(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】新規なジアミン類、それから誘導される新規なポリイミド及びその成形体
(51)【国際特許分類】
C07C 217/90 20060101AFI20230526BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
C07C217/90 CSP
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2019013501
(22)【出願日】2019-01-29
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000243272
【氏名又は名称】本州化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 匡俊
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-185325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 217/90
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジアミン化合物。
【化1】
(一般式中、R
1、R
2はトリフルオロメチル基、R
3、R
4は各々独立して炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基を表し、a、b
が0と1の組み合わせであるか、両方とも1であり、c、dは各々独立して0~4の整数を表す。ただし、aとcの合計及びbとdの合計はそれぞれ4以下である。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表されるジアミン化合物。
【化2】
(一般式中、R
5、R
6は各々独立して水素原子又はトリフルオロメチル基を表
し、かつ、両方又は一方がトリフルオロメチル基である。)
【請求項3】
下記一般式(3)で表される構成単位を含むポリイミド。
【化3】
(一般式中、R
1、R
2はトリフルオロメチル基、R
3、R
4は各々独立して炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基を表し、a、b
が0と1の組み合わせであるか、両方とも1であり、c、dは各々独立して0~4の整数を表し、Xは4価の芳香族及び/又は脂肪族基を表す。ただし、aとcの合計及びbとdの合計はそれぞれ4以下である。)
【請求項4】
下記一般式(4)で表される構成単位を含むポリイミド。
【化4】
(一般式中、R
5、R
6は各々独立して水素原子又はトリフルオロメチル基を表し、
かつ、両方又は一方がトリフルオロメチル基であり、Xは4価の芳香族及び/又は脂肪族基を表す。)
【請求項5】
請求項3又は4に記載のポリイミドと溶媒からなるポリイミド溶液。
【請求項6】
請求項5に記載のポリイミド溶液から得られるポリイミド成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なジアミンから誘導されるポリイミドであり、加工性に優れ、高い耐熱性を兼ね備えたポリイミド、及びそのポリイミド成形体に関する。本発明のポリイミドは、優れた溶液加工性に加え、高い耐熱性を持つことから、フレキシブル配線基板や半導体などの電子デバイスに使用される絶縁材料、そして液晶ディスプレイ(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、電子ペーパー、発光ダイオード(LED)デバイス、太陽電池などに使用されるプラスチック基板としても有用である。
【背景技術】
【0002】
はんだ実装温度(260℃)以上の高温に耐えるポリイミドは、半導体素子やフレキシブルプリント配線基板などの絶縁材料として広く用いられている。しかしながら、耐熱性の高いポリイミドの多くは加工性に乏しく、ポリイミドの前駆体(例えば、溶媒に可溶なポリアミド酸)から加工する場合がほとんどである(非特許文献1)。
ポリイミド前駆体からポリイミドを形成(イミド化)するためには、300℃以上の高温(熱イミド化)を必要とするため、そのイミド化温度により用途が限定される場合がある。また、ポリイミド前駆体からポリイミド成形体を製造する場合、熱イミド化条件によっては、脱水閉環に伴う収縮による破断、そしてイミド化時に生じる脱離成分によって成形体中に欠陥(ボイド)を生じる懸念もあり、イミド化反応制御が非常に難しい。更には、300℃以上のイミド化に必要な高温炉が必要になり製造コストも高くなるという欠点があった。
そこで、既にイミド化が完結している状態で溶媒に可溶なポリイミド(溶媒可溶性ポリイミド)が近年開発され、従来のポリイミドよりも加工性が改善された。このようなポリイミドの大部分は、ポリイミド主鎖中にシロキサン鎖やエーテル結合のような高分子主鎖を屈曲させ、分子内回転運動を容易にする結合を導入したり、側鎖に嵩高い置換基を入れ高分子鎖の凝集を阻害したり、主鎖中のイミド基濃度を低下させるなどして加工性を高めている(非特許文献2,3)。しかしながら、このような分子設計は、ポリイミド本来の耐熱性を著しく低下させてしまう。従って、300℃以上の耐熱性と高い溶媒溶解性を兼ね備えたポリイミドの合成は困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Prog.Polym.Sci.,16,561(1991).
【文献】Polym.Eng.Sci.,29,1413(1989).
【文献】J.Polym.Sci.,PartA,Polym.Chem.,44,6836(2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、優れた溶媒溶解性(溶液加工性)と高い耐熱性を併せ持つ樹脂を与えるためのジアミン化合物、そのジアミン化合物から合成される溶液加工性に優れたポリイミド、そして、そのポリイミドから得られる高い耐熱性を有する成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物から溶液加工性に優れたポリイミドが得られ、そのポリイミドが300℃以上の耐熱性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は以下の通りである。
1.下記一般式(1)で表されるジアミン化合物。
【化1】
(一般式中、R
1、R
2はトリフルオロメチル基、R
3、R
4は各々独立して炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基を表し、a、b、c、dは各々独立して0~4の整数を表す。ただし、aとcの合計及びbとdの合計はそれぞれ4以下である。)
2.下記一般式(2)で表されるジアミン化合物。
【化2】
(一般式中、R
5、R
6は各々独立して水素原子又はトリフルオロメチル基を表す。)
3.下記一般式(3)で表される構成単位を含むポリイミド。
【化3】
(一般式中、R
1、R
2はトリフルオロメチル基、R
3、R
4は各々独立して炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基を表し、a、b、c、dは各々独立して0~4の整数を表し、Xは4価の芳香族及び/又は脂肪族基を表す。ただし、aとcの合計及びbとdの合計はそれぞれ4以下である。)
4.下記一般式(4)で表される構成単位を含むポリイミド。
【化4】
(一般式中、R
5、R
6は各々独立して水素原子又はトリフルオロメチル基を表し、Xは4価の芳香族及び/又は脂肪族基を表す。)
5.3.又は4.に記載のポリイミドと溶媒からなるポリイミド溶液。
6.5.に記載のポリイミド溶液から得られるポリイミド成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来技術で困難であった特性、即ち、溶液加工性に優れ、高い耐熱性を兼ね備えたポリイミド、及びその成形体は、中央ビフェニレン基に6つのメチル基が置換されていることを特徴とするジアミン化合物を原料にすることで得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例2のポリイミドフィルムの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図2】実施例3のポリイミドフィルムの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図3】実施例4のポリイミドフィルムの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図4】実施例6のポリイミドフィルムの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のジアミン化合物は、下記一般式(1)で表される化学構造を有する。
【化5】
(一般式中、R
1、R
2はトリフルオロメチル基、R
3、R
4は各々独立して炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基を表し、a、b、c、dは各々独立して0~4の整数を表す。ただし、aとcの合計及びbとdの合計はそれぞれ4以下である。)
【0010】
一般式(1)において、a、bは各々独立して0、1又は2が好ましく、0又は1がより好ましく、1がさらに好ましい。中でも、a、bが0と1の組み合わせであるか、両方とも1である場合が好ましく、この場合には、R1、R2の(トリフルオロメチル基)置換位置は、エーテル結合に対してオルソ位又はメタ位は好ましく、オルソ位がより好ましい。
一般式(1)において、R3、R4のいずれかが炭素原子数1~4のアルキル基である場合、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数1~4のアルキル基を意味し、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基が挙げられる。中でも、炭素原子数1又は2のアルキル基が好ましい。R3、R4のいずれかが炭素原子数1~6のアルコキシ基である場合、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数1~4のアルコキシ基を意味し、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基が挙げられる。中でも、炭素原子数1又は2のアルコキシ基が好ましい。一般式(1)において、R3、R4の好ましい態様は、メチル基、エチル基、メトキシ基であり、中でもメチル基がより好ましい。c、dは各々独立して0、1又は2が好ましく、0又は1がより好ましく、0がさらに好ましい。
一般式(1)において、アミノ基の置換位置はエーテル結合に対してメタ位又はパラ位が好ましく、パラ位がより好ましい。
【0011】
一般式(1)で表されるジアミン化合物の中でも、下記一般式(2)で表されるジアミン化合物が好ましい。
【化6】
(一般式中、R
5、R
6は各々独立して水素原子又はトリフルオロメチル基を表す。)
一般式(2)において、アミノ基の置換位置はエーテル結合に対してメタ位又はパラ位が好ましく、パラ位がより好ましい。また、R
5、R
6のいずれか又は両方がトリフルオロメチル基である場合、その置換位置はエーテル結合に対してオルソ位又はメタ位が好ましく、オルソ位がより好ましい。
【0012】
一般式(1)で表されるジアミン化合物を用いたポリイミドの化学構造的な特徴は、エーテル結合を介して、中央ビフェニレン基の2,2’,3,3’,5,5’位に6つのメチル基が存在することである。これらのメチル基は、ビフェニレンの二面角を立体的な障害効果によって大きくねじれさせ(非共平面性)、高分子鎖間の凝集を妨げ溶媒への溶解性を向上させる。また、立体障害効果は、エーテル結合回りの分子内回転も抑制するため、この構造が組み込まれたポリイミドの耐熱性、即ちガラス転移温度を高める。中でも、一般式(2)において、R5とR6の両方又は一方のみにトリフルオロメチル基が導入された場合は、特に、同様な立体効果に寄与する。
【0013】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のポリイミドは、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物を用いて製造される。
【化7】
<ジアミン化合物の製造方法>
上記一般式(1)で表されるジアミン化合物は、下記反応式で示すように、ジオール(5)、即ち2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチル-ビフェニル-4,4’-ジオール(以降、HM44BPと称することもある。)と、下記一般式(6)と(7)で表されるハロゲン化ニトロベンゼン類を用いて、公知のエーテル化反応後にジニトロ体中間体を公知の還元反応でジアミン化合物として、製造することができる。
【化8】
(上記反応式中、R
1~R
4、a~dは一般式(1)と同義であり、Yはハロゲン原子を表す。)
【0014】
上記一般式(6)と(7)で表されるハロゲン化ニトロベンゼン類の好適な例として、具体的には、下記に化学構造を示す4-クロロニトロベンゼン、4-フルオロニトロベンゼン、2-クロロ-5-ニトロベンゾトリフルオリド、2-フルオロ-5-ニトロベンゾトリフルオリド、1-クロロ-3-ニトロベンゼン、3-フルオロニトロベンゼン、5-クロロ-2-ニトロベンゾトリフルオリド、5-フルオロ-2-ニトロベンゾトリフルオリド、2-クロロ-5-ニトロトルエン、2-フルオロ-5-ニトロトルエン、2,5-ジメチル-4-クロロニトロベンゼン、2,5-ジメチル-4-フルオロニトロベンゼン、2-クロロ-5-ニトロアニソール、2-フルオロ-5-ニトロアニソール、2,3-ジメチル-4-クロロニトロベンゼン、2,3-ジメチル-4-フルオロニトロベンゼン等が挙げられる。上記一般式(6)で表されるハロゲン化ニトロベンゼン類と、一般式(7)で表されるハロゲン化ニトロベンゼン類は、同じであっても良い。
【化9】
また、上記好適なハロゲン化ニトロベンゼン類から合成されるジアミン化合物としては、具体的に、下記化学構造式のものが挙げられる。
【化10】
【0015】
本発明のポリイミドの原料である上記一般式(1)で表されるジアミン化合物の化学構造上の特徴は、6つのメチル置換基が中央ビフェニレン基に存在することで、ビフェニルの二面角を大きくさせる(ねじれさせる)点である。これにより、溶媒に対する溶解性と耐熱性を高めることができる。
本発明のポリイミドは、一般式(1)で表されるジアミン化合物を原料とし、酸二無水物と反応させて下記一般式(3)で表される構成単位を含むポリイミドを合成することができ、上記のような優れた特性を有するポリイミドを得ることができる。
【化11】
(一般式中、R
1、R
2はトリフルオロメチル基、R
3、R
4は各々独立して炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基を表し、a、b、c、dは各々独立して0~4の整数を表し、Xは4価の芳香族及び/又は脂肪族基を表す。ただし、aとcの合計及びbとdの合計はそれぞれ4以下である。)
一般式(3)で表される構成単位を含むポリイミドにおける、R
1~R
4やその置換位置及び置換基数であるa~d、アミノ基由来の窒素原子の置換位置に関する好適な化学構造は、一般式(1)で表されるジアミン化合物と同じである。
本発明のポリイミドの中でも、特に、一般式(4)で表される構成単位を含むポリイミドは、溶媒に対する溶解性と耐熱性が向上するという優れた効果を発揮する。
【化12】
(一般式中、R
5、R
6は各々独立して水素原子又はトリフルオロメチル基を表し、Xは4価の芳香族及び/又は脂肪族基を表す。)
一般式(4)で表される構成単位を含むポリイミドにおける、R
5、R
6やその置換位置及びアミノ基由来の窒素原子の置換位置に関する好適な化学構造は、一般式(2)で表されるジアミン化合物と同じである。
ポリイミドの製造方法については特に限定されないが、酸二無水物、例えば、芳香族及び/又は脂肪族テトラカルボン酸二無水物と、本発明のジアミン化合物を含むジアミン類の物質量が等モルになるように反応させて、下記一般式(8)で表されるポリイミドの前駆体(ポリアミド酸)を得る工程及びポリイミド前駆体をイミド化する工程を経て製造することができる。
【化13】
(一般式中、R
1~R
4、a~dは一般式(1)と同義である。)
【0016】
本発明のポリイミド前駆体を重合する際に使用可能な芳香族及び/又は脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ハイドロキノン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、メチルハイドロキノン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物等が挙げられる。
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、脂環式のものとしては、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、5-(ジオキソテトラヒドロフリル-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)テトラリン-1,2-ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
これらの酸二無水物としては、2種類以上併用することもできる。
本発明のポリイミドを得るために使用する酸二無水物としては、ポリイミド成形体の耐熱性という観点から、剛直で直線的な構造を有するテトラカルボン酸二無水物、即ちピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好適である。
【0017】
本発明のポリイミドの前駆体を重合する際、重合反応性及びポリイミド成形体の特性を著しく損なわない範囲で、上記一般式(1)で表されるジアミン化合物以外に、芳香族又は脂肪族ジアミン化合物を共重合成分として併用することができる。
その際に使用可能な芳香族ジアミンとしては、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノキシレン、2,4-ジアミノデュレン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-メチレンビス(2-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート、ベンジジン、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、o-トリジン、m-トリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p-ターフェニレンジアミン等が挙げられる。
また、脂肪族ジアミンとしては、鎖状脂肪族乃至脂環一般式ジアミンであり、脂環一般式ジアミンとしては、例えば、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン、シス-1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3-ジアミノアダマンタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、鎖状脂肪族ジアミンとしては、例えば、1,3-プロパンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、ジアミノシロキサン等が挙げられる。
これらジアミン化合物は1種類以上併用することができる。
中でも、ポリイミドの溶媒に対する溶解性と、そのポリイミド成形体の耐熱性という観点から、剛直で直線的な構造を有するジアミン化合物、即ち2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以降、TFMBと称することもある。)が共重合成分として好適である。
【0018】
ポリイミド前駆体の重合に使用される溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒が好ましいが、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体、そしてイミド化されたポリイミドが溶解すれば如何なる溶媒であっても何ら問題なく使用でき、特にその溶媒の構造や種類には限定されない。具体的には、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコール系溶媒、フェノール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール等のフェノール系溶媒、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。その他汎用溶媒として、アセトフェノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、プチルセロソルブ、2-メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。これらの溶媒は、2種類以上混合して用いてもよい。
【0019】
本発明のポリイミドを製造する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜適用することができる。具体的には、例えば、次の方法により合成できる。
先ずジアミン化合物を重合溶媒に溶解し、この溶液にジアミン化合物と実質的に等モルのテトラカルボン酸二無水物の粉末を徐々に添加し、メカニカルスターラー等を用い、0~100℃の範囲、好ましくは20~60℃で0.5~150時間、好ましくは1~72時間撹拌する。この際モノマー濃度は、通常、5~50重量%の範囲、好ましくは10~40重量%の範囲である。このようなモノマー濃度範囲で重合を行うことにより、均一で高重合度のポリイミド前駆体を得ることができる。ポリイミド前駆体の重合度が増加しすぎて、重合溶液が撹拌しにくくなった場合は、適宜同一溶媒で希釈することもできる。ポリイミド成形体の機械的強度を高める観点からポリイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが望ましい。上記モノマー濃度範囲で重合を行うことによりポリマーの重合度が十分高く、モノマー及びポリマーの溶解性も十分確保することができる。上記範囲より低い濃度で重合を行うと、ポリイミド前駆体の重合度が十分高くならない場合があり、また、上記モノマー濃度範囲より高濃度で重合を行うと、モノマーや生成するポリマーの溶解が不十分となる場合がある。また、脂肪族ジアミンを使用した場合、重合初期にしばしば塩形成が起こり、重合が妨害されるが、塩形成を抑制しつつ、できるだけ重合度を上げるためには、重合時のモノマー濃度を上記の好適な濃度範囲に管理することが好ましい。
【0020】
得られたポリイミド前駆体のイミド化方法について説明する。
イミド化は公知のイミド化方法が適用でき、例えば、ポリイミド前駆体膜を熱的に閉環させる「熱イミド化法」、ポリイミド前駆体溶液を高温で閉環させる「溶液熱イミド化法」、脱水剤を用いる「化学イミド化法」などが適宜使用できる。
具体的には、「熱イミド化法」では、ポリイミド前駆体溶液(例えばポリアミド酸)を基板等に流延し、50~200℃、好ましくは60~150℃で乾燥してポリイミド前駆体膜を形成した後、不活性ガス中や減圧下において150℃~400℃、好ましくは200℃~380℃で1~12時間加熱することで熱的に脱水閉環させイミド化を完結させることで本発明のポリイミド成形体を得ることができる。
また、「溶液熱イミド化法」では、塩基性触媒などを添加したポリイミド前駆体(例えばポリアミド酸)溶液をキシレン等の共沸剤存在下で100~250℃、好ましくは、150~220℃で0.5~12時間加熱することで副生する水を系内から除去しイミド化を完結させ、本発明のポリイミド溶液を得ることができる。
「化学イミド化法」では、ポリイミド前駆体(例えばポリアミド酸)を撹拌し易い適度な溶液粘度に調整したポリイミド前駆体溶液をメカニカルスターラーなどで撹拌しながら、有機酸の無水物と、塩基性触媒としてアミン類からなる脱水閉環剤(化学イミド化剤)を滴下し、0~100℃、好ましくは10~50℃で1~72時間撹拌することで化学的にイミド化を完結させる。その際に使用可能な有機酸無水物としては特に限定されないが、無水酢酸、無水プロピオン酸等が挙げられる。試薬の取り扱いや精製のし易さから無水酢酸が好適に使用される。また塩基性触媒としては、ピリジン、トリエチルアミン、キノリン等が使用でき、試薬の取り扱いや分離のし易さからピリジンが好適に用いられるが、これらに限定されない。化学イミド化剤中の有機酸無水物量は、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸とした場合)の理論脱水量の1~10倍モルの範囲であり、より好ましくは1~5倍モルである。また塩基性触媒の量は、有機酸無水物量に対して0.1~2倍モルの範囲であり、より好ましくは0.1~1倍モルの範囲である。
【0021】
「溶液熱イミド化法」や「化学イミド化法」では反応溶液中に触媒や化学イミド化剤、カルボン酸などの副生成物(以下、不純物という)が混入しているため、これらを除去して精製してもよい。精製は公知の方法が利用できる。例えば、最も簡便な方法としては、イミド化した反応溶液を撹拌しながら大量の貧溶媒中に滴下してポリイミドを析出させた後、ポリイミド粉末を回収して不純物が除去されるまで繰返し洗浄し、減圧乾燥して、ポリイミド粉末を得る方法が適用できる。この時、使用できる溶媒としては、ポリイミドを析出させ、不純物を効率よく除去でき、乾燥し易い、水、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類が好適であり、これらを混合して用いてもよい。貧溶媒中に滴下して析出させる時のポリイミド溶液の濃度は、高すぎると析出するポリイミドが粒塊となり、その粗大な粒子中に不純物が残留する可能性や、得られたポリイミド粉末を溶媒に溶解する時間が長時間要する恐れがある。一方、ポリイミド溶液の濃度を薄くし過ぎると、多量の貧溶媒が必要となり、廃溶剤処理による環境負荷増大や製造コスト高になるため好ましくない。従って、貧溶媒中に滴下する時のポリイミド溶液の濃度は20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。この時使用する貧溶媒の量はポリイミド溶液の等量以上が好ましく、1.5~3倍量が好適である。
得られたポリイミド粉末を回収し、残留溶媒を減圧乾燥や熱風乾燥などで除去する。乾燥温度と時間は、ポリイミドが変質せず、残留溶媒が分解しない温度であれば制限はなく、30~200℃の温度範囲において48時間以下で乾燥させることが好ましい。
【0022】
本発明のポリイミドは、ポリイミドの固有粘度として、好ましくは0.1~10.0dL/gの範囲であり、より好ましくは0.5~5.0dL/gの範囲である。
本発明のポリイミドは、様々な溶媒に可溶なことから、使用用途や加工条件に合わせて溶媒を選ぶことができる。例えば、特に限定されないが、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン等のエステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコール系溶媒、フェノール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール等のフェノール系溶媒、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒、その他汎用溶媒として、アセトフェノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、プチルセロソルブ、2-メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、クロロホルム、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。これらの溶媒を、2種類以上混合して用いてもよい。
【0023】
本発明のポリイミドを溶媒に溶解して溶液とするときの固形分濃度としては、ポリイミドの分子量、製造方法や製造する成形体にもよるが、5重量%以上が好ましい。固形分濃度が低すぎると、十分な膜厚に成形することが困難となり、逆に固形分濃度が濃いと溶液粘度が高すぎて成形が困難になる恐れがある。本発明のポリイミドを溶媒に溶解するときの方法としては、例えば、溶媒を撹拌しながら本発明のポリイミド粉末を加え、空気中又は不活性ガス中で室温~溶媒の沸点以下の温度範囲で1時間~48時間かけて溶解させ、ポリイミド溶液にすることができる。
また、本発明のポリイミドには、必要に応じて離型剤、フィラー、シランカップリング剤、架橋剤、末端封止剤、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤などの添加物を加えることができる。
得られたポリイミド溶液は、公知の方法で成形できる。例えば、ポリイミドフィルムを成形する場合は、ポリイミド溶液をガラス基板等の支持体上にドクターブレード等を用いて流延し、熱風乾燥器、赤外線乾燥炉、真空乾燥器、イナートオーブン等を用いて、通常、40~300℃の範囲、好ましくは、50~250℃の範囲で乾燥することによってポリイミドフィルムにできる。
上述のように成形された本発明のポリイミド成形体は、そのガラス転移温度が300℃以上となるため特に耐熱性材料として好適に用いられる、例えば、半導体やフレキシブル配線基板に用いる場合、無鉛半田実装温度である260℃にも十分に耐え得るため、絶縁材料として好適である。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の評価方法により測定した。
【0025】
<評価方法について>
1.赤外吸収スペクトル
フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR4100(日本分光社製)を用い、KBr法にてジアミン化合物の赤外線吸収スペクトルを測定した。また、ポリイミドの赤外線吸収スペクトルについては、薄膜試料(約5μm厚)を作製して測定した。
2.1H-NMRスペクトル
フーリエ変換核磁気共鳴JNM―ECP400(JEOL製)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO)又は重水素化クロロホルム(CDCl3)中で合成物及び化学イミド化したポリイミド粉末の1H-NMRスペクトルを測定した。
3.示差走査熱量分析(融点)
ジアミン化合物の融点は、示差走査熱量分析装置DSC3100(ネッチ社)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度2℃/分で測定した。融点が高く融解ピークがシャープであるほど、高純度であることを示す。
4.固有粘度
0.5重量%のポリイミド前駆体溶液又はポリイミド溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で還元粘度を測定した。溶媒はN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を使用した。この値をもって固有粘度とみなした。
5.ポリイミド粉末の溶媒への溶解性試験
ポリイミド粉末0.1gに対し、表2に記載の溶媒9.9g(固形分濃度1重量%)をサンプル管に入れ、試験管ミキサーを用いて5分間撹拌して溶解状態を目視で確認した。溶媒として、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ‐ブチロルラクトン(GBL)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(Tri-GL)を使用した。
評価結果は、室温で溶解した場合を++、加熱により溶解し、且つ室温まで放冷後も均一性を保持していた場合を+、膨潤/一部溶解した場合を±、不溶の場合を-と表2中に表示した。
6.ガラス転移温度:Tg
ポリイミドフィルムのガラス転移温度は、ネッチ社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いてポリイミドフィルムサイズ 幅5mm、長さ15mm、荷重を膜厚(μm)×0.5gとして、5℃/minで150℃まで一旦昇温(1回目の昇温)させた後、20℃まで冷却し、さらに5℃/minで昇温(2回目の昇温)させて2回目の昇温時のTMA曲線の接線法(ガラス状態の接線とTg以降の接線の交点)より求めた。
【0026】
7.平均線熱膨張係数:CTE
ポリイミドフィルムの線熱膨張係数は、ネッチ社製TMA4000を用いて(サンプルサイズ 幅5mm、長さ15mm)、荷重を膜厚(μm)×0.5gとして、5℃/minで150℃まで一旦昇温(1回目の昇温)させた後、20℃まで冷却し、さらに5℃/minで昇温(2回目の昇温)させて2回目の昇温時のTMA曲線より計算した。線熱膨張係数は100~200℃の間の平均値として求めた。
8.熱分解温度(窒素)、熱分解温度(空気)
ネッチ社製熱重量分析装置(TG-DTA2000)を用いて、窒素中又は空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミドフィルム(20μm厚)の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
9.平均屈折率:nav
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ1T)を用いて、ポリイミドフィルム面に平行な方向(nin)と垂直な方向(膜厚方向)(nout)の屈折率をアッベ屈折計(ナトリウムランプ使用、波長589nm)で測定した。
この屈折率から、ポリイミドフィルムの平均屈折率(nav=(2nin+nout)/3)を算出した。
10.誘電率:εopt
上記ポリイミドフィルムの平均屈折率navに基づいて、ポリイミドフィルムの誘電率(εopt=1.1×nav
2)を算出した。
11.弾性率、最大破断伸度
TENSILON UTM-2(エー・アンド・デイ社製)を用いて、ポリイミドフィルムの試験片(3mm×30mm)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力―歪曲線の初期の勾配から弾性率(GPa)を、フィルムが破断した時の伸び率から最大破断伸度(%)を求めた。最大破断伸度が高いほどフィルムの靭性が高いことを意味する。
【実施例1】
【0027】
本発明の一般式(1)で表されるジアミン化合物の合成
ジニトロ体中間体の合成
【化14】
100mL三口フラスコに2-クロロ-5-ニトロベンゾトリフルオリド6.93g(30.7mmol)、HM44BP(2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチル-ビフェニル-4,4’-ジオール)2.71g(10.0mmol)、炭酸カリウム2.89g、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)20mLを加え、窒素雰囲気下85℃で2.5時間撹拌した。反応中沈殿物が生成した。この反応溶液を多量の水に投入し、沈殿物を回収した。沈殿物をメタノールで洗浄した後、減圧乾燥器100℃で12時間乾燥した(収量5.60g、収率86%)。乾燥した粗生成物をジメチルスルホキシドで再結晶し、白色粉末を得た(全体収率83%)。
【0028】
ジニトロ体中間体の同定
生成物は、フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR4100(日本分光社製)より、3103cm-1に芳香族C-H伸縮振動吸収帯、2951cm-1に脂肪族C-H伸縮振動吸収帯、1524,1357cm-1にニトロ基伸縮振動吸収帯、1252,1193cm-1にエーテルC-O-C伸縮振動吸収帯を確認した。
フーリエ変換核磁気共鳴分光光度計JNM―ECP400(JEOL製)を用いて1H-NMR測定を行った結果、(CDCl3-d1,δ,ppm):8.63(sd,J=2.6Hz,2H),8.32-8.28(m,2H),6.98(s,1H),6.92(sd,J=3.3Hz,1H),6.70-6.64(m,2H),2.11-1.99(m,18H)と帰属できた。
以上の分析結果より、生成物はジニトロ体であることが確認された。
また、示差走査熱量分析装置DSC3100(ネッチ社)によって融点を測定したところ、297℃に鋭い融解ピークを示したことから、この生成物は高純度であることが示唆された。
【0029】
ジアミン化合物の合成(ジニトロ体中間体の還元)
【化15】
200mL三口フラスコにジニトロ体5.13g(7.91mmol)、触媒であるパラジウム / 炭素 (Pd 10%) (約55%水湿潤品) 0.514g、DMF120mLを入れ、水素をバブリングしながら120℃で5時間撹拌した。その後、室温まで放冷後、触媒を濾別し、濾液を飽和食塩水中に投入して沈殿物を回収した。沈殿物は水、キシレン、メタノールで洗浄し減圧乾燥器120℃で12時間乾燥した(収量4.34g、収率93%)。得られた粗生成物1.57gをトルエン(90mL)と酢酸エチル(20mL)で加熱溶解し、再結晶したものを濾過回収した。回収した結晶を、トルエンとメタノールを使用して洗浄後、減圧乾燥器120℃で12時間乾燥させて、白色粉末を得た(全体収率80%)。
【0030】
ジアミン化合物の同定
生成物は、フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR4100(日本分光社製)より、3449,3346cm-1にN-H伸縮振動吸収帯、3011cm-1に芳香族C-H伸縮振動吸収帯、2919cm-1に脂肪族C-H伸縮振動吸収帯、1348,1047cm-1にエーテルC-O-C伸縮振動を確認した。
フーリエ変換核磁気共鳴分光光度計JNM―ECP400(JEOL製)を用いて1H-NMR測定を行った結果、(CDCl3-d1,δ,ppm):7.00(sd,J=4.0Hz,2H),6.89(s,1H),6.84(sd,J=4.0Hz,1H),6.65-6.67(m,2H),6.28-6.34(m,2H),3.55(s,4H),1.93-2.17(m,18H)と帰属できた。
元素分析値は推定値C:65.30%,H:5.14%,N:4.76%、実測値C:65.06%,H:5.16%,N:4.66%であった。
これらの分析結果より、生成物はジアミン化合物であることが確認された。
【実施例2】
【0031】
ポリイミド前駆体の重合;PMDA(50):s-BPDA(50)/ジアミン化合物25mol%
上記実施例1で合成したジアミン化合物0.4414g(0.75mmol)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)0.7205g(2.25mmol)を脱水N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解した。ここにピロメリット酸二無水物(PMDA)粉末0.3272g(1.50mmol)と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)粉末0.4413g(1.50mmol)を混ぜ合わせた粉末をゆっくり加え、室温で72時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得た(固形分濃度19.2重量%)。得られたポリアミド酸の固有粘度は、1.29dL/gであった。
【0032】
化学イミド化反応
得られたポリアミド酸溶液を脱水NMPで固形分濃度10.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら3.0627g(30mmol)の無水酢酸と1.1865g(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下し、滴下終了後、更に24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のエタノールにゆっくりと滴下しポリイミドを沈澱させた。得られた沈殿物をエタノールで十分洗浄し、120℃で12時間真空乾燥した。この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)及びNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、2.95dL/gであり、高分子量体であった。
【0033】
ポリイミド溶液の調整及びポリイミドフィルムの製膜
上記のポリイミド粉末を室温でNMPに再溶解し、8.49重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、80℃において熱風乾燥器で2時間乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間乾燥して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中255℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。
【実施例3】
【0034】
ポリイミド前駆体の重合;PMDA(50):s-BPDA(50)/ジアミン化合物50mol%
上記実施例1で合成したジアミン化合物0.8829g(1.50mmol)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)0.4803g(1.50mmol)を脱水NMPに溶解した。ここにピロメリット酸二無水物(PMDA)粉末0.3272g(1.50mmol)と、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)粉末0.4413g(1.50mmol)を、混ぜ合わせた粉末をゆっくり加え、室温で72時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得た(固形分濃度19.9重量%)。得られたポリアミド酸の固有粘度は、0.91dL/gであった。
【0035】
化学イミド化反応
得られたポリアミド酸溶液を脱水NMPで固形分濃度10.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら3.0627g(30mmol)の無水酢酸と、1.1865g(15mmol)のピリジンの混合溶液を、室温でゆっくり滴下し、滴下終了後更に24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のエタノールにゆっくりと滴下しポリイミドを沈澱させた。得られた沈殿物をエタノールで十分洗浄し、120℃で12時間真空乾燥した。この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)及びNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、1.57dL/gであり、高分子量体であった。
【0036】
ポリイミド溶液の調整及びポリイミドフィルムの製膜
上記のポリイミド粉末を室温でNMPに再溶解し、15.8重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、80℃において熱風乾燥器で2時間乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間乾燥して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中250℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。
【実施例4】
【0037】
ポリイミド前駆体の重合;PMDA(50):s-BPDA(50)/ジアミン化合物75mol%
上記実施例1で合成したジアミン化合物1.3243g(2.25mmol)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)0.2402g(0.75mmol)を脱水NMPに溶解した。ここにピロメリット酸二無水物(PMDA)粉末0.3272g(1.50mmol)と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)粉末0.4413g(1.50mmol)を混ぜ合わせた粉末をゆっくり加え、室温で72時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得た(固形分濃度18.4重量%)。得られたポリアミド酸の固有粘度は、0.46dL/gであった。
【0038】
化学イミド化反応
得られたポリアミド酸溶液を脱水NMPで固形分濃度10.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら3.0627g(30mmol)の無水酢酸と1.1865g(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下し、滴下終了後更に24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のエタノールにゆっくりと滴下しポリイミドを沈澱させた。得られた沈殿物をエタノールで十分洗浄し、120℃で12時間真空乾燥した。この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)及びNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、1.15dL/gであり、高分子量体であった。
【0039】
ポリイミド溶液の調整及びポリイミドフィルムの製膜
上記のポリイミド粉末を室温でNMPに再溶解し、23.4重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、80℃において熱風乾燥器で2時間乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間乾燥して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中305℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。
【実施例5】
【0040】
ポリイミド溶液の調整及びポリイミドフィルムの製膜
上記実施例4のポリイミド粉末を室温でγ-ブチロラクトン(GBL)に再溶解し、16.5重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、80℃において熱風乾燥器で2時間乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間乾燥して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中325℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。
【実施例6】
【0041】
ポリイミド前駆体の重合;PMDA(50):s-BPDA(50)/ジアミン化合物100mol%
上記実施例1で合成したジアミン化合物1.7657g(3.00mmol)を脱水NMPに溶解した。ここにピロメリット酸二無水物(PMDA)粉末0.3272g(1.50mmol)と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)粉末0.4413g(1.50mmol)を混ぜ合わせた粉末をゆっくり加え、室温で72時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得た(固形分濃度16.9重量%)。得られたポリアミド酸の固有粘度は、0.66dL/gであった。
【0042】
化学イミド化反応
得られたポリアミド酸溶液を脱水NMPで固形分濃度10.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら3.0627g(30mmol)の無水酢酸と1.1865g(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下し、滴下終了後更に24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のエタノールにゆっくりと滴下しポリイミドを沈澱させた。得られた沈殿物をエタノールで十分洗浄し、120℃で12時間真空乾燥した。この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)及びNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、2.30dL/gであり、高分子量体であった。
【0043】
ポリイミド溶液の調整及びポリイミドフィルムの製膜
上記のポリイミド粉末を室温でNMPに再溶解し、15.2重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、80℃において熱風乾燥器で2時間乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間乾燥して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中315℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。
【実施例7】
【0044】
ポリイミド溶液の調整及びポリイミドフィルムの製膜
実施例6のポリイミド粉末を室温でGBLに再溶解し、12.4重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、80℃において熱風乾燥器で2時間乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間乾燥して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中315℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。
【実施例8】
【0045】
ポリイミド前駆体の重合;PMDA(100)/ジアミン化合物75mol%
上記実施例1で合成したジアミン化合物1.3243g(2.25mmol)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)0.2402g(0.75mmol)を脱水NMPに溶解した。ここにピロメリット酸二無水物(PMDA)粉末0.6544g(3.00mmol)をゆっくり加え、室温で72時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得た(固形分濃度15.8重量%)。得られたポリアミド酸の固有粘度は、0.74dL/gであった。
【0046】
化学イミド化反応
得られたポリアミド酸溶液を脱水NMPで固形分濃度10.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら3.0627g(30mmol)の無水酢酸と1.1865g(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下し、滴下終了後更に24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のエタノールにゆっくりと滴下しポリイミドを沈澱させた。得られた沈殿物をエタノールで十分洗浄し、120℃で12時間真空乾燥した。この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)及びNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、0.77dL/gであった。
【0047】
ポリイミド溶液の調整及びポリイミドフィルムの製膜
上記のポリイミド粉末を室温でNMPに再溶解し、21.4重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、80℃において熱風乾燥器で2時間乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間乾燥して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中259℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。
【実施例9】
【0048】
ポリイミド前駆体の重合;PMDA(100)/ジアミン化合物100mol%
上記実施例1で合成したジアミン化合物1.7657g(3.00mmol)を脱水NMPに溶解した。ここにピロメリット酸二無水物(PMDA)粉末0.6544g(3.00mmol)をゆっくり加え、室温で72時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得た(固形分濃度14.7重量%)。得られたポリアミド酸の固有粘度は、1.11dL/gであった。
【0049】
化学イミド化反応
得られたポリアミド酸溶液を脱水NMPで固形分濃度10.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら3.0627g(30mmol)の無水酢酸と1.1865g(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下し、滴下終了後更に24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のエタノールにゆっくりと滴下しポリイミドを沈澱させた。得られた沈殿物をエタノールで十分洗浄し、120℃で12時間真空乾燥した。この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)及びNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、1.10dL/gであった。
【0050】
ポリイミド溶液の調整及びポリイミドフィルムの製膜
上記のポリイミド粉末を室温でNMPに再溶解し、23.6重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、80℃において熱風乾燥器で2時間乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間乾燥して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中348℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。
【比較例1】
【0051】
ジニトロ体中間体の合成(メチル基の無いジアミンの合成)
【化16】
100mL三口フラスコに2-クロロ-5-ニトロベンゾトリフルオリド6.92g(30.7mmol)、4,4’-ビフェノール1.89g(10.1mmol)、炭酸カリウム2.89g、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)15mLを加え、窒素雰囲気下85℃で4時間撹拌した。この反応溶液を多量の水に投入し、沈殿物を回収した。沈殿物は水とメタノールで洗浄した後、減圧乾燥器80℃で12時間乾燥した(収量4.91g、収率86%)。乾燥した粗生成物は、トルエンで再結晶し白色針状晶を得た(全体収率72%)。
【0052】
ジニトロ体中間体の同定
生成物は、フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR4100(日本分光社製)より、3109cm-1に芳香族C-H伸縮振動吸収帯、1530,1351cm-1にニトロ基伸縮振動吸収帯、1243,1049cm-1にエーテルC-O-C伸縮振動吸収帯を確認した。フーリエ変換核磁気共鳴分光光度計JNM―ECP400(JEOL製)を用いて1H-NMR測定を行った結果、(DMSO-d6,δ,ppm):8.55-8.48(m,4H),7.86(d,J=8.7Hz,4H),7.38(d,J=8.7Hz,4H),7.22(d,J=9.2Hz,2H)と帰属でき、生成物はジニトロ体であることが確認された。また、示差走査熱量分析装置DSC3100(ネッチ社)によって融点を測定したところ、211℃に鋭い融解ピークを示したことからこの生成物は高純度であることが示唆された。
【0053】
ジニトロ体中間体の還元
【化17】
200mL三口フラスコにジニトロ体3.00g(5.32mmol)、触媒であるパラジウム / 炭素 (Pd 10%) (約55%水湿潤品) 0.303g、DMF90mLを入れ、水素バブリングしながら100℃で4時間撹拌した。その後、室温まで放冷後、触媒を濾別し、ろ液を水に投入して沈殿物を回収した。沈殿物は水で洗浄し減圧乾燥器100℃で12時間乾燥した(収量2.48g、収率92%)。得られた粗生成物3.10gをエタノール(15mL)で加熱溶解させ、再結晶させ、濾過回収し減圧乾燥器80℃で12時間乾燥させ灰色粉末を得た(全体収率65%)。
【0054】
ジアミン化合物の同定
生成物は、フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR4100(日本分光社製)より、3431,3358cm-1にN-H伸縮振動吸収帯、3040cm-1に芳香族C-H伸縮振動吸収帯、1228,10479m-1にエーテルC-O-C伸縮振動を確認した。
フーリエ変換核磁気共鳴分光光度計JNM―ECP400(JEOL製)を用いて1H-NMR測定を行った結果、(DMSO-d6,δ,ppm):7.56(d,J=8.7Hz,4H),6.94-6.82(m,10H),5.46(s,4H)と帰属でき、元素分析値は推定値C:61.91%,H:3.60%,N:5.55%、実測値C:61.80%,H:3.85%,N:5.51%であり、生成物はジアミンであることが確認された。また、示差走査熱量分析装置DSC3100(ネッチ社)によって融点を測定したところ、153℃に鋭い融解ピークを示したことからこの生成物は高純度であることが示唆された。
【比較例2】
【0055】
ポリイミド前駆体の重合;PMDA(50):s-BPDA(50)/ジアミン化合物0mol%
2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)0.9607g(3.00mmol)を脱水N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解した。ここにピロメリット酸二無水物(PMDA)粉末0.3272g(1.50mmol)と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)粉末0.4413g(1.50mmol)を混ぜ合わせた粉末をゆっくり加え、室温で72時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得た(固形分濃度17.4重量%)。得られたポリアミド酸の固有粘度は、0.92dL/gであった。
【0056】
化学イミド化反応
得られたポリアミド酸溶液を脱水NMPで固形分濃度10.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら3.0627g(30mmol)の無水酢酸と1.1865g(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下したところ、流動性が消失してゲル化した。
【比較例3】
【0057】
ポリイミド前駆体の重合;PMDA(50):s-BPDA(50)/ジアミン化合物(25mol%)
上記比較例1で合成したジアミン化合物0.3783g(0.75mmol)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)0.7205g(2.25mmol)を脱水N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解した。ここにピロメリット酸二無水物(PMDA)粉末0.3272g(1.50mmol)と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)粉末0.4413g(1.50mmol)を混ぜ合わせた粉末をゆっくり加え、室温で72時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得た(固形分濃度28.8重量%)。得られたポリアミド酸の固有粘度は、1.38dL/gであった。
【0058】
化学イミド化反応
得られたポリアミド酸溶液を脱水NMPで固形分濃度10.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら3.0627g(30mmol)の無水酢酸と1.1865g(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下し、滴下終了後更に24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のエタノールにゆっくりと滴下しポリイミドを沈澱させた。得られた沈殿物をエタノールで十分洗浄し、120℃で12時間真空乾燥した。この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)及びNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、1.286dL/gであり、高分子量体であった。
【0059】
ポリイミド溶液の調整及びポリイミドフィルムの製膜
上記のポリイミド粉末を室温でトリエチレングリコールジメチルエーテル(Tri-GL)に再溶解し、18.1重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、80℃において熱風乾燥器で1.5時間乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間乾燥して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中260℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。
【比較例4】
【0060】
ポリイミド前駆体の重;PMDA(50):s-BPDA(50)/ジアミン化合物(50mol%)
上記比較例1で合成したジアミン化合物0.7566g(1.50mmol)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)0.4803g(1.50mmol)を脱水N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解した。ここにピロメリット酸二無水物(PMDA)粉末0.3272g(1.50mmol)と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)粉末0.4413g(1.50mmol)を混ぜ合わせた粉末をゆっくり加え、室温で72時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得た(固形分濃度14.7重量%)。得られたポリアミド酸の固有粘度は、1.09dL/gであった。
【0061】
化学イミド化反応
得られたポリアミド酸溶液を脱水NMPで固形分濃度10.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら3.0627g(30mmol)の無水酢酸と1.1865g(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下し、滴下終了後更に24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のエタノールにゆっくりと滴下しポリイミドを沈澱させた。得られた沈殿物をエタノールで十分洗浄し、120℃で12時間真空乾燥した。この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)及びNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、1.90dL/gであり、高分子量体であった。
【0062】
ポリイミド溶液の調整及びポリイミドフィルムの製膜
上記のポリイミド粉末を室温でNMPに再溶解し、18.8重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、80℃において熱風乾燥器で2時間乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間乾燥して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中260℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。
【比較例5】
【0063】
ポリイミド前駆体の重合;PMDA(50):s-BPDA(50)/ジアミン化合物(75mol%)
上記比較例1で合成したジアミン化合物1.1349g(2.25mmol)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)0.2402g(0.75mmol)を脱水N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解した。ここにピロメリット酸二無水物(PMDA)粉末0.3272g(1.50mmol)と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)粉末0.4413g(1.50mmol)を混ぜ合わせた粉末をゆっくり加え、室温で72時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得た(固形分濃度19.0重量%)。得られたポリアミド酸の固有粘度は、1.29dL/gであった。
【0064】
化学イミド化反応
得られたポリアミド酸溶液を脱水NMPで固形分濃度10.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら3.0627g(30mmol)の無水酢酸と1.1865g(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下し、滴下終了後更に24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のエタノールにゆっくりと滴下しポリイミドを沈澱させた。得られた沈殿物をエタノールで十分洗浄し、120℃で12時間真空乾燥した。この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)及びNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、2.00dL/gであり、高分子量体であった。
【0065】
ポリイミド溶液の調整及びポリイミドフィルムの製膜
上記のポリイミド粉末を室温でNMPに再溶解し、18.8重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、80℃において熱風乾燥器で2時間乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間乾燥して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中260℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。
【比較例6】
【0066】
ポリイミド前駆体の重合;PMDA(50):s-BPDA(50)/ジアミン化合物(100mol%)
上記比較例1で合成したジアミン化合物1.5133g(3.00mmol)を脱水N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解した。ここにピロメリット酸二無水物(PMDA)粉末0.3272g(1.50mmol)と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)粉末0.4413g(1.50mmol)を混ぜ合わせた粉末をゆっくり加え、室温で72時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得た(固形分濃度20.7重量%)。得られたポリアミド酸の固有粘度は、0.84dL/gであった。
【0067】
化学イミド化反応
得られたポリアミド酸溶液を脱水NMPで固形分濃度10.0重量%に希釈後、これを撹拌しながら3.0627g(30mmol)の無水酢酸と1.1865g(15mmol)のピリジンの混合溶液を室温でゆっくり滴下し、滴下終了後更に24時間撹拌した。得られたポリイミド溶液を大量のエタノールにゆっくりと滴下しポリイミドを沈澱させた。得られた沈殿物をエタノールで十分洗浄し、120℃で12時間真空乾燥した。この粉末についてプロトンNMR測定を行ったところ、ポリアミド酸に特有のCOOHプロトン(δ13ppm付近)及びNHCOプロトン(δ11ppm付近)は観測されなかったことから、化学イミド化反応は完結していることが示唆された。得られたポリイミドの固有粘度は、0.85dL/gであり、高分子量体であった。
【0068】
ポリイミド溶液の調整及びポリイミドフィルムの製膜
上記のポリイミド粉末を室温でNMPに再溶解し、19.2重量%の均一溶液を調整した。このポリイミド溶液をガラス基板上に流延し、80℃において熱風乾燥器で2時間乾燥した。その後、基板ごと真空中250℃で1時間乾燥して室温まで放冷後、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離した。このポリイミドフィルムをもう一度真空中245℃で1時間熱処理して残留歪を除去した。
【0069】
実施例2~9のポリイミドフィルムについて、製膜用の溶液組成と膜物性評価を下記表1にまとめて示す。
【表1】
【0070】
実施例2~4、6、8、9のポリイミド粉末の溶媒溶解性について、下記表2にまとめて示す。
【表2】
【0071】
比較例2~6のポリイミドフィルムについて、製膜用の溶液組成と膜物性評価を下記表3にまとめて示す。
なお、比較例6のガラス転移温度は、TA Instruments社製、動的粘弾性測定装置(Q800)を用いて周波数0.1Hz、振幅0.1%、昇温速度5℃/分における損失ピークからを求めた値を示す。
【表3】
【0072】
実施例1で合成したジアミン化合物を使用しないポリイミドは、比較例2に示したように溶媒に不溶であったが、実施例1で合成したジアミン化合物を用いたポリイミドは、実施例2~9のように溶媒に可溶になり、更にその溶液から得られたポリイミドフィルムのガラス転移温度は、330℃以上と高温であった。一方、比較例1で合成したジアミン化合物を用いたポリイミドは、比較例2~6のように溶媒に可溶となるが、ガラス転移温度が300℃未満になり、耐熱性に問題があった。これらの実施例と比較例から、エーテル結合を介して、中央ビフェニレン基の2,2’,3,3’,5,5’位に6つのメチル基が存在する本発明のジアミン化合物を用いたポリイミドは、メチル基によってビフェニレンの二面角を立体的な障害効果によって大きくねじれさせ(非共平面性)、高分子鎖間の凝集を妨げ溶媒への溶解性を向上させ、また、立体障害効果は、エーテル結合回りの分子内回転も抑制するため、この構造が組み込まれたポリイミドの耐熱性、即ちガラス転移温度を高められたと考えられる。