(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】遺伝子ノックアウトブタ由来の血液製剤およびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/18 20150101AFI20230526BHJP
A61K 35/14 20150101ALI20230526BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230526BHJP
A01K 67/027 20060101ALN20230526BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20230526BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20230526BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230526BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20230526BHJP
C12N 5/078 20100101ALN20230526BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20230526BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20230526BHJP
【FI】
A61K35/18
A61K35/14
A61P43/00
A01K67/027 ZNA
C12N15/53
C12N15/54
C12N15/09 110
C12N15/63 Z
C12N5/078
C12Q1/02
C07K16/00
(21)【出願番号】P 2020563606
(86)(22)【出願日】2019-05-07
(86)【国際出願番号】 CN2019085773
(87)【国際公開番号】W WO2019214591
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】201810426018.6
(32)【優先日】2018-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520432808
【氏名又は名称】創観(蘇州)生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戴 一凡
(72)【発明者】
【氏名】楊 海元
(72)【発明者】
【氏名】王 盈
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-536814(JP,A)
【文献】特表2018-500897(JP,A)
【文献】Acta Biomaterialia, 2018.4.7, Vol.72, p.196-205
【文献】Xenotransplantation, 2014, Vol.21, p.543-554
【文献】Xenotransplantation, 2015, Vol.22, p.194-202
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GGTA1遺伝子、CMAH遺伝子、および
、β4GalNT2遺伝子がノックアウトされる、遺伝子ノックアウトブタ由来の血液製剤
であって、
前記ノックアウトブタは、CRISPR/Cas9ベクターの組合わせを用いることによって調製され、前記CRISPR/Cas9ベクターの組合わせは、配列番号1で表される特異性標的GGTA1遺伝子のSgRNAヌクレオチド配列を有するGGTA1-CRISPR/Cas9ベクター、配列番号2で表される特異性標的CMAH遺伝子のSgRNAヌクレオチド配列を有するCMAH-CRISPR/Cas9ベクター、および、配列番号3で表される特異性標的β4GalNT2遺伝子のSgRNAヌクレオチド配列を有するβ4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクターを含む、
血液製剤。
【請求項2】
前記GGTA1-CRISPR/Cas9ベクターは、配列番号4で表されるヌクレオチド配列を有し、前記CMAH-CRISPR/Cas9ベクターは、配列番号5で表されるヌクレオチド配列を有し、且つ、前記β4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクターは、配列番号6で表されるヌクレオチド配列を有する、請求項
1に記載の血液製剤。
【請求項3】
前記血液製剤には、前記遺伝子ノックアウトブタの赤血球及び/又は末梢血単核細胞(PBMC)を含有する、請求項
1又は2に記載の血液製剤。
【請求項4】
前記赤血球は、低減したaGal抗原量、低減したNeu5Gc抗原量、および低減したSda様抗原量及び/又は前記PBMCは、低減したaGal抗原量、低減したNeu5Gc抗原量、および低減したSda様抗原量を有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の血液製剤。
【請求項5】
前記遺伝子ノックアウトブタは、赤血球がヒト免疫グロブリンに結合するレベルが、野生型ブタ由来赤血球よりも低減する、及び/又は前記遺伝子ノックアウトブタは、PBMCがヒト免疫グロブリンに結合するレベルが、野生型ブタ由来PBMCよりも低減する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の血液製剤。
【請求項6】
前記遺伝子ノックアウトブタは、赤血球がヒト免疫グロブリンに結合するレベルが、ヒト由来赤血球と同等である、及び/又はPBMCがヒト免疫グロブリンに結合するレベルが、ヒト由来PBMCと同等である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の血液製剤。
【請求項7】
前記ヒト免疫グロブリンは、ヒトIgGおよび/またはヒトIgMを含有する、請求項1~
6のいずれか1項に記載の血液製剤。
【請求項8】
前記遺伝子ノックアウトブタは、赤血球のヒト血清との凝集反応が、野生型ブタ由来赤血球よりも低減する、請求項1~
7のいずれか1項に記載の血液製剤。
【請求項9】
前記凝集反応は、抗血液型抗原のIgM抗体および/または抗血液型抗原のIgG抗体によって引き起こされる、請求項
8に記載の血液製剤。
【請求項10】
前記遺伝子ノックアウトブタは、人体への赤血球輸血による溶血性輸血副作用の可能性が、野生型ブタ由来赤血球より低減する、請求項1~
9のいずれか1項に記載の血液製剤。
【請求項11】
輸血用である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の血液製剤。
【請求項12】
請求項
11に記載の血液製剤であって、超急性免疫拒絶反応を基本的に引き起こさない及び/又は改善することができる、血液製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子工学技術領域に属し、具体的に、CRISPR/Cas9ベクター組合わせによる遺伝子ノックアウトブタ由来の血液製剤およびその使用を関する。
【背景技術】
【0002】
現代医学が進歩し続け、輸血が臨床上よく使用されるが、同様に、AIDS、B型肝炎、C型肝炎など多発感染症による深刻な輸血リスクを含め、抱えている問題が増えている。血液需要が増えている一方で、献血量が相対的に減少し、それにより、血液ソースが日ごとに欠乏していく。ヒトRBCs輸血の代用薬は、動物の赤血球(RBCs)によって開発されることができる。ブタ赤血球(pRBCs)は、異種輸血の赤血球の開発に幅広く用いられ、また、pRBCsが、ヒトRBCsと類似性を多く備える。同時に、pRBCsは、特定の病原体なし、および生物安全の条件下で、ヒト病原性微生物を持ち込んでいない。pRBCsは、MHC抗原、すなわち、ブタ白血球抗原(SLA)を発現しないため、免疫原性を低減する。pRBCsは、細胞核を含まなく、ブタ内在性レトロウイルスをも持ち込む可能性がない。
【0003】
しかし、野生型pRBCsは、そのまま臨床輸血に用いられると、いろんな問題を抱えてしまう。野生型pRBCsは、霊長類動物に輸血されると、一貫性のある超急性拒絶反応を誘発することになる。例えば、野生型pRBCsは、ヒトの自然溶血性抗体を持つGalと非Gal抗原を発現するので、抗体-抗原結合および/または補体活性化によって、血液細胞の融解を引き起こす。
【0004】
そのため、現在、改造によってヒト輸血に直接用いられるpRBCsの速やかな取得が望ましい。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、遺伝子ノックアウトブタ由来の血液製剤、および上記血液製剤の使用を提供する。本発明に記載の血液製剤は、以下の特性:1)ヒト血清における免疫グロブリンへの結合が顕著に低減し、2)超急性免疫拒絶反応の克服に効果を著しく奏し、3)臨床における貯血量不足の問題を有効に解決し、4)臨床輸血のための貴重な材料源を提供し、5)ブタGGTA1遺伝子が効果的にノックアウトされ、6)ブタCMAH遺伝子が効果的にノックアウトされ、7)ブタβ4GalNT2遺伝子が効果的にノックアウトされ、8)大規模バッチ製造に好適であり、9)効果的な品質管理が可能であり、および/または、10)安全安心で、病原性微生物および/またはウイルスを持ち込まないことの少なくとも1つを備える。
【0006】
本発明は、例えば、ノックアウトされようとする遺伝子の特定のエクソンについて標的とされる適切なSgRNA配列を設計するように、ノックアウトされようとする遺伝子における適切なエクソンをノックアウトすることによって、CRISPR/Cas9ベクター組合わせで上記したノックアウトされようとする遺伝子(例えば、GGTA1遺伝子、CMAH遺伝子および/またはβ4GalNT2遺伝子を含む)のノックアウト効率を有効に向上させることを驚くほどに発見した。さらに、該遺伝子ノックアウトブタ由来の血液製剤を得るために、異種移植による超急性免疫拒絶反応を低減することによって、ヒト血の代用薬として、いろんな試験や臨床機能を果たす。
【0007】
一方、本発明は、GGTA1遺伝子、CMAH遺伝子、および、エクソン8における1つまたは複数のアミノ酸をコードする1つまたは複数のヌクレオチドの欠失によってノックアウトされるβ4GalNT2遺伝子がノックアウトされる遺伝子ノックアウトブタ由来の血液製剤を提供する。
【0008】
ある実施形態において、前述GGTA1遺伝子に、エクソン3における1つまたは複数のアミノ酸をコードする1つまたは複数のヌクレオチドの欠失によって、前述GGTA1遺伝子がノックアウトされる。
【0009】
ある実施形態において、前述CMAH遺伝子に、エクソン6における1つまたは複数のアミノ酸をコードする1つまたは複数のヌクレオチドの欠失によって、前述CMAH遺伝子がノックアウトされる。
【0010】
ある実施形態において、前述遺伝子ノックアウトブタは、CRISPR/Cas9ベクターの組合わせを用いることによって調製される。
【0011】
ある実施形態において、前述GGTA1遺伝子のエクソン3、前述CMAH遺伝子のエクソン6、および前述β4GalNT2遺伝子のエクソン8は、CRISPR/Cas9によって標的される部分になる。
【0012】
ある実施形態において、前述CRISPR/Cas9ベクター組合わせは、SEQ ID No:1で表される特異性標的GGTA1遺伝子のSgRNAヌクレオチド配列を有するGGTA1-CRISPR/Cas9ベクター、SEQ ID No:2で表される特異性標的CMAH遺伝子のSgRNAヌクレオチド配列を有するCMAH-CRISPR/Cas9ベクター、および、SEQ ID No:3で表される特異性標的β4GalNT2遺伝子のSgRNAヌクレオチド配列を有するβ4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクターを含む。
【0013】
ある実施形態において、前述GGTA1-CRISPR/Cas9ベクターは、SEQ ID No:4で表されるヌクレオチド配列を有し、前述CMAH-CRISPR/Cas9ベクターは、SEQ ID No:5で表されるヌクレオチド配列を有し、且つ、前述β4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクターは、SEQ ID No:6で表されるヌクレオチド配列を有する。
【0014】
ある実施形態において、前述血液製剤には、前述遺伝子ノックアウトブタの赤血球を含有する。ある実施形態において、前述血液製剤には、前述遺伝子ノックアウトブタの末梢血単核細胞(PBMC)を含有する。
【0015】
ある実施形態において、前述赤血球は、低減したaGal抗原量、低減したNeu5Gc抗原量、および低減したSda様抗原量を有する。
【0016】
ある実施形態において、前述PBMCは、低減したaGal抗原量、低減したNeu5Gc抗原量、および低減したSda様抗原量を有する。
【0017】
ある実施形態において、前述遺伝子ノックアウトブタは、赤血球がヒト免疫グロブリンに結合するレベルが、野生型ブタ由来赤血球よりも低減する。ある実施形態において、前述遺伝子ノックアウトブタは、PBMCがヒト免疫グロブリンに結合するレベルが、野生型ブタ由来PBMCよりも低減する。
【0018】
ある実施形態において、前述遺伝子ノックアウトブタは、赤血球がヒト免疫グロブリンに結合するレベルが、ヒト由来赤血球と同等である。ある実施形態において、前述遺伝子ノックアウトブタは、PBMCがヒト免疫グロブリンに結合するレベルが、ヒト由来PBMCと同等である。
【0019】
ある実施形態において、前述ヒト免疫グロブリンは、ヒトIgGおよび/またはヒトIgMを含有する。
【0020】
ある実施形態において、前述遺伝子ノックアウトブタは、赤血球のヒト血清との凝集反応が、野生型ブタ由来赤血球よりも低減する。ある実施形態において、前述凝集反応は、抗血液型抗原のIgM抗体および/または抗血液型抗原のIgG抗体によって引き起こされる。
【0021】
ある実施形態において、前述遺伝子ノックアウトブタは、人体への赤血球輸血による溶血性輸血副作用の可能性が、野生型ブタ由来赤血球より低減する。
【0022】
その一方で、本発明は、ヒト輸血用血液製品の調製における前述した血液製剤の使用を提供する。
【0023】
ある実施形態において、前述ヒト輸血用血液製品は、超急性免疫拒絶反応を基本的に引き起こさないおよび/または改善することができる。
【0024】
当該分野における当業者は、以降の詳細な記載からの本開示のその他の側面や利点の把握が容易であろう。以下の詳細な記載では、本開示の例としての実施形態しか表現して記載していない。当該分野における当業者にとって、本開示の詳細によって、本発明に係る趣旨や範囲を逸脱しない限り、公開されている具体的な実施形態を変更しても良い。それに応じて、本発明において、図面や明細書の記載があくまでも例であり、本発明を限定するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明において、「遺伝子ノックアウト」という用語は、通常、遺伝子をサイレンシングさせおよび/またはそれのコードするタンパク質を発現できないようにする遺伝子工学手段を指す。例えば、上記の遺伝子ノックアウトは、CRISPR/Cas系を用いることができる。
【0026】
本発明において、「GGTA1遺伝子」という用語は、通常、α-1,3-ガラクトシル転移酵素 (α-1,3-galactosyltransferase, GGTA1)をコードする遺伝子を指す。本発明において、ブタ(Sus scrofa)は、GGTA1遺伝子のEnsemble登録番号がENSSSCG00000005518である。ブタは、GGTA1偽遺伝子(pseudogene)のGenBank登録番号が396733である。
【0027】
本発明において、「CMAH遺伝子」という用語は、通常、シチジンーリン酸-N-アセチルノイラミン酸ヒドロキシラーゼ(cytidine monophospho-N-acetylneuraminic acid hydroxylase、CMAH)をコードする遺伝子を指す。本発明において、ブタ(Sus scrofa)は、CMAH遺伝子のEnsemble登録番号がENSSSCG00000001099である。ブタは、CMAH遺伝子のGenBank登録番号が396918である。
【0028】
本発明において、「β4GalNT2遺伝子」という用語は、通常、β 1,4N-アセチルガラクトサミン転移酵素(β-1,4-N-acetylgalactosaminyltransferase2、β 4GalNT2)をコードする遺伝子を指す。本発明において、ブタ(Sus scrofa)は、β4GalNT2遺伝子のEnsemble登録番号がENSSSCG00000040942である。ブタは、β4GalNT2遺伝子のGenBank登録番号が100621328である。ブタは、β4GalNT2遺伝子およびその産物が、異種移植拒絶反応を引き起こす重要な非Gal抗原であって良い。
【0029】
本発明において、「エクソン」という用語は、通常、真核生物遺伝子の一部を指す。本発明において、上記のエクソンは、スプライシング(splicing)されたとしても保存され、また、タンパク質生合成の過程の中でタンパク質のコード遺伝子として発現される。上記のエクソンが発現配列とも称されてもよい。リニアに発現される真核生物の遺伝子は、複数の上記のエクソンを含んでよい。例えば、上記のエクソンは、イントロンによって遮断されることができる。本発明において、エクソンX(上記のXが正整数である)、該遺伝子の第X個のエクソンを示してよい。
【0030】
本発明において、「血液製剤」という用語は、通常、血液や、血液により調製される製品を指す。例えば、上記の血液製剤は、血液、赤血球およびその構成製品、血小板およびその構成製品、血漿、血漿タンパク質製品および/または凝固因子製品を含んでよい。
【0031】
本発明において、「CRISPR/Cas9ベクター組合わせ」という用語は、通常、CRISPR(すなわち、規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列Clustered regularly interspaced short palindromic repeats、CRISPR)とCas遺伝子を含むベクター組合わせの使用を意味する。本発明において、上記のCRISPR/Cas9ベクター組合わせを用いて、上記の遺伝子ノックアウトを達成することができる(Deveau et al., 2008;Horvath and Barrangou, 2010を参照)。
【0032】
本発明において、「SgRNA」という用語は、通常、人工CRISPR/Cas9系における一本鎖キメラ抗体RNAを意味する(Single guide RNA、sgRNA)(Deltcheva et al., 2011; Bikard and Marraffini, 2013参照)。上記のSgRNAの長さが、約20bpであってよい。本発明において、上記のSgRNAは、標的配列にペアで結合後、Cas9タンパク質に結合して複合体を形成することができる。
【0033】
本発明において、「赤血球」という用語は、通常、血液において酸素を各組織に運搬する細胞を指す。上記の赤血球の主な機能性分子は、肺で酸素分子と結合して、また、組織における結合された酸素分子を放出するヘモグロビンであって良い。本発明において、上記の赤血球は、二酸化炭素を運搬することもできる。本発明において、哺乳動物(例えばブタ)の当該赤血球は、細胞核がなくてもよい。上記赤血球には、ミトコンドリアが欠けてもよい。
【0034】
本発明において、「末梢血単核細胞(PBMC)」という用語は、通常、円形の細胞核を含む末梢血液細胞(peripheral blood mononuclear cell)を意味する。上記のPBMCは、リンパ細胞(例えば、T細胞、B細胞もしくはNK細胞)や、単核細胞を含んでよい。上記のPBMCは、哺乳動物(例えばブタ)の全血から(例えば、勾配遠心分離により)抽出されて良い。
【0035】
本発明において、「αGal抗原」という用語は、通常、α1、3ガラクトシル転移酵素 (aGal、GGTA、GGT1、GT、αGT、GGTA1またはGGTA-1)遺伝子によってコードされる酵素(GT、αGalまたはα 1、3ガラクトシル転移酵素 )を意味する。上記のαGal抗原は、ヒト免疫系によって認識される抗原エピトープまたは抗原であって良い。トランスジェニック器官材料から、αGal抗原を除去しても、該材料によって引き起こされるヒト免疫応答を排除することができない。
【0036】
本発明において、「Neu5Gc抗原」という用語は、通常、N-グリコリルノイラミン酸(N-glycolylneuraminic acid, Neu5Gc)を意味する。上記のNeu5Gc抗原は、上記のCMAHによる触媒で産生されるシアル酸の1つであってよい。本発明において、上記のCMAHは、Neu5Gcへのシアル酸(N-アセチルノイラミン酸)(Neu5Ac)の転換を触媒することができる。上記のNeu5Gc抗原は、ヒト免疫系によって認識される抗原エピトープまたは抗原であってよい。
【0037】
本発明において、「Sda様抗原」という用語は、通常、ブタの糖転移酵素の1つを意味する。上記のSda様抗原は、β1,4N-アセチルガラクトサミン転移酵素によって触媒されることによって合成されてよい。本発明において、上記のSda様抗原は、血液型または血液検査に関連するSdaおよび同様のグリカンを含んでよい。
【0038】
本発明において、「野生型ブタ」という用語は、通常、いかなる遺伝子レベルおよび/またはタンパク質レベルの改変(例えば、1つまたは複数のヌクレオチドおよび/または1つまたは複数のアミノ酸の欠失、挿入、置換および/または修飾)も施していない既存のいかなるブタ(Susscrofa)を意味する。例えば、上記の野生型ブタは、飼育ブタ(Susscrofadomestica)、例えば、バークシャー種、チェスターホワイト種、デュロック種、ハンプシャー種、ヘイフォード種、ランドレース種、ポーランドチャイナ種、ポーランド チャイナ種、またはヨークシャー種であってよい。例えば、上記の野生型ブタは、イノシシであってよい。本発明において、上記の野生型ブタは、独立したブタであってよく、ブタの器官、組織、体液および/または細胞であってもよい。
【0039】
本発明において、「ヒト免疫グロブリン」という用語は、通常、ヒト免疫系が抗原刺激後に生じる免疫物質を意味する。例えば、上記のヒト免疫グロブリンは、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMサブタイプを含んでよい。上記のヒト免疫グロブリンは、モノマーがY字型分子である4本のポリペプチド鎖で構成される抗体(例えば、IgGサブタイプ)と呼ばれてよい。ここで、変化した部分ーV領域(変化領域または可変領域とも呼ばれる)、と変化しない部分ーC領域(定常領域とも呼ばれる)を含んでよい2本の同じの重鎖、および2本の同じの軽鎖が含まれる。
【0040】
本発明において、「血液型抗原」という用語は、通常、ヒト赤血球に含まれるAB抗原標準のA、B、AB、およびO血液型抗原を意味する。
【0041】
本発明において、「凝集反応」という用語は、通常、抗原と抗体の結合によって引き起こされる血清学的反応を意味する。本発明において、上記の抗原(例えば、上記の遺伝子ノックアウトブタの赤血球)は、凝集原と呼ばれてよい。上記の抗体(例えば抗血液型抗原IgM抗体および/または抗血液型抗原IgG抗体)は、レクチンである。上記の凝集反応は、肉眼で見える微小凝集塊で表されてよい。
【0042】
本発明において、「溶血性輸血副作用」という用語は、通常、免疫溶血性輸血副作用を意味する。例えば、受血者に不適合赤血球または同種抗体のある供血者血漿が輸血される場合、上記の不適合赤血球および/または上記の供血者血漿が、赤血球崩壊を引き起こすことができる。例えば、上記の溶血性輸血副作用は、急性(例えば、輸血して24時間内に反応する)溶血性輸血副作用(AHTR)と遅発性(例えば、輸血して数日または数週間後に反応する)溶血性輸血副作用(DHTR)を含んでよい。例えば、上記の溶血性輸血副作用は、血管内溶血と血管外溶血を含んでよい。
【0043】
本発明において、「超急性免疫拒絶反応」(HAR、Hyperacute rejection)という用語は、通常、外来器官、組織および/または細胞が受容者に移植後、急速に(例えば、移植して数分間以内に)生じる不全を意味する。上記のHARは、心臓および/または腎臓で生じることができる。上記のHARは、胸腺T細胞に関連している可能性がある。
【0044】
本発明において、「Gal」という用語は、通常、α1,3-galactosyltransferase(GGTA1)によって生成される1種類の末端オリゴ糖を意味する。哺乳動物(例えばヒト)では、上記のGalが、インビボで自然に生成される抗体の主な結合抗原であってよい。本発明において、上記のGalに結合しない抗体またはその抗原結合断片のすべては、非Gal抗体と見なされてよい。
【0045】
遺伝子ノックアウトブタ由来の血液製剤およびその使用
一方、本発明は、GGTA1遺伝子、CMAH遺伝子、および、エクソン8における1つまたは複数のアミノ酸をコードする1つまたは複数のヌクレオチドの欠失によってノックアウトされるβ4GalNT2遺伝子がノックアウトされる遺伝子ノックアウトブタ由来の血液製剤を提供する。
【0046】
例えば、上記のβ4GalNT2遺伝子では、上記のβ4GalNT2遺伝子がノックアウトされ、および/または機能性のβ4GalNT2のコード産物が発現されないように、エクソン8における1つまたは複数、例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10つまたはそれより多く)のアミノ酸をコードする1つまたは複数、例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10つまたはそれより多く)のヌクレオチドが、欠失または増加してよい。本発明において、上記のβ4GalNT2遺伝子は、ノックアウト効率が、約40%以上であってよく、例えば、約41%以上、約42%以上、約43%以上、約44%以上、約45%以上、約46%以上、約47%以上、約48%以上、約49%以上または約50%以上であってよい。
【0047】
本発明において、上記のGGTA1遺伝子では、上記のGGTA1遺伝子がノックアウトされ、および/または機能性のGGTA1のコード産物が発現されないように、エクソン3における1つまたは複数(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10つまたはそれより多く)のアミノ酸をコードする1つまたは複数(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10つまたはそれより多く)のヌクレオチドが、欠失または増加してよい。本発明において、上記のGGTA1遺伝子は、ノックアウト効率が、約55%以上であってよく、例えば、約56%以上、約57%以上、約58%以上、約59%以上、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上または約85%以上であってよい。
【0048】
本発明において、上記のCMAH遺伝子では、上記のCMAH遺伝子がノックアウトされ、および/または機能性のCMAHのコード産物が発現されないように、エクソン6における1つまたは複数(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10つまたはそれより多く)のアミノ酸をコードする1つまたは複数(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10またはそれより多く)のヌクレオチドが、欠失または増加してよい。本発明において、上記のCMAH遺伝子は、ノックアウト効率が、約60%以上であってよく、例えば、約61%以上、約62%以上、約63%以上、約64%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上または約85%以上であってよい。
【0049】
本発明において、上記の遺伝子ノックアウトブタは、CRISPR/Cas9ベクター組合わせを用いて調製されることができる。
【0050】
例えば、上記のGGTA1遺伝子のエクソン3、上記のCMAH遺伝子のエクソン6および/または上記のβ4GalNT2遺伝子のエクソン8は、CRISPR/Cas9によって標的される部分になってよい。
【0051】
例えば、上記のGGTA1遺伝子CRISPR標的配列は、該遺伝子のエクソン3において開始コドンの近くに位置してよい。上記のGGTA1遺伝子ノックアウトは、さらに、該遺伝子のエクソン3に1つまたは複数(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれより多く挿入可能)の塩基(例えば、塩基が1つ挿入可能)が挿入されることを含んでよい。例えば、上記のGGTA1遺伝子のエクソン3におけるTとCの間にTが挿入されてよい。
【0052】
例えば、上記のCMAH遺伝子CRISPR標的配列は、該遺伝子のエクソン6において開始コドンの近くに位置してよい。上記のCMAH遺伝子ノックアウトは、該遺伝子のエクソン3に1つまたは複数(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれより多く挿入可能)の塩基(例えば、塩基が1つ挿入可能)が挿入されることを含んでよい。例えば、上記のGGTA1遺伝子のエクソン6におけるAとGの間にAが挿入されてよい。
【0053】
例えば、上記のβ4GalNT2遺伝子CRISPR標的配列は、該遺伝子のエクソン8に位置してよい。例えば、上記のβ4GalNT2遺伝子ノックアウトは、該遺伝子のエクソン8に1つまたは複数(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10つまたはそれより多く削除可能)の塩基を削除することを含んでよい。例えば、10塩基を削除してよい。例えば、塩基ACTCACGAACを削除してよい。
【0054】
いくつかの場合において、上記のβ4GalNT2遺伝子CRISPR標的配列は、該遺伝子のエクソン2に位置しなくてよい。
【0055】
本発明は、上記のβ4GalNT2遺伝子のエクソン8が遺伝子ノックアウトされることによって、上記のβ4GalNT2遺伝子のノックアウト効率を有意差に高めることを驚くほどに発見した。そして、上記のβ4GalNT2遺伝子のエクソン8に対するノックアウトによるノックアウト効率は、上記のβ4GalNT2遺伝子のエクソン2に対するノックアウトによるノックアウト効率よりも有意差に高い。
【0056】
本発明において、上記のCRISPR/Cas9ベクター組合わせは、GGTA1-CRISPR/Cas9ベクター、CMAH-CRISPR/Cas9ベクターおよびβ4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクターより構成されてよい。例えば、上記のGGTA1-CRISPR/Cas9ベクターは、SEQ ID No:1で表される特異性標的GGTA1遺伝子のSgRNAヌクレオチド配列を有してよい。例えば、上記のCMAH-CRISPR/Cas9ベクターは、SEQ ID No:2で表される特異性標的CMAH遺伝子のSgRNAヌクレオチド配列を有してよい。および/または、例えば、上記のβ4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクターは、SEQ ID No:3で表される特異性標的β4GalNT2遺伝子のSgRNAヌクレオチド配列を有してよい。
【0057】
いくつかの場合において、上記のGGTA1-CRISPR/Cas9ベクターは、SEQ ID No:4で表されるヌクレオチド配列を有してよい。いくつかの場合において、上記のCMAH-CRISPR/Cas9ベクターは、SEQ ID No:5で表されるヌクレオチド配列を有してよい。および/または、いくつかの場合において、上記のβ4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクターは、SEQ ID No:6で表されるヌクレオチド配列を含んでよい。
【0058】
例えば、上記の血液製剤には、上記の遺伝子ノックアウトブタの赤血球を含有してよい。又、例えば、上記の血液製剤には、上記の遺伝子ノックアウトブタの末梢血単核細胞(PBMC)を含有してよい。
【0059】
本発明において、上記の赤血球は、低減したaGal抗原量、低減したNeu5Gc抗原量および低減したSda様抗原量を有してよい。
【0060】
本発明において、上記のPBMCは、低減したaGal抗原量、低減したNeu5Gc抗原量および低減したSda様抗原量を有してよい。
【0061】
本発明において、上記のGGTA1遺伝子は、α1,3ガラクトシル転移酵素をコードすることができる 。機能性α1,3ガラクトシル転移酵素は、糖タンパク質におけるガラクトースα1,3-ガラクトース(aGal)残基の形成を触媒することができる。上記のaGal抗原は、ヒト免疫系によって認識される抗原またはそのエピトープであってよい。
【0062】
本発明において、上記のCMAH遺伝子は、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)の合成を担うことができる。例えば、上記のCMAH遺伝子は、シアル酸(N-アセチルノイラミン酸)の上記のNeu5Gc抗原への転換を触媒可能なシチジンーリン酸-N-アセチルノイラミン酸ヒドロキシラーゼをコードすることができる。上記のNeu5Gc抗原は、ヒト免疫系によって認識される抗原またはそのエピトープであってよい。
【0063】
本発明において、上記のβ4GalNT2遺伝子は、β1,4 N-アセチルガラクトサミン転移酵素2糖転移酵素(β4GalNT2)をコードすることができる。機能性β4GalNT2は、Sda様グリカン(例えば、上記のSda様抗原)を産生することができる。上記のSda様抗原は、ヒト免疫系によって認識される抗原またはそのエピトープであってよい。
【0064】
本発明において、例えば、上記の遺伝子ノックアウトブタは、赤血球がヒト免疫グロブリンに結合するレベルが、野生型ブタ由来赤血球よりも低減してよい(例えば、少なくとも約5倍、少なくとも約5.5倍、少なくとも約6倍、少なくとも約6.5倍またはそれより多く低減してよい)。又、例えば、上記の遺伝子ノックアウトブタは、PBMCがヒト免疫グロブリンに結合するレベルが、野生型ブタ由来PBMCよりも低減してよい(例えば、少なくとも約50倍、少なくとも約55倍、少なくとも約60倍、少なくとも約65倍、少なくとも約70倍またはそれより多く低減してよい)。
【0065】
本発明において、例えば、上記の遺伝子ノックアウトブタは、赤血球がヒト免疫グロブリンに結合するレベルが、ヒト由来赤血球と同等であってよい(例えば、ヒト赤血球がヒト免疫グロブリンに結合するレベルの約135%~125%、約125%~115%、約115%~105%、約105%~95%、約95%~85%程度または約85%~75%であってよい)。又、例えば、上記の遺伝子ノックアウトブタは、PBMCがヒト免疫グロブリンに結合するレベルが、ヒト由来PBMCと同等であってよい(例えば、ヒトPBMCがヒト免疫グロブリンに結合するレベルの約135%~125%、約125%~115%、約115%~105%、約105%~95%、約95%~85%程度または約85%~75%であってよい)。
【0066】
本発明において、上記のヒト免疫グロブリンは、ヒトIgGおよび/またはヒトIgMを含有してよい。
【0067】
本発明において、上記の遺伝子ノックアウトブタは、赤血球のヒト血清における凝集反応が、野生型ブタ由来赤血球よりも低減してよい(例えば、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約3倍またはそれより多く低減してよい)。本発明において、上記の凝集反応は、抗血液型抗原のIgM抗体および/または抗血液型抗原のIgG抗体によって引き起こされてよい。
【0068】
本発明において、上記の遺伝子ノックアウトブタは、人体への赤血球輸血による溶血性輸血副作用の可能性が、野生型ブタ由来赤血球よりも低減してよい(例えば、少なくとも約5倍、少なくとも約5.5倍、少なくとも約6倍、少なくとも約6.5倍またはそれより多く低減してよい)。
【0069】
その一方で、本発明は、ヒト輸血用血液製品の調製のための上記の血液製剤の使用を提供する。
【0070】
本発明において、上記のヒト輸血用血液製品は、基本的に、超急性免疫拒絶反応を引き起こさないおよび/または改善することができる。本発明において、上記の改善は、超急性免疫拒絶反応の治療および/または緩和における何らかの進展または進歩を成し遂げることを目的とする。例えば、上記の血液製剤は、血栓性閉塞、グラフトの血管系出血、好中性顆粒球流入、虚血、プラーク、浮腫、チアノーゼ、浮腫、臓器不全、臓器機能低下および/または壊死、糸球体毛細血管血管内血栓、溶血、発熱、血液凝固、胆汁産生低下、低血圧、血清アミノ基転移酵素レベル上昇、アルカリホスファターゼレベル上昇、黄疸、嗜眠、アシドーシス、高ビリルビン血症および/または血小板減少症の群から選択される少なくとも1つの上記の超急性免疫拒絶反応関連症状の改善に用いられることができる。
【0071】
いくつかの場合において、上記の血液製品は、血漿、血清アルブミン、胎盤血清アルブミン、静注用免疫グロブリン、筋注用免疫グロブリン、ヒスタミン免疫グロブリン、特異的免疫グロブリン、B型肝炎免疫グロブリン、狂犬病免疫グロブリン、破傷風免疫グロブリン、血液凝固因子VIII、プロトロンビン複合体、フィブリノゲン、抗リンパ球免疫グロブリン、アンチトロンビンIII、外用凍結乾燥フィブリン接着剤、凍結乾燥トロンビンおよび/またはS/D-FFPを含んで良い。
【0072】
発明目的:臨床異種赤血球輸血における既存の免疫拒絶反応を解決するために、本発明は、遺伝子ノックアウトブタの血液製品の調製におけるCRISPR/Cas9ベクター組合わせの使用を提供する。
【0073】
技術方案:GGTA1遺伝子、CMAH遺伝子およびβ4GalNT2遺伝子がノックアウトされた遺伝子ノックアウトブタの血液製品の調製における、SEQ ID No:1で表される特異性標的GGTA1遺伝子のSgRNAヌクレオチド配列を有するGGTA1-CRISPR/Cas9ベクター、SEQ ID No:2で表される特異性標的CMAH遺伝子のSgRNAヌクレオチド配列を有するCMAH-CRISPR/Cas9ベクター、およびSEQ ID No:3で表される特異性標的β4GalNT2遺伝子のSgRNAヌクレオチド配列を有するβ4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクターを含む本発明に記載のCRISPR/Cas9ベクター組合わせの使用である。
【0074】
例えば、上記の血液製品は、赤血球であって良い。
【0075】
例えば、上記のGGTA1-CRISPR/Cas9ベクターのヌクレオチド配列は、SEQ ID No:4で表され、上記のCMAH-CRISPR/Cas9ベクターのヌクレオチド配列は、SEQ ID No:5で表され、上記のβ4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクターのヌクレオチド配列は、SEQ ID No:6で表される。
【0076】
ここで、上記のCRISPR/Cas9ベクターの組合わせは、
(1)BbsI酵素でpX330 プラスミドを酵素消化し、アガロースゲルで、酵素消化されたプラスミドを分離後、ゲル回収キットにより酵素消化産物を精製回収し、
(2)SgRNAヌクレオチド配列の5’末端にCACCを付加し、順方向オリゴヌクレオチド配列が得られ、その相補鎖の5’末端にAAACを付加し、逆方向オリゴヌクレオチド配列が得られ、それぞれ順方向と逆方向オリゴヌクレオチド配列を合成後、アニールして二本鎖断片が得られ、
(3)工程(1)で得られた酵素消化産物と工程(2)で得られた二本鎖断片を、リガーゼで連結し、
(4)工程(3)で得られたシステムを、Plasmid-Safeエキソヌクレアーゼで処理することによって、誤って連結したプラスミドを除去し、
(5)工程(4)で得られた組換えプラスミドを、コンピテント細胞に転換して培養し、
(6)工程(5)で培養されたコンピテント細胞から組換えプラスミドを抽出し、シーケンスを行うことによってベクターが構築に成功したことを特定するといった方法によって、
構築して得られる。
【0077】
上記のCRISPR/Cas9ベクターは、GGTA1-CRISPR/Cas9ベクターである場合、工程(2)に記載のSgRNAヌクレオチド配列がSEQ ID No:1で表されて良く、CMAH-CRISPR/Cas9である場合、工程(2)に記載のSgRNAヌクレオチド配列がSEQ ID No:2で表されて良く、β4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクターである場合、工程(2)に記載のSgRNAヌクレオチド配列がSEQ ID No:3で表されて良い。
【0078】
CRISPR/Cas9ベクター組合わせは、遺伝子ノックアウトブタの血液製品の調製における使用が、
(1)CRISPR/Cas9ベクター組合わせをブタ胎児線維芽細胞に転換する工程、
(2)工程(1)で得られた線維芽細胞に耐性スクリーニングを行い、耐性のある線維芽細胞に対してPCRで増幅された遺伝子をシーケンスすることによって、GGTA1遺伝子、CMAH遺伝子およびβ4GalNT2遺伝子がノックアウトされた線維芽細胞を得る工程、
(3)工程(2)で得られた線維芽細胞の核を、除核されたブタ卵母細胞へと移植して胚盤胞期まで培養する工程、
(4)工程(3)で得られた胚盤胞を、代理母ブタへと移植して飼育し、出産を行う工程、
(5)工程(4)で生まれた離乳仔ブタの静脈血を採血して、抗凝固チューブに入れて保存し、赤血球に分離する工程を含んでよい。
【0079】
上記の赤血球の分離工程は、以下のように、抗凝固チューブに保存された血液を遠心管に入れて、PBS溶液で希釈後、Ficoll-paque分離液を加えることで分離システムを形成し、遠心分離によって上から下へ順次に血漿層、単核細胞層、Ficoll-paque層および赤血球層である4層の溶液が得られ、上の3層を廃棄し、PBS溶液で赤血球を洗浄することによって、赤血球溶液が得られる。例えば、上記の分離システムにおける血液、PBS溶液およびFicoll-paque分離液の容積比は、2:2:3であって良い。
【0080】
例えば、上記の遠心分離条件は、19℃、400 gで40 min遠心分離して良い。
【0081】
本発明において、「一(a)」、「一つ(an)」、「上記(the)」、「少なくとも1種類」という用語、およびそれに類似の指示語の使用は、単数および複数の両方を包含するように解するべきである。本明細書で他に指示してないか又は文脈によって明らかに相反していない限り、「少なくとも1種類」という用語に1項または複数項の列挙項(例えば、「少なくとも1種類のAとB」)が後続される場合、この列挙項から選ばれる1項(AまたはB)または2項または複数項の任意の組合わせ(AとB)を示すことが理解されるべきである。
【0082】
本発明において、特に断りがない限り、「含む」、「有する」、「包含する」および「含有する」という用語は、開放的用語、(すなわち、「含むが、これに限定されないことを意味する」)と解釈されるべきである。
【0083】
以下の実施形態は、いかなる理論にもよらず、本発明の装置、方法やシステムの作用形態を釈明することに過ぎなく、本願発明の範囲を限定するものではない
【図面の簡単な説明】
【0084】
附図説明
本願に係る発明の具体的な特徴は、添付の請求項のように示されたものである。本発明に係る特徴やメリットは、以下詳しく記載されている例示的実施形態や図面を参照することによって、より確実的に把握されるだろう。図面に関しては、以下のように概略的に説明する。
【
図1】
図1は、CRISPR/Cas9ベクター組合わせにおける特異性標的GGTA1、CMAHおよびβ4GalNT2遺伝子のSgRNAヌクレオチド配列を示す。
【
図2】
図2は、GGTA1-CRISPR/Cas9ベクターのプラスミドマップを示す。
【
図3】
図3は、CMAH-CRISPR/Cas9ベクターのプラスミドマップを示す。
【
図4】
図4は、β4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクターのプラスミドマップを示す。
【
図5】
図5は、本発明に記載の遺伝子ノックアウトブタ(TKO)の出生時と離乳後の状況を示す。
【
図6】
図6は、本発明に記載の遺伝子ノックアウトブタ(TKO)においてGGTA1遺伝子、CMAH遺伝子およびβ4GalNT2遺伝子がともに成功にノックアウトされたことを示す。
【
図7】
図7A~7Bは、本発明に記載の遺伝子ノックアウトブタ(TKO)とヒト免疫グロブリンの結合状況を示す。
【
図8】
図8は、本発明に記載の遺伝子ノックアウトブタ(TKO)における赤血球抗原フローサイトメトリー結果を示す。
【
図9】
図9A~9Bは、本発明に記載の遺伝子ノックアウトブタ(TKO)における赤血球とヒト血清におけるIgMおよびIgGの結合結果を示す。
【
図10】
図10は、本発明に記載の遺伝子ノックアウトブタ(TKO)における赤血球凝集試験結果を示す。
【
図11】
図11は、本発明に記載の遺伝子ノックアウトブタ(TKO)における赤血球凝集試験結果を示す。
【
図12】
図12は、本発明に記載の遺伝子ノックアウトブタ(TKO)における赤血球凝集力価を示す。
【
図13】
図13は、本発明に記載の遺伝子ノックアウトブタ(TKO)における赤血球凝集試験結果を示す。
【
図14】
図14は、本発明に記載の遺伝子ノックアウトブタ(TKO)における赤血球凝集試験結果を示す。
【
図15】
図15は、本発明に記載の遺伝子ノックアウトブタ(TKO)における赤血球MMA試験結果を示す。
【0085】
実施例
実施例1 CRISPR/Cas9ベクター構築
まず、GGTA1/CMAH/β4GalNT2遺伝子のDNA配列に基づき、標的GGTA1、CMAHおよびβ4GalNT2遺伝子のsgRNA(single guide RNA)を合成し、pX330を骨格プラスミドとして、それぞれGGTA1-CRISPR/Cas9ベクター、CMAH-CRISPR/Cas9ベクターおよびβ4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクターを構築した。
【0086】
1.1 GGTA1-CRISPR/Cas9ベクター調製
まず、Genbankで公開されたブタGGTA1遺伝子配列に基づき、GGTA1遺伝子のエクソン3exon3をCRISPR/Cas9ターゲットとして選び出し、5’末端がG、3’末端がPAM配列(NGG)であるcas9ターゲット設計原理に基づき、SgRNA配列が
図1に示されるように、GAAAATAATGAATGTCAAであるように設計した。そのヌクレオチド配列は、SEQ ID No:1で表される。
【0087】
GGTA1-CRISPR/Cas9ベクターは、以下の通りに、
工程1、5’末端がG、3’末端がPAM配列(NGG)であるcas9ターゲット設計原理に基づき、GGTA1遺伝子上でターゲット位置を探し、
工程2、hSpCas9とgRNAを発現するpX330骨格プラスミド(Addgene plasmid 423230)を購入し、
工程3、SgRNAヌクレオチド配列の5’末端にCACCを付加し、順方向オリゴヌクレオチド配列が得られ、その相補鎖の5’末端にAAACを付加し、逆方向オリゴヌクレオチド配列が得られ、それぞれ
5’ - CACCGAAAATAATGAATGTCAA - 3’(SEQ ID No:7)
3’ - CTTTTATTACTTACAGTTCAAA - 5’(SEQ ID No:8)
である順方向と逆方向オリゴヌクレオチド配列を合成するように、5’末端リン酸化オリゴヌクレオチド鎖SgRNA配列を合成することによって調製される。
【0088】
SgRNA配列は、具体的に、
1、制限エンドヌクレアーゼBbsIで、1μg pX330プラスミドを消化させ、
2、酵素消化されたpX330プラスミドを、アガロースゲル電気泳動して(アガロースゲル濃度1%、即ち、1gアガロースゲルを100 mL電気泳動緩衝液に入れた)分離させ、ゲル回収キット(QIAGEN)により、回収された酵素消化産物を精製し、
3、工程3で合成された順方向と逆方向オリゴヌクレオチド配列を、以下の手順で、
【0089】
【0090】
37℃ 30 min
95℃ 5 min 次に5℃/minレートで25℃に下げるようにアニールし、
4、以下のシステムに従って、
室温反応10 min
工程2でBbsIによる酵素消化されたpX330 50 ng
工程3でアニール後の5’末端リン酸化オリゴヌクレオチド
(容積比1:250、滅菌水による希釈) 1 μL
2X 快速連結緩衝液(NEB) 5 μL
ddH2O システム10μL迄の充填
サブトータル 10 μL
快速リガーゼ(NEB) 1 μL
合計 11 μL
連結反応を開始させ、
5、Plasmid-Safeエキソヌクレアーゼで、連結システムを処理することによって、誤って連結したプラスミドを除去し、
工程4で得られた連結反応系 11 μL
10XPlasmid-Safe緩衝液(NEB) 1.5 μL
10mM ATP 1.5 μL
Plasmid-Safeエキソヌクレアーゼ(NEB) 1 μL
合計15 μL
37℃30 min反応し、
6、転換
(1)コンピテント細胞(TIANGEN)を50 μL取り出して氷浴中に入れ、
(2)コンピテント細胞が入った遠心管に、工程5で得られた誤った連結が除去されたプラスミド溶液を、15 μL加えて均一に混合後、氷浴中で30 min静置し、
(3)30 min氷浴されたコンピテント細胞を、42℃水浴中で中で60~90 s放置し、次に、氷浴中に速やかに移して、細胞を2~3 min冷却し、
(4)遠心管へ無菌のLB培地(抗生物質を含まず)を900 μL入れて均一に混合後、37℃のシェーカーに入れて150 rpmで振とうしながら45 min培養し、
(5)遠心管を、遠心機に取り付けて12000 rpmで5 min遠心分離してから、900 μLの上澄みを廃棄し、残りの100 μL上澄みでコンピテント細胞ペレットを再懸濁させ、次に、再懸濁させたコンピテント細胞を対応する抗生物質含有LB固体寒天培地に加えて、無菌の塗布バーでコンピテント細胞を均一に塗布し、コンピテント細胞が塗布されたLB固体寒天培地を37℃のインキュベータに逆さまに入れて12~16 h培養し、
7、プラスミドミニで、シーケンスを行い、ターゲティングプラスミド構築が成功したことを確認するといった工程によって、
pX330骨格ベクター上にクローンした。
【0091】
構築されたCRSAPR/Cas9ベクターは、GGTA1-CRISPR/Cas9と命じられ、そのヌクレオチド配列がSEQ ID No:4で表される。
【0092】
1.2、CMAH-CRISPR/Cas9ベクター調製
まず、Genbankで公開されたブタCMAH遺伝子配列に基づき、CMAH遺伝子のエクソン6exon6をCRISPR/Cas9ターゲットとして選び出し、5’末端がG、3’末端がPAM配列(NGG)であるcas9ターゲット設計原理に基づき、SgRNAガイド配列が
図1に示されるように、GAGTAAGGTACGTGATCTGTであるように設計した。そのヌクレオチド配列は、SEQ ID No:2で表される。
【0093】
CMAH-CRISPR/Cas9ベクターは、以下の通りに、
工程1、5’末端がG、3’末端がPAM配列(NGG)であるcas9ターゲット設計原理に基づき、CMAH遺伝子上でターゲット位置を探し、
工程2、hSpCas9とgRNAを発現するpX330骨格プラスミド(Addgene plasmid 423230)を購入し、
工程3、会社が、SgRNAヌクレオチド配列の5’末端にCACCを付加し、順方向オリゴヌクレオチド配列が得られ、その相補鎖の5’末端にAAAC を付加し、逆方向オリゴヌクレオチド配列が得られ、それぞれ
5’ - CACCGGAGTAAGGTACGTGATCTGT - 3’(SEQ ID No:9)
3’ - CCTCATTCCATGCACTAGACACAAA - 5’(SEQ ID No:10)
である順方向と逆方向オリゴヌクレオチド配列を合成するように、5’末端リン酸化オリゴヌクレオチド鎖SgRNA配列を合成することによって調製される。
【0094】
SgRNA配列は、具体的に、
1、制限エンドヌクレアーゼBbsIで、1μg pX330プラスミドを消化させ、
2、酵素消化されたpX330プラスミドを、アガロースゲル電気泳動して(アガロースゲル濃度1%、即ち、1 gアガロースゲルを100 mL電気泳動緩衝液に入れた)分離させ、ゲル回収キット(QIAGEN)により、回収された酵素消化産物を精製し、
3、工程3で合成された順方向と逆方向オリゴヌクレオチド配列を、以下の手順で、
【0095】
【0096】
37℃ 30 min
95℃ 5 min 次に5℃/minレートで25℃に下げるようにアニールし、
4、以下のシステムに従って、
室温反応10 min
工程2でBbsIによる酵素消化されたpX330 50 ng
工程3でアニールされた5’末端リン酸化オリゴヌクレオチド(容積比1:250、滅菌水による希釈) 1 μL
2X 快速連結緩衝液(NEB) 5 μL
ddH2O システム10μL迄の充填
サブトータル 10 μL
快速リガーゼ(NEB) 1 μL
合計 11 μL
5、Plasmid-Safeエキソヌクレアーゼで、連結システムを処理することによって、誤って連結したプラスミドを除去し、
工程4で得られた連結反応系 11 μL
10XPlasmid-Safe緩衝液(NEB) 1.5 μL
10mM ATP 1.5 μL
Plasmid-Safeエキソヌクレアーゼ(NEB) 1 μL
合計 15 μL
37℃30 min反応し、
6、転換
(1)コンピテント細胞(TIANGEN)を50 μL取り出して氷浴中に入れ、
(2)コンピテント細胞が入った遠心管に、工程5で得られた誤った連結が除去されたプラスミド溶液を、15 μL加えて均一に混合後、氷浴中で30 min静置し、
(3)30 min氷浴されたコンピテント細胞を、42℃水浴中で中で60~90 s放置し、次に、氷浴中に速やかに移して、細胞を2~3 min冷却し、
(4)遠心管へ無菌のLB培地(抗生物質を含まず)を900 μL入れて均一に混合後、37℃のシェーカーにいれて150 rpmで振とうしながら45 min培養し、
(5)遠心管を、遠心機に取り付けて12000 rpmで5 min遠心分離してから、900 μLの上澄みを廃棄し、残りの100 μL上澄みでコンピテント細胞ペレットを再懸濁させ、次に、再懸濁させたコンピテント細胞を対応する抗生物質含有LB固体寒天培地に加えて、無菌の塗布バーでコンピテント細胞を均一に塗布し、コンピテント細胞が塗布されたLB固体寒天培地を37℃のインキュベータに逆さまに入れて12~16 h培養し、
7、プラスミドミニで、シーケンスを行い、ターゲティングプラスミド構築が成功したことを確認するといった工程によって、
pX330骨格ベクター上にクローンした。
【0097】
構築されたCRSAPR/Cas9ベクターは、CMAH-CRISPR/Cas9と命じられ、そのヌクレオチド配列がSEQ ID No:5で表される。
【0098】
1.3、β4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクター調製
まず、Genbankで公開されたブタβ4GalNT2遺伝子配列に基づき、β4GalNT2遺伝子のエクソン8exon8をCRISPR/Cas9ターゲットとして選び出し、5’末端がG、3’末端がPAM配列(NGG)であるcas9ターゲット設計原理に基づき、ガイド配列が
図1に示されるように、GGTAGTACTCACGAACACTCであるように設計し、ヌクレオチド配列がSEQ ID No:3で表される。
【0099】
β4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクターは、以下の通りに、
工程1、5’末端がG、3’末端がPAM配列(NGG)であるcas9ターゲット設計原理に基づき、β4GalNT2遺伝子上でターゲット位置を探し、
工程2、hSpCas9とgRNAを発現するpX330骨格プラスミド(Addgene plasmid 423230)を購入し、
工程3、会社が、SgRNAヌクレオチド配列の5’末端にCACCを付加し、順方向オリゴヌクレオチド配列が得られ、その相補鎖の5’末端にAAACを付加し、逆方向オリゴヌクレオチド配列が得られ、それぞれ
5’ - CACCGGTAGTACTCACGAACACTC - 3’(SEQ ID No:11)
3’ - CCATCATGAGTGCTTGTGAGCAAA - 5’(SEQ ID No:12)
である順方向と逆方向オリゴヌクレオチド配列を合成するように、5’末端リン酸化オリゴヌクレオチド鎖SgRNA配列を合成することによって調製される。
【0100】
SgRNA配列は、具体的に、
1、制限エンドヌクレアーゼBbsIで、1μg pX330プラスミドを消化させ、
2、酵素消化されたpX330プラスミドを、アガロースゲル電気泳動して(アガロースゲル濃度1%、即ち、1gアガロースゲルを100 mL電気泳動緩衝液に入れた)分離させ、ゲル回収キット(QIAGEN)により、回収された酵素消化産物を精製し、
3、工程3で合成された順方向と逆方向オリゴヌクレオチド配列を、以下の手順で、
【0101】
【0102】
37℃ 30 min
95℃ 5 min 次に5℃/minレートで25℃に下げるようにアニールし、
4、以下のシステムに従って、
室温反応10 min
工程2でBbsIによる酵素消化されたpX330 50 ng
工程3でアニールされた5’末端リン酸化オリゴヌクレオチド
(1:250 v/v、滅菌水による希釈) 1 μL
2X 快速連結緩衝液(NEB) 5 μL
ddH2O システム10μL迄の充填
サブトータル 10 μL
快速リガーゼ(NEB) 1 μL
合計 11 μL
連結反応を開始させ、
5、Plasmid-Safeエキソヌクレアーゼで、連結システムを処理することによって、誤って連結したプラスミドを除去し
工程4で得られた連結反応系 11 μL
10XPlasmid-Safe緩衝液(NEB) 1.5 μL
10mM ATP 1.5 μL
Plasmid-Safeエキソヌクレアーゼ(NEB) 1 μL
合計 15 μL
37℃30 min反応し、
6、転換
(1)コンピテント細胞(TIANGEN)を50 μL取り出して氷浴中に入れ、
(2)コンピテント細胞が入った遠心管に、工程5で得られた誤った連結が除去されたプラスミド溶液を、15 μL加えて均一に混合後、氷浴中で30 min静置し、
(3)30 min氷浴されたコンピテント細胞を、42℃水浴中で中で60~90 s放置し、次に、氷浴中に速やかに移して、細胞を2~3 min冷却し、
(4)遠心管へ無菌のLB培地(抗生物質を含まず)を900 μL入れて均一に混合後、37℃のシェーカーに入れて150 rpmで振とうしながら45 min培養し、
(5)遠心管を、遠心機に取り付けて12000 rpmで5 min遠心分離してから、900 μLの上澄みを廃棄し、残りの100 μL上澄みでコンピテント細胞ペレットを再懸濁させ、次に、再懸濁させたコンピテント細胞を対応する抗生物質含有LB固体寒天培地に加えて、無菌の塗布バーでコンピテント細胞を均一に塗布し、コンピテント細胞が塗布されたLB固体寒天培地を37℃のインキュベータに逆さまに入れて12~16 h培養し、
7、プラスミドミニで、シーケンスを行い、ターゲティングプラスミド構築が成功したことを確認するといった工程によって、
pX330骨格ベクター上にクローンした。
【0103】
構築されたCRSAPR/Cas9ベクターは、β4GalNT2-CRISPR/Cas9と命じられ、そのヌクレオチド配列がSEQ ID No:6で表される。
【0104】
哺乳動物に幅広く存在しそれぞれがGGTA1/CMAH/β4GalNT2遺伝子を発現するGGTA1-CRISPR/Cas9ベクター、CMAH-CRISPR/Cas9ベクターおよびβ4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクター(そのマップがそれぞれ
図2、3および4を参照)は、U6プロモーター、CMV併用ニワトリβ-アクチン(CMV-chicken-β-actin enhancer)遺伝子のエンハンサーを含み、且つ、哺乳動物細胞におけるスクリーニングのための耐性遺伝子ーネオマイシン(Neomycin)遺伝子と原核細胞におけるスクリーニングのための耐性遺伝子ーアンピシリン(ampicillin)遺伝子を持つ。このような幅広く発現されるβ-骨格筋アクチン(CMV-chicken-β-actin promoter)遺伝子のU6プロモーターは、下流遺伝子の幅広い発現を保証することができる。
【0105】
実施例2 体細胞クローン方法によるGGTA1/CMAH/β4GalNT2のトリプルノックアウトブタの構築
実施例1で構築されたGGTA1-CRISPR/Cas9ベクター、CMAH-CRISPR/Cas9ベクターおよびβ4GalNT2-CRISPR/Cas9ベクターを、tdTomatoプラスミドによってブタ胎児線維芽細胞にコトランスフェクションした。単細胞クローンは、G418スクリーニングによって得られ、GGTA1/CMAH/β4GalNT2のトリプルノックアウトブタ胎児線維芽細胞は、シーケンス同定によって得られ、GGTA1/CMAH/β4GalNT2のトリプルノックアウトランドレースブタは、体細胞核移植(SCNT)によって作出された。出生直後の子ブタにおけるゲノムを抽出し、PCRプライマーで増幅を行い、Tベクターを連結することによって遺伝子型決定を行った。
【0106】
工程1、ブタ初代線維芽細胞回復
1、液体窒素から凍結保存された初代ブタ線維芽細胞を取り出し、37℃の水浴中で中で融解し、
2、融解された細胞を、15 mLの無菌遠心管に移し、次に、細胞培地を3 mL加え、1500 rpmで5 min遠心分離し、
ここで、細胞完全培地のレシピは、ウシ胎児血清(Gibco)16%とDMEM培地(Gibco)84%であり、上記の百分率は、体積百分率であった。
【0107】
3、上澄みを廃棄し、完全培地を2 mL加えて、細胞ペレットを再懸濁させ、次に、再懸濁させた細胞を6 cmの細胞培養皿に敷き広げ、完全培地を2 mL追加し、37℃、5%CO2(体積百分率)の恒温インキュベータに入れて培養し、
4、細胞を、皿底の90%程度にはびこるまで培養後、0.05%(5 g/100 mL)のトリプシンで細胞を消化し、次に、完全培地を加えることによって消化を終止させ、細胞懸濁液を15 mLの遠心管に移し、1500 rpmで5min遠心分離し、上澄みを廃棄し、2 mLの完全培地で細胞を再懸濁させ、細胞をカウントして、次のヌクレオフェクション実験に用いられるように、細胞の総量を1.5×106に調整した。
【0108】
工程2、構築されたGGTA1-PX330、CMAH-PX330、β4GalNT2-PX330およびtdTomatoプラスミド(Clontech, PT4069-5)によるブタ初代線維芽細胞のコトランスフェクション
哺乳動物線維芽細胞ヌクレオフェクションキット(Lonza)およびLonza NucleofactorTM2bヌクレオフェクターによるヌクレオフェクション実験
1、ヌクレオフェクション反応液を調製する場合、システムは、以下の通りであっり、
ヌクレオフェクション基質溶液 82 μL
補助成分 8 μL
2、構築された3つのプラスミドとTdtomatoプラスミドを、過程の中で気泡が発生しないようにそれぞれ質量比が5:1の比率で本工程1で得られた100 μLのヌクレオフェクション反応液に加えて均一に混合し、
3、工程1で調製により得られた細胞懸濁液を、DPBSダルベッコリン酸緩衝液(Gibco)で2回洗って、37℃で2 min消化し、10%体積百分率のウシ胎児血清含有DMEM完全培地で消化を終止後、1500 rpmで5 min遠心分離し、上澄みを廃棄し、本工程2におけるプラスミド含有ヌクレオフェクション反応液で、過程の中で気泡が発生しないように細胞を再懸濁させ、
4、該ヌクレオフェクションシステムを、気泡が発生しないようにキットの持つエレクトロポレーションカップに加えた。まず、PBSを100 μL含有するエレクトロポレーションカップを、Lonzaヌクレオフェクターのカップ溝にセットし、U023ヌクレオフェクションプログラムをプログラムをデバッガとして選択後、細胞含有エレクトロポレーションカップを電気穿孔した直後、超クリーンベンチからエレクトロポレーションカップ内の液体を軽く吸い出し、1 mLの16%体積百分率のウシ胎児血清を含有するDMEM完全培地に移して、軽く均一に混合し、
5、8 mL完全培地含有培養皿(10 cm)をいくつか用意しており、ヌクレオフェクションされた細胞懸濁液を吸い上げて完全培地含有培養皿に加えて均一に混合し、顕微鏡にて細胞数を観察しながらカウントすることによって、培養皿に顕微鏡の1つの視野における細胞が約50~60個になり、残りの皿にいずれもこの細胞懸濁液の最終用量で加えて、均一に混合後、37℃で5%CO2の恒温インキュベータに入れて培養した。
【0109】
工程3、トリプルノックアウト細胞株のスクリーニング
1、工程2で得られた細胞を24 h培養後、細胞培地を1 mg/mLのG418含有完全培地に交換して、37℃で5%CO2の恒温インキュベータに入れて培養し、ここで、2~3日におき、細胞培地を1回交換し、その間に細胞成長様子によって、最終濃度が0.3 mg/mLになるように G418の薬物濃度を徐々に低減し、また、培養して10~14日ぐらいに、G418耐性のモノクローナル細胞株が、培養皿の中で次第に成長し、
2、クローニングリングを用いて、細胞株を選別し、選別されたモノクローナル細胞株を、0.3 mg/mLのG418完全培地が敷き広げられた24ウェルプレートに接種し、37℃で5%CO2の恒温インキュベータで培養し、ここで、細胞培地が2~3日におき1回交換され、
3、24ウェルプレートのウェル中で細胞がウェルの底部にはびこると、トリプシンで細胞を消化して採集し、ここで、細胞の4/5が0.3 mg/mL G418完全培地含有12ウェルプレートまたは6ウェルプレート(細胞量による)に接種され、残りの1/5が24ウェルプレートに残留して培養され続け、
4、12ウェルプレートまたは6ウェルプレート中で細胞がウェルの底部にはびこると、0.05%(5 g/100 mL)のトリプシンで細胞を消化して採集し、細胞凍結保存液(90%ウシ胎児血清+10%DMSO、容積比)を用いて細胞を凍結保存し、
工程4、トリプルノックアウト細胞株の遺伝子同定
1、24ウェルプレー中で細胞がウェルの底部にはびこると、0.05%(5g/100 mL)のトリプシンで細胞を消化して採集し、次に、細胞に25 ml NP-40ライセートを加えて、細胞を融解しながら細胞ゲノムDNAを抽出し、ここで、融解プログラム:55℃ 60 min-95℃ 5 min-4℃であり、反応が終わると、ゲノムDNAを-20℃で保存し、
2、GGTA1/CMAH/β4GalNT2遺伝子ターゲット情報に対して、対応するPCRプライマーが設計されており、その配列が、それぞれ以下の通りであった。
【0110】
GGTA1
順方向プライマー:5’-CCTTAGTATCCTTCCCAACCCAGAC-3’(SEQ ID No:13)
逆方向プライマー:5’-GCTTTCTTTACGGTGTCAGTGAATCC-3’(SEQ ID No:14)
PCR標的産物の長さが428 bpであって、
CMAH
順方向プライマー:5’-CTTGGAGGTGATTTGAGTTGGG-3’(SEQ ID No:15)
逆方向プライマー:5’-CATTTTCTTCGGAGTTGAGGGC-3’(SEQ ID No:16)
PCR標的産物の長さが485 bpであって、
β4GalNT2
順方向プライマー:5’-CCCAAGGATCCTGCTGCC-3’(SEQ ID No:17)
逆方向プライマー:5’-CGCCGTGTAAAGAAACCTCC-3’(SEQ ID No:18)
PCR標的産物の長さが399 bpであって、
3、PCR反応を用いて、GGTA1/CMAH/β4GalNT2ターゲット遺伝子を増幅し、ここで、PCR反応系が以下の通りであった。
【0111】
細胞ゲノムDNA 2 μL
GGTA1順方向プライマー(10pM) 1 μL
GGTA1逆方向プライマー(10pM) 1 μL
2X Taq酵素プレミックス 25 μL
dd H2O 21 μL
合計 50 μL
反応条件が以下の通りである。
【0112】
【0113】
CMAHターゲット遺伝子の増幅は上述工程と同じであり、β4GalNT2ターゲット遺伝子の増幅は上述工程と同じである。
【0114】
4、PCR反応産物を、アガロースゲル電気泳動して(1%、即ち、1 gアガロースゲルを100 mL電気泳動緩衝液に入れた)、電気泳動が終ると、紫外線下で標的バンドを切り出し、次に、ゲル回収キット(QIAGEN)により標的バンドを回収し、回収されたPCR産物に対して、NanoDrop 200によって濃度を測定し、
5、回収されたいPCR産物を、TAKARA pMDTM18-T Vector Cloning Kitで Tベクターと連結し、ここで、Tベクター反応系が以下の通りである。
【0115】
pMD18-T vector 1μL
ゲル回収によるPCR産物 81.7 ng*
ddH2O システム10 μL迄の充填
*注釈:TAKARA pMDTM18-T Vector Cloning Kit 明細書によれば、Insert DNA(今回がゲル回収によるPCR産物)使用量が0.1~0.3 pMと要求され、今回が0.2 pMと選び出され、使用量算出方法:Insert DNA の使用量(ng)=nmol 数×660×Insert DNA の bp 数。
【0116】
Tベクターと連結する反応条件は、16℃で30 min反応し、
6、本工程5で得られたTベクターと産物を連結し、コンピテント細胞(TIANGEN)により転換後、コンピテント細胞をAmp耐性のLB寒天固体培地上に塗布し、37℃で恒温インキュベータ中で一晩培養し、
一晩培養された培地からモノクローナルコロニーを10~15つ選び出し、シーケンス会社にシーケンスしてもらって、そして、シーケンス結果をターゲットGGTA1/CMAH/β4GalNT2情報と比較し、該細胞株がGGTA1/CMAH/β4GalNT2遺伝子ノックアウト細胞株であるかどうかを判断し、
今回は、選出されたモノクローナル細胞株が合計27個があり、その中で3つの遺伝子が同時にノックアウトされた二対立遺伝子ノックアウト細胞株が1つあり、番号が50#であり、該クローン遺伝子型を表1に示した。
【0117】
【0118】
結果から、GGTA1(表1に、WTのGGTA1断片におけるヌクレオチド配列がSEQ ID No:19で表される)、CMAH(表1に、WTのCMAH断片におけるヌクレオチド配列がSEQ ID No:20で表される)、β4GalNT2(表1に、WTのβ4GalNT2断片におけるヌクレオチド配列がSEQ ID No:21で表される)遺伝子をノックアウトする効率がそれぞれ56%、63%と41%であったことを示した。
【0119】
GGTA1/CMAH/β4GalNT2トリプルノックアウトは、gGTA1/CMAH両遺伝子ノックアウトよりも、ヒトのIgM、IgGとの結合が有意に低減したために、トリプルノックアウトが必要である。
【0120】
工程5、体細胞核移植
1、屠畜場から6ヶ月齢以上の雌ブタの卵巣を購入して、卵胞から未成熟の卵母細胞を人工的に取り出し、顕微鏡下で品質の良い卵母細胞を選別して38.5℃、5%CO2の恒温インキュベータに入れて卵母細胞が成熟するまで42~44h培養し、
2、該工程(1)で成熟した卵母細胞を、顕微作業システムで除核し、工程4で得られたGGTA1/CMAH/β4GalNT2ノックアウトモノクローナル細胞株を回復させると、GGTA1/CMAH/β4GalNT2ノックアウト細胞を、核ドナーとしてそれぞれ各除核卵母細胞に1つずつ注入し、
3、注入済みの細胞によって、電気細胞融合技術で核移植された再構成胚を活性化させ、38.5℃のインキュベータに入れて5日培養することによって、桑実胚に発育させ、
4、発育状況の良好な胚を、代理母ブタの世話にするようにその子宮に移植して1ヶ月後に、B-超音波により受容体ブタの妊娠状況を検出し、また、この間に代理母ブタが出産するまでに直ちに監視していた。
【0121】
工程6、トリプルノックアウトランドレースブタの遺伝子型判定
1、GGTA1/CMAH/β4GalNT2遺伝子ノックアウト子ブタを出産後、子ブタ耳部組織をカットして、血液/細胞/組織ゲノムDNAでキット(TIANGEN)を取り出すことによって子ブタゲノムDNAを抽出し、
2、本工程1で得られた子ブタゲノムDNAを用いて、反応条件が工程4の3と同じであるPCR反応を行って、次に、PCR反応産物をシーケンス会社にシーケンスしてもらって、次に、シーケンス結果とGGTA1/CMAH/β4GalNT2遺伝子ターゲット配列を比較した。
【0122】
今回、GGTA1/CMAH/β4GalNT2ノックアウトブタ(TKO)は、番号が1~8(
図5で表される)で合計8匹生まれ、8匹の雄ブタが細胞遺伝子型の結果と一致した。
【0123】
実施例2における工程に従って、実施例1で構築されたGGTA1-CRISPR/Cas9ベクターを単独に用いて、GGTA1単一遺伝子ノックアウト(GGTA1-KO)ブタを得た。
【0124】
実施例3 GGTA1/CMAH/β4GalNT2ノックアウトブタの特性
3.1、GGTA1/CMAH/β4GalNT2ノックアウトブタのGGTA1/CMAH/β4GalNT2が確実にノックアウトされた
実施例2で調製されたGGTA1/CMAH/β4GalNT2がノックアウトされたブタ(TKO)は、離乳後、採血を行って、末梢血単核細胞(PBMC)を分離することによって、フローサイトメーターで子ブタの遺伝子ノックアウトの様子が測定された。
【0125】
PBMCの分離は、抗凝血剤を100 μL取り、3倍体積の赤血球ライセート(BD、脱イオン水で10倍希釈)を加えて、室温で5min~10 min融解することによって行われた。遠心分離後、上澄みを廃棄して、予冷洗浄液0.1%FBS(溶媒がPBSで、0.1%が 0.1g FBS/100 mL PBSである)(細胞沈降強化)によって、濯いて遠心分離することによって、PBMCペレットが得られた。
【0126】
商業化されているヒト血清を56℃中で水浴ポット30 min失活後、インキュベーションで得られたPBMCを、氷上で2hインキュベートして、5000 rpmで5 min遠心分離し、PBSで3回洗い、10%容積比のヤギ血清で4℃で30 minブロッキング後、PBSで3回洗った。特異的結合されたGGTA1、CMAHおよびβ4GalNT2の抗体とをインキュベート後、PBSで抗体を洗い落として再懸濁させることによって、機器に入れて平均蛍光強度を検出した。
【0127】
結果は、上から順次にGGTA1、CMAHとβ4GalNT2発現を示す
図6で表される。その中、PBS対照群がブランク対照、アイソタイプ対照群がニワトリIgY、WTが野生型ブタである。結果によると、TKOブタは、このような3種類の抗原(α-1,3-ガラクトシル転移酵素 (GGTA1)、CMP-N-アセチルノイラミン酸ヒドロキシラーゼ(CMAH)とβ-1,4-N-アセチルガラクトサミン転移酵素2(β4GalNT2))を発現しなく、即ち、TKOにおけるGGTA1遺伝子、CMAH遺伝子およびβ4GalNT2遺伝子がいずれも成功にノックアウトされたことを示した。
【0128】
3.2、末梢血単核細胞(PBMC)とヒト血清免疫グロブリンの結合レベル
3.1における方法で、実施例2で調製されたGGTA1/CMAH/β4GalNT2ノックアウトブタ(TKO)、GGTA1-KOブタ、およびヒトと野生型ブタのPBMCを分離した。
【0129】
商業化されているヒト血清を56℃水浴ポット中で30 min失活後、インキュベートして分離されることによって得られた上記のPBMCを、氷上で2 hインキュベートして、5000 rpmで5 min遠心分離し、PBSで3回洗い、10%容積比のヤギ血清で4℃で30 minブロッキング後、PBSで3回洗った。ヒト特異的免疫グロブリン抗体(即ち、抗ヒトIgM抗体と抗ヒトIgG抗体)をインキュベート後、PBSで抗体を洗い落として再懸濁させることによって、機器に入れて平均蛍光強度を検出した。
【0130】
結果は、ヒト血清免疫グロブリンIgMおよびIgGとの結合レベルを示す
図7A~7Bで表される。結果によると、TKOのPBMCとヒト免疫グロブリンIgMおよびIgGの結合レベルは、野生型ブタよりも大きく低減し、正常のヒトPBMCの結合レベルとは差が大きくないことを示した。また、GGTA1-KOブタは、野生型ブタよりも少し優れたとしても、ヒト免疫グロブリンIgMおよびIgGとの結合レベルがヒトPBMCとは顕著に異なった。TKOのPBMCは、ヒト超急性免疫拒絶を克服することができることを分かった。
【0131】
実施例4 TKOのRBCの特徴
(1)赤血球(RBCs)分離
実施例2で調製されたGGTA1/CMAH/β4GalNT2ノックアウトブタ(TKO)を固定し、無菌注射器で前大静脈から血液を5mL採血して抗凝固チューブに入れて、4℃で1週間保存した。抗凝固血を2mL取り、15mL遠心管に入れて、また、2 mLのPBS溶液を入れて希釈しながら均一に混合した。希釈された血液を、3mLのFicoll-paque分離液(GE会社)を詰め込んだ15 mLの遠心管にゆっくり加え、上層が血液、下層がFicoll-paque分離液である上下2層になった。19℃、400gで40min遠心分離して取り出されると、液相が上から順次に血漿層、単核細胞層、Ficoll-paque層と赤血球層の4層に分けられた。上層液を廃棄すると共に、赤血球を残し、次に、7 mLのPBS溶液を加えて、再懸濁させながら均一に混合し、19℃、400gで10min遠心分離して取り出すと、上層液を廃棄した。5 mLのPBS溶液を加えて、再懸濁させながら均一に混合し、19℃、400gで10min遠心分離して取り出すと、上層液を廃棄し、2 mLのPBSを加えて再懸濁させることによって用いることができる。
【0132】
ヒトRBCsと野生型ブタ(WT)のRBCsは、それぞれこの方法に従って得られた。
【0133】
(2)IB4レクチンまたはDBAとのインキュベーション
IB4レクチンは、GGTA1の発現産物によって生成されるαガラクトース連結炭水化物と相互作用し、DBAレクチンは、β4GalNT2の発現産物によって生成される炭水化物構造と相互作用した。
【0134】
1×10
5の工程(1)で調製された赤血球を、1.5 mLのEPチューブに入れて、3000 rpmで5 min遠心分離して、上澄み液を廃棄した。200 μLのPBSで希釈されたIB4レクチン(Invitrogenから購入)またはDBAレクチン(Invitrogenから購入)希釈液(希釈比率が1:1000)で細胞ペレットを再懸濁させ、4℃で光を遮って1hインキュベートし、インキュベートされていないレクチンのサンプルをブランク対照とした。PBS溶液で2回洗い、遠心分離によるペレットを200 μLのPBS溶液で再懸濁させ、BD FACSCaliburフローサイトメーターで検出すると共に、FlowJo 10.0ソフトウェアで解析した結果が、
図8に示された。
【0135】
図8の第1列と第2列は、IB4レクチンおよびDBAレクチンとそれぞれインキュベートされた結果を順番に表した。ここで、WTが野生型ブタであった。
図8の結果によると、TKOとヒトのRBC(ヒトO型のRBC)によるIB4レクチンとDBAレクチンへの抗原フローサイトメトリー結果がともにWTと異なって、陰性であったことが示された。
【0136】
(3)Neu5Gc抗体とのインキュベーション
CMAH遺伝子は、糖分子Neu5Gcを合成することができる。
【0137】
1×10
5の工程(1)で調製された赤血球を、1.5 mLのEPチューブに入れて、3000rpmで5min遠心分離して、上澄み液を廃棄した。希釈された200μL 0.5%のブロッキング溶液(哺乳動物血清を含まない)で細胞を再懸濁させ、4℃で光を遮って30minインキュベートした。PBS溶液で2回洗った後、細胞ペレットを、PBS溶液で希釈された200μL Neu5Gc抗体(Purified anti-Neu5Gc Antibody(biolegend, 146903))希釈液(希釈比率1:1000)で再懸濁させ、4℃で1hインキュベートすると、インキュベートされていない抗体サンプルをブランク対照とした。PBS溶液で2回洗った後、細胞ペレットを、PBS溶液で希釈された200μLヤギ抗ニワトリIgY抗体(invitrogen、A11039)希釈液(希釈比率1:1000)で再懸濁させ、光を遮って4℃で1hインキュベートし、3000rpmで5min遠心分離して上澄みを廃棄した。PBS溶液で2回洗った後、遠心分離によるペレットを200μLのPBS溶液で再懸濁させた。BD FACSCaliburフローサイトメーターで検出すると共に、FlowJo 10.0ソフトウェアで解析した結果は、
図8に示された。
【0138】
図8の第3列は、Neu5Gc抗体とインキュベートされた結果を表した。ここで、WTが野生型ブタであった。
図8の結果によると、TKOとヒトのRBC(ヒトO型のRBC)によるNeu5Gc抗体への抗原フローサイトメトリー結果がともにWTと異なって、陰性であったことが示された。
【0139】
(4)ヒトIgG/IgM結合実験
ヒトAB型血清を予め56℃で30minインキュベートして失活させた。1×10
5の工程(1)で調製された赤血球を、1.5 mLのEPチューブに入れて、3000rpmで5min遠心分離すると、上澄み液を廃棄した。PBS溶液で希釈された15%(v/v)200μLヒトAB血清希釈液で細胞ペレットを再懸濁させ、4℃で1hインキュベートすると、インキュベートされていないヒトAB血清サンプルをブランク対照とした。PBS溶液で2回洗った後、細胞を10%(v/v)200μLの使用準備済の正常なヤギ血清で再懸濁させ、4℃で30minインキュベートした。PBS溶液で2回洗った後、細胞ペレットを、PBS溶液で希釈された2 00μLヤギ抗ヒトIgGまたはIgM抗体(anti-human IgM(invitrogen、A18842); anti-human IgG(invitrogen、A18830)希釈液(希釈比率1:1000)で再懸濁させ、光を遮って4℃で1hインキュベートした。3000rpmでmin遠心分離して、上澄みを廃棄した。PBS溶液で2回洗った後、遠心分離によるペレットを、200μLのPBSで再懸濁させた。BD FACSCaliburフローサイトメーターで検出すると共に、FlowJo 10.0ソフトウェアで解析した結果が、
図9A~9Bに示された。
【0140】
図9A~9Bの結果によると、ここで、WTが野生型ブタであったことを示した。
図9A~9Bの結果によると、ヒト赤血球とTKOの赤血球のヒトIgGおよびIgMへの結合能がともに野生型ブタの赤血球よりも明らかに低かったことが示された。TKOのRBCsは、ヒト超急性免疫拒絶を克服することができることが分かった。
【0141】
実施例5 赤血球凝集実験
5.1凝集実験
RBCの取得方法は、実施例4を参照した。
【0142】
採取されたブタ血液を3回洗って3%の赤血球懸濁液を調製し、そして、50μL 3%(v/v)のRBCs(WTブタとTKOブタ)懸濁液、および100μL健常ヒト(A、B、ABとO型)の血清を、ガラス試験管にそれぞれ加えて、37℃で30minインキュベートすると、1500g で30s遠心分離して、上澄みを廃棄し、次に、生理食塩水で3回洗って、25 μLの抗ヒトIgG抗体(上海血液バイオメディカル株式会社)を加えて、常温下で1000gで15s遠心分離して軽く振った後、凝集度を観察した。結果は、
図10に示された。
【0143】
図10の結果によると、性別にかかわらず、TKOブタのRBCsとヒトA、B、ABおよびO型の血清凝集強度は、野生型ブタとヒトA、B、ABおよびO型の凝集強度よりも明らかに低かったことが示された。
図10の縦座標における凝集度は、0:凝集または溶血がなし、±:背景が濁り、散在した固くない微小凝集塊があり、振出後、凝集塊が目に見えなく、1+:背景が濁り、散在した固くない微小凝集塊があり、振出後凝集塊が依然として目に見え、2+:固くない凝集塊があり、背景がはっきりしており、振出後背景が濁り、3+:複数の固い凝集塊があり、背景がはっきりしており、4+:1つの固い凝集塊があったと判定された。数が増えるにしたがって、凝集度が増加して行った。
【0144】
抗Aヒトポリクローナル抗体、抗Bヒトポリクローナル抗体および抗Dヒトポリクローナル抗体(すべてが中国医科学アカデミー輸血研究所から購入)の各2滴を、3回洗浄後検出待ちの3%RBCs(WTブタ、TKOブタとヒト)懸濁液の1滴と試験管に加えて均一に混合し、1000gで15秒間遠心分離すると、凝集度を肉眼で観察した。結果は、
図11~12に示された。
【0145】
図11の結果によると、TKOブタの赤血球とヒト血清の凝集反応程度は、野生型ブタの赤血球よりも明らかに弱かったことが示した。
【0146】
図12は、WTブタおよびTKOブタの赤血球のそれぞれのヒトAB血清との凝集反応の力価を示す。凝集現象が明らかに発生されるRBCの最も高い希釈度を凝集反応の力価とした。
図12において、凝集度は、0:凝集または溶血がなし、±:背景が濁り、散在した固くない微小凝集塊があり、振出後凝集塊が目に見えなく、1+:背景が濁り、散在した固くない微小凝集塊があり、振出後凝集塊が依然として目に見え、2+:固くない凝集塊があり、背景がはっきりしており、振出後背景が濁り、3+:複数の固い凝集塊があり、背景がはっきりしており、4+:1つの固い凝集塊があったと判定された。数が増えるにしたがって、凝集度が増加して行った。+Sは、strong、すなわち増強を示し、+Wは、weak、すなわち減弱を示した。3906(A型)、3353(O型)の血液サンプルはWTブタから、0(A型)、3(O型)の血液サンプルはTKOブタから得られた。
【0147】
5.2ブライン方式による赤血球凝集の検出
RBCs(WTブタ、TKOブタとヒト)の取得方法は、実施例4を参照し、これらのRBCsを供血者赤血球とした。
【0148】
ヒトA型、B型、AB型、O型の血清(すべてが健常献血者から採取)を受血者血清とした。
【0149】
2本の小試験管を取って主管とその対照管として標示した。主管に受血者血清の2滴、および供血者の赤血球懸濁液の1滴を加えて、その対照管にそれぞれ受血者血清の2滴、および受血者の赤血球懸濁液の1滴を加えた。よく振りながら混合して、1000gで15秒間遠心分離すると、凝集度を肉眼で観察した。結果は、
図13に示された。
【0150】
図13の結果によると、抗血液型抗原のIgM抗体による赤血球凝集反応の検出において、TKOブタ赤血球は、ヒトの様々な血液型血清における凝集反応が、野生型ブタ赤血球よりも明らかに低かったことが示された。
【0151】
5.3間接抗ヒトグロブリン法による赤血球凝集の検出
RBCs(WTブタ、TKOブタとヒト)の取得方法は、実施例4を参照し、これらのRBCsを供血者赤血球とした。
【0152】
ヒトA型、B型、AB型、O型の血清(すべてが健常献血者から採取)を受血者血清とした。
【0153】
実施例5.2に記載のブライン方式の操作工程に従って、上記の主管とその対照管のサンプルをローディングして、均一に混合し、37℃下で30分間インキュベートし、赤血球を3回洗って、最後の洗いが終わると、吸いきれて、各管に抗ヒトIgG抗体(上海血液バイオメディカル株式会社から購入)を1滴ずつ入れて混合し、1000gで15秒間遠心分離すると、結果を観察した。結果は、
図14に示された。
【0154】
図14の結果によると、抗血液型抗原のIgG抗体による赤血球凝集反応の検出において、TKOブタの赤血球は、ヒトの様々な血液型血清中における凝集反応が、野生型ブタ赤血球よりも明らかに低かったことが示された。
【0155】
実施例6 ヒト単核細胞・貪食細胞分化関連タンパク質(MMA)試験
材料と方法
1.血液検体
ヒト血液サンプルは、国家献血者健康検査標準に該当する供血者から得られた。5 mL/(ヒト)の全血を採血し、予備のため4℃で保存した。5497(A型)、5119(O型)の血液サンプルはWTブタから、0#(A型)、3#(O型)の血液サンプルは、TKOブタから得られた。
【0156】
2.機器および試薬
リンパ細胞分離液(AS1114545、Axis-Shield、ノルウェー)、RPMI 1640基礎培地(gibco、米国)、ウシ胎児血清(FBS、0500、Sciencell、米国)、ライト・ギムザ染色液(DN0007、Leageneバイオテクノロジー株式会社)、メタノール(シノファーム・グループ)、チャンバーシステム(154534PK、Thermo Fisher、米国)、正立型顕微鏡(BX53、Olympus、日本)であった。
【0157】
3.ヒト末梢血単核細胞(PBMCs)の分離および培養
5mLの全血を50mLの遠心管に移し、等量のPBSを加えて希釈しながら均一に混合した。50mLの遠心管に10mLのリンパ細胞分離液を加えて、希釈された血液を遠心管におけるリンパ細胞分離液の上層に軽く加えて、2200rpm/分間で速度がゆっくりと増加または減少するように室温下で20min遠心分離した。遠心分離後、PBMCが存在する細胞層が白色であり、該層における細胞をもう1つの50mLの遠心管に吸い上げ、PBSを加えて2回洗って、RPMI 1640 +10% FBS培地中で再懸濁させ、チャンバーシステム(1ウェルごとに500 μL、700000個の細胞)に培養し、5% CO2のインキュベーターに、壁着させるように37℃で1時間培養した。
【0158】
4.ブタ赤血球(pRBCs)と血清の共インキュベーション処理
ブタ赤血球pRBC(WTブタとTKOブタ)を吸い上げ、PBSで2回洗ってカウントした。ヒト全血から血清を吸い上げ、1.4×108個の赤血球を200μLの血清と均一に混合させ、5% CO2のインキュベーターに37℃で1時間培養させた。陽性対照群(ヒト抗D抗体とヒト血赤血球のインキュベーション)、陰性対照群(AB型血清とヒトO型赤血球のインキュベーション)をセットした。PBSで3回洗って、500μLの RPMI 1640 +10% FBS培地中で再懸濁させた。
【0159】
5.MMA食作用試験
壁着したPBMCsは、培地を吸い取り、血清と反応したpRBCsを500μL加えて、5% CO2のインキュベーターに37℃で2時間培養し、PBSで2回リンスして、メタノールを室温で45s固定させ、ライト・ギムザ染色液で室温下で1分間染色させ、そして、等量のリン酸塩希釈液を加えて、室温で5min放置し、その後、水で染料を洗い落とし、乾燥後写真をとった。
【0160】
平均食作用係数は、顕微鏡で観察して、写真をとり、600個を超えた細胞をカウントすることによって測定される。平均食作用係数=赤血球を粘着または貪食した細胞数/総細胞数×100%。
【0161】
平均食作用係数の結果は、
図15を参照した。
図15の結果によると、TKOブタは、ヒトへの赤血球輸血による溶血性輸血副作用の可能性が、野生型ブタの赤血球よりもずっと低減したことが示された。
【0162】
ここで、本明細書では、発明者に周知の本発明を実施するための形態を包含する本発明の実施形態を記載した。当該技術分野における当業者にとっては、上記の明細書を読んだうえで、それらの実施形態とその簡易な変形が明らかである。発明者は、当業者が必要に応じてこのような変形を使用可能であると予想し、且つ、本明細書に具体的に記載された形態以外の形態で本発明を実施することを意図している。このため、本発明は、法律の適用により許容される本願の添付の請求範囲に記載した要旨のあらゆる修正と均等物を包含する。また、本明細書に特に説明しないまたは文脈と明確に矛盾しない限り、本発明は、上述のような要素のあらゆる可能な変形の任意の組合わせを包含する。
【配列表】