(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】剥離シートおよび剥離シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20230526BHJP
C08G 59/68 20060101ALI20230526BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/00 101
C08G59/68
C09K3/00 R
(21)【出願番号】P 2017018965
(22)【出願日】2017-02-03
【審査請求日】2019-10-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】森 裕一
(72)【発明者】
【氏名】深谷 知巳
【合議体】
【審判長】井上 茂夫
【審判官】石田 智樹
【審判官】藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-323284(JP,A)
【文献】特開平2-298511(JP,A)
【文献】特開2005-36084(JP,A)
【文献】特開2002-155136(JP,A)
【文献】特開2013-31928(JP,A)
【文献】特開2016-108512(JP,A)
【文献】特開2014-62057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも一方の面側に設けられた剥離剤層とを備えた剥離シートであって、
前記剥離剤層が、ポリシロキサン骨格を含まないカチオン重合性化合物と、剥離成分と、加熱によりカチオンを放出するカチオン発生剤とを含有する剥離剤組成物から形成されて
おり、
前記剥離成分が、シリコーン系剥離成分、フッ素系剥離成分および長鎖アルキル系剥離成分からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記カチオン発生剤が、下記式(1)
【化1】
で示される構造(式中、R
1
は、p-ヒドロキシフェニル基またはp-アセトキシフェニル基であり、R
2
は、ベンジル基、o-メチルベンジル基またはメチル基であり、R
3
は、メチル基であり、B
-
は、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアンチモネートおよびテトラキスペンタフルオロフェニルボレートから選択されるカウンターアニオンである。)を有する
ことを特徴とする剥離シート。
【請求項2】
前記カチオン重合性化合物は、エポキシ化合物であることを特徴とする請求項
1に記載の剥離シート。
【請求項3】
前記エポキシ化合物は、1分子中に3個以上のエポキシ基を有することを特徴とする請求項
2に記載の剥離シート。
【請求項4】
前記エポキシ化合物は、分子量が200以上、2000以下であることを特徴とする請求項
2または
3に記載の剥離シート。
【請求項5】
前記剥離成分は、前記カチオン重合性化合物と反応可能な反応性基を有することを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載の剥離シート。
【請求項6】
前記剥離成分は、反応性ポリオルガノシロキサンであることを特徴とする請求項
5に記載の剥離シート。
【請求項7】
前記剥離剤組成物中において、前記カチオン重合性化合物の配合量が、前記剥離成分の配合量および前記カチオン発生剤の配合量のそれぞれよりも多いことを特徴とする請求項1~
6のいずれか一項に記載の剥離シート。
【請求項8】
前記剥離剤層における前記基材とは反対側の面において測定される表面自由エネルギーは、25mJ/m
2以上、35mJ/m
2以下であることを特徴とする請求項1~
7のいずれか一項に記載の剥離シート。
【請求項9】
前記剥離シートは、セラミックグリーンシート製造工程用であることを特徴とする請求項1~
8のいずれか一項に記載の剥離シート。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の剥離シートの製造方法であって、
前記基材の少なくとも一方の面側に、前記剥離剤組成物からなる塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を加熱により硬化し、前記剥離剤層を形成する工程と
を備えることを特徴とする剥離シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離シートおよび剥離シートの製造方法に関するものであり、好ましくは、粘着シートの粘着剤層が積層される剥離シート、セラミックグリーンシートの製造に使用可能な剥離シート等、およびこれらの剥離シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、粘着シートの製造において、基材の表面に剥離剤層を設けた剥離シートが使用されている。例えば、剥離シートの剥離剤層における基材とは反対側の面(本明細書において「剥離面」という場合がある。)上に、粘着シートの粘着剤層を形成するための粘着剤組成物の塗布液を塗布し、乾燥させることで粘着剤層を形成した後、当該粘着剤層における剥離シートとは反対の面に粘着シート用の基材を積層することで、粘着剤層と基材とからなる粘着シートを得ることができる。このとき、剥離シートは粘着シートに積層された状態となっているが、これらをこの状態のまま保管することで、剥離シートを、粘着シートの粘着剤層における被着体と接触させる面(本明細書において「粘着面」という場合がある。)の保護のために使用することもできる。
【0003】
また、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板といった積層セラミック製品を製造するには、セラミックグリーンシートを成形し、得られたセラミックグリーンシートを複数枚積層して焼成することが行われている。このようなセラミックグリーンシートは、チタン酸バリウムや酸化チタンなどのセラミック材料を含有するセラミックスラリーを、上記のような剥離シートの剥離面上に塗工することにより成形することができる。
【0004】
このような剥離シートにおいて、剥離剤層は、一般的に、剥離成分を含有する剥離剤組成物を用いて形成される。特許文献1~5には、剥離成分としてカチオン重合性シリコーン樹脂を用いて剥離剤層が形成された剥離シートが開示されている。このカチオン重合性シリコーン樹脂は、カチオン重合開始剤の存在下において、紫外線等の刺激を受けて硬化する。特許文献1~5の剥離シートでは、カチオン重合性シリコーン樹脂とカチオン重合開始剤とを含有する組成物を基材の片面側に塗工し、その塗工膜に対して紫外線を照射し、当該塗工膜を硬化させることで、剥離剤層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4622079号
【文献】特許第5061405号
【文献】特許第4626055号
【文献】特開2012-206509号公報
【文献】特許第5786798号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、剥離シートの剥離面が積層される対象としては、多種多様なものが考えられる。このような対象に対しては、それぞれに最適な剥離シートを使用することが求められる。そのため、剥離シートの選択肢を増やす観点等から、新規の剥離シートの開発が進められている。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、良好な剥離性を有する新規の剥離シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、基材と、前記基材の少なくとも一方の面側に設けられた剥離剤層とを備えた剥離シートであって、前記剥離剤層が、ポリシロキサン骨格を含まないカチオン重合性化合物と、剥離成分と、加熱によりカチオンを放出するカチオン発生剤とを含有する剥離剤組成物から形成されていることを特徴とする剥離シートを提供する(発明1)。
【0009】
上記発明(発明1)に係る剥離シートでは、剥離剤層を形成する際、剥離剤組成物中に含まれるカチオン発生剤が加熱されることでカチオンを放出し、当該カチオンの作用によりカチオン重合性化合物がカチオン重合する。その結果、剥離剤組成物が硬化し、剥離成分を含む剥離剤層が良好に形成される。そして、剥離剤層中に含まれる剥離成分により、剥離シートが良好な剥離性を発揮することができる。
【0010】
上記発明(発明1)において、前記カチオン発生剤は、下記式(1)
【化1】
で示される構造(式中、R
1は、p-ヒドロキシフェニル基またはp-アセトキシフェニル基であり、R
2は、ベンジル基、o-メチルベンジル基またはメチル基であり、R
3は、メチル基であり、B
-は、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアンチモネートおよびテトラキスペンタフルオロフェニルボレートから選択されるカウンターアニオンである。)を有することが好ましい(発明2)。
【0011】
上記発明(1,2)において、前記カチオン重合性化合物は、エポキシ化合物であることが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明3)において、前記エポキシ化合物は、1分子中に3個以上のエポキシ基を有することが好ましい(発明4)。
【0013】
上記発明(発明3,4)において、前記エポキシ化合物は、分子量が200以上、2000以下であることが好ましい(発明5)。
【0014】
上記発明(発明1~5)において、前記剥離成分は、シリコーン系剥離成分、フッ素系剥離成分および長鎖アルキル系剥離成分からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい(発明6)。
【0015】
上記発明(発明1~6)において、前記剥離成分は、前記カチオン重合性化合物と反応可能な反応性基を有することが好ましい(発明7)。
【0016】
上記発明(発明7)において、前記剥離成分は、反応性ポリオルガノシロキサンであることが好ましい(発明8)。
【0017】
上記発明(発明1~8)においては、前記剥離剤組成物中において、前記カチオン重合性化合物の配合量が、前記剥離成分の配合量および前記カチオン発生剤の配合量のそれぞれよりも多いことが好ましい(発明9)。
【0018】
上記発明(発明1~9)において、前記剥離剤層における前記基材とは反対側の面において測定される表面自由エネルギーは、25mJ/m2以上、35mJ/m2以下であることが好ましい(発明10)。
【0019】
上記発明(発明1~10)において、前記剥離シートは、セラミックグリーンシート製造工程用であることが好ましい(発明11)。
【0020】
第2に本発明は、上記剥離シート(発明1~11)の製造方法であって、前記基材の少なくとも一方の面側に、前記剥離剤組成物からなる塗膜を形成する工程と、前記塗膜を加熱により硬化し、前記剥離剤層を形成する工程とを備えることを特徴とする剥離シートの製造方法を提供する(発明12)。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、良好な剥離性を有する新規の剥離シートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の一実施形態に係る剥離シートは、基材と、基材の一方の面側に設けられた剥離剤層とを備えて構成される。
【0023】
本実施形態に係る剥離シートでは、剥離剤層が、ポリシロキサン骨格を含まないカチオン重合性化合物と、剥離成分と、加熱によりカチオンを放出するカチオン発生剤とを含有する剥離剤組成物から形成されている。
【0024】
本実施形態に係る剥離シートの剥離剤層は、上述した剥離剤組成物が硬化してなるものである。本実施形態に係る剥離シートを製造する際には、剥離剤組成物の塗膜を加熱する。当該剥離剤組成物の加熱により、カチオン発生剤からカチオンが放出される。当該カチオンは、カチオン重合性化合物に対して活性種として作用する。これにより、カチオン重合性化合物のカチオン重合が進行する結果、剥離剤組成物が硬化し、剥離剤層が形成される。そのため、カチオン重合性化合物は十分に重合することができ、良好に硬化した剥離剤層が形成される。さらに、剥離剤層が剥離成分を含有することにより、剥離シートが良好な剥離性を発揮することができる。
【0025】
1.基材
本実施形態に係る剥離シートにおける基材としては、特に制限はなく、従来公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。このような基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレンやポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニルなどのプラスチックフィルムが挙げられる。これらのプラスチックフィルムは、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。これらの中でもポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、加工時、使用時等において、埃等が発生しにくいため、例えば、埃等による塗工不良等を効果的に防止することができる。
【0026】
また、この基材においては、その表面に設けられる剥離剤層との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、酸化法や凹凸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶射処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は、基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にコロナ放電処理法が効果及び操作性の面から好ましく用いられる。
【0027】
基材の厚さは、10μm以上であることが好ましく、特に15μm以上であることが好ましく、さらには20μm以上であることが好ましい。また、当該厚さは、300μm以下であることが好ましく、特に200μm以下であることが好ましく、さらには125μm以下であることが好ましい。
【0028】
2.剥離剤層
本実施形態に係る剥離シートにおいて、剥離剤層は、カチオン重合性化合物と、剥離成分と、加熱によりカチオンを放出するカチオン発生剤とを含有する剥離剤組成物から形成されている。
【0029】
(1)カチオン重合性化合物
カチオン重合性化合物としては、カチオン重合により重合体を形成することが可能であって、ポリシロキサン骨格を含まない化合物を使用することができる。
【0030】
ここで、ポリシロキサン骨格とは、共有結合により繋がったケイ素原子と酸素原子とが交互に存在する骨格をいい、具体的には、下記の一般式(2)で表される構造をいう。
【化2】
(式中、R
4はそれぞれ、水素原子または有機基であり、nは、任意の正の整数である。)
【0031】
カチオン重合性化合物の具体例としては、エポキシ基、オキセタニル基等の環状エーテルを有する化合物が挙げられ、特に、多官能な化合物の種類が豊富であることから、エポキシ基を有するエポキシ化合物を使用することが好ましい。
【0032】
上記エポキシ化合物は、1分子中に3個以上のエポキシ基を有するものが好ましい。また、上記エポキシ化合物は、1分子中に10個以下のエポキシ基を有するものであることが好ましく、特に9個以下のエポキシ基を有するものであることが好ましく、さらには8個以下のエポキシ基を有するものであることが好ましい。1分子中におけるエポキシ基の数が3個以上であることで、エポキシ化合物はカチオン重合し易くなり、それにより、剥離剤組成物が良好に硬化した剥離剤層を形成し易くなる。その結果、剥離剤層が優れた耐溶剤性を示すものとなるとともに、本実施形態に係る剥離シートを巻き取った際にブロッキングが生じ難くなる。また、1分子中におけるエポキシ基の数が10個以下であることで、剥離成分との良好な相溶性が得られる。
【0033】
上記エポキシ化合物は、分子量が200以上であることが好ましく、特に250以上であることが好ましく、さらには300以上であることが好ましい。また、上記エポキシ化合物は、分子量が2000以下であることが好ましく、特に1500以下であることが好ましく、さらには1250以下であることが好ましい。エポキシ化合物の分子量が200以上であることで、剥離剤組成物を基材に塗布する際に塗布面にはじきが現れにくい。また、エポキシ化合物の分子量が2000以下であることで、剥離剤組成物または剥離剤組成物を含有する塗工液の粘度が比較的低いものとなる。そのため、剥離剤組成物または当該塗工液を使用して、表面にスジ欠点等の発生が抑制され平滑性に優れた剥離剤層を形成することができる。
【0034】
本実施形態に係る剥離シートにおいて使用できるエポキシ化合物の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール類のグリシジルエーテル;レゾルシノール、フェニルノボラック、クレゾールノボラック等のフェノール樹脂類のグリシジルエーテル;その他の多価アルコール類のグリシジルエーテル;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等の多価カルボン酸類のグリシジルエステル;アミン、アニリン類のエピクロルヒドリン付加物よりなるグリシジルアミン型エポキシ化合物;ビニルシクロヘキサンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-ジシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等のように、分子内の炭素-炭素二重結合を例えば酸化することによりエポキシが導入された、いわゆる脂環型エポキシドを挙げることができる。
【0035】
その他の多価アルコール類のグリシジルエーテルを構成する多価アルコール類としては、グリセリン、ジグリセロール、糖アルコール類、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビフェニル骨格、ジシクロヘキサジエン骨格、ナフタレン骨格等を有する多価アルコールが挙げられる。
【0036】
これらのエポキシ化合物の中でも、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物が好ましい。1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物としては、3価以上の水酸基を有するアルコール類のグリシジルエーテルが好ましい。このようなアルコール類としては、グリセリン(3価)、ジグリセロール(4価)、トリメチロールプロパン(3価)、ジトリメチロールプロパン(4価)、ペンタエリスリトール(4価)、ジペンタエリスリトール(4価)や、エリトリトール(4価)、キシリトール(5価)、アラビトール(5価)、ソルビトール(6価)、マンニトール(6価)、ガラクチトール(6価)等の糖アルコール類、ビスフェノールAジグリセロールエーテル(4価)等の上記したエポキシ化合物の開環化合物等が挙げられる。
【0037】
これらのエポキシ化合物は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。上記エポキシ化合物の中でも、反応性の高さや入手しやすさという観点から、ジグリセロールのグリシジルエーテルであるジグリセロールポリグリシジルエーテルやソルビトールポリグリシジルエーテルを使用することが好ましい。
【0038】
本実施形態に係る剥離シートでは、剥離剤組成物中において、カチオン重合性化合物の配合量が、剥離成分の配合量およびカチオン発生剤の配合量のそれぞれよりも多いことが好ましい。すなわち、本実施形態に係る剥離剤組成物では、カチオン重合性化合物が主剤として配合されることが好ましい。これにより、カチオン重合性化合物のカチオン重合が効果的に進行し、その結果、剥離剤層が良好に形成される。具体的に、カチオン重合性化合物の剥離剤組成物中の配合量は、50質量%超であることが好ましく、特に75質量%以上であることが好ましく、さらには90質量%以上であることが好ましい。また、当該配合量は、99.9質量%以下であることが好ましく、特に99.75質量%以下であることが好ましく、さらには99.5質量%以下であることが好ましい。当該配合量が50質量%超であることで、十分量のカチオン重合性化合物をもって当該カチオン重合性化合物の重合体によるネットワーク(三次元網目構造)を良好に形成し、十分に硬化した剥離剤層を得やすくなる。また、当該配合量が99.9質量%以下であることで、カチオン発生剤および剥離成分の配合量を相対的に多くすることが可能となり、カチオン重合を効果的に進行させ易くなるとともに、所望の剥離性を達成し易くなる。
【0039】
(2)剥離成分
剥離成分としては、剥離剤層に剥離性を付与できるものであれば特に制限されず、例えば、シリコーン系剥離成分、フッ素系剥離成分、長鎖アルキル系剥離成分、アルキド系剥離成分、オレフィン系剥離成分、アクリル系剥離成分およびゴム系剥離成分からなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。これらの中でも、剥離剤層に所望の剥離性を付与し易いという観点から、シリコーン系剥離成分、フッ素系剥離成分および長鎖アルキル系剥離成分からなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましく、特にシリコーン系剥離成分を使用することが好ましい。
【0040】
剥離成分は、カチオン重合性化合物と反応可能な反応性基を有することが好ましい。これにより、剥離剤層において、カチオン重合性化合物がカチオン重合してできる重合体に、剥離成分が固定されることが可能となる。その結果、剥離剤層においてより良好なネットワークが形成され、硬化性がさらに優れたものとなるとともに、本願発明に係る剥離シートの剥離面が積層される対象に対して、剥離剤層から剥離成分が移行することを抑制することができる。
【0041】
上記反応性基としては、カチオン重合性化合物と反応可能であれば、特に制限されず、例えば、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、無水カルボキシル基等が挙げられる。カチオン重合性化合物が反応性基を有する場合、剥離成分は当該反応性基と同じ反応性基を有することが好ましい。これにより、剥離成分は、カチオン重合性化合物との反応性に優れたものとなり、剥離剤層内の前述したネットワークに化学結合によって強固に取り込まれ易くなる。特に、カチオン重合性化合物がエポキシ基を有する場合、剥離成分も反応性基としてエポキシ基を有することが好ましい。
【0042】
剥離成分における上記反応性基の位置は、特に制限はなく、例えば、剥離成分が直鎖状構造を有する場合または直鎖状構造の主鎖を含む場合には、当該直鎖状構造の末端に反応性基が位置していてもよく、または当該直鎖状構造の側鎖に反応性基が位置していてもよい。末端に位置する場合、直鎖状構造の片末端に位置していてもよく、または両末端に位置していていもよい。側鎖に位置する場合、側鎖自体が反応性基であってもよく、または側鎖の一部が反応性基であってもよい。また、反応性基は、末端および側鎖の両方に位置していてもよい。これらの中でも、剥離成分は、少なくとも側鎖として反応性基を有することが好ましい。これにより、剥離剤層において、剥離成分を含む三次元網目構造が形成され易くなり、本願発明に係る剥離シートの剥離面が積層される対象に対して、剥離剤層から剥離成分が移行し難くなる。
【0043】
本実施形態に係る剥離シートにおいて、剥離成分は、前述の通りシリコーン系剥離成分であることが好ましく、特に、反応性ポリオルガノシロキサンであることが好ましい。反応性ポリオルガノシロキサンは、カチオン重合性化合物との反応性に優れるとともに、反応性ポリオルガノシロキサンを使用することで、より優れた剥離性を達成できる。その結果、良好に硬化した剥離剤層を備えるとともに、より優れた剥離性を発揮する剥離シートを得ることができる。
【0044】
上記反応性ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量は、1000以上であることが好ましく、特に1500以上であることが好ましく、さらには2000以上であることが好ましい。また、当該重量平均分子量は、100000以下であることが好ましく、特に50000以下であることが好ましく、さらには25000以下であることが好ましい。当該重量平均分子量が1000以上であることで、所望の剥離性を達成し易くなる。また、当該重量平均分子量が100000以下であることで、剥離剤組成物または剥離剤組成物を含有する塗工液の粘度が比較的低いものとなり、剥離剤組成物または当該塗工液を使用して、表面にスジ欠点等の発生が抑制され平滑性に優れた剥離剤層を形成することができる。
【0045】
上記反応性ポリオルガノシロキサンの好ましい例としては、エポキシ変性ポリジメチルシロキサンが挙げられる。特に、剥離剤組成物または剥離剤組成物を含有する塗工液による塗膜の面状態に優れるとともに、当該塗膜の硬化性にも優れるという観点から、側鎖にエポキシ基を有するエポキシ変性ポリジメチルシロキサンを使用することが好ましい。
【0046】
上記エポキシ変性ポリジメチルシロキサンとしては、例えば市販の化合物を使用することができる。このような化合物の製品名を挙げると、側鎖にエポキシ基を有するエポキシ化合物として、いずれも信越化学工業社から発売される、製品名「X-22-343」、製品名「KF-101」、製品名「KF-1001」、製品名「X-22-2000」、製品名「KF-102」、製品名「X-22-4741」、製品名「KF-1002」等が挙げられる。また、両末端にエポキシ基を有するエポキシ化合物として、いずれも信越化学工業社から発売される、製品名「X-22-163C」、製品名「X-22-169B」等が挙げられる。また、片末端にエポキシ基を有するエポキシ化合物として、信越化学工業社から発売される、製品名「X-22-173DX」等が挙げられる。また、両末端および側鎖にエポキシ基を有するエポキシ化合物として、信越化学工業社から発売される、製品名「X-22-9002」等が挙げられる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
前述した通り、本実施形態に係る剥離シートでは、剥離剤組成物中において、カチオン重合性化合物の配合量が、剥離成分の配合量よりも多いことが好ましい。これにより、主剤として含まれるカチオン重合性化合物のカチオン重合が効果的に進行し、その結果、剥離剤層が良好に形成される。特に、剥離剤組成物中における剥離成分の配合量は、カチオン重合性化合物100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、特に0.25質量部以上であることが好ましく、さらには0.5質量部以上であることが好ましい。また、剥離剤組成物中における剥離成分の配合量は、カチオン重合性化合物100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、特に20質量部以下であることが好ましく、さらには10質量部以下であることが好ましい。剥離成分の配合量が0.1質量部以上であることで、剥離剤層がより優れた剥離性を発揮することが可能となる。また、剥離成分の配合量が30質量部以下であることで、カチオン重合性化合物の配合量が相対的に多くなり、これにより、良好に硬化した剥離剤層を得やすくなる。
【0048】
(3)カチオン発生剤
カチオン発生剤としては、加熱によりカチオンを放出するものであれば、特に制限されない。カチオン発生剤から放出されたカチオンは、カチオン重合性化合物を開環させ、カチオン重合反応の反応点を生成させることができる。
【0049】
前記カチオン発生剤は、例えば、下記式(1)
【化3】
で示される構造(式中、R
1は、p-ヒドロキシフェニル基またはp-アセトキシフェニル基であり、R
2は、ベンジル基、o-メチルベンジル基またはメチル基であり、R
3は、メチル基であり、B
-は、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアンチモネートおよびテトラキスペンタフルオロフェニルボレートから選択されるカウンターアニオンである。)を有することが好ましい。
【0050】
上記式(1)で表される構造を有する化合物では、加熱によって、スルホニウムカチオン(硫黄原子、R1基、R2基およびR3基から構成されるイオン)が開裂し、スルフィド化合物と、R1基、R2基およびR3基の少なくとも1つから生成されたカルボカチオンとが放出される。カルボカチオンはカチオン重合性化合物を開環させ、その開環部位を活性化する。さらに、活性化された開環部位が他のカチオン重合性化合物を開環させる。このように、開環反応が連鎖的に生じることにより、カチオン重合が進行する。このような反応では、カチオン発生剤からのスルフィド化合物およびカルボカチオンの放出が律速となる。そのため、上記式(1)で表される構造を有する化合物を使用することで、加熱の有無によってカチオン重合を制御することが容易となり、その結果、所望の程度に硬化した剥離剤層を容易に形成することが可能となる。
【0051】
上記式(1)で表される構造を有する化合物の具体例としては、p-アセトキシフェニル-ベンジル-メチルスルホニウム-ヘキサフルオロフォスフェート、p-アセトキシフェニル-o-メチルベンジル-メチルスルホニウム-ヘキサフルオロフォスフェート、p-アセトキシフェニル-ジメチルスルホニウム-ヘキサフルオロフォスフェート、p-ヒドロキシフェニル-ベンジル-メチルスルホニウム-ヘキサフルオロフォスフェート、p-ヒドロキシフェニル-o-メチルベンジル-メチルスルホニウム-ヘキサフルオロフォスフェート、p-ヒドロキシフェニル-ジメチルスルホニウム-ヘキサフルオロフォスフェート、p-アセトキシフェニル-ベンジル-メチルスルホニウム-ヘキサフルオロアンチモネート、p-アセトキシフェニル-o-メチルベンジル-メチルスルホニウム-ヘキサフルオロアンチモネート、p-アセトキシフェニル-ジメチルスルホニウム-ヘキサフルオロアンチモネート、p-ヒドロキシフェニル-ベンジル-メチルスルホニウム-ヘヘキサフルオロアンチモネート、p-ヒドロキシフェニル-o-メチルベンジル-メチルスルホニウム-ヘキサフルオロアンチモネート、p-ヒドロキシフェニル-ジメチルスルホニウム-ヘキサフルオロアンチモネート、p-アセトキシフェニル-ベンジル-メチルスルホニウム-テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、p-アセトキシフェニル-o-メチルベンジル-メチルスルホニウム-テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、p-アセトキシフェニル-ジメチルスルホニウム-テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、p-ヒドロキシフェニル-ベンジル-メチルスルホニウム-テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、p-ヒドロキシフェニル-o-メチルベンジル-メチルスルホニウム-テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、p-ヒドロキシフェニル-ジメチルスルホニウム-テトラキスペンタフルオロフェニルボレート等が挙げられる。これらの中でも、カチオン重合を効果的に進行させることができるという観点から、p-アセトキシフェニル-o-メチルベンジル-メチルスルホニウム-テトラキスペンタフルオロフェニルボレートを使用することが好ましい。
【0052】
上記式(1)で表される構造を有する化合物の市販品としては、三新化学工業社製の製品名「サンエイドSI-B2A」、「サンエイドSI-60」、「サンエイドSI-80」、「サンエイドSI-100」等が挙げられる。
【0053】
カチオン発生剤は、1種を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
カチオン発生剤がカチオンの放出を開始する温度は、100℃以上であることが好ましく、特に110℃以上であることが好ましく、さらには120℃以上であることが好ましい。また、当該温度は、150℃以下であることが好ましく、特に140℃以下であることが好ましく、さらには130℃以下であることが好ましい。当該温度が100℃以上であることで、剥離剤組成物が意図しない段階で硬化を開始することを抑制することができる。また、当該温度が150℃以下であることで、過度な加熱を要することなく剥離剤層を形成することが可能となる。
【0055】
本実施形態に係る剥離シートにおいて、剥離剤組成物中におけるカチオン発生剤の配合量は、カチオン重合性化合物100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、特に2質量部以上であることが好ましく、さらには3質量部以上であることが好ましい。また、剥離剤組成物中におけるカチオン発生剤の配合量は、カチオン重合性化合物100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、特に20質量部以下であることが好ましく、さらには15質量部以下であることが好ましい。カチオン発生剤の配合量が上記範囲であることで、カチオン重合が効果的に進行し、これにより、良好に硬化した剥離剤層を得やすくなる。
【0056】
(4)その他の成分
剥離剤組成物は、前述した成分の他に、帯電防止剤、反応抑制剤、密着向上剤等を含有していてもよい。
【0057】
(5)剥離剤組成物の製造
剥離剤組成物は、前述したカチオン重合性化合物と、剥離成分と、カチオン発生剤と、所望によりその他の成分とを混合することで製造することができる。得られた剥離剤組成物は、必要に応じて希釈溶媒に希釈し、塗工液としてもよい。
【0058】
上記希釈溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤などが用いられる。
【0059】
このようにして調製された塗工液の濃度・粘度としては、コーティング可能な範囲であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。例えば、剥離剤組成物の濃度が10質量%以上、60質量%以下となるように希釈する。なお、塗工液を得るに際して、希釈溶媒等の添加は必要条件ではなく、剥離剤組成物がコーティング可能な粘度等であれば、希釈溶媒を添加しなくてもよい。
【0060】
(6)剥離剤層の厚さ
本実施形態に係る剥離シートでは、剥離剤層の厚さが、10nm以上であることが好ましく、特に50nm以上であることが好ましい。また、当該厚さは、10000nm以下であることが好ましく、特に5000nm以下であることが好ましい。剥離剤層の厚さが10nm以上であることで、所望の剥離性を達成し易くなる。また、剥離剤層の厚さが10000nm以下であることで、良好に硬化した剥離剤層を形成し易くなる。
【0061】
3.剥離シートの物性等
本実施形態に係る剥離シートでは、剥離剤層における基材とは反対側の面において測定される表面自由エネルギー(γtotal)が、25mJ/m2以上であることが好ましく、特に27mJ/m2以上であることが好ましい。また、当該表面自由エネルギーは、35mJ/m2以下であることが好ましく、特に33mJ/m2以下であることが好ましい。当該自由エネルギーが、25mJ/m2以上であることで、剥離剤層内で剥離成分とネットワークとの結合が適度に生じ、本実施形態に係る剥離シートが使用される粘着剤やグリーンシートへ剥離成分が転着してしまうことが抑制される。また、当該表面自由エネルギーが、35mJ/m2以下であることで、剥離成分が剥離剤層表面付近に局在していることになり、本実施形態に係る剥離シートが使用される粘着剤やグリーンシートとの剥離性を効果的に低剥離力とすることができる。
【0062】
本実施形態に係る剥離シートでは、剥離剤層における基材とは反対側の面の最大突起高さRpが、2000nm未満であることが好ましく、特に500nm以下であることが好ましく、さらには50nm以下であることが好ましい。最大突起高さRpが2000nm未満であることにより、剥離シートの剥離面は優れた平滑性を有するものとなる。これにより、当該剥離面に積層される粘着シートやセラミックグリーンシートにおける、当該剥離面と接触する面の平滑性も優れたものとなる。その結果、優れた性能を示す粘着シートや、優れた性能を示す積層セラミック製品を製造することが可能となる。なお、当該最大突起高さRpの下限値は特に制限されないものの、例えば、10nm以上であることが好ましく、特に20nm以上であることが好ましい。
【0063】
本実施形態に係る剥離シートでは、その剥離面と、粘着シートの粘着面とを貼付した後に、当該粘着シートと当該剥離シートとを剥離する際に要する剥離力は、適宜設定することができるものの、100mN/20mm以上であることが好ましく、特に150mN/20mm以上であることが好ましい。また、当該剥離力は、2000mN/20mm以下であることが好ましく、特に1500mN/20mm以下であることが好ましい。本実施形態に係る剥離シートによれば、前述した剥離剤組成物を使用して剥離剤層が形成されることにより、上述のような剥離性を良好に発揮することができる。なお、粘着シートから剥離シートを剥離する際に要する剥離力の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0064】
本実施形態に係る剥離シートでは、その剥離面上に成形されたセラミックグリーンシートから当該剥離シートを剥離する際に要する剥離力は、適宜設定することができるものの、5mN/20mm以上であることが好ましく、特に10mN/20mm以上であることが好ましい。また、当該剥離力は、100mN/20mm以下であることが好ましく、特に75mN/20mmmm以下であることが好ましい。本実施形態に係る剥離シートによれば、前述した剥離剤組成物を使用して剥離剤層が形成されることにより、上述のような剥離性を良好に発揮することができる。なお、セラミックグリーンシートから剥離シートを剥離する際に要する剥離力の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0065】
4.剥離シートの製造方法
本実施形態に係る剥離シートの製造方法は、特に制限されないものの、本実施形態に係る剥離シートは、基材の少なくとも一方の面側に、剥離剤組成物からなる塗膜を形成する工程(以下において「塗膜形成工程」という場合がある。)と、当該塗膜を加熱により硬化し、剥離剤層を形成する工程(以下において「硬化工程」という場合がある。)とを備える方法により製造することが好ましい。
【0066】
上記塗膜形成工程において、剥離剤組成物からなる塗膜を形成する方法については特に制限されず、例えば、基材の一方の面に、前述した剥離剤組成物の塗工液を塗工することで、塗膜を形成することができる。この場合、塗工方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法などが使用できる。
【0067】
上記硬化工程における加熱の温度は、100℃以上であることが好ましく、特に120℃以上であることが好ましい。また、当該温度は、180℃以下であることが好ましく、特に150℃以下であることが好ましい。当該加熱の時間は、10秒以上であることが好ましく、特に15秒以上であることが好ましい。また、当該加熱の時間は、60秒以下であることが好ましく、特に30秒以下であることが好ましい。なお、硬化工程における加熱は、塗工液中の溶剤等を塗膜から揮発させるための加熱乾燥処理で兼ねることもできる。
【0068】
上述した製造方法によれば、カチオン重合性化合物のカチオン重合を効果的に進行させることが可能となり、良好に硬化した剥離剤層が形成することができる。また、このように得られた剥離剤層には剥離成分が含まれるため、剥離シートは良好な剥離性を発揮することができる。
【0069】
5.剥離シートの使用方法
本実施形態に係る剥離シートは、一般的な剥離シートと同様の用途に使用することができる。
【0070】
例えば、本実施形態に係る剥離シートは、粘着シートの製造において使用することができる。この場合、本実施形態に係る剥離シートの剥離面上に、粘着シートの粘着剤層を形成するための粘着剤組成物の塗布液を塗布し、乾燥させて粘着剤層を形成する。その後、当該粘着剤層における剥離シートとは反対の面に粘着シート用の基材を積層することで、剥離シートが貼付された粘着シートを製造することができる。あるいは、上記の通り形成した粘着剤層における剥離シートとは反対の面に、別の剥離シート、好ましくは本実施形態に係る剥離シートの剥離面を貼合することで、2枚の剥離シートとそれらの間に積層された粘着剤層とからなる両面粘着シートを製造することもできる。また、製造された粘着シートは、剥離シートが貼付された状態で保管することにより、粘着シートの粘着面を剥離シートにより保護することもできる。
【0071】
さらに、本実施形態に係る剥離シートは、セラミックグリーンシートを製造するために使用することもできる。例えば、剥離シートの剥離面に対し、チタン酸バリウムや酸化チタンなどのセラミック材料を含有するセラミックスラリーを塗工した後、当該セラミックスラリーを乾燥させることで、剥離シートが貼付されたセラミックグリーンシートを製造することができる。
【0072】
本実施形態に係る剥離シートは、剥離剤層が前述した剥離剤組成物を用いて形成されている。特に、剥離剤層の形成の際、剥離剤組成物中に主剤として含まれるカチオン重合性化合物が、加熱されたカチオン発生剤から放出されるカチオンの作用によりカチオン重合することで、剥離剤組成物が硬化する。これにより、剥離成分を含む剥離剤層が良好に形成される。そのため、本実施形態に係る剥離シートは、良好な剥離性を示す。
【0073】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0074】
例えば、剥離シートにおける基材における剥離剤層の反対側の面や、基材と剥離剤層との間には、帯電防止層等の他の層が設けられてもよい。
【実施例】
【0075】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0076】
〔実施例1〕
カチオン重合性化合物としてのジグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製,製品名「デナコールEX-421」,1分子中におけるエポキシ基の数:3個,分子量:334)100質量部(固形分換算値;以下同じ)と、剥離成分としての側鎖がエポキシ変性されたポリジメチルシロキサン(信越化学社製,製品名「KF-101」,重量平均分子量:28500)1.0質量部と、加熱によりカチオンを放出するカチオン発生剤としてのp-アセトキシフェニル-o-メチルベンジル-メチルスルホニウム-テトラキスペンタフルオロフェニルボレート(三新化学工業社製,製品名「サンエイドSI-B2A」)14.0質量部とをメチルエチルケトン中にて混合し、固形分18質量%の剥離剤組成物の塗布液を得た。
【0077】
得られた剥離剤組成物の塗工液を、マイヤーバー♯5を用いて、基材としての二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製,製品名「ルミラーS10」,厚さ:23μm,両面の最大突起高さRp:452nm)の片面に塗工し、塗膜を形成した。当該塗膜を120℃で15秒間加熱し、厚さ1.0μmの剥離剤層を形成した。これにより、基材と剥離剤層とが積層されてなる剥離シートを得た。
【0078】
なお、基材および得られた剥離剤層の厚さは、反射式膜厚計(フィルメトリックス社製,製品名「F20」)を用いて測定した値である。
【0079】
〔実施例2~6,比較例1~2〕
剥離剤組成物中における剥離成分およびカチオン発生剤の配合量を表1に示すように変更する以外、実施例1と同様にして剥離シートを製造した。
【0080】
〔試験例1〕(剥離剤層の硬化性の評価)
実施例および比較例で得られた剥離シートの剥離面を、指で10回擦り、曇り(スミア)および剥離剤層の脱落(ラブオフ)の有無を目視にて確認した。そして、以下の判断基準により、剥離剤層の硬化性を評価した。結果を表1に示す。
○…スミアおよびラブオフの両方とも確認されなかった。
×…スミアおよびラブオフの少なくとも一方が確認された。
【0081】
〔試験例2〕(粘着シートに対する剥離性の評価)
試験例1において剥離剤層の硬化性について○という評価を得た実施例1~6および比較例2に係る剥離シートについて、その剥離面に、20mm幅のアクリル粘着テープ(日東電工社製,製品名「31Bテープ」)を2kgのハンドローラーによって貼付した。
【0082】
23℃、50%RHの条件下で30分間保管した後、剥離シート側をステンレス板に固定し、引張試験機(島津製作所社製,製品名「AG-IS500N」)を用いて180°の剥離角度、300mm/分の剥離速度でアクリル粘着テープ側を剥離し、剥離するのに必要な力(剥離力;mN/20mm)を測定した。
【0083】
得られた剥離力(mN/20mm)に基づいて、以下の判断基準により、粘着シートに対する剥離性を評価した。結果を表1に示す。
○…剥離力が2000mN/20mm未満である。
×…剥離力が2000mN/20mm以上である。
【0084】
〔試験例3〕(セラミックグリーンシートに対する剥離性の評価)
チタン酸バリウム(BaTiO3;堺化学工業社製,製品名「BT-03」)100質量部、ポリビニルブチラール(積水化学工業社製,製品名「エスレックB・KBM-2」)10質量部、およびフタル酸ジオクチル(関東化学社製,製品名「フタル酸ジオクチル鹿1級」)5質量部に、トルエン69質量部およびエタノール46質量部を加え、ボールミルにて混合分散させて、セラミックスラリーを調製した。
【0085】
試験例1において剥離剤層の硬化性について○という評価を得た実施例1~6および比較例2に係る剥離シートについて、製造してから常温で24時間保管した後、剥離剤層の剥離面に、アプリケーターを用いて上記セラミックスラリーを均一に塗工し、その後、乾燥機にて80℃で1分間乾燥させた。これにより、剥離シート上に厚さ3μmのセラミックグリーンシートが得られた。このようにして、セラミックグリーンシート付き剥離シートを製造した。
【0086】
このセラミックグリーンシート付き剥離シートを、23℃、50%RHの雰囲気下に24時間静置した。次に、セラミックグリーンシートにおける剥離シートとは反対側の面に対し、アクリル粘着テープ(日東電工社製,製品名「31Bテープ」)を貼付し、その状態で20mm幅に裁断した。これを測定サンプルとした。
【0087】
当該測定サンプルの粘着シート側を平板に固定し、引張試験機(島津製作所社製,製品名「AG-IS500N」)を用いて180°の剥離角度、100mm/分の剥離速度でセラミックグリーンシートから剥離シートを剥離し、剥離するのに必要な力(剥離力;mN/20mm)を測定した。
【0088】
得られた剥離力(mN/20mm)に基づいて、以下の判断基準により、セラミックグリーンシートに対する剥離性を評価した。結果を表1に示す。
○…剥離力が100mN/20mm未満である。
×…剥離力が100mN/20mm以上である。
【0089】
〔試験例4〕(表面自由エネルギーの測定)
実施例および比較例で得られた剥離シートにおける剥離剤層側の面の表面自由エネルギー(γtotal)を算出した。具体的には、表面自由エネルギー(γtotal)、および各成分(分散成分γd、極性成分γp、水素結合成分γh)は、接触角が既知である水、ジヨードメタン、およびブロモナフタレンをプローブ液として用い、接触角計にて剥離剤層に対する各プローブ液の接触角を測定し、得られた接触角から、北崎・畑法(北崎寧昭他、日本接着協会誌、Vol.8,No.3,1972,pp.131-141参照)に従って求めた。なお、接触角計としては、接触角計(協和界面科学社製,製品名「全自動接触角計DM-701」)を用いた。結果を表1に示す。
【0090】
【0091】
表1に示される通り、実施例に係る剥離シートは、比較例に係る剥離シートと比較して、剥離剤層の硬化性に優れ、且つ良好な剥離性を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の剥離シートは、粘着シートの粘着剤層が積層される剥離シート、セラミックグリーンシートの製造に使用可能な剥離シート等として好適に用いられる。