(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】スパッタ付着防止装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/32 20060101AFI20230526BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
B23K9/32 E
B23K31/00 M
(21)【出願番号】P 2019028380
(22)【出願日】2019-02-20
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】500213915
【氏名又は名称】株式会社ワイテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿谷 直紀
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-202480(JP,A)
【文献】特開平05-237667(JP,A)
【文献】特開2013-006192(JP,A)
【文献】特開2010-089114(JP,A)
【文献】米国特許第06303893(US,B1)
【文献】実開昭60-015480(JP,U)
【文献】実開平04-118290(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 - 11/36
B23K 9/00、9/007 - 9/013、9/04、9/14 - 10/02
B23K 31/00 - 31/02、31/10 - 33/00、37/00 - 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナットが取り付けられた鋼板部材の溶接時に飛散するスパッタが前記ナットの内周面に付着するのを防止するスパッタ付着防止装置において、
前記ナットのネジ孔に
前記鋼板部材側から挿入されて該ネジ孔の内周面を覆うように形成された挿入部を先端側に有するとともに、該挿入部よりも基端側に、前記ナットの前記ネジ孔の周縁部に対して前記挿入部の挿入方向から係合する係合部を有するピン状部材と、
前記ピン状部材が取り付けられる本体部と、
前記ピン状部材に連結され、該ピン状部材を前記ネジ孔への挿入方向へ進出させる駆動装置と、
前記駆動装置による前記ピン状部材の前記ネジ孔への進出方向のストローク量を検出するストローク量検出部と、
前記ストローク量検出部により検出されたストローク量が、前記係合部が前記ネジ孔の周縁部に係合したときの所定ストローク量であるときには前記ナットが存在していると判定する一方、前記所定ストローク量を超えるストローク量であるときには前記ナットが存在していないと判定する判定部とを備え
、
前記本体部は、前記ピン状部材の軸方向に延びる筒状部を有し、前記ピン状部材の基端側は、前記筒状部に挿入され、
前記ピン状部材は、前記筒状部に対して軸方向に変位可能に支持され、
前記筒状部の径方向内側には、前記鋼板部材における前記ナットが取り付けられた面と反対側の面を覆う被覆部材が前記ピン状部材に対して軸方向基端側に移動可能に設けられ、
前記筒状部の内部には、前記被覆部材を前記ピン状部材の先端側へ向けて付勢する弾性部材が収容され、
前記駆動装置は、流体が給排されるシリンダと、該シリンダに対して軸方向に移動可能に設けられ、前記流体の給排によって軸方向に移動するロッドとを備えた流体圧シリンダ装置であり、
前記ロッドの先端部には、前記筒状部を介して前記ピン状部材が連結され、
前記ストローク量検出部は、前記ロッドのストローク量を検出することを特徴とするスパッタ付着防止装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のスパッタ付着防止装置において、
前記ストローク量検出部は、前記ロッドの基端部の位置を検出する近接センサであることを特徴とするスパッタ付着防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接作業中に周囲に飛散するスパッタが溶接箇所以外の部分であるナットの内面に付着するのを防止するスパッタ付着防止装置の技術分野に属し、特に、ナットの有無も検出可能な構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鋼板部品上に部品が存在しているか否かを検知する部品検知機能を持った電気抵抗溶接用電極が知られている(例えば特許文献1、2参照)。この電極の内部には、進退動作可能なスイッチング部材が進出方向に常時付勢された状態で配設されている。また、鋼板部品上に供給されている部品に突き当たる検知部材が電極から突出した状態でスイッチング部材と一体に形成されている。部品が存在しているときには、電極が進出して検知部材が部品に突き当たるとスイッチング部材が後退して通電部位が開く一方、部品が存在していないときには、電極が進出して検知部材が他方の電極の受入孔に進入するとスイッチング部材の進出によって通電部位が閉じるように構成されている。これによって得られた信号により部品の検知が行われ、これをトリガー信号にして溶接電流の制御が行われる。
【0003】
また、一般に、鋼材等からなる部材を溶接する際には、スパッタが溶接箇所の周囲に飛散して溶接箇所以外の部分に付着する。例えば、ネジ孔を有する部材(ナット等)を溶接する際には、スパッタがネジ孔の内面に付着することがある。こうなるとネジの螺合不良が起こってしまうので、溶接工程の後、ネジ孔の内面に付着したスパッタを除去するためにネジさらいを行う必要がある。
【0004】
また、例えば特許文献3に開示されているように、スパッタが被溶接部材に付着するのを防止するためのスパッタ付着防止シートが知られている。このスパッタ付着防止シートは、弾性を有する樹脂からなるものであり、被溶接部材の表面に貼り付けて使用する。
【0005】
また、特許文献4では、ナットを上から押さえることによってスパッタがナットに付着し難くしている。
【0006】
さらに、溶接現場においては、例えば金属板からなるカバーや耐スパッタ用布等を、被溶接部材の表面を覆うように配置してスパッタの付着を防止することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-253547号公報
【文献】特開2010-247221号公報
【文献】特開2014-24114号公報
【文献】特開平5-8039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1、2の電気抵抗溶接用電極によれば、例えばナットを鋼板部品に溶接する際には、ナットの存在、不存在を検知することができるので、ナットが溶接されないまま、鋼板部品が後工程に流れてしまうのを防止することが可能になると考えられる。
【0009】
しかしながら、ナットの溶接工程後、例えば組立工程がある場合、組立工程が行われる場所まで鋼板部品を搬送しているときにナットが欠落してしまうことが起こり得る。ナットが欠落した鋼板部品は例えば車体等に組み付けることができなくなるので、ナットの溶接工程後においても、当該ナットの有無の検査が必須となる場合がある。
【0010】
そこで、溶接工程後におけるナットの有無を検査するための検査員を配置したり、ナットの検査設備を準備することが考えられるが、検査工程が新たに必要となったり、製造ラインに検査設備を新たに取り付ける追加工事が必要となったりして、コストの増大を招く。
【0011】
一方、特許文献3、4のように、ナットが溶接された鋼板部品を溶接することがあり、この場合には、ナットの内周面にスパッタが付着するのを防止するための器具が必要になる。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ナットの内周面にスパッタが付着するのを防止するための部材を利用することで、工程や検査設備を増やすことなく、ナットの有無を検知できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、第1の発明は、ナットが取り付けられた鋼板部材の溶接時に飛散するスパッタが前記ナットの内周面に付着するのを防止するスパッタ付着防止装置において、前記ナットのネジ孔に前記鋼板部材側から挿入されて該ネジ孔の内周面を覆うように形成された挿入部を先端側に有するとともに、該挿入部よりも基端側に、前記ナットの前記ネジ孔の周縁部に対して前記挿入部の挿入方向から係合する係合部を有するピン状部材と、前記ピン状部材が取り付けられる本体部と、前記ピン状部材に連結され、該ピン状部材を前記ネジ孔への挿入方向へ進出させる駆動装置と、前記駆動装置による前記ピン状部材の前記ネジ孔への進出方向のストローク量を検出するストローク量検出部と、前記ストローク量検出部により検出されたストローク量が、前記係合部が前記ネジ孔の周縁部に係合したときの所定ストローク量であるときには前記ナットが存在していると判定する一方、前記所定ストローク量を超えるストローク量であるときには前記ナットが存在していないと判定する判定部とを備え、前記本体部は、前記ピン状部材の軸方向に延びる筒状部を有し、前記ピン状部材の基端側は、前記筒状部に挿入され、前記ピン状部材は、前記筒状部に対して軸方向に変位可能に支持され、前記筒状部の径方向内側には、前記鋼板部材における前記ナットが取り付けられた面と反対側の面を覆う被覆部材が前記ピン状部材に対して軸方向基端側に移動可能に設けられ、前記筒状部の内部には、前記被覆部材を前記ピン状部材の先端側へ向けて付勢する弾性部材が収容され、前記駆動装置は、流体が給排されるシリンダと、該シリンダに対して軸方向に移動可能に設けられ、前記流体の給排によって軸方向に移動するロッドとを備えた流体圧シリンダ装置であり、前記ロッドの先端部には、前記筒状部を介して前記ピン状部材が連結され、前記ストローク量検出部は、前記ロッドのストローク量を検出することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、駆動装置によりピン状部材を進出させると、ピン状部材の挿入部が鋼板部材に取り付けられているナットのネジ孔に挿入されて該ネジ孔の内周面が挿入部によって覆われる。これにより、溶接時のスパッタがネジ孔の内周面に付着し難くなる。
【0015】
鋼板部材にナットが取り付けられているときに駆動装置によってピン状部材を進出させると、挿入部がナットのネジ孔に挿入され、挿入部よりも基端側に設けられている係合部がネジ孔の周縁部に係合するので、駆動装置によるピン状部材のストローク量がナットにより規制されて所定ストローク量になる。このストローク量がストローク量検出部により検出されると、判定部はナットが存在していると判定する。
【0016】
一方、鋼板部材からナットが欠落しているときに駆動装置によってピン状部材を進出させると、係合部がネジ孔の周縁部に係合することはないので、駆動装置によるピン状部材のストローク量がナットにより規制されることはなく、所定ストローク量を超えるストローク量になる。これにより、判定部はナットが存在していないと判定する。
【0017】
したがって、例えばナットを鋼板部材に溶接した後、組立工程で鋼板部材を溶接する際には、スパッタ付着防止装置によってネジ孔の内周面にスパッタが付着するのが抑制されるとともに、ナットが欠落していた場合にはナットの欠落をスパッタ付着防止装置によって検知することが可能になるので、ナットの有無を検査する検査員の配置や検査設備の導入が不要になる。
【0018】
また、鋼板部材の形状や構造に応じてピン状部材と本体部の相対位置を変更することが可能になる。
【0019】
また、使用時にピン状部材を軸方向に変位させた後、外力を除くと元の位置にピン状部材を自動的に戻すことが可能になる。
【0020】
また、前記ピン状部材の突出方向と交差する方向に延びる面を有し、前記鋼板部材に接触させて該鋼板部材を覆う被覆部材を備えていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、被覆部材を例えば鋼板部材の締結面に接触させることで締結面を覆うことが可能になる。これにより、溶接時のスパッタが締結面に付着し難くなる。
【0022】
また、シリンダに給排される流体によってロッドを進出させると、ピン状部材が進出することになるので、ロッドのストローク量と、ピン状部材のネジ孔への進出方向のストローク量とは相関する。従って、ストローク量検出部がロッドのストローク量を検出すると、間接的にロッドのストローク量を検出することが可能になる。
【0023】
第2の発明は、前記ストローク量検出部は、前記ロッドの基端部の位置を検出する近接センサであることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、近接センサによってロッドのストローク量を確実に検出することが可能になる。
【発明の効果】
【0025】
第1の発明によれば、ナットの内周面にスパッタが付着するのを防止するための挿入部を有するピン状部材と、このピン状部材を進出させる駆動装置とを利用し、ピン状部材のストローク量を検出してナットの有無を判定することができるので、検査工程や検査設備を増やすことなく、スパッタ付着防止装置によってナットの有無を検知できる。
【0026】
また、ピン状部材を軸方向に変位可能に支持したので、鋼板部材の形状や構造に応じてピン状部材と本体部との相対位置を変更することができ、スパッタ付着防止装置の汎用性を高めることができる。
【0027】
また、弾性部材によってピン状部材を付勢するようにしたので、使用時にピン状部材を軸方向に変位させた後、元の位置にピン状部材を自動的に戻すことができる。
【0028】
また、鋼板部材を覆う被覆部材を備えているので、例えば締結面にスパッタが付着するのを防止することができる。
【0029】
また、流体圧シリンダ装置を駆動装置として使用する場合に、ロッドのストローク量を検出することでピン状部材のストローク量を容易に取得することができる。
【0030】
第2の発明によれば、ロッドの基端部の位置を検出する近接センサによってピン状部材のストローク量を容易にかつ確実に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態に係るスパッタ付着防止装置の斜視図である。
【
図5】ピン状部材が一方向に傾動した場合を示す
図4相当図である。
【
図6】ピン状部材が他方向に傾動した場合を示す
図4相当図である。
【
図8】ナットが存在しているときのスパッタ付着防止装置の断面図である。
【
図9】ナットが存在していないときのスパッタ付着防止装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0033】
図1は、本発明の実施形態に係るスパッタ付着防止装置1の斜視図である。スパッタ付着防止装置1は、
図7に示す自動車部品100に設けられているネジ孔102を有する部材としてのナット101における当該ネジ孔102の内面(部材の所定箇所)に、溶接時に飛散するスパッタが付着するのを防止するとともに、第1板材103の締結面(部材の所定箇所)にスパッタが付着するのを防止するために使用することができるものである。締結面とは、各種部材を締結する際に、当該部材が接触する面である。尚、スパッタ付着防止装置1は、ネジ孔101の内面にスパッタが付着しないように使用する使用方法と、締結面にスパッタが付着しないように使用する使用方法とのうち、一方の使用方法でのみ使用してもよいし、両方の使用方法で使用してもよい。
【0034】
図7に示す自動車部品100は、自動車のサスペンション装置の一部を構成する部品である。この部品100は、ナット101、第1板材103、第2板材104及び第3板材105を組み合わせて構成されている。第1板材103、第2板材104及び第3板材105は、それぞれ所定形状となるようにプレス成形された鋼板部材で構成されている。第1板材103と第2板材104とは厚み方向に重ね合わされて溶接される。第2板材104と、第3板材105とによって袋構造が構成されている。第2板材104と、第3板材105との間には隙間Sが形成されている。また、第3板材105には、貫通孔105aが形成されている。溶接時のスパッタは、隙間Sや貫通孔105aから袋構造の内部に入ることがある。
【0035】
また、第2板材104には、ナット101が予め溶接されている。
図8に一部の断面を示すように、第2板材104におけるナット101のネジ孔102に対応する部分には開口部104aが形成されている。また、第1板材103におけるナット101のネジ孔102に対応する部分には開口部103aが形成されている。第1板材103における第2板材104と反対側の面の開口部103aの周囲は、締結面103bとされている。詳細は後述するが、スパッタ付着防止装置1は、ナット101が第2板材104に取り付けられているか否か、即ち、ナット101が存在しているか否かを判定することができるように構成されている。
【0036】
(スパッタ付着防止装置1の構成)
図1に示すように、スパッタ付着防止装置1は、スパッタ付着防止具2と、流体圧シリンダ装置3と、判定部4とを備えている。
図3及び
図4に示すように、スパッタ付着防止具2は、ピン状部材10と、被覆部材20と、本体部30と、コイルバネからなる第1弾性部材40及び第2弾性部材50とを備えており、スパッタ付着防止具2を構成する各部材は、例えば金属材料等の耐熱性の高い材料で構成することができる。
【0037】
図8に示すように、ピン状部材10は、ナット101のネジ孔102に挿入される部材である。ピン状部材10の先端側は、ナット101のネジ孔102に挿入されて該ネジ孔102の内周面を覆うように形成された挿入部11を有している。挿入部11は、当該挿入部11の基端から先端まで同一外径となっている。
図4に示すように、挿入部11における軸方向先端部には、先端へ近づくほど外径が小さくなるように形成された先鋭形状部15が設けられている。ピン状部材10の先鋭形状部15は、挿入部11をナット101のネジ孔102に挿入する際の案内部となる。
図8に示すように、挿入部11がナット101のネジ孔102に挿入された状態では、先鋭形状部15がネジ孔102から突出するように位置する。
【0038】
ピン状部材10の挿入部11よりも基端側は、ナット101のネジ孔102の周縁部に対して挿入部11の挿入方向から係合する係合部12を有している。係合部12は、挿入部11の外径よりも大径に形成されており、係合部12の外径は、ナット101のネジ孔102の内径よりも大きく設定されている。ピン状部材10における係合部12よりも基端側の外径は挿入部11の外径よりも大きく設定されている。つまり、ピン状部材10における小径部と大径部の境界部分が係合部12となっている。この場合、係合部12は段部で構成することができる。係合部12は、例えばピン状部材10の径方向に突出する凸部や突条部、リブ等で構成されていてもよい。
【0039】
図4に示すように、ピン状部材10の基端部には、径方向に延出する基端板部13が設けられている。基端板部13は、ピン状部材10の周方向に連続して設けられており、ピン状部材10の軸線方向から見たとき、略円板状をなしている。ピン状部材10の基端面には、第2弾性部材50の軸方向(伸縮方向)の一端部が収容される凹部14が形成されている。凹部14の内径は、第2弾性部材50の一端部の外径よりも僅かに大きく設定されており、第2弾性部材50の一端部を凹部14に収容した状態で、第2弾性部材50の一端部がピン状部材10に対して径方向に相対変位しないようになっている。つまり、第2弾性部材50をピン状部材10に係合させることができる。
【0040】
被覆部材20は、ピン状部材10の突出方向、即ち当該ピン状部材10の軸方向に対して交差する方向に延びる先端面21を有しており、この先端面21を第1板材103の締結面103bに接触させて該締結面103bを覆うための部材である。被覆部材20の先端面21は、平面で構成されている。被覆部材20は円筒状の部材からなるものなので、先端面21の中心部にはピン状部材10を挿入可能な開口部が形成されることになる。
【0041】
被覆部材20の内径は、ピン状部材10の基端側の外径よりも大きく、かつ、基端板部13の外径よりも小さく設定されている。被覆部材20の内周面と、ピン状部材10の基端側の外周面との間には全周に亘って隙間Aが形成されており、これにより、ピン状部材10が被覆部材20に対して傾動すること、被覆部材20がピン状部材10に対して傾動すること、及び、ピン状部材10が被覆部材20に対して径方向に変位することが許容される。
【0042】
被覆部材20の基端面には、窪み部22が形成されている。窪み部22には、第1弾性部材40の軸方向(伸縮方向)一端部が収容されるようになっている。窪み部22の内径は、第1弾性部材40の一端部の外径よりも僅かに大きく設定されており、第1弾性部材40の一端部を窪み部22に収容した状態で、第1弾性部材40の一端部が被覆部材20に対して径方向に相対変位しないようになっている。つまり、第1弾性部材40が被覆部材20に係合するようになっている。また、窪み部22の内面の中心部には、ピン状部材10の挿入可能な開口部が形成されることになる。
【0043】
被覆部材20の基端部には、径方向へ突出する鍔部23が形成されている。鍔部23は、被覆部材20の周方向に連続して延びる突条部で構成することができるが、これに限らず、周方向に断続的に形成してもよい。
【0044】
本体部30は、ピン状部材10及び被覆部材20が取り付けられる部材であり、ピン状部材10の軸方向に延びる筒状部31と、取付部32と、固定ピン33とを有している。筒状部31の内周面と、ピン状部材10の基端側の外周面との間には隙間が形成されている。筒状部31の先端部には、径方向内方へ突出する係合突部34が形成されている。係合突部34は、筒状部31の周方向に連続して延びる突条部で構成することができる。係合突部34の内側に、ピン状部材10の基端側及び被覆部材20の基端側を挿入することができるようになっている。ピン状部材10及び被覆部材20を筒状部31に挿入する際には、当該筒状部31の基端側から挿入する。これにより、被覆部材20の鍔部23が筒状部31の係合突部34に対して基端側から係合して被覆部材20の筒状部31からの離脱が抑制される。尚、被覆部材20は、
図4に示す状態から筒状部31の基端側へ相対変位することが可能になっている。
【0045】
筒状部31の内周面には、係合突部34から基端側に離れた部分に段部31aが形成されている。筒状部31の内部には、円盤部材35が設けられており、この円盤部材35は、筒状部31の段部31aに対して基端側から係合して先端側へ移動しないようになっている。円盤部材35の中央部には、ピン状部材10の基端側が挿通可能な挿通孔35aが形成されている。挿通孔35aの内径は、ピン状部材10の基端側の外径よりも大きく、かつ、基端板部13の外径よりも小さく設定されている。基端板部13は、円盤部材35の基端側の面に接触するように配置されている。挿通孔35aの外周面と、ピン状部材10の基端側の外周面との間には隙間Bが形成されている。これにより、ピン状部材10が本体部30に対してその径方向に変位することが許容される。
【0046】
取付部32は、スパッタ付着防止具2を流体圧シリンダ装置3に取り付けるための部材であり、筒状部31を構成する部材とは別部材からなるものである。取付部32の先端側は、筒状部31の基端側にねじ込まれるようになっている。取付部32の先端側を筒状部31の基端側にねじ込んだ状態で、固定ピン33を、取付部32の先端側及び筒状部31の基端側を貫通するように取り付けることで、取付部32が筒状部31に対して緩み方向に回転してしまうのを阻止することができる。尚、ねじ加工されていない取付部32の先端側と筒状部31の基端側とを嵌め合わせて、固定ピン33や割りピンで固定することもできる。
【0047】
取付部32の先端面の外周部には、円盤部材35に向けて突出して周方向に延びる周壁部32aが形成されている。周壁部32aの突出方向先端部が円盤部材35の基端側の面に当接することで、円盤部材35を基端側から支持し、当該円盤部材35の軸方向の変位を規制することができる。周壁部32aの内周面と、ピン状部材10の基端板部13の外周面との間には、隙間Cが形成されている。これにより、ピン状部材10が本体部30に対してその径方向に変位することが許容される。また、取付部32の先端面と、ピン状部材10の基端板部13の基端側の面との間には隙間Dが形成されている。これにより、ピン状部材10が本体部30に対してその軸方向に変位することが許容される。
【0048】
第1弾性部材40は、被覆部材20と円盤部材35との間に設けられており、軸方向に伸縮可能となっている。第1弾性部材40の内部をピン状部材10の基端側が挿通している。第1弾性部材40の一端部は、被覆部材20の窪み部22に収容される一方、第1弾性部材40の他端部は、円盤部材35に形成された凹部35bに収容されている。凹部35bの内径は、第1弾性部材40の他端部の外径よりも僅かに大きく設定されており、第1弾性部材40の他端部を凹部35bに収容した状態で、第1弾性部材40の他端部が円盤部材35に対して径方向に相対変位しないようになっている。
【0049】
被覆部材20は、第1弾性部材40によって先端側へ向けて常時付勢されている。被覆部材20に対して基端側へ向けて力が作用した際、その力が第1弾性部材40の付勢力よりも大きくなると、被覆部材20は、第1弾性部材40の付勢力に抗して基端側へ変位する。
【0050】
第2弾性部材50は、ピン状部材10の基端側と、取付部32との間に設けられており、軸方向に伸縮可能となっている。これにより、ピン状部材10が本体部30に対して軸方向に変位可能に支持されることになる。第2弾性部材50の一端部は、ピン状部材10の凹部14に収容される一方、第2弾性部材50の他端部は、取付部32に形成された凹部32bに収容されている。凹部32bの内径は、第2弾性部材50の他端部の外径よりも僅かに大きく設定されており、第2弾性部材50の他端部を凹部32bに収容した状態で、第2弾性部材50の他端部が取付部32に対して径方向に相対変位しないようになっている。
【0051】
第1弾性部材40及び第2弾性部材50を設けているので、
図5及び
図6に示すように、ピン状部材10を本体部30に対して傾動させることができるとともに、被覆部材20も本体部30に対して傾動させることができる。これにより、ナット101の偏心や偏角にも対応することができる。また、ピン状部材10と被覆部材20とは別々に変位させることができる。
【0052】
ピン状部材10は、第2弾性部材50によって先端側へ向けて常時付勢されている。ピン状部材10に対して基端側へ向けて力が作用した際、その力が第2弾性部材50の付勢力よりも大きくなると、ピン状部材10は、第2弾性部材50の付勢力に抗して基端側へ変位する。
【0053】
流体圧シリンダ装置3は、ピン状部材10をナット101のネジ孔102への挿入方向へ進出させるための装置であり、例えば空気圧シリンダ装置や油圧シリンダ装置等で構成することができる。すなわち、流体圧シリンダ装置3は、流体(作動流体)が給排されるシリンダ3aと、該シリンダ3aに対して軸方向に移動可能に設けられ、流体の給排によって軸方向に移動するロッド3bとを備えている。
図1に示すように、シリンダ3aには、流体を給排するための配管3cが接続されている。配管3cには、図示しない給排装置が接続されており、この給排装置から所定のタイミングで流体の供給、排出がなされるようになっている。
【0054】
ロッド3bの先端部には、取付部32が固定されており、これにより、ロッド3bの先端部にピン状部材10が、取付部32や筒状部31を介して連結されることになる。一方、ロッド3bの基端部にはピストン部3dが設けられている。このピストン部3dが主に流体の圧力を受ける部分である。したがって、流体の給排によってロッド3bが進出すると、ピン状部材10を進出させることができ、一方、流体の給排によってロッド3bが後退すると、ピン状部材10を後退させることができる。
【0055】
流体圧シリンダ装置3は、例えば産業用ロボット(図示せず)に把持させることができる。流体圧シリンダ装置3を産業用ロボットに把持させることで、スパッタ付着防止具2を任意の所に移動させることができる。例えば、
図7に示すように、スパッタ付着防止具2を自動車部品100の近傍においてピン状部材10の先端部がナット101のネジ孔102に対応するように配置することができる。このように配置した後、流体圧シリンダ装置3によってスパッタ付着防止具2の全体を矢印F方向に進出させることで、ピン状部材10をナット101のネジ孔102に挿入することができる。また、これとは別に、流体圧シリンダ装置3を固定しておき、産業用ロボットで自動車部品100を移動させるようにしてもよい。
【0056】
この実施形態では、流体圧シリンダ装置3によるピン状部材10のネジ孔102への進出方向のストローク量を検出するストローク量検出部としての第1近接センサ71及び第2近接センサ72が設けられている。第1近接センサ71及び第2近接センサ72は、シリンダ3aに設けられている。第1近接センサ71は、第2近接センサ72よりもシリンダ3aの先端側(ロッド3bの進出側)に位置している。第1近接センサ71及び第2近接センサ72は、ロッド3bのピストン部3dの位置を間接的に検出することができるものであり、例えば、ピストン部3dが磁性体からなる場合に、ピストン部3dの進退方向への移動によって変化する磁力を第1近接センサ71及び第2近接センサ72によって検出可能に構成することができる。これにより、ピストン部3dが第1近接センサ71近傍に位置しているか否か、及びピストン部3dが第2近接センサ72近傍に位置しているか否かを検出することができる。ピストン部3dの位置は、ロッド3bのストローク量であり、第1近接センサ71及び第2近接センサ72によってロッド3bのストローク量を検出することができる。また、ロッド3bのストローク量は、ピン状部材10のネジ孔102への進出方向のストローク量と相関しているので、ピン状部材10のネジ孔102への進出方向のストローク量を第1近接センサ71及び第2近接センサ72によって検出することができる。
【0057】
図8に示すように、第1近接センサ71は、ピン状部材10の係合部12がネジ孔102の周縁部に係合したときのピン状部材10のストローク量を検出可能に配置されている。ナット101が存在していれば、ピン状部材10の係合部12がネジ孔102の周縁部に対して挿入方向から当接して係合し、ピン状部材10がそれ以上挿入方向には移動しなくなる。このときのピン状部材10のストローク量が所定ストローク量であり、ピン状部材10のストローク量が所定ストローク量であるときのピストン部3dの位置を検出可能に、第1近接センサ71の位置が設定されている。
【0058】
一方、ナット101が存在していない場合には、ピン状部材10の係合部12が係合しなくなるので、ピン状部材10は所定ストローク量を超えてストロークすることになる。ピン状部材10が所定ストローク量を超えると、ピストン部3dが第1近接センサ71の検出範囲を超えることになる。
【0059】
第2近接センサ72は、ピン状部材10が後退位置にあるときのピストン部3dの位置を検出可能に配置されている。
【0060】
尚、例えば、ロッド3bの位置や、ロッド3bの進退によって移動する部材の位置を検出する位置検出センサを設けておき、この位置検出センサにより、ピン状部材10のネジ孔102への進出方向のストローク量を検出するようにしてもよい。この場合、例えば、リミットスイッチ等を用いることができる。また、エンコーダ等によってストローク量検出部を構成することもできる。
【0061】
判定部4は、ストローク量検出部により検出されたストローク量が、係合部12がネジ孔102の周縁部に係合したときの所定ストローク量であるときにはナット101が存在していると判定する一方、前記所定ストローク量を超えるストローク量であるときにはナット101が存在していないと判定するように構成されている。すなわち、判定部4は、例えばマイクロコンピュータ等からなるものであり、判定部4には、第1近接センサ71及び第2近接センサ72の信号線が接続され、第1近接センサ71及び第2近接センサ72の検出結果が入力されるようになっている。
【0062】
流体圧シリンダ装置3がピン状部材10を進出させた後、第1近接センサ71が所定時間以上、連続してピストン部3dを検出した信号を出力した場合には、判定部4は、ピン状部材10のストローク量が所定ストローク量であると推定し、この推定結果に基づいてナット101が存在していると判定する。流体圧シリンダ装置3がピン状部材10を進出させたタイミングは、例えば、流体圧シリンダ装置3の制御装置(図示せず)から取得することができる他、第2近接センサ72がピストン部3dを検出した状態から検出しない状態に切り替わったタイミングに基づいて取得することもできる。所定時間とは、ピン状部材10が停止したことを検出可能な時間とすることができる。
【0063】
判定部4には、報知機器200を接続することができる。報知機器200は、ナット101が存在しないことを周囲の者に報知するための機器であり、例えば各種ランプ、ブザー、シーケンサ、コンピュータ等を挙げることができる。判定部4は、ナット101が存在しないと判定した場合には、報知機器200に対してナット101が存在しないことを示す信号を出力する。報知機器200は、この信号を受信すると、ナット101が存在しないことを周囲の者に報知する。報知機器200は省略してもよい。
【0064】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態に係るスパッタ付着防止装置1によれば、流体圧シリンダ装置3によりピン状部材10を進出させると、ピン状部材10の挿入部11が自動車部品100の第2板材104に予め溶接によって取り付けられているナット101のネジ孔102に挿入されて該ネジ孔102の内周面が挿入部11によって覆われる。これにより、溶接時のスパッタがネジ孔102の内周面に付着し難くなる。また、流体圧シリンダ装置3により被覆部材20を進出させることができ、被覆部材20の先端面21を第1板材103の締結面103bに接触させて該締結面103bを覆うことができる。これにより、溶接時のスパッタが締結面103bに付着し難くなる。
【0065】
また、第2板材104にナット101が取り付けられているときにスパッタ付着防止装置1によってピン状部材10を進出させると、挿入部11がナット101のネジ孔102に挿入され、挿入部11よりも基端側に設けられている係合部12がネジ孔102の周縁部に係合することになる(
図8参照)。これにより、流体圧シリンダ装置3によるピン状部材10のストローク量がナット101により規制されて所定ストローク量になる。このストローク量が第1近接センサ71により検出されると、判定部4はナット101が存在していると判定する。
【0066】
一方、第2板材104からナット101が欠落している場合が考えられる。例えば、ナット101を第2板材104に溶接した後、組立工程を別の場所で行う場合には、自動車部品100を、組立工程を行う場所まで搬送する必要があるが、この搬送の途中等でナット101が欠落するおそれがある。こうなると自動車部品100を車体等に組み付けることができなくなる。従って、ナット101の溶接工程後において、ナット101の有無の検査が必須となることがあり、スパッタ付着防止装置1はこの検査時に利用することができる。
【0067】
第2板材104からナット101が欠落している場合、流体圧シリンダ装置3によってピン状部材10を進出させると、係合部12がネジ孔102の周縁部に係合することはないので、流体圧シリンダ装置3によるピン状部材10のストローク量がナット101により規制されることはなく、所定ストローク量を超えるストローク量になる。これは、第1近接センサ71の出力信号に基づいて推定することができ、これにより、判定部4はナット101が存在していないと判定することができる。
【0068】
したがって、スパッタ付着防止装置1を用いることで、ネジ孔102の内周面にスパッタが付着するのを抑制することができるとともに、ナット101が欠落していた場合にはナット101の欠落を検知することができるので、ナット101の有無を検査する検査員の配置や検査設備の導入が不要になり、低コスト化を図ることができる。
【0069】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上説明したように、本発明に係るスパッタ付着防止装置は、例えばナット付き自動車部品を車体に溶接するときに利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 スパッタ付着防止装置
3 流体圧シリンダ装置(駆動装置)
3a シリンダ
3b ロッド
4 判定部
10 ピン状部材
11 挿入部
12 係合部
30 本体部
31 筒状部
40 第1弾性部材
50 第2弾性部材
71 第1近接センサ(ストローク量検出部)
101 ナット
102 ネジ孔
103 第1板材
103b 締結面