(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】半導体結晶ウェハの研削加工方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20230526BHJP
【FI】
H01L21/304 631
(21)【出願番号】P 2023027465
(22)【出願日】2023-02-24
【審査請求日】2023-02-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502330849
【氏名又は名称】有限会社サクセス
(73)【特許権者】
【識別番号】521081850
【氏名又は名称】有限会社ドライケミカルズ
(74)【代理人】
【識別番号】240000693
【氏名又は名称】弁護士法人滝田三良法律事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 愼介
(72)【発明者】
【氏名】千葉 哲也
【審査官】中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/022391(WO,A1)
【文献】特開2006-060069(JP,A)
【文献】特開2023-032894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に研削加工された半導体結晶インゴットからスライス状に切り出されたウェハを研削加工する半導体結晶ウェハの研削加工方法であって、
(1)研削加工するダイアモンド砥石の粒径と、
(2)前記ウェハをウェハ支持台を介して研削盤に押圧する押圧力と、
(3)前記ウェハ支持台の前記研削盤に対する進行速度と
から、前記ウェハの研削盤側の表面に、前記研削盤との間で前記ダイアモンド砥石が介在する摩擦に起因する温度上昇により塑性変形領域を形成する
際に、
前記ダイアモンド砥石の粒径が該塑性変形領域の領域幅を超えるような粒径を採用せず、且つ、前記進行速度は該塑性変形領域の深さを超えないようにすることを特徴とする半導体結晶ウェハの研削加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状に研削加工された半導体結晶インゴットからスライス状に切り出されたウェハを研削加工する半導体結晶ウェハの研削加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の半導体結晶ウェハの研削加工方法としては、下記特許文献1に示すように、研磨用定盤について、本体部の材料の0.2%耐力が50[kg/mm2]以上とすることで、ラッピング面(研磨面)が磨耗し難くなると共に塑性変形を起こし難くしたものが知られいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、従来、半導体結晶ウェハの研削加工方法では、研削精度の向上の観点から研磨用定盤の塑性変形、さらには、ウェハ自体の塑性変形は排除されるべきものであった。
【0005】
しかしながら、本発明者らの鋭意研究により、従来忌み嫌われていた塑性変形をウェハ表面の塑性変形メカニズムとして管理することで、より高い研削精度が実現可能であるとの知見が得られた。
【0006】
本発明は、かかる知見に基づくものであり、従来忌み嫌われていた塑性変形をウェハ表面の塑性変形メカニズムとして管理することで、より高い研削精度を実現することができる半導体結晶ウェハの研削加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の半導体結晶ウェハの研削加工方法は、筒状に研削加工された半導体結晶インゴットからスライス状に切り出されたウェハを研削加工する半導体結晶ウェハの研削加工方法であって、
(1)研削加工するダイアモンド砥石の粒径と、
(2)前記ウェハをウェハ支持台を介して研削盤に押圧する押圧力と、
(3)前記ウェハ支持台の前記研削盤に対する進行速度と
から、前記ウェハの研削盤側の表面に、前記研削盤との間で前記ダイアモンド砥石が介在する摩擦に起因する温度上昇により塑性変形領域を形成する際に、
前記ダイアモンド砥石の粒径が該塑性変形領域の領域幅を超えるような粒径を採用せず、且つ、前記進行速度は該塑性変形領域の深さを超えないようにすることを特徴とする。
【0008】
第1発明の半導体結晶ウェハの研削加工方法によれば、(1)研削加工するダイアモンド砥石の粒径と、(2)ウェハをウェハ支持台を介して研削定盤に押圧する押圧力と、(3)ウェハ支持台の研削定盤に対する進行速度とをコントロールすることにより、ウェハの研削定盤側の表面に、積極的に塑性変形領域を形成する。
【0009】
このようにして形成されたウェハ表面の塑性変形領域では、塑性変形が無い状態での表面研磨とは異なり、ダイアモンド砥石により研削効率が格段に向上し、平坦度の高い鏡面仕上げを一回的に実現することができる。
【0010】
このように、第1発明の半導体結晶ウェハの研削加工方法によれば、従来忌み嫌われていた塑性変形をウェハ表面の塑性変形メカニズムとして管理することで、より高い研削精度を実現することができる半導体結晶ウェハの研削加工方法を提供するができる。
【0012】
また、第1発明の半導体結晶ウェハの研削加工方法によれば、(3)ウェハ支持台の研削定盤に対する進行速度を、塑性変形領域の深さを超えないようにコントロールすること、すなわち、常に、ウェハの表面に塑性変形領域が存在するようにすることで、平坦度の高い鏡面仕上げを一回的に実現することができる。
【0013】
このように、第1発明の半導体結晶ウェハの研削加工方法によれば、従来忌み嫌われていた塑性変形をウェハ表面の塑性変形メカニズムとして管理することで、より高い研削精度を実現することができる半導体結晶ウェハの研削加工方法を実際に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態のSiCウェハ(半導体結晶ウェハ)の製造工程全体を示すフローチャート。
【
図2】
図1のSiCウェハの製造工程における第1面加工工程および第2面加工工程の内容を示す説明図。
【
図3】
図1のSiCウェハの製造方法における第1面加工工程および第2面加工工程の内容を示す説明図。
【
図4】
図1のSiCウェハの製造方法における第1面加工工程および第2面加工工程における加工状態を示す模式図。
【
図5A】
図1のSiCウェハの製造方法における第1面加工工程および第2面加工工程における加工状態を示す模式図。
【
図5B】従来のSiCウェハの製造方法における第1面加工工程および第2面加工工程における加工状態を示す模式図。
【
図6】
図1のSiCウェハの製造方法における第1面加工工程および第2面加工工程により得られたウェハ同士を結晶結合させた状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、本実施形態において、半導体結晶ウェハであるSiCウェハの製造方法は、円筒形状に研削加工されたSiCインゴットからスライス状に切り出したウェハの一面のうねり除去を施したSiCウェハを得る方法であって、溝加工工程(STEP100/
図1)と、切断工程(STEP110/
図1)と、第1面加工工程(STEP120/
図1)と、第2面加工工程(STEP130/
図1)とを備える。
【0016】
なお、STEP120の第1面加工工程と、STEP130の第2面加工工程とにおける加工処理、すなわちメカニカルポリッシュ(高精度研削加工)が、本発明の半導体結晶ウェハの研削加工方法に相当する。一方、STEP100の溝加工工程およびSTEP110の切断工程については、本願出願人による特許7104909号、特許7100864号等に記載されているため、ここでの詳細な説明を省略して、以下概要のみを説明する。
【0017】
まず、STEP100の溝加工工程では、予め結晶させたSiC結晶に対して、インゴット加工工程において、結晶方位を定めて円筒研削加工を施して得られる円筒形状のSiCインゴットを準備する。
【0018】
そして、STEP100の溝加工工程では、かかるSiCインゴットに対して、側面全体に周回する複数の凹溝を形成する。
【0019】
具体的に、STEP100の溝加工工程では、凹溝に対応した凸部が側面に形成された溝加工ドラム砥石を互いに平行な回転軸上でそれぞれ回転させながらSiCインゴットに圧接することにより凹溝を形成する。
【0020】
なお、溝加工工程により得られたSiCインゴット(特に凹溝)に対して化学処理的手法によりノンダメージの鏡面加工を施すことが望ましい。
【0021】
次に、STEP110の切断工程では、溝加工工程において形成された複数の凹溝に配置された複数のワイヤーによりSiCインゴットをスライス状に切断してSiCウェハ100を得る。
【0022】
具体的に切断工程では、切断加工装置であるワイヤーソー装置は、ワイヤーソー部が、複数のワイヤーを溝加工工程で形成した複数の凹溝にそれぞれ合せて、ワイヤーを周回させながら前進させることによりSiCインゴットをスライス状に切断する。
【0023】
次に、
図2に示すように、STEP120の第1面加工工程では、切断面のいずれか一方の一面110を支持面として、残る他面120にメカニカルポリッシュ(高精度研削加工)を施す。
【0024】
具体的には、第1面加工工程では、メカニカルポリッシュを施すメカニカルポリッシュ装置50(超高合成高精度研削加工装置)により、研削加工を行う。
【0025】
メカニカルポリッシュ装置50は、
図3に示すように、スピンドル51と、研削定盤であるプラテン52とを備え、プラテン52上にはダイアモンド研磨砥粒53が設けられいる。プラテン52は、研磨面に放射状の溝部が設けられた凹凸構造となっており、凸部は平面領域が凹溝よりも大きく、後述する摩擦に起因する温度上昇に寄与するように構成されている。
【0026】
まず、ここで一面110を上面として、ウェハ支持台であるスピンドル51の吸着プレートである真空ポーラスチャック54に吸着させて支持させ、他面120を下面として、ダイアモンド研磨砥粒53により他面120を研削加工する。
【0027】
このとき、スピンドル51およびプラテン52は、図示しない駆動装置により回転駆動されると共に、図示しないコンプレッサーなどによりスピンドル51がプラテン52に押圧されることにより残る他面120に研削加工が施される。
【0028】
なお、研削加工後には、ドレッサーなどによりダイアモンド研磨砥粒53へのドレッシングが施されてもよい。
【0029】
また、メカニカルポリッシュ装置50は、必要に応じて、加工時に複数の機能水を使用可能なように機能水供給配管を有してもよい。
【0030】
次に、STEP130の第2面加工工程では、第1面加工工程により、高精度研削加工が施された他面120を上面として、一面110に対して、第1面加工工程と同様の高精度研削加工を施す。
【0031】
すなわち、他面120を上面として、スピンドル51の吸着プレートである真空ポーラスチャック54に吸着させ、一面110を下面として、ダイアモンド砥石53により一面110を研削加工する。
【0032】
この場合にも、必要に応じて、ドレッサーなどをダイアモンド砥石53に押圧することによりドレッシングが施されてもよい。
【0033】
かかるSTEP120の第1面加工工程およびSTEP130の第2面加工工程のメカニカルポリッシュ(高精度研削加工)処理において、本実施形態では、特に、
図4に示すように、
(1)研削加工するダイアモンド研磨砥粒(ダイアモンド砥石)53の粒径と、
(2)ウェハ100をスピンドル51を介してプラテン52に押圧する押圧力と、
(3)スピンドル51のプラテン52に対する進行速度と
から、ウェハ100のプラテン52(研削定盤)側の表面に、プラテン52との間でダイアモンド研磨砥粒53が介在する摩擦に起因する温度上昇(例えば、700℃以上融点未満)により塑性変形領域100Aを形成する。
【0034】
すなわち、(1)研削加工するダイアモンド研磨砥粒53の粒径(例えば、SiCウェハに対しては、♯1000~5000番、より好適には、♯1500~4000番)と、(2)ウェハ100をスピンドル51を介してプラテン52に押圧する押圧力(通常の加重100g/cm2未満より大きな数百g/cm2、例えば、SiCウェハでは、200g/cm2~800g/cm2)と、(3)スピンドル51のプラテン52に対する進行速度(SiCウェハでは、コンマ数μm~数十μm/min)とをコントロールすることにより、ウェハ100のプラテン52側の表面に、積極的に塑性変形領域100Aを形成する。
【0035】
なお、図中において中間領域100Bは、塑性変形状態と元々のウェハ100の状態(弾性状態)との中間状態となっている領域である。
【0036】
このようにして形成されたウェハ100表面の塑性変形領域100Aでは、塑性変形が無い状態での表面研磨とは異なり、ダイアモンド研磨砥粒53により研削効率が格段に向上し、平坦度の高い鏡面仕上げを一回的に実現することができる。すなわち1次~4次の複数回のラップなど複雑な製造工程を大幅に簡略化することができる。
【0037】
ここで、(3)スピンドル51のプラテン52に対する進行速度は、塑性変形領域の深さを超えないことが重要となる。
【0038】
図5Aに模式的に示すように、(3)スピンドル51のプラテン52に対する進行速度を、塑性変形領域100Aの深さを超えないようにコントロールすること、すなわち、常に、ウェハ100の表面に塑性変形領域100Aを存在させ続けること(もちろん、塑性変形領域100Aの領域幅を超えるようなダイアモンド研磨砥粒53の粒径を採用しないことは前提である)で、塑性変形領域100Aを連続的に形成しながらダイアモンド研磨砥粒53により平坦度の高い鏡面仕上げを一回的に実現することができる。
【0039】
一方、
図5Bに模式的に示すように、塑性変形領域100Aの領域幅を超えるようなダイアモンド研磨砥粒53´の粒径を採用した場合(図中左側)や、スピンドル51のプラテン52に対する進行速度を、塑性変形領域100Aの深さを超えて進行させた場合(図中右側)には、亀裂の伝播などが生じ加工後には加工変質層があるウェハ100´となってしまう。
【0040】
このように、本実施形態の半導体結晶ウェハであるSiCウェハの研削加工方法によれば、従来忌み嫌われていた塑性変形をウェハ表面の塑性変形メカニズムとして管理することで、より高い研削精度を実現することができる半導体結晶ウェハの研削加工方法を実際に提供することができる。
【0041】
なお、本実施形態のSiCウェハの研削加工方法によれば、研削加工後のウェハ100は、平坦度の高い鏡面仕上げとなっているため、
図6に示すように、ウェハ100の鏡面同士を結晶結合(鏡面研磨された金属表面の強固な密着)により延長させることができる。
【0042】
ここで、かかる結晶結合(鏡面研磨された金属表面の強固な密着)は、ウェハ100に限定されるものではないため、結晶成長性が低く長尺のSiCインゴットを得ることが困難な場合に、SiCインゴットに対して、その端面を上記研削加工方法により、鏡面に研削加工することで、鏡面に研削加工されたSiCインゴットの端面同士を結合させて延長させることができる。
【0043】
そして、このようにして得られたSiC延長インゴットに対して、STEP100~STEP130の上記一連の加工処理を施すことで、平坦度の高い鏡面仕上げを一回的に実現したSiCウェハを得ることができる。
【0044】
なお、SiCインゴットの端面同士を結合させて延長させるに際しては、単体のSiCインゴットに、その側面を切り欠いたノッチを形成し、結合に際して、ノッチを合わせた状態で、鏡面に研削加工された端面同士を結合させて延長させることが好ましい。
【0045】
これにより、結合させたSiCインゴットの外径を揃えることができ、中心軸線にずれが無く外径寸法が揃ったSiC延長インゴットを得ることができる。
【0046】
また、本実施形態は、SiCウェハの研削加工方法として、SiCインゴットからSiCウェハを製造する場合について説明したが、半導体結晶は、SiCに限定されるものはなく、ガリヒソ、インジュウムリン、シリコン、その他の化合物半導体であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
50…メカニカルポリッシュ装置(超高合成高精度研削加工装置)、51…スピンドル(ウェハ支持台)、52…プラテン(研削定盤)、53…ダイアモンド研磨砥粒、54…真空ポーラスチャック(吸着プレート)、100…SiCウェハ(半導体結晶ウェハ)、110…一面、120…他面。
【要約】
【課題】本発明は、従来忌み嫌われていた塑性変形をウェハ表面の塑性変形メカニズムとして管理することで、より高い研削精度を実現することができる半導体結晶ウェハの研削加工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】SiCウェハ100の研削加工方法では、(1)研削加工するダイアモンド研磨砥粒(ダイアモンド砥石)53の粒径と、(2)ウェハ100をスピンドル51を介してプラテン52に押圧する押圧力と、(3)スピンドル51のプラテン52に対する進行速度とから、ウェハ100のプラテン52(研削定盤)側の表面に、プラテン52との間でダイアモンド研磨砥粒53が介在する摩擦に起因する温度上昇により塑性変形領域100Aを形成する。
【選択図】
図4