IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人梅村学園の特許一覧

特許7285546改質籾殻炭、その製造方法および当該改質籾殻炭を用いた吸着剤
<>
  • 特許-改質籾殻炭、その製造方法および当該改質籾殻炭を用いた吸着剤 図1
  • 特許-改質籾殻炭、その製造方法および当該改質籾殻炭を用いた吸着剤 図2
  • 特許-改質籾殻炭、その製造方法および当該改質籾殻炭を用いた吸着剤 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】改質籾殻炭、その製造方法および当該改質籾殻炭を用いた吸着剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/20 20060101AFI20230526BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230526BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230526BHJP
   C01B 32/00 20170101ALI20230526BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20230526BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
B01J20/20 A
B01J20/28 Z
B01J20/30
C01B32/00
C01B32/05
G21F9/12 501A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019045077
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020093969
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2018226601
(32)【優先日】2018-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502178001
【氏名又は名称】学校法人梅村学園
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100224605
【弁理士】
【氏名又は名称】畠中 省伍
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】野浪 亨
(72)【発明者】
【氏名】柴田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】小柳 亮樹
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-135140(JP,A)
【文献】特開2013-117524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
G21F 9/12
B01J 20/30
B01J 20/28
B01J 20/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質籾殻炭を含む、セシウムイオンおよびストロンチウムイオンからなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンを吸着するための金属イオン吸着剤であって、
改質籾殻炭が
BET法による比表面積が20m/g以下であり、
JISK1474に従い測定したpHが7.以上であり、かつ、
カルボキシル基、芳香族炭化水素骨格に結合したヒドロキシル基、及びこれらの塩から選択される酸性官能基を有する、金属イオン吸着剤。
【請求項2】
酸性官能基はカルボキシル基および芳香族炭化水素骨格に結合したヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の金属イオン吸着剤。
【請求項3】
1~6個の炭素原子を隔てて存在する2個の酸性官能基を含む、請求項1または2に記載の金属イオン吸着剤。
【請求項4】
酸性官能基がカルボキシル基と芳香族炭化水素骨格に結合したヒドロキシル基とから形成されるエステル構造由来、または酸無水物構造由来である酸性官能基を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属イオン吸着剤。
【請求項5】
改質籾殻炭が
BET法による比表面積が10m/g以下である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の金属イオン吸着剤。
【請求項6】
イネ科イネ属植物由来である、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属イオン吸着剤。
【請求項7】
金属元素の濃度が100ppmとなるように調整した塩化セシウム水溶液100mlおよび塩化ストロンチウム水溶液100mlのそれぞれに粒径250μm以下に粉砕した改質籾殻炭を1.00g添加し、1時間撹拌し、その後フィルターでろ過し、原子吸光光度計を用いてろ液中の金属元素の濃度を測定することで求まるセシウムイオン吸着率及びストロンチウムイオン吸着率がそれぞれ、85.2%以上及び86.2%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属イオン吸着剤。
【請求項8】
改質籾殻炭、JISK1474に従い測定したpHが7.8以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属イオン吸着剤。
【請求項9】
改質籾殻炭が
BET法による比表面積が1.0m /g以上10m /g以下であり、
JISK1474に従い測定したpHが7.4以上10.5以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の金属イオン吸着剤。
【請求項10】
改質籾殻炭を含む、セシウムイオンおよびストロンチウムイオンからなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンを吸着するための金属イオン吸着剤の製造方法であって、
改質籾殻炭が、
籾殻を炭化温度525℃以下で炭化処理して籾殻炭を得る炭化工程、および
籾殻炭を塩基処理する塩基処理工程
を含む方法により得られ、
改質籾殻炭
BET法による比表面積が20m/g以下であり、
JISK1474に従い測定したpHが7.4以上であり、かつ、
カルボキシル基、芳香族炭化水素骨格に結合したヒドロキシル基、及びこれらの塩から選択される酸性官能基を有する、金属イオン吸着剤の製造方法。
【請求項11】
炭化工程における炭化時間は5時間以下である、請求項10に記載の金属イオン吸着剤の製造方法。
【請求項12】
塩基処理工程において、無機塩基水溶液による塩基処理を行う、請求項10または11に記載の金属イオン吸着剤の製造方法。
【請求項13】
塩基処理工程において、塩基処理を室温下で行う、請求項10~12のいずれか一項に記載の金属イオン吸着剤の製造方法。
【請求項14】
改質籾殻炭の、JISK1474に従い測定したpHが7.8以上である、請求項10~13のいずれか一項に記載の金属イオン吸着剤の製造方法。
【請求項15】
改質籾殻炭が
BET法による比表面積が1.0m /g以上10m /g以下であり、
JISK1474に従い測定したpHが7.4以上10.5以下である、請求項10~14のいずれか一項に記載の金属イオン吸着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質籾殻炭、その製造方法および当該改質籾殻炭を用いた吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内だけにおいても年に約800万トンのイネが収穫されるが、その約20重量%は籾殻となり、その大部分は廃棄される。したがって、このような大量に発生する籾殻の有効活用は大きな課題である。
【0003】
近年の研究により、籾殻や籾殻炭はセシウムまたはストロンチウムに対する吸着性能を有することがわかっている(特許文献1および非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-221830号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】小豆川勝見、野川憲夫、松尾基之、もみ殻等を用いる環境水中の放射性セシウムの除染、分析化学、Vol.62,No.6,pp547-554,(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、籾殻炭がセシウムイオンまたはストロンチウムイオンを吸着するメカニズムは十分に解明されておらず、籾殻炭を用いた吸着剤の吸着性能は満足できるレベルにない。籾殻炭を用いた吸着剤の吸着性能の検討は工業的にも学術的にも興味深い。
【0007】
本発明者らは、このような現状に鑑み、吸着性能を向上させる材料を探索すべく研究を行って、本発明を成すに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は次のとおりである。
[項1]
BET法による比表面積が20m/g以下であり、
JISK1474に従い測定した、pHが7.0以上であり、かつ、
酸性官能基を有する、
改質籾殻炭。
[項2]
酸性官能基はカルボキシル基および芳香族炭化水素骨格に結合したヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1つである、項1に記載の籾殻炭。
[項3]
1~6個の炭素原子を隔てて存在する2個の酸性官能基を含む、項1または2のいずれか一項に記載の籾殻炭。
[項4]
酸性官能基がカルボキシル基と芳香族炭化水素骨格に結合したヒドロキシル基とから形成されるエステル構造由来、または酸無水物構造由来である酸性官能基を含む、項1~3のいずれか一項に記載の籾殻炭。
[項5]
BET法による比表面積が10m/g以下である、
項1~4のいずれか一項に記載の改質籾殻炭。
[項6]
イネ科イネ属植物由来である、項1~5のいずれか一項に記載の改質籾殻炭。
[項7]
籾殻を炭化処理して籾殻炭を得る炭化工程、および
籾殻炭を塩基処理する塩基処理工程
を含む、BET法による比表面積が20m/g以下である改質籾殻炭の製造方法。
[項8]
炭化工程における炭化温度は550℃以下である、項7に記載の改質籾殻炭の製造方法。
[項9]
炭化工程における炭化時間は5時間以下である、項7または8に記載の改質籾殻炭の製造方法。
[項10]
塩基処理工程において、無機塩基水溶液による塩基処理を行う、項7~9のいずれか一項に記載の改質籾殻炭の製造方法。
[項11]
塩基処理工程において、塩基処理を室温下で行う、項7~10のいずれか一項に記載の改質籾殻炭の製造方法。
[項12]
項7~11のいずれか一項に記載の製造方法により得られる、改質籾殻炭。
[項13]
項1~6および項12のいずれか一項に記載の改質籾殻炭を含む、吸着剤。
[項14]
セシウムイオンおよびストロンチウムイオンを吸着するための、項13に記載の吸着剤。
[項15]
項13または14に記載の吸着剤を有する吸着装置。
[項16]
項13または14に記載の吸着剤を用いてセシウムイオンまたはストロンチウムイオンを吸着する吸着方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無機イオンに対する吸着性能、例えば、セシウムイオンに対する吸着性能およびストロンチウムイオンに対する吸着性能の、少なくとも一方、好ましくは両方に優れた吸着剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1および2における改質籾殻炭ならびに比較例1における塩基処理前の籾殻炭の細孔容積を示す。
図2】実施例1および2における改質籾殻炭ならびに比較例1における塩基処理前の籾殻炭の細孔比表面積を示す。
図3】実施例1および2における改質籾殻炭ならびに比較例1における塩基処理前の籾殻炭のFT-IRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[改質籾殻炭]
本発明は、一の態様において
BET法による比表面積が20m/g以下であり、
JISK1474に従い測定した籾殻炭のpHが7.0以上であり、かつ、
酸性官能基を有する、改質籾殻炭を提供する。
【0012】
本発明の実施形態に係る改質籾殻炭は、籾殻の少なくとも一部が炭化されて、一般的に籾殻炭として理解されるものであって、上記範囲の比表面積およびpHを有し、酸性官能基を有するように調整された籾殻炭であって、本発明が目的とする改質籾殻炭であれば、特に制限されることはない。
【0013】
このような改質籾殻炭は、無機イオン、中でも陽イオン、特に金属イオンに対する吸着性能、例示的には、セシウムイオンに対する吸着性能およびストロンチウムイオンに対する吸着性能の、少なくとも一方、好ましくは両方に優れる。
【0014】
このような改質籾殻炭の製造方法は、目的とする改質籾殻炭を得られる限り特に制限されることはないが、改質籾殻炭は、下記にて詳細に説明するが、籾殻を炭化工程に供して籾殻炭を得て、得られた籾殻炭を塩基処理工程に供することで得ることができる。
【0015】
(原料の籾殻)
本発明の実施形態に係る改質籾殻炭の原料となる籾殻は、イネ科植物の籾殻であってよい。イネ科植物の例としては、イネ、コムギ、オオムギ、カラスムギ、ライムギ、ハトムギ、キビ、アワ、ヒエ、トウモロコシなどが挙げられる。入手容易性の観点などから、好ましくは、籾殻はイネ科イネ属植物の籾殻である。
【0016】
(比表面積)
本発明の実施形態に係る改質籾殻炭の比表面積は20m/g以下であり、15m/g以下であってよく、例えば10m/g以下であり、特に7.5m/g以下(例えば5.0m/g以下)である。また、本発明の実施形態に係る改質籾殻炭の比表面積は0.5m/g以上であってよく、例えば1.0m/g以上であり、特に1.5m/g以上(例えば2.0m/g以上)である。
【0017】
上記のように本発明の実施形態に係る改質籾殻炭の比表面積は従来の籾殻炭に比べてかなり低い。したがって、本件発明の改質籾殻炭を用いる吸着は従来とは異なるメカニズムによるものであることが示唆される。具体的には、従来の高比表面積の籾殻炭における吸着は主に物理吸着に基づくと推定されるが、本発明における低比表面積の籾殻炭における吸着は主に化学結合、イオン結合などの化学吸着に基づくと推定される。なお、比表面積はBET法を用いる公知の比表面積測定装置により求めることができる。
【0018】
(改質籾殻炭のpH)
本発明の実施形態に係る改質籾殻炭のpHは7.0以上であってよく、例えば7.4以上であり、特に7.8以上(例えば8.0以上(8.1超))である。また、本発明の実施形態に係る改質籾殻炭のpHは12.0以下であってよく、例えば10.5以下であり、特に9.5以下(例えば8.5以下)である。塩基処理未処理の籾殻炭のpHは通常7未満(例えば6.4~6.8)であるので塩基処理により籾殻炭のpHが増大する。なお、籾殻炭のpHとはJISK1474に従い測定したpHである。すなわち粉末試料1.00gに水100mLを加えて静かに沸騰が続くように5分間加熱し、その後室温まで冷却し、水を加えて100mLとし、攪拌後、得られた水懸濁液をpHメータにて測定して得られたpHである。
【0019】
(酸性官能基)
本発明の実施形態に係る改質籾殻炭はその一部(特にその表面)に酸性官能基を有することができる。酸性官能基の例は、カルボキシル基、芳香族炭化水素骨格に結合したヒドロキシル基(例えば、フェノール性ヒドロキシル基)、若しくはこれらの塩などが挙げられるが、目的とする改質籾殻炭が得られる限り限定されない。なお、本明細書において、酸性官能基とは陰イオンの状態、プロトンが乖離していない非イオンの状態および塩の状態を含むものである。
【0020】
本発明の実施形態に係る改質籾殻炭は、吸着性能の観点から、1~6個、好ましくは2~5個、好ましくは2~4個の炭素原子を隔てて存在する2個の酸性官能基を有していてよい。例えば、2個のカルボキシル基が、2または3個の炭素原子を隔てて存在していてもよいし、カルボキシル基とフェノール性ヒドロキシル基が2または3個の炭素原子を隔てて存在していてもよい。
【0021】
酸性官能基は、下記に説明する改質処理、すなわちアルカリ処理が行われる前の籾殻炭が有するエステル構造が加水分解されることにより形成される酸性官能基を含んでいてもよい。当該エステル構造は、環状エステルであってよい。当該環状エステルの環原子の数は、吸着性能の観点から、3~8個であってよく、好ましくは4~7個、より好ましくは5または6個である。
【0022】
酸性官能基が芳香族炭化水素骨格に結合したヒドロキシル基とカルボキシル基とから形成されるエステル構造由来または酸無水物構造由来であってよい。アルカリ処理前の籾殻炭は、芳香族炭化水素骨格に結合したヒドロキシル基とカルボキシル基とから形成されるエステル構造(例えば環状エステル構造)または酸無水物構造を有していてよい。当該構造が加水分解されることにより、2つの酸性官能基(カルボキシル基およびフェノール性ヒドロキシル基、または2つの酸無水物)の両方を形成し得る点で有利である。芳香族炭化水素骨格に結合したヒドロキシル基とカルボキシル基とから形成されるエステル構造、または酸無水物構造が加水分解されて得られる酸性官能基の存在により、アルカリ処理後である改質籾殻炭の陽イオン(特に、セシウムイオン、ストロンチウムイオン等)に対する吸着特性が向上し得る。
【0023】
アルカリ処理前の籾殻炭が有する化学構造として、例えば、ビフェニル骨格の2位と2’位(例えば、フェナントレン骨格の4位と5位)がエステル結合または酸無水物結合を介して繋がった構造;ナフタレン骨格の1位と8位がエステル結合または酸無水物結合を介して繋がった結合;ベンゼン骨格の1位と2位がエステル結合または酸無水物結合を介して繋がった構造等が挙げられる。アルカリ処理後である改質籾殻炭が有する化学構造として、例えば、ビフェニル骨格の2位および2’位(フェナントレン骨格の4位と5位)の一方がヒドロキシル基により置換されてもう一方がカルボキシル基により置換された、もしくはその両方がカルボキシル基に置換された構造;ナフタレン骨格の1位と8位の一方がヒドロキシル基により置換されてもう一方がカルボキシル基により置換された、もしくはその両方がカルボキシル基に置換された構造;ベンゼン骨格の1位と2位の一方がヒドロキシル基により置換されてもう一方がカルボキシル基により置換された、もしくはその両方がカルボキシル基に置換された構造等が挙げられる。
【0024】
改質籾殻炭が有する酸性官能基は、例えば、次式のような化学反応式により生成する。なお、次式における化学構造はあくまで籾殻炭を構成する分子の化学構造の一部を模式的に示すものである。波線は任意の構造が存在してよいことを意味する。
【化1】
【0025】
(酸性官能基の量)
官能基の量は公知の手法により測定でき、例えば酸塩基滴定法(Boehm法)、XPS、FT-IRなどが、用いられる。
【0026】
改質籾殻炭が有する官能基の量は1meq/g以上であってよく、例えば3meq/g以上である。また、改質籾殻炭が有する酸性官能基の量は20meq/g以下であってよく、例えば10meq/g以下である。
【0027】
改質籾殻炭のFT-IR測定における、吸収3300cm-1近傍におけるピーク強度はアルカリ処理前に比べて1.5倍以上であってよく、例えば2.0倍以上である。また、FT-IR測定における吸収3300cm-1におけるピーク強度はアルカリ処理前に比べて10倍以下であってよく、例えば5倍以下、具体的には3倍以下である。ここで、ピーク強度とは、内部標準または外部標準により標準化されたピーク強度を意味する。
【0028】
改質籾殻炭のFT-IR測定における、吸収1700cm-1近傍におけるピーク強度はアルカリ処理前に比べて1.4倍以上であってよく、例えば1.8倍以上である。また、FT-IR測定における吸収3300cm-1におけるピーク強度はアルカリ処理前に比べて10倍以下であってよく、例えば5倍以下である。
【0029】
改質籾殻炭が有する酸性官能基のうち、カルボキシル基の量は、アルカリ処理前に比べて1.5倍以上であってよく、例えば2.0倍以上である。また、カルボキシル基の量は、アルカリ処理前に比べて10倍以下であってよく、例えば5倍以下であってよい。
【0030】
改質籾殻炭が有する酸性官能基のうち、芳香族炭化水素骨格に結合したヒドロキシル基(例えば、フェノール性ヒドロキシル基)の量は、アルカリ処理前に比べて1.5倍以上であってよく、例えば2.0倍以上、好ましくは2.5倍以上である。また、カルボキシル基の量は、アルカリ処理前に比べて10倍以下であってよく、例えば5倍以下であってよい。
【0031】
[籾殻炭の製造方法]
本発明は他の態様において、改質籾殻炭の製造方法を提供し、それは
籾殻を炭化処理して籾殻炭を得る炭化工程、および
籾殻炭を塩基処理する塩基処理工程
を含み、得られる改質籾殻炭のBET法による比表面積が20m/g以下である。上述の改質籾殻はかかる方法で製造することができる。
【0032】
(炭化工程)
本発明の実施形態に係る製造方法は籾殻の炭化工程を有する。炭化工程において、加熱することにより、上述した籾殻を炭化して、籾殻炭を得る。目的とする籾殻炭を得られる限り、加熱方法、加熱装置などは特に限定されない。本明細書において「籾殻炭」とは、籾殻の少なくとも一部が炭化されている炭化物を意味する。
【0033】
炭化工程においては、例えば、耐熱容器内に籾殻を投入して、所定の雰囲気下、一定時間加熱する方法がとられる。耐熱容器は、金属製、セラミック製などであってよいが、限定されない。また、投入される籾殻は、所望に応じて粉砕して所望の粒度としてもよいし、更には、分級してもよい。また、投入される籾殻は予め洗浄および/または乾燥されていてもよい。
【0034】
炭化工程における雰囲気として、酸素を遮断した雰囲気を挙げることができ、具体的には、窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガス雰囲気、植物由来の材料を一種の蒸し焼き状態とする雰囲気、真空雰囲気、大気下密閉雰囲気などを挙げることができる。例えば、大気下において籾殻を密閉容器内で加熱する方法、不活性ガスを供給可能な容器内で加熱する方法などがとられてよい。
【0035】
加熱時の雰囲気の酸素濃度は、22体積%以下であってよく、例えば17.5体積%以下、例示的には15体積%以下である。また、加熱時の雰囲気の酸素濃度は、2.5体積%以上であってよく、例えば5体積%以上、例示的には7.5体積%以上である。吸着性能の観点から、加熱時の雰囲気の酸素濃度が上記範囲であることが好ましい。あるいは、加熱時の雰囲気の酸素濃度は、1.0体積%以下であってもよい。
【0036】
炭化温度は、550℃以下であってよく、例えば525℃以下、好ましくは500℃以下、より好ましくは475℃以下、さらに好ましくは450℃以下、特に425℃以下である。また、炭化温度は、250℃以上であってよく、例えば275℃以上、好ましくは300℃以上、より好ましくは325℃以上、特に350℃以上である。
【0037】
炭化温度に至るまでの昇温速度として、上記の雰囲気下、1゜C/分以上、好ましくは3゜C/分以上、より好ましくは5゜C/分以上を挙げることができる。
【0038】
上記炭化温度における炭化時間は、7.5時間以下であってよく、例えば5時間以下、好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間以下、特に1時間以下である。また、上記炭化温度における炭化時間は、15分以上であってよく、例えば30分以上、好ましくは35分以上、より好ましくは45分以上である。
【0039】
上記範囲の炭化温度および炭化時間とすることで、本発明の実施形態に係る改質籾殻炭を用いた吸着剤としての性能が特に優れる。さらに、従来の方法に比べて、炭化に要するエネルギーが少なくてすむために工業上有利である。
【0040】
所定の炭化時間経過後は、得られた籾殻炭をそのまま放置して、放熱により自然冷却させてもよいし、冷却手段を用いて積極的に冷却してもよい。
【0041】
(塩基処理工程)
本発明の実施形態に係る製造方法は籾殻炭の塩基処理工程を有する。塩基処理工程において、上記の炭化工程によって得られた籾殻炭を、塩基処理に供する。目的とする改質籾殻炭を得られる限り、塩基処理の方法は特に限定されない。
【0042】
塩基処理は、塩基性溶液による塩基処理であってよい。籾殻炭を塩基処理するには、塩基性溶液に籾殻炭を浸漬させればよい。この際、攪拌させながら、浸漬するのが好ましい。
【0043】
塩基性溶液は、塩基性物質(有機塩基または無機塩基)を各種溶媒(有機溶媒または水性溶媒など)に溶解した溶液であり、好ましくは無機塩基水溶液である。塩基性物質の例としては、NaOH、KOH、CaOH、NaHCO3、NaCOなどが挙げられるが、限定されない。
【0044】
塩基性溶液のpHは8以上であってよく、例えば10以上である。吸着特性の観点および塩基処理時間を短縮化する観点から、pHは11以上であってよく、より好ましくは12以上である。強アルカリ処理することにより、吸着物の脱離が起こり難い吸着剤が得られる傾向がある。
【0045】
塩基処理時の温度は、5~100℃であってよく、例えば10~50℃、好ましくは15~45℃(例えば室温)である。
【0046】
塩基処理時間は、360時間以下であってよく、例えば240時間以下である。また、塩基処理時間は、45分以上であってよく、例えば3時間以上、好ましくは6時間以上である。
【0047】
塩基性溶液に添加する籾殻炭の量は、塩基性溶液100重量部に対して、籾殻炭を0.1~50重量部であってよく、例えば0.3~30重量部である。
【0048】
塩基処理工程後、洗浄/乾燥を行い、塩基処理籾殻炭を得る。洗浄は水洗いであってよい。乾燥は公知の乾燥方法であってよく、例えば150℃未満、好ましくは100℃未満で行われる。
【0049】
[吸着剤]
本発明の実施形態に係る改質籾殻炭は吸着剤として利用できる。本発明の実施形態に係る改質籾殻炭を単独で吸着剤として用いてもよいし、高分子バインダーなどその他の添加剤と混合した吸着剤としてもよい。吸着特性の観点から、改質籾殻炭を直径1mm以下、例えば500μm以下に粉砕したものを用いることが好ましい。
【0050】
特に本発明の実施形態に係る改質籾殻炭を含む吸着剤は無機イオン、特にセシウムイオンおよび/またはストロンチウムイオンを吸着するための吸着剤として好適である。特に本発明の実施形態に係る改質籾殻炭を含む吸着剤はセシウムイオンおよびストロンチウムイオンの両方に対して優れた吸着を示す。
【0051】
本発明は上記吸着剤を用いる吸着方法も提供する。吸着方法としては、本発明の吸着剤を、吸着対象物質を含む水溶液に添加して、一定時間、放置または攪拌させる方法、カラムに本発明の吸着剤を充填させて、カラム内に吸着対象物質を含む水溶液を通過または循環させる方法などがあるが、限定されない。
【0052】
本発明は上記吸着剤を有する装置も提供する。装置は、例えば、吸着剤が濾過器の一部に備えられた装置などがあるが、限定されない。
【実施例
【0053】
以下、実施例および比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0054】
[試験方法]
試験方法は次のとおりである。
【0055】
(籾殻炭のpH測定)
改質籾殻炭および塩基処理前の籾殻炭のpHはJISK1474に従い粉末試料1.00gに水100mLを加えて静かに沸騰が続くように5分間加熱した。室温まで冷却し、水を加えて100mLとし、よくかき混ぜ、pHメータ(SevenMulti METTLER TOLEDO社製)を用いて測定した。
【0056】
(比表面積測定)
比表面積は比表面積測定装置(Monosorb ユアサアイオニクス社製)を用いてBET法で測定した。
【0057】
(吸着実験)
金属元素の濃度が100ppmとなるように調整した塩化セシウム水溶液100mlおよび塩化ストロンチウム水溶液100mlのそれぞれに250μm以下に粉砕した籾殻炭を1.00g添加し、1時間撹拌した。その後フィルターでろ過し、原子吸光光度計(Z-2300 株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用いてろ液中の金属元素の濃度を測定することで、吸着率を求めた。
【0058】
(脱着実験)
吸着実験に使用した400°C炭化籾殻炭を溶液から取り出し乾燥させ,蒸留水100 mLに1.00 g添加し,1時間撹拌した。その後フィルターでろ過し,原子吸光光度計(Z-2300 株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用いてろ液中の金属元素の濃度を測定し、脱着実験後も籾殻炭に吸着されている金属元素の割合(吸着維持率)を求めた。
【0059】
(細孔分布の測定)
細孔分布測定装置(Autosorb-1 Quantachrome社製)にて籾殻炭の細孔分布を測定した。
【0060】
(FT-IR測定)
フーリエ変換型赤外分光装置(FT-IR FT-IR-680 Plus JASCO社製)を用いて籾殻炭が有する官能基のピークを測定した。
【0061】
[実施例1~8および比較例1~15]
下記の手順および表1に示す条件で、籾殻を炭化して籾殻炭を得て、得られた籾殻炭を塩基処理することで、籾殻炭を得た。
【0062】
(籾殻炭の作製)
籾殻を、大気下、アルミナ製のるつぼに入れ蓋をしてセパレータ方式卓上電気炉(AMF-20D株式会社アサヒ理化製作所製)で所定の炭化温度に達してから、所定の炭化時間、保持して炭化して籾殻炭を得た。炭化温度、炭化時間および加熱雰囲気は表1に示すとおりである。なお、実施例10および比較例15においては、管状電気炉(TMF500-COREPIPE;アズワン株式会社製)を用いて、窒素雰囲気下(窒素供給量200ml/min)、設定温度の400℃に達してから1時間炭化し、籾殻炭を得た。
【0063】
(籾殻炭の塩基処理)
塩基濃度0.1モル/Lに調整した塩基水溶液300mLに得られた籾殻炭3.00gを添加し、25℃で、所定の塩基処理時間振盪させて塩基処理した。その後、洗浄し、乾燥させて、改質籾殻炭を得た。塩基の種類、塩基性溶液pH、塩基処理時間は表1に示すとおりである。
【0064】
【表1】
【0065】
以下の表2に、実施例1および実施例2における改質籾殻炭のpHおよび比表面積、ならびに比較例1における塩基処理前の籾殻炭のpHおよび比表面積の測定結果を示す。
【0066】
表3に、実施例1~10における改質籾殻炭、ならびに比較例1~15における塩基処理前の籾殻炭をそれぞれ用いて行ったセシウムイオンおよびストロンチウムイオンの吸着実験の結果を示す。アルカリ処理することにより、セシウムイオンおよびストロンチウムイオンの吸着性能が増大した。化学的吸着要因が増加したため高い吸着能であったと推定される。
【0067】
表4に、実施例1~2における改質籾殻炭、ならびに比較例1における塩基処理前の籾殻炭をそれぞれ用いて行ったセシウムイオンおよびストロンチウムイオンの脱着実験の結果を示す。表4に示すように本願発明における籾殻炭は、優れた吸着維持率を有することも明らかとなった。したがって、本願発明における改質籾殻炭を用いた吸着剤は、吸着後に雨等により水に浸かることがあっても放射性物質が漏洩しにくく取扱い性に優れるため放射性物質の除染使用等に好適に用いることができる。
【0068】
【表2】





























【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
図1に、実施例1および実施例2における改質籾殻炭の細孔容積、ならびに比較例1における塩基処理前の籾殻炭の細孔容積を示す。図2に、実施例1および実施例2における改質籾殻炭の比表面積、ならびに比較例1における塩基処理前の籾殻炭の比表面積を示す。改質籾殻炭は特にメソ孔が発達していることがわかる。
【0072】
図3に、実施例1および実施例2における改質籾殻炭のFT-IRスペクトルならびに比較例1における塩基処理前の籾殻炭のFT-IRスペクトルを示すが、1700cm-1付近および3300cm-1付近のピークの存在から、改質籾殻炭における酸性官能基の存在が確認された。アルカリ処理することで籾殻炭の例えば環状エステル(ラクトン環)等が環裂したことにより,セシウム吸着サイトである酸性官能基のカルボキシル基が約2.2倍,フェノール性ヒドロキシ基が約2.7倍増加したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の実施形態に係る改質籾殻炭は、セシウムイオンおよびストロンチウムイオンの吸着に好適であり、放射性物質の除染などにおいて好適に利用できる。また、本発明の実施形態に係る改質籾殻炭は、従来のゼオライトのような鉱物タイプの吸着剤と比較して大幅に減容化が可能であるため放射性物質の保管の経済性に優れ得る。
図1
図2
図3