(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】船舶の機能診断方法、機能診断を利用した運航データ取得方法、運航データ取得システム、及び船舶
(51)【国際特許分類】
B63B 73/00 20200101AFI20230526BHJP
B63B 79/00 20200101ALI20230526BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
B63B73/00
B63B79/00
F02D45/00 360Z
(21)【出願番号】P 2019062649
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】辻本 勝
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-011012(JP,A)
【文献】特開2006-327361(JP,A)
【文献】特開平11-072502(JP,A)
【文献】国際公開第2017/056317(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 73/00
F02D 45/00
B63B 79/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の搭載機器の健全性を診断する機能診断方法であって、前記船舶の
通常運航中に
前記健全性の診断のために予め定めたシーケンスに従って前記船舶を操船し、
前記健全性の診断を行なった後に元の通常運航に戻すとともに、前記健全性の診断のための前記操船に伴う前記搭載機器の期待される動作の変化
が同方向か逆方向かを比較すること、
又は前記健全性の診断のための前記操船における前記搭載機器の
操作の制御信号に対応した動作の変化と操作後の前記船舶の動作の変化とを比較
するか、若しくは前記操作の制御信号に対応した動作の変化と操作後の前記搭載機器の動作の変化とを比較することにより前記搭載機器の前記健全性を診断することを特徴とする船舶の機能診断方法。
【請求項2】
前記予め定めたシーケンスとして、所定の手順で前記船舶の針路を変針する前記操船を行うことを特徴とする請求項1に記載の船舶の機能診断方法。
【請求項3】
前記搭載機器は風向計又は波向計であって、前記変針に対する前記風向計又は前記波向計で検出される風向又は波向を比較し、前記
期待される動作の変化として同方向か逆方向かで前記風向計又は前記波向計の前記健全性を診断することを特徴とする請求項2に記載の船舶の機能診断方法。
【請求項4】
前記搭載機器は風向計又は波向計であって、前記風向計又は前記波向計の近傍の障害物による死角を予め確認し、前記変針の角度を前記死角となるように前記操船を行い、前記
期待される動作の変化として前記風向計又は前記波向計で検出される風向又は波向の安定度により前記健全性を診断することを特徴とする請求項2に記載の船舶の機能診断方法。
【請求項5】
予め前記変針を略180度に亘って行い、前記死角となる前記変針の前記角度を確認することを特徴とする請求項4に記載の船舶の機能診断方法。
【請求項6】
前記予め定めたシーケンスとして、所定の手順で前記船舶の船体傾斜を伴う前記操船を行うことを特徴とする請求項1に記載の船舶の機能診断方法。
【請求項7】
前記搭載機器は動揺計測機器であって、前記船体傾斜に対する前記動揺計測機器で検出される船体動揺を比較し、前記
期待される動作の変化として同方向か逆方向かで前記動揺計測機器の前記健全性を診断することを特徴とする請求項6に記載の船舶の機能診断方法。
【請求項8】
前記船体傾斜を伴う前記操船は、バラスト水の移動を含む重量物の移動により行うことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の船舶の機能診断方法。
【請求項9】
前記動揺計測機器は、傾斜計、動揺計、ジャイロセンサ、又は加速度計を含むものであることを特徴とする請求項
7又は請求項7を引用する請求項
8に記載に船舶の機能診断方法。
【請求項10】
前記予め定めたシーケンスとして、所定の手順で前記船舶の前記搭載機器としての運航機器を操作して前記操船を行うことを特徴とする請求項1に記載の船舶の機能診断方法。
【請求項11】
前記運航機器は、舵、スラスター、ポッド、又は帆を含む進路変更アクチュエータであって、前記操作の制御信号に対応した
動作の変化としての進路と、前記操
作後の船舶の
動作の変化としての進路を比較し
、動作の変化の一致度により前記進路変更アクチュエータの前記健全性を診断することを特徴とする請求項10に記載の船舶の機能診断方法。
【請求項12】
前記運航機器は、可変ピッチプロペラ(CPP)であって、前記操作の制御信号に対応した
動作の変化としての速度又は停止時間と、前記操
作後の船舶の
動作の変化としての速度又は停止時間との一致度により前記可変ピッチプロペラ(CPP)の前記健全性を診断することを特徴とする請求項10に記載の船舶の機能診断方法。
【請求項13】
前記搭載機器は主機関、又は補機関を含む駆動関連機器であって、前記操作の制御信号に対応した
動作の変化としての前記駆動関連機器の動作状態と、前記操
作後の
前記搭載機器の動作の変化としての前記駆動関連機器の前記動作状態とを比較し
、動作の変化の一致度により前記駆動関連機器の前記健全性を診断することを特徴とする請求項1に記載の船舶の機能診断方法。
【請求項14】
前記動作状態として、前記駆動関連機器の回転数を用いることを特徴とする請求項13に記載の船舶の機能診断方法。
【請求項15】
請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の船舶の機能診断方法を用いて、前記船舶の取得した運航データの正しさを判別することを特徴とする機能診断を利用した運航データ取得方法。
【請求項16】
取得した前記運航データは、前記搭載機器に関連したデータであることを特徴とする請求項15に記載の機能診断を利用した運航データ取得方法。
【請求項17】
前記運航データの正しさの判別結果を情報提供することを特徴とする請求項15又は請求項16に記載の機能診断を利用した運航データ取得方法。
【請求項18】
前記運航データの正しさの判別結果を、取得した前記運航データとともに管理部門に情報提供することを特徴とする請求項17に記載の機能診断を利用した運航データ取得方法。
【請求項19】
請求項15から請求項18のいずれか1項に記載の機能診断を利用した運航データ取得方法を用いた船舶の運航データ取得システムであって、前記船舶の運航データを取得する運航データ取得手段と、前記搭載機器の前記健全性を診断する健全性診断手段と、前記運航データ取得手段で取得した運航データを前記健全性診断手段の診断結果に基づき正しさを判別する運航データ判別手段とを備えたことを特徴とする機能診断を利用した運航データ取得システム。
【請求項20】
前記運航データ判別手段の判別結果を表示する情報提供手段を備えたことを特徴とする請求項17又は請求項18を引用する請求項19に記載の機能診断を利用した運航データ取得システム。
【請求項21】
前記運航データ判別手段の判別結果を、取得した前記運航データとともに管理部門に情報提供する通信手段を備えたことを特徴とする請求項18を引用する請求項19に記載の機能診断を利用した運航データ取得システム。
【請求項22】
請求項19から請求項21のいずれか1項に記載の機能診断を利用した運航データ取得システムを船舶に搭載したことを特徴とする船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の搭載機器の健全性を診断する船舶の機能診断方法、機能診断を利用した運航データ取得方法、運航データ取得システム、及び船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶に風向計や波向計等の計測機器を搭載し、実船モニタリングデータの取得が行われるようになり、陸上にて船舶の状態をモリタリングすることが可能となってきた。
しかし、実船モニタリングデータは、機器の故障や乗組員の操作ミス等により、必ずしも正しいデータが取得できているとは限らないが、実船モニタリングデータだけでは正しいか否かの判断がつかない。
【0003】
ここで、特許文献1には、流量計の計測結果に基づき算出される給油パイプを流れる燃料油の流量と、液位計の計測結果に基づき算出される燃料油タンクに収容されている燃料油の減少量とを所定時間の経過毎に比較し、その比較の結果に応じて、流量計の計測値と液位計の計測値との間の不整合の有無を判定し、それらの計測値の間の不整合を検知した場合、その旨をユーザに通知する燃料油評価装置が開示されている。
また、特許文献2には、センサ対象と、センサ対象に搭載され、同等の機能を有する複数のセンサエレメントを有する複数のセンサノード通信端末と、複数のセンサノード通信端末毎の複数のセンサエレメントのセンサ情報を蓄積するデータサーバと、データサーバに蓄積されたセンサ情報を分析するデータ管理部とを備え、データ管理部は、故障診断アルゴリズムにしたがって、複数のセンサエレメントおよび複数のセンサノード通信端末の故障の自己診断を実施し、故障と判定されたセンサエレメント若しくはセンサノード通信端末のメンテナンスを実施可能とするセンサネットワークシステムが開示されている。
また、特許文献3には、移動体からのデータを集約し、フィルタリング処理する方法であって、複数の移動体それぞれからのデータを受信すること、受信したデータに基づいて、複数の移動体のうちの少なくとも2つの移動体が、又は少なくとも1つの移動体についての異なるセンサそれぞれからのデータが、関連するかどうかを判断すること、及び、関連すると判断された移動体からのデータの少なくとも一部を、又は関連すると判断されたデータの少なくとも一部を、フィルタリング処理する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-69790号公報
【文献】特開2016-103187号公報
【文献】特開2015-26196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1から特許文献3は、船舶の搭載機器の健全性を操船によって診断しようとするものではない。
そこで本発明は、操船によって船舶の搭載機器の健全性を診断する船舶の機能診断方法、機能診断を利用した運航データ取得方法、運航データ取得システム、及び船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応した船舶の機能診断方法においては、船舶の搭載機器の健全性を診断する機能診断方法であって、船舶の通常運航中に健全性の診断のために予め定めたシーケンスに従って船舶を操船し、健全性の診断を行なった後に元の通常運航に戻すとともに、健全性の診断のための操船に伴う搭載機器の期待される動作の変化が同方向か逆方向かを比較すること、又は健全性の診断のための操船における搭載機器の操作の制御信号に対応した動作の変化と操作後の船舶の動作の変化とを比較するか、若しくは操作の制御信号に対応した動作の変化と操作後の搭載機器の動作の変化とを比較することにより搭載機器の健全性を診断することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、予め定めたシーケンスに従った操船により搭載機器の動作の変化を比較し搭載機器の健全性を診断することができる。
【0007】
請求項2記載の本発明は、予め定めたシーケンスとして、所定の手順で船舶の針路を変針する操船を行うことを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、変針に伴い動作が変化する搭載機器について健全性を診断することができる。
【0008】
請求項3記載の本発明は、搭載機器は風向計又は波向計であって、変針に対する風向計又は波向計で検出される風向又は波向を比較し、期待される動作の変化として同方向か逆方向かで風向計又は波向計の健全性を診断することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、変針に伴い動作が変化する風向計又は波向計の健全性について的確な診断を行うことができる。
【0009】
請求項4記載の本発明は、搭載機器は風向計又は波向計であって、風向計又は波向計の近傍の障害物による死角を予め確認し、変針の角度を死角となるように操船を行い、期待される動作の変化として風向計又は波向計で検出される風向又は波向の安定度により健全性を診断することを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、予め確認した障害物による死角に向けることにより、風向計又は波向計の健全性について的確な診断を行うことができる。
【0010】
請求項5記載の本発明は、予め変針を略180度に亘って行い、死角となる変針の角度を確認することを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、死角となる変針の角度を予め確認することができる。
【0011】
請求項6記載の本発明は、予め定めたシーケンスとして、所定の手順で船舶の船体傾斜を伴う操船を行うことを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、船体傾斜に伴い動作が変化する搭載機器について健全性を診断することができる。
【0012】
請求項7記載の本発明は、搭載機器は動揺計測機器であって、船体傾斜に対する動揺計測機器で検出される船体動揺を比較し、期待される動作の変化として同方向か逆方向かで動揺計測機器の健全性を診断することを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、動揺計測機器の健全性について的確な診断を行うことができる。
【0013】
請求項8記載の本発明は、船体傾斜を伴う操船は、バラスト水の移動を含む重量物の移動により行うことを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、重量物の移動によって船体傾斜を伴う操船を行い、搭載機器の健全性を診断することができる。
【0014】
請求項9記載の本発明は、動揺計測機器は、傾斜計、動揺計、ジャイロセンサ、又は加速度計を含むものであることを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、操船により傾斜計、動揺計、ジャイロセンサ、又は加速度計の健全性を診断することができる。
【0015】
請求項10記載の本発明は、予め定めたシーケンスとして、所定の手順で船舶の搭載機器としての運航機器を操作して操船を行うことを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、操作に伴い動作が変化する運航機器について健全性を診断することができる。
【0016】
請求項11記載の本発明は、運航機器は、舵、スラスター、ポッド、又は帆を含む進路変更アクチュエータであって、操作の制御信号に対応した動作の変化としての進路と、操作後の船舶の動作の変化としての進路を比較し、動作の変化の一致度により進路変更アクチュエータの健全性を診断することを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、進路変更アクチュエータ自身を操作して、進路変更アクチュエータの健全性について的確な診断を行うことができる。
【0017】
請求項12記載の本発明は、運航機器は、可変ピッチプロペラ(CPP)であって、操作の制御信号に対応した動作の変化としての速度又は停止時間と、操作後の船舶の動作の変化としての速度又は停止時間との一致度により可変ピッチプロペラ(CPP)の健全性を診断することを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、可変ピッチプロペラ(CPP)自身を操作して、可変ピッチプロペラ(CPP) の健全性について的確な診断を行うことができる。
【0018】
請求項13記載の本発明は、搭載機器は主機関、又は補機関を含む駆動関連機器であって、操作の制御信号に対応した動作の変化としての駆動関連機器の動作状態と、操作後の搭載機器の動作の変化としての駆動関連機器の動作状態とを比較し、動作の変化の一致度により駆動関連機器の健全性を診断することを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、駆動関連機器自身を操作して、駆動関連機器の健全性について的確な診断を行うことができる。
【0019】
請求項14記載の本発明は、動作状態として、駆動関連機器の回転数を用いることを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、駆動関連機器の健全性について回転数を用いて的確な診断を行うことができる。
【0020】
請求項15記載に対応した機能診断を利用した運航データ取得方法においては、船舶の機能診断方法を用いて、船舶の取得した運航データの正しさを判別することを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、運航データが正しいか否かを把握することができ、正しさを判別して運航データの利用ができる。
【0021】
請求項16記載の本発明は、取得した運航データは、搭載機器に関連したデータであることを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、搭載機器自身の取得されたデータが正しいか否かを把握することができる。
【0022】
請求項17記載の本発明は、運航データの正しさの判別結果を情報提供することを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、運航データの判別結果を乗組員や管理部門等が把握し、メンテナンス計画や運航データの取得計画の立案等に活用することができる。
【0023】
請求項18記載の本発明は、運航データの正しさの判別結果を、取得した運航データとともに管理部門に情報提供することを特徴とする。
請求項18に記載の本発明によれば、管理部門が船舶から遠隔地にある場合でも、管理部門に対して迅速に運航データを判別結果と共に提供することができる。
なお、管理部門とは、船舶の運航を管理する運航会社、運航データを複数の船舶から取得し運航データを蓄積し解析するデータ管理会社、船舶を建造した造船会社や搭載機器のメーカ等様々な部門が相当する。
【0024】
請求項19記載に対応した機能診断を利用した運航データ取得システムにおいては、 機能診断を利用した運航データ取得方法を用いた船舶の運航データ取得システムであって、船舶の運航データを取得する運航データ取得手段と、搭載機器の健全性を診断する健全性診断手段と、運航データ取得手段で取得した運航データを健全性診断手段の診断結果に基づき正しさを判別する運航データ判別手段とを備えたことを特徴とする。
請求項19に記載の本発明によれば、予め定めたシーケンスに従った操船により搭載機器の動作の変化を比較し搭載機器の健全性を診断し、運航データが正しいか否かを把握することができる。
【0025】
請求項20記載の本発明は、運航データ判別手段の判別結果を表示する情報提供手段を備えたことを特徴とする。
請求項20に記載の本発明によれば、運航データの判別結果を乗組員や管理部門等が容易に把握し、メンテナンス計画や運航データの取得計画の立案等に活用することができる。
【0026】
請求項21記載の本発明は、運航データ判別手段の判別結果を、取得した運航データとともに管理部門に情報提供する通信手段を備えたことを特徴とする。
請求項21に記載の本発明によれば、管理部門が船舶から遠隔地にある場合でも、管理部門に対して迅速に運航データを判別結果と共に提供することができる。
【0027】
請求項22記載に対応した船舶においては、機能診断を利用した運航データ取得システムを船舶に搭載したことを特徴とする。
請求項22に記載の本発明によれば、操船により搭載機器の健全性を診断し、運航データを取得可能な運航データ取得システムが搭載された船舶を提供することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の船舶の機能診断方法によれば、予め定めたシーケンスに従った操船により搭載機器の動作の変化を比較し搭載機器の健全性を診断することができる。
【0029】
また、予め定めたシーケンスとして、所定の手順で船舶の針路を変針する操船を行う場合には、変針に伴い動作が変化する搭載機器について健全性を診断することができる。
【0030】
また、搭載機器は風向計又は波向計であって、変針に対する風向計又は波向計で検出される風向又は波向を比較し、期待される動作の変化として同方向か逆方向かで風向計又は波向計の健全性を診断する場合には、変針に伴い動作が変化する風向計又は波向計の健全性について的確な診断を行うことができる。
【0031】
また、搭載機器は風向計又は波向計であって、風向計又は波向計の近傍の障害物による死角を予め確認し、変針の角度を死角となるように操船を行い、期待される動作の変化として風向計又は波向計で検出される風向又は波向の安定度により健全性を診断する場合には、予め確認した障害物による死角に向けることにより、風向計又は波向計の健全性について的確な診断を行うことができる。
【0032】
また、予め変針を略180度に亘って行い、死角となる変針の角度を確認する場合には、死角となる変針の角度を予め確認することができる。
【0033】
また、予め定めたシーケンスとして、所定の手順で船舶の船体傾斜を伴う操船を行う場合には、船体傾斜に伴い動作が変化する搭載機器について健全性を診断することができる。
【0034】
また、搭載機器は動揺計測機器であって、船体傾斜に対する動揺計測機器で検出される船体動揺を比較し、期待される動作の変化として同方向か逆方向かで動揺計測機器の健全性を診断する場合には、動揺計測機器の健全性について的確な診断を行うことができる。
【0035】
また、船体傾斜を伴う操船は、バラスト水の移動を含む重量物の移動により行う場合には、重量物の移動によって船体傾斜を伴う操船を行い、搭載機器の健全性を診断することができる。
【0036】
また、動揺計測機器は、傾斜計、動揺計、ジャイロセンサ、又は加速度計を含むものである場合には、操船により傾斜計、動揺計、ジャイロセンサ、又は加速度計の健全性を診断することができる。
【0037】
また、予め定めたシーケンスとして、所定の手順で船舶の搭載機器としての運航機器を操作して操船を行う場合には、操作に伴い動作が変化する運航機器について健全性を診断することができる。
【0038】
また、運航機器は、舵、スラスター、ポッド、又は帆を含む進路変更アクチュエータであって、操作の制御信号に対応した動作の変化としての進路と、操作後の船舶の動作の変化としての進路を比較し、動作の変化の一致度により進路変更アクチュエータの健全性を診断する場合には、進路変更アクチュエータ自身を操作して、進路変更アクチュエータの健全性について的確な診断を行うことができる。
【0039】
また、運航機器は、可変ピッチプロペラ(CPP)であって、操作の制御信号に対応した動作の変化としての速度又は停止時間と、操作後の船舶の動作の変化としての速度又は停止時間との一致度により可変ピッチプロペラ(CPP)の健全性を診断する場合には、可変ピッチプロペラ(CPP)自身を操作して、可変ピッチプロペラ(CPP) の健全性について的確な診断を行うことができる。
【0040】
また、搭載機器は主機関、又は補機関を含む駆動関連機器であって、操作の制御信号に対応した動作の変化としての駆動関連機器の動作状態と、操作後の搭載機器の動作の変化としての駆動関連機器の動作状態とを比較し、動作の変化の一致度により駆動関連機器の健全性を診断する場合には、駆動関連機器自身を操作して、駆動関連機器の健全性について的確な診断を行うことができる。
【0041】
また、動作状態として、駆動関連機器の回転数を用いる場合には、駆動関連機器の健全性について回転数を用いて的確な診断を行うことができる。
【0042】
また、本発明の機能診断を利用した運航データ取得方法によれば、運航データが正しいか否かを把握することができ、正しさを判別して運航データの利用ができる。
【0043】
また、取得した運航データは、搭載機器に関連したデータである場合には、搭載機器自身の取得されたデータが正しいか否かを把握することができる。
【0044】
また、運航データの正しさの判別結果を情報提供する場合には、運航データの判別結果を乗組員や管理部門等が把握し、メンテナンス計画や運航データの取得計画の立案等に活用することができる。
【0045】
また、運航データの正しさの判別結果を、取得した運航データとともに管理部門に情報提供する場合には、管理部門が船舶から遠隔地にある場合でも、管理部門に対して迅速に運航データを判別結果と共に提供することができる。
【0046】
また、本発明の機能診断を利用した運航データ取得システムによれば、予め定めたシーケンスに従った操船により搭載機器の動作の変化を比較し搭載機器の健全性を診断し、運航データが正しいか否かを把握することができる。
【0047】
また、運航データ判別手段の判別結果を表示する情報提供手段を備えた場合には、運航データの判別結果を乗組員や管理部門等が容易に把握し、メンテナンス計画や運航データの取得計画の立案等に活用することができる。
【0048】
また、運航データ判別手段の判別結果を、取得した運航データとともに管理部門に情報提供する通信手段を備えた場合には、管理部門が船舶から遠隔地にある場合でも、管理部門に対して迅速に運航データを判別結果と共に提供することができる。
【0049】
また、本発明の船舶によれば、操船により搭載機器の健全性を診断し、運航データを取得可能な運航データ取得システムが搭載された船舶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】本実施形態による船舶の機能診断方法の説明図
【
図2】同別の例による船舶の機能診断方法の説明図船舶性能推定システムの概要図
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に、本発明の実施形態による船舶の機能診断方法、機能診断を利用した運航データ取得方法、運航データ取得システム、及び船舶について説明する。
【0052】
図1は、本実施形態による船舶の機能診断方法の説明図である。
運航データ取得システムは、船舶10の運航データを取得する運航データ取得手段20と、搭載機器30の健全性を診断する健全性診断手段40と、運航データ取得手段20で取得した運航データを健全性診断手段40の診断結果に基づき正しさを判別する運航データ判別手段50と、運航データ判別手段50の判別結果を表示する情報提供手段60を備えている。運航データ取得手段20、搭載機器30、健全性診断手段40、運航データ判別手段50及び情報提供手段60は、船舶10に設けられている。
図1において、船舶10は図面下側から上側に向けて航走しており、風は図面の左上側から船舶10に向かって吹いている。なお、変針前の船舶10の方を点線で示している。
【0053】
船舶10には、搭載機器30として風車式の風向計30Aが搭載されている。船舶10は、運航中において、風向計30Aの健全性を診断するために予め定めたシーケンスに従って操船される。なお、予め定めたシーケンスは、通常の船舶10の運航中に所定の手順で操船を行い健全性の診断を行なった後に元の運航状態に戻すこと、船舶10の複数の搭載機器30について期間を定めて一連の試験を行なうこと、運行中に通常運航と異なる運航行なうこと等を含む。
運航データ取得手段20は、運航データとして風向計30Aに関連したデータである風向データを取得する。
健全性診断手段40は、風向計30Aの期待される動作の変化と、操船に伴う風向計30Aの動作の変化とを比較し、風向計30Aの健全性を診断する。健全性診断手段40による風向計30Aの健全性診断は、例えば
図1に示すように、予め定めシーケンスに従って船舶10を変針角Dで右に変針したときに、風向計30Aにより計測される風向が船舶10の進路の向きに対して逆まわりに変化しているか否かにより行う。なお、船舶10の船首方位角は、斜航があるため風向の変化との比較対象として使用できない。健全性診断手段40は、風向が船舶10の進路の向きに対して逆まわりに変化している場合、すなわち、「風向差F:A
0-A
1≡ΔA D*F>0」となる場合は、風向計30Aは正しく結線されており健全であると診断する。一方、風向が船舶10の進路の向きと同じに変化している場合、すなわち、「風向差F:-A
0-(-A
1)=-ΔA D*F<0」となる場合は、風向計30Aは誤って結線されており健全でないと診断する。
このように、搭載機器30が風向計30Aの場合、変針に対する風向計30Aで検出される風向を船舶10の進路と比較し、動作の変化として船舶10の進路と同方向か逆方向かで風向計30Aの健全性を診断することで、例えば風向計30Aの修理時等に結線を間違えて逆にしたことが分かるなど、変針に伴い動作が変化する風向計30Aの健全性について的確な診断を行うことができる。
【0054】
図2は、本実施形態の別の例による船舶の機能診断方法の説明図である。
健全性診断手段40による風向計30Aの健全性診断は、風向計30Aの近傍の障害物(船体や船体構造物等)70による死角を予め確認し、変針の角度を死角となるように操船を行い、動作の変化として風向計30Aで検出される風向の安定度により行うこともできる。
変針の角度を死角となるように操船を行うと、風向計30Aが健全である場合には、風向不安定(分散値:大きく増加)となる。一方、風向計30Aが健全でない場合には、風向安定(分散値:通常)となる。したがって、健全性診断手段40は、風向が不安定の場合には風向計30Aが健全であると診断し、風向が安定の場合は風向計30Aが健全でないと診断する。
このように、風向計30Aを予め確認した障害物70による死角に向けることにより、風向計30Aの健全性について的確な診断を行うことができる。なお、風向計30Aが、近傍に障害物70が存在しない場所に設けられている場合は、健全性を確認しようとする場合に障害物70を設置してもよい。
また、予め変針を略180度に亘って行い、死角となる変針の角度を確認することで、死角となる変針の角度を予め確認することができる。この場合は、変針前の風向の安定度と、180度変針した後の風向の安定度とを比較し、より不安定な方を死角とする。
【0055】
上述のように、予め定めたシーケンスとして、所定の手順で船舶の針路を変針する操船を行うことで、船舶10の船体がセンサーとなり、変針に伴い動作が変化する搭載機器30について健全性を診断することができる。
なお、搭載機器30として波向計が船舶10に搭載されている場合は、その波向計についても風向計30Aと同様にして健全性を診断することができる。
【0056】
また、搭載機器30として傾斜計、動揺計、ジャイロセンサ、又は加速度計等の動揺計測機器が船舶10に搭載されている場合は、操船により船舶10の船体を傾斜させ、船体傾斜(ヒール、トリム)に対する動揺計測機器で検出される船体動揺を比較し、動作の変化として同方向か逆方向かで動揺計測機器の健全性を診断する。
例えば、健全性診断手段40は、船体傾斜に伴う、船舶10に搭載されているバラストポンプや燃料ポンプを流れる流体の流れの向き(右舷→左舷など)と、動揺計測機器で計測された向きとを比較し、動揺計測機器の健全性を診断する。健全性診断手段40は、船体傾斜に伴う両者の向きが同方向となっている場合は、動揺計測機器が健全であると診断する。一方、船体傾斜に伴う両者の向きが逆方向となっている場合は、動揺計測機器に何らかの異常が発生していると診断する。
このように、予め定めたシーケンスとして、所定の手順で船舶10の船体傾斜を伴う操船を行うことで、船体傾斜に伴い動作が変化する搭載機器30について健全性を診断することができる。
また、船体傾斜に対する動揺計測機器で検出される船体動揺を比較し、動作の変化として同方向か逆方向かで動揺計測機器の健全性を診断することで、動揺計測機器の健全性について的確な診断を行うことができる。
また、船体傾斜を伴う操船は、バラスト水の移動等、重量物の移動により行うことができる。これにより、重量物の移動によって船体傾斜を伴う操船を行い、動揺計測機器の健全性を診断することができる。
【0057】
また、搭載機器30として舵、スラスター、ポッド、又は帆等の進路変更アクチュエータである運航機器が船舶10に搭載されている場合は、進路変更アクチュエータを操作して操船を行い、操作の制御信号に対応した進路と、操作の後の船舶の進路を比較し、動作の変化の一致度により進路変更アクチュエータの健全性を診断する。なお、船舶10の船首方位角は、斜航があるため動作の変化の一致度との比較対象として使用できない。
例えば、健全性診断手段40は、舵を切った場合に、船舶10の進路(船体位置)情報と、舵の操作の制御信号に対応した進路とを比較し、舵の健全性を診断する。健全性診断手段40は、両者の動作の変化の一致度が所定以上の場合は、舵が健全であると診断する。一方、両者の動作の変化の一致度が所定未満の場合は、舵に何らかの異常が発生していると診断する。また、同様に、健全性診断手段40は、スラスターを正転させた場合に、船舶10の進路(船体位置)情報と、スラスターの操作の制御信号に対応した進路とを比較し、スラスターの健全性を診断する。
このように、進路変更アクチュエータ自身を操作して、進路変更アクチュエータの健全性について的確な診断を行うことができる。すなわち、予め定めたシーケンスとして、所定の手順で船舶10の搭載機器30としての運航機器を操作して操船を行うことで、操作に伴い動作が変化する運航機器30について健全性を診断することができる。
【0058】
また、搭載機器30として可変ピッチプロペラ(CPP)である運航機器が船舶10に搭載されている場合は、可変ピッチプロペラ(CPP)を操作して操船を行い、操作の制御信号に対応した速度又は停止時間と、操作の後の船舶の速度又は停止時間との一致度により可変ピッチプロペラ(CPP)の健全性を診断する。
例えば、健全性診断手段40は、可変ピッチプロペラ(CPP)のピッチを予め定めた船舶10の速度が低速にさせるシーケンスに変更した場合に、船舶10の速度情報と、可変ピッチプロペラ(CPP)の操作の制御信号に対応した速度とを比較し、可変ピッチプロペラ(CPP)の健全性を診断する。健全性診断手段40は、両者の一致度が所定以上の場合は、可変ピッチプロペラ(CPP)が健全であると診断する。一方、両者の一致度が所定未満の場合は、可変ピッチプロペラ(CPP)に何らかの異常が発生していると診断する。
健全性診断手段40は、予め定めた停船をさせるシーケンスとして、主機関を止め、可変ピッチプロペラ(CPP)のピッチを寝かせて船舶10の速度が早く落ちるように変更した場合に、船舶10の停船までの予め計測した時間に比較して同レベルになるか長くかかるかを比較して、可変ピッチプロペラ(CPP)の健全性を診断する。
このように、可変ピッチプロペラ(CPP)自身を操作して、可変ピッチプロペラ(CPP) の健全性について的確な診断を行うことができる。すなわち、予め定めたシーケンスとして、所定の手順で船舶10の搭載機器30としての運航機器を操作して操船を行うことで、操作に伴い動作が変化する運航機器30について健全性を診断することができる。
【0059】
また、搭載機器30として主機関、又は補機関等の駆動関連機器が船舶10に搭載されている場合は、駆動関連機器を操作して操船を行い、操作の制御信号に対応した駆動関連機器の動作状態と、操作の後の駆動関連機器の動作状態とを比較し、動作の変化の一致度により駆動関連機器の健全性を診断する。
例えば、健全性診断手段40は、主機関への燃料供給量を制御するガバナー制御情報を変更した場合に、回転数の変化があるか否かによりガバナーの健全性を診断する。健全性診断手段40は、ガバナー制御情報がフューエルインデックスを小さくするものであった場合、リミッターの作動により回転数が低下した場合は、ガバナーが健全であると診断する。一方、リミッターが作動せず回転数が低下しない場合は、ガバナーに何らかの異常が発生していると診断する。
このように、駆動関連機器自身を操作して、駆動関連機器の健全性について的確な診断を行うことができる。また、駆動関連機器の動作状態として、駆動関連機器の回転数を用いることで、駆動関連機器の健全性について回転数を用いて的確な診断を行うことができる。
【0060】
上述のように、船舶10の運航中に予め定めたシーケンスに従って船舶10を操船し、搭載機器30の期待される動作の変化と、搭載機器30の操船に伴う動作の変化とを比較し、搭載機器30の健全性を診断することで、予め定めたシーケンスに従った操船により搭載機器30の動作の変化を比較し搭載機器30の健全性を診断することができる。これにより、自動運行船や自律運行船のより一層安全な運航に寄与することができる。
【0061】
運航データ判別手段50は、健全性診断手段40が搭載機器30は健全であると診断した場合は、取得した船舶10の運航データが正しいと判別し、健全性診断手段40が搭載機器30は健全でないと診断した場合は、取得した船舶10の運航データが正しくないと判別する、というように、運航データ取得手段20で取得した運航データを健全性診断手段40の診断結果に基づき正しさを判別する。これにより、運航データが正しいか否かを把握することができ、正しさを判別して運航データの利用ができる。
また、取得した運航データが搭載機器30に関連したデータである場合には、搭載機器30自身の取得されたデータが正しいか否かを把握することができる。
【0062】
情報提供手段60は、運航データ判別手段50の判別結果を表示する。情報提供手段60は例えば船内に設置されたモニター等である。これにより、運航データの判別結果を乗組員や管理部門等が把握し、メンテナンス計画や運航データの取得計画の立案等に活用することができる。
なお、運航データ判別手段50の判別結果を、取得した運航データとともに管理部門に情報提供する通信手段を備えてもよい。これにより、管理部門が船舶10から遠隔地にある場合でも、管理部門に対して迅速に運航データを判別結果と共に提供することができる。管理部門とは、船舶の運航を管理する運航会社、運航データを複数の船舶から取得し運航データを蓄積し解析するデータ管理会社、船舶を建造した造船会社や搭載機器のメーカ等様々な部門が相当する。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、船舶に搭載された機器の健全性について船体をセンサーとして診断し、実船モニタリングデータで得られたデータが正しいか否かを判別することができる。これにより、正しいデータを使用して船舶の安全運航や効率向上等に寄与することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 船舶
20 運航データ取得手段
30 搭載機器
30A 風向計
40 健全性診断手段
50 運航データ判別手段
60 情報提供手段