置変化率は、カットオフ周波数を前記第1カットオフ周波数よりも高い第2カットオフ周波数として前記ローパスフィルタ処理を行った値である
請求項3又は請求項4に記載の4ストロークエンジン。
【請求項7】
前記吸気通路内部の圧力である吸気通路内圧力を検出する吸気通路内圧力検出器を備え、
前記制御装置は、前記加速場面において、少なくとも前記吸気閉弁時噴射量が前記第1スロットル弁位置変化率及び前記吸気通路内圧力に応じるように前記吸気閉弁時噴射量及び前記吸気開弁時噴射量を取得する
請求項に記載の4ストロークエンジン。
【請求項8】
前記スロットル弁は、前記吸気弁と前記スロットル弁との間の距離が前記スロットル弁と前記吸気通路の大気への開放口との間の距離より短くなるように設けられた近接式スロットル弁であり、
前記制御装置は、前記加速場面において、前記近接式スロットル弁の位置の変化率に応じるように前記吸気閉弁時噴射量及び前記吸気開弁時噴射量を取得する
請求項に記載の4ストロークエンジン。
【請求項9】
前記スロットル弁は、前記スロットル弁より下流の前記吸気通路の容積が前記気筒の行程容積より小さくなるように設けられた近接式スロットル弁であり、
前記制御装置は、前記加速場面において、前記近接式スロットル弁の位置の変化率に応じるように前記吸気閉弁時噴射量及び前記吸気開弁時噴射量を取得する
請求項に記載の4ストロークエンジン。
【請求項10】
前記スロットル弁は、前記吸気通路のうち単一の燃焼室に吸入される空気が流通する独立吸気通路部に設けられ、
前記制御装置は、前記加速場面において、前記近接式スロットル弁の位置の変化率に応じるように前記吸気閉弁時噴射量及び前記吸気開弁時噴射量を取得する
請求項に記載の4ストロークエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4ストロークエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
4ストロークエンジンは、燃焼室を備えた少なくとも一つの気筒と、燃焼室に接続される吸気通路と、燃焼室と吸気通路との接続部である吸気開口を開閉する吸気弁と、吸気通路の内部に設けられ燃焼室に吸入される空気量を調整するスロットル弁と、吸気通路に燃料を噴射噴射する燃料噴射装置とを備える構成である。
【0003】
4ストロークエンジンでは、1つの燃焼サイクルにおいて、吸気弁が閉じている閉弁期間及び吸気弁が開いている開弁期間にそれぞれ燃料が噴射されるような燃料噴射制御が提案されている。この燃料噴射制御を実施するには、閉弁期間の燃料の噴射量と、開弁期間の燃料の噴射量とをそれぞれ制御する必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、基本噴射量算出ステージにおいて算出された基本噴射量を閉弁期間に噴射し、基本噴射量算出ステージにおいて算出された噴射量αと追加噴射量算出ステージにおいて算出された噴射量βに応じて算出された追加噴射量を開弁期間に噴射することが記載されている。基本噴射量は、基本噴射量算出ステージにおいてスロットル開度及びエンジン回転速度を基本噴射用マップに適用することで取得される。噴射量αは、基本噴射量算出ステージにおいて計測されたスロットル開度を追加噴射用マップに適することで取得される。噴射量βは、追加噴射量算出ステージにおいて計測されたスロットル開度を追加噴射用マップに適用することで取得される。追加燃料噴射量は、追加噴射量算出ステージにおいてα<βいわゆる加速時である場合、β-αとして取得される。この構成により、基本噴射量算出ステージと追加噴射量算出ステージの間でスロットル弁が大きく開かれ、加速状態に遷移しても、スロットル開度の変化に細かく対応した噴射量補正が精度よく実行され、且つ、スロットル弁操作に対するエンジン出力の応答性を高めることができる。特許文献1は、基本噴射量算出ステージにおいて計測されたスロットル開度と追加噴射量算出ステージにおいて計測されたスロットル開度を用いて追加噴射量を算出することにより、追加噴射量をスロットル開度の変化量に応じて調整できる点を特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4636564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、加速のためのスロットル弁の開度の増加は、種々のタイミングで発生する場合がある。具体的な例示を特許文献1に沿って説明する。例えば、複数の燃焼サイクルにまたがって、スロットル弁開度が小さい低負荷状態から連続して一定の小さな変化率でスロットル弁の開度が緩やかに増加するような緩加速場面を検討する。特許文献1において、このような場面では、基本噴射量算出ステージにおいて計測されるスロットル開度と追加噴射量算出ステージにおいて計測されるスロットル開度は、いずれも小さく且つそれらの差も小さい。そのため、噴射量βと噴射量αの差である追加噴射量は非常に小さくなる。なお、燃料供給装置には、最小噴射量より小さい噴射量を噴射できないという最小噴射量制限がある。そのため、緩加速場面では、β-αにより追加噴射量を算出できても、最小噴射量制限により精密に必要な燃料を供給できない場合がある。また、例えば、基本噴射量算出ステージの後に追加噴射量算出ステージの前且つ近傍においてスロットル弁の開度が小さい状態から急激に増加する開弁前タイミングでの急加速場面を検討する。特許文献1において、このような場面では、基本噴射量算出ステージにおいて計測されるスロットル開度と追加噴射量算出ステージにおいて計測されるスロットル開度との差は小さい。このようなタイミングでの急加速場面において、追加噴射量は加速の程度に比べて小さくなる場合がある。これらの加速場面における現象は、特許文献1が基本噴射量算出ステージにおいて計測されたスロットル開度と追加噴射量算出ステージにおいて計測されたスロットル開度に応じて追加噴射量を算出していることに起因する。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、スロットル弁の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、1つの燃焼サイクル内の吸気弁が閉じている閉弁期間及び吸気弁が開いている開弁期間にそれぞれ燃料が噴射される燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することが可能な4ストロークエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンは、燃焼室を備えた少なくとも一つの気筒と、前記燃焼室に接続される吸気通路と、前記燃焼室と前記吸気通路との接続部である吸気開口を開閉する少なくとも1つの吸気弁と、前記吸気通路の内部に設けられ、前記燃焼室に吸入される空気量を調整するスロットル弁と、前記スロットル弁の位置を検出するスロットル弁位置検出器と、前記吸気通路に燃料を噴射する燃料噴射装置と、少なくとも前記スロットル弁位置検出器の信号に基づいて前記燃料噴射装置を制御する制御装置と、を備え、ピストン位置で規定した圧縮行程から始まり、膨張行程、排気行程及び吸気工程で終了する4つの行程を1つの燃焼サイクルと定義した場合、前記制御装置が、前記スロットル弁の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、前記1つの燃焼サイクル内の圧縮行程以後の前記吸気弁が閉じている閉弁期間に前記燃料噴射装置から噴射される吸気閉弁時噴射量及び前記閉弁期間の後の前記吸気弁が開いている開弁期間に前記燃料噴射装置から噴射される吸気開弁時噴射量を取得し、取得した前記吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量となるように前記燃料噴射装置を制御する4ストロークエンジンであって、前記制御装置は、前記吸気閉弁時噴射量が前記吸気閉弁時噴射の開始前の前記スロットル弁の位置変化率である第1スロットル弁位置変化率に応じ、前記吸気開弁時噴射量が前記吸気閉弁時噴射の開始後の前記スロットル弁の位置変化率である第2スロットル弁位置変化率に応じるように前記吸気閉弁時噴射量及び前記吸気開弁時噴射量を取得する。
【0009】
この構成によれば、例えば、スロットル弁開度が小さい低負荷状態から連続して一定の小さな変化率でスロットル弁の開度が緩やかに増加するような緩加速場面であっても、第1スロットル弁位置変化率に応じた吸気閉弁時噴射量が取得される。この緩加速場面では第1スロットル弁位置変化率と第2スロットル弁位置変化率はほぼ同じであり、第1スロットル弁位置変化率に応じることで、緩加速場面を反映した吸気閉弁時噴射量を取得することができる。例えば、追加噴射量算出ステージの前且つ近傍においてスロットル弁の開度が小さい状態から急激に増加するより遅いタイミングでの急加速場面であっても、第2スロットル弁位置変化率に応じた吸気開弁時噴射量が取得される。なお、第2スロットル弁位置変化率に応じることで、開弁前タイミングの急加速場面を反映した吸気開弁時噴射量を取得することができる。従って、スロットル弁の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、1つの燃焼サイクル内の吸気弁が閉じている閉弁期間及び吸気弁が開いている開弁期間にそれぞれ燃料が噴射される燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0010】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンにおいて、前記第1スロットル弁位置変化率は、第1単位時間または第1単位クランク回転角度当たりの前記スロットル弁位置の変化量であり、前記第2スロットル弁位置変化率は、前記第1単位時間よりも短い第2単位時間または前記第1単位クランク回転角度よりも小さい第2単位クランク回転角度当たりの前記スロットル弁位置の変化量である。
【0011】
この構成によれば、1つの燃焼サイクルにおいて、吸気弁の閉弁時期までの時間が短い吸気開弁時噴射量が第1単位時間または単位クランク回転角度より小さい第2単位時間または単位クランク回転角度となる第2スロットル弁位置変化率に応じるように構成される。その構成により、例えば、開弁前タイミングの急加速場面であっても、第2スロットル弁位置変化率は開弁前タイミングの急加速場面をより反映した変化率とすることができる。そのため、開弁前タイミングの急加速場面であっても、開弁前タイミングの急加速場面をより反映した吸気開弁時噴射量を取得できる。例えば、緩加速場面においては、スロットル弁位置の変化が緩やかであるため、振動またはノイズなどの影響により、変化率の単位時間または単位クランク回転角度を短くすると、スロットル弁位置変化率が不安定になる場合がある。しかしながら、この構成によれば、1つの燃焼サイクルにおいて、吸気弁の閉弁時期までの時間が長い吸気閉弁時噴射量が第2単位時間または単位クランク回転角度より大きい第1単位時間または単位クランク回転角度となる第1スロットル弁位置変化率に応じるように構成される。その構成により、例えば、緩加速場面であっても、振動またはノイズなどの影響を抑えながら精度良く燃料噴射制御をすることができる。従って、スロットル弁の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、1つの燃焼サイクル内の吸気弁が閉じている閉弁期間及び吸気弁が開いている開弁期間にそれぞれ燃料が噴射される燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0012】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンにおいて、前記制御装置は、前記スロットル弁の位置についての所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出し、前記第1スロットル弁位置変化率は、算出された前記差分値または前記微分値に対して第1平滑化度合いで平滑化処理を行った値であり、前記第2スロットル弁位置変化率は、算出された前記差分値または前記微分値に対して前記第1平滑化度合いよりも低い第2平滑化度合いで前記平滑化処理を行った値である。
【0013】
この構成によれば、スロットル弁の位置についての所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出し、差分値または微分値に対して第1平滑度合いで平滑化処理を行って第1スロットル弁位置変化率を求め、第1平滑化度合いよりも低い第2平滑化度合いで平滑化処理を行って第2スロットル弁位置変化率を求める。従って、閉弁期間及び開弁期間にそれぞれ燃料が噴射される燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0014】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンにおいて、前記第1スロットル弁位置変化率は、所定時間ごとの前記スロットル弁の位置の検出値に対して第3平滑化度合いで平滑化処理を行った処理結果について所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出した値であり、前記第2スロットル弁位置変化率は、前記所定時間ごとの前記スロットル弁の位置の検出値に対して前記第3平滑化度合いよりも低い第4平滑化度合いで前記平滑化処理を行った処理結果について所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出した値である。
【0015】
この構成によれば、所定時間ごとのスロットル弁の位置の検出値に対して第3平滑化度合いで平滑化処理を行った処理結果について所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出して第1スロットル弁位置変化率を求め、所定時間ごとのスロットル弁の位置の検出値に対して第3平滑化度合いよりも低い第4平滑化度合いで平滑化処理を行った処理結果について所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出して第2スロットル弁位置変化率を求める。従って、閉弁期間及び開弁期間にそれぞれ燃料が噴射される燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0016】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンにおいて、前記平滑化処理は、移動平均値を算出する処理であり、前記第1スロットル弁位置変化率は、サンプリング項数を第1項数とするまたはサンプリング周期を第1サンプリング周期として前記移動平均値を算出した値であり、前記第2スロットル弁位置変化率は、サンプリング項数を前記第1項数よりも少ない第2項数とするまたはサンプリング周期を前記第1サンプリング周期よりも短い第2サンプリング周期として前記移動平均値を算出した値である。
【0017】
この構成によれば、平滑化処理が移動平均値を算出する処理であり、サンプリング項数を第1項数とするまたはサンプリング周期を第1サンプリング周期として移動平均値を算出して第1スロットル弁位置変化率を求め、サンプリング項数を第1項数よりも少ない第2項数とするまたはサンプリング周期を第1サンプリング周期よりも短い第2サンプリング周期として移動平均値を算出して第2スロットル弁位置変化率を求める。従って、閉弁期間及び開弁期間にそれぞれ燃料が噴射される燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0018】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンにおいて、前記平滑化処理は、前記差分値または前記微分値に対するローパスフィルタ処理であり、前記第1スロットル弁位置変化率は、カットオフ周波数を第1カットオフ周波数として前記ローパスフィルタ処理を行った値であり、前記第2スロットル弁位置変化率は、カットオフ周波数を前記第1カットオフ周波数よりも高い第2カットオフ周波数として前記ローパスフィルタ処理を行った値である。
【0019】
この構成によれば、平滑化処理が差分値または微分値に対するローパスフィルタ処理であり、カットオフ周波数を第1カットオフ周波数としてローパスフィルタ処理を行って第1スロットル弁位置変化率を求め、カットオフ周波数を第1カットオフ周波数よりも高い第2カットオフ周波数としてローパスフィルタ処理を行って第2スロットル弁位置変化率を求める。従って、閉弁期間及び開弁期間にそれぞれ燃料が噴射される燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0020】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンは、前記吸気通路内部の圧力である吸気通路内圧力を検出する吸気通路内圧力検出器を備え、前記制御装置は、前記加速場面において、少なくとも前記吸気閉弁時噴射量が前記第1スロットル弁位置変化率及び前記吸気通路内圧力に応じるように前記吸気閉弁時噴射量及び前記吸気開弁時噴射量を取得する。
【0021】
この構成によれば、第1スロットル弁位置変化率に加えて低負荷状態の吸気通路圧力に応じるように構成される。低負荷状態の低負荷状態の吸気通路圧力は、燃焼室に吸入される空気量との関係性が高い。そのため、少なくとも吸気閉弁時噴射量の精度をより向上することができる。吸気閉弁時噴射量が第2単位時間または単位クランク回転角度より長い第1単位時間または単位クランク回転角度となる第1スロットル弁位置変化率に応じるように構成されている場合であっても、吸気閉弁時噴射量の応答性と精度をより向上することができる。
【0022】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンにおいて、前記スロットル弁は、前記吸気弁と前記スロットル弁との間の距離が前記スロットル弁と前記吸気通路の大気への開放口との間の距離より短くなるように設けられた近接式スロットル弁であり、前記制御装置は、前記加速場面において、前記近接式スロットル弁の位置の変化率に応じるように前記吸気閉弁時噴射量及び前記吸気開弁時噴射量を取得する。
【0023】
この構成によれば、近接式スロットル弁の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、近接式スロットル弁が吸気弁に近い位置に設けられるため、燃焼室に吸入される空気量の応答性を向上できる。加えて、空気量に対して応答性が高い近接式スロットル弁の位置の変化率に応じて吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得できる。これら構成の相乗効果により、燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0024】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンにおいて、前記スロットル弁は、前記スロットル弁より下流の前記吸気通路の容積が前記気筒の行程容積より小さくなるように設けられた近接式スロットル弁であり、前記制御装置は、前記加速場面において、前記近接式スロットル弁の位置の変化率に応じるように前記吸気閉弁時噴射量及び前記吸気開弁時噴射量を取得する。
【0025】
この構成によれば、近接式スロットル弁の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、近接式スロットル弁が吸気弁に近い位置に設けられるため、燃焼室に吸入される空気量の応答性を向上できる。加えて、空気量に対して応答性が高い近接式スロットル弁の位置の変化率に応じて吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得できる。これら構成の相乗効果により、燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0026】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンは、前記スロットル弁は、前記吸気通路のうち単一の燃焼室に吸入される空気が流通する独立吸気通路部に設けられ、前記制御装置は、前記加速場面において、前記近接式スロットル弁の位置の変化率に応じるように前記吸気閉弁時噴射量及び前記吸気開弁時噴射量を取得する。
【0027】
この構成によれば、独立スロットル弁の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、独立スロットル弁が吸気弁に近い位置に設けられるため、燃焼室に吸入される空気量の応答性を向上できる。加えて、空気量に対して応答性が高い独立スロットル弁の位置の変化率に応じて吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得できる。これら構成の相乗効果により、燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、スロットル弁の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、1つの燃焼サイクル内の吸気弁が閉じている閉弁期間及び吸気弁が開いている開弁期間にそれぞれ燃料が噴射される燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することが可能な4ストロークエンジンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、4ストロークエンジンの一例を模式的に示す図である。
図2図2は、時間とスロットル弁位置及びスロットル弁位置変化率との関係の一例を示す図である。
図3図3は、4ストロークエンジンの制御装置における制御の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、本実施形態に係る4ストロークエンジンの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、4ストロークエンジンの実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0031】
図1は、4ストロークエンジン100の一例を模式的に示す図である。4ストロークエンジン100は、エンジン本体10と、吸気通路21及び排気通路22と、吸気弁31及び排気弁32と、スロットル弁33と、クランク角検出器41と、スロットル弁位置検出器42と、吸気通路内圧力検出器43と、燃料噴射装置50と、制御装置60とを備える。
【0032】
エンジン本体10は、気筒11と、クランクケース12とを有する。気筒11は、少なくとも1つ設けられる。気筒11の数は、特に限定されず、単気筒、2気筒、3気筒、4気筒等であってもよい。気筒11は、燃焼室13を有する。燃焼室13は、吸気開口17及び排気開口18を有する。また、燃焼室13には、点火プラグ19が配置される。点火プラグ19が、燃焼室13の内部に供給される混合気に点火することにより混合気が燃焼する。
【0033】
燃焼室13には、ピストン14が配置される。ピストン14は、燃焼室13に供給された燃料を含む混合気の燃焼によって気筒11内を往復移動する。ピストン14の往復移動により、燃焼室13の容積が増減する。ピストン14は、コネクティングロッド15を介してクランクシャフト16に接続される。ピストン14の往復移動に連動して、クランクシャフト16が回転する。クランクシャフト16は、クランクケース12内に配置される。
【0034】
吸気通路21は、燃焼室13の吸気開口17に接続される。吸気開口17は、燃焼室13と吸気通路21との接続部である。吸気通路21は、大気への開放口である大気開放口21aを有する。
【0035】
排気通路22は、燃焼室13の排気開口18に接続される。排気開口18は、燃焼室13と排気通路22との接続部である。
【0036】
吸気弁31は、吸気開口17を開閉する。排気弁32は、排気開口18を開閉する。吸気弁31及び排気弁32は、例えばカムシャフト等の駆動機構34により駆動されることで開閉動作を行う。
【0037】
スロットル弁33は、吸気通路21の内部に配置される。スロットル弁33は、燃焼室13に吸入される空気量を調整する。スロットル弁33は、吸気弁31とスロットル弁33との間の距離L1がスロットル弁33と吸気通路21の大気開放口21aとの間の距離L2より短くなる位置に配置することができる。また、スロットル弁33は、当該スロットル弁33より下流の吸気通路21の容積V1が気筒11の行程容積V2より小さくなる位置に配置されてもよい。このようにスロットル弁33が吸気弁31に近い位置に設けられる場合、燃焼室13に吸入される空気量の応答性が向上する。
【0038】
クランク角検出器41は、クランクシャフト16の回転角度であるクランク回転角度を検出する。
【0039】
スロットル弁位置検出器42は、スロットル弁33の位置であるスロットル弁位置を検出する。
【0040】
吸気通路内圧力検出器43は、吸気通路21の内部の圧力である吸気通路内圧力を検出する。
【0041】
検出器としては、上記の他、例えば吸気通路21の内部の温度を検出する検出器、エンジン本体10の内部の温度を検出する検出器、エンジン回転数を検出する検出器等、不図示の各種の検出器が設けられる。
【0042】
燃料噴射装置50は、吸気通路21に燃料を噴射する。燃料噴射装置50は、燃料を噴射することによって、吸気通路21の内部に燃料を供給する。
【0043】
制御装置60は、CPU(Central Processing Unit)等の処理装置と、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等の記憶装置、タイマー等を有する。制御装置60は、クランク角検出器41、スロットル弁位置検出器42、吸気通路内圧力検出器43等の各検出器からの検出結果が入力される。
【0044】
制御装置60は、燃料噴射装置50及び点火プラグ19を制御する。制御装置60は、燃料噴射装置50が燃料の噴射量及び燃料を噴射するタイミングを制御する。制御装置60は、点火プラグ19の添加のタイミングを制御する。
【0045】
上記構成の4ストロークエンジン100は、燃焼サイクルを繰り返す。1つの燃焼サイクルは、ピストン位置で規定した圧縮行程から始まり、膨張行程、排気行程及び吸気工程で終了する4つの行程を含む。吸気行程の前に、燃料噴射装置50から吸気通路21の内部に燃料が噴射される。吸気行程において、吸気弁31が開くことで、スロットル弁33を通る空気と燃料噴射装置50から噴射された燃料の混合気が、気筒11の燃焼室13に供給される。圧縮行程において、ピストン14が燃焼室13内の混合気を圧縮する。膨張行程において、点火プラグ19で点火された混合気が燃焼するとともに、ピストン14を押す。排気行程において、排気弁32が開くことで、燃焼後の排気が燃焼室13から排気通路22に排出される。
【0046】
図2を参照して、制御装置60における制御について説明する。図2は、時間とスロットル弁位置P及びスロットル弁位置変化率との関係の一例を示す図である。図2の上段においては縦軸がスロットル弁位置Pを示し、図2の下段においては縦軸がスロットル弁位置変化率を示す。図2の上段及び下段において、横軸は時間を示す。図2において、横軸はクランク角度であってもよい。
【0047】
制御装置60は、スロットル弁33の位置が遷移しない定常場面、及びスロットル弁開度が小さい低負荷状態から連続して一定の小さな変化率でスロットル弁33の開度が緩やかに増加するような緩加速場面においては、吸気閉弁時噴射J1が行われるように制御する。吸気閉弁時噴射J1は、1つの燃焼サイクル内の圧縮行程以後の吸気弁31が閉じている閉弁期間T1に燃料噴射装置50から燃料の噴射を行うことをいう。
【0048】
制御装置60は、スロットル弁33の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面においては、吸気閉弁時噴射J1及び吸気開弁時噴射J2を行うことができる。吸気開弁時噴射J2は、1つの燃焼サイクル内の閉弁期間T1の後の吸気弁31が開いている開弁期間T2に燃料噴射装置50から燃料の噴射を行うことをいう。なお、スロットル弁33の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面は、例えばスロットル弁33の位置が低負荷状態から高負荷状態に遷移するような加速場面を含む。低負荷状態は、例えば負荷トルクが1燃焼サイクルにおける負荷トルクの平均値よりも低い状態とすることができる。また、高負荷状態は、負荷トルクが1燃焼サイクルにおける負荷トルクの平均値よりも高い状態とすることができる。制御装置60は、このような加速場面においては、吸気閉弁時噴射J1及び吸気開弁時噴射J2を行うように制御してよいし、吸気閉弁時噴射J1を行い、吸気開弁時噴射J2を行わないように制御してもよい。
【0049】
制御装置60は、上記の加速場面において吸気閉弁時噴射J1及び吸気開弁時噴射J2を行うように制御する場合、吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得する。吸気閉弁時噴射量は、吸気閉弁時噴射J1において燃料噴射装置50から噴射される燃料の噴射量の目標値である。吸気開弁時噴射量は、吸気開弁時噴射J2において燃料噴射装置50から噴射される燃料の噴射量の目標値である。
【0050】
制御装置60は、吸気閉弁時噴射量が吸気閉弁時噴射J1の開始前のスロットル弁33の位置変化率である第1スロットル弁位置変化率R1に応じるように、当該吸気弁噴射量を取得する。制御装置60は、吸気開弁時噴射量が吸気閉弁時噴射J1の開始後のスロットル弁33の位置変化率である第2スロットル弁位置変化率R2に応じるように、当該吸気弁噴射量を取得する。
【0051】
第1スロットル弁位置変化率R1は、第1単位時間または第1単位クランク回転角度当たりのスロットル弁位置Pの変化量である。第2スロットル弁位置変化率R2は、第1単位時間よりも短い第2単位時間または第1単位クランク回転角度よりも小さい第2単位クランク回転角度当たりのスロットル弁位置Pの変化量である。
【0052】
第1スロットル弁位置変化率R1及び第2スロットル弁位置変化率R2を求める際、制御装置60は、スロットル弁33の位置についての所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出する。
【0053】
この場合、制御装置60は、算出された差分値または微分値に対して第1平滑化度合いで平滑化処理を行うことで、第1スロットル弁位置変化率R1を算出することができる。また、制御装置60は、算出された差分値または微分値に対して第1平滑化度合いよりも低い第2平滑化度合いで平滑化処理を行うことで、第2スロットル弁位置変化率R2を算出することができる。
【0054】
また、制御装置60は、所定時間ごとのスロットル弁33の位置の検出値に対して第3平滑化度合いで平滑化処理を行った処理結果について所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出することで、第1スロットル弁位置変化率R1を求めてもよい。また、制御装置60は、所定時間ごとのスロットル弁33の位置の検出値に対して第3平滑化度合いよりも低い第4平滑化度合いで平滑化処理を行った処理結果について所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出することで、第2スロットル弁位置変化率R2を求めてもよい。
【0055】
制御装置60は、平滑化処理として、例えば移動平均値を算出する処理を行うことができる。この場合、第1スロットル弁位置変化率R1は、サンプリング項数を第1項数とするまたはサンプリング周期を第1サンプリング周期として移動平均値を算出した値である。また、第2スロットル弁位置変化率R2は、サンプリング項数を第1項数よりも少ない第2項数とするまたはサンプリング周期を第1サンプリング周期よりも短い第2サンプリング周期として移動平均値を算出した値である。
【0056】
制御装置60は、平滑化処理として、例えば差分値または微分値に対するローパスフィルタ処理を行ってもよい。この場合、第1スロットル弁位置変化率R1は、カットオフ周波数を第1カットオフ周波数としてローパスフィルタ処理を行った値であり、第2スロットル弁位置変化率R2は、カットオフ周波数を第1カットオフ周波数よりも高い第2カットオフ周波数としてローパスフィルタ処理を行った値である。
【0057】
制御装置60は、算出した第1スロットル弁位置変化率R1及び第2スロットル弁位置変化率R2に基づいて、例えば所定の燃料噴射量マップから吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得することができる。また、制御装置60は、算出した第1スロットル弁位置変化率R1及び第2スロットル弁位置変化率R2に基づいて、例えば所定の計算式から吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得することができる。
【0058】
定常場面及び緩加速場面では、第1スロットル弁位置変化率R1と第2スロットル弁位置変化率R2はほぼ同じである。定常場面及び緩加速場面において、制御装置60は、第1スロットル弁位置変化率R1に応じることで、定常場面及び緩加速場面を反映した吸気閉弁時噴射量を取得することができる。
【0059】
加速場面では、第2スロットル弁位置変化率R2に応じた吸気開弁時噴射量が取得される。例えば、追加噴射量算出ステージの前且つ近傍においてスロットル弁33の開度が小さい状態から急激に増加する開弁前タイミングでの急加速場面であっても、第2スロットル弁位置変化率R2に応じた吸気開弁時噴射量が取得される。制御装置60は、第2スロットル弁位置変化率R2に応じることで、開弁前タイミングの急加速場面を反映した吸気開弁時噴射量を取得することができる。
【0060】
吸気開弁時噴射J2は、吸気弁31の閉弁時期までの時間が短い。このような吸気開弁時噴射J2における吸気開弁時噴射量は、第1単位時間または単位クランク回転角度より小さい第2単位時間または単位クランク回転角度となる第2スロットル弁位置変化率R2に応じるように取得される。例えば、開弁前タイミングの急加速場面であっても、第2スロットル弁位置変化率R2は開弁前タイミングの急加速場面をより反映した変化率とすることができる。そのため、開弁前タイミングの急加速場面であっても、当該急加速場面をより反映した吸気開弁時噴射量が取得される。
【0061】
また、吸気閉弁時噴射J1は、吸気弁31の閉弁時期までの時間が長い。例えば、緩加速場面においては、スロットル弁位置Pの変化が緩やかであるため、振動またはノイズなどの影響により、変化率の単位時間または単位クランク回転角度を短くすると、スロットル弁位置変化率が不安定になる場合がある。本実施形態では、吸気閉弁時噴射量が第2単位時間または単位クランク回転角度より大きい第1単位時間または単位クランク回転角度となる第1スロットル弁位置変化率R1に応じるように取得される。そのため、例えば、緩加速場面であっても、振動またはノイズなどの影響が抑制された吸気閉弁時噴射量が得られる。
【0062】
吸気弁31とスロットル弁33との間の距離L1がスロットル弁33と吸気通路21の大気開放口21aとの間の距離L2より短くなるようにスロットル弁33が配置される場合、空気量に対して応答性が高いスロットル弁33の位置の変化率に応じて吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量が取得されることになる。
【0063】
なお、第1スロットル弁位置変化率R1及び第2スロットル弁位置変化率R2は、所定のマップ又は所定の計算式に基づいて、スロットル弁位置Pの変化を推定する場合に用いることができる。また、第1スロットル弁位置変化率R1及び第2スロットル弁位置変化率R2は、所定の空気量マップ又は所定の計算式に基づいて、吸入される空気量を推定する場合に用いることができる。
【0064】
制御装置60は、取得した吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量で燃料が噴射されるように燃料噴射装置50を制御する。この場合、スロットル弁33の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、1つの燃焼サイクル内の吸気弁31が閉じている閉弁期間T1及び吸気弁31が開いている開弁期間T2にそれぞれ燃料が噴射される燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0065】
図3は、4ストロークエンジン100の制御装置60における制御の一例を示すフローチャートである。図3に示すように、制御装置60は、閉弁期間T1の所定のタイミングt1(図2参照)において、第1スロットル弁位置変化率R1に応じた吸気閉弁時噴射量を取得する(ステップS10)。制御装置60は、取得した吸気閉弁時噴射量に基づいて、所定のタイミングで吸気閉弁時噴射J1を行う(ステップS20)。
【0066】
吸気閉弁時噴射J1の後、制御装置60は、吸気開弁時噴射J2を行うか否かを判定する(ステップS30)。制御装置60は、吸気開弁時噴射J2を行わないと判定した場合(ステップS30のNo)、処理を終了する。
【0067】
一方、制御装置60は、吸気開弁時噴射J2を行うと判定した場合(ステップS30のYes)、制御装置60は、開弁期間T2の所定のタイミングt2(図2参照)において、第2スロットル弁位置変化率R2に応じた吸気開弁時噴射量を取得する(ステップS40)。制御装置60は、取得した吸気開弁時噴射量に基づいて、所定のタイミングで吸気開弁時噴射J2を行う(ステップS50)。
【0068】
図4は、本実施形態に係る4ストロークエンジン100の一例を示す図である。図4に示すように、4ストロークエンジン100は、独立スロットル型エンジンである。独立スロットル型の4ストロークエンジン100は、気筒11ごとに、単一の燃焼室13に吸入される空気が流通する独立吸気通路部21Rを有する。スロットル弁33は、独立吸気通路部21Rごとに設けられる。制御装置60は、加速場面において、それぞれのスロットル弁33の位置の変化率に応じるように吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得する。独立スロットル型エンジンにおいては、スロットル弁33を吸気弁31に近い位置に設けることができる。このため、燃焼室13に吸入される空気量の応答性を向上できる。加えて、空気量に対して応答性が高いスロットル弁33の位置の変化率に応じて吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得できる。
【0069】
なお、4ストロークエンジン100は、独立スロットル型エンジンに限定されない。4ストロークエンジン100は、単一のスロットル弁33と単数又は複数の気筒11とを有する単一スロットル型エンジンであってもよい。
【0070】
以上のように、本実施形態によれば、4ストロークエンジン100は、燃焼室13を備えた少なくとも一つの気筒11と、燃焼室13に接続される吸気通路21と、燃焼室13と吸気通路21との接続部である吸気開口17を開閉する少なくとも1つの吸気弁31と、吸気通路21の内部に設けられ、燃焼室13に吸入される空気量を調整するスロットル弁33と、スロットル弁33の位置を検出するスロットル弁位置検出器42と、吸気通路21に燃料を噴射する燃料噴射装置50と、少なくともスロットル弁位置検出器42の信号に基づいて燃料噴射装置50を制御する制御装置60と、を備え、ピストン位置で規定した圧縮行程から始まり、膨張行程、排気行程及び吸気工程で終了する4つの行程を1つの燃焼サイクルと定義した場合、制御装置60が、スロットル弁33の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、1つの燃焼サイクル内の圧縮行程以後の吸気弁31が閉じている閉弁期間T1に燃料噴射装置50から噴射される吸気閉弁時噴射量及び閉弁期間T1の後の吸気弁31が開いている開弁期間T2に燃料噴射装置50から噴射される吸気弁31開時噴射量を取得し、取得した吸気閉弁時噴射量及び吸気弁31開時噴射量となるように燃料噴射装置50を制御する4ストロークエンジン100であって、制御装置60は、吸気閉弁時噴射量が吸気閉弁時噴射J1の開始前のスロットル弁33の位置変化率である第1スロットル弁位置変化率R1に応じ、吸気開弁時噴射量が吸気閉弁時噴射J1の開始後のスロットル弁33の位置変化率である第2スロットル弁位置変化率R2に応じるように吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得する。
【0071】
この構成によれば、スロットル弁33の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、1つの燃焼サイクル内の吸気弁31が閉じている閉弁期間T1及び吸気弁31が開いている開弁期間T2にそれぞれ燃料が噴射される燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0072】
本実施形態によれば、4ストロークエンジン100において、第1スロットル弁位置変化率R1は、第1単位時間または第1単位クランク回転角度当たりのスロットル弁位置Pの変化量であり、第2スロットル弁位置変化率R2は、第1単位時間よりも短い第2単位時間または第1単位クランク回転角度よりも小さい第2単位クランク回転角度当たりのスロットル弁位置Pの変化量である。
【0073】
この構成によれば、急加速場面においては当該急加速場面をより反映した吸気開弁時噴射量が取得され、緩加速場面においては振動またはノイズなどの影響が抑制された吸気閉弁時噴射量が得られる。従って、スロットル弁33の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、1つの燃焼サイクル内の吸気弁31が閉じている閉弁期間T1及び吸気弁31が開いている開弁期間T2にそれぞれ燃料が噴射される燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0074】
本実施形態によれば、4ストロークエンジン100において、制御装置60は、スロットル弁33の位置についての所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出し、第1スロットル弁位置変化率R1は、算出された差分値または微分値に対して第1平滑化度合いで平滑化処理を行った値であり、第2スロットル弁位置変化率R2は、算出された差分値または微分値に対して第1平滑化度合いよりも低い第2平滑化度合いで平滑化処理を行った値である。
【0075】
この構成によれば、スロットル弁33の位置についての所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出し、差分値または微分値に対して第1平滑度合いで平滑化処理を行って第1スロットル弁位置変化率R1を求め、第1平滑化度合いよりも低い第2平滑化度合いで平滑化処理を行って第2スロットル弁位置変化率R2を求める。従って、閉弁期間T1及び開弁期間T2にそれぞれ燃料が噴射される燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0076】
本実施形態によれば、4ストロークエンジン100において、第1スロットル弁位置変化率R1は、所定時間ごとのスロットル弁33の位置の検出値に対して第3平滑化度合いで平滑化処理を行った処理結果について所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出した値であり、第2スロットル弁位置変化率R2は、所定時間ごとのスロットル弁33の位置の検出値に対して第3平滑化度合いよりも低い第4平滑化度合いで平滑化処理を行った処理結果について所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出した値である。
【0077】
この構成によれば、所定時間ごとのスロットル弁33の位置の検出値に対して第3平滑化度合いで平滑化処理を行った処理結果について所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出して第1スロットル弁位置変化率R1を求め、所定時間ごとのスロットル弁33の位置の検出値に対して第3平滑化度合いよりも低い第4平滑化度合いで平滑化処理を行った処理結果について所定時間ごとの差分値または時間の微分値を算出して第2スロットル弁位置変化率R2を求める。従って、閉弁期間T1及び開弁期間T2にそれぞれ燃料が噴射される燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0078】
本実施形態によれば、4ストロークエンジン100において、平滑化処理は、移動平均値を算出する処理であり、第1スロットル弁位置変化率R1は、サンプリング項数を第1項数とするまたはサンプリング周期を第1サンプリング周期として移動平均値を算出した値であり、第2スロットル弁位置変化率R2は、サンプリング項数を第1項数よりも少ない第2項数とするまたはサンプリング周期を第1サンプリング周期よりも短い第2サンプリング周期として移動平均値を算出した値である。
【0079】
この構成によれば、平滑化処理が移動平均値を算出する処理であり、サンプリング項数を第1項数とするまたはサンプリング周期を第1サンプリング周期として移動平均値を算出して第1スロットル弁位置変化率R1を求め、サンプリング項数を第1項数よりも少ない第2項数とするまたはサンプリング周期を第1サンプリング周期よりも短い第2サンプリング周期として移動平均値を算出して第2スロットル弁位置変化率R2を求める。従って、閉弁期間T1及び開弁期間T2にそれぞれ燃料が噴射される燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0080】
本実施形態によれば、4ストロークエンジン100において、平滑化処理は、差分値または微分値に対するローパスフィルタ処理であり、第1スロットル弁位置変化率R1は、カットオフ周波数を第1カットオフ周波数としてローパスフィルタ処理を行った値であり、第2スロットル弁位置変化率R2は、カットオフ周波数を第1カットオフ周波数よりも高い第2カットオフ周波数としてローパスフィルタ処理を行った値である。
【0081】
この構成によれば、平滑化処理が差分値または微分値に対するローパスフィルタ処理であり、カットオフ周波数を第1カットオフ周波数としてローパスフィルタ処理を行って第1スロットル弁位置変化率R1を求め、カットオフ周波数を第1カットオフ周波数よりも高い第2カットオフ周波数としてローパスフィルタ処理を行って第2スロットル弁位置変化率R2を求める。従って、閉弁期間T1及び開弁期間T2にそれぞれ燃料が噴射される燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0082】
本実施形態によれば、4ストロークエンジン100は、吸気通路内部の圧力である吸気通路内圧力を検出する吸気通路内圧力検出器43を備え、制御装置60は、加速場面において、少なくとも吸気閉弁時噴射量が第1スロットル弁位置変化率R1及び吸気通路内圧力に応じるように制御する。
【0083】
この構成によれば、第1スロットル弁位置変化率R1に加えて低負荷状態の吸気通路内圧力に応じるように構成される。低負荷状態の低負荷状態の吸気通路内圧力は、燃焼室13に吸入される空気量との関係性が高い。そのため、少なくとも吸気閉弁時噴射量の精度をより向上することができる。吸気閉弁時噴射量が第2単位時間または単位クランク回転角度より長い第1単位時間または単位クランク回転角度となる第1スロットル弁位置変化率R1に応じるように構成されている場合であっても、吸気閉弁時噴射量の応答性と精度をより向上することができる。
【0084】
本実施形態によれば、4ストロークエンジン100において、スロットル弁33は、吸気弁31とスロットル弁33との間の距離がスロットル弁33と吸気通路21の大気への開放口との間の距離より短くなるように設けられた近接式スロットル弁であり、制御装置60は、加速場面において、スロットル弁33の位置の変化率に応じるように吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得する。
【0085】
この構成によれば、スロットル弁33の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、スロットル弁33が吸気弁31に近い位置に設けられるため、燃焼室13に吸入される空気量の応答性を向上できる。加えて、空気量に対して応答性が高いスロットル弁33の位置の変化率に応じて吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得できる。これら構成の相乗効果により、燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0086】
本実施形態によれば、4ストロークエンジン100において、スロットル弁33は、スロットル弁33より下流の吸気通路21の容積が気筒11の行程容積より小さくなるように設けられた近接式スロットル弁であり、制御装置60は、加速場面において、スロットル弁33の位置の変化率に応じるように吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得する。
【0087】
この構成によれば、スロットル弁33の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、スロットル弁33が吸気弁31に近い位置に設けられるため、燃焼室13に吸入される空気量の応答性を向上できる。加えて、空気量に対して応答性が高い近接式スロットル弁の位置の変化率に応じて吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得できる。これら構成の相乗効果により、燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0088】
本実施形態によれば、4ストロークエンジン100は、スロットル弁33は、吸気通路21のうち単一の燃焼室13に吸入される空気が流通する独立吸気通路部に設けられ、制御装置60は、加速場面において、スロットル弁33の位置の変化率に応じるように吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得する。
【0089】
この構成によれば、スロットル弁33の位置がより大きな開弁状態に遷移するような加速場面において、スロットル弁33が吸気弁31に近い位置に設けられるため、燃焼室13に吸入される空気量の応答性を向上できる。加えて、空気量に対して応答性が高いスロットル弁33の位置の変化率に応じて吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得できる。これら構成の相乗効果により、燃料噴射制御の応答性と精度をより向上することができる。
【0090】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0091】
α,β 噴射量
J1 吸気閉弁時噴射
J2 吸気開弁時噴射
L1,L2 距離
P スロットル弁位置
R1 第1スロットル弁位置変化率
R2 第2スロットル弁位置変化率
T1 閉弁期間
T2 開弁期間
V1 容積
V2 行程容積
10 エンジン本体
11 気筒
12 クランクケース
13 燃焼室
14 ピストン
15 コネクティングロッド
16 クランクシャフト
17 吸気開口
18 排気開口
19 点火プラグ
21 吸気通路
21R 独立吸気通路部
21a 大気開放口
22 排気通路
31 吸気弁
32 排気弁
33 スロットル弁
34 駆動機構
41 クランク角検出器
42 スロットル弁位置検出器
43 吸気通路内圧力検出器
50 燃料噴射装置
60 制御装置
100 4ストロークエンジン
【要約】
4ストロークエンジンは、燃焼室を備えた少なくとも一つの気筒と、燃焼室に接続される吸気通路と、燃焼室と吸気通路との接続部である吸気開口を開閉する少なくとも1つの吸気弁と、吸気通路の内部に設けられ、燃焼室に吸入される空気量を調整するスロットル弁と、スロットル弁の位置を検出するスロットル弁位置検出器と、吸気通路に燃料を噴射する燃料噴射装置と、少なくともスロットル弁位置検出器の信号に基づいて燃料噴射装置を制御する制御装置と、を備え、制御装置は、吸気閉弁時噴射量が吸気閉弁時噴射の開始前のスロットル弁の位置変化率である第1スロットル弁位置変化率に応じ、吸気開弁時噴射量が吸気閉弁時噴射の開始後のスロットル弁の位置変化率である第2スロットル弁位置変化率に応じるように吸気閉弁時噴射量及び吸気開弁時噴射量を取得する。
図1
図2
図3
図4