(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】セパレーターレス導電ポリマー固体電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/056 20100101AFI20230526BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230526BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230526BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20230526BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230526BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/134
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2019567831
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2018018439
(87)【国際公開番号】W WO2019146137
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2018022496
(32)【優先日】2018-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】597054253
【氏名又は名称】パイオトレック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐田 勉
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-129603(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063994(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/113971(WO,A1)
【文献】特開2011-065982(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126701(WO,A1)
【文献】特開2006-049158(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0006328(US,A1)
【文献】特開2015-038870(JP,A)
【文献】特開2006-190556(JP,A)
【文献】特開2006-339054(JP,A)
【文献】特開2014-238925(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0331092(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/056-10/0565
H01M 4/13-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極/導電ポリマー固体電解質層/負極からなり、前記導電ポリマー固体電解質層が、無機固体電解質、高分子導電組成物および電荷移動イオン源(支持塩)を含む複合体である、セパレーターレス導電ポリマー固体電解質リチウムイオン二次電池であって、
前記無機固体電解質がガーネット(Garnet)系物質、ナシコン(NASICON)型結晶構造を有する物質、ヘロブスカイト型物質および硫化系物質から選ばれる少なくとも1種の無機固体電解質であり、
前記高分子導電組成物が、オニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体をフッ化ビニリデン系重合体またはフッ化ビニリデン系共重合体にグラフト重合して得たグラフト率2~90モル%の導電ポリマー(X
1
)と、下記の(X
2
)~(X
3
)から選ばれる少なくとも1種の物質、ただし(X
2
)はオニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる溶融塩、またはこれらの塩構造を有しかつ重合性官能基を有する溶融塩単量体、(X
3
)は、オニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体の重合体または共重合体、とを含む高分子導電組成物であり、
前記無機固体電解質を、前記高分子導電組成物と前記電荷移動イオン源と前記無機固体電解質の合計量に対して40~98重量%の量で含むことを特徴とする、セパレーターレス導電ポリマー固体電解質リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載のセパレーターレス導電ポリマー固体電解質リチウムイオン二次電池において、
正極および/または負極が、無機固体電解質および、(X
1
)と、(X
2
)~(X
3
)から選ばれる少なくとも1種の物質を含む、セパレーターレス導電ポリマー固体電解質リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
請求項1に記載のセパレーターレス導電ポリマー固体電解質リチウムイオン二次電池において、
無機固体電解質が、硫化系物質である、セパレーターレス導電ポリマー固体電解質リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
請求項1に記載のセパレーターレス導電ポリマー固体電解質リチウムイオン二次電池において、
負極が、表面をポリエーテル系ポリマーで処理したリチウム金属箔である、セパレーターレス導電ポリマー固体電解質リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレーターレス二次電池に関するもので、導電ポリマー固体電解質を使用した正負極活物質粒子との粒子界面抵抗や電極との界面抵抗が抑制された、しかもセルの薄膜化が可能で、温度依存性が少なく、かつ短絡した場合の安全性に優れたセパレーターレス二次電池であり、今後大いに期待される。
【背景技術】
【0002】
導電性に優れた二次電池用の高分子導電組成物は種々知られている。例えば、4級アンモニウムカチオンとハロゲン原子含有アニオンからなる4級アンモニウム塩構造と重合性官能基を持っている溶融塩単量体、および電荷移動イオン源を含んでいる単量体組成物を、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系重合体の存在下でグラフト重合することにより製造された複合高分子導電組成物(特許文献1~2)、さらにはこの高分子導電組成物にフッ素重合体を配合した高分子導電組成物およびそれを用いた二次電池が開発されている(特許文献3)。しかしながら、これらの高分子導電組成物のみを使用する場合は、セパレーターは不可欠である。また、高分子導電ポリマーのポリエーテル系ポリマーを使用し、さらにセラミックスウイスカーを配合したものはセパレーターなしで電解質層を得られることが開発されている(特許文献4)。しかしながら、この方法では導電性能が不十分なだけでなく温度依存性もあり、60℃で最適性能が発揮するなどの使用制限があることから低温特性が特に悪く実用化に大きな支障が生じている。さらにまた、導電ポリマー固体電解質層として、ガーネット系無機固体電解質層とポリエーテル系ポリマー固体電解質層を設けることも開発されている(特許文献5)。しかしながら、この方法ではポリエーテル系ポリマーの導電性限界に影響を受け、ガーネット系無機固体電解質の固有導電率が大幅に低下することや上記の温度依存性・低温特性の低さなどが課題となる。ガーネット系無機固体電解質のみを使用する場合には、正負極活物質粒子との粒子界面抵抗を抑制する方法において焼結を行うことや硫化リチウムなどの硫化物素材を粒子界面被覆型固体電解質の電極圧着などによる物理的な加工なども知られている(特許文献6)。しかしながら、この方法では、過大な負荷工程が必要となり量産化における問題がある。これらを一挙に解決する手段として、本発明の素材が導電ポリマーとして無機固体電解質との複合化による導電層を形成することで最適化を達成することが可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開WO2004/088671
【文献】国際公開WO2010/113971
【文献】国際公開WO2016/063994
【文献】特開2002-313424
【文献】特開2014-238925
【文献】国際公開WO2013/073038
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、導電ポリマー固体電解質を使用した正負極活物質粒子との粒子界面抵抗や電極との界面抵抗が抑制された、しかもセルの薄膜化が可能で、温度依存性が少なく、かつ短絡した場合の安全性に優れたセパレーターレス導電ポリマー固体電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は、正極/導電ポリマー電解質層/負極からなる二次電池において、導電ポリマー電解質層が、無機固体電解質および下記高分子導電組成物の複合体であるセパレーターレス導電ポリマー固体電解質二次電池を提供することによって達成される。
オニウムカチオンとハロゲン含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体をフッ素系重合体にグラフト重合またはリビング重合して得た高分子導電組成物(X1)またはX1と下記の(X2)~(X3)から選ばれる少なくとも1種の物質、
X2:オニウムカチオンとハロゲン含有アニオンからなる溶融塩、またはこれらの塩構造を有しかつ重合性官能基を有する溶融塩単量体、
X3:オニウムカチオンとハロゲン含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体の重合体または共重合体、を含む高分子導電組成物。
さらに、上記目的は、正極/導電ポリマー電解質層/負極の一部に、さらにポリエーテル系ポリマーを含むセパレーターレス導電ポリマー固体電解質二次電池を提供することによって、より好適に達成される。
さらに、上記目的は、正極は、LixMeyOz電極、LiNixMeyOz電極、LiCowNixMeyOz電極、またはLiMexPyOz電極(w、x、y、zは任意の正数であり、MeはFe、Co、Ni、Fe、AlまたはMnを示す)であり、負極は、天然球状黒鉛、人造ハード黒鉛またはリチウム金属箔である、セパレーターレス導電ポリマー固体電解質二次電池を提供することによって、より好適に達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、後述する実施例からも明らかなように、無機固体電解質と高分子導電組成物を併用することにより、正負極活物質粒子との粒子界面抵抗や電極との界面抵抗の抑制された、しかもセルの薄膜化が可能で、温度依存性が少なく、かつ短絡した場合に安全性に優れたセパレーターレス導電ポリマー固体電解質二次電池を得ることが出来る、また、とくに負極としてリチウム金属箔を使用した場合には、セル厚みをより薄膜化が可能となり、アリルグリシジルエーテルポリマーにて正負極表面をコートした場合には、耐酸化還元性(REDOX)の安定化に効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明においては、導電ポリマー固体電解質として無機固体電解質および上記した高分子導電組成物の複合体を使用することによって、本発明の効果が発現する。
したがって、まず、高分子導電組成物である、オニウムカチオンとハロゲン含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体をフッ素系重合体にグラフト重合またはリビングラジカル重合して得た高分子導電組成物(X1)について述べる。
グラフト重合またはリビングラジカル重合に使用されるフッ素系重合体としては、ポリフッ化ビニリデン重合体または共重合体が好適例として挙げられる
また、ポリフッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニリデンに
式:-(CR1R2-CFX)-
式中、Xは、フッ素以外のハロゲン原子であり、R1及びR2は、水素原子又はフッ素子であり、両者は同一であってもよいし異なっていてもよい、ここでハロゲン原子としては、塩素原子が最適であるが、臭素原子、ヨウ素原子も挙げられる、
で示される単位を有する共重合体が好適例として挙げられる。
また、フッ素系重合体としては、
式:-(CR3R4-CR5F)n-(CR1R2-CFX)m-
式中、Xは、フッ素以外のハロゲン原子であり、
R1、R2、R3、R4及びR5は、水素原子又はフッ素原子であり、これらは
同一であってもよいし異なっていてもよく、
nは65~99モル%であり、
mは1~35モル%である、
で示される共重合体も挙げられ、特に、
式;-(CH2-CF2)n-(CF2-CFCl)m-
式中、nは65~99モル%であり、
mは1~35モル%である、
で示される共重合体が好適である。
【0008】
nとmの合計を100モル%とした場合、nは65~99モル%、mは1~35モル%であることが好適であり、より好適にはnは67~97モル%、mは3~33モル%であり、最適にはnは70~90モル%、mは10~30モル%である。 前記フッ素系重合体は、ブロック重合体であっても、ランダム共重合体であってもよい。また、他の共重合し得る単量体を、本発明の目的が阻害されない範囲で使用することもできる。
前記フッ素系重合体の分子量は、重量平均分子量として30,000~2,000,000が好適であり、より好適には100,000~1,500,000である。ここで、重量平均分子量は、後述するとおり、固有粘度法[η]により測定される。
前記フッ素系重合体に溶融塩単量体をグラフト重合するには、遷移金属錯体を用いる原子移動ラジカル重合法を適用することができる。この錯体に配位している遷移金属が前記共重合体のハロゲン原子(例えば、塩素原子)、さらには水素原子も引き抜いて開始点となり、溶融塩単量体が前記重合体にグラフト重合する。
本発明で使用される原子移動ラジカル重合では、フッ化ビニリデン単量体とフッ素及びハロゲン原子(例えば塩素原子)を含むビニル単量体との共重合体が好適に用いられる。幹ポリマーにフッ素原子とフッ素原子以外のハロゲン原子(例えば塩素原子)があることにより炭素-ハロゲン間の結合エネルギーが低くなるため、遷移金属によるハロゲン原子(例えば塩素原子)の引き抜きが、さらには水素原子の引き抜きが、フッ素原子より容易に起こり、溶融塩単量体のグラフト重合が開始される。また本発明ではフッ化ビニリデン単量体の単独重合体も使用可能である。
原子移動ラジカル重合で使用される触媒は遷移金属ハロゲン化物が用いられ、特に塩化銅(I)、アセチルアセトナート銅(II)、CuBr(I)、CuI(I)等の銅原子を含む銅触媒が好適に用いられる。また錯体を形成するリガンドとしては4,4’-ジアルキル-2,2’-ビピリジル(bpyなど)(ここでアルキルとしては、好適にはメチル、エチル、プロピル、ブチルなどのC1~C8のアルキルが挙げられる)、トリス(ジメチルアミノエチル)アミン(Me6-TREN)、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン(TPEN)、トリス(2-ピリジルメチル)アミン(TPMA)等が使用される。中でも、塩化銅(I)(CuCl)と4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジル(bpy)とで形成される遷移金属ハロゲン化錯体を好適に使用することができる。
【0009】
反応溶媒としては、フッ素系重合体を溶解可能な溶媒を使用することができ、フッ化ビニリデン単量体とフッ素及びフッ素以外のハロゲン原子(例えば塩素原子)を含むビニル単量体との共重合体を溶解するN-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等を用いることができる。反応温度は使用する錯体のリガンドによって異なるが、通常、10~110℃の範囲である。
グラフト重合させるために紫外線(光重合開始剤を使用)や電子線等の放射線を照射することもできる。電子線重合は、重合体自体の架橋反応や単量体の補強材料へのグラフト反応も期待でき、好ましい態様である。照射量は0.1~50Mradが好ましく、より好ましくは1~20Mradである。
重合体を構成するモノマー単位を98~10モル%と溶融塩単量体を2~90モル%のモル比の範囲になるように、すなわちグラフト化率が2~90モル%になるように、調節される。本発明のより好適な目的達成のためにはグラフト化率は40~85モル%であり、最適には50~80モル%である。溶融塩単量体を前記重合体にグラフト重合する場合、前記重合体は溶液、固体、のいずれであってもよい。これらのグラフト重合体は前記した本件出願人の先行特許WO2010/113971に記載の方法により得られる。
【0010】
本発明において、オニウムカチオンとハロゲン原子含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を含む溶融塩単量体の塩構造とは、脂肪族、脂環族、芳香族又は複素環のオニウムカチオンとハロゲン原子含有アニオンからなる塩構造を包含する。ここでオニウムカチオンとは、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、スルホニウムカチオン、オキソニウムカチオン、グアニジウムカチオン、を意味し、アンモニウムカチオンとしては、アルキルアンモニウムカチオン、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピペリジニウムなどの複素環アンモニウムカチオンなどが挙げられる。下記アンモニウムカチオン群から選ばれた少なくとも1つのカチオンと下記アニオン群から選ばれた少なくとも1つのアニオンからなる塩構造が好適である。
アンモニウムカチオン群:
ピロリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ベンズイミダゾリウムカチオン、インドリウムカチオン、カルバゾリウムカチオン、キノリニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピペラジニウムカチオン、アルキルアンモニウムカチオン{但し、炭素原子数1~30(たとえば炭素原子数1~10)のアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基で置換されているものを含む}が挙げられる。いずれも、N及び/又は環に炭素原子数1~30(例えば、炭素原子数1~10)の、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基が結合しているものを含む。
ホスホニウムカチオンとしては、テトラアルキルホスホニウムカチオン(炭素原子数1~30のアルキル基)、トリメチルエチルホスホニウムカチオン、トリエチルメチルホスホニウムカチオン、テトラアミノホスホニウムカチオン、トリアルキルヘキサデシルホスホニウムカチオン(炭素原子数1~30のアルキル基)、トリフェニルベンジルホスホニウムカチオン、炭素原子数1~30のアルキル基を3個有するホスフィン誘導体のホスホニウムカチオン、ヘキシルトリメチルホスホニウムカチオン、トリメチルオクチルホスホニウムカチオンの非対称ホスホニウムカチオン、などが挙げられる。
また、スルホニウムカチオンとしては、トリアルキルスルホニウムカチオン(アルキル基)、ジエチルメチルスルホニウムカチオン、ジメチルプロピルスルホニウム、ジメチルヘキシルスルホニウムの非対称スルホニウムカチオンが挙げられる。
ハロゲン原子含有アニオン群:
ハロゲン原子含有アニオン群としては、フッ素原子含有アニオン、塩素原子含有アニオン、臭素原子含有アニオンなどがあげられるが、フッ素原子含有アニオンが本発明の目的達成のためには好適である。
ここでフッ素原子含有アニオンとしては、 BF4
-、PF6
-、CnF2n+1CO2
-(nは、1~4の整数)、CnF2n+1SO3
-(nは、1~4の整数)、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-、(C2F5SO2)2N-、(CF3SO2)3N-、CF3SO2-N-COCF3
-、R-SO2-N-SO2CF3
-(Rは、脂肪族基)、ArSO2-N-SO2CF3
-(Arは、芳香族基)、CF3COO-等のハロゲン原子を含むアニオンが例示される。
【0011】
前記オニウムカチオン、とくにアンモニウムカチオン群及びフッ素原子含有アニオン群に挙げられた種は、耐熱性、耐還元性又は耐酸化性に優れ、電気化学窓が広くとれ、電圧領域を0.7から5.5Vまでの高低電圧に耐性のリチウムイオン二次電池や-45℃まで低温特性に優れたリチウムイオンキャパシタへ好適に用いられるだけでなく、汎用用途での塗料、接着剤、粘着剤、表面コート剤、練り込み添加剤として不導体樹脂へ温度特性に優れた機能性静電防止性能を付与することが出来る。また、樹脂との混合処方で樹脂や添加剤の分散性能や平滑性能にも効果がある。
単量体における重合性官能基としては、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、アクリルアミド基、アリル基等の炭素-炭素不飽和基、エポキシ基、オキセタン基等を有する環状エーテル類、テトラヒドロチオフェン等の環状スルフィド類やイソシアネート基等を例示できる。
(A)重合性官能基を有するオニウムカチオン、とくにアンモニウムカチオン種としては、特に好ましくは、トリアルキルアミノエチルメタクリレートアンモニウムカチオン、トリアルキルアミノエチルアクリレートアンモニウムカチオン、トリアルキルアミノプロピルアクリルアミドアンモニウムカチオン、1-アルキル-3-ビニルイミダゾリウムカチオン、4-ビニル-1-アルキルピリジニウムカチオン、1-(4-ビニルベンジル)-3-アルキルイミダゾリウムカチオン、2-(メタクリロイルオキシ)ジアルキルアンモニウムカチオン、1-(ビニルオキシエチル)-3-アルキルイミダゾリウムカチオン、1-ビニルイミダゾリウムカチオン、1-アリルイミダゾリウムカチオン、N-アルキル-N-アリルアンモニウムカチオン、1-ビニル-3-アルキルイミダゾリウムカチオン、1-グリシジル-3-アルキル-イミダゾリウムカチオン、N-アリル-N-アルキルピロリジニウムカチオン、及び4級ジアリルジアルキルアンモニウムカチオン等を挙げることができる。但し、アルキルは炭素原子数1~10のアルキル基である。
(B)フッ素原子含有アニオン種としては、特に好ましくは、ビス{(トリフルオロメタン)スルホニル}イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、2,2,2-トリフルオロ-N-{(トリフルオロメタン)スルホニル)}アセトイミドアニオン、ビス{(ペンタフルオロエタン)スルホニル}イミドアニオン、テトラフルオロポレートアニオン、ヘキサフロオロホスフェートアニオン、トリフルオロメタンスルホニルイミドアニオン等のアニオンを挙げることができる。
【0012】
更に、溶融塩単量体(前記カチオン種とアニオン種との塩)としては、特に好ましくは、トリアルキルアミノエチルメタクリレートアンモニウム(但し、アルキルはC1~C10アルキル)ビス(フルオロスルホニル)イミド(但し、アルキルはC1~C10アルキル)、2-(メタアクリロイルオキシ)ジアルキルアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(但し、アルキルはC1~C10アルキル)、N-アルキル-N-アリルアンモニウムビス{(トリフルオロメタン)スルホニル}イミド(但し、アルキルはC1~C10アルキル)、1-ビニル-3-アルキルイミダゾリウムビス{(トリフルオロメタン)スルホニル}イミド(但し、アルキルはC1~C10アルキル)、1-ビニル-3-アルキルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(但し、アルキルはC1~C10アルキル)、4-ビニル-1-アルキルピリジニウムビス{(トリフルオロメタン)スルホニル}イミド(但し、アルキルはC1~C10アルキル)、4-ビニル-1-アルキルピリジニウムテトラフルオロボレート(但し、アルキルはC1~C10アルキル)、1-(4-ビニルベンジル)-3-アルキルイミダゾリウムビス{(トリフルオロメタン)スルホニル}イミド(但し、アルキルはC1~C10アルキル)、1-(4-ビニルベンジル)-3-アルキルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(但し、アルキルはC1~C10アルキル)、1-グリシジル-3-アルキル-イミダゾリウムビス{(トリフルオロメタン)スルホニル}イミド(但し、アルキルはC1~C10アルキル)、トリアルキルアミノエチルメタクリレートアンモニウムトリフルオロメタンスルホニルイミド(但し、アルキルはC1~C10アルキル)、1-グリシジル-3-アルキル-イミダゾリウムテトラフルオロボレート(但し、アルキルはC1~C10アルキル)、N-ビニルカルバゾリウムテトラフルオロボレート(但し、アルキルはC1~C10アルキル)等を例示できる。これらの溶融塩単量体は、1種又は2種以上で使用することができる。これらの溶融塩単量体は前記した本件出願人の先行特許WO2010/113971に記載の方法により得られる。
【0013】
前記フッ素系重合体への溶融塩単量体のグラフト化率は、2~90モル%が好適であり、更に好適には10~85モル%、最適には20~80モル%である。この範囲のグラフト化率を満足することにより、本発明の目的をより好適に達成することができる。グラフト化率が比較的低い領域、たとえば2~40モル%、好適には5~35モル%、さらに好適には5~30モル%においては、耐酸化特性が向上しスポンジ性状の柔軟性を保持することができ、支持体との結合密着性、弾力性、接着性改良という効果が期待できる。またグラフト化率が比較的高い領域、たとえば41~90モル%、とくに45~85モル%、さらに好ましくは50~80モル%の領域においては、粘弾性が増加することから密着強度が向上し、さらには粘着性、耐衝撃性、顔料などの粒子素材の分散平滑性、pH安定性、温度安定性、さらには導電性能向上という効果が期待できる。
溶融塩単量体のグラフト重合は、溶融塩単独で用いてもよいし、又は溶融塩単量体とこれと共重合し得る他の単量体を用いることもできる。
なおここで、高分子電解質組成物(X1)には、ビニレンカーボネート類、ビニレンアセテート、2-シアノフラン、2-チオフェンカルボニトリル、アクリロニトリル等のSEI(固体電解質界面相:Solid Electrolyte Interphase)膜形成素材あるいは溶剤等を含む単量体組成物を包含する。
本発明においては、高分子導電組成物(X1)に、オニウムカチオンとハロゲン含有アニオンからなる溶融塩(イオン液体)或いはオニウムカチオンとハロゲン含有アニオンからなる塩構造を有しかつ重合性官能基を有する溶融塩単量体(イオン液体)(X2)、または前記溶融塩単量体の重合体または共重合体(X3)を配合することにより、導電性、導電耐久性を一段と向上させることもできる。
ここで、オニウムカチオンとハロゲン含有アニオンからなる溶融塩としては、前記したアンモニウムカチオン群とハロゲン含有アニオン群から構成される溶融塩、たとえば2つの窒素でカチオンを共有する環状共役系イオン液体、アルキルアンモニウムやホスホニウムを含む非環状脂肪族系イオン液体、4級アンモニウムを含む環状脂肪族系イオン液体、ピロリジニウムカチオンの各種イオン液体などが挙げられる。さらに具体的には、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド}(EMI・FSI)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド}(EMI・TFSI)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド}(BMI・FSI)などが好適なものとして挙げられる。また、オニウムカチオンとハロゲン含有アニオンからなる塩構造を有しかつ重合性官能基を有する溶融塩単量体とは前記したグラフト重合に使用される溶融塩単量体が挙げられる。
【0014】
また、溶融塩単量体の重合体または共重合体としては、前記溶融塩単量体のホモポリマーが好適例として挙げられる。これらのホモポリマーのうち、1-アルキル-3-ビニルイミダゾリウムカチオン(AVI)、4-ビニル-1-アルキルピリジニウムカチオン、1-(4-ビニルベンジル)-3-アルキルイミダゾリウムカチオン、1-(ビニルオキシエチル)-3-アルキルイミダゾリウムカチオン、1-ビニルイミダゾリウムカチオン、4級ジアリルジアルキルアンモニウムカチオン(DAA)、2(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム(MOETMA)}カチオン、ジアルキル(アミノアルキル)アクリルアミド、ジアルキル(アミノアルキル)アクリレート、ヒドロキシアルキルメタアクリレートのホモポリマー、またはこれらの単量体の2種以上の共重合体が挙げられるが、ホモポリマーが好適である。また前記溶融塩単量体と他の共単量体との共重合体が挙げられる。またこれらの溶融塩単量体の重合体または共重合体(X3)には、溶融塩単量体以外の単量体を本発明の目的が阻害されないポリマーマトリックス形成の範囲で使用することもできる。
これらの溶融塩単量体の重合体または共重合体は、アゾ系重合開始剤(AIBNなど)、過酸化物系重合開始剤(BPOなど)を用いたラジカル重合、またはブレンステッド酸やルイス酸などの重合開始剤に拠るカチオン重合反応、AIBNやBPOを用いたリビングラジカル重合により得ることができる。これらの重合の内リビングラジカル重合が好適である。
高分子導電組成物(X1)の配合割合は、高分子導電組成物(X1)と溶融塩またはその溶融塩単量体(X2)、または溶融塩単量体の重合体または共重合体(X3)の合計量に対し5~90重量%、好適には10~75重量%である。本発明においては、(X1)に(X2)または(X3)を配合することにより、導電性、接着密着性、およびこれらの耐久性が一段と向上する。上記したX1、X2、X3はこれらの内一種または2種以上を使用することができる。
【0015】
さらに、本発明においては、電荷移動イオン源(支持塩)を配合することにより、キレート効果を応用して導電性、導電耐久性が向上する。ここで電荷移動イオン源としては、典型的には、リチウム塩であり、好ましくは下記のリチウムカチオンとフッ素原子含有アニオンとからなるリチウム塩が使用される。
電荷移動イオン源としては、LiBF4、LiTFSI、LiPF6、CnF2n+1CO2Li(nは1~4の整数)、CnF2n+1SO3Li(nは1~4の整数)、(FSO2)2NLi(LiFSI)、(CF3SO2)2NLi(LiTFSI)、(C2F5SO2)2NLi、(FSO2)2CLi、(CF3SO2)3CLi、(CF3SO2-N-COCF3)Li、(R-SO2-N-SO2CF3)Li(Rはアルキル基などの脂肪族基または芳香族基)、および(CN-N)2CnF2n+1Li(nは1~4の整数)からなる群から選ばれたリチウム塩などが挙げられる。さらにリチウム塩以外のものとしては、インジウム錫オキサイド(ITO)、炭酸塩などの電荷移動イオン源も挙げられる。
また電荷移動イオン源としては、窒素含有の塩、好ましくは下記のアルキルアンモニウムカチオン(例えば、テトラエチルアンモニウムカチオン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン)とフッ素原子含有アニオンとからなる塩も使用される、
Et4-N+BF4
-、Et3Me-N+BF4
-
Et4-N+PF6
-、Et3Me-N+PF6
-等。
上記電荷移動イオン源は、2種以上を配合することも出来る。
上記電荷移動イオン源の配合量は高分子電解質組成物(X1)に対して0.5~60モル、好適には0.7~50モルである。
電荷移動イオン源の対イオンであるテトラアルキレングリコールジアルキルエーテル(TAGDAE)のアルキレンとしては、メチレン、エチレン、プロピレンなどの炭素数1~10のアルキレン、アルキルとしてはメチル、エチル、プロピルなどの炭素数1~10のアルキルが挙げられる。これらの中でテトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)が最適である。TAGDAEの電荷移動イオン源に対する配合割合は0.2~60モル、好適には0.4~50モルである。
また、前記電荷移動イオン源を支持するアニオン(支持塩)として、ビス{(トリフルオロメタン)スルホニル}イミド、2,2,2-トリフルオロ-N-{(トリフルオロメタン)スルホニル)}アセトイミド、ビス{(ペンタフルオロエタン)スルホニル}イミド、ビス{(フルオロ)スルホニル}イミド、テトラフルオロボレート、ヘキサフロオロホスフェート及びトリフルオロメタンスルホニルイミドなどが効果的に機能する。
これらの支持塩は、高分子導電組成物に使用されるのみならず、後述するガーネット系物質などの無機固体電解質、ポリエーテル系ポリマーにも必要に応じ適宜使用される。
高分子導電性組成物には各種溶剤が使用される。溶剤としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、アセトン、アセトニトリルとこれらの混合溶剤が挙げられる。
【0016】
次に複合体に使用する無機固体電解質について述べる。
無機固体電解質としては、ガーネット系物質、ナシコン(NASICON)型結晶構造を有する物質、ヘロブスカイト型物質、硫化系物質などが使用できる。これらのうち、本発明の目的達成のためにはガーネット系物質が好適であるので、まずガーネット系物質について述べる。ガーネット系物質としては、LLZ系、LLT系、などの酸化物系固体電解質が好適なものとして例示される。
LLZ系としては、
Li6.25La3Zr2Al0.25O12、
Li6.6La3Zr1.6Ta0.4O12、
Li6.75La3Zr1.75Nb0.25O12(Cubic phase)、
Li7La3Zr2O12(tetra)、が例示される。
LLT系としては、
Li0.33La0.55TiO3(Cubic phase)、
Li0.33La0.55TiO3、(Tetragonal phase)
Li5La3Ta2O12、
Li6La3Ta1.5Y0.5O12、
ガーネット系物質としてはこれらに限定されるものではなく、構造格子を改善する為に各遷移金属部を他の金属元素に置換した素材も本発明に適合する。
また、無機固体電解質のナシコン型結晶構造を有する物質としては、下記のLAGP系、LATP系 固体電解質が例示されるが、とくにLi(1+X)AlXTi(2-X)(PO4)3(Xは0.1~1.5、好適には0.1~0.8)で示される酸化物系物質{たとえば、Li1.4Al0.4Ti1.6(PO4)3など}が好適である。さらに、Li(1+4X)Zr(2-X)(PO4)3(Xは0.1~1.5、好適には0.1~0.8)で示される物質(Zrの一部はAl、Ca、Ba、Sr、Sc、YおよびInから選ばれる少なくとも1種の元素で置換されていてもよい)なども挙げられる。このナシコン型結晶構造を有する物質を上記の高分子導電組成物と併用することにより粒子界面抵抗を抑制させることができる。
その他のLATP系としては、
Li3PO4、
Li4SiPO4、
Li4SiPO4-Li3PO4、
Li3BO4があげられる。
LAGP系としては、Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12があげられる。
また、無機固体電解質のヘロブスカイト型物質としては、LaXLiYTiOZなどで示される酸化物系物質があげられる。
さらに、無機固体電解質の硫化系物質としては、Li2S・P2S5、Li3.25P0.95S4、Li3.2P0.96S4、Li4P2S6、Li7P3S11、物質などが挙げられる。この硫化物系物質を上記の高分子導電組成物と併用することにより粒子界面抵抗や電極界面抵抗を抑制することや短絡の発生等による燃焼事故が発生した場合に有害ガスの発生を軽減させることができる。
次に正極/導電ポリマー固体電解質/負極の一部にポリエ-テル系ポリマーを使用する態様について述べる。
【0017】
本発明において、正極/導電ポリマー電解質層/負極の一部にポリエーテル系ポリマーを含むとは、ポリエーテル系ポリマーを負極の表面に塗布、積層または含浸させる態様、同ポリマーを正極表面に含浸させる態様、さらには電解質層表面に塗布、積層させる態様、また負極、正極、電解質層に含有させる態様などを意味するが、このうちポリエーテル系ポリマーを負極の表面に塗布、積層または含浸させる態様が好適である。
ポリエーテル系ポリマーは、部分的に架橋したポリエーテル系ポリマーが好適であり、アリルグリシジルエーテルとエチレンオキサイドの開環重合によって得られるポリエーテルポリマーとグリセリンにエチレンオキサイドを付加させた3官能ポリエーテルポリオールの末端を(メタ)アクリル酸でアシル化したポリエーテルポリオールポリ(メタ)アクリレートとの架橋重合体が最適である。側鎖にラジカル重合可能なアリル基を持っているグリシジルエーテル/アルキレンオキサイド共重合体に溶融塩とリチウム塩を配合し、加熱してポリマーマトリックス中に取り込む。
該架橋ポリエーテルポリマーは、a)少なくとも1種の式1:
[式1]
(式中、nは0または1~12の整数)を有する単位、および少なくとも1種の式2:
[式2]
(式中、Rは水素または炭素数4までのアルキル)を有する単位を含んでいるポリエーテルポリマーと、b)ポリエーテルポリオールポリ(メタ)アクリレートとの架橋重合体が好適である。
a)成分のアリル基とb)成分の(メタ)アクリロイル基との間にラジカル重合反応がおこり、生成した架橋ポリマーは三次元ネットワーク構造となる。このためポリエーテル系ポリマー電解質は、機械的強度にすぐれ、そのため電解質層を薄くすることができ、従って電池全体を薄くすることが可能になる。さらにリチウムイオン電池においては電極と電解質層の界面抵抗が小さいことが重要であるが、ポリエーテル系ポリマー電解質は電極との密着性に優れ、電極活物質層と一体化できるのでこれが可能になる。本発明では無機固体電解質を使用することから、ポリエーテル系ポリマーを介して電極内活物質粒子との界面抵抗を軽減させることも可能となる。とくにポリエーテル系ポリマーを使用することにより、リチウム金属箔負極の界面抵抗の軽減効果が顕著となる。
【0018】
a)成分
式1の単位に相当するグリシジル化合物(モノマー)の典型例はアリルグリシジルエーテル(n=0)、エチレングリコール(n=1)または重合度が2~12(n=2~12)のポリエチレングリコールのモノアリルモノグリシジルエーテルである。これらは単独でも複数種を組合せて使用してもよい。
式2の単位に相当するモノマーの典型例はエチレンオキサイド(EO)である。プロピレンオキサイド(PO)、ブチレンオキサイド(BO)などの他のアルキレンオキサイドを少割合で含んでいてもよい。BOとPOのランダムポリマーにおいてPOまたはBOの両端にEOを付加したポリマーが好ましい。またEOとPOのランダムポリマーにおいてEOとPOの両端にBOを付加すること、またEOとBOとのランダムポリマーにおいて、EOとBOの両端にPOを付加することもできる。
a)成分は式1の単位に相当するグリシジルエーテルと、式2の単位に相当するアルキレンオキサイドを含むモノマー混合物を開環付加重合することによって製造される。モノマー混合物はメチルグリシジルエーテル、エチレングリコールもしくはポリエチレングリコールモノメチルモノグリシジルエーテルのような他のグリシジルエーテルを含んでいてもよい。
モノマー混合物は、エチレンオキサイドを70~95モル%、特に70~90モル%含み、アリル基を有しない任意のグリシジルエーテルを含めてグリシジルエーテルが残りを占めるのが好ましい。a)成分は少なくとも2万以上、特に5万ないし20万の数平均分子量を有するのが好ましい。さらにポリマーの末端OH基はエーテル化もしくはアシル化によって封止するのが好ましい。
【0019】
b)成分
b)成分は2官能以上のポリオキシアルキレンポリオールの末端OH基をアクリル酸もしくはメタクリル酸の反応性誘導体、例えば酸クロライドでアシル化して得られる。多官能ポリオキシアルキレンポリオールは、よく知られているように、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールのような多価アルコールを開始剤とし、エチレンオキサイド単独、又はエチレンオキサイドとプロプレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどの他のアルキレンオキサイドを組合せてランダムまたはブロック状に付加重合することによって製造される。多価アルコールのOH基1個あたりの付加モル数は35以下、特に10以下が好ましい。
ポリエーテル系ポリマーの層もしくはフィルムを形成するためには、a)成分、b)成分およびリチウム塩を非プロトン性有機溶媒に溶解し、この溶液を電極活物質層上に塗布または流延して熱または光重合により硬化させる方法が挙げられる。
この溶液をつくるための溶媒は、アセトニトリル、環状カーボネート、ラクトン、環状エーテル、ニトリル、鎖状エーテル、鎖状カルボン酸エステル、鎖状カーボネート、スルホラン類、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミドなどであり、特にγ-ブチロラクトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートおよびそれらの混合溶媒が好ましい。
a)成分のb)成分に対する比a/bは、重量比1/5ないし5/1が好ましい。この範囲内でa/bを調節することにより、軟らかい粘着性に富むゲルから比軟的硬い全固体ポリマー電解質に相当するゲルまで物理的およびレオロジー的性質を調節することができる。所望により重合後の架橋したポリエーテルポリマーゲルへ可塑性を与えるため、ポリエチレングリコールジアルキル-もしくはジアルケニルエーテル、またはジエポキシポリエチレングリコールを重合前の溶液へ加えることができる。この場合添加される可塑剤の量は、架橋したポリエーテルポリマーの50重量%以下が好適である。
ポリエーテル系ポリマーはa)成分とb)成分のIPN(内部貫通型)架橋ポリマーを2ないし98重量%(残余は高分子導電組成物)を含んでいることが好ましい。この割合が高ければ高い程、ポリエーテル系ポリマーは全固体電解質に相当する物理的および電気化学的性質を示す。ポリエーテル系ポリマー中の架橋ポリマーの割合は少なくとも2重量%以上であることが好適である。例えば架橋ポリマーの割合を50重量%以上とすることが好適である。これらのポリエーテル系ポリマーを使用することにより耐酸化還元特性が向上し、特に負極にリチウム金属箔を使用する場合により高度な耐還元特性が付与される場合がある。
【0020】
上記したとおり、ポリエーテル系ポリマーを負極の表面に積層または塗布または含浸させることが最良であるが、正極、または正極と負極の両方の表面に積層、または塗布または含浸することにより目的とする二次電池を得ることができる。また、無機固体電解質と高分子導電組成物の複合体を製膜して導電ポリマー固体電解質膜(メンブレン)を作り、これを正極と負極の間に挟み、硬化処理する方法は効果的であるが、この場合、負極または正極にポリエーテル系ポリマーを含浸または塗布した電極界面層に、導電ポリマー固体電解質膜(メンブレン)を積層密着処理したものが、導電ポリマー固体電解質膜(メンブレン)との界面抵抗を抑制する効果が認められるので好適である。ここで密着処理の条件としては60~100℃、5~60分が好適である。正極、負極に複合体を含浸または塗布する方法もあるが、高分子導電組成物(支持塩含有)のみを含浸または塗布する方法が好適である。また、高分子導電組成物(支持塩含有)のみで電極界面層が作製された正負極の間に無機固体電解質と高分子導電組成物(支持塩含有)にて作製した導電ポリマー固体電解質層を挿入して積層したものは、より薄膜化を進めるにあたり薄膜形成する導電ポリマー固体電解質膜(メンブレン)の破壊を防ぐことができることから好適である。
さらに、前記フッ素系重合体への溶融塩単量体のグラフト化率が比較的低い領域の高分子導電組成物は、導電バインダーとして負極並びに正極製作用に使用され、導電バインダー量の5から20重量%に相当する無機固体電解質を導電材の一部代替としても使用することが出来る。特に、この処方にて製作される正負極電極と固体電解質に高分子導電組成物(支持塩含有)にて製作された導電ポリマー固体電解質層との相溶性が向上することから、リチウム二次電池セルの内部抵抗の低下とLi+イオンの電荷移動係数を更に向上させることが可能になる。
【0021】
本発明において、導電ポリマー固体電解質層とは、無機固体電解質と高分子導電組成物(支持塩含有)との複合体、たとえばこの複合体の導電膜(メンブレン)、複合体の導電層などを意味する。本発明においては、無機固体電解質と高分子導電組成物は、導電ポリマー固体電解質の膜(メンブレン)または導電層に含有することは重要である。無機固体電解質は正極、負極に配合または含浸塗布層に含有することは、導電ポリマー固体電解質層との性状一体化(同質化など)を図る上で好適ではあるが、含有しなくてもよい
無機固体電解質と高分子導電組成物とを複合体として使用する場合は、高分子導電組成物(支持塩含有)と無機固体電解質の合計量に対し無機固体電解質は1~99重量%含有し、好適には40~98%、さらに好適には60~95重量%である。
本発明に使用する正極としては、リチウム系金属化合物が好適に使用される。
リチウム系金属化合物としては、
LiCoO2
LiNiO2
LiFeO2
LiMnO3
LiMn2O4
Li2Mn2O4
LiNi0.5Mn1.5O4
LiCo13Ni13Mn13O2
LiFePO4
LiCoPO4
LiNiPO4
LiMnPO4
が例示される。
これらのうち、正極は、LiCoO2、LiNiO2、LiFeO2、LiMnO3、LiMn2O4、Li2Mn2O4などを包含するLixMeyOz電極、LiNi0.5Mn1.5O4などを包含するLiNixMeyOz電極、LiCo1Ni1Al1O2、LiCo13Ni13Mn13O2などを包含するLiCowNixMeyOz電極、またはLiFePO4、LiCoPO4、LiNiPO4、LiMnPO4などを包含するLiNi0.5Mn1.5PO4電極が、本発明の目的達成には好適である。
ここで、w、x、y、zは任意の正数であり、MeはFe、Co、Ni、Fe、AlまたはMnを示す。これらの正極のLi化合物には他の金属が含まれていてもよい。 また正極としてはこれら以外の正極も使用できる。
さらに正極には上記した正極活物質に加えて導電材が使用される。導電材としては、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、MCMB(メソフエーズ小球体)、ナノ粒子カーボン、カーボンナノファイバー(VGCF)やカーボンナノチューブ(CNT)などが挙げられる。又、導電材の一部を導電ポリマー固体電解質に代替し、グラフト化率の低い領域の高分子電解質を導電バインダーとして使用することもできる。
本発明に使用する負極としては、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、MCMB(メソフエーズ小球体)等の炭素材料、さらにはLi4Ti5O12などのLTO(チタン酸リチウム)やシリコーン素材のSiO/Graphite材料、リチウム金属箔などが例示される。負極にはこれらの負極活物質に加えて導電材が使用される。導電材としては、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、MCMB(メソフエーズ小球体)、ナノ粒子カーボン、カーボンナノファイバー(VGCF)やカーボンナノチューブ(CNT)などが使用されるが、リチウム金属箔を使用する場合には、これらの導電材は不要となる。負極に使用する活物質と導電材は正極に使用される導電材と同じ物質でもよいが、異なる物質であることが好適である。
本発明では、無機固体電解質と高分子導電組成物(導電ポリマー)を使用することにより、セパレーターを使用しないでLIBセルを構成することができる。但し、これらの系でセパレーターを使用しても差し支えなく、高分子導電組成物を表面薄膜加工したセパレーターを使用すれば実用化に供する一定の性能を達成することが出来る。
以下実施例により本発明をさらに説明する。
【実施例1】
【0022】
導電ポリマー固体電解質:ガーネット系物質+高分子導電組成物{グラフト重合体(X1)+溶融塩(X2)+支持塩}、
正極:LiCoO2 +導電材{ナノ粒子カーボン(イメリス・グラファイト&カーボン社製「スーパーC65」)}
負極:天然球状黒鉛 +導電材(同社製スーパーP-Li)
導電ポリマー電解質膜の製法:
導電ポリマー固体電解質:無機固体電解質Li7La3Zr2O12[当社(パイオトレック社)のグレード番号「LLZO-PT」](90重量%)と、高分子導電組成物{フッ化ビニリデン系共重合体(呉羽化学工業社製「クレハ-K75」:-(CH2-CF2)m-(CF2-CFCl)n(m=96モル%、n=4モル%)}溶融塩単量体(イオン液体){2(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムビスフルオロスルホニルイミド(MOETMA-FSI)}を70モル%グラフトしたもの(X1)に、溶融塩{N-メチル-N-プロピルピロリジニウム ビス(フロオロスルホニル)イミド(MPPY-FSI)}(X2):支持塩LiFSI=1:1で処方したもの、を配分したもの(10重量%)を、50℃、1時間の加温にてポリマーマトリックスを形成した上で、アセトニトリル溶媒を用いて、65重量%固形分になるように製膜し、80℃、30分の乾燥処理をして、導電ネットワーク形成が良好な厚み20ミクロンの導電ポリマー固体電解質膜を得た。この導電ポリマー固体電解質膜は、2.6×103S/cmの導電率を達成していた。
LIBの製法:
上記に記載した負極に導電ポリマー電解質膜を貼り合わせて、プレス押圧にてラミネート形成した。次に、これと上記のLCO正極とを貼り合わせてプレス処理を行いながら、真空シールを行って5x5cmのセパレーターレス二次電池(LIB)フラットセルを製作した。このLIBセルは、25℃でセル容量を測定した結果、平均動作電圧が3.8Vの31mAh(117.8mWh)の安定した性能を示し粒界抵抗が抑制されていることが分かった。また、サイクル特性として30サイクルで初期容量の94%を達成していた。さらに、-10℃と40℃で測定したところ、27mAh(-10℃)、31mAh(40℃)を示し、温度依存性が少ないことも分かった。
【実施例2】
【0023】
導電ポリマー固体電解質:ガーネット系物質(80重量%)と高分子導電組成物{Solvay社製ポリフッ化ビニリデン系樹脂「Solvay#5130」(ポリフッ化ビニリデンポリマー)に溶融塩単量体(イオン液体)MOETMA-FSIを50モル%グラフト重合したもの(X1)に支持塩としてLiFSIを(X1)に対し30重量%配合したもの(20重量%)}を使用。
正極:LiCo13Ni13Mn13O2+導電材{ナノ粒子カーボン(スーパーC65)}
正極の表面には、(X1)に
支持塩としてLiTFSIを高分子導電組成物に対し30重量%配合したものを含浸。
正極の製法:
高分子導電組成物[フッ化ビニリデン系共重合体(Solvay#5130)に溶融塩単量体(イオン液体){2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム(MOETMA)ビス(フルオロスルホニル)イミド(MOETMA-FSI)}を50モル%グラフト重合したもの]に支持塩(LiBF4)を高分子導電組成物に対して30重量%ドーピングし、さらにアセトニトリル溶媒にて65重量%固形分濃度に希釈した溶液を得、さらに高分子導電組成物(X1)(支持塩含有)と無機固体電解質(Li7La3Zr2O12)の合計量に対し無機固体電解質を10重量%配合し、この混合液を、1.5mAh/cm2 容量のLiCo13Ni13Mn13O2正極表面に含侵し、80℃30分間の硬化処理をして、3.5g/cm3プレス密度の導電ポリマー被膜を有する正極を製作した。この導電ポリマー被膜の厚みは3ミクロン厚みで十分に効果を維持することが出来た。また、この含浸を行うことにより、導電ネットワーク形成が良好となり、電極の導電ポリマー被膜層の粒界抵抗を抑制することが出来た。
負極:天然球状黒鉛+導電材{ナノ粒子カーボン(スーパーP-Li)}
負極の表面には、(X1)に支持塩としてLiFSIを高分子導電組成物に対し20重量%配合したものを含浸。
負極の製法:
上記の高分子導電組成物(X1)とアリルグリシジルポリエチレングリコールポリマーを重量比1:1で配合した混合物に支持塩(LiFSI)を該混合物に対して20重量%ドーピングし、さらにアセトニトリル溶媒にて希釈した導電ポリマー溶液を得、さらに高分子導電組成物(支持塩含有)と無機固体電解質(Li7La3Zr2O12)の合計量に対し無機固体電解質を15重量%配合し、65重量%の固形分濃度の混合液を作製し、これを、天然球状黒鉛1.6mAh/cm2容量の負極電極の表面に含浸し、80℃30分で乾燥処理して3.6g/cm3プレス密度の導電ポリマー被膜を有する負極を製作した。この負極に被膜する導電ポリマー層の厚みも正極同様に3ミクロンオーダーの厚みで十分に効果を維持することが出来た。この導電ポリマー電解質の導電率は、1.5×10-4S/cmを達成していた。
導電ポリマー固体電解質膜の製法:
上記固体電解質(ガーネット系物質、X1、LiFSI配合したもの、すなわち、上記高分子導電組成物(X1)(支持塩LiFSI含有)と、無機固体電解質Li7La3Zr2O12{当社(パイオトレック社)のグレード番号「LLZO-PT」}との合計量に対し、無機固体電解質を75重量%、アセトニトリル溶媒を用いて、65重量%固形分濃度になるように配合したものを製膜し、80℃、30分間の養生処理をして、導電ネットワーク形成が良好な厚み20ミクロンの導電ポリマー固体電解質膜を得た。
上記の素材を使用した以外は、実施例1と同様にして、セパレーターレス固体電解質二次電池フラットセルを作製した。
このLIBセルは、25℃でセル容量を測定した結果、平均動作電圧が3.9Vの37mAh(144.3mWh)の安定した性能を示し粒界抵抗及び電極との界面抵抗が抑制されていることが分かった。また、サイクル特性として30サイクルで初期容量の94%を達成していた。さらに、-10℃と40℃で測定したところ、32mAh(-10℃)、35mAh(40℃)を示し、温度依存性が少ないことも分かった。
【実施例3】
【0024】
導電ポリマー固体電解質:ナシコン型結晶構造物質(LAGP)(80重量%)と高分子導電組成物{アルケマ社製ポリフッ化ビニリデン系樹脂「Kyner HSV1800」(ポリフッ化ビニリデンポリマー)に溶融塩単量体MOETMA-FSIを60モル%グラフト重合したもの}(X1)と溶融塩単量体(MOETMA-FSI)のホモポリマー(X3)の合計量}(20重量%)を使用。(X1):(X3)は重量比で90:10。
正極:LiCoO2 +導電材{ナノ粒子カーボン(スーパーP-Li)}
負極:リチウム金属箔
正極の製法:
正極として、上記のLiCoO2の正極を使用した。上記の、高分子導電組成物(X1)と溶融塩単量体のホモポリマー(X3)を重量比(X1):(X3)90:10で配合し、これに支持塩(LiBF4)を30重量%ドーピングして高分子導電組成物(X3)を得、さらにアセトニトリル溶媒で固形分濃度65重量%に希釈して、これを正極の表面にグローブボックス内(露点マイナス40℃)でGapコーター(Gap 50μm)により塗工含浸して、80℃15分で乾燥させた。この含浸層の厚さは3μmであった。
導電ポリマー電解質膜の製法:
次に、上記の導電ポリマー固体電解質を、アセトニトリル溶媒を用いて、固形分濃度65重量%になる様に調合し、さらに支持塩(LiFSI)を30重量%ドーピングし、これをグローブボックス内(露点マイナス40℃)にて上記により得た正極の表面にコートして導電ポリマー電解質層を80℃で30分間の養生処理を行って厚さ15μmの導電膜として形成し、正極と固体導電ポリマー電解質膜の一体成形体を作製した。
負極の製法:
一方、負極については、200μm厚みのリチウム金属箔を使用した。
上記したグラフト重合体(X1)とアリルグリシジルポリエチレングリコールポリマー及び無機固体電解質(LAGP)の配合物に、支持塩(LiBF4)を20重量%でドーピングし、導電ポリマーキャスティング溶液を作製して、Gapコーターにてリチウム金属箔の表面にコートし、導電ポリマーを2μm厚さで被膜したリチウム金属箔をグローブボックス(露点マイナス40℃)内で作製した。その後で、導電ポリマーを被覆したリチウム金属箔を上記の一体成形により得られた導電ポリマー固体電解質被覆の正極と貼り合わせて実施例1と同様にセパレーターレス導電ポリマー固体電解質LIBフラットセルを製作した。
このLIBセルは、25℃で平均動作電圧が3.7Vで32mAh(118.4mWh)の安定した性能を示し粒界抵抗が抑制されていることが分かった。また、サイクル特性として30サイクルで初期容量の95%を達成していた。さらに、-10℃と40℃で測定したところ、30mAh(-10℃)、34mAh(40℃)を示し、温度依存性が少ないことも分かった。
【実施例4】
【0025】
導電ポリマー固体電解質:ガーネット系物質90重量%と、実施例1の高分子導電組成物(X1)(支持塩含有)10重量%を使用。
正極:LiCo13Ni13Mn13O2+導電材{ナノ粒子カーボン(スーパーC65}
負極:リチウム金属箔
正極および負極では高分子導電組成物(X1)とアリルグリシジルポリエチレングリコールポリマー及び固体電解質(LLZO-PT)を使用し、導電ポリマー固体電解質膜では、上記の固体電解質{高分子導電組成物(X1)およびガーネット系物質(X3)と支持塩(LiFSI)}を使用し、これ以外は、実施例3と同様にして、セパレーターレス固体電解質二次電池フラットセルを作製した。
このLIBセルは、25℃で平均動作電圧が3.9Vで38mAh(148.2mWh)の安定した性能を示し粒界抵抗及び電極との界面抵抗が抑制されていることが分かった。また、サイクル特性として30サイクルで初期容量97%を達成していた。さらに、-10℃と40℃で測定したところ、35mAh(-10℃)、38mAh(40℃)を示し、温度依存性が少ないことも分かった。
【実施例5】
【0026】
導電ポリマー固体電解質:ガーネット系物質(95重量%)と、実施例1の高分子導電組成物(X1)3重量%および支持塩(LiFSI)2重量%を使用し
正極 LiFePO4+導電材{ナノ粒子カーボン(スーパーC65)}
負極 リチウム金属箔
正極は高分子導電組成物(X1)(支持塩含有)、負極では高分子導電組成物(X1)(支持塩含有)及びアリルグリシジルポリエチレングリコールポリマーを使用し、導電ポリマー電解質膜では、上記の固体電解質{ガーネット系物質と(X3)と高分子導電組成物(X1)及び溶融塩(イオン液体)(MPPY-FSI及びEMI-FSI)(X2):LiFSI=1:1処方)}を使用し、これ以外は、実施例3と同様にして、セパレーターレス固体電解質二次電池フラットセルを作製した。このLIBセルは、25℃で平均動作電圧が3.2Vで33mAh(105.6mWh)の安定した性能を示し、粒界抵抗及び電極との界面抵抗が抑制されていることが分かった。また、サイクル特性として30サイクルで初期容量98%を達成していた。さらに、-10℃と40℃で測定したところ、30mAh(-10℃)、34mAh(40℃)を示し、温度依存性が少ないことも分かった。
【実施例6】
【0027】
導電ポリマー固体電解質:ガーネット系物質(90重量%)と、実施例3の高分子導電組成物(X1)(支持塩含有)とMOETMA-FSIホモポリマー(X3)(8重量%)と溶融塩(イオン液体)(MPPy-FSI)(X2):支持塩LiFSI(2重量%)との配合物を使用した。
正極 LiCoO2+導電材{ナノ粒子カーボン(スーパーP-65)}
負極 リチウム金属箔
正極は、高分子導電組成物(X1)、溶融塩単量体(X2)および支持塩を使用し、導電ポリマー電解質膜では、上記の導電ポリマー固体電解質{ガーネット系物質と高分子導電組成物(X1)と溶融塩単量体(X2)および溶融塩単量体のホモポリマー(X3)}を使用し、これ以外は、実施例3と同様にして、加熱による高分子ポリマーマトリックスを形成したセパレーターレス固体電解質二次電池フラットセルを作製した。
このLIBセルは、25℃で平均動作電圧3.7Vで34mAh(125.8mWh)の安定した性能を示し粒界抵抗が抑制されていることが分かった。また、サイクル特性として30サイクルで初期容量99%を達成していた。さらに、-10℃と40℃で測定したところ、32mAh(-10℃)、35mAh(40℃)を示し、温度依存性が少ないことも分かった。
【実施例7】
【0028】
導電ポリマー固体電解質:ガーネット系物質と実施例3の高分子導電組成物(X1)と、溶融塩単量体(MOETMA-FSI)(X2)を使用
正極:LiNi0.5Mn1.5O4 +導電材{ナノ粒子カーボン(スーパーP-65)}
負極:リチウム金属箔
正極は、高分子導電組成物(X1)(支持塩含有)と無機固体電解質(LAGP)を使用し、導電ポリマー電解質膜では、上記の導電ポリマー固体電解質{ガーネット系物質(LLZO-PT)と、高分子導電組成物(X1)、溶融塩単量体(X2)と支持塩(LiFSI)を30wt.%(X1、X2、LiFSIの合計量)使用した導電ポリマー固体電解質膜(厚さ6μm)を高分子導電組成物(支持塩含有)の単層2枚(各厚さ2μm)、(この高分子導電組成物層にはガーネット系物質は含んでいてもいなくてもよいが、本実施例では含まない)にて鋏む3重構造の電解質層を使用し、これ以外は、実施例3と同様にしてセパレーターレス固体電解質LIBを製作した。
このLIBセルは、25℃で平均動作電圧4.8Vの33mAh(158.4mWh)の安定した性能を示し粒界抵抗が抑制されていることが分かった。また、サイクル特性として30サイクルで初期容量97%を達成していた。さらに、-10℃と40℃で測定したところ、30mAh(-10℃)、33mAh(40℃)を示し、温度依存性が少ないことも分かった。
【実施例8】
【0029】
固体電解質:硫化物系物質(Li2S・P2S5)と実施例3の高分子導電組成物(X1)と、溶融塩(MPPy-FSI)(X2)及び支持塩(LiFSI)を使用
正極:LiNi0.5Mn1.5O4 +導電材{ナノ粒子カーボン(スーパーC65)}
負極:リチウム金属
正極は、高分子導電組成物(X1)と支持塩(LiTFSI)を使用し、導電ポリマー電解質膜では、硫化物系の無機固体電解質粒子の界面を高分子導電組成物(X1)(支持塩含有)で固練りした上で、溶融塩(MPPy-FSI)(X2)と支持塩(LiFSI)の1:1処方で 50℃、1時間の加熱処理を行ってポリマーマトリックスを形成した。その後、上記の無機固体電解質(硫化物系物質)を90重量%、(X1)(支持塩を含む)+(X2)を10重量%使用して80℃、30分で加熱処理を行って導電メンブレン層を形成した。実施例2にて製作された無機固体電解質と高分子導電組成物(X1)そして支持塩(LiFSI)を配合した塗液を含浸させた正極とリチウム金属負極とで導電メンブレン層を挟んでプレス処理を行ってLIBセルを実施例3と同様にしてセパレーターレス固体電解質LIBを製作した。
このLIBセルは、25℃で平均動作電圧4.8Vの33mAh(158.4mWh)の安定した性能を示し粒界抵抗が抑制されているだけでなく安定したサイクル特性として30サイクルで初期容量99%を達成していた。さらに、-10℃と40℃で測定したところ、30mAh(-10℃)、33mAh(40℃)を示し、温度依存性が少ないことも分かった。硫化物系固体電解質と高分子導電組成物と支持塩(LiFSI)で製作された導電メンブレン電解質の導電率は、2.1×10-3S/cmを達成していた。
さらにまた、上記実施例1~8で得られたセパレーターレス固体電解質LIBは、短絡が発生しても発火することがなく安全であることも実験の結果明らかとなった。
【0030】
比較例1(ガーネット系物質+ポリエチレンオキサイド(PEO)処方の固体電解質) ポリエチレンオキサイドは使用するが、高分子導電組成物{(X1)と(X3)を使用しない以外は、実施例3と同様にして固体電解質LIBを作製した。
このLIBセルは、25℃で平均動作が3.7Vで28mAhの性能を示したが、25℃以下のLi+のイオン移動係数(輸率)が低く、粒子界面抵抗及び電極との界面抵抗が十分に抑制されていないことが判明した。但し、温度を60℃にまで上昇させるとPEOの溶融性が増して導電率が向上する。また、サイクル特性として30サイクルで初期容量89%を達成していた。さらに、-10℃、40℃そして60℃で測定したところ、23mAh(-10℃)、30mAh(40℃)そして33mAh/g(60℃)を示し、温度依存性があることも分かった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
導電ポリマー固体電解質を使用した正負極活物質粒子との粒子界面抵抗及び電極との界面抵抗の抑制された、しかもセルの薄膜化が可能で、温度依存性が少なく、且つ短絡が発生した場合での安全性に優れた、高性能なセパレーターレス固体電解質二次電池として今後大いに期待される。