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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】耐熱保護用貼着フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/50 20180101AFI20230526BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230526BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20230526BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230526BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230526BHJP
   C09D 167/02 20060101ALI20230526BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20230526BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20230526BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
C09J7/50
B32B27/00 M
B32B27/00 101
C09D5/00 D
C09D7/61
C09D7/65
C09D167/02
C09D175/04
C09J7/38
C09J183/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019109562
(22)【出願日】2019-06-12
(65)【公開番号】P2020200418
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000237237
【氏名又は名称】フジコピアン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】入江 朱加
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 教一
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-197749(JP,A)
【文献】特開2012-223904(JP,A)
【文献】特開2010-135466(JP,A)
【文献】特開2003-246972(JP,A)
【文献】特開2017-014308(JP,A)
【文献】特開2006-152266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/50
B32B 27/00
C09J 7/38
C09J 183/04
C09D 5/00
C09D 167/02
C09D 175/04
C09D 7/61
C09D 7/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる基材の片面にアンカー層、粘着層をこの順に積層した貼着フィルムであって、前記粘着層が少なくともビニル基含有ポリオルガノシロキサン、硬化剤としてSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、およびシリコーンレジンを含有する付加反応型シリコーン組成物の硬化物であるシリコーン樹脂からなり、前記アンカー層が、コロイダルシリカを40~8重量%、樹脂を10~30重量%、エチルシリケート加水分解物を5~30重量%およびポリスチレンスルホン酸を1~30重量%含有することを特徴とする貼着フィルム。
【請求項2】
前記アンカー層中に含有する樹脂がポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、およびアクリルウレタン樹脂の中から選択される、いずれか1種であることを特徴とする、請求項1に記載の貼着フィルム。
【請求項3】
前記ビニル基含有ポリオルガノシロキサンが、ビニル基含有ポリジメチルシロキサンであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の貼着フィルム。
【請求項4】
前記アンカー層の膜厚が0.05~3.00μmであることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の貼着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平滑面を有する被着体に貼着したり取り外したりするリワーク性が良好な、基材フィルム上に、シリコーン組成物を付加反応にて硬化したシリコーン系樹脂からなる粘着層を設けた貼着フィルムに関するものである。また、その用途は、電子部品やその他の物品において、耐熱性が必要な場合の保護フィルムである。
【背景技術】
【0002】
従来、基材上にシリコーン樹脂からなる粘着層を設けた貼着フィルムが提供されていた。表面が平滑な被着体に簡単に貼着でき、不要の際には、前記貼着フィルムを被着体への糊残りが無く取り外すことができ、被着体に影響を与えないものであった。この様なフィルムのなかには、電子部品などの製造途中における保護フィルムとして用いられるものがあり、しばしば高温環境における保護フィルムとして用いられる。例えば特定物性をもつシリコーン系粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープが提案されている。(特許文献1)
【0003】
ここで前記の貼着フィルムの前記基材としてポリエチレンテレフタレート(以下PETと省略する。)フィルムを用いた場合、前記粘着層をなすシリコーン樹脂を塗布・乾燥する加熱処理工程や、被着体に貼着して加熱処理するなどの高温環境にさらされたときに、PETフィルム基材中に含まれている環状三量体などのオリゴマー成分が、架橋密度の低い粘着層の表面にまで移行する。この状態で前記貼着フィルムが被着体に貼着していると、前記のオリゴマー成分が被着体を汚染してしまう不具合が発生する。特に処理温度が150℃を超えると、オリゴマー成分の移行量が多くなる。また、長期間の使用時においても同様の問題が起こることがあった。なお、前記特許文献1においてはこのPETフィルム基材由来のオリゴマー成分の移行に関しては配慮されていない。
【0004】
このPETフィルム基材由来であるオリゴマー成分の粘着層表面への移行を防止する方法として、一般的には粘着層の架橋密度を上げることが考えられるが、この方法ではシリコーン粘着層の柔軟性が下がり、被着物への貼着が困難になる。また、この対策として被着体との貼着力を上げるために、粘着層中の粘着性付与成分を増加すると、貼着フィルムを被着体から取り外す際に、被着体表面や貼着フィルムを破損したり、糊残りを起こすことがあり、結果として前記オリゴマー成分の移行防止と良好なリワーク性の両立は実現していない。
【0005】
PETフィルム基材由来であるオリゴマー成分移行を防止するその他の方法として、ポリエステル樹脂中のオリゴマー成分を取り除くために追加処理を行う方法があり、例えばポリエステル樹脂を特定濃度のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の水溶液に接触処理する方法が提案されている。(特許文献2)しかしながら追加処理を行ったPETフィルムは高価になり、貼着フィルムの製造コストが上昇する。
【0006】
また、オリゴマー成分移行を防止する方法として、ポリエステルフィルムと、その少なくとも片面に設けられたアクリル樹脂および架橋剤からなる組成物の塗布層とからなる光学用ポリエステルフィルムが提案されている(特許文献3)が、オリゴマー移行防止を目的として架橋密度を上げたアクリル樹脂は、粘着層をなすシリコーン樹脂と結合が可能な官能基が少なくなっており、前記アクリル樹脂の上にシリコーン樹脂粘着層を設けた際に、前記アクリル樹脂と粘着層との密着力が低くなり、被着体からの剥離時に粘着層の剥離や糊残りを起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-151360号公報
【文献】特開2004-10657号公報
【文献】特開2005-89622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するために、PETフィルム基材とシリコーン系粘着層との密着性が良好であり、かつ貼着フィルムを被着体に貼着し、高温処理や、長期間使用した場合であっても、基材のオリゴマー成分が被着体を汚染せず、かつ柔軟性を有して被着体に容易に貼着したり、取り外したりが可能な良好なリワーク性を有する貼着フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の問題点に鑑み、PETフィルム基材の少なくとも片面に、アンカー層、シリコーン系粘着層を順次積層した貼着フィルムにおいて、前記アンカー層が樹脂、エチルシリケート加水分解物、コロイダルシリカ、およびポリスチレンスルホン酸を含有してなるものとすることにより、前記粘着層を塗布・乾燥する加熱処理工程あるいは長期間経過後において、前記アンカー層がPETフィルム基材由来オリゴマー成分の移行をブロックし、前記粘着層の表面側まで移行することを防止する効果を有するという知見を得た。その結果、前記貼着フィルムを被着体に貼着し、高温処理したり、長期間使用した場合であっても、前記基材のオリゴマー成分が前記被着体を汚染せず、かつ耐熱性およびリワーク性が良好であるという本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
第1発明は、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる基材の片面にアンカー層、粘着層をこの順に積層した貼着フィルムであって、前記粘着層が少なくともビニル基含有ポリオルガノシロキサン、硬化剤としてSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、およびシリコーンレジンを含有する付加反応型シリコーン組成物の硬化物であるシリコーン樹脂からなり、前記アンカー層が、コロイダルシリカを40~8重量%、樹脂を10~30重量%、エチルシリケート加水分解物を5~30重量%およびポリスチレンスルホン酸を1~30重量%含有することを特徴とする貼着フィルムである。
【0011】
第2発明は、前記アンカー層中に含有する樹脂がポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、およびアクリルウレタン樹脂の中から選択される、いずれか1種であることを特徴とする第1発明に記載の貼着フィルムである。
【0012】
発明は、前記ビニル基含有ポリオルガノシロキサンが、ビニル基含有ポリジメチルシロキサンであることを特徴とする、第1発明または第2発明のいずれかに記載の貼着フィルムである。
【0013】
第4発明は、前記アンカー層の膜厚が0.05~3.00μmであることを特徴とする第1発明~第3発明のいずれかに記載の貼着フィルムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、PETフィルム基材の少なくとも片面に、アンカー層、シリコーン樹脂粘着層を順次積層した貼着フィルムにおいて、前記アンカー層が樹脂、エチルシリケート加水分解物、コロイダルシリカおよびポリスチレンスルホン酸を含有してなるものとすることにより、前記粘着層を塗布・乾燥する加熱処理工程あるいは長期間経過後において、前記アンカー層がPETフィルム基材のオリゴマー成分の移行をブロックし、前記粘着層の表面側まで移行させない。また、前記貼着フィルムを被着体に貼着し、高温処理したり、長期間使用した場合であっても、前記基材のオリゴマー成分が前記被着体を汚染せず、かつ耐熱性、およびリワーク性が良好な貼着フィルムを提供することができるものである。
【0015】
また、前記アンカー層が樹脂とコロイダルシリカに加えてエチルシリケート加水分解物およびポリスチレンスルホン酸を含有してなるものとすることにより、エチルシリケート加水分解物が重合および/または縮合し、またコロイダルシリカとも結合することでシロキサンポリマー構造を形成することで、アンカー層にエチルシリケート加水分解物およびポリスチレンスルホン酸を含まない場合とくらべて、アンカー層の厚みが薄くても、高温処理時や長時間使用にオリゴマー成分の移行をブロックする性能が確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の貼着フィルムを、その構成要素に基づいて、さらに詳しく説明する。
【0017】
(全体構成)
本発明の貼着フィルムは、PETフィルム基材の少なくとも片面に、アンカー層、シリコーン系粘着層を順次積層した貼着フィルムにおいて、前記アンカー層が樹脂、エチルシリケート加水分解物、コロイダルシリカおよびポリスチレンスルホン酸を含有してなるものである。
【0018】
(基材フィルム)
本発明で使用する基材としては、例えば粘着層の熱架橋時の取り扱い性、コストの面から二軸延伸されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが好ましい。基材フィルムの厚みは、通常4~400μmの範囲のものが用いられ、好ましくは5~100μmのものが用いられる。
【0019】
前記PETフィルムとして、その表面を活性線で処理したPETフィルムを使用することができる。活性線による処理方法としては、コロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、火炎処理等が例示される。
【0020】
(アンカー層)
本発明では、基材と粘着層の間にアンカー層を設ける。前記アンカー層が樹脂、エチルシリケート加水分解物、ポリスチレンスルホン酸およびコロイダルシリカを含有してなることで、PETフィルム基材およびシリコーン系粘着層とアンカー層との密着性を維持し、PETフィルム基材由来のオリゴマー成分の移行を防止し、さらに被着体貼着後に高温環境を経た後でも、被着体から貼着フィルムを剥がした際に粘着層の被着体への糊残りを生じさせないアンカー層となる。
【0021】
前記アンカー層の厚みは、0.05~3.00μmが良好であり、0.10~1.50μmがより良好である。アンカー層の厚みが0.05μm未満では、アンカー層と基材、アンカー層と粘着層の密着力が不足する。また、オリゴマー成分の移行防止能が不足する。厚みが3.00μmより厚くなると、柔軟性が無くなって貼着フィルムの取り扱い時にアンカー層に割れが発生する。また価格も高くなる。
【0022】
本発明のアンカー層においては、塗工液の流動性やアンカー層が薄膜となっても凹凸を生じず、均一にアンカー層中に分散できてその機能を発揮できる点で、いわゆる湿式製法にて得られるコロイダルシリカを好適に使用する。
【0023】
前記コロイダルシリカのアンカー層中含有量は40~85重量%の範囲が好適である。この範囲内であると、前記アンカー層が十分な耐熱性を持ち、前記貼着フィルムを被着体に貼着して高温環境を経た後で、貼着フィルムと被着体を剥離する際に、粘着層の被着体への糊残りが生じない。含有量が40重量%未満では、本発明における十分な耐熱性が得られず、高温環境を経た後で、貼着フィルムと被着体を剥離する際に、粘着層の被着体への糊残りを生じることがある。含有量が85重量%を超えると、相対的に他成分の比率が少なくなり、本発明のアンカー層の機能である耐熱性、基材やシリコーン粘着層との密着力、PETフィルム基材由来オリゴマー成分の移行防止性能が、それぞれ低くなる。その結果本発明の貼着フィルムを貼着した被着体の取り扱い中に貼着フィルムが剥れたり、高温環境を経た後で、貼着フィルムと被着体を剥離する際に、粘着層の被着体への糊残りを生じたり、オリゴマーによる被着体の汚染が起こることがある。
【0024】
前記コロイダルシリカはその1次粒径が1nm以上50nm未満のものが良好に使用可能であり、1nm以上30nm未満のものがより良好に使用できる。1次粒径が50nm以上であると、前記アンカー層の厚み下限付近において、アンカー層表面凹凸の原因となり、シリコーン粘着層表面の平滑性に影響する。1次粒径が1nm未満のものは市販品としての入手が困難になる。
【0025】
本発明のアンカー層に使用する樹脂としては、PETフィルム基材およびシリコーン系粘着層とアンカー層との密着性を維持するために好適な樹脂が用いられ、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリルウレタン樹脂が好適に使用できる。特にアクリルウレタン樹脂が好適に用いられる。
【0026】
前記アクリルウレタン樹脂は、水酸基および(メタ)アクリロイル基を有するアクリルポリオール系樹脂とイソシアネート系架橋剤が架橋された構造を有するアクリルウレタン樹脂が、柔軟性や耐熱性の観点から好ましい。前記イソシアネート系架橋剤としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHMDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ジフェニルエーテルジイソシアネート(PEDI)、ジアニシジンジイソシアネート(DADI)、p-フェニレンジイソシアネート(PPDI)、イソプロピリデンビス-4-シクロヘキシルジイソシアネート(IPCI)、リジンジイソシアネート(LDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)等や、前記化合物が会合したアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体等の化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0027】
本発明のアンカー層に使用する樹脂は、2官能以上の官能基を持つものを用いることで、PETフィルム基材 とアンカー層の各成分、およびシリコーン粘着層と密着力が良好となる。
【0028】
本発明における樹脂のアンカー層中含有量は10~30重量%の範囲が好ましい。含有量が10重量%未満ではアンカー層の基材との密着力が不足し、所望の性能が得られづらい。含有量が30重量%を超えると、相対的に他成分の比率が少なくなり、本発明のアンカー層の機能である耐熱性、基材やシリコーン粘着層との密着力、PETフィルム基材由来オリゴマー成分の移行防止性能が、それぞれ低くなる。その結果本発明の貼着フィルムを貼着した被着体の取り扱い中に貼着フィルムが剥れたり、高温環境を経た後で、貼着フィルムと被着体を剥離する際に、粘着層の被着体への糊残りを生じたり、オリゴマーによる被着体の汚染が起こることがある。
【0029】
本発明のアンカー層は、エチルシリケート加水分解物およびポリスチレンスルホン酸を含有し、シリケートポリマー構造となることで、PETフィルム基材由来オリゴマー成分の移行を防止する。
【0030】
エチルシリケート加水分解物は、アルコール溶媒等の有機溶媒中、特定量の水および縮合触媒の存在下、あるいは特定量の水の存在下及び縮合触媒の非存在下で、エチルシリケートを加水分解重縮合させて得ることができる。また、市販のエチルシリケート加水分解物を用いても良い。
【0031】
前記エチルシリケート加水分解物のアンカー層中含有量は5~30重量%の範囲が好ましい。含有量が5重量%未満では、前記シリケートポリマー構造の架橋密度が低く、PETフィルム基材由来オリゴマー成分の移行を防止する性能が得られない。含有量が30重量%を超えると、相対的に他成分の比率が少なくなり、本発明における十分な耐熱性が得られず、高温環境を経た後で、貼着フィルムと被着体を剥離する際に、粘着層の被着体への糊残りを生じることがある。またPETフィルム基材由来オリゴマー成分の移行防止性能が低くなり、前記オリゴマー成分による被着体の汚染が起こる。
【0032】
本発明において、ポリスチレンスルホン酸は、エチルシリケート加水分解物がシリケートポリマー構造となる際の触媒として働く。また、本発明におけるアンカー層、粘着層の塗工の際に、基材が帯電していると塗布むらとなる場合がある。これはアンカー層に導電性材料を導入する事で対応が可能であるが、ポリスチレンスルホン酸は導電性もあり、前記導電性材料としての機能も有するために、他の導電性材料を含有せずに帯電防止も可能である。
【0033】
前記ポリスチレンスルホン酸のアンカー層中含有量は1~30重量%が好ましい。含有量が1重量%未満では、触媒として働かなくなったり、帯電防止性能が弱くなったりする。含有量が30重量%を超えると、相対的に他成分の比率が少なくなり、本発明のアンカー層の機能である耐熱性、基材やシリコーン粘着層との密着力、PETフィルム基材由来オリゴマー成分の移行防止性能が、それぞれ低くなる。その結果本発明の貼着フィルムを貼着した被着体の取り扱い中に貼着フィルムが剥れたり、高温環境を経た後で、貼着フィルムと被着体を剥離する際に、粘着層の被着体への糊残りを生じたり、オリゴマーによる被着体の汚染が起こることがある。
【0034】
(粘着層)
本発明の貼着フィルムの粘着層としては、被着体に確実に貼着し、高温環境にさらされたあとでも、糊残りなく剥離可能であることが必要である。このような用途の粘着層としては、耐熱性や柔軟性がある点から、シリコーン組成物を熱による付加反応で硬化してなる、付加反応型のシリコーン樹脂が特に好適に使用可能である。付加反応型のシリコーン樹脂で粘着層を形成し、本発明のアンカー層と組み合わせることで、高温環境にさらされた後でもPETフィルム基材由来オリゴマーの発生がなく、被着体から糊残りなく容易に剥離する貼着フィルムとすることができる。
【0035】
本発明の粘着層に用いる前記付加反応型のシリコーン樹脂としては、シリコーン組成物として1分子中に2個以上のビニル基を有するポリオルガノシロキサンとシリコーンレジン、および硬化剤としてSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンの付加反応により熱硬化してなるものが好適に用いられる。シリコーン組成物として前記ポリオルガノシロキサン、前記シリコーンレジンおよび前記SiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有し、熱硬化することで、好適な粘着層が得られる。
【0036】
以下にシリコーン樹脂を使用した粘着層について、更に詳しく説明する。
【0037】
(シリコーン樹脂粘着層)
本発明の粘着層に用いるシリコーン樹脂の性状としては、ゴムのような柔軟性を持っていて被着体の表面に対しても、粘着層の面が被着体表面に沿うことが求められる。さらに剥離の際には、小さい剥離力で容易に剥離できることが求められる。また、少なくとも厚み5μm以上で、塗布及び加熱処理だけで粘着層を設けるためには、シリコーン組成物の硬化反応に際して、白金触媒などの付加反応触媒のもとで、150℃以下の低温短時間で深部まで硬化し、透明で耐熱性、圧縮永久歪み特性に優れかつ低粘度で液状タイプである、1分子中に2個以上のビニル基を有するジオルガポリシロキサンとシリコーンレジン、および硬化剤としてSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加反応により熱硬化する付加反応型液状シリコーン組成物の使用が好ましい。
【0038】
1分子中に2個以上のビニル基を有するジオルガノポリシロキサンとしては、両末端にのみビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンと、両末端及び側鎖にビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンと、末端にのみビニル基を有する分岐状ジオルガノポリシロキサンと、末端及び側鎖にビニル基を有する分岐状ジオルガノポリシロキサンとから選ばれる少なくとも1種を用いると良い。
【0039】
これらのジオルガノポリシロキサンの1形態としては、両末端にのみビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンで、下記一般式(化1)で表わされる化合物である。
【0040】
【化1】
【0041】
(式中Rは下記の有機基、nは整数を表す。)
【0042】
【化2】
【0043】
(式中Rは下記の有機基、n、mは整数を表す。)
【0044】
このビニル基以外のケイ素原子に結合した有機基(R)は異種でも同種でもよいが、具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、フェニル基、トリル基、などのアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部をハロゲン原子、シアノ基などで置換した同種、または異種の非置換または置換の脂肪族不飽和基を除く1価炭化水素基で、好ましくはその少なくとも50モル%がメチル基であるものなどが挙げられるが、このジオルガノポリシロキサンは単独でも2種以上の混合物であってもよい。
【0045】
両末端および側鎖にビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンは、上記一般式(化1)中のRの一部がビニル基である化合物である。末端にのみビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンは、上記一般式(化2)で表わされる化合物である。末端及び側鎖にビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンは、上記一般式(化2)中のRの一部がビニル基である化合物である。
【0046】
1分子中に2個以上のビニル基を有するジオルガノポリシロキサンの重量平均分子量としては、20,000~700,000の範囲のものが好ましい。前記のジオルガノポリシロキサンの重量平均分子量が20,000未満であると、硬化性が低下したり、被着体への粘着力が低下してしまう。また、700,000を超えてしまうと、組成物の粘度が高くなりすぎて製造時の撹拌が困難になる。
【0047】
本発明の粘着層に用いられるシリコーンレジンとしては、M単位(RSiO1/2:Rはメチル基、フェニル基などの1価の有機基)、D単位(RSiO2/2)、T単位(RSiO3/2)、Q単位(SiO4/2)からなるシリコーンレジンを用いる事ができるが、なかでも粘着層の粘着力を向上させる効果が大きいことから、M単位とQ単位からなる、いわゆる従来公知のMQ型オルガノポリシロキサンレジン(以下MQレジンと略す場合あり)を含有することが好適である。前記MQレジンの粘着層中含有量は、0.01~20.00重量%の範囲とすることが好ましい。特に0.10~15.00重量%の範囲がより好適である。含有量が0.01重量%未満だと、粘着力を向上する効果が得られづらい。含有量が20.00重量%を超えると粘着力が強くなりすぎて、粘着層を被着体から剥離する際に、被着体である薄膜基板や薄膜シートを破損するおそれがある。
【0048】
前記ジオルガノポリシロキサンおよびシリコーンレジンとの組み合わせにおいて、硬化反応に用いる硬化剤は、公知のものでよいが、前記硬化剤の例として、分子内にSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられる。それらの中でも、特にメチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーを使用することが好ましい。前記コポリマーのメチルハイドロジェンシロキサン部分は、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するものが好ましく用いられるが、実用上からは分子中に2個の≡SiH結合を有するものをその全量の50重量%までとし、残余を分子中に少なくとも3個の≡SiH結合を含むものとすることがよい。分子の形状としては、直鎖状、分岐状、環状のものを使用できる。
【0049】
また、前記ビニル基を有するジオルガノポリシロキサン中のビニル基(A)に対する、オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のSiH基(B)のモル比(A)/(B)が1.0~2.0の範囲となるように配合することが好ましい。モル比(A)/(B)が1.0未満では硬化密度が不足して、これに伴い凝集力、保持力が低くなってしまうことがあり、逆に2.0を超えると硬化密度が高くなり、適度な粘着力が得られず、また前記アンカー表面の水酸基とSiH基との結合による十分な密着力が得られづらくなる。
【0050】
硬化反応に用いる付加反応触媒は、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物、白金-オレフィン錯体、白金-ビニル基含有シロキサン錯体、ロジウム錯体、ルテニウム錯体などが挙げられる。また、これらのものをイソプロパノール、トルエンなどの溶剤や、シリコーンオイルなどに溶解、分散させたものを用いてもよい。硬化した粘着層は、シリコーンゴムのような柔軟性を持ったものとなり、この柔軟性が被着体との密着を容易にさせるものである。
【0051】
前記付加反応触媒の添加量はシリコーン組成物の合計100重量部に対し、貴金属分として5~2,000ppm、特に10~500ppmとすることが好ましい。5ppm未満では硬化性が低下して硬化密度が低くなり、保持力が低下することがあり、2,000ppmを超えると塗工液の使用可能時間が短くなる場合がある。
【0052】
本発明に係るシリコーン組成物の市販品の形状は、無溶剤型、溶剤型、エマルション型があるが、いずれの型も使用できる。なかでも、無溶剤型は、溶剤を使用しないため、安全性、衛生性、大気汚染の面で非常に利点がある。但し、無溶剤型であっても、所望の膜厚を得るための粘度調節のために、必要に応じてトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソパラフィンなどの脂肪族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸イソブチルなどのエステル系溶剤、ジイソプロピルエーテル、1、4-ジオキサンなどのエーテル系溶剤、またはこれらの混合溶剤などが使用される。
【0053】
前記溶剤の添加量はシリコーン組成物の合計100重量部に対し、20~1,000重量部、特に25~900重量部とすることが好ましい。20重量部未満では、粘着層とアンカー層の密着性が低下して剥離する場合があり、1,000重量部を超えると、シリコーン組成物の塗工液の粘度が低くなりすぎるので、塗工後から硬化までの間に、塗工された粘着層が一部流動し、粘着層表面の平滑性が低下してしまう。
【0054】
本発明の粘着層の性状としては、ゴムのような柔軟性を持っていて被着体への貼着時に被着体の表面の凹凸に追従して密着力を確保することが求められる。そして、例えば前記部品製造のサポートフィルムとして使用する場合、粘着層の膜厚は、被着体に対する粘着層の密着面方向の剪断力を確保するために少なくとも5μm以上、通常は10~100μmが好ましく、20~50μmであることがより好ましい。5μm未満であると被着体に対する保護部材の密着面方向の剪断力が確保できず、特に長期貼り付け時には、貼着フィルムが被着体から剥がれ易い。また粘着層の厚みが100μmを超える場合には、粘着層を構成する樹脂の使用量が多くなり、貼着フィルムの製造コストの上昇を招いてしまう。
【0055】
本発明における粘着層の形成方法としては、粘着層を構成する樹脂を有機溶剤に溶解し粘度を調整した樹脂溶液を塗工する方法や、粘着層を構成する樹脂を水に分散し塗工する方法等の公知の方法を用いることができる。前記有機溶剤としては一般の有機溶剤を特に制限無く用いることができる。例えば、前記の粘度調節のための有機溶剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
本発明の粘着層のコーティング法としては、コンマナイフコーター、ダイコーター、リバースコーターなどが挙げられる。
【0057】
(セパレータ)
本発明においては、粘着層の表面の汚れや異物付着を防いだり、貼着フィルムのハンドリングを向上させる目的で、プラスチックフィルムからなるセパレータを粘着層面に貼り合わせて用いることが好適である。前記セパレータは、剥離性の高いプラスチックフィルムよりなり、所望により、前記プラスチックフィルムの表面に剥離剤を形成したものが使用される。
【実施例
【0058】
以下、実施例と比較例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、各実施例中の「部」は特に断ることのない限り重量部を示したものである。
【0059】
(エチルシリケート加水分解物の調整)
エチルシリケートに、下記処方にてイソプロピルアルコール、水、塩酸を加えて攪拌し、12時間放置してエチルシリケートの加水分解物(表2、表3の材料D)を得た。

エチルシリケート:多摩化学工業製シリケート40 25.0重量部
イソプロピルアルコール(IPA) 72.0重量部
水 2.0重量部
塩酸 1.0重量部
【0060】
(実施例1~11、比較例1~10)
厚み50μmのPETフィルムを基材として、片面にコロナ放電処理を行い、表2、表3の実施例1~11、比較例1~10に記載の処方にて混合した各実施例、比較例の各アンカー層塗工液を、乾燥後の厚みが表2記載の各々の値になるように調整して、基材のコロナ放電処理した面に塗工し、100℃で2分間有機溶剤を除去し、エチルシリケート加水分解物がシロキサンポリマー構造となる為に加熱して各アンカー層を形成した。その上に下記表1の各粘着層塗工液を乾燥後の厚みが15μmになるように塗工した後、100℃で2分間有機溶剤を除去する為に加熱乾燥してから150℃で100秒間加熱して塗工液を硬化させて粘着層を形成し、実施例1~11、比較例1~10の貼着フィルムを作製した。作製した各貼着フィルムを幅25mmに切断して、厚み1mmのガラス板に各貼着フィルムの粘着層を貼着し、180℃で2分間加熱して室温まで冷却してガラス板に各貼着フィルムを貼着した積層物を作製した。
【0061】
【表1】
単位:重量部
【0062】
各実施例、比較例の材料構成比、評価結果を表2、表3に、各評価方法を下記に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
(評価方法)
【0066】
(基材とアンカー層の密着性評価)
実施例1~11、比較例1~10のアンカー層までを設置したフィルムにおいて、アンカー層を指擦りして、基材とアンカー層の密着性を目視観察し、次の基準により評価した。
◎:指擦り50回で、基材からの脱落無し。
○:指擦り10回以上、50回未満で基材から脱落有り。
×:指擦り10回未満で、基材からの脱落有り。
【0067】
(アンカー層と粘着層の密着性評価)
実施例1~11、比較例1~10の貼着フィルムの粘着層を指擦りして、アンカー層と粘着層の密着性を目視観察し、次の基準により評価した。
◎:指擦り15回で、基材からの脱落無し。
○:指擦り5回以上、15回未満で基材から脱落有り。
×:指擦り5回未満で、基材からの脱落有り。
【0068】
(オリゴマー移行防止性評価)
前記実施例1~11、比較例1~10で作製したガラス板と各貼着フィルムの積層物において、180℃で2分間加熱する前後の積層物のヘーズ値をJIS-K7136に準拠した方法で測定し、その差を以下の基準にて評価し、オリゴマー移行防止性の評価を行った。
○:加熱前後のヘーズ値の差が1.0%未満。
△:加熱前後のヘーズ値の差が1.0%以上、5.0%未満。
×:加熱前後のヘーズ値の差が5.0%以上
測定器:日本電色工業株式会社製NDH-2000
【0069】
(柔軟性評価)
前記実施例1~11、比較例1~10で作製したガラス板と各貼着フィルムの積層物において、貼着フィルムを速度300mm/minで180°剥離を行った際に、貼着フィルムのアンカー層の割れ発生を、目視確認する方法にて剥離性の評価を行った。
評価基準
○:剥離時にアンカー層に割れが発生せず、容易に剥離できた。
×:剥離時にアンカー層に割れが発生した。
【0070】
(粘着層の耐熱、糊残り性評価)
前記実施例1~11、比較例1~10で作製したガラス板と各貼着フィルムの積層物において、貼着フィルムを速度300mm/minで180°剥離を行った際に、貼着フィルム剥離後のガラス板への粘着層の付着を、目視確認する方法にて糊残りの評価を行った。
評価基準
○:粘着層のガラス板上への付着がない。
×:粘着層のガラス板上への付着がある。