(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/08 20060101AFI20230526BHJP
H01Q 1/50 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
H01Q13/08
H01Q1/50
(21)【出願番号】P 2019211491
(22)【出願日】2019-11-22
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱邉 太一
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/132034(WO,A1)
【文献】特開2019-092130(JP,A)
【文献】特開2002-271131(JP,A)
【文献】特開2002-299948(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151529(WO,A1)
【文献】米国特許第06424299(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ導体が設けられたアンテナ面と、
前記アンテナ面に対向し、接地導体が設けられたグランド面と、
線路幅がそれぞれ異なる複数の伝送線路がそれぞれ直列に接続して構成されたスタブと、を備え、
前記スタブは、前記アンテナ面と前記グランド面との間に位置し、
前記伝送線路は、前記アンテナ面と対向して前記アンテナ面の領域に収まるように前記スタブに配置され、
前記アンテナ導体は、前記複数の伝送線路のうち一端側の伝送線路に接続される給電点を介して、前記スタブと電気的に導通している、
アンテナ装置。
【請求項2】
前記複数の伝送線路は、それぞれ同一の線路長を有する、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
誘電体により形成された基板、を更に備え、
前記基板は、第1の基板と、前記第1の基板より上層に設けられた第2の基板とにより構成され、
前記接地導体は、前記第1の基板の裏面に設けられ、
前記アンテナ導体は、前記第2の基板の表面に設けられ、
前記スタブは、前記第1の基板の表面と前記第2の基板の裏面との間に設けられる、
請求項1または2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記基板は、前記第1の基板の表面から前記第2の基板の背面までを貫通する貫通孔を有し、
前記貫通孔には、前記アンテナ導体および前記スタブへの給電を行う給電導体が設けられる、
請求項3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記給電導体は、前記スタブの前記一端側に設けられた前記給電点を介して前記スタブに給電する、
請求項4に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記アンテナ導体は、長方形のパッチである、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記アンテナ面は、前記アンテナ導体を囲むように、長方形に形成され、
前記アンテナ導体の長手方向に沿って前記複数の伝送線路が直列に接続された前記スタブが設けられた給電面は、長方形に形成され、
前記グランド面は、前記接地導体を囲むように、長方形に形成される、
請求項6に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記アンテナ面において、前記アンテナ導体と前記給電導体の端面とが短絡する、
請求項4に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、移動通信端末に搭載されるアンテナ装置として、例えば2GHz帯の通信周波数を使用するパッチアンテナが開示されている。このパッチアンテナは、通信周波数の広帯域化を図るため、下位層にグランド面、中間層にアンテナ面、上位層に伝送線路で構成されたスタブが積層された3層構造を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】野口 啓介,外4名,“パッチ上面に設けたスタブによる偏波ダイバーシチパッチアンテナの広帯域整合”,2003年11月,電子情報通信学会論文誌 B Vol.J86-B No.11 pp.2428-2432
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、上述した従来の状況に鑑みて案出され、アンテナ装置自体の全体的な厚みを増大すること無く、通信周波数の広帯域化とアンテナ性能としての利得の向上との両立を図るアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、アンテナ導体が設けられたアンテナ面と、前記アンテナ面に対向し、接地導体が設けられたグランド面と、線路幅がそれぞれ異なる複数の伝送線路がそれぞれ直列に接続して構成されたスタブと、を備え、前記スタブは、前記アンテナ面と前記グランド面との間に位置し、前記伝送線路は、前記アンテナ面と対向して前記アンテナ面の領域に収まるように前記スタブに配置され、前記アンテナ面は、前記複数の伝送線路のうち一端側の伝送線路に接続される給電点を介して、前記スタブと電気的に導通している、アンテナ装置である。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、アンテナ装置において、アンテナ装置自体の全体的な厚みを増大すること無く、通信周波数の広帯域化とアンテナ性能としての利得の向上との両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態1に係るパッチアンテナの積層構造の一例を示す断面図
【
図6】パッチアンテナの性能の測定環境の一例を模式的に示す図
【
図7】2.4GHz用のパッチアンテナの第1サンプルを用いた放射特性の一例を示すグラフ
【
図8】2.4GHz用のパッチアンテナの第2サンプルを用いた放射特性の一例を示すグラフ
【
図9】5GHz用のパッチアンテナを用いた放射特性の一例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示に至る経緯)
非特許文献1の構成では、第3層としてのグランド面と第1層としてのスタブとの間に、第2層としてのアンテナ面が介在している。このため、アンテナ面とグランド面との間隔が狭く、共振周波数特性のピークの鋭さを示すQ値が増し、無線通信のさらなる広帯域化が困難となるという課題があった。一方で、アンテナ装置の小型化を図る上で、アンテナ装置が搭載される最終製品である電子機器の筐体内でアンテナ装置自体の全体的な厚さは制限される傾向が強い。したがって、非特許文献1のアンテナ装置の構成では、アンテナ面とグランド面との間隔を広くすることができない。つまり、パッチアンテナのQ値の低下が困難であり、無線通信に用いる周波数帯のさらなる広帯域化、ならびにアンテナ性能としての利得の向上が困難であった。
【0009】
そこで、以下の実施の形態1では、アンテナ装置自体の全体的な厚みを増大すること無く、通信周波数の広帯域化とアンテナ性能としての利得の向上との両立を図るアンテナ装置の一例を説明する。
【0010】
以下、適宜図面を参照しながら、本開示に係るアンテナ装置を具体的に開示した実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0011】
(実施の形態1)
実施の形態1に係るアンテナ装置として、航空機等の座席の背面側に設けられるシートモニタに搭載されるパッチアンテナ(言い換えると、マイクロストリップアンテナ(MSA:Microstrip Antenna)を例示して説明する。ただし、パッチアンテナが搭載される電子機器は上述したシートモニタに限定されない。
【0012】
図1は、実施の形態1に係るパッチアンテナ5の積層構造の一例を示す断面図である。パッチアンテナ5は、下位層にグランド面10、中間層に給電面20、上位層にアンテナ面40が積層された、3層構造の基板8を有する。実施の形態1に係るパッチアンテナ5は、例えば2.4GHz帯の無線信号を送信(言い換えると、電波を放射)する。なお、パッチアンテナは、この2.4GHzの帯域に限らず、例えば5GHz帯の無線信号を送信(言い換えると、電波を放射)してもよい。
【0013】
基板8は、PPO(Polyphhenyleneoxide)等の比誘電率の高い誘電体で成形された誘電体基板であり、第1の基板8aと第2の基板8bとが積層された多層構造を有する。グランド面10は、第1の基板8aの裏面(背面)に設けられる。アンテナ面40は、第2の基板8bの表面に設けられる。給電面20は、第1の基板8aの表面と第2の基板8bの裏面との間に設けられる。実施の形態1では、一例として、誘電体基板8全体の厚さは2mm、第1の基板8aの厚さは1.9mm、第2の基板8bの厚さは0.1mmである。また、基板8の裏側(つまり、グランド面10の裏面側)には、パッチアンテナ5に給電する無線通信回路(図示略)が設けられる。
【0014】
基板8の表面(つまり、アンテナ面40)から裏面(つまり、グランド面10)にかけて貫通する孔86には、ビア導体54が挿通される。ビア導体54は、孔86に導電材を充填することで円柱形状に成形される。ビア導体54は、アンテナ面40に形成された接点41(つまり、ビア導体54の上端面)と、給電面20に形成された給電点21(つまり、ビア導体54の中間断面)と、グランド面10に形成された接点11(つまり、ビア導体54の下端面)とを導通させる1本の導体である。ビア導体54は、アンテナ面40をアンテナとして機能(つまり、作動)させるための給電導体である。接点11は、基板8の裏面側に配置された無線通信回路(図示略)の給電端子に接続される。
【0015】
図2は、アンテナ面40を示す平面図である。
図2には、
図1の矢印E-E’線方向から見た面が示されている。
図2に示すように、アンテナ面40には、例えば2.4GHz帯用の無線信号に対応した電波を放射するためのパッチ45が設けられる。パッチ45は、並列共振回路の特性を有し、スタブ25の給電点21に供給される無線通信回路(図示略)からの励起信号にしたがって、2.4GHz帯の無線信号を送信(言い換えると、電波を放射)する。パッチ45は、例えば長方形の銅箔により構成される。パッチ45が長方形状に成形されることで、シートモニタ等の電子機器に搭載された際に長手方向が水平方向になるようにパッチアンテナ5が配置され、パッチアンテナ5の長手方向の長さに合わせて通信周波数が設定された場合、水平偏波の電波が垂直偏波の電波に対して相対的に強く放射される。つまり、パッチアンテナ5から放射される電波は水平偏波となり易くなる。パッチ45の面の1ヶ所には、開口部44が形成され、その中央に接点41(つまり、ビア導体54の先端面)が露出する。また、開口部44を形成するパッチ45の周縁部と接点41とが導電部材42で短絡(ショート)する。導電部材42は、一例として、パッチ45の周縁部と接点41との隙間を、3箇所半田付けすることにより盛られた半田である。なお、導電部材42は、ワイヤボンディングによりパッチの周縁部と接点との間を結合したワイヤであってもよい。
【0016】
図3は、給電面20を示す平面図である。
図3には、
図1の矢印F-F’線方向から見た断面が示されている。
図3に示すように、給電面20には、給電線の一例としてのスタブ25が設けられる。スタブ25は、パッチアンテナ5のインピーダンス整合をとるために、ビア導体54を介してパッチ45と導通し、パッチ45と直列に接続される直列共振回路の特性を有する。つまり、スタブ25は、パッチ45と直列に接続され、パッチアンテナ5のリアクタンス成分を値0に近づける。
【0017】
スタブ25は、給電点21と第1の伝送線路27と第2の伝送線路28と第3の伝送線路29とが直列に接続された形状を有する。第1の伝送線路27と第2の伝送線路28と第3の伝送線路29とはそれぞれ線路幅が異なっている。これら複数の伝送線路は、給電点21を始点とする、ジクザク状に屈曲した線路であり、スタブ25の線路長をできるだけ短くするために線路幅が狭い部分だけでなく線路幅が広い部分を含む。線路幅が広い部分では、線路幅が狭い部分と比べ、インピーダンスが小さくなる。インピーダンスを小さくすることで、通電時の電力損失が抑えられる。
【0018】
第1の伝送線路27は、給電点21を始点として、4ヶ所の折り返し部27a,27b,27c,27dで直角に折れ曲がった5つの線路を有する。
【0019】
第2の伝送線路28は、6ヶ所の折り返し部28a,28b,28,28d,28e,28fで直角に折れ曲がった7つの線路を有し、第1の伝送線路27および第3の伝送線路29と比べ、線路幅の大きい略凹形の線路を含む。
【0020】
第3の伝送線路29は、端部を終点とし、4ヶ所の折り返し部29a,29b,29c,29dで直角に折れ曲がった5つの線路を有する。
【0021】
第1の伝送線路27、第2の伝送線路28および第3の伝送線路29の長さ(いわゆる、線路長)は、いずれもλ/4(λ:共振周波数の波長)で同じである。また、第1の伝送線路27、第2の伝送線路28および第3の伝送線路29の全長、つまりスタブ25の線路長は、通信周波数λの3/4である。
【0022】
ここで、給電面20にスタブ25を設けることで、パッチアンテナ5から送信される無線信号の定在波比(VSWR:Voltage Standing Wave Ratio)が良くなり、パッチアンテナ5から送信される無線信号(つまり、電波)の放射効率は向上する。しかし、スタブ25の伝送線路の線路幅が狭いと、インピーダンスが大きくなり、伝送線路において通信電力の損失が大きくなる。この結果、無線通信回路(図示略)により増幅された信号送信用の送信電力が電波の放射にあまり使われず、通信対象とする中心周波数(つまり、共振周波数)の高域側および低域側で利得が下がり、アンテナ性能が劣化する(
図7,
図8,
図9参照)。伝送線路における送信電力の損失を減らすために(つまり、伝送線路のインピーダンスを小さくするために)、伝送線路の線路幅は広くしたい。しかし、線路幅を広くすると、スタブ25全体の長さ(つまり線路長)を短くすることが難しく、結果的にパッチアンテナ5の小型化が難しくなる。つまり、パッチアンテナ5の小型化と、伝送線路の線路幅を広くすることとは、トレードオフの関係にある。
【0023】
そこで、実施の形態1では、スタブ25全体の長さおよび線路幅を大きく変更することなく、アンテナ面40においてパッチ45を給電点21に短絡させることで、通信対象とする中心周波数(つまり、共振周波数)の低域側および広域側における利得の低下を抑える。
【0024】
図4は、グランド面10を示す平面図である。
図4には、
図1の矢印G-G’線方向から見た断面が示されている。グランド面10には、接地導体15が形成される。接地導体15は、銅箔の材質で、基板8の裏面ほぼ全体に亘って長方形状に形成される。接地導体15の全周の長さは、パッチ45の全周の長さよりも1~2波長長く設定される。接地導体15の全周が長くなると、パッチ45が共振し易くなり、またパッチ45の全周の長さも、接地導体15に合わせて長くできる。
【0025】
図5は、パッチアンテナ5の等価回路の一例を示す図である。パッチアンテナ5の等価回路は、
図5に示すように、インピーダンスZr、インピーダンスZsおよびリアクタンスjXpが直列に接続された回路で表される。インピーダンスZrは、パッチ45の放射に寄与するインピーダンスである。インピーダンスZsは、スタブ25による直列共振回路のインピーダンスである。リアクタンスjXpは、給電のためのプローブのリアクタンスである。給電のためのプローブは、無線通信回路(図示略)の給電端子から接点11、ビア導体54を経由して給電点21に至る導体である。また、給電点21とパッチ45との間は、導電部材42によって短絡(ショート)している。
【0026】
次に、実施の形態1に係るパッチアンテナ5の性能および動作を説明する。
【0027】
先ず、パッチアンテナ5の性能を説明する。
【0028】
実施の形態1に係るパッチアンテナ5では、アンテナ面40に形成されたパッチ45とビア導体54の接点41とが短絡する。ここで、比較例として、アンテナ面に形成されたパッチとビア導体の接点とが非接触(つまり、非短絡)であるパッチアンテナの性能も併せて説明する(
図7および
図8参照)。なお、比較例に係るパッチアンテナの構造は、アンテナ面に形成されたパッチとビア導体の接点とが非短絡(言い換えると、アンテナ面と給電面とがビア導体を介して導通していない)ことを除けば、他の構造は同様である。
【0029】
また、実施の形態1に係るパッチアンテナ5と比較例に係るパッチアンテナとの比較のために、2.4GHz帯用のパッチアンテナとして、2種類のサンプル(具体的には、第1サンプル、第2サンプル)を用いる。例えば、第1サンプルと第2サンプルとでは、パッチアンテナのパラメータ(例えば厚さ)が異なる。第1サンプルのパッチアンテナの厚さは、第2サンプルのパッチアンテナの厚さに比べ、厚くなっている。つまり、アンテナ面とグランド面の間の距離が長くなっている。なお、2つのパッチアンテナとして、パッチアンテナの厚さが同じでスタブの線路長が異なるものが用いられてもよい。また、5GHz用のパッチアンテナの性能を併せて説明する(
図9参照)。
【0030】
図6は、パッチアンテナ5の性能の測定環境の一例を模式的に示す図である。この測定環境では、パッチアンテナ5の他、受信アンテナ80およびネットワークアナライザ90(VNA:Vector Network Analyzer)が用意される。測定の開始前に、所定の方向(例えば受信アンテナ80の正面となる方向)に電波を放射するように、パッチアンテナ5が設置される。つまり、パッチアンテナ5と所定の方向(上述参照)に対向する面に、パッチアンテナ5から放射される電波を受信する受信アンテナ80が配置される。例えば、受信アンテナ80は、壁面にテープで貼り付けられる。パッチアンテナ5から放射される電波は、主に水平偏波の電波であるので、受信アンテナ80は、パッチアンテナ5から放射される水平偏波の電波を受信可能に配置される。パッチアンテナ5は、ネットワークアナライザ90の出力端子にケーブルで接続される。受信アンテナ80は、ネットワークアナライザ90の入力端子にケーブルで接続される。
【0031】
ネットワークアナライザ90は、周波数を連続的に変化(つまり掃引)させながら、高周波の励起信号をパッチアンテナ5に給電する。パッチアンテナ5は、給電された励起信号によって電波を放射する。受信アンテナ80は、パッチアンテナ5から放射される電波を受信し、受信した測定信号(例えば、電波の電界強度に相当する信号)をネットワークアナライザ90に出力する。ネットワークアナライザ90は、パッチアンテナ5に給電した高周波の励起信号のレベルと、受信アンテナ80で受信した測定信号のレベルとの比を基に、パッチアンテナ5の電波の放射特性を測定する。例えば、2.4GHz用のパッチアンテナ5の放射特性を測定する場合、ネットワークアナライザ90は、2.0GHz~3.0GHzの範囲で周波数を連続的に変化(つまり掃引)させながら、高周波の励起信号を給電し、その測定信号を得る。同様に、5GHz用のパッチアンテナ5の放射特性を測定する場合、ネットワークアナライザ90は、4.0GHz~6.0GHzの範囲で周波数を連続的に変化させながら、高周波の励起信号を給電し、その測定信号を得る。
【0032】
図7は、2.4GHz用のパッチアンテナ5の第1サンプルを用いた放射特性の一例を示すグラフである。
図7の横軸は、パッチアンテナ5が送信する無線信号(つまり電波)の周波数を示す。
図7の縦軸は、受信アンテナ80(
図6参照)が受信した無線信号(つまり電波)の測定レベル(言い換えると、電波強度)を示す。この測定レベルは、アンテナ性能としての利得(ゲイン)に対応する。この測定において、ネットワークアナライザ90は、2GHz~3GHzの範囲で周波数を連続的に変化(つまり掃引)させながら、一定レベルの励起信号をパッチアンテナ5に給電する。パッチアンテナ5は、励起信号にしたがって無線信号(つまり電波)を連続的に送信(つまり放射)する。
【0033】
その結果、
図7に示すように、実施の形態1に係るパッチアンテナ5では、グラフg1に示すように、測定レベルは、無線通信に用いる2.40GHz~2.48GHzの帯域(帯域幅70kHz)で緩やかなピークを有するとともに、2GHz~3GHzの帯域に亘って全体的になだらかな山形のカーブ(曲線)を描くので測定レベルの大きな落ち込みは見られなかった。
【0034】
一方、比較例に係るパッチアンテナでは、グラフg11に示すように、測定レベルは、実施の形態1に係るパッチアンテナ5と同様、無線通信に用いる2.40GHz~2.48GHzの帯域で緩やかなピークを有する。ところが、2.40GHz~2.48GHzの帯域より低域(2.0GHz~2.2GHz)側および高域(2.6GHz~3.0GHz)側の両方の帯域で大きく下がっている。この測定レベルの落ち込み、つまりアンテナ性能としての利得の低下は、スタブで電力損失が大きいことが原因であると考えられる。
【0035】
図8は、2.4GHz用のパッチアンテナ5の第2サンプルを用いた放射特性の一例を示すグラフである。
図8の横軸は、パッチアンテナ5が送信する無線信号(つまり電波)の周波数を示す。
図8の縦軸は、受信アンテナ80(
図6参照)が受信した無線信号(つまり電波)の測定レベルを示す。実施の形態1に係るパッチアンテナ5では、グラフg2に示すように、測定レベルは、第1サンプルと比べ、無線通信に用いる2.40GHz~2.48GHzの帯域(帯域幅70kHz)でピークを有するとともに、2GHz~3GHzの帯域にかけて全体的に急峻な山形のカーブを描く。
【0036】
一方、比較例に係るパッチアンテナでは、グラフg12に示すように、測定レベルは、無線通信に用いる2.40GHz~2.48GHzの帯域でピークを有する。ところが、2.40GHz~2.48GHzの帯域より低域(2.0GHz~2.2GHz)側の帯域および高域(2.6GHz~3.0GHz)側の両方の帯域で大きく下がっている。この測定レベルの落ち込み、つまりアンテナ性能としての利得の低下は、第1サンプルの場合と同様に、スタブで電力損失が大きいことが原因であると考えられる。
【0037】
図9は、5GHz用のパッチアンテナ5を用いた放射特性の一例を示すグラフである。
図9の横軸は、パッチアンテナ5が送信する無線信号(つまり電波)の周波数を示す。
図9の縦軸は、受信アンテナ80(
図6参照)が受信した無線信号(つまり電波)の測定レベルを示す。実施の形態1に係るパッチアンテナ5では、グラフg3に示すように、測定レベルは、無線通信に用いる4GHz~6GHzの帯域にかけて全体的に平坦に変化する広帯域なカーブを描くので測定レベルの大きな落ち込みは見られなかった。なお、近年、Wifi(登録商標)等の無線LAN(Local Area Network)では、6GHz帯の周波数の無線信号が用いられるので、高域側まで広帯域化に対応することは有用である。
【0038】
一方、比較例に係るパッチアンテナでは、グラフg13に示すように、測定レベルは、平坦に変化するものの、無線通信に用いる4GHz~6GHzの帯域より低域(4.0GHz~4.6GHz)側および高域(5.7GHz~6.0GHz)側の両方の帯域で大きく下がっている。この測定レベルの落ち込み、つまりアンテナ性能としての利得の低下は、2.4GHz用のパッチアンテナと同様に、スタブで電力損失が大きいことが原因であると考えられる。
【0039】
図10は、パッチアンテナ5のユースケースの一例を示す図である。実施の形態1に係るパッチアンテナ5は、航空機等の座席の背面側に設置されたシートモニタ100に搭載される。シートモニタ100は、例えば映像あるいは音楽等の配信コンテンツデータを提供可能なデータサーバ(図示略)と通信可能に接続される。シートモニタ100は、パッチアンテナ5から無線信号をデータサーバに送信し、配信コンテンツデータを要求する。シートモニタ100は、データサーバから送信される配信コンテンツデータをパッチアンテナ5で受信する。シートモニタ100は、この配信コンテンツデータを基に、モニタに映像を表示し、あるいはパッチアンテナ5から視聴者mnに向けて音楽等のデータを含む電波を放射する。ここで、パッチアンテナ5は、パッチ面がシートモニタ100の正面と平行となるように配置される。また、パッチアンテナ5は、その長手方向が座席の床面と水平な方向になるように配置される。したがって、シートモニタ100の正面から水平偏波の電波である無線信号Sg1が視聴者mnの方向に効率良く放射される。なお、用途として、パッチアンテナは、シートモニタに限らず、無線アクセスポイント(基地局)等に搭載されてもよい。
【0040】
このように、実施の形態1に係るパッチアンテナ5は、アンテナ面40とグランド面10との間隔を広げることで、共振周波数特性のピークの鋭さを示すQ値を低減でき、通信周波数の広帯域化を図れる。また、パッチアンテナ5は、アンテナ面40において、パッチ45と給電点21に繋がるビア導体54の接点41とを短絡させることで、パッチ45と給電点21が非導通である場合と比べ、通信周波数の低域側および高域側で通信電力の利得を上げることができ、利得の低下を抑止できる。したがって、通信周波数の低域側および高域側を含む広い帯域で、通信電力の利得が高くなり、通信周波数の広帯域化が可能になる。
【0041】
以上のように、実施の形態1に係るパッチアンテナ5(アンテナ装置の一例)は、パッチ45(アンテナ導体の一例)が設けられたアンテナ面40と、アンテナ面40に対向し、接地導体15が設けられたグランド面10と、線路幅がそれぞれ異なる第1の伝送線路27~第3の伝送線路29(複数の伝送線路の一例)がそれぞれ直列に接続して構成されたスタブ25と、を備える。スタブ25は、アンテナ面40とグランド面10との間に位置する。パッチ45は、第1の伝送線路27~第3の伝送線路29のうち一端側の第1の伝送線路27に接続される給電点21を介して、スタブ25と電気的に導通している。
【0042】
これにより、パッチアンテナ5は、アンテナ面とグランド面との間隔を広げることが可能であるだけでなく、Q値(共振周波数特定のピークの鋭さを示す)を低減でき、広帯域化を図れる。また、パッチ45とスタブ25の一端とが電気的に導通するので、アンテナ性能としての利得が通信周波数の範囲において向上する。
【0043】
また、第1の伝送線路27,第2の伝送線路28,第3の伝送線路29は、それぞれ同一の線路長を有する。これにより、第1の伝送線路27~第3の伝送線路29の線路長が全て同一であるので、スタブ25において、共振周波数に適合するための所定のインピーダンスが得られるためのインピーダンス整合は線路幅によって調整すればよく、インピーダンス整合が簡易化される。
【0044】
また、パッチアンテナ5は、誘電体により形成された基板8を更に備える。基板8は、第1の基板8aと、第1の基板8aより上層に設けられた第2の基板8bとにより構成される。接地導体15は、第1の基板8aの裏面に設けられる。パッチ45は、第2の基板8bの表面に設けられる。スタブ25は、第1の基板8aの表面と第2の基板8bの裏面との間の給電面20に設けられる。これにより、パッチアンテナ5は、アンテナ面40を最上層とし、給電面20を中間層とし、グランド面10を最下層とする3層構造を有する。給電面20に設けられたスタブ25は、アンテナ面40に設けられたパッチ45に給電を行える。また、スタブ25の直列共振回路によるリアクタンス成分が、パッチ45の並列共振による放射リアクタンス成分を打ち消すことができる。したがって、パッチアンテナ5から送信される電波の送信周波数が広帯域化される。また、広帯域化によって電波の反射が少なくなり、アンテナ性能としての利得が向上する。
【0045】
また、基板8は、第1の基板8aの表面から第2の基板8bの背面までを貫通する孔86(貫通孔の一例)を有する。孔86には、パッチ45およびスタブ25への給電を行うビア導体54(給電導体の一例)が設けられる。これにより、パッチアンテナ5は、給電点21を含むビア導体54を介して、簡単に無線通信回路から通信電力をパッチ45とスタブ25の両方に給電できる。
【0046】
また、ビア導体54は、スタブ25の一端側に設けられた給電点21を介してスタブ25に給電する。これにより、スタブは、電磁結合されたパッチに通信電力を給電できる。
【0047】
また、パッチ45は、長方形のパッチである。これにより、パッチアンテナを用いてアンテナ装置を小型できる。また、パッチアンテナは、放射される水平偏波の電波と垂直偏波の電波とのアイソレーション(絶縁)を確立でき、水平偏波および垂直偏波の干渉を抑制できるだけでなく無線通信の指向性を形成し易い。また、パッチアンテナ5は、その長手方向が水平方向となるように配置され、パッチアンテナ5の長手方向に長さに合わせて通信周波数が設定された場合、垂直偏波の電波に対し水平偏波の電波を効率良く放射できる。
【0048】
また、アンテナ面40は、パッチ45を囲むように、長方形に形成される。パッチ45の長手方向に沿って第1の伝送線路27~第3の伝送線路29が直列に接続されたスタブ25が設けられた給電面20は、長方形に形成される。グランド面10は、接地導体15を囲むように、長方形に形成される。これにより、パッチアンテナは、アンテナ面、給電面およびグランド面が積層されたコンパクトな直方体に成形可能であり、小型化できる。
【0049】
また、アンテナ面40において、パッチ45とビア導体54の端面である接点41とが短絡(ショート)する。これにより、基板8の外側のアンテナ面40において、パッチ45とビア導体54の接点41とが短絡するので、パッチ45を給電点21に簡単に導通でき、パッチアンテナの製作が容易となる。
【0050】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した各種の実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0051】
例えば、上述した実施の形態1に係るパッチアンテナ5は、電波を送信する送信装置のアンテナに適用されるユースケースを例示して説明したが、電波を受信する受信装置のアンテナに適用されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本開示は、アンテナ装置自体の全体的な厚みを増大すること無く、通信周波数の広帯域化とアンテナとしての利得の向上との両立を図るアンテナ装置として有用である。
【符号の説明】
【0053】
5 パッチアンテナ
10 グランド面
15 接地導体
20 給電面
21 給電点
25 スタブ
40 アンテナ面
41 接点
42 導電部材
45 パッチ
54 ビア導体